(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】車両の運転支援装置
(51)【国際特許分類】
B62D 6/00 20060101AFI20221109BHJP
B62D 113/00 20060101ALN20221109BHJP
B62D 119/00 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
B62D6/00
B62D113:00
B62D119:00
(21)【出願番号】P 2018143924
(22)【出願日】2018-07-31
【審査請求日】2021-06-10
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】大森 陽介
【審査官】川口 真一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-024467(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 5/04
B62D 6/00-6/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングホイールの回転角であるステア角と、車両の車輪の舵角であるタイヤ角とを制御する車両の運転支援装置であって、
前記車両は、前記ステアリングホイールに回転トルクを付与すべく作動するステアトルク付与部
と、前記タイヤ角の実値である実タイヤ角を変更するタイヤ制御トルクを前記車輪に付与する転舵トルク付与部と、を有しており、
操舵による前記ステア角の変化に伴って前記
実タイヤ角を変更する操舵時処理を実行する操舵時処理部と、
前記タイヤ角の目標値である目標タイヤ角を基に前
記実タイヤ角を変更する旋回支援処理を実行する支援処理部と、
前記支援処理部によって前記旋回支援処理が実行されている状態で移行指示を受け付けて前記操舵時処理部による前記操舵時処理に移行するに際し、前記ステアトルク付与部によって回転トルクを前記ステアリングホイールに付与させることにより、前記ステア角に対応する前記タイヤ角と前記実タイヤ角との乖離を解消させる移行処理を実行する移行処理部と、を備え
、
前記旋回支援処理の終了時点の前記タイヤ制御トルクを所定トルクとしたとき、
前記移行処理部は、前記移行処理では、第1のトルクが前記所定トルクから「0」に向けて変化するように当該第1のトルクを導出し、前記第1のトルクと、操舵に対応する第2のトルクとの和に基づいた前記タイヤ制御トルクを、前記転舵トルク付与部によって前記車輪に付与させる
車両の運転支援装置。
【請求項2】
前記移行処理部は、前記移行処理では、前記
第1のトルクを「0」とした後に、前記ステアトルク付与部によって前記回転トルクを前記ステアリングホイールに付与させる
請求項1に記載の車両の運転支援装置。
【請求項3】
前記移行処理部は、前記移行処理では、前記ステアトルク付与部によって前記ステアリングホイールに付与されている前記回転トルクの向きと、操舵により前記ステアリングホイールに付与されている回転トルクの大きさとを基に、前記ステアトルク付与部によって前記ステアリングホイールに付与される前記回転トルクの大きさを設定する
請求項1又は請求項2に記載の車両の運転支援装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステアリングホイールの回転角であるステア角と、車両の車輪の舵角であるタイヤ角とを個別に調整可能な操舵装置を制御する車両の運転支援装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、いわゆるステアバイワイヤ方式の操舵装置の一例が記載されている。この操舵装置の入力機構は、ステアリングホイールと、ステアリングホイールを回転させる際の動力源として機能する電動モータとを備えている。また、操舵装置の出力装置は、車両の前輪を転舵させるべく作動する転舵アクチュエータを備えている。
【0003】
車両の運転者によって操舵が行われた場合、電動モータの駆動によって操舵がアシストされる。また、その操舵量、すなわちステアリングホイールの回転量及びステアリングホイールに入力された操舵トルクを基に前輪の舵角であるタイヤ角の変更量が算出され、当該変更量を基に転舵アクチュエータの作動が制御されるようになっている。これにより、運転者によって操舵が行われたときには、ステアリングホイールの回転角であるステア角の変更に同期してタイヤ角を変更させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、ステアリングホイールに運転者から操舵トルクが入力されていない状況下であっても車両の前輪のタイヤ角を自動的に調整する旋回支援処理の開発が進められている。ステアバイワイヤ方式の操舵装置などのようにステア角とタイヤ角とを独立して調整可能な操舵装置を備える車両で旋回支援処理を実行させる場合にあっては、タイヤ角を自動で変更させるときにはステア角を保持することが考えられる。この場合、旋回支援処理の実行時では、タイヤ角に応じたステア角から実際のステア角が乖離することがある。
【0006】
特許文献1には、上記のような旋回支援処理の実行時における操舵装置の作動についての開示はない。そのため、当然、旋回支援制御を実行する状態から、運転者による操舵によってタイヤ角を調整する状態に移行する際における開示はない。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための車両の運転支援装置は、ステアリングホイールの回転角であるステア角と、車両の車輪の舵角であるタイヤ角とを制御する装置である。この運転支援装置が適用される車両は、ステアリングホイールに回転トルクを付与すべく作動するステアトルク付与部を有している。運転支援装置は、操舵によるステア角の変化に伴ってタイヤ角を変更する操舵時処理を実行する操舵時処理部と、タイヤ角の目標値である目標タイヤ角を基にタイヤ角の実値である実タイヤ角を変更する旋回支援処理を実行する支援処理部と、支援処理部によって旋回支援処理が実行されている状態で移行指示を受け付けて操舵時処理部による操舵時処理に移行するに際し、ステアトルク付与部によって回転トルクをステアリングホイールに付与させることにより、ステア角に対応するタイヤ角と実タイヤ角との乖離を解消させる移行処理を実行する移行処理部と、を備える。
【0008】
上記構成によれば、旋回支援処理が実行されている場合、目標タイヤ角を基に実タイヤ角が制御される。旋回支援処理の実行中では、車輪の実タイヤ角(すなわち、目標タイヤ角)に応じたステア角と実際のステア角とが相違していることがある。このような状況下で移行指示を受け付けて旋回支援処理から操舵時処理に移行させるときには、移行処理が実行される。移行処理では、ステアトルク付与部によって、ステア角に対応するタイヤ角と車輪の実タイヤ角との乖離を解消させるための回転トルクがステアリングホイールに付与される。こうした移行処理を実行することにより、車輪の実タイヤ角に応じたステア角を実際のステア角としてから操舵時処理を開始させることが可能となる。そのため、運転者の操舵時に操舵時処理を実行させることにより、運転者に違和感を与えることなく、ステア角の変化に同期してタイヤ角を変更させることができる。
【0009】
したがって、旋回支援処理から操舵時処理への移行を円滑に行うことができるようになる。
ところで、車両は、実タイヤ角を変更するタイヤ制御トルクを車輪に付与する転舵トルク付与部を有している。
【0010】
そして、移行処理部は、移行処理では、実タイヤ角を所定の基準角に戻すための第1のトルクと、操舵に対応する第2のトルクとの和に基づいたタイヤ制御トルクを、転舵トルク付与部によって車輪に付与させることが好ましい。
【0011】
上記構成によれば、移行処理の実行中に操舵が行われた場合、操舵に対応する第2のトルクも加味したタイヤ制御トルクが車輪に付与される。そのため、移行処理の実行中でも運転者の操舵を反映した旋回を車両に行わせることが可能となる。
【0012】
また、移行処理部は、移行処理では、タイヤ制御トルクを「0」とした後に、ステアトルク付与部によって回転トルクをステアリングホイールに付与させることが好ましい。
上記構成によれば、タイヤ制御トルクを「0」とした上で、ステアリングホイールに回転トルクを付与させることにより、ステア角に対応するタイヤ角と車輪の実タイヤ角との乖離、すなわち車輪の実タイヤ角に応じたステア角と実際のステア角との乖離を解消させることが可能となる。
【0013】
また、移行処理部は、移行処理では、ステアトルク付与部によってステアリングホイールに付与されている回転トルクの向きと、操舵によりステアリングホイールに付与されている回転トルクの大きさとを基に、ステアトルク付与部によってステアリングホイールに付与される回転トルクの大きさを設定することが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、移行処理の実行中に、運転者の操舵を妨げるような大きな回転トルクがステアトルク付与部によってステアリングホイールに付与されたり、運転者の操舵を過剰にアシストしてしまうような回転トルクがステアトルク付与部によってステアリングホイールに付与されたりすることの抑制が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】車両の運転支援装置の一実施形態の制御装置の機能構成と、同制御装置によって制御される操舵装置の概略構成とを示す図。
【
図2】(a),(b)は、操舵時処理の実行中におけるステアリングホイールのステア角と、前輪のタイヤ角との関係を示す模式図。
【
図3】ステア側操舵トルクを基に、アシストトルクとしてのステア側制御トルクを導出する際に用いられるマップ。
【
図4】操舵支援モードが選択されている場合に支援制御ユニットが実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図5】システム最優先モードが選択されている場合に、ステア角を制御すべくステアリング制御ユニットが実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図6】オーバーライド許容モードが選択されている場合に、ステア角を制御すべくステアリング制御ユニットが実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図7】縮退許可モードが選択されている場合に、ステア角を制御すべくステアリング制御ユニットが実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図8】操舵支援終了モードが選択されている場合に、ステア角を制御すべくステアリング制御ユニットが実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図9】システム最優先モードが選択されている場合に、前輪のタイヤ角を制御すべくステアリング制御ユニットが実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図10】オーバーライド許容モードが選択されている場合に、前輪のタイヤ角を制御すべくステアリング制御ユニットが実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図11】縮退許可モードが選択されている場合に、前輪のタイヤ角を制御すべくステアリング制御ユニットが実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図12】操舵支援終了モードが選択されている場合に、前輪のタイヤ角を制御すべくステアリング制御ユニットが実行する処理ルーチンを説明するフローチャート。
【
図13】(a)~(f)は、システム最優先モードが選択されている場合のタイミングチャート。
【
図14】(a)~(f)は、オーバーライド許容モードが選択されている場合において操舵が行われたときのタイミングチャート。
【
図15】(a)はシステム最優先モードが選択されている場合におけるステアリングホイールのステア角と、前輪のタイヤ角との関係の一例を示す模式図、(b)はオーバーライド許容モードが選択されている場合におけるステアリングホイールのステア角と、前輪のタイヤ角との関係の一例を示す模式図、(c)は縮退許可モードが選択されていた場合におけるステアリングホイールのステア角と、前輪のタイヤ角との関係の一例を示す模式図。
【
図16】(a)~(f)は、縮退許可モードが選択されている場合のタイミングチャート。
【
図17】(a)は中心ステア角が基準ステア角よりも操舵回転方向側に位置する場合を示す模式図、(b)は中心ステア角が基準ステア角よりも操舵回転方向の反対方向側に位置する場合を示す模式図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、車両の運転支援装置の一実施形態を
図1~
図17に従って説明する。
図1には、本実施形態の運転支援装置である制御装置50と、制御装置50によって制御される操舵装置10とが図示されている。操舵装置10は、車両の運転者によって操作されるステアリングホイール11と、ステアリングホイール11と一体回転するステアリングシャフト12と、ステアリングシャフト12にトルクを入力すべく作動するステア側アクチュエータ13とを備えている。ステア側アクチュエータ13は、動力源としてステア側電動モータ131を有している。そして、ステア側アクチュエータ13は、ステア側電動モータ131の駆動に応じたトルクをステアリングシャフト12に入力すべく作動する。当該トルクは、回転トルクとしてステアリングホイール11に付与される。すなわち、本実施形態では、ステア側アクチュエータ13が、「ステアトルク付与部」の一例に相当する。
【0017】
また、操舵装置10は、ステア側アクチュエータ13とは独立して作動する転舵アクチュエータ14と、転舵アクチュエータ14と車両の車輪としての前輪20とを連結するタイロッド15とを備えている。転舵アクチュエータ14は、動力源として前輪側電動モータ141を有している。そして、転舵アクチュエータ14は、前輪側電動モータ141の駆動に応じたトルクをタイロッド15を介して前輪20に入力すべく作動する。すると、前輪20に入力されたトルクに応じて前輪20が転舵する。すなわち、前輪20の舵角であるタイヤ角θが変更される。したがって、本実施形態では、転舵アクチュエータ14が、タイヤ角θを変更するタイヤ制御トルクを前輪20に付与する「転舵トルク付与部」の一例に相当する。
【0018】
操舵装置10は、検出系として、ステア角センサ31、操舵トルクセンサ32及びタイヤ角センサ33を有している。ステア角センサ31は、ステアリングホイール11の回転角であるステア角αを検出し、検出したステア角αに応じた信号を出力する。運転者によるステアリングホイール11の操作、すなわち操舵によって車両を直進させる際におけるステア角αを「0」とした場合、操舵によって車両を左旋回させる際にはステア角αが正の値となる。一方、操舵によって車両を右旋回させる際にはステア角αが負の値となる。また、ステア角αを大きくするためのステアリングホイール11の回転方向を正方向C1とし、ステア角αを小さくするためのステアリングホイール11の回転方向を負方向C2とする。
【0019】
操舵トルクセンサ32は、操舵によって運転者からステアリングホイール11に入力された回転トルクであるステア側操舵トルクTrqIPを検出し、検出したステア側操舵トルクTrqIPに応じた信号を出力する。ステアリングホイール11を正方向C1に回転させるべく操舵が行われているときには、ステア側操舵トルクTrqIPが正の値となる。一方、ステアリングホイール11を負方向C2に回転させるべく操舵が行われているときには、ステア側操舵トルクTrqIPが負の値となる。
【0020】
タイヤ角センサ33は、前輪20のタイヤ角θを検出し、検出したタイヤ角θに応じた信号を出力する。このタイヤ角θが、前輪20の実際のタイヤ角(実タイヤ角)に相当する。車両を直進させる際におけるタイヤ角θを「0」とした場合、車両を左旋回させる際にはタイヤ角θが正の値となる。一方、車両を右旋回させる際にはタイヤ角θが負の値となる。
【0021】
次に、
図1を参照し、制御装置50について説明する。
制御装置50には、上記の各種のセンサ31~33の出力信号が入力される。また、制御装置50には、自車両の周辺の状況を監視する周辺監視系36から各種の情報が入力される。周辺監視系36は、カメラなどの撮像手段、及び、レーダーなどを有している。そして、周辺監視系36は、例えば、自車両の周辺に存在する他の車両の数及び位置、及び、自車両の走行経路に障害物が存在しているか否かを監視する。
【0022】
制御装置50は、支援制御ユニット51と、ステアリング制御ユニット52とを備えている。各制御ユニット51,52は、互いに各種の情報を送受信可能である。支援制御ユニット51は、周辺監視系36から入力された情報を基に、車両の自動走行を支援するための各種の処理を実行する。
【0023】
ステアリング制御ユニット52は、操舵装置10のステア側アクチュエータ13及び転舵アクチュエータ14を制御する。操舵装置10を制御する際の制御モードとして、手動操作モードと、操舵支援モードとが用意されている。ステアリング制御ユニット52は、機能部として、操舵時処理部521、支援処理部522及び移行処理部523を有している。操舵時処理部521は、手動操作モードが選択されているときに操舵装置10を作動させる操舵時処理を実行する。支援処理部522は、操舵支援モードが選択されているときに操舵装置10を作動させる支援処理を実行する。移行処理部523は、支援処理から操舵時処理に移行する際に操舵装置10を作動させる移行処理を実行する。支援処理部522が実行する支援処理の内容、及び、移行処理部523が実行する移行処理の内容については、それぞれ後述する。
【0024】
図2及び
図3を参照し、手動操作モードが選択されている場合における操舵装置10の制御について説明する。
図2(a)は、操舵が行われていないときにおけるステアリングホイール11及び前輪20の状態が図示されている。
図2(b)は、車両を左旋回させるべく操舵が行われているときにおけるステアリングホイール11及び前輪20の状態が図示されている。
【0025】
操舵時処理では、操舵によってステア角αが「0」であるときには、操舵時処理部521によって、タイヤ角θが「0」になるように操舵装置10が制御される。これにより、車両に直進走行を行わせることができる。また、操舵時処理では、操舵によってステアリングホイール11が正方向C1に回転してステア角αが正の値であるときには、タイヤ角θが正の値となるように操舵装置10が制御される。これにより、車両を左旋回させることができる。また、操舵時処理では、操舵によってステアリングホイール11が負方向C2に回転してステア角αが負の値であるときには、タイヤ角θが負の値となるように操舵装置10が制御される。これにより、車両を右旋回させることができる。
【0026】
具体的には、操舵時処理では、以下の関係式(式1)に示すように、ステア角αと係数GRとの積として、タイヤ角θが目標として算出される。関係式(式1)における係数GRは、操舵装置10のギア比に応じた値のことである。つまり、操舵時処理では、ステア角αの変化に同期してタイヤ角θが変更される。本実施形態では、タイヤ角θの目標である目標タイヤ角θTrに応じたステア角αのことを「基準ステア角αB」という。そして、基準ステア角αBは、以下の関係式(式2)のように表すことができる。なお、操舵時処理が実行されている場合、ステア角αは、基準ステア角αBと等しいということができる。
【0027】
θ=GR・α ・・・(式1)
αB=θTr/GR ・・・(式2)
操舵装置10は、ステア角αとタイヤ角θとを個別に調整する装置である。そのため、操舵時処理は、ステア側アクチュエータ13の制御と、転舵アクチュエータの制御とを含んでいる。
【0028】
まずはじめに、操舵時処理におけるステア側アクチュエータ13の制御について説明する。操舵時処理部521は、ステア側操舵トルクTrqIPに応じた回転トルクであるアシストトルクTrqASがステアリングホイール11に入力されるように、ステア側アクチュエータ13を作動させる。アシストトルクTrqASとは、運転者による操舵をアシストするためにステアリングホイール11に付与するトルクである。例えば、操舵時処理部521は、
図3に示すマップを用いることにより、ステア側操舵トルクTrqIPに応じたアシストトルクTrqASを導出する。
【0029】
図3に示すマップは、アシストトルクTrqASとステア側操舵トルクTrqIPとの関係を表すマップである。
図3に示すように、ステア側操舵トルクTrqIPがほぼ「0」であると見なせるトルクの領域のことを不感帯領域ARとする。ステア側操舵トルクTrqIPが不感帯領域ARに含まれている場合、アシストトルクTrqASが「0」となる。一方、ステア側操舵トルクTrqIPが不感帯領域ARよりも大きい場合、アシストトルクTrqASは正の値となる。具体的には、ステア側操舵トルクTrqIPが大きいほど、アシストトルクTrqASが大きくなる。また、ステア側操舵トルクTrqIPが不感帯領域ARよりも小さい場合、アシストトルクTrqASは負の値となる。具体的には、ステア側操舵トルクTrqIPが小さいほど、アシストトルクTrqASが小さくなる。
【0030】
次に、操舵時処理における転舵アクチュエータ14の制御について説明する。操舵時処理部521は、上記関係式(式1)を用い、現時点のステア角αに応じたタイヤ角θを算出する。そして、操舵時処理部521は、算出したタイヤ角θに応じた、前輪20に対するトルクであるタイヤ側操舵トルクTrqATを算出する。例えば、算出されたタイヤ角θが「0」であるときには、タイヤ側操舵トルクTrqATが「0」とされる。また、算出されたタイヤ角θが正の値であるときには、タイヤ側操舵トルクTrqATが正の値となる。この際、算出されたタイヤ角θが大きいほど、タイヤ側操舵トルクTrqATが大きくなる。一方、算出されたタイヤ角θが負の値であるときには、タイヤ側操舵トルクTrqATが負の値となる。この際、算出されたタイヤ角θが小さいほど、タイヤ側操舵トルクTrqATが小さくなる。そして、操舵時処理部521は、算出したタイヤ側操舵トルクTrqATが前輪20に入力されるように転舵アクチュエータ14を作動させる。
【0031】
操舵時処理では、このようにステア側アクチュエータ13及び転舵アクチュエータ14を協調して作動させることによって、基準ステア角αBがステア角αとなるようにステア角αの変化に同期してタイヤ角θを変更させることができる。
【0032】
次に、
図4を参照し、車両の自動走行を支援する際に支援制御ユニット51によって実行される処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、制御モードとして操舵支援モードが選択されている場合、所定の制御サイクル毎に繰り返される。
【0033】
本処理ルーチンにおいて、始めのステップS11では、モード選択処理が実行される。本実施形態では、操舵支援モードとして、複数のモードが用意されている。すなわち、システム最優先モード、オーバーライド許容モード、縮退許可モード、及び、操舵支援終了モードが用意されている。
【0034】
システム最優先モードとは、支援制御ユニット51によって設定された走行経路に従った車両走行を実現させるためのモードである。すなわち、システム最優先モードは、運転者の操舵を受け付けないように操舵装置10を作動させるためのモードである。例えば、自車両の前方を走行する先行車以外には自車両の周辺に他の車両や障害物が存在しない場合に、モード選択処理では、システム最優先モードが選択される。また、自車両の周辺に障害物が存在しないとともに、自車両の周辺に他の車両が一台も存在しない場合でも、モード選択処理では、システム最優先モードが選択される。ここでいう障害物とは、車両が衝突を回避する必要がある程度の大きさのもののことをいう。
【0035】
オーバーライド許容モードとは、車両の自動走行を支援している最中であっても運転者の操舵を許容するためのモードである。例えば、自車両の前方を走行する先行車とは別に、規定台数(例えば、2台)未満の他の車両が自車両の周辺に存在する場合に、モード選択処理では、オーバーライド許容モードが選択される。
【0036】
縮退許可モードとは、操舵支援モードによる操舵装置10の制御から手動操作モードによる操舵装置10の制御への移行を許可するためのモードである。例えば、自車両の前方を走行する先行車とは別に、規定台数以上の他の車両が自車両の周辺に存在する場合に、モード選択処理では、縮退許可モードが選択される。
【0037】
操舵支援終了モードとは、運転者による車両操作によって、すなわち運転者の意志によって、操舵支援モードを終了して手動操作モードに戻す際に選択されるモードである。
そして、モード選択処理によるモードの選択が完了されると、処理が次のステップS12に移行される。ステップS12において、車両のヨーレートの目標値である目標ヨーレートYrTr及び車両の横加速度の目標値である目標横加速度GyTrの導出処理が実行される。横加速度とは、車両の加速度のうちの車両幅方向の加速度成分のことである。例えば、導出処理では、周辺監視系36によって得られた情報を基に、車両の走行経路が作成される。そして、作成した走行経路に沿って車両を走行させるために、目標ヨーレートYrTr及び目標横加速度GyTrが導出される。
【0038】
続いて、ステップS13では、前輪20のタイヤ角θの目標値である目標タイヤ角θTrを導出する導出処理が実行される。例えば、ステップS12の導出処理によって導出された目標ヨーレートYrTr及び目標横加速度GyTrと車両の車体速度となどを基に、目標タイヤ角θTrが導出される。そして、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0039】
次に、
図5を参照し、操舵支援モードとしてシステム最優先モードが選択されている場合に、ステアリング制御ユニット52の操舵時処理部521が実行する処理ルーチンについて説明する。すなわち、この処理ルーチンは、システム最優先モードが選択されている状況下で操舵時処理部521が実行する処理のうち、ステア角αを制御するためのルーチンである。そして、この処理ルーチンは、システム最優先モードが選択されている場合、所定の制御サイクル毎に繰り返される。
【0040】
本処理ルーチンにおいて、ステップS21では、旋回支援処理によってステア角αを制御するための基準となるステア角である中心ステア角αCnが算出される。すなわち、目標タイヤ角θTrに対応するステア角である基準ステア角αBを基に、ステア制御角Δαが算出される。そして、基準ステア角αBとステア制御角Δαとの和として中心ステア角αCnが算出される。
【0041】
ステア制御角Δαの算出について説明する。ステア制御角Δαは、基準ステア角αBが正の値であるときにはステア制御角Δαが負の値となるように算出される一方で、基準ステア角αBが負の値であるときにはステア制御角Δαが正の値となるようにステア制御角Δαが算出される。具体的には、基準ステア角αBが正の値である場合、基準ステア角αBが大きいほどステア制御角Δαの絶対値が大きくなるように、ステア制御角Δαが算出される。また、基準ステア角αBが負の値である場合、基準ステア角αBの絶対値が大きいほどステア制御角Δαが大きくなるように、ステア制御角Δαが算出される。本実施形態では、基準ステア角αBと「-1」との積としてステア制御角Δαが算出される。そのため、このステア制御角Δαを用いて算出される中心ステア角αCnは「0」となる。つまり、旋回支援処理の実行によって車両が旋回しているときには中心ステア角αCnが基準ステア角αBよりも「0」寄りの値となるように、ステア制御角Δαが算出されるということができる。
【0042】
中心ステア角αCnが算出されると、処理が次のステップS22に移行される。ステップS22において、ステア角αを中心ステア角αCnで保持する第1のステア側制御が実施される。第1のステア側制御では、ステア角αを中心ステア角αCnとするためにステア側アクチュエータ13のステア側電動モータ131の駆動量DMSが算出され、この駆動量DMSを基にステア側電動モータ131が制御される。例えば、第1のステア側制御では、中心ステア角αCnとステア角αとの偏差を入力とする周知のフィードバック制御によってステア側電動モータ131の駆動量が算出される。これにより、中心ステア角αCnとステア角αとの乖離が抑制される。つまり、システム最優先モードが選択されている状況下での旋回支援処理では、運転者の操舵の有無に拘わらずステア角αが中心ステア角αCnで保持されるようにステア側アクチュエータ13の作動が制御される。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0043】
次に、
図6を参照し、操舵支援モードとしてオーバーライド許容モードが選択されている場合に、ステアリング制御ユニット52の操舵時処理部521が実行する処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、オーバーライド許容モードが選択されている状況下で操舵時処理部521が実行する処理のうち、ステア角αを制御するためのルーチンである。そして、この処理ルーチンは、オーバーライド許容モードが選択されている場合、所定の制御サイクル毎に繰り返される。
【0044】
本処理ルーチンにおいて、ステップS31では、上記ステップS21と同様に、中心ステア角αCnが算出される。続いて、ステップS32において、操舵オーバーライド中であるか否かの判定が行われる。操舵オーバーライドとは、旋回支援処理の実行中に操舵が行われることである。例えば、ステア側操舵トルクTrqIPの絶対値がオーバーライド判定値以上であるときには、操舵が検知されたため、操舵オーバーライド中であるとの判定がなされる。一方、ステア側操舵トルクTrqIPの絶対値がオーバーライド判定値未満であるときには、操舵が検知されないため、操舵オーバーライド中であるとの判定がなされない。
【0045】
操舵オーバーライド中であるとの判定がなされていない場合(S32:NO)、処理が次のステップS33に移行される。ステップS33において、上記ステップS22と同様に、第1のステア側制御が実施される。そして、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0046】
一方、ステップS32において、操舵オーバーライド中であるとの判定がなされている場合(YES)、処理が次のステップS34に移行される。ステップS34において、車両の緊急旋回が行われているか否かの判定が行われる。ここでいう緊急旋回とは、自車両と障害物との衝突の回避、又は衝突度合いの軽減を目的とした車両の旋回支援である。この場合、オーバーライド許容モードが選択されている場合であっても、運転者の操舵を車両走行に反映させない方がよいと判断される。例えば、目標ヨーレートYrTrの絶対値が判定値以上であるときには、緊急旋回が行われるとの判定がなされる。一方、目標ヨーレートYrTrの絶対値が判定値未満であるときには、緊急旋回が行われるとの判定がなされない。
【0047】
そして、緊急旋回が行われるとの判定がなされている場合(S34:YES)、処理が前述したステップS33に移行される。すなわち、緊急旋回が行われているときには、運転者による操舵を無効化するようにステア角αが制御される。一方、緊急旋回が行われているとの判定がなされていない場合(S34:NO)、処理が次のステップS35に移行される。
【0048】
ステップS35において、第1のステア側制御とは異なる第2のステア側制御が実施される。第2のステア側制御は、現時点のステア角αを保持するためにステア側アクチュエータ13のステア側電動モータ131の駆動量を算出し、この駆動量を基にステア側電動モータ131を駆動させる制御である。例えば、第2のステア側制御では、ステア制御角Δαに応じた回転トルクであるステア側制御トルクTrqCSと、ステア側操舵トルクTrqIPに応じた回転トルクであるアシストトルクTrqASとの和としてステア側合計トルクTrqTSが算出される。ステア側制御トルクTrqCSは、ステア角αを中心ステア角αCnとするためのトルクであり、ステア制御角Δαに基づいたフィードフォワード制御によって算出される。アシストトルクTrqASは、
図3に示したマップを用いることにより導出することができる。
【0049】
そして、このように算出したステア側合計トルクTrqTSを基にステア側電動モータ131の駆動量DMSが算出され、この駆動量DMSを基にステア側電動モータ131が制御される。すると、算出したステア側合計トルクTrqTS、又は、ステア側合計トルクTrqTS近傍のトルクがステアリングホイール11に入力される。その結果、運転者の操舵を適切にアシストすることができるため、ステアリングホイール11が回転する。これにより、中心ステア角αCnとステア角αとの差をステア側操舵トルクTrqIPに応じた値とすることができる。したがって、第2のステア側制御では、ステア制御角Δαが保持されるとともに、中心ステア角αCnとステア角αとの差がステア側操舵トルクTrqIPに応じた値で保持されるようにステア側制御トルクTrqCSが調整される。言い換えると、オーバーライド許容モードが選択されている状況下での旋回支援処理では、運転者の操舵によるステア角αの変更が許容されるようにステア側アクチュエータ13の作動が制御される。そして、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0050】
次に、
図7を参照し、操舵支援モードとして縮退許可モードが選択されている場合に、ステアリング制御ユニット52が実行する処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、縮退許可モードが選択されている状況下で実行される操舵装置10の制御のうち、ステア角αを制御するためのルーチンである。そして、この処理ルーチンは、縮退許可モードが選択されている場合、所定の制御サイクル毎に繰り返される。
【0051】
本処理ルーチンにおいて、ステップS41では、上記ステップS32と同様に、操舵オーバーライド中であるか否かの判定が行われる。操作オーバーライド中であるとの判定がなされていない場合(S41:NO)、処理が次のステップS42に移行される。ステップS42において、上記ステップS22と同様に、支援処理部522によって、第1のステア側制御が実施される。すなわち、旋回支援処理が実行される。そして、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0052】
一方、ステップS41において、操舵オーバーライド中であるとの判定がなされている場合(YES)、処理が次のステップS43に移行される。ステップS43において、タイヤ側縮退制御の実施が終了しているか否かの判定が行われる。
【0053】
縮退許可モードが選択されている場合において操舵が検知されているときには、旋回支援処理から操舵時処理への移行期であると判断できるため、移行処理部523によって移行処理が実行される。縮退許可モードが選択されている状況下で操舵が検知されることが、「移行指示」に相当する。すなわち、移行指示を受け付けると、移行処理が実行されることとなる。移行処理は、ステア角αを制御するステア側縮退制御と、前輪20のタイヤ角θを制御するタイヤ側縮退制御とを含んでいる。本実施形態では、移行処理が実行されるときには、タイヤ側縮退制御の実施が終了してからステア側縮退制御が実施される。
【0054】
そして、ステップS43において、タイヤ側縮退制御が終了しているとの判定がなされていない場合(NO)、処理が次のステップS44に移行される。ステップS44において、第3のステア側制御が実施される。第3のステア側制御では、ステア制御角Δαが保持されるとともに、ステア側制御トルクTrqCSに基づいたトルクがステアリングホイール11に入力されるようにステア側アクチュエータ13を作動させる。すなわち、第3のステア側制御が実施されると、基準ステア角αBがタイヤ側縮退制御の開始時の値で保持される。ステア制御角Δαは保持されるため、中心ステア角αCnもまたタイヤ側縮退制御の開始時の値で保持される。そして、ステア側制御トルクTrqCSが、ステア制御角Δαに応じた値に算出される。また、アシストトルクTrqASは、
図3に示したマップを用いることにより、ステア側操舵トルクTrqIPに応じた値に導出される。さらに、ステア側制御トルクTrqCSとアシストトルクTrqASとの和としてステア側合計トルクTrqTSが算出される。このように算出したステア側合計トルクTrqTSを基にステア側電動モータ131の駆動量DMSが算出され、この駆動量DMSを基にステア側電動モータ131が制御される。すると、算出したステア側合計トルクTrqTS、又は、ステア側合計トルクTrqTS近傍のトルクがステアリングホイール11に入力される。その結果、中心ステア角αCnとステア角αとの差がステア側操舵トルクTrqIPに応じた値で保持される。これにより、タイヤ側縮退制御の実施に起因するステア角αの変化が抑制される。そして、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0055】
その一方で、ステップS43において、タイヤ側縮退制御が終了しているとの判定がなされている場合(YES)、処理が次のステップS45に移行される。ステップS45において、極性が一致しているか否かの判定が行われる。
【0056】
ステアリングホイール11の回転方向のうち、運転者の操舵によってステアリングホイール11を回転させたい方向のことを操舵回転方向ST1という。例えば、ステア側操舵トルクTrqIPが正の値であるときには正方向C1が操舵回転方向ST1に該当する一方、ステア側操舵トルクTrqIPが負の値であるときには負方向C2が操舵回転方向ST1に該当する。そして、中心ステア角αCnが基準ステア角αBよりも操舵回転方向ST1側に位置するときには、極性が一致しているとの判定がなされる。例えば、正方向C1が操舵回転方向ST1である場合、中心ステア角αCnが基準ステア角αBよりも正方向C1側に位置するときには、極性が一致しているとの判定がなされる。一方、中心ステア角αCnが基準ステア角αBよりも負方向C2側に位置するときには、極性が一致しているとの判定がなされない。
【0057】
ステップS45において、極性が一致しているとの判定がなされている場合(YES)、処理が次のステップS46に移行される。ステップS46において、移行処理部523によって、第1のステア側縮退制御がステア側縮退制御として実施される。
【0058】
ステア側縮退制御とは、ステア制御角Δαが「0」になるまでステア制御角Δαを変更するとともに、ステア側制御トルクTrqCSに基づいたトルクがステアリングホイール11に入力されるようにステア側アクチュエータ13を作動させる制御である。ステア側縮退制御では、ステア側制御トルクTrqCS及びアシストトルクTrqASが算出され、ステア側制御トルクTrqCSとアシストトルクTrqASとの和としてステア側合計トルクTrqTSが算出される。アシストトルクTrqASは、
図3に示したマップを用いることにより、ステア側操舵トルクTrqIPに応じた値に導出される。
【0059】
ステア側制御トルクTrqCSは、ステア制御角Δαに応じた値に算出される。そのため、ステア制御角Δαが変更されると、ステア側制御トルクTrqCSもまた変更される。
【0060】
そして、ステア側合計トルクTrqTSを基にステア側電動モータ131の駆動量DMSが算出され、この駆動量DMSを基にステア側電動モータ131が制御される。すると、算出したステア側合計トルクTrqTS、又は、ステア側合計トルクTrqTS近傍のトルクがステアリングホイール11に入力される。
【0061】
第1のステア側縮退制御は、ステア側操舵トルクTrqIPの絶対値が大きいほどステア制御角Δαの変更速度が高くなるように、ステア制御角Δαを変更する制御である。具体的には、第1のステア側縮退制御用のステア制御角Δαの変更速度の基礎値として、第1の基礎変更速度VB1が設けられている。ステア側制御トルクTrqCSの絶対値が大きいほど第1の補正値VC1が大きくなるように第1の補正値VC1が算出される。第1の補正値VC1は、「0」以上の値となる。第1の基礎変更速度VB1と第1の補正値VC1との和として変更速度V1が算出される。そして、算出した変更速度V1でステア制御角Δαが変更される。そのため、第1のステア側制御が実施されるときには、ステア側操舵トルクTrqIPの絶対値が大きいほど、ステア制御角Δαの絶対値を早期に小さくすることができる。
【0062】
そして、本処理ルーチンが一旦終了される。
一方、ステップS45において、極性が一致しているとの判定がなされていない場合(NO)、処理が次のステップS47に移行される。ステップS47において、移行処理部523によって、第2のステア側縮退制御がステア側縮退制御として実施される。
【0063】
第2のステア側縮退制御は、ステア側操舵トルクTrqIPの絶対値が大きいほどステア制御角Δαの変更速度が低くなるように、ステア制御角Δαを変更する制御である。具体的には、第2のステア側縮退制御用のステア制御角Δαの変更速度の基礎値として、第2の基礎変更速度VB2が設けられている。ステア側制御トルクTrqCSの絶対値が大きいほど第2の補正値VC2が大きくなるように第2の補正値VC2が算出される。第2の基礎変更速度VB2から第2の補正値VC2を引いた値として変更速度V2が算出される。そして、算出した変更速度V2でステア制御角Δαが変更される。そのため、第2のステア側制御が実施されるときには、ステア側操舵トルクTrqIPの絶対値が大きいほど、ステア制御角Δαの絶対値を緩やかに小さくすることができる。
【0064】
本実施形態では、第2の基礎変更速度VB2は、第1の基礎変更速度VB1よりも小さい。そのため、第2のステア側縮退制御は、第1のステア側縮退制御の実施時よりもステア側制御トルクTrqCSの変更速度を低くする制御であるということができる。
【0065】
そして、本処理ルーチンが一旦終了される。
すなわち、本実施形態では、ステア側アクチュエータ13によってステアリングホイール11に付与されている回転トルクの向きと、運転者の操舵によりステアリングホイール11に付与されている回転トルクの大きさとを基に、ステア側アクチュエータ13によってステアリングホイール11に付与される回転トルクの大きさが設定される。
【0066】
なお、第1のステア側縮退制御又は第2のステア側縮退制御の実施によって、ステア制御角Δαが「0」になると、移行処理の実行が終了される。すると、操舵支援モードではなく手動操作モードが選択され、操舵時処理の実行によって操舵装置10が制御されるようになる。
【0067】
次に、
図8を参照し、操舵支援モードとして操舵支援終了モードが選択されている場合に、ステアリング制御ユニット52が実行する処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、操舵支援終了モードが選択されている状況下で実行される操舵装置10の制御のうち、ステア角αを制御するためのルーチンである。そして、この処理ルーチンは、操舵支援終了モードが選択されている場合、所定の制御サイクル毎に繰り返される。
【0068】
本処理ルーチンにおいて、ステップS51では、移行処理部523によって、第3のステア側縮退制御がステア側縮退制御として実施される。第3のステア側縮退制御では、予め設定された変更速度でステア制御角Δαが「0」まで変更されるとともに、ステア側制御トルクTrqCSに基づいたトルクがステアリングホイール11に入力されるようにステア側アクチュエータ13を作動させる。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0069】
次に、
図9を参照し、操舵支援モードとしてシステム最優先モードが選択されている場合に、ステアリング制御ユニット52の操舵時処理部521が実行する処理ルーチンについて説明する。すなわち、この処理ルーチンは、システム最優先モードが選択されている状況下で実行される操舵装置10の制御のうち、前輪20のタイヤ角θを制御するためのルーチンである。そして、この処理ルーチンは、システム最優先モードが選択されている場合、所定の制御サイクル毎に繰り返される。
【0070】
本処理ルーチンにおいて、ステップS71では、目標タイヤ角θTrを基にタイヤ側制御トルクTrqCTが算出される。すなわち、目標タイヤ角θTrに基づいたフィードフォワード制御によって、フィードフォワード制御量が算出される。この場合、フィードフォワード制御量は、目標タイヤ角θTrに応じた値となる。また、目標タイヤ角θTrとタイヤ角θとの偏差を入力とする公知のフィードバック制御によって、フィードバック制御量が算出される。そして、フィードフォワード制御量とフィードバック制御量との和としてタイヤ側制御トルクTrqCTが算出される。
【0071】
続いて、ステップS72において、算出したタイヤ側制御トルクTrqCTを基に転舵アクチュエータ14が制御される。すなわち、転舵アクチュエータ14の動力源である前輪側電動モータ141の駆動量DMT、前輪側電動モータ141に流す電流の指示値が、タイヤ側制御トルクTrqCTに応じた値となるように算出される。そして、算出した駆動量DMT(すなわち、電流の指示値)を基に前輪側電動モータ141の駆動が制御される。すると、ステップS72で算出したタイヤ側制御トルクTrqCT又は当該タイヤ側制御トルクTrqCTに近いトルクが前輪20に入力されるようになる。これにより、タイヤ角θを目標タイヤ角θTrとすることができる。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0072】
次に、
図10を参照し、操舵支援モードとしてオーバーライド許容モードが選択されている場合に、ステアリング制御ユニット52の操舵時処理部521が実行する処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、オーバーライド許容モードが選択されている状況下で実行される操舵装置10の制御のうち、前輪20のタイヤ角θを制御するためのルーチンである。そして、この処理ルーチンは、オーバーライド許容モードが選択されている場合、所定の制御サイクル毎に繰り返される。
【0073】
本処理ルーチンにおいて、ステップS81では、上記ステップS32と同様に、操舵オーバーライド中であるか否かの判定が行われる。操舵オーバーライド中であるとの判定がなされていない場合(S81:NO)、処理が次のステップS82に移行される。ステップS82において、上記ステップS71と同様に、タイヤ側制御トルクTrqCTが算出される。続いて、ステップS83において、上記ステップS72と同様に、算出したタイヤ側制御トルクTrqCTを基に転舵アクチュエータ14が制御される。これにより、オーバーライド許容モードが選択されている場合であっても操舵が検知されていないときには、タイヤ角θを目標タイヤ角θTrとすることができる。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0074】
一方、ステップS81において、操舵オーバーライド中であるとの判定がなされている場合(YES)、処理が次のステップS84に移行される。ステップS84において、運転者の操舵によって前輪20に入力するトルクであるタイヤ側操舵トルクTrqATが算出される。この場合、ステア角αと中心ステア角αCnとの偏差に応じた値にタイヤ側操舵トルクTrqATが算出される。すなわち、ステア角αが中心ステア角αCnよりもステアリングホイール11の正方向C1側に位置する場合には、タイヤ側操舵トルクTrqATが正の値にされる。具体的には、ステア角αから中心ステア角αCnを引いた値が大きいほどタイヤ側操舵トルクTrqATが大きくなるように、タイヤ側操舵トルクTrqATが算出される。一方、ステア角αが中心ステア角αCnよりもステアリングホイール11の負方向C2側に位置する場合には、タイヤ側操舵トルクTrqATが負の値にされる。具体的には、ステア角αから中心ステア角αCnを引いた値の絶対値が大きいほどタイヤ側操舵トルクTrqATの絶対値が大きくなるように、タイヤ側操舵トルクTrqATが算出される。
【0075】
続いて、ステップS85において、目標タイヤ角θTrとタイヤ角θとの偏差を入力とするフィードバック制御を停止した上で、タイヤ側操舵トルクTrqATが算出される。この場合、目標タイヤ角θTrに基づいたフィードフォワード制御によって算出されたフィードフォワード制御量に応じた値となるように、タイヤ側制御トルクTrqCTが算出される。そして、次のステップS86では、タイヤ側操舵トルクTrqATとタイヤ側制御トルクTrqCTとの和として指示トルクTrqIが算出される。続いて、ステップS87において、算出した指示トルクTrqIを基に転舵アクチュエータ14が制御される。具体的には、転舵アクチュエータ14の動力源である前輪側電動モータ141の駆動量DMT、すなわち前輪側電動モータ141に流す電流の指示値が、指示トルクTrqIに応じた値となるように算出される。そして、算出した駆動量DMT(すなわち、電流の指示値)を基に前輪側電動モータ141の駆動が制御される。すると、ステップS86で算出した指示トルクTrqI又は当該指示トルクTrqIに近いトルクが前輪20に入力されるようになる。これにより、オーバーライド許容モードが選択されている場合において操舵が検知されているときには、操舵の態様を反映した車両走行を行わせることが可能となる。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0076】
次に、
図11を参照し、操舵支援モードとして縮退許可モードが選択されている場合に、ステアリング制御ユニット52が実行する処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、縮退許可モードが選択されている状況下で実行される操舵装置10の制御のうち、ステア角αを制御するためのルーチンである。そして、この処理ルーチンは、縮退許可モードが選択されている場合、所定の制御サイクル毎に繰り返される。
【0077】
本処理ルーチンにおいて、ステップS91では、上記ステップS32と同様に、操舵オーバーライド中であるか否かの判定が行われる。操舵オーバーライド中であるとの判定がなされていない場合(S91:NO)、処理が次のステップS92に移行される。ステップS92において、上記ステップS71と同様に、支援処理部522によってタイヤ側制御トルクTrqCTが算出される。続いて、ステップS93において、支援処理部522によって、上記ステップS72と同様に、算出したタイヤ側制御トルクTrqCTを基に転舵アクチュエータ14が制御される。これにより、縮退許可モードが選択されている場合であっても操舵が検知されていないときには、旋回支援処理が実行されるため、タイヤ角θを目標タイヤ角θTrとすることができる。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0078】
一方、ステップS91において、操舵オーバーライド中であるとの判定がなされている場合(YES)、処理が次のステップS94に移行される。ステップS94において、移行処理部523によって、上記ステップS84と同様に、タイヤ側操舵トルクTrqATが算出される。続いて、ステップS95では、移行処理部523によって、目標タイヤ角θTrとタイヤ角θとの偏差を入力とするフィードバック制御が停止される。
【0079】
そして、移行処理部523によって、移行処理におけるタイヤ側縮退制御が実施される。すなわち、ステップS96において、予め設定された規定速度でタイヤ側制御トルクTrqCTが「0」に向けて変化するように、タイヤ側制御トルクTrqCTが算出される。このように算出されたタイヤ側制御トルクTrqCTが、実タイヤ角を所定の基準角に戻すための「第1のトルク」に相当する。また、タイヤ側縮退制御が実施されているときのタイヤ側操舵トルクTrqATが、運転者の操舵に対応する「第2のトルク」に相当する。続いて、ステップS97では、タイヤ側操舵トルクTrqATとタイヤ側制御トルクTrqCTとの和として指示トルク(タイヤ制御トルク)TrqIが算出される。そして、ステップS98において、算出した指示トルクTrqIが前輪20に入力されるように転舵アクチュエータ14の作動が制御される。具体的には、転舵アクチュエータ14の動力源である前輪側電動モータ141の駆動量DMT、すなわち前輪側電動モータ141に流す電流の指示値が、指示トルクTrqIに応じた値となるように算出される。そして、算出した駆動量DMT(すなわち、電流の指示値)を基に前輪側電動モータ141の駆動が制御される。すると、ステップS97で算出した指示トルクTrqI又は当該指示トルクTrqIに近いトルクが前輪20に入力されるようになる。つまり、タイヤ側制御トルクTrqCTの変更に同期して前輪20のタイヤ角θが変化する。そして、タイヤ側制御トルクTrqCTが「0」になると、指示トルクTrqIがタイヤ側操舵トルクTrqATと等しくなるため、前輪20のタイヤ角θが、運転者の操舵量に応じた角度となる。その後、本処理ルーチンが一旦終了する。
【0080】
なお、タイヤ側縮退制御は、タイヤ側操舵トルクTrqATが「0」になると終了される。このようにタイヤ側縮退制御が終了されると、移行処理の実行中でも、
図11に示す処理ルーチンが実行されないようになる。
【0081】
次に、
図12を参照し、操舵支援モードとして操舵支援終了モードが選択されている場合に、ステアリング制御ユニット52が実行する処理ルーチンについて説明する。この処理ルーチンは、操舵支援終了モードが選択されている状況下で実行される操舵装置10の制御のうち、前輪20のタイヤ角θを制御するためのルーチンである。そして、この処理ルーチンは、操舵支援終了モードが選択されている場合、所定の制御サイクル毎に繰り返される。
【0082】
本処理ルーチンにおいて、ステップS101では、移行処理部523によって、タイヤ側操舵トルクTrqATがタイヤ角θに応じた値となるように、タイヤ側操舵トルクTrqATが算出される。続いて、ステップS102において、算出したタイヤ側操舵トルクTrqATが前輪20に入力されるように転舵アクチュエータ14の作動が制御される。その後、本処理ルーチンが一旦終了される。
【0083】
本実施形態の作用及び効果について説明する。
(1)はじめに、旋回支援処理の実行中に操舵が行われない場合について説明する。
旋回支援処理の実行中では、転舵アクチュエータ14によって、タイヤ角θが目標タイヤ角θTrとなるように前輪20にタイヤ側制御トルクTrqCTが入力される。そのため、支援制御ユニット51によって作成された走行経路に沿って車両を走行させることができる。
【0084】
この場合、ステア角αが中心ステア角αCnとなるようにステア側アクチュエータ13の作動、すなわちステア側電動モータ131の駆動が制御される。具体的には、目標タイヤ角θTrに応じたステア角である基準ステア角αBを基に、ステア制御角Δαが算出される。そして、中心ステア角αCnは基準ステア角αBとステア制御角Δαとの和として算出される。本実施形態では、ステア制御角Δαは、基準ステア角αBと「-1」との積として算出される。そのため、旋回支援処理の実行中では、中心ステア角αCnは「0」で保持される。したがって、旋回支援処理の実施中にあっては、目標タイヤ角θTrに応じて前輪20が転舵しているにも拘わらず、ステア角αが「0」で保持されるようになる。よって、例えば緊急旋回時などのようにタイヤ角θの変更速度が高いときでも、ステア角αの急激な変化を抑制することができる。
【0085】
(2)次に、
図13及び
図15を参照し、システム最優先モードが選択されている状況下で、旋回支援処理の実行中に操舵が行われた場合について説明する。
図13(a)~(f)に示すように旋回支援処理の実施中に操舵が行われると、運転者の操舵に起因するステア側操舵トルクTrqIPがステアリングホイール11を入力される。
図13に示す例では、システム最優先モードが選択されているため、転舵アクチュエータ14によって、タイヤ角θが目標タイヤ角θTrとなるように前輪20にタイヤ側制御トルクTrqCTが入力される。その結果、操舵が行われていても、支援制御ユニット51によって作成された走行経路に沿って車両が走行することとなる。
【0086】
また、システム最優先モードが選択されている場合、ステア角αの制御としては、第1のステア側制御が実施される。すなわち、
図13(b),(d)に示すように、第1のステア側制御では、ステア側操舵トルクTrqIPの絶対値が大きいほどステア側電動モータ131の駆動量DMSの絶対値が大きくなるように、駆動量DMSが算出される。そして、算出した駆動量DMSを基にステア側電動モータ131が制御される。そのため、ステア側アクチュエータ13の作動、すなわちステア側電動モータ131の駆動によって、運転者の操舵に起因するステア側操舵トルクTrqIPのステアリングホイール11への入力方向とは反対方向にトルクがステアリングホイール11に入力される。
【0087】
図15(a)では、ステア側操舵トルクTrqIPが破線矢印で図示されているとともに、ステア側制御トルクTrqCSが実線矢印で図示されている。システム最優先モードが選択されている場合では、
図15(a)に示すように操舵が行われても、ステア角αを中心ステア角αCnで保持することができる。また、タイヤ角θを目標タイヤ角θTrで保持することができる。
【0088】
(3)次に、
図14及び
図15を参照し、オーバーライド許容モードが選択されている状況下で、旋回支援処理の実行中に操舵が行われた場合について説明する。
図14(a)~(f)に示すように旋回支援処理の実施中に操舵が行われると、運転者の操舵に起因するステア側操舵トルクTrqIPがステアリングホイール11を入力される。操舵が検知されると、
図14に示す例では、オーバーライド許容モードが選択されているため、第2のステア角制御によってステア角αが制御される。すなわち、第2のステア側制御では、中心ステア角αCnからのステア角αの乖離を許容するように、ステア側電動モータ131の駆動が制御される。例えばステアリングホイール11に対して正方向C1に操舵がなされた場合には、ステア側電動モータ131の駆動量DMSが大きくなるため、運転者の操舵を適切に補助することができる。その結果、中心ステア角αCnとステア角αとの差がステア側操舵トルクTrqIPに応じた値で保持される。
【0089】
また、操舵に応じたタイヤ角θを変更する場合、タイヤ側操舵トルクTrqATが、ステア角αと中心ステア角αCnとの偏差に応じた値となるように算出される。そのため、タイヤ側操舵トルクTrqATは、運転者による操舵量に応じた値となる。また、オーバーライド許容モードが選択されている状況下で操舵が検知されると、目標タイヤ角θTrとタイヤ角θとの偏差を入力とするフィードバック制御を停止した上で、タイヤ側制御トルクTrqCTが算出される。そして、このタイヤ側制御トルクTrqCTと、操舵量に応じたタイヤ側操舵トルクTrqATとの和として指示トルクTrqIが算出される。すると、転舵アクチュエータ14の前輪側電動モータ141の駆動量DMTが、指示トルクTrqIに応じた値となるように算出され、この駆動量DMTを基に前輪側電動モータ141の駆動が制御される。これにより、指示トルクTrqI又は当該指示トルクTrqIに近いトルクが前輪20に入力される。
【0090】
図15(a)を、操舵が行われていない場合におけるステアリングホイール11と前輪20との関係と見なした場合、
図15(b)は、
図15(a)の状態から操舵が行われた場合におけるステアリングホイール11と前輪20との関係であるということができる。すなわち、オーバーライド許容モードが選択されている場合には、旋回支援処理の実施中であっても、運転者の操舵を反映した旋回を車両に行わせることができる。
【0091】
(4)次に、
図15、
図16及び
図17を参照し、縮退許可モードが選択されている状況下で、旋回支援処理の実行中に操舵が行われた場合について説明する。
図16(a)~(f)に示すように旋回支援処理の実施中のタイミングt11で操舵が検知されると、目標タイヤ角θTrとタイヤ角θとの偏差を入力とするフィードバック制御が停止される。また、タイヤ側操舵トルクTrqATが、ステア角αと中心ステア角αCnとの偏差に応じた値となるように算出される。そして、タイヤ側縮退制御が実施される。タイヤ側縮退制御では、予め設定された規定速度でタイヤ側制御トルクTrqCTが「0」に向けて変化するように、タイヤ側制御トルクTrqCTが変更される。そして、このようなタイヤ側制御トルクTrqCTと、操舵量に応じたタイヤ側操舵トルクTrqATとの和として指示トルクTrqIが算出される。すると、転舵アクチュエータ14の前輪側電動モータ141の駆動量DMTが、指示トルクTrqIに応じた値となるように算出され、この駆動量DMTを基に前輪側電動モータ141の駆動が制御される。これにより、指示トルクTrqI又は当該指示トルクTrqIに近いトルクが前輪20に入力される。
【0092】
タイヤ側縮退制御では、タイヤ側制御トルクTrqCTは、その絶対値が「0」となるまで変更される。すなわち、指示トルクTrqIのうち、タイヤ側制御トルクTrqCTが占める割合が徐々に小さくなる。そのため、前輪20のタイヤ角θのうち、旋回支援処理の実行によるタイヤ角の変更分が徐々に少なくなり、最終的には当該変更分が「0」となる。
【0093】
このようにタイヤ側縮退制御が実施されている場合には、第3のステア側制御によってステア角αが制御される。この場合、タイヤ側縮退制御の実施によってタイヤ角θが変わっても、ステア制御角Δα及びステア側制御トルクTrqCSが保持される。そして、中心ステア角αCnとステア角αとの差がステア側操舵トルクTrqIPに応じた値で保持される。例えばタイヤ側縮退制御の実施中においてステア側操舵トルクTrqIPが保持されている場合、タイヤ側制御トルクTrqCTの変更に応じてタイヤ角θが変化していても、ステア角αが保持されることとなる。
【0094】
タイミングt12では、タイヤ側制御トルクTrqCTが「0」となり、タイヤ側縮退制御が終了される。すると、第3のステア側制御が終了されてステア側縮退制御が開始される。ステア側縮退制御では、ステア制御角Δαが「0」になるまでステア制御角Δαが変更されるとともに、ステア制御角Δαの変更に同期してステア側制御トルクTrqCSもまた変更される。ステア側縮退制御の実施中では、中心ステア角αCnとステア角αとの差がステア側操舵トルクTrqIPに応じた値で保持される。そのため、
図15(b),(c)に示すように、タイヤ角θに応じたステア角と、実際のステア角αとの乖離が徐々に小さくなる。そして、タイミングt13でステア制御角Δαが「0」になると、タイヤ角θに応じたステア角と、実際のステア角αとの乖離が解消される。すなわち、タイミングt13でステア側縮退制御、すなわち移行処理が終了される。そして、操舵時処理の実行によって操舵装置10が制御されるようになる。したがって、旋回支援処理から操舵時処理への移行を円滑に行うことができる。
【0095】
ステア側縮退制御の実施中では、ステア制御角Δαの変化に同期してステア側制御トルクTrqCSが変化する。すなわち、ステア制御角Δαの変更速度が低いほど、ステア側制御トルクTrqCSの変更速度が低くなる。
【0096】
ここで、中心ステア角αCnが基準ステア角αBよりも操舵回転方向ST1側に位置する場合、
図17(a)に破線矢印で示すように、制御としては、ステア側制御トルクTrqCSの変更によって操舵回転方向ST1の反対方向にステアリングホイール11を回転させようとする。そのため、ステア側制御トルクTrqCSによって、運転者の操舵によるステアリングホイール11の回転が阻害されることになる。反対に、制御側から見た場合、ステアリングホイール11の操舵回転方向ST1の反対方向への回転が、運転者の操舵によって阻害されることとなる。その結果、運転者の所望する方向にステアリングホイール11を回転させにくい状態になる。
【0097】
そこで、本実施形態では、中心ステア角αCnが基準ステア角αBよりも操舵回転方向ST1側に位置する場合、ステア側縮退制御として第1のステア側縮退制御が実施される。第1のステア側縮退制御では、運転者の操舵によってステアリングホイール11に入力されるステア側操舵トルクTrqIPの絶対値が大きいほど、ステア制御角Δαの変更速度が高くなるようにステア制御角Δαが変更される。すなわち、ステア側制御トルクTrqCSの変更速度が高くなる。その結果、ステア側操舵トルクTrqIPの絶対値が大きいほど、ステア側制御トルクTrqCSの変更によって操舵回転方向ST1の反対方向にステアリングホイール11を回転させる制御の実施期間が短くなる。これにより、ステア側制御トルクTrqCSによって運転者の操舵によるステアリングホイール11の回転が阻害される期間を短くすることができる。そのため、ステア側縮退制御の実施中において、運転者の所望する方向にステアリングホイール11を回転させにくいという事象を生じにくくなる。したがって、移行処理の実行中であっても、操舵に対応した態様で車両に旋回させることが可能となる。
【0098】
一方、中心ステア角αCnが基準ステア角αBよりも操舵回転方向ST1の反対方向側に位置する場合、
図17(b)に破線矢印で示すように、制御としては、ステア側制御トルクTrqCSの変更によって操舵回転方向ST1にステアリングホイール11を回転させようとする。この場合、ステア側制御トルクTrqCSの変更によって、運転者の操舵によるステアリングホイール11の回転がアシストされることとなる。そのため、ステア側制御トルクTrqCSの変更速度が高いほど、操舵によってステアリングホイール11が過剰に回転しやすくなる。
【0099】
そこで、本実施形態では、中心ステア角αCnが基準ステア角αBよりも操舵回転方向ST1の反対方向側に位置する場合、ステア側縮退制御として第2のステア側縮退制御が実施される。第2のステア側縮退制御では、ステア側操舵トルクTrqIPの絶対値が大きいほど、ステア制御角Δαの変更速度が低くなるようにステア制御角Δαが変更される。すなわち、ステア側制御トルクTrqCSの変更速度が低くなる。この場合、ステア側操舵トルクTrqIPの絶対値が大きいほど、ステア側制御トルクTrqCSの変更によって操舵回転方向ST1にステアリングホイール11を回転させる制御の実施期間が長くなる。これにより、ステア側制御トルクTrqCSによって運転者の操舵が過剰にアシストされる事象が生じにくくなる。したがって、ステア側縮退制御の実施中において、運転者の所望する方向にステアリングホイール11を回転させるに際し、ステアリングホイール11の過剰な回転を抑制することができる。
【0100】
上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
・オーバーライド許容モードが選択されている状況下で旋回支援処理が実行されている場合、操舵によってタイヤ角θが変更されているときには、タイヤ角θが目標タイヤ角θTrから乖離している旨を運転者に報知するようにしてもよい。例えば、操舵によってステア角αが変更されているときには、ステア側制御トルクTrqCSをパルス的に変動させ、こうしたステア側制御トルクTrqCSの変動を通じて上記報知を行うようにしてもよい。
【0101】
・第1の基礎変更速度VB1を、第2の基礎変更速度VB2と同じ値にしてもよい。この場合であっても、第1のステア側縮制御では、ステア側制御トルクTrqCSの絶対値に応じた値に設定される第1の補正値VC1と第1の基礎変更速度VB1との和として変更速度V1を算出し、この変更速度V1でステア制御角Δαが変更される。また、第2のステア側縮制御では、第2の基礎変更速度VB2から第2の補正値VC2を引いた値として変更速度V2を算出し、この変更速度V2でステア制御角Δαが変更される。第2の補正値VC2は、ステア側制御トルクTrqCSの絶対値に応じた値に設定される。そのため、第1の基礎変更速度VB1を第2の基礎変更速度VB2と同じ値にしても、変更速度V1を変更速度V2よりも高くすることができる。
【0102】
・第1のステア側縮退制御の実施によって第2のステア側縮退制御の実施時よりもステア側制御トルクTrqCSの変更速度を高くすることができるのであれば、第1のステア側縮退制御の実施中におけるステア側制御トルクTrqCSの変更速度を固定値で保持するようにしてもよい。
【0103】
・第2のステア側縮退制御の実施によって第1のステア側縮退制御の実施時よりもステア側制御トルクTrqCSの変更速度を低くすることができるのであれば、第2のステア側縮退制御の実施中におけるステア側制御トルクTrqCSの変更速度を固定値で保持するようにしてもよい。
【0104】
・中心ステア角αCnが基準ステア角αBよりも操舵回転方向ST1側に位置している場合におけるステア側縮退制御の実施中のステア側制御トルクTrqCSの変更速度を、中心ステア角αCnが基準ステア角αBよりも操舵回転方向ST1の反対方向側に位置している場合と同じとしてもよい。
【0105】
・移行処理中では、タイヤ側縮退制御の開始後にステア側縮退制御を開始するのであれば、タイヤ側縮退制御の終了前からステア側縮退制御の実施を開始するようにしてもよい。例えば、タイヤ側縮退制御の開始時のタイヤ側制御トルクTrqCTの絶対値の半分となる値を規定値とした場合、タイヤ側縮退制御の実施によって、タイヤ側制御トルクTrqCTの絶対値が規定値以下になったことを条件に、ステア側縮退制御の実施を開始するようにしてもよい。
【0106】
・移行処理中では、タイヤ側縮退制御と同時にステア側縮退制御を実施するようにしてもよい。
・移行処理中では、タイヤ側縮退制御よりも先にステア側縮退制御を実施するようにしてもよい。
【0107】
・移行処理中では、ステア側縮退制御を実施するのであれば、タイヤ側縮退制御を実施しなくてもよい。この場合であっても、ステア側縮退制御の実施によって、ステア制御角Δαを「0」まで変更させるとともに、中心ステア角αCnとステア角αとの差をステア側操舵トルクTrqIPに応じた値で保持させることにより、ステア角αと基準ステア角αBとの乖離を解消させることができる。
【0108】
・中心ステア角αCnを基準ステア角αBよりも「0」寄りの値にすることができるのであれば、上記実施形態で説明した方法とは異なる方法でステア制御角Δαを算出するようにしてもよい。例えば、タイヤ角θが変化しているときには、基準ステア角αBの変更速度よりも低い速度で中心ステア角αCnが変更されるように、ステア制御角Δαを算出するようにしてもよい。
【0109】
・車両の運転支援装置によって制御される操舵装置は、タイヤ角θとステア角αとを独立で制御できるものであれば、上記実施形態で説明した操舵装置10とは異なる構成の操舵装置であってもよい。
【0110】
例えば
図18に示すように、操舵装置として、ステア側アクチュエータ13の出力軸132と、転舵アクチュエータ14の入力軸142とがクラッチ16を介して連結可能な操舵装置10Aであってもよい。この場合、旋回支援処理の実施中にあっては、ステア側アクチュエータ13の出力軸132と、転舵アクチュエータ14の入力軸142との連結がクラッチ16によって解除される。そして、移行処理の実施によってステア制御角Δαが「0」になってから、クラッチ16の作動によって、ステア側アクチュエータ13の出力軸132と、転舵アクチュエータ14の入力軸142とが連結される。すなわち、操舵時処理の実行中では、ステア側アクチュエータ13の出力軸132と転舵アクチュエータ14の入力軸142との連結が維持されることになる。
【0111】
また、例えば
図19に示すように、ステアリングホイール11と転舵アクチュエータ14との連結が常時維持される操舵装置10Bであってもよい。この場合、ステア側アクチュエータとして、タイヤ角θに応じたステア角と実際のステア角αとの差分を調整できる作動角制御機構17が設けられることとなる。操舵時処理の実行中では、タイヤ角θに応じたステア角と実際のステア角αとの差分が「0」で保持されるように作動角制御機構17が制御される。
【0112】
一方、旋回支援処理の実行中において操舵が行われていない場合、ステア角αが中心ステア角αCnで保持されるように作動角制御機構17が制御される。すなわち、作動角制御機構17が、「ステアトルク付与部」の一例に相当する。また、システム最優先モードが選択されている状況下で旋回支援処理が実行されている場合、ステア角αが中心ステア角αCnで保持されるとともに、操舵が行われてもステア角α及びタイヤ角θが変化しないように作動角制御機構17が制御される。この場合の第1のステア側制御では、例えば、中心ステア角αCnとステア角αとの偏差を入力とするフィードバック制御によって算出された制御量と、ステア制御角Δαに基づいたフィードフォワード制御によって算出された制御量との和としてステア側電動モータ131の駆動量が算出される。そして、この駆動量を基にステア側電動モータ131を制御することにより、ステア角αの中心ステア角αCnからの乖離を抑制することができる。
【0113】
また、オーバーライド許容モードが選択されている状況下で旋回支援処理が実行されている場合、操舵によって中心ステア角αCnからのステア角αの乖離が許容されるとともに、操舵によってステア角α及びタイヤ角θが変化するように作動角制御機構17が制御される。この場合の第2のステア側制御では、例えば、ステア制御角Δαに基づいたフィードフォワード制御によって算出された制御量と、操舵に応じたアシスト駆動量との和としてステア側電動モータ131の駆動量が算出される。駆動量は、中心ステア角αCnよりもステア角αが大きくなる方向に操舵が行われているときには、操舵によるステアリングホイール11の正方向C1への回転を補助できるような値に算出される。一方、駆動量は、中心ステア角αCnよりもステア角αが小さくなる方向に操舵が行われているときには、操舵によるステアリングホイール11の負方向C2への回転を補助できるような値に算出される。そして、算出した駆動量を基にステア側電動モータ131を駆動させることにより、操舵を反映した態様で車両を旋回させることが可能となる。
【符号の説明】
【0114】
10,10A,10B…操舵装置、11…ステアリングホイール、13…ステアトルク付与部の一例であるステア側アクチュエータ、14…転舵トルク付与部の一例である転舵アクチュエータ、17…ステアトルク付与部の一例である作動角制御機構、20…前輪、50…車両の運転支援装置の一例である制御装置、521…操舵時処理部、522…支援処理部、523…移行処理部。