(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】変速制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 15/20 20060101AFI20221109BHJP
F16H 61/04 20060101ALI20221109BHJP
F16H 61/684 20060101ALI20221109BHJP
F16H 63/50 20060101ALI20221109BHJP
B60K 6/46 20071001ALI20221109BHJP
B60K 6/52 20071001ALI20221109BHJP
B60W 10/10 20120101ALI20221109BHJP
B60W 10/08 20060101ALI20221109BHJP
B60W 20/19 20160101ALI20221109BHJP
【FI】
B60L15/20 K ZHV
F16H61/04
F16H61/684
F16H63/50
B60K6/46
B60K6/52
B60W10/10 900
B60W10/08 900
B60W20/19
B60L15/20 S
(21)【出願番号】P 2018207976
(22)【出願日】2018-11-05
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000006286
【氏名又は名称】三菱自動車工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167380
【氏名又は名称】清水 隆
(74)【代理人】
【識別番号】100187827
【氏名又は名称】赤塚 雅則
(72)【発明者】
【氏名】弓削 勝忠
(72)【発明者】
【氏名】坂口 佳弘
(72)【発明者】
【氏名】安部 洋則
(72)【発明者】
【氏名】林 宏樹
【審査官】井古田 裕昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平6-107042(JP,A)
【文献】特開2017-178055(JP,A)
【文献】特開2015-211476(JP,A)
【文献】特開2006-161976(JP,A)
【文献】特開2001-004016(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 15/20
F16H 61/04
F16H 61/684
F16H 63/50
B60K 6/46
B60K 6/52
B60W 10/10
B60W 10/08
B60W 20/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の前後の駆動輪の一方を駆動する第一モータと、
前記前後の駆動輪の他方を駆動する第二モータと、
前記第二モータの出力軸から前記駆動輪に伝達される回転の回転数を変速する変速機と、
前記変速機の変速動作を制御する制御部と、
を備え、
前記変速機の変速動作に伴って前記第二モータの駆動力が一旦遮断されて、前記第一モータの駆動力のみで車両を駆動する際に、前記第一モータに要求される要求トルクが該第一モータの出力可能な最大トルクを越えないように、前記制御部が、前記変速機の変速開始タイミングを変更する制御を行なう変速制御装置。
【請求項2】
ドライバによるアクセルペダルの操作量を検出するペダルセンサをさらに有し、
前記ペダルセンサによって、前記アクセルペダルが踏み込まれて、前記要求トルクが増大すると予測できる場合に、前記変速開始タイミングが早められて、前記変速動作の完了時点において、前記要求トルクが前記最大トルクを越えないように制御を行なう
請求項1に記載の変速制御装置。
【請求項3】
前記操作量が前記アクセルペダルの踏み込み量又は踏み込み速度であって、前記踏み込み量が大きいほど、又は、前記踏み込み速度が大きいほど、前記変速開始タイミングをより早めるように制御を行なう
請求項2に記載の変速制御装置。
【請求項4】
前記第一モータの
温度、回転数、および、トルクの少なくとも1つを検出する負荷センサをさらに有し、
前記負荷センサで検出した前記第一モータへの負荷が大きいほど、前記変速機の変速開始タイミングをより早める制御を行なう
請求項2又は3に記載の変速制御装置。
【請求項5】
前記負荷センサが前記第一モータの温度を検出する温度センサであり、その温度が高いほど、前記変速機の変速開始タイミングをより早める制御を行なう
請求項4に記載の変速制御装置。
【請求項6】
前記変速機が、高速ギアと低速ギアを有する2段変速機であり、前記変速開始タイミングを変更する制御が、前記高速ギアから前記低速ギアに変速される際に行なわれる
請求項1から5のいずれか1項に記載の変速制御装置。
【請求項7】
車両の前後の駆動輪の一方を駆動する第一モータと、
前記前後の駆動輪の他方を駆動する第二モータと、
前記第二モータの出力軸から前記駆動輪に伝達される回転の回転数を変速する変速機と、
前記変速機の変速動作を制御する制御部と、
を備え、
前記変速機の変速動作に伴って前記第二モータの駆動力が一旦遮断されて、前記第一モータおよび前記第二モータのうち前記第一モータの駆動力で車両を駆動する際に、前記第一モータに要求される要求トルクが該第一モータの出力可能な最大トルクを越えないように、前記制御部が、前記変速機の変速開始タイミングを変更する制御を行なう変速制御装置。
【請求項8】
ドライバによるアクセルペダルの操作量を検出するペダルセンサをさらに有し、
前記ペダルセンサによって、前記アクセルペダルが踏み込まれて、前記要求トルクが増大すると予測できる場合に、前記変速開始タイミングが早められて、前記変速動作の完了時点において、前記要求トルクが前記最大トルクを越えないように制御を行なう
請求項7に記載の変速制御装置。
【請求項9】
前記操作量が前記アクセルペダルの踏み込み量又は踏み込み速度であって、前記踏み込み量が大きいほど、又は、前記踏み込み速度が大きいほど、前記変速開始タイミングをより早めるように制御を行なう
請求項8に記載の変速制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車両の変速制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイブリッド車や電気自動車のようにモータの駆動力によって走行する車両においては、例えば下記特許文献1に示すように、その前輪と後輪にそれぞれ駆動用のモータ(特許文献1の
図1中のフロントモータ18、リアモータ20参照)を併設して4輪駆動式としたものがある。そして、ドライバのアクセルペダルの操作量に基づく要求トルクに対応して、各モータへの駆動力の分配を制御している。
【0003】
このモータには、例えば特許文献2に示す変速機が併設されることがある。この変速機は、低車速域のときに適用される低速ギアと、高車速域のときに適用される高速ギアとから構成される多段式のギアを備えている(特許文献2の
図2中の高速ギア機構30、低速ギア機構40参照)。
【0004】
この変速機の車速に対するトルク特性(ドライブシャフト周りの軸トルク)の一例を
図2(b)に示す。この変速機のギアを低速ギアに切り替えることによって、車速が比較的低速で大きなトルクを必要とする走行状態(例えば、登坂時や低速からの全開加速時等)に対応することができる一方で、高速ギアに切り替えることによって、それほど大きなトルクを必要としない広い車速域(例えば、街中や高速道路での通常走行時等)に対応することができる。
【0005】
この変速機は、前輪及び後輪の両方に設けることもできるが、車両の重量増加が問題となることがある。このため、例えば、前輪を
図2(a)に示すトルク特性を有するドライブシャフト直結式のフロントモータで駆動し、後輪を
図2(b)に示すトルク特性を有する変速機が併設されたリアモータで駆動する構成とすることが多い。
【0006】
この変速機のギアは、初期状態として高速ギアに設定されていることが多い。この高速ギアは、低速から高速までの広い速度域をカバーしており、しかも、通常の走行状態(街中走行等)では、低速ギアへの切り替えが必要なほど大きなトルクを要求されることは少なく、車両走行中の変速回数をなるべく少なくすることが期待できるためである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2012-101771号公報
【文献】特開2001-4016号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上記のようにリアモータのみに変速機を設けた車両において、例えば、前輪と後輪のトルク配分を50:50とした場合、ある車速X(高速ギアから低速ギアへの変速によって、トルクを増大可能な低車速域内の車速)で、ドライバのアクセルペダルの操作量に基づく要求トルクが2Yとすると、その要求トルクはフロントモータ及びリアモータにYずつ均等に割り振られる(
図2(a)中の点A、
図2(b)中の点B参照)。
【0009】
この状態からドライバがアクセルペダルをさらに踏み込んで、要求トルクが2Yから2Y’まで増大する過程(要求トルクがフロントモータ及びリアモータにY’ずつ均等に割り振られる過程(
図2(a)中の点C、
図2(b)中の点D参照))について、
図2(b)及び
図9(a)~(c)を用いて説明する。ここで、
図9(a)はフロントモータのトルク変化を、
図9(b)はリアモータのトルク変化を、
図9(c)は両モータのトータルのトルク変化をそれぞれ示す。
【0010】
アクセルペダルの踏み込み量の増大に伴ってリアモータに割り振られる要求トルクも増大し、その要求トルクが高速ギアのときの最大トルクRHmaxとなったタイミングで(
図2(b)中の点E参照)、高速ギアから低速ギアに変速される。この変速中は、
図9(b)に示すように、クラッチ機構によってリアモータの駆動力が一時的に(
図9(b)中のt
1からt
2までの時間Δt)切り離されるため、
図9(a)に示すように、フロントモータのみでリアモータに割り振られた要求トルクを負担する必要が生じる。
【0011】
ところが、特に登坂時や全開加速時のように大きなトルクを必要とする走行状態においては、
図9(a)に示すように、フロントモータが負担する要求トルクが、フロントモータの最大トルクFmaxを超える場合がある。この場合、フロントモータが、最大トルクFmaxを超える要求トルク(
図9(a)中のt
1からt
2までの時間Δtにおいて、最大トルクFmaxを超える破線部分)を負担することができない。その結果、
図9(c)に示すように、ドライバの要求トルクに対し、モータによって与えられる実トルクが一時的に不足する「トルク抜け」が生じ、ドライバに違和感を与える問題がある。
【0012】
そこで、この発明は、前後の駆動輪にそれぞれ駆動用のモータを設けるとともに、その少なくとも一方に変速機を併設した車両において、変速機の変速動作の際に、トルク抜けが生じないようにすることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記の課題を解決するために、この発明においては、車両の前後の駆動輪の一方を駆動する第一モータと、前記前後の駆動輪の他方を駆動する第二モータと、前記第二モータの出力軸から前記駆動輪に伝達される回転の回転数を変速する変速機と、前記変速機の変速動作を制御する制御部と、を備え、前記変速機の変速動作に伴って前記第二モータの駆動力が一旦遮断されて、前記第一モータの駆動力のみで車両を駆動する際に、前記第一モータに要求される要求トルクが該第一モータの出力可能な最大トルクを越えないように、前記制御部が、前記変速機の変速開始タイミングを変更する制御を行なう変速制御装置を構成した。
【0014】
前記構成においては、ドライバによるアクセルペダルの操作量を検出するペダルセンサをさらに有し、前記ペダルセンサによって、前記アクセルペダルが踏み込まれて、前記要求トルクが増大すると予測できる場合に、前記変速開始タイミングが早められて、前記変速動作の完了時点において、前記要求トルクが前記最大トルクを越えないように制御を行なうことができる。
【0015】
前記ペダルセンサを有する構成においては、前記操作量が前記アクセルペダルの踏み込み量又は踏み込み速度であって、前記踏み込み量が大きいほど、又は、前記踏み込み速度が大きいほど、前記変速開始タイミングをより早めるように制御を行なうことができる。
【0016】
前記ペダルセンサを備える構成においては、前記第一モータの負荷を検出する負荷センサをさらに有し、前記負荷センサで検出した前記第一モータへの負荷が大きいほど、前記変速機の変速開始タイミングをより早める制御を行なうことができる。
【0017】
前記負荷センサを有する構成においては、その負荷センサが前記第一モータの温度を検出する温度センサであり、その温度が高いほど、前記変速機の変速開始タイミングをより早める制御を行なうことができる。
【0018】
前記各構成においては、前記変速機が、高速ギアと低速ギアを有する2段変速機であり、前記変速開始タイミングを変更する制御が、前記高速ギアから前記低速ギアに変速される際に行なわれるようにすることができる。
【発明の効果】
【0019】
この発明では、変速機の変速動作に伴って第二モータの駆動力が一旦遮断されて、第一モータの駆動力のみで車両を駆動する際に、前記第一モータに要求される要求トルクが該第一モータの出力可能な最大トルクを越えないように、制御部が、前記変速機の変速開始タイミングを変更する制御を行なうようにした。このため、変速動作の際に、第一モータのみでドライバの要求トルクを確実に負担することができ、ドライバの要求トルクと第一モータの最大トルクとの差に相当する大きさのトルクが不足するトルク抜けが生じて、ドライバに違和感を与えるのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】この発明に係る変速制御装置が搭載された車両の一例(4輪駆動式のシリーズハイブリッド車)を示す模式図である。
【
図2】(a)はフロントモータのトルク特性を、(b)はリアモータのトルク特性をそれぞれ示す図である。
【
図3】ドライバの要求トルクに対するフロントモータ及びリアモータへのトルク配分を示す図である。
【
図4】この発明に係る変速制御装置で変速制御を行なったときのトルク変化(第一実施例)を示す図である。
【
図5】この発明に係る変速制御装置で変速制御を行なったときのトルク変化(第二実施例)を示す図である。
【
図6】この発明に係る変速制御装置で変速制御を行なったときのトルク変化(第三実施例)を示す図である。
【
図7】モータ温度が上昇したときにおけるモータの最大トルクの低下を示す図である。
【
図8】この発明に係る変速制御装置における処理フローを示すフローチャートである。
【
図9】従来技術に係る変速制御装置において、(a)はフロントモータのトルク変化を、(b)はリアモータのトルク変化を、(c)は両モータのトータルのトルク変化をそれぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
この発明に係る変速制御装置が搭載された車両10の一例を
図1に示す。この車両10は、前輪11及び後輪12の両方の駆動輪11、12をモータによって駆動する4輪駆動式のシリーズ式ハイブリッド車であり、前輪11を駆動する第一モータ13(以下、フロントモータ13という。)、後輪12を駆動する第二モータ14(以下、リアモータ14という。)、リアモータ14の出力軸から後輪12に伝達される回転の回転数を変速する変速機15、及び、変速機15の変速動作を制御する制御部16を変速制御装置の主要な構成要素としている。
【0022】
ジェネレータ17は、エンジン18の回転力によって発電を行い、その電力によって直接、又は、一旦バッテリ19に蓄えられた電力によって、フロントモータ13及びリアモータ14が駆動される。
【0023】
アクセルペダル20には、ドライバによるアクセルペダル20の踏み込み量や踏み込み速度等の各操作量を検出するペダルセンサ21が併設されている。ペダルセンサ21による検出結果は、制御部16に伝達される。
【0024】
フロントモータ13には、このフロントモータ13の温度を検出する温度センサ22が併設されている。温度センサ22による検出結果は、制御部16に伝達される。ここでは、温度センサ22を例示したが、フロントモータ13の負荷を検出する他の負荷センサ22(例えば、回転センサやトルクセンサ等)で代用できる場合もある。
【0025】
前輪11側には、車速を検出する車速センサ23が設けられている。
図1に示す車速センサ23の位置は例示であって、その取り付け位置を適宜変更することもできる。
【0026】
フロントモータ13は、前輪11のドライブシャフトに変速機を介さずに直結されている。
図2(a)に示すように、フロントモータ13は、低速で最大トルクFmaxを発生し、車速が上がるにつれてそのトルク(ドライブシャフトの軸トルク)が減少するトルク特性を有している。
【0027】
リアモータ14は、後輪12のドライブシャフトに変速機15を介して設けられている。この変速機15は、高速ギアと低速ギアとを有する2段変速機である。
図2(b)に示すように、高速ギアは、それほど大きなトルクを必要としない低速から高速までの広い車速域(例えば、街中や高速道路での通常走行時等)に対応している。この高速ギアは、低速で最大トルクRHmaxを発生し、車速が上がるにつれてそのトルクが減少するトルク特性を有している。
【0028】
低速ギアは、車速が比較的低速で大きなトルクを必要とする走行状態(例えば、登坂時や低速からの全開加速時等)に対応している。この低速ギアは、低速で最大トルクRLmaxを発生し、車速が上がるにつれてそのトルクが減少するトルク特性を有している。中間車速域では、高速ギアと低速ギアのトルクはほぼ一致している。
【0029】
フロントモータ13の最大トルクFmaxは、後述する高速ギアから低速ギアへの変速の際に、フロントモータ13のみでリアモータ14に割り振られた要求トルクを負担できるように、リアモータ14の高速ギアにおける最大トルクRHmaxよりも大きく、かつ、低速ギアにおける最大トルクRLmaxよりも小さく設定されている。
【0030】
この車両10においては、
図3に示すように、ドライバの要求トルクに対し、フロントモータ13とリアモータ14のトルク配分比が常にほぼ50:50となるように、制御部16によって各モータ13、14のトルクが制御されている。このように、配分比を制御することにより、車両10の安定的な走行性能を確保している。なお、この配分比は例示に過ぎず、4輪駆動車として安定的な走行が可能な配分比の範囲内(例えば、30:70~70:30の範囲内)で可変とすることもできる。
【0031】
トルク配分比が50:50の場合、例えば、ドライバのアクセルペダル20の操作量に基づく要求トルクが2Yとすると、その要求トルクはフロントモータ13及びリアモータ14にYずつ均等に割り振られる(
図2(a)中の点A、
図2(b)中の点B参照)。この状態からドライバがアクセルペダル20をさらに踏み込んで、要求トルクが2Yから2Y’まで増大する過程(すなわち、フロントモータ13及びリアモータ14にY’ずつ均等に割り振られる過程(
図2(a)中の点C、
図2(b)中の点D参照))において、リアモータ14で要求トルクY’を生じさせるためには、トルク増大の途中で、高速ギアから低速ギアへの変速が必須となる。
【0032】
この発明に係る変速制御装置においては、変速機15の変速動作に伴ってリアモータ14の駆動力が一旦遮断されて、フロントモータ13のみで車両10を駆動する際に、フロントモータ13に要求される要求トルクがこのフロントモータ13の最大トルクFmaxを越えないように、制御部16が変速機15の変速開始タイミングを予測した上で変更する予測制御を行なう。
【0033】
具体的には、リアモータ14のトルクが、高速ギアにおける最大トルクRHmaxとなる前(例えば、
図2(b)中の点F(トルク閾値T)参照)に高速ギアから低速ギアへの変速を開始することで、その変速中に、ドライバの要求トルクに対し、モータによって与えられる実トルクが一時的に不足する「トルク抜け」(
図9(c)参照)が生じないようにしている。このトルク閾値Tは、アクセルペダル20の操作量やフロントモータ13の温度等の各要因に基づいて制御部16が決定する。
【0034】
さらに具体的には、アクセルペダル20の踏み込み量や踏み込み速度が大きいほど、又は、フロントモータ13の温度が高いほど、フロントモータ13の最大トルクFmaxからのトルク閾値T(後述する
図4中のT
1、
図5中のT
2、
図6中のT
3参照)の下げ幅を大きくして、変速開始タイミング(
図4中のt
1’、
図5中のt
1’’、
図6中のt
1’’’参照)をより早めることによって、変速動作の完了時点(
図4中のt
2’、
図5中のt
2’’、
図6中のt
2’’’参照)において、要求トルクがフロントモータ13の最大トルク(
図4、
図5中のFmax、
図6中のF’max参照)を越えないようにしている。
【0035】
この発明に係る変速制御装置で変速制御を行なったときのトルク変化の第一実施例を
図4に示す。この第一実施例は、フロントモータ13の温度が比較的低温であって、その最大トルクFmax(定格トルク)を出力可能な状態において、ドライバがアクセルペダル20を踏み込むことによって、フロントモータ13及びリアモータ14のそれぞれへの要求トルクがYからY’に増大した状況を示す。このとき、フロントモータ13の温度とアクセルペダル20の操作量から、高速ギアから低速ギアに変速するトルク閾値T
1が決定される。
【0036】
要求トルクが、高速ギアにおける最大トルクRHmaxとなる前のトルク閾値T
1(
図2(b)参照)となったときに変速動作を開始する(t
1’のタイミング)ことにより、この要求トルクがフロントモータ13の最大トルクFmaxに到達する前(t
2’)に変速動作を完了することができる。この変速動作に要する変速時間Δt(=t
2’-t
1’)は、車軸とギアの回転数合わせに要する時間に対応する。
【0037】
上記のように、トルク閾値T1に基づいて変速動作を開始することで、その変速中(t1’からt2’の間)のトルク抜けを確実に防止して、ドライバが求める良好な加速感を確保することができる。
【0038】
この発明に係る変速制御装置で変速制御を行なったときのトルク変化の第二実施例を
図5に示す。この第二実施例は、フロントモータ13の温度が比較的低温であって、その最大トルクFmax(定格トルク)を出力可能な状態において、ドライバがアクセルペダル20を踏み込むことによって、フロントモータ13及びリアモータ14のそれぞれへの要求トルクがYからY’に増大する点において第一実施例と共通するが、第一実施例よりもアクセルペダル20の踏み込み速度が大きい点で相違する。
【0039】
この踏み込み速度が大きいと、ドライバの要求トルクの時間変化量(
図5中のドライバ要求トルクの傾き)が大きくなり、変速中の車速変化がより大きくなる。そこで、トルク閾値T
2を第一実施例におけるトルク閾値T
1よりもさらに下げて、変速動作の開始(t
1’’のタイミング)をより早めることにより、要求トルクがフロントモータ13の最大トルクFmaxに到達する前(t
2’’)に変速動作を完了することができる。
【0040】
この発明に係る変速制御装置で変速制御を行なったときのトルク変化の第三実施例を
図6に示す。この第三実施例は、ドライバがアクセルペダル20を踏み込むことによって、フロントモータ13及びリアモータ14のそれぞれへの要求トルクがYからY’に増大する点において第一実施例と共通するが、フロントモータ13の温度が比較的高温である点で第一実施例と相違する。
【0041】
フロントモータ13の温度が高い場合、モータ構成部品の劣化等の不具合を防止するために、例えば
図7に示すように、低温時の最大トルクFmax(定格トルク)と比較して高温時の最大トルクF’maxが制限される(F’max<Fmax)。
【0042】
そこで、トルク閾値T3を第一実施例におけるトルク閾値T1よりもさらに下げて、変速動作の開始(t1’’’のタイミング)をより早めることにより、要求トルクが高温時におけるフロントモータ13の最大トルクF’maxに到達する前(t2’’’)に変速動作を完了することができる。
【0043】
この発明に係る変速制御装置における処理フローのフローチャートの一例を
図1中の符号を参照しつつ
図8を用いて説明する。
【0044】
まず、ドライバによるアクセルペダル20の操作量(踏み込み量、踏み込み速度)をペダルセンサ21で、フロントモータ13の温度を温度センサ22でそれぞれ取得する(ステップS1)。
【0045】
次に、ペダルセンサ21及び温度センサ22によって得られた検出データに基づいて、制御部16が、高速ギアから低速ギアに変速するトルク閾値T(
図4中のT
1、
図5中のT
2、及び、
図6中のT
3参照)を決定する(ステップS2)。
【0046】
さらに、その時点におけるドライバの要求トルクとトルク閾値Tの大小を比較する(ステップS3)。ドライバ要求トルクがトルク閾値T以上のときは(ステップS3のYES側)、高速ギアから低速ギアへの変速を開始し(ステップS4)、その変速動作が完了したら一連の制御フローを抜ける(ステップS5)。その一方で、ドライバ要求トルクがトルク閾値Tよりも小さいときは(ステップS3のNO側)、この大小の比較ステップ(ステップS3)を繰り返す。
【0047】
上記において説明した変速制御装置の構成、変速制御の際のトルク変化、制御フローのフローチャート等は、この発明を説明するための単なる例示に過ぎず、前後の駆動輪11、12にそれぞれ駆動用のモータ13、14を設けるとともに、その少なくとも一方に変速機15を併設した車両10において、変速機15の変速動作の際に、トルク抜けが生じないようにする、というこの発明の課題を解決し得る限りにおいて、上記の構成要素、制御フロー等に適宜変更を加えることができる。
【0048】
例えば、上記においては、後輪12のみに変速機15を設けた構成としたが、前輪11のみに変速機15を設けた構成とすることもできる。また、前後輪11、12の両方に変速機15を設けた構成とできる可能性もある。また、変速機15を2段変速機とする代わりに、より多段の変速機15を採用することもできる。
【0049】
また、上記においては、シリーズ式ハイブリッド車を例示して説明したが、この変速制御装置は電気自動車にも適用することができる。さらに、プラグインハイブリッド車やパラレル式ハイブリッド車等のように、駆動源としてモータを備えた車両に幅広く適用できる可能性がある。
【符号の説明】
【0050】
10 車両
11 前輪(駆動輪)
12 後輪(駆動輪)
13 フロントモータ(第一モータ)
14 リアモータ(第二モータ)
15 変速機
16 制御部
17 ジェネレータ
18 エンジン
19 バッテリ
20 アクセルペダル
21 ペダルセンサ
22 温度センサ(負荷センサ)
23 車速センサ