(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ベルトおよび安全帯
(51)【国際特許分類】
A62B 35/00 20060101AFI20221109BHJP
A41D 13/00 20060101ALI20221109BHJP
D06M 15/277 20060101ALI20221109BHJP
D06M 15/427 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
A62B35/00 A
A41D13/00 107
D06M15/277
D06M15/427
(21)【出願番号】P 2018196630
(22)【出願日】2018-10-18
【審査請求日】2021-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】原田 大
【審査官】川口 裕美子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-303511(JP,A)
【文献】特開2008-163476(JP,A)
【文献】特開2015-001026(JP,A)
【文献】特開2014-061237(JP,A)
【文献】特開2015-183335(JP,A)
【文献】特開平9-137382(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A62B 35/00
A41D 13/00
D06M 15/277
D06M 15/427
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
単繊維表面が、トリアジン環含有化合物含有樹脂被膜または有機フッ素化合物およびトリアジン環含有化合物含有樹脂被膜を介して、有機フッ素系化合物含有樹脂被膜で被覆された繊維を用いてなるベルトであって、該ベルトのシートベルト規格JIS D 4604(2006)に規定された六角棒押しつけ摩耗試験2000回後の撥水性が3級以上、撥油性が4級以上であるベルト。
【請求項2】
該トリアジン環含有化合物含有樹脂被膜、または有機含フッ素化合物およびトリアジン環含有化合物含有樹脂被膜の膜厚が、5~100nmである請求項1記載のベルト。
【請求項3】
該有機フッ素系化合物含有樹脂被膜がトリアジン環含有化合物または/およびイソシアネート系化合物を含有している請求項1または2に記載のベルト。
【請求項4】
前記繊維が、引張強度3.0cN/dtex以上、総繊度500dtex以上である請求項1~3のいずれかに記載のベルト
【請求項5】
ベルトの破断強力が15.0kN以上である請求項1~4のいずれかに記載のベルト。
【請求項6】
ベルトが織物で構成され、そのカバーファクターが2800以上である請求項1~5のいずれかに記載のベルト。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか記載のベルトを用いてなる安全帯。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はベルトおよびそれを用いた安全帯に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリエステル繊維やポリアミド繊維等の繊維は,ベルト類に要求される高強力、高屈曲強力、伸長回復性、耐衝撃性、耐摩耗性、耐候性、耐薬品性等の性能を満足させることができる繊維であり、スリングベルト、連結ベルト、柱上安全帯等の工事用資材、土木資材、鞄材ベルト等の副資材として広く用いられている。
【0003】
これらの多くは屋外で用いられ、日光、風雨、海水、セメントその他の影響を受けて物性の低下、特に水分による影響により、合成繊維が加水分解を起こして物性を低下させたり、汚水の付着により汚れたり、カビを発生させたり、寒冷地では吸水した水分が凍結して劣化を生じさせたりする問題、ロープに水が浸透することにより重くなり、取扱いしにくくなる問題を解決するために0.1~3.0重量%のパーフルオロアルキル基含有化合物を紡糸油剤と共に付与し、その繊維を用いてベルトを製織し、その後130~200℃の温度で熱処理する方法が特許文献1に開示されている。そして特許文献1記載の発明においては上記構成により、ベルトを構成する個々の繊維が撥水性能を持っていて、汚水が付着して汚れたり、カビが発生したりすることがなく、また、ベルト内への毛細管現象による水分の浸透がなく重量増加による作業性の低下や凍結による劣化の起こりにくいベルトが得られることも記載されている。
【0004】
ところで、特許文献2には、単繊維表面に、トリアジン環含有化合物含有樹脂被膜または有機フッ素化合物およびトリアジン環含有化合物含有樹脂被膜を介して、有機フッ素系化合物含有樹脂被膜で被覆した繊維構造物が耐久性に優れた撥水性、撥油性および防汚性を有し、特にスポーツ衣料用途、ユニフォーム衣料用途、カジュアル衣料用途、一般衣料用途、寝装用途、インテリア用途などに有効に使用できることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平07-305274号公報
【文献】国際公開第2007-083596号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
例えば土木建築分野において、ベルトで構成された安全帯を用いて、各種塗装作業を実施する場合、塗料がベルトに付着すると、経時的にベルト内部に塗料が浸透してベルトが硬化し、作業性が低下するのみならず、審美性が低下したり、製品寿命が短くなったり、頻繁に交換作業が必要となるなどの問題があった。
【0007】
特許文献1記載のベルトは、その構成から高密度のベルトの内部まで撥水効果を付与できるが、紡糸工程でパーフルオロアルキル基含有化合物を付与するのみであるため、ペンキ等の塗料が付着した際にベルトを構成する繊維と繊維の間にペンキが浸透して固化するため、ベルトが硬化するうえ、繊維と繊維の間に付着したペンキを除去することができないものであった。
【0008】
また、特許文献2に記載の繊維構造体は、撥水・撥油性ともに優れ、その洗濯耐久性にも優れるが、同文献開示の繊維構造体をそのままベルトに用いた場合、使用開始当初であればペンキは付着しにくいものの、繰り返しの擦過に晒されると、膜構造が破壊され、その部分にペンキが付着して固化するなど、摩耗耐久性に乏しく、実用性に欠けることが判明した。
【0009】
そこで本発明は、防汚性、撥水効果を有し、水に濡れにくく、かつ、付着したペンキのベルト内部への浸透を防止可能な、作業性に優れた、耐久性を有するベルトおよびそれを用いた安全帯を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は上記課題を解決するために、次のような手段を採用する。
【0011】
(1)単繊維表面が、トリアジン環含有化合物含有樹脂被膜または有機フッ素化合物およびトリアジン環含有化合物含有樹脂被膜を介して、有機フッ素系化合物含有樹脂被膜で被覆された繊維を用いてなるベルトであって、該ベルトのシートベルト規格JIS D 4604(2006)に規定された六角棒押しつけ摩耗試験2000回後の撥水性が3級以上、撥油性が4級以上であるベルト。
【0012】
(2)該トリアジン環含有化合物含有樹脂被膜、または有機含フッ素化合物およびトリアジン環含有化合物含有樹脂被膜の膜厚が、5~100nmである(1)記載のベルト。
【0013】
(3)該有機フッ素系化合物含有樹脂被膜がトリアジン環含有化合物または/およびイソシアネート系化合物を含有している(1)または(2)に記載のベルト。
【0014】
(4)前記繊維が、引張強度3.0cN/dtex以上、総繊度500dtex以上である(1)~(3)のいずれかに記載のベルト。
【0015】
(5)ベルトの破断強力が15.0kN以上である(1)~(4)のいずれかに記載のベルト。
【0016】
(6)ベルトが織物で構成され、そのカバーファクターが2800以上である(1)~(5)のいずれかに記載のベルト。
【0017】
(7)(1)~(6)のいずれかに記載のベルトを用いてなる安全帯。
【発明の効果】
【0018】
本発明のベルトは防汚性、撥水効果を有し、水に濡れにくく、かつ、付着したペンキのベルト内部への浸透を防止可能な、作業性に優れた、耐久性を有する。また、それを用いた安全帯は、付着したペンキによるベルトの硬化を防止できることで、バックルの位置調整を容易におこなえる優れた作業性を備えているうえ、安全帯としての長寿命化が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、単繊維表面が、トリアジン環含有化合物含有樹脂被膜または有機フッ素化合物およびトリアジン環含有化合物含有樹脂被膜を介して、有機フッ素系化合物含有樹脂被膜で被覆された繊維を用いてなるベルトであって、該繊維構造物のシートベルト規格JIS D 4604(2006)に規定された六角棒押しつけ摩耗試験2000回後の撥水性が3級以上、撥油性が4級以上であることを特徴とするベルトである。
【0020】
本発明に用いる繊維としては、例えばポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリビニルアルコール繊維等の合成繊維が挙げられる。これらに含まれる芳香族ポリエステル繊維や芳香族ポリアミド繊維、高配向ポリオレフィン繊維や高配向ポリビニルアルコール繊維等も好適に用いられる。
【0021】
また、ポリエステル繊維としては、ポリエチレンテレフタレートを主たる成分とする繊維を好適に用いることができる。なかでもポリエチレンテレフタレートホモポリマーや、ポリエチレンテレフタレートの特性が損なわれない程度に第3成分を共重合した共重合ポリエステルからなるポリエステル繊維も用いることができる。
【0022】
ポリアミド繊維についても、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン46等を主成分とする繊維を好ましく挙げることができる。なかでも、その特性を損なわない程度に第3成分を共重合したナイロン6共重合体、ナイロン66共重合体、ナイロン46共重合体等の共重合ナイロンからなるポリアミド繊維を用いることもできる。
【0023】
ベルトの機械物性や染色性、コストの点から、ポリエチレンテレフタレートを主たる成分とする繊維が特に好適に用いられる。なかでもポリエチレンテレフタレートを構成する、エチレンテレフタレートの繰り返し単位が98モル%以上であることが好ましく、より好ましくは100モル%である。
【0024】
本発明に用いる繊維は、酸化チタン、炭酸カルシウム、カオリン、クレーなどの艶消し剤、顔料、染料、滑剤、酸化防止剤、耐熱剤、耐蒸熱剤、耐光剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤および難燃剤などを含むことができる。
【0025】
本発明に用いる繊維において、単繊維繊度は、本発明で規定する特性を満たす限り特に限定されるものではないが、単繊維繊度としては2dtex以上を好ましい範囲として例示することができ、4~25dtexをより好ましい範囲として例示することができる。単繊維繊度が上記の範囲を満足する場合には、耐摩耗性に有利であり、付着したペンキのベルト内部への浸透防止の耐久性に優れる点で好ましい。
【0026】
また、本発明に用いる繊維において、総繊度は、本発明で規定する特性を満たす限り特に限定されるものではないが、総繊度としては500dtex以上を好ましい範囲として例示することができ、500~3000dtexをより好ましい範囲として例示することができる。総繊度が上記の範囲を満足する場合には、付着したペンキのベルト内部への浸透防止の耐久性に優れる点で好ましい。
【0027】
さらに、本発明に用いる繊維の断面形状にも特に決まりはなく、肉薄化や剛性向上、意匠性向上などの目的で、扁平断面、中空断面、芯鞘複合断面といった様々な断面を有する繊維を使用することができる。
【0028】
本発明において、付着したペンキのベルト内部への浸透防止の耐久性の観点から、用いる繊維としては、2.5cN/dtex以上の引張強度を有することが好ましい。中でも引張強度は、3.0cN/dtex以上であることがより好ましく、3.5cN/dtex以上であることがさらに好ましい。繊維の引張強度が低すぎる場合には、ベルトとして使用する際に、単純な引っ張り方向の外力はもちろん、摩耗によっても糸切れを起こしやすいため、好ましくない。上限としては、ベルトの柔軟性の点から通常12cN/dtex以下であることが好ましい。
【0029】
また、繊維の破断伸度は20~70%程度であると、ベルト用途に衝撃緩和性を有するため好ましい。
【0030】
次に、本発明で用いる繊維の製造方法としては、本発明で規定するベルトを製造し得る限り制限はないが、本発明で特に好適に用いることができる繊維を得る方法の一例を、ポリエチレンテレフタレート溶融紡糸を例にとって示す。なお、本発明はこれに限定されることは無く、本発明で規定するベルトが得られる限りその他通常の紡糸方法を採用することができる。
【0031】
本発明で用いるポリエステルの固有粘度(IV)は、破断強伸度を制御する点から特定範囲にあることが好ましく、ポリエチレンテレフタレートの場合には、固有粘度は0.8~1.3の範囲が好ましく、より好ましくは0.9~1.2である。窒素雰囲気中でホッパーに充填されたエチレンテレフタレートの繰り返し単位が98モル%以上のポリエチレンテレフタレート樹脂のチップをエクストルーダーにて溶融混練して紡糸パックに導入し、口金より吐出する方法で得ることができる。前述の添加剤等を添加する際は、エクストルーダーにて直接混合する方法や、あらかじめ添加剤等を高濃度に含有したポリエチレンテレフタレート樹脂マスターチップを作成して、溶融前にチップをブレンドする方法が採用できる。
【0032】
溶融紡糸温度は固有粘度、ポリマ種類等により適宜変更することができるが、270~320℃であることが好ましい。270℃未満で紡糸を行なった場合にはポリマの溶融時に十分な流動性が得られない可能性があり、320℃を越える温度ではポリマが分解し、本発明の如きポリエステル繊維を得られない可能性がある。紡糸口金の直下は、紡糸口金面より0~15cmを上端とし、その上端から5~30cmの範囲を加熱筒および/または断熱筒で囲み、紡出糸条を250~350℃ の高温雰囲気中を短時間で通過させることで、非晶部配向度が低い未延伸糸が得られる。非晶部配向度が高いと低伸度で、さらに二次立ち上がり応力が急になるため、上記条件が好ましい。
【0033】
高温雰囲気中を通過した未延伸糸条は、次いで10~100℃ 、好ましくは15~75℃ の風を吹きつけて冷却固化することが好ましい。冷却風が10℃未満の場合には通常装置とは別に大型の冷却装置が必要となるため好ましくない。また、冷却風が100℃を超える場合には紡糸時の単繊維揺れが大きくなるため、単繊維同士の衝突等が発生し製糸性良く繊維を製造することが困難となる。空冷装置は横吹き出しタイプ(ユニフロー型)でも良いし、環状型吹きだしタイプを用いても良い。また、モノフィラメントの様に高い冷却効果が求められる際には、水冷等の冷却方法を採用することができる。
【0034】
冷却固化された未延伸糸条は、次いで給油装置で油剤が付与される。油剤は、水系であっても非水系であっても良い。平滑剤を主成分とし、界面活性剤、制電剤、極圧剤成分等を含み、ポリエステル樹脂に活性な成分を除いた油剤組成とすることが好ましい。例えば、平滑剤成分としてアルキルエーテルエステル、界面活性剤成分として高級アルコールのアルキレンオキサイド付加物、極圧剤成分として有機ホスフェート塩等を鉱物油で希釈した非水系油剤であることがより好ましい。
【0035】
油剤を付与された未延伸糸条は、引取りローラに捲回して引取る。引取りローラの表面速度、即ち引取り速度は2000~6000m/分が好ましく、さらに好ましくは2500~5000m/分である。1000m/分未満の引取り速度の場合には、SS曲線の降伏応力が低く、定応力伸長域で吸収できるエネルギー量が小さくなり、十分なエネルギー吸収が行われず、応力が立ち上がる領域まで伸長する必要があり、結果として人体等に加わる応力が大きくなってしまう。6000m/分を超える引き取り速度の場合には、SS曲線において降伏応力が高くなり、衝撃吸収時に人体等にかかる負荷が大きくなってしまう。
【0036】
上記引取り速度で引き取られた未延伸糸条は一旦巻き取った後、若しくは一旦巻き取ることなく連続して1~1.35倍の延伸倍率で熱処理するのが好ましく、より好ましくは1~1.3倍、さらに好ましくは1~1.25倍である。延伸倍率が1.35倍を超える場合には、定応力伸長域後の二次立上り応力の傾きが急激になるため、繊維製品とした際、大きなエネルギー吸収量が必要な衝撃が加わった時に急激な負荷が人体等にかかる懸念がある。
【0037】
例えば延伸方法としては、引取りローラ(以下、1FRと略すことがある)と同様に、2ケのローラを1ユニットとするネルソン型ローラを給糸ローラ(以下、2FRと略すことがある)、第1延伸ローラ(以下、1DRと略すことがある)、熱セットローラ(以下、2DRと略すことがある)および弛緩ローラ(以下、RRと略すことがある)と並べて配置し、順次糸条を捲回して上記条件にて延伸熱処理を行うが、この時、延伸段数、ローラ数、ローラ間での延伸倍率に特に決まりはない。通常、引取りローラと給糸ローラ間では糸条を集束させるためにストレッチを行う。ストレッチ率は1~5%の範囲が好ましい。引取りローラは50~90℃に加熱して、引き取り糸条を予熱して次の延伸工程に送る。
【0038】
延伸は給糸ローラと熱セットローラ間で行い、給糸ローラの温度は70~120℃とし、その後第1延伸ローラ(100~140℃)にて延伸倍率の90~98%で糸条の延伸を行い、熱セットローラにて総延伸倍率の1~5%で糸条の延伸を行いながら熱セットを行なう。第1延伸ローラにて延伸倍率の90~98%で糸条の延伸を行うのは、分子が結晶化していない流動性を持った状態で延伸を行い、より延伸効果を高め配向を進めるためである。延伸された糸条は熱セットローラにて130~170℃で熱セットを行なった後、熱セットローラと弛緩ローラとの間で0~7%、好ましくは0~5%、さらに好ましくは0~3%の弛緩処理を行ない、巻取り機にて巻き取られる。弛緩処理では熱延伸によって生じた歪みを取るだけで無く、延伸によって達成された構造を固定したり、非晶領域の配向を緩和させ熱収縮率を下げたりすることができる。弛緩ローラは非加熱ローラまたは、150℃以下に加熱したローラを用いる。
【0039】
また、毛羽の発生を少なくして高品位のポリエステル繊維を得るために、給糸ローラと第1延伸ローラの間に、繊維糸条に高圧流体を吹き付けて、該繊維を構成する糸条に交絡を付与し、糸条を集束させながら延伸を行っても良い。糸条を交絡、集束させるための交絡付与装置は、通常糸条を巻き取る直前に糸条に交絡を付与し、集束させるために用いられる交絡ノズルを用いることができる。該交絡付与装置は1段目の延伸時に行うのが効果的であるが、1段目に加え、2段目および3段目の延伸時にも行っても良い。ポリエステル繊維に施す交絡度(CF値)としては5~70であることが好ましく、より好ましくは10~60である。交絡度が5未満の場合には、高次加工における工程通過性が悪くなるため好ましくない。また、交絡度が70より大きい場合には、ループが発生しやすく、安定して高次加工を行うことが困難である。
【0040】
本発明のポリエステル繊維の特徴は、紡糸口金面より0~15cmを上端とし、その上端から5~30cmの範囲を加熱筒および/または断熱筒で囲み、紡出糸条を250~350℃ の高温雰囲気中を短時間で通過させたのち、次いで10~100℃ 、好ましくは15~75℃ の風を吹きつけてポリエステル繊維を急冷固化し、引き取り速度1000~2500m/分により分子鎖を引き揃えて、配向させ、さらに1~1.35倍の低倍率延伸を行い段階的かつ長時間、結晶開始温度近傍(100~120℃)の熱を加え、さらに130~170℃の低温での熱セットを併せる事で得ることができる。
【0041】
次に本発明のベルトの製造方法を説明するが、本発明の規定を満たす限りその製造方法はこれに限定されるものでは無い。
【0042】
前述のように製造された合成繊維マルチフィラメントなどの繊維を、ニードル織機等の織機を用いて下記の条件で製織することでベルトの基布を得ることができる。
【0043】
例えば、緯糸には通常の円断面糸からなる合成繊維マルチフィラメントを用い、経糸に繊度880~1760dtexで単繊維数35~880本の繊維を用いてベルトの基布とするとするなど、必要に応じてタテヨコでそれぞれ望ましい繊維を使用することも可能である。
【0044】
本発明で規定する範囲を満たす限り、織密度は限定されるものではなく、適宜変更できる。
【0045】
また、この時の織構造には特に決まりは無く、平織り、斜文織、朱子織や、それらを組み合わせた織構造を採用することができるが、ベルトの初期応力を高めるために綾織か朱子織を採用することが好ましい。
【0046】
ベルトの厚みは本発明の規定を満たす限り特に指定は無いが、2.0~3.0mmの範囲であることが好ましい。ベルトの厚みが3.0mmを超える場合には収納性に劣るという問題があり、ベルトの厚みが2.0mmを下回る場合には衝撃がベルトに加わった際にベルトが破断してしまう懸念性を有している。
【0047】
ベルトを構成する織物のカバーファクターは、特に限定されるものではないが、2800以上であることが好ましく、2800~5500であることが好ましく、3000~5000であることがさらに好ましい。カバーファクターが上記範囲よりも小さい場合には、付着したペンキのベルト内部への浸透防止の耐久性が低下する傾向にあり、カバーファクターが大きい場合には、ベルトが固いものとなり、着用性が低下する。ここで、カバーファクターとは、ベルトの単位面積中に繊維が占める割合を示す数値であり、次の式で計算する。
カバーファクター=[(タテ糸の繊度)(dtex)]1/2×(タテ糸の密度)(本/2.54cm)+[(ヨコ糸の繊度)(dtex)]1/2×(ヨコ糸の密度)(本/2.54cm)
【0048】
ベルトには必要に応じて染色加工を施しても良い。染色は通常の染色方法を採用すればよく、例えば、染色浴に浸漬後170~220℃で1~5分間処理する方法を用いることができる。染料の昇華温度に合わせて、処理温度と時間を適宜調整する。温度が上記範囲よりも低い、または処理時間が短い場合には、繊維への染着が不十分となり、堅牢度が低下する。一方、温度が上記範囲よりも高い、あるいは処理時間が長い場合も、昇華堅牢度が低下する。染料としては、アントラキノン染料、アゾ染料、ニトロジジェニルアミン染料、メチン染料およびナフトキノン染料など通常のポリエステル用染料を用いることができる。また、一般に赤、青、黄色の染料を組み合わせることによって望ましい色彩を得ることができる。
【0049】
さらに、染色に際しては、本発明の効果を損なわない範囲であれば、エトキシ化ジオクチルフェノールやアニオン性非イオン性表面活性剤、アルキルアルコールポリグリコールエーテル、硫酸エステル塩などに代表される分散・均染剤、湿潤剤のほか、抗移行剤、pH調整剤、紫外線吸収剤および酸化防止剤などの添加物を染料液中に加えても良い。
【0050】
本発明は、上記ベルトを構成する単繊維表面に、トリアジン環含有化合物含有樹脂被膜または、有機フッ素化合物およびトリアジン環含有化合物含有樹脂被膜が形成されているものである。すなわち、トリアジン環含有化合物を必須成分として含有してなる樹脂被膜または、有機フッ素化合物およびトリアジン環含有化合物を必須成分として含有してなる樹脂被膜が、単繊維表面に形成されているものである。
【0051】
本発明で用いるトリアジン環含有化合物はトリアジン環を含有し、重合性官能基を少なくとも2個有する化合物であり、例えば下記一般式で示されるものが挙げられる。
【0052】
【0053】
式中、R0~R2は、
-H、-OH、-C6H5、
-Cn0H2n0+1(n0は1~2)、
-COOCn1H2n1+1(n1は1~20)、
-CONR3R4、または、-NR3R4(ただし、R3、R4は、-H、-OCn3H2n3+1、-OCn3H2n3+1、-CH2COOCn3H2n3+1(n3は1~20)、-CH2OH、-CH2CH2OH、-CONH2、-CONHCH2OH-O-(X-O)n4-R5(だたし、Xは、C2H4、C3H6、C4H8のいずれかで、n4は1~1500、R5は-H、-CH3、-C3H7のいずれかを示す)のいずれかを示す。)
【0054】
上記一般式で表されるもの以外に、上記化合物のエチレン尿素共重合化合物、ジメチロール尿素共重合化合物、ジメチロールチオ尿素共重合化合物、酸コロイド化合物なども使用することができる。
【0055】
本発明で用いるトリアジン環含有化合物含有樹脂被膜または、有機フッ素化合物およびトリアジン環含有化合物含有樹脂被膜(以下、「トリアジン環含有化合物等含有樹脂被膜」という)の形成方法は次のとおりである。
【0056】
上記樹脂被膜を形成するためのモノマーと、触媒からなる水系液を繊維上に付与した後、重合すべく熱処理を行う。
【0057】
かかる触媒としては、樹脂被膜を形成するためのモノマーを重合するための触媒であり、酢酸、蟻酸、アクリル酸、リンゴ酸、酒石酸、マレイン酸、フタル酸、硫酸、過硫酸、塩酸、燐酸などの酸類およびこれらのアンモニウム塩、ナトリウム塩、カリウム塩、マグネシウム塩などであり、これらの一種以上を使用することができる。中でも、触媒として過硫酸アンモニウムおよび/または過硫酸カリウムが好ましく使用できる。かかる触媒の量は、モノマーの使用量に対して0.1~20重量%で使用することが好ましい。
【0058】
かかる重合のための熱処理は、好ましくは50~180℃の温度で0.1~30分間の条件で乾熱処理および/または蒸熱処理をするものであるが、蒸熱処理の方が単繊維表面に均一な被膜を形成しやすく、かつ、被膜形成後の風合いが柔軟である。かかる蒸熱処理は、好ましくは80~160℃の飽和水蒸気または過熱水蒸気が用いられ、より好ましくは飽和水蒸気の場合は90~130℃の飽和水蒸気であり、または110~160℃の温度の過熱水蒸気であり、いずれも数秒から数分の処理を行う。かかる蒸熱処理を行った後、未反応のモノマーや触媒を除去および染色堅牢度の確保のために、50~95℃の温度で湯洗いか、ノニオン界面活性剤や炭酸ソーダを使用しての洗浄を行うことが好ましい。トリアジン環含有化合物等含有樹脂の付着量は繊維重量に対して好ましくは0.5~5重量%であり、より好ましくは1~3重量%である。
【0059】
本発明において、有機フッ素化合物およびトリアジン環含有化合物含有樹脂被膜を単繊維表面に形成する場合、トリアジン環含有化合物と有機フッ素化合物の混合溶液を用いて、前記と同様の処理を行うことにより被膜を形成することができる。該トリアジン環含有化合物と有機フッ素化合物の混合重量比(トリアジン環含有化合物/有機フッ素化合物)が、1/0.001~1であることが好ましい。ただし、かかる処理の後に行う有機含フッ素化合物の処理時に、該処理剤の濡れ性、浸透性を阻害しないよう、被膜形成後に乾燥、熱処理を行う場合は撥水性を3級以下、好ましくは2級以下になるように混合比を決定することが好ましい。
【0060】
該有機フッ素化合物は、該処理の後に行う有機フッ素化合物含有樹脂被膜に用いられるフッ素化合物と同種の化合物であっても、また異種のフッ素化合物であっても使用することができる。通常、該被膜形成処理は、上述のとおり、飽和水蒸気または過熱水蒸気にて処理され、未反応のモノマーや触媒を除去したり、染色堅牢度を確保したりするために、50~95℃の温度で湯洗いか、ノニオン界面活性剤や炭酸ソーダを使用しての洗浄を行って乾燥する。そのあとに、さらに熱処理を行う場合、ベルトの基布表面は先に処理を行ったトリアジン環含有化合物等含有樹脂被膜に由来するフッ素化合物の撥水性が発現する。その際トリアジン環含有化合物等含有樹脂被膜中、該有機フッ素化合物の撥水性が高すぎる場合には、該被膜の撥水性が高くなりするので、該処理の後に行う有機フッ素化合物含有樹脂被膜処理を含む水系溶液のピックアップ率が低くなりすぎて、加工性が低下する懸念がある。よって、乾燥・熱処理後の撥水性は3級以下であることが好ましく、2級以下がさらに好ましい。乾燥・熱処理後の撥水性が上記範囲となる場合には、加工性の点から同種の化合物であることが好ましいが、乾燥・熱処理後の撥水性が高くなりすぎる場合には、異種のフッ素化合物を使用して乾燥・熱処理後の撥水性を調整してもよい。
【0061】
本発明で用いるトリアジン環含有化合物等含有樹脂被膜は、処理後の単繊維断面をミクロトーム等で切り出して、透過型電子顕微鏡で100000倍にて、3か所樹脂膜の膜厚を測定した平均値で表したもので、5~100nmであることが好ましい。
【0062】
上記の形成方法で作成することにより、かかる膜厚の被膜が形成されるものである。本発明は、トリアジン環含有化合物等含有樹脂被膜に無機粒子を含有させることができる。
【0063】
上記無機粒子としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化チタン、カオリナイト、タルク、炭酸カルシウム、珪酸カルシウム、酸化マグネシウム等が挙げられ、これらを単独あるいは2種以上を混合して使用することができる。
【0064】
上記粒子の粒子径としては、水分散体の状態で、光散乱法で測定した数平均粒子経で5~400nmであることが好ましく、さらには10~100nmのものを使用することが好ましい。本発明で用いる無機粒子は水分散体の状態で使用するのが好ましい。本発明で用いる無機粒子は樹脂被膜のための重合性モノマーの水溶液に混合して使用することができ、重合性モノマーとの重量混合比は、モノマー1に対して好ましくは0.03~1.0であり、より好ましくは0.05~0.5である。該粒子の混合により、トリアジン環含有化合物等含有樹脂被膜の形成性が向上し、強靱な被膜を形成できるので耐久性を更に高めることができる。
【0065】
本発明においては被膜形成時に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の化合物、例えば吸水剤、吸湿剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、増摩剤、有機粒子、制電剤、消臭剤、抗菌剤、難燃剤、着色剤、深色剤、撥水剤、撥油剤、防汚剤などを添加してもかまわない。
【0066】
本発明においては、上記トリアジン環含有化合物等含有樹脂被膜上に有機フッ素化合物含有樹脂被膜が形成されているものである。有機フッ素化合物としては、下記一般式で表されるパーフルオロアルキル基を含有するアクリレート系化合物が好ましく例示される。
【0067】
【0068】
式中、R1は水素原子または低級アルキル基を示し、RfはCmF2m+1で表されるパーフルオロアルキル基を持ち、かつ水酸基、不飽和基から選ばれた少なくとも1種の基を含む基を示す。なお、mは1~20の整数、nは10~200の整数を指す。
【0069】
かかる有機フッ素化合物としては上記一般式で表される1種または2種以上の化合物からなる重合体または共重合体あるいは上記以外の重合性化合物、例えばアクリル酸、メタクリル酸、スチレン、塩化ビニル系化合物、ポリエチレングリコールとの共重合体を含むものである。
【0070】
有機フッ素化合物含有樹脂被膜の加工方法としては、水系液または溶剤系液に、トリアジン環含有化合物の被膜を形成した繊維構造物を浸漬して、目標とする付着量になるようにマングルなどで絞り、好適には100~150℃の温度で乾燥し、好適には160~190℃の温度で熱処理するか、希釈液に浸漬したまま温度を60~130℃にして繊維表面に吸着させることで製造することができるが、この方法に限定されるものではない。
【0071】
有機フッ素化合物含有樹脂の付着量は、繊維重量に対して好ましくは0.1~8重量%であり、より好ましくは0.5~4重量%である。
【0072】
該有機フッ素化合物は、トリアジン環含有化合物、イソシアネート系化合物のうちの少なくとも一種を含有して被膜層を形成していることが好ましい。
【0073】
トリアジン環含有化合物としては、前記した被膜形成に使用するものと同種のものを使用してもよく、異種のものでも使用することができる。イソシアネート系化合物としては、イソシアネート基を亜硫酸ソーダ、メチルエチルケトンノキシムなどのオキシム系化合物などによりブロック化したイソシアネート基を2個以上持つ化合物が使用できる。
【0074】
更に、本発明の効果を阻害しない範囲で他の化合物、例えば、吸水剤、吸湿剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、増摩剤、無機粒子、有機粒子、制電剤、消臭剤、抗菌剤、難燃剤、着色剤、深色剤、撥水剤、撥油剤、防汚剤などを添加することができる。
【0075】
かくして得られる本発明のベルトは、シートベルト規格JIS D 4604(2006)に規定された六角棒押しつけ摩耗試験2000回後の撥水性で3級以上、撥油性で4級以上を達成することが可能である。
【0076】
本発明においては、上記したような態様とすることで、有機フッ系化合物が単独で繊維に直接固着するのではなく、トリアジン環含有化合物等樹脂被膜を介して固着することによって、またはさらに有機フッ系化合物がトリアジン環含有化合物とともに樹脂被膜に含有された状態で、単繊維に固着されることによって、形成した樹脂被膜の構造が摩耗によって致命的なダメージを受けることがないため、ベルトの摩耗耐久性が大幅に向上し、シートベルト規格JIS D 4604(2006)に規定された六角棒押しつけ摩耗試験2000回後も撥水性3級以上、撥油性が4級以上という高い性能を示すものである。
【0077】
さらに、かかるトリアジン環含有化合物等含有樹脂被膜の膜厚が5~100nmであることが好ましく、より好ましくは10~100nmである。ここで、トリアジン環含有化合物等含有樹脂被膜は、処理後の単繊維断面をミクロトーム等で切り出して、透過型電子顕微鏡で100000倍にて、3か所樹脂膜の膜厚を測定した平均値で表す。このような薄膜構造を有する場合には、摩擦を受けた際に単繊維同士に自由度があり、局所的に摩擦を受けることがない。また、屈曲を受けた場合も、該薄膜構造をとることにより、単繊維上の薄膜構造が割れたり、剥がれたりすることが生じにくいため、摩耗試験後もベルト内部への水の浸み込みや、ペンキ等の塗料の浸み込みを防止することができる。このような優れた効果は、水系、溶剤系、無機系のいずれに対しても有効であるが、付着する可能性のあるペンキの種類に応じて該トリアジン環含有化合物と有機フッ素化合物の混合重量比(トリアジン環含有化合物/有機フッ素化合物)を適宜調整することにより有機フッ素化合物の使用量を最適化して、加工コストを安価にすることができる。
【0078】
上記方法で得られた本発明のベルトは、特に安全帯として好適に用いることができる。例えば、本発明のポリエステル繊維のみで構成される安全帯や、ショックアブソーバ型の安全帯に使用できるが、特に使用法はこれに限定されるものではない。
【0079】
本発明で言うショックアブソーバとは、墜落を防止するときに生ずる衝撃を緩和するための器具を言い、短尺部に本発明のベルトを、長尺部には通常の円断面糸からなる高強力合成繊維マルチフィラメント織物により構成されるものが挙げられる。ショックアブソーバ型の安全帯は、短尺部に用いた本発明のポリエステル繊維が伸び始め徐々に衝撃を吸収し、長尺部により安全帯の破断を抑制する。この構成により、短尺部の伸長の始まりでは本発明のポリエステル繊維が有する定応力伸長域により人体等に対し小さな衝撃で大きなエネルギー吸収が行われ、人体等への負荷を低減しつつ、短尺部が伸びきった段階で長尺部の衝撃吸収能が発現し、安全帯の破断を抑制することができる。
【0080】
本発明のベルトは高い安全性が求められるため、ベルトとしての破断強力が下記範囲であることが好ましいベルトの破断強力は、13.0kN以上であることが好ましく、15.0kN以上であることがより好ましく、20.0kN以上であることがさらに好ましい。取り扱い性、着用性の点から60.0kN以下であることが好ましい。
【0081】
上記方法で得られたベルトは、摩耗後も優れた撥水・撥油性を有するため、使用時にペンキ等が付着してもベルト内部への浸透を防止できるため、ベルトの硬化を防止でき、ベルトの製品寿命を延ばすことができる。
【実施例】
【0082】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲において、様々な変形や修正が可能である。なお、本実施例で用いる各種特性の測定方法は、以下のとおりである。
【0083】
[総繊度]
JIS L1013(1999)8.3.1a)A法に基づき、中山電気産業(株)社製検尺機を用いて、表示繊度×0.45mN/dtexの初荷重を加え測定し、総繊度とした。
【0084】
[単繊維繊度]
総繊度を単繊維数で除することにより算出した。ここで、単繊維数は、JIS L1013(1999)8.4により算出した。
【0085】
[繊維の破断伸度、破断強度]
(株)オリエンテック社製“テンシロン”引張試験機を用い、試料長10cm、引張速度30cm/分の条件で得たSS曲線(伸度-強度特性)から求めた。
【0086】
[固有粘度]
オルソクロロフェノール100mLに対し試料8gを溶解した溶液の相対粘度ηをオストワルド式粘度計を用いて25℃で測定し、IV=0.0242η+0.2634の近似式によって求めた。
【0087】
[ベルトの破断強力]
(株)島津製作所の精密万能試験機“オートグラフAG-Xplu”を用い、試料長60cm、引っ張り速度60cm/分の条件で得たSS曲線(伸度‐強度特性)から求めた。
【0088】
[トリアジン環含有化合物等含有樹脂被膜の膜厚]
試料をミクロトームで切り出し、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い単繊維断面を100000倍で観察したときのトリアジン環含有化合物等含有樹脂被膜の膜厚(nm)を測定した。3か所の樹脂膜について膜厚を測定し、平均値を算出して膜厚とした。
【0089】
[ベルトの糸密度]
ルーペで、2.54cmあたりのタテおよびヨコ糸の本数を直接数えた。
【0090】
[ベルトのカバーファクター]
ベルトのカバーファクターは次式で算出する。
カバーファクター=[(タテ糸の繊度)(dtex)]1/2×(ヨコ糸の密度)(本/2.54cm)+[(タテ糸の繊度)(dtex)]1/2×(ヨコ糸の密度)(本/2.54cm)
ここで、タテ糸およびヨコ糸の密度は、[ベルトの糸密度]に記載の方法で測定したものであり、例えば、表側のタテ糸と裏側のタテ糸から構成されるタテ二重組織の場合のタテ糸密度は、表側のタテ糸と裏側のタテ糸の密度を足した値とする。
【0091】
タテ糸およびヨコ糸の繊度は、走査型電子顕微鏡で撮像したベルトの断面写真から以下の手順で算出する。
(a)1本のマルチフィラメントを構成する単繊維を20本無作為に選択し、画像処理で2値化して断面積の平均値を算出する。ここで、画像ソフトは、フリーソフトで公開されている一般的なソフトである“ImageJ”を用いた。
(b)ここで、単繊維の断面は真円であると仮定して、断面積から繊維直径を算出した。
(c)繊度(dtex)は、繊維10000m長さの重量(g)であることから、ポリエステルの場合の一般的な密度を1.38g/cm3として、単繊維直径から単繊維繊度を算出した。
(d)1本のマルチフィラメントを構成する単繊維の本数を断面写真からカウントし、(c)で算出した単繊維繊度と単繊維本数の積を糸の総繊度とし、カバーファクターの計算に用いた。
【0092】
[撥水性]
得られたベルトを、JIS L 1092「繊維製品の防水性試験方法」(1998)に規定されるスプレー法で測定した。
【0093】
[撥油性]
AATCC TM-1966に規定される方法で測定した。
【0094】
[ペンキの浸透防止効果の確認]
ベルト幅よりも5cm程度広い幅の、厚さ1mmの金属板の中央部分に5cm×5cmの穴をあける。また、同じ幅の穴加工をしていない金属板も用意する。金属板の四隅には、さらにM4ねじで固定できる穴をあける。ベルトを2枚の金属板に挟み込み、M4ねじで固定する。金属用フッ素系塗料ボンフロンGT(AGCコーテック(株))3gを、金属板の5cm×5cmの穴の部分に流し入れ、フッ素樹脂コートした棒で、塗料を擦切って、ベルト表面に塗料を塗布する。塗布したものを、1週間室温で風乾させる。風乾後のベルトを、ペンキ塗布面裏側から目視でペンキの裏抜けの有無を確認する。また、ペンキ塗布部分を、ベルトの長さ方向に折り曲げ、折り曲げ硬さを以下の3段階で官能評価する。
〇:ペンキ塗布前のベルトと同等の折り曲げ硬さを有する。
△:若干の硬化が認められるが、両手でベルトを持って軽く折り曲げたとき、塗布部分を折り曲げの頂点として、折り曲げることができる。
×:ペンキが裏抜けして硬化し、塗布部分を頂点にして折り曲げることができない
【0095】
また、本実施例で実施する摩耗試験方法は、以下のとおりである。
【0096】
[摩耗試験]
シートベルト規格JIS D 4604(2006)に規定された六角棒押しつけ摩耗試験方法に準拠した条件で、ベルトを2000回摩耗する。
【0097】
(実施例1)
[ポリエステル繊維の製造]
東レ株式会社製の固有粘度1.23のポリエチレンテレフタレートポリマーを、295℃の1軸エクストルーダー式押出機に連続的に供給し連続的に溶融した。溶融ポリマを295℃の配管を通じて8段のスタティックミキサーで混練し、ギヤポンプにて総繊度が1400dtexとなるように計量した後、295℃の紡糸パックに導き、パック内では10ミクロンカットのフィルターを通過させ、孔径0.6mm、孔長0.78mmの丸型単孔が108個開けられた口金より押し出し紡出した。紡出糸条を口金下に設けた長さ7cm、雰囲気温度285℃の加熱筒を通過させた後、環状型チムニーを用いて40℃の冷風を30m/分の速度で吹き付け固化させた後、油剤ローラにて油剤(三洋化成社製:サンオイルF)を付与した。油剤を付与した糸条を4000m/分の表面速度を有する1FR(70℃)で巻き取った後、連続して延伸工程に供した。
【0098】
1FRを通過した糸条を、一旦巻き取ることなく速度4120m/分の2FR(90℃)、速度1920m/分の1DR(120℃)、速度5120m/分の2DR(140℃)、速度5120m/分のRR(非加熱)に連続して供すことにより延伸を行った。交絡処理装置は2FRと1DRの間(東レ株式会社製 EC-Y23)および、RRと巻取ローラの間(ヘバーライン社製PP3500)に設置し、それぞれ0.5MPaおよび0.6MPaの高圧空気を噴射して、ポリエステル繊維を得た。得られたポリエステル繊維の破断強度は3.65cN/dtex、破断伸度は56%であった。
【0099】
[ベルトの製織および染色]
ここで得られたポリエステル繊維をタテおよびヨコ糸に用いて、タテ密度80本/2.54cm、ヨコ密度20本/2.54cmの平織り組織で巾51mmのベルトとした。得られたベルトを、95℃の温度のオープンソーパー式連続精練機により精練し、次いで60℃の温度で湯洗、水洗し、130℃の連続式乾燥機で乾燥する。次いで、分散染料を含んだ液をパディングで付与したあとマングルで絞り、予備乾燥後、200℃でサーモゾル染色を実施した。さらに、アルカリおよび還元剤を用いて余分な染料を洗浄後、130℃で乾燥することで、ブラックに染色したベルトを得た。染色後のベルトの破断強力は15.2kNであった。
【0100】
[ベルトへの表面被覆処理]
(a)アミディアM-3(DIC(株)製 トリアジン環含有化合物 トリメトキシメチロール型メラミン 固形分80%)(樹脂(a)と称する場合もある。)
樹脂(a)40g/Lと、触媒として過硫酸アンモニウム3g/Lとを溶解した水系液にベルトを浸漬し、水系液の付着量が15重量%になるようにマングルで絞り、102℃の飽和水蒸気雰囲気中で5分の処理を行った。
【0101】
次いで、70℃の温度で湯洗し、水洗し、130℃の温度で乾燥した。
【0102】
表面被覆処理後のトリアジン環含有化合物等含有樹脂被膜の膜厚を透過型電子顕微鏡で観察したところ、23nmであった。
【0103】
[ベルトへの有機フッ素含有化合物処理]
(1)アサヒガードAG-700D(明成化学(株)製 フッ素系化合物 固形分20%)(以下有機フッ素含有化合物(1)と称する)
有機フッ素含有化合物(1)150g/Lと、樹脂(a)18g/L、アミディアアクセレレータACX(DIC(株)製 触媒 固形分35%)(以下触媒と称する場合もある)3g/L、水系液の浸透性を向上させる目的でイソプロピルアルコール(ナカライテスク(株)製 試薬特級グレード)10g/L、液の発泡を抑制する目的でAGスタビライザー54Z(明成化学(株)製 消泡剤)(以下消泡剤と称する場合もある)1g/Lを溶解した水系液に表面被覆処理をおこなったベルトを浸漬し、水系液の付着量が15重量%となるようにマングルで絞り、130℃で乾燥後、170℃で熱処理を行った。加工後、摩耗試験後ともに、良好な撥水・撥油性能を有し、ペンキの浸透防止効果にも優れていた。樹脂加工後のベルトの糸密度は、タテ密度81本/2.54cm、ヨコ密度21本/2.54cm、総繊度1423dtex、破断強力は15.8kNであった。
【0104】
(実施例2)
[ベルトへの表面被覆処理]の樹脂(a)の濃度を20g/Lに変更した以外は、実施例1と同様の手順で処理をおこなった。表面被覆処理後の樹脂被膜の膜厚を透過型電子顕微鏡で観察したところ、9nmであった。加工後、摩耗試験後ともに、良好な撥水・撥油性能を有し、良好なペンキの浸透防止効果を示した。樹脂加工後のベルトの糸密度は、タテ密度81本/2.54cm、ヨコ密度20本/2.54cm、総繊度1399dtex、破断強力は15.9kNであった。
【0105】
(実施例3)
[ベルトへの有機フッ素含有化合物処理]の有機フッ素含有化合物(1)の濃度を100g/Lに変更した以外は、実施例1と同様の手順で処理をおこなった。加工後、摩耗試験後ともに、良好な撥水・撥油性能を有し、ペンキの浸透防止効果にも優れていた。樹脂加工後のベルトの糸密度は、タテ密度81本/2.54cm、ヨコ密度20本/2.54cm、総繊度1432dtex、破断強力は15.7kNであった。
【0106】
(実施例4)
[ベルトへの表面被覆処理]の樹脂(a)の濃度を20g/Lに、[ベルトへの有機フッ素含有化合物処理]の有機フッ素含有化合物(1)の濃度を100g/Lに変更し、実施例1と同様の手順で加工をおこなった。加工後、摩耗試験後ともに、良好な撥水・撥油性能を有し、ペンキの浸透防止効果にも優れていた。樹脂加工後のベルトの糸密度は、タテ密度80本/2.54cm、ヨコ密度21本/2.54cm、総繊度1432dtex、破断強力は15.3kNであった。
【0107】
(実施例5)
[ベルトへの有機フッ素含有化合物処理]の樹脂(a)の濃度を10g/Lに変更した以外は、実施例1と同様の手順で処理をおこなった。加工後、摩耗試験後ともに、良好な撥水・撥油性能を有し、ペンキの浸透防止効果にも優れていた。樹脂加工後のベルトの糸密度は、タテ密度81本/2.54cm、ヨコ密度20本/2.54cm、総繊度1411dtex、破断強力は15.7kNであった。
【0108】
(比較例1)
実施例1と同様の[ベルトへの表面被覆処理]を実施したあと、[ベルトへの有機フッ素含有化合物処理]をおこなわなかった。加工後、摩耗試験後ともに、撥油性およびペンキ浸透防止効果に劣っていた。樹脂加工後のベルトの糸密度は、タテ密度81本/2.54cm、ヨコ密度21本/2.54cm、総繊度1432dtex、破断強力は15.4kNであった。
【0109】
(比較例2)
[ベルトへの表面被覆処理]をおこなわず、また、実施例1の[ベルトへの有機フッ素含有化合物処理]において、有機フッ素含有化合物(1)の濃度をゼロ(使用しない)とした水系液で加工をおこなった。加工後、摩耗試験後ともに、撥油性およびペンキ浸透防止効果に劣っていた。樹脂加工後のベルトの糸密度は、タテ密度80本/2.54cm、ヨコ密度21本/2.54cm、総繊度1422dtex、破断強力は15.5kNであった。
【0110】
(比較例3)
[ベルトへの表面被覆処理]をおこなわず、また、実施例1の[ベルトへの有機フッ素含有化合物処理]において、樹脂(a)の濃度を40g/Lとした水系液で加工をおこなった。加工後のベルトの断面を観察したところ、単繊維上での被膜は形成されておらず、単繊維間や織物の糸交錯点に固着した樹脂の塊が認められた。繊維同士を固着樹脂により硬くなっていた。加工後は良好な撥水・撥油性能を有し、ペンキの浸透防止効果にも優れていたが、摩耗試験後は、摩耗部分に樹脂層の割れが発生し、撥油性が低下し、さらに、割れた部分からペンキの裏抜けが発生しており、浸透防止効果に劣っていた。樹脂加工後のベルトの糸密度は、タテ密度81本/2.54cm、ヨコ密度22本/2.54cm、総繊度1456dtex、破断強力は15.7kNであった。
【0111】
(比較例4)
総繊度84dtex、フィラメント数48本の東レ(株)製ポリエステル繊維を、ベルトを構成する繊維として用いる。ポリエステルの破断強度は3.11cN/dtex、破断伸度は45%であった。この繊維を4本引きそろえて、150ターン/mの甘撚をかけて合撚し、総繊度336dtexとした。密度165本/2.54cmの表側の経糸、および密度110本/2.54cmの裏側の経糸とし、緯糸密度40本/2.54cmで経二重織のベルトを製織した。次いで、実施例1と同様の方法でブラックに染色した。染色後のベルトの破断強力は、12.2kNであった。
【0112】
染色後のベルトを実施例1の[ベルトへの表面被覆処理]と同様の処理をおこなった。水系液のピックアップは、65重量%であり、表面被覆処理後の樹脂被膜の膜厚を透過型電子顕微鏡で観察したところ、49nmであった。
【0113】
さらに、実施例1の[ベルトへの有機フッ素含有化合物処理]と同様の処理をおこなった。水系液のピックアップは、55重量%であった。
【0114】
加工後は良好な撥水・撥油性能を有し、ペンキの浸透防止効果にも優れていたが、摩耗試験後は、ベルト表面の繊維が切れて毛羽が大量に発生し、ベルトとして実用に耐える状態ではなかった。また、摩耗部分の撥油性は十分なものではなく、ペンキを塗布すると、切れた繊維の部分からベルト内部にペンキが浸透した。樹脂加工後のベルトの糸密度は、表と裏のタテ密度がそれぞれ112本/2.54cm、ヨコ密度41本/2.54cm、総繊度321dtex、破断強力は12.4kNであった。
【0115】
下記の表1に実施例1~4および比較例1~4の[ベルトへの表面被覆処理]および[ベルトへの有機フッ素含有化合物処理]の水系液の濃度および、加工後と摩耗試験後の撥水・撥油性能およびペンキ浸透防止効果の官能評価結果をまとめた。
【0116】
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明は、防汚性、撥水効果を有し、水に濡れにくく、かつ、付着したペンキのベルト内部への浸透を防止可能な、作業性に優れた、耐久性を有する防汚性ベルトを提供するものであり、塗装現場や土木、建築関連の安全帯用ベルト等に使用するのに好適である。