(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】磁歪合金の製造方法および磁歪合金
(51)【国際特許分類】
C23C 2/28 20060101AFI20221109BHJP
C22C 28/00 20060101ALI20221109BHJP
C23C 2/04 20060101ALI20221109BHJP
H01F 1/147 20060101ALI20221109BHJP
C22C 38/00 20060101ALI20221109BHJP
C23C 10/28 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
C23C2/28
C22C28/00 B
C23C2/04
H01F1/147 175
C22C38/00 303Z
C23C10/28
(21)【出願番号】P 2018169985
(22)【出願日】2018-09-11
【審査請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 茂
(72)【発明者】
【氏名】志村 玲子
(72)【発明者】
【氏名】古田 将宏
(72)【発明者】
【氏名】高橋 巧
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/052654(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2008/0115864(US,A1)
【文献】特開2013-087305(JP,A)
【文献】特開2001-247944(JP,A)
【文献】特開平06-111689(JP,A)
【文献】特開平08-269556(JP,A)
【文献】特開平04-315709(JP,A)
【文献】特開平08-302449(JP,A)
【文献】特開昭61-210125(JP,A)
【文献】特開昭61-106762(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/00-2/40
C22C 38/00
H01L 41/20
H02N 2/00
C23C 10/00-10/60
H01F 1/147
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Si:1.4質量%以上4.0質量%未満、Ga:3.2~18質量%、不可避的不純物元素及び残部Feからなる磁歪合金の製造方法であって、
方向性電磁鋼板の表面に少なくともGaを含むメッキ層を溶融メッキ処理で形成する表面処理工程と、
前記表面処理工程で前記Gaを含むメッキ層が表面に形成された前記方向性電磁鋼板である中間体を焼きなまして前記Gaを前記方向性電磁鋼板に浸透させる焼鈍工程と、
を備えたことを特徴とする磁歪合金の製造方法。
【請求項2】
Si:1.4質量%以上4.0質量%未満、Ga:3.2~18質量%、Sn:1.0質量%以下、不可避的不純物元素及び残部Feからなる磁歪合金の製造方法であって、
方向性電磁鋼板の表面に少なくともGaを含むメッキ層を溶融メッキ処理で形成する表面処理工程と、
前記表面処理工程で前記Gaを含むメッキ層が表面に形成された前記方向性電磁鋼板である中間体を焼きなまして前記Gaを前記方向性電磁鋼板に浸透させる焼鈍工程と、
を備えたことを特徴とする磁歪合金の製造方法。
【請求項3】
前記表面処理工程は、前記GaのほかにSnを含むメッキ液で前記方向性電磁鋼板に溶融メッキ処理を施す
ことを特徴とする請求項
2に記載の磁歪合金の製造方法。
【請求項4】
前記メッキ液には、前記GaのほかにSnを5.0~15質量%を含む
ことを特徴とする請求項
3に記載の磁歪合金の製造方法。
【請求項5】
前記焼鈍工程は、前記中間体を
500~1400℃の温度範囲で高温焼鈍する
ことを特徴とする請求項1~4の何れか1項に記載の磁歪合金の製造方法。
【請求項6】
前記表面処理工程の後であって前記焼鈍工程の前に実施され、前記中間体の外形を整える成形工程を備えた
ことを特徴とする請求項1~
5の何れか1項に記載の磁歪合金の製造方法。
【請求項7】
Si:1.4質量%以上4.0質量%未満、Ga:3.2~18質量%、Sn:1.0質量%以下、不可避的不純物元素及び残部Feからなる磁歪合金であって、
FeおよびSiを含有し、〈001〉方向に集合組織を有する方向性電磁鋼板にGaおよび不可避的不純物元素が含有されてなることを特徴とする磁歪合金。
【請求項8】
Si:1.4質量%以上4.0質量%未満、Ga:3.2~18質量%、Sn:1.0質量%以下、不可避的不純物元素及び残部Feからなる磁歪合金であって、
FeおよびSiを含有し、{110}〈001〉方向に集合組織を有する方向性電磁鋼板にGaおよび不可避的不純物元素が含有されてなることを特徴とする磁歪合金。
【請求項9】
Si:1.4質量%以上4.0質量%未満、Ga:3.2~18質量%、Sn:1.0質量%以下、不可避的不純物元素及び残部Feからなり、〈001〉方向に集合組織を有することを特徴とする磁歪合金。
【請求項10】
Si:1.4質量%以上4.0質量%未満、Ga:3.2~18質量%、Sn:1.0質量%以下、不可避的不純物元素及び残部Feからなり、{110}〈001〉方向に集合組織を有することを特徴とする磁歪合金。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、磁歪合金の製造方法および磁歪合金に関する。
【背景技術】
【0002】
磁性体のもつ特性の一つとして、磁歪および逆磁歪が知られている。磁歪および逆磁歪の特性(以下「磁歪特性」と称する)を持たせた合金は、磁歪合金と呼ばれる。
磁歪とは、磁場の印加によって磁性体が歪む特性である。これに対して、逆磁歪とは、歪まされた磁性体によって磁場が変化する特性である。そこで、磁性体を歪ませることによって変化した磁場から発電するデバイスが提案されている。このような発電デバイスに磁歪合金を用いるほか、磁場の印加によって歪まされた磁歪合金をアクチュエータとして利用することも検討されている。
【0003】
たとえば、磁歪特性の向上を図るために、Fe-Ga基合金や所定の結晶方位をなす方向性合金を磁歪合金に用いることが研究されている(非特許文献1参照)。方向性合金の一つとしては、Gaを含有せずにSiを含有する方向性電磁鋼板が開発されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】S.Fujieda, S.Suzuki, A.Minato, T.Fukuda, and T.Ueno, IEEE Trans. Magn., 50, 2505204 (2014).
【文献】特開2009-270129号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1に示されるように、Gaを含有する合金のうち所定の結晶方位をなす合金を得ることは困難であり、合金の結晶方位から磁歪特性を高めるのは困難である。一方、特許文献1に示されるように、一般的な方向性電磁鋼板にはGaが含有されていないことから、合金の組成から磁歪特性を高めるのは困難である。
よって、磁歪合金の磁歪特性を高めるうえで改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記のような課題に鑑みて創案され、磁歪合金の磁歪特性を向上させることを目的の一つとする。なお、この目的に限らず、後述する「発明を実施するための形態」に示す各構成から導き出される作用および効果であって、従来の技術では得られない作用および効果を奏することも、本件の他の目的として位置付けることができる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1)ここで開示する磁歪合金の製造方法は、方向性電磁鋼板の表面に少なくともGaを含むメッキ層を溶融メッキ処理で形成する表面処理工程と、前記表面処理工程で前記Gaを含むメッキ層が表面に形成された前記方向性電磁鋼板である中間体を焼きなまして前記Gaを前記方向性電磁鋼板に浸透させる焼鈍工程と、を備える。
(2)ここで開示する磁歪合金は、Fe,Si,Gaおよび不可避的不純物元素を含有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、磁歪合金の磁歪特性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】磁歪合金の製造手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、実施形態として、磁歪合金の製造方法および磁歪合金を説明する。
本願の発明者らは、方向性電磁鋼板として一般的に用いられるFe-Si基合金にGaを含有させる手法を見出した。すなわち、Fe-Si基合金にGaを溶融メッキ処理したうえで焼鈍することにより、Fe-Si基合金にGaを浸透させる手法である。
【0011】
この手法により、予め所定の結晶方位をなす方向性電磁鋼板にGaを含有させることができる。言い換えれば、結晶方位や集合組織を制御することなく、Gaを含有する磁歪合金を製造することができる。このように製造された磁歪合金は、合金組成および結晶方位から磁歪特性が向上するとの知見を得た。
【0012】
本実施形態では、板状の磁歪合金(いわば「磁歪合金板」)を例に挙げる。ただし、棒状あるいは塊状といった他形態の磁歪合金を本発明から排除するものではない。
そのほか、本実施形態の「数値X~数値Y」なる表現は、数値X以上であって数値Y以下の範囲を意味する。
【0013】
〔一実施形態〕
以下、磁歪合金の製造方法を説明する。その後に、本方法で製造された磁歪合金を説明する。
[1.製造方法]
本製法では、
図1に示すように、下記の工程1~4が順次実施されて磁歪合金が製造される。
・工程1:Fe-Si基合金を準備する手配工程(ステップS1)
・工程2:Fe-Si基合金にGaをメッキ処理する表面処理工程(ステップS2)
・工程3:外形を整える成形工程(ステップS3)
・工程4:Fe-Si基合金にGaを浸透させる焼鈍工程(ステップS4)
以下、上記の各工程について、順を追って説明する。
【0014】
―― 手配工程 ――
手配工程では、Fe-Si基合金の合金板を準備する。
ここでは、準備するFe-Si基合金として方向性電磁鋼板を例示する。
方向性電磁鋼板は、一般的に2.0~4.0質量%のSiを含有する多結晶材料である。この方向性電磁鋼板は、振動しやすい板厚(たとえば0.25mmや0.30mm)であることが好ましい。
【0015】
この手配工程で準備される方向性電磁鋼板は、結晶方位から磁歪特性を高める観点より、〈001〉方向(「〈001〉方位」とも称される)に集合組織を有することが好ましく、{110}〈001〉方向(「{110}〈001〉方位」とも称される)に集合組織を有することが更に好ましい。詳細に言えば、〈001〉方向や{110}〈001〉方向に対して±5°の集合組織を有する方向性電磁鋼板を手配工程で準備するのが好ましい。
このように、結晶配向度(方向集積度)の高い方向性電磁鋼板を、磁歪合金に製造される基材として用いることが好ましい。
上記の手配工程が実施されると、つぎに説明する表面処理工程が実施される。
【0016】
――表面処理工程――
表面処理工程では、手配工程で準備されたFe-Si基合金の表面に、少なくともGaを含むメッキ層を溶融メッキ処理で形成する。この表面処理工程によって、少なくともGaのメッキ層が表面に形成されたFe-Si基合金(以下「中間体」と称する)が製造される。
表面処理工程の溶融メッキ処理で用いられるメッキ液としては、下記の液1または液2が例に挙げられる。
・液1:ほぼGaのみのメッキ液
・液2:GaのほかにSnを含むメッキ液
【0017】
液1には、たとえば99.9質量%以上のGaを含有するメッキ液が用いられる。
液2には、Gaのほかに5.0~15質量%のSnを含有するメッキ液が用いられる。
溶融メッキ処理に液1を用いた場合には、Fe-Si基合金に対するGaの濡れ性が不十分となるおそれがあり、Fe-Si基合金の表面にGaのメッキ層を良好に形成するうえで改善の余地がある。
【0018】
そこで、液2には、Fe-Si基合金に対するGaの濡れ性を高めるために、Snを含有させている。このようにSnの添加された液2は、
図2(出典は「H.Okamoto:”Phase Diagrams for Binary Alloys”, ASM International (2010)」)に示すように、液1と比べて融点が低下する。特に、約8質量%(厳密には8.4質量%)のSnを含有する液2は、共晶組成となり、融点が極小値(共融点)となる。
液2におけるSnの質量%は、メッキ液の融点が低いほど表面処理工程を実施しやすい(操作が好都合)という観点より、共晶組成およびその周辺の質量%(ここでは5.0~15質量%)であることが好ましい。たとえば、中間体がメッキ液において400℃で15分間加熱される。
上記の表面処理工程が実施されると、つぎに説明する成形工程が実施される。
【0019】
―― 成形工程 ――
成形工程では、中間体の外形を整える。具体的には、中間体のうち溶融メッキ処理で変形したメッキ層の厚さを均し、中間体の表面形状を矯正する(このことから、成形工程は「形状矯正工程」とも呼べる)。言い換えれば、成形工程の後に実施される焼鈍工程で良好な処理がなされるように、中間体の形状を下処理する。
上記の成形工程が実施されると、つぎに説明する焼鈍工程が実施される。
【0020】
―― 焼鈍工程 ――
焼鈍工程では、中間体を焼きなましてGaをFe-Si基合金に浸透させる。
なお、焼鈍工程では、溶融しない状態で中間体の温度を上昇させる(このことから、焼鈍工程は「加熱工程」や「昇温工程」あるいは「アニール工程」とも呼べる)。
【0021】
焼鈍工程において中間体を昇温させる温度(以下「処理温度」と称する)が高いほど、焼鈍工程の期間(以下「処理期間」と称する)の短縮が可能であり、Gaの拡散が活発になる。処理期間が一定のもとでは、処理温度が高いほどGaのFe-Si基合金への浸透性が向上する。そのため、焼鈍工程では中間体を高温焼鈍することが好ましい。ただし、Fe-Si基合金にGaが浸透するのであれば、中間体を低温焼鈍してもよい。
【0022】
また、処理期間が短くなるほど、GaがFe-Si基合金へ浸透しにくくなるものの、Fe-Si基合金が歪みにくい。逆に言えば、焼鈍工程の処理期間が長くなるほど、GaがFe-Si基合金へ浸透しやすくなるものの、Fe-Si基合金が歪みやすい。そのため、Gaの浸透性やFe-Si基合金の歪みを考慮して、処理期間の長短が設定される。たとえば1000℃の処理温度では、処理期間が48時間に設定される。
【0023】
処理温度は、
図3(出典は「H.Okamoto:”Phase Diagrams for Binary Alloys”, ASM International (2010)」)に一点鎖線で示すように、下記の条件1,2の双方を満たす範囲に温度が設定される。
・条件1:αFe構造をとる温度範囲
・条件2:Gaが実質的に拡散する温度範囲
条件2に関し、
図3に破線で記された相転移線(約300℃よりも小さい領域)は予想線である。この相転移線より、Gaが実質的に拡散する温度の下限(すなわち処理温度の下限が約300℃であること)が見て取れる。また、処理温度の上限は約1400℃以下であることも見て取れる。
【0024】
そのため、300℃~1400℃の温度範囲に処理温度を設定することができる。この処理温度は、GaのFe-Si基合金への浸透性を高める観点より、600℃以上であることが好ましく、800℃以上であることがより好ましく、900℃以上であることが更に好ましい。たとえば、Fe-Si基合金の融点に対して8割程度の温度が処理温度に採用される。
本実施形態では、処理温度として設定可能な温度範囲のうち高い側の温度(ここでは500℃または600℃~1400℃の高温)での焼鈍を「高温焼鈍」と表現し、この高温焼鈍の処理を施すことを「高温焼鈍する」と表現している。
【0025】
〈その他〉
そのほか、焼鈍工程は、中間体におけるGaやSiの酸化を抑制するため、水素雰囲気やヘリウム雰囲気などの還元性雰囲気または真空雰囲気において実施されることが好ましい。
上記の焼鈍工程により、Fe-Si基合金にGaが浸透した磁歪合金が中間体から製造される。このように製造された磁歪合金では、Fe-Si基合金にGaのメッキ層が浸透し、Gaのメッキ層は消失する。
【0026】
[2.磁歪合金]
本実施形態の磁歪合金は、上記の方法で製造され、室温において強磁性体であり、体心立方構造を有する。なお、ここでいう「室温」とは、20℃±20℃を意味する。
以下、磁歪合金の組成,集合組織を詳述する。
【0027】
―― 組成 ――
磁歪合金は、少なくともFe,Si,Gaおよび不可避的不純物元素を含有する。この磁歪合金には、FeおよびSiを含有するFe-Si基合金にGaおよび不可避的不純物元素が含有されている。なお、不可避的不純物元素としては、Mn,C(あるいはカーボン),Alなどが挙げられる。
磁歪合金の組成には、1.4質量%以上4.0質量%未満のSiが含有され、3.2~18質量%のGaが含有される。そのほか、たとえば0.01~1質量%のMnなどの不可避的不純物元素が含有され、残部にFeが含有される。
さらに、上記の液2を用いて製造された磁歪合金は、Snを更に含有している。この場合には、1.0質量%以下のSnが含有される。そのほか、Snの質量%は、一般的にGaの質量%(ここでは3.2~18質量%)の1/10程度に調節される。
【0028】
磁歪合金に含有されるSiは、1.4質量%未満であると磁歪合金の状態変化を引き起こすおそれがあり、4.0質量%よりも大きいと結晶方位の制御が困難となる。そのため、Siの質量%が上記の範囲に調節されている。
磁歪合金に含有されるGaは、上述の条件1,2を満たす質量%の範囲(ここでは3.2~18質量%)に調節される。さらに、3.2質量%未満であると磁歪特性が抑えられ、18質量%よりも大きいと脆くなりおそれがある。このことからも、Gaが上記の範囲に調節される。
【0029】
―― 集合組織 ――
この磁歪合金は、〈001〉方向に集合組織をもつ基材が用いられた場合には〈001〉方向に集合組織を有し、{110}〈001〉方向に集合組織をもつ基材が用いられた場合には{110}〈001〉方向に集合組織を有する。言い換えれば、結晶方位がGoss方位の磁歪合金を用いることが好ましい。
このように集合組織の制御された磁歪合金を用いることで、結晶方位から磁歪特性が高められる。
【0030】
[3.作用および効果]
本実施形態の磁歪合金の製造方法および磁歪合金は、上述のように構成されるため、以下のような作用および効果を得ることができる。
【0031】
Fe-Si基合金に表面処理工程で溶融メッキ処理したGaを焼鈍工程によって浸透させることができる。このようにして、磁歪合金を容易に製造することができる。よって、含有されるGaの組成から、磁歪合金の磁歪特性を向上させることができる。
さらに、方向性電磁鋼板がFe-Si基合金に用いられる場合には、集合組織を制御することなく、所定の結晶方位をなす磁歪合金を製造することができる。よって、結晶方位から、磁歪合金の磁歪特性を向上させることができる。
【0032】
表面処理工程では、GaのほかにSnを含むメッキ液(すなわち上記の液2)でFe-Si基合金に溶融メッキ処理を施す場合には、SnによってGaの濡れ性を向上させることができる。延いては、Fe-Si基合金へのGaの浸透性を高めることができる。
また、焼鈍工程で中間体を高温焼鈍することから、Fe-Si基合金へのGaの浸透性を向上させることができる。
これらからも、磁歪合金の磁歪特性を向上させることができる。
【0033】
そのほか、表面処理工程の後であって焼鈍工程の前に中間体の外形を整える成形工程を実施することも、磁歪合金におけるGaの浸透性や磁歪特性の向上に寄与する。
上記した方法によって製造された磁歪合金にGaが含有されることから、磁歪合金の組成から磁歪特性を向上させることができる。さらに、〈001〉方向に集合組織を有する結晶方位や{110}〈001〉方向に集合組織を有する結晶方位から、磁歪特性を向上させることもできる。
【実施例】
【0034】
以下、本件の実施例を述べる。
なお、本実施例に示す具体的な内容は、本件の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本件の範囲は、以下に示す具体例によって限定的に解釈されるべきものではない。
【0035】
――実施例および比較例――
本実施例では、実施例1,2と比較例1,2とを比較した。
実施例1,2および比較例1,2では、厚さ方向の寸法(板厚)が0.25mmであり、長さ方向の寸法が14mmであり、幅方向の寸法が6mmのサイズをなす試料を用いた。
【0036】
実施例1では、Feのほか、1.9質量%のSiを含有し、8.8質量%のGaを含有し、不可避的不純物元素も含有する試料を用いた。実施例2では、Feのほか、1.4質量%のSiを含有し、5.1質量%のGaを含有し、0.45質量%のSnを含有し、不可避的不純物元素も含有する試料を用いた。
比較例1では、無方向性であって、Feのほか3.0質量%のSiを含有する試料を用いた。比較例2では、純鉄であって多結晶の試料を用いた。
【0037】
実施例1,2の試料は、下記のように製造した。
実施例1,2の試料を製造する基材には、〈001〉方位の集積度が±5°のFe-3質量%Si基合金板(新日鉄住金(株)製30ZH)を用いた。その後、実施例1の磁歪合金は上記の基材を溶融Ga浴(上記の液1に相当)に入れ、実施例2の磁歪合金は上記の基材を溶融Ga-10質量%Sn浴(上記の液2に相当)に入れた。それから、400℃で15分間加熱し、25℃の室温まで冷却した。これらのようにして、基材に溶融メッキ層(上記のメッキ層に相当)を形成させた中間体を製造した。続いて、上記の中間体に対して、1000℃にて48時間の高温焼鈍の処理を施した。そして、上記のサイズに加工し、実施例1,2の試料を得た。
【0038】
――測定デバイス――
上記の実施例1,2および比較例1,2の各試料は、以下に説明する測定デイバスに取り付けられる。
図4に示すように、測定デバイス1はU字型をなす。このU字における二つの端部のうち、一方は自由な端部(以下「自由端部」と称する)1Aであり、他方は固定された端部(以下「固定端部」と称する)1Bである。
【0039】
この測定デバイス1において、自由端部1A側に延在する第一片部10には、960回の巻数のコイルL中に入れられた実施例1,2および比較例1,2の各試料Xが取り付けられる。一方、測定デバイス1において固定端部1B側に延在する第二片部20には、バイアス磁場を印加する磁石Mが付設されている。
なお、測定デバイス1は、文献「WO2015/141414号」の第一実施形態に示された発電素子に準じている。
【0040】
―― 評価 ――
上記の測定デバイス1をEMIC社製512-A型の加振器(図示省略)に装着し、その加振器を所定の加速度(具体的には0.2G,0.3G,0.4G,0.5G,0.6G)で、約250Hz――共振周波数――の共振振動の状態で振動させた。この振動状態で発生する電圧の振幅(上向きのピークと下向きのピークの間の電圧)を測定した。この電圧を測定する機器には「オシロスコープ(IWATSU DS-5424)」を用いた。
上記のようにして測定された評価結果を下記の表1に示す。なお、比較例2の「<0.01V」なる表記は、0.01Vよりも小さい電圧が測定されたことを意味する。
【0041】
【0042】
―― 検討 ――
表1に示す通り、実施例1,2のほうが比較例1,2よりも発生した電圧が高く、磁歪特性に優れていることがわかる。さらに、実施例2のほうが実施例1よりも発生した電圧が高く、磁歪特性が特に優れていることがわかる。
【0043】
〔その他〕
上述した実施形態はあくまでも例示に過ぎず、この実施形態で明示しない種々の変形や技術の適用を排除する意図はない。本実施形態の各構成は、それらの趣旨を逸脱しない範囲で種々変形して実施することができる。また、必要に応じて取捨選択することができ、適宜組み合わせることもできる。
たとえば、成形工程を省略してもよい。
あるいは、本実施形態の磁歪合金は、上述した製法に限らず、他の方法で製造されたものであってもよい。
【符号の説明】
【0044】
1 測定デバイス
1A 自由端部
1B 固定端部
10 第一片部
20 第二片部
L コイル
M 磁石
X 試料