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特許7172402インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/00 20060101AFI20221109BHJP
   B41J 2/01 20060101ALI20221109BHJP
   C09D 11/322 20140101ALI20221109BHJP
【FI】
B41M5/00 120
B41J2/01 501
C09D11/322
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018190020
(22)【出願日】2018-10-05
(65)【公開番号】P2020059155
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【弁理士】
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 範晃
(72)【発明者】
【氏名】玉井 宏篤
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 剛史
(72)【発明者】
【氏名】上田 博之
(72)【発明者】
【氏名】道下 恭弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 豊常
(72)【発明者】
【氏名】宮越 直人
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼野 悠介
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-160838(JP,A)
【文献】特開2007-136879(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/00
B41J 2/01
C09D 11/322
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
3個以上の記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置であって、
前記記録ヘッドは、それぞれ異なる種類のインクを収容し、かつ前記インクを記録媒体に順次吐出し、
前記インクは、それぞれ、水、顔料及び保湿剤を含有し、
前記保湿剤は、ポリアルキレングリコール化合物、アルキレングリコール化合物及びグリセリンのうち少なくとも1種を含み、
前記インクのうち、第1番目に吐出されるインクは、前記顔料の含有割合が最も低く、
第3番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、前記顔料の含有割合が同一であるか、又は高く、
第2番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、25℃における粘度が低く、
第2番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、前記保湿剤の含有割合が低い、インクジェット記録装置。
【請求項2】
第2番目以降に吐出されるインクと、その1つ前の順番に吐出されるインクとの25℃における粘度の差は、それぞれ、0.5mPa・s以上3.0mPa・s以下である、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記インクのうち、最後に吐出されるインクの25℃における粘度は、3.5mPa・s以上である、請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
第1番目に吐出されるインクと、第2番目に吐出されるインクとの前記顔料の含有割合の差は、0.5質量%以上2.5質量%以下である、請求項1~3の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
第3番目以降に吐出されるインクと、その1つ前の順番に吐出されるインクとの前記顔料の含有割合の差は、それぞれ、2.5質量%以下である、請求項1~4の何れか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
3種以上のインクを用いたインクジェット記録方法であって、
前記インクを記録媒体に順次吐出する工程を備え、
前記インクは、それぞれ、水、顔料及び保湿剤を含有し、
前記保湿剤は、ポリアルキレングリコール化合物、アルキレングリコール化合物及びグリセリンのうち少なくとも1種を含み、
前記インクのうち、第1番目に吐出されるインクは、前記顔料の含有割合が最も低く、
第3番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、前記顔料の含有割合が同一であるか、又は高く、
第2番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、25℃における粘度が低く、
第2番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、前記保湿剤の含有割合が低い、インクジェット記録方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置及びインクジェット記録方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置は、近年急速に進歩し、写真用紙を使用する場合には銀塩写真に匹敵する高精細な画質を得ることができる。インクジェット記録装置による印刷方式としては、記録媒体上を長尺状の記録ヘッドが一回のみ通過するラインヘッド方式と、記録媒体上を記録ヘッドが複数回往復するシリアルヘッド方式とが挙げられる。このうち、ライン方式のインクジェット記録装置は、印刷速度に優れる。
【0003】
しかし、ライン方式のインクジェット記録装置は、シリアルヘッド方式のインクジェット記録装置のように重ね描きを行わないため、画像濃度の低下(特に普通紙に印刷する場合)と、画像の裏抜け及び滲みと、高速印刷時の画像のオフセット(画像が他の部材に付着する現象)とを生じ易い傾向にある。ライン方式のインクジェット記録装置における画像のオフセットは、複数種のインクを組み合わせ、2次色又は3次色を描画する場合に特に顕著である。
【0004】
ライン方式のインクジェット記録装置で複数種のインクを用いて良好な画像を形成する方法として、例えば、吐出順序に応じてインクの顔料濃度又は粘度を変化させる方法が提案されている。具体的には、吐出順序が先のインクほど顔料濃度を増大させる方法、吐出順序が後のインクほど吐出温度を高くして粘度を低下させる方法、又は吐出順序が後のインクほど粘度を増大させる方法が提案されている(例えば、特許文献1~3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-145926号公報
【文献】特開2007-136879号公報
【文献】特開2011-201037号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1~3に記載の方法によっては、形成される画像のオフセットを十分に抑制することは難しい。
【0007】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、形成される画像のオフセットを抑制できるインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るインクジェット記録装置は、3個以上の記録ヘッドを備える。前記記録ヘッドは、それぞれ異なる種類のインクを収容し、かつ前記インクを記録媒体に順次吐出する。前記インクは、それぞれ顔料を含有する。前記インクのうち、第1番目に吐出されるインクは、前記顔料の含有割合が最も低い。第3番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、前記顔料の含有割合が同一であるか、又は高い。第2番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、25℃における粘度が低い。
【0009】
本発明に係るインクジェット記録方法は、3種以上のインクを用い、前記インクを記録媒体に順次吐出する工程を備える。前記インクは、それぞれ顔料を含有する。前記インクのうち、第1番目に吐出されるインクは、前記顔料の含有割合が最も低い。第3番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、前記顔料の含有割合が同一であるか、又は高い。第2番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、25℃における粘度が低い。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、形成される画像のオフセットを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】インクジェット記録装置の構成を示す図である。
図2図1に示すインクジェット記録装置の搬送ベルトを上方からみた図である。
図3】(a)は、図2に示す記録ヘッドの吐出ユニットを示す図であり、(b)は、(a)のIIIB-IIIB線における断面図である。
図4】インクジェット記録装置の構成を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態について説明する。なお、以下において、体積中位径(D50)の測定値は、何ら規定していなければ、動的光散乱式粒径分布測定装置(シスメックス株式会社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて測定された値である。また、酸価の測定値は、何ら規定していなければ、「JIS(日本工業規格)K0070-1992」に従い測定した値である。また、質量平均分子量(Mw)の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
【0013】
<第1実施形態:インクジェット記録装置>
本発明の第1実施形態は、インクジェット記録装置に関する。本実施形態に係るインクジェット記録装置は、3個以上の記録ヘッドを備える。記録ヘッドは、それぞれ異なる種類のインクを収容し、かつインクを記録媒体に順次吐出する。インクは、それぞれ顔料を含有する。インクのうち、第1番目に吐出されるインクは、顔料の含有割合が最も低い。第3番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、顔料の含有割合が同一であるか、又は高い。第2番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、25℃における粘度が低い。
【0014】
本実施形態に係るインクジェット記録装置に用いる記録媒体としては、例えば、紙製、樹脂製、金属製、ガラス製、又はセラミックス製の記録媒体が挙げられる。記録媒体としては、浸透性記録媒体及び非浸透性記録媒体のいずれでもよいが、浸透性記録媒体が好ましい。具体的な記録媒体としては、例えば、普通紙、又は吸湿処理が施されたコート紙が挙げられる。記録媒体としては、繊維を用いて加工された記録媒体(例えば布地)も挙げられる。即ち、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、インクジェット捺染に用いることもできる。
【0015】
以下、インクジェット記録装置において、全ての記録ヘッドのうち第n番目にインクを吐出する記録ヘッドを第n記録ヘッドとし、全てのインクのうち第n記録ヘッドにより第n番目に吐出されるインクを第nインクと記載することがある(nは、1以上の整数)。例えば、全ての記録ヘッドのうち第1番目にインクを吐出する記録ヘッドを第1記録ヘッドとし、全てのインクのうち第1番目に第1記録ヘッドにより吐出されるインクを第1インクとする。また、全ての記録ヘッドのうち最後にインクを吐出する記録ヘッドを最終記録ヘッドとし、全てのインクのうち最終記録ヘッドにより最後に吐出されるインクを最終インクと記載することがある。
【0016】
本実施形態に係るインクジェット記録装置は、上述の構成を備えることにより、形成される画像のオフセットを抑制できる。その理由は、以下のように推測される。
【0017】
複数のインクを記録媒体に順次吐出する場合、比較的後の順番で吐出されるインクは、比較的先の順番で吐出されるインクと比較して記録媒体に浸透し難い傾向にある。これは、記録媒体に吐出されたインクに含まれる顔料の一部が、記録媒体に浸透せずにその表面に残留し、その後に吐出されるインクの記録媒体への浸透を阻害する傾向があるためである。この現象(後に吐出されるインクの記録媒体に対する浸透性が、先に吐出されるインクに起因して低下する現象)は、先に吐出されるインクの顔料の含有割合が高いほど生じ易い。特に、記録媒体に第1番目に吐出される第1インクの顔料の含有割合が高い場合、上述の現象が顕著に生じ易い。これに対し、本実施形態に係るインクジェット記録装置では、顔料の含有割合の高いインクほど後の順番に吐出し、かつ全てのインクの中で顔料の含有割合が最も低いインクを第1番目に吐出する。そのため、本実施形態に係るインクジェット記録装置では、上述の現象を最小限に抑えることができる。
【0018】
また、記録媒体が印刷用紙等の多孔質材料である場合、記録媒体に対するインクの浸透性は、Lucas-Washburnの下記数式で表される。下記数式中、Lは浸透距離[m]、rは毛管半径[m]、γは表面張力[mN・m]、ηはインク粘度[mPa・s]、θは記録媒体及びインクの接触角[°]、tは時間[s]を表し、Lが大きいほどインクが記録媒体に浸透し易いことを示す。下記数式から明らかなように、粘度(η)の低いインクほど記録媒体に浸透し易い。
【0019】
【数1】
【0020】
本実施形態に係るインクジェット記録装置では、第2番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較して低粘度である。即ち、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、吐出する順番が後のインクほど低粘度のインク(即ち、記録媒体への浸透性に優れるインク)である。このように、本実施形態に係るインクジェット記録装置では、記録媒体に吐出する順番によってインクの粘度及び顔料の含有割合を上述の通り調節することで、比較的後の順番で記録媒体に吐出されるインクであっても記録媒体に充分に浸透させることができ、その結果、形成される画像のオフセットを抑制できる。
【0021】
以下、本実施形態に係るインクジェット記録装置について、図面を参照しつつ説明する。なお、参照する図面は、理解しやすくするために、それぞれの構成要素を主体に模式的に示しており、図示された各構成要素の大きさ、個数等は、図面作成の都合上から実際とは異なる場合がある。
【0022】
図1は、インクジェット記録装置100の構成を示す図である。図2は、図1に示すインクジェット記録装置100の搬送ベルト5を上方からみた図である。
【0023】
図1に示すように、インクジェット記録装置100は、搬送部1と、記録ヘッド11とを主に備える。インクジェット記録装置100は、給紙トレイ2、給紙ローラー3、給紙従動ローラー4、搬送ベルト5、ベルト駆動ローラー6、ベルト従動ローラー7、排出ローラー8、排出従動ローラー9及び排紙トレイ10を更に備える。搬送ベルト5、ベルト駆動ローラー6及びベルト従動ローラー7は、搬送部1の一部を構成する。インクジェット記録装置100の図中左端部には、給紙トレイ2が設けられている。給紙トレイ2は、記録用紙P(記録媒体)を収容する。給紙トレイ2の一端部には、給紙ローラー3と、給紙従動ローラー4とが設けられている。給紙ローラー3は、収容された記録用紙Pを、最上位置の記録用紙Pから順に一枚ずつ取り出し、搬送ベルト5に搬送し給紙する。給紙従動ローラー4は、給紙ローラー3に圧接されて従動回転する。
【0024】
給紙ローラー3及び給紙従動ローラー4の用紙搬送方向下流側(図1において右側)には、搬送ベルト5が回転自在に配設されている。搬送ベルト5は、ベルト駆動ローラー6とベルト従動ローラー7とに掛け渡されている。ベルト駆動ローラー6は、用紙搬送方向下流側に配置される。ベルト駆動ローラー6は、搬送ベルト5を駆動する。ベルト従動ローラー7は、用紙搬送方向上流側に配置される。ベルト従動ローラー7は、搬送ベルト5を介してベルト駆動ローラー6に従動して回転する。ベルト駆動ローラー6が時計方向に回転駆動されることにより、記録用紙Pが矢印で示される搬送方向Xに搬送される。
【0025】
また、搬送ベルト5の搬送方向下流側には、排出ローラー8と排出従動ローラー9とが設けられている。排出ローラー8は、図中時計回りに駆動され、画像が形成された記録用紙Pを装置筐体外へ排出する。排出従動ローラー9は、排出ローラー8の上部に圧接され従動回転する。排出ローラー8及び排出従動ローラー9の下流側には、排紙トレイ10が設けられている。排紙トレイ10には、装置筐体外に排出された記録用紙Pが積載される。
【0026】
記録ヘッド11は、記録ヘッド11C、11M、11Y及び11Kを含む。記録ヘッド11C、11M、11Y及び11Kは、搬送ベルト5の上方において、記録用紙Pの搬送方向Xの上流側から下流側に向けて、この順に配設されている。記録ヘッド11C~11Kの各々は、搬送ベルト5の上面との距離が所定の長さとなる高さで支持されている。記録ヘッド11C~11Kは、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pに画像を記録する。記録ヘッド11C~11Kには、それぞれ異なる4色(シアン、マゼンタ、イエロー及びブラック)のインクが収容されている。記録ヘッド11C~11Kの各々からインクを吐出することにより、記録用紙P上にカラー画像が形成される。
【0027】
具体的には、記録ヘッド11C~11Kは、記録ヘッド11C、記録ヘッド11M、記録ヘッド11Y及び記録ヘッド11Kの順番で、収容されているインクを記録用紙Pに順次吐出する。即ち、記録ヘッド11Cは、第1インクを収容する第1記録ヘッドである。記録ヘッド11Mは、第2インクを収容する第2記録ヘッドである。記録ヘッド11Yは、第3インクを収容する第3記録ヘッドである。記録ヘッド11Kは、第4インクを収容する第4記録ヘッドである。
【0028】
第1インク~第4インクの25℃における粘度と顔料の含有割合とは、それぞれ以下の関係にある。インクジェット記録装置100は、このような関係にある第1インク~第4インクを順次吐出することにより、上述の通り形成される画像のオフセットを抑制できる。
25℃における粘度:第1インク>第2インク>第3インク>第4インク
顔料の含有割合:第1インク<第2インク≦第3インク≦第4インク
【0029】
図2に示すように、記録ヘッド11C~11Kは、各々、長尺状の記録ヘッドであり、その長手方向は、記録用紙Pの搬送方向Xと直交する。記録ヘッド11C~11Kの各々は、ノズル列N1とノズル列N2とを備える。ノズル列N1、N2は、各々、記録用紙Pの搬送方向Xと直交する方向に配列された複数のノズルを有する。また、ノズル列N1、N2は、記録用紙Pの搬送方向Xに並設されている。記録ヘッド11C~11Kは、ライン型の記録ヘッド、又は長尺インクジェット記録ヘッドとも呼ばれる。記録ヘッド11C~11Kは、搬送される記録用紙Pの幅以上の記録領域を有している。ノズル列N1、N2は、各々、搬送ベルト5上を搬送される記録用紙Pに対して、一括して1行分の画像を記録できる。
【0030】
なお、インクジェット記録装置100は、記録ヘッド11C~11Kの本体の長手方向に複数のノズルを配列させることで、記録用紙Pの幅以上の記録領域を有するように構成された記録ヘッド11C~11Kを用いている。しかしながら、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、例えば複数のノズルを備えた短尺の記録ヘッドユニットを搬送ベルト5の幅方向に複数配列することにより、搬送される記録用紙Pの幅方向の全幅にわたって画像を記録できるように構成された記録ヘッドを用いることもできる。
【0031】
続いて、図3(a)及び図3(b)を参照して、記録ヘッド11C~11Kの各々に備えられる吐出ユニット30の構成について説明する。図3(a)は、吐出ユニット30を示す図であり、図3(b)は、図3(a)のIIIB-IIIB線における断面図である。
【0032】
図3(a)及び図3(b)に示すように、吐出ユニット30は、ノズル12と、アクチュエーター31と、振動板31aと、孔32と、加圧室33と、ノズル流路34とを有する。孔32、加圧室33、ノズル流路34、及びノズル12は連通している。また、加圧室33は、孔32を介して共通流路201と連通している。インクは、図示しないインクタンクから、例えば、ポンプにより共通流路201に供給される。
【0033】
アクチュエーター31は、例えば圧電素子を含む。圧電素子(アクチュエーター31)に電圧を加えると、逆圧電効果により圧電素子が変形する。圧電素子の変形は振動板31aを介して加圧室33に伝わる。これにより、加圧室33が圧縮される。共通流路201から孔32を通って加圧室33に送られたインクは、加圧室33でアクチュエーター31により加圧され、ノズル流路34を通ってノズル12から吐出される。
【0034】
図4は、インクジェット記録装置100の構成を示すブロック図である。図1及び図2と共通する部分には同一の符号を付して説明を省略する。インクジェット記録装置100は、制御部20、インターフェイス21、ROM22、RAM23、エンコーダー24、モーター制御回路25、記録ヘッド制御回路26、電圧制御回路27及び記録媒体搬送用モーター28を更に備える。制御部20には、インターフェイス21、ROM22、RAM23、エンコーダー24、モーター制御回路25、記録ヘッド制御回路26、及び電圧制御回路27が接続されている。
【0035】
インターフェイス21は、例えば、パソコンのようなホスト装置とデータの送受信を行う。制御部20は、インターフェイス21を介して受信した画像信号を、必要に応じて変倍処理又は階調処理して画像データに変換する。そして、制御部20は、後述する各種制御回路に制御信号を出力する。
【0036】
ROM22は、例えば、記録ヘッド11C~11Kを駆動させて画像を記録するために使用される制御プログラムを記憶している。RAM23は、制御部20により変倍処理又は階調処理された画像データを所定の領域に格納する。
【0037】
エンコーダー24は、ベルト駆動ローラー6に接続されている。エンコーダー24は、ベルト駆動ローラー6の回転軸の回転変位量に応じてパルス列を制御部20に出力(送信)する。制御部20は、エンコーダー24から送信されるパルス数をカウントすることで回転量を算出し、記録用紙Pの送り量(用紙位置)を把握する。制御部20は、エンコーダー24からの信号に基づいて、モーター制御回路25及び記録ヘッド制御回路26に制御信号を出力する。
【0038】
モーター制御回路25は、制御部20からの出力信号により記録媒体搬送用モーター28を駆動する。記録媒体搬送用モーター28の駆動により、ベルト駆動ローラー6を回転させる。
【0039】
記録ヘッド制御回路26は、制御部20からの出力信号に基づいて、RAM23に格納された画像データを記録ヘッド11C~11Kへ転送する。記録ヘッド制御回路26は、転送する画像データに基づいて記録ヘッド11C~11Kからのインクの吐出を制御する。記録ヘッド制御回路26による記録ヘッド11C~11Kのインク吐出制御と、モーター制御回路25による記録用紙Pの搬送の制御とにより、記録用紙Pへの記録処理が行われる。
【0040】
電圧制御回路27は、制御部20からの出力信号に基づいて給紙側のベルト従動ローラー7に電圧を印加することにより交番電界を発生させる。発生した交番電界により、記録用紙Pが搬送ベルト5に静電吸着される。静電吸着の解除は、制御部20からの出力信号に基づいて、ベルト従動ローラー7又はベルト駆動ローラー6を接地させることにより行われる。なお、本実施形態は、ベルト従動ローラー7に電圧を印加する構成である。しかしながら、ベルト駆動ローラー6に電圧を印加する構成であってもよい。
【0041】
ここで、インクジェット記録装置100においては、図2に示すように、各記録ヘッド11C~11Kのノズル列N1、N2が、記録用紙Pの搬送方向X(図2の左右方向)に2列ずつ並列に配置される。搬送方向Xに並ぶ2つのノズル列N1、N2の複数のノズルからインクを吐出することにより、搬送ベルト5によって搬送される記録用紙Pにドットを形成する。
【0042】
以上、本実施形態に係るインクジェット記録装置の一例について説明したが、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、図1~4に示されるものに限定されない。
【0043】
図1~4では、4色のインクに対応する4個の記録ヘッド11C~11Kを備えるインクジェット記録装置100を例に挙げて説明した。しかしながら、本実施形態に係るインクジェット記録装置が備える記録ヘッドの数は、3個以上であれば特に限定されず、例えば、3個以上10個以下とすることができ、3個以上5個以下が好ましい。
【0044】
また、インクジェット記録装置100は、シアン、マゼンタ、イエロー及びブラックの4色のインクをこの順番で吐出するが、インクの種類、組み合わせ及び吐出順序はこれに限定されない。本実施形態に係るインクジェット記録装置は、例えば、マゼンタ、イエロー及びシアンの3色のインクをこの順番で吐出してもよく、イエロー、マゼンタ及びシアンの3色のインクをこの順番で吐出してもよく、シアン、イエロー及びマゼンタの3色のインクをこの順番で吐出してもよい。但し、一般的に、シアンインクは、色相角の変化を抑制するために顔料の含有割合が比較的低い傾向にある。また、マゼンタインクは、十分な発色能力を確保するために顔料の含有割合が比較的高い傾向にある。そのため、本実施形態に係るインクジェット記録装置にシアンインク及びマゼンタインクを用いる場合、シアンインクをマゼンタインクよりも先に吐出することが好ましい。
【0045】
また、記録ヘッド11C~11Kのノズル列N1、N2を構成するノズルの個数、及びノズル間隔は、装置の仕様に応じて適宜設定できる。
【0046】
また、記録ヘッド11C~11Kには、各々、2つのノズル列N1、N2が搬送方向Xに並列に配置されている。しかしながら、本実施形態に係るインクジェット記録装置が備える記録ヘッドには、3つ以上のノズル列が並列に配置され、各ノズル列のノズルが順次ドット列を形成してもよい。ノズル列は、その数が多くなるほどドット列中における不良ドットの出現頻度が低くなり、白筋をより目立ち難くできる。更に、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、スキャナー、複写機、プリンター又はファクシミリの機能を更に有する複合機であってもよい。
【0047】
[インク]
以下、本実施形態に係るインクジェット記録装置に用いるインクの詳細について説明する。インクは、顔料を含有する。インクは、水を更に含有することが好ましい。インクは、界面活性剤、保湿剤、溶解安定剤又は浸透剤を更に含有してもよい。
【0048】
インクの25℃における粘度としては、3.5mPa・s以上10.0mPa・s以下が好ましく、3.5mPa・s以上7.0mPa・s以下がより好ましい。インクの25℃における粘度を3.5mPa・s以上10.0mPa・s以下とすることで、吐出安定性を向上できる。
【0049】
なお、インクの粘度は、落球式粘度計を用いて測定される。落球式粘度計としては、例えば、落球式自動マイクロ粘度計(アントンパール社製「AMVn」)を使用できる。
【0050】
(顔料)
顔料としては、例えば、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、紫色顔料、及び黒色顔料が挙げられる。黄色顔料としては、例えばC.I.ピグメントイエロー(74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193)が挙げられる。橙色顔料としては、例えばC.I.ピグメントオレンジ(34、36、43、61、63、及び71)が挙げられる。赤色顔料としては、例えばC.I.ピグメントレッド(122及び202)が挙げられる。青色顔料としては、例えばC.I.ピグメントブルー(15、より具体的には15:3)が挙げられる。紫色顔料としては、例えばC.I.ピグメントバイオレット(19、23、及び33)が挙げられる。黒色顔料としては、例えばC.I.ピグメントブラック(7)が挙げられる。
【0051】
インクにおける顔料の含有割合としては、3.0質量%以上9.0質量%以下が好ましい。顔料の含有割合を3.0質量%以上とすることで、所望の画像濃度が得られ易くなる。顔料の含有割合を9.0質量%以下とすることで、インク中での顔料の流動性が増大し、所望の画像濃度が得られ易くなる。また、顔料の含有割合を9.0質量%以下とすることで、記録媒体に対するインクの浸透性を向上できる。
【0052】
インクにおいて、顔料は、粒子(以下、顔料粒子と記載することがある)として分散している。顔料粒子は、顔料のみを含んでいてもよい。また、顔料粒子は、顔料と、顔料の表面を被覆する樹脂粒子(以下、被覆樹脂粒子と記載することがある)とを含んでいてもよい。
【0053】
被覆樹脂粒子は、顔料の表面を被覆することで、その分散性を向上させる。被覆樹脂粒子に含まれる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、(メタ)アクリル樹脂、スチレン-(メタ)アクリル樹脂、スチレン-マレイン酸共重合体、ビニルナフタレン-(メタ)アクリル酸共重合体、及びビニルナフタレン-マレイン酸共重合体が挙げられる。(メタ)アクリル樹脂は、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルから選択される1種以上のモノマーに由来する繰り返し単位を含む樹脂である。スチレン-(メタ)アクリル樹脂は、スチレンに由来する繰り返し単位と、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸エステルから選択される1種以上のモノマーに由来する繰り返し単位とを含む樹脂である。スチレン-(メタ)アクリル樹脂としては、例えば、スチレン-アクリル酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸アルキルエステル-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体、スチレン-マレイン酸-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-メタクリル酸共重合体、及びスチレン-メタクリル酸アルキルエステル共重合体が挙げられる。被覆樹脂粒子に含まれる樹脂としては、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸アルキルエステル-アクリル酸アルキルエステル共重合体、スチレン-アクリル酸共重合体が好ましく、スチレン-メタクリル酸-メタクリル酸メチル-アクリル酸ブチル共重合体がより好ましい。
【0054】
被覆樹脂粒子に含まれる樹脂の酸価としては、60mgKOH/g以上300mgKOH/g以下が好ましく、80mgKOH/g以上150mgKOH/g以下が好ましい。被覆樹脂粒子に含まれる樹脂の酸価を60mgKOH/g以上とすることで、顔料粒子の分散性を向上できる。被覆樹脂粒子に含まれる樹脂の酸価を300mgKOH/g以下とすることで、インクの保存安定性を向上できる。
【0055】
インクが被覆樹脂粒子を含有する場合、インクにおける被覆樹脂粒子の含有量としては、顔料100質量部に対して、15質量部以上100質量部以下が好ましい。
【0056】
インクの色濃度、色相、及び安定性を向上させる観点から、顔料粒子の体積中位径(D50)としては、30nm以上200nm以下が好ましく、70nm以上130nm以下がより好ましい。
【0057】
(水)
インクが水を含有する場合、インクにおける水の含有割合としては、20質量%以上70質量%以下が好ましい。
【0058】
(界面活性剤)
界面活性剤は、記録媒体に対するインクの濡れ性を向上させる。界面活性剤としてはノニオン界面活性剤が好ましい。
【0059】
ノニオン界面活性剤としては、アセチレングリコール系界面活性剤、又はアクリル酸ポリアルキレングリコールアルキルエーテル-アクリル酸アルキル-アクリル酸ポリアルキレングリコール-アクリル酸ラウリル-メタクリル酸アルキル共重合体が好ましく、アセチレングリコール系界面活性剤、又はアクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテル-アクリル酸ブチル-アクリル酸ポリプロピレングリコール-アクリル酸ラウリル-メタクリル酸メチル共重合体がより好ましい。
【0060】
市販のアセチレングリコール系界面活性剤としては、例えば、日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」が挙げられる。「オルフィン(登録商標)E1010」は、アセチレンジオールのエチレンオキシド付加物を含む界面活性剤である。
【0061】
インクが界面活性剤を含有する場合、その含有割合としては、形成される画像のオフセットをより抑制しつつ、画像濃度を向上させる観点から、0.5質量%以上5.0質量%以下が好ましい。
【0062】
(溶解安定剤)
溶解安定剤は、インクに含まれる各成分の相溶性を向上させることで、インクの溶解状態を安定化させる。溶解安定剤としては、例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、及びγ-ブチロラクトンが挙げられる。インクが溶解安定剤を含有する場合、その含有割合としては、1.0質量%以上20.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上15.0質量%以下がより好ましい。
【0063】
(保湿剤)
保湿剤は、インク(特に、水を含有する水性インク)からの液体成分の揮発を抑制し、インクの粘性を安定化させる。保湿剤としては、例えば、ポリアルキレングリコール化合物、アルキレングリコール化合物、及びグリセリンが挙げられる。ポリアルキレングリコール化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、又はポリプロピレングリコールが好ましい。アルキレングリコール化合物としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリメチレングリコール(1,3-プロパンジオール)、トリエチレングリコール、トリプロピレングリコール、1,2,6-ヘキサントリオール、チオジグリコール、1,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、又は3-メチル-1,5-ペンタンジオールが好ましい。保湿剤としては、3-メチル-1,5-ペンタンジオールが好ましい。インクが保湿剤を含有する場合、その含有割合としては、5.0質量%以上60.0質量%以下が好ましい。
【0064】
(浸透剤)
浸透剤は、インクの記録媒体に対する浸透性を向上させる。浸透剤としては、例えば、1,2-へキシレングリコール、1,2-オクタンジオール、2,4-ジエチル-1,5-ペンタンジオール、2-ブチル-2-エチル-1,3-プロパンジオール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、又はジエチレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。浸透剤としては、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、又は1,2-オクタンジオールが好ましい。インクが浸透剤を含有する場合、その含有割合としては、0.5質量%以上20.0質量%以下が好ましく、3.0質量%以上10.0質量%以下がより好ましい。
【0065】
本実施形態に係るインクジェット記録装置には、複数種のインクを用いる。各インクは、上述の通り、顔料の含有割合及び25℃における粘度が互いに異なる。
【0066】
第1インクにおける顔料の含有割合としては、3.0質量%以上8.0質量%以下が好ましく、5.0質量%以上7.0質量%以下がより好ましい。第1インクにおける顔料の含有割合を上述の数値範囲内とすることで、適度な濃度の画像を形成できる。
【0067】
第1インク及び第2インクの顔料の含有割合の差としては、0.5質量%以上2.5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下がより好ましい。上述の差を上述の数値範囲内とすることで、適度な濃度の画像を形成できる。
【0068】
第3インク~最終インクと、その1つ前の順番に吐出されるインクとの顔料の含有割合の差(例えば、第3インク及び第2インクの顔料の含有割合の差)としては、各々、2.5質量%以下が好ましく、0.5質量%以上1.5質量%以下がより好ましい。上述の差を上述の数値範囲内とすることで、適度な濃度の画像を形成できる。
【0069】
最終インクにおける顔料の含有割合としては、5.0質量%以上9.0質量%以下が好ましく、7.0質量%以上9.0質量%以下がより好ましい。最終インクにおける顔料の含有割合を上述の数値範囲内とすることで、適度な濃度の画像を形成できる。
【0070】
第1インクの25℃における粘度としては、4.5mPa・s以上9.0mPa・s以下が好ましく、5.0mPa・s以上7.0mPa・s以下がより好ましい。第1インクの25℃における粘度を上述の数値範囲内とすることで、第1インクの吐出安定性及び記録媒体に対する浸透性を向上できる。
【0071】
第2インク~最終インクと、その1つ前の順番に吐出されるインクとの25℃における粘度の差(例えば、第2インク及び第1インクの25℃における粘度の差、又は第3インク及び第2インクの25℃における粘度の差)としては、各々、0.5mPa・s以上3.0mPa・s以下が好ましく、0.5mPa・s以上1.5mPa・s以下がより好ましい。上述の差を上述の数値範囲内とすることで、各インクの吐出安定性及び記録媒体に対する浸透性を向上できる。
【0072】
最終インクの25℃における粘度としては、3.5mPa・s以上が好ましく、3.5mPa・s以上5.0mPa・s以下がより好ましい。最終インクの25℃における粘度を上述の数値範囲内とすることで、最終インクの吐出安定性及び記録媒体に対する浸透性を向上できる。
【0073】
各インクの25℃における粘度を調節する方法としては、特に限定されないが、例えば、保湿剤(例えば、アルキレングリコール化合物)の含有割合を変化させる方法が挙げられる。具体的には、保湿剤の含有割合を増大させるほどインクの粘度を増大できる。
【0074】
各インクは、顔料の種類及びその含有割合、被覆樹脂粒子の含有割合、保湿剤の含有割合又は水の含有割合のみが互いに異なることが好ましい。即ち、各インクは、被覆樹脂粒子の種類と、保湿剤の種類と、他の成分(例えば、界面活性剤、浸透剤及び溶解安定剤)の種類及びその含有割合とが互いに同一であることが好ましい。
【0075】
(他の成分)
インクは、必要に応じて、公知の添加剤(より具体的には、乾燥防止剤、酸化防止剤、粘度調整剤、pH調整剤、防カビ剤等)を含有してもよい。
【0076】
[インクの製造方法]
インクの製造方法としては、顔料及び必要に応じて配合される他の成分を均一に混合することができる限り、特に限定されない。インクの製造方法の具体例としては、インクの各成分を攪拌機により攪拌して、均一に混合した後、フィルター(例えば孔径5μm以下のフィルター)により異物及び粗大粒子を除去する方法が挙げられる。
【0077】
インクの製造方法としては、水、顔料及び必要に応じて配合される被覆樹脂粒子及び界面活性剤を混合することで顔料粒子が水に分散した顔料分散液を調製した後、この顔料分散液を他の成分と更に混合する方法が好ましい。なお、インクの製造において酸基を有する被覆樹脂粒子を用いる場合、顔料分散液の調製の前に被覆樹脂粒子に対して水酸化カリウム水溶液等による等量中和処理を施すことが好ましい。
【0078】
インクの製造方法において水を添加する場合、イオン交換水を添加することが好ましい。
【0079】
以上、本実施形態に係るインクジェット記録装置及びこれに用いるインクについて説明した。本実施形態に係るインクジェット記録装置によれば、上述のインクを順次吐出することにより、画像のオフセットを抑制できる。
【0080】
<第2実施形態:インクジェット記録方法>
本実施形態に係るインクジェット記録方法は、3種以上のインクを用い、インクを記録媒体に順次吐出する工程を備える。インクは、それぞれ顔料を含有する。インクのうち、第1番目に吐出されるインクは、顔料の含有割合が最も低い。第3番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、顔料の含有割合が同一であるか、又は高い。第2番目以降に吐出されるインクは、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインクと比較し、25℃における粘度が低い。
【0081】
本実施形態に係るインクジェット記録方法に用いるインクは、第1実施形態に係るインクジェット記録装置のインクと同様とすることができる。また、本実施形態に係るインクジェット記録方法は、例えば、第1実施形態に係るインクジェット記録装置を用いて行うことができる。本実施形態に係るインクジェット記録方法によれば、上述のインクを順次吐出することにより、画像のオフセットを抑制できる。
【実施例
【0082】
以下、本発明の実施例を説明する。ただし、本発明は、以下の実施例に限定されない。
【0083】
(顔料分散液Cの調製)
シアン顔料(トーヨーカラー株式会社製「リオノール(登録商標)ブルーFG-7330」、成分:銅フタロシアニン、カラーインデックス:ピグメントブルー15:3)、後述する被覆樹脂粒子A、界面活性剤(日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」)、及びイオン交換水を、下記表1に示す割合で、容量0.6Lのベッセルに入れた。次いで、ベッセルの内容物をメディア型湿式分散機(ウィリー・エ・バッコーフェン(WAB)社製「DYNO(登録商標)-MILL」)を用いて分散させた。
【0084】
【表1】
【0085】
被覆樹脂粒子Aとしては、アルカリ可溶性樹脂であるメタクリル酸(MAA)-メタクリル酸メチル(MMA)-アクリル酸ブチル(BA)-スチレン(ST)共重合体(質量平均分子量(Mw)20,000、酸価100mgKOH/g)をから構成される樹脂粒子(体積中位径(D50):100nm)を用いた。樹脂粒子Aは、アニオン性を有していた。樹脂粒子Aを構成する樹脂において、MAAに由来する繰り返し単位と、MMAに由来する繰り返し単位と、BAに由来する繰り返し単位と、STに由来する繰り返し単位との質量比(MAA単位/MMA単位/BA単位/ST単位)は、40/15/30/15であった。
【0086】
被覆樹脂粒子A及び後述するノニオン界面活性剤の質量平均分子量(Mw)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(東ソー株式会社製「HLC-8020GPC」)を用いて下記条件により測定した。検量線は、東ソー株式会社製のTSKgel標準ポリスチレンであるF-40、F-20、F-4、F-1、A-5000、A-2500、及びA-1000と、n-プロピルベンゼンとを用いて作成した。
【0087】
(質量平均分子量の測定条件)
・カラム:東ソー株式会社製「TSKgel SuperMultiporeHZ-H」(4.6mmI.D.×15cmのセミミクロカラム)
・カラム本数:3本
・溶離液:テトラヒドロフラン
・流速:0.35mL/分
・サンプル注入量:10μL
・測定温度:40℃
・検出器:IR検出器
【0088】
なお、樹脂粒子Aは、105質量%のKOH水溶液による等量中和を行ってから顔料分散液の調製に用いた。KOHの添加量は中和する共重合体の質量に基づいて計算した。なお、表1における「水」には、樹脂粒子Aの中和に用いたKOH水溶液に含まれていた水と、樹脂粒子Aの中和反応で生じた水とが含まれる。
【0089】
続けて、メディア(ジルコニアビーズ)をベッセル内に充填して、所望の顔料分散体の体積中位径(D50)となるように分散条件を調整した。すなわち、ベッセル容量に対して70質量%となるようにメディア(粒径0.5mmのジルコニアビーズ)をベッセル内に充填して、温度10℃、周速8m/秒の条件で、水冷しながらベッセルの内容物を分散させた。その結果、体積中位径(D50)100nmの顔料粒子(シアン顔料が被覆樹脂粒子Aによって被覆された顔料粒子)を含む顔料分散液Cを得た。
【0090】
上記顔料分散体の体積中位径(D50)は、顔料分散液L1をイオン交換水で300倍に希釈した溶液を測定試料とし、動的光散乱式粒径分布測定装置(シスメックス株式会社製「ゼータサイザーナノZS」)を用いて測定した。この際、測定試料数を10個とし、10個の測定試料のそれぞれについて体積中位径(D50)を求め、得られた10個の測定値の算術平均値を、顔料分散体の体積中位径(D50)とした。
【0091】
(顔料分散液Y及び顔料分散液Mの調製)
以下の点を変更した以外は、顔料分散液Cの調製と同様の方法で、顔料分散液Y及び顔料分散液Mを調製した。顔料分散液Cの調製ではシアン顔料を用いたが、顔料分散液Yの調製ではイエロー顔料(大日精化工業株式会社製「FY840(ファストイエロー74)」、成分:2-[(2-メトキシ-4-ニトロフェニル)アゾ]-N-(2-メトキシフェニル)-3-オキソブタンアミド、カラーインデックス:ピグメントイエロー74)を用い、顔料分散液Mの調製ではマゼンタ顔料(大日精化工業株式会社製「FASTOGEN SUPER MAGENTA R(ファストゲンスーパーマゼンタR)」、成分:2,9-ジメチルキナクリドン、カラーインデックス:ピグメントレッド122)を用いた。
【0092】
[インクの調製]
下記表2及び表3に示す種類及び含有割合の各成分を、攪拌機(新東科学株式会社製「スリーワンモーターBL-600」)に投入し、回転数400rpmで攪拌して均一に混合した。下記表2及び表3において、顔料分散液としては、上述の顔料分散液C、顔料分散液M又は顔料分散液Yを用いた。得られた混合物から異物及び粗大粒子を除去するため、孔径5μmのフィルターを用いて混合液をろ過した。その結果、マゼンタインク(M-1)~(M-5)、イエローインク(Y-1)~(Y-5)及びシアンインク(C-1)~(C-6)を得た。
【0093】
【表2】
【0094】
表2に示されるノニオン界面活性剤としては、アクリル酸ポリエチレングリコールメチルエーテル(PEGA)-アクリル酸ブチル(BA)-アクリル酸ポリプロピレングリコール(PPGA)-アクリル酸ラウリル(LA)-メタクリル酸メチル(MMA)共重合体を用いた。この共重合体において、PEGAに由来する繰り返し単位と、BAに由来する繰り返し単位と、PPGAに由来する繰り返し単位と、LAに由来する繰り返し単位と、MMAに由来する繰り返し単位との質量比(PEGA単位/BA単位/PPGA単位/LA単位/MMA単位)は、60/10/10/12/8であった。ノニオン界面活性剤の表面張力は30.5mN/mであり、質量平均分子量(Mw)は5,000であった。ノニオン界面活性剤は水に可溶であった。なお、ノニオン界面活性剤の表面張力は、表面張力計(協和界面科学株式会社製「CBVP-Z」)を用いて、ウィルヘルミー法により液温25℃にて測定した。
【0095】
インクの25℃における粘度は、落球式自動マイクロ粘度計(アントンパール社製「AMVn」)を用いて測定した。粘度の測定においては、直径1.6mmのキャピラリ-と、直径1.5mmかつ比重7.63のスチール球とを用い、落球角度を70度、温度を25℃とした。測定後、上述のアントンパール社製「AMVn」の専用ソフトウェアにてインクの粘度を算出した。
【0096】
<評価>
[評価機の準備]
評価機としては、図1のインクジェット記録装置100の構成を備えたインクジェット記録装置(京セラドキュメントソリューションズ株式会社製の試作評価機)を使用した。但し、記録ヘッドにおけるノズルの配置、及び記録ヘッドに収容するインクについては図1から適宜変更した。評価機の4つの記録ヘッドのうち3つの記録ヘッドに、マゼンタインク(M-1)~(M-5)のうち1つと、イエローインク(Y-1)~(Y-5)のうち1つと、シアンインク(C-1)~(C-6)のうち1つとをそれぞれ充填した。使用したインクの種類及び吐出順序を下記表3に示す。
【0097】
下記表3において、「MPD」は、インクにおける3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有割合を示す。「粘度」は、インクの25℃における粘度を示す。なお、実施例で用いた各インクの25℃における粘度は、顔料の種類及び含有割合と、3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有割合とによって主に決定される。そのため、各インクの25℃における粘度と、3-メチル-1,5-ペンタンジオールの含有割合とは、必ずしも比例しない。
【0098】
【表3】
【0099】
評価機の記録ヘッドの詳細について説明する。記録ヘッドは、図3(a)及び図3(b)に示す吐出ユニット30を有していた。吐出ユニット30において、加圧室33は、断面積が0.2mm2、幅が200μm、深さが100μmであった。ノズル流路34は、直径が200μm、長さが800μmであった。孔32は、直径が30μm、長さが40μmであった。ノズル12は、長さが30μmであった。ノズル12の開口は、形状が円形で、半径Rが10μmであった。記録ヘッドには、基板上に、上述の吐出ユニット30のノズル列が4列配設され、各ノズル列は166個のノズル30が配列していた(吐出ユニット30の合計664個)。吐出ユニット30の各ノズル列において、吐出ユニット30のピッチは150dpiとした。また、記録ヘッドにおいて、隣り合う各ノズル列は、列に沿った方向に各々1/4ピッチずらし、全体として600dpiとした。
【0100】
[画像の形成]
各評価機を用い、温度25℃かつ湿度60%RHの常温常湿環境下で、A4の普通紙(三菱製紙株式会社製「PDW」)に大きさ10cm×10cmのソリッド画像を形成した。この際、記録ヘッドから吐出されるインクの量はイエローインク、マゼンタインク及びシアンインクを3.6plずつ吐出(合計11pL)し、3次色を形成した。
【0101】
[画像濃度の測定]
ソリッド画像が形成された用紙について、評価機から排出されてから5秒後、荷重1kgの条件で印字面に白紙用紙を往復10回擦り付けた。その後、ソリッド画像が形成された用紙について、白紙用紙を擦り付けることによって汚れが生じたか否かを測定した。測定は、ソリッド画像が形成された用紙の非印字部(印字部の縁から1cmの位置)のブラックの濃度を反射濃度計(X-Rite社製「RD-19」)により測定した。この非印字部の画像濃度は、その数値が低いほど、画像のオフセットを抑制できていることを示す。非印字部の画像濃度は、0.020未満の場合は画像のオフセットを抑制できていると評価でき、0.020以上の場合は画像のオフセットを抑制できていないと評価できる。測定結果を下記表4に示す。
【0102】
【表4】
【0103】
実施例1~3の評価機は、3個以上の記録ヘッドを備えていた。記録ヘッドは、それぞれ異なる種類のインクを収容し、かつインクを記録媒体に順次吐出した。インクは、それぞれ顔料を含有していた。インクのうち、第1番目に吐出される第1インクは、顔料の含有割合が最も低かった。第3番目以降に吐出されるインク(具体的には、第3インク)は、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインク(具体的には、第2インク)と比較し、顔料の含有割合が同一であるか、又は高かった。第2番目以降に吐出されるインク(具体的には、第2インク又は第3インク)は、それぞれ、1つ前の順番に吐出されるインク(具体的には、第1インク又は第2インク)と比較し、25℃における粘度が低かった。その結果、実施例1~3の評価機は、形成される画像のオフセットを抑制することができた。
【0104】
一方、比較例1~3の評価機は、上述の構成を満たしていなかった。具体的には、比較例1の評価機は、第3インクの顔料の含有割合が、第2インクの顔料の含有割合よりも低かった。比較例2の評価機は、第1~第3インクのうち、第1インクの顔料の含有割合が最も高かった。また、比較例2の評価機は、第3インクが、第2インクよりも顔料の含有割合が低かった。更に、比較例2の評価機は、第2インク及び第1インクの25℃における粘度が同一であった。比較例3の評価機は、第1~第3インクのうち、第1インクの顔料の含有割合が最も高かった。また、比較例3の評価機は、第3インクが、第2インクよりも顔料の含有割合が低かった。更に、比較例3の評価機は、第2インクが第1インクよりも25℃における粘度が高く、かつ第3インクが第2インクよりも25℃における粘度が高かった。その結果、比較例1~3の評価機は、形成される画像のオフセットを抑制できなかった。
【0105】
以上の結果から、本発明によれば、形成される画像のオフセットを抑制できると判断される。
【産業上の利用可能性】
【0106】
本発明に係るインクジェット記録装置及びインクジェット記録方法は、例えばカラープリンターにおいて画像を形成するために用いることができる。
【符号の説明】
【0107】
1 搬送部
11、11C、11M、11Y、11K 記録ヘッド(インクジェット記録ヘッド)
12 ノズル
100 インクジェット記録装置
N1、N2 ノズル列
図1
図2
図3
図4