(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】加飾シート、その製造方法、及び加飾樹脂成形品
(51)【国際特許分類】
B32B 27/00 20060101AFI20221109BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B32B27/00 E
B29C45/14
(21)【出願番号】P 2018182588
(22)【出願日】2018-09-27
【審査請求日】2021-07-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000002897
【氏名又は名称】大日本印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】阿波 愛
(72)【発明者】
【氏名】安原 正博
(72)【発明者】
【氏名】北原 由梨
【審査官】芦原 ゆりか
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-025604(JP,A)
【文献】特開平11-034270(JP,A)
【文献】特開2014-193535(JP,A)
【文献】特開2016-190329(JP,A)
【文献】特開平04-151284(JP,A)
【文献】特開2009-234159(JP,A)
【文献】特開平08-150692(JP,A)
【文献】特開2017-007156(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B
B29C 45/00-45/24;45/46-45/63;45/70-45/72;45/74-45/84
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、着色層、透明基材層、絵柄層、第1の保護層、及び第2の保護層をこの順に備える積層体からなり、
前記透明基材層は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリル樹脂、又はポリオレフィン系樹脂により構成されており、
前記第2の保護層が部分的に積層されている、加飾シート。
【請求項2】
前記絵柄層によって形成されている模様が、幾何学模様である、請求項1に記載の加飾シート。
【請求項3】
前記第1の保護層が、フィラーを含有している、請求項1又は2に記載の加飾シート。
【請求項4】
前記絵柄層と前記透明基材層とが接面している、請求項1~3のいずれか1項に記載の加飾シート。
【請求項5】
前記絵柄層は、透明基材層の上に部分的に形成されている、請求項1~4のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項6】
前記絵柄層の模様と、第2の保護層とが同調している、前記絵柄層と前記第1の保護層との間に、透明樹脂層が積層されている、請求項1~5のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項7】
前記絵柄層と前記第1の保護層との間に、透明樹脂層が積層されている、請求項1~6のいずれかに記載の加飾シート。
【請求項8】
透明基材層の一方面に着色層を積層する工程と、
前記透明基材層の前記着色層側とは反対側に、少なくとも、絵柄層、第1の保護層、及び第2の保護層とをこの順に積層する工程と、
を備え、
前記透明基材層は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリル樹脂、又はポリオレフィン系樹脂により構成されており、
前記第2の保護層は、前記第1の保護層の上に部分的に積層する、加飾シートの製造方法。
【請求項9】
少なくとも、成形樹脂層、着色層、透明基材層、絵柄層、第1の保護層、及び第2の保護層をこの順に備える積層体からなり、
前記透明基材層は、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂、アクリル樹脂、又はポリオレフィン系樹脂により構成されており、
前記第2の保護層が部分的に積層されている、加飾樹脂成形品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加飾シート、その製造方法、及び加飾樹脂成形品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両内外装部品、建材内装材、家電筐体等には、樹脂成形品の表面に加飾シートを積層させた加飾樹脂成形品が使用されている。このような加飾樹脂成形品の製造においては、予め意匠が付与された加飾シートを、射出成形によって樹脂と一体化させる成形法などが用いられている。係る成形法の代表的な例としては、加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形しておき、当該加飾シートを射出成形型に挿入し、流動状態の樹脂を型内に射出することにより樹脂と加飾シートとを一体化するインサート成形法や、射出成形の際に金型内に挿入された加飾シートを、キャビティ内に射出注入された溶融樹脂と一体化させる射出成形同時加飾法が挙げられる。また、射出成形による成形法以外には、真空圧着法のように予め成形された成形体上に加熱や加圧を伴いながら貼着される加飾方法においても加飾シートが用いられている。
【0003】
例えば、加飾樹脂成形品に高い質感を付与する手法として、基材上に、絵柄層、第1の保護層、及び該第1の保護層上に部分的に第2の保護層を設けた加飾シートを用いる手法が知られている(例えば、特許文献1を参照)。この文献に開示された手法によれば、加飾シートの第1及び第2の保護層間で艶を変化させると共に、絵柄層と第2の保護層を同調させることにより、加飾樹脂成形品に高い質感を与えることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来、基材層の色の変化やバラツキを抑制する目的で、基材層と絵柄層との間には、隠蔽層が設けられることがあり、例えば特許文献1に開示された加飾シートにおいても、基材層と絵柄層との間に隠蔽層を設ける態様が記載されている。あるいは、所望の意匠を表現するため、基材層と絵柄層との間に当該絵柄層とは別の着色層を全面ベタまたは絵柄模様状に設けることもある。
【0006】
ところが、本発明者らが検討したところ、例えば、幾何学模様のように、絵柄が明確かつ精緻な意匠を絵柄層によって表現する場合などにおいて、隠蔽層等の着色層上に絵柄層を印刷すると、印刷によって形成された着色層の微細な凹凸の影響を受け、絵柄層を形成するインキが適切に印刷されにくいことを見出した。
【0007】
このような状況下、本発明は、絵柄層による意匠を好適に発現する加飾シートを提供することを主な目的とする。さらに、本発明は、当該加飾シートの製造方法、及び当該加飾シートを利用した加飾樹脂成形品を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記のような課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、少なくとも、着色層、透明基材層、絵柄層、第1の保護層、及び第2の保護層をこの順に備える積層体からなり、第2の保護層が部分的に積層されている加飾シートは、絵柄層による意匠を好適に発現することを見出した。本発明は、これらの知見に基づいて、さらに検討を重ねることにより完成された発明である。
【0009】
すなわち、本発明は、下記に掲げる態様の発明を提供する。
項1. 少なくとも、着色層、透明基材層、絵柄層、第1の保護層、及び第2の保護層をこの順に備える積層体からなり、
前記第2の保護層が部分的に積層されている、加飾シート。
項2. 前記絵柄層によって形成されている模様が、幾何学模様である、項1に記載の加飾シート。
項3. 前記第1の保護層が、フィラーを含有している、項1又は2に記載の加飾シート。
項4. 前記絵柄層と前記透明基材層とが接面している、項1~3のいずれか1項に記載の加飾シート。
項5. 前記絵柄層は、透明基材層の上に部分的に形成されている、項1~4のいずれかに記載の加飾シート。
項6. 前記絵柄層の模様と、第2の保護層とが同調している、前記絵柄層と前記第1の保護層との間に、透明樹脂層が積層されている、項1~5のいずれかに記載の加飾シート。
項7. 前記絵柄層と前記第1の保護層との間に、透明樹脂層が積層されている、項1~6のいずれかに記載の加飾シート。
項8. 透明基材層の一方面に着色層を積層する工程と、
前記透明基材層の前記着色層側とは反対側に、少なくとも、絵柄層、第1の保護層、及び第2の保護層とをこの順に積層する工程と、
を備え、
前記第2の保護層は、前記第1の保護層の上に部分的に積層する、加飾シートの製造方法。
項9. 少なくとも、成形樹脂層、着色層、透明基材層、絵柄層、第1の保護層、及び第2の保護層をこの順に備える積層体からなり、
前記第2の保護層が部分的に積層されている、加飾樹脂成形品。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、絵柄層による意匠を好適に発現する加飾シートを提供することができる。さらに、本発明によれば、当該加飾シートの製造方法、当該加飾シートを利用した加飾樹脂成形品を提供することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の加飾シートの一例の略図的断面図である。
【
図2】本発明の加飾シートの一例の略図的断面図である。
【
図3】本発明の加飾シートを利用した加飾樹脂成形品の一例の略図的断面図である。
【
図4】本発明の加飾シートを利用した加飾樹脂成形品の一例の略図的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
1.加飾シート
本発明の加飾シートは、少なくとも、着色層、透明基材層、絵柄層、第1の保護層、及び第2の保護層をこの順に備える積層体からなり、第2の保護層が部分的に積層されていることを特徴としている。本発明の加飾シートは、このような構成を備えていることにより、絵柄層による意匠を好適に発現することができる。より具体的には、本発明の加飾シートにおいては、着色層が透明基材層の裏面に設けられており、隠蔽層を介さずに絵柄層が積層されていることから、例えば、幾何学模様のように絵柄が明確かつ精緻な意匠を絵柄層によって表現する場合などにおいて、透明基材層の上に、絵柄層のインキが適切に印刷され、絵柄層による意匠を好適に発現することができる。また、透明基材層の上に、絵柄層、第1の保護層、及び第2の保護層を順次積層することによって加飾シートが製造されることから、絵柄層の模様と、部分的に設けられた第2の保護層とを精度高く同調させることができ、絵柄層による意匠を好適に発現することができる。
【0013】
なお、本発明において、絵柄層の模様と、第2の保護層との同調とは、例えば、加飾シートを平面観察時した際に、絵柄層が形成されている位置と、第2の保護層が形成されている位置とが対応している態様(いわゆる、ポジ)や、絵柄層が形成されている位置と、第2の保護層が形成されていない位置とが対応している態様(いわゆる、ネガ)が挙げられる。
図1~
図4には、絵柄層の模様と第2の保護層との同調の例として、ネガの態様を例示している。
【0014】
以下、本発明の加飾シートについて詳述する。なお、本明細書において、数値範囲については、「以上」、「以下」と明記している箇所を除き、「~」で示される数値範囲は「以上」、「以下」を意味する。例えば、2~15mmとの表記は、2mm以上15mm以下を意味する。また、本明細書において、「(メタ)アクリレート」は、「アクリレートまたはメタクリレート」を意味し、他の類似するものも同様の意である。
【0015】
加飾シートの積層構造
本発明の加飾シート10は、
図1及び
図2に示されるように、少なくとも、着色層2、透明基材層1、絵柄層4、第1の保護層31、及び第2の保護層32がこの順に積層された積層構造を有する。第2の保護層32は、部分的に設けられている。すなわち、第2の保護層32は、第1の保護層31の表面の一部の上に設けられている。第1の保護層31の上には、第2の保護層32が設けられた部分3aと、当該第2の保護層32が設けられていない部分3bとによって、凹凸形状が形成されている。
【0016】
本発明の加飾シート10において、
図2に示されるように、耐薬品性を向上させることなどを目的として、必要に応じて、絵柄層4と第1の保護層31との間に透明樹脂層5を設けてもよい。
【0017】
本発明の加飾シートの積層構造として、着色層/透明基材層/絵柄層/第1の保護層/第2の保護層がこの順に積層された積層構造;着色層/透明基材層/絵柄層/透明樹脂層/第1の保護層/第2の保護層がこの順に積層された積層構造などが挙げられる。
図1に、本発明の加飾シートの積層構造の一態様として、着色層/透明基材層/絵柄層/第1の保護層/第2の保護層がこの順に積層された加飾シートの一例の略図的断面図を示す。
図2に、本発明の加飾シートの積層構造の一態様として、着色層/透明基材層/絵柄層/透明樹脂層/第1の保護層/第2の保護層がこの順に積層された加飾シートの一例の略図的断面図を示す。
【0018】
加飾シートを形成する各層の組成
[透明基材層1]
透明基材層1は、加飾シート10に剛性を付与して形状を保持するために設けられる層である。また、透明基材層1は、インサート成形法などによる真空成形(三次元成形)などに適した加飾シートとするために設けられる。
【0019】
透明基材層1は、着色層2が視認される(着色層2が隠蔽層である場合には隠蔽効果が発揮される)程度に透明(本発明において、透明には、半透明も含まれる)である。すなわち、透明基材層1は、通常、透明(無色透明、着色透明、半透明)である。例えば、透明基材層1は、シリカなどの艶消し剤や着色剤等を含んでいてもよい。着色剤としては、後述の絵柄層4で例示した着色剤を使用することができる。また、透明基材層1には、色彩を整えるための塗装、デザイン性を付与するための模様の形成などがなされていてもよい。
【0020】
透明基材層1は、加飾シート10を三次元成形に適したものとする観点などから、透明樹脂、紙質基材などにより構成することができる。透明樹脂は、透明な熱可塑性樹脂により形成されていることが好ましい。透明な熱可塑性樹脂としては、特に制限されないが、透明なアクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂(以下「ABS樹脂」と表記することもある)、アクリル樹脂;ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィン系樹脂;ポリカーボネート樹脂;塩化ビニル系樹脂;ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン樹脂;アクリロニトリル-スチレン-アクリル酸エステル樹脂等が挙げられる。これらの中でも、透明基材層1は、表面平滑性が高いことから、透明なアクリル樹脂により形成されていることが好ましい。透明基材層1を形成している樹脂は、1種類であってもよいし、2種類以上であってもよい。
【0021】
透明基材層1は、隣接する層との密着性を向上させるために、必要に応じて、片面又は両面に酸化法や凹凸化法等の物理的又は化学的表面処理が施されていてもよい。透明基材層1の表面処理として行われる酸化法としては、例えば、コロナ放電処理、プラズマ処理、クロム酸化処理、火炎処理、熱風処理、オゾン紫外線処理法等が挙げられる。また、透明基材層1の表面処理として行われる凹凸化法としては、例えばサンドブラスト法、溶剤処理法等が挙げられる。これらの表面処理は、透明基材層1を構成する樹脂成分の種類に応じて適宜選択されるが、効果及び操作性等の観点から、好ましくはコロナ放電処理法が挙げられる。
【0022】
透明基材層1の厚みは、特に制限されず、加飾シートの用途等に応じて適宜設定されるが、通常50~500μm程度、好ましくは75~200μm程度、さらに好ましくは100~150μm程度が挙げられる。透明基材層1の厚みが上記範囲内であると、加飾シートに対してより一層優れた三次元成形性、意匠性などを備えさせることができる。また、着色層2と絵柄層4との間の距離が適切となり、加飾シートを平面視した際、絵柄層4が浮いたような独特な意匠が表出される。
【0023】
[着色層2]
着色層2は、隠蔽層として透明基材層1の色の変化(例えば、第1の保護層31や第2の保護層32を硬化させる際の電離放射線による黄変など)やバラツキを抑制したり、絵柄層4との組み合わせで所望の意匠を表現したりすることなどを目的として、透明基材層1の絵柄層4側とは反対側に設けられる。本発明の加飾シート10においては、着色層2が透明基材層1の裏面に設けられ、着色層2を介さずに絵柄層4が積層された積層構成を備えていることから、例えば幾何学模様などを絵柄層によって表現する場合などにおいて、透明基材層1の上に、絵柄層4のインキが適切に印刷され、絵柄層4による意匠を好適に発現することができる。さらに、透明基材層1の上に、絵柄層4、第1の保護層31、及び第2の保護層32を順次積層することによって加飾シート10が製造されることから、絵柄層4の模様と、部分的に設けられた第2の保護層32とを精度高く同調させることができ、絵柄層4による意匠を好適に発現することができる。
【0024】
着色層2は、上述の通り、隠蔽層として加飾シート10に隠蔽性を付与したり、絵柄層4との組み合わせで所望の意匠を表現したりすることなどを目的に設けられる層である。
【0025】
着色層2は、通常、バインダー、顔料及び染料などの着色剤、並びに溶剤に、適宜体質顔料、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等の添加剤を配合したインキ組成物を用いて形成され、目的に応じて設計される。着色層2は、バインダーと顔料とを含む樹脂組成物により形成されていることが好ましい。
【0026】
バインダーは、後述の絵柄層4に使用されるものから適宜選択される。例えば隠蔽層としての機能を付与する場合であれば、隠蔽性の高い酸化チタン等の顔料を用いた不透明の層を透明基材層1の一方側の表面の全面に設けられる。また、意匠の表現を目的とする場合であれば、所望の色を有する顔料を用いた着色透明または着色不透明の層を、透明基材層1の一方側の表面の全面に単色で、または絵柄を表現するように形成すればよい。着色層2を、絵柄を表現するように形成する場合、透明基材層1の反対側に設けられる絵柄層4及び第2の保護層32と同調するように印刷するのは製造上困難であることが想定されるため、通常同調しない。
【0027】
着色層2の厚みは、付与する機能に応じて選択されるが、通常1~20μm程度である。
【0028】
着色層2は上述の通り、隠蔽層として加飾シート10に隠蔽性を付与したり、絵柄層4との組み合わせで所望の意匠を表現したりすることなどを目的に設けられる層である。通常、バインダー、顔料及び染料などの着色剤、並びに溶剤に、適宜体質顔料、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤等の添加剤を配合したインキ組成物を用いて形成され、目的に応じて設計される。バインダーは後述の絵柄層4に使用されるものから適宜選択される。例えば隠蔽層としての機能を付与する場合であれば、隠蔽性の高い酸化チタン等の顔料を用いた不透明の層を透明基材層1の一方側の表面の全面に設けられる。また、意匠の表現を目的とする場合であれば、所望の色を有する顔料を用いた着色透明または着色不透明の層を、透明基材層1の一方側の表面の全面に単色で、または絵柄を表現するように形成すればよい。着色層2を、絵柄を表現するように形成する場合、透明基材層1の反対側に設けられる絵柄層4及び第2の保護層32と同調するように印刷するのは製造上困難であることが想定されるため、通常同調しない。着色層の厚みは付与する機能に応じて選択されるが、通常1~20μm程度である。
【0029】
[絵柄層4]
絵柄層4は、透明基材層1の着色層2側とは反対側に設けられ、加飾シートに装飾性を与える層である。より具体的には、本発明の加飾シートにおいては、透明基材層1と絵柄層4との間には、着色層を設けない。また、透明基材層1と絵柄層4とは接面していることが好ましい。
【0030】
絵柄層4は、例えば、種々の模様をインキと印刷機を使用して印刷することにより形成される。絵柄層4によって形成される模様は、特に制限されず、例えば、幾何学模様、木目模様、大理石模様(例えばトラバーチン大理石模様)等の岩石の表面を模した石目模様、布目や布状の模様を模した布地模様、タイル貼模様、煉瓦積模様など挙げられ、これらを複合した寄木、パッチワーク等の模様も挙げられる。これらの模様は、通常の黄色、赤色、青色、及び黒色のプロセスカラーによる多色印刷によって形成される他、模様を構成する個々の色の版を用意して行う特色による多色印刷等によっても形成される。前述の通り、これらの模様の中でも、特に、幾何学模様のように、絵柄が明確かつ精緻な意匠を絵柄層によって表現する場合などにおいて、他の着色層の上に絵柄層を印刷すると、印刷によって形成された着色層の微細な凹凸の影響を受け、絵柄層を形成するインキが適切に印刷されにくいが、本発明の加飾シート10においては、絵柄層4が着色層2を介さずに透明基材層1の上に積層されているため、他の着色層の微細な凹凸の影響を受けず、絵柄層による意匠を好適に発現することができる。したがって、本発明の加飾シートにおいては、絵柄層4によって形成される模様として、幾何学模様などが特に好適である。
【0031】
なお、絵柄層4は、透明基材層1の上に部分的に設けられていてもよいし、全面に設けられていてもよい。後述の通り、絵柄層4が部分的に設けられている場合において、例えば第1の保護層31が、絵柄層4が設けられていない部分から透明基材層1に接触するような場合には、耐薬品性が低下し易くなる。よって、絵柄層4が部分的に設けられている場合には、絵柄層4と第1の保護層31との間に透明樹脂層5を設けることが好ましい。
【0032】
絵柄層4に用いる絵柄インキとしては、バインダーに顔料、染料などの着色剤、体質顔料、溶剤、安定剤、可塑剤、触媒、硬化剤などを適宜混合したものが使用される。該バインダーとしては、特に制限されず、例えば、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体とアクリル系共重合体との混合樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、酢酸セルロース系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0033】
着色剤としては、特に制限されず、例えば、カーボンブラック(墨)、鉄黒、チタン白、アンチモン白、黄鉛、チタン黄、弁柄、カドミウム赤、群青、コバルトブルー等の無機顔料、キナクリドンレッド、イソインドリノンイエロー、フタロシアニンブルー等の有機顔料又は染料、アルミニウム、真鍮等の鱗片状箔片からなる金属顔料、二酸化チタン被覆雲母、塩基性炭酸鉛等の鱗片状箔片からなる真珠光沢(パール)顔料などが挙げられる。
【0034】
絵柄層4の厚みは、特に制限されないが、例えば1~30μm程度、好ましくは1~20μm程度が挙げられる。
【0035】
[第1の保護層31]
第1の保護層31は、加飾シートの耐傷付き性、耐候性などを高め、さらに後述の第2の保護層32と共に加飾シートに高い質感を付与するために設けられる層である。第1の保護層31は、電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物により形成されていることが好ましい。第1の保護層31の形成に使用される電離放射線硬化性樹脂とは、電離放射線を照射することにより、架橋、硬化する樹脂であり、具体的には、分子中に重合性不飽和結合又はエポキシ基を有する、プレポリマー、オリゴマー、及びモノマーなどのうち少なくとも1種を適宜混合したものが挙げられる。ここで電離放射線とは、電磁波又は荷電粒子線のうち、分子を重合あるいは架橋しうるエネルギー量子を有するものを意味し、通常紫外線(UV)又は電子線(EB)が用いられるが、その他、X線、γ線等の電磁波、α線、イオン線等の荷電粒子線も含むものである。電離放射線硬化性樹脂の中でも、電子線硬化性樹脂は、無溶剤化が可能であり、光重合用開始剤を必要とせず、安定な硬化特性が得られるため、第1の保護層31の形成において好適に使用される。
【0036】
<電離放射線硬化性樹脂>
電離放射線硬化性樹脂として使用される上記モノマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレートモノマーが好適であり、中でも多官能(メタ)アクリレートモノマーが好ましい。多官能(メタ)アクリレートモノマーとしては、分子内に重合性不飽和結合を2個以上(2官能以上)、好ましくは3個以上(3官能以上)有する(メタ)アクリレートモノマーであればよい。多官能(メタ)アクリレートとして、具体的には、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジシクロペンテニルジ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性リン酸ジ(メタ)アクリレート、アリル化シクロヘキシルジ(メタ)アクリレート、イソシアヌレートジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、プロピレンオキシド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリス(アクリロキシエチル)イソシアヌレート、プロピオン酸変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、エチレンオキシド変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等が挙げられる。これらのモノマーは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0037】
また、電離放射線硬化性樹脂として使用される上記オリゴマーとしては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つ(メタ)アクリレートオリゴマーが好適であり、中でも分子内に重合性不飽和結合を2個以上(2官能以上)有する多官能(メタ)アクリレートオリゴマーが好ましい。多官能(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、例えば、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、アクリルシリコーン(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、ポリブタジエン(メタ)アクリレート、シリコーン(メタ)アクリレート、分子中にカチオン重合性官能基を有するオリゴマー(例えば、ノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノール型エポキシ樹脂、脂肪族ビニルエーテル、芳香族ビニルエーテル等)等が挙げられる。ここで、ポリカーボネート(メタ)アクリレートは、ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、かつ末端または側鎖に(メタ)アクリレート基を有するものであれば特に制限されず、例えば、ポリカーボネートポリオールを(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリカーボネート(メタ)アクリレートは、例えば、ポリカーボネート骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートなどであってもよい。ポリカーボネート骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリカーボネートポリオールと、多価イソシアネート化合物と、ヒドロキシ(メタ)アクリレートとを反応させることにより得られる。アクリルシリコーン(メタ)アクリレートは、シリコーンマクロモノマーを(メタ)アクリレートモノマーとラジカル共重合させることにより得ることができる。ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネート化合物の反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。エポキシ(メタ)アクリレートは、例えば、比較的低分子量のビスフェノール型エポキシ樹脂やノボラック型エポキシ樹脂のオキシラン環に、(メタ)アクリル酸を反応しエステル化することにより得ることができる。また、このエポキシ(メタ)アクリレートを部分的に二塩基性カルボン酸無水物で変性したカルボキシル変性型のエポキシ(メタ)アクリレートも用いることができる。ポリエステル(メタ)アクリレートは、例えば多価カルボン酸と多価アルコールの縮合によって得られる両末端に水酸基を有するポリエステルオリゴマーの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより、或いは多価カルボン酸にアルキレンオキシドを付加して得られるオリゴマーの末端の水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリエーテル(メタ)アクリレートは、ポリエーテルポリオールの水酸基を(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。ポリブタジエン(メタ)アクリレートは、ポリブタジエンオリゴマーの側鎖に(メタ)アクリル酸を付加することにより得ることができる。シリコーン(メタ)アクリレートは、主鎖にポリシロキサン結合をもつシリコーンの末端又は側鎖に(メタ)アクリル酸を付加することにより得ることができる。これらの中でも、多官能(メタ)アクリレートオリゴマーとしては、ポリカーボネート(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレートなどが特に好ましい。これらのオリゴマーは、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0038】
加飾樹脂成形品の製造に用いられる場合など、加飾シートに三次元成形性が要求される場合は、上記した電離放射線硬化性樹脂の中でも、優れた三次元成形性を得る観点からは、多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレートを用いることが好ましい。本発明の加飾シートにおいて、第1の保護層がポリカーボネート(メタ)アクリレートを含む電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物により形成されることで、後述の第2の保護層が熱硬化性樹脂組成物の硬化物であっても優れた三次元成形性を得ることができる。また、三次元成形性と耐傷付き性を両立する観点からは、多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートを組み合わせて使用することがより好ましい。また、電離放射線硬化性樹脂として多官能(メタ)アクリレートモノマーを用いる場合、優れた三次元成形性を得る観点からは、アクリル樹脂などの熱可塑性樹脂と組み合わせて使用することが好ましく、三次元成形性と耐傷付き性を両立する観点からは、電離放射線硬化性樹脂組成物中の多官能(メタ)アクリレートモノマーと熱可塑性樹脂との質量比を25:75~75:25とすることがより好ましい。以下、多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレート及び多官能(メタ)アクリレートについて、詳述する。
【0039】
<多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレート>
多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレートは、ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、かつ末端あるいは側鎖に(メタ)アクリレートを2個以上有するものであれば、特に制限されない。また、当該(メタ)アクリレートは、架橋、硬化を良好にするという観点から、1分子当たりの官能基の数として、好ましくは2~6個が挙げられる。多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレートは、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0040】
多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレートは、例えば、ポリカーボネートポリオールの水酸基の一部又は全てを(メタ)アクリレート(アクリル酸エステル又はメタクリル酸エステル)に変換して得られる。このエステル化反応は、通常のエステル化反応によって行うことができる。例えば、1)ポリカーボネートポリオールとアクリル酸ハライド又はメタクリル酸ハライドとを、塩基存在下に縮合させる方法、2)ポリカーボネートポリオールとアクリル酸無水物又はメタクリル酸無水物とを、触媒存在下に縮合させる方法、或いは3)ポリカーボネートポリオールとアクリル酸又はメタクリル酸とを、酸触媒存在下に縮合させる方法等が挙げられる。
【0041】
ポリカーボネートポリオールは、ポリマー主鎖にカーボネート結合を有し、末端又は側鎖に2個以上、好ましくは2~50個、更に好ましくは3~50個の水酸基を有する重合体である。当該ポリカーボネートポリオールの代表的な製造方法は、ジオール化合物(A)、3価以上の多価アルコール(B)、及びカルボニル成分となる化合物(C)とから重縮合反応による方法が挙げられる。
【0042】
ポリカーボネートポリオールの原料として用いられるジオール化合物(A)は、一般式HO-R1-OHで表される。ここで、R1は、炭素数2~20の2価炭化水素基であって、基中にエーテル結合を含んでいてもよい。R1は、例えば、直鎖、又は分岐状のアルキレン基、シクロヘキシレン基、フェニレン基である。
【0043】
ジオール化合物の具体例としては、エチレングリコール、1,2-プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、3-メチル-1,5ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,3-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、1,4-ビス(2-ヒドロキシエトキシ)ベンゼン、ネオペンチルグリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。これらのジオールは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0044】
また、ポリカーボネートポリオールの原料として用いられる3価以上の多価アルコール(B)の例としては、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、グリセリン、ソルビトール等のアルコール類が挙げられる。また、当該3価以上の多価アルコールは、前記多価アルコールの水酸基に対して、1~5当量のエチレンオキシド、プロピレンオキシド、あるいはその他のアルキレンオキシドを付加させた水酸基を有するアルコール類であってもよい。これらの多価アルコールは、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0045】
ポリカーボネートポリオールの原料として用いられるカルボニル成分となる化合物(C)は、炭酸ジエステル、ホスゲン、又はこれらの等価体の中から選ばれるいずれかの化合物である。当該化合物として、具体的には、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル、炭酸ジイソプロピル、炭酸ジフェニル、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等の炭酸ジエステル類;ホスゲン;クロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、クロロギ酸フェニル等のハロゲン化ギ酸エステル類等が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で使用してもよく、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0046】
ポリカーボネートポリオールは、前記ジオール化合物(A)、3価以上の多価アルコール(B)、及びカルボニル成分となる化合物(C)とを、一般的な条件下で重縮合反応することにより合成される。ジオール化合物(A)と多価アルコール(B)との仕込みモル比は、例えば、50:50~99:1の範囲に設定すればよい。また、ジオール化合物(A)と多価アルコール(B)とに対する、カルボニル成分となる化合物(C)の仕込みモル比は、例えば、ジオール化合物及び多価アルコールの持つ水酸基に対して0.2~2当量の範囲に設定すればよい。
【0047】
前記の仕込み割合で重縮合反応した後のポリカーボネートポリオール中に存在する水酸基の当量数(eq./mol)としては、例えば、1分子中に平均して3以上、好ましくは3~50、更に好ましくは3~20が挙げられる。このような等量数を充足すると、後述するエステル化反応によって必要な量の(メタ)アクリレート基が形成され、また多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレート樹脂に適度な可撓性が付与される。なお、このポリカーボネートポリオールの末端官能基は、通常はOH基であるが、その一部がカーボネート基であってもよい。
【0048】
以上説明したポリカーボネートポリオールの製造方法は、例えば、特開昭64-1726号公報に記載されている。また、このポリカーボネートポリオールは、特開平3-181517号公報に記載されているように、ポリカーボネートジオールと3価以上の多価アルコールとのエステル交換反応によっても製造することができる。
【0049】
多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレートの分子量については、特に制限されないが、例えば、重量平均分子量が5千以上、好ましくは1万以上が挙げられる。多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレートの重量平均分子量の上限は、特に制限されないが、粘度が高くなり過ぎないように制御するという観点から、例えば、10万以下、好ましくは5万以下が挙げられる。多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレートの重量平均分子量として、好ましくは1万~5万、更に好ましくは1万~2万が挙げられる。
【0050】
なお、本明細書における多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した値である。
【0051】
第1の保護層31の形成に使用される電離放射線硬化性樹脂組成物における多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレートの含有量としては、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されないが、射出成形時などにおける熱と圧力によっても、第1の保護層31と後述の第2の保護層32によって形成された凹凸形状を保持し、加飾シートに表出されていた高い質感の劣化をより効果的に抑制する観点からは、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、さらに好ましくは85質量%以上が挙げられる。
【0052】
<多官能(メタ)アクリレート>
多官能(メタ)アクリレートとしては、特に制限されないが、多官能ウレタン(メタ)アクリレートが好ましい。多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、ポリマー主鎖にウレタン結合を有し、かつ末端あるいは側鎖に(メタ)アクリレートを2個以上有するものであれば、特に制限されない。このような多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、例えば、ポリエーテルポリオールやポリエステルポリオールとポリイソシアネートの反応によって得られるポリウレタンオリゴマーを、(メタ)アクリル酸でエステル化することにより得ることができる。また、多官能ウレタン(メタ)アクリレートは、架橋、硬化を良好にするという観点から、1分子当たりの官能基の数として、好ましくは2~12個が挙げられる。また、多官能(メタ)アクリレートは、シリコーン変性されたものであってもよい。多官能(メタ)アクリレートは、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0053】
多官能(メタ)アクリレートの分子量については、特に制限されないが、例えば、重量平均分子量が2千以上、好ましくは5千以上が挙げられる。多官能(メタ)アクリレートの重量平均分子量の上限は、特に制限されないが、粘度が高くなり過ぎないように制御するという観点から、例えば、3万以下、好ましくは1万以下が挙げられる。
【0054】
なお、本明細書における多官能(メタ)アクリレートの重量平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー法により、ポリスチレンを標準物質として測定した値である。
【0055】
第1の保護層31の形成に使用される電離放射線硬化性樹脂組成物における、多官能(メタ)アクリレートの含有量としては、本発明の効果を奏することを限度として、特に制限されないが、射出成形時などにおける熱と圧力によっても、第1の保護層31と後述の第2の保護層32によって形成された凹凸形状を保持し、加飾シートに表出されていた高い質感の劣化をより効果的に抑制する観点からは、好ましくは50質量%以下、より好ましくは20質量%以下、さらに好ましくは15質量%以下が挙げられる。
【0056】
第1の保護層31の形成に使用される電離放射線硬化性樹脂組成物において、多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレートと多官能(メタ)アクリレートとを併用する場合、これらの質量比(多官能ポリカーボネート(メタ)アクリレート:多官能(メタ)アクリレートとしては、好ましくは50:50~99:1程度、より好ましくは80:20~99:1程度、さらに好ましくは85:15~99:1程度が挙げられる。
【0057】
第1の保護層31は、艶消し剤を含んでいてもよい。これらの添加剤は、保護層3の艶を低下させたり、耐傷付き性をより向上させるために使用される。
【0058】
艶消し剤としては、例えば、無機粒子及び樹脂粒子が挙げられる。なお、第1の保護層31において、無機粒子及び樹脂粒子は、主に、第1の保護層31の艶を低下させる機能を有し、艶を低下させる機能は、一般には無機粒子の方が樹脂粒子よりも大きい傾向がある。第1の保護層31に無機粒子または樹脂粒子が含まれる場合、これらの粒子は、第1の保護層31中に分散されている。
【0059】
無機粒子としては、無機化合物により形成された粒子であれば、特に制限されず、例えば、シリカ粒子、炭酸カルシウム粒子、硫酸バリウム粒子、アルミナ粒子、ガラスバルーン粒子が挙げられ、これらの中でも好ましくはシリカ粒子が挙げられる。無機粒子は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。無機粒子の粒子径としては、例えば0.5~20μm程度、好ましくは1~10μm程度が挙げられる。
【0060】
第1の保護層31が無機粒子を含む場合、無機粒子の含有量としては、特に制限されないが、第1の保護層31に含まれる樹脂1100質量部に対して、好ましくは1~60質量部程度、より好ましくは10~40質量部程度が挙げられる。無機粒子は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0061】
また、樹脂粒子としては、樹脂により形成された粒子であれば、特に制限されず、例えば、ウレタンビーズ、ナイロンビーズ、アクリルビーズ、シリコーンビーズ、スチレンビーズ、メラミンビーズ、ウレタンアクリルビーズ、ポリエステルビーズ、ポリエチレンビーズなどが挙げられる。加飾シートの耐傷付き性をより向上させる観点からは、好ましくはウレタンビーズが挙げられる。樹脂粒子は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。樹脂粒子の粒子径としては、例えば0.5~30μm程度、好ましくは1~20μm程度が挙げられる。
【0062】
第1の保護層31が樹脂粒子を含む場合、樹脂粒子の含有量としては、特に制限されないが、第1の保護層31に含まれる樹脂100質量部に対して、好ましくは1~200質量部程度、より好ましくは10~150質量部程度が挙げられる。
【0063】
なお、本発明において、粒子の粒子径は、島津レーザ回折式粒度分布測定装置SALD-2100を使用し、圧縮空気を利用してノズルから測定対象となる粉体を噴射し、空気中に分散させて測定する、噴射型乾式測定方式により測定される値である。
【0064】
なお、第1の保護層31において、無機粒子及び樹脂粒子の少なくとも一方が含まれる場合、第1の保護層31の表面からこれらの粒子の一部が突出していてもよいし、第1の保護層31の内部に粒子が埋没していてもよい。
【0065】
第1の保護層31中には、第1の保護層31に備えさせる所望の物性に応じて、各種添加剤を配合することができる。この添加剤としては、例えば紫外線吸収剤や光安定剤等の耐候性改善剤、耐摩耗性向上剤、重合禁止剤、架橋剤、赤外線吸収剤、帯電防止剤、接着性向上剤、レベリング剤、チクソ性付与剤、カップリング剤、可塑剤、消泡剤、充填剤、溶剤、着色剤等が挙げられる。これらの添加剤は、常用されるものから適宜選択して用いることができる。また、紫外線吸収剤や光安定剤として、分子内に(メタ)アクリロイル基等の重合性基を有する反応性の紫外線吸収剤や光安定剤を用いることもできる。
【0066】
第1の保護層31の硬化後の厚みについては、特に制限されないが、例えば、0.1~20μm程度、好ましくは0.5~10μm程度、さらに好ましくは1~5μm程度が挙げられる。このような範囲の厚みを満たすと、耐傷付き性等の第1の保護層としての十分な物性が得られる。また、第1の保護層31を形成する電離放射線硬化性樹脂組成物に対して電離放射線を均一に照射することが可能であるため、均一に硬化することが可能となり、経済的にも有利になる。なお、第1の保護層31が上述の無機粒子及び樹脂粒子の少なくとも一方を含む場合、第1の保護層31の厚みとは、無機粒子または樹脂粒子が第1の保護層31の表面に位置していない部分の厚みをいう。
【0067】
第1の保護層31の形成は、例えば、上記の電離放射線硬化性樹脂組成物を調製し、これを塗布し、架橋硬化することにより行われる。なお、電離放射線硬化性樹脂組成物の粘度は、後述の塗布方式により、第1の保護層31に隣接する層上に未硬化樹脂層を形成し得る粘度であればよい。本発明においては、調製された塗布液を、前記厚みとなるように、第1の保護層31に隣接する層上に、グラビアコート、バーコート、ロールコート、リバースロールコート、コンマコート等の公知の方式、好ましくはグラビアコートにより塗布し、未硬化樹脂層を形成させる。このようにして形成された未硬化樹脂層に、電子線、紫外線等の電離放射線を照射して該未硬化樹脂層を硬化させて第1の保護層31を形成する。ここで、電離放射線として電子線を用いる場合、その加速電圧については、用いる樹脂や層の厚みに応じて適宜選定し得るが、通常加速電圧70~300kV程度が挙げられる。
【0068】
なお、電子線の照射において、加速電圧が高いほど透過能力が増加するため、第1の保護層31の下に電子線照射によって劣化しやすい樹脂を使用する場合には、電子線の透過深さと第1の保護層31の厚みが実質的に等しくなるように、加速電圧を選定する。これにより、第1の保護層31の下に位置する層への余分の電子線の照射を抑制することができ、過剰電子線による各層の劣化を最小限にとどめることができる。また、照射線量は、第1の保護層31の架橋密度が飽和する量が好ましく、通常5~300kGy(0.5~30Mrad)、好ましくは10~50kGy(1~5Mrad)の範囲で選定される。さらに、電子線源としては、特に制限はなく、例えばコックロフトワルトン型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型等の各種電子線加速器を用いることができる。電離放射線として紫外線を用いる場合には、波長190~380nmの紫外線を含む光線を放射すればよい。紫外線源としては、特に制限されないが、例えば、高圧水銀燈、低圧水銀燈、メタルハライドランプ、カーボンアーク燈等が挙げられる。
【0069】
[第2の保護層32]
第2の保護層32は、本発明の加飾シートにおいて、第1の保護層31の一部の上に設けられており、これにより形成された凹凸形状によって、加飾シートに高い質感が付与される。また、第2の保護層32と第1の保護層31との間に艶差を設けることよって、加飾シートに高い質感を付与することができる。例えば、第2の保護層32を高艶状態(グロス)とし、第1の保護層31を低艶状態(マット)とし、両層間、ひいては第2の保護層32の形成部と非形成部との間に艶差を発現させることにより、加飾シートに高い質感を付与することができる。
【0070】
また、本発明においては、第2の保護層32は、絵柄層4に同調するように部分的に設けられてもよい。より具体的には、第1の保護層31の表面上の第2の保護層32が設けられた部分3aと設けられていない部分3bとによって形成された凹部形状と、後述の絵柄層4によって形成される模様とを同調させることにより、加飾シートに優れた意匠感を付与することができる。前記の通り、本発明の加飾シート10においては、透明基材層1の上に、絵柄層4、第1の保護層31、及び第2の保護層32を順次積層することによって加飾シートが製造されることから、絵柄層4の模様と、部分的に設けられた第2の保護層32とを精度高く同調させることができ、絵柄層による意匠を好適に発現することができる。さらに、本発明において、第1の保護層31を上記の電離放射線硬化性樹脂組成物の硬化物により形成することにより、第1の保護層31と第2の保護層32によって加飾シートに表出されていた優れた意匠感が加飾樹脂成形品の成形時に劣化することを効果的に抑制することができる。
【0071】
第2の保護層32を構成する樹脂としては、特に制限されず、前述の電離放射線樹脂、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂などが挙げられる。これらの中でも、第2の保護層32は、電離放射線樹脂組成物の硬化物により形成されていることが好ましい。電離放射線硬化性樹脂については、第1の保護層31で例示したものと同じものが例示される。
【0072】
第2の保護層32は、添加剤として艶消し剤やワックスを含んでいてもよい。これらの添加剤は、第2の保護層32の艶を低下させたり、耐傷付き性をより向上させるために使用される。艶消し剤としては、特に制限されず、例えば、無機粒子、樹脂粒子などが挙げられる。無機粒子及び樹脂粒子としては、それぞれ、第1の保護層31で例示した無機粒子及び樹脂粒子と同じものが例示できる。なお、第2の保護層32において、無機粒子及び樹脂粒子は、主に、第2の保護層32の艶を低下させる機能を発揮する。上述の通り、第1の保護層31と第2の保護層32とに艶差を設けることによって、加飾シートに高い質感を付与することができる。第2の保護層32に無機粒子及び樹脂粒子が含まれる場合、これらの粒子は、第2の保護層32に分散されている。
【0073】
第2の保護層32に含まれる無機粒子の粒子径としては、特に制限されないが、好ましくは0.5~15μm程度、より好ましくは1~10μm程度が挙げられる。また、樹脂粒子の粒子径としては、特に制限されないが、好ましくは0.1~20μm程度、より好ましくは0.5~15μm程度が挙げられる。
【0074】
第2の保護層32が無機粒子を含む場合、第2の保護層32に含まれる無機粒子の含有量としては、特に制限されず、第2の保護層32に含まれる上記の樹脂100質量部に対して、好ましくは1~50質量部程度、より好ましくは5~30質量部程度が挙げられる。また、樹脂粒子の含有量としては、特に制限されず、第2の保護層32に含まれる上記の樹脂100質量部に対して、好ましくは1~200質量部程度、より好ましくは10~150質量部程度が挙げられる。
【0075】
なお、第2の保護層32において、無機粒子及び樹脂粒子の少なくとも一方が含まれる場合、第2の保護層32の表面からこれらの粒子の一部が突出していてもよいし、第2の保護層32の内部に粒子が埋没していてもよい。
【0076】
第1の保護層31の表面に占める第2の保護層32が形成されている部分の面積の合計割合としては、特に制限されないが、好ましくは5~95%、より好ましくは10~95%、さらに20~95%の範囲が挙げられる。
【0077】
第2の保護層32の厚みは、特に制限されないが、加飾シートに優れた意匠感を付与する観点からは、好ましくは0.1~20μm程度、より好ましくは0.5~10μm程度、さらに好ましくは1~5μm程度が挙げられる。なお、第2の保護層32が上述の無機粒子及び樹脂粒子の少なくとも一方を含む場合、第2の保護層32の厚みとは、無機粒子または樹脂粒子が第2の保護層32の表面に位置していない部分の厚みをいう。
【0078】
第2の保護層32は、上記の第1の保護層31と同様の方法により形成することができる。本発明において、第2の保護層32の形成は、未硬化の第1の保護層31の上に電離放射線硬化性樹脂組成物を塗布し、電離放射線を照射することにより行うことができる。
【0079】
[透明樹脂層5]
透明樹脂層5は、加飾シートの耐薬品性を向上させることなどを目的として、絵柄層4と第1の保護層31との間に、必要に応じて含まれる層である。透明樹脂層5は、インキを塗布することにより形成することができる。例えば、絵柄層4が部分的に設けられている場合において、例えば第1の保護層31が、絵柄層4が設けられていない部分から透明基材層1に接触するような場合には、耐薬品性が低下し易くなる。よって、絵柄層4が部分的に設けられている場合には、絵柄層4と第1の保護層31との間に透明樹脂層5を設けることが好ましい。さらに、第1の保護層31がシリカなどのフィラーを含んでいる場合には、透明基材層1と第1の保護層31との間で耐薬品性が十分でない場合があるため、このような場合には、絵柄層4と第1の保護層31との間に透明樹脂層5を設けることが特に好ましい。
【0080】
透明樹脂層5を形成するインキとしては、公知のものが使用でき、例えば、メラミン樹脂、ポリウレタン系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル系共重合体とアクリル系共重合体との混合樹脂、塩素化ポリプロピレン系樹脂、アクリル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、ブチラール系樹脂、ポリスチレン系樹脂、ニトロセルロース系樹脂、酢酸セルロース系樹脂などが挙げられる。これらの樹脂は、1種類単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0081】
透明樹脂層5の厚みについては、特に制限されないが、例えば0.1~10μm程度、好ましくは1~10μm程度が挙げられる。透明樹脂層5がこのような厚みを充足することにより、加飾シート10の耐薬品性を向上することができる。
【0082】
透明樹脂層5は、透明樹脂層5を形成するインキを用いて、グラビアコート、グラビアリバースコート、グラビアオフセットコート、スピンナーコート、ロールコート、リバースロールコート、キスコート、ホイラーコート、ディップコート、シルクスクリーンによるベタコート、ワイヤーバーコート、フローコート、コンマコート、かけ流しコート、刷毛塗り、スプレーコート等の通常の塗布方法により形成される。
【0083】
2.加飾シートの製造方法
前述した本発明の加飾シート10は、透明基材層1の一方面に着色層2を積層する工程と、透明基材層1の着色層2側とは反対側に、少なくとも、絵柄層4、第1の保護層31、及び第2の保護層32とをこの順に積層する工程とを備え、第2の保護層32を第1の保護層31の上に部分的に積層することによって、製造することができる。
【0084】
加飾シートに、前述の透明樹脂層5などの他の層を積層する場合には、工程2などにおいて、これらの層を積層すればよい。また、各層の形成に使用される成分、厚み、各層の形成方法の具体的条件等については、前記各層の組成の欄で述べた通りである。
【0085】
3.加飾樹脂成形品
本発明の加飾樹脂成形品20は、本発明の加飾シートに成形樹脂を一体化させることにより成形されてなるものである。即ち、本発明の加飾樹脂成形品20は、
図3,4の模式図に示されるように、少なくとも、成形樹脂層6と、透明基材層1と、第1の保護層31と、第2の保護層32とをこの順に備える積層体からなり、第2の保護層32が部分的に積層されていることを特徴とする。本発明の加飾樹脂成形品20では、必要に応じて、前述の透明樹脂層5などの少なくとも1層がさらに設けられていてもよい(
図4を参照)。
【0086】
本発明の加飾樹脂成形品は、例えば、本発明の加飾シートを用いて、インサート成形法、射出成形同時加飾法、ブロー成形法、ガスインジェクション成形法等の各種射出成形法により作製される。本発明においては、本発明の加飾シートを各種射出成形法に供して加飾樹脂成形品を作製することによって、加飾シートと成形樹脂層とが優れた密着性を発揮することができる。これらの射出成形法の中でも、好ましくはインサート成形法及び射出成形同時加飾法が挙げられる。
【0087】
インサート成形法では、まず、真空成形工程において、本発明の加飾シートを真空成形型により予め成形品表面形状に真空成形(オフライン予備成形)し、次いで必要に応じて余分な部分をトリミングして成形シートを得る。この成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を型締めし、流動状態の樹脂を型内に射出し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に加飾シートを一体化させることにより、加飾樹脂成形品が製造される。
【0088】
より具体的には、下記の工程を含むインサート成形法によって、本発明の加飾樹脂成形品が製造される。
本発明の加飾シートを真空成形型により予め立体形状に成形する真空成形工程、
真空成形された加飾シートの余分な部分をトリミングして成形シートを得るトリミング工程、及び
成形シートを射出成形型に挿入し、射出成形型を閉じ、流動状態の樹脂を射出成形型内に射出して樹脂と成形シートを一体化する一体化工程。
【0089】
インサート成形法における真空成形工程では、加飾シートを加熱して成形してもよい。
この時の加熱温度は、特に限定されず、加飾シートを構成する樹脂の種類や、加飾シートの厚みなどによって適宜選択すればよいが、例えば透明基材層としてABS樹脂フィルムを使用する場合であれば、通常120~200℃程度とすることができる。また、一体化工程において、流動状態の樹脂の温度は、特に限定されないが、通常180~320℃程度とすることができる。
【0090】
また、射出成形同時加飾法では、本発明の加飾シートを射出成形の吸引孔が設けられた真空成形型との兼用雌型に配置し、この雌型で予備成形(インライン予備成形)を行った後、射出成形型を型締めして、流動状態の樹脂を型内に射出充填し、固化させて、射出成形と同時に樹脂成形物の外表面に本発明の加飾シートを一体化させることにより、加飾樹脂成形品が製造される。
【0091】
より具体的には、下記の工程を含む射出成形同時加飾法によって、本発明の加飾樹脂成形品が製造される。
本発明の加飾シートを、所定形状の成形面を有する可動金型の当該成形面に対し、加飾シートの隠蔽層2側が対面するように設置した後、当該加飾シートを加熱、軟化させると共に、可動金型側から真空吸引して、軟化した加飾シートを当該可動金型の成形面に沿って密着させることにより、加飾シートを予備成形する予備成形工程、
成形面に沿って密着された加飾シートを有する可動金型と固定金型とを型締めした後、両金型で形成されるキャビティ内に、流動状態の樹脂を射出、充填して固化させることにより樹脂成形体を形成し、樹脂成形体と加飾シートを積層一体化させる一体化工程、及び
可動金型を固定金型から離間させて、加飾シート全層が積層されてなる樹脂成形体を取り出す取出工程。
【0092】
射出成形同時加飾法の予備成形工程において、加飾シートの加熱温度は、特に限定されず、加飾シートを構成する樹脂の種類や、加飾シートの厚みなどによって適宜選択すればよいが、透明基材層としてポリエステル樹脂フィルムやアクリル樹脂フィルムを使用する場合であれば、通常70~130℃程度とすることができる。また、射出成形工程において、流動状態の樹脂の温度は、特に限定されないが、通常180~320℃程度とすることができる。
【0093】
また、本発明の加飾樹脂成形品は、真空圧着法等の、予め用意された立体的な樹脂成形体(成形樹脂層6)上に、本発明の加飾シートを貼着する加飾方法によっても作製することができる。真空圧着法では、まず、上側に位置する第1真空室及び下側に位置する第2真空室からなる真空圧着機内に、本発明の加飾シート及び樹脂成形体を、加飾シートが第1真空室側、樹脂成形体が第2真空室側となるように、且つ加飾シートの透明基材層1側が樹脂成形体側に向くように真空圧着機内に設置し、2つの真空室を真空状態とする。樹脂成形体は、第2真空室側に備えられた、上下に昇降可能な昇降台上に設置される。次いで、第1の真空室を加圧すると共に、昇降台を用いて成形体を加飾シートに押し当て、2つの真空室間の圧力差を利用して、加飾シートを延伸しながら樹脂成形体の表面に貼着する。最後に2つの真空室を大気圧に開放し、必要に応じて加飾シートの余分な部分をトリミングすることにより、本発明の加飾樹脂成形品を得ることができる。
【0094】
真空圧着法においては、上記の成形体を加飾シートに押し当てる工程の前に、加飾シートを軟化させて成形性を高めるため、加飾シートを加熱する工程を備えることが好ましい。当該工程を備える真空圧着法は、特に真空加熱圧着法と呼ばれることがある。当該工程における加熱温度は、加飾シートを構成する樹脂の種類や、加飾シートの厚みなどによって適宜選択すればよいが、透明基材層としてポリエステル樹脂フィルムやアクリル樹脂フィルムを使用する場合であれば、通常60~200℃程度とすることができる。
【0095】
本発明の加飾樹脂成形品において、成形樹脂層6は、用途に応じた樹脂を選択して形成すればよい。成形樹脂層6を形成する成形樹脂としては、熱可塑性樹脂であってもよく、また熱硬化性樹脂であってもよい。
【0096】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂、ABS樹脂、スチレン樹脂、ポリカーボネート樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル系樹脂等が挙げられ、隠蔽層2との密着性に特に優れることから、これらの中でもABS樹脂が好ましい。これらの熱可塑性樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0097】
また、熱硬化性樹脂としては、例えば、ウレタン樹脂、エポキシ樹脂等が挙げられる。
これらの熱硬化性樹脂は、1種単独で使用してもよく、また2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0098】
本発明の加飾樹脂成形品は、例えば、自動車等の車両の内装材又は外装材;窓枠、扉枠等の建具;壁、床、天井等の建築物の内装材;テレビ受像機、空調機等の家電製品の筐体;容器等として利用することができる。
【実施例】
【0099】
以下に、実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。ただし、本発明は、実施例に限定されない。
【0100】
(加飾シートの作製)
<実施例1>
アクリル樹脂フィルム(厚み125μm)を透明基材層として用いた。透明基材層の一方側の表面に、隠蔽層形成用インキ(塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とアクリル樹脂の混合樹脂(質量比50:50)、酸化チタン系の白色顔料、及び溶剤を含むインキ)を用いて、隠蔽層(厚み1μm)を透明基材層の上の全面に形成した。次に、透明基材層の他方面に、絵柄層形成用インキ(塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とアクリル樹脂の混合樹脂(質量比50:50)、カーボン系の黒色顔料、及び溶剤を含むインキ)を用いて、グラビア印刷により絵柄層(厚み2μm)を形成した。絵柄層は、透明基材層の表面に部分的に形成することによって、幾何学模様(直径1mm、0.5mmピッチのドット柄)の意匠を表現した。次に、絵柄層の上に電離放射線樹脂(ポリカーボネート系ウレタンアクリレート)とシリカ(粒径2μm)樹脂に対して30質量部を含む樹脂組成物を用いて、グラビア印刷により未硬化の第1の保護層(厚み3μm)を全面に形成した。次に、未硬化の第1の保護層の上に、電離放射線樹脂:ペンタエリスリトールトリアクリレート30質量部と非架橋性のアクリル樹脂70質量部とを含む樹脂組成物を用いて、絵柄層の絵柄に同調するように、具体的には絵柄層のドット柄形成部には第2の保護層が形成されず、ドット柄の非形成部のみに第2の保護層が形成されるようにして、第2の保護層(厚み3μm)をパターン状に形成した。次に、得られた積層体の第2の保護層側から電子線を照射(加速電圧165kV、照射線量50kGy(5Mrad))して、第1の保護層及び第2の保護層を硬化させ、隠蔽層/透明基材層/絵柄層/第1の保護層/第2の保護層がこの順に積層された加飾シートを得た。なお、第1の保護層の表面に占める第2の保護層が形成されている部分の面積の合計割合は、約50%であった。
【0101】
<実施例2>
絵柄層の上に、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とアクリル樹脂の混合樹脂(質量比50:50)を含むインキを用いて透明樹脂層(厚み1μm)を積層し、透明樹脂層の上に第1の保護層を積層したこと以外は、実施例1と同様にして、隠蔽層/透明基材層/絵柄層/透明樹脂層/第1の保護層/第2の保護層がこの順に積層された加飾シートを得た。
【0102】
<比較例1>
隠蔽層の上に、絵柄層、第1の保護層、及び第2の保護層を積層したこと以外は、実施例1と同様にして、透明基材層/隠蔽層/絵柄層/第1の保護層/第2の保護層がこの順に積層された加飾シートを得た。
【0103】
<比較例2>
アクリル樹脂フィルム(厚み125μm)を透明基材層として用いた。透明基材層の一方側の表面に、絵柄層形成用のインキ(塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とアクリル樹脂の混合樹脂(質量比50:50)、カーボン系の黒色顔料、及び溶剤を含むインキ)を用いて、グラビア印刷により絵柄層(厚み2μm)を形成した。絵柄層は、透明基材層の表面に部分的に形成することによって、幾何学模様(直径1mm、0.5mmピッチのドット柄)の意匠を表現した。次に、隠蔽層形成用インキ(塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とアクリル樹脂の混合樹脂(質量比50:50)、酸化チタン系の白色顔料、及び溶剤を含むインキ)を用いて、隠蔽層(厚み2μm)を絵柄層の上の全面に形成した。次に、透明基材層の他方側の表面に、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体とアクリル樹脂の混合樹脂(質量比50:50)を含むインキを用いて透明樹脂層(厚み1μm)を形成した。次に、透明樹脂層の上に、電離放射線樹脂(ポリカーボネート系ウレタンアクリレート)とシリカ(粒径2μm)樹脂に対して30質量部を含む樹脂組成物を用いて、グラビア印刷により未硬化の第1の保護層(厚み3μm)を全面に形成した。次に、未硬化の第1の保護層の上に、電離放射線樹脂:ペンタエリスリトールトリアクリレート30質量部と非架橋性のアクリル樹脂70質量部とを含む樹脂組成物を用いて、第2の保護層(厚み3μm)をパターン状に形成した。次に、得られた積層体の第2の保護層側から電子線を照射(加速電圧165kV、照射線量50kGy(5Mrad))して、第1の保護層及び第2の保護層を硬化させ、隠蔽層/絵柄層/透明基材層/第1の保護層/第2の保護層がこの順に積層された加飾シートを得た。なお、第1の保護層の表面に占める第2の保護層が形成されている部分の面積の合計割合は、約50%であった。
【0104】
【0105】
<絵柄層に基づく意匠性>
[絵柄層の印刷適性]
実施例及び比較例で得られた各加飾シートを第2の保護層側から観察して、絵柄層が適切に印刷された意匠を発現しているかについて、以下の評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。
A:ドット柄が明確に表現できている
B:ドット柄の周りに若干の凹凸が形成され、ドットの中に僅かにセル目が見えるため、ドット柄がやや不明確である
C:ドットの中に著しくセル目、スジが見え、色が正しく表現できていないため、ドット柄が不明確である
【0106】
[絵柄層と第2の保護層との同調]
実施例及び比較例で得られた各加飾シートを第2の保護層側から観察して、絵柄層の幾何学模様と、第2の保護層の凹凸形状とが同調した意匠を発現している(具体的には、加飾シートを第2の保護層側から平面視した場合に、第2の保護層の形成部が、相対的に艶が高く、非形成部の艶が低く見える)か否かについて、以下の評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。
A:加飾シートを第2の保護層側から平面視した場合に、ドット柄の形成部が低艶に、ドット柄の非形成部が高艶に感じられ、絵柄と艶が同調して意匠性に優れていた。
C:加飾シートを第2の保護層側から平面視した場合に、ドット柄に対して表面の艶の高低のパターンがずれて形成されており、意匠性に劣っていた。
【0107】
<耐薬品性>
実施例及び比較例で得られた各加飾シートの第2の保護層の表面に、エタノール(99.5%)を浸したガーゼが先に付いた重り(1.5kg荷重)を用いて15往復ラビングし、加飾シートの表面状態を目視で観察して、耐薬品性を以下の評価基準に従って評価した。結果を表2に示す。
A:ラビング前後で意匠に変化が無い。
B:絵柄、第2の保護層がともに無く、第1の保護層のみの箇所のみ印刷層が剥れ、基材が見える。
C:ラビング面全ての印刷層が剥れ、基材層や印刷層の白化、破れが見られる。
【0108】
【符号の説明】
【0109】
1…透明基材層
2…着色層
31…第1の保護層
32…第2の保護層
4…絵柄層
5…透明樹脂層
6…成形樹脂層
10…加飾シート
20…加飾樹脂成形品