(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置、及び、インクジェット記録装置の制御方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/175 20060101AFI20221109BHJP
B41J 2/19 20060101ALI20221109BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B41J2/175 171
B41J2/19
B41J2/175 305
B41J2/01 401
(21)【出願番号】P 2018149192
(22)【出願日】2018-08-08
【審査請求日】2021-07-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高木 友宏
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-034194(JP,A)
【文献】特開2004-174793(JP,A)
【文献】国際公開第2015/125542(WO,A1)
【文献】特開2012-011669(JP,A)
【文献】特開2017-024217(JP,A)
【文献】特開2009-279848(JP,A)
【文献】特開平08-216422(JP,A)
【文献】国際公開第2013/128945(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを脱気するインク脱気装置と、
前記インクを射出するためのヘッド部と、
前記インク脱気装置の下流側に設けられて供給される前記インクを収容する、規定範囲内のインク量をAcm
3、前記インク量Aにおける前記インクと大気との接触面積をBcm
2としたときに、B≦0.5Aとなるインクタンクと、
前記インクタンク内の前記インクを加熱するためのインクタンク加熱部と、
前記インクタンク内の前記インクの背圧を調節する背圧調節部と、
前記インクタンク内の前記インクの温度を、前記インク脱気装置の温度以下であり、大気の温度との温度差を30℃以下に前記インクタンク加熱部を制御する制御部と、を備える
インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記ヘッド部を加熱するためのヘッド加熱部を備える
請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インク脱気装置の上流側に配置された前記インクを貯留するためのインク貯留部と、
前記インク貯留部から前記インク脱気装置に前記インクを送液するインク送液部と、を備える
請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記インクタンクに収容されている前記インク量を検知するためのインク量検知部を備える
請求項1から3のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記制御部は、B≦0.5Aとなるように前記インクタンク内の前記インク量を制御す
る
請求項4に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記インクタンク内において、前記インクと大気との接触を部分的に遮断するための大気遮断部を備える
請求項1から5のいずれかに記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記大気遮断部が前記インク上を覆う蓋部材である
請求項6に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記蓋部材が、前記インクタンクに収容されている前記インク量を検知するためのインク量検知部を構成する
請求項7に記載のインクジェット記録装置。
【請求項9】
インクを脱気するインク脱気装置と、前記インクを射出するためのヘッド部と、前記インク脱気装置の下流側に設けられて前記インクを収容するインクタンクと、前記インクタンク内のインクを加熱するためのインクタンク加熱部と、前記インクタンク内の前記インクの背圧を調節する背圧調節部と、を備えるインクジェット記録装置の制御方法であって、
前記インクタンク内の前記インクの体積をAcm
3、前記インク量Aにおける前記インクと大気との接触面積をBcm
2としたときに、B≦0.5Aとなるように前記インクタンク内の前記インク量を制御
し、
前記インクタンク内の前記インクの温度を、前記インク脱気装置の温度以下であり、大気の温度との温度差を30℃以下に前記インクタンク加熱部を制御する
インクジェット記録装置の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置、及び、インクジェット記録装置の制御方法に係わる。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置では、インクをヘッド部から射出する際にインクに気泡が存在すると、射出不良等を生じてしまう。このため、インクをヘッド部に送液する前に、インク脱気装置によってインクを脱気するインクジェット記録装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、インクタンク内でのインクと大気との接触を抑制するために、インク液面に蓋体を設けるインクジェット記録装置のインク供給装置が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-24217号公報
【文献】特開平08-216422号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェット記録装置では、ヘッド部でのメニスカス制御のためにヘッド部を負圧にする必要がある。このため、インクジェット記録装置では、インクを脱気するだけではなく、ヘッド部近傍においてインクと大気とを接触させて、ヘッド部における背圧制御を行うことが求められている。このような背圧制御を行うインクタンクでは、インクと大気とが接触するため、インクタンク内においてインクの脱気度が低下してしまう。
【0005】
上述した問題の解決のため、本発明においては、インクの脱気度の低下を抑制したインクタンクの背圧制御が可能なインクジェット記録装置、及び、インクジェット記録装置の制御方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のインクジェット記録装置は、インクを脱気するインク脱気装置と、インクを射出するためのヘッド部と、インク脱気装置の下流側に設けられて供給されるインクを収容する、規定範囲内のインク量をAcm3、インク量Aにおけるインクと大気との接触面積をBcm2としたときに、B≦0.5Aとなるインクタンクと、インクタンク内のインクを加熱するためのインクタンク加熱部と、インクタンク内のインクの背圧を調節する背圧調節部とを備える。
【0007】
また、本発明のインクジェット記録装置の制御方法は、インクを脱気するインク脱気装置と、インクを射出するためのヘッド部と、インク脱気装置の下流側に設けられてインクを収容するインクタンクと、インクタンク内のインクを加熱するためのインクタンク加熱部と、インクタンク内のインクの背圧を調節する背圧調節部と、を備えるインクジェット記録装置において、インクタンク内のインクの体積をAcm3、インク量Aにおけるインクと大気との接触面積をBcm2としたときに、B≦0.5Aとなるようにインクタンク内のインク量を制御する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、インクの脱気度の低下を抑制したインクタンクの背圧制御が可能なインクジェット記録装置、及び、インクジェット記録装置の制御方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】インクジェット記録装置の概略構成を示す図である。
【
図3】インクジェット記録装置における、インク貯留部からヘッド部にインクを供給するためのインク供給系のブロック図である。
【
図4】インクタンク及びその周辺の構成を示す図である。
【
図5】インクジェット記録装置の機能構成を示すブロック図である。
【
図6】インクタンク及びその周辺の構成を示す図である。
【
図8】実施例1のインク脱気度の測定結果を示すグラフである。
【
図9】実施例2のインク体積A(cm
3)、インクと大気との接触面積B(cm
2)の条件を示す表である。
【
図10】実施例2のインク脱気度の測定結果を示す表である。
【
図11】実施例2のインク脱気度の測定結果を示すグラフである。
【
図12】実施例3のインク脱気度の測定結果を示すグラフである。
【
図13】実施例4のインク脱気度の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための形態の例を説明するが、本発明は以下の例に限定されるものではない。
なお、説明は以下の順序で行う。
1.インクジェット記録装置の実施形態(第1実施形態)
2.インクジェット記録装置の実施形態(第2実施形態)
【0011】
〈1.インクジェット記録装置の実施の形態〉
以下、本発明のインクジェット記録装置の第1実施形態について説明する。
図1に、インクジェット記録装置の概略構成を示す。
【0012】
[インクジェット記録装置の構成]
図1に示すインクジェット記録装置100は、ラインヘッドを有し、当該ラインヘッドに対して記録媒体を移動させながら複数色、ここでは、4色のインクを適切なタイミングで吐出することでカラー画像を形成するワンパス方式の記録装置である。
【0013】
インクジェット記録装置100は、媒体供給部10と、画像形成本体部20と、媒体排出部30と、インク貯留部50と、制御部40(
図5参照)とを備えている。このインクジェット記録装置100では、制御部40による制御に基づいて、媒体供給部10に格納された記録媒体Pが画像形成本体部20に搬送され、画像が形成された後に媒体排出部30に排出される。
【0014】
(媒体供給部)
媒体供給部10は、内部に格納された記録媒体Pを一枚ずつ画像形成本体部20へ送る。記録媒体Pとしては、印刷用紙のほか、セル、フィルムや布帛等、画像形成ドラム22の外周面上に湾曲して担持され得る種々のものが用いられる。
【0015】
媒体供給部10は、記録媒体Pを格納する供給トレー11と、供給トレー11から画像形成本体部20へ記録媒体Pを搬送するフィーダーボード12とを有する。また、媒体供給部10は、供給トレー11上に載置された最上の記録媒体Pをベルト123上に受け渡す供給部(図示省略)を有する。
【0016】
供給トレー11は、一又は複数の記録媒体Pを載置可能に設けられた板状の部材である。供給トレー11は、供給トレー11に載置された記録媒体Pの量に応じて上下に動くよう設けられている。
フィーダーボード12は、内側に設けられたローラー121及びローラー122と、このローラー121,122に懸架された輪状のベルト123とからなる。フィーダーボード12は、ローラー121,122を駆動することにより、供給部からベルト123上に受け渡された記録媒体Pを、ベルト123に沿わせて搬送する。
【0017】
(画像形成本体部)
画像形成本体部20は、受け渡しユニット21と、画像形成ドラム22と、ヘッド部23と、照射部24と、デリバリー部25とを備える。
【0018】
受け渡しユニット21は、媒体供給部10から受け渡された記録媒体Pを画像形成ドラム22に受け渡す。受け渡しユニット21は、スイングアーム部211と、渡しドラム212とを有する。スイングアーム部211は、フィーダーボード12から搬送された記録媒体Pの一端を担持する。そして、受け渡しドラム212は、スイングアーム部211に担持された記録媒体Pを画像形成ドラム22に受け渡す。
【0019】
画像形成ドラム22は、円筒状の外形を有し、円筒状部分の外周面上に記録媒体Pを担持して、円筒の中心軸での回転動作に応じて記録媒体Pを搬送する。画像形成ドラム22の外周面の近傍には、この外周面及び記録媒体Pを加熱するためのドラムヒーター221が設けられている。ドラムヒーター221は、例えば、画像形成ドラム22の回転方向において、受け渡しユニット21による画像形成ドラム22への記録媒体Pの引き渡し位置から、ヘッド部23による記録媒体Pへの画像記録位置までの間に設けられる。ドラムヒーター221による加熱動作時間や強度は、図示しない温度計測部等による画像形成ドラム22の外周面の計測温度等に基づいて、担持する記録媒体Pが適度な温度となるように制御される。これにより、インクが記録媒体P上に着弾した際の記録媒体Pへの硬化速度等が適切に保たれ、安定して高品質な画像が形成される。このドラムヒーター221には、例えば、赤外線ヒーターや通電により発熱する電熱線等が用いられる。なお、ドラムヒーター221は、画像形成ドラム22の内側に設けられ、熱伝導で外周面を加熱してもよい。
【0020】
ヘッド部23は、記録媒体Pの当該記録対象面と対向する面(ノズル面)に設けられた複数のノズル開口部を有する。ヘッド部23は、画像形成ドラム22の回転に応じて移動する記録媒体Pの記録面に対し、ノズル開口部から適切なタイミングでインクの液滴を吐出し、記録媒体Pの記録対象面上に着弾させていくことで画像を形成する。
【0021】
図2に、ヘッド部23のノズル面の底面図を示す。ヘッド部23は、ここでは8つのインクジェットヘッド230が千鳥格子状に配置された例を示している。インクジェットヘッド230は、記録媒体Pの搬送方向と垂直な幅方向に重複を伴って配置されている。これにより、ヘッド部23を固定した状態で記録媒体Pを搬送方向に移動させることで、記録媒体Pの幅方向の全域に画像を記録する、ワンパス方式での画像記録が可能となる。
【0022】
また、
図1に示すインクジェット記録装置100は、記録媒体Pの搬送方向に所定の間隔で複数のヘッド部23を備える。
図1では、4色の各インクに応じた4つのヘッド部23が設けられる例を示している。4つのヘッド部23は、例えば、Y(イエロー)、M(マゼンタ)、C(シアン)、K(黒)のインクをそれぞれ出力する。これらのインクとしては、例えば、常温から加熱されることによりゲル状態からゾル状態に相変化し、紫外線を照射することで硬化する各種周知のインクが用いられる。また、画像形成本体部20に供給されたインクは、図示しない加熱部によって適切な温度に保持される。
【0023】
照射部24は、所定波長のエネルギー線、例えば、近紫外領域(波長が400nm程度)の紫外線を照射して、ヘッド部23から吐出されて記録媒体P上に着弾したインクを硬化し、インクにより形成された画像を定着させる。照射部24は、例えば、紫外線を発する発光ダイオード(LED)や水銀ランプ等を照射源として備える。照射部24は、照射駆動部74(
図5参照)の駆動によって電圧が印加され、紫外線を記録媒体P上のインクに照射する。照射部24は、画像形成ドラム22の回転方向において、ヘッド部23の下流側であり、記録媒体Pがデリバリー部25に引き渡される上流側前の位置に設けられている。また、照射部24には、記録媒体Pに紫外線が照射される設定範囲の外に漏れる紫外線量を低減するために、照射源と紫外線の設定範囲とを覆う位置に遮光板241が設けられている。
【0024】
なお、照射部24において紫外線を発する照射源の構成は、特に限定されない。また、インクが紫外線以外のエネルギー線を受けて硬化する性質を有する場合には、上述の紫外線を発する構成の代わりに、インクを硬化させる波長のエネルギー線を発する周知の照射源が設けられる。
【0025】
デリバリー部25は、着弾したインクを硬化させて画像形成が終了した後の記録媒体Pを、媒体排出部30に搬送する。デリバリー部25は、円筒状の受け渡しローラー251と、複数(例えば、2本)のローラー252及びローラー253と、ローラー252,253に担持された輪状のベルト254等を有する。受け渡しローラー251は、画像形成ドラム22から記録媒体Pを受け取ってベルト254上に誘導する。デリバリー部25は、受け渡しローラー251からベルト254上へと受け渡された記録媒体Pを、ローラー252,253の回転に伴って周回移動するベルト254と共に移動させて搬送し、媒体排出部30に送り出す。
【0026】
媒体排出部30は、デリバリー部25によって画像形成本体部20から送り出された記録媒体Pを、ユーザーに取り出されるまで格納する。媒体排出部30は、板状の排出トレー31を有し、この排出トレー31上に画像形成後の記録媒体Pが載置される。
【0027】
制御部40(
図5参照)は、媒体供給部10、画像形成本体部20、インク貯留部50及び媒体排出部30の動作を制御し、画像形成命令(ジョブ)による形成対象画像のデータ及び画像形成に係る設定に応じて記録媒体P上に画像を形成させる。
【0028】
インク貯留部50は、画像の記録に用いられる各色のインクを貯え、当該インクを画像形成本体部20のヘッド部23(インクジェットヘッド230)に供給する。インク貯留部50の各構成は、特には限られないが、例えば、専用のラック等に配置されて、チューブ等の管材を介して画像形成本体部20に接続されている。
【0029】
[インクジェット記録装置のインク供給系]
インクジェット記録装置100においてインクは、インク流路を介してインク貯留部50からヘッド部23に供給される。
図3に、インクジェット記録装置100における、インク貯留部50からヘッド部23にインクを供給するためのインク供給系のブロック図を示す。
【0030】
図3に示すように、インクジェット記録装置100のインク供給系は、インク貯留部50、インク脱気装置29、インクタンク26、及び、ヘッド部23を備える。また、インクジェット記録装置100では、上述の複数のインク種別ごとに複数のヘッド部23が設けられて、各ヘッド部23がそれぞれ独立したインク供給系を介して、各インク種別に応じたそれぞれのインク貯留部50からインクの供給を受ける。
【0031】
さらに、インクジェット記録装置100は、インク貯留部50からインク脱気装置29にインクを送液するためのポンプ等からなる第1インク送液部51と、インク脱気装置29からインクタンク26にインクを送液するためのポンプ等からなる第2インク送液部52とを備える。なお、インクジェット記録装置100では、インク流路内のインクやエア(空気)の圧力を調節するための気体流路が設けられている。このようなインク流路と気体流路とによって、ヘッド部23にインクを供給するための第1インク送液部51と第2インク送液部52とが構成される。
【0032】
インクタンク26は、インク貯留部50よりも容量の小さいタンクであり、インク貯留部50に収容されたインクを適宜貯留する密閉容器で構成される。
インク貯留部50とインクタンク26との間にはインク脱気装置29が設けられ、インク脱気装置29は、インク貯留部50からインクタンク26に送られるインク中から気泡や溶存気体を除去する脱気処理を行う。インク脱気装置29は、例えば、多数の中空糸膜を有し、当該中空糸膜内部を真空ポンプにより真空に引きながら当該中空糸膜の外面にインクを接触させることで、インク中の空気を中空糸膜の内側に吸引する。
【0033】
インクジェット記録装置100は、インクタンク26に接続された背圧調節部27を備え、背圧調節部27によってインクタンク26における背圧が制御される。背圧調節部27は、気体流路を介してインクタンク26に接続された図示しない背圧弁、エアタンク、及び、エアタンクに接続された背圧ポンプ等を備える。背圧調節部27は、例えば、背圧弁を開放することにより、インクタンク26とエアタンクとが気体流路により連通される。そして、背圧ポンプを駆動してエアタンク内の圧力(空気圧)を減圧(負圧)にすることにより、インクタンク26内の圧力(空気圧)を調整する。
【0034】
また、インクジェット記録装置100は、脱気装置加熱部53、インクタンク加熱部54、及び、ヘッド加熱部55を備え、インク脱気装置29、インクタンク26、及び、ヘッド部23が、それぞれ脱気装置加熱部53、インクタンク加熱部54、及び、ヘッド加熱部55によって加熱され、所定の温度となるように制御されている。
【0035】
[インクタンクの構成]
図4にインクタンク26及びその周辺の構成を示す。第2インク送液部52を介してインク脱気装置29から送られてきたインクは、インクタンク26内に収容される。インクタンク26に収容されたインクは、インクタンク加熱部54によって所定の温度に保持される。また、インクタンク26に収容されたインクは、ヘッド部23に搬送され、印刷ジョブに従ってヘッド部23から吐出される。
【0036】
インクタンク26内に収容されているインクの上面(インクと空気との界面)には、インクタンク26内のインク量を検知するためのインク量検知部として、液面センサー56が設けられている。液面センサー56としては、公知のセンサーを用いることができる。例えば、インクタンク26内に、インクの上限値及び下限値となる位置に、インクの有無を検出するためのレベルスイッチを配置する構成や、インクタンク26内のインク量を連続値で計測する液面計を配置する構成であってもよい。また、これらの液面センサー56としては、フロートの位置により液面を検出するフロートセンサー、液面での超音波の反射を計測する超音波式センサー、気体と液体との誘電率差によって液面を検出する誘電率静電容量式センサー、及び、タンク下部において液体の重量や圧力を検出する圧力式センサー等を用いることができる。
【0037】
インクタンク26には、貯留されたインクの上方の空洞に、気体流路を介して背圧調節部27が接続されている。インクタンク26は、背圧調節部27の動作によって、インク上部の空洞内の圧力が制御される。これにより、ヘッド部23における背圧制御を行うことができる。例えば、ヘッド部23のノズル面において、通常時(即ち、インクを吐出させるための圧力が印加されない状態)のインク圧と大気圧との間に圧力差を生じさせて、ノズルからのインクの不要な漏出を抑制することができる。また、インクの吐出時に印加される圧力パターンに応じて適切にインクが吐出されるようにヘッド部23における背圧を調節することができる。
【0038】
インクタンク26は、インクタンク26に保持される規定範囲内のインク量(体積)をAcm3、インク量Aにおけるインクと大気との接触面積をBcm2としたときに、B≦0.5Aを満たすように形成されている。インクジェット記録装置を駆動する際には、インクタンク26からヘッド部23にインクが送液され、また、インク貯留部50からインクタンク26にインクが送液されることで、インクタンク26の上限値から下限値の間の一定量のインクがインクタンク26に貯留される。このため、インクタンク26における規定範囲内のインク量(体積)Acm3は、上記インクタンク26の上限から下限値までの間のインク量とすることができる。
【0039】
インク脱気装置29の下流側に設けられたインクタンク26においては、インクと大気とが接触することにより、インクの脱気度が低下する。特に、インクジェット記録装置100が、インクタンク加熱部54のようなインクタンク26内でのインクの対流を促す構成を有する場合には、インク中に大気が溶解しやすくなり、インクの脱気度が低下しやすい。インクタンク26において、インクの脱気度の低下を抑制するためには、インクタンク26内でインクと大気とを接触させないか、又は、インクと大気との接触面積が小さくなるように制限することが好ましい。
【0040】
一方、インクジェット記録装置100では、インクタンク26の上方の空洞部に背圧調節部27を接続させ、空洞部内の圧力を調整することにより、ヘッド部23でのインクのメニスカスコントロールを行う必要がある。即ち、インクタンク26において背圧制御を行うために、インクタンク26内でインクと大気とを接触させる必要がある。このため、インクジェット記録装置100では、インクタンク26内においてインクと大気との接触面積を制限して接触させることで、脱気度の低下の抑制と背圧制御とを行う必要がある。
【0041】
[インクジェット記録装置の機能構成]
本実施形態のインクジェット記録装置100の機能構成を示すブロック図を
図5に示す。なお、以下の説明では必要に応じて
図1から
図4に示す構成及び符号を、
図5に示す構成及び符号と併せて用いる。
【0042】
インクジェット記録装置100は、上述のように、第1インク送液部51と、第2インク送液部52と、インク脱気装置29と、背圧調節部27と、液面センサー56と、脱気装置加熱部53と、インクタンク加熱部54と、ヘッド加熱部55とを備える。また、インクジェット記録装置100は、制御部40と、搬送駆動部71と、ヘッド駆動部731と、照射駆動部74と、通信部61と、操作表示部62と、バス69とを備える。バス69は、各構成間を電気的に接続して信号のやり取りを行う経路である。
【0043】
制御部40は、インクジェット記録装置100の全体動作を統括制御する。制御部40は、CPU41(Central Processing Unit)と、RAM42(Random Access Memory)と、ROM43(Read Only Memory)と、メモリー44とを備える。
CPU41は、ROM43から読み出されたプログラムに従って各種演算処理を行い、インクジェット記録装置100における記録媒体の搬送、各バルブの開閉動作、各ポンプによるインクの送液等の動作、インクの吐出動作等の制御を行う。また、CPU41は、ROM43から読み出されたプログラムに従って画像データ、各部のステータス信号やクロック信号等に基づく画像記録に係る種々の処理を行う。RAM42は、CPU41に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。ROM43は、制御プログラムや初期設定データ等を記憶する。また、ROM43には、上書き更新可能な不揮発性メモリー等を含み、随時設定維持される設定データ等を記憶可能とすることが出来る。メモリー44は、記録対象の画像データを一時記憶する画像メモリーである。
【0044】
搬送駆動部71は、画像形成ドラム22の回転モーターや、フィーダーボード12及びデリバリー部25を駆動させるため各ローラーを、各々適切な方向及び速度で回転動作させるための駆動信号を生成する。そして、搬送駆動部71は、制御部40からの制御信号に基づいてこれら各モーターの回転方向及び回転速度に応じた駆動信号を出力する。
【0045】
第1インク送液部51、及び、第2インク送液部52は、制御部40からの制御信号に基づいて、インク貯留部50とインクタンク26との間のインク搬送路に配置されたポンプを駆動することにより、インク貯留部50からインク脱気装置29介してインクタンク26にインクを送液する。インク貯留部50からインクタンク26にインクを送液する際に、インク脱気装置29を通ることにより、インクがインクタンク26に到達する前にインクが脱気される。このため、インクタンク26には、脱気済みのインクが収容される。
【0046】
ヘッド駆動部731は、インクジェットヘッド230の各ノズルからインクを適正に吐出させるために、圧力室(圧電素子)を変形動作させる(駆動動作を行う)ための駆動電圧信号を、生成して出力する。ヘッド駆動部731は、制御部40からの制御信号に基づいて、予め記憶された電圧波形パターンを選択して電力増幅した駆動電圧信号を生成するとともに、メモリー44から入力された画像データに応じて各圧電素子に対する駆動電圧信号の出力可否をそれぞれ切り替える。
【0047】
インクタンク加熱部54は、インクタンク26内においてインクを適切な温度に加熱して保つことで、インクタンク26内のインクをゾル状態に維持する。また、ヘッド加熱部55は、画像形成本体部20のヘッド部23内等においてインクを適宜な温度に加熱して保つことで、吐出時のインクの粘度を適切な状態に維持する。脱気装置加熱部53は、インク脱気装置29内においてインクを適宜な温度に加熱して保つことで、脱気時のインクの粘度や温度、飽和溶存酸素濃度等を適切な状態に維持する。インク脱気装置29、ヘッド部23及びインクタンク26におけるインクの温度は、各構成内に配置された温度計測部等によって計測され、制御部40に出力される。そして、制御部40によってインクタンク加熱部54、ヘッド加熱部55、及び、脱気装置加熱部53の動作状態が制御され、インク脱気装置29、ヘッド部23及びインクタンク26におけるインクの温度が調整される。
【0048】
液面センサー56は、インクタンク26内のインク量を検出して、検出信号を制御部40に出力する。液面センサー56としては、例えば、インクタンク26内におけるインクの液面の高さを計測することで、インクタンク26内のインク量を検出する。液面センサー56によって検出されたインクタンク26内のインク量に応じて、インク貯留部50からインクがインクタンク26に供給され、インクタンク26内に適切な量のインクが維持される。これにより、インクタンク26の規定範囲内のインク量(体積)をAcm3、インク量Aにおけるインクと大気との接触面積をBcm2としたときに、B≦0.5Aを満たすように、インクタンク26内に適切な量のインクが維持される。
【0049】
また、液面センサー56は、インクタンク26内のインク量の計測結果を制御部40に出力する。制御部40は、液面センサー56からの出力によってインクタンク26内のインク量を取得する。制御部40は、取得したインクタンク26内のインク量をもとに、インク貯留部50からインクタンク26に供給されるインク量を調整する。これにより、インクタンク26内の規定範囲内のインク量(体積)をAcm3、インク量Aにおけるインクと大気との接触面積をBcm2としたときに、B≦0.5Aを満たすように、インクタンク26内にインク量を維持する制御を行うこともできる。
【0050】
背圧調節部27では、制御部40の制御信号によって背圧弁の開閉が制御される。また、制御部40の制御信号によって背圧ポンプの駆動が制御され、エアタンク内の圧力(空気圧)が、所定の圧力に(負圧)に制御される。
【0051】
照射駆動部74は、制御部40からの制御信号に応じて照射部24の照射源に所定の電圧を印加することで電流を流し、照射源からに所定波長のエネルギー線を放射させる。
通信部61は、外部機器との間での通信動作を制御する通信インターフェイスである。通信インターフェイスとしては、例えば、LANボードやLANカード等、各種通信プロトコルに対応したものが複数含まれる。通信部61は、制御部40の制御に基づいて外部機器から記録対象の画像データや画像記録に係る設定データ(ジョブデータ)を取得し、また、外部機器に対してステータス情報等を送信する。
【0052】
操作表示部62は、制御部40からの制御信号に応じてインクジェット記録装置100のステータスや操作メニュー等の表示を行うと共に、ユーザー等外部からの入力操作を受け付けて制御部40に出力する。操作表示部62は、例えば、操作受付手段としてのタッチセンサーが表示手段としての表示画面と重ねて設けられた液晶表示部を備える。制御部40は、液晶表示部にステータスやタッチセンサーによる命令受け付け用の各種メニュー等を表示させ、当該表示させたメニューの内容や位置の情報、及び、タッチセンサーにより検出されたユーザーのタッチ操作に応じた処理をインクジェット記録装置100の各部に行わせる制御動作を行う。
【0053】
〈2.インクジェット記録装置の実施形態(第2実施形態)〉
次に、インクジェット記録装置の第2実施形態について説明する。なお、第2実施形態のインクジェット記録装置は、インクタンク内に配置される液面センサーの構成を除き、上述の第1実施形態と同様の構成を適用することができる。このため、以下の説明では、上述の第1実施形態と重複する説明を省略し、液面センサーが配置されるインクタンクの構成を主に説明する。
【0054】
[インクタンクの構成]
図6に、第2実施形態のインクジェット記録装置のインクタンク26及びその周辺の構成を示す。また、
図7に、
図6に示すインクタンク26の上面図を示す。なお、インクジェット記録装置の全体構成、及び、インクジェット記録装置におけるインク供給系については、上述の
図1から
図3と同様の構成を適用できる。
【0055】
図6に示す構成のインクジェット記録装置においても第1実施形態のインクジェット記録装置と同様に、インク貯留部50からインク脱気装置29を介してインクタンク26内にインクが送液される。インクタンク26に収容されたインクは、インクタンク加熱部54によって所定の温度に保持される。また、インクタンク26に収容されたインクは、ヘッド部23に送液され、印刷ジョブに従いヘッド部23から吐出される。
【0056】
図6及び
図7に示すインクタンク26は、インクと大気との接触を部分的に遮断するための大気遮断部を備える。
図6及び
図7では、大気遮断部の一例として、インクタンク26内に収容されているインクの上面(インクと空気との界面)を覆う蓋部材58を備える例を示している。蓋部材58としては、浮力によってインクの上面に浮くフロートを備えることが好ましい。なお、大気遮断部は蓋部材58に限定されず、インクタンク26において、インク57と大気との接触を阻害できれば、形状や材質等の構成は限定されない。また、蓋部材58の形状や材質等の構成は、インクタンク26の形状やインクの物性等に合わせて適宜選択することができる。フロートは、インクタンク26内においてインク上に浮かぶことができ、インク57と大気との接触を阻害できれば、形状や材質等の構成は限定されない。
【0057】
図7に示すように、インクタンク26において、蓋部材58(フロート)が浮かぶ部分では、蓋部材58によってインク57と大気との接触が大幅に遮断される。このため、インク57と大気とが主として接触する部分は、蓋部材58とインクタンク26の壁面との間において、インク57の上面が露出する部分に限定される。
このように、インクタンク26において、インク57上に蓋部材58が存在することにより、蓋部材58がインク57と大気との接触を阻害するため、インクタンク26内でのインク57と大気との接触面積が限定される。
【0058】
第2実施形態のインクジェット記録装置では、蓋部材58等の大気遮断部の大きさを調整することにより、インク57の上面が露出する部分を限定することができる。このため、大気遮断部の大きさを調整し、大気遮断部から露出されるインク57と大気との接触面の面積B(cm2)を制限することにより、インクタンク26内に収容されているインク57の体積A(cm3)に対して、B≦0.5Aとなるインクタンク26を形状や容積等によらず容易に実現することができる。
【0059】
また、第2実施形態のインクジェット記録装置において、大気遮断部を構成する蓋部材58が、液面センサー56の一部であることが好ましい。例えば、液面センサー56がフロートセンサーであり、フロートセンサーのフロートが蓋部材58である構成とすることが好ましい。蓋部材58が液面センサー56を構成することにより、液面センサー56によってインク57と大気との接触を限定できるため、インクタンク26内での構成の追加が不要となる。フロートセンサーとしては、インクタンク26内に収容されたインク上を浮力によって浮くフロートを有していれば、どのような方式のセンサーであってもよい。
【実施例】
【0060】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0061】
[実施例1:接触面積によるインクの脱気度の低下]
上述の各実施形態で説明したように、インクタンクにおいて大気と接触した状態でインクが長期間貯留された場合には、インクの脱気度が低下する。このインクの脱気度の低下は、インクタンクにおけるインクの体積A(cm3)と、インクと大気との接触面積B(cm2)との比率に影響を受ける。また、インクタンク内でのインクの滞留時間が大きくなるほど、インクの脱気度は低下する。そこで、インク体積A(cm3)と接触面積B(cm2)との比率とがそれぞれ異なるようにインクを収容したインクタンクを準備し、時間経過によるインクタンク内のインクの脱気度の低下の様子を測定した。
【0062】
インクの脱気度の測定は、下記条件において行った。
ヘッド部23としてピエゾヘッド、第1インク送液部51と第2インク送液部52としてポンプ、インク貯留部50のインク容量が25000cm
3、インク脱気装置29のインク容量が300cm
3、インクタンク26のインク容量が60cm
3のインクジェット記録装置100(
図3参照)を準備した。また、インク脱気装置として真空ポンプと中空糸膜を用いる脱気装置を使用し、真空ポンプを-98kPa程度に制御してインクを脱気した。背圧調節部27として、圧力センサーを有する背圧ポンプを用い、圧力センサーの圧力値に応じてインクタンク内の背圧を-2kPaで制御した。インクとして、ゲルインク(所定温度でゲルからゾルに変化する相転移インク)を 用いた。
【0063】
上記構成の装置において、インクタンク内のインク量A(cm3)におけるインクと大気との接触面積B(cm2)の比率が、B=0.2Acm2、B=0.3Acm2、B=0.5Acm2、B=0.7Acm2及びB=0.9Acm2となるように、インクタンク内のインク量を調整した。
【0064】
さらに、上記のインクジェット記録装置において、インクが消費されずに電源が1週間オンされ続けた状態を想定し、インク脱気装置29、インクタンク及び、ヘッド部のインクを80℃で加熱した条件で7日間保持した。そして、インクタンク内のインクの脱気度を1日毎に測定した。一般的に、脱気度が80%以上を維持できていれば、実用上問題ない範囲と考えられる。
インクの脱気度は、以下の式を用いて算出した。
脱気度(%)=[1-(インク中に含まれる溶存酸素量/測定温度の飽和溶存酸素量)]×100
【0065】
なお、脱気度は溶存酸素濃度により測定した。溶存酸素濃度は、例えば、オストワルド法(実験化学講座1基本操作[I]、241頁、1975年、丸善参照)や、マススペクトル法で測定する方法や、ガルバニ電池型やポーラログラフ型等の簡便な酸素濃度計や比色分析法を用いて測定することができる。また、溶存酸素濃度は市販の溶存酸素濃度計(東亜電波工業(株)製DO-30A型)を用いて測定してもよい。
【0066】
インク脱気度の測定結果を
図8に示す。
図8に示すように、インク量A(cm
3)におけるインクと大気との接触面積B(cm
2)の比率を変更したいずれの条件においても、時間経過とともにインクの脱気度が低下する。また、インクタンク内でのインクと大気との接触面積が大きくなるほど、インク中の脱気度の低下率が大きくなる。
【0067】
上述の条件においては、インクと大気との接触面積B(cm2)を0.5Acm2以下とすることで、7日間保持後のインクの脱気度が実用上問題ない範囲と考えられる80%以上を維持できている。即ち、インクタンク内のインク量A(cm3)におけるインクと大気との接触面積B(cm2)の比率を、B≦0.5Acm2とすることにより、実用上問題ない範囲に脱気度の低下を抑制することができる。
【0068】
ゲルインク(相転移インク)は、インクタンクの加熱を停止することにより、インク温度が低下して固体(ゲル)化して対流が抑制されるため大気の溶解が抑制される。通常、インクジェット記録装置を停止する際には、インクタンクの加熱も停止されるため、ゲルインクが固化して脱気度の低下は抑制される。このため、上記の測定条件のように、加熱によってゾル状態のインクを7日間対流させる条件において80%以上の脱気度を維持できていれば、実用範囲内では、インクタンク内での脱気度の低下によるヘッド部での気泡の発生等を十分に抑制することができる。
【0069】
従って、インクタンクの規定範囲内のインク量(体積)Acm3においてインクと大気との接触面積Bcm2がB≦0.5Aを満たすインクタンクを備えることにより、インクの脱気度の低下の抑制と、背圧制御とが可能なインクジェット記録装置を実現することができる。また、インクタンクにおいて、規定範囲内のインク量(体積)Acm3におけるインクと大気との接触面積Bcm2をB、≦0.5Aに制御することにより、インクの脱気度の低下の抑制と、背圧制御とが可能なインクジェット記録装置を実現することができる。
【0070】
[実施例2:インク体積によるインクの脱気度の低下]
次に、インク体積A(cm3)における接触面積B(cm2)の比率がB=0.5Aで一定となる条件で、インク体積A(cm3)と接触面積B(cm2)とがそれぞれ異なるようにインクを収容したインクタンクを準備し、時間経過によるインクタンク内のインクの脱気度の低下の様子を測定した。
【0071】
インクタンクのインク体積A(cm
3)、インクと大気との接触面積B(cm
2)の条件(条件1~4)を
図9に示す。なお、インク体積A(cm
3)とインクと大気との接触面積B(cm
2)以外は、上述の実施例1の脱気度の測定と同様の装置及び方法を用いた。
【0072】
インク脱気度の測定結果の表を
図10に示す。また、グラフを
図11に示す。
図10及び
図11に示すように、インク体積A(cm
3)におけるインクと大気との接触面積B(cm
2)の比率が同じ条件では、インク体積A(cm
3)と接触面積B(cm
2)とが変化しても、脱気度が同じように低下する。
さらに、インク体積A(cm
3)と接触面積B(cm
2)とが変化しても、インク体積A(cm
3)におけるインクと大気との接触面積B(cm
2)の比率がB=0.5Aであれば、80℃で7日間保持した後のインクの脱気度が80%以上を維持できている。
【0073】
この結果から、インクタンク内のインク体積A(cm3)や、インクと大気との接触面積B(cm2)にかかわらず、インク体積A(cm3)におけるインクと大気との接触面積B(cm2)の比率がB≦0.5Aであれば、7日後の脱気度を80%以上に維持することができる。このように、背圧制御のためにインクと大気とを接触させるインクタンクにおいて、インク体積A(cm3)に対し、インクと大気との接触面積B(cm2)を0.5A以下とすることにより、インクの脱気度の低下を十分に実用的な範囲に抑制することができる。この結果、インクの脱気度の低下の抑制と背圧制御とが可能なインクジェット記録装置を実現することができる。
【0074】
[実施例3:脱気温度によるインクの脱気度の低下]
次に、インクタンク内のインク温度と、インクタンクの上流側に配置されたインク脱気装置の温度とが異なる条件において、時間経過によるインクタンク内のインクの脱気度の低下の様子を測定した。
【0075】
インクタンク内のインク量A(cm3)が30(cm3)、インクと大気との接触面積B(cm2)が15(cm2)、インク量A(cm3)における接触面積B(cm2)の比率がB=0.5Acm2のインクタンクを準備した。そして、インク脱気装置内のインク温度が80℃又は95℃、インクタンク内のインク温度が80℃となるようにインクジェット記録装置を設定した。
上記以外の条件は、上述の実施例1の脱気度の測定と同様の装置及び方法を用いた。
【0076】
インク脱気度の測定結果を
図12に示す。
図12に示すように、インク脱気装置内のインク温度が80℃の条件(
図12の実線)よりも、インク脱気装置内のインク温度が95℃の条件(
図12の破線)の方が、時間経過による脱気度の低下が緩やかになった。
インクの溶存酸素量は、インク温度が高くなるほど低下しやすくなるため、インク脱気装置の温度を高くすることによってインクがより脱気されやすくなる。このため、インクの脱気温度を上げることにより、インクタンクに供給されるインクに含まれる酸素量が少なくなる。このように、予めインクタンクに供給されるインクの溶存酸素量を減らすことによって、大気との接触する条件でインクタンク中に一定期間保持した後も、インクの溶存酸素量を小さくすることができる。
【0077】
上述のように、液体は温度が高くなるほど飽和溶存酸素量が小さくなるため、脱気装置内の温度を上げることにより、インクの飽和溶存酸素量が低下する。このとき、温度上昇に伴う飽和溶存酸素量の低下によって過飽和となった分の気体は、インク中で気泡となる。インク中に発生した気泡は、ヘッド部からインクを射出する際に直ちにキャビテーションを引き起こすため、問題となる。特に、ピエゾ素子を備えるヘッド部のインク室では、インクに対して連続した加圧と減圧とが繰り返される。このときに、インク中に微小な気泡が存在すると、インクが減圧された際に溶存気体が気泡に移動し、インクが加圧された際に気泡からインクへの気体の再溶解が起こる。このような加圧と減圧が繰り返される際、気泡の表面積の関係から、気泡への溶存気体の流れが勝るため、気泡が成長する。そして気泡がある程度の大きさに成長した際に、ヘッド部においてキャビテーションが発生する。この気泡への溶存気体の流れは、インクの溶存気体の分圧(溶存気体濃度/飽和溶存気体の濃度)に比例する。
【0078】
上述のように脱気度の観点からは、インク温度が低くなると飽和溶存酸素量が高くなるため、インクタンクやヘッド部等の脱気後のインク流路の温度が、インク脱気温度(インク脱気装置の温度)よりも低い方が好ましい。或いは、インク脱気装置において、インクタンクやヘッド部等の脱気後のインク流路における温度よりも高い温度でインクの脱気を行うことが好ましい。また、インクの温度が上記の関係となるように、インク脱気装置におけるインク脱気温度、及び、インクタンクやヘッド部等の脱気後のインク流路の温度を、制御部で制御してもよい。
【0079】
[実施例4:インクと大気との温度差によるインクの脱気度の低下]
次に、インクタンク内でのインク温度と大気温度とが異なる条件において、時間経過によるインクタンク内のインクの脱気度の低下の様子を測定した。インクタンク内のインク温度を80℃、又は、90℃に設定した状態で、大気温度を40℃、50℃、60℃、70℃に変更した。これにより、インクタンク内におけるインクと大気との温度差を、20℃、30℃、又は、40℃として、インクの脱気度を測定した。
上記以外の条件は、上述の実施例1の脱気度の測定と同様の装置及び方法を用いた。
【0080】
インク脱気度の測定結果を
図13に示す。
図13に示すように、インク温度が80℃、90℃のいずれであっても、インクと大気との温度差が20℃の条件が最も脱気度の低下が小さい。一方、インク温度が80℃、90℃のいずれであっても、インクと大気との温度差が40℃の条件が最も脱気度の低下が大きい。即ち、インク温度(80℃、90℃)によって僅かに脱気度の低下の様子に差があるものの、インクと大気との温度差が大きいほどインクの脱気度は低下しやすい結果が得られた。上記の測定からは、7日後の脱気度を80%以上に維持するためには、インクタンク内のインクと大気との温度差を30℃以下とすることが好ましい。
【0081】
インクタンク内のインク温度が異なる条件においても、インクタンク内が一定の温度に維持されていれば、インク温度の違いによる対流への影響は少ない。一方、インク温度と大気との温度差は、インク温度にかかわらずインクタンク内のインクの対流に大きな影響を与える。インクと大気との温度差が大きくなると、大気温度によってインク温度が変化しやすくなるため、インクタンク内のインクにおいて大気との接触部分と他の部分との温度差が発生しやすい。このため、インクと大気との温度差が大きくなるほど、インクタンク内で対流が起こりやすくなり、インクの脱気度が低下しやすい。
【0082】
なお、本発明は上述の実施形態例において説明した構成に限定されるものではなく、その他本発明構成を逸脱しない範囲において種々の変形、変更が可能である。
【符号の説明】
【0083】
10 媒体供給部、11 供給トレー、12 フィーダーボード、20 画像形成本体部、21 渡しユニット、22 画像形成ドラム、23 ヘッド部、24 照射部、25 デリバリー部、26 インクタンク、27 背圧調節部、29 インク脱気装置、30 媒体排出部、31 排出トレー、40 制御部、41 CPU、42 RAM、43 ROM、44 メモリー、50 インク貯留部、51 第1インク送液部、52 第2インク送液部、53 脱気装置加熱部、54 インクタンク加熱部、55 ヘッド加熱部、56 液面センサー、57 インク、58 蓋部材、61 通信部、62 操作表示部、69 バス、71 搬送駆動部、74 照射駆動部、100 インクジェット記録装置、121,122,252,253 ローラー、123,254 ベルト、211 スイングアーム部、212 渡しドラム、221 ドラムヒーター、230 インクジェットヘッド、241 遮光板、251 渡しローラー、731 ヘッド駆動部