(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 11/03 20060101AFI20221109BHJP
B60C 11/12 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B60C11/03 300E
B60C11/12 C
B60C11/12 A
B60C11/03 300A
B60C11/12 B
(21)【出願番号】P 2018176395
(22)【出願日】2018-09-20
【審査請求日】2021-07-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】山本 泰士
【審査官】弘實 由美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-056459(JP,A)
【文献】特開2008-296730(JP,A)
【文献】国際公開第2014/073286(WO,A1)
【文献】特開昭59-018002(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00-19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤであって、
トレッド部に、第1ブロックと、前記第1ブロックとタイヤ軸方向に隣接してタイヤ周方向に並ぶ第2ブロックと、タイヤ周方向に隣接する前記第2ブロック間を延びる横溝とが設けられ、
前記第1ブロックは、前記横溝側をタイヤ周方向に延びる第1ブロック壁を有し、
前記第1ブロック壁には、前記第1ブロックの内側に凹む凹部が設けられ、
前記凹部は、前記横溝の前記第1ブロック側の開口部とタイヤ周方向に重複しており、
前記凹部のタイヤ周方向の長さは、前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の長さの30%~70%であり、
前記凹部のタイヤ周方向の中間位置と前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の中間位置との間のタイヤ周方向の離間距離は、前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の長さの10%以下であ
り、
前記第1ブロックは、サイプが設けられており、
前記サイプは、前記第1ブロック壁から延び、かつ、前記第1ブロックのタイヤ軸方向の中間位置の手前で途切れる第1サイプを含み、
前記第1サイプは、前記凹部に交わることなく延びており、
前記第1サイプは、第1短サイプと、前記第1短サイプよりもタイヤ軸方向の長さが大きい第1長サイプとを含み、
前記第1短サイプと前記開口部のタイヤ周方向の中間位置との間のタイヤ周方向の離間距離は、前記第1長サイプと前記開口部の中間位置との間のタイヤ周方向の離間距離よりも小さい、
タイヤ。
【請求項2】
前記第1短サイプは、前記第1長サイプと前記凹部を介してタイヤ周方向に離間している、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記第1ブロックは、前記第1ブロック壁とはタイヤ軸方向逆側に配される第2ブロック壁を有し、
前記サイプは、前記第2ブロック壁から延び、かつ、前記第1ブロックの前記中間位置の手前で途切れる第2長サイプを含み、
前記第1長サイプの終端と前記第2長サイプの終端と間の離間距離は、前記凹部のタイヤ周方向の長さの1/5~1/3である、請求項
1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記第1長サイプは、前記第1短サイプと平行に延びる第1部分、前記第1ブロックの中心に向かって延びる第2部分、及び、前記第1部分と前記第2部分とに連なって屈曲する屈曲部を含み、
前記屈曲部は、サイプ底が隆起するタイバーが設けられる、請求項1ないし3のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項5】
タイヤであって、
トレッド部に、第1ブロックと、前記第1ブロックとタイヤ軸方向に隣接してタイヤ周方向に並ぶ第2ブロックと、タイヤ周方向に隣接する前記第2ブロック間を延びる横溝とが設けられ、
前記第1ブロックは、前記横溝側をタイヤ周方向に延びる第1ブロック壁を有し、
前記第1ブロック壁には、前記第1ブロックの内側に凹む凹部が設けられ、
前記凹部は、前記横溝の前記第1ブロック側の開口部とタイヤ周方向に重複しており、
前記凹部のタイヤ周方向の長さは、前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の長さの30%~70%であり、
前記凹部のタイヤ周方向の中間位置と前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の中間位置との間のタイヤ周方向の離間距離は、前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の長さの10%以下であり、
前記第1ブロックは、サイプが設けられており、
前記サイプは、前記第1ブロック壁から延び、かつ、前記第1ブロックのタイヤ軸方向の中間位置の手前で途切れる第1サイプを含み、
前
記サイプは、前記第1ブロック壁から延びてタイヤ周方向に複数本並ぶ前記第1サイプを含み、
タイヤ周方向に隣接する前記第1サイプのタイヤ周方向の離間距離L9は、下記式(1)を充足する、
タイヤ。
La/n<L9<La/(n+1)…(1)
但し、nは、前記第1サイプの本数である。
【請求項6】
タイヤであって、
トレッド部に、第1ブロックと、前記第1ブロックとタイヤ軸方向に隣接してタイヤ周方向に並ぶ第2ブロックと、タイヤ周方向に隣接する前記第2ブロック間を延びる横溝とが設けられ、
前記第1ブロックは、前記横溝側をタイヤ周方向に延びる第1ブロック壁を有し、
前記第1ブロック壁には、前記第1ブロックの内側に凹む凹部が設けられ、
前記凹部は、前記横溝の前記第1ブロック側の開口部とタイヤ周方向に重複しており、
前記凹部のタイヤ周方向の長さは、前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の長さの30%~70%であり、
前記凹部のタイヤ周方向の中間位置と前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の中間位置との間のタイヤ周方向の離間距離は、前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の長さの10%以下であり、
前記凹部は、タイヤ周方向に離間して前記第1ブロック壁から延びる一対の軸方向部と、前記一対の軸方向部を継ぐ周方向部とを含み、
前記一対の軸方向部のタイヤ軸方向の長さは、前記周方向部のタイヤ周方向の長さの5%~11%である、
タイヤ。
【請求項7】
前記凹部は、前記トレッド部の平面視、矩形状である、請求項
1ないし6のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項8】
前記凹部は、前記トレッド部の平面視、前記第1ブロックの内部に向かってテーパ状である、請求項7記載のタイヤ。
【請求項9】
前記開口部のタイヤ周方向の中間位置と前記凹部のタイヤ周方向の中間位置との間のタイヤ周方向の離間距離は、前記凹部のタイヤ周方向の長さの40%以下である、請求項1ないし8のいずれかに記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド部にブロックが設けられたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、トレッド部に、センター主溝と、前記センター主溝からタイヤ軸方向外側にのびる外側横溝と、前記センター主溝からタイヤ軸方向内側にのびる内側横溝とが設けられたタイヤが記載されている。前記センター主溝は、外側溝部、内側溝部、及び、前記外側溝部と前記内側溝部とを継ぐ傾斜部を含んでいる。前記内側横溝は、前記内側溝部と前記傾斜部とが交差する第1交差部に連通し、前記外側横溝は、前記傾斜部と前記外側溝部とが交差する第2交差部に連通している。このようなタイヤは、センター主溝の両側の陸部の剛性が高く維持され、前記内側横溝及び前記外側横溝と前記各交差部とで強固な雪柱を形成することができるので、高い雪上性能を有する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、雪上性能を、さらに高めることが望まれている。このため、例えば、前記内側横溝や前記外側横溝のタイヤ軸方向に対する角度を大きくして、そのエッジ成分を大きくすることが考えられる。しかしながら、このようなタイヤは、前記内側横溝や前記外側横溝が設けられる陸部の剛性にバラツキがでるため、耐摩耗性能が低下するという問題があった。
【0005】
本発明は、以上のような実情に鑑み案出されたもので、耐摩耗性能を維持しつつ雪路性能を向上し得るタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、タイヤであって、トレッド部に、第1ブロックと、前記第1ブロックとタイヤ軸方向に隣接してタイヤ周方向に並ぶ第2ブロックと、タイヤ周方向に隣接する前記第2ブロック間を延びる横溝とが設けられ、前記第1ブロックは、前記横溝側をタイヤ周方向に延びる第1ブロック壁を有し、前記第1ブロック壁には、前記第1ブロックの内側に凹む凹部が設けられ、前記凹部は、前記横溝の前記第1ブロック側の開口部とタイヤ周方向に重複しており、前記凹部のタイヤ周方向の長さは、前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の長さの30%~70%であり、前記凹部のタイヤ周方向の中間位置と前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の中間位置との間のタイヤ周方向の離間距離は、前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の長さの10%以下である。
【0007】
本発明に係るタイヤは、前記凹部が、前記トレッド部の平面視、矩形状であるのが望ましい。
【0008】
本発明に係るタイヤは、前記凹部が、前記トレッド部の平面視、前記第1ブロックの内部に向かってテーパ状であるのが望ましい。
【0009】
本発明に係るタイヤは、前記凹部が、タイヤ周方向に離間して前記第1ブロック壁から延びる一対の軸方向部と、前記一対の軸方向部を継ぐ周方向部とを含み、前記一対の軸方向部のタイヤ軸方向の長さは、前記周方向部のタイヤ周方向の長さの5%~11%であるのが望ましい。
【0010】
本発明に係るタイヤは、前記開口部のタイヤ周方向の中間位置と前記凹部のタイヤ周方向の中間位置との間のタイヤ周方向の離間距離が、前記凹部のタイヤ周方向の長さの40%以下であるのが望ましい。
【0011】
本発明に係るタイヤは、前記第1ブロックが、サイプが設けられており、前記サイプは、前記第1ブロック壁から延び、かつ、前記第1ブロックのタイヤ軸方向の中間位置の手前で途切れる第1サイプを含むのが望ましい。
【0012】
本発明に係るタイヤは、前記第1サイプが、前記凹部に交わることなく延びているのが望ましい。
【0013】
本発明に係るタイヤは、前記第1サイプが、第1短サイプと、前記第1短サイプよりもタイヤ軸方向の長さが大きい第1長サイプとを含み、前記第1短サイプと前記開口部のタイヤ周方向の中間位置との間のタイヤ周方向の離間距離は、前記第1長サイプと前記開口部の前記中間位置との間のタイヤ周方向の離間距離よりも小さいのが望ましい。
【0014】
本発明に係るタイヤは、前記第1短サイプは、前記第1長サイプと前記凹部を介してタイヤ周方向に離間しているのが望ましい。
【0015】
本発明に係るタイヤは、前記第1ブロックが、前記第1ブロック壁とはタイヤ軸方向逆側に配される第2ブロック壁を有し、前記サイプは、前記第2ブロック壁から延び、かつ、前記第1ブロックの前記中間位置の手前で途切れる第2長サイプを含み、前記第1長サイプの終端と前記第2長サイプの終端と間の離間距離は、前記凹部のタイヤ周方向の長さの1/5~1/3であるのが望ましい。
【0016】
本発明に係るタイヤは、前記第1長サイプが、前記第1短サイプと平行に延びる第1部分、前記第1ブロックの中心に向かって延びる第2部分、及び、前記第1部分と前記第2部分とに連なって屈曲する屈曲部を含み、前記屈曲部は、サイプ底が隆起するタイバーが設けられるのが望ましい。
【0017】
本発明に係るタイヤは、前記サイプが、前記第1ブロック壁から延びてタイヤ周方向に複数本並ぶ前記第1サイプを含み、タイヤ周方向に隣接する前記第1サイプのタイヤ周方向の離間距離L9は、下記式(1)を充足するのが望ましい。但し、nは、前記第1サイプの本数である。
La/n<L9<La/(n+1)…(1)
【発明の効果】
【0018】
本発明のタイヤは、トレッド部に、第1ブロックと、前記第1ブロックとタイヤ軸方向に隣接する第2ブロックと、前記第2ブロック間を延びる横溝とが設けられている。前記第1ブロックは、前記横溝側の第1ブロック壁に、前記横溝の開口部とタイヤ周方向に重複する凹部が設けられている。前記凹部のタイヤ周方向の長さは、前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の長さの30%以上である。このような凹部は、雪路での旋回走行において、前記横溝から流れてくる雪をタイヤ周方向への移動を抑制しつつ、これを受け止めて強固な雪塊を形成する。このような雪塊は、大きな雪柱せん断力を与えるので、旋回時のトラクションを高めるとともに横滑りを抑える。
【0019】
前記凹部のタイヤ周方向の長さは、前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の長さの70%以下である。このような凹部は、前記第1ブロックの剛性の低下を抑制するので、前記第1ブロックの耐摩耗性能を高く維持する。
【0020】
また、前記凹部のタイヤ周方向の中間位置と前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の中間位置との間のタイヤ周方向の離間距離は、前記第1ブロック壁のタイヤ周方向の長さの10%以下である。これにより、横溝から流れてきた雪が、第1ブロックのタイヤ周方向の中央付近で留められ、タイヤ周方向の両側へ逃げることがさらに抑制される。このため、第1ブロックは、凹部において、より強固な雪塊を形成することができるので、優れた雪路性能を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の一実施形態のタイヤのトレッド部の一部を拡大した展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態のタイヤ1のトレッド部2の一部を拡大した展開図である。本発明は、例えば、乗用車用や重荷重用の空気入りタイヤ、及び、タイヤの内部に加圧された空気が充填されない非空気式タイヤ等の様々なタイヤに用いることができる。本実施形態のタイヤ1は、四輪駆動車に適したオールシーズン用タイヤである。
【0023】
本実施形態のトレッド部2は、第1ブロック3と、第1ブロック3とタイヤ軸方向に隣接してタイヤ周方向に並ぶ第2ブロック4と、タイヤ周方向に隣接する第2ブロック4、4間を延びる横溝5とが設けられている。また、トレッド部2は、第1ブロック3のタイヤ軸方向の両側に配される一対の縦溝6A、6Aと、第1ブロック3のタイヤ周方向の両側に配される一対の横溝6B、6Bが設けられている。
【0024】
第1ブロック3は、横溝5側をタイヤ周方向に延びる第1ブロック壁7と、第1ブロック壁7とはタイヤ軸方向逆側に配される第2ブロック壁8とを含んでいる。また、第1ブロック3は、本実施形態では、第1ブロック壁7と第2ブロック壁8との両端を継いでタイヤ軸方向に延びる一対の第3ブロック壁9、9を含んでいる。一対の第3ブロック壁9は、本実施形態では、互いに平行に延び、かつ、タイヤ軸方向に対して傾斜している。第1ブロック壁7、第2ブロック壁8及び第3ブロック壁9は、各溝6A、6Bの溝底からタイヤ半径方向外側に延びる溝壁として形成される。第1ブロック3は、例えば、平面視、略平行四辺形状に形成される。第1ブロック3は、このような平行四辺形状のものに限定されるものではなく、矩形状や台形状など、種々の形状が採用される。
【0025】
本実施形態の第1ブロック壁7には、第1ブロック3の内側に凹む凹部10が設けられている。第1ブロック壁7は、本実施形態では、凹部10と、凹部10の両側に配され、各第3ブロック壁9に連なる一対の端部11とを含んでいる。
【0026】
端部11は、例えば、タイヤ周方向に沿って直線状に延びている。端部11は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、第2ブロック4側に凸の円弧状や波状に形成されても良い。
【0027】
本実施形態の凹部10は、横溝5の第1ブロック3側の開口部5Aとタイヤ周方向に重複している。これにより、雪路での旋回時、横溝5から凹部10内へ流れ込む雪が、そのタイヤ周方向の両側に移動することが抑制され、かつ、旋回時の横力によって、強固な雪塊が形成される。これにより、大きな雪柱せん断力が発揮され、旋回時のトラクションが高められるとともに横滑りが抑えられる。凹部10は、本実施形態では、横溝5の開口部5Aの全体とタイヤ周方向に重複している。これにより、横溝5の雪がスムーズに凹部10内に進入することができる。なお、凹部10は、このような態様に限定されるものではなく、凹部10と少なくとも開口部5Aの一部とがタイヤ周方向に重複していれば良い。
【0028】
図2は、
図1の拡大図である。
図2に示されるように、凹部10のタイヤ周方向の長さ(タイヤ周方向に沿った最大長さ)L1は、第1ブロック壁7のタイヤ周方向の長さLa(
図1に示す)の30%以上である。このような凹部10は、雪塊の容積を大きくして雪柱せん断力を高める。また、凹部10の長さL1が第1ブロック壁7の長さLaの70%以下である。これにより、第1ブロック3の剛性の大きな低下が抑制されるので、第1ブロック3の耐摩耗性能が高く維持される。
【0029】
凹部10のタイヤ周方向の中間位置10cと第1ブロック壁7のタイヤ周方向の中間位置7cとのタイヤ周方向の距離Lbは、第1ブロック壁7のタイヤ周方向の長さLaの10%以下である。これにより、横溝5から流れてきた雪が、第1ブロック壁7のタイヤ周方向の中央付近に留められ、第1ブロック3のタイヤ周方向の両側(第3ブロック壁9の外側)へ逃げることが抑制される。このため、第1ブロック3は、凹部10において、より強固な雪塊を形成することができる。凹部10の中間位置10cは、凹部10の最大長さL1上の位置である。
【0030】
凹部10は、本実施形態では、第1ブロック3と第2ブロック4との間の縦溝6Aの溝深さ(図示省略)と同じタイヤ半径方向の深さを有する切欠きとして形成されている。このような凹部10は、雪塊の容積を大きくするので、雪路性能を高める。凹部10は、このような態様に限定されるものではなく、縦溝6Aの深さよりも小さいタイヤ半径方向の深さを有する段差状の切欠きとして形成されても良い。
【0031】
凹部10は、本実施形態では、トレッド部2の平面視、矩形状である。このような凹部10は、凹部10内に前記雪を効果的に貯めることができる。また、第1ブロック3の剛正の過度の低下を抑制する。
【0032】
凹部10は、例えば、トレッド部2の平面視、第1ブロック3の内部に向かってテーパ状である。このような凹部10は、第1ブロック3の剛性を高く維持するのに役立つ。
【0033】
凹部10は、本実施形態では、タイヤ周方向に離間して第1ブロック壁7から延びる一対の軸方向部13、13と、一対の軸方向部13、13を継ぐ周方向部14とを含んでいる。軸方向部13のタイヤ軸方向の長さL3は、周方向部14のタイヤ周方向の長さL4の5%~11%であるのが望ましい。これにより、凹部10内に貯められる雪を確保しつつ、第1ブロック3の剛性の低下の抑制を図ることができる。
【0034】
軸方向部13及び周方向部14は、本実施形態では、直線状に延びている。このような軸方向部13は、雪塊をスムーズにせん断するのに役立つ。また、周方向部14は、凹部10での雪塊を強固に形成するのに役立つ。なお、周方向部14は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、第1ブロック3の内部に向かって凸の円弧状や波状に延びるものでも良い。
【0035】
図3は、
図1の拡大図である。
図3に示されるように、凹部10の中間位置10cと横溝5の溝中心線5hを第1ブロック3側へ延長させた仮想線5kとの最短距離L5は、凹部10の長さL1の30%以下であるのが望ましい。これにより、横溝5内の雪が凹部10内にスムーズに流れ込むことができる。また、横溝5内を流れる雪の押圧力を利用して、凹部10の雪塊をさらに押し固めて、旋回時の横滑りを抑制する。溝中心線5hは、開口部5Aの中間位置5cと、横溝5の第1ブロック3と逆側の開口部5Bの中間位置5dとを直線で結ぶ線分である。
【0036】
横溝5の溝縁5aを第1ブロック3側に滑らかに延長させた仮想溝縁Vnは、凹部10と交わるのが望ましい。これにより、溝縁5aに沿って流される横溝5内の雪が凹部10の雪に押圧力を与えて、強固な雪塊を形成しうる。本実施形態では、横溝5の両側の溝縁5a、5aの仮想溝縁Vn、Vnが凹部10の周方向部14と交わっている。これにより、上述の作用が効果的に発揮される。
【0037】
図1に示されるように、本実施形態の第2ブロック壁8は、第1ブロック壁7と同様に、凹部10、及び、凹部10とその両側の第3ブロック壁9とを継ぐ端部11が設けられている。第2ブロック壁8の凹部10は、本実施形態では、第1ブロック壁7の凹部10と同様に形成されるので、その詳細な説明が省略される。
【0038】
第1ブロック3は、本実施形態では、サイプ15が設けられている。本明細書では、サイプ15は、その長手と直角方向の幅wが1.5mm未満の切込みであり、前記幅が1.5mm以上の溝とは区別される。
【0039】
本実施形態のサイプ15は、第1サイプ15Aと第2サイプ15Bとを含んでいる。第1サイプ15Aは、本実施形態では、第1ブロック壁7から延び、かつ、第1ブロック3のタイヤ軸方向の中間位置3cの手前で途切れている。第2サイプ15Bは、本実施形態では、第2ブロック壁8から延び、かつ、第1ブロック3のタイヤ軸方向の中間位置3cの手前で途切れている。このようなサイプ15は、エッジ効果(雪路の掘り起こし摩擦力)を発揮して雪路性能を高める一方、第1ブロック3の剛正の過度の低下を抑制する。
【0040】
図4は、
図1の拡大図である。
図4に示されるように、第1サイプ15Aは、本実施形態では、凹部10に交わることなく延びている。即ち、第1サイプ15Aは、本実施形態では、端部11から延びている。これにより、第1ブロック3の凹部10の剛性低下が抑制されて、強固な雪塊を形成することができる。
【0041】
第1サイプ15Aは、第1短サイプ16と、第1短サイプ16よりもタイヤ軸方向の長さが大きい第1長サイプ17とを含んでいる。
【0042】
第1短サイプ16は、本実施形態では、凹部10を介して第1長サイプ17とタイヤ周方向に離間している。これにより、端部11の剛性の低下が抑制される。
【0043】
第1短サイプ16と開口部5Aのタイヤ周方向の中間位置5cとの間のタイヤ周方向の離間距離L6は、第1長サイプ17と開口部5Aの中間位置5cとの間のタイヤ周方向の離間距離L7よりも小さいのが望ましい。即ち、第1短サイプ16は、第1長サイプ17に比して、横溝5に近い位置に配されている。第1短サイプ16近傍の第1ブロック3の部分は、第1長サイプ17近傍の第1ブロック3の部分よりも剛性の低下が抑制される。このため、離間距離L6が離間距離L7よりも小さくすると、横溝5から流れる雪が、第1短サイプ16近傍の凹部10で強固に固められる。特に限定されるものではないが、前記離間距離L6は、前記離間距離L7の60%~90%が望ましい。
【0044】
第1短サイプ16は、本実施形態では、直線状に延びている。第1短サイプ16は、例えば、第3ブロック壁9と平行に延びている。第1長サイプ17は、本実施形態では、第1短サイプ16と平行に延びる第1部分22、第1ブロック3の中心に向かって延びる第2部分23、及び、第1部分22と第2部分23とに連なって屈曲する屈曲部24を含んでいる。このような第1長サイプ17は、2方向にエッジ効果を発揮して、雪路での旋回走行を安定化させる。
【0045】
第1部分22と第2部分23とのなす角度θ1は、90度よりも大きい。これにより、第1長サイプ17を設けたことによる第1ブロック3の剛性の低下が抑制される。
【0046】
図5は、
図2のA-A線断面図である。
図5に示されるように、第1長サイプ17は、本実施形態では、屈曲部24に、サイプ底15sが隆起するタイバー26が設けられている。このようなタイバー26は、大きな応力の作用する屈曲部24の剛性低下を抑制する。
【0047】
タイバー26の長さL8は、例えば、2mm以上であるのが望ましい。また、タイバー26のサイプ底15sからのタイヤ半径方向の高さh1は、タイバー26を除く第1長サイプ17のサイプ深さhaの1/3以上であるのが望ましい。これにより、屈曲部24の剛性低下が効果的に抑制される。タイバー26の高さh1が過度に大きい場合、エッジ効果が低減し、雪路性能の向上が抑制されるおそれがある。このため、タイバー26の高さh1は、第1長サイプ17の前記高さhaの1/2以下であるのが望ましい。
【0048】
特に限定されるものではないが、サイプ15の深さhは、第1ブロック3のブロック高さHが3.2mmよりも大きい場合、ブロック高さHの50%以上、かつ、ブロック高さH-(マイナス)1.6mm以下が望ましい。また、サイプ15の深さhは、ブロック高さHが3.2mm以下の場合、ブロック高さHの50%以下が望ましい。
【0049】
図1に示されるように、本実施形態の第2サイプ15Bは、第1ブロック3の踏面の任意の点で第1サイプ15Aと点対称である。これにより、第1ブロック3のタイヤ軸方向の両側でその剛性の差が小さくなるので、耐摩耗性や耐偏摩耗の低下が抑制される。このように第2サイプ15Bは、本実施形態では、第2短サイプ19と第2長サイプ20とで形成される。また、第2長サイプ20には、第1長サイプ17と同様に、その屈曲部24にタイバー(図示省略)が設けられるのが望ましい。
【0050】
第1長サイプ17の終端17eと第2長サイプ20の終端20eと間の離間距離Lcは、凹部10のタイヤ周方向の長さL1の1/5~1/3であるのが望ましい。これにより、上述の作用がより効果的に発揮される。
【0051】
第1ブロック壁7及び第2ブロック壁8には、本実施形態では、凹部10がそれぞれ一つ形成されているが、このよう態様に限定されるものではなく、例えば、凹部10が複数設けられても良い。この場合も、第1ブロック3に複数本のサイプ15が設けられるときは、各サイプ15は、各凹部10に交わることなく延びているのが望ましい。また、各サイプ15のうち、最もタイヤ軸方向の長さの小さいサイプ15に横溝5が最も隣接するのが望ましい。
【0052】
第1サイプ15Aは、第1ブロック壁7から延びてタイヤ周方向に2本以上並ぶように形成されても良い。この場合、タイヤ周方向に隣接する第1サイプ15A、15A間のタイヤ周方向の離間距離L9は、下記式(1)を充足するのが望ましい。nは、第1サイプ15Aの本数である。また、第2サイプ15Bも、第1サイプ15Aと同様に、第2ブロック壁8からタイヤ周方向に2本以上並ぶように形成される場合、下記式(1)を充足するのが望ましい。
La/n<L9<La/(n+1)…(1)
【0053】
図6は、他の実施形態のトレッド部2の全体の展開図である。この実施形態の構成要件と
図1に示される本実施形態と同じ構成要件は、同じ符号が付されて、その説明が省略される。
図6に示されるように、この実施形態のトレッド部2は、一対のクラウン主溝31、31と一対のショルダー主溝32、32とが設けられている。クラウン主溝31は、タイヤ赤道Cの外側に配されてタイヤ周方向に連続して延びている。ショルダー主溝32は、クラウン主溝31のタイヤ軸方向の外側に配されてタイヤ周方向に連続して延びている。
【0054】
また、この実施形態のトレッド部2は、それぞれ複数のクラウン横溝33とミドル横溝34とショルダー横溝35とが設けられている。クラウン横溝33は、本実施形態では、一対のクラウン主溝31、31間を継いでいる。ミドル横溝34は、本実施形態では、クラウン主溝31とショルダー主溝32との間を継いでいる。ショルダー横溝35は、本実施形態では、ショルダー主溝32とトレッド端Teとの間を継いでいる。
【0055】
このような各主溝31、32及び各横溝33ないし35により、トレッド部2は、クラウンブロック36とミドルブロック37とショルダーブロック38とが、それぞれ複数設けられている。クラウンブロック36は、一対のクラウン主溝31、31とクラウン横溝33とで区分される。ミドルブロック37は、クラウン主溝31とショルダー主溝32とミドル横溝34とで区分される。ショルダーブロック38は、ショルダー主溝32とトレッド端Teとショルダー横溝35とで区分される。
【0056】
クラウンブロック36は、この実施形態では、そのタイヤ軸方向の両側をタイヤ周方向に延びる一対のクラウン周方向壁36e、36eを有している。ミドルブロック37は、この実施形態では、クラウンブロック36側をタイヤ周方向延びるミドル第1壁37e、及び、ショルダーブロック38側をタイヤ周方向に延びるミドル第2壁37iを有している。ショルダーブロック38は、この実施形態では、ミドルブロック37側をタイヤ周方向に延びるショルダー周方向壁38eを有している。
【0057】
本実施形態では、一対のクラウン周方向壁36e、36eには、クラウンブロック36の内側に凹む凹部40が設けられる。また、ミドル第1壁37e及びミドル第2壁37iには、ミドルブロック37の内側に凹む凹部41、42がそれぞれ設けられている。また、ショルダー周方向壁38eには、ショルダーブロック38の内側に凹む凹部43が設けられている。
【0058】
この実施形態では、クラウンブロック36、ミドルブロック37及びミドル横溝34が、それぞれ、
図1の実施形態の第1ブロック3、第2ブロック4及び横溝5に相当する(以下、便宜上、この態様を「第1態様」という)。また、見方を変えると、この実施形態では、ミドルブロック37、クラウンブロック36及びクラウン横溝33が、それぞれ、
図1の実施形態の第1ブロック3、第2ブロック4及び横溝5に相当する(以下、便宜上、この態様を「第2態様」という)。第1態様では、クラウン周方向壁36eに設けられた凹部40は、ミドル横溝34のクラウンブロック36側の開口部34Aとタイヤ周方向に重複している。また、第2態様では、ミドル第1壁37eに設けられた凹部41は、クラウン横溝33のミドルブロック37側の開口部33Aとタイヤ周方向に重複している。
【0059】
このように、この実施形態では、雪路での左右いずれの旋回時においても、クラウン横溝33及びミドル横溝34から流れる雪が、クラウンブロック36の凹部40、及び、ミドルブロック37の凹部41の2箇所で受け止められて強固な雪塊を形成する。
【0060】
クラウン横溝33及びミドル横溝34は、この実施形態では、一対の外側部45、45と中央部46とを含んでいる。外側部45は、本実施形態では、タイヤ軸方向に対して傾斜し、かつ、各横溝33、34の長手方向の両側に配されている。中央部46は、両外側部45、45を継ぎ、かつ、外側部45よりもタイヤ軸方向に対して大きな角度で傾斜している。中央部46は、大きな周方向成分を有するので、旋回時の横滑りを抑制する。外側部45は、大きな軸方向成分を有するので、旋回時の雪の排出を容易にする。クラウン横溝33及びミドル横溝34は、この実施形態では、タイヤ軸方向に対して同じ向きに傾斜(図では右上がり)している。
【0061】
図7は、
図6と同じ実施形態のトレッド部2の展開図である。
図7に示されるように、この実施形態では、クラウンブロック36、ミドルブロック37及びショルダーブロック38のそれぞれには、サイプ15が設けられている。サイプ15は、この実施形態では、クラウン周方向壁36e、ミドル第1壁37e、ミドル第2壁37i、及び、ショルダー周方向壁38eからそれぞれのブロック36~38の内部に向かって延びている。
【0062】
クラウンブロック36及びミドルブロック37のサイプ15は、この実施形態では、第1サイプ15Aと第2サイプ15Bとを含んでいる。第1サイプ15Aは、例えば、第1短サイプ16と第1長サイプ17とを含んでいる。第2サイプ15Bは、例えば、第2短サイプ19と第2長サイプ20とを含んでいる。
【0063】
この実施形態では、クラウンブロック36及びミドルブロック37の第1サイプ15Aは、第1短サイプ16と第1部分22とがジグザグ状に延びており、第2部分23は、直線状に延びている。クラウンブロック36及びミドルブロック37の第2サイプ15Bは、第1サイプ15Aと同様に形成されている。このため、この実施形態の第2サイプ15Bは、その説明が省略される。
【0064】
この実施形態の第1サイプ15Aは、凹部10と交わって延びている。このような場合、第1サイプ15Aが設けられた凹部10近傍の第1ブロック3の部分は、剛性が小さくなる。しかしながら、この実施形態では、凹部10から延びる第1短サイプ16及び第1部分22がジグザグ状に延びている。このため、各ブロック36、37に横力が作用した場合でも、サイプ壁が噛み合って、各ブロック36、37の凹部10のタイヤ軸方向への変形が抑制されるので、各横溝33、34から流れてくる雪を強固に受け止めることができるため、雪路性能を高く維持する。この実施形態では、第1短サイプ16及び第1部分22は、軸方向部13と周方向部14との接続位置に近い位置、即ち、第1短サイプ16と第1部分22とは、相対的に離間した位置に配されている。
【0065】
この実施形態では、クラウンブロック36及びミドルブロック37に配されたサイプ15は、各ブロック36、37の踏面の任意の点で点対称に配されている。
【0066】
ミドル横溝34の溝縁34eをショルダーブロック38側に延長させた仮想溝縁Vnは、ショルダーブロック38の凹部10と交わっている。これにより、ショルダーブロック38の凹部10にも旋回時の横力を利用した強固な雪塊が形成される。この実施形態では、ミドル横溝34の仮想溝縁Vnの一方のみが、ショルダーブロック38の凹部10と交わっている。なお、このような態様に限定されるものではなく、ミドル横溝34の仮想溝縁Vnの両方が、ショルダーブロック38の凹部10に交わっていても良い。
【0067】
以上、本発明の実施形態について、詳述したが、本発明は例示の実施形態に限定されるものではなく、種々の態様に変形して実施し得るのは言うまでもない。
【実施例】
【0068】
図6の基本パターンを有するサイズ265/70R17の乗用車空気入りタイヤが、表1の仕様に基づき試作され、各試供タイヤの雪路性能及び耐摩耗性能がテストされた。各試供タイヤの主な共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
表1の「A」は、各短サイプと各長サイプとが
図1に示される態様であり、
「B」は、各短サイプと各長サイプとが
図6に示される態様である。また、
表1の「C」は、第1短サイプと第1長サイプとが
図1に示される態様であり、
「D」は、第1短サイプが、第1長サイプよりも横溝から遠い基部に配されている態様である。
【0069】
<雪路性能・耐摩耗性能>
下記テスト車両に各試供タイヤが装着され、テストドライバーが雪路面や乾燥アスファルト路面のテストコースを走行した。このときの旋回時の安定性に関する雪路性能、摩耗の発生状況に関する耐摩耗性能が、テストドライバーの官能により評価された。結果は、比較例1の値を50とする評点で表示されている。数値が大きい程、各種性能が優れている。
装着リム:17×7.5JJ
タイヤ内圧:240kPa
タイヤ装着位置:全輪
テスト車両:排気量4300ccの四輪駆動車
テストの結果などが表1に示される。
【0070】
【0071】
テストの結果、実施例のタイヤは、比較例のタイヤに比べて、耐摩耗性能が維持されつつ雪路性能が高められることが確認できた。
【符号の説明】
【0072】
1 タイヤ
2 トレッド部
3 第1ブロック
4 第2ブロック
5 横溝
5A 開口部
7 第1ブロック壁
7c 中間位置
10 凹部
10c 中間位置