(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】車両用フロントピラーの周辺構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/04 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
B62D25/04 A
(21)【出願番号】P 2018130815
(22)【出願日】2018-07-10
【審査請求日】2021-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099623
【氏名又は名称】奥山 尚一
(74)【代理人】
【識別番号】100096769
【氏名又は名称】有原 幸一
(74)【代理人】
【識別番号】100107319
【氏名又は名称】松島 鉄男
(74)【代理人】
【識別番号】100125380
【氏名又は名称】中村 綾子
(74)【代理人】
【識別番号】100142996
【氏名又は名称】森本 聡二
(74)【代理人】
【識別番号】100166268
【氏名又は名称】田中 祐
(74)【代理人】
【識別番号】100170379
【氏名又は名称】徳本 浩一
(72)【発明者】
【氏名】玉置 秀行
【審査官】藤井 浩介
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2013/0113237(US,A1)
【文献】国際公開第2012/053080(WO,A1)
【文献】特開2016-141243(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102015100195(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両のフロントサイドドアに隣接するフロントピラーを備え、
該フロントピラーが、車体のサイドボディアウターパネルの一部であるフロントピラーアウター部分と、該フロントピラーアウター部分に対して車両幅方向の中央側に位置するフロントピラーインナーパネルと、
車両幅方向に見て該フロントピラーアウター部分と該フロントピラーインナーパネルとの間に位置するフロントピラーリンフォースメントとを有し、
前記フロントピラーアウター部分
、前記フロントピラーリンフォースメント、及び前記フロントピラーインナーパネルのそれぞれが、前記フロントサイドドア側に位置するドア側縁部を有し、
前記フロントピラーは、前記フロントピラーアウター部分
、前記フロントピラーリンフォースメント、及び前記フロントピラーインナーパネルのドア側縁部
が接合
されたドア側接合部を有する、車両用フロントピラーの周辺構造であって、
前記フロントピラーは、前記ドア側接合部に対して車両幅方向の一方側にて、前記フロントサイドドア側に位置する前記ドア側接合部の先端から前記フロントサイドドアとは反対側に向かって折り返され
た前記フロントピラーリンフォースメントの折り返し部を有
し、前記ドア側接合部における前記ドア側縁部同士の接合が、前記フロントピラーの延在方向に互いに間隔を空けた複数の点接合要素によってもたらされている、車両用フロントピラーの周辺構造。
【請求項2】
前記フロントピラーに対して車両後方に位置し、かつ車両前後方向に延びるルーフサイドレールをさらに備え、
前記フロントピラーが、車両のフロントガラスに沿って延びるフロントピラー前側領域と、該フロントピラー前側領域の車両上下方向の上端から前記ルーフサイドレールの車両前後方向の前端に向かって湾曲するように延びるフロントピラー湾曲領域とを含み、
前記フロントピラー湾曲領域
の少なくとも一部
に前記折り返し部
が形成されている、請求項1に記載の車両用フロントピラーの周辺構造。
【請求項3】
車両幅方向に延びるフロントルーフレールをさらに備え、
該フロントルーフレールの長手方向の一端部と前記フロントピラーとを接合したルーフレール接合部が形成され、
該ルーフレール接合部が、前記ドア側接合部から前記フロントサイドドアとは反対側に離れて位置し
、前記折り返し部の少なくとも一部が
、前記ドア側接合部の前記ルーフレール接合部に隣接した区域に配置されている、請求項2に記載の車両用フロントピラーの周辺構造。
【請求項4】
前記折り返し部の
折り返し方向の長さが、前記フロントピラーの最小幅の半分未満となっている、請求項2又は3に記載の車両用フロントピラーの周辺構造。
【請求項5】
前記折り返し部には、前記複数の点接合要素を避けるように、前記折り返し部の
折り返し方向の先端から凹む切欠きが形成されている、請求項
1に記載の車両用フロントピラーの周辺構造。
【請求項6】
前記切欠きが、前記折り返し部の
折り返し方向の先端
から基端に向かって先細
に形成され、
かつ、前記基端寄りに
前記基端と間隔を空けて底部を有
する、請求項
5に記載の車両用フロントピラーの周辺構造。
【請求項7】
前記折り返し部が、前記ドア側接合部に対して車両幅方向の中央側
に折り返されている、請求項1~
6のいずれか一項に記載の車両用フロントピラーの周辺構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用フロントサイドドアに隣接する車両用フロントピラーの周辺構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両においては、衝突時にフロントサイドドアとフロントピラーとの位置関係が変化するドア間変位が生ずるおそれがあり、このようなドア間変位を抑制すべく、フロントサイドドアとフロントピラーとを互いに隣接させた隣接部分を含むフロントピラーの周辺構造の剛性を高めることが求められる。そのため、ドア間変位を抑制することができる様々なフロントピラーの周辺構造が提案されている。
【0003】
フロントピラーの周辺構造の一例としては、フロントサイドドアがサッシュドアとして構成され、このサッシュドアがフロントピラーに隣接するピラーサッシュ部を有し、ピラーサッシュ部が、サッシュインナパネルとサッシュアウタパネルとによって形成される閉断面を有するように構成され、フロントピラー側に位置するサッシュインナパネル及びサッシュアウタパネルの縁部が、へミング加工によって相互を一体的に連結されている、フロントピラーの周辺構造が挙げられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したフロントピラーの周辺構造においては、通常の衝突時におけるドア間変位を抑制すべく、フロントサイドドアにヘミング加工が施されている。しかしながら、オフセット衝突時におけるフロントピラーの変形は、通常の衝突時におけるフロントピラーの変形よりも大きくなる傾向にある。そのため、フロントピラーの周辺構造の一例においては、オフセット衝突時におけるドア間変位を効率的に抑制できないおそれがある。
【0006】
また、ドア間変位を抑制するために、フロントピラーを構成する部材の厚さを増加させること、補強構造を追加すること等が行われると、フロントピラーの周辺構造の重量が増加するということも問題となる。
【0007】
このような実情を鑑みると、フロントピラーの周辺構造においては、ドア間変位を効率的に抑制することが望まれている。また、付随的に、フロントピラーの周辺構造において、重量増加を抑制しながら、衝突時、特に、オフセット衝突時におけるドア間変位を効率的に抑制することも望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述のような課題を解決するために、一態様に係るフロントピラーの周辺構造は、車両のフロントサイドドアに隣接するフロントピラーを備え、該フロントピラーが、車体のサイドボディアウターパネルの一部であるフロントピラーアウター部分と、該フロントピラーアウター部分に対して車両幅方向の中央側に位置するフロントピラーインナーパネルと、車両幅方向に見て該フロントピラーアウター部分と該フロントピラーインナーパネルとの間に位置するフロントピラーリンフォースメントとを有し、前記フロントピラーアウター部分、前記フロントピラーリンフォースメント、及び前記フロントピラーインナーパネルのそれぞれが、前記フロントサイドドア側に位置するドア側縁部を有し、前記フロントピラーは、前記フロントピラーアウター部分、前記フロントピラーリンフォースメント、及び前記フロントピラーインナーパネルのドア側縁部が接合されたドア側接合部を有する、車両用フロントピラーの周辺構造であって、前記フロントピラーは、前記ドア側接合部に対して車両幅方向の一方側にて、前記フロントサイドドア側に位置する前記ドア側接合部の先端から前記フロントサイドドアとは反対側に向かって折り返された前記フロントピラーリンフォースメントの折り返し部を有し、前記ドア側接合部における前記ドア側縁部同士の接合が、前記フロントピラーの延在方向に互いに間隔を空けた複数の点接合要素によってもたらされている、車両用フロントピラーの周辺構造にある。
【発明の効果】
【0009】
一態様に係るフロントピラーの周辺構造においては、ドア間変位を効率的に抑制できる。付随的に、一態様に係るフロントピラーの周辺構造においては、重量増加を抑制しながら、衝突時、特に、オフセット衝突時におけるドア間変位を効率的に抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】第1実施形態に係る車両用フロントピラーの周辺構造を含む車体を概略的に示す斜視図である。
【
図5】第2実施形態に係る車両用フロントピラーの周辺構造を、
図2のB-B線に相当する線に沿って切断した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
第1及び第2実施形態に係る車両用フロントピラーの周辺構造について、それを含む車体と共に説明する。本実施形態の説明に用いられる
図1~
図5において、車両幅方向の一方側、車両幅方向の他方側、車両上側及び車両下側を、それぞれ、矢印W1、矢印W2、矢印U及び矢印Lによって示す。また、
図1及び
図2において、車両前方側及び車両後方側を、それぞれ、矢印F及び矢印Rによって示す。
【0012】
また、
図1においては、主に車体の骨格構造が示された状態となっており、車両幅方向の一方側に位置するフロントサイドドアが示されている。その一方で、
図1においては、このフロントサイドドア以外のドア、走行車輪等は省略されている。以下においては、この車両幅方向の一方側に位置するフロントサイドドアに隣接するフロントピラーの周辺構造について説明するが、フロントピラーの周辺構造は、車体の車両幅方向の両側に採用することができる。なお、フロントピラーの周辺構造は、もちろん、車体の車両幅方向の一方側のみに採用することもできる。
【0013】
[第1実施形態]
第1実施形態に係る車両用フロントピラーの周辺構造について、それを含む車体と共に説明する。
【0014】
[車両用フロントピラーの周辺構造の概略について]
最初に、本実施形態に係る車両用フロントピラーの周辺構造の概略について説明する。
図1及び
図2に示すように、本実施形態に係る車体1は、フロントサイドドア2と、このフロントサイドドア2に隣接するフロントピラー3とを備える。車体1の内部には車室1aが形成される。車両幅方向の一方側に位置する車体1の側面部(以下、「車体側面部」という)1bには、フロントサイドドア2に対応するように形成されるドア開口1cが形成される。ドア開口1cは、車体側面部1bを車両幅方向に貫通する。フロントサイドドア2は、ドア開口1cを開閉可能とするように構成される。そのため、フロントサイドドア2は車体側面部1bに位置しており、言い換えれば、フロントサイドドア2は、車室1aの車両幅方向の一方側に位置する。フロントピラー3は、車両前方側かつ車両上方側に位置するドア開口1cの周縁部の一部を形成するように配置される。
【0015】
図1~
図4に示すように、車体1は、車体側面部1bの車両幅方向の外側に位置するサイドボディアウターパネル4を有する。
図2~
図4に示すように、サイドボディアウターパネル4は、フロントピラー3を構成するフロントピラーアウター部分11を有する。フロントピラーアウター部分11は、サイドボディアウターパネル4の一部となっている。すなわち、フロントピラー3は、かかるフロントピラーアウター部分11を有する。フロントピラー3はまた、フロントピラーアウター部分11に対して車両幅方向の中央側に位置するフロントピラーインナーパネル12を有する。
【0016】
図3及び
図4に示すように、フロントピラーアウター部分11及びフロントピラーインナーパネル12のそれぞれは、フロントサイドドア2側に位置するドア側縁部11a,12aを有する。フロントピラー3は、これらのドア側縁部11a,12aを間接的に接合したドア側接合部21を有する。例えば、後述するフロントピラーリンフォースメント13のドア側縁部13aが、車両幅方向にてフロントピラーアウター部分11及びフロントピラーインナーパネル12のドア側縁部11a,12a間に配置され、ドア側接合部21は、これら3つのドア側縁部11a,12a,13aを接合することによって構成されるとよい。しかしながら、ドア側接合部は、これに限定されず、フロントピラーアウター部分及びフロントピラーインナーパネルを直接的に接合することによって構成することもできる。
【0017】
さらに、
図2~
図4に示すように、フロントピラー3は、ドア側接合部21に対して車両幅方向の中央側に位置する折り返し部22を有する。折り返し部22は、フロントサイドドア2側に位置するドア側接合部21の先端21aからフロントサイドドア2とは反対側に向かって折り返されるように突出する。折り返し部22のさらなる詳細については後述する。
【0018】
[フロントピラーの周辺構造の詳細について]
本実施形態に係るフロントピラー3の周辺構造の詳細は、次のようになっているとよい。フロントピラー3の周辺構造において、
図1及び
図2に示すように、車体1は、車室1aの車両前方側かつ車両上方側に位置するフロントガラス5を有する。車体1はまた、車両前後方向に延びるルーフサイドレール6を有する。ルーフサイドレール6は、フロントピラー3に対して車両後方に位置する。ルーフサイドレール6は、フロントサイドドア2の車両上下方向の上端縁に沿って配置されるとよい。
【0019】
図2に示すように、フロントピラー3は、フロントガラス5に沿って延びる前側領域(フロントピラー前側領域)3aを有する。より具体的には、フロントピラー3の前側領域3aは、車両幅方向の一方側に位置するフロントガラス5の側縁部(フロントガラス側縁部)5aに沿って延びるとよい。前側領域3aは、車両前後方向にてフロントサイドドア2とフロントガラス5との間に位置するとよい。フロントピラー3はまた、前側領域3aの車両上下方向の上端からルーフサイドレール6の車両前後方向の前端に向かって湾曲するように延びる湾曲領域(フロントピラー湾曲領域)3bを有する。このようなフロントピラー3の幅方向の中心線Pを定義した場合、中心線Pは、前側領域3aでは略直線状に延び、かつ湾曲領域3bでは略円弧状に湾曲する。
【0020】
湾曲領域3bの延在方向の少なくとも一部が、上述した折り返し部22を有する。折り返し部22は、フロントピラー3の延在方向に延びる。特に、折り返し部22は、湾曲領域3bの延在方向の範囲内に位置するとよい。さらに、折り返し部22の延在方向の前端22a及び後端22bが、それぞれ、湾曲領域3bの延在方向の前端3c及び後端3dと実質的に一致するとよい。折り返し部22は、いわゆるヘミング加工によってヘミング形状に形成される。
【0021】
フロントピラー3の周辺構造において、
図2に示すように、車体1は、車両幅方向に延びるフロントルーフレール7を有する。フロントルーフレール7は、フロントガラス5の車両上下方向の上縁部(フロントガラス上縁部)5bに沿って延びるとよい。フロントピラー3は、このフロントピラー3とフロントルーフレール7の長手方向の一端部とを接合したルーフレール接合部23を有する。例えば、フロントピラー3とフロントルーフレール7の長手方向の一端部との接合は、接合要素Kによってもたらされるとよい。接合要素Kは、スポット溶接等の溶接によって形成されるとよい。しかしながら、接合要素は、これに限定されない。
【0022】
ルーフレール接合部23は、ドア側接合部21からフロントサイドドア2とは反対側に離れて位置する。ルーフレール接合部23は、フロントピラー3の湾曲領域3bに配置されるとよい。ドア側接合部21は、折り返し部22の突出方向にてルーフレール接合部23と対向する対向区域21bを有する。また、ドア側接合部21の対向区域21bは、折り返し部22の法線方向にてルーフレール接合部23と対向してもよい。なお、法線方向は、車両幅方向から見て、フロントピラー3の中心線Pに略直交する法線Qに沿った方向を法線方向と定義する。折り返し部22の少なくとも一部は対向区域21bに配置される。より具体的には、折り返し部22の延在方向の少なくとも一部が対向区域21bに配置される。
【0023】
フロントピラー3の周辺構造において、
図2に示すように、折り返し部22の法線方向の長さnが、フロントピラー3の最小幅dの半分未満となっている。なお、フロントピラーの前側領域3aの幅は、車両幅方向から見た場合において、中心線Pに直交する方向の長さとして定義することができる。フロントピラー3の湾曲領域3bの幅は、車両幅方向から見た場合において、フロントピラー3の法線方向の長さとして定義することもできる。
【0024】
フロントピラー3の周辺構造において、
図2~
図4に示すように、ドア側接合部21におけるフロントピラーアウター部分11及びフロントピラーインナーパネル12のドア側縁部11a,12aの間接的な接合は、フロントピラー3の延在方向に間隔を空けた複数の点接合要素Jによってもたらされる。特に、ドア側接合部21におけるフロントピラーアウター部分11、フロントピラーインナーパネル12及びフロントピラーリンフォースメント13のドア側縁部11a,12a,13aの接合が、これら複数の点接合要素Jによってもたらされるとよい。これらドア側縁部11a,12a,13aの接合は、3枚接合であるとよい。
【0025】
なお、ドア側接合部におけるフロントピラーアウター部分及びフロントピラーインナーパネルのドア側縁部が直接的に接合される場合、これら直接的な接合部が、フロントピラーの延在方向に間隔を空けた複数の点接合要素によってもたらされるとよい。上述した点接合要素は、スポット溶接によって形成されるとよいが、これに限定されない。
【0026】
フロントピラー3の周辺構造において、
図2~
図4に示すように、折り返し部22には、複数の点接合要素Jを避けるように、折り返し部22の突出方向の先端22cから凹む切欠き24が形成されている。
【0027】
フロントピラー3の周辺構造において、
図2に示すように、切欠き24は、折り返し部22の突出方向の先端22cから折り返し部22の突出方向の基端22dに向かって先細るように形成される。かかる切欠き24の形状は、略台形形状であるとよい。しかしながら、切欠きの形状は、これに限定されず、例えば、切欠きの形状は略半円形状等とすることもできる。切欠き24は、折り返し部22の突出方向の基端22d寄りに位置する底部24aを有する。底部24aは、折り返し部22の突出方向の基端22dとは間隔を空けている。
【0028】
フロントピラー3の周辺構造は
、図3及び
図4に示すように、車両前後方向から見て、フロントピラーアウター部分11とフロントピラーインナーパネル12との間には閉断面が形成される。かかるフロントピラー3は、上述したフロントピラーリンフォースメント13を有する
。フロントピラーリンフォースメント13は、車両幅方向にてフロントピラーアウター部分11とフロントピラーインナーパネル12との間に位置する。この場合、車両前後方向から見て、フロントピラーアウター部分11とフロントピラーリンフォースメント13との間に閉断面が形成されるとよく、さらに、フロントピラーインナーパネル12とフロントピラーリンフォースメント13との間に閉断面が形成されるとよい。
【0029】
折り返し部22は、フロントピラーリンフォースメント13に設けられる。かかる折り返し部22は、フロントピラーリンフォースメント13のドア側縁部13aの先端からフロントサイドドア2とは反対側に向かって折り返されるように突出する。フロントピラーインナーパネル12のドア側縁部12aは、フロントピラーリンフォースメント13のドア側縁部13aと折り返し部22との間に位置することとなる。
【0030】
以上、本実施形態に係るフロントピラー3の周辺構造においては、フロントサイドドア2側に位置するフロントピラー3のドア側接合部21に対して車両幅方向の一方側にて、ドア側接合部21の先端21aからフロントサイドドア2とは反対側に向かって折り返されるように突出する折り返し部22が設けられる。そのため、車両に対する衝突、特に、オフセット衝突がなされた場合であっても、折り返し部22によってフロントピラー3の変形を効率的に抑制することができて、その結果、フロントサイドドア2とフロントピラー3との位置関係が変化するドア間変位を効率的に抑制できる。また、フロントピラー3の構成要素の厚さ、例えば、フロントピラーアウター部分11、フロントピラーインナーパネル12等の厚さを減少させた場合であっても、このような折り返し部22によってドア間変位を効率的に抑制することができる。そのため、付随的には、フロントピラー3の周辺構造の重量増加を抑制しながら、衝突時、特に、オフセット衝突時におけるドア間変位を効率的に抑制できる。
【0031】
本実施形態に係るフロントピラー3の周辺構造においては、フロントピラー3が、フロントガラス5に沿って延びるフロントピラー3の前側領域3aの上端から車両前後方向に延びるルーフサイドレール6の車両前後方向の前端に向かって湾曲するように延びる湾曲領域3bを有し、かかる湾曲領域3bは、フロントピラー3の他の領域と比較して変形し難くなっている。そして、このようなフロントピラー3の湾曲領域3bに、ヘミング形状に形成された折り返し部が設けられる。そのため、フロントピラー3の変形を効率的に抑制できて、その結果、ドア間変位を効率的に抑制できる。例えば、フロントピラー3の湾曲領域3bに折り返し部22を設け、かつフロントピラー3の他の領域に折り返し部22を設けない場合であっても、湾曲領域3bの折り返し部のみによって、ドア間変位を効率的に抑制できる。このとき、フロントピラー3の他の領域に折り返し部22を設けないので、フロントピラー3の周辺構造の重量増加も抑制できる。そのため、付随的には、フロントピラー3の周辺構造の重量増加を抑制しながら、ドア間変位を効率的に抑制できる。
【0032】
本実施形態に係るフロントピラー3の周辺構造においては、フロントピラー3とフロントルーフレール7とを接合したルーフレール接合部23と、このルーフレール接合部23に対して折り返し部22の突出方向にて対向するドア側接合部21の対向区域21bとの間における領域は、変形し難くなっている。そして、折り返し部22が、このようなドア側接合部21の対向区域21bに配置される。そのため、フロントピラー3の変形を効率的に抑制できて、その結果、ドア間変位を効率的に抑制できる。付随的に、例えば、折り返し部22をドア側接合部21の対向区域21bのみに配置する場合においては、フロントピラー3の周辺構造の重量増加を抑制しながら、ドア間変位を効率的に抑制できる。
【0033】
本実施形態に係るフロントピラー3の周辺構造においては、折り返し部22の法線方向の長さnが、フロントピラー3の最小幅dの半分未満となっている。そのため、折り返し部22による重量増加を抑制しながら、ドア間変位を効率的に抑制できる。
【0034】
本実施形態に係るフロントピラー3の周辺構造においては、ドア側接合部21の接合が、フロントピラー3の延在方向に互いに間隔を空けた複数の点接合要素Jによってもたらされる。そのため、ドア側接合部21の折り返し部22の点接合要素Jと、この折り返し部22以外の部分の点接合要素Jとが、フロントピラー3の延在方向において隣り合う場合において、これらの点接合要素Jの間隔を、他の隣り合う点接合要素Jの間隔よりも増加させずに、複数の点接合要素Jによってドア側接合部21の接合をもたらすことができる。その結果、点接合要素Jの間隔の増加によってフロントピラー3の変形量が増加することを防止できて、ドア間変位を効率的に抑制できる。
【0035】
本実施形態に係るフロントピラー3の周辺構造においては、車両幅方向にて、フロントピラーアウター部分11及びフロントピラーインナーパネル12のドア側縁部11a,12a間にフロントピラーリンフォースメント13のドア側縁部13aが設けられる。そのため、フロントピラーアウター部分11、フロントピラーインナーパネル12及びフロントピラーリンフォースメント13のドア側縁部11a,12a,13aと、折り返し部22とが4枚重ね状態で配置されることとなる。これに対して、折り返し部22の切欠き24の配置部分では、フロントピラーアウター部分11、フロントピラーインナーパネル12及びフロントピラーリンフォースメント13のドア側縁部11a,12a,13aが3枚重ね状態で配置される。そのため、ドア側接合部21を、スポット溶接等の溶接によって3枚接合によってもたらすことができる。さらに、切欠き24によって折り返し部22の重量を低減できるので、フロントピラー3の周辺構造の重量増加を抑制しながら、ドア間変位を効率的に抑制できる。
【0036】
本実施形態に係るフロントピラー3の周辺構造においては、切欠き24が、折り返し部22の突出方向の先端22cから折り返し部22の突出方向の基端22dに向かって先細るように形成され、切欠き24の底部24aが、折り返し部22の突出方向の基端22dと間隔を空けている。そのため、切欠き24を設けた場合であっても、折り返し部22の体積が減少することを抑制できるので、フロントピラー3の変形を効率的に抑制できて、その結果、ドア間変位を効率的に抑制できる
【0037】
本実施形態に係るフロントピラー3の周辺構造においては、ドア側接合部21に対して車両幅方向の外側には車両の意匠面が形成される。これに対して、折り返し部22が、車両の意匠面とは車両幅方向の反対側に位置するように、ドア側接合部21に対して車両幅方向の中央側にて折り返される。そのため、折り返し部22によって車両の意匠面の見栄えが悪化し難くなる。そのため、車両の意匠面の見栄えを良くするために折り返し部22に対して追加の加工等を施す必要がなく、追加の加工等によってフロントピラー3の周辺構造の重量が増加することを防ぐことができる。
【0038】
[第2実施形態]
第2実施形態に係る車両用フロントピラーの周辺構造について、それを含む車体と共に説明する。本実施形態に係る車両用フロントピラーの周辺構造は、以下に述べる点を除いて、第1実施形態に係る車両用フロントピラーの周辺構造と同様である。なお、本実施形態に係る構成要素が、第1実施形態に係る構成要素と同様に構成される場合、その第1実施形態に係る構成要素と同様の符号を付す。
【0039】
本実施形態においては、
図5に示すように、フロントピラー3が、第1実施形態の折り返し部22の代わりに、次に述べる折り返し部32を有する。本実施形態の折り返し部32は、ドア側接合部21に対して車両幅方向の外側に位置する。折り返し部32は、かかる点を除いて、第1実施形態の折り返し部22と同様に構成される。
【0040】
よって、本実施形態に係るフロントピラー3の周辺構造においては、折り返し部22がドア側接合部21に対して車両幅方向の中央側に位置することに基づく効果を除いて、第1実施形態に係るフロントピラー3の周辺構造と同様の効果を得ることができる。
【0041】
ここまで本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述の実施形態に限定されるものではなく、本発明は、その技術的思想に基づいて変形及び変更可能である。
【0042】
[実施例1]
実施例1において、第1実施形態に係るフロントピラー3の周辺構造の数値解析モデルを作成し、かかる数値解析モデルにおいては、フロントピラーアウター部分11の厚さを約0.65mmとし、フロントピラーインナーパネル12の厚さを約2.0mmとし、かつ折り返し部22を含むフロントピラーリンフォースメント13の厚さを約1.6mmとした。かかる実施例1の数値解析モデルを用いた数値解析によって、オフセット衝突時のドア間変位を算出した。
【0043】
[実施例2]
実施例2において、フロントピラーインナーパネル12の厚さを約1.6mmとした点を除いて、実施例1と同様の数値解析モデルを作成した。かかる実施例2の数値解析モデルを用いた数値解析によって、オフセット衝突時のドア間変位を算出した。また、実施例2及び後述する比較例の数値解析モデルの重量差を算出した。
【0044】
[比較例]
比較例において、折り返し部22を設けない点を除いて、実施例1と同様の数値解析モデルを作成した。かかる比較例の数値解析モデルを用いた数値解析によって、オフセット衝突時のドア間変位を算出した。
【0045】
上記実施例1及び2並びに比較例の数値解析モデルに基づいた数値解析において、オフセット衝突時のドア間変位は次のように算出された。実施例1のドア間変位は約7mmとなった。実施例2のドア間変位は約11mmとなった。比較例のドア間変位は約13mmとなった。また、実施例2の数値解析モデルの重量は、比較例の数値解析モデルの重量よりも約633g減少した。
【0046】
実施例1と比較例との対比によれば、折り返し部22を設けることによってドア間変位を抑制できることが確認できた。実施例2と比較例との対比によれば、フロントピラーインナーパネル12の厚さを減少させながら折り返し部22を設けることによって、フロントピラー3の周辺構造の重量増加を抑制しながら、ドア間変位を抑制できることが確認できた。
【符号の説明】
【0047】
1…車体、2…フロントサイドドア、3…フロントピラー、3a…前側領域(フロントピラー前側領域)
3b…湾曲領域(フロントピラー湾曲領域)、4…サイドボディアウターパネル、5…フロントガラス、6…ルーフサイドレール、7…フロントルーフレール、11…フロントピラーアウター部分
11a…ドア側縁部、12…フロントピラーインナーパネル、12a…ドア側縁部、21…ドア側接合部、21a…先端、21b…対向区域、22,32…折り返し部、22c…先端、22d…基端、23…ルーフレール接合部、24…切欠き、24a…底部、J…点接合要素
Q…法線、n…長さ、d…最小幅