(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】タイヤ用ゴム組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 9/00 20060101AFI20221109BHJP
C08K 3/36 20060101ALI20221109BHJP
C08K 7/16 20060101ALI20221109BHJP
C08K 5/40 20060101ALI20221109BHJP
C08K 3/013 20180101ALI20221109BHJP
B60C 1/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C08L9/00
C08K3/36
C08K7/16
C08K5/40
C08K3/013
B60C1/00 A
(21)【出願番号】P 2018155709
(22)【出願日】2018-08-22
【審査請求日】2021-08-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】杉浦 裕記
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-185339(JP,A)
【文献】特開2018-002871(JP,A)
【文献】特開2009-190499(JP,A)
【文献】特開2010-280745(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
C08K 3/00 - 13/08
B60C 1/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジエン系ゴム100質量部に対して、シリカが20質量部以上、熱膨張性マイクロカプセルが1質量部~20質量部、
少なくともチウラム系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤の2種を含む加硫促進剤が0.5質量部以上3.5質量部以下配合され、170℃におけるレオメータ加硫速度T50が1.0分~4.0分であり、前記熱膨張性マイクロカプセルの配合量と前記加硫速度T50との積が50以下であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。
【請求項2】
前記チウラム系加硫促進剤がテトラベンジルチウラムジスルフィドであることを特徴とする請求項
1に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項3】
前記ジエン系ゴム100質量部に対して、前記シリカが40質量部以上配合されたことを特徴とする請求項1
または2に記載のタイヤ用ゴム組成物。
【請求項4】
前記ジエン系ゴム100質量%中に天然ゴムを30質量%以上、ブタジエンゴムを30質量%以上含み、且つ、前記シリカ以外の他の補強性充填剤が配合され、前記シリカおよび前記補強性充填剤の合計中のシリカの割合が50質量%以上であることを特徴とする請求項1~
3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として冬用タイヤのトレッド部に用いることを意図し、熱膨張性マイクロカプセルおよびシリカが配合されたタイヤ用ゴム組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面の走行に適したスタッドレスタイヤ等の冬用タイヤにおいては、良好な氷上性能を得るために、トレッド部を構成するゴム組成物として熱膨張性マイクロカプセルが配合されたものを用いることが行われている(例えば、特許文献1を参照)。このようなタイヤでは、熱膨張性マイクロカプセルによってゴム中に多数の気泡が形成されているので、トレッドが氷面に踏み込むときにこれら気泡が氷表面の水膜を吸収除去し、トレッドが氷面から離れるときに吸収した水を遠心力で離脱させることを繰り返すようになるので、優れた氷上性能を得ることができる。そして、熱膨張性マイクロカプセルを配合したゴム組成物では、気泡が多くなるほどゴムの剛性が低下して耐摩耗性等の性能に影響が出るため、発泡率を適切な範囲に収めることで、氷上性能とタイヤに求められる一般的な性能とを両立することが求められる。
【0003】
このような熱膨張性マイクロカプセルの発泡率は、主として、熱膨張性マイクロカプセルの配合量とゴム組成物の加硫速度に依存する。即ち、加硫速度が速く、加硫時間が短くなると、熱膨張性マイクロカプセルが充分に発泡する前に加硫が完了するため、所望の発泡率が得られなくなる。逆に、加硫速度が遅く、加硫時間が長くなれば、熱膨張性マイクロカプセルを充分に発泡させることはできるが、ゴム組成物の加硫成形時の生産性が悪化する。また、加硫時間が長くなってゴム組成物の硬化が進むことで、一旦形成された気泡が潰れてしまい、却って発泡率が低下する虞もある。
【0004】
近年、スタッドレスタイヤ等の冬用タイヤのトレッド部に使用されるゴム組成物にシリカを配合して、ウェットグリップ性能および低転がり抵抗性能を改善することが行われているが、シリカが配合されたゴム組成物は一般的に加硫速度が遅くなる傾向があり、生産性を確保するために加硫促進剤を多く配合することが行われている。このような多量の加硫促進剤とシリカとを含むゴム組成物に上述の熱膨張性マイクロカプセルを導入する場合、加硫促進剤の配合量や、加硫条件(加硫成形時の温度、圧力、時間)が熱膨張性マイクロカプセルの発泡率に影響を及ぼすため、加硫成形時の生産性を維持しながら所望の発泡率を得ることが難しくなるという問題がある。特に、加硫時に、金型内のゴム組成物に掛かる温度や圧力の条件とベントホール内に入り込んだゴム組成物に掛かる温度や圧力の条件との違いに起因して、熱膨張性マイクロカプセルの発泡率に差が生じてしまい、ベントホール先端において過剰に気泡が形成されて、加硫済みのタイヤをモールドから取り出す際に、ベントホール先端のゴム組成物がもげてベントホールに詰まりが生じ、それ以降に同じモールドで形成されるタイヤに外観不良を引き起こす虞もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、熱膨張性マイクロカプセルおよびシリカが配合されたタイヤ用ゴム組成物であって、加硫成形時の生産性を維持しながら熱膨張性マイクロカプセルの発泡率を高めることを可能にしたタイヤ用ゴム組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成する本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、シリカが20質量部以上、熱膨張性マイクロカプセルが1質量部~20質量部、少なくともチウラム系加硫促進剤およびグアニジン系加硫促進剤の2種を含む加硫促進剤が0.5質量部以上3.5質量部以下配合され、170℃におけるレオメータ加硫速度T50が1.0分~4.0分であり、前記熱膨張性マイクロカプセルの配合量と前記加硫速度T50との積が50以下であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上記の配合で構成されて、加硫速度T50が上述の範囲に設定され、且つ、熱膨張性マイクロカプセルの配合量と加硫速度T50との積が所定の範囲に設定されているので、加硫速度を速めて加硫時間を短縮し加硫成形時の生産性を維持しながら、熱膨張性マイクロカプセルの良好な発泡率を確保することができ、これら性能をバランスよく両立することができる。尚、170℃におけるレオメータ加硫速度T50とは、タイヤ用ゴム組成物をJIS K6300‐2「振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」に準拠し、レオメータとしてロータレス加硫試験機を使用し、温度170℃において、得られるトルクを縦軸、加硫時間を横軸にした加硫曲線を測定し、この加硫曲線において、加硫開始からトルクが最大値MHまで要した加硫時間をtc(max)とし、JIS K6300‐2の規定から、トルクの最小値MLと最大値MHとの差をME(ME=MH-ML)と設定し、トルクが試験開始からML+50%MEとなるまでの加硫時間である。
【0009】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、加硫促進剤として含有するチウラム系加硫促進剤がテトラベンジルチウラムジスルフィドであることが好ましい。このように特定の加硫促進剤を含むことで、加硫速度を更に良好にすることができ、上述の性能をバランスよく両立するには有利になる。
【0010】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、ジエン系ゴム100質量部に対して、シリカが40質量部以上配合されたことが好ましい。また、ジエン系ゴム100質量%中に天然ゴムを30質量%以上、ブタジエンゴムを30質量%以上含み、且つ、シリカ以外の他の補強性充填剤が配合され、シリカおよび補強性充填剤の合計中のシリカの割合が50質量%以上であることが好ましい。このように本発明のゴム組成物に配合される各材料の種類や配合量をより適切に設定することで、加硫時間の短縮と熱膨張性マイクロカプセルの良好な発泡率の確保とをバランスよく両立するには有利になる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のタイヤ用ゴム組成物において、ジエン系ゴムとしては、天然ゴム、ブタジエンゴム、イソプレンゴム、スチレン‐ブタジエンゴム、アクリロニトリル‐ブタジエンゴム、ブチルゴム、ハロゲン化ブチルゴム等のタイヤ用ゴム組成物に一般的に用いられるゴムを使用することができる。これらジエン系ゴムは、単独又は任意のブレンドとして使用することができる。なかでも、天然ゴムおよびブタジエンゴムを好ましく用いることができ、これら天然ゴムおよびブタジエンゴムの2種類を併用した場合にはゴムの低温特性と強度を両立することができる。天然ゴムおよびブタジエンゴムを用いる場合、ジエン系ゴム100質量%中に、天然ゴムを好ましくは30質量%以上、より好ましくは40質量%~70質量%配合し、ブタジエンゴムを好ましくは30質量%以上、より好ましくは35質量%~55質量%配合するとよい。天然ゴムおよびブタジエンゴムのそれぞれの配合量が30質量%未満であると、これら2種類を併用する効果を充分に得ることができない。
【0012】
本発明のゴム組成物では、シリカが必ず配合される。シリカとしては、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるシリカ、例えば湿式法シリカ、乾式法シリカ、或いは表面処理シリカなどを使用することができる。シリカは、市販されているものの中から適宜選択して使用することができる。また通常の製造方法により得られたシリカを使用することができる。シリカの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し、20質量部以上、好ましくは40質量部以上、より好ましくは45質量部~100質量部である。このようにシリカを配合することで、発熱性を小さくしながらウェットグリップ性を向上することができる。シリカの配合量が20質量部未満であると、発熱性を充分に小さくすることができない。シリカの配合量が100質量部を超えると、耐摩耗性が低下する虞がある。
【0013】
本発明のゴム組成物に用いるシリカの物性は特に限定されないが、例えばシリカのCTAB比表面積が好ましくは80m2 /g~250m2 /g、より好ましくは100m2 /g~220m2 /gであるとよい。シリカのCTAB比表面積が80m2 /g未満であると、ゴム組成物に対する補強性が不十分となり耐摩耗性が不足する虞がある。シリカのCTAB比表面積が250m2 /gを超えると、発熱性が大きくなる虞がある。シリカのCTAB比表面積はJIS K6217-3に準拠して求めるものとする。
【0014】
本発明において、熱膨張性マイクロカプセルを配合することにより、空気入りタイヤのトレッド部を構成したときの氷上性能を向上する。熱膨張性マイクロカプセルは、熱可塑性樹脂で形成された殻材中に、熱膨張性物質を内包した構成からなる。このため、熱膨張性マイクロカプセルを混合したゴム組成物からなるトレッド部を有する未加硫タイヤを成形し、その加硫時にゴム組成物中の熱膨張性マイクロカプセルが加熱されると、殻材に内包された熱膨張性物質が膨張して殻材の粒径を大きくし、トレッドゴム中に多数の樹脂被覆気泡を形成する。このようにトレッドゴム中に多数の樹脂被覆気泡を形成することにより、トレッドが氷路面に踏み込むとき氷路面の水膜を吸収除去し、氷路面から離れると遠心力で水を離脱させて再び氷路面に踏込むことを繰り返して、水膜を除去しトレッドの氷路面に対する氷上摩擦力を向上可能にする。また、ミクロなエッジ効果が得られるため、氷上摩擦力を向上させる。
【0015】
熱膨張性マイクロカプセルの殻材はニトリル系重合体により形成することができる。またマイクロカプセルの殻材中に内包する熱膨張性物質は、熱によって気化または膨張する特性をもち、例えば、イソアルカン、ノルマルアルカン等の炭化水素からなる群から選ばれる少なくとも1種が例示される。イソアルカンとしては、イソブタン、イソペンタン、2‐メチルペンタン、2‐メチルヘキサン、2,2,4‐トリメチルペンタン等を挙げることができ、ノルマルアルカンとしては、n‐ブタン、n‐プロパン、n‐ヘキサン、n‐ヘプタン、n‐オクタン等を挙げることができる。これらの炭化水素は、それぞれ単独で使用しても複数を組み合わせて使用してもよい。熱膨張性物質の好ましい形態としては、常温で液体の炭化水素に、常温で気体の炭化水素を溶解させたものがよい。このような炭化水素の混合物を使用することにより、未加硫タイヤの加硫成形温度領域(150~190℃)において、低温領域から高温領域にかけて十分な膨張力を得ることができる。
【0016】
このような熱膨張性マイクロカプセルとしては、例えばスェーデン国エクスパンセル社製の商品名「EXPANCEL 091DU‐80」または「EXPANCEL 092DU‐120」等、或いは松本油脂製薬社製の商品名「マイクロスフェアー F‐85D」または「マイクロスフェアー F‐100D」等を使用することができる。
【0017】
熱膨張性マイクロカプセルの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対し1質量部~20質量部、好ましくは2質量部~10質量部にする。熱膨張性マイクロカプセルの配合量が1質量部未満であると、トレッドゴム中の樹脂被覆気泡の容積が不足し氷上性能を充分に得ることができない。マイクロカプセルの配合量が20質量部を超えるとトレッドゴムの耐摩耗性能が悪化する。
【0018】
本発明のゴム組成物では、加硫促進剤が必ず配合される。但し、加硫促進剤の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して0.5質量部以上3.5質量部以下、好ましくは0.7質量部~3.0質量部に制限される。このように加硫促進剤を過剰にならないように配合することで熱膨張性マイクロカプセルの発泡率に影響を及ぼさない範囲で適度に加硫速度を速めることができる。加硫促進剤の配合量が0.5質量部未満であると、加硫速度を充分に速めることができない。加硫促進剤の配合量が3.5質量部を超えると、熱膨張性マイクロカプセルの加硫条件に対する依存性が大きくなり、生産性を悪化させる。尚、複数種類の加硫促進剤を含む場合は総量(各加硫促進剤の配合量の合計)が上述の範囲を満たすものとする。
【0019】
加硫促進剤としては、タイヤ用ゴム組成物に通常使用されるグアジニン系、チアゾール系、スルフェンアミド系、チオウレア系の加硫促進剤以外にジチオカルバミン酸塩系、キサントゲン酸塩系を用いることができるが、少なくともチウラム系加硫促進剤を含むことが好ましい。チウラム系加硫促進剤としては、例えばテトラベンジルチウラムジスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィド、テトラメチルチウラムジスルフィド、テトラエチルチウラムジスルフィド、テトラブチルチウラムジスルフィド、ジペンタメチレンチウラムテトラスルフィド等を例示することができる。特に、これらの中でも、テトラベンジルチウラムジスルフィドを配合することが好ましい。テトラベンジルチウラムジスルフィドは、熱膨張性マイクロカプセルに対する加硫促進剤の影響についての本発明者の研究の結果、加硫促進剤の配合量を抑えながら、加硫時間を適度に短縮し、且つ、熱膨張性マイクロカプセルを適切に発泡させるのに好適であることが判明したので、加硫促進剤としてテトラベンジルチウラムジスルフィドを用いることで、加硫成形時の生産性を維持しながら熱膨張性マイクロカプセルの発泡率を高めるには有利になる。
【0020】
チウラム系加硫促進剤(特に、テトラベンジルチウラムジスルフィドの場合)の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して、好ましくは0.01質量部以上、より好ましくは0.01質量部~2.50質量部にするとよい。チウラム系加硫促進剤の配合量が0.01質量部未満であると、配合効果を十分に得られない。チウラム系加硫促進剤の配合量が2.50質量部を超えると、加硫速度が過剰に速くなるため、前述の熱膨張性マイクロカプセルを充分に発泡させることが難しくなる。
【0021】
本発明では、加硫促進剤として、上述のチウラム系加硫促進剤の他に、タイヤ用ゴム組成物に通常使用される他の加硫促進剤、例えばスルフェンアミド系加硫促進剤やグアニジン系加硫促進剤を用いることもできる。これら加硫促進剤は上述のチウラム系加硫促進剤と併せて単独または組み合わせて用いることができる。スルフェンアミド系加硫促進剤としては、例えばN‐シクロヘキシルベンゾチアゾールスルフェンアミド、N‐t‐ブチルベンゾチアゾールスルフェンアミド、N‐オキシジエチレンベンゾチアゾールスルフェンアミド、N,N‐ジシクロヘキシルベンゾチアゾールスルフェンアミド、(モルホリノジチオ)ベンゾチアゾール等を例示することができる。グアニジン系加硫促進剤としては、例えばジフェニルグアニジン、ジ(o‐トリル)グアニジン、o‐トリルビギアニド等を例示することができる。
【0022】
チウラム系加硫促進剤以外の他の加硫促進剤(スルフェンアミド系加硫促進剤やグアニジン系加硫促進剤)の配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して好ましくは0.1質量部~3.4質量部、より好ましくは0.5質量部~3.0質量部にするとよい。尚、この配合量は、上述のチウラム系加硫促進剤の他に2種類以上の加硫促進剤を含む場合は、それら2つの加硫促進剤の総量(配合量の合計)である。このように加硫促進剤を配合することで、加硫速度を速めることができる。これら加硫促進剤の配合量が0.1質量部未満であると、適切な加硫速度を確保することが難しくなる。これら加硫促進剤の配合量が3.4質量部を超えると、熱膨張性マイクロカプセルの加硫条件に対する依存性が大きくなり、生産性を悪化させる。
【0023】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、シリカ以外の他の補強性充填剤を配合することもできる。他の補強性充填剤としては、例えば、カーボンブラック、クレー、タルク、炭酸カルシウム、マイカ、水酸化アルミニウム等を例示することができる。シリカと共に上述の他の補強性充填剤を配合する場合、補強性充填剤100質量%中(シリカと他の補強性充填剤の合計中)のシリカの割合を、好ましくは50質量%以上にするとよい。このように補強性充填剤としてシリカを充分に含むことでシリカを配合することによる効果(発熱性を小さくしながらウェットグリップ性を向上する)を効率よく発揮することができる。補強性充填剤中のシリカの割合が50質量%未満であると発熱性を充分に小さく、かつウェットグリップ性能を十分に向上することができない。
【0024】
本発明のゴム組成物では、シリカと共にシランカップリング剤を配合することが好ましく、シリカの分散性を向上しゴム成分との補強性をより高くすることができる。シランカップリング剤は、シリカ配合量に対して好ましくは4質量%~10質量%、より好ましくは5質量%~9質量%にするとよい。シランカップリング剤の配合量がシリカ質量の4質量%未満の場合、シリカの分散性を向上する効果が十分に得られない。また、シランカップリング剤の配合量が10質量%を超えると、シランカップリング剤同士の縮合等により配合量に見合った配合効果が得られない。
【0025】
シランカップリング剤の種類は、特に限定されないが、硫黄含有シランカップリング剤が好ましく、例えばビス‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド、ビス(3‐トリエトキシシリルプロピル)ジサルファイド、3‐トリメトキシシリルプロピルベンゾチアゾールテトラサルファイド、γ‐メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3‐オクタノイルチオプロピルトリエトキシシラン等を例示することができる。
【0026】
更に、本発明のタイヤ用ゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することもできる。他の配合剤としては、加硫または架橋剤、老化防止剤、可塑剤、加工助剤などのタイヤ用ゴム組成物に一般的に使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量とすることができる。このようなタイヤ用ゴム組成物は、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用して、上記各成分を混合することによって製造することができる。
【0027】
上述の配合からなる本発明のタイヤ用ゴム組成物は、170℃における加硫速度T50が1.0分~4.0分、好ましくは0.6分~3.5分に調整され、且つ、熱膨張性マイクロカプセルの配合量〔質量部〕と加硫速度T50〔分〕との積が50以下、好ましくは1~45に設定されている。このようにタイヤ用ゴム組成物の物性を設定することで、加硫速度と熱膨張性マイクロカプセルの発泡率とのバランスが良好になり、加硫成形時の生産性を良好に維持しながら熱膨張性マイクロカプセルの発泡率を効果的に高めることができる。特に、本発明者は、熱膨張性マイクロカプセルに対する加硫促進剤の影響について鋭意研究した結果、加硫速度T50の範囲を設定するだけでなく、熱膨張性マイクロカプセルの配合量〔質量部〕と加硫速度T50〔分〕との積というパラメータを用いてタイヤ用ゴム組成物の物性を設定することが、加硫速度と熱膨張性マイクロカプセルの発泡率との両立には有効であることを発見した。熱膨張性マイクロカプセルの配合量〔質量部〕と加硫速度T50〔分〕との積が上述の範囲に設定されたタイヤ用ゴム組成物では、加硫速度と熱膨張性マイクロカプセルの発泡率とのバランスが良好になるので、加硫時に、金型内のゴム組成物に掛かる温度や圧力の条件とベントホール内に入り込んだゴム組成物に掛かる温度や圧力の条件との違いに起因して、熱膨張性マイクロカプセルの発泡率に差が生じ、ベントホール先端において過剰に気泡が形成されて、加硫済みのタイヤをモールドから取り出す際に、ベントホール先端のゴム組成物がもげてベントホールに詰まりが生じ、それ以降に同じモールドで形成されるタイヤに外観不良を引き起こすことを効果的に防止できることができる。加硫速度T50が0.5分未満であると、加硫速度が速すぎるため、熱膨張性マイクロカプセルを充分に発泡させることが難しくなる。加硫速度T50が4.0分を超えると、加硫速度が遅すぎるため、生産性が悪化する。熱膨張性マイクロカプセルの配合量と加硫速度T50との積が50を超えると、加硫速度と熱膨張性マイクロカプセルの発泡率とのバランスが悪くなり、上述の外観不良を防止する効果が充分に得られない。
【0028】
本発明のタイヤ用ゴム組成物は、上述の配合で構成され、上述の物性を有するので、加硫時の生産性を悪化させることなく、優れた氷上性能やウェット性能を発揮することができる。そのため、本発明のタイヤ用ゴム組成物はスタッドレスタイヤのトレッド部を構成するのに好適である。本発明のタイヤ用ゴム組成物をトレッド部に用いた空気入りタイヤは、氷上性能を従来レベル以上に向上することができ、またウェット性能も改良することができる。
【0029】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例】
【0030】
表1~2に示す配合からなる17種類のタイヤ用ゴム組成物(従来例1、比較例1~4、実施例1~11、但しグアニジン系加硫促進剤を含有しない実施例8は参考例である)を、それぞれ熱膨張性マイクロカプセル、加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.8Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、温度150℃でマスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを1.8Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、熱膨張性マイクロカプセル、加硫促進剤および硫黄を加え2分間混合してタイヤ用ゴム組成物を調製した。尚、表中の「合計量」の欄は、スルフェンアミド系加硫促進剤の配合量とグアニジン系加硫促進剤の配合量とチウラム系加硫促進剤1または2の配合量の合計を示している。
【0031】
得られたタイヤ用ゴム組成物について、下記に示す方法により測定した加硫速度T50と、この加硫速度T50〔分〕と熱膨張性マイクロカプセルの配合量〔質量部〕との積を求め、表1,2に併せて示した。
【0032】
加硫速度T50
得られたゴム組成物をJIS K6300‐2「振動式加硫試験機による加硫特性の求め方」に準拠し、レオメータとしてロータレス加硫試験機を使用し、温度170℃において、得られるトルクを縦軸、加硫時間を横軸にした加硫曲線を測定した。得られた加硫曲線において、加硫開始からトルクが最大値MHまで要した加硫時間をtc(max)とした。JIS K6300‐2の規定から、トルクの最小値MLと最大値MHとの差をME(ME=MH-ML)と設定し、トルクが試験開始から、ML+50%MEとなる迄の加硫時間をT50とし、これを加硫速度とした。
【0033】
得られたタイヤ用ゴム組成物について、下記に示す方法により、熱膨張性マイクロカプセルの膨張率と、膨張率の加硫時間依存性の評価を行った。
【0034】
膨張率
得られたゴム組成物を所定の金型中で170℃、10分間プレス加硫して加硫ゴム試験片を作製し、それぞれの比重ρ′を測定した。また、各加硫ゴム試験片に対応する標準ゴム(各ゴム組成物の熱膨張性マイクロカプセルを除いた配合で製造したゴム組成物)の比重ρを測定した。これら比重ρ,ρ′はJIS K‐0061の「天びん法」に準拠して測定した。これら比重ρ,ρ′を用いて、式(1-ρ′/ρ)×100により熱膨張性マイクロカプセルの膨張率を算出した。得られた結果は、従来例1の値を100とする指数として示した。この指数値が大きいほど膨張率が高いことを意味する。尚、膨張率の指数値が97以上であれば従来例と同等以上に良好であることを意味する。但し、この指数値が140を超えると過剰の発泡による生産性悪化を起こすため不適当な例となる。
【0035】
膨張率の加硫条件依存性
得られたゴム組成物を所定の金型中で170℃、4分間の条件で加硫して作成した加硫ゴム試験片Aと、得られたゴム組成物を所定の金型中で170℃、8分間の条件で加硫して作成した加硫ゴム試験片Bとについて上述の方法で膨張率を算出し、試験片Bの場合の膨張率を試験片Aの場合の膨張率で除して、膨張率の加硫時間依存性を求めた。得られた結果は、従来例1の値を100とする指数として示した。この指数値が大きいほど膨張率の加硫時間依存性が低いことを意味する。尚、膨張率の加硫時間依存性の指数値が97以上であれば従来例と同等以上に良好であることを意味する。
【0036】
【0037】
【0038】
表1~2において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、STR20
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製Nipol1220
・CB:カーボンブラック、キャボットジャパン社製ショウブラックN339
・シリカ:ローディア社製Zeosil 1165MP
・シランカップリング剤:ビス‐(3‐トリエトキシシリルプロピル)テトラサルファイド(TESPT)、Evonik社製Si69
・ステアリン酸:日油社製ビーズステアリン酸
・プロセスオイル:昭和シェル石油社製エキストラクト4号S
・ワックス:日本精蝋社製OZOACE‐0015A
・亜鉛華:正同化学工業社製酸化亜鉛3種
・老化防止剤:Solutia Europe社製SANTOFLEX 6PPD
・熱膨張性マイクロカプセル:松本油脂製薬社製マツモトマイクロスフェアF‐100
・硫黄:鶴見化学工業社製金華印油入微粉硫黄(硫黄含有量95.24質量%)
・加硫促進剤(スルフェンアミド系):大内新興化学工業社製ノクセラーCZ‐G
・加硫促進剤(グアニジン系):住友化学社製ソクシノールD‐G
・加硫促進剤(チウラム系1):テトラベンジルチウラムジスルフィド、PERFORMANCE ADDIRIVES ITALY社製PERKACIT TBZTD PDR‐D
・加硫促進剤(チウラム系2):大内新興化学工業社製ノクセラーTOT‐N
【0039】
表1~2から明らかなように、実施例1~11のタイヤ用ゴム組成物は、従来例1に対して、充分な膨張率を確保し、且つ、膨張率の加硫時間依存性を低く抑えることができた。
【0040】
一方、比較例1は、加硫促進剤の配合量が多いため、熱膨張性マイクロカプセルの膨張率や膨張率の加硫時間依存性が悪化した。比較例2は、加硫速度T50が遅いため、膨張率の加硫時間依存性が悪化した。比較例3は、加硫促進剤の配合量が多いため、熱膨張性マイクロカプセルの膨張率や膨張率の加硫時間依存性が悪化した。比較例4は、熱膨張性マイクロカプセルの配合量が多すぎるため、膨張率の指数値が140を超えており、過剰発泡による生産性悪化が発生する。