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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/12 20060101AFI20221109BHJP
   B60C 11/13 20060101ALI20221109BHJP
   B60C 5/00 20060101ALI20221109BHJP
   B60C 11/03 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B60C11/12 D
B60C11/13 C
B60C5/00 H
B60C11/03 100C
B60C11/03 B
B60C11/13 B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018160442
(22)【出願日】2018-08-29
(65)【公開番号】P2020032840
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-08-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際弁理士法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 大輔
【審査官】増田 亮子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/022309(WO,A1)
【文献】特開2016-002987(JP,A)
【文献】特開2017-065625(JP,A)
【文献】特開2016-101804(JP,A)
【文献】特開2008-195100(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/12
B60C 11/13
B60C 5/00
B60C 11/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる一対のセンター主溝及び一対のショルダー主溝を含む4本の主溝が設けられ、これら主溝によりセンター陸部と該センター陸部の外側に位置する一対の中間陸部と該中間陸部の外側に位置する一対のショルダー陸部とが区画され、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、
車両内側及び車両外側のそれぞれの前記ショルダー陸部にタイヤ幅方向に延びるラグ溝及びサイプを有し、前記ショルダー陸部のラグ溝は一端が少なくとも接地端まで到達する一方で他端が前記ショルダー陸部内で終端し、前記ショルダー陸部のサイプは一端が前記ショルダー主溝に連通する一方で他端が接地領域内で終端し、
車両内側及び車両外側のそれぞれの前記中間陸部にタイヤ幅方向に延びるラグ溝を有し、前記中間陸部のラグ溝は一端が前記ショルダー主溝に連通する一方で他端が前記中間陸部内で終端し、車両内側の前記中間陸部にタイヤ幅方向に延びるサイプを有し、前記中間陸部のサイプは一端が前記センター主溝に連通する一方で他端が前記中間陸部内で終端し、
前記センター陸部にタイヤ幅方向に延びるサイプを有し、前記センター陸部のサイプは一端が車両内側の前記センター主溝に連通する一方で他端がタイヤ中心線を越えることなく前記センター陸部内で終端することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記センター陸部のサイプが車両内側の前記中間陸部のサイプの延長線上にあることを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記接地領域において、タイヤ中心線よりも車両外側にある前記ラグ溝及び前記サイプのタイヤ幅方向の総長さがタイヤ中心線よりも車両内側にある前記ラグ溝及び前記サイプのタイヤ幅方向の総長さより短く、かつ前記トレッド部の全体として前記ラグ溝のタイヤ幅方向の総長さに対する前記サイプのタイヤ幅方向の総長さの比が0.4~0.6であることを特徴とする請求項1又は2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
車両内側の前記ショルダー陸部における各サイプの前記タイヤ幅方向の長さが、車両内側の前記中間陸部における各ラグ溝のタイヤ幅方向の長さと同等であると共に、前記センター陸部における各サイプのタイヤ幅方向の長さと車両内側の前記中間陸部における各サイプのタイヤ幅方向の長さとの和と同等であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記センター主溝がタイヤ中心線から接地端までの幅に対して15%~25%の領域に配置され、前記ショルダー主溝がタイヤ中心線から接地端までの幅に対して55%~65%の領域に配置されていることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記中間陸部のラグ溝は前記ショルダー主溝に対する開口端に底上げ部を有することを特徴とする請求項1~5のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
車両外側の前記センター主溝がジグザグ形状の面取り部を有することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載の空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部にタイヤ周方向に延びる4本の主溝を設け、これら主溝により5列の陸部が区画された空気入りタイヤに関し、更に詳しくは、ドライ路面での操縦安定性能とチェーン装着時のスノー性能の両立を可能にした空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
空気入りタイヤにおいて、トレッド部にタイヤ周方向に延びる複数本の主溝を設け、これら主溝により複数列の陸部を区画したトレッドパターンが採用されている。更に、このような空気入りタイヤにおいて、トレッド部の各陸部にタイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝を設けることが行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
しかしながら、トレッド部におけるラグ溝の本数を増加させた場合、トレッド部の剛性が低下し、ドライ路面での操縦安定性能が低下することになる。逆に、トレッド部におけるラグ溝の本数を減少させた場合、チェーン装着時のスノー性能が低下することになる。このようにドライ路面での操縦安定性能とチェーン装着時のスノー性能とを同時に改善することは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-100020号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ドライ路面での操縦安定性能とチェーン装着時のスノー性能の両立を可能にした空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、前記トレッド部にタイヤ周方向に延びる一対のセンター主溝及び一対のショルダー主溝を含む4本の主溝が設けられ、これら主溝によりセンター陸部と該センター陸部の外側に位置する一対の中間陸部と該中間陸部の外側に位置する一対のショルダー陸部とが区画され、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、車両内側及び車両外側のそれぞれの前記ショルダー陸部にタイヤ幅方向に延びるラグ溝及びサイプを有し、前記ショルダー陸部のラグ溝は一端が少なくとも接地端まで到達する一方で他端が前記ショルダー陸部内で終端し、前記ショルダー陸部のサイプは一端が前記ショルダー主溝に連通する一方で他端が接地領域内で終端し、車両内側及び車両外側のそれぞれの前記中間陸部にタイヤ幅方向に延びるラグ溝を有し、前記中間陸部のラグ溝は一端が前記ショルダー主溝に連通する一方で他端が前記中間陸部内で終端し、車両内側の前記中間陸部にタイヤ幅方向に延びるサイプを有し、前記中間陸部のサイプは一端が前記センター主溝に連通する一方で他端が前記中間陸部内で終端し、前記センター陸部にタイヤ幅方向に延びるサイプを有し、前記センター陸部のサイプは一端が車両内側の前記センター主溝に連通する一方で他端がタイヤ中心線を越えることなく前記センター陸部内で終端することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、車両内側及び車両外側のそれぞれの中間陸部及びショルダー陸部が当該陸部のラグ溝により分断されない構造を採用することにより、車両内側及び車両外側における中間陸部及びショルダー陸部の剛性を十分に確保できるため、ドライ路面での操縦安定性能を改善することができる。特に、車両内側の中間陸部にラグ溝とサイプとを設けることで、当該陸部の剛性を確保することができ、ドライ路面での応答性を維持することが可能になる。更に、車両外側のセンター主溝に連通する溝がないことで、パターン剛性を高めることができ、ドライ路面での操縦安定性能の向上に寄与する。一方、チェーン装着時のスノー性能(特に、雪上路面での操縦安定性能)に対して高い改善効果を有する車両内側には車両外側に比べてラグ溝及びサイプを多く配置し、相対的にエッジ成分が大きくなるように構成されている。特に、ショルダー陸部では、ラグ溝によってエッジ成分を十分に確保しながら、サイプによって当該陸部の剛性を落とさずにエッジ成分を補填することができる。その結果、ドライ路面での操縦安定性能とチェーン装着時のスノー性能(特に、雪上路面での操縦安定性能)とを両立することが可能になる。
【0008】
本発明では、センター陸部のサイプは車両内側の中間陸部のサイプの延長線上にあることが好ましい。これにより、チェーン装着時のスノー性能を効果的に改善することができる。
【0009】
本発明では、接地領域において、タイヤ中心線よりも車両外側にあるラグ溝及びサイプのタイヤ幅方向の総長さはタイヤ中心線よりも車両内側にあるラグ溝及びサイプのタイヤ幅方向の総長さより短く、かつトレッド部の全体としてラグ溝のタイヤ幅方向の総長さに対するサイプのタイヤ幅方向の総長さの比は0.4~0.6であることが好ましい。これにより、トレッド部における各陸部の剛性を維持することができる。
【0010】
本発明では、車両内側のショルダー陸部における各サイプのタイヤ幅方向の長さは、車両内側の中間陸部における各ラグ溝のタイヤ幅方向の長さと同等であると共に、センター陸部における各サイプのタイヤ幅方向の長さと車両内側の中間陸部における各サイプのタイヤ幅方向の長さとの和と同等であることが好ましい。これにより、センター陸部の剛性を十分に確保することができ、ドライ路面での操縦安定性能を効果的に改善することができる。
【0011】
本発明では、センター主溝はタイヤ中心線から接地端までの幅に対して15%~25%の領域に配置され、ショルダー主溝はタイヤ中心線から接地端までの幅に対して55%~65%の領域に配置されていることが好ましい。これにより、ショルダー陸部が相対的に大きく構成され、ドライ路面での操縦安定性能を効果的に改善することができる。
【0012】
本発明では、中間陸部のラグ溝はショルダー主溝に対する開口端に底上げ部を有することが好ましい。これにより、中間陸部の剛性を十分に確保することができる。
【0013】
本発明では、車両外側のセンター主溝はジグザグ形状の面取り部を有することが好ましい。これにより、面取り部のエッジ効果に基づいて、チェーン装着時のスノー性能を効果的に改善することができる。
【0014】
本発明において、サイプとは溝幅が1.0mm以下の細溝であり、ラグ溝とは溝幅が1.0mmを超える溝である。接地領域とは、タイヤが基づく規格(JATMA、TRA、ETRTO等)にてタイヤ毎に規定される最大負荷能力に対応する空気圧をタイヤに充填して静止した状態で平板上に垂直に置き、最大負荷能力の80%に相当する荷重を負荷させたときの平板上に形成される接地面におけるタイヤ幅方向の最大直線距離に相当するタイヤ幅方向の領域である。接地端は、接地領域のタイヤ幅方向の最外側位置である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
図2】本発明の実施形態からなる空気入りタイヤのトレッドパターンを示す展開図である。
図3図2のトレッドパターンの要部を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1~3は本発明の実施形態からなる空気入りタイヤを示すものである。この空気入りタイヤは、車両装着時におけるタイヤ表裏の装着方向が指定されたタイヤである。図1及び図2において、INは車両装着時の車両内側であり、OUTは車両装着時の車両外側である。
【0017】
図1に示すように、本実施形態からなる空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、該トレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2,2と、これらサイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3,3とを備えている。
【0018】
一対のビード部3,3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア5の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー6が配置されている。
【0019】
一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層のベルト層7が埋設されている。これらベルト層7はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層7の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層7の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層8が配置されている。ベルトカバー層8の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0020】
なお、上述したタイヤ内部構造は空気入りタイヤにおける代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。
【0021】
図2に示すように、トレッド部1には、タイヤ周方向に延びる4本の主溝11~14が形成されている。より具体的には、トレッド部1において、タイヤ中心線CLよりも車両内側に位置するセンター主溝11と、タイヤ中心線CLよりも車両外側に位置するセンター主溝12と、センター主溝11よりも車両内側に位置するショルダー主溝13と、センター主溝12よりも車両外側に位置するショルダー主溝14とが形成されている。ここで、車両外側のセンター主溝12はタイヤ周方向に沿ってジグザグ形状をなす面取り部12Aを有しているが、他の主溝11,13,14は直線状をなしている。これら4本の主溝11~14により、トレッド部1には、タイヤ中心線CL上に位置するセンター陸部21と、センター陸部21よりも車両内側に位置する内側中間陸部22と、センター陸部21よりも車両外側に位置する外側中間陸部23と、内側中間陸部22よりも車両内側に位置する内側ショルダー陸部24と、外側中間陸部23よりも車両外側に位置する外側ショルダー陸部25とが区画されている。
【0022】
センター陸部21には、タイヤ幅方向に延びる複数本のサイプ41がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。サイプ41は、一端が車両内側のセンター主溝11に連通する一方で他端がタイヤ中心線CLを越えることなくセンター陸部21内で終端している。
【0023】
内側中間陸部22には、タイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝31がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。ラグ溝31は、一端が車両内側のショルダー主溝13に連通する一方で他端が内側中間陸部22内で終端している。また、内側中間陸部22には、タイヤ幅方向に延びる複数本のサイプ42がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。サイプ42は、一端が車両内側のセンター主溝11に連通する一方で他端が内側中間陸部22内で終端している。
【0024】
外側中間陸部23には、タイヤ幅方向に延びる複数本のラグ溝32がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。ラグ溝32は、一端が車両外側のショルダー主溝14に連通する一方で他端が外側中間陸部23内で終端している。
【0025】
内側ショルダー陸部24には、トレッド部1の端部からタイヤ幅方向内側に向かって延びる複数本のラグ溝33がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。ラグ溝33は、一端が少なくとも接地端Eまで到達する一方で他端が内側ショルダー陸部24内で終端している。また、内側ショルダー陸部24には、タイヤ幅方向に延びる複数本のサイプ43がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。サイプ43は、一端が車両内側のショルダー主溝13に連通する一方で他端が内側ショルダー陸部24内で終端している。
【0026】
外側ショルダー陸部25には、タイヤ幅方向に延在する複数本のラグ溝34がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。ラグ溝34は、一端が少なくとも接地端Eまで到達する一方で他端が外側ショルダー陸部25内で終端している。また、外側ショルダー陸部25には、タイヤ幅方向に延びる複数本のサイプ44がタイヤ周方向に間隔をおいて形成されている。サイプ44は、一端が車両外側のショルダー主溝14に連通する一方で他端が外側ショルダー陸部25内で終端している。
【0027】
なお、図2の実施形態において、内側ショルダー陸部24のラグ溝33及び外側ショルダー陸部25のラグ溝34は、その一端が接地端Eを超えてトレッド部1の端部まで到達しているが、その一端が少なくとも接地端Eに到達していれば、これに限定されるものではない。
【0028】
上述した空気入りタイヤでは、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、内側中間陸部22、外側中間陸部23、内側ショルダー陸部24及び外側ショルダー陸部25が各ラグ溝31~34により分断されない構造を採用することにより、各陸部22~25の剛性を十分に確保できるため、ドライ路面での操縦安定性能を改善することができる。特に、内側中間陸部22にラグ溝31とサイプ42とを設けることで、内側中間陸部22の剛性を確保することができ、ドライ路面での応答性を維持することが可能になる。更に、車両外側のセンター主溝12に連通する溝がないことで、パターン剛性を高めることができ、ドライ路面での操縦安定性能の向上に寄与する。一方、チェーン装着時のスノー性能(特に、雪上路面での操縦安定性能)に対して高い改善効果を有する車両内側には車両外側に比べてラグ溝及びサイプを多く配置し、相対的にエッジ成分が大きくなるように構成されている。特に、内側ショルダー陸部24及び外側ショルダー陸部25では、ラグ溝33,34によってエッジ成分を十分に確保しながら、サイプ43,44によって内側ショルダー陸部24及び外側ショルダー陸部25の剛性を落とさずにエッジ成分を補填することができる。その結果、ドライ路面での操縦安定性能とチェーン装着時のスノー性能(特に、雪上路面での操縦安定性能)とを両立することが可能になる。
【0029】
図2において、センター陸部21のサイプ41は、車両内側のセンター主溝11を挟んで対向する内側中間陸部22のサイプ42の延長線上に配置されている。これらサイプ41,42について、いずれもタイヤ周方向に対する鋭角側の傾斜角度θが55°~75°の範囲に設定されていると良い。このようにサイプ41及びサイプ42を構成することで、チェーン装着時のスノー性能を効果的に改善することができる。
【0030】
また、内側中間陸部22のラグ溝31及び外側中間陸部23のラグ溝32には、それぞれショルダー主溝13,14に対する開口端に底上げ部31A,32Aが設けられている。このようにラグ溝31,32に底上げ部31A,32Aを設けることで、内側中間陸部22及び外側中間陸部23の剛性を十分に確保することができる。なお、図2の実施形態では、ラグ溝31及びラグ溝32のそれぞれに底上げ部31A,32Aを設けた例を示したが、これに限定されるものではなく、ラグ溝31又はラグ溝32のいずれかのみに設けても良い。
【0031】
更に、車両外側のセンター主溝12はジグザグ形状の面取り部12Aを有している。このようにセンター主溝12に対してジグザグ形状を有する面取り部12Aを設けることで、面取り部12Aのエッジ効果に基づいて、チェーン装着時のスノー性能を効果的に改善することができる。
【0032】
上記空気入りタイヤにおいて、各陸部21~25におけるラグ溝31~34及びサイプ41~44のタイヤ幅方向の長さを以下のように設定すると良い。接地領域において、タイヤ中心線CLよりも車両内側にあるラグ溝31,33及びサイプ41~43のタイヤ幅方向の長さの合計を総長さTINとし、タイヤ中心線CLよりも車両外側にあるラグ溝32,34及びサイプ44のタイヤ幅方向の長さを合計した総長さTOUTとする。更に、トレッド部1の全体において、ラグ溝31~34のタイヤ幅方向の長さを合計した総長さT1とし、サイプ41~44のタイヤ幅方向の長さを合計した総長さT2とする。このとき、総長さTOUTは総長さTINよりも短く、かつ総長さT1に対する総長さT2の比T2/T1は0.4~0.6であることが好ましい。このような関係を満たすようにラグ溝31~34及びサイプ41~44のタイヤ幅方向の長さを設定することで、トレッド部1における各陸部21~25の剛性を維持することができる。
【0033】
また、車両内側に位置する陸部21,22,24に形成されたラグ溝31及びサイプ41~43において各溝のタイヤ幅方向の長さを長さLとする(図3参照)。このとき、内側ショルダー陸部24における各サイプ43の長さL43は、内側中間陸部22における各ラグ溝31の長さL31と同等であると共に、センター陸部21における各サイプ41の長さL41と内側中間陸部22における各サイプ42の長さL42との和T3と同等であることが好ましい。言い換えれば、長さL43と長さL31との差が±2mmであると共に、長さL43と和T3(長さL41と長さL42を合計した総長さ)との差が±2mmであることが好ましい。特に、内側中間陸部22のラグ溝31の長さL31は、内側中間陸部22の幅W22に対して0.5~0.7の範囲であることがより好ましい。車両内側に位置する陸部21,22,24のラグ溝31及びサイプ41~43において、上述のようにタイヤ幅方向の長さLを適度に設定することで、センター陸部21の剛性を十分に確保することができ、ドライ路面での操縦安定性能を効果的に改善することができる。
【0034】
更に、タイヤ中心線CLから接地端Eまでの幅を幅Wとし、タイヤ中心線CLからセンター主溝11の溝中心までの距離を距離D1とし、タイヤ中心線CLからショルダー主溝13の溝中心までの距離を距離D2とする(図3参照)。このとき、センター主溝11は幅Wに対して15%~25%の領域に配置され、ショルダー主溝13は幅Wに対して55%~65%の領域に配置されていると良い。言い換えれば、距離D1の幅Wに対する比率が15%~25%の範囲であり、距離D2の幅Wに対する比率が55%~65%の範囲であることが好ましい。特に、距離D1の幅Wに対する比率が18%であり、距離D2の幅Wに対する比率が60%であることがより好ましい。このように距離D1及び距離D2の幅Wに対する比率を適度に設定することで、内側ショルダー陸部24が相対的に大きく構成され、ドライ路面での操縦安定性能を効果的に改善することができる。なお、図3の実施形態では、距離D1,D2として車両内側にあるセンター主溝11及びショルダー主溝13に対する距離を示したが、車両外側にあるセンター主溝12及びショルダー主溝14に対しても同様に適用することが望ましい。トレッド部1の全体(車両内側及び車両外側の双方)において内側ショルダー陸部24及び外側ショルダー陸部25が相対的に大きく構成されることで、ドライ路面での操縦安定性能の更なる改善効果を得ることができる。
【実施例
【0035】
タイヤサイズ225/45R18で、トレッド部と一対のサイドウォール部と一対のビード部とを備え、トレッド部にタイヤ周方向に延びる一対のセンター主溝及び一対のショルダー主溝を含む4本の主溝が設けられ、これら主溝によりセンター陸部と該センター陸部の外側に位置する一対の中間陸部と該中間陸部の外側に位置する一対のショルダー陸部とが区画され、車両に対する装着方向が指定された空気入りタイヤにおいて、図2に示すように、車両内側及び車両外側のそれぞれのショルダー陸部にタイヤ幅方向に延びるラグ溝及びサイプを有し、ショルダー陸部のラグ溝は一端が少なくとも接地端まで到達する一方で他端がショルダー陸部内で終端し、ショルダー陸部のサイプは一端がショルダー主溝に連通する一方で他端が接地領域内で終端し、車両内側及び車両外側のそれぞれの中間陸部にタイヤ幅方向に延びるラグ溝を有し、中間陸部のラグ溝は一端がショルダー主溝に連通する一方で他端が中間陸部内で終端し、車両内側の中間陸部にタイヤ幅方向に延びるサイプを有し、中間陸部のサイプは一端がセンター主溝に連通する一方で他端が中間陸部内で終端し、センター陸部にタイヤ幅方向に延びるサイプを有し、センター陸部のサイプは一端が車両内側のセンター主溝に連通する一方で他端がタイヤ中心線を越えることなくセンター陸部内で終端した実施例1~7のタイヤを製作した。
【0036】
比較のため、車両内側及び車両外側のそれぞれのショルダー陸部にタイヤ幅方向に延びる2種類のラグ溝を有し、第一のラグ溝は一端が少なくとも接地端まで到達する一方で他端がショルダー主溝に連通し、第二のラグ溝は一端がショルダー主溝に連通する一方で他端が接地領域内で終端し、センター陸部にタイヤ幅方向に延びるラグ溝及びサイプを有し、センター陸部のラグ溝は一端が車両内側のセンター主溝に連通する一方で他端がタイヤ中心線を越えることなくセンター陸部内で終端し、センター陸部のサイプは一端が車両外側のセンター主溝に連通する一方で他端がタイヤ中心線を越えることなくセンター陸部内で終端すること以外は実施例1と同じ構造を有する従来例のタイヤを用意した。言い換えれば、従来例のタイヤは、実施例1におけるショルダー陸部のラグ溝をショルダー主溝に連通させ、実施例1におけるセンター主溝及びショルダー陸部のそれぞれのサイプをラグ溝に置き換えると共に、センター主溝に対してサイプを付加した構造を有する。
【0037】
実施例1~7において、車両内側のセンター主溝を挟んで対向する溝の位置関係、車両内側にあるラグ溝及びサイプの総長さTINと車両外側にあるラグ溝及びサイプの総長さTOUTとの関係、トレッド部全体におけるラグ溝の総長さT1に対するサイプの総長さT2の比(T2/T1)、内側ショルダー陸部における各サイプの長さと内側中間陸部における各ラグ溝の長さとの関係、車両内側のショルダー陸部における各サイプの長さと車両内側の中間陸部及びセンター陸部における各サイプの長さの和との関係、距離D1の幅Wに対する比率(D1/W×100%)、距離D2の幅Wに対する比率(D2/W×100%)、中間陸部のラグ溝における底上げ部の有無、車両外側のセンター主溝における面取り部の有無を表1のように設定した。表1において、ラグ溝又はサイプの長さ又は総長さはいずれもタイヤ幅方向に沿って測定される長さに基づくものである。
【0038】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、ドライ路面での操縦安定性能及びチェーン装着時のスノー性能(雪上路面での操縦安定性能)を評価し、その結果を表1に併せて示した。
【0039】
ドライ路面での操縦安定性能:
各試験タイヤをリムサイズ18×7.5Jのホイールに組み付けて排気量2000ccの車両に装着し、ドライ路面を走行した際のパネラーによる官能評価を実施した。評価結果は10段階の評価値で示した。この評価値が大きいほどドライ路面での操縦安定性能が優れていることを意味する。
【0040】
チェーン装着時のスノー性能(雪上路面での操縦安定性能):
各試験タイヤをリムサイズ18×7.5Jのホイールに組み付け、排気量2000ccの車両の駆動輪にチェーンを装着し、雪上路面を走行した際のパネラーによる官能評価を実施した。評価結果は10段階の評価値で示した。この評価値が大きいほど雪上路面での操縦安定性能が優れていることを意味する。
【0041】
【表1】
【0042】
表1から判るように、実施例1~7のタイヤは、従来例との対比において、ドライ路面での操縦安定性能とチェーン装着時のスノー性能(雪上路面での操縦安定性能)とを同時に改善することができた。
【符号の説明】
【0043】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
11~14 主溝
21~25 陸部
31~34 ラグ溝
41~44 サイプ
CL タイヤ中心線
E 接地端
図1
図2
図3