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特許7172248力制御ロボット及びツール座標系の校正方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】力制御ロボット及びツール座標系の校正方法
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
B25J9/10 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018140681
(22)【出願日】2018-07-26
(65)【公開番号】P2020015149
(43)【公開日】2020-01-30
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】木原 康之
(72)【発明者】
【氏名】林 浩一郎
【審査官】杉田 隼一
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-152599(JP,A)
【文献】特開2011-230243(JP,A)
【文献】特開2000-071191(JP,A)
【文献】米国特許第06434449(US,B1)
【文献】特開2013-123757(JP,A)
【文献】特開平04-012309(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B25J 9/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロボットアームの先端に力センサを介して所定のツールが装着され、前記力センサの検出値に基づいて前記ロボットアームが制御される力制御ロボットであって、
前記ツールを所定の校正治具に押し付けるように前記ロボットアームを制御することにより、前記ツールが前記校正治具に接触する前の前記検出値と前記ツールの移動量との関係を示す第1の関数と、前記ツールが前記校正治具に接触した後の前記検出値と前記ツールの移動量との関係を示す第2の関数とを取得する関数取得部と、
前記ツールのツールセンターポイントを前記第1の関数と前記第2の関数との交点として取得する基準点取得部と、
前記ツールセンターポイントに基づいて前記ツールに固有のツール座標系を校正する校正部と
を備え、
前記ツールが前記ツール座標系の1軸方向に伸縮自在な弾性要素を備えたフロートフォルダを介して前記力センサに装着されることを特徴とする力制御ロボット。
【請求項2】
前記関数取得部は、前記ツールの押付開始から前記検出値と前記移動量に関する時系列データを順次取得し、当該時系列データに基づいて前記第1の関数と前記第2の関数とを取得することを特徴とする請求項1記載の力制御ロボット。
【請求項3】
前記関数取得部は、前記ツールが前記校正治具に接触した後、前記弾性要素が収縮する際の前記検出値と前記ツールの移動量との関係を示す第3の関数を取得し、
前記基準点取得部は、前記ツールセンターポイントに加えて、前記弾性要素の弾性特性を取得することを特徴とする請求項1または2記載の力制御ロボット。
【請求項4】
前記ツールは、所定のワークに接触して所定の加工を施す工具であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の力制御ロボット。
【請求項5】
前記ツールは、被計測物の位置検出のために前記被計測物に接触する接触子であることを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載の力制御ロボット。
【請求項6】
ロボットアームの先端に装着された所定のツールに固有なツール座標系の校正方法であって、
前記ツールが所定の校正治具に接触する前に前記ツールに作用する接触力の検出値と前記ツールの移動量との関係を示す第1の関数と、前記ツールが前記校正治具に接触した後における前記検出値と前記ツールの移動量との関係を示す第2の関数とを取得する関数取得工程と、
前記ツールのツールセンターポイントを前記第1の関数と前記第2の関数との交点として取得する基準点取得工程と、
前記ツールセンターポイントに基づいて前記ツールに固有のツール座標系を校正する校正工程と
を有し、
前記ツールが前記ツール座標系の1軸方向に伸縮自在な弾性要素を備えたフロートフォルダを介して力センサに装着されることを特徴とするツール座標系の校正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、力制御ロボット及びツール座標系の校正方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、ロボットの設置精度が低い場合でも、その設置誤差を考慮して、必要なパラメータをキャリブレーションすることができる力制御ロボットのキャリブレーション装置と方法が開示されている。この背景技術は、ロボットアームの手先には力センサを介してツールが取り付けられた力制御ロボットにおいて、ロボットアームを複数の姿勢に動作させた際の力センサの計測値と、当該計測値を取得するときの力センサの姿勢データとを取得することにより、ツール重量、重力方向ベクトル、ツール重心位置ベクトルを含む複数のパラメータを算出するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-040634号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記力制御ロボットでは、ツールの基準点つまりツールセンターポイント(TCP)の校正が併せて行われる。このTCPの校正方法として、ツールの先端を所定の校正治具に押し付けた際に力センサで検出される反力(接触力)を所定のしきい値と比較することによりツールの先端と校正治具との接触位置を求める方法(タッチセンシング法)が知られている。
【0005】
しかしながら、上記タッチセンシング法は、しきい値の設定が困難であり、ツールの先端が実際に校正治具と接触して接触力が上昇を開始し、この接触力が閾値を超すまでの間のツールの先端の移動量が誤差となるので、精度に問題がある。
【0006】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであり、力制御ロボットにおけるツールの基準点の校正精度を従来よりも向上させることを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明では、力制御ロボットに係る第1の解決手段として、ロボットアームの先端に力センサを介して所定のツールが装着され、前記力センサの検出値に基づいて前記ロボットアームが制御される力制御ロボットであって、前記ツールを所定の校正治具に押し付けるように前記ロボットアームを制御することにより、前記ツールが前記校正治具に接触する前の前記検出値と前記ツールの移動量との関係を示す第1の関数と、前記ツールが前記校正治具に接触した後の前記検出値と前記ツールの移動量との関係を示す第2の関数とを取得する関数取得部と、前記ツールのツールセンターポイントを前記第1の関数と前記第2の関数との交点として取得する基準点取得部と、前記ツールセンターポイントに基づいて前記ツールに固有のツール座標系を校正する校正部とを備える、という手段を採用する。
【0008】
本発明では、力制御ロボットに係る第2の解決手段として、上記第1の解決手段において、前記関数取得部は、前記ツールの押付開始から前記検出値と前記移動量に関する時系列データを順次取得し、当該時系列データに基づいて前記第1の関数と前記第2の関数とを取得する、という手段を採用する。
【0009】
本発明では、力制御ロボットに係る第3の解決手段として、上記第1または第2の解決手段において、前記ツールが前記ツール座標系の1軸方向に伸縮自在な弾性要素を備えたフロートフォルダを介して前記力センサに装着される、という手段を採用する。
【0010】
本発明では、力制御ロボットに係る第4の解決手段として、上記第3の解決手段において、前記関数取得部は、前記ツールが前記校正治具に接触した後、前記弾性要素が収縮する際の前記検出値と前記ツールの移動量との関係を示す第3の関数を取得し、前記基準点取得部は、前記ツールセンターポイントに加えて、前記弾性要素の弾性特性を取得する、という手段を採用する。
【0011】
本発明では、力制御ロボットに係る第5の解決手段として、上記第1~第4のいずれかの解決手段において、前記ツールは、所定のワークに接触して所定の加工を施す工具である、という手段を採用する。
【0012】
本発明では、力制御ロボットに係る第6の解決手段として、上記第1~第4のいずれかの解決手段において、前記ツールは、被計測物の位置検出のために前記被計測物に接触する接触子である、という手段を採用する。
【0013】
また、本発明では、ツール座標系の校正方法に係る解決手段として、ロボットアームの先端に装着された所定のツールに固有なツール座標系の校正方法であって、前記ツールが所定の校正治具に接触する前に前記ツールに作用する接触力の検出値と前記ツールの移動量との関係を示す第1の関数と、前記ツールが前記校正治具に接触した後における前記検出値と前記ツールの移動量との関係を示す第2の関数とを取得する関数取得工程と、前記ツールのツールセンターポイントを前記第1の関数と前記第2の関数との交点として取得する基準点取得工程と、前記ツールセンターポイントに基づいて前記ツールに固有のツール座標系を校正する校正工程とを有する、という手段を採用する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、力制御ロボットにおけるツールの基準点の校正精度を従来よりも向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の一実施形態に係る力制御ロボットの全体構成を示すブロック図である。
図2】本発明の一実施形態に係る力制御ロボットの先端部の構造を示す断面図である。
図3】本発明の一実施形態に係る力制御ロボットの校正動作を示すフローチャートである。
図4】本発明の一実施形態に係る力制御ロボットの接触力特性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態に係る力制御ロボットは、図1に示すようにロボットアーム1とロボットコントローラ2とを備える。ロボットアーム1は、図示するように多関節ロボットであり、ロボットコントローラ2によって制御されることによって所望の作業を行うロボット本体である。このロボットアーム1は、水平な床面上に固定設置されている。
【0017】
より詳細には、上記ロボットアーム1は、第1旋回部1a、基部1b、第1関節1c、第1アーム1d、第2関節1e、第2アーム1f、第3関節1g及び先端部1hを備えている。第1旋回部1aは、上記床面と基部1bとの間に設けられており、床面に対する基部1bの旋回角を設定する。すなわち、この第1旋回部1aは、水平面内で基部1bを所定の旋回角に旋回させる装置である。基部1bは、下部が上記第1旋回部1aを介して床面に旋回自在に支持されており、上端に第1関節1cを介して第1アーム1dが接続されている。この基部1bは、ロボットアーム1の中で比較的重量が重い部位である。
【0018】
第1関節1cは、水平姿勢の回転軸と当該回転軸の回転角(第1関節角)を設定する駆動部とを備え、上記第1関節角を適宜設定することによって基部1bに対する第1アーム1dの仰角を調節する。第1アーム1dは、所定長さを有する棒状部材であり、基端が第1関節1cを介して基部1bに支持され、先端に第2関節1eを介して第2関節1eが接続されている。
【0019】
第2関節1eは、水平姿勢の回転軸と当該回転軸の回転角(第2関節角)を設定する駆動部とを備え、上記第2関節角を適宜設定することによって第1アーム1dに対する第2アーム1fの仰角を調節する。第2アーム1fは、所定長さを有する棒状部材であり、基端が第2関節1eを介して第1アーム1dに支持され、先端に第3関節1gを介して先端部1hが接続されている。第3関節1gは、水平姿勢の回転軸と当該回転軸の回転角(第3関節角)を設定する駆動部とを備え、上記第3関節角を適宜設定することによって第2アーム1fに対する先端部1hの仰角を調節する。
【0020】
ここで、上述した第1旋回部1aは、第1旋回角の検出値を第1旋回角検出値T1としてロボットコントローラ2に出力する。また、第1関節1cは、第1関節角の検出値を第1関節角検出値E1としてロボットコントローラ2に出力する。また、第2関節1eは、第2関節角の検出値を第2関節角検出値E2としてロボットコントローラ2に出力する。さらに、第3関節1gは、第3関節角の検出値を第3関節角検出値E3としてロボットコントローラ2に出力する。
【0021】
先端部1hは、図2に示すように力センサ1i、第2旋回部1j、フロートフォルダ1k及びツールMを備えている。力センサ1iは、図示するように先端部1hにおいて最基端側に設けられており、ツールMが校正治具J等に接触した際にツールMに作用する力(外力)の反力を接触力として検出する力覚センサである。この力センサ1iは、上記接触力を示す検出値(接触力検出値Ep)をロボットコントローラ2に出力する。なお、図2における符号1iの部位は、より正確には力覚センサが収容された部位である。
【0022】
第2旋回部1jは、先端部1hにおいて力センサ1iの次に基端側に設けられており、一端が力センサ1iに接続され、他端がフロートフォルダ1kに接続されている。この第2旋回部1jは、先端部1hの長手方向(図2における上下方向)に姿勢設定された旋回軸を備えており、当該旋回軸を介して他端を一端に対して所定の旋回角(第2旋回角)で旋回自在に支持する。
【0023】
すなわち、第2旋回部1jは、フロートフォルダ1kを力センサ1iに対して旋回軸周りに第2旋回角で旋回させる部位である。このような第2旋回部1jは、第2旋回角の検出値を第2旋回角検出値T2としてロボットコントローラ2に出力する。
【0024】
フロートフォルダ1kは、ツールMを図2に示すツール座標系(x軸、y軸及びz軸)の1軸方向(x軸方向)に押し出し自在かつ着脱自在に保持する保持部材であり、図示するようにシャフト1m、管状部材1n及びコイルばね1p(弾性要素)を備えている。シャフト1mは、所定長さの棒状部材であり、一端(後端)が第2旋回部1jの他端に固定され、他端(先端)に管状部材1nが固定装着されている。例えば、シャフト1mの直径は管状部材1nの内径よりも若干大きく設定されており、シャフト1mの先端を管状部材1nに圧入することによって管状部材1nがシャフト1mの先端に固定装着されている。
【0025】
管状部材1nは、所定の内径を有する無底の筒状部材であり、両端部に開口が形成されている。この管状部材1nにおける一対の開口のうち、一端(後端)側の開口は上述したシャフト1mの先端に固定装着され、他端(先端)側の開口にはツールMの後端部が押し出し自在に挿入されている。
【0026】
コイルばね1pは、図示するように、一端がシャフト1mの先端面に対峙し、他端がツールMの後端面に対峙するように管状部材1nの内空(円筒状内空)に収納されている。このコイルばね1pは、先端部1hの長手方向、つまり図2に示すツール座標系の1軸方向(x軸方向)に伸縮自在な圧縮バネとして機能する。
【0027】
すなわち、ツールMが先端側から後端側に押圧されると、コイルばね1pの一端がシャフト1mの先端面に当接すると共にコイルばね1pの他端がツールMの後端面に当接し、さらにツールMが押圧されると、コイルばね1pは先端部1hの長手方向に収縮する。
【0028】
ツールMは、先端部1hの最先端に装着されており、例えばワークに対して機械加工を施す工具である。このツールMは、フロートフォルダ1kを介して着脱自在かつ押し出し自在に装着されている。このツールMを用いてワークに機械加工を施す場合、ツールMのワークに対する接触力の調節、つまりロボットアーム1によるツールMの位置制御が重要である。後述するツールMの基準位置つまりツールセンターポイントの校正処理は、ツールMの正確な位置制御に不可欠なものである。
【0029】
このようなツールMには、例えば図2に示すようにツールMの固有座標系(ツール座標系)が設定されている。このツール座標系は、力制御ロボットの制御上の三次元座標系であり、よってロボットアーム1の固有座標系でもある。図2では、直交する3軸(x軸、y軸、z軸)のうち、x軸は棒状のツールMの中心軸線の方向に設定され、y軸は中心軸線に直行する2方向の一方に設定され、z軸は中心軸線に直行する2方向の他方に設定された状態を示している。
【0030】
一方、ロボットコントローラ2は、予め記憶された制御プログラムに基づいてロボットアーム1を制御することにより、ツールMの位置を最適制御するソフトウエア制御装置である。すなわち、このロボットコントローラ2は、第1~第3関節角検出値E1~E3及び第1、第2旋回角検出値T1,T2、また接触力検出値Epに基づいて第1、第2旋回指令値Q1,Q2及び第1~第3関節角指令値R1~R3を演算し、これら第1、第2旋回指令値Q1,Q2及び第1~第3関節角指令値R1~R3をロボットアーム1に出力することによって第1、第2旋回部1a,1j、第1~第3関節1c,1e,1gを制御する。
【0031】
このように構成された力制御ロボットは、ロボットコントローラ2によってロボットアーム1の各可動部、つまり第1旋回部1a第1関節1c、第2関節1e、第3関節1g及び第2旋回部1jが適宜制御されることによって、作業台D上に載置されたワーク(図示略)に対して機械加工を施す。すなわち、ロボットコントローラ2によってワークに対するツールMの相対位置が制御されてツールMがワークに所望の接触力で接触することによってワークが加工される。
【0032】
ここで、本発明は、このような力制御ロボットにおいて、ロボットアーム1によるワークの加工前に行われるツールMの位置校正、つまりツール座標系の校正に関するものである。上記ロボットコントローラ2は、作業台D上のワークに機械加工を施す通常動作モードに加え、ツールMの位置校正を行う動作モード(校正モード)を備えている。
【0033】
このような事情から、図1にはワークを省略してツール座標系の校正に使用される校正治具Jが記載されている。この校正治具Jは、作業台Dに対する取付位置が厳密に管理された基準面j1を備える。なお、この基準面j1は、ツール座標系の直交三軸(x軸、y軸、z軸)のうち、x軸の校正用に設けられたx軸用基準面である。校正治具Jには、このような基準面j1の他に図示しないy軸用基準面及びz軸用基準面が設けられている。
【0034】
詳細については後述するが、ロボットコントローラ2は、上記校正モードにおいて、ツールMを校正治具Jに押し付けるようにロボットアームを制御することにより、ツールMが校正治具Jに接触する前の接触力検出値EpとツールMの移動量との関係を示す第1の関数と、ツールMが校正治具Jに接触した後の接触力検出値EpとツールMの移動量との関係を示す第2の関数とを取得する。
【0035】
より具体的には、ロボットコントローラ2は、ツールMの校正治具Jへの押付開始から接触力検出値EpとツールMの移動量をの関係を示す時系列データを校正用データとして順次取得し、この校正用データに基づいて第1の関数と第2の関数とを取得する。すなわち、ロボットコントローラ2は、順次取得される校正用データを内部メモリに順次記憶させ、当該校正用データを内部メモリから読み出して所定の情報処理を施すことにより、第1の関数及び第2の関数を取得する。
【0036】
また、このロボットコントローラ2は、ツールMのツールセンターポイントを第1の関数と前記第2の関数との交点として取得する。さらに、このロボットコントローラ2は、上記ツールセンターポイントに基づいてツール座標系を校正する。すなわち、このようなロボットコントローラ2は、本願発明における関数取得部、基準点取得部及び校正部に相当するものである。
【0037】
次に、本実施形態に係る力制御ロボットの校正処理つまり校正方法について、図3に示すフローチャートに沿って詳しく説明する。
【0038】
力制御ロボットにおける校正処理は、上述したツール座標系(ツールMの固有座標系)をワークの固有座標系(ワーク座標系)とを正確に関係付けるためのものである。この校正処理を経ることによって、三次元空間におけるツールMとワークとの位置関係が明確になり、よってツールMを用いてワークを高精度に加工することが可能となる。
【0039】
この校正処理は上述した直交3軸(x軸、y軸、z軸)について行われるが、この3軸のうちツールMの軸線方向に相当するx軸の校正について最初に説明する。ロボットコントローラ2は、ロボットアーム1の各可動部を制御してツールMを基準面j1に接触することの無い位置(初期位置x)に位置設定する(ステップS1)。
【0040】
そして、ロボットコントローラ2は、ツールMを初期位置xからx軸方向つまり基準面j1に向けて移動を開始させると共にx軸方向における接触力検出値Epの取得を開始する。すなわち、ロボットコントローラ2は、ツールMをx軸方向に順次移動させることにより、ツールMの移動量と接触力検出値Epとの関係を示す時系列データ(校正用データ)を取得する(ステップS2)。そして、ロボットコントローラ2は、所定変位量ΔLだけツールMを移動させると(ステップS3)、ツールMの移動を停止させると共に、時系列データ(校正用データ)の取得を終了する(ステップS4)。
【0041】
すなわち、ロボットコントローラ2は、上述したステップS1~S4の一連の処理によって、初期位置xから所定変位量ΔLに亘るツールMの変位に対応する複数の接触力検出値Ep、つまりツールMの移動量と接触力との関係を示す接触力特性を校正用データとして取得する。なお、上記初期位置x及び所定変位量ΔLは、初期位置xにおいて基準面j1に接触していないツールMが、基準面j1に十分に接触するように予め見積られた移動量である。
【0042】
図4(a)は、上記接触力特性(校正用データ)の一例を示すグラフである。この接触力特性は、図示するように4つの直線部f1~f4からなる折線グラフである。4つの直線部f1~f4のうち、第1の直線部f1は、ツールMの移動においてツールMの先端が基準面j1に接触していない領域(移動領域)に対応する接触力特性(校正用データ)であり、多少のノイズがあり得るものの接触力が略ゼロとなる。
【0043】
第2の直線部f2は、ツールMの先端が基準面j1に接触した後、先端部1hのコイルばね1pが収縮を開始するまでの領域(移動領域)に対応する接触力特性(校正用データ)であり、接触力の変化率(傾き)が比較的急峻です。第3の直線部f3は、上記コイルばね1pが収縮している領域に対応する接触力特性(校正用データ)であり、第2の直線部f2に比較して接触力の変化率(傾き)が緩やかです。
【0044】
最後に、第4の直線部f4は、上記コイルばね1pが収縮し切ってしまった領域に対応する接触力特性(校正用データ)であり、第3の直線部f3に比較して接触力の変化率(傾き)が急峻です。すなわち、このような第1~第4の直線部f1~f4は、ロボットアーム1の先端部1hにおけるツールMの保持構造によってもたらされるものである。
【0045】
図2に示した先端部1hは、フロートフォルダ1kを介してツールMを保持する保持構造を備えるので、第1~第4の直線部f1~f4からなる接触力特性を呈するが、仮にフロートフォルダ1kを削除してツールMを剛な保持構造で保持した場合には、接触力特性は図4(b)のようになる。すなわち、この場合の保持特性は、2つの直線部つまり初期直線部faと後期直線部fbとからなる。
【0046】
初期直線部faは、上述した第1の直線部f1と同様に、ツールMの先端が基準面j1に接触していない移動領域に対応するものであり、接触力が略ゼロとなる。後期直線部fbは、上述した第2の直線部f2と同様に、ツールMの先端が基準面j1に接触した後の領域であり、接触力の変化率(傾き)が比較的急峻です。すなわち、この場合には、フロートフォルダ1kが介在しないので、つまりx軸方向におけるロボットアーム1とツールMの結合が柔結合ではなく剛結合なので、第3、第4の直線部f3、f4に相当する領域が存在しない。
【0047】
さて、ロボットコントローラ2は、ステップS1~S4の処理によって取得した接触力特性について、4つの直線部f1~f4を個別の領域として識別する(ステップS5)。例えば、校正用データのうち、略同様な変化率を与える互いに隣り合う複数の接触力検出値Epのデータ集合つまり4つの直線部f1~f4に各々対応する4つのデータ集合を生成し、各データ集合を4つの直線部f1~f4に対応する個別の領域に設定する。
【0048】
そして、ロボットコントローラ2は、個々のデータ集合に属する複数の校正用データ(時系列データ)に最小二乗法等を適用することにより4つの直線部f1~f4の関数(第1~第4の関数)を演算する(ステップS6)。なお、上述したステップS1~S6に亘る一連の工程は、本発明の関数取得工程に相当する。
【0049】
そして、ロボットコントローラ2は、第1の直線部f1の関数(第1の関数)と第2の直線部f2の関数(第2の関数)との交点P1としてツールセンターポイントを計算する(ステップS7)。このステップS7の処理は、本発明の基準点取得工程に相当する。
【0050】
ここで、X軸以外のy軸及びz軸については、フロートフォルダ1kが機能しない方向である。すなわち、フロートフォルダ1kは、x軸方向についてのみツールMを柔結合状態で保持するものである。したがって、y軸及びz軸について得られる接触力特性は、図4(b)のようになるので、初期直線部faの関数(第1の関数)と後期直線部fb(第2の関数)の交点Paがツールセンターポイントとして計算される。
【0051】
また、ロボットコントローラ2は、第3の直線部f3の関数(第3の関数)の傾きとしてコイルばね1pのバネ定数(弾性特性)を算出する(ステップS8)。そして、ロボットコントローラ2は、ステップS7で取得したツールセンターポイントを用いてツール座標系の原点補正つまりツール座標系の校正を行う(ステップS9)。このステップS9の処理は、本発明の校正工程に相当する。
【0052】
このような本実施形態によれば、直交3軸(x軸、y軸、z軸)について第1の関数と第2の関数との交点P1,Paとしてツールセンターポイントを計算するので、力制御ロボットにおけるツール座標系を従来よりも高精度に校正することが可能である。すなわち、本実施形態によれば、フロートフォルダ1kによって弾性特性が付与されるx軸、また弾性特性が付与されないy軸及びz軸の直交三軸の全てについて、ツール座標系を従来よりも高精度に校正することが可能である。
【0053】
また、本実施形態によれば、第3の関数に基づいてコイルばね1p(弾性要素)のバネ定数(弾性特性)を取得するので、ツール座標系の校正に加えて、バネ定数(弾性特性)の校正をも同時に行うことが可能である。したがって、本実施形態によれば、従来よりも高精度なワークの加工を実現することが可能である。
【0054】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、例えば以下のような変形例が考えられる。
(1)上記実施形態では、ロボットアーム1を備える力制御ロボットに本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明におけるロボットアームの構成はロボットアーム1に限定されない。
【0055】
(2)上記実施形態では、直交3軸(x軸、y軸、z軸)に動き得る力制御ロボットに本発明を適用した場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば1軸のみあるいは2軸のみに動き得る力制御ロボットに本発明を適用してもよい。この場合、1軸あるいは2軸が校正対象となる。
【0056】
(3)上記実施形態では、コイルばね1pのバネ定数を求めたが、本発明はこれに限定されない。コイルばね1pはフロートフォルダ1kの使用時間の経過に伴ってバネ定数が変化し得る。実際のバネ定数を上述した校正処理において取得することにより、構成後における力制御ロボットの実動作(ワークの実加工)においてツールMのワークに対する位置つまりワークへの接触力をより精度良く制御することが可能となる。したがって、より精度の高い機械加工を実現することができる。
【0057】
(4)上記実施形態では、ツールMがワークに対して機械加工を施す工具である場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。ツールMは、例えば被計測物の位置検出のために被計測物に接触する接触子であってもよい。このような接触子は、例えば被計測物の形状の三次元計測等の用途に用いられる。
【0058】
三次元計測の場合つまりツールMが接触子の場合、作業台D上に被計測物を載置し、ロボットアーム1を作動させることによりツールM(接触子)を被計測物の各部位に接触させることによって被計測物の三次元形状が計測される。このような被計測物の三次元計測では、計測開始時にツールM(接触子)を被計測物の特定箇所に接触させて被計測物の位置を確認する場合がある。このような三次元計測において、例えば被計測物の位置が正規位置でなかった場合に、本発明によればツールMの基準点を高精度の校正することが可能なので、被計測物の位置を正規位置に高精度の設定し直すことが可能である。
【符号の説明】
【0059】
1 ロボットアーム
1a 第1旋回部
1b 基部
1c 第1関節
1d 第1アーム
1e 第2関節
1f 第2アーム
1g 第3関節
1h 先端部
1i 力センサ
1j 第2旋回部
1k フロートフォルダ
1m シャフト
1n 管状部材
1p コイルばね(弾性要素)
2 ロボットコントローラ
D 作業台
E1 第1関節角検出値
E2 第2関節角検出値
E2 第3関節角検出値
Ep 接触力検出値
J 校正治具
j1 基準面
M ツール
Q1 第1旋回角指令値
Q2 第2旋回角指令値
R1 第1関節角指令値
R2 第2関節角指令値
R3 第3関節角指令値
T1 第1旋回角検出値
T2 第2旋回角検出値
図1
図2
図3
図4