(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】盛土の構造
(51)【国際特許分類】
E02D 17/18 20060101AFI20221109BHJP
E02B 3/10 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
E02D17/18 A
E02B3/10
(21)【出願番号】P 2018202507
(22)【出願日】2018-10-29
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(72)【発明者】
【氏名】籾山 嵩
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
(72)【発明者】
【氏名】吉原 健郎
(72)【発明者】
【氏名】西山 輝樹
(72)【発明者】
【氏名】及川 森
(72)【発明者】
【氏名】奥田 洋一
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-030223(JP,A)
【文献】特開2013-014962(JP,A)
【文献】特開2015-168953(JP,A)
【文献】特開平02-101213(JP,A)
【文献】特開平01-226920(JP,A)
【文献】特開2003-336252(JP,A)
【文献】米国特許第06056479(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 17/18
E02B 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
連続する盛土の構造であって、
前記盛土の天端を挟んで一方側および他方側にある両法面のうち、少なくとも前記一方側の法面でかつ、最も前記天端に近い法面の法肩よりも前記一方側において第1鋼矢板壁が、前記盛土の連続方向に沿って設けられ、前記第1鋼矢板壁の頭部を前記盛土より前記一方側の地表面または前記盛土の前記一方側の法面または小段より上方に突出させ、
前記第1鋼矢板壁の頭部によって前記盛土の前記一方側の法面の法面崩壊による土砂を堰き止め
、
前記他方側に水が存在し、当該他方側を上流側、前記一方側を下流側としたとき、
前記盛土の最も前記上流側に位置する下流側法肩よりも前記下流側に、前記第1鋼矢板壁が、当該第1鋼矢板壁の頭部を前記盛土より前記下流側の地表面または前記盛土の前記下流側の法面または小段より上方に突出させた状態で配設されていることを特徴とする盛土の構造。
【請求項2】
前記盛土の天端に、第2鋼矢板壁が前記盛土の連続方向に沿って設けられていることを特徴とする請求項
1に記載の盛土の構造。
【請求項3】
前記盛土の下流側法尻に前記第1鋼矢板壁が設けられるとともに、前記盛土の天端の上流側法肩に前記第2鋼矢板壁が設けられ、
前記第1鋼矢板壁の頭部の突出長をh(m)、前記天端の幅をB(m)、前記盛土の高さをH(m)、前記盛土の下流側法面角度をθとすると、
下記(1)式を満たすことを特徴とする請求項
2に記載の盛土の構造。
【数1】
【請求項4】
前記盛土より下流側の地表面に前記第1鋼矢板壁が設けられるとともに、前記盛土の天端の上流側法肩に前記第2鋼矢板壁が設けられ、
前記第1鋼矢板壁の頭部の突出長をh(m)、前記天端の幅をB、前記盛土の高さをH(m)、前記盛土の下流側法面角度をθ、前記第1鋼矢板壁と前記盛土の下流側法尻との水平距離をb(m)とすると、
下記(2)式を満たすことを特徴とする請求項
2に記載の盛土の構造。
【数2】
【請求項5】
前記盛土の下流側の法面に前記第1鋼矢板壁が設けられるとともに、前記盛土の天端の上流側法肩に前記第2鋼矢板壁が設けられ、
前記第1鋼矢板壁の頭部の突出長をh(m)、前記天端の幅をB(m)、前記盛土の高さをH、前記盛土の下流側法面角度をθ、前記第1鋼矢板壁と前記盛土の下流側法尻との水平距離をb(m)とすると、
下記(3)式を満たすことを特徴とする請求項
2に記載の盛土の構造。
【数3】
【請求項6】
前記第1鋼矢板壁と前記第2鋼矢板壁とのうちの少なくともいずれか一方が透水性鋼矢板を備えていることを特徴とする請求項
2~
5のいずれか1項に記載の盛土の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、堤防等の盛土の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地震による堤防の決壊が頻繁に発生しており、さらに近い将来にはいくつかの大規模な地震の発生が予測されていることから、堤防の耐震補強が喫緊の課題となっている。
【0003】
これに対し、過去には鋼矢板を用いた堤防または盛土の補強技術が提案されている(例えば特許文献1および2参照)。
特許文献1に記載の盛土の補強構造では、法尻を除く盛土の内部に盛土を貫通し、支持地盤に根入れされる深さを持つ少なくとも1列の矢板壁を盛土の長さ方向に連続的に設置し、盛土を構成する地盤中に矢板壁と、矢板壁で締め切られた地盤からなる構造骨格部を形成している。
このような盛土の補強構造では、少なくとも1列の矢板壁が法尻を除いた位置で盛土を貫通して支持地盤に根入れされることで、盛土内部は幅方向に2区画以上の構造骨格部に区分されるため、地下水や浸透水が盛土内を全幅に亘って浸透することが防止され、洪水時や地震時の外力により基礎地盤が不安定化した場合でも構造骨格部自体の安定性が確保される。
【0004】
また、特許文献2に記載の盛土の補強構造では、連続する盛土の略天端の範囲内に、鋼矢板壁が、前記盛土の連続方向に沿って1列以上設けられ、前記鋼矢板壁が支持層より浅い深さまで根入れされた盛土補強構造において、盛土の法尻部に、前記支持層まで根入れされた鋼製支持材が前記盛土の連続方向に所定間隔で離散的に配置され、前記鋼矢板壁と前記各鋼製支持材とがそれぞれ第1連結材によって結合されることによって、前記鋼矢板壁が前記第1連結材を介して前記鋼製支持材によって支持されている。
このような盛土の補強構造では、鋼矢板壁と各鋼製支持材とがそれぞれ第1連結材によって結合されることによって、鋼矢板壁が第1連結材を介して前記鋼製支持材によって支持されているので、地震時に盛土内部の鋼矢板壁の沈下を抑えることができ、地震時の盛土沈下抑制効果や越水時の破堤抑止効果がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2003-13451号公報
【文献】特開2015-168952号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した従来の盛土の補強構造においては、盛土のコア部分あるいは基礎地盤の変形を抑制する効果は発揮されるものの、法面の変形や崩壊を許容することとなる。そのため、堤防等の盛土の下流側に重要なインフラ施設や人家、緊急避難路等が存在する場合には甚大な被害につながる可能性がある。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、堤防等の盛土に法面崩壊が生じても、当該法面崩壊による土砂を堰き止めることができる盛土の構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明の盛土の構造は、連続する盛土の天端を挟んで一方側および他方側にある両法面のうち、少なくとも前記一方側の法面でかつ、最も前記天端に近い法面の法肩よりも前記一方側において第1鋼矢板壁が、前記盛土の連続方向に沿って設けられ、前記第1鋼矢板壁の頭部を前記盛土より前記一方側の地表面または前記盛土の前記一方側の法面または小段より上方に突出させ、
前記第1鋼矢板壁の頭部によって前記盛土の前記一方側の法面の法面崩壊による土砂を堰き止めることを特徴とする。
【0009】
本発明においては、第1鋼矢板壁の頭部を盛土より一方側の地表面または盛土の一方側の法面または小段より上方に突出させているので、第1鋼矢板壁の頭部によって盛土の一方側の法面の法面崩壊による土砂を堰き止めることができる。
したがって、地震等により法面が崩壊したとしてもその土砂が第1鋼矢板壁を越えて移動し被害を及ぼすことを抑制することができる。
【0010】
また、本発明の盛土の構造は、前記他方側に水が存在し、当該他方側を上流側、前記一方側を下流側としたとき、前記盛土の最も前記上流側に位置する下流側法肩よりも前記下流側に、前記第1鋼矢板壁が、当該第1鋼矢板壁の頭部を前記盛土より前記下流側の地表面または前記盛土の前記下流側の法面または小段より上方に突出させた状態で配設されていることを特徴とする。
【0011】
このような構造によれば、盛土を堤防として用いる場合であっても、第1鋼矢板壁の頭部によって盛土の下流側の法面の法面崩壊による土砂を堰き止めることができる。
したがって、地震等により法面が崩壊したとしてもその土砂が第1鋼矢板壁を越えて移動し下流側に被害を及ぼすことを抑制することができる。
【0012】
また、本発明の前記構成において、前記盛土の天端に、第2鋼矢板壁が前記盛土の連続方向に沿って設けられていてもよい。
【0013】
このような構成によれば、第2鋼矢板壁が盛土内の浸潤線を低下させ盛土の強度を維持できるとともに、盛土高さを維持することで盛土の決壊や水の越流による被害を抑制できる。特に、盛土を堤防として用いた場合には、第2鋼矢板壁が盛土(堤防)高さを維持することで盛土(堤防)の決壊や水の越流による被害を抑制できるとともに、盛土(堤防)内の浸潤線を低下させ盛土の強度を維持できる。
【0014】
また、本発明の前記構成において、前記盛土の下流側法尻に前記第1鋼矢板壁が設けられるとともに、前記盛土の天端の上流側法肩に前記第2鋼矢板壁が設けられ、
前記第1鋼矢板壁の頭部の突出長をh(m)、前記天端の幅をB(m)、前記盛土の高さをH(m)、前記盛土の下流側法面角度をθとすると、下記(1)式を満たしてもよい。
【0015】
【0016】
このような構成によれば、盛土の下流側法尻に設けられた第1鋼矢板壁の頭部の突出長hを(1)式を満足するように設定することにより、法面崩壊土砂を全て下流側法尻に設けられた第1鋼矢板壁が受け止め、法面崩壊土砂による下流側の被害を確実に防止することができる。
【0017】
また、本発明の前記構成において、前記盛土より下流側の地表面に前記第1鋼矢板壁が設けられるとともに、前記盛土の天端の上流側法肩に前記第2鋼矢板壁が設けられ、
前記第1鋼矢板壁の頭部の突出長をh、前記天端の幅をB、前記盛土の高さをH、前記盛土の下流側法面角度をθ、前記第1鋼矢板壁と前記盛土の下流側法尻との水平距離をbとすると、下記(2)式を満たしてもよい。
【0018】
【0019】
このような構成によれば、盛土より下流側の地表面に設けられた第1鋼矢板壁の頭部の突出長h(m)を(2)式を満足するように設定することにより、法面崩壊土砂を全て下流側の地表面に設けられた第1鋼矢板壁が受け止め、崩壊土砂による下流側の被害を確実に防止することができる。
【0020】
また、本発明の前記構成において、前記盛土の下流側の法面に前記第1鋼矢板壁が設けられるとともに、前記盛土の天端の上流側法肩に前記第2鋼矢板壁が設けられ、
前記第1鋼矢板壁の頭部の突出長をh(m)、前記天端の幅をB(m)、前記盛土の高さをH(m)、前記盛土の下流側法面角度をθ、前記第1鋼矢板壁と前記盛土の下流側法尻との水平距離をb(m)とすると、下記(3)式を満たしてもよい。
【0021】
【0022】
このような構成によれば、盛土の下流側の法面に設けられた第1鋼矢板壁の頭部の突出長h(m)を(3)式を満足するように設定することにより、第1鋼矢板壁よりも上流側の法面崩壊土砂を全て下流側の法面に設けられた第1鋼矢板壁が受け止め、法面崩壊土砂による下流側の被害を確実に防止することができる。
【0023】
また、本発明の前記構成において、前記第2鋼矢壁が設けられている場合、前記第1鋼矢板壁と前記第2鋼矢板壁とのうちの少なくともいずれか一方が透水性鋼矢板を備えていてもよい。
【0024】
このような構成によれば、前記第1鋼矢板壁と前記第2鋼矢板壁とのうちの少なくともいずれか一方が透水性鋼矢板を備えているので、盛土内の水を一方側(下流側)に円滑に排水できる。したがって、盛土内の水位が過度に高くなるのを抑制でき、よって、盛土の盛土破壊抑止効果を図ることができる。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、堤防等の盛土に法面崩壊が生じても、当該法面崩壊による土砂を第1鋼矢板壁によって堰き止めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係る盛土としての堤防の構造を示すもので、(a)は堤防の横断面図、(b)は堤防の平面図である。
【
図1A】本発明の第1の実施の形態に係る盛土としての堤防の構造を示すもので、上流側および下流側においてそれぞれ複数の法面を備えた堤防の横断面図である。
【
図2】同、法面崩壊による土砂を第1鋼矢板壁によって堰き止めている状態を示す横断面図である。
【
図3】同、第1鋼矢板壁の頭部の突出長を説明するための堤防の横断面図である。
【
図4】本発明の第2の実施の形態に係る盛土としての堤防の構造を示すもので、第1鋼矢板壁の頭部の突出長を説明するための堤防の横断面図である。
【
図5】本発明の第3の実施の形態に係る盛土としての堤防の構造を示すもので、第1鋼矢板壁の頭部の突出長を説明するための堤防の横断面図である。
【
図6】本発明の実施例における検討対象とする盛土(堤防)を示す断面図である。
【
図7】本発明の実施例を説明するためのもので、(a)は第1の実施の形態に対応する盛土(堤防)の横断面図、(b)は第2の実施の形態に対応する盛土(堤防)の横断面図、(c)は第3の実施の形態に対応する盛土(堤防)の横断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
(第1の実施の形態)
図1は第1の実施の形態に係る盛土(堤防)の構造を示すもので、(a)は横断面図、(b)は平面図である。
本実施の形態は、盛土が堤防として用いられる場合を示しており、
図1(a)においては、盛土が紙面と直交する方向に連続し、
図1(b)では上下方向に連続して設けられ、この盛土によって堤防10が構成されている。この堤防10の天端11を挟んで一方側(
図1(a),(b)において右側)および他方側(
図1(a),(b)において左側)のうち、当該他方側に水Wが存在している。したがって、この堤防10はため池堤防、河川堤防、海岸堤防等を構成している。
なお、以下では一方側(
図1(a),(b)において右側)を下流側、他方側(
図1(a),(b)において左側)を上流側として説明する。
【0028】
堤防10は、天端11を挟んで上流側に法面12、下流側に法面13を備えている。この法面12,13の地表面GSに対する傾斜角θは等しくなっているが、法面12と法面13とで傾斜角θを異なるものとしてもよい。
また、堤防10の最も上流側に位置する下流側法肩13aよりも下流側において、第1鋼矢板壁20が、堤防10の連続方向(
図1(a)において紙面と直交する方向、
図1(b)において上下方向)に沿って設けられている。
例えば、本実施の形態では、最も上流側に位置する下流側法肩13aよりも下流側の法尻13eに第1鋼矢板壁20が、堤防10の連続方向に沿って設けられている。
第1鋼矢板壁20は、複数の鋼矢板20aを堤防10の連続方向に接続することによって形成されたもので、鋼矢板20aを法尻13eから略鉛直に地盤Gに打設するともに、先行して打設された鋼矢板20aに接続することによって形成されている。
なお、1枚の鋼矢板20aの長さが不足する場合は、複数の鋼矢板20aを上下方向に縦継ぎしながら法尻13eから地盤Gに打設する。
【0029】
ここで、堤防10は、上流側および/または下流側において、それぞれ複数の法面を備える場合がある。例えば、
図1Aに示す堤防10では、上流側において2つの法面12b,12cを備え、下流側おいて3つの法面13b,13c,13dを備えている。そして、上流側の法面12bと法面12cとの間に設けられる水平部分が小段15であり、下流側の法面13bと法面13cとの間に設けられる水平部分が小段16、法面13cと法面13dとの間に設けられる水平部分が小段17である。
【0030】
したがって、
図1Aに示す堤防10では、最も上流側に位置する下流側法肩は、法面13bの法肩13aである。このため、第1鋼矢板壁20は、下流側法肩13aより下流側(
図1Aにおいて右側)に設けられる。例えば、第1鋼矢板壁20は、下流側の法面13b,13c、小段16,17、最も下流側の法尻13e、さらには当該法尻13eよりもさらに所定距離だけ下流側の地表面GSに設けられる。なお、
図1Aでは、小段17または下流側法尻13eに第1鋼矢板壁20を設けた例を図示しているが、当該第1鋼矢板壁20は上述した最も上流側に位置する下流側法肩13aよりも下流側に設ければよい。
【0031】
図1(a),(b)に示す堤防10では、第1鋼矢板壁20は、その頭部20bを地表面GSでかつ下流側法尻13eより上方に突出させている。なお、下流側法尻13eは地表面GSに位置しているので、頭部20bが法尻13eから上方に突出することによって、地表面GSから上方に突出することになる。そして、
図2に示すように、第1鋼矢板壁20の頭部20bによって堤防10の第2鋼矢板壁25よりも下流側の法面崩壊による土砂Sを堰き止めるようになっている。なお、第2鋼矢板壁25については後述する。
また、
図1Aに示す堤防10では、第1鋼矢板壁20の頭部20bを、堤防10よりも下流側の地表面GSまたは下流側の法面13b,13cまたは小段16,17より上方に突出させればよい。この第1鋼矢板壁20の頭部20bによって堤防10の下流側の法面崩壊による土砂を堰き止めるようになっている。なお、法面崩壊による土砂を堰き止められるのは、第1鋼矢板壁20より上流側の法面崩壊によって生じた土砂である。
【0032】
また、
図1(a),(b)に示すように、堤防10の天端11に、第2鋼矢板壁25が堤防10の連続方向に沿って設けられている。具体的には、上流側法肩12aまたは上流側法肩12aより若干下流側の天端11に第2鋼矢板壁25が設けられている。
第2鋼矢板壁25は、複数の鋼矢板25aを堤防10の連続方向に接続することによって形成されたもので、鋼矢板25aを上流側の法肩12aから略鉛直に堤防10を貫通して地盤Gに打設するともに、先行して打設された鋼矢板25aに接続することによって形成されている。また、このような第2鋼矢板壁25の上端は天端11とほぼ面一となっている。また、第2鋼矢板壁25の地表面GSからの打ち込み深さは第1鋼矢板壁20と等しくなっているが、異なっていてもよい。また、第2鋼矢板壁25の下端は地表面GSより下方に達しているのが好ましいが、地表面GSと等しくてもよいし、地表面GSより上方、つまり堤防10の内部に位置していてもよい。
なお、1枚の鋼矢板25aの長さが不足する場合は、複数の鋼矢板25aを上下方向に縦継ぎしながら上流側法肩12aから堤防10に打設する。
このようにして堤防10に第2鋼矢板壁25を設けることによって、堤防10内の浸潤線WLを低下させることができる。
【0033】
また、第1鋼矢板壁20と第2鋼矢板壁25とのうちの少なくともいずれか一方が透水性鋼矢板を備えていてもよい。この場合、第1鋼矢板壁20を構成する複数の鋼矢板20aおよび第2鋼矢板壁25を構成する複数の鋼矢板25aを全て透水性の鋼矢板によって構成してもよいし、一部の鋼矢板20a,25aを透水性の鋼矢板によって構成してもよい。透水性鋼矢板としては、例えば、鋼矢板に複数の透水孔を上下、左右に所定間隔で複数形成したものが使用される。また、透水孔は鋼矢板の上下全体に亘って所定間隔で複数形成してもよいし、鋼矢板の地表面GSから上方に突出する部分だけに上下に所定間隔で形成してもよい。
【0034】
第1鋼矢板壁20の少なくとも一部を透水性の鋼矢板で構成し、つまり、第1鋼矢板壁20のみが透水性を有し、第2鋼矢板壁25が透水性を有していない場合、堤防10の法面12からしみ込んだ上流側の水Wが、第2鋼矢板壁25より下流側の堤防10内に浸入しないので、堤防10の強度低下を抑制できるとともに、堤防10の天端11より下方の地盤G中に滞留する水の一部が第1鋼矢板壁20を通して外部に排出可能であるので、地震等に起因する液状化を抑制できる。
また、第2鋼矢板壁25の少なくとも一部を透水性の鋼矢板で構成し、つまり、第2鋼矢板壁25のみが透水性を有し、第1鋼矢板壁20が透水性を有していない場合、堤防10の内部の水および堤防10より下方の地盤G中の水が第1鋼矢板壁20より下流側の地盤Gに至るのを防止できる。したがって、第1鋼矢板壁20より下流側の地盤面GSに建設された建物直下の地盤Gの地震等に起因する液状化を抑制できる。
また、第1鋼矢板壁20および第2鋼矢板壁25の双方が透水性を有する場合、堤防10の内部に水が滞留するのを抑制して、堤防10の強度低下を抑制できるとともに、堤防10の下方の地盤G中に水が滞留するのを抑制して、当該地盤Gの地震等に起因する液状化を抑制できる。
【0035】
また、本実施の形態では、
図3に示すように、堤防10の下流側法尻13eに設けられた第1鋼矢板壁20の頭部20bの突出長に関しては、堤防10の連続方向のある断面における幾何学的関係に基づき、天端11から下流側法面13にかかる範囲が完全に崩壊したとしても全ての土砂を堰き止めることが可能な最低突出長を規定している。
【0036】
すなわち、
図3に示すように、第1鋼矢板壁20の頭部20bの頂部を通って水平に第2鋼矢板壁25側に向かって当該第2鋼矢板壁25に達する線分Lより上側の堤防10の断面積(ハッチングで示す)をS1、線分Lと第1鋼矢板壁20の頭部20bと、線分Lより下方の法面13とで囲まれた部分の断面積(ハッチングで示す)をS2とすると、天端11から下流側法面13にかかる範囲が完全に崩壊したとしても全ての土砂を堰き止めるためには、S1≦S2であればよい。
【0037】
したがって、第1鋼矢板壁20の頭部20bの突出長をh(m)、天端11の幅をB(m)、堤防10の高さをH(m)、堤防10の下流側法面角度をθとすると、下記(1)式を満たすことによって、天端11から下流側法面13にかかる範囲が完全に崩壊したとしても全ての土砂を堰き止めることができる頭部20bの最低突出長を規定することができる。
【0038】
【0039】
以上のように本実施の形態によれば、第1鋼矢板壁20の頭部20bを堤防10の下流側の法面13の下流側法尻13eより上方に突出させているので、第1鋼矢板壁20の頭部20bによって堤防10の下流側の法面13の法面崩壊による土砂を堰き止めることができる。
したがって、地震等により法面崩壊したとしてもその土砂が第1鋼矢板壁20を越えて移動し、下流側に存在する重要なインフラ施設や人家、緊急避難路等に被害を及ぼすことを抑制することができる。
【0040】
また、堤防10の天端11の上流側法肩12aに、第2鋼矢板壁25が堤防10の連続方向に沿って設けられているので、第2鋼矢板壁25が堤防高さを維持することで堤防10の決壊や水の越流による被害を抑制できるとともに、堤防10内の浸潤線WLを低下させ堤防10の強度を維持できる。
さらに、堤防10の下流側法尻13eに設けられた第1鋼矢板壁20の頭部20bの突出長hを(1)式を満足するように設定することにより、法面崩壊土砂を全て下流側法尻13eに設けられた第1鋼矢板壁20が受け止め、法面崩壊土砂による下流側の被害を確実に防止することができる。
【0041】
(第2の実施の形態)
図4は第2の実施の形態に係る盛土の構造を示す横断面図である。
第2の実施の形態についても、第1の実施の形態と同様に本発明の盛土を堤防としている。この第2の実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は、第1鋼矢板壁20を堤防10の下流側法尻13eよりもさらに所定距離だけ下流側の地表面GSに設けた点であるので、以下ではこの点について説明し、第1の実施の形態と同一構成には同一符号を付してその説明を省略することもある。
【0042】
第2の実施の形態では、第1鋼矢板壁20が堤防10の下流側法尻13eよりもさらに所定距離だけ下流側の地表面GSに設けられ、当該第1鋼矢板壁20の頭部20bは地表面GSから上方に突出している。
また、本実施の形態でも、第1の実施の形態と同様に、堤防10の下流側法尻13eよりもさらに所定距離だけ下流側の地表面GSに設けられた第1鋼矢板壁20の頭部20bの突出長に関しては、堤防10の連続方向のある断面における幾何学的関係に基づき、天端11から下流側法面13にかかる範囲が完全に崩壊したとしても全ての土砂を堰き止めることが可能な最低突出長を規定している。
【0043】
すなわち、第1鋼矢板壁20の頭部20bの頂部を通って水平に第2鋼矢板壁25側に向かって当該第2鋼矢板壁25に達する線分Lより上側の堤防10の断面積(ハッチングで示す)をS1、線分Lと第1鋼矢板壁20の頭部20bと、線分Lより下方の法面13と、法尻13eと第1鋼矢板壁20との間の地表面GSで囲まれた部分の断面積(ハッチング示す)をS2とすると、天端11から下流側法面13にかかる範囲が完全に崩壊したとしても全ての土砂を堰き止めるためには、S1≦S2であればよい。
【0044】
したがって、第1鋼矢板壁20の頭部20bの突出長をh(m)、天端11の幅をB(m)、堤防10の高さをH(m)、第1鋼矢板壁20と下流側法尻13eとの間の水平距離をb(m)、堤防10の下流側法面角度をθとすると、下記(2)式を満たすことによって、天端11から下流側法面13にかかる範囲が完全に崩壊したとしても全ての土砂を堰き止めることができる頭部20bの最低突出長を規定することができる。
【0045】
【0046】
本実施の形態によれば、第1の実施の形態と同様の効果を得られる他、堤防10の下流側法尻13eよりも下流側の地表面GSに設けられた第1鋼矢板壁20の頭部20bの突出長hを(2)式を満足するように設定することにより、法面崩壊土砂を全て地表面GSに設けられた第1鋼矢板壁20が受け止め、法面崩壊土砂による下流側の被害を確実に防止することができる。
また、第1鋼矢板壁20が下流側法尻13eより下流側の地表面GSに設けられているので、下流側法尻13eと鋼矢板壁20との間の地表面GS上にも法面崩壊土砂の一部を蓄積できる。したがって、第1の実施の形態に比して、鋼矢板壁20を短くすることができる。
【0047】
(第3の実施の形態)
図5は第3の実施の形態に係る盛土の構造を示す横断面図である。
第3の実施の形態についても、第1および第2の実施の形態と同様に本発明の盛土を堤防としている。この第3の実施の形態が第1および第2の実施の形態と異なる点は、第1鋼矢板壁20を堤防10の下流側の法面13に設けた点であるので、以下ではこの点について説明し、第1および第2の実施の形態と同一構成には同一符号を付してその説明を省略することもある。
【0048】
第3の実施の形態では、第1鋼矢板壁20が堤防10の下流側法面13に設けられ、当該第1鋼矢板壁20の頭部20bは当該下流側法面13から上方に突出している。
また、本実施の形態でも、第1および第2の実施の形態と同様に、堤防10の下流側法面13に設けられた第1鋼矢板壁20の頭部20bの突出長に関しては、堤防10の連続方向のある断面における幾何学的関係に基づき、天端11から下流側法面13の第1鋼矢板壁20より上流側にかかる範囲が完全に崩壊したとしても全ての土砂を堰き止めることが可能な最低突出長を規定している。
【0049】
すなわち、第1鋼矢板壁20の頭部20bの頂部を通って水平に第2鋼矢板壁25側に向かって当該第2鋼矢板壁25に達する線分Lより上側の堤防10の断面積(ハッチングで示す)をS1、線分Lと第1鋼矢板壁20の頭部20bと、線分Lより下方でかつ第1鋼矢板壁20と法面13とが交わる部分よりも上方の下流側法面13とで囲まれた部分の断面積(ハッチング示す)をS2とすると、天端11から第1鋼矢板壁20よりも上流側の下流側法面13にかかる範囲が完全に崩壊したとしても全ての土砂を堰き止めるためには、S1≦S2であればよい。
【0050】
したがって、第1鋼矢板壁20の頭部20bの突出長をh(m)、天端11の幅をB(m)、堤防10の高さをH(m)、法尻13eと第1鋼矢板壁20との間の水平距離をb(m)、堤防10の下流側法面角度をθ、第1鋼矢板壁20と下流側法尻13eとの水平距離をb(m)とすると、下記(3)式を満たすことによって、天端11から第1鋼矢板壁20より上流側の下流側法面13にかかる範囲が完全に崩壊したとしても全ての土砂を堰き止めることができる頭部20bの最低突出長を規定することができる。
【0051】
【0052】
本実施の形態によれば、第1および第2の実施の形態と同様に効果を得られる他、堤防10の下流側法面13に設けられた第1鋼矢板壁20の頭部20bの突出長hを(3)式を満足するように設定することにより、第1鋼矢板壁20よりも上流側の法面崩壊土砂を全て下流側法面13に設けられた第1鋼矢板壁20が受け止め、法面崩壊土砂による下流側の被害を確実に防止することができる。
また、本実施の形態では、堤防10の下流側法面13に第1鋼矢板壁20を設けるので、下流側法尻13eより下流側に第1鋼矢板壁20を設けるための場所を確保できない場合に有効なものとなる。
【0053】
(実施例)
本発明の実施例として、
図6に示すような断面の盛土を堤防10としたとき、この堤防10について、第1鋼矢板壁20の突出長h(m)を、上述した(1)式、(2)式および(3)式を使用して求めた。
なお、
図6において、天端11の幅B(m)=4m、堤防10の高さH(m)=10m、堤防10の下流側法面角度θ=30°である。
その結果を
図7に示す。
図7(a)は、第1の実施の形態に対応し、第1鋼矢板壁20を堤防10の下流側法尻13eから上方に突出させた場合、
図7(b)は、第2の実施の形態に対応し、第1鋼矢板壁20を下流側法尻13eよりもさらに所定距離bmだけ下流側の地表面GSから上方に突出させた場合、
図7(c)は、第3の実施の形態に対応し、第1鋼矢板壁20を、下流側法尻13eよりも所定距離bmだけ上流側でかつ下流側法面13から突出させた場合を示す。
【0054】
図7において、第1鋼矢板壁20の頭部20bの突出長をh(m)、天端11の幅をB(m)=4m、堤防10の高さをH(m)=10m、堤防10の下流側法面角度をθ=30°、第1鋼矢板壁20と下流側法尻13eとの間の水平距離をb(m)=5.0mとした。
これらをそれぞれ(1)式、(2)式および(3)式に代入すると、
図7(a)に示す堤防10の場合、h≦5.9m、
図7(b)に示す堤防10の場合、h≦4.8m、
図7(c)に示す堤防の場合、h≦8.4mとなった。
つまり、
図7(a)に示す堤防10の場合、第1鋼矢板壁20の最低突出長は5.9m、
図7(b)に示す堤防10の場合、第1鋼矢板壁20の最低突出長は4.8m、
図7(c)に示す堤防の場合、第1鋼矢板壁20の最低突出長は8.4mとなった。
【0055】
このように、堤防10の下流側法尻13eよりも下流側に第1鋼矢板壁20を設ける場所に余裕があれば、下流側法尻13eよりもさらに下流側の地表面に第1鋼矢板壁20を設ける(
図7(b)参照)ことによって、第1鋼矢板壁20の突出高さを、
図7(a)および
図7(c)における第1鋼矢板壁20より低く設定できる。したがって、第1鋼矢板壁20の地表面からの打ち込み深さを一定とすると、
図7(b)における第1鋼矢板壁20の高さ寸法を最も短くすることができる。
【0056】
なお、上述した第1~第3の実施の形態では、盛土を堤防とした場合、すなわち堤防10の天端11を挟んで一方側および他方側のうち、当該他方側に水Wが存在している場合、例えば堤防10がため池堤防、河川堤防、海岸堤防を構成している場合について説明したが、本発明は堤防に限らず、堤防以外の盛土にも適用できる。
【0057】
この場合、図示は省略するが、盛土の天端を挟んで一方側および他方側にある両法面のうち、一方側の法面でかつ、最も前記天端に近い法面の法肩よりも前記一方側において第1鋼矢板壁が、前記盛土の連続方向に沿って設けられ、前記第1鋼矢板壁の頭部を前記盛土より前記一方側の地表面または前記盛土の前記一方側の法面または小段より上方に突出させてもよいし、盛土の天端を挟んで他方側の法面でかつ、最も前記天端に近い法面の法肩よりも前記他方側において第1鋼矢板壁が、前記盛土の連続方向に沿って設けられ、前記第1鋼矢板壁の頭部を前記盛土より前記他方側の地表面または前記盛土の前記他方側の法面または小段より上方に突出させてもよい。
さらに、第1鋼矢板壁を盛土の両法面側に、上述したようにしてそれぞれ設けてもよい。そして、第1鋼矢板壁の頭部によって前記盛土の前記一方側または他方側、さらには両側の法面の法面崩壊による土砂を堰き止めるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0058】
10 堤防(盛土)
11 天端
12,13 法面
12a 上流側法肩
13a 下流側法肩
13e 下流側法尻
16,17 小段
20 第1鋼矢板壁
20b 頭部
25 第2鋼矢板壁
GS 地表面