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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】熱溶融転写型インクリボン
(51)【国際特許分類】
   B41M 5/395 20060101AFI20221109BHJP
   B41M 5/42 20060101ALI20221109BHJP
   B41M 5/44 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B41M5/395 300
B41M5/42 310
B41M5/42 320
B41M5/44 320
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2018205480
(22)【出願日】2018-10-31
(65)【公開番号】P2020069722
(43)【公開日】2020-05-07
【審査請求日】2021-07-02
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 ダイニック株式会社が、平成30年9月6日に特願2018-205480号の請求項1並びに図2に示された熱溶融転写型インクリボンを、ダイニック株式会社埼玉工場より出荷した。
(73)【特許権者】
【識別番号】000109037
【氏名又は名称】ダイニック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000224
【氏名又は名称】弁理士法人田治米国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大田 尚士
(72)【発明者】
【氏名】山村 宣晶
【審査官】中山 千尋
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-171233(JP,A)
【文献】特開2015-051619(JP,A)
【文献】特開平07-076178(JP,A)
【文献】特開昭61-172231(JP,A)
【文献】特開平10-264535(JP,A)
【文献】特開2011-201212(JP,A)
【文献】特開2001-260542(JP,A)
【文献】特開2005-257848(JP,A)
【文献】特開2002-235054(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0152847(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 5/035
B41M 5/26-5/52
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィルム基材層と、その片面に順次設けられている転写制御層、インク層及びオーバーコート層とを有する熱溶融転写型インクリボンであって、
インク層が、着色剤と熱可塑性樹脂成分とを含有し、熱可塑性樹脂成分は、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂とグリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂を含有し、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂は、スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート二元共重合樹脂、(メタ)アクリル酸エステル-グリシジル(メタ)アクリレート二元共重合樹脂、又はスチレン-(メタ)アクリル酸エステル-グリシジル(メタ)アクリレート三元共重合樹脂であり、
オーバーコート層が、飽和ポリエステル樹脂と無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂とを含有する熱溶融転写型インクリボン。
【請求項2】
インク層は、熱可塑性樹脂を20~85質量%で含有する請求項1記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項3】
熱可塑性樹脂成分は、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂を70~100質量%で含有している請求項1または2記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項4】
グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂は、40~100℃のガラス転移温度と、8000~50000の重量平均分子量とを有する請求項1~3のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項5】
グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂は、65~90℃のガラス転移温度と、8000~20000の重量平均分子量とを有する請求項1~3のいずれかに記載の熱溶
融転写型インクリボン。
【請求項6】
グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂は、スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート二元共重合樹脂である請求項1~5のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項7】
塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂のガラス転移温度が50~100℃であり、数平均分子量が10000~50000である請求項1~6のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項8】
熱可塑性樹脂成分は、更にシランカップリング剤を含有する請求項1~のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項9】
熱可塑性樹脂成分は、シランカップリング剤をグリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂100質量部に対し0.5~5.0質量部含有する請求項記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項10】
オーバーコート層の無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂は、90~160℃の融点と、10000~200000の数平均分子量とを有する請求項1~のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項11】
無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂は、エチレン-(メタ)アクリル酸エステル-無水マレイン酸三元共重合樹脂である請求項1~10のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【請求項12】
オーバーコート層は、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対し飽和ポリエステル樹脂を10~1000質量部含有する請求項1~11のいずれかに記載の熱溶融転写型インクリボン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、種々の食品包装材料等への印字に適した熱溶融転写型インクリボンに関する。
【背景技術】
【0002】
菓子パン等のピロー包装食品、カレーソースなどのレトルト包装食品、豆腐などの充填包装食品等の当該包装材料の外表面には、包装されている食品の製造年月日や賞味期限、食品に使用している食材の種類や生産地、食品の流通・保管履歴・管理情報等を、文字情報としてあるいはバーコードやQRコード(登録商標)として印字するために、基材フィルム上に熱溶融転写性インク層を設けた熱溶融転写型インクリボンが広く使用されている。
【0003】
ところで、包装食品の包装材料の表面材料として、食品の種類や食品の保存形態等に応じて様々な材質(例えば、ポリオレフィン、ポリエステル、ポリアミド等、特に耐熱性、耐寒性、香気保存性、耐油性、耐酸性に優れ、ガスバリア性や耐湿性の改善処理が容易なポリエステル)が用いられている。従って、熱溶融転写型インクリボンに対しては、様々な材質の包装材料に対して直接的に高精細の印字を高速で実施可能であることや、包装材料表面に、良好な耐擦過性や密着性を示す印字物(文字や画像)を形成できることが要請されている。このような要請に応える熱溶融転写型インクリボンとして、フィルム基材上に少なくとも転写制御層とインク層とオーバーコート層とが順次設けられた熱溶融転写型インクリボンであって、オーバーコート層を無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂と100~160℃の軟化点を示す粘着付与樹脂とから構成した熱溶融転写型インクリボンが提案されている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-51619号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の熱溶融転写型インクリボンによれば、包装材料の外面に貼着されるコート紙ラベル等に対して印字を良好な品質且つ感度で実施でき、しかも良好な耐擦過性や密着性を示す印字物を与えることができるが、特許文献1では、様々な材質の包装材料に直接的に印字を行うことが想定されておらず、また、表面に印字物が形成された包装食品が受ける加熱処理(ボイル処理、レトルト処理)に対して印字物が損傷を受けるか否かについては十分に検討されていない。更に、包装食品の製造中あるいは保管・輸送中に表面に印字物が形成された包装材料に、意図せずにアルコールや食用油が付着する場合があり、そのような場合に印字物が損傷を受けるか否かについても十分に検討されていない。
【0006】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、様々な材質の包装材料に高精細の印字を高速で実施可能であり、包装材料表面に良好な耐擦過性や密着性を示す印字物を与えることができ、しかも、耐熱性、耐アルコール性及び耐油性にも優れた印字物を与えることができる熱溶融転写型インクリボンを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、フィルム基材層、その片面に順次設けられている転写制御層、インク層及びオーバーコート層を有する熱溶融転写型インクリボンにおいて、本発明の目的を達成するためのキーポイントが、包装材料等の被印字媒体と直接接触するオーバーコート層と、印字物を可視化することに寄与するインク層の素材にあるという仮説の下、それらの層に使用する素材を検討した結果、インク層を構成する主要な熱可塑性樹脂成分にグリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂を使用し、オーバーコート層を少なくとも飽和ポリエステル樹脂と無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂とから構成することにより、本発明の目的を達成できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明は、フィルム基材層と、その片面に順次設けられている転写制御層、インク層及びオーバーコート層とを有する熱溶融転写型インクリボンであって、インク層が、着色剤と熱可塑性樹脂成分とを含有し、熱可塑性樹脂成分は、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂を含有し、オーバーコート層が、飽和ポリエステル樹脂と無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂とを含有する熱溶融転写型インクリボンを提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱溶融転写型インクリボンは、インク層にバインダーとなる熱可塑性樹脂としてグリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂を使用し、更にインクリボンの最表面を構成し且つ被印字媒体への接着に寄与するオーバーコート層に、飽和ポリエステル樹脂と無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂とのブレンド物を使用する。このため、本発明の熱溶融転写型インクリボンによれば、様々な材質の包装材料に高精細の印字を高速で実施可能であり、包装材料表面に良好な耐指擦過性や密着性を示す印字物を与えることができ、しかも、耐熱性、耐アルコール性及び耐油性にも優れた印字物を与えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】耐熱滑性層を持たない本発明の熱溶融転写型インクリボンの断面図である。
図2】耐熱滑性層を有する本発明の熱溶融転写型インクリボンの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の熱溶融転写型インクリボン10は、図1に示すように、耐熱性のフィルム基材層1の上に、順次、転写制御層2、インク層3及びオーバーコート層4が積層された構造を有し、必要に応じ、図2に示すように、フィルム基材層1の転写制御層2と反対側の表面に、耐熱滑性層5が積層されていてもよい。以下、本発明の熱溶融転写型インクリボンを構成する要素毎に説明する。
【0012】
<フィルム基材層1>
本発明の熱溶融転写型インクリボンを構成するフィルム基材層1は、熱溶融転写型インクリボン10に、意図した引張強度や曲強度等の機械的性質や、熱溶融転写条件に対して意図した耐熱性等を付与する層であり、従来公知のインクリボン用耐熱性フィルム基材材料の中から適宜選択して用いることができる。このような耐熱性フィルム基材層1として、ポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)、ポリプロピレンフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリエチレンフィルム、ポリイミドフィルム、アラミドフィルム、ポリアミドフィルム、ポリカーボネートフィルム、ポリ塩化ビニルフィルム等が挙げられ、中でも、機械的性質、耐熱性、コスト等の観点から、ポリエチレンテレフタレートフィルムが好ましい。
【0013】
フィルム基材層1の厚みは、材質、機械的性質、熱的性質等に応じて異なるが、通常2~12μm、溶断防止、熱伝導性の観点から好ましくは2~6μmである。
【0014】
<転写制御層2>
本発明の熱溶融転写型インクリボンを構成する転写制御層2は、フィルム基材層1とインク層3との間に設けられる層であり、インク層3に対して熱溶融転写操作が行われた際に、円滑でキレのある熱溶融転写を実現するための層である。このような転写制御層2を紙などの被印字媒体に熱溶融転写した場合、フィルム基材層1との界面で剥離してもよく、インク層3との界面で剥離してもよく、また、転写制御層2で凝集破壊して剥離してもよい。なお、フィルム基材層1との間で界面剥離すると、得られた印字物の表面が、比較的低い融点や軟化点の転写制御層2となるので、印字物が加熱によりベタつき、包装食品のハンドリング性が低下するおそれがあり、また、転写制御層2で凝集破壊剥離すると、印字物の表面に転写制御層2の凝集破壊物が残存するので、フィルム基材層1との間で界面剥離した場合と同様に、印字物が加熱によりベタつき、包装食品のハンドリング性が低下するおそれがあるだけでなく、印字物を加熱しなくても、印字物の表面平滑性が失われて印字物の品質低下を招くおそれがある。従って、転写制御層2は、インク層3との間で界面剥離することが好ましい。
【0015】
このような転写制御層2は、公知の熱溶融転写型インクリボンに採用されている転写制御層や剥離層と同様の構成を取ることができる。例えば、公知の熱溶融物質や熱可塑性樹脂を主成分として構成されていればよい。これらの成分を一種以上選択して転写制御層2を構成する場合、転写制御層2の融点(DSC法)もしくは軟化点(環球法)が、好ましくは70~150℃、より好ましくは90~130℃の範囲になるように選択することが好ましい。この範囲を下回るように選択すると、印字物の耐擦過性と高精細性と耐熱性が低下する傾向があり、上回るように選択すると、印字の際に転写制御層が溶融する為の熱量が多く必要となり、印字かすれや転写不良が発生する傾向がある。
【0016】
転写制御層2に使用可能な熱溶融物質としては、公知の植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、石油系ワックス、合成ワックス等を単独でもしくは二種以上を混合して使用することができる。これらのワックス自体は、融点以上に加熱された場合には溶融して低粘度液体となるため、インク層3と転写制御層2との間の界面剥離性を向上させることができる。
【0017】
転写制御層2に使用可能な植物系ワックスとしては、カルナウバワックス、パームワックス、キャンデリラワックス等が挙げられる。鉱物系ワックスとしてはモンタンワックス等が挙げられ、石油系ワックスとしては、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス等が挙げられ、合成ワックスとしては、フィッシャートロプシュスワックス、ポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス、高級脂肪酸アミドワックス、ケトンワックス等が挙げられる。
【0018】
転写制御層2に使用可能な熱可塑性樹脂としては、エチレン-酢酸ビニル共重合樹脂(EVA樹脂)、エチレン-アクリル酸エチル共重合体樹脂(EEA樹脂)、ポリアミド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、フェノール系樹脂、変性ポリオレフィン樹脂等が挙げられるが、これに限定されることはない。前記熱可塑性樹脂は単独で使用してもよいが、二種以上を混合して使用することもできる。
【0019】
転写制御層2においては、前述したワックスと熱可塑性樹脂とをそれぞれ単独で使用してもよいが、併用することもできる。併用した場合の比率は特に限定はされないが、質量比で好ましくは99:1~5:95、より好ましくは97:3~50:50である。
【0020】
転写制御層2は、溶融粘度や箔切れ性や塗装性の改良や調整を目的に、公知の界面活性剤、フィラー、滑剤等を必要に応じて含有することができる。
【0021】
転写制御層2の層厚は、転写制御層形成用塗料の乾燥塗布量と密接に相関しているから、その層厚を乾燥塗布量で規定することができる。具体的には、乾燥塗布量が少なすぎるとインク層3と転写制御層2との間の界面剥離性が低下する傾向があり、多すぎると転写感度が低下し、また、印字物の耐擦過性等も低下する傾向があるので、乾燥塗布量で好ましくは0.1~2.0g/m、より好ましくは0.2~1.0g/mである。
【0022】
ここで、転写制御層形成用塗料としては、前述した熱溶融物質や熱可塑性樹脂と必要に応じて添加される他の成分との混合物を熱溶融した無溶剤系塗料や、前記混合物を有機溶剤に溶解または分散したり、水に分散または乳化したりした溶剤系塗料が挙げられる。これらの塗料は、ディゾルバー、ビーズミル、ピンミルやホモミキサー等で調製することができる。
【0023】
なお、転写制御層形成用塗料の塗装方法に関しては特に制限はなく、公知の塗装方法を採用することができる。例えばバーコーティング、スプレーコーティング、スリットリバースコーティング、ダイレクトグラビアコーティング、リバースグラビアコーティング、オフセットグラビアコーティング等の方法を適宜選択することができる。転写制御層2の形成は、塗料が溶剤系塗料の場合には塗料をフィルム基材層に塗布し、乾燥することにより形成することができ、無溶剤系塗料の場合は塗料をホットメルトグラビアコーティングやホットメルトダイコーティング等の方法で基材フィルム層1に塗布することにより形成することができる。
【0024】
<インク層3>
本発明では、転写制御層2とオーバーコート層4との間に、着色剤と、着色剤を保持するためのバインダーとなる熱可塑性樹脂成分とを含有するインク層3を設ける。
【0025】
着色剤としては、公知の熱溶融転写型インクリボンのインク層に採用されている各種公知の顔料系着色剤を使用することができる。例えば、黒色顔料としてカーボンブラック、白色顔料として酸化チタン、各種色顔料として各種有機顔料及び無機顔料などが挙げられる。
【0026】
着色剤のインク層3中の含有量は、着色剤の種類やインクリボンの使用目的などに応じて異なるが、印字物の印字濃度とインク層3の熱溶融転写性とを考慮すると、好ましくはインク層3の15~80質量%、より好ましくは20~60質量%である。また、熱可塑性樹脂成分のインク層3中の含有量は、着色剤の添加量や熱可塑性樹脂の種類やインクリボンの使用目的などに応じて異なるが、印字物の印字濃度とインク層3の熱溶融転写性とを考慮すると、好ましくはインク層3の20~85質量%、より好ましくは40~80質量%である。なお、インク層3中から着色剤を除いた成分中の熱可塑性樹脂成分の含有量は、好ましくは85~100質量%、より好ましくは90~100質量%である。
【0027】
本発明の熱溶融転写型インクリボンにおいて、インク層3を構成する熱可塑性樹脂成分は、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂を含有する。その含有量は、熱可塑性樹脂成分中に好ましくは70~100質量%、より好ましくは80~100質量%である。このようにグリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂を含有することにより、後述するオーバーコート層4と協働して、様々な材質の包装材料に高精細の印字を高速で実施可能とし、包装材料表面に良好な耐指擦過性や密着性を示す印字物を与えることを可能とし、しかも、耐熱性、耐アルコール性及び耐油性にも優れた印字物を与えることを可能とする。ここで、「(メタ)アクリレート」はメタクリレートとアクリレートとを包含する技術用語である。
【0028】
グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂は、グリシジル(メタ)アクリレートと、それと共重合可能な一種以上の他のモノマーとの共重合体である。他のモノマーとしては、スチレンなどのアリールアルキレン、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル等のアルキル(メタ)アクリレート等が挙げられ、これらの他のモノマーは、水酸基、ハロゲン基、アミノ基、アリール基、アルキル基等により置換されていてもよい。好ましいグリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂としては、スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート二元共重合樹脂、(メタ)アクリル酸エステル-グリシジル(メタ)アクリレート二元共重合樹脂、スチレン-(メタ)アクリル酸エステル-グリシジル(メタ)アクリレート三元共重合樹脂等が挙げられる。中でも、インク層に良好な箔切れ性を付与できる点から、スチレン-グリシジル(メタ)アクリレート二元共重合樹脂、特に、スチレン-グリシジルメタアクリレート二元共重合樹脂をインク層3の熱可塑性樹脂成分として使用する事が好ましい。
【0029】
グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂のガラス転移温度は、低すぎると印字物の耐熱性や熱溶融転写型インクリボンの耐ブロッキング性が低下するという傾向があり、高すぎると熱溶融転写型インクリボンの印字感度や印字物の被印字媒体への密着性が低下するという傾向があるので、好ましくは40~100℃、より好ましくは65~90℃である。なお、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂のガラス転移温度は、JIS K7121に記載の示差走査熱量測定法(DSC法)により中間点ガラス転移温度として測定することができる。
【0030】
また、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂の重量平均分子量は、小さすぎると印字物の耐アルコール性や耐油性が低下するという傾向があり、大きすぎるとインク層の箔切れ性が低下するという傾向があるので、好ましくは8000~50000、より好ましくは8000~20000である。なお、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂の重量平均分子量(もしくは数平均分子量)は、GPC法(ゲル浸透クロマトグラフィー法)によって標準物質であるポリスチレン換算の重量平均分子量(もしくは数平均分子量)を測定することができる。
【0031】
更に、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂のエポキシ当量は、小さすぎると熱溶融転写型インクリボンの耐ブロッキング性が低下するという傾向があり、大きすぎるとインク層の箔切れ性だけでなく印字物の被印字媒体への密着性やインク層中における着色剤の分散性が低下するという傾向があるので、好ましくは100~3000g/eq.、より好ましくは100~1000g/eq.である。なお、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂のエポキシ当量は、JIS K7236に記載の測定方法により求めることができる。
【0032】
本発明の熱溶融転写型インクリボンのインク層3を構成する熱可塑性樹脂成分は、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂の他に、更に、耐アルコール性向上のために塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂、飽和ポリエステル樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも一種の熱可塑性樹脂を含有することができる。これらの樹脂の中でも特に塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂を含有することがより好ましい。
【0033】
インク層3を構成する熱可塑性樹脂として追加的に使用できる塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂の具体例としては、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-ビニルアルコール三元共重合樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-ジカルボン酸三元共重合樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート三元共重合樹脂等を用いる事が好ましく、塩化ビニル-酢酸ビニル-ビニルアルコール三元共重合樹脂を用いる事がより好ましい。
【0034】
このような塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂を構成する各モノマーの構成比率は、二元共重合体の場合には好ましくは塩化ビニルモノマーが75~95質量%、酢酸ビニルモノマーが1~25質量%の範囲で構成されている事が好ましく、また、三元共重合体の場合にはビニルアルコール、ジカルボン酸又はヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートのいずれかのモノマーが1~15質量%の範囲で構成されていることが好ましい。
【0035】
なお、塩化ビニル-酢酸ビニル-ジカルボン酸三元共重合樹脂を構成するためのジカルボン酸モノマーとしては、マレイン酸、無水マレイン酸、イタコン酸、シトラコン酸、フマル酸等のジカルボン酸含有モノマーが挙げられる。また、塩化ビニル-酢酸ビニル-ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート三元共重合樹脂を構成するためのヒドロキシアルキル(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシブチル、(メタ)アクリル酸4-ヒドロキシブチル等が挙げられる。
【0036】
また、インク層3を構成する熱可塑性樹脂として追加的に使用できる飽和ポリエステル樹脂は、一種以上の多価カルボン酸と一種以上の多価アルコールとの重縮合によって得られる樹脂である。多価カルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメット酸等が挙げられ、多価アルコールとしては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブチルグリコール、プロピレングリコール、2,2ジメチルトリメチレングリコール、1,4ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール等が挙げられる。
【0037】
インク層3を構成する熱可塑性樹脂として追加的に使用できるアクリル樹脂は、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、アクリル酸(誘導体を含む)、メタクリル酸(誘導体を含む)のいずれか1種類のモノマーを重合したホモポリマー、もしくは2種類以上のモノマーを共重合したコポリマー及びターポリマー、さらにそれらの変性及び酸変性物を使用することができる。
【0038】
これらの追加的に併用される熱可塑性樹脂は、それぞれ好ましいガラス転移温度と数平均分子量(もしくは重量平均分子量)とを有する。具体的には、ガラス転移温度について、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂は好ましくは50~100℃、より好ましくは60~80℃であり、飽和ポリエステル樹脂は好ましくは0~80℃、より好ましくは40~70℃であり、アクリル樹脂は好ましくは30~120℃であり、より好ましくは50~110℃である。数平均分子量について、塩化ビニル・酢酸ビニル系共重合樹脂は好ましくは10000~50000、より好ましくは15000~50000であり、飽和ポリエステル樹脂は好ましくは5000~35000、より好ましくは10000~25000である。アクリル樹脂の重量平均分子量は、好ましくは20000~300000、より好ましくは30000~150000である。
【0039】
本発明の熱溶融転写型インクリボンのインク層3を構成する熱可塑性樹脂成分は、耐熱性を改善する目的で、シランカップリング剤を含有することができる。シランカップリング剤の配合量は、印字感度や品質を低下させないように、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂100質量部に対し0.5~5.0質量部、好ましくは1.0~4.0質量部である。
【0040】
シランカップリング剤としては、分子内にアミノ基、ビニル基、エポキシ基、(メタ)アクリル基、メルカプト基、イソシアネート基から選ばれる一種以上の官能基を有する公知のシランカップリング剤を使用目的に応じて適宜選択して使用することができる。特にエポキシ基との反応性に優れている点からアミノ基を官能基として有するシランカップリング剤を好ましく使用することができる。アミノ基を官能基として有するシランカップリング剤の具体例としては、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルメチルジメトキシシラン、N-2-(アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-トリエトキシシリル-N-(1,3-ジメチル-ブチリデン)プロピルアミン、N-フェニル-3-アミノプロピルトリメトキシシラン、N-(ビニルベンジル)-2-アミノエチル-3-アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩などを挙げることができる。
【0041】
インク層3には、更に、箔切れ性や印字感度を向上させるために、ワックス類を含有させることができる。ワックスの例としては、カルナウバワックス、モンタン酸ワックス、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス、フィッシャートロプシュスワックス、ポリエチレンワックス等が挙げられるが、特にこれに限定されるわけではない。なお、これらのワックス類を使用する場合、単独で用いてもよく、二種以上を併用することもできる。
【0042】
インク層3には、以上説明した成分の他に、着色剤の分散性、インクの箔切れ性、塗料粘度等の改良及び調整を目的に、公知の界面活性剤や無機及び有機フィラーを含有させることができる。
【0043】
インク層3の層厚は、インク層形成用塗料の乾燥塗布量と密接に相関しているから、その層厚を乾燥塗布量で規定することができる。具体的には、乾燥塗布量が少なすぎると印字物の印字濃度や耐熱性、更に耐アルコール性や耐油性も低下する傾向があり、多すぎると印字物の印字濃度や耐熱性だけでなく、耐アルコール性や耐油性も向上するもののインク層の箔切れ性や印字感度が低下する傾向があるので、乾燥塗布量で好ましくは0.5~3.0g/m、より好ましくは1.0~1.5g/mである。
【0044】
ここで、インク層形成用塗料としては、前述した着色剤と熱可塑性樹脂成分と、必要に応じて添加される他の成分との混合物を熱溶融した無溶剤系塗料や、前記混合物を有機溶剤に溶解または分散したり、水に分散または乳化したりした溶剤系塗料が挙げられる。これらの塗料は、ディゾルバー、ビーズミル、ピンミルやホモミキサー等で調製することができる。
【0045】
なお、インク層形成用塗料の塗装方法に関しては特に制限はなく、転写制御層2の形成の場合と同様に、公知の塗装方法を採用することができる。
【0046】
<オーバーコート層4>
本発明の熱溶融転写型インクリボンにおいては、インク層3の熱溶融転写性と当該熱溶融転写型インクリボンの印字品質と印字感度とを向上させ、更に印字物と被印字媒体との密着性を向上させるために、インク層3の上にオーバーコート層4を設ける。このオーバーコート層4は、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂と飽和ポリエステル樹脂とを含有する。このため、インク層3を、着色剤に加えて、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂成分から構成することと相まって、様々な材質の包装材料に高精細の印字を高速で実施可能であり、しかも包装材料表面に良好な耐擦過性や密着性を示す印字物を与えることができ、更に、耐熱性、耐アルコール性及び耐油性にも優れた印字物を与えることができる。
【0047】
本発明において、オーバーコート層4を構成する無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂は、主原料モノマーであるC2n(n≧2)で示されるオレフィン系炭化水素モノマーに、副原料モノマーである無水マレイン酸および各種アクリル酸誘導体の三種のモノマーを共重合させた三元共重合体の総称である。この三元共重合体を取得するための重合方法は公知の重合方法を適宜採用することができる。また、三元共重合体の構造は、原料モノマーが共重合している限り、限定されるものではなく、ランダム共重合、ブロック共重合、グラフト共重合のいずれでもよい。
【0048】
無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂の主原料モノマーであるオレフィン系炭化水素モノマーとしては、例えばエチレン、プロピレン、ブテン、ペンテン、ヘキセン等の炭素数2~6のオレフィン系炭化水素モノマーが挙げられ、これらのモノマーもしくは混合物を適宜選択して主原料モノマーとして採用することが好ましい。中でも、エチレン、プロピレン、イソブチレン、n‐ブテン等の炭素数2~4のオレフィン系炭化水素モノマーが好ましく、特にエチレンが好ましい。
【0049】
無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂を構成する副原料モノマーであるアクリル酸誘導体としては、アクリル酸エステル誘導体、メタクリル酸エステル誘導体、アクリル酸アミド誘導体、メタクリル酸アミド誘導体等が挙げられる。中でもアクリル酸エステル誘導体が好ましい。
【0050】
アクリル酸エステル誘導体としては、エステル結合の末端が炭素数8以下の直鎖状または分枝状のアルキル基で構成されたものが好ましく挙げられる。このようなアクリル酸エステル誘導体として、例えば、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸ペンチル、アクリル酸ヘキシル、アクリル酸ヘプチル、アクリル酸オクチル等の公知のアクリル酸エステル誘導体が挙げられる。中でも、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n‐ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸イソブチル等のエステル結合の末端が炭素数1~4のアルキル基で構成されたものが好ましい。
【0051】
メタクリル酸エステル誘導体としては、エステル結合の末端が炭素数8以下の直鎖状または分枝状のアルキル基で構成されたものが好ましく挙げられる。このようなメタクリル酸エステル誘導体として、例えば、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸t‐ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸オクチル等の公知のメタクリル酸エステル誘導体が挙げられる。中でも、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n‐ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸イソブチル等のエステル結合の末端が炭素数1~4のアルキル基で構成されたものが好ましい。
【0052】
アクリル酸アミド誘導体としては、アミノ基の末端が水素または炭素数1~4の直鎖状または分枝状のアルキル基から構成されたものが好ましく挙げられる。このようなアクリル酸アミド誘導体として、例えば、N-メチルアクリル酸アミド、N-エチルアクリル酸アミド、N-プロピルアクリル酸アミド、N-イソプロピルアクリル酸アミド、N-n-ブチルアクリル酸アミド、N-t-ブチルアクリル酸アミド、N-イソブチルアクリル酸アミドのようなN-アルキルアクリル酸アミド類やN,N-ジメチルアクリル酸アミド、N,N-ジエチルアクリル酸アミド、N,N‐ジプロピルアクリル酸アミド,N,N‐ジブチルアクリル酸アミドのようなN,N‐アルキルアクリル酸アミド類等の公知のアクリル酸アミド誘導体が挙げられる。
【0053】
メタクリル酸アミド誘導体としては、アミノ基の末端が水素または炭素数1~4の直鎖状または分枝状のアルキル基から構成されたものが好ましく挙げられる。このようなメタクリル酸アミド誘導体として、例えば、N-メチルメタクリル酸アミド、N-エチルメタクリル酸アミド、N-プロピルメタクリル酸アミド、N-イソプロピルメタクリル酸アミド、N-n-ブチルメタクリル酸アミド、N-t-ブチルメタクリル酸アミド、N-イソブチルメタクリル酸アミドのようなN-アルキルメタクリル酸アミド類やN,N-ジメチルメタクリル酸アミド、N,N-ジエチルメタクリル酸アミド、N,N‐ジプロピルメタクリル酸アミド,N,N‐ジブチルメタクリル酸アミドのようなN,N‐アルキルメタクリル酸アミド類等の公知のメタクリル酸アミド誘導体が挙げられる。
【0054】
オーバーコート層4を構成する無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂は、前述したように、オレフィン系炭化水素モノマーと無水マレイン酸とアクリル酸誘導体との三元又はそれ以上の多元共重合体であり、それらの樹脂を具体的に説明すると、アクリル酸エステル誘導体を原料として使用するものとしては、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、ブテン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体などが挙げられ、メタクリル酸エステル誘導体を原料として使用するものとしては、エチレン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、ブテン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-メタクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体などが挙げられ、アクリル酸アミド誘導体を原料として使用するものとしては、エチレン-アクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-アクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-アクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体、ブテン-アクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-アクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-アクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-アクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体などが挙げられ、メタアクリル酸アミド誘導体を原料として使用するものとして、エチレン-メタアクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-メタアクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-メタアクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体、ブテン-メタアクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体、エチレン-ブテン-メタアクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体、プロピレン-ブテン-メタアクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体、エチレン-プロピレン-ブテン-メタアクリル酸アミド-無水マレイン酸共重合体などが挙げられる。中でも、エチレン-アクリル酸エステル-無水マレイン酸共重合体が好ましく、具体的には、エチレン-アクリル酸メチル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸エチル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸プロピル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸イソプロピル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸n-ブチル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸t-ブチル-無水マレイン酸共重合体、エチレン-アクリル酸イソブチル-無水マレイン酸共重合体が挙げられる。
【0055】
オーバーコート層4を構成する無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂は、前述したように副原料モノマーとして無水マレイン酸を含有する。無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂における無水マレイン酸の構成比は、無水マレイン酸の構成比が小さすぎると当該無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂自体の水性化や印字物の被印字媒体への密着性が不十分になるおそれがあり、高すぎるとオーバーコート層4の強度が低下するおそれがあるので、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂中の0.1~5.0質量%であることが好ましく、0.3~4.0質量%であることがより好ましい。
【0056】
オーバーコート層4を構成する無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂は、前述したように副原料モノマーとしてアクリル酸誘導体を含有する。無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂におけるアクリル酸誘導体の構成比は、アクリル酸誘導体の構成比が小さすぎると当該無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂自体の水性化や溶媒への溶解性、更に印字物の被印字媒体への密着性等が不十分になるおそれがあり、高すぎるとオーバーコート層4の硬度が低下して印字物の耐擦過性が低下したり、当該無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂の融点が低下したりするために、熱溶融転写型インクリボンにブロッキングが生じたりするおそれがあるので、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂中の1.0~40.0質量%であることが好ましく、5.0~30.0質量%であることがより好ましい。
【0057】
オーバーコート層4を構成する無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂の融点は、低すぎると熱溶融転写型インクリボンにブロッキングが生ずるおそれがあり、また印字物の耐熱性が低下するおそれがあり、高すぎると熱溶融転写型インクリボンの印字感度や印字物の被印字媒体への密着性が低下するおそれがあるので、好ましくは90~160℃、より好ましくは100~130℃である。
【0058】
また、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂の数平均分子量は、小さすぎると、印字物の耐アルコール性や耐油性が低下するおそれがあるので、好ましくは10000~200000、より好ましくは10000~50000である。
【0059】
なお、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂のオーバーコート層4中の含有量は、少なすぎると熱溶融転写型インクリボンの印字感度や印字物の被印字媒体への密着性が低下するおそれがあり、多すぎるとインク層3の箔切れ性や印字物の耐熱性が低下するおそれがあるので、好ましくは10~90質量%、より好ましくは50~75質量%である。
【0060】
オーバーコート層4を構成する飽和ポリエステル樹脂は、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂と併用することにより、オーバーコート層4の密着性や耐熱性等の特性をバランスよく改善させることができる。
【0061】
本発明でオーバーコート層4を構成する飽和ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸と多価アルコールとの重縮合によって得られる樹脂であり、多価カルボン酸としては、アジピン酸、セバシン酸、コハク酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、トリメット酸等を使用することができる。多価アルコールとしては、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ブチルグリコール、プロピレングリコール、2,2ジメチルトリメチレングリコール、1,4ブタンジオール、1,5ペンタンジオール、1,6ヘキサンジオール等を使用することができる。中でも、本発明のオーバーコート層4に用いられる飽和ポリエステル樹脂は、多価カルボン酸としてイソフタル酸および/又はテレフタル酸を少なくとも原料として使用し、多価アルコール成分としてエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、1,4ブタンジオール、1,6ヘキサンジオール、2,2ジメチルトリメチレングリコールのいずれか1つを少なくとも原料として使用して重縮合された飽和ポリエステル樹脂であることが好ましい。なお、本発明のオーバーコート層4に用いられる飽和ポリエステル樹脂は上記の多価カルボン酸と多価アルコールからそれぞれ1種類の多価カルボン酸と多価アルコールが重縮合したものでもよいし、2種類以上の多価カルボン酸と多価アルコールが重縮合したものでもよい。
【0062】
飽和ポリエステル樹脂のガラス転移温度は、低すぎると熱溶融転写型インクリボンの耐ブロッキング性が低下するおそれがあり、高すぎると印字物の被印字媒体への密着性が低下するおそれがあるので、好ましくは-15~70℃、より好ましくは0~40℃である。また、その軟化点(環球法)は、低すぎると印字物の耐熱性が低下するおそれがあり、高すぎると熱溶融転写型インクリボンの印字感度が低下するおそれがあるので、好ましくは100~170℃、より好ましくは100~150℃である。数平均分子量は、小さすぎると印字物の耐アルコール性や耐油性が低下するおそれがあり、大きすぎるとインク層3の箔切れ性が低下するおそれがあるので、好ましくは3000~30000、より好ましくは10000~25000である。
【0063】
このような飽和ポリエステル樹脂は、印字物の耐熱性や密着性を良好なレベルに維持するために、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂100質量部に対し、好ましくは10~1000質量部、より好ましくは33~100質量部の範囲で配合する。
【0064】
オーバーコート層4には、本発明の効果を損なわない範囲で、印字のキレや印字感度や耐擦過性の向上のために、あるいは電気的特性等の向上のために、公知のワックスや熱可塑性樹脂、あるいは公知の有機もしくは無機フィラーを添加してもよい。さらに公知の界面活性剤を適宜含有させて、フィラーの分散性の向上、水性化時の塗料安定性の向上、塗料粘度等の改良及び調整を行っても良い。
【0065】
オーバーコート層4の層厚は、オーバーコート層形成用塗料の乾燥塗布量と密接に相関しているから、その層厚を乾燥塗布量で規定することができる。具体的には、乾燥塗布量が少なすぎるとインク層3の熱溶融転写性や印字物の被印字媒体への密着性が乏しくなるおそれがあり、多すぎると熱溶融転写型インクリボンの印字感度が低下するおそれがあるので、乾燥塗布量で好ましくは0.1~1.0g/m、より好ましくは0.2~0.8g/mである。
【0066】
ここで、オーバーコート層形成用塗料としては、前述した飽和エステル樹脂と無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂と、必要に応じて添加される他の成分との混合物を熱溶融した無溶剤系塗料や、前記混合物を有機溶剤に溶解または分散したり、水に分散または乳化したりした溶剤系塗料が挙げられる。これらの塗料は、ディゾルバー、ビーズミル、ピンミルやホモミキサー等で調製することができる。
【0067】
なお、オーバーコート層形成用塗料の塗装方法に関しては特に制限はなく、転写制御層2の形成の場合と同様に、公知の塗装方法を採用することができる。
【0068】
<耐熱滑性層5>
本発明の熱溶融転写型インクリボンは、印字の際にフィルム基材がプリンタのヘッド素子に融着してフィルム基材にシワが発生するスティッキング現象や熱によるフィルム基材の破断を防止する為に、フィルム基材層1の転写制御層2が形成されている側の反対側に、公知の耐熱滑性層と同様な構成の耐熱滑性層5を形成することができる。耐熱滑性層5は、シリコン樹脂、フッ素樹脂、ニトロセルロース樹脂、シリコン変性ウレタン樹脂、シリコン変性アクリル樹脂、ポリアミドイミド樹脂などの公知の耐熱性樹脂と、その他の接着性樹脂や硬化剤や固体滑剤や液状滑剤等を適宜混合した混合物から形成されればよいが、シリコン成分のオーバーコート層への移行による被印字媒体と印字物の密着性の低下を抑制するために、耐熱滑性層5に使用する耐熱性樹脂としては非シリコン系の樹脂を使用する事がより好ましい。
【0069】
耐熱滑性層5の層厚は、耐熱滑性層形成用塗料の乾燥塗布量と密接に相関しており、その層厚を乾燥塗布量で規定することができる。具体的には、乾燥塗布量が少なすぎると耐熱滑性層5自体の耐熱性や滑性が不十分となるためにフィルム基材が破断したり、スティッキング現象が発生したりするおそれがあり、多すぎると熱溶融転写型インクリボンの印字感度が低下するおそれがあるので、乾燥塗布量で好ましくは0.05~1.00g/m、より好ましくは0.1~0.5g/mである。
【0070】
ここで、耐熱滑性層形成用塗料としては、前述した耐熱性樹脂と、必要に応じて添加される他の成分との混合物を有機溶剤に溶解または分散した溶剤系塗料が挙げられる。これらの塗料は、ディゾルバー、ビーズミル、ピンミルやホモミキサー等で調製することができる。
【0071】
なお、耐熱滑性層形成用塗料の塗装方法に関しては特に制限はなく、転写制御層2の形成の場合と同様に、公知の塗装方法を採用することができる。
【0072】
<熱溶融転写型インクリボンの製造>
本発明の熱溶融転写型インリボンは、フィルム基材層の片面に、転写制御層形成用塗料を常法により塗布して転写制御層を形成する。続いて、転写制御層上に、インク層形成用塗料を常法により塗布してインク層を形成し、更にオーバーコート層形成用塗料を塗布してオーバーコート層を形成する。これにより、図1の熱溶融転写型インクリボンが得られる。なお、フィルム基材層の他面に予め熱滑性層形成用塗料を常法により塗布して耐熱滑性層を形成しておいたフィルム基材層を使用すれば、図2の熱溶融転写型インクリボンが得られる。
【実施例
【0073】
本発明を実施例により具体的に説明する。まず、実施例に適用したフィルム基材層、耐熱滑性層形成用塗料、転写制御層形成用塗料、インク層形成用塗料(インク塗料1~9)、オーバーコート層形成用塗料(OC塗料1~8)について説明する。
【0074】
(フィルム基材層)
フィルム基材層として、厚み4.5μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)を用意した。
【0075】
(耐熱滑性層形成用塗料)
表1の成分中のポリエステル樹脂とセルロースアセテートプロピオネート樹脂とを、トルエンとメチルエチルケトンの混合溶媒に溶解させ、得られた溶液に液状ポリαオレフィンとPEワックス分散物とを均一に混合することにより、固形分5質量%の耐熱滑性層形成用塗料を調製した。なお、表1中、「PEワックス分散物(固形分20%トルエン,Mp105℃)」は、融点(Mp)が105℃のポリエチレンワックスを固形分が20質量%となるようにトルエンに分散して得た分散物である。
【0076】
【表1】
【0077】
(転写制御層形成用塗料)
表2の成分中のEEA樹脂(エチレン-エチルアクリレート共重合体)をトルエンに溶解させ、得られた溶液にPEワックス分散物を均一に混合することにより、固形分15質量%の転写制御層形成用塗料を調製した。なお、表2中、「PEワックス分散物(固形分20%トルエン,Mp107℃)」は、融点(Mp)が107℃のポリエチレンワックスを固形分が20質量%となるようにトルエンに分散して得た分散物である。
【0078】
【表2】
【0079】
(インク層形成用塗料)
表3の全成分を均一に混合した後にビーズミルなどで着色剤を分散させることにより、固形分15質量%のインク層形成用塗料(インク塗料1~8)を調製した。表3中、「固形分20%M/T=4/1」は、メチルエチルケトン/トルエンを4/1の質量比で混和させた溶媒で固形分20質量%に調製したことを意味する。また、「固形分25%M/T=1/1」は、メチルエチルケトン/トルエンを1/1の質量比で混和させた溶媒で固形分25質量%に調製したことを意味する。「固形分20%MEK」は、メチルエチルケトンで固形分20質量%に調製したことを意味する。「VC」は塩化ビニル、「VAc」は酢酸ビニル、「VA」はビニルアルコールを意味する。なお、インク塗料1~6が本発明の実施例1~6に適用され、インク塗料7~8が比較例1~2に適用された。
【0080】
【表3】
【0081】
(オーバーコート層形成用塗料)
表4の成分中、純水とイソプロピルアルコールとの混合溶媒を、無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂水分散物と飽和ポリエステル樹脂エマルジョンとの混合物に少しずつ添加しながら均一に混合することにより、固形分12質量%のオーバーコート層形成用塗料(OC塗料1~8)を調製した。表4中、「PE」はポリエチレン、「PP」はポリプロピレン、「EA」はアクリル酸エチル、「MAH」は無水マレイン酸を意味する。なお、OC塗料1~3、5~6が本発明の実施例7~11に適用され、OC塗料4、7~8が比較例3~5に適用された。
【0082】
【表4】
【0083】
実施例1~6、比較例1~2(インク層の評価)
(インク塗料1~8を用いたインクリボンの作成(OC塗料1を使用))
4.5μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)の片面に、表1の耐熱滑性層形成用塗料をグラビアコータで塗布し、乾燥して乾燥塗布量0.2g/mの耐熱滑性層を形成したPETフィルムの他面に、表2の転写制御層形成用塗料をグラビアコータにて塗布し、乾燥して乾燥塗布量0.5g/mの転写制御層を形成した。
【0084】
次に、転写制御層の上に表3のインク層形成用塗料(インク塗料1~8)をグラビアコータにて塗布し、揮発成分等を乾燥して乾燥塗布量1.2g/mのインク層を形成した。
【0085】
次に、インク層上に、表4のオーバーコート層形成用塗料(OC塗料1)をグラビアコータにて塗布し、乾燥して乾燥塗布量0.3g/mのオーバーコート層を形成した。これにより、表5に示すように、実施例1~6及び比較例1~2の熱溶融転写型インクリボンを作成した。
【0086】
実施例7~11、比較例3~6(オーバーコート層の評価)
(OC塗料1~8を用いたインクリボンの作成(インク塗料1を使用))
4.5μm厚のポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)の片面に、表1の耐熱滑性層形成用塗料をグラビアコータで塗布し、乾燥して乾燥塗布量0.2g/mの耐熱滑性層を形成した。
【0087】
耐熱滑性層を形成したPETフィルムの他面に、表2の転写制御層形成用塗料をグラビアコータにて塗布し、乾燥して乾燥塗布量0.5g/mの転写制御層を形成した。
【0088】
次に、転写制御層の上に表3のインク層形成用塗料(インク塗料1)をグラビアコータにて塗布し、揮発成分等を乾燥して乾燥塗布量1.2g/mのインク層を形成した。
【0089】
次に、比較例6の場合を除き、インク層上に、表4のオーバーコート層形成用塗料(OC塗料1~8)をグラビアコータにて塗布し、乾燥して乾燥塗布量0.3g/mのオーバーコート層を形成した。これにより、表6に示すように、実施例7~11及び比較例3~5の熱溶融転写型インクリボンを作成した。
【0090】
<評価>
実施例及び比較例で得られた熱溶融転写型インクリボン又はその印字物について、「印字品質」、「印字感度」、「耐熱性」、「耐アルコール性」、「耐油性」、「耐擦過性」及び「密着性」を以下に説明するように試験・評価した。得られた結果を表5、6に示す。
【0091】
(印字品質)
熱溶融転写型インクリボンを、熱転写プリンタ(SmartDate3C,マーケム社)に装着し、印字濃度140%、印字速度10m/分の条件で、1dot細線を含む高精細な印字パターンを総厚80μmの食品包装用フィルム(PETフィルム/アルミ薄膜/無延伸ポリプロピレンフィルム)のPETフィルム側表面に対して印字を行い、得られた印字サンプルの印字品質を基準で評価した。評価結果がA又はBであることが望まれる。なお1dot細線とはサーマルヘッドの熱素子1つで印字する極細線の印字の事で、本発明で使用するプリンタの1dotの幅は約0.085mm(25.4mm(1inch)/300dot)である。
【0092】
印字品質評価基準
A:印字が1dot細線を含めて全てしっかり転写し、面状剥離、印字カケ、印字カスレが全く観察されない場合。
B:印字に面状剥離、印字カケ又は印字カスレが僅かに観察されるが、実用上問題の無い場合。
C:印字の一部に面状剥離、印字カケ又は印字カスレがはっきりと観察される場合。
D:印字の全面に面状剥離、印字カケ又は印字カスレがはっきりと観察される場合あるいは発色不良の場合。
【0093】
(印字感度)
印字速度条件を、10m/分と15m/分という異なる2種類の条件で行ったこと以外は、印字品質評価試験と同様に印字を行い、得られた印字サンプルの印字感度を以下の基準で評価した。評価結果がA又はBであることが望まれる。
【0094】
印字感度評価基準
A:15m/分という高速印字速度でも、印字カスレがなく、インクがしっかりと転写されている場合。
B:印字速度が10m/分では印字カスレがないが、15m/分では、印字カスレが僅かに観察されるが、実用上問題の無い場合。
C:印字速度が10m/分でも、印字の一部に印字カスレがはっきりと観察される場合。
D:印字速度が10m/分でも、印字全体にひどい印字カスレが観察される、もしくは印字が全く転写していない場合。
【0095】
(耐熱性)
印字品質評価試験と同様に印字を行い、得られた印字サンプルを100℃の湯中に投入し、ステンレス製撹拌棒で5分毎に右回り10回左回り10回の撹拌を60分間行った後、湯中から印字サンプルを引き上げ、印字サンプルの耐熱性を以下の基準で評価した。評価結果がA又はBであることが望まれる。
【0096】
耐熱性評価基準
A:印字に欠損が全く観察されない場合。
B:印字の一部に微細な欠損もしくは僅かな印字濃度の低下が観察されるが、実用上問題の無い場合。
C:印字の一部にはっきりとした欠損が観察される場合。
D:印字の全面にはっきりとした欠損が観察される場合。
【0097】
(耐アルコール性)
印字品質評価試験と同様に印字を行い、得られた印字サンプルの印字部分に対し、学振型摩擦試験機を用いて500g/cm荷重でエタノールを含浸させた綿布(カナキン3号)を30往復擦過させ、印字サンプルの耐アルコール性を以下の基準で評価した。評価結果がA又はBであることが望まれる。
【0098】
耐アルコール性評価基準
A:印字の欠損又は印字の濃度低下が全く観察されない場合。
B:印字の一部に微細な欠損もしくは僅かな印字濃度の低下が観察されるが、実用上問題の無い場合。
C:印字の一部又は全面にはっきりとした欠損又ははっきりとした印字濃度の低下が観察される場合。
D:印字がほぼ消失する場合。
【0099】
「耐油性」
印字品質評価試験と同様に印字を行い、得られた印字サンプルを、室温下で食用植物油に完全に浸漬させて24時間放置した後に、食用植物油から引き上げ、キムタオル(登録商標、日本製紙クレシア株式会社)で印字部位の油を軽く拭き取った後に、印字サンプルの耐油性を以下の基準で評価した。評価結果がA又はBであることが望まれる。
【0100】
耐油性評価基準
A:印字の欠損又は印字の濃度低下が全く観察されない場合。
B:印字の一部に微細な欠損もしくは僅かな印字濃度の低下が観察されるが、実用上問題の無い場合。
C:印字の一部又は全面にはっきりとした欠損又ははっきりとした印字濃度の低下が観察される場合。
D:印字がほぼ消失する場合。
【0101】
「耐擦過性」
印字品質評価試験と同様に印字を行い、得られた印字サンプルの印字部分を、人差し指の腹で30回強く擦り、印字サンプルの耐油性を以下の基準で評価した。評価結果がA又はBであることが望まれる。
【0102】
「耐擦過性評価基準」
A:印字の欠損又は印字の濃度低下が全く観察されない場合。
B:印字の一部に微細な欠損もしくは僅かな印字濃度の低下が観察されるが、実用上問題の無い場合。
C:印字の一部又は全面にはっきりとした欠損又ははっきりとした印字濃度の低下が観察される場合。
D:印字がほぼ消失する場合。
【0103】
「密着性」
印字品質評価試験と同様に印字を行い、得られた印字サンプルの印字部分に、セロテープ(登録商標、ニチバン株式会社)を貼り付け、90度方向に引き剥がし、印字サンプルの密着性を以下の基準で評価した。評価結果がA又はBであることが望まれる。
【0104】
「密着性評価基準」
A:印字の欠損又は印字の濃度低下が全く観察されない場合。
B:印字の一部に微細な欠損もしくは僅かな印字濃度の低下が観察されるが、実用上問題の無い場合。
C:印字の一部又は全面にはっきりとした欠損又ははっきりとした印字濃度の低下が観察される場合。
D:印字がほぼ消失する場合。
【0105】
【表5】
【0106】
【表6】
【0107】
<評価結果の考察>
表5~表6の結果より、実施例1~実施例11の熱溶融転写型インクリボンは、いずれの評価項目に関しても「A」評価または「B」評価であった。
【0108】
また、インク層の熱可塑性樹脂として、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂に加え、さらに追加的に塩化ビニル-酢酸ビニル-ビニルアルコール三元共重合体樹脂または飽和ポリエステル樹脂を使用している実施例1~3及び実施例5の熱溶融転写型インクリボンは、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂だけを使用している実施例6の熱溶融転写型インクリボンに比べて、耐アルコール性の評価に関してより優れていることがわかる。
【0109】
また、インク層にシランカップリング剤をさらに添加した実施例4の熱溶融転写型インクリボンは、シランカップリング剤とインク中のグリシジルメタクリレート系共重合樹脂とが反応すること等により印字物の耐熱性が向上するため、耐熱性の評価に関して実施例の中で唯一「A」評価となったことがわかる。
【0110】
また、実施例7~9の熱溶融転写型インクリボンを互いに比較すると、オーバーコート層に無水マレイン酸アクリル変性ポリプロピレン樹脂よりも無水マレイン酸アクリル変性ポリエチレン樹脂を使用したほうが、印字感度、耐アルコール性、耐油性、密着性の評価に関してより優れていることがわかる。また実施例7、10及び11の熱溶融転写型インクリボンを互いに比較すると、オーバーコート層への無水マレイン酸アクリル変性ポリオレフィン樹脂の添加量が少なくなると、耐アルコール性や密着性の評価が次第に低下する傾向があることがわかる。
【0111】
他方、比較例1の熱溶融転写型インクリボンは、インク層においてグリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂に代えて比較的箔切れ性が良いとされているポリスチレン樹脂を添加した例であるが、熱溶融転写により印字物が得られるものの、印字物の発色が十分でなく、しかも印字物の一部に明確はっきりと面状剥離が発生し、印字品質がC評価となり、さらに印字画像の耐アルコール性や耐油性の性能も充分ではなくそれぞれC評価となった。
【0112】
また、比較例2の熱溶融転写型インクリボンは、インク層の熱可塑性樹脂成分として、グリシジル(メタ)アクリレート系共重合樹脂を使用せずに、塩化ビニル-酢酸ビニル-ビニルアルコール三元共重合体樹脂を使用したので、インク層の箔切れ性が大幅に低下し、熱溶融転写により印字物が得られなかったため、印字品質が「D」評価であった。
【0113】
比較例3の熱溶融転写型インクリボンは、オーバーコート層に飽和ポリエステル樹脂を全く含有させなかったため、印字物の一部にはっきりと面状剥離が発生し、印字品質が「C」評価となった。その反対に、比較例4の熱溶融転写型インクリボンは、オーバーコート層に無水マレイン酸アクリル変性オレフィン樹脂を全く含有させなかったため、印字物の一部にはっきりと印字カケが発生し、印字品質が「C」評価となり、さらに印字物の耐アルコール性も不充分となり「C」評価であった。
【0114】
また、比較例5の熱溶融転写型インクリボンは、オーバーコート層において飽和ポリエステル樹脂に代えて粘着剤として周知のテルペンフェノール樹脂を使用したので、印字品質及び印字感度に関しては問題が無いものの、印字物の耐アルコール性と耐油性とが著しく低いため「D」評価であり、耐熱性、耐擦過性も充分ではなく「C」評価であった。なお、比較例6の熱溶融転写型インクリボンは、オーバーコート層を設けていないので、熱溶融転写により印字物が得られなかった。
【産業上の利用可能性】
【0115】
本発明の熱溶融転写型インクリボンは、様々な材質の包装材料に高精細の印字を高速で実施可能であり、包装材料表面に良好な耐擦過性や密着性を示す印字物を与えることができ、しかも、耐熱性、耐アルコール性及び耐油性にも優れた印字物を与えることができるので、特に、各種食品包装材に対する賞味期限表示や内容物表示の印字用途に有用である。
【符号の説明】
【0116】
1 フィルム基材層
2 転写制御層
3 インク層
4 オーバーコート層
5 耐熱滑性層
10 熱溶融転写型インクリボン
図1
図2