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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】認知機能判定システム
(51)【国際特許分類】
   A61B 10/00 20060101AFI20221109BHJP
   A47K 17/00 20060101ALI20221109BHJP
   E03D 9/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
A61B10/00 H
A47K17/00
E03D9/00 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2018146867
(22)【出願日】2018-08-03
(65)【公開番号】P2020018776
(43)【公開日】2020-02-06
【審査請求日】2021-06-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(72)【発明者】
【氏名】田中 大平
(72)【発明者】
【氏名】高尾 綾
(72)【発明者】
【氏名】木塚 里子
(72)【発明者】
【氏名】酒井 雄太
(72)【発明者】
【氏名】永石 昌之
【審査官】高松 大
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/130957(WO,A1)
【文献】特開2017-117423(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0119283(US,A1)
【文献】特開2016-021107(JP,A)
【文献】国際公開第2017/191697(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 10/00
A47K 17/00
E03D 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用者の排泄行為のための便器が設置されたトイレ室と、
前記トイレ室の使用者の動作に関する動作情報を検出する一又は複数の検出部と、
前記トイレ室内又は室外に設けられ、前記検出部により検出された前記使用者の動作情
報から前記使用者の行動を解析し、前記使用者の前記トイレ室内における行動情報を生成
する解析部と、
前記トイレ室内又は室外に設けられ、前記解析部により生成された前記行動情報に基づ
いて、少なくとも1回の前記トイレ室の利用から前記使用者の認知機能の変化を判定する判定部と、を有することを特徴とする認知
機能判定システム。
【請求項2】
前記トイレ室内又は室外に、前記トイレ室内での異常行動情報を備えた第1の記憶部を
有し、
前記判定部は、前記異常行動情報を参照して前記行動情報と前記異常行動情報との一致
性または類似性を判断し、前記行動情報と前記異常行動情報との一致性または類似性が予
め決定された第1の所定値を超えた場合、前記使用者の認知機能が低下していると判定す
ることを特徴とする請求項1に記載の認知機能判定システム。
【請求項3】
前記判定部は、前記行動情報と前記異常行動情報との一致性または類似性が前記予め決
定された第1の所定値よりも高いほど、前記使用者の認知機能の低下の程度が大きいと判
定することを特徴とする請求項2に記載の認知機能判定システム。
【請求項4】
前記判定部は、異常行動情報のそれぞれに付された重みづけに応じて、前記使用者の認
知機能の低下の程度を判定することを特徴とする請求項2または3に記載の認知機能判定
システム。
【請求項5】
前記トイレ室内又は室外に、前記トイレ室内での通常行動情報を備えた第1の記憶部を
有し、
前記判定部は、前記通常行動情報を参照して前記行動情報と前記通常行動情報との一致
性または類似性を判断し、前記行動情報と前記通常行動情報との一致性または類似性が予
め決定された第2の所定値を下回った場合、前記使用者の認知機能が低下していると判定
することを特徴とする請求項1に記載の認知機能判定システム。
【請求項6】
前記判定部は、前記行動情報と前記通常行動情報との一致性または類似性が前記予め決
定された第2の所定値よりも低いほど、前記使用者の認知機能の低下の程度が大きいと判
定することを特徴とする請求項5に記載の認知機能判定システム。
【請求項7】
前記第1の記憶部は、前記トイレ室外に設けられたサーバ内に設けられ、前記第1の記
憶部に備えられた前記異常行動情報または前記通常行動情報は更新可能であることを特徴
とする請求項2乃至6のいずれか一項に記載の認知機能判定システム。
【請求項8】
前記使用者を認証するための個人認証部を有し、
前記判定部は、前記個人認証部により認証された使用者情報に応じて、前記使用者の認
知機能の変化の判定の要否を判断することを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に
記載の認知機能判定システム。
【請求項9】
前記トイレ室内又は室外に、前記判定部による判定結果を格納する第2の記憶部を有し

前記判定部による判定結果が前記使用者情報と関連付けられて前記第2の記憶部に格納
され、
前記判定部は、前記第2の記憶部に格納された過去の判定結果と対比して、前記使用者
の認知機能の低下あるいは回復を判定することを特徴とする請求項8に記載の認知機能判
定システム。
【請求項10】
前記判定部による判定結果を出力する出力部を有し、
前記出力部は、前記トイレ室外に設けられてることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の認知機能判定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トイレ室を利用した認知機能判定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
日本をはじめとする先進諸国における高齢化の進行に伴い、認知症を発症する高齢者の増加が予想されている。近年でも認知症を発症した高齢者による交通事故や、セルフネグレクト、介護など、認知症に関連する問題は大きな社会問題となっている。
【0003】
ところで認知機能の低下については、認知症を発症する前の段階である軽度認知障害(Mild Cognitive Impairment:MCI)を早期に発見することができれば、トレーニングや投薬等の方法によって認知機能の維持あるいは回復を期待することができることがわかっている。このため、居住空間における異常行動から軽度認知障害の発症の可能性を判定する認知症判定システムなどが従来知られている。(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-200572号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載された認知症判定システムは、個人ごとの睡眠時間帯を検知して電気機器の消し忘れを確認することで、軽度認知障害の発症の可能性を判定するものである。しかしながら、たまたま消し忘れただけなのか、認知機能が低下したことよって消し忘れたものなのか明確に判別することは難しかった。そのため、睡眠時間帯の電気機器の消し忘れを睡眠のたびに繰り返し確認しなければ、十分な精度で判定を行うことができないという課題があった。
【0006】
本発明は、このような課題を解決するものであり、トイレ室の一回の使用であっても精度良く、認知症の発症または軽度認知障害による認知機能の変化を判定することのできる認知機能判定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、第1の発明の認知機能判定システムは、使用者の排泄行為のための便器が設置されたトイレ室と、トイレ室の使用者の動作に関する動作情報を検出する一又は複数の検出部と、トイレ室内又は室外に設けられ、検出部により検出された使用者の動作情報から使用者の行動を解析し、使用者のトイレ室内における行動情報を生成する解析部と、トイレ室内又は室外に設けられ、解析部により生成された行動情報に基づいて、前記使用者の認知機能の変化を判定する判定部と、を有することを特徴とする。
【0008】
トイレ室内において排泄行為を行う場合、正常な認知機能を有する健常者であればトイレ室内に入室、排泄、トイレ室内から退室という一連の行動を必ずとる。一方で、認知機能が低下した人は、上述した一連の行動をとらない場合や、その一連の行動の間に健常者であれば行なわない行動をとる場合がある。
第1の発明によれば、一又は複数の検出部から検出された使用者の動作に関する動作情報から使用者のトイレ室内における行動を解析することで、トイレ室の一回の使用であっても精度良く、使用者の認知機能の変化を判定することが可能な認知機能判定システムを提供することができる。これにより、使用者の認知機能の低下の兆しを早期に把握することができる。そのため、医療機関での治療を早期に開始することができ、認知機能の維持または回復に導くことができる。
【0009】
第2の発明は、第1の発明において、トイレ室内又は室外に、トイレ室内での異常行動情報を備えた第1の記憶部を有し、判定部は、異常行動情報を参照して行動情報と異常行動情報との一致性または類似性を判断し、行動情報と異常行動情報との一致性または類似性が予め決定された第1の所定値を超えた場合、使用者の認知機能が低下していると判定することを特徴とする
【0010】
認知機能の低下に伴うトイレ室入室後の使用者の異常行動には、いくつかのパターンがある。例えば、トイレ室のドアを閉めることなく排泄を行ったり、排泄後におしりをふかなかったり、トイレの水を流さなかったりなどの行動が知られている。ここで、認知機能が低下した人が取り得る異常行動に基づく情報とは、認知機能が低下した人が過去に取った行動あるいは取るであろうと推測される行動を集積した情報である。
第2の発明によれば、使用者の行動情報と、第1の記憶部に備えられた異常行動情報との一致性または類似性を判断しつつ、その度合いが予め決定された第一の所定値を超えるものであれば、単なるうっかりミスによる行動ではなく認知機能が低下していることに起因する行動であると判定することができる。これにより、トイレ室の一回の使用であっても精度良く、認知機能の低下を判定することができる。
【0011】
第3の発明は、第2の発明において、判定部は、行動情報と異常行動情報との一致性または類似性が予め決定された第1の所定値よりも高いほど、使用者の認知機能の低下の程度が大きいと判定することを特徴とする。
【0012】
認知機能が低下した人の行動は、正常な認知機能を有する健常者とは異なる行動パターンを取る傾向にある。そのため、異常行動のパターンと比較して、合致率が高ければ高いほど、認知機能が低下している可能性が高いと判定することが可能になる。
第3の発明によれば、第1の記憶部に備えられた異常行動情報との合致率が高ければ高いほど、認知機能の低下が大きいと判断することができる。これにより、認知機能が低下しているか否かだけでなく、軽度認知障害なのか認知症を発症しているおそれがあるのかという認知機能の低下の程度も含めて判定することが可能となる。
【0013】
第4の発明は、第2または3の発明において、判定部は、異常行動情報それぞれに付された重みづけに応じて、使用者の認知機能の低下の程度を判定することを特徴とする。
【0014】
認知機能が低下し、認知症を発症した認知症患者のトイレ室内での異常行動には、便器の水で手を洗う、排泄物をもてあそぶ等の正常な認知機能を有する健常者であれば取り得ない行動が含まれている。このような行動が確認された場合、たとえ他の行動で異常が確認できなかったとしても、トイレ室の使用者が認知症を発症している可能性が高い。
また、正常な認知機能を有する健常者であっても取り得る、うっかりミスによる行動であったとしても、トイレ室の一回の使用の際に複数該当した場合には、トイレ室の使用者の認知機能が低下している可能性が高い。
第4の発明によれば、第1の記憶部に備えられた複数の異常行動に対して重みづけを行っているため、判定部により通常ではありえない異常行動が解析された場合、トイレ室の一回の使用であっても精度良く、使用者の認知機能の低下の程度を判定することができる。
【0015】
第5の発明は、第1の発明において、トイレ室内又は室外に、前記トイレ室内での通常行動情報を備えた第1の記憶部を有し、判定部は、通常行動情報を参照して行動情報と通常行動情報との一致性または類似性を判断し、行動情報と通常行動情報との一致性または類似性が予め決定された第2の所定値を下回った場合、使用者の認知機能が低下していると判定することを特徴とする。
【0016】
トイレ室内において排泄行為を行う場合、正常な認知機能を有する健常者であればトイレ室内に入室、排泄、トイレ室内から退室という一連の行動を必ず行い、その他の行動においても、いくつかのパターンに分類することが可能である。ここで、通常行動に基づく情報とは、健常者が通常行う行動パターンを集積した情報である。
第5の発明によれば、使用者の行動情報と、第1の記憶部に備えられた通常行動情報との一致性または類似性を判断しつつ、その度合いが予め決定された第2の所定値を下回るものであれば、トイレ室の一回の使用であっても精度良く、使用者の認知機能の変化を判定することができる。
【0017】
第6の発明は、第5の発明において、判定部は、行動情報と通常行動情報との一致性または類似性が予め決定された第2の所定値よりも低いほど、使用者の認知機能の低下の程度が大きいと判定することを特徴とする。
【0018】
認知機能が低下した人の行動は、正常な認知機能を有する健常者とは異なる行動パターンを取る傾向にある。そのため、通常行動のパターンと比較して、合致率が低ければ低いほど、認知機能が低下している可能性が高いと判定することが可能になる。
第6の発明によれば、第1の記憶部に備えられた通常行動情報との合致率が低ければ低いほど、認知機能の低下が大きいと判断することができる。これにより、認知機能が低下しているか否かだけでなく、軽度認知障害なのか認知症を発症しているおそれがあるのかという認知機能の低下の程度も含めて判定することが可能となる。
【0019】
第7の発明は、第2~6の発明のいずれか1つにおいて、第1の記憶部は、トイレ室外に設けられたサーバ内に設けられ、第1の記憶部に備えられた異常行動情報または通常行動情報は更新可能であることを特徴とする。
【0020】
少なくとも認知機能が低下した人の行動情報、または正常な認知機能を有する健常者の行動情報は、システム導入の時点から増加し発展することが考えられる。比較対象である異常行動情報、または通常行動情報が増大すれば、その分判定部による判定精度が向上する。
そこで、第7の発明によれば、第1の記憶部に備えられた異常行動情報、または通常行動情報を、システム導入時にサーバ内に準備された情報だけでなく、システム導入後に得られた異常行動情報、または通常行動情報に追加や更新することができるため、より精度良く、使用者の認知機能の変化を判定することができる。
【0021】
第8の発明は、第1~7の発明のいずれか1つにおいて、使用者を認証するための個人認証部を有し、判定部は、個人認証部により認証された使用者情報に応じて、使用者の認知機能の変化の判定の要否を判断することを特徴とする。
【0022】
人によっては、閉所恐怖症などの理由から排泄中であるにも関わらず、トイレ室のドアを開けっ放しにする等、使用者の認知機能が低下していない場合であっても、認知機能が低下したと判定されてしまうおそれがある。
第8の発明によれば、個人認証部により認証された使用者情報に応じて認知機能の変化を判定することができるため、認知機能の低下のおそれのない使用者は判定を省略することもでき、一方判定が必要な使用者に対しては、より精度良く使用者の認知機能の変化を判定することができる。
【0023】
第9の発明は、第8の発明において、トイレ室内又は室外に、判定部による判定結果を格納する第2の記憶部を有し、判定部による判定結果が使用者情報と関連付けられて第2の記憶部に格納され、判定部は、第2の記憶部に格納された過去の判定結果と対比して、使用者の認知機能の低下あるいは回復を判定することを特徴とする。
【0024】
認知症予備軍と言われる軽度認知障害の人々の認知機能は、普段の生活における意識を少し変えるだけで正常範囲に戻る確率が飛躍的に高まる。しかしながら、認知機能は一度低下したら低下し続ける一方であると誤解している方が多く、また、認知機能の回復を定量的に意識できる機会が少ないため、軽度認知障害と診断されたことによって塞ぎがちになり、認知症の発症へと進行を速めてしまう人も少なくない。
第9の発明によれば、認知機能の変化の判定結果が、個人認証部により認証された個人毎に第2の記憶部に格納されているため、使用者毎に認知機能の低下あるいは回復を判定することができる。これによって、使用者自身の認知機能の推移を適切に判定することが可能となり、認知機能の低下が進行してしまうことを防止することが可能な認知機能判定システムを提供することができる。
【0025】
第10の発明は、第1~9の発明のいずれか1つにおいて、判定部による判定結果を出力する出力部を有し、出力部は、トイレ室外に設けられていることを特徴とする。
【0026】
認知機能の低下が判定されたとしても、使用者自身がその結果を恥じて、自らの認知機能が正常であると取りつくろってしまうと、周囲の人が気づくことができず、認知機能の低下が進行してしまうおそれがある。
第10の発明によれば、認知機能の変化を出力する出力部がトイレ室外に設けられているため、周囲の人が認知機能を認識しやすい認知機能判定システムを提供することができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、排泄行為を行う場合、正常な認知機能を有する健常者であればトイレ室内に入室、排泄、トイレ室内から退室という一連の行動が必ず検出されるトイレ室内の使用者の行動情報から、トイレ室の一回の使用であっても精度良く、使用者の認知機能の変化を判定することができる認知機能判定システムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の実施形態に係る認知機能判定システムをブロック図で模式的に示した図である。
図2】本発明の実施形態に係る認知機能判定システムの概略構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態にかかる認知機能判定システムにおいて、使用者の行動を解析する解析方法の一例を示すフローチャートである。
図4】本発明の実施形態にかかる認知機能判定システムにおいて、使用者の認知機能を判定する判定方法の一例を示すフローチャートである。
図5】本発明の実施形態にかかる認知機能判定システムにおいて、使用者の認知機能を判定する判定方法の一例を示すフローチャートである。
図6】本発明の実施形態にかかる認知機能判定システムにおいて、認知機能の判定結果を出力する出力方法の一例を示すフローチャートである。
図7】本発明の第1実施例にかかる認知機能判定システムの概略構成を示すブロック図である。
図8】本発明の第2実施例にかかる認知機能判定システムの概略構成を示すブロック図である。
図9】本発明の第1及び第2実施例にかかる認知機能判定システムにおいて、検出部が検出するデータのタイムチャートである。
図10】本発明の第1及び第2実施例にかかる認知機能判定システムにおいて、使用者の行動を解析する解析方法の概念図である
図11】本発明の第1及び第2実施例にかかる認知機能判定システムにおいて、使用者の認知機能を判定する判定方法の概念図である
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下で説明する実施形態は、いずれも本開示の一実施形態を示すものである。以下の実施形態で示される構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などはあくまで一例であり、本発明を限定するものではない。また、以下の実施形態における構成要素のうち、本開示の最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。また、図面において同じ符号が付いたものは、説明を省略する場合がある。
【0030】
図1は、本発明の実施形態に係る認知機能判定システムをブロック図で模式的に示した図である。
図1に示すように、認知機能判定システム100は、検出部110と、解析部130と、判定部150とを有する。さらに、時間取得部120と、第1の記憶部140と、個人認証部160と、第2の記憶部170と、出力部180とを有することが好ましい。
【0031】
検出部110は、少なくともその一部がトイレ室内に設けられたものであり、便器5への着座等のトイレ室内における使用者の動作にかかる情報である動作情報112や、温水洗浄便座のリモコン等トイレ室内に設置された各種電子機器の使用者による操作にかかる情報である操作情報114を検出する。このために、検出部110は、例えば人体検知センサ17や、着座検知センサ19、入退室検知センサ25、あるいは操作部30などを備える。
【0032】
時間取得部120は、人体検知センサ17によってトイレ室内で使用者が検知された日時や、着座検知センサ19によって着座が検出されている経過時間など、使用者の動作や使用者による操作等に対応した時間情報122を取得する。
【0033】
解析部130は、上述した各種検出部110によって取得された動作情報112や操作情報114に基づいて、トイレ室内で使用者がとった行動を解析する。解析部130は、例えばトイレ室内の電子機器に設けられたマイクロプロセッサやCPUにより実現される。また、この解析部130による解析は、上述した時間取得部120によって取得された時間情報122を共に用いることで、精度を向上させることが可能となる。解析部130による解析の方法については後に詳述する。
【0034】
第1の記憶部140は、正常な認知機能を有する人(以下、健常者という)がトイレ室内で通常行う複数の行動パターンを集積した通常行動情報142や、認知機能が低下した人がトイレ室内で過去に取った行動あるいは取るであろうと推測される行動を集積した異常行動情報144を備える。この通常行動情報142及び異常行動情報144は、認知機能判定システム100の設置後であっても、追加や更新することができるように構成されていることが好ましい。以下、説明の便宜上、通常行動情報142と異常行動情報144を合わせた情報を「参照情報146」と称する。この第1の記憶部140は、不揮発性の半導体メモリや磁気ディスク等の電磁的記録手段により実現することができる。
【0035】
判定部150は、解析部130によって解析されたトイレ室内で使用者の行動や機器の操作に基づいて使用者の認知機能を判定する。判定部150は、例えばトイレ室内の電子機器に設けられたマイクロプロセッサやCPUにより実現される。なお、解析部130と判定部150とは同一のプロセッサ内に設けられても良く、異なるプロセッサとして実現されてもよい。また、判定部150による判定は、上述した第1の記憶部140に記憶された参照情報146に基づいて認知機能を判定することで、精度を向上させることが可能となる。
【0036】
個人認証部160は、トイレ室内に入退室する使用者を認証する。個人認証部160としては、特定のボタンを押すことで使用者を認証しても良いし、使用者の生体情報を検出することで認証してもよい。生体情報で使用者を認証する手段としては、例えば声紋、指紋、掌紋、網膜、虹彩、静脈、顔等の生体情報から予め入力した個人情報と比較することで認証する生体認証装置などが挙げられる。なお、個人認証部160は必ずしもトイレ室内に設ける必要はなく、トイレ室の外部に設置されるものであってもよい。例えば光学カメラによる個人認証を行う場合には、プライバシーの保護の観点でも室外の設置が好ましい。
【0037】
第2の記憶部170は、本システムを用いて過去に認知機能の判定を行っていた場合、個人認証部160の認証結果と関連づけて格納される記憶領域であり、不揮発性の半導体メモリや磁気ディスク等の電磁的記録手段が用いられる。
【0038】
また、判定部150は、個人認証部160によって認証された使用者の認知機能の判定結果が第2の記憶部170に記憶されていた場合、今回の認知機能の判定結果と第2の記憶部170に記憶されていた過去の判定結果とを比較し、認知機能の低下あるいは回復を判定するように構成してもよい。判定部150による判定の方法については後に詳述する。
【0039】
出力部180は、個人認証部160により認証された個人に関する情報、判定部150によって判定された今回の認知機能の判定結果や、過去の認知機能の判定結果との比較に基づく認知機能の低下や回復の傾向、当該判定結果に関する助言や宣伝など、本システムの機能に関連する情報を出力可能とするものである。この出力部180は、トイレ室内にいる使用者に出力するものであってもよく、当該システムに接続された遠隔の関係者、管理者等への出力であってもよく、例えば視覚情報を出力する液晶モニタや有機ELモニタ等の表示装置、聴覚情報を出力するスピーカ等の音声出力装置等で構成される。出力部180による出力の方法については後に詳述する。
【0040】
[装置構成]
図2は、認知機能判定システムの概略構成を示すブロック図である。
図2に示すように、認知機能判定システム100は、トイレ室に設けられた腰掛大便器5(以下、説明の便宜上、単に「便器」と称する)と、便器5に着脱可能に又は一体的に設置された便座装置10と、を備える。また、便座装置10は、本体部12と、便座14と、便蓋16とを備える。
【0041】
またトイレ室には、トイレ室内の使用者の人体を検出する人体検知センサ17を設けることができる。人体検知センサ17としては、例えば赤外線や超音波、可視光、マイクロ波センサ、音波センサ、静電タッチセンサ、温度センサ等の検出手段を用いることができる。
【0042】
また便座14には、使用者が便座14に着座または離座したことを検出する着座検知センサ19が設けることができる。着座検知センサ19としては、例えば歪みセンサや圧力センサ、赤外線センサ等の検出手段を用いることができる。
【0043】
また使用者がトイレ室に入退室したことを検出する入退室検知センサ25を設けることができる。入退室検知センサ25としては、例えばトイレ室のドア20にマグネットセンサや変位センサ、振動センサ等の検出手段を用いることができる。なお、ドア20にマグネットセンサを用いることで、入退室したことだけでなく、ドア20の開閉状態も検出することが出来る。
【0044】
またトイレ室内には、モニタ26や、紙巻き器28、各種機器の操作部30等が設置される。さらに本システムとして、カメラ32やマイク34等の検知手段を設置しても良い。操作部30は、例えば、複数のスイッチ31などを有し、有線又は無線を介して便座装置10と接続され、使用者から入力された操作指示を本体部12に送信するよう構成してもよい。なおこの場合、本体部12へ操作指示を送信する方法は、例えば、便座装置10に設けられた操作パネルや、モニタ26に表示される画面、カメラ32で検出可能な動き、マイク34で検出可能な音などを利用して行ってもよい。
【0045】
認知機能判定システム100は、本体部12が受信した操作指示や、人体検知センサ17、着座検知センサ19、入退室検知センサ25、カメラ32、マイク34等によって検出されたデータを解析することで、トイレ室1内での使用者の行動情報を生成し、これに基づいて使用者の認知機能を判定する。
【0046】
認知機能判定システム100は、認知機能の判定結果を、画像の表示や音の出力等により、トイレ室1を現在使用している使用者に報知する。また、判定結果を報知する対象は、使用者自身に限らず、その使用者を保護監督する親族や、介護施設・医療施設の管理者等、本発明にかかるシステムの関係者であってもよい。
【0047】
[解析方法]
図3は、本発明の実施形態にかかる認知機能判定システムにおいて、使用者の行動を解析する解析方法の一例を示すフローチャートである。以下、図3を参照しつつ、本発明の実施形態にかかる認知機能判定システムにおける行動情報の解析方法を説明する。
【0048】
ステップS101において、使用者がトイレ室内に入室したか否かを解析部130が解析する。入室の有無は、人体検知センサ17や入退室検知センサ25によって解析することができる。ただし認知機能が低下している場合や、閉所恐怖症などの場合は、入室したもののトイレ室のドア20が常に開状態の場合もあることから、人体検知センサ17、あるいは人体検知センサ17と入退室検知センサ25との複合により入室の解析を行うことが好ましい。
【0049】
ステップS102において、便座14への着座までの使用者の行動を解析する。解析部130によって、使用者が便座14に着座するという行動をとったと解析されるまでの間に、認知機能の低下が疑われる行動がなかったか判定するため、判定部150は入室から着座までの期間において認知機能判定フローを実行する。例えば、便座14への着座が検知されるまでに操作部30に対する操作が検出された場合や、ドア20を閉状態にすることなく脱衣が検出された場合は、判定部150により認知機能が低下しているとの判定材料となる。
【0050】
ステップS103において、着座検知センサ19やカメラ32等により使用者の便座14への着座を解析する。着座の解析方法としては、例えば便座14に圧力がかかっていない状態から圧力がかかっている状態に遷移したことが検出された後、時間取得部120によって、圧力がかかっている状態が所定時間経過したことが取得されたとき、解析部130は、使用者が便座14に着座するという行動をとったと解析することができる。
【0051】
ステップS104において、便座14からの離座までの使用者の行動を解析する。解析部130によって、使用者が便座14から離座するという行動をとったと解析されるまでの間に、認知機能の低下が疑われる行動がなかったか判定するため、判定部150は着座から離座までの期間において認知機能判定フローを実行する。例えば、便座14からの離座が検知されるまでにドア20を開状態にしたまま排泄が検出された場合や、便座14に圧力がかかっている状態とかかっていない状態が短時間に繰り返された場合は、判定部150により認知機能が低下しているとの判定材料となる。なお、使用者が男性で且つ排泄が小便の場合など必ずしも着座と離座を伴わない場合があるため、個人認証部160による個人認証や排泄物の特定などにより通常行動又は異常行動の判断根拠を取得することが好ましい。
【0052】
ステップS105において、着座検知センサ19やカメラ32等により使用者の便座14からの離座を解析する。離座の解析方法としては、例えば着座検知センサ19によって、便座14に圧力がかかっている状態から圧力がかかっていない状態に遷移したことが検出された後、時間取得部120によって、圧力がかかっていない状態が所定時間経過したことが取得されたとき、解析部130は、使用者が便座14から離座するという行動をとったと解析することができる。
【0053】
ステップS106において、トイレ室からの退室までの使用者の行動を解析する。解析部130によって、使用者がトイレ室1から退室するという行動をとったと解析されるまでの間に、認知機能の低下が疑われる行動がなかったか判定するため、判定部150は離座から退室までの期間において認知機能判定フローを実行する。例えば、排泄後に局部を拭くことなく退室した場合や、排泄したにも関わらず水を流さなかった場合は、判定部150により認知機能が低下しているとの判定材料となる。また、便器5内の水で手を洗った場合や、使用者が排泄した排泄物をもてあそんだ場合は、その他の行動で判定部150により認知機能が低下していないと判定されていたとしても、使用者が認知症を発症しているとの判定材料となる。
【0054】
ステップS107では、使用者がトイレ室から退室したか否かを解析部130が解析する。退室の有無は、人体検知センサ17や入退室検知センサ25によって解析することができる。ただし認知機能が低下している場合や閉所恐怖症などの場合は、入室時からトイレ室のドア20が常に開状態の場合もあることから、人体検知センサ17、あるいは人体検知センサ17と入退室検知センサ25との複合により退室の解析を行うことが好ましい。
【0055】
なお、判定部150による使用者の認知機能の低下の判定結果については、上述した認知機能判定フローのそれぞれのタイミングで出力部180により出力してもよいし、使用者が退室する前のタイミングで結果を総合して出力しても良い。また判定結果を使用者以外の当該システムの関係者に報知する場合には、使用者のトイレ室内の一連の行動について、判定結果を総合して報知すると良い。
【0056】
[判定方法]
図4及び図5は、本発明の実施形態にかかる認知機能判定システムにおいて、使用者の認知機能を判定する判定方法の一例を示すフローチャートである。以下、図4及び図5を参照しつつ、本発明の実施形態にかかる認知機能判定システムにおける認知機能の判定方法を説明する。
【0057】
使用者の認知機能の判定は、上述のとおり、トイレ室内での使用者の動作や使用者による機器の操作にかかる情報に基づいて行う。特に、健常者がトイレ室内で通常とりえる動作や機器の操作、認知機能の低下した人がとりえる動作や機器の操作を参照情報146として比較することで、認知機能の判定を行う。
本判定のフローにかかる設計思想として、(A)使用者のトイレ室内での動作に対し、状況を評価しながら随時判定を実行する場合と、(B)使用者のトイレ室内での一連の行為の終了後に検知されたパターンから総合的に判定を実行する場合とに大別される。
【0058】
まず、使用者のトイレ室内での動作に対し、状況を評価しながら随時判定を実行する場合(A)について図4を用いて説明する。
ステップS401において、第1の記憶部(ROM等)に格納された参照情報146をRAM等に読み出し、即時演算可能な状態とするように、判定の準備を行う。特に個人認証部160により個人が認証される場合には比較に必要な情報が限られる場合があり、演算速度を速めることができる。例えば、トイレ室のドア20を開状態で排泄することが、過去の解析部130による解析結果から習慣になっていることが確認されている使用者が認証された場合、トイレ室のドア20の開閉状態に関する参照情報146を読みだす必要がなくなる。なお、参照情報146の情報量や通信速度等の物理的制約によっては、あえて事前に参照情報146を読み出す必要はない。
【0059】
ステップS402において、解析部130により解析された使用者の行動情報又は操作情報と、参照情報146との比較を行う。当該比較は、例えば健常者がトイレ室内でとりえる通常の動作又は機器の操作について、検出部110により検出される情報や時間取得部120により取得される時間情報122から解析された行動のパターンが集積されることでリスト化されたテーブルや、認知機能が低下した人がトイレ室内でとりえる異常な動作又は機器の操作について同様にリスト化されたテーブルを参照情報146として用いて行うと良い。
【0060】
解析部130により解析された使用者の行動情報又は操作情報と、参照情報146との比較は、種々の方法で実施することができる。例えば、リスト化された異常行動を示すパターンごとにスコアを付し、該当するパターンのスコアのトータルに応じて認知機能の低下の程度を算出することができる。各パターンに付すスコアは均一にする必要はなく、認知症と判定すべき異常行動を示すパターンに対しては高いスコアを付してもよい。この場合、異常行動情報144に対して予め決定された第1の所定値を上回るスコアが算出されたとき、もしくは通常行動情報142に対して予め決定された第2の所定値を下回るスコアが算出されたときに認知機能が低下していると判定することができる。
【0061】
また、使用者のトイレ室内での動作に対し、状況を評価しながら随時判定を実行する場合には、判定結果に対し随時更新、上書きを行うとよい。すなわち、トイレ室入室の直後に異常行動に相当する使用者の動作を検知した場合であっても、その後の一連の行動が健常者のトイレ使用パターンに合致する場合には、初期の判定結果を更新して認知機能の低下は無い又は少ないとすることができる。
【0062】
ステップS403では、上記のようにして判定された結果を、第2の記憶部170に格納する。随時判定が実行されるため、判定結果は時系列に格納していくことが好ましい。また、個人認証部160により使用者を認証して判定を実行している場合には、使用者に関する情報と、判定結果とを関連付けて第2の記憶部170に格納することができる。
【0063】
次に、使用者のトイレ室内での一連の行為の終了後に検知されたパターンから総合的に判定を実行する場合(B)について図5を用いて説明する。
ステップS501において、解析部130により解析された結果を第2の記憶部170に随時格納する。具体的には、使用者の入室後から随時解析部130により解析される使用者の行動情報又は操作情報に関する複数の情報を随時第2の記憶部170に格納する。このとき、時間取得部120により取得される時間情報122と関連付けて第2の記憶部170に格納することで、後の工程において、精度よく参照情報146と比較することができる。
【0064】
ステップS502において、第2の記憶部170に格納された複数の情報を用いて最後に総合的に認知機能の低下についての判定を実施する。具体的には、第2の記憶部170に格納された複数の情報からなる一連のパターンと、第1の記憶部140に格納された参照情報146とを比較する。
【0065】
ステップS503において、参照情報146の中で、今回第2の記憶部170に格納された複数の情報に最も近いパターンを一つ又は複数抽出する。
【0066】
ステップS504において、抽出した参照情報146と、第2の記憶部170に格納された複数の情報との類似性(一致性)を定量化する。このようにして、第2の記憶部170に格納された使用者のトイレ室内での一連の行為に対する解析結果を、全体的に判定することで、認知機能を判定することができる。
【0067】
ステップS505において、上記のようにして判定された認知機能の判定結果を、第2の記憶部170に格納する。使用者のトイレ室内での一連の行為の終了後に判定結果を第2の記憶部170に格納することで、(A)の場合よりも第2の記憶部170に格納する情報を少なくすることができる。
ただし(B)の場合であっても、時系列における所定の特徴的期間ごとに分離して参照情報146との比較を部分的に実施することもできる。このような判定処理は、参照情報146の情報量の多寡、判定の処理速度、求める判定精度等によって適宜選択することができる。
【0068】
[出力方法]
図6は、本発明の実施形態にかかる認知機能判定システムにおいて、認知機能の判定結果を出力する出力方法の一例を示すフローチャートである。以下、図6を参照しつつ、本発明の実施形態にかかる認知機能判定システムの出力方法を説明する。
【0069】
本出力のフローにかかる設計思想として、(C)今回の認知機能の判定結果を出力する場合と、(D)過去の認知機能の判定結果からの変化(低下もしくは回復)を出力する場合とに大別される。
【0070】
ステップS601において、個人認証部160によって使用者が認証されなかった場合(ステップS601、No)、ステップS602において、出力部180は今回の認知機能の判定結果を出力する。
一方、ステップS601において、個人認証部160によって使用者が認証された場合(ステップS601、Yes)、ステップS603において、認証された使用者の過去の判定結果が第2の記憶部170(ROM等)に格納されているかを確認する。
【0071】
ステップS603において、認証された使用者の過去の判定結果が第2の記憶部170に格納されていなかった場合(ステップS603、No)、つまり初めての使用者だった場合、ステップS602において、出力部180は今回の認知機能の判定結果を出力する。
【0072】
ステップS603において、認証された使用者の過去の判定結果が第2の記憶部170に格納されていた場合(ステップS603、Yes)、ステップS604において、認知機能の変化を出力する必要がある使用者か否かを確認する。
【0073】
ステップS604において、認知機能の変化を出力する必要がない場合(ステップS604、No)、例えば、個人認証部160によって認証された使用者が認知症を発症するおそれが低い年齢である場合や、使用者によって認知機能の変化を出力しないという設定にされている場合などは、認知機能の変化を出力しない。
【0074】
一方、S604において、認知機能の変化を出力する必要が有る場合(ステップS604、Yes)、ステップS605において、第2の記憶部170に格納された認証された使用者の過去の判定結果と、今回の認知機能の判定結果とに基づいて、認知機能の変化を出力する。なお、たとえ使用者によって認知機能の変化を出力しないという設定にされている場合であっても、過去の認知機能の判定結果が正常であったのに対して、今回の認知機能の判定結果が異常であった場合は、認知機能の変化を出力することが好ましい。これによって、自覚しないまま回復できない程度に認知機能の低下が進んでしまうことを防止することができる。
【0075】
[第1実施例]
図7は、第1実施例にかかる認知機能判定システムの概略構成を示すブロック図である。第1実施例に示す認知機能判定システムは、全ての構成がトイレ室内に設置されるものである。以下、図7を参照して本実施例の認知機能判定システムについて説明する。
【0076】
図7に表したように、トイレ室内に、便座装置10と、便座装置10を操作するための操作部30であるリモコン50とを設けた。
【0077】
便座装置10は、動作情報112を検出する検出部110と、時間取得部120を検出するタイマー52と、解析部130及び判定部150を兼ねるCPU54、及び第1の記憶部140及び第2の記憶部170を兼ねるメモリ56を備えた制御装置58と、リモコン50と通信するための通信機60とを備えている。
【0078】
リモコン50は、操作情報114を検出する検出部110としての操作ボタン62と、その操作ボタン62の内、使用者を特定する個人認証部160としての機能を有する個人認証ボタン64と、出力部180であるモニタ26と、便座装置10と通信するための通信機60とを備えている。
【0079】
第1実施例において、検出部110は、便座装置10に設けられたマイクロ波センサ46及び圧力センサ48と、リモコン50に設けられた操作ボタン62よって構成した。具体的には、マイクロ波センサ46が、使用者によるトイレ室内への入退室を検出し、圧力センサ48が、使用者による便座14への着座を検出し、操作ボタン62が、使用者による便座装置10への操作を検出することで、使用者の動作または操作に基づく情報を取得する。
【0080】
検出部110によって検出された、使用者の動作または操作に基づく情報は、便座装置10及びリモコン50に設けられた通信機60によって、タイマー52によって検出された時間情報122と共に、制御装置58に送信され、制御装置58が備えるCPU54によって解析されると共にメモリ56に記憶される。
【0081】
制御装置58に備えられたCPU54は、メモリ56に記憶された情報に基づいて使用者の認知機能を判定する。このとき、リモコン50に設けられた個人認証ボタン64によって特定された使用者の情報が、リモコン50に設けられた通信機60から送信され、認知機能の判定結果は送信された使用者の情報と共にメモリ56に記憶される。
【0082】
また、CPU54によって判定された、今回の認知機能の判定結果は、通信機60によってリモコン50に送信され、リモコン50に設けられたモニタ26に表示される。このとき、メモリ56に既に認知機能の判定結果が記憶されていた使用者に対して結果を表示する場合には、過去の認知機能の判定結果からの変化(低下あるいは回復)が表示される。
【0083】
[第2実施例]
図8は、第2実施例にかかる認知機能判定システムの概略構成を示すブロック図である。
本実施例は、第1実施例に対して、解析部130や判定部150、第1の記憶部140、第2の記憶部170に当たる構成をトイレ室外に設置している点で相違する。すなわち、本発明にかかる認知機能判定システム100の一部を、インターネットを介した外部のクラウドサーバ66により構成した。以下、図8を参照して本実施例の認知機能判定システムについて説明する。
【0084】
図8に表したように、トイレ室内には、便座装置10と、便座装置10を操作するための装置であるリモコン50と、それらの装置及びトイレ室外との通信を行う通信機60が設けられる。そして、トイレ室外にクラウドサーバ66が設けられる。
【0085】
第2実施例において、クラウドサーバ66は、第1実施例において便座装置10に設けられたメモリ56よりも大規模な保存領域を有するストレージ68と、解析部130と判定部150の機能を備えるサーバ70とが設けられる。
【0086】
本実施例においては、参照情報146が記憶されるクラウドサーバ66上のストレージ68がインターネットと接続しており、第1実施例のように本システムがトイレ室内で完結していない。このため、参照情報146を常に外部から追加・更新することができるため、参照情報146についての情報量の増加や内容の精緻化をすすめることにより、本システムの判定精度を高めることができる。
【0087】
また、本実施例の認知機能判定システムは、トイレ室内で構成されるシステムとは異なり、外部のネットワークに接続する。このため様々な外部データと情報のやり取りが可能であり、取り扱うデータ量は膨大ともなる。そこで、クラウドサーバ66上のサーバ70にAI(人工知能)技術やビッグデータ分析技術を用いることで、膨大な検出パターンから認知機能の低下を示すパターンを算出し、今回の使用者のトイレ室内での行動情報との類似性(一致性)を即座に判断することができる。
【0088】
さらに、本システムがインターネットに接続されることにより、認知機能の判定結果を外部からアクセスすることが容易となる。このため、例えば医療機関や介護施設に設けられたモニタ26等に認知機能の判定結果を出力することができる。
【0089】
以上に述べた点を除き、認知機能判定システム100が備えた各構成については、第1実施例で述べたものと同様の構成とすることができるので、詳細な説明を省略する。
【0090】
[第3実施例]
本実施例では、実施例1及び実施例2で述べた認知機能判定システムにおける認知機能の判定方法の具体例について、図9乃至図11を用いて説明する。
図9は、第1及び第2実施例にかかる認知機能判定システムの検出部が検出するデータのタイムチャートの一例を示す図である。
図10は、第1及び第2実施例にかかる認知機能判定システムの解析部が行う解析方法の概念図である。
図11は、第1及び第2実施例にかかる認知機能判定システムの判定部が行う判定方法の概念図である。
【0091】
図9に示すように、使用者の操作や行動に応じて、ドアセンサやマイクロ波センサ等の各センサやリモコン等の機器は、所定の信号として検出する。これらの信号は時間情報122とともにデジタルデータとして、メモリ56又はクラウドサーバ66のストレージ68に格納される。これらのデータは、制御装置58のCPU54や、クラウドサーバ66のサーバ70によって解析される。
【0092】
図10に示したように、解析部130であるCPU54やサーバ70によって実行される解析は、各センサやリモコン等の機器により検出された順に時系列で解析処理される。
【0093】
本実施例において、ドアセンサによりOFFからONになった検出データが得られたとき、使用者がドアを開けるという行動を取ったと解析をする(t1 )。次に、ドアセンサがONになった状態のまま、マイクロ波センサによりOFFからONになった検出データが得られたとき、使用者がトイレ室に近づく行動を取ったと解析をする(t2 )。そして、ドアセンサによりONからOFFになった検出データが得られたとき、使用者がトイレ室に入室してドアを閉めるという行動を取ったと解析をする(t3 )。以下、同様に図10に示したように、解析部130が解析をするため、説明を省略する。
【0094】
図11に示したように、判定部150であるCPU54やサーバ70によって実行される認知機能の判定は、メモリ56やストレージ68に記憶された参照情報146と、解析された使用者の行動情報または操作情報との類似性(一致性)に基づいて実行する。
【0095】
本実施例において、メモリ56やストレージ68に記憶された参照情報146は、ドアを閉めてから着座までに要した時間が1分以内であるという通常行動情報142、着座前にリモコン50を操作するという異常行動情報144、及び、排泄が検知された場合、退室前に洗浄水を流すという通常行動情報142である。
【0096】
本実施例において、解析部130によってドアを閉めるという行動が解析された時間(t3 )と、解析部130によって使用者が便座14に着座するという行動が解析された時間(t5 )との時間差(t5 ―t3 )は、一分以内である。そのため、参照情報146に記憶された通常行動情報142と一致している。このとき、判定部150は、認知機能低下スコアを-0と判定する。
【0097】
本実施例において、解析部130によって使用者が便座14に着座するという行動が解析された時間(t5 )の前の時間である(t4 )にて、解析部130によって使用者がリモコン50を操作したという行動が解析されている。そのため、参照情報146に記憶された異常行動情報144と一致している。このとき、判定部150は、認知機能低下スコアを-10と判定する。
【0098】
本実施例において、解析部によって使用者の排泄が行った行動が解析されている(t6 )。しかしながら、洗浄検知センサがONになったことが検出データから得られていないため、洗浄水を流したという行動が解析されていない。そのため、参照情報146に記憶された通常行動情報142と一致していない。このとき、判定部150は、認知機能低下スコアをー30と判定する。
【0099】
本実施例において、使用者がトイレ室に入室してから退室するまでの間に検出されたデータを解析することで得られた使用者の行動情報または操作情報に基づいて、認知機能低下スコアが-40であると判定する。その後、モニタ26によって認知機能が低下しているおそれがあることを表示する。これによって、トイレ室の一回の使用であっても精度良く、使用者の認知機能の変化を判定することができる認知機能判定システムを提供することができる。
【符号の説明】
【0100】
5・・・腰掛大便器、便器
10・・・便座装置
12・・・本体部
14・・・便座
16・・・便蓋
17・・・人体検知センサ
19・・・着座検知センサ
20・・・ドア
25・・・入退室検知センサ
26・・・モニタ
28・・・紙巻き器
30・・・操作部
32・・・カメラ
34・・・マイク
46・・・マイクロ波センサ
48・・・圧力センサ
50・・・リモコン
52・・・タイマー
54・・・CPU
56・・・メモリ
58・・・制御装置
60・・・通信機
62・・・操作ボタン
64・・・個人認証ボタン
66・・・クラウドサーバ
68・・・ストレージ
70・・・サーバ
100・・・認知機能判定システム
110・・・検出部
112・・・動作情報
114・・・操作情報
120・・・時間取得部
122・・・時間情報
130・・・解析部
140・・・第1の記憶部
142・・・通常行動情報
144・・・異常行動情報
146・・・参照情報
150・・・判定部
160・・・個人認証部
170・・・第2の記憶部
180・・・出力部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11