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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】車両の路面段差判定装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/172 20060101AFI20221109BHJP
   B60T 8/1761 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B60T8/172 A
B60T8/1761
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018180193
(22)【出願日】2018-09-26
(65)【公開番号】P2020050088
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-18
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】寺坂 将仁
(72)【発明者】
【氏名】北原 知沙
【審査官】羽鳥 公一
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-329690(JP,A)
【文献】特開2001-030889(JP,A)
【文献】特開2011-207466(JP,A)
【文献】特開2003-089352(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
B60T 8/32-8/96
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪速度に基づいて該車両の走行路面に存在する段差の有無を判定する路面段差判定装置において、
前記車両の制動操作部材の操作量を検出する操作量センサと、
前記車輪速度、及び、前記操作量に基づいて前記段差を判定するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記車輪速度に基づいて、変動実際量を演算し、
前記操作量に基づいて、前記変動実際量に対応した変動推定量を演算し、
前記変動実際量、及び、前記変動推定量に基づいて、前記段差の判定を実行する、路面段差判定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の段差判定装置において、
前記コントローラは、
前記変動実際量と前記変動推定量との偏差が所定値以上の場合には、前記段差の存在を肯定し、
前記偏差が前記所定値未満の場合には、前記段差の存在を否定するよう構成された、路面段差判定装置。
【請求項3】
請求項1に記載の段差判定装置において、
前記コントローラは、
前記変動推定量に基づいて、判定しきい値を決定し、
前記変動実際量が前記判定しきい値以上の場合には、前記段差の存在を肯定し、
前記変動実際量が前記判定しきい値未満の場合には、前記段差の存在を否定するよう構成された、路面段差判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両が走行する路面の段差判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「ブレーキ液圧の減圧、保持および増圧を切換えるアンチロックブレーキ制御を実行するように調圧手段の作動が制御する調圧制御手段で制御される車両用ブレーキ制御装置において、高摩擦係数の平坦路での制動時のフィーリングの悪化を招くことを回避しつつ、制動時に車輪が路面の段差を乗り越えたときの増圧制御の遅れが生じることを防止する」ことを目的に、「車輪加・減速度算出手段20で算出された車輪加・減速度が微分手段21で微分され、非アンチロックブレーキ制御状態での制動時に車輪加・減速度の微分値が閾値以上となるのに応じて段差乗り越え判定手段22が段差乗り越え状態であると判定する」ことが記載されている。
【0003】
ところで、特許文献1に記載される装置では、車輪減速度の微分値に基づいて、車両走行路面における段差の有無が判定されるが、車輪減速度は、運転者による制動操作部材の操作によっても変化する。例えば、制動操作部材が急操作された場合には、車輪減速度の微分値は大きくなり、路面段差が判定される状況が生じ得る。従って、路面段差判定装置においては、精度の更なる向上が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-224306号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、路面段差の有無を判定する装置において、その判定精度が向上され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る車両の段差判定装置は、車両の車輪速度(Vw)に基づいて該車両の走行路面に存在する段差の有無を判定するものであって、前記車両の制動操作部材(BP)の操作量(Ba)を検出する操作量センサ(BA)と、前記車輪速度(Vw)、及び、前記操作量(Ba)に基づいて前記段差を判定するコントローラ(ECU)と、を備える。
【0007】
本発明に係る車両の段差判定装置では、前記コントローラ(ECU)は、前記車輪速度(Vw)に基づいて変動実際量(Da)を演算し、前記操作量(Ba)に基づいて前記変動実際量(Da)に対応した変動推定量(De)を演算し、前記変動実際量(Da)、及び、前記変動推定量(De)に基づいて、前記段差の判定を実行する。例えば、前記コントローラ(ECU)は、前記変動実際量(Da)と前記変動推定量(De)との偏差(hD)が所定値(hx)以上の場合には前記段差の存在を肯定し、前記偏差(hD)が前記所定値(hx)未満の場合には前記段差の存在を否定するよう構成されている。また、前記コントローラ(ECU)は、前記変動推定量(De)に基づいて判定しきい値(Dx)を決定し、前記変動実際量(Da)が前記判定しきい値(Dx)以上の場合には前記段差の存在を肯定し、前記変動実際量(Da)が前記判定しきい値(Dx)未満の場合には前記段差の存在を否定するよう構成されてもよい。
【0008】
車輪減速度dVの変動は、路面段差によって生じるが、急な制動操作によっても発生し得る。上記構成によれば、制動操作部材BPの操作量Baによって生じる車輪減速度dVの成分である変動推定量Deが考慮されて、路面段差が判定される。このため、路面段差の判定精度が向上される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る車両の段差判定装置DHを備える制動制御装置SCを説明するための全体構成図である。
図2】段差判定装置DHでの処理を説明するためのフロー図である。
図3】変動状態量Da、Deを説明するための時系列線図である。
図4】段差判定装置DHでの判定結果Dhを利用したアンチスキッド制御を説明するための機能ブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<構成部材等の記号、記号末尾の添字>
以下の説明において、「ECU」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。車輪に係る各種記号の末尾に付された添字「i」~「l」は、それが何れの車輪に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「i」は右前輪、「j」は左前輪、「k」は右後輪、「l」は左後輪を示す。例えば、4つの各ホイールシリンダにおいて、右前輪ホイールシリンダCWi、左前輪ホイールシリンダCWj、右後輪ホイールシリンダCWk、及び、左後輪ホイールシリンダCWlと表記される。更に、記号末尾の添字「i」~「l」は、省略され得る。添字「i」~「l」が省略された場合には、各記号は、4つの各車輪の総称を表す。例えば、「WH」は各車輪、「CW」は各ホイールシリンダを表す。
【0011】
2つの制動系統の各種記号の末尾に付された添字「1」、「2」は、それが何れの系統に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「1」は第1系統、「2」は第2系統を示す。例えば、2つのマスタシリンダ流体路において、第1マスタシリンダ流体路HM1、及び、第2マスタシリンダ流体路HM2と表記される。更に、記号末尾の添字「1」、「2」は省略され得る。添字「1」、「2」が省略された場合には、各記号は、2つの各制動系統の総称を表す。例えば、「HM」は、各制動系統のマスタシリンダ流体路を表す。
【0012】
流体路において、リザーバRVに近く、ホイールシリンダCWから離れた側が「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近く、リザーバRVから離れた側が「下部」と称呼される。ここで、流体路は、制動制御装置SCの作動液体である制動液BFを移動するための経路であり、制動配管、流体ユニットの流路、ホース等が該当する。各流体路の内部は、制動液BFが満たされている。
【0013】
<本発明に係る車両の段差判定装置DHを備える制動制御装置SC>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る段差判定装置DHを備える制動制御装置SCについて説明する。制動制御装置SCでは、2系統の流体路のうちで、第1系統(第1マスタシリンダ室Rm1に係る系統)は、右前輪WHiのホイールシリンダCWi、及び、左後輪WHlのホイールシリンダCWlに接続され、第2系統(第2マスタシリンダ室Rm2に係る系統)は、左前輪WHjのホイールシリンダCWj、及び、右後輪WHkのホイールシリンダCWkに接続される。つまり、2系統の流体路として、所謂、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)のものが採用されている。なお、2系統流体路として、前後型(「II型」ともいう)のものでもよい。この場合、第1系統には前輪ホイールシリンダCWi、CWjが、第2系統には後輪ホイールシリンダCWk、CWlが、夫々、接続される。
【0014】
制動制御装置SCを備える車両には、制動操作部材BP、ホイールシリンダCW、マスタリザーバRV、マスタシリンダCM、及び、ブレーキブースタBBが備えられる。マスタシリンダCMは、マスタシリンダ流体路HM、及び、ホイールシリンダ流体路HWを介して、ホイールシリンダCWに接続される。
【0015】
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクTqが調整され、車輪WHに制動力が発生される。
【0016】
車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTが固定される。そして、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパが配置される。ブレーキキャリパには、ホイールシリンダCWが設けられている。ホイールシリンダCW内の制動液BFの圧力(制動液圧)Pwが増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルクTqが発生される。この制動トルクTqによって、車輪WHに減速スリップが発生し、その結果、制動力が生じる。
【0017】
マスタリザーバ(大気圧リザーバ)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。マスタシリンダCMは、制動操作部材BPに、ブレーキロッド、クレビス(U字リンク)等を介して、機械的に接続されている。マスタシリンダCMは、タンデム型であり、第1、第2マスタピストンPL1、PL2によって、その内部が、第1、第2マスタシリンダ室Rm1、Rm2に分けられている。制動操作部材BPが操作されていない場合には、マスタシリンダCMの第1、第2マスタシリンダ室Rm1、Rm2とマスタリザーバRVとは連通状態にある。マスタシリンダCMは、マスタシリンダCMには、第1、第2マスタシリンダ流体路HM1、HM2が接続されている。
【0018】
制動操作部材BPが操作されると、マスタシリンダCM内の第1、第2マスタピストンPL1、PL2が押され、第1、第2マスタピストンPL1、PL2は前進する。この前進によって、第1、第2マスタシリンダ室Rm1、Rm2は、リザーバRVから遮断される。制動操作部材BPの操作が増加されると、マスタシリンダ室Rm1、Rm2の体積は減少し、制動液BFは、マスタシリンダCMから、第1、第2マスタシリンダ流体路HM1、HM2を介して、ホイールシリンダCWに向けて圧送される。
【0019】
ブレーキブースタ(単に、「ブースタ」ともいう)BBによって、運転者による制動操作部材BPの操作力Fpが軽減される。ブースタBBとして、負圧式のものが採用される。負圧は、エンジン、又は、電動負圧ポンプにて形成される。ブースタBBとして、電気モータを駆動源とするものが採用されてもよい(例えば、電動ブースタ、アキュムレータ式ハイドロリックブースタ)。
【0020】
車両には、車輪速度センサVW、操舵角センサSA、ヨーレイトセンサYR、前後加速度センサ(前後減速度センサ)GX、横加速度センサGY、及び、制動操作量センサBAが備えられる。
【0021】
車両の各車輪WHには、車輪速度Vwを検出するよう、車輪速度センサVWが備えられる。車輪速度Vwの信号は、車輪WHのロック傾向(即ち、過大な減速スリップ)を抑制するアンチスキッド制御等の各輪での独立制御に利用される。
【0022】
操舵操作部材(例えば、ステアリングホイール)には、操舵角Saを検出するように操舵角センサSAが備えられる。車両の車体には、ヨーレイト(ヨー角速度)Yrを検出するよう、ヨーレイトセンサYRが備えられる。また、車両の前後方向(進行方向)の加速度(車両減速度)Gx、及び、横方向(進行方向に直角な方向)の加速度(横加速度)Gyを検出するよう、前後加速度センサGX、及び、横加速度センサGYが設けられる。これらの信号は、過大なオーバステア挙動、アンダステア挙動を抑制する車両安定化制御(所謂、ESC)等の車両運動制御に用いられる。
【0023】
運転者による制動操作部材BP(ブレーキペダル)の操作量Baを検出するよう、制動操作量センサBAが設けられる。制動操作量センサBAとして、マスタシリンダCM内の液圧(第1、第2マスタシリンダ液圧)Pm1、Pmを検出するよう、第1、第2マスタシリンダ液圧センサPM1、PM2が設けられる。また、制動操作量センサBAとして、制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSP、及び、制動操作部材BPの操作力Fpを検出する操作力センサFPが設けられる。つまり、第1、第2マスタシリンダ液圧センサPM1、PM2、操作変位センサSP、及び、操作力センサFPのうちの少なくとも1つが、操作量センサBAとして採用される。従って、制動操作量Baとして、第1、第2マスタシリンダ液圧Pm1、Pm2、操作変位Sp、及び、操作力Fpのうちの少なくとも1つが検出される。なお、「Pm1=Pm2」であるため、第1、第2マスタシリンダ液圧センサPM1、PM2のうちの一方は、省略され得る。
【0024】
各センサ(VW等)によって検出された車輪速度Vw、操舵角Sa、ヨーレイトYr、前後加速度(車体減速度)Gx、横加速度Gy、及び、制動操作量Baは、コントローラECUに入力される。コントローラECUでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。
【0025】
≪電子制御ユニットECU≫
制動制御装置SCは、コントローラECU、及び、流体ユニットHUにて構成される。コントローラ(「電子制御ユニット」ともいう)ECUは、マイクロプロセッサMP等が実装された電気回路基板と、マイクロプロセッサMPにプログラムされた制御アルゴリズムにて構成されている。コントローラECUは、車載の通信バスBSを介して、他のコントローラと、信号(検出値、演算値等)を共有するよう、ネットワーク接続されている。
【0026】
コントローラECU(電子制御ユニット)によって、流体ユニットHUの電気モータML、及び、3種類の異なる電磁弁UP、VI、VOが制御される。具体的には、マイクロプロセッサMP内の制御アルゴリズムに基づいて、各種電磁弁UP、VI、VOを制御するための駆動信号Up、Vi、Voが演算される。同様に、電気モータMLを制御するための駆動信号Mlが演算される。
【0027】
コントローラECUには、電磁弁UP、VI、VO、及び、電気モータMLを駆動するよう、駆動回路DRが備えられる。駆動回路DRには、電気モータMLを駆動するよう、スイッチング素子(MOS-FET、IGBT等のパワー半導体デバイス)によってブリッジ回路が形成される。モータ駆動信号Mlに基づいて、各スイッチング素子の通電状態が制御され、電気モータMLの出力が制御される。また、駆動回路DRでは、電磁弁UP、VI、VOを駆動するよう、駆動信号Up、Vi、Voに基づいて、スイッチング素子によって、それらの通電状態(即ち、励磁状態)が制御される。
【0028】
コントローラECUには、制動操作量Ba(=Pm、Sp、Fp)、車輪速度Vw、ヨーレイトYr、操舵角Sa、前後加速度(車両減速度)Gx、横加速度Gyが入力される。コントローラECUでは、車輪速度Vwに基づいて、車輪WHの過度の減速スリップ(例えば、車輪ロック)を抑制するよう、アンチスキッド制御が実行される。コントローラECUでは、実際のヨーレイトYr等に基づいて、車両の不安定挙動(過度のオーバステア挙動、アンダステア挙動)を抑制する車両安定化制御(所謂、ESC)が実行される。
【0029】
≪流体ユニットHU≫
第1、第2マスタシリンダ流体路HM1、HM2に、流体ユニットHUが接続される。流体ユニットHU内の部位Bw1、Bw2にて、マスタシリンダ流体路HM1、HM2は、ホイールシリンダ流体路HWi~HWlに分岐され、ホイールシリンダCWi~CWlに接続される。具体的には、第1マスタシリンダ流体路HM1は、第1分岐部Bw1にて、ホイールシリンダ流体路HWi、HWlに分岐される。ホイールシリンダ流体路HWi、HWlには、ホイールシリンダCWi、CWlが接続されている。同様に、第2マスタシリンダ流体路HM2は、第2分岐部Bw2にて、ホイールシリンダ流体路HWj、HWkに分岐される。ホイールシリンダ流体路HWj、HWkには、ホイールシリンダCWj、CWkが接続されている。
【0030】
流体ユニットHUは、電動ポンプDL、低圧リザーバRL、調圧弁UP、マスタシリンダ液圧センサPM、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOにて構成される。
【0031】
電動ポンプDLは、1つの電気モータML、及び、2つの流体ポンプQL1、QL2にて構成される。電気モータMLは、コントローラECUによって、駆動信号Mlに基づいて制御される。電気モータMLによって、第1、第2流体ポンプQL1、QL2が一体となって回転される。第1、第2流体ポンプQL1、QL2によって、第1、第2調圧弁UP1、UP2の上部に位置する、第1、第2吸込部Bs1、Bs2から制動液BFが汲み上げられる。汲み上げられた制動液BFは、第1、第2調圧弁UP1、UP2の下部に位置する、第1、第2吐出部Bt1、Bt2に吐出される。第1、第2流体ポンプQL1、QL2の吸込み側には、第1、第2低圧リザーバRL1、RL2が設けられる。
【0032】
第1、第2調圧弁UP1、UP2が、第1、第2マスタシリンダ流体路HM1、HM2に設けられる。調圧弁UPとして、通電状態(例えば、供給電流)に基づいて開弁量(リフト量)が連続的に制御されるリニア型の電磁弁(「比例弁」、又は、「差圧弁」ともいう)が採用される。調圧弁UPは、コントローラECUによって、駆動信号Upに基づいて制御される。ここで、第1、第2調圧弁UP1、UP2として、常開型の電磁弁が採用される。調圧弁UPの上部には、第1、第2マスタシリンダ液圧Pm1、Pm2を検出するよう、第1、第2マスタシリンダ液圧センサPM1、PM2が設けられる。
【0033】
マスタシリンダ流体路HMは、調圧弁UPの下側の部位Bwにて、各前輪ホイールシリンダ流体路HWに分岐(分流)される。ホイールシリンダ流体路HWには、インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOが設けられる。インレット弁VIとして、常開型のオン・オフ電磁弁が採用される。また、アウトレット弁VOとして、常閉型のオン・オフ電磁弁が採用される。ここで、オン・オフ電磁弁は、開位置と閉位置の2つの位置を有する、2ポート2位置切替型の電磁弁である。電磁弁VI、VOは、コントローラECUによって、駆動信号Vi、Voに基づいて制御される。インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOによって各輪の制動液圧Pwが独立して制御され得る。
【0034】
インレット弁VI、及び、アウトレット弁VOにおいて、各車輪WHに係る構成は同じである。ホイールシリンダ流体路HW(部位BwとホイールシリンダCWとを結ぶ流体路)には、常開型のインレット弁VIが設けられる。ホイールシリンダ流体路HWは、インレット弁VIの下流部にて、常閉型のアウトレット弁VOを介して、低圧リザーバRLに接続される。例えば、各輪の独立制御(アンチスキッド制御、車両安定化制御等)において、ホイールシリンダCW内の液圧(制動液圧)Pwを減少するために、インレット弁VIが閉位置にされ、アウトレット弁VOが開位置される。制動液BFのインレット弁VIからの流入が阻止され、ホイールシリンダCW内の制動液BFは、低圧リザーバRLに流出し、制動液圧Pwは減少される。また、制動液圧Pwを増加するため、インレット弁VIが開位置にされ、アウトレット弁VOが閉位置される。制動液BFの低圧リザーバRLへの流出が阻止され、調圧弁UPによって調節された調整液圧Pp(調圧弁UPの下部の液圧)が、ホイールシリンダCWに導入され、制動液圧Pwが増加される。
【0035】
制動液圧Pwの増減によって、車輪WHの制動トルクTqが増減(調整)される。制動液圧Pwが増加されると、摩擦材が回転部材KTに押圧される力が増加され、制動トルクTqが増加される。結果、車輪WHの制動力が増加される。一方、制動液圧Pwが減少されると、摩擦材の回転部材KTに対する押圧力が減少され、制動トルクTqが減少される。結果、車輪WHの制動力が減少される。
【0036】
<段差判定装置DHでの処理>
図2フロー図を参照して、段差判定装置DHでの処理について説明する。この段差判定処理は、コントローラECU内のマイクロプロセッサMPにプログラムされている。
【0037】
ステップS110にて、信号(各種センサの検出値、及び、コントローラECUでの演算値)が読み込まれる。具体的には、車輪速度Vw、制動操作量Ba、及び、前後加速度(前後減速度)Gxが読み込まれる。ここで、制動操作部材BPの操作量Baは、マスタシリンダ液圧Pm、操作変位Sp、及び、操作力Fpの総称であり、これらのうちの少なくとも1つから決定される信号(状態量)である。また、ステップS110では、車輪速度Vwに基づいて演算された車体速度Vxが読み込まれる。
【0038】
ステップS120にて、車輪速度Vwに基づいて、車輪減速度dVが演算される。具体的には、車輪速度Vwが、時間微分されて、車輪減速度dVが決定される。
【0039】
ステップS130にて、車輪減速度dVに基づいて、変動実際量Daが演算される。変動実際量Daは、車両の走行路面における段差によって発生される、車輪速度Vw(又は、車輪減速度dV)の変動を表す状態量(状態変数)である。従って、「車両が路面段差を通過したか、否か」は、変動実際量Daに基づいて判定される。例えば、変動実際量Daとして、車輪減速度dVが、時間微分された車輪減速度の変化勾配(車輪減速度dVの単位時間たりの変化量)dWが演算される。つまり、車輪速度Vwが、時間について二階微分されて、車輪減速度の変化勾配dW(=Da)が演算される。また、変動実際量Daとして、車輪減速度dVのピーク値(極大値)Dpが採用されてもよい。極大値Dpは、前回の演算周期「n-1」における車輪減速度dV[n-1]と、今回の演算周期「n」における車輪減速度dV[n]との比較結果に基づいて決定される。ここで、添字「n-1」、「n」は、判定処理における演算タイミングを表している。
【0040】
ステップS140にて、操作量Baに基づいて、変動推定量Deが演算される。具体的には、変動実際量Daの1つである車輪減速度の変化勾配dWに対応して、操作量Baが時間微分されて、操作速度dB(操作量Baの単位時間当たりの変化量)が演算され、操作速度dBに所定の係数(変換係数)が乗算されて、変動推定量Deが演算される。操作量Baに応じて制動液圧Pwが発生され、車輪WHに制動力が生じた結果、車両の減速度Gxが発生する。つまり、操作量Baと車輪減速度dVとが対応し、操作速度dB(操作量Baの微分値)と変化勾配dW(車輪減速度dVの微分値)とが対応する。そして、操作量Baと車輪減速度dVとの関係、及び、操作速度dBと変化勾配dWとの関係は、制動装置の諸元に基づく既知の関係にて、相互間で変換可能である。このため、変動実際量Daに対応する変動推定量Deは、操作量Baから推定し、予測することができる。ここで、制動装置の諸元とは、マスタシリンダCMの受圧面積、ホイールシリンダCWの受圧面積、回転部材KTの有効制動半径、摩擦材の摩擦係数、制動操作部材BPのレバー比、車輪WHの慣性モーメント、等である。
【0041】
ステップS140では、変動実際量Daとして極大値Dpが採用される場合には、操作量Baのピーク値(極大値)Bpが演算され、極大値Bpに基づいて、変動推定量Deが決定される。極大値Dpと同様に、極大値Bpは、前回の操作量Ba[n-1]と、今回の操作量Ba[n]との比較結果に基づいて決定される。
【0042】
ステップS140では、変動実際量Daと変動推定量Deとの位相差が補償される。例えば、制動操作部材BPの急操作時等において、動的(過渡的)には、「Ba→Pm→Pw→Vw」の順で状態量が変化する。換言すれば、操作量Baに基づいて演算される変動推定量Deは早期の信号であり、車輪速度Vwに基づいて演算される変動実際量Daは、操作量Baの結果としての信号である。各状態量における動特性は既知であるため、変動実際量Daと変動推定量Deとの位相が合致するよう、変動推定量Deの演算において時間遅れ(位相差)Thが考慮され、変動推定量Deが時間Thだけ遅らされて、該位相補償が実行される。
【0043】
ステップS150にて、判定フラグDhに基づいて、「段差判定状態であるか(即ち、路面段差が既に判定されているか)、否か」が判定される。判定フラグDhは、後述する判定処理での結果である。「Dh=0」は、走行路面には段差が存在しない状態であることを表す。また、「Dh=1」は、路面段差が存在する状態を表す。路面段差が判定されておらず、ステップS150が否定される場合には、処理はステップS160に進む。路面段差が既に判定され、ステップS160が肯定される場合には、処理はステップS170に進む。
【0044】
≪路面段差判定の開始条件≫
ステップS160にて、変動実際量Da、及び、変動推定量Deに基づいて、「車両の走行路面に路面段差が存在するか、否か(即ち、路面段差の有無)」が判定される。先ず、ステップS160では、変動実際量Daと変動推定量Deとの偏差hD(即ち、変動実際量Daと変動推定量Deとの比較結果)が演算される(即ち、「hD=Da-De」)。つまり、変動実際量Daから、操作量Baによって生じる成分Deが減算され、路面段差のみに起因する成分が抽出される。そして、変動偏差hDが所定値hx以上の場合には、路面段差の存在が肯定される。この場合、処理はステップS180に進む。一方、変動偏差hDが所定値hx未満の場合には、路面段差の存在が否定され、処理はステップS110に戻される。ここで、所定値hxは、予め設定された定数であり、路面段差の有無を判定するためのしきい値である。
【0045】
また、ステップS160では、変動推定量Deに基づいて、判定しきい値Dxが決定される。判定しきい値Dxは、路面段差の有無を判定するためのしきい値であり、変動推定量Deに応じた状態変数である。具体的には、予め設定された演算マップに基づいて、変動推定量Deが大きいほど、判定しきい値Dxが大きくなるように演算される。そして、変動実際量Daが判定しきい値Dx以上の場合には、路面段差の存在が肯定され、処理はステップS180に進む。一方、変動実際量Daが判定しきい値Dx未満の場合には、路面段差の存在が否定され、処理はステップS110に戻される。
【0046】
路面摩擦係数μが小さいほど、車輪減速度dVは大きくなり易い。つまり、摩擦係数μが大きいほど、車輪WHはスリップし易い。後述するように、路面段差状態(段差有りの状態)が判定されると、アンチスキッド制御が開始され難くなるよう、制御開始しきい値が変更される。摩擦係数μが低い路面において、確実にアンチスキッド制御が実行されるよう、路面段差状態の開始条件において、変動実際量Daと変動推定量Deとの比較結果(偏差)hDによる判定開始に、以下の許可条件が考慮され得る。
【0047】
許可条件:「車体減速度Gaが第2所定減速度gx未満であるか、否か」。ここで、第2所定減速度gxは、予め設定された所定値(定数)である。摩擦係数μが低い路面から高い路面に、車両が乗り移った場合を考慮して、「Ga<gx」であることが、ステップS160が肯定されるための許可条件として付け加えられる。換言すれば、「Ga≧gx」の場合には、段差判定は禁止されている。なお、車体減速度Gaは、車体速度Vxに基づいて、車体速度Vxが時間微分されて演算される。また、前後減速度センサGXの検出値Gxが、車体減速度Gaとして決定されてもよい。つまり、車体減速度Gaは、車体速度Vxの時間微分値(演算値)、及び、前後減速度(検出値)Gxのうちの少なくとも1つに基づいて演算される。
【0048】
ステップS160では、路面段差の存在が肯定される場合には、判定結果として、判定フラグDhが「1」に決定される。一方、路面段差の存在が否定される場合には、判定フラグDhが「0」に決定される。更に、ステップS160にて、段差判定状態で、「段差あり」が、初めて判定された演算周期(路面段差状態の開始時点)を起点に、段差判定状態の継続時間(判定継続時間)Tdの演算が開始される。つまり、ステップS150が否定された後に、ステップS160が肯定され、判定結果(判定フラグ)Dhが、「Dh=0」から「Dh=1」に切り替えられた時点(該当する演算周期)にて、判定継続時間Tdのカウントが始められる。
【0049】
ステップS170にて、「段差判定状態を終了するか、否か」が判定される。具体的には、以下の3つの終了条件のうちの1つが満足された時点(演算周期)にて、段差判定が終了される。段差判定状態の終了が否定されると、処理はステップS180に進む。一方、段差判定状態の終了が肯定される場合には、処理はステップS110に戻される。段差判定が終了されると、判定結果Dhが、「Dh=1」から「Dh=0」に切り替えられる。
【0050】
終了条件1:「判定継続時間Tdが、第2所定時間td以上であるか、否か」。継続時間Tdが第2所定時間td未満の場合には、段差判定が継続される。一方、継続時間Tdが第2所定時間td以上の場合には、段差判定が終了(解除)される。ここで、第2所定時間tdは、予め設定された定数(所定値)であり、路面段差状態の終了を決定するためのしきい値である。路面段差に起因する車輪WHの荷重減少は長くは続かず、車輪減速度dVの変動は暫くすると減衰する。このため、「Td≧td」が満足される時点(演算周期)で、段差判定が終了される。
【0051】
終了条件2:「車輪減速度dVが第1所定減速度dx以上の状態が第1所定時間tx以上に亘って継続されたか、否か」。ここで、第1所定減速度dx、及び、第1所定時間txは、予め設定された所定値(定数)である。車輪スリップが続いている場合には、段差判定が終了される。即ち、「dV≧dx」の継続時間(スリップ継続時間)Txが、第1所定時間tx以上となった時点で、段差判定が解除される。
【0052】
終了条件3:「車体減速度Gaが第2所定減速度gx以上であるか、否か」。ここで、第2所定減速度gxは、予め設定された所定値(定数)である。「Ga≧gx」となった時点で、段差判定が解除される。上記同様、車体減速度Gaは、車体速度Vxの時間微分値(演算値)、及び、前後減速度(検出値)Gxのうちの少なくとも1つに基づいて演算される。
【0053】
ステップS180にて、アンチスキッド制御の開始しきい値が、制御が開始され難くなるよう、修正される。アンチスキッド制御では、該制御の実行を開始するよう、制御開始しきい値が、予め設定されている。例えば、この開始しきい値は、「車輪減速度dV、及び、車輪スリップSw」の相互関係に対応して設定される。路面段差状態(段差有りの状態)が判定されると、アンチスキッド制御が開始され難くなるよう、車輪減速度dVに係る開始しきい値が大きい値に調整される。つまり、車両が路面段差を通過した場合には、車輪減速度dVが、或る程度、大きくなっても、アンチスキッド制御は開始されない。路面段差によるアンチスキッド制御の開始が回避されるため、運転者への違和が抑制され得る。
【0054】
<変動状態量Da、De>
図3の時系列線図を参照して、変動状態量Da、Deについて説明する。ここで、変動状態量Da、Deは、車輪速度Vw、及び、車輪減速度dVのうちの少なくとも1つの変動を表すための状態量(状態変数)である。変動実際量Daは、車輪速度Vwに基づいて演算される。変動推定量Deは、操作量Baに基づいて、変動実際量Daに対応するよう、同一物理量として、予測して演算される。
【0055】
図3(a)を参照して、変動実際量Daについて説明する。変動実際量Daは、実際に発生している、車輪速度Vw、及び、車輪減速度dVのうちの少なくとも1つの変動を表現する状態変数であり、車輪速度Vwに応じて演算される。ここでは、操作量Baが一定値baに維持され、車輪WHに一定の制動トルクTqが加えられている。そして、車両の進行方向に路面段差があり、それを通過した際に発生する車輪減速度dVの変化が示されている。図3(a)において、車輪減速度dVの正符号(+)は、車輪速度Vwが減少する方向であり、その負符号(-)は、車輪速度Vwが増加する方向である。
【0056】
車両が矢印の方向に走行し、時点t1にて、車輪WHが路面段差を通り過ぎる。この状況では、破線の状態(A)で示すように、車輪WHが一瞬宙に浮き、垂直荷重が急減する。このとき、車輪WHには、路面反力が作用しないため、車輪減速度dVが急激に増加する。その後、車輪WHが路面に接地すると、垂直荷重が増加され、車輪減速度dVは、急激に減少する。車輪WHの接地荷重の変動に応じて、車輪減速度dVは変動するが、変動は徐々に減衰する。
【0057】
車輪速度Vwに基づいて、変動実際量Daが演算される。例えば、変動実際量Daとして、車輪減速度dVの傾き(時間変化量)dWが演算される。つまり、車輪速度Vwが時間について二階微分された車輪減速度の変化勾配dWが、変動実際量Daに決定される。また、変動する車輪減速度dVの極大値(ピーク値)Dpが、変動実際量Daとして採用される。極大値Dpは、演算周期毎に、車輪減速度dVについての前回値dV[n-1]と今回値dV[n]とが比較され、今回値dV[n]が、前回値dV[n-1]以上である場合に、今回値dV[n]が記憶される。そして、今回値dV[n]が、前回値dV[n-1]未満となった時点(演算周期)で、前回値dV[n-1]が、極大値Dpに決定される。
【0058】
図3(b)を参照して、変動推定量Deについて説明する。変動推定量Deは、変動実際量Daに対応した、車輪速度Vw、及び、車輪減速度dVのうちの少なくとも1つの変動を表現する状態変数である。従って、変動推定量Deと変動推定量Deは、同一の物理量を有する。操作量Baに応じた制動液圧Pwが生じ、車輪WHに制動トルクTqが付与され、車輪速度Vw、車輪減速度dVが変化する。変動推定量Deは、操作量Baから推定(予測)され、演算される。具体的には、制動装置の諸元(マスタシリンダCMの受圧面積、ホイールシリンダCWの受圧面積、回転部材KTの有効制動半径、摩擦材の摩擦係数、制動操作部材BPのレバー比、車輪WHの慣性モーメント、等)を利用して、操作量Baから車輪減速度dVが、操作速度dBから車輪減速度変化勾配dWが、夫々、変換されて演算される。
【0059】
図3(b)では、時点t2にて、制動操作部材BPの急操作が開始され、操作量Baが急激に増加され、時点t3にて、制動操作部材BPが値Bpで保持された場合を表している。従って、値Bpは極大値(ピーク値)である。
【0060】
時点t2の直後に、操作量Baが時間微分されて、操作速度dB(操作量Baの単位時間当たりの変化量)が演算される。そして、操作速度dBに、上述した所定の変換係数が乗算されて、車輪減速度の変化勾配dWに対応した変動推定量Deが演算される。また、変動実際量Daとして、極大値Dpが用いられる場合には、変動推定量Deは、極大値Bp、及び、所定の変換演算に基づいて決定される。なお、操作量Baの極大値Bpは、演算周期毎に、前回値Ba[n-1]と今回値Ba[n]とが比較され、今回値Ba[n]が、前回値Ba[n-1]以上である場合に、今回値Ba[n]が記憶される。そして、今回値Ba[n]が、前回値Ba[n-1]未満となった時点(演算周期)で、前回値Ba[n-1]が、極大値Bpに決定される。
【0061】
変動推定量Deの演算では、操作量Baから車輪減速度dVに至る伝達経路での動特性が補償される。過渡的には、車輪減速度dVは、操作量Baに対して時間遅れThを有し、位相差が発生する。このため、破線で示すように、変動実際量Daと変動推定量Deとの位相が合致するよう、変動推定量Deは、時間Thだけ遅らされて、変動実際量Daと比較される。なお、変動実際量Daと変動推定量Deと間の位相時間差Thは、操作速度dB等に応じて予め設定された関係で演算される。位相差Thが補償されることで、路面段差判定の精度が向上される。
【0062】
<判定結果Dhを利用したアンチスキッド制御>
図4の機能ブロック図を参照して、段差判定装置(段差判定ブロック)DHでの判定結果Dhを利用したアンチスキッド制御について説明する。コントローラECUでは、車輪WHの過大な減速スリップを抑制するよう、アンチスキッド制御が実行される。アンチスキッド制御によって、流体ユニットHU(ML、VI、VO等)が制御され、車輪WHの制動トルクTqが調整される。
【0063】
段差判定ブロックDHでは、変動実際量Da、及び、変動推定量Deに基づいて、路面段差の有無が判定される。例えば、変動実際量Daと変動推定量Deとの偏差hD(=Da-De)が演算され、「hD≧hx」では「路面段差あり」が、「hD<hx」では「路面段差なし」が判定される。所定値hxは、予め設定された定数である。また、変動推定量Deに基づいて、判定しきい値Dxが決定され、「Da≧Dx」では「路面段差あり」が、「Da<Dx」では「路面段差なし」が判定される。なお、Dxは、変動推定量Deが大きいほど、大きくなるように決定される。路面段差によって生じる車輪減速度dVの変動は、急な制動操作によっても発生し得る。路面段差の判定精度が向上されるよう、操作量Baによって生じる車輪減速度dVが、変動推定量Deとして考慮される。
【0064】
加えて、段差判定ブロックDHでは、路面段差の判定開始の許可条件として、「車体減速度Gaが第2所定減速度gx未満であること」が付け加えられる。ここで、第2所定減速度gxは、予め設定された所定値(定数)である。また、車体減速度Gaは、車体速度Vxの時間微分値(演算値)、及び、前後減速度(検出値)Gxのうちの少なくとも1つに基づいて演算される。
【0065】
段差判定ブロックDHでは、路面段差判定は、以下の3つの終了条件の何れかが満足された場合に終了(解除)される。具体的には、「判定継続時間Tdが、第2所定時間td以上に達したこと(終了条件1)」が終了条件に採用される。路面段差の判定終了条件として、「車輪減速度dVが第1所定減速度dx以上の状態が第1所定時間tx以上に亘って継続されたこと(終了条件2、スリップ継続時間Txが第1所定時間tx以上になったこと)」、又は、「車体減速度Gaが第2所定減速度gx以上になったこと(終了条件3)」が採用され得る。ここで、第1所定減速度dx、及び、第1、第2所定時間tx、tdは、予め設定された所定値(定数)である。
【0066】
車両が、摩擦係数μが高い路面から、摩擦係数μが低い路面に侵入した場合等に、確実にアンチスキッド制御が実行されるよう、路面段差判定において、上記の許可条件が追加され、上記の終了条件2、3が採用される。段差判定ブロックDHにて、路面段差の有無の判定結果として、判定フラグDhが、後述のアンチスキッド制御ブロックACに出力される。
【0067】
車両の各車輪WHには、車輪WHの回転速度(車輪速度)Vwを検出するよう、車輪速度センサVWが設けられる。検出された車輪速度Vwは、コントローラECUに入力される。コントローラECUには、車体速度演算ブロックVX、車輪減速度演算ブロックDV、車輪スリップ演算ブロックSW、アンチスキッド制御ブロックAC、及び、駆動回路DRが含まれる。
【0068】
車体速度演算ブロックVXにて、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。例えば、車両の加速時を含む非制動時には、4つの車輪速度Vwのうちの最も遅いもの(最遅の車輪速度)に基づいて、車体速度Vxが演算される。また、制動時には、4つの車輪速度Vwのうちの最も速いもの(最速の車輪速度)に基づいて、車体速度Vxが演算される。更に、車体速度Vxの演算において、その時間変化量において制限が設けられ得る。即ち、車体速度Vxの増加勾配の上限値αup、及び、減少勾配の下限値αdnが設定され、車体速度Vxの変化が、上下限値αup、αdnによって制約される。
【0069】
車輪減速度演算ブロックDVにて、車輪速度Vwに基づいて、車輪減速度dV(車輪速度Vwの時間変化量)が演算される。具体的には、車輪速度Vwが時間微分されて、車輪減速度dVが演算される。
【0070】
車輪スリップ演算ブロックSWにて、車体速度Vx、及び、車輪速度Vwに基づいて、車輪WHの減速スリップ(「車輪スリップ」ともいう)Swが演算される。車輪スリップSwは、走行路面に対する車輪WHのグリップの程度を表す状態量である。例えば、車輪スリップSwとして、車輪WHの減速スリップ速度(車体速度Vxと車輪速度Vwと偏差)hVが演算される(hV=Vx-Vw)。また、車輪スリップSwとして、スリップ速度(速度偏差)hVが車体速度Vxにて無次元化された車輪スリップ率(=hV/Vx)が採用され得る。
【0071】
アンチスキッド制御ブロックACにて、車輪減速度dV、及び、車輪スリップSwに基づいて、アンチスキッド制御が開始され、実行される。アンチスキッド制御での制動液圧Pwの調整は、「制動トルクTq(即ち、制動液圧Pw)を減少する減少モード(減圧モード)Mg」、及び、「制動トルクTq(即ち、制動液圧Pw)を増加する増加モード(増圧モード)Mz」のうちの何れか1つのモードが選択されることによって達成される。ここで、減少モードMg、及び、増加モードMzは、「制御モード」と総称され、アンチスキッド制御ブロックACに含まれるモード選択ブロックMDによって決定される。
【0072】
モード選択ブロックMDには、各制御モードを決定するよう、複数のしきい値が予め設定されている。これらのしきい値と、「車輪減速度dV、及び、車輪スリップSw」と、の相互関係に基づいて、アンチスキッド制御が開始される(先ず、減少モードMgが実行される)。また、上記相互関係に基づいて、減少モードMg、及び、増加モードMzのうちでの何れか1つの制御モードが選択され、アンチスキッド制御の実行が継続される。
【0073】
加えて、制御モード選択ブロックMDでは、アウトレット弁VOのディーティ比Dg、及び、インレット弁VIのディーティ比Dzが決定される。ここで、「ディーティ比」は、単位時間当たりの通電時間(オン時間)の割合である。選択された制御モード、及び、決定されたデューティ比に基づいて、オン・オフ電磁弁VI、VOが駆動され、ホイールシリンダCWの制動液圧Pwが調整される。加えて、低圧リザーバRLから制動液BFを、インレット弁VIの上部Bwに戻すよう、電気モータMLの駆動信号Mlが演算される。
【0074】
アンチスキッド制御によって、減少モードMgが選択され、制動液圧Pwが減少される場合には、インレット弁VIが閉状態にされ、アウトレット弁VOが開状態にされる。つまり、増圧デューティ比Dzが「100%(常時通電)」に決定され、アウトレット弁VOが、減圧デューティ比Dgに基づいて駆動される。ホイールシリンダCW内の制動液BFが、低圧リザーバRLに移動され、制動液圧Pwが減少される。ここで、減圧速度(制動液圧Pwの減少における時間勾配)は、アウトレット弁VOのデューティ比Dgによって決定される。減圧デューティ比Dgの「100%」が、アウトレット弁VOの常時開状態に対応し、制動液圧Pwは急減される。「Dg=0%(非通電)」によって、アウトレット弁VOの閉位置が達成される。
【0075】
アンチスキッド制御ブロックACには、しきい値設定ブロックSXが設けられる。しきい値設定ブロックSXでは、段差判定ブロックDHからの判定フラグDhに基づいて、アンチスキッド制御の制御開始しきい値が修正される。「Dh=0」であり、路面段差の存在が否定されている場合には、しきい値設定ブロックSXでは、制御開始しきい値として、デフォルト値(初期値)が設定される。「Dh=1」によって、路面段差の存在が肯定される場合には、しきい値設定ブロックSXでは、制御開始しきい値は、初期値から、アンチスキッド制御が開始され難くなるように変更される。例えば、車輪減速度dVに係る開始しきい値が、初期値より大きくなるように修正される。また、車輪スリップSwに係る開始しきい値が、初期値より大きくなるように修正される。
【0076】
アンチスキッド制御によって、増加モードMzが選択され、制動液圧Pwが増加される場合には、インレット弁VIが開状態にされ、アウトレット弁VOが閉状態にされる。つまり、減圧デューティ比Dgが「0%」に決定され、インレット弁VIが、増圧デューティ比Dzに基づいて駆動される。制動液BFが、ホイールシリンダCWに移動され、制動液圧Pwが増加される。インレット弁VIのデューティ比Dzによって、増圧速度(制動液圧の増加における時間勾配)が調整される。増圧デューティ比Dzの「0%」が、インレット弁VIの常時開状態に対応し、制動液圧Pwは急増される。「Dz=100%(常時通電)」によって、インレット弁VIの閉位置が達成される。
【0077】
なお、アンチスキッド制御によって、制動液圧Pwの保持が必要な場合には、減少モードMg、又は、増加モードMzにおいて、アウトレット弁VO、又は、インレット弁VIが、常時、閉状態にされる。具体的には、減少モードMgにおいて、制動液圧Pwの保持が必要な場合には、アウトレット弁VOのデューティ比Dgが「0%(常閉状態)」に決定される。また、増加モードMzにおいて、制動液圧Pwの保持が必要な場合には、インレット弁VIのデューティ比Dzが「100%(常閉状態)」に決定される。
【0078】
駆動回路DRにて、増減圧デューティ比Dz、Dg、及び、駆動信号Mlに基づいて、電磁弁VI、VO、UP、及び、電気モータMLが駆動される。駆動回路DRでは、アンチスキッド制御を実行するよう、増圧デューティ比Dzに基づいて、インレット弁VI用の駆動信号Viが演算されるとともに、減圧デューティ比Dgに基づいて、アウトレット弁VO用の駆動信号Voが決定される。また、電気モータMLを予め設定された所定回転数で駆動するよう、駆動信号Mlが演算される。
【0079】
駆動回路DRでは、駆動信号Vi、Vo、Up、Mlに基づいて、スイッチング素子(パワー半導体デバイス)によって、電磁弁VI、VO、UP、及び、電気モータMLの通電状態が制御される。これにより、電磁弁VI、VO、UP、及び、電気モータMLが駆動され、アンチスキッド制御等が実行される。
【符号の説明】
【0080】
DH…路面段差判定装置、SC…制動制御装置、BP…制動操作部材、BA…操作量センサ、PM…マスタシリンダ液圧センサ、SP…操作変位センサ、FP…操作力センサ、VW…車輪速度センサ、GX…前後減速度センサ、CM…マスタシリンダ、CW…ホイールシリンダ、VI…インレット弁、VO…アウトレット弁、ML…電気モータ、QL…流体ポンプ、ECU…コントローラ、Vw…車輪速度、dV…車輪減速度、dW…車輪減速度の変化勾配、Ba…操作量、dB…操作速度、Da…変動実際量、De…変動推定量、Dp…車輪減速度の極大値、Bp…制動操作量の極大値。


図1
図2
図3
図4