(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20221109BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20221109BHJP
C08K 7/16 20060101ALI20221109BHJP
C08K 5/44 20060101ALI20221109BHJP
C08K 5/31 20060101ALI20221109BHJP
C08K 5/40 20060101ALI20221109BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/36
C08K7/16
C08K5/44
C08K5/31
C08K5/40
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2018155708
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 裕記
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-185339(JP,A)
【文献】特開2011-046775(JP,A)
【文献】特開2018-002871(JP,A)
【文献】特開2015-193783(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
B60C 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対して、シリカが40質量部以上、熱膨張性マイクロカプセルが1質量部~20質量部、スルフェンアミド系加硫促進剤
およびグアニジン系加硫促進剤
の両方を含む加硫促進剤が0.5質量部~4.0質量部、テトラベンジルチウラムジスルフィドが0.01質量部以上配合され、前記熱膨張性マイクロカプセルに対する前記テトラベンジルチウラムジスルフィドの重量比率が0.01~0.40であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記テトラベンジルチウラムジスルフィドが0.01質量部~2.00質量部配合されたことを特徴とする請求項
1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記シリカが40質量部~100質量部配合されたことを特徴とする請求項1
または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として冬用タイヤのトレッド部に用いることを意図し、熱膨張性マイクロカプセルおよびシリカが配合されたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面の走行に適したスタッドレスタイヤ等の冬用タイヤにおいては、良好な氷上性能を得るために、トレッド部を構成するゴム組成物として熱膨張性マイクロカプセルが配合されたものを用いることが行われている(例えば、特許文献1を参照)。このようなタイヤでは、熱膨張性マイクロカプセルによってゴム中に多数の気泡が形成されているので、トレッドが氷面に踏み込むときにこれら気泡が氷表面の水膜を吸収除去し、トレッドが氷面から離れるときに吸収した水を遠心力で離脱させることを繰り返すようになるので、優れた氷上性能を得ることができる。そして、熱膨張性マイクロカプセルを配合したゴム組成物では、気泡が多くなるほどゴムの剛性が低下して耐摩耗性等の性能に影響が出るため、発泡率を適切な範囲に収めることで、氷上性能とタイヤに求められる一般的な性能とを両立することが求められる。
【0003】
このような熱膨張性マイクロカプセルの発泡率は、主として、熱膨張性マイクロカプセルの配合量とゴム組成物の加硫速度に依存する。即ち、加硫速度が速く、加硫時間が短くなると、熱膨張性マイクロカプセルが充分に発泡する前に加硫が完了するため、所望の発泡率が得られなくなる。逆に、加硫速度が遅く、加硫時間が長くなれば、熱膨張性マイクロカプセルを充分に発泡させることはできるが、ゴム組成物の加硫成形時の生産性が悪化する。また、加硫時間が長くなってゴム組成物の硬化が進むことで、一旦形成された気泡が潰れてしまい、却って発泡率が低下する虞もある。
【0004】
近年、スタッドレスタイヤ等の冬用タイヤのトレッド部に使用されるゴム組成物にシリカを配合して、ウェットグリップ性能および低転がり抵抗性能を改善することが行われているが、シリカが配合されたゴム組成物は一般的に加硫速度が遅くなる傾向があり、生産性を確保するために加硫促進剤を多く配合することが行われている。このような多量の加硫促進剤とシリカとを含むゴム組成物に上述の熱膨張性マイクロカプセルを導入する場合、加硫促進剤の配合量や、加硫条件(加硫成形時の温度、圧力、時間)が熱膨張性マイクロカプセルの発泡率に影響を及ぼすため、加硫成形時の生産性を維持しながら所望の発泡率を得ることが難しくなるという問題がある。特に、加硫時に、金型内のゴム組成物に掛かる温度や圧力の条件とベントホール内に入り込んだゴム組成物に掛かる温度や圧力の条件との違いに起因して、熱膨張性マイクロカプセルの発泡率に差が生じてしまい、ベントホール先端において過剰に気泡が形成されて、加硫済みのタイヤをモールドから取り出す際に、ベントホール先端のゴム組成物がもげてベントホールに詰まりが生じ、それ以降に同じモールドで形成されるタイヤに外観不良を引き起こす虞もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、熱膨張性マイクロカプセルおよびシリカが配合されたタイヤ用ゴム組成物であって、加硫成形時の生産性を維持しながら熱膨張性マイクロカプセルの発泡率を高めることを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、シリカが40質量部以上、熱膨張性マイクロカプセルが1質量部~20質量部、スルフェンアミド系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤の両方を含む加硫促進剤が0.5質量部~4.0質量部、テトラベンジルチウラムジスルフィドが0.01質量部以上配合され、前記熱膨張性マイクロカプセルに対する前記テトラベンジルチウラムジスルフィドの重量比率が0.01~0.40であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記の配合で構成されて、加硫促進剤として特にテトラベンジルチウラムジスルフィドを含み、その配合量が熱膨張性マイクロカプセルの配合量に対して所定の範囲に設定されているので、加硫速度を速めて加硫時間を短縮し加硫成形時の生産性を維持しながら、熱膨張性マイクロカプセルの良好な発泡率を確保することができ、これら性能をバランスよく両立することができる。
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記のように、加硫促進剤としてスルフェンアミド系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤の両方が配合される。これら加硫促進剤を含むことで、加硫速度を更に良好にすることができ、上述の性能をバランスよく両立するには有利になる。
【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、テトラベンジルチウラムジスルフィドが0.01質量部~2.00質量部配合されたことが好ましい。また、ジエン系ゴム100質量部に対して、シリカが40質量部~100質量部配合されたことが好ましい。このように本発明のゴム組成物に配合される各材料の配合量をより適切な範囲に設定することで、加硫時間の短縮と熱膨張性マイクロカプセルの良好な発泡率の確保とをバランスよく両立するには有利になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン‐ブタジエンゴム、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴムのタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるゴムを使用することができる。これらのジエン系ゴムは末端変性されたゴムであってもよい。末端変性基としては、例えばカルボキシル基、アミノ基、ヒドロキシル基、アルコキシル基、シラノール(SiOH)基などが例示される。これらジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。なかでも、天然ゴムおよびブタジエンゴムが好ましく、天然ゴムおよびブタジエンゴムで100質量%になるように組成することが好ましい。
【0012】
本発明のゴム組成物では、シリカが必ず配合される。シリカとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカ、或いは表面処理シリカなどを使用することができる。シリカは、市販されているものの中から適宜選択して使用することができる。また通常の製造方法により得られたシリカを使用することができる。シリカの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、40質量部以上、好ましくは40質量部~100質量部、より好ましくは45質量部~95質量部である。このようにシリカを配合することで、発熱性を小さくしながらウェットグリップ性を向上することができる。シリカの配合量が40質量部未満であると、発熱性を充分に小さく、更にウェットグリップを向上することができない。シリカの配合量が100質量部を超えると、耐摩耗性が低下する虞がある。
【0013】
本発明のゴム組成物に用いるシリカの物性は特に限定されないが、例えばシリカのCTAB比表面積が好ましくは80m2 /g~250m2 /g、より好ましくは100m2 /g~220m2 /gであるとよい。シリカのCTAB比表面積が80m2 /g未満であると、ゴム組成物に対する補強性が不十分となり耐摩耗性が不足する虞がある。シリカのCTAB比表面積が250m2 /gを超えると、発熱性が大きくなる虞がある。シリカのCTAB比表面積はJIS K6217-3に準拠して求めるものとする。
【0014】
本発明において、熱膨張性マイクロカプセルを配合することにより、空気入りタイヤのトレッド部を構成したときの氷上性能を向上する。熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂で形成された殻材中に、熱膨張性物質を内包した構成からなる。このため、熱膨張性マイクロカプセルを混合したゴム組成物からなるトレッド部を有する未加硫タイヤを成形し、その加硫時にゴム組成物中の熱膨張性マイクロカプセルが加熱されると、殻材に内包された熱膨張性物質が膨張して殻材の粒径を大きくし、トレッドゴム中に多数の樹脂被覆気泡を形成する。このようにトレッドゴム中に多数の樹脂被覆気泡を形成することにより、トレッドが氷路面に踏み込むとき氷路面の水膜を吸収除去し、氷路面から離れると遠心力で水を離脱させて再び氷路面に踏込むことを繰り返して、水膜を除去しトレッドの氷路面に対する氷上摩擦力を向上可能にする。また、ミクロなエッジ効果が得られるため、氷上摩擦力を向上させる。
【0015】
熱膨張性マイクロカプセルの殻材はニトリル系重合体により形成することができる。またマイクロカプセルの殻材中に内包する熱膨張性物質は、熱によって気化または膨張する特性をもち、例えば、イソアルカン、ノルマルアルカン等の炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種が例示される。イソアルカンとしては、イソブタン、イソペンタン、2‐メチルペンタン、2‐メチルヘキサン、2,2,4‐トリメチルペンタン等を挙げることができ、ノルマルアルカンとしては、n‐ブタン、n‐プロパン、n‐ヘキサン、n‐ヘプタン、n‐オクタン等を挙げることができる。これらの炭化水素は、それぞれ単独で使用しても複数を組み合わせて使用してもよい。熱膨張性物質の好ましい形態としては、常温で液体の炭化水素に、常温で気体の炭化水素を溶解させたものがよい。このような炭化水素の混合物を使用することにより、未加硫タイヤの加硫成形温度領域(150~190℃)において、低温領域から高温領域にかけて十分な膨張力を得ることができる。
【0016】
このような熱膨張性マイクロカプセルとしては、例えばスェーデン国エクスパンセル社製の商品名「EXPANCEL 091DU‐80」または「EXPANCEL 092DU‐120」等、或いは松本油脂製薬社製の商品名「マイクロスフェアー F‐85D」または「マイクロスフェアー F‐100D」等を使用することができる。
【0017】
熱膨張性マイクロカプセルの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し1質量部~20質量部、好ましくは2質量部~10質量部にする。熱膨張性マイクロカプセルの配合量が1質量部未満であると、トレッドゴム中の樹脂被覆気泡の容積が不足し氷上性能を充分に得ることができない。マイクロカプセルの配合量が20質量部を超えるとトレッドゴムの耐摩耗性能が悪化する。
【0018】
本発明のゴム組成物では、スルフェンアミド系加硫促進剤および/またはグアニジン系加硫促進剤が必ず配合される。これら加硫促進剤は単独または両者を組み合わせて用いることができる。スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えばN‐シクロヘキシルベンゾチアゾールスルフェンアミド、N‐t‐ブチルベンゾチアゾールスルフェンアミド、N‐オキシジエチレンベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N‐ジシクロヘキシルベンゾチアゾールスルフェンアミド、(モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等を例示することができる。グアニジン系加硫促進剤としては、例えばジフェニルグアニジン、ジ(o‐トリル)グアニジン、o‐トリルビギアニド等を例示することができる。
【0019】
スルフェンアミド系加硫促進剤および/またはグアニジン系加硫促進剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.5質量部~4.0質量部、好ましくは0.7質量部~3.7質量部である。尚、この配合量は、これら2つの加硫促進剤の総量であり、スルフェンアミド系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤を併用する場合は、これらの配合量の合計である。このように加硫促進剤を配合することで、加硫速度を速めることができる。これら加硫促進剤の配合量が0.5質量部未満であると、適切な加硫速度を確保することが難しくなる。これら加硫促進剤の配合量が4.0質量部を超えると、熱膨張性マイクロカプセルの加硫条件に対する依存性が大きくなり、生産性を悪化させる。
【0020】
スルフェンアミド系加硫促進剤とグアニジン系加硫促進剤とは一方を単独で用いるよりも、両者を併用することが好ましいが、その場合、スルフェンアミド系加硫促進剤とグアニジン系加硫促進剤との配合量の比率を好ましくは0.8~0.2:0.2~0.8に設定するとよい。
【0021】
本発明のゴム組成物では、加硫促進剤として、下記式(1)で表されるテトラベンジルチウラムジスルフィドが必ず配合される。本発明者が熱膨張性マイクロカプセルに対する加硫促進剤の影響について鋭意研究した結果、加硫促進剤としてテトラベンジルチウラムジスルフィドを用いることで、加硫促進剤の配合量を抑えながら、加硫時間を適度に短縮し、且つ、熱膨張性マイクロカプセルを適切に発泡させることができることを発見した。
【化1】
【0022】
テトラベンジルチウラムジスルフィドの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.01質量部以上、好ましくは0.01質量部~2.00質量部、より好ましくは0.1質量部~1.8質量部である。テトラベンジルチウラムジスルフィドの配合量が0.01質量部未満であると、テトラベンジルチウラムジスルフィドを配合することによる効果が十分に得られない。テトラベンジルチウラムジスルフィドの配合量が2.00質量部を超えると、加硫速度が過剰に速くなるため、前述の熱膨張性マイクロカプセルを充分に発泡させることが難しくなる。
【0023】
更に、テトラベンジルチウラムジスルフィドの配合量は、熱膨張性マイクロカプセルの配合量に対して、重量比率で0.01~0.40、好ましくは0.05~0.38に設定するとよい。このように熱膨張性マイクロカプセルに対するテトラベンジルチウラムジスルフィドの重量比率を設定することで、加硫速度と熱膨張性マイクロカプセルの発泡率とをバランスよく向上することができる。熱膨張性マイクロカプセルに対するテトラベンジルチウラムジスルフィドの重量比率が0.01未満であると、加硫速度が遅くなる。熱膨張性マイクロカプセルに対するテトラベンジルチウラムジスルフィドの重量比率が0.40を超えると、加硫速度が過剰に速くなるため、前述の熱膨張性マイクロカプセルを充分に発泡させることが難しくなる。
【0024】
本発明のゴム組成物では、シリカ以外の補強性充填剤としてカーボンブラックを配合することもできる。カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、好ましくは4質量部~50質量部、より好ましくは6質量部~45質量部にするとよい。このように特定の量のカーボンブラックを配合することで、ゴム組成物の強度を適度に向上することができる。カーボンブラックの配合量が4質量部よりも少ないと、シリカ濃度が濃くなることで加硫速度が遅くなる。カーボンブラックの配合量が50質量部よりも多いと、加硫後のゴム組成物の60℃におけるtanδが大きくなり発熱性に影響が出る虞がある。
【0025】
本発明のゴム組成物では、シリカと共にシランカップリング剤を配合することが好ましく、シリカの分散性を向上しゴム成分との補強性をより高くすることができる。シランカップリング剤は、シリカ配合量に対して好ましくは4質量%~10質量%、より好ましくは5質量%~9質量%にするとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカ質量の4質量%未満の場合、シリカの分散性を向上する効果が十分に得られない。また、シランカップリング剤の配合量が10質量%を超えると、シランカップリング剤同士の縮合等により配合量に見合った配合効果が得られない。
【0026】
シランカップリング剤の種類は、特に限定されないが、硫黄含有シランカップリング剤が好ましく、例えばビス‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3‐トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3‐トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ‐メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3‐オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0027】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述のシリカやカーボンブラック以外の補強性充填剤を配合することもできる。補強性充填剤としては、例えば、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等を例示することができる。
【0028】
更に、本発明のタイヤ用ゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することもできる。他の配合剤としては、加硫または架橋剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。このようなタイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0029】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述の配合で構成されているので、優れた氷上性能やウェット性能を発揮することができる。そのため、本発明のタイヤ用ゴム組成物はスタッドレスタイヤのトレッド部を構成するのに好適である。本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いた空気入りタイヤは、氷上性能を従来レベル以上に向上することができ、またウェット性能も改良することができる。
【0030】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
表1~2に示す配合からなる16種類のタイヤ用ゴム組成物(従来例1、比較例1~7、実施例1~8、但しスルフェンアミド系加硫促進剤またはグアニジン系加硫促進剤のいずれか一方のみを含む実施例1~2,7は参考例である)を、それぞれ熱膨張性マイクロカプセル、加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、温度150℃でマスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、熱膨張性マイクロカプセル、加硫促進剤および硫黄を加え2分間混合してタイヤ用ゴム組成物を調製した。尚、表中の「上記2種の合計量」の欄は、スルフェンアミド系加硫促進剤の配合量とグアニジン系加硫促進剤の配合量の合計を示している。また、表中の「重量比率」の欄は、熱膨張性マイクロカプセルの配合量に対するチウラム系加硫促進剤の配合量の比率を示している。
【0032】
得られたタイヤ用ゴム組成物について、下記に示す方法により、加硫速度、熱膨張性マイクロカプセルの膨張率、膨張率の加硫時間依存性の評価を行った。
【0033】
加硫速度
得られたゴム組成物をJIS K6300‐2「振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」に準拠し、レオメータとしてロータレス加硫試験機を使用し、温度170℃において、得られるトルクを縦軸、加硫時間を横軸にした加硫曲線を測定した。得られた加硫曲線において、加硫開始からトルクが最大値MHまで要した加硫時間をtc(max)とした。JIS K6300‐2の規定から、トルクの最小値MLと最大値MHとの差をME(ME=MH-ML)と設定し、トルクが試験開始から、ML+50%MEとなる迄の加硫時間をT50とし、これを加硫速度とした。得られた結果は、測定値の逆数を用いて、従来例1の値を100とする指数として示した。この指数値が大きいほど加硫速度が速いことを意味する。尚、加硫速度の指数値が101以上であれば従来例と比較して充分に加硫速度を向上していることを意味する。
【0034】
膨張率
得られたゴム組成物を所定の金型中で170℃、10分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を作製し、それぞれの比重ρ′を測定した。また、各加硫ゴム試験片に対応する標準ゴム(各ゴム組成物の熱膨張性マイクロカプセルを除いた配合で製造したゴム組成物)の比重ρを測定した。これら比重ρ,ρ′はJIS K‐0061の「天びん法」に準拠して測定した。これら比重ρ,ρ′を用いて、式(1-ρ′/ρ)×100により熱膨張性マイクロカプセルの膨張率を算出した。得られた結果は、従来例1の値を100とする指数として示した。この指数値が大きいほど膨張率が高いことを意味する。尚、膨張率の指数値が97以上であれば従来例と同等以上に良好であることを意味する。
【0035】
膨張率の加硫条件依存性
得られたゴム組成物を所定の金型中で170℃、4分間の条件で加硫して作成した加硫ゴム試験片Aと、得られたゴム組成物を所定の金型中で170℃、8分間の条件で加硫して作成した加硫ゴム試験片Bとについて上述の方法で膨張率を算出し、試験片Bの場合の膨張率を試験片Aの場合の膨張率で除して、膨張率の加硫時間依存性を求めた。得られた結果は、従来例1の値を100とする指数として示した。この指数値が大きいほど膨張率の加硫時間依存性が低いことを意味する。尚、膨張率の加硫時間依存性の指数値が97以上であれば従来例と同等以上に良好であることを意味する。
【0036】
【0037】
【0038】
表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、STR20
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol1220
・CB:カーボンブラック、キャボットジャパン社製ショウブラックN339
・シリカ:ローディア社製Zeosil 1165MP
・シランカップリング剤:ビス‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド(TESPT)、Evonik社製Si69
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・プロセスオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
・ワックス:日本精蝋社製OZOACE‐0015A
・亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・老化防止剤:Solutia Europe社製SANTOFLEX 6PPD
・熱膨張性マイクロカプセル:松本油脂製薬社製マツモトマイクロスフェアF‐100
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄(硫黄含有量95.24質量%)
・加硫促進剤(スルフェンアミド系):大内新興化学工業社製ノクセラーCZ‐G
・加硫促進剤(グアニジン系):住友化学社製ソクシノールD‐G
・加硫促進剤(チウラム系1):大内新興化学工業社製ノクセラーTOT‐N
・加硫促進剤(チウラム系2):テトラベンジルチウラムジスルフィド、PERFORMANCE ADDIRIVES ITALY社製PERKACIT TBZTD PDR‐D
【0039】
表1~2から明らかなように、実施例1~8のタイヤ用ゴム組成物は、従来例1に対して、加硫速度を向上し、充分な膨張率を確保し、且つ、膨張率の加硫時間依存性を低く抑えることができた。
【0040】
一方、比較例1は、加硫促進剤としてテトラベンジルチウラムジスルフィドを含まないため、加硫速度が遅くなり、また、膨張率の加硫時間依存性も悪化した。比較例2は、加硫促進剤(スルフェンアミド系およびグアニジン系)の配合量が多いため加硫速度は向上するが、加硫促進剤としてテトラベンジルチウラムジスルフィドを含まないため、熱膨張性マイクロカプセルの膨張率や膨張率の加硫時間依存性が悪化した。比較例3は、熱膨張性マイクロカプセルの配合量に対するチウラム系加硫促進剤の配合量の重量比率が小さすぎるため、加硫速度が遅くなり、また、膨張率の加硫時間依存性も悪化した。比較例4は、熱膨張性マイクロカプセルの配合量に対するチウラム系加硫促進剤の配合量の重量比率が大きすぎるため、熱膨張性マイクロカプセルの膨張率が悪化した。比較例5は、熱膨張性マイクロカプセルの配合量が少なすぎるため、熱膨張性マイクロカプセルの膨張率が悪化した。比較例6は、熱膨張性マイクロカプセルの配合量が多すぎるため、膨張率の加硫時間依存性が悪化した。比較例7は、加硫促進剤としてテトラベンジルチウラムジスルフィド以外のチウラム系加硫促進剤が用いられているため、加硫速度を向上する効果が得られなかった。