(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】車両用同期装置
(51)【国際特許分類】
F16D 23/06 20060101AFI20221109BHJP
B60K 23/08 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
F16D23/06 C
B60K23/08 C
(21)【出願番号】P 2018190486
(22)【出願日】2018-10-05
【審査請求日】2021-04-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100085361
【氏名又は名称】池田 治幸
(74)【代理人】
【識別番号】100147669
【氏名又は名称】池田 光治郎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 真幸
(72)【発明者】
【氏名】吉村 孝広
(72)【発明者】
【氏名】西澤 貴朗
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-157127(JP,A)
【文献】特開2016-003717(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 23/06
B60K 23/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周面に円錐状外周摩擦面を有するとともに内周面に円錐状内周摩擦面を有するアウタリングと、外周面に円錐状外周摩擦面を有するインナリングと、前記アウタリングの前記円錐状内周摩擦面に摺接可能な円錐状外周摩擦面を有するとともに前記インナリングの前記円錐状外周摩擦面に摺接可能な円錐状内周摩擦面を有するミドルリングと、を備え、共通な回転軸線まわりに相対回転する第1回転部材と第2回転部材とを同期させる車両用同期装置であって、
前記アウタリングおよび前記インナリングは、前記回転軸線方向に突き出す爪片をそれぞれ有しており、
前記回転軸線まわりに回転する前記アウタリングの前記爪片を係止する第1係止部と前記回転軸線まわりに回転する前記インナリングの前記爪片を係止する第2係止部とを有し、前記アウタリングおよび前記インナリングが前記第1回転部材および前記第2回転部材のうちの一方の回転部材に対して動力伝達可能且つ前記アウタリングおよび前記インナリングが前記一方の回転部材に対して前記回転軸線方向に移動可能に、前記アウタリングおよび前記インナリングを保持するホルダを備え、
前記ホルダでは、前記第1係止部と前記第2係止部とが前記回転軸線まわりにおいて相互にずれた位置に配置されて
おり、
前記ホルダは、円筒部と、前記円筒部から外周側へ突き出した突部を有し、前記第1係止部および前記第2係止部は、前記突部に形成されている
ことを特徴とする車両用同期装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アウタリングと、インナリングと、ミドルリングと、前記アウタリングおよび前記インナリングを保持するホルダと、を備える車両用同期装置に関して、前記ホルダの耐久性を向上させる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
(a)外周面に円錐状外周摩擦面を有するとともに内周面に円錐状内周摩擦面を有するアウタリングと、(b)外周面に円錐状外周摩擦面を有するインナリングと、(c)前記アウタリングの前記円錐状内周摩擦面に摺接可能な円錐状外周摩擦面を有するとともに前記インナリングの前記円錐状外周摩擦面に摺接可能な円錐状内周摩擦面を有するミドルリングと、を備え、共通な回転軸線まわりに相対回転する第1回転部材および第2回転部材を同期させる車両用同期装置が知られている。例えば、特許文献1に記載された車両用同期装置がそれである。上記特許文献1では、前記アウタリングおよび前記インナリングは、リングギヤの内周面と入力軸の外周面との間に配設された状態で、それぞれ入力軸にスプライン嵌合されており、前記アウタリングおよび前記インナリングは、それぞれ、前記入力軸に対して動力伝達可能且つ前記入力軸に対して前記入力軸が回転する回転軸線方向に移動可能に、前記入力軸に設けられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のような車両用同期装置では、前記アウタリングおよび前記インナリングが前記入力軸に対して動力伝達可能且つ前記アウタリングおよび前記インナリングが前記入力軸に対して前記回転軸線方向に移動可能に、前記アウタリングおよび前記インナリングを保持するホルダを設けることが考えられている。しかしながら、前記ホルダを備える車両用同期装置では、前記入力軸の回転速度に同期させるために前記入力軸から前記ホルダを介して前記アウタリングおよび前記インナリングに同期トルクが伝達されるので、前記ホルダは、前記同期トルクが伝達されても予め設定された耐久性を確保できるように大型化してしまうという問題があった。
【0005】
本発明は、以上の事情を背景として為されたものであり、その目的とするところは、ホルダの耐久性を向上させてそのホルダの小型軽量化を図ることができる車両用同期装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1発明の要旨とするところは、(a)外周面に円錐状外周摩擦面を有するとともに内周面に円錐状内周摩擦面を有するアウタリングと、外周面に円錐状外周摩擦面を有するインナリングと、前記アウタリングの前記円錐状内周摩擦面に摺接可能な円錐状外周摩擦面を有するとともに前記インナリングの前記円錐状外周摩擦面に摺接可能な円錐状内周摩擦面を有するミドルリングと、を備え、共通な回転軸線まわりに相対回転する第1回転部材と第2回転部材とを同期させる車両用同期装置であって、(b)前記アウタリングおよび前記インナリングは、前記回転軸線方向に突き出す爪片をそれぞれ有しており、(c)前記回転軸線まわりに回転する前記アウタリングの前記爪片を係止する第1係止部と前記回転軸線まわりに回転する前記インナリングの前記爪片を係止する第2係止部とを有し、前記アウタリングおよび前記インナリングが前記第1回転部材および前記第2回転部材のうちの一方の回転部材に対して動力伝達可能且つ前記アウタリングおよび前記インナリングが前記一方の回転部材に対して前記回転軸線方向に移動可能に、前記アウタリングおよび前記インナリングを保持するホルダを備え、(d)前記ホルダでは、前記第1係止部と前記第2係止部とが前記回転軸線まわりにおいて相互にずれた位置に配置されており、(e)前記ホルダは、円筒部と、前記円筒部から外周側へ突き出した突部を有し、前記第1係止部および前記第2係止部は、前記突部に形成されていることにある。
【発明の効果】
【0007】
第1発明によれば、(b)前記アウタリングおよび前記インナリングは、前記回転軸線方向に突き出す爪片をそれぞれ有しており、(c)前記回転軸線まわりに回転する前記アウタリングの前記爪片を係止する第1係止部と前記回転軸線まわりに回転する前記インナリングの前記爪片を係止する第2係止部とを有し、前記アウタリングおよび前記インナリングが前記第1回転部材および前記第2回転部材のうちの一方の回転部材に対して動力伝達可能且つ前記アウタリングおよび前記インナリングが前記一方の回転部材に対して前記回転軸線方向に移動可能に、前記アウタリングおよび前記インナリングを保持するホルダを備え、(d)前記ホルダでは、前記第1係止部と前記第2係止部とが前記回転軸線まわりにおいて相互にずれた位置に配置されており、(e)前記ホルダは、円筒部と、前記円筒部から外周側へ突き出した突部を有し、前記第1係止部および前記第2係止部は、前記突部に形成されている。このため、前記ホルダでは、前記第1係止部と前記第2係止部とが前記回転軸線まわりにおいて相互にずれた位置に配置されているので、前記第1回転部材の回転速度と前記第2回転部材の回転速度とを同期させるときに、前記ホルダにおいて前記アウタリングへ同期トルクを伝達させることによって生じる応力と前記インナリングへ同期トルクを伝達させることによって生じる応力とを好適に分散させることができる。これにより、たとえば、前記アウタリングへ同期トルクを伝達させることによって生じる応力と前記インナリングへ同期トルクを伝達させることによって生じる応力とが前記ホルダの一箇所に集中するものに比較して、前記ホルダの耐久性を好適に向上させることができ、前記ホルダの小型軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明が好適に適用された四輪駆動車両の構成を概略的に説明する骨子図である。
【
図2】
図1の四輪駆動車両に設けられた第2断接装置の同期装置の構成を説明する断面図である。
【
図3】
図2の同期装置の構成を説明する斜視図である。
【
図4】
図2のIV-IV視断面図であり、シンクロホルダからアウタリングおよびインナリングへ同期トルクを伝達している状態を示す図である。
【
図5】
図2の同期装置に備えられたシンクロホルダとは異なる比較例のシンクロホルダを示す図であり、その比較例のシンクロホルダからアウタリングおよびインナリングへ同期トルクを伝達している状態を示す図である。
【
図6】本発明の他の実施例(実施例2)の同期装置を説明する図であり、その同期装置に備えられたシンクロホルダからアウタリングおよびインナリングへ同期トルクを伝達している状態を示す図である。
【
図7】
図6の同期装置に備えられたシンクロホルダとは異なる比較例のシンクロホルダを示す図であり、その比較例のシンクロホルダからアウタリングおよびインナリングへ同期トルクを伝達している状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施例を、図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、以下の実施例において図は適宜簡略化或いは変形されており、各部の寸法比および形状等は必ずしも正確に描かれていない。
【実施例1】
【0010】
図1は、本発明が好適に適用された四輪駆動車両(車両)10の構成を概略的に説明する骨子図である。
図1において、四輪駆動車両10は、エンジン12を駆動力源とし、エンジン12からの駆動力を主駆動輪に対応する左右一対の前輪14L、14Rに伝達する第1の動力伝達経路と、四輪駆動状態においてエンジン12の駆動力の一部を副駆動輪に対応する左右一対の後輪16L、16Rに伝達する第2の動力伝達経路と、を備えているFFベースの四輪駆動装置を有している。
【0011】
四輪駆動車両10が二輪駆動状態のときには、エンジン12から自動変速機18を介して伝達された駆動力が、前輪用駆動力配分装置20を通して左右一対の前輪14L、14Rへ伝達される。この二輪駆動状態のときには、少なくとも第1断接装置22の第1噛合式クラッチ24が解放され、トランスファ26、プロペラシャフト28、後輪用駆動力配分装置30、および、左右一対の後輪16L、16Rへは、エンジン12から駆動力が伝達されない。しかし、四輪駆動車両10が四輪駆動状態のときには、第1噛合式クラッチ24および第2断接装置32の第2噛合式クラッチ34が共に係合されるとともに左制御カップリング36Lおよび右制御カップリング36Rが共に係合されて、上記トランスファ26、プロペラシャフト28、後輪用駆動力配分装置30、および、左右一対の後輪16L、16Rへエンジン12から駆動力が伝達される。
【0012】
後輪用駆動力配分装置30は、
図1および
図2に示すように、プロペラシャフト28の後輪16L、16R側の端部に一体的に設けられたドライブピニオン38に噛み合うリングギヤ(第1回転部材)40と、回転軸線Cまわりに回転可能に軸受42a、42bを介して後輪用駆動力配分装置30のケース44に支持された円筒状の中央車軸(第2回転部材)46と、中央車軸46から後輪車軸48Lへ伝達される伝達トルクを制御する左制御カップリング36Lと、中央車軸46から後輪車軸48Rへ伝達される伝達トルクを制御する右制御カップリング36Rと、リングギヤ40と中央車軸46との間の動力伝達経路を選択的に切断または接続する第2断接装置32と、を備えている。
【0013】
円筒状のリングギヤ40は、
図2に示すように、例えば斜歯又はハイポイドギヤが形成された傘歯車であり、リングギヤ40の内周部から後輪16L側に略円筒状に突出する軸部40aが形成されている。また、円筒状のリングギヤ40は、ケース44内に設けられた軸受50を介してケース44により軸部40aが支持されることによって、回転軸線Cまわりに回転可能に片持状に支持されている。
【0014】
円筒状の中央車軸46は、
図2に示すように、円筒状のリングギヤ40の内側を貫通して、中央車軸46の一部がリングギヤ40の内側に配置されている。また、円筒状の中央車軸46は、ケース44内に設けられた一対の軸受42a、42bに両端部が支持されることによって、中央車軸46が回転軸線Cまわりに回動可能にすなわちリングギヤ40と同心に回転可能に支持されている。すなわち、中央車軸46とリングギヤ40は、共通な回転軸線Cまわりに回転する。
【0015】
第2噛合式クラッチ34には、
図2に示すように、リングギヤ40に形成された複数の噛合歯40bと、噛合歯40bとの噛み合いが可能な複数の噛合歯52aが形成された円筒状の可動スリーブ52と、が備えられている。なお、可動スリーブ52には、中央車軸46に対して回転軸線Cまわりの相対回転が不能且つ中央車軸46に対して回転軸線C方向の相対移動が可能に、中央車軸46に形成された外周スプライン歯46aに噛み合う内周噛合歯52bが形成されている。また、可動スリーブ52は、第2断接装置32に設けられた移動装置54(
図1参照)によって可動スリーブ52が回転軸線C方向に移動することにより、可動スリーブ52の噛合歯52aが選択的にリングギヤ40の噛合歯52aに噛み合うようになっている。
【0016】
移動装置54は、可動スリーブ52を噛合位置と非噛合位置とに選択的に回転軸線C方向に移動させて、第2噛合式クラッチ34を選択的に係合させる。なお、前記噛合位置は、可動スリーブ52が回転軸線C方向に移動し可動スリーブ52の噛合歯52aがリングギヤ40の噛合歯40bと噛み合う位置である。また、前記非噛合位置は、可動スリーブ52が回転軸線C方向に移動し可動スリーブ52の噛合歯52aがリングギヤ40の噛合歯40bと噛み合わない位置である。
【0017】
移動装置54は、
図1に示すように、電磁アクチュエータ56と、ラチェット機構58と、を備えている。なお、電磁アクチュエータ56には、例えば、ボールカム60と、電磁コイル62と、補助クラッチ64等と、が備えられている。電磁アクチュエータ56は、例えば中央車軸46が回転している状態において、図示しない電子制御装置から電磁コイル62に駆動電流が供給されると、電磁コイル62に補助クラッチ64の可動片64aが吸着されることによりボールカム60で第1カム部材60aと第2カム部材60bとが相対回転して、第1カム部材60aに一体的に設けられた第1ピストン66を回転軸線C方向においてスプリング68の付勢力に抗して後輪16L側へ移動、すなわち第1ピストン66を
図2に示す矢印F1方向へ移動させる。また、電磁アクチュエータ56では、図示しない電子制御装置から電磁コイル62に供給されていた駆動電流の供給が停止させられると、電磁コイル62に可動片64aが吸着されなくなり第2カム部材60bが球状転動体60cを介して第1カム部材60aと連れまわって、第1ピストン66が、スプリング68の付勢力によって後輪16R側へ移動する。なお、スプリング68は、可動スリーブ52を前記非噛合位置から前記噛合位置に向けて常時付勢、すなわち可動スリーブ52を回転軸線C方向において後輪16R側に常時付勢している。
【0018】
ラチェット機構58は、
図2に示すように、環状の第1ピストン66と、環状の第2ピストン70と、複数の掛止歯すなわち第1掛止歯72aおよび第2掛止歯72bを周方向に複数有する環状のホルダ72と、を備えている。第1ピストン66は、電磁コイル62が可動片64aを吸着したり可動片64aを吸着しないことによりボールカム60によって所定のストロークで回転軸線C方向に往復移動させられる。また、第2ピストン70は、第1ピストン66の回転軸線C方向の往復移動によりスプリング68の付勢力に抗して可動スリーブ52を前記非噛合位置へ移動させる。また、ホルダ72は、第1掛止歯72aおよび第2掛止歯72bのいずれか1つで第1ピストン66により移動させられた第2ピストン70を掛け止める。
【0019】
第2断接装置32では、電磁アクチュエータ56によって、第1ピストン66が回転軸線C方向において後輪16L側、後輪16R側へ例えば1回往復移動させられると、
図2に示すように、ラチェット機構58を介して可動スリーブ52が前記非噛合位置へスプリング68の付勢力に抗して移動させられて、第2ピストン70がホルダ72の第1掛止歯72aに掛け止められる。また、第2断接装置32では、電磁アクチュエータ56によって、第1ピストン66が例えば2回往復移動、すなわち可動スリーブ52が前記非噛合位置に配置された状態でさらに第1ピストン66が1回往復移動させられると、第2ピストン70がホルダ72の第1掛止歯72aから掛け外されて第2ピストン70がホルダ72の第2掛止歯72bに掛け止められると、可動スリーブ52がスプリング68の付勢力によって前記噛合位置へ移動させられる。
【0020】
第2断接装置32には、第1噛合式クラッチ24および第2噛合式クラッチ34がそれぞれ解放された状態において共通な回転軸線Cまわりに相対回転するリングギヤ40と中央車軸46とを同期させる同期装置(車両用同期装置)80が備えられている。同期装置80には、
図2に示すように、外周面に円錐状の外周摩擦面(円錐状外周摩擦面)82aを有するとともに内周面に円錐状の内周摩擦面(円錐状内周摩擦面)82bを有する環状のアウタリング82と、外周面に円錐状の外周摩擦面(円錐状外周摩擦面)84aを有する環状のインナリング84と、アウタリング82の内周摩擦面82bに摺接可能な円錐状の外周摩擦面(円錐状外周摩擦面)86aを有するとともにインナリング84の外周摩擦面84aに摺接可能な円錐状の内周摩擦面(円錐状内周摩擦面)86aを有する環状のミドルリング86と、が備えられている。なお、
図2および
図3に示すように同期装置80においてアウタリング82は最も外周側に配置されており、
図2に示すように、リングギヤ40の内周部には、アウタリング82の外周摩擦面82aに向かい合い外周摩擦面82aに摺接可能な円錐状の内周摩擦面40cが形成されている。また、同期装置80においてインナリング84は最も内周側に配置されており、ミドルリング86はインナリング84とアウタリング82との間に配置されている。なお、
図2に示すように、アウタリング82に形成された外周摩擦面82aおよび内周摩擦面82bと、インナリング84に形成された外周摩擦面84aと、ミドルリング86に形成された外周摩擦面86aおよび内周摩擦面86bと、は、それぞれ、回転軸線C方向において後輪16R側から後輪16L側に向かうに連れて回転軸線Cに接近するように傾斜するテーパー状の面である。
【0021】
また、同期装置80には、アウタリング82およびインナリング84が中央車軸46に対して動力伝達可能且つアウタリング82およびインナリング84が中央車軸46に対して回転軸線C方向に移動可能に、アウタリング82およびインナリング84を保持するシンクロホルダ(ホルダ)88が備えられている。
【0022】
図2および
図3に示すように、アウタリング82は、回転軸線C方向においてシンクロホルダ88側に突き出す複数すなわち実施例では4つのシンクロアウタ爪(爪片)82cを一体的に有している。また、インナリング84は、回転軸線C方向においてシンクロホルダ88側に突き出す複数すなわち実施例では4つのシンクロインナ爪(爪片)84bを一体的に有している。また、ミドルリング86は、回転軸線C方向においてシンクロホルダ88側とは反対側に突き出す複数すなわち実施例では4つのシンクロミドル爪86cを一体的に有している。なお、ミドルリング86は、シンクロミドル爪86cがリングギヤ40の内周部に形成された係止部40dに係止されることにより、リングギヤ40に対して動力伝達可能且つリングギヤ40に対して回転軸線C方向に移動可能にリングギヤ40に設けられている。
【0023】
シンクロホルダ88は、
図2から
図4に示すように、中央車軸46の外周側に配置された環状の環状部88aと、環状部88aの外周部からラチェット機構58の第2ピストン72に接近する方向に円筒状に突き出した円筒部88bと、円筒部88bから外周側に突き出した4つの突起88cと、を一体的に備えている。
【0024】
シンクロホルダ88の環状部88aには、その環状部88aの内周部に中央車軸46の外周スプライン歯46aにスプライン嵌合する内周歯88dが形成されている。シンクロホルダ88は、そのシンクロホルダ88の内周歯88dに中央車軸46の外周スプライン歯46aがスプライン嵌合することにより、中央車軸46に対して動力伝達可能すなわち中央車軸46に対して相対回転不能且つ中央車軸46に対して回転軸線C方向の移動可能に、中央車軸46に設けられている。また、シンクロホルダ88は、スプリング68の付勢力によって可動スリーブ52と第2ピストン70との間に挟まれている。すなわち、シンクロホルダ88は、スプリング68の付勢力によって可動スリーブ52に一体的に固定されている。
【0025】
シンクロホルダ88の突起88cには、
図4に示すように、それぞれ、シンクロホルダ88の円筒部88bの外周面88eから外周側に突き出した第1突部88fと、第1突部88fからさらに外周側に突き出した第2突部88gと、が備えられている。また、
第2突部88gには、回転軸線Cまわりに回転するアウタリング82のシンクロアウタ爪82cを係止する第1係止部88hが形成されており、
第1突部88fには、回転軸線Cまわりに回転するインナリング84のシンクロインナ爪84bを係止する第2係止部88iが形成されている。なお、アウタリング82のシンクロアウタ爪82cがシンクロホルダ88の第1係止部88hに係止されることによって、シンクロホルダ88は、アウタリング82が中央車軸46に対して動力伝達可能且つアウタリング82が中央車軸46に対して回転軸線C方向に移動可能に、アウタリング82を保持する。また、インナリング84のシンクロインナ爪84bがシンクロホルダ88の第2係止部88iに係止されることによって、シンクロホルダ88は、インナリング84が中央車軸46に対して動力伝達可能且つインナリング84が中央車軸46に対して回転軸線C方向に移動可能に、インナリング84を保持する。
【0026】
図4に示すように、第1係止部88hにおいてシンクロアウタ爪82cが当接する当接面88jと第1突部88fの外周面88kとを連結する第1連結面88lは、円弧状に曲げられている。また、第2係止部88iにおいてシンクロインナ爪84bが当接する当接面88mとシンクロホルダ88の円筒部88bの外周面88eとを連結する第2連結面88nは、円弧状に曲げられている。なお、シンクロホルダ88は、例えば焼結金属を金型を用いて成形するが、第2連結面88nが円弧状に曲げられて成形され易くなるように、
図3に示すように、シンクロホルダ88の円筒部88bの4つの箇所が切り欠かれて成形(切欠88o)されている。
【0027】
また、
図4に示すように、シンクロホルダ88の突起88cでは、それぞれ、第1係止部88hと第2係止部88iとが回転軸線Cまわりにおいて相互にずれた位置に配置されている。すなわち、シンクロホルダ88の突起88cでは、それぞれ、第1係止部88hに形成された当接面88jと第2係止部88iに形成された当接面88mとが回転軸線Cまわりに所定角度θだけずらされている。
【0028】
以上のように構成された同期装置80では、第1噛合式クラッチ24および第2噛合式クラッチ34がそれぞれ解放され中央車軸46が回転している場合において、電磁コイル62に駆動電流が供給されて、可動スリーブ52がスプリング68の付勢力に抗して前記非噛合位置を超えて後輪16L側に移動させられると、可動スリーブ52すなわち中央車軸46に動力伝達可能に連結されたアウタリング82およびインナリング84とリングギヤ40に動力伝達可能に連結されたミドルリング86とが摩擦係合して、中央車軸46からリングギヤ40にリングギヤ40の回転速度を中央車軸46の回転速度に上昇させる同期トルクTが伝達されて、中央車軸46の回転速度とリングギヤ40の回転速度とが同期させられる。なお、
図2で1点鎖線で示す可動スリーブ52は、可動スリーブ52がスプリング68の付勢力に抗して前記非噛合位置を超えて後輪16L側に移動させられたときの可動スリーブ52を示すものである。
【0029】
図4は、同期装置80において中央車軸46の回転速度とリングギヤ40の回転速度とを同期させるために中央車軸46からリングギヤ40に同期トルクTが伝達されている状態、すなわちシンクロホルダ88からアウタリング82およびインナリング84へ同期トルクTを伝達している状態を示す図である。なお、
図4に示す矢印F2は、中央車軸46すなわちシンクロホルダ88の回転軸線Cまわりの回転方向を示す。
図4に示すように、中央車軸46からリングギヤ40に同期トルクTが伝達されると、アウタリング82のシンクロアウタ爪82cからシンクロホルダ88の第1係止部88hに荷重F3が作用して、例えばシンクロホルダ88において1点鎖線の円CR1に示す範囲に応力が発生すなわちシンクロホルダ88の第1連結面88lに応力が発生する。そして、インナリング84のシンクロインナ爪84bからシンクロホルダ88の第2係止部88iに荷重F4が作用して、例えばシンクロホルダ88において1点鎖線の円CR2に示す範囲に応力が発生すなわちシンクロホルダ88の第2連結面88nに応力が発生する。このため、
図4に示すように、中央車軸46からリングギヤ40に同期トルクTが伝達されると、シンクロホルダ88においてアウタリング82へ同期トルクTを伝達させることによって生じる応力とインナリング84へ同期トルクTを伝達させることによって生じる応力とが好適に分散させられる。
【0030】
なお、
図5は、アウタリング82のシンクロアウタ爪82cとインナリング84のシンクロインナ爪84bとを1つの係止部90aで係止するシンクロホルダ90、すなわち本実施例のシンクロホルダ88とは異なる比較例のシンクロホルダ90を示す図である。
図5に示すように、中央車軸46からリングギヤ40に同期トルクTが伝達されると、アウタリング82のシンクロアウタ爪82cからシンクロホルダ90の係止部90aに荷重F5が作用するとともに、インナリング84のシンクロインナ爪84bからシンクロホルダ90の係止部90aに荷重F6が作用して、例えばシンクロホルダ90において1点鎖線の円CR3に示す範囲に応力が集中する。すなわち、
図5に示すように、中央車軸46からリングギヤ40に同期トルクTが伝達されると、シンクロホルダ90においてアウタリング82へ同期トルクTを伝達させることによって生じる応力とインナリング84へ同期トルクTを伝達させることによって生じる応力とが集中する。これに対して、本実施例のシンクロホルダ88は、前述のように構成されているため、比較例のシンクロホルダ90に比較して、耐久性が好適に高くなる。
【0031】
上述のように、本実施例の同期装置80によれば、アウタリング82は、回転軸線C方向に突き出すシンクロアウタ爪82cを有し、インナリング84は、回転軸線C方向に突き出すシンクロインナ爪84bを有しており、回転軸線Cまわりに回転するアウタリング82のシンクロアウタ爪82cを係止する第1係止部88hと回転軸線Cまわりに回転するインナリング84のシンクロインナ爪84bを係止する第2係止部88iとを有し、アウタリング82およびインナリング84が中央車軸46に対して動力伝達可能且つアウタリング82およびインナリング84が中央車軸46に対して回転軸線C方向に移動可能に、アウタリング82およびインナリング84を保持するシンクロホルダ88を備え、シンクロホルダ88では、第1係止部88hと第2係止部88iとが回転軸線Cまわりにおいて相互にずれた位置に配置されている。このため、シンクロホルダ88では、第1係止部88hと第2係止部88iとが回転軸線Cまわりにおいて相互にずれた位置に配置されているので、リングギヤ40の回転速度と中央車軸46の回転速度とを同期させるときに、シンクロホルダ88においてアウタリング82へ同期トルクTを伝達させることによって生じる応力とインナリング84へ同期トルクTを伝達させることによって生じる応力とを好適に分散させることができる。これにより、たとえば、アウタリング82へ同期トルクTを伝達させることによって生じる応力とインナリング84へ同期トルクTを伝達させることによって生じる応力とがシンクロホルダ90の一箇所に集中するシンクロホルダ90に比較して、シンクロホルダ88の耐久性を好適に向上させることができ、シンクロホルダ88の小型軽量化を図ることができる。
【0032】
続いて、本発明の他の実施例を図面に基づいて詳細に説明する。以下の説明において、実施例相互に共通する部分については同一の符号を付してその説明を省略する。
【実施例2】
【0033】
図6は、本発明の他の実施例の同期装置を説明する図である。本実施例の同期装置は、実施例1の同期装置80に比較して、アウタリング82のシンクロアウタ爪82cが3つある点と、インナリング84のシンクロインナ爪84bが3つある点と、シンクロホルダ(ホルダ)100の形状が異なっている点と、で相違しており、その他は実施例1の同期装置80と略同じである。
【0034】
シンクロホルダ100は、
図6に示すように円板状に形成されており、そのシンクロホルダ100の内周部には、中央車軸46の外周スプライン歯46aにスプライン嵌合する内周歯100aが形成されている。また、シンクロホルダ100には、そのシンクロホルダ100から外周側に突き出した3つの突起100bと、その突起100bと内周歯100aとの間に貫通しシンクロホルダ100の周方向に伸びる長穴100cと、が形成されている。なお、シンクロホルダ100の突起100bには、それぞれ、回転軸線Cまわりに回転するアウタリング82のシンクロアウタ爪82cを係止する第1係止部100dが形成されており、シンクロホルダ100の長穴100cの周辺部分には、それぞれ、回転軸線Cまわりに回転するインナリング84のシンクロインナ爪84bを係止する第2係止部100eが形成されている。なお、アウタリング82のシンクロアウタ爪82cがシンクロホルダ100の第1係止部100dに係止されることによって、シンクロホルダ100は、アウタリング82が中央車軸46に対して動力伝達可能且つアウタリング82が中央車軸46に対して回転軸線C方向に移動可能に、アウタリング82を保持する。また、インナリング84のシンクロインナ爪84bがシンクロホルダ100の第2係止部100eに係止されることによって、シンクロホルダ100は、インナリング84が中央車軸46に対して動力伝達可能且つインナリング84が中央車軸46に対して回転軸線C方向に移動可能に、インナリング84を保持する。
【0035】
また、
図6に示すように、シンクロホルダ100では、第1係止部100dと第2係止部100eとが回転軸線Cまわりにおいて相互にずれた位置に配置されている。すなわち、シンクロホルダ100では、第1係止部88hに形成されたアウタリング82のシンクロアウタ爪82cが当接する当接面100fと第2係止部100eに形成されたインナリング84のシンクロインナ爪84bが当接する当接面100gとが回転軸線Cまわりにおいて所定角度θ1だけずらされている。
【0036】
図6は、本実施例の同期装置において中央車軸46の回転速度とリングギヤ40の回転速度とを同期させるために中央車軸46からリングギヤ40に同期トルクTが伝達されている状態、すなわちシンクロホルダ100からアウタリング82およびインナリング84へ同期トルクTを伝達している状態を示す図である。
図6に示すように、中央車軸46からリングギヤ40に同期トルクTが伝達されると、アウタリング82のシンクロアウタ爪82cからシンクロホルダ100の第1係止部100dに荷重F7が作用して、例えばシンクロホルダ100において1点鎖線の円CR4に示す範囲に応力が発生する。そして、インナリング84のシンクロインナ爪84bからシンクロホルダ100の第2係止部100eに荷重F8が作用して、例えばシンクロホルダ100において1点鎖線の円CR5に示す範囲に応力が発生する。このため、
図6に示すように、中央車軸46からリングギヤ40に同期トルクTが伝達されると、シンクロホルダ100においてアウタリング82へ同期トルクTを伝達させることによって生じる応力とインナリング84へ同期トルクTを伝達させることによって生じる応力とが好適に分散させられる。
【0037】
なお、
図7は、アウタリング82のシンクロアウタ爪82cとインナリング84のシンクロインナ爪84bとを1つの係止部110aで係止するシンクロホルダ110、すなわち本実施例のシンクロホルダ100とは異なる比較例のシンクロホルダ110を示す図である。
図7に示すように、中央車軸46からリングギヤ40に同期トルクTが伝達されると、アウタリング82のシンクロアウタ爪82cからシンクロホルダ110の係止部110aに荷重F9が作用するとともに、インナリング84のシンクロインナ爪84bからシンクロホルダ110の係止部110aに荷重F10が作用して、例えばシンクロホルダ110において1点鎖線の円CR6に示す範囲に応力が集中する。すなわち、
図7に示すように、中央車軸46からリングギヤ40に同期トルクTが伝達されると、シンクロホルダ110においてアウタリング82へ同期トルクTを伝達させることによって生じる応力とインナリング84へ同期トルクTを伝達させることによって生じる応力とが集中する。これに対して、本実施例のシンクロホルダ100は、前述のように構成されているため、比較例のシンクロホルダ110に比較して、耐久性が好適に高くなる。
【0038】
以上、本発明の実施例を図面に基づいて詳細に説明したが、本発明はその他の態様においても適用される。
【0039】
例えば、前述の実施例1の同期装置80において、シンクロホルダ88は、アウタリング82およびインナリング84が中央車軸46に対して動力伝達可能且つアウタリング82およびインナリング84が中央車軸46に対して回転軸線C方向に移動可能に、アウタリング82およびインナリング84を保持していたが、例えば、リングギヤ40から中央車軸46に同期トルクTを伝達させる場合には、シンクロホルダ88は、アウタリング82およびインナリング84がリングギヤ40に対して動力伝達可能且つアウタリング82およびインナリング84がリングギヤ40に対して回転軸線C方向に移動可能に、アウタリング82およびインナリング84を保持するように、同期装置80の構造を変更しても良い。
【0040】
また、前述の実施例1の同期装置80において、アウタリング82のシンクロアウタ爪82cおよびインナリング84のシンクロインナ爪84bは、4つであったが、例えば2つ以上であればいくつでも良い。
【0041】
なお、上述したのはあくまでも一実施形態であり、本発明は当業者の知識に基づいて種々の変更、改良を加えた態様で実施することができる。
【符号の説明】
【0042】
40:リングギヤ(第1回転部材)
46:中央車軸(第2回転部材)
80:同期装置(車両用同期装置)
82:アウタリング
82a:外周摩擦面(円錐状外周摩擦面)
82b:内周摩擦面(円錐状内周摩擦面)
82c:シンクロアウタ爪(爪片)
84:インナリング
84a:外周摩擦面(円錐状外周摩擦面)
84b:シンクロインナ爪(爪片)
86:ミドルリング
86a:外周摩擦面(円錐状外周摩擦面)
86b:内周摩擦面(円錐状内周摩擦面)
88:シンクロホルダ(ホルダ)
88h:第1係止部
88i:第2係止部
100:シンクロホルダ(ホルダ)
100d:第1係止部
100e:第2係止部
C:回転軸線