(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】電極を備える装置
(51)【国際特許分類】
A61B 5/256 20210101AFI20221109BHJP
A41D 13/00 20060101ALI20221109BHJP
A61B 5/263 20210101ALI20221109BHJP
【FI】
A61B5/256
A41D13/00 102
A61B5/263
(21)【出願番号】P 2018117148
(22)【出願日】2018-06-20
【審査請求日】2021-04-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】小松 陽子
(72)【発明者】
【氏名】権 義哲
(72)【発明者】
【氏名】瀬口 真紀
【審査官】牧尾 尚能
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0278702(US,A1)
【文献】実開平06-044506(JP,U)
【文献】特表2006-503118(JP,A)
【文献】特開2017-029692(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0135608(US,A1)
【文献】特開2003-346554(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2016/0324439(US,A1)
【文献】国際公開第1995/035132(WO,A1)
【文献】特表2017-522946(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/05 - 5/0538
A61B 5/24 - 5/398
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体表面に
電気的に接触する電極を備える装置であって、
前記電極の生体表面
側の面、前記電極の生体表面
側の面とは反対側の面の、少なくとも一方に吸水性生地が配置されており、
前記吸水性生地が、自重の2.0倍以上の純水吸水倍率と、自重の1.5倍以上の生理食塩水吸水倍率とを併せ持ち、
前記吸水性生地は、内層がアクリル繊維で外層に高吸水性部を有する二重構造繊維を含む
ことを特徴とする電極を備える装置。
【請求項2】
前記吸水性生地の面積が、前記電極の生体表面への投影面積の1.01倍以上10倍以下であることを特徴とする請求項1に記載の電極を備える装置。
【請求項3】
前記電極は、導電性ファブリックで構成されており、
該導電性ファブリックは、X方向またはY方向に14.7Nの荷重をかけたときに、少なくとも一方の伸長率が3%以上60%以下である請求項1
または2に記載の電極を備える装置。
【請求項4】
前記電極は、導電フィラーおよびエラストマーを少なくとも含むものである請求項1
または2に記載の電極を備える装置。
【請求項5】
前記装置が、人が着用する衣類形状を有し、ヒトの胸部、手部、腕部、脚部、足部、頸部、頭部、または顔部のいずれかを少なくとも覆うものであることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の電極を備える装置。
【請求項6】
前記装置が、ヒト用の肌着であることを特徴とする請求項1~
5のいずれかに記載の電極を備える装置。
【請求項7】
前記装置が、陸上歩行動物用のハーネス、又は、陸上歩行動物が着用する衣類であることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の電極を備える装置。
【請求項8】
前記装置が、複数の電極を用いて生体電位の計測を行う目的に用いられることを特徴とする請求項1~
4のいずれかに記載の電極を備える装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体表面に接触する電極を有する装置に関し、さらに詳しくは、好ましくはヒトを含む陸上動物の生体情報を計測するための電極を備える装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ヘルスモニタリング分野や医療分野、療育分野、リハビリテーション分野において、ウェアラブル生体情報計測装置(センシングウェア)が注目されている。ウェアラブル生体情報計測装置とは、生体情報計測装置が、例えば、衣類やベルト、ストラップなどに設けられており、これらを着用することによって心電図などの生体情報を簡便に計測できる装置である。生体情報計測装置としては、例えば、着用者の肌に接触する生体情報計測用の電極が形成されている。
【0003】
衣類型のウェアラブル生体情報計測装置の場合は、例えば、織物や編物で構成される身頃生地に、電極が設けられており、この衣類を着用して日常生活を過ごすことによって、日常の様々な状況における心拍の変動等の生体情報を簡便に計測できる。
【0004】
ウェアラブル生体情報計測装置における生体情報の計測精度を高めるには、電極の測定面と身体とを低インピーダンスで接触させる必要がある。そのため、衣類型のウェアラブル生体情報計測装置の場合は、衣類本体としてコンプレッションウェアのような上半身を強く締め付けるものが用いられており、この締め付けによって電極の測定面と身体とを密着させている。しかし、着用者は締め付けられることによって、圧迫感を感じることがあった。また、コンプレッションウェアに生体情報計測装置を設けた場合でも、電極から生体情報を安定的に、精度良く計測することは難しかった。特に、被測定者がウォーキングやジョギング、ランニングなどの運動を行うと、被測定者の動作によって、電極の測定面と身体とが充分に密着していない状態になることがあり、生体情報を計測できないことがあった。そこで、コンプレッションウェアに生体情報計測装置を設けた場合には、電極と身体との密着性を高めるために、電極を事前に水で濡らしたり、運動によって発汗した水分を利用して密着性を高め、接触インピーダンスを下げる工夫が成されている。しかしながら乾燥環境では水分が容易に蒸発してしまうため低インピーダンスでの接触状態を維持することは難しい。
【0005】
以上はヒトを対象とした衣服の形状を有する生体情報測定用の装置を例に説明してきたが、ヒト以外の陸上動物の生体情報を計測する上でも同様の問題がある。多くの場合、かかる陸上動物の生体情報計測は直射日光下を含む野外で行われることが多い。特に体毛が多い動物、羽毛を有する動物、厚い皮膚を持つ動物において、安定した低インピーダンス接続状態を実現する事は難しく、それを長時間持続させることはさらに難しい。
【0006】
本発明者らは、特許文献1において、生体情報を、最も安定的に計測できる測定位置を特定し、密着性の高いフレキシブル電極を取り付けたセンシングウェアを提案した。また特許文献2には、生体と接触する導電性繊維構造物からなる電極と電極の生体と接触する面とは反対側の面に透湿性のある樹脂層を設けることにより導電性繊維構造物からなる電極の湿度コントロールを行う技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2017-29692号公報
【文献】特許6301969号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は生体情報計測用の電極を備える装置において、電極近傍に保湿性を付与し、乾燥条件下においても、低インピーダンスでの生体接触が可能な電極を有する生体情報測定用の電極を備える装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明は以下の構成からなる。
[1]生体表面に接触する電極を備える装置であって、前記電極の生体表面へ接触面、前記電極の生体表面に接触する面とは反対側の面の、少なくとも一方に吸水性生地が配置されており、前記吸水性生地が、自重の2.0倍以上の純水吸水倍率と、自重の1.5倍以上の生理食塩水吸水倍率とを併せ持つことを特徴とする電極を備える装置。
[2]前記吸水性生地の面積が、前記電極の生体表面への投影面積の1.01倍以上10倍以下であることを特徴とする[1]に記載の電極を備える装置。
[3]前記吸水性生地は、内層がアクリル繊維で外層に高吸水性部を有する二重構造繊維を含むことを特徴とする[1]または[2]に記載の電極を備える装置。
[4]前記電極は、導電性ファブリックで構成されており、
該導電性ファブリックは、X方向またはY方向に14.7Nの荷重をかけたときに、少なくとも一方の伸長率が3%以上60%以下である[1]~[3]のいずれかに記載の電極を備える装置。
[5]前記電極は、導電フィラーおよびエラストマーを少なくとも含むものである[1]~[3]のいずれかに記載の電極を備える装置。
[6]前記装置が、人が着用する衣類形状を有し、ヒトの胸部、手部、腕部、脚部、足部、頸部、頭部、または顔部のいずれかを少なくとも覆うものであることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の電極を備える装置。
[7]前記装置が、ヒト用の肌着であることを特徴とする[1]~[6]のいずれかに記載の電極を備える装置。
[8]前記装置が、陸上歩行動物用のハーネス、又は、陸上歩行動物が着用する衣類であることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の電極を備える装置。
[9]前記装置が、複数の電極を用いて生体電位の計測を行う目的に用いられることを特徴とする[1]~[5]のいずれかに記載の電極を備える装置。
【0010】
本発明ではさらに以下の構成を有する事が好ましい。
[10]前記吸水性生地が、親水基としてカルボキシル基および塩型カルボキシル基の少なくとも一方を有し、水分を吸着して発熱する吸湿発熱機能を有する繊維を含むことを特徴とする[1]~[9]のいずれかに記載の電極を備える装置。
[11]前記吸水性生地が電極の生体と接触する側の面に配置されていることを特徴とする[1]~[10]のいずれかに記載の電極を備える装置。
[12]前記吸水性生地が電極の生体と接触する側とは反対の面に配置されていることを特徴とする[1]~[10]のいずれかに記載の電極を備える装置。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、高い吸湿性・吸水性と優れた保湿性とを兼ね備えた生体情報測定用の電極を備える装置を提供することができる。
【0012】
皮膚接触形の電極を用いる生体情報の測定においては、肌と電極とが低インピーダンスで電気的に接触することが求められる。しかしながら、低湿度環境下では肌が乾燥して良好な電気的接触を得ることが難しい。この傾向は特に高齢者において著しい。また高温低湿環境下においても著しい。本発明に於ける生体情報計測用の衣類は、高い吸水性能を有する繊維を電極の周囲の至近距離に配置する事により吸湿性・吸水性だけでなく保湿性を有するため、水で電極を濡らす湿潤処理により付与された水分を長時間保持し、低インピーダンス状態を維持することができる。
さらに本発明の吸水性を併せ持つ生地は生理食塩水のようなイオン強度が高い水溶液についても吸水し、保湿することができるため、生体の発汗によって生じた水分を十分に吸収保持することができる。
また本発明の好ましい形態として、生地に吸湿発熱機能を付与することにより、生体の発汗を促し、発生した水分を吸収保持することにより、さらに電極と肌との間の低インピーダンス接触を維持することができる。
本発明では十分に高い吸湿性・吸水性と保湿性を両立することができるため、ヒト以外の陸上動物の生体情報計測に適用する事が可能となる。本発明により直射日光下のような乾燥条件下の野外環境であっても、体毛が多い動物、羽毛を有する動物、厚い皮膚を持つ動物において、安定した低インピーダンス接続状態を実現し維持することが可能となるため、ペット、家畜などの健康管理、野生生物の生態観察など幅広い分野に適用する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は本発明における電極の構造の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は本発明における電極の構造の一例を示す概略図である。
【
図3】
図3は本発明における電極の構造の一例を示す概略図である。
【
図4】
図4は本発明における電極を備える装置の一例を示す概略図である。
【
図5】
図5は本発明における電極を備える装置を犬に装着した状態を示す概略図である。
【
図6】
図6は本発明の実施例で得られた心拍計測の時間経過である。
【
図7】
図7は本発明の比較例で得られた心拍計測の時間経過である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、まずヒト用の衣類形状を有する装置を主な例として本発明を説明する。この場合電極を有する装置を衣類と読み替える。また生体を着用者と読み替える。
本発明の衣類には、着用者の肌に接触する電極が設けられており、電極の電極面が、着用者の肌に直接接触することによって、身体からの電気信号を測定でき、生体情報を計測できる。生体情報としては、電極で取得した電気信号を電子ユニットで演算、処理することによって、例えば、心電、心拍数、脈拍数、呼吸数、血圧、体温、筋電、発汗などの身体の情報が得られる。
【0015】
本発明では前記電極の生体表面へ接触面、前記電極の生体表面に接触する面とは反対側の面の、少なくとも一方に自重の2.0質量%以上の純水吸水倍率と、自重の1.5質量%以上の生理食塩水吸水倍率の吸水性を併せ持つ吸水性生地が配置されていることが特徴である。
本発明では、電極の両面に吸水性生地を備えてもよい。また吸水性生地が電極の生体と接触する側の面にのみ配置されていてもよい。さらに吸水性生地が電極の生体と接触する側とは反対の面にのみ配置されていてもよい。
【0016】
本発明における吸水性生地は、いわゆる吸水性ポリマーを含包させた生地を用いる事ができる。吸水性ポリマーとしては、ポリビニルアルコール、ポリエチレングリコールなどの水溶性モノマーを重合ないし架橋した樹脂、ポリアクリル酸のナトリウム塩、ポリアクリル酸のカリウム塩、ポリアクリル酸のアンモニウム塩などを用いる事ができる。これら吸水性ポリマーは多くの場合、顆粒状であるため、例えば袋状に加工された生地の袋内に保持するなどの手法で吸水性生地として用いる事ができる。また、通常の生地にこれらのポリマーを含浸させる、あるいは繊維表面にコーティングする、または、これらポリマーを繊維表面にグラフト加工するなどの手法により吸水性生地とすることができる。
【0017】
本発明では繊維状の吸水性ポリマーを生地の構成成分として用いる事により、目的とする吸水性生地を得ることができる。本発明における繊維状の吸水性ポリマーとは、自重の2倍以上、好ましくは3倍以上の純水を吸水できる繊維であり、好ましくは飽和吸水時の繊維径が吸水率5%以下の時の繊維径の10倍以下、即ち、繊維径最大膨潤度が10倍以下である繊維である。該膨潤度は、2~8倍が好ましく、より好ましくは、2~6倍である。膨潤度が10倍を超えると、洗濯に対する耐久性が低下する場合がある。
【0018】
本発明における繊維状の吸水性ポリマーの例としては、カルボン酸基又はそのアルカリ金属塩基などの親水性基含有モノマーとカルボン酸基と反応してエステル架橋結合を形成できるヒドロキシル基含有モノマーなどが共重合され、かつエステル架橋結合が導入されてなる繊維を例示できる。
またポリアクリロニトリル系繊維の外層のみが加水分解され、カルボン酸基又はそのアルカリ金属塩基が導入されてなる繊維などを例示できる。
本発明では、これらの繊維状の吸水性ポリマーとして、内層がアクリル繊維で外層に高吸水性部を有する二重構造繊維を用いる事が好ましい。さらに本発明では高吸水性部が架橋構造を有する事が好ましく、ヒドラジン化合物またはその誘導体を用いた架橋構造を有する事がなお好ましい。
【0019】
本発明における繊維状の吸水性ポリマーは、単繊維繊度が9dtex以下、純水吸水倍率が自重の4.0倍以上及び生理食塩水吸水倍率が自重の3.0倍以上であることが好ましい。単繊維繊度が9dtexを超えると、細番手の紡績糸が得にくくなる。
【0020】
本発明ではかかる繊維状の吸水性ポリマーを複合糸として用いる事ができる。複合糸とは、繊維状の吸水性ポリマーをその他の繊維と複合した糸であり、これらの繊維の紡績糸、混繊糸、芯鞘糸、カバリング糸など、どのような複合の形態でも良い。本発明の複合糸中における繊維状の吸水性ポリマーの含有率は、5~95質量%であることが好ましく、5質量%未満では、吸水性能が低く、95質量%を超えると製糸性が低下する傾向がある。
【0021】
本発明の複合糸における繊維状の吸水性ポリマー以外のその他の繊維としては、ポリエステル繊維、ナイロン繊維、アクリル繊維、ポリオレフィン繊維などの合成繊維、木綿、レーヨンなどのセルロース系繊維、羊毛、絹などのタンパク質系繊維、カーボン繊維、ガラス繊維などの無機繊維等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0022】
複合糸の太さは、特に限定されないが、織物や編物の場合、10~50番手が好ましい。この場合、繊維状の吸水性ポリマーの繊度は、9dtex以下であることが好ましく、より好ましくは、1~6dtexである。
【0023】
本発明の高吸水性複合糸は、前記のように繊維状の吸水性ポリマーが複合されているため、自重の2.0倍以上、好ましくは3.0倍以上の純水吸水倍率と自重の1.5倍以上の生理食塩水吸水倍率の吸水性を併せ持つ。したがって、本発明の高吸水性複合糸を用いた吸水性生地、すなわち織物、編物、不織布は、高吸水性複合糸と同様な吸水特性を発揮することができる。
【0024】
かかる吸水性生地の面積は、前記電極の肌面への投影面積の1.01倍以上10倍以下であることが好ましく、前記投影面積の1.01倍以上2倍以下がさらに好ましい。本発明では電極の肌と接触する面とは反対側の面にこれら吸水性生地が配置されているため、吸水性生地が水を含むと長時間にわたり電極の周囲を高湿度化に保つことができる保湿性を維持するため、吸水性と保湿性の両方を満足する効果が得られる。
【0025】
本発明において、さらに好ましくは吸湿発熱機能を有する繊維を吸水性生地に組み合わせることにより、
すなわち、吸湿発熱繊維と吸水性生地が電極の近くに配置されていると、着用直後に体からの不感蒸汗を吸着し、吸湿発熱効果により、電極部の温度も上昇する。その結果、冬の乾燥状態の肌においても肌との密着性が向上し、肌表面とのインピーダンスが下がるため、生体情報を計測しやすくなる。また、体からの湿気を吸湿することにより、蒸れによる不快感が抑えられ、発汗し難くなると同時に、発汗時でも肌面の水分を吸収するため、運動直後の汗による冷えを抑える効果もあり、着用快適性に優れる。さらにこれらの効果は乾燥環境下においても維持される。
【0026】
本発明において好ましく用いられる吸湿発熱機能を有する繊維は、親水基としてカルボキシル基および塩型カルボキシル基の少なくとも一方を有する繊維であり、アクリル酸やメタクリル酸などの、カルボキシル基を有するモノマーを綿や糸または生地の状態で、グラフト重合などにより付与した繊維を例示することができる。前記グラフト重合に用いられるベース繊維材料としては、ポリエステル、ナイロン、アクリルなどの合成繊維;コットン、リネン、ウールなどの天然繊維;アセテート、レーヨンなどの半合成繊維が挙げられる。
【0027】
本発明に係る衣類のうち、前記吸水性生地が形成されていない領域の生地は、特に限定されず、公知の生地を用いることができる。
【0028】
本発明の衣類は、着用者の肌に接触する電極が形成されていればよく、その形態は特に限定されず、例えば、スポーツインナー、Tシャツ、ポロシャツ、キャミソール、肌着、下着、病衣、または寝間着などが挙げられる。これらの中でも、肌着が好ましく、特に女性用の肌着が好ましい。前記衣類が、袖を有する場合は、半袖、五分袖、七分袖、長袖等のいずれであってもよく、袖の形状は、ラグラン袖であってもよい。前記衣類は、胸部、手部、腕部、脚部、足部、頸部、顔部、頭部のいずれかを少なくとも覆うことが好ましい。
なお、本発明における手部とは肘から指先までの部分を云う。また、腕部とは肩から手首までの部分を云う。さらに脚部は大腿部から足首までの部分を云う、足部は踝から足指先までの部分を云う。
【0029】
次に、前記衣類に設ける電極について説明する。本発明における電極は、被測定生体の運動動作に追従できるように伸縮性を有することが好ましい。前記伸縮性を有する電極としては、例えば、導電性ファブリックで構成されている電極や、導電性フィラーと伸縮性を有する樹脂を含む導電性組成物から形成されたシート状の電極が挙げられる。
【0030】
前記導電性ファブリックで構成されている電極としては、例えば、基材繊維に導電性高分子を被覆した繊維状の電極が挙げられる。前記導電性ファブリックは、身丈方向または身幅方向に14.7Nの荷重をかけたときに、少なくとも一方の伸長率が3%以上60%以下であることが好ましい。前記伸長率が下限値を下回ると、電極が衣類の生地の動きに充分に追従しにくくなり、生地から電極が剥がれることがある。従って前記伸長率は、3%以上が好ましく、より好ましくは5%以上、更に好ましくは10%以上である。しかし、伸長率が上限値を超えると、電極が伸びすぎて生体情報を精度良く計測できないことがある。従って前記伸長率は、60%以下が好ましく、より好ましくは55%以下、更に好ましくは50%以下である。
【0031】
前記伸長率は、X方向またはY方向にて前記範囲を満足することが好ましい。X方向、Y方向は、生地の身丈方向または身幅方向であるが、生地の製造方向が不明な場合ないし等方性と見做して良い場合には生地平面に任意の直交座標を設定してX方向、Y方向を設定する。本発明ではX丈方向およびY方向の両方において前記範囲を満足することがより好ましい。
【0032】
前記シート状の電極の材料としては、例えば、導電性が高い導電性フィラーを用いることによって、繊維状電極よりも電気抵抗値を低くすることができるため、微弱な電気信号を検知できる。
【0033】
前記電極は、生体の電気的情報を検知できる導電層を含み、更に肌とは逆側、即ち、導電層の衣類側に絶縁層を有することが好ましい。以下、衣類側の絶縁層を、第一絶縁層ということがある。
【0034】
また、前記衣類は、電極の他、該電極と、該電極で取得した電気信号を演算する機能を有する電子ユニット等とを接続する配線を有している。前記配線は、電極で検知した生体の電気信号を電子ユニット等へ伝達するための導電層を含み、更に肌とは逆側、即ち、導電層の衣類側に絶縁層(第一絶縁層)を有することが好ましい。前記配線は、導電層の肌側にも絶縁層を有することが好ましい。以下、肌側の絶縁層を、第二絶縁層ということがある。
【0035】
以下、導電層、第一絶縁層、第二絶縁層について具体的に説明する。
導電層は、導通を確保するために必要である。前記導電層は、導電性フィラーと柔軟性を有する樹脂を含むことが好ましく、各成分を有機溶剤に溶解または分散させた組成物(以下、導電性ペーストということがある)を用いて形成できる。
【0036】
前記導電性フィラーとしては、例えば、金属粉、金属ナノ粒子、金属粉以外の導電材料などを用いることができる。前記導電性フィラーは、1種でも良いし、2種以上でもよい。
前記金属粉としては、例えば、銀粉、金粉、白金粉、パラジウム粉等の貴金属粉;銅粉、ニッケル粉、アルミニウム粉、真鍮粉等の卑金属粉;卑金属やシリカ等の無機物からなる異種粒子を銀等の貴金属でめっきしためっき粉;卑金属と銀等の貴金属で合金化した合金化卑金属粉等が挙げられる。これらの中でも、銀粉および/または銅粉が好ましく、低コストで、高い導電性を発現させることができる。
前記金属粉としては、フレーク状粉または不定形凝集粉を主体に(例えば、50質量%以上)用いることが好ましい。フレーク状粉および不定形凝集粉は、球状粉などよりも比表面積が大きいため、低充填量でも導電性ネートワークを形成できるので好ましい。
【0037】
前記フレーク状粉の粒子径は特に限定されないが、動的光散乱法によって測定した平均粒子径(50%D)が0.5~20μmが好ましく、より好ましくは3~12μmである。平均粒子径が20μmを超えると微細配線の形成が困難になることがある。平均粒子径が0.5μm未満では、低充填では粒子間で接触できなくなり、導電性が悪化することがある。前記フレーク状粉としては、例えば、フレーク状銀粉を用いることが好ましい。
前記不定形凝集粉とは、球状もしくは不定形状の1次粒子が3次元的に凝集したものである。前記不定形凝集粉は単分散の形態ではないので、粒子同士が物理的に接触していることから導電性ネートワークを形成しやすいので、さらに好ましい。
前記不定形凝集粉としては、例えば、不定形凝集銀粉を用いることが好ましい。
【0038】
前記金属ナノ粒子としては、上述した金属粉のうち、粒子径が数ナノ~数十ナノの粒子を意味する。
前記導電性フィラーに占める金属ナノ粒子の割合は、20体積%以下が好ましく、より好ましくは15体積%以下、更に好ましくは10体積%以下である。金属ナノ粒子の含有割合が多すぎると、樹脂中に均一に分散させ難くなることがあり、また一般に上述のような金属ナノ粒子は高価であることからも、前記範囲に使用量を抑えることが望ましい。
【0039】
前記金属粉以外の導電材料としては、例えば、グラファイト、カーボンブラック、カーボンナノチューブ等の炭素系材料が挙げられる。前記金属粉以外の導電材料は、表面に、メルカプト基、アミノ基、ニトリル基を有するか、表面が、スルフィド結合および/またはニトリル基を含有するゴムで表面処理されていることが好ましい。一般に、金属粉以外の導電材料自体は凝集力が強く、アスペクト比が高い金属粉以外の導電材料は、樹脂中への分散性が悪くなるが、表面にメルカプト基、アミノ基またはニトリル基を有するか、スルフィド結合および/またはニトリル基を含有するゴムで表面処理されていることによって、樹脂に対する親和性が増して、分散し、有効な導電性ネットワークを形成でき、高導電性を実現できる。
【0040】
前記導電性フィラーに占める金属粉以外の導電材料の割合は、20体積%以下が好ましく、より好ましくは15体積%以下、更に好ましくは10体積%以下である。金属粉以外の導電材料の含有割合が多すぎると、樹脂中に均一に分散させ難くなることがあり、また一般に上述のような金属粉以外の導電材料は高価であることからも、前記範囲に使用量を抑えることが望ましい。
【0041】
前記導電層は、導電性フィラーの種類や、導電性フィラーの添加量等を変化させた2種類以上の導電層を積層したり、配列させて、複数の導電層を一体化したものであっても構わない。
前記導電層に占める前記導電性フィラー(換言すれば、導電層形成用の導電性ペーストの全固形分に占める導電性フィラー)は、15~45体積%が好ましく、より好ましくは20~40体積%である。導電性フィラーが少なすぎると、導電性が不充分になる虞がある。一方、導電性フィラーが多すぎると、導電層の伸縮性が低下する傾向があるため、電極および配線を伸長したときにクラック等が発生し、良好な導電性を保持できない虞がある。
【0042】
前記導電層は、非導電性粒子を含んでもよく、該非導電性粒子は、平均粒子径が0.3~10μmが好ましい。
前記非導電性粒子としては、例えば、金属酸化物の粒子を用いることができ、具体的には、酸化ケイ素、酸化チタン、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化鉄、硫酸バリウム粒子などの金属の硫酸塩、金属の炭酸塩、金属のチタン酸塩等を用いることができる。これらの中でも、硫酸バリウム粒子を用いることが好ましい。
【0043】
前記柔軟性を有する樹脂としては、例えば、弾性率が1~1000MPaの熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、ゴムなどが挙げられるが、膜の伸縮性を発現させるためには、ゴムが好ましい。前記柔軟性を有する樹脂は、1種でもよいし、2種以上でもよい。
前記柔軟性を有する樹脂の弾性率は、より好ましくは3~600MPa、更に好ましく10~500MPa、特に好ましくは30~300MPaである。
【0044】
前記ゴムとしては、例えば、ウレタンゴム、アクリルゴム、シリコーンゴム、ブタジエンゴム、ニトリルゴムや水素化ニトリルゴムなどのニトリル基含有ゴム、イソプレンゴム、硫化ゴム、スチレンブタジエンゴム、ブチルゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴム、エチレンプロピレンゴム、フッ化ビニリデンコポリマーなどが挙げられる。これらの中でも、ニトリル基含有ゴム、クロロプレンゴム、クロロスルホン化ポリエチレンゴムが好ましく、ニトリル基含有ゴムが特に好ましい。
【0045】
前記ニトリル基含有ゴムとしては、ニトリル基を含有するゴムやエラストマーであれば特に限定されないが、ニトリルゴムと水素化ニトリルゴムが好ましい。ニトリルゴムはブタジエンとアクリロニトリルの共重合体であり、結合アクリロニトリル量が多いと金属との親和性が増加するが、伸縮性に寄与するゴム弾性は逆に減少する。従って、アクリロニトリルブタジエン共重合体ゴム中の結合アクリロニトリル量は18~60質量%が好ましく、40~55質量%が特に好ましい。
【0046】
前記導電層は、上述した各成分を有機溶剤に溶解または分散させた組成物(導電性ペースト)を用い、生地に直接印刷する、または後述する第一絶縁層上に直接形成する、あるいは所望のパターンに塗布または印刷して塗膜を形成し、該塗膜に含まれる有機溶剤を揮散させて乾燥させることによって形成できる。前記導電層は、前記導電性ペーストを離型シート等の上に塗布または印刷して塗膜を形成し、該塗膜に含まれる有機溶剤を揮散させて乾燥させることによって予めシート状の導電層を形成しておき、それを所望のパターンで後述する第一絶縁層上に積層して形成してもよい。
【0047】
前記導電性ペーストは、粉体を液体に分散させる従来公知の方法を採用して調製すればよく、柔軟性を有する樹脂中に導電性フィラーを均一に分散することによって調製できる。例えば、金属粉、金属ナノ粒子、金属粉以外の導電材料などと、樹脂溶液を混合した後、超音波法、ミキサー法、3本ロールミル法、ボールミル法などで均一に分散すればよい。これらの手段は、複数を組み合わせて用いることができる。
【0048】
前記導電性ペーストを塗布または印刷する方法は特に限定されないが、例えば、コーティング法、スクリーン印刷法、平版オフセット印刷法、インクジェット法、フレキソ印刷法、グラビア印刷法、グラビアオフセット印刷法、スタンピング法、ディスペンス法、スキージ印刷などの印刷法などを採用できる。
【0049】
前記導電層の乾燥膜厚は、10~150μmが好ましく、より好ましくは20~130μm、更に好ましくは30~100μmである。前記導電層の乾燥膜厚が薄すぎると、電極および配線が、繰り返し伸縮を受けて劣化しやすく、導通が阻害ないし遮断される虞がある。一方、前記導電層の乾燥膜厚が厚すぎると、伸縮性が阻害され、また、電極および配線が厚くなりすぎ、着心地が悪くなる虞がある。
【0050】
(第一絶縁層)
前記第一絶縁層は、絶縁層として作用する他、電極および配線の導電層を生地に形成するための接着層として作用すると共に、着用時に第一絶縁層が積層された生地の反対側(即ち、衣類の外側)からの水分が導電層に達することを防ぐ止水層としても作用する。また、導電層の衣類側に第一絶縁層を設けることによって、第一絶縁層が、生地の伸びを抑制し、導電層が過度に伸長されるのを防ぐことができる。その結果、第一絶縁層にクラックが発生することを防止できる。これに対し、上述したように、前記導電層は、良好な伸長性を有するものであるが、生地が導電層の伸長性を超えた伸び性に富む素材の場合、生地表面に導電層を直接形成すると、生地の伸びに追随して導電層が伸ばされ過ぎ、その結果、導電層にクラックが発生すると考えられる。
【0051】
前記第一絶縁層は、絶縁性を有する樹脂で構成すればよく、樹脂の種類は特に制限されない。
前記樹脂としては、例えば、ポリウレタン系樹脂、シリコーン系樹脂、塩化ビニル系樹脂、エポキシ系樹脂、ポリエステルエラストマー等を好ましく用いることができる。これらの中でも、ポリウレタン系樹脂がより好ましく、導電層との接着性が一層良好となる。
前記第一絶縁層を構成する樹脂は、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。
【0052】
前記第一絶縁層の形成方法は特に限定されないが、例えば、絶縁性を有する樹脂を、溶剤(好ましくは水)に溶解または分散させて、離型紙または離型フィルム上に塗布または印刷し、塗膜を形成し、該塗膜に含まれる溶剤を揮発させて乾燥させることによって形成できる。また、市販されている樹脂シートまたは樹脂フィルムを用いることもできる。
前記第一絶縁層の平均膜厚は10~200μmが好ましい。前記第一絶縁層が薄すぎると、絶縁効果および伸び止め効果が不充分になることがある。従って前記第一絶縁層の平均膜厚は10μm以上が好ましく、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは40μm以上である。しかし、前記第一絶縁層が厚すぎると、電極および配線の伸縮性が阻害されることがある。また、電極および配線が分厚くなりすぎ、着心地が悪くなるおそれがある。従って前記第一絶縁層の平均膜厚は200μm以下が好ましく、より好ましくは180μm以下、更に好ましくは150μm以下である。
【0053】
第1絶縁層は電極と生地の間、生地の電極が形成される側とは反対の表面のいずれにも形成して良い。吸水性生地が電極の表面(生体に触れる面)に配置される場合においては、第1絶縁層は電極と生地との間に配置されることが好ましい。一方、吸水性生地が電極と生地の間に配置される場合には、第1絶縁層は吸水性生地と生地との間、または生地の電極とは逆の面に形成されることが好ましい。
【0054】
(第二絶縁層)
前記配線は、前記導電層の上に、第二絶縁層が形成されていることが好ましい。第二絶縁層を設けることによって、例えば、雨、雪、汗などの水分が導電層に接触することを防止できる。
前記第二絶縁層を構成する樹脂としては、上述した第一絶縁層を構成する樹脂と同様のものが挙げられ、好ましく用いられる樹脂も同じである。
前記第二絶縁層を構成する樹脂も、1種のみでもよいし、2種以上でもよい。前記第二絶縁層を構成する樹脂は、前記第一絶縁層を構成する樹脂と、同じであってもよいし、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。同じ樹脂を用いることによって、導電層の被覆性および配線の伸縮時における応力の偏りによる導電層の損傷を低減できる。 前記第二絶縁層は、前記第一絶縁層と同じ形成方法で形成できる。また、市販されている樹脂シートまたは樹脂フィルムを用いることもできる。
【0055】
前記第二絶縁層の平均膜厚は10~200μmが好ましい。前記第二絶縁層が薄すぎると、繰り返し伸縮したときに劣化しやすく、絶縁効果が不充分になることがある。従って前記第二絶縁層の平均膜厚は10μm以上が好ましく、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは40μm以上である。しかし、前記第二絶縁層が厚すぎると、配線の伸縮性が阻害され、また配線の厚さが厚くなりすぎて着心地が悪くなる虞がある。従って前記第二絶縁層の平均膜厚は200μm以下が好ましく、より好ましくは180μm以下、更に好ましくは150μm以下である。
【0056】
前記電極および配線は、10%伸長時にかかる単位幅当りの荷重が、100N/cm以下であることが好ましい。10%伸長時にかかる単位幅当りの荷重が100N/cmを超えると、電極および配線の伸長が、生地の伸長に追従し難くなり、衣類を着用したときの着心地を阻害することがあった。従って10%伸長時にかかる単位幅当りの荷重は、100N/cm以下が好ましく、より好ましくは80N/cm以下、更に好ましくは50N/cm以下である。
【0057】
前記電極および配線は、20%伸長時における電気抵抗の変化倍率が5倍以下であることが好ましい。20%伸長時における電気抵抗の変化倍率が5倍を超えると、導電性の低下が著しくなる。従って20%伸長時における電気抵抗の変化倍率は5倍以下であることが好ましく、より好ましくは4倍以下、更に好ましくは3倍以下である。
【0058】
前記電極と配線は、異なる材料で構成されていてもよいが、同じ材料で構成されていることが好ましい。
【0059】
前記電極と配線を同じ材料で構成する場合は、配線の幅は1mm以上とすることが好ましく、より好ましくは3mm以上、更に好ましくは5mm以上である。配線幅の上限は特に限定されないが、例えば、10mm以下とすることが好ましく、より好ましくは9mm以下、更に好ましくは8mm以下である。
【0060】
前記電極および配線は、衣類を構成する生地に直接形成することが好ましい。
【0061】
前記電極および配線を生地に形成する方法としては、電極および配線の伸縮性を妨げない方法であれば特に限定されず、着用時の身体へのフィット性や運動時、動作時の追従性などの観点から、例えば、接着剤による積層や熱プレスによる積層など、公知の方法が採用できる。これら接着材による積層や熱プレスによる積層を行う場合、生地にシリコーン系柔軟剤やフッ素系撥水剤のような、接着性を損なう材料が多く付着していない事が望ましい。これらは、生地の染色加工工程において、精錬処理による弾性糸等に用いられているシリコーン系油剤の除去および、生地の仕上げセット時の加工剤の選定により、調整することが出来る。
【0062】
前記電極は、衣類の胸郭部または胸郭下腹部に設けられていることが好ましい。前記電極を、衣類の胸郭部または胸郭下腹部に設けることによって、生体情報を精度良く測定できる。前記電極は、衣類のうち、着用者の第七肋骨上端と第九肋骨下端との間の肌に接触する領域に設けることがより好ましい。
【0063】
前記電極は、衣類のうち、着用者の左右の後腋窩線に平行な線であって、着用者の後腋窩線から着用者の背面側に10cm離れた場所に引いた線同士で囲まれる着用者の腹側の領域に設けることが好ましい。
【0064】
前記衣類に設ける電極の数は、少なくとも2つであり、2つの電極を、衣類の胸郭部または胸郭下腹部に設けることが好ましく、2つの電極を、着用者の左右の後腋窩線に平行な線であって、着用者の後腋窩線から着用者の背面側に10cm離れた場所に引いた線同士で囲まれる着用者の腹側の領域に設けることが好ましい。なお、電極を3つ以上設ける場合は、3つ目以降の電極を設ける位置は特に限定されず、例えば、後身頃生地に設けてもよい。
【0065】
前記電極面のシート抵抗値は、1000Ω□以下が好ましく、より好ましくは300Ω□以下、更に好ましくは200Ω□以下、特に好ましくは100Ω□以下である。特に、前記電極の形態がシート状の場合は、電極表面の電気抵抗値を、通常、300Ω□以下に抑えることができる。
【0066】
前記電極の形態は、シート状が好ましい。電極をシート状にすることによって、電極面を広くできるため、着用者の肌との接触面積を確保できる。前記シート状の電極は、曲げ性が良好であるものが好ましい。また、前記シート状の電極は、伸縮性を有するものが好ましい。
【0067】
前記シート状の電極の大きさは、身体からの電気信号を計測できれば特に限定されないが、電極面の面積は5~100cm2であり、電極の平均厚さは10~500μmが好ましい。
【0068】
前記電極面の面積は、より好ましくは10cm2以上、更に好ましくは15cm2以上である。前記電極面の面積は、より好ましくは90cm2以下、更に好ましくは80cm2以下である。
【0069】
前記電極が薄すぎると導電性が不充分になることがある。従って平均厚さは10μm以上が好ましく、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは50μm以上である。しかし、厚くなり過ぎると、着用者に異物感を感じさせ、不快感を与えることがある。従って平均厚さは500μm以下が好ましく、より好ましくは450μm以下、更に好ましくは400μm以下である。
【0070】
前記電極の形状は、電極を配置する位置に相当する身体の曲線に沿い、且つ身体の動きに追随して密着しやすい形状であれば特に限定されず、例えば、四角形、三角形、五角形以上の多角形、円形、楕円形等が挙げられる。電極の形状が多角形の場合は、頂点に丸みを付け、肌を傷付けないようにしてもよい。
【0071】
前記配線は、導電性繊維または導電性糸を用いて形成してもよい。前記導電性繊維または導電性糸としては、絶縁物である繊維表面に金属をメッキしたもの、細い金属線を糸に撚り込んだもの、導電性の高分子をマイクロファイバーなどの繊維間に含清させたもの、細い金属線等を用いることができる。
【0072】
前記配線の平均厚さは、10~500μmが好ましい。厚さが薄すぎると導電性が不充分になることがある。従って平均厚さは10μm以上が好ましく、より好ましくは30μm以上、更に好ましくは50μm以上である。しかし、厚さが厚くなり過ぎると、着用者に異物感を感じさせ、不快感を与えることがある。従って平均厚さは500μm以下が好ましく、より好ましくは300μm以下、更に好ましくは200μm以下である。
【0073】
前記配線の形状は特に限定されず、直線、曲線の他、冗長性を有する幾何学パターンであってもよい。冗長性を有する幾何学パターンとしては、例えば、ジグザグ状、連続馬蹄状、波状などが挙げられる。冗長性を有する幾何学パターンの電極は、例えば、金属箔を用いて形成できる。
【0074】
前記衣類は、電極で取得した電気信号を演算する機能を有する電子ユニット等を備えていることが好ましい。前記電子ユニット等において、電極で取得した電気信号を演算、処理することによって、例えば、心電、心拍数、脈拍数、呼吸数、血圧、体温、筋電、発汗などの生体情報が得られる。
【0075】
前記電子ユニット等は、衣類に着脱できることが好ましい。前記電子ユニット等は、更に、表示手段、記憶手段、通信手段、USBコネクタなどを有することが好ましい。前記電子ユニット等は、例えば、気温、湿度、気圧などの環境情報を計測できるセンサや、GPSを用いた位置情報を計測できるセンサなどを備えてもよい。
【0076】
以上、本発明をヒト用の衣類形状を有する電極を備えた装置について説明を行った。本発明はヒトだけでなく陸上動物全般に適用が可能であり、ペット用あるいは家畜用のハーネス形状であってもよい。
また、特に衣服形状、ハーネス形状を持つことは必須ではなく、個々の電極を単独ないし複数組み合わせて生体の任意の位置に配置して生体情報を計測する目的に用いてもよい。
【0077】
本発明は、ヒトはもちろん、体毛が多い動物、羽毛を有する動物、厚い皮膚を持つ動物においても安定した低インピーダンス接続状態を実現し、持続させることができるため、ペット、家畜、動物園などにおける動物の健康管理や野外における生態観察など幅広く応用することが可能である。
【実施例】
【0078】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記実施例によって制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも勿論可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。なお、以下においては、特に断りのない限り、「部」は「質量部」を、「%」は「質量%」を意味する。
【0079】
本実施例では、下記製造例1(実施例)および製造例2(比較例)の生地を用い、以下のようにして電極および配線を形成すると共に電子ユニットを取り付けて衣類を製造し、快適性および心拍数を測定した。
【0080】
(製造例1)
2.9dtex×38mmの吸水性繊維( 東洋紡社製:製品名ランシールF)を70 重量部、1.7dtex×51mmのポリオレフィン系熱溶融接着性繊維(チッソ株式会社製、製品名ESCスフ)30重量部を混綿、カーデングし、20g/m2 のウエブシートを形成し、150℃に加熱されたステンレス製フラットローラー2 本の間を線圧5 0 kg/2.5で通して、不織布シートAを得た。
不織布シートAの性能の純水吸水倍率は45倍、生理食塩水吸水倍率は12倍であった。なお、ここに吸水倍率は以下の方法で測定した
吸水量倍率の測定
概ね1.0gの不織布(質量をMiとする)を300mlの純水(蒸留水)に浸漬し、時々撹拌しながら30分間放置し、その後32メッシュの金属ふるいの上に注ぎ10分間水切りを行い、メッシュ上に残った純水を吸収した不織布の質量(Mt)を測定し、以下の式にて吸水倍率を求めた。
吸水倍率=(Mt)/(Mi)
なお生理食塩水吸収倍率は、前記純水を生理食塩水に代えて同様に測定した値である。
(製造例2)
1.7dtex×51mmのポリオレフィン系熱溶融接着性繊維( チッソ株式会社製、製品名ESCスフ)100 重量部をカーデングし、20g/ m2 のウエブシートを形成し、150℃に加熱されたステンレス製フラットローラー2本の間を線圧50kg/2.5mで通して、不織布シートBを得た。
不織布シートAの性能の純水吸水倍率は1.6倍、生理食塩水吸水倍率は1.4倍であった。
(製造例3)
2.9dtex×38mmの吸水性繊維( 東洋紡社製:製品名ランシールF) を100 重量部、1 .7dtex×51mmのポリオレフィン系熱溶融接着性繊維(チッソ株式会社製、製品名ESCスフ)90重量部を混綿、カーデングし、20g/m2のウエブシートを形成し、150℃に加熱されたステンレス製フラットローラー2 本の間を線圧50kg/2.5mで通して、不織布シートCを得た。
不織布シートCの性能の純水吸水倍率は3.8倍、生理食塩水吸水倍率は1.7倍であった。
【0081】
(導電性ペーストの調製)
ニトリルゴム(日本ゼオン社製のNipol DN003)20部を、イソホロン80部に溶解し、NBR溶解液を作製した。得られたNBR溶液100部に、銀粒子(DOWAエレクトロニクス製の「凝集銀粉G-35」、平均粒子径5.9μm)110部を配合し、3本ロールミルにて混練して導電ペーストを得た。
【0082】
(伸縮性電極および配線パーツの形成)
前記導電性ペーストを離型シートの上に塗布し、120℃の熱風乾燥オーブンで30分以上乾燥することによって、離型シート付きシート状導電層を作製した。
【0083】
次に、このようにして得られた離型シート付きシート状導電層の導電層表面に、ポリウレタンホットメルトシートを貼り合わせた後、前記離型フィルムを剥がしてポリウレタンホットメルトシート付きシート状導電層を得た。ここで前記ポリウレタンホットメルトシートは、ホットプレス機を用い、圧力0.5kg/cm2、温度130℃、プレス時間20秒の条件で積層した。
【0084】
次に、長さ13cm、幅2.4cmのポリウレタンホットメルトシートの上に、長さ12cm、幅2cmのポリウレタンホットメルトシート付きシート状導電層のポリウレタンホットメルトシート側を、長さ方向の一端を揃えて積層し、ポリウレタンホットメルトシートとシート状導電層との積層体を作製した。ここではポリウレタンホットメルトシートが、上述した第一絶縁層に相当する。
【0085】
次に、前記第一絶縁層およびシート状導電層の一部を覆うように、長さ4~6cm、幅2.4cmの領域に、前記第一絶縁層を形成したものと同じポリウレタンホットメルトシートを端から2cm離した部分から積層することにより、前記シート状導電層の一部の上に第二絶縁層を形成した。即ち、端部に導電層が露出した長さ2cm×幅2cmのデバイス接続部、第一絶縁層/導電層/第二絶縁層の積層構造を有する絶縁部、反対の端部に導電層が露出した長さ4~6cm×幅2cmの電極がこの順で長手方向に配置された伸縮性電極および配線パーツを作製した。
【0086】
(小型犬用衣服型の電極を備える装置の作製)
次に、小型犬用衣類の内側、即ち、被検動物の肌に電極面が接触する側の所定位置に、前記の伸縮性電極および配線パーツを2枚、左右対称になる形で貼り付けて
図4に示す、小型犬用衣服型の電極を備える装置を作製した。生地に設けた電極の数は2個とし、電極2個の電極面の合計面積は12cm
2、電極の平均厚さは90μmであった。
【0087】
(実施例1)
次に、前記製造例1にて得られた不織布シートAを前記電極部より1割大きいサイズ(面積6.6cm
2)にカットし、電極部からはみ出した端部を両面テープ(ニトムズ製、製品名一般用両面テープS)で配線部の第二絶縁層上に貼り付けることにより、前記電極表面に位置するように固定した。さらに心電位測定用の電圧測定機能、および計測結果のメモリー機能を有する電子ユニットを、スナップホックをコネクタとして用いて取り付けて小型犬用衣服型の電極を備える装置を得た。
被験動物として、シーズーと呼ばれる比較的体毛が豊かな品種の小型犬(3歳メス)を用い、まず、電極を備える装置の電極部に固定された不織布シートAにスポイトを用いて水10gを滴下して吸収させた後に被験動物に電極を備える装置を
図5のように着用させ、心拍数の時間経過を測定した。結果を
図6に示す。長時間にわたり連続して心拍計測が行えていることがわかる。なお図中のHRは心拍数を意味する。また横軸は時刻である。図では3時間経過までを図示しているが、実験は5時間に渡って行い、その間良好な心拍数計測を維持していた。
【0088】
(比較例1)
不織布シートBを用いた以外は実施例1と同様に実験を行い、被検動物の心拍数の時間経過を測定した。結果を
図7に示す。測定開始後30分間程度は連続的に心拍計測が行えているが実施例に比較すると、心拍数の数値が小さい側にばらついており、心拍の計数欠損があることが示唆される。また30分以後はさらにデータが離散的になっており、正常にデータ取得が行えていないことが解る。これは電極表面の不織布が水分を維持できずに乾燥してしまったためであると考えられる。
【0089】
(実施例2)
不織布シートCを用いた以外は実施例1と同様に実験を行い、被検動物の心拍数の時間経過を測定した。結果、約3時間の間、良好に心拍計測を行う事ができた。3時間経過後は徐々にデータ欠損が多くなったが、実用上十分な結果を得られたと云える。
【0090】
(比較例2)
不織布シートを用いず、当然ながら不織布シートを水で湿潤させる操作も行わなかった以外は実施例1と同様に実験を行った。被験動物の心拍測定を行う事はできなかった。
【符号の説明】
【0091】
1:生体
2:電極
3:吸水性生地
4:吸水性生地
201:電極部
202:配線部
500:スナップホック
700:面ファスナー
800:小型動物用の衣類
900:電子ユニット