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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】マイクロニードルアプリケータ
(51)【国際特許分類】
   A61M 37/00 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
A61M37/00 500
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018161449
(22)【出願日】2018-08-30
(65)【公開番号】P2020031905
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2021-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001966
【氏名又は名称】特許業務法人笠井中根国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100103252
【弁理士】
【氏名又は名称】笠井 美孝
(74)【代理人】
【識別番号】100147717
【弁理士】
【氏名又は名称】中根 美枝
(72)【発明者】
【氏名】川邉 美波
(72)【発明者】
【氏名】土取 保紀
【審査官】竹下 晋司
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-509706(JP,A)
【文献】特表2008-534152(JP,A)
【文献】特表2004-510530(JP,A)
【文献】国際公開第2013/051568(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/038499(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
穿刺方向への移動によりマイクロニードルを皮膚に穿刺させる穿刺ロッドをハウジングへ押し込むと共に、可動シリンダを該ハウジング側へ移動させることにより、該ハウジングへの押込状態に保持された該穿刺ロッドの穿刺方向への移動が許容されて該マイクロニードルが穿刺可能とされるマイクロニードルアプリケータにおいて、
前記可動シリンダの前記ハウジング側への移動を阻止する移動制限手段と、
前記穿刺ロッドの前記ハウジングへの押込操作に伴って該移動制限手段を解除して該可動シリンダの該ハウジング側への移動を許容する解除手段と
を、有していることを特徴とするマイクロニードルアプリケータ。
【請求項2】
前記可動シリンダとの当接により該可動シリンダの前記ハウジング側への移動を阻止するロック部材によって前記移動制限手段が構成されていると共に、
前記解除手段において、前記穿刺ロッドが該ハウジングへ押し込まれることで該ロック部材と該可動シリンダとの当接が解除される請求項1に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【請求項3】
前記ロック部材が前記穿刺ロッドの押込方向と交差する方向に移動可能に配されており、該ロック部材の移動によって、前記可動シリンダへの当接による移動の阻止と当接解除による移動の許容とが選択的に実現される請求項2に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【請求項4】
前記穿刺ロッドを外側から覆うキャップにより該穿刺ロッドの前記ハウジング内への押込みが防止されている請求項1~3の何れか1項に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【請求項5】
前記可動シリンダの少なくとも一部を覆うカバーを有している請求項1~4の何れか1項に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【請求項6】
前記マイクロニードルが前記可動シリンダに装着可能とされていると共に、前記穿刺ロッドを外側から覆う取外し可能なキャップが前記ハウジングに取り付けられることで該マイクロニードルが該可動シリンダに装着不能とされている請求項1~5の何れか1項に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【請求項7】
前記マイクロニードルを穿刺作動させる穿刺ボタンを操作不能にする安全機構が設けられていると共に、前記可動シリンダが前記ハウジング側へ移動されることで該安全機構が解除される請求項1~6の何れか1項に記載のマイクロニードルアプリケータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薬剤などを経皮的に伝送するマイクロニードルの皮膚への穿刺を行うことのできるマイクロニードルアプリケータに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、皮下注射や静脈注射といった経皮的な薬剤の投与方法が知られている。このような注射による経皮的な薬剤の投与は、例えば経口的な薬剤の投与に比べて、効果が迅速に発揮されたり、酵素などにより分解されないなどのメリットがあるが、侵襲的であり、痛みを伴うことが多かった。
【0003】
そこで、微小な針(マイクロニードル)を用いた経皮的な薬剤投与方法が提案されている。すなわち、薬剤を塗布したマイクロニードルを皮膚に穿刺したり、中空のマイクロニードルを皮膚に穿刺して当該マイクロニードルに設けられたルーメンを通じて薬剤を注入したりすることで、経皮的に薬剤が投与され得る。マイクロニードルを用いた薬剤投与方法を採用することで、痛みの少ない経皮的な治療が可能とされている。
【0004】
ところで、マイクロニードルを皮膚に穿刺するための装置として、例えば特表2016-519983号公報(特許文献1)に記載の如きマイクロニードルアプリケータが知られている。かかるマイクロニードルアプリケータは、穿刺の際にマイクロニードルを保持する穿刺ロッドと、当該穿刺ロッドを内部に備えるハウジングと、当該ハウジングに対して移動可能とされる可動シリンダとを有している。そして、例えば穿刺ロッドをハウジングへ押し込んでコイルスプリングなどの弾性部材を圧縮するとともに、アプリケータを皮膚へ押し付けて可動シリンダをハウジング側へ移動させる。これにより、マイクロニードルが穿刺可能な状態とされて、かかる状態から弾性部材の圧縮を解除することで、穿刺ロッドが突出してマイクロニードルが穿刺されるようになっている。
【0005】
ところが、従来から提案されているマイクロニードルアプリケータでは、誤穿刺などへの対策が十分と言い難かった。例えば、従来構造のマイクロニードルアプリケータでは、穿刺ロッドをハウジングへ押し込む前にアプリケータを皮膚に押し付けてしまうと、可動シリンダがハウジング側へ押し込まれて、穿刺ロッドに設けられたマイクロニードルがアプリケータから突出して意図せず皮膚へ穿刺されてしまう場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特表2016-519983号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述の事情を背景に為されたものであって、その解決課題とするところは、マイクロニードルの意図しない穿刺等の防止に有効である、新規な構造のマイクロニードルアプリケータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以下、このような課題を解決するために為された本発明の態様を記載する。なお、以下に記載の各態様において採用される構成要素は、可能な限り任意の組み合わせで採用可能である。
【0009】
本発明の第1の態様は、穿刺方向への移動によりマイクロニードルを皮膚に穿刺させる穿刺ロッドをハウジングへ押し込むと共に、可動シリンダを該ハウジング側へ移動させることにより、該ハウジングへの押込状態に保持された該穿刺ロッドの穿刺方向への移動が許容されて該マイクロニードルが穿刺可能とされるマイクロニードルアプリケータにおいて、前記可動シリンダの前記ハウジング側への移動を阻止する移動制限手段と、前記穿刺ロッドの前記ハウジングへの押込操作に伴って該移動制限手段を解除して該可動シリンダの該ハウジング側への移動を許容する解除手段と
を、有していることを特徴とするものである。
【0010】
本態様に従う構造とされたマイクロニードルアプリケータによれば、穿刺ロッドをハウジングへ押し込む操作に際して移動制限手段が解除されることで可動シリンダのハウジング側への移動が許容される。それ故、穿刺ロッドをハウジングへ押し込む操作より前に可動シリンダがハウジング側へ移動することが防止されて、マイクロニードルの誤穿刺が防止され得る。
【0011】
本発明の第2の態様は、前記第1の態様に係るマイクロニードルアプリケータにおいて、前記可動シリンダとの当接により該可動シリンダの前記ハウジング側への移動を阻止するロック部材によって前記移動制限手段が構成されていると共に、前記解除手段において、前記穿刺ロッドが該ハウジングへ押し込まれることで該ロック部材と該可動シリンダとの当接が解除されるものである。
【0012】
本態様に従う構造とされたマイクロニードルアプリケータによれば、ロック部材を設けて可動シリンダと当接させることで可動シリンダの移動を阻止する移動制限手段が構成されるとともに、穿刺ロッドを押し込んで可動シリンダとの当接を解除することで、移動制限手段を解除して可動シリンダの移動を許容する解除手段が構成される。
【0013】
本発明の第3の態様は、前記第2の態様に係るマイクロニードルアプリケータにおいて、前記ロック部材が前記穿刺ロッドの押込方向と交差する方向に移動可能に配されており、該ロック部材の移動によって、前記可動シリンダへの当接による移動の阻止と当接解除による移動の許容とが選択的に実現されるものである。
【0014】
本態様に従う構造とされたマイクロニードルアプリケータによれば、ロック部材が移動することで可動シリンダとの当接が解除されて、可動シリンダの移動が許容される。特に、ロック部材の可動方向が穿刺ロッドの押込方向と交差することから、穿刺ロッドの押込力をロック部材でより効率的に阻止できる。
【0015】
本発明の第4の態様は、前記第1~第3の何れかの態様に係るマイクロニードルアプリケータにおいて、前記穿刺ロッドを外側から覆うキャップにより該穿刺ロッドの前記ハウジング内への押込みが防止されているものである。
【0016】
本態様に従う構造とされたマイクロニードルアプリケータによれば、キャップを外さないと穿刺ロッドの押込みおよび可動シリンダの移動が許容されないことから、可動シリンダの意図しない移動がより確実に防止され得る。
【0017】
本発明の第5の態様は、前記第1~第4の何れかの態様に係るマイクロニードルアプリケータにおいて、前記可動シリンダの少なくとも一部を覆うカバーを有しているものである。
【0018】
本態様に従う構造とされたマイクロニードルアプリケータによれば、可動シリンダを覆うことでハウジング側への移動を阻止し得るカバーが設けられることで、可動シリンダの意図しない移動が一層確実に防止され得る。
【0019】
本発明の第6の態様は、前記第1~第5の何れかの態様に係るマイクロニードルアプリケータにおいて、前記マイクロニードルが前記可動シリンダに装着可能とされていると共に、前記穿刺ロッドを外側から覆う取外し可能なキャップが前記ハウジングに取り付けられることで該マイクロニードルが該可動シリンダに装着不能とされているものである。
【0020】
本態様に従う構造とされたマイクロニードルアプリケータによれば、キャップを取り外すことなくマイクロニードル可動シリンダに装着ることが不能とされていることから、例えばマイクロニードルがアプリケータに装着された状態で可動シリンダがハウジング側に意図せず移動して誤穿刺が発生することも防止され得る。
【0021】
本発明の第7の態様は、前記第1~第6の何れかの態様に係るマイクロニードルアプリケータにおいて、前記マイクロニードルを穿刺作動させる穿刺ボタンを操作不能にする安全機構が設けられていると共に、前記可動シリンダが前記ハウジング側へ移動されることで該安全機構が解除されるものである。
【0022】
本態様に従う構造とされたマイクロニードルアプリケータによれば、可動シリンダをハウジング側へ移動させる、即ち、例えばアプリケータを皮膚へ押し付けることでマイクロニードルの穿刺作動が可能となることから、アプリケータを皮膚へ押し付ける前にマイクロニードルが突出することも防止できる。
【発明の効果】
【0023】
本発明に従う構造とされたマイクロニードルアプリケータによれば、可動シリンダのハウジング側への移動が制御されることで、マイクロニードルの意図しない穿刺作動の防止等に有効となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の第1の実施形態としてのマイクロニードルアプリケータを、カバーを外した初期状態で底面側から示す斜視図。
図2図1に示されたマイクロニードルアプリケータの縦断面斜視図。
図3図1に示されたマイクロニードルアプリケータの分解斜視図。
図4図1に示されたマイクロニードルアプリケータを、カバーを被せた保管状態で平面側から示す斜視図。
図5図1に示されたマイクロニードルアプリケータにおいて穿刺ロッドを押し込んだ状態を示す斜視図。
図6図5に示されたマイクロニードルアプリケータの縦断面斜視図。
図7図5に示されたマイクロニードルアプリケータに対してマイクロニードルを保持するケースを装着する途中の状態を示す斜視図。
図8図7に示されたマイクロニードルアプリケータに対してマイクロニードルを保持するケースを装着した状態を示す斜視図。
図9図8に示されたマイクロニードルアプリケータにおいてマイクロニードルを保持するケースからケースカバーを外した状態を示す斜視図。
図10図9に示されたマイクロニードルアプリケータを平面側から示す斜視図。
図11図10におけるXI-XI断面を示す横断面斜視図。
図12図10に示されたマイクロニードルアプリケータにおいて可動シリンダをハウジング側に移動させた状態を示す斜視図。
図13図12に示されたマイクロニードルアプリケータの縦断面斜視図。
図14図12に示されたマイクロニードルアプリケータの縦断面図。
図15図14におけるXV-XV断面を示す横断面斜視図。
図16図12に示されたマイクロニードルアプリケータにおいて穿刺ボタンを押圧操作してマイクロニードルを穿刺した後に穿刺ボタンの押圧を解除した状態を示す縦断面図。
図17】本発明の第2の実施形態としてのマイクロニードルアプリケータを、カバーを被せた保管状態で示す縦断面図。
図18図17に示されたマイクロニードルアプリケータを構成するキャップを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を更に具体的に明らかにするために、本発明の実施形態について、図面を参照しつつ、詳細に説明する。
【0026】
先ず、図1,2には、本発明の第1の実施形態としてのマイクロニードルアプリケータ(以下、アプリケータ)10が示されている。なお、図1,2では、アプリケータ10が、後述するカバー152を外した初期状態で示されている。このアプリケータ10は、微小な針(マイクロニードル12(図9など参照))を保持することが可能とされており、マイクロニードル12を保持するアプリケータ10を皮膚に押し当ててマイクロニードル12を皮膚に穿刺することで、例えばマイクロニードル12に塗布された薬液が、患者に経皮的に投与されるようになっている。なお、以下の説明において、上下方向とは、後述する穿刺ロッド14の押込方向および射出方向となる図2中の略上下方向をいう。また、上方とは、アプリケータ10が患者の皮膚に押し付けられる際に使用者が把持して押し付ける側(皮膚から遠い側)である図2中の略上方をいう一方、下方とは、患者の皮膚の位置する側である図2中の略下方をいう。因みに、図1は、図2とは上下を反転させた状態で示している。
【0027】
より詳細には、アプリケータ10は、全体として下方に開口する上下逆向きの略有底筒形状とされたハウジング16を備えている。本実施形態では、図3にも示されるように、当該ハウジング16が、外周側に位置する外側ハウジング18と、内周側に位置する内側ハウジング20とを含んで構成されている。なお、アプリケータ10において、ばねを除く各部材は、硬質の合成樹脂等により形成されることが好ましい。
【0028】
外側ハウジング18は、全体として下方に開口する逆向きの略有底筒形状とされており、上底壁部22の外周縁部から周壁部24が下方に延びている。この上底壁部22は、平面視が、略円環形状または略環状の正八角形で上方に膨らんだドーム状とされており、中央には、上下方向に貫通する貫通孔26が形成されている。また、上底壁部22の外周縁部から下方に向かって略ストレートな筒形状の周壁部24が一体形成されている。
【0029】
また、上底壁部22の貫通孔26の開口周縁部には、下方に突出する係止爪28が設けられている。かかる係止爪28は、ハウジング16の軸直角方向となる径方向に弾性変形可能とされている。なお、本実施形態では、4本の係止爪28が、周上で略等間隔(略90度毎)に形成されている。
【0030】
さらに、上底壁部22において係止爪28よりも外周側(係止爪28と周壁部24との間)には、下方に突出する平板状又は湾曲板状の2つの支持壁部30a,30bが、径方向(後述する図14中の左右方向)で相互に対向して形成されている。すなわち、後述する穿刺ボタン102と中央に設けられる穿刺ロッド14や穿刺ばね70などの部材との対向間に一方の支持壁部30aが設けられているとともに、他方の支持壁部30bが、穿刺ロッド14や穿刺ばね70を挟んで反対側に設けられている。
【0031】
ここにおいて、一方の支持壁部30aの幅方向(周方向)の中央部分には、外周側へ突出するガイド突起32が、上下方向に延びて形成されている。また、他方の支持壁部30bの幅方向中央部分には、下方に開口する切欠き34が設けられている。
【0032】
更にまた、外側ハウジング18の上下方向中間部分には、周壁部24を厚さ方向に貫通する嵌合孔36が形成されている。
【0033】
一方、内側ハウジング20は、全体として外側ハウジング18よりも小さな逆向きの略有底筒形状とされている。すなわち、内側ハウジング20の上端部分には、外側ハウジング18の貫通孔26と略同形の蓋部38が設けられている。そして、蓋部38の下方において外側ハウジング18の係止爪28と対応する位置には、径方向に貫通する係止孔40が設けられている。さらに、蓋部38の内面には、後述する穿刺ばね70を支持する略小径筒状のばね支持部42が、下方に突出して一体的に設けられている。
【0034】
更にまた、蓋部38の外周から下方に延び出した周壁部分には、高さ方向の中間部分に段差が設けられており、段差より下方が大径の周壁部44とされている。この周壁部44は、略角丸の矩形状とされており、外側ハウジング18における支持壁部30aの内側に位置する壁部46aと、支持壁部30bの内側に位置する壁部46bと、これらの対向位置する壁部46a,46bを相互に接続する一対の壁部46c,46cを含んで構成されている。また、壁部46aの外面は、段差より下方において上端から下端近くにまで広がる縦平面とされており、当該縦平面の下端には、軸直角方向に広がる当接面が形成されている。
【0035】
また、壁部46aの内面における幅方向略中央には、段差より下方において上下方向の略全長に亘って延びて内方に開口するガイド凹溝48が形成されている。更にまた、周壁部44を構成する上記各壁部46a,46b,46c,46cには、それぞれ、段差より上側部分に位置して係止孔40が形成されている。更に、壁部46bには、係止孔40から下方に延びる切欠き50が設けられていると共に、壁部46c,46cには、係止孔40,40から下方に延びる切欠き52,52が設けられている。また、本実施形態では、壁部46b,46c,46cの各外面において、部分的に上下方向に延びるリブが設けられている。さらに、内側ハウジング20の下端には、内周が広げられて下方に突出するカラー部54が形成されている。
【0036】
そして、前述の外側ハウジング18に対して上述の内側ハウジング20が下方から挿入されて組み付けられることでハウジング16が構成されている。また、外側ハウジング18の貫通孔26には、内側ハウジング20の蓋部38が嵌め入れられているとともに、各係止爪28が係止孔40に係止されている。
【0037】
そして、外側及び内側の両ハウジング18,20は、径方向で重ね合わされた内外周面が非円形状とされることで周方向に位置決めされている。また、係止爪28の係止孔40への係止作用と、外側ハウジング18の支持壁部30aの下端と内側ハウジング20の壁部46aの下端に形成された前記当接面との当接作用とによって、外側ハウジング18と内側ハウジング20とが上下方向で位置決めされた状態で固定されている。なお、かかる固定状態では、外側ハウジング18の上端面(上底壁部22の上端面)と内側ハウジング20の上端面(蓋部38の上端面)とが、上下方向で略同じ位置となっている。
【0038】
さらに、ハウジング16の内部には、穿刺ロッド14が配されている。本実施形態では、穿刺ロッド14は、筒状部56と底壁部58を有しており、全体として上下方向に延びる略有底の筒形状とされている。筒状部56の外周形状は、内側ハウジング20の周壁部44の内周形状よりも僅かに小さくされている。
【0039】
筒状部56は、内側ハウジング20の壁部46a,46b,46c,46cにそれぞれ対応する各壁部位において壁部60a,60b,60c,60cを備えている。なお、壁部60aの幅方向略中央には、上下方向の略全長に亘って延びるガイド凸条62が、外方に突設されている。また、壁部60bの上方部分には、壁部60bを貫通して貫通窓64が形成されている。さらに、壁部60cの上端部分には、外方に突出する位置決め突部66が設けられている。
【0040】
更にまた、底壁部58は、筒状部56よりも大きな外径の略円板形状とされて、穿刺ロッド14の下端においてフランジ状に突出している。なお、底壁部58の上面には、筒状部56内に突出して、後述する穿刺ばね70の下端を支持する略筒状のばね支持部68が設けられている。
【0041】
以上の如き穿刺ロッド14は、筒状部56において内側ハウジング20の周壁部44に下方から差し入れられている。また、周壁部44の壁部46aの内面に設けられたガイド凹溝48に対して筒状部56の壁部60aの外面に設けられたガイド凸条62が差し入れられるとともに、壁部46cに設けられた切欠き52内に壁部60cに設けられた位置決め突部66が差し入れられている。これにより、穿刺ロッド14が内側ハウジング20(ハウジング16)に対して上下方向で移動可能に組み付けられている。
【0042】
なお、穿刺ロッド14の内側ハウジング20に対する上方への移動端は、例えば底壁部58の外周部分が周壁部44の下端部分に打ち当たることで規定され得る。また、穿刺ロッド14の内側ハウジング20に対する下方への移動端は、位置決め突部66が切欠き52の下端に打ち当たることなどで規定され得る。
【0043】
また、穿刺ロッド14の筒状部56には、穿刺ばね70としての圧縮コイルスプリングが収容されており、軸方向に対向する蓋部38と底壁部58との間に付勢力を及ぼし得るようになっている。
【0044】
さらに、ハウジング16には、全体として略筒形状の可動シリンダ72が、上下方向で移動可能に組み付けられている。本実施形態では、周壁部74が略八角形状とされている。
【0045】
また、周壁部74の周上の一部(図14中の左方)には、差入口76が設けられている。この差入口76は、下方に開放された切欠窓状とされている。後述するように、使用者は、可動シリンダ72の外部側方から、差入口76を通じて、可動シリンダ72の内部に手指を差し入れ易くなっている。
【0046】
また、周壁部74における周上の一部(図14中の左方)は、上方に突出して当接板部78が形成されている。この当接板部78には、幅方向(周壁部74の周方向)の両側に突出する突出当接部80,80が設けられている。各突出当接部80は、当接板部78の上端から所定長さで下方に延びており、突出当接部80の下端が傾斜面81とされている。また、当接板部78の基端部分の幅方向両側には、突出当接部80が設けられておらず、切欠き状の当接回避領域82が形成されている。さらに、当接板部78の内面の幅方向略中央には、上下方向の略全長に亘って延びるガイド凹部84が形成されている。
【0047】
更にまた、周壁部74には、上方に開口する略筒状のばね収容部86が形成されている。本実施形態では、一対のばね収容部86,86が、周壁部74の軸直角方向(図14中の紙面手前奥方向)に対向位置して設けられている。なお、本実施形態では、ばね収容部86が、可動シリンダ72の周壁部74よりも上方に突出している。また、一対のばね収容部86,86の相互の対向内面には、それぞれ押圧部88(図15参照)が突設されている。なお、各押圧部88において、後述する穿刺ボタン102側の前面は、下方になるにつれて穿刺ボタン102から離れる後方(図14中の右方)に向かって傾斜する傾斜面90(図15参照)とされている。
【0048】
また、可動シリンダ72には、後述するマイクロニードル12のケース160を保持する一対のケース保持部92,92が、一対のばね収容部86,86の下方に突出して設けられている。各ケース保持部92は、略矩形の枠形状とされており、下辺部分の略中央には、内方に突出する爪部94が設けられている。特に、本実施形態では、爪部94の内面に凹凸が付されており、後述するようにマイクロニードル12のケース160の外周面に設けられた凹凸に係合可能とされている。
【0049】
さらに、可動シリンダ72の周壁部74において、差入口76と径方向で対向する後方側には、下方に突出するストッパ96が設けられている。かかるストッパ96により、後述するマイクロニードル12のケース160を可動シリンダ72へ装着する際に、ケース160を後方に向けて押し込む移動端が規定されるようになっている。
【0050】
そして、可動シリンダ72のハウジング16への組付状態では、可動シリンダ72の周壁部74が、外側ハウジング18の周壁部24と内側ハウジング20の周壁部44との間に位置している。また、可動シリンダ72の当接板部78に設けられたガイド凹部84には、外側ハウジング18における支持壁部30aのガイド突起32が差し入れられており、これらガイド突起32とガイド凹部84とのガイド作用により、可動シリンダ72が、ハウジング16に対して上下方向に対して傾くことなく移動可能とされている。
【0051】
また、可動シリンダ72とハウジング16との間には、一対のばね収容部86,86に各下部が差し入れられた一対の圧縮コイルスプリングからなる押さえばね98,98により、上下方向で互いに離隔する方向の付勢力が及ぼされている。なお、各押さえばね98の上端は、外側ハウジング18の上底壁部22の内面に突設されたばね保持部100(図11参照)によって位置決めされている。
【0052】
さらに、ハウジング16には、マイクロニードル12の穿刺作動を行う穿刺ボタン102とロックレバー104とが組み付けられている。穿刺ボタン102は、嵌合孔36へ出入可能に嵌め入れられて外側ハウジング18の外へ突出するボタン本体106と、嵌合孔36の内側で広がって外側ハウジング18からの抜け出しを防止する鍔部108とを備えている。さらに、鍔部108の幅方向(図14中の紙面手前奥方向)の両端部分には、内方に突出する係合突部110,110が設けられている。なお、各係合突部110の突出先端面には、突出高さが下方に向かって次第に大きくなる傾斜面112(図3参照)が設けられている。
【0053】
一方、ロックレバー104は、全体として略矩形枠状の部材とされており、周壁部114が、前後方向で対向する略平板状の壁部116a,116bと、左右方向で対向する略平板状の壁部116c,116cとから構成されている。
【0054】
なお、周壁部114の前側の壁部116aには、穿刺ボタン102の係合突部110,110と対応する位置に、上方に開口する切欠き状の貫通溝118,118が設けられている。そして、穿刺ボタン102の鍔部108が壁部116aに対して外方から重ね合わされるとともに、係合突部110が貫通溝118に差し入れられてロックレバー104の内方に突出されている。
【0055】
また、周壁部114の後側の壁部116bには、周方向の略中央から外方に突出するばね支持部120と、内方に突出する係止部122とが設けられている。更に、係止部122の突出先端における下面が、上方に行くに従って内方への突出高さが大きくなる傾斜面とされており、本実施形態では、湾曲しながら傾斜する傾斜湾曲面124とされている。一方、係止部122の上面は、略水平に広がる平坦面125とされている。
【0056】
更にまた、周壁部114における左右両側の壁部116c,116cのそれぞれには、外方に開口して上下方向の略全長に亘って延びる開口溝126が設けられている。本実施形態では、開口溝126における前方側の溝内面には、下方に行くに従って溝幅を狭くする方向に傾斜する傾斜面128(図3参照)が設けられている。
【0057】
さらに、ロックレバー104の上方には、可動シリンダ72の上方への移動を阻止するロック部材としてのシリンダロック130が配設されている。かかるシリンダロック130は、全体として略矩形枠状の部材とされており、周壁部132が、前後方向で対向する略平板状の壁部134a,134bと、左右方向で対向する一対の壁部134c,134cとから構成されている。
【0058】
そして、後側の壁部134bには、周方向の略中央から外方に突出するばね支持部136と、内方に突出する係合部138とが設けられている。なお、係合部138の突出先端における下面は、突出先端に行くに従って上方に傾斜する傾斜面とされており、本実施形態では、湾曲しながら傾斜する傾斜湾曲面140とされている。
【0059】
また、左右の壁部134c,134cのそれぞれには、下方に突出する当接突部142が設けられている。
【0060】
なお、ロックレバー104とシリンダロック130においては、それらを収容する外側ハウジング18との間に、何れも圧縮コイルスプリングからなるボタン用ばね144とロック用ばね146が組み付けられている。ボタン用ばね144は、一端部がロックレバー104のばね支持部120に外挿されており、他端が外側ハウジング18の対向内面に支持されている。同様に、ロック用ばね146は、一端がシリンダロック130のばね支持部136に外挿されており、他端が外側ハウジング18の対向内面に支持されている。
【0061】
これにより、ロックレバー104とシリンダロック130が外側ハウジング18の前方に向けて付勢されているとともに、ロックレバー104の前方に位置する穿刺ボタン102が、外側ハウジング18の嵌合孔36から突出する状態に付勢されている。また、ロックレバー104の上方にはシリンダロック130が重ね合わされており、ロックレバー104における壁部116bとシリンダロック130における壁部134b、およびこれら壁部116b,134bから内方に突出する係止部122と係合部138とが、外側ハウジング18における支持壁部30bと内側ハウジング20における壁部46b(および当該壁部46bから外方に突出するリブ)とにより、上下方向で挟まれて、即ち切欠き34,50の上下方向間に挿入されて、前後方向で移動可能に支持されている。したがって、これらロックレバー104とシリンダロック130は、穿刺ロッド14の押込方向(上下方向)と交差する方向に移動可能であり、本実施形態では、穿刺ロッド14の押込方向と直交する方向である前後方向に移動可能とされている。尤も、これらロックレバー104やシリンダロック130は、前後方向に対して傾斜する方向に移動可能とされてもよい。
【0062】
図1,2では、アプリケータ10が初期状態で示されている。すなわち、アプリケータ10の内部に設けられた穿刺ばね70、押さえばね98、ボタン用ばね144、ロック用ばね146が何れも自然長又は僅かな初期圧縮状態とされており、穿刺ロッド14および可動シリンダ72が何れもハウジング16から下方に突出している。特に、本実施形態では、初期状態において、穿刺ロッド14の底壁部58が、可動シリンダ72の内側に位置しているが、初期状態において、穿刺ロッドは、可動シリンダよりも外方(下方)まで突出していてもよい。また、初期状態では、穿刺ボタン102が、ハウジング16(外側ハウジング18)の嵌合孔36から外方に突出した状態とされている。さらに、初期状態では、ロックレバー104やシリンダロック130が、それらの内方に設けられた係止部122および係合部138のそれぞれの突出先端に設けられた傾斜湾曲面124,140と、穿刺ロッド14における筒状部56の壁部60bとが上下方向の投影で重なる位置に配されている。
【0063】
ここにおいて、図1,2に示された初期状態では、可動シリンダ72における当接板部78の上端である突出当接部80,80と、シリンダロック130の壁部134c,134cから下方に突出する当接突部142,142とが上下方向で相互に当接している。これにより、初期状態における可動シリンダ72のハウジング16側への移動が阻止されており、本実施形態では、可動シリンダ72のハウジング16側への移動を阻止する移動制限手段148が、これら可動シリンダ72の突出当接部80とシリンダロック130の当接突部142とを含んで構成されている。
【0064】
また、かかる初期状態では、後述する図11に示されるように、穿刺ボタン102から内方に突出する係合突部110が、ロックレバー104の壁部116aに設けられた貫通溝118を通じて周壁部114の内部まで延びており、係合突部110の突出先端が、壁部116aの内方に設けられた可動シリンダ72の当接板部78における突出当接部80に対して、前後方向で当接するようになっている。これにより、初期状態において、穿刺ボタン102の押込操作が不能とされており、本実施形態では、穿刺ボタン102を操作不能にする安全機構150が、これら穿刺ボタン102の係合突部110と可動シリンダ72の突出当接部80とを含んで構成されている。
【0065】
上記の如き構造とされたアプリケータ10は、使用前の保管状態において、図4に示されるように、ハウジング16に対して下方からカバー152が被せられている。このカバー152は、全体として略カップ形状とされており、略八角形状とされた底壁部154と周壁部156とを備えている。周壁部156は、ハウジング16(外側ハウジング18)の周壁部24に対して着脱可能に外嵌されて、それにより、カバー152が可動シリンダ72や穿刺ロッド14を外側から覆い、可動シリンダ72や穿刺ロッド14に外力が及ぼされないようにして保護し得るようにされている。このようなカバー152が設けられることで、保管状態において可動シリンダ72や穿刺ロッド14が意図せず移動することが防止され得る。そして、図4に示される保管状態からカバー152を取り外すことで、図1,2に示される使用前の初期状態とされる。
【0066】
アプリケータ10の使用に際しては、先ず、初期状態から、図5,6に示されるように、穿刺ロッド14をハウジング16の内方に押し込む。すなわち、可動シリンダ72の差入口76から差し入れた手指で穿刺ロッド14の底壁部58を押圧操作することにより、穿刺ばね70を圧縮変形させつつ穿刺ロッド14をハウジング16の上方に押し込む。なお、図5に示されるようにアプリケータ10を上下反転させた状態で把持して、穿刺ロッド14を押し下げるように操作してもよい。穿刺ロッド14のハウジング16への押込みに際しては、穿刺ロッド14のガイド凸条62と内側ハウジング20のガイド凹溝48とのガイド作用、および穿刺ロッド14の位置決め突部66が内側ハウジング20の切欠き52に嵌まり込むことによるガイド作用により、穿刺ロッド14がハウジング16に対して傾くことなく押し込まれるようになっている。
【0067】
かかる穿刺ロッド14のハウジング16内への押込操作により、穿刺ロッド14が上方に移動して、穿刺ロッド14における壁部60bの上端とロックレバー104から内方に突出する係止部122の傾斜湾曲面124とが当接する。かかる当接状態から穿刺ロッド14を更に押し込むことで、ボタン用ばね144が圧縮変形させられつつ、ロックレバー104が、後方に移動せしめられる。
【0068】
そして、穿刺ロッド14を更にハウジング16内へ押し込むことで、次に、穿刺ロッド14における壁部60bの上端とシリンダロック130から内方に突出する係合部138の傾斜湾曲面140とが当接する。かかる当接状態から穿刺ロッド14を更に押し込むことで、ロック用ばね146が圧縮変形させられつつ、シリンダロック130が、後方に移動せしめられる。これにより、可動シリンダ72のハウジング16側への移動を阻止する移動制限手段148における、可動シリンダ72の突出当接部80とシリンダロック130の当接突部142との当接が解除されて、可動シリンダ72のハウジング16側への移動が許容される。すなわち、本実施形態では、移動制限手段148を解除して可動シリンダ72のハウジング16側への移動を許容する解除手段158が、突出当接部80と当接突部142とを非当接状態とする機構により構成されている。したがって、本実施形態では、可動シリンダ72とシリンダロック130との当接による可動シリンダ72の移動阻止と、可動シリンダ72とシリンダロック130との当接解除による可動シリンダ72の移動許容とが、シリンダロック130の移動により、選択的に実現されるようになっている。
【0069】
なお、本実施形態では、使用前の保管状態においてカバー152が可動シリンダ72を覆うことから、可動シリンダ72の移動を阻止する移動制限手段148が、カバー152を含んで構成されると把握することもできる。また、カバー152を取り外すことで穿刺ロッド14の押込みおよび可動シリンダ72の移動が可能となることから、可動シリンダ72の移動を許容する解除手段158が、カバー152の取外し構造によって構成されると把握することもできる。尤も、移動制限手段を構成するカバーは、取り外しによって解除されるものに限定されず、例えば移動したり開いたり傾動等することで可動シリンダ72の移動を許容する解除手段構成され得る。
【0070】
さらに、押込み操作によって移動する穿刺ロッド14の壁部60bに設けられた貫通窓64がロックレバー104の位置にまで達すると、貫通窓64へロックレバー104の係止部122が入り込み、ロックレバー104が、ボタン用ばね144の弾性的な復元力に基づいて前方へ移動する。これにより、係止部122の突出先端における平坦面125が貫通窓64の内面に当接して、係止部122が貫通窓64に係止される。この結果、穿刺ロッド14の下方への移動が阻止されて、穿刺ロッド14が、ハウジング16内に押し込まれて穿刺ばね70による下方への付勢力が及ぼされた状態で保持される。
【0071】
このように穿刺ロッド14をハウジング16内に押し込んだ後、図7~9に示されるように、アプリケータ10の可動シリンダ72に対して、マイクロニードル12を保持するケース160を装着する。本実施形態では、ケース160が、マイクロニードル12を保持するケース本体162と、当該ケース本体162を外側から覆うケースカバー164とを含んで構成されている。
【0072】
すなわち、本実施形態のケース本体162は、全体として略円環状とされており、筒壁部166の上方の端部には、外周フランジ部168と内周フランジ部170(図13参照)が形成されている。なお、筒壁部166の外径寸法は、可動シリンダ72におけるケース保持部92,92の対向間距離と略等しくされているとともに、筒壁部166の内周フランジ部170の内径寸法が、穿刺ロッド14における底壁部58の外径寸法よりも大きくされている。
【0073】
そして、内周フランジ部170には、略円形の粘着シート172の外周部分が重ね合わされて固着されている。かかる粘着シート172の下面には、中央部分にマイクロニードル12が固定されて、内周フランジ部170の中心孔内に配されている。
【0074】
マイクロニードル12の具体的構造は限定されないが、本実施形態では、複数の微小な中実針からなる針本体174と、当該針本体174が固定されるベース部176とを含んで構成されており、針本体174には患者に投与される薬剤が塗布されている。
【0075】
一方、ケースカバー164は、全体として略コの字状とされており、ケース本体162を上下両側から挟んで覆う一対のカバー部178,178と、これらカバー部178,178を周上の一部で接続する接続部180とを備えている。そして、ケースカバー164は、ケース本体162から、側方に向けて取り外し可能とされている。
【0076】
そして、図7,8に示されるように、ケース本体162にケースカバー164が装着された状態で、ケース160が可動シリンダ72に対して差入口76を通じて装着及び取り外し可能とされている。なお、ケース本体162は、可動シリンダ72への装着状態で、外周フランジ部168がケース保持部92の爪部94と周壁部74との上下方向間で挟まれるとともに、筒壁部166の外周面に設けられた凹凸と爪部94に設けられた凹凸とが相互に係合せしめられている。
【0077】
また、図9に示されるように、差入口76を通じてケース本体162からケースカバー164を引き抜くことで、マイクロニードル12が外部に露出した状態とされる。
【0078】
さらに、マイクロニードル12を備えたケース160が装着されたアプリケータ10は、マイクロニードル12が露出された図10,11の下面において、患者の皮膚に押し付けられる。すなわち、ケース本体162における筒壁部166の下端を患者の皮膚に当接させた状態でハウジング16を下方に押し下げて、ハウジング16とケース本体162とを相互に接近変位させる。
【0079】
これにより、図12~15に示されるように、可動シリンダ72がハウジング16側(上方)へ移動させられる。すなわち、可動シリンダ72をハウジング16側へ移動させることで、押さえばね98が圧縮変形させられつつ、可動シリンダ72の周壁部74の略全体がハウジング16内へ収容される。かかる可動シリンダ72のハウジング16内への移動は、ハウジング16のガイド突起32と可動シリンダ72のガイド凹部84とのガイド作用により、可動シリンダ72がハウジング16に対して上下方向に真っ直ぐ移動せしめられる。
【0080】
なお、図1などに示される初期状態では、穿刺ボタン102の係合突部110と可動シリンダ72の突出当接部80とが相互に当接することで安全機構150が構成されて、穿刺ボタン102の押込操作が不能とされていたが、可動シリンダ72がハウジング16内を上方に移動(ハウジング16側に移動)することで、係合突部110と突出当接部80との当接が解除されて、係合突部110が突出当接部80の下方に位置する当接回避領域82に移動せしめられるようになっている。これにより、安全機構150が解除されて、穿刺ボタン102を、ハウジング16の嵌合孔36を通じて内部に押し込むことができる。
【0081】
また、可動シリンダ72がハウジング16へ入り込んだ穿刺準備状態では、可動シリンダ72におけるばね収容部86に設けられた押圧部88が、ロックレバー104における壁部116cに設けられた開口溝126内に入り込んでおり、押圧部88に設けられた傾斜面90と開口溝126に設けられた傾斜面128とが、前後方向で相互に離隔した状態で対向している。
【0082】
而して、穿刺準備状態とされたアプリケータ10において、穿刺ボタン102を押圧操作して押し込むことで、図16に示されるようにマイクロニードル12が穿刺作動される。なお、図16では、マイクロニードル12が穿刺された後、穿刺ボタン102の押圧を解除した状態が示されている。すなわち、図12~15に示される状態から穿刺ボタン102および当該穿刺ボタン102の内方に位置するロックレバー104が、ボタン用ばね144の圧縮変形を伴いつつ後方に移動せしめられることで、貫通窓64による係止部122の係止が解除されて、穿刺ロッド14が、穿刺ばね70の弾性的な復元力に基づいて下方に移動させられる。なお、本実施形態では、かかる穿刺ボタン102の押込操作に伴うロックレバー104の移動により、可動シリンダ72における押圧部88の傾斜面90とロックレバー104の開口溝126の傾斜面128とが相互に当接するようになっている。このような当接構造を採用することにより、後述する可動シリンダ72やロックレバー104の初期位置への移動が安定して実現され得る。
【0083】
これにより、穿刺ロッド14の下端部分がケース本体162の内部を通過して、穿刺ロッド14の底壁部58が、マイクロニードル12を粘着シート172と共に皮膚に押し付けるようになっている。すなわち、マイクロニードル12が皮膚に穿刺された状態で粘着シート172により皮膚に貼り付けられて、マイクロニードル12が所定時間に亘って皮膚に押付穿刺される。これにより、マイクロニードル12に塗布された薬剤が、患者に対して効果的に投与され得る。
【0084】
かかる穿刺操作状態から穿刺ボタン102の押圧を解除することで、図16に示されるように、ボタン用ばね144の弾性的な復元力によりロックレバー104が初期位置に復帰するようになっている。また、穿刺ロッド14の壁部60bとシリンダロック130の係合部138との当接も解除されることから、ロック用ばね146の弾性的な復元力によりシリンダロック130が初期位置に復帰するようになっている。さらに、図16に示された状態から、アプリケータ10を皮膚から離隔させることで、押さえばね98の弾性的な復元力により可動シリンダ72が初期位置に復帰せしめられる。これにより、アプリケータ10が図1,2に示される初期状態に復帰することから、ケース160を脱着して取り替えることで、アプリケータ10を複数回使用することができる。
【0085】
上述の如き構造とされた本実施形態のアプリケータ10では、可動シリンダ72のハウジング16側への移動制限手段148が設けられているとともに、当該移動制限手段148が、穿刺ロッド14のハウジング16への押込みによって解除されるようになっている。すなわち、穿刺ロッド14の押込前において、可動シリンダ72にマイクロニードル12を装着して、かかる状態でアプリケータ10が皮膚に押し付けられる場合にも、可動シリンダ72がハウジング16内へ移動してマイクロニードル12が皮膚に穿刺される誤穿刺が防止される。
【0086】
特に、本実施形態では、可動シリンダ72における突出当接部80とシリンダロック130の当接突部142とが相互に当接することで、可動シリンダ72の移動を阻止する移動制限手段148が構成されるとともに、穿刺ロッド14を押し込んでシリンダロック130を移動させることで、突出当接部80と当接突部142との当接が解除されて、可動シリンダ72の移動が許容されるようになっている。すなわち、シリンダロック130の移動前後において可動シリンダ72の移動の阻止と許容とが選択的に実現されるようになっている。これにより、構造の簡略化と部品点数の削減が図られる。
【0087】
さらに、本実施形態では、可動シリンダ72の移動前において穿刺ボタン102の押込操作を防止する安全機構150が構成されていることから、例えばアプリケータ10を皮膚に押し付ける前にマイクロニードル12がアプリケータ10から突出して意図せずマイクロニードル12が皮膚に穿刺されるというおそれが防止される。特に、かかる安全機構150が、可動シリンダ72の突出当接部80を含んで構成されることから、突出当接部80により移動制限手段148と安全機構150の両方を構成することができて、更なる構造の簡略化と部品点数の削減が図られる。
【0088】
次に、図17には、本発明の第2の実施形態としてのマイクロニードルアプリケータ190が示されている。本実施形態では、可動シリンダ72の移動を阻止する移動制限手段が、前記第1の実施形態とは異なる態様をもって実現されている。なお、図17では、アプリケータ190が、使用前の保管状態で示されている。また、本実施形態において、前記第1の実施形態と実質的に同一の部材および部位には、図中に、前記第1の実施形態と同一の符号を付すことにより詳細な説明を省略する。
【0089】
すなわち、本実施形態では、穿刺ロッド14が可動シリンダ72の内部に突出する使用前の状態において、穿刺ロッド14のハウジング16内への押込みを防止するキャップ192が設けられている。このキャップ192は、図18にも示されるように、底壁部194と略円筒形状の周壁部196とを有するカップ形状とされている。また、周壁部196の開口周縁部には、外周に突出する鍔部198が設けられている。
【0090】
かかる鍔部198の外径寸法は、可動シリンダ72の周壁部74の内径寸法と略等しくされており、キャップ192の開口部を上方に向けた状態で可動シリンダ72の下方開口部から挿入することで、キャップ192の鍔部198が可動シリンダ72の周壁部74に対して略嵌め入れられて、キャップ192が可動シリンダ72に対して取外し可能に組み付けられるようになっている。キャップ192が装着されることで、穿刺ロッド14が外側から覆われるとともに、穿刺ロッド14とキャップ192との間に隙間が設定されて、キャップ192に加えられる外力が穿刺ロッド14に及ぼされないようになっている。
【0091】
特に、本実施形態では、キャップ192の可動シリンダ72への装着状態において、キャップ192の底壁部194が、可動シリンダ72のケース保持部92よりも下方に位置しており、アプリケータ190を皮膚に押し付けたとしても可動シリンダ72が皮膚で押し上げられてハウジング16側に移動することがないようにされている。また、キャップ192の可動シリンダ72への装着状態では、キャップ192の底壁部194が、可動シリンダ72のケース保持部92よりも下方に位置していることから、マイクロニードル(12)のケース(160)が可動シリンダ72に装着できないようになっている。
【0092】
かかるキャップ192を採用することにより、キャップ192を取り外さないと可動シリンダ72がハウジング16側へ移動しないことから、本実施形態では、キャップ192により可動シリンダ72のハウジング16側への移動を阻止する移動制限手段200が構成されている。また、本実施形態においても、前記実施形態と同様のシリンダロック130が採用されていることから、穿刺ロッド14をハウジング16内に押し込むまでは可動シリンダ72のハウジング16側への移動が防止されている。すなわち、穿刺ロッド14の押込操作に伴って可動シリンダ72のハウジング16側への移動が許容されることから、前記第1の実施形態と同様の効果が発揮され得る。
【0093】
ここにおいて、本実施形態では、キャップ192を取り外すまでは穿刺ロッド14の押し込みが不能とされていることから、上記移動制限手段200の解除は、キャップ192を取り外した後、前記第1の実施形態と同様の穿刺ロッド14の押込操作によって実現される。すなわち、本実施形態では、キャップ192を取り外すことで穿刺ロッド14の押込操作が可能とされることから、前記第1の実施形態と同様の移動制限手段200の解除手段(158)が、キャップ192の取外し構造によって構成されている。特に、本実施形態においても、使用前の保管状態では、前記第1の実施形態と同様にカバー152が設けられることから、移動制限手段200がカバー152を含んで構成されると共に解除手段(158)がカバー152の取外し構造によって構成されると把握することも可能である。
【0094】
また、本実施形態では、キャップ192を取り外すまではマイクロニードル(12)のケース(160)が装着不能とされていることから、キャップ192を取り外す前は、そもそもマイクロニードル(12)の誤穿刺という問題が発生しないし、また、キャップ192を取り外しても、穿刺ロッド14の押込み前に可動シリンダ72がハウジング16側に移動することが防止されることから、マイクロニードル(12)の誤穿刺という問題が効果的に防止され得る。
【0095】
以上、本発明の実施形態について説明してきたが、本発明はかかる実施形態における具体的な記載によって限定的に解釈されるものでなく、当業者の知識に基づいて種々なる変更、修正、改良などを加えた態様で実施可能である。
【0096】
たとえば、前記実施形態では、マイクロニードル12として中実針が採用されて、当該中実針に投与される薬剤が塗布されていたが、かかる態様に限定されるものではない。マイクロニードルは、例えば前記特許文献1のように、ルーメンを有する中空針や、別途薬剤を保持するリザーバから穿刺された中空針のルーメンを通じて薬剤が投与される構造などを採用することも可能であり、穿刺ニードルの形状や構造、数なども限定されない。
【0097】
また、可動シリンダ72に当接して移動を制限する機構は、例示のシリンダロック130に限定されるものでなく、回動可能なフックや磁力を用いた係合など、解除可能な係止構造の各種を適宜に採用することができる。
【0098】
さらに、穿刺ロッド、可動シリンダ、ロックレバー、ロック部材(シリンダロック)の付勢は、前記実施形態の如きばねに限定されるものではなく、ゴムやエラストマーなどの弾性体の他、磁石などにより達成されてもよい。
【0099】
更にまた、前記実施形態では、カバー152が略カップ形状とされており、保管状態において穿刺ロッド14と可動シリンダ72とを覆っていたが、例えば平面視が略円環形状とされて、可動シリンダの少なくとも一部のみを覆うようになっていてもよい。尤も、このようなカバーは必須なものではない。
【符号の説明】
【0100】
10,190:マイクロニードルアプリケータ、12:マイクロニードル、14:穿刺ロッド、16:ハウジング、72:可動シリンダ、102:穿刺ボタン、130:シリンダロック(ロック部材)、148,200:移動制限手段、150:安全機構、152:カバー、158:解除手段、160:ケース、192:キャップ
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