(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】インクジェットヘッドの製造方法
(51)【国際特許分類】
B41J 2/16 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
B41J2/16 401
B41J2/16 507
B41J2/16 517
(21)【出願番号】P 2018187702
(22)【出願日】2018-10-02
【審査請求日】2021-06-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】弁理士法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】鮫島 幸一
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-083316(JP,A)
【文献】特開2007-033375(JP,A)
【文献】特開2014-124883(JP,A)
【文献】特開2006-130868(JP,A)
【文献】特開2001-203186(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2010/0165054(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2007-0082788(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板に対し、深掘り反応性イオンエッチング技術によりインク流路を形成する孔部形成工程、
前記インク流路の壁面を熱酸化させて当該壁面にシリコン酸化物層を形成する熱酸化工程、
前記壁面の前記シリコン酸化物層に対して等方性エッチングを行う平滑化工程
、
前記等方性エッチングの後に、前記壁面を被覆する保護膜を形成する被覆工程
を含
み、
前記孔部形成工程では、前記インク流路の少なくとも一部にスキャロップと、10nm以上1μm以下の径かつ当該径の2~5倍の高さを有する柱状の突起とが形成され、
前記等方性エッチングは、前記スキャロップの少なくとも一部が残る範囲で行われ、
前記被覆工程では、前記保護膜の厚みを5nm以上100nm以下とする
ことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項2】
シリコン基板に対し、深掘り反応性イオンエッチング技術によりインク流路を形成する孔部形成工程、
前記インク流路の壁面をなすシリコンに対して等方性エッチングを行う平滑化工程、
前記等方性エッチングの後に、前記壁面を被覆する保護膜を形成する被覆工程
を含
み、
前記孔部形成工程では、前記インク流路の少なくとも一部にスキャロップと、10nm以上1μm以下の径かつ当該径の2~5倍の高さを有する柱状の突起が形成され、
前記等方性エッチングは、前記スキャロップの少なくとも一部が残る範囲で行われ、
前記被覆工程では、前記保護膜の厚みを5nm以上100nm以下とする
ことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項3】
前記等方性エッチングは、ウェットエッチングにより行われることを特徴とする請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項4】
前記等方性エッチングでは、前記壁面を10nm以上の厚さで除去することを特徴とする請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項5】
前記インク流路には、ノズルが含まれることを特徴とする請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項6】
前記ノズルは、前記シリコン基板の一の面から逆テーパー形状で形成されることを特徴とする請求項5記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項7】
前記保護膜は、原子層堆積技術により形成されることを特徴とする請求項
1~6のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【請求項8】
前記インク流路をアルカリ溶液に浸漬させて、当該インク流路における前記保護膜の剥離箇所を腐食させることで、剥離箇所の有無を検出する検査工程を含むことを特徴とする請求項1~7のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェットヘッドの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ノズルからインクを吐出させて画像や被膜などを形成するインクジェット記録装置がある。記録対象の高精度化などに応じてノズルの加工精度の向上も図られている。ノズルが形成される基板としては、主にシリコン基板が用いられている。シリコン基板に対して、主にボッシュプロセスといった反応性イオンエッチング(深掘りRIE)などにより、ノズル孔やインク流路を形成する技術が知られている。
【0003】
このシリコン基板は、インクに対する耐性を得るために保護膜で覆われる。ボッシュプロセスでは、加工面に凹凸(特に、凹状のえぐれであるスキャロップ)が生じることから、CVD装置などにより薄い保護膜を形成しようとしても、基板表面が完全に覆いきれない場合がある。これに対し、加工面の保護膜による被膜が完全になされる範囲に凹凸を制限するように加工を制御する技術が開示されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、被膜が完全に行われる範囲の凹凸であっても、その後の製造工程などにおいて微小な突起部分が折れることで表面の被膜が剥がれ、内部のシリコン基板がむき出しになって耐性が低下する場合があるという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、より安定して基板の耐性を得ることのできるインクジェットヘッドの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
シリコン基板に対し、深掘り反応性イオンエッチング技術によりインク流路を形成する孔部形成工程、
前記インク流路の壁面を熱酸化させて当該壁面にシリコン酸化物層を形成する熱酸化工程、
前記壁面の前記シリコン酸化物層に対して等方性エッチングを行う平滑化工程、
前記等方性エッチングの後に、前記壁面を被覆する保護膜を形成する被覆工程、
を含み、
前記孔部形成工程では、前記インク流路の少なくとも一部にスキャロップと、10nm以上1μm以下の径かつ当該径の2~5倍の高さを有する柱状の突起が形成され、
前記等方性エッチングは、前記スキャロップの少なくとも一部が残る範囲で行われ、
前記被覆工程では、前記保護膜の厚みを5nm以上100nm以下とする
ことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法である。
【0008】
請求項2記載の発明は、
シリコン基板に対し、深掘り反応性イオンエッチング技術によりインク流路を形成する孔部形成工程、
前記インク流路の壁面をなすシリコンに対して等方性エッチングを行う平滑化工程、
前記等方性エッチングの後に、前記壁面を被覆する保護膜を形成する被覆工程、
を含み、
前記孔部形成工程では、前記インク流路の少なくとも一部にスキャロップと、10nm以上1μm以下の径かつ当該径の2~5倍の高さを有する柱状の突起が形成され、
前記等方性エッチングは、前記スキャロップの少なくとも一部が残る範囲で行われ、
前記被覆工程では、前記保護膜の厚みを5nm以上100nm以下とする
ことを特徴とするインクジェットヘッドの製造方法である。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記等方性エッチングは、ウェットエッチングにより行われることを特徴とする。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記等方性エッチングでは、前記壁面を10nm以上の厚さで除去することを特徴とする。
【0011】
請求項5記載の発明は、請求項1~4のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記インク流路には、ノズルが含まれることを特徴とする。
【0012】
請求項6記載の発明は、請求項5記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記ノズルは、前記シリコン基板の一の面から逆テーパー形状で形成されることを特徴とする。
【0014】
請求項7記載の発明は、請求項1~6のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記保護膜は、原子層堆積技術により形成されることを特徴とする。
【0015】
請求項8記載の発明は、請求項1~7のいずれか一項に記載のインクジェットヘッドの製造方法において、
前記インク流路をアルカリ溶液に浸漬させて、当該インク流路における前記保護膜の剥離箇所を腐食させることで、剥離箇所の有無を検出する検査工程を含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明に従うと、より安定してインクジェットヘッドの基板の耐性を得ることができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本実施形態のインクジェットヘッドの外観を示す斜視図である。
【
図3】ヘッドチップのノズル基板の加工手順を示す図である。
【
図4】ヘッドチップのノズル基板の加工手順を示す図である。
【
図5】ヘッドチップのノズル基板の加工手順の変形例1を示す図である。
【
図6】ヘッドチップのノズル基板の加工手順の変形例1を示す図である。
【
図7】ヘッドチップのノズル基板21の加工手順の変形例2を示す図である。
【
図8】ヘッドチップのノズル基板の加工手順の変形例2を示す図である。
【
図9】ヘッドチップのノズル基板21の加工手順の変形例3を示す図である。
【
図10】ヘッドチップのノズル基板の加工手順の変形例3を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
【0022】
図1は、本実施形態のインクジェットヘッド100の外観を示す斜視図である。インクジェットヘッド100は、ヘッドチップ101と、保持部102と、共通インク室103などを備える。
【0023】
図1(b)に示すように、ヘッドチップ101には、底面側(-Z側)をノズル面として、ノズル開口Nが二次元配列されており、当該ノズル開口Nからそれぞれインクが吐出される。なお、図面におけるノズル開口Nの配置は説明のためのものであり、実際のノズル間隔やノズル開口Nの数などを反映したものではない。
保持部102は、ヘッドチップ101の上面(ノズル面側とは反対側。+Z側)に接合されており、また、共通インク室103を支持している。
【0024】
共通インク室103には、ノズル開口Nに供給するインクが貯留される。
図1(a)に示すように、共通インク室103の略中央には、ヘッドチップ101に接続されるフレキシブルプリント基板(FPC111)が貫通する空間が設けられている。共通インク室103には、供給口1031(インレット)を介してインクが供給され、排出口1032(アウトレット)を介してインクが排出される。
【0025】
図2は、ヘッドチップ101の断面の一部を示す図である。
図2(a)では、1つのノズル211を含む
図1(b)の断面線AAにおける断面を示す。
図2(b)は、この断面におけるノズル開口N付近の拡大図である。
【0026】
図2(a)に示すように、ヘッドチップ101は、ノズル基板21と、中間基板22と、アクチュエーター基板23と、保護基板24などを有する。これらのノズル基板21、中間基板22、アクチュエーター基板23及び保護基板24は、順番に積層されている。
【0027】
ノズル基板21は、例えば、Si層のノズル層21a及びノズル支持層21cの間に酸化膜層21b(BOX層)を挟んだSOI基板(Silicon on Insulator)である。
【0028】
ノズル層21aには、インクの液滴を吐出するノズル211が複数形成されている。ノズル層21aのZ方向についての厚さは、例えば、10~40μmである。ここでは、複数のノズル211が、X方向に所定の間隔で配列されている。このノズル211の配列は、Y方向について異なる位置に複数列設けられていてもよい。ノズル211は、逆テーパー形状を有し、ノズル開口Nに近いほど内径が小さい。
【0029】
ノズル支持層21cは、例えば、厚さ50~550μmである。ノズル支持層21cには、インク流路となる貫通孔213が設けられている。酸化膜層21bは、例えば、厚さ0.1~2.0μmのSiO2層である。酸化膜層21bには、ノズル層21aのノズル211とノズル支持層21cの貫通孔213との間を連通させる貫通孔212が設けられている。貫通孔212、213は、平面視でノズル211と同心であり、貫通孔212、213の内径は、ノズル211の内径と同一又は大きい。
【0030】
中間基板22は、例えば、厚さ100~300μmのSi基板からなる。中間基板22には、貫通孔221が設けられている。貫通孔221は、中間基板22をZ方向に貫通し、貫通孔213と接続している。貫通孔221の形状は、単純な円柱状に限られない。貫通孔221の径(断面積)が非一様とされるなどにより圧力損失の大きさ、すなわち、インクの吐出時の運動エネルギーが適宜な大きさに調整されるように構成されていてもよい。中間基板22は、ガラス基板であってもよい。
【0031】
アクチュエーター基板23は、圧力室層23aと、振動層23bを含む。圧力室層23aは、例えば、100~300μm程度のSi基板からなる。圧力室層23aには、インクに圧力変動を付与するための圧力室231を含むインクの流路が設けられている。このインク流路の一端が中間基板22の貫通孔221と接続されている。ここでは、インク流路は、圧力室層23aを上下に貫通して設けられ、中間基板22の上面が下側の壁面となり、振動層23bが上側の壁面となる。
【0032】
振動層23bは、例えば、1~10μm程度の薄い弾性変形可能なSi基板であり、圧力室層23aの上面に接して設けられている。振動層23bには、圧力室層23aのインク流路の他端(貫通孔221と接続される側と反対側の端部)と共通インク室103とを連通させるための貫通孔232が設けられている。
【0033】
振動層23bの上面上(圧力室層23aとは反対側の面上)には、上方から見た平面視で圧力室231の位置に合わせて加圧部31が設けられている。加圧部31は、下部電極311と、圧電体層312と、上部電極313とを有し、これらが順番に積層、固着されている。下部電極311が振動層23bの上面に固定されており、上部電極313と下部電極311との間に印加された電圧差に応じて圧電体層312が伸縮変形することで振動層23bが歪む。上部電極313と下部電極311との間の電圧を周期的に変化させることで振動層23bの歪みパターンを周期的に変化させて、当該歪みに応じて圧力室231の容積を変化させ、圧力室231内部のインクに圧力変化を付与する。
【0034】
下部電極311は、例えば、チタン(Ti)や白金(Pt)等の薄膜状の層である。圧電体層312は、例えば、チタン酸ジルコン酸鉛(PZT)などである。上部電極313は、例えば、クロム(Cr)や金(Au)などの薄膜である。これらは、それぞれ振動層23bの上面に順番に成膜されて形成されてよい。
【0035】
アクチュエーター基板23の上面には、下部電極311及び上部電極313に駆動電圧信号を供給するための信号配線36と、当該信号配線36を駆動部に接続する配線とを接続するための接続部35とが設けられている。ここでは、接続部35は、例えば、駆動ICが設けられたFPC111のアクチュエーター基板23への接続部分である。FPC111は、例えば、共通インク室103の略中央部から上方に引き出されている。FPC111の回路配線とアクチュエーター基板23上の信号配線36とは、接続部35において、例えば、間に挟まれた異方性導電フィルム(ACF)を介して熱圧着されている。あるいは、異方性導電ペースト(ACP)や銀ペーストなどが用いられて接続されていてもよい。信号配線36と振動層23bとの間は、適宜絶縁層(例えば、SiO2膜など)により絶縁されている。ここでは、下部電極311には共通電位(例えば、接地電位)が供給され、上部電極313に対して個別の信号配線により個別の駆動電圧信号が送られる。また、信号配線36は、アクチュエーター基板23とは別個に配線基板上又は内部に設けられて、アクチュエーター基板23の上面に接合されてもよい。
【0036】
保護基板24は、例えば、42アロイにより構成された基板であり、アクチュエーター基板23との接触面側には、加圧部31などを収容する空間が形成されている。また、保護基板24には、上下方向に貫通孔241が形成されている。貫通孔241は、共通インク室103と貫通孔232との間を接続している。
【0037】
すなわち、供給用サブタンク92から供給口1031を経て共通インク室103に供給されたインクは、貫通孔241、232、圧力室231を含むインクの流路、貫通孔221、213をそれぞれ通ってノズル211に送られる。
【0038】
図2(b)に示すように、本実施形態のインクジェットヘッド100のノズル開口Nに係るノズル211及び貫通孔212、213は、Boschプロセスを用いた深掘りRIE(DRIE、深掘り反応性イオンエッチング技術)により形成されることで、若干凹状にえぐれた構造(スキャロップ)が連なった内壁面を有する。このスキャロップは、必ずしも内壁面全体に生じているとは限らず、深掘りRIEの加工条件などに応じて当該内壁面の少なくとも一部にのみ生じている場合がある。また、ここで図示されているスキャロップのサイズ(幅や深さ)は、説明のためのものであり、具体的に適切な値を示すものではない。一方で、この表面には、深掘りRIEにより生じる微小な突起は、後述のように除去されている。内壁面は、インクによる腐食を防ぐための薄膜状の保護膜47により被覆されている。保護膜47は、例えば、ジルコニウム、タンタル、チタン、ハフニウム、ニオブといった不動体膜を形成する金属の酸化膜、又はこれらの金属にシリコンを含んだ酸化膜である。また、金属としては、クロム、ニッケル、アルミニウムなどが含まれてもよく、シリコン酸化膜であってもよい。
【0039】
次に、インクジェットヘッド100の製造工程(製造方法)について説明する。
上述のように、インクジェットヘッド100は、ノズル基板21、中間基板22、アクチュエーター基板23(振動基板)及び保護基板24が積層されたヘッドチップ101及び共通インク室103が保持部102により固定されている。これらの基板は、各々別個に形成されて接合されればよい。
【0040】
これらのうち、ノズル基板21、中間基板22及びアクチュエーター基板23がシリコン基板により形成され得る。ここでは、シリコン基板に形成されるノズル211、貫通孔212、221、232及び圧力室231といったインク流路(ノズルに各々連通する個別インク流路)に設けられる孔部の形成には、それぞれ、深掘りRIEが用いられる。深掘りRIEとしては、一般に、Boschプロセスが用いられ、保護膜(デポ膜)の形成とエッチングが交互に行われて、深さ方向に選択的にエッチング(異方性エッチング)が進められる。
【0041】
これらのインク流路(ノズル211、貫通孔212、221、232及び圧力室231)の表面(内壁面)は、それぞれ、保護膜47により被覆される。保護膜47は、ALD(Atomic Layer Deposition;原子層堆積技術)により形成されることで、略均一な厚さ(通常では、平均膜圧又は基準となる膜厚に対して±10%以下のばらつき)の被膜が得られる。この保護膜の厚さは、例えば、5nm以上100nm以下である。
【0042】
深掘りRIEでは、断面積に比して深さの大きい(アスペクト比の大きい)孔部が形成される一方、孔部の表面(内側面)には、上述のスキャロップ及び微小な突起が生じやすい。スキャロップのサイズがインクの吐出に悪影響を生じさせない程度に一回当たりのエッチングの深さや加工速度が適宜調整される。微小な突起は、主に、nm~μmのオーダーであり、加工速度を上昇させたり、ノズルなどで逆テーパー形状を形成させたりする場合に、より顕著に生じる。
【0043】
これらの突起のうち、径(円柱に近い形状の直径、楕円形状における短径、平板状の形状における短辺など)が10nm~1μmの柱状(高さ方向について直線状に限られず、折れ曲がったりねじれたりするものも含む)であって、高さが加工条件に応じて径の2~5倍程度のものは、インクジェットヘッドの製造工程、例えば、ダイシング、テープなどの粘着剤による引っ張りや洗浄時のマイクロジェットなどの衝撃により折れやすい。上述のように、薄い保護膜がこれら突起の表面に設けられていると、突起が折れることによって保護膜が剥離し、当該部分で内部のシリコンがむき出しになる。インク流路においてこのようにシリコンがむき出しとなる部分が生じると、当該隙間からインクが進入してシリコンと接触してシリコンが腐食され、残った表面の保護膜との間に空洞が生じる。個別インク流路、特に、その先端であるノズル開口Nから100~300μm程度の範囲(すなわち、主にノズル基板21)において、このような状況は、インクの吐出性能に悪影響を及ぼす。
【0044】
本実施形態のインクジェットヘッドの製造工程では、形成されたインク流路の内壁面に対して等方性エッチングを行うことで、表面の突起を一様に除去してから当該内壁面に保護膜を形成する。
【0045】
図3及び
図4は、ヘッドチップ101のノズル基板21の加工手順を示す図である。以下では、スキャロップの図示を省略する。
ノズル基板21は、上述のように、Si層のノズル層21a及びノズル支持層21cの間に酸化膜層21bを挟んだSOI基板(Silicon on Insulator)(シリコン基板)である。なお、ノズル層21aの表面には、当初0.1μm程度の熱酸化膜が設けられていてもよく、この場合には、はじめにこの熱酸化膜がRIEによりエッチングされる。
【0046】
まず、ノズル層21aの表面に、レジスト膜41が設けられる(
図3(a))。深掘りRIEによりBoschプロセスを用いてノズル層21aのシリコンが削られ、レジスト膜41の開口部分に合わせて逆テーパー形状のノズル211(インク流路)が形成される(
図3(b);孔部形成工程)。このとき、ノズル211の内側面には、保護膜42(デポ膜)が形成される。
【0047】
RIEによりノズル211の底面の酸化膜層21b(BOX層)が除去されて貫通孔212が形成される(
図3(c))。それから、酸素プラズマなどを用いたレジスト膜41と保護膜42の除去処理(アッシング)が行われる(
図3(d))。この段階では、ノズル211の内側面に多数の突起が生じている。
【0048】
熱酸化炉を用いてノズル面とノズル211の内壁面のシリコン層を熱酸化し、熱酸化膜43(SiO
2膜、シリコン酸化物層)を形成する(
図3(e);熱酸化工程)。この熱酸化膜は、ここでは、10nm~1μm(例えば1μm程度)とされる。
【0049】
ノズル支持層21cの表面(
図3(e)で形成された熱酸化膜43を含む)を研磨してノズル基板21の厚みを調整した後、当該ノズル支持層21cの表面にレジスト膜44を形成する(
図3(f))。当該レジスト膜44を用いて深掘りRIEによりBoschプロセスを用いてシリコンを削り、貫通孔213(インク流路)を形成する(
図3(g);孔部形成工程)。このとき、貫通孔213の内側面には、保護膜45(デポ膜)が形成される。アッシングによりレジスト膜44及び保護膜45が除去される(
図3(h))。
【0050】
貫通孔213の内壁面を熱酸化して、シリコン層の露出面に熱酸化膜46(SiO
2膜、シリコン酸化物層)を形成する(
図4(a);熱酸化工程)。この場合の熱酸化膜は、上記
図3(e)と略同一の厚さ(10nm~1μm、例えば、1μm)又はそれ以上とされて、突起が熱酸化される。それから熱酸化膜43、46を等方性エッチングにより除去することで、併せて突起が除去されて内壁面が平滑化される(
図4(b);熱酸化膜の平滑化工程)。等方性エッチングにより除去される膜厚も10nm~1μm(10nm以上)となる。このとき、酸化膜層21bのうち貫通孔213に露出する部分が併せて除去されて貫通孔212が拡張される。
【0051】
図4(a)、(b)で用いられる等方性エッチングとしては、例えば、フッ酸を用いたウェットエッチングが用いられる。ここでは、例えば、ノズル基板21を10mm程度の振幅で揺動させながら、フッ酸やバッファードフッ酸に浸漬させる。これにより、シリコン酸化物層が選択的にシリコン層よりもはるかに速くエッチングされるので、シリコン層が余計に削られるのを防ぐ。また、シリコン層の削られる量が想定されやすいので、深掘りRIEにおいて、予めこれを前提にノズル211を形成することができる。これらにより、単なる貫通形状ではなく内径の変化する貫通孔213からノズル211にかけての形状の寸法精度が適切に維持される。また、このとき、エッチングのし過ぎを防ぐために適宜モニタリングするとよい。あるいは、反応性イオンエッチング(ドライエッチング)を等方性エッチングに用いてもよい。
【0052】
熱酸化膜43、46が除去されたインク流路の内壁面を含むノズル基板21の露出面に当該露出面(インク流路の内壁面)を被覆する保護膜47が形成される(
図4(c);被覆工程)。保護膜は、原子層堆積技術(ALD)により行われる。ALDは、専用のALD装置が用いられて行われればよい。
【0053】
形成されたノズル基板21は、同様にインク流路が形成された中間基板22、アクチュエーター基板23などと位置を合わせて接着されればよい。
【0054】
なお、
図3(e)で熱酸化を行わず、
図3(h)でレジスト膜44及び保護膜45が除去されてから、ノズル211及び貫通孔213の内壁面をまとめて熱酸化して等方性エッチングにより突起を除去してもよい。
【0055】
[変形例1]
図5及び
図6は、ヘッドチップ101のノズル基板21の加工手順の変形例1を示す図である。
【0056】
この加工手順では、ノズル211及び貫通孔212の内壁面に熱酸化膜が形成された(
図5(a)~(e))後、当該ノズル211及び貫通孔212の内壁面の熱酸化膜が等方性エッチングにより除去されて、平滑化処理がなされる(
図5(f))。
【0057】
その後、当該内壁面に再度保護膜43aが形成される(
図5(g))。この保護膜43aは、深掘りRIEにおいて用いられるBoschプロセスにおける保護膜(デポ膜)形成のみが行われて得られるものである。
【0058】
ノズル支持層21cの表面を研磨した後、レジスト膜44を形成し(
図5(h))、当該レジスト膜44に基づき深掘りRIEにより貫通孔213を形成する(
図6(a))。アッシングが行われて、レジスト膜44、保護膜45及び保護膜43aが除去される(
図6(b))。
【0059】
ノズル211及び貫通孔213の内側面のシリコン層を熱酸化して、熱酸化膜46(SiO
2膜)を形成する(
図6(c))。その後、熱酸化膜46を等方性エッチングにより除去することで、あわせて突起が除去されて内側面が平滑化される(
図6(d))。このとき、併せて残りの酸化膜層21bのうち、貫通孔213に面していた部分も除去される。最後に、ノズル211、貫通孔212及び貫通孔213の内壁面を含むノズル基板21の露出面に保護膜47が形成されればよい(
図6(e))。
【0060】
なお、
図5(d)~
図5(f)において、熱酸化及び等方性エッチングを行わず、
図6(c)、(d)における熱酸化と等方性エッチングにより突起が除去されてもよい。
【0061】
[変形例2]
図7及び
図8は、ヘッドチップ101のノズル基板21の加工手順の変形例2を示す図である。
【0062】
この加工手順では、深掘りRIEによりノズル211が形成された後(
図7(a)、
図7(b);孔部形成工程前半)、保護膜42の除去を行い、さらに、深掘りRIE装置の動作を等方性エッチングに切り換えて、すなわち、保護膜(デポ膜)の形成を行わずに、インク流路の内壁面をなすシリコンを保護膜42(デポ膜)に続いて直接削る処理を行って平滑化させる(
図7(c);シリコン壁面の平滑化工程)。
【0063】
それから、ノズル211に面して露出している酸化膜層21b(BOX層)を除去して、貫通孔212を形成し(孔部形成工程後半)、また、アッシングによりレジスト膜41を除去する(
図7(d))。平滑化されたインク流路の内側面は、Boschプロセスで形成される保護膜43aで改めて被覆される(
図7(e))。
【0064】
続いて、ノズル支持層21cの表面を研磨してノズル基板21の厚さを調節した後、レジスト膜44を形成及び深堀RIEによる貫通孔213の形成がなされる(
図7(f)、
図7(g))。さらに、深掘りRIE装置において等方性エッチングに切り替えて、保護膜45(デポ膜)に続いて内壁面のシリコンを削って平滑化させる(
図7(h)。アッシングにより貫通孔213に面するレジスト膜44及び保護膜43aの除去を行う(
図8(a))。貫通孔213の底面に露出した酸化膜層21b(BOX層)を除去し(
図8(b))、それから、インク流路の内壁面を含むノズル基板21の露出面に保護膜47を形成する(
図8(c))。
【0065】
このように、内壁面のシリコンを直接エッチングする場合には、当該内壁面の熱酸化を行う必要はない。なお、
図7(b)、
図7(c)ではノズル211の内壁面の等方性エッチングを行わず、
図7(g)、
図7(h)で保護膜42、45とともにまとめてノズル211及び貫通孔213の等方性エッチングをまとめて行ってもよい。
【0066】
[変形例3]
図9及び
図10は、ヘッドチップ101のノズル基板21の加工手順の変形例3を示す図である。変形例3の加工手順は、
図3に示した実施形態の加工手順と(a)から(g)まで(すなわち、
図9(a)~(g))同一である。
【0067】
ノズルの内側面が熱酸化され、熱酸化膜43が設けられた状態で、ノズル支持層21cが研磨されて厚みが調整され、また、レジスト膜44が設けられたのち、貫通孔213が側面に保護膜45を伴って設けられる(
図9(f)、(g))。
【0068】
深掘りRIE装置を等方性エッチングに切り替えて、インク流路の内壁面から保護膜43a、45に続いてシリコン層を直接削ることで、貫通孔213内の突起を除去する(
図9(h))。等方性エッチングは、上述のように、深掘りRIE装置を用いたドライエッチングであってもよい。
【0069】
その後、ノズル211内の熱酸化膜が除去されることで、ノズル211の内壁面の突起が除去される(
図10(a))。このとき、併せて酸化膜層21bのうち貫通孔213と面する部分が除去される。そして、アッシングによりレジスト膜44が削除された後(
図10(b))、インク流路の内壁面を含むヘッドチップ101の露出面には、保護膜47が形成される(
図10(c))。
【0070】
このように、突起の熱酸化を行ってから熱酸化膜の等方性エッチングを行う部分と、熱酸化を行わずにシリコン表面の突起を直接等方性エッチングする部分とが組み合わされてもよい。基板の厚さが薄い場合に熱酸化がなされると、当該基板が割れたりして破損する場合がある。そこで、例えば、ノズル支持層21cの厚さが基準値(例えば、100μm)以下となる場合には(研磨により途中で基準値以下となる場合には、基準値以下となった以降の処理において)、熱酸化を行わないで等方性エッチングで突起を除去することとしてもよい。
【0071】
上記の製造方法により、保護膜の剥離を伴うような20nm以上の柱状(ここでは、例えば、上記の径のばらつきが20%以下の部分が当該径の代表値(平均や中央値など)の2倍以上の長さで存する部分)の長さの突起を有するインク流路の内壁面は平滑化され、製造されたヘッドチップ101のインク流路に残存する確率は、突起の除去を行わない場合と比較して十分に低減される。具体的な製造工程やその基準精度にもよるが、ここでは、例えば、1024本のノズル群にそれぞれ対応するインク流路(個別流路)において(個別流路の形状や長さがノズルに応じて異なる場合には、ノズル開口Nから形状が変化しない又は変化の影響が少ない所定長の範囲で)、80%以上の確率でこのような長さの柱状の突起や、製造工程において途中で折れた根元の突起部分やこれに伴う保護膜47の剥離などが検出されない基準で上記製造工程でのインクジェットヘッド100の製造がなされる。
【0072】
1024本のインク流路で1つもこのような突起や突起部分が検出されない確率が80%の場合の、当該1024本当たりでの突起の残存確率λは、ポワソン分布により、数式(1)を満たす。
0.8=λ^0×(1-e)^(-λ)/0! … (1)
よって、λ≒0.22314、すなわち、残存する突起が4589本に1箇所以下となる。
【0073】
このようにして製造されたインクジェットヘッド100は、製品出荷前に検査され、少なくともノズル211若しくはノズル基板21のインク流路において、又は製品の全てのインク流路において突起がゼロであるものが選択されて出荷されてもよい。検査では、例えば、インク特性と対応する所定のアルカリ溶液、ここでは、炭酸カリウムと炭酸水素カリウムとによりpH11に調整された溶液を70℃に加熱し、ノズル基板21(インク流路)を5時間浸漬させる。これにより、インク流路中の保護膜において突起の折れによる剥離で穴が開いている箇所(剥離箇所)からシリコン基板に腐食が生じ、浸漬時間に応じた(ここでは、シリコン基板が(100)面である場合、1~4μm程度の)大きさの結晶面を持つ腐食状態となる。これにより、剥離箇所周辺が座屈することで当該剥離箇所の存在がより容易かつ確実に検出可能となる。なお、アルカリ溶液はこの例に限られず、シリコン基板を腐食させる各種周知のものが用いられてよい。また、シリコン基板とアルカリ溶液との組み合わせに応じて浸漬時間は適宜変更される。また、この検査結果に応じて、歩留まり率(すなわち、剥離箇所の発生頻度)を調整するように、上記製造工程にフィードバックされて基準などが調整されてよい。
【0074】
以上のように、本実施形態のインクジェットヘッド100の製造方法は、シリコン基板(ノズル基板21など、SOI基板のシリコン層部分を含む)に対し、深掘りRIEによりインク流路(ノズル211や貫通孔213など)を形成する孔部形成工程、インク流路の内壁面を熱酸化させて当該内壁面にシリコン酸化膜(熱酸化膜43、46など)を形成する熱酸化工程、内壁面のシリコン酸化膜に対して等方性エッチングを行う平滑化工程、を含む。このように、特にBoschプロセスを用いた深掘りRIE(DRIE)によりアスペクト比の大きいインク流路を形成すると、内壁面に細かい突起が生じる。これらの突起には、長さが20nm以上、径が10nm以上1μm以下程度の折れやすいものが含まれる。この内壁面を突起ごと一度熱酸化させて熱酸化膜43、46などを形成し、当該熱酸化膜43、46などを等方性エッチングで除去することで、これらの折れやすい突起が除去される。これにより、ALD装置などで形成された内壁面上の薄い保護膜47ごと突起が折れる可能性が低減され、当該突起が折れたことによる保護膜47の隙間からインクが進入してシリコン基板を侵食することを防ぐことができる。特に、酸化膜層21bの除去に係る等方性エッチングでは、内壁面に露出するシリコン層はほとんど削られない(10nm以下)ので、上記のように一度内壁面を熱酸化させることで、適切に突起を除去することができる。したがって、インクジェットヘッド100が劣化(特に、初期的な保護膜の剥離に基づく使用開始直後からの早期劣化)して吐出不良が生じるのを防ぎ、安定して基板の耐性を得ることができる。
【0075】
また、変形例2、3で示したように、インクジェットヘッド100の製造方法は、シリコン基板(上記同様、SOIのノズル基板21などを含む)に対し、深掘りRIEによりインク流路(ノズル211、貫通孔213など)を形成する孔部形成工程、インク流路の内壁面をなすシリコンに対して等方性エッチングを行う平滑化工程、を含む。すなわち、熱酸化を用いなくても内壁面のシリコンを直接等方性エッチングにより平滑化することで、突起を除去することができる。したがって、基板が薄く熱酸化が難しい場合などでも、同様に突起の折れに応じた保護膜の剥離によるインクジェットヘッド100の劣化を防ぐことができる。
【0076】
また、内壁面に形成した酸化膜に対する等方性エッチング(平滑化工程)は、ウェットエッチングにより行われる。これにより、適切にむらなく突起を除去することができる。また、ウェハーの裏表などを一括処理することができるので、立体的なエッチングにおいて手間が省かれる。また、このインクジェットヘッドの製造方法では、ドライエッチングと比較して、容易に均一な厚さで精度よくエッチングが行われやすい。すなわち、寸法精度が特に求められるノズル211などでは、精度の確保と突起の除去とをより確実に両立させることができる。また、ウェットエッチングにより、特に、ノズル基板21を揺動させながら行うことで、酸化膜の除去漏れをより容易かつ確実に防ぐことができる。
【0077】
また、等方性エッチング(平滑化工程)では、壁面を10nm以上の厚さで除去する。これにより、問題となる突起の根元の壁面が適切な厚みで除去されるので、大きな突起のない平坦な内壁面が得られ、突起の折れによる保護膜の剥離を効果的に抑制することができる。
【0078】
また、インク流路には、ノズル211が含まれる。吐出精度の維持に精度よく安定した加工が求められるノズル211に対して本実施形態のインクジェットヘッドの製造方法を用いることで、ノズル211の形状を大きく歪めずに保護膜の初期不良といった問題を効果的に抑制するので、求められる精度のよい安定した加工が可能となる。特に、ノズル211から貫通孔213にかけての内径の異なる構造を、酸化膜層21bを挟んで柔軟に処理することができるので、自由度の高い構造を精度よく形成することができる。
【0079】
また、ノズル211は、ノズル基板21の一の面から逆テーパー形状で形成される。深掘りRIEで逆テーパー形状の孔部を形成すると、特に内壁面が荒れやすく、多くの突起が生じる。したがって、このような内壁面を適切に平滑化することで、当該内壁面を薄い保護膜により安定して被覆可能になり、インク耐性の高い安定したノズル基板21を得ることができる。
【0080】
また、平滑化工程の後に、内壁面を被覆する保護膜47を形成する被覆工程を含み、被覆工程では、保護膜47の厚みを5nm以上100nm以下とする。すなわち、保護膜47の厚みを一般にCVD装置などで形成されるものと比較して薄くすることができるので、形成されたインク流路の形状に応じた精度の高いインク流路が最終的に得られ、安定して精度のよいインク吐出を保つことが可能になる。また、このような薄い保護膜47でも十分にインク耐性を維持することができるので、膜形成速度の遅いALDであっても、膜形成に要する時間を長引かせる必要がない。
【0081】
また、保護膜47は、原子層堆積技術(ALD)により形成される。これにより、薄く安定した均一の膜厚で被覆性のよい保護膜47を得ることができ、また、このような薄い薄膜であっても剥離の生じにくいインクジェットヘッド100を得ることができる。特に、厚過ぎるとノズル径を適切かつ一様に維持するのが難しくなり、また、薄くすることでその後の工程でクラックが入りやすいなどの問題が生じないので、安定して精度の高いノズルを形成することができる。
【0082】
また、本実施形態のインクジェットヘッド100は、インク流路となるノズル211や貫通孔212、213を有するシリコン基板(SOI基板)であるノズル基板21と、インク流路の内壁面を被覆する保護膜47と、を備える。内壁面には、Boschプロセスを用いた深掘りRIEにより生じるスキャロップを少なくとも一部に有し、径が10nm以上1μm以下の柱状の突起が4589本のインク流路について1箇所以下であり(ゼロを含む)、保護膜47の厚みは、5nm以上100nm以下である。このようなインクジェットヘッド100は、柱状の突起の残存頻度が十分に小さく、十分な歩留まりで得られ、かつインクへの安定した耐性と、安定した高精度のインク吐出性能を維持することができる。また、このインクジェットヘッド100は、薄くかつ平滑で剥離をほぼ生じさせない保護膜47の内壁面を有するので、インクジェットヘッド100は、安定して長期間インク耐性を維持して高いインク吐出性能を維持することができる。
【0083】
あるいは、本実施形態のインクジェットヘッド100は、インク流路となるノズル211や貫通孔212、213を有するシリコン基板(SOI基板)であるノズル基板21と、インク流路の内壁面を被覆する保護膜47と、を備える。保護膜47の厚みは、5nm以上100nm以下である。内壁面には、Boschプロセスを用いた深掘りRIEにより生じるスキャロップを少なくとも一部に有し、突起の折れにより生じた径が10nm以上1μm以下の剥離箇所が4589本のインク流路について1箇所以下である(ゼロを含む)。
このように、インクジェットヘッド100では、製造途中で突起が折れることによる剥離の発生頻度を十分に小さくすることができるので、十分な歩留まりで得られ、かつインクへの安定した耐性と、安定した高精度のインク吐出性能を長期間維持することができる。
【0084】
あるいは、本実施形態のインクジェットヘッド100は、インク流路となるノズル211や貫通孔212、213を有するシリコン基板(SOI基板)であるノズル基板21と、インク流路の内壁面を被覆する保護膜47と、を備える。保護膜47の厚みは、5nm以上100nm以下である。内壁面には、Boschプロセスを用いた深掘りRIEにより生じるスキャロップを少なくとも一部に有する。保護膜47に被覆されたインク流路を所定のアルカリ溶液に浸漬させて規定された時間経過させた場合に、保護膜47の剥離箇所の内部のシリコン基板に前記浸漬の条件に応じたサイズで生じる腐食部分が4589本のインク流路について1箇所以下である。
このように、インクジェットヘッド100では、製造途中で突起が折れることによる剥離の発生頻度を十分に小さくし、当該剥離箇所からのインクの侵入によるシリコン基板の腐食を抑制することができる。よって、このインクジェットヘッド100は、十分な歩留まりで得られ、かつインクへの安定した耐性と、安定した高精度のインク吐出性能を長期間維持することができる。
【0085】
また、保護膜47の厚みのばらつきは、10%以下である。ALD装置などにより厚さにばらつきのない保護膜47が、上述のように突起の少ない内壁面上に設けられているので、インクジェットヘッド100は、安定して長期間インク耐性を維持して高いインク吐出性能を維持することができる。また、言い換えると、安定した膜厚を得るのに適したALDでは、突起を埋め込むような厚い保護膜を形成するのは難しいので、上記のように突起の少ない内壁面上であれば、ALD装置であっても剥離しにくい安定した薄膜が形成され得る。
【0086】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、壁面の等方性エッチングにより除去される厚みは、インク流路の孔部形成方法や孔部の形状などに応じて適宜調整されてよい。深掘りRIEによる逆テーパー形状の孔部の形成時など、突起が目立つ場合には、厚めに除去され、他の方法が用いられる場合や、垂直な壁面が設けられる場合などには、薄めであってもよい。
【0087】
また、上記実施形態では、ノズルを有するノズル基板21を例に挙げて説明したが、他の基板についても同様に用いることができる。また、ノズル基板21がシリコン基板(SOI基板)ではない場合には、当該ノズル基板21については上述の処理は必要ないことになる。ノズル基板21は、ポリイミドなどの樹脂材料やSUSなどの金属材料によって形成されていてもよい。
【0088】
また、上記実施の形態では、ノズルに各々連通する個別インク流路を例に挙げて説明したが、複数の個別インク流路が連通し、当該複数の個別インク流路にインクを供給する共通インク流路を有するインクジェットヘッドの場合には、当該共通インク流路についても同様の製造方法が用いられてもよい。
【0089】
また、上記実施の形態では、深掘りRIEとしてBoschプロセスを用いてインク流路を形成するものとしたが、これに限られない。非Boschプロセスでも形成可能であり、このような場合には、スキャロップは生じないが、深掘りの際に表面に微小な凹凸(突起)が生じ得る。インクジェットヘッド100の製造において、形成対象の孔部のサイズやアスペクト比などに応じてBoschプロセスと非Boschプロセスとが組み合わされる場合もあり、このときに、Boschプロセスを用いた一部にのみスキャロップが生じたものであってもよい。
【0090】
また、上記実施の形態では、保護膜の塗布としてALDを用いることを前提に説明したが、ALDに限定することを意図したものではなく、精度よく被覆性のよい薄膜を形成可能な方法であればよい。
【0091】
また、ドライエッチングとして、プラズマを生成せずに、無水HFガスにより酸化膜層を等方性エッチングしたり、XeF2ガスにより内壁面のシリコンを等方性エッチングしたりしてもよい。
【0092】
その他、上記の実施の形態で示した具体的な構造、構成、製造工程の順序や内容などの具体的な細部は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【符号の説明】
【0093】
21 ノズル基板
21a ノズル層
21b 酸化膜層
21c ノズル支持層
211 ノズル
212、213 貫通孔
22 中間基板
221 貫通孔
23 アクチュエーター基板
23a 圧力室層
23b 振動層
231 圧力室
232 貫通孔
24 保護基板
241 貫通孔
31 加圧部
311 下部電極
312 圧電体層
313 上部電極
35 接続部
36 信号配線
40 駆動IC
41 レジスト膜
42 保護膜
43 熱酸化膜
43a 保護膜
44 レジスト膜
45 保護膜
46 熱酸化膜
47 保護膜
92 供給用サブタンク
100 インクジェットヘッド
101 ヘッドチップ
102 保持部
103 共通インク室
1031 供給口
1032 排出口
N ノズル開口