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特許7172466ツールセンターポイントの設定方法及び設定装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ツールセンターポイントの設定方法及び設定装置
(51)【国際特許分類】
   B25J 9/10 20060101AFI20221109BHJP
   G05B 19/18 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B25J9/10 A
G05B19/18 D
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018210519
(22)【出願日】2018-11-08
(65)【公開番号】P2020075325
(43)【公開日】2020-05-21
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】安井 祥
(72)【発明者】
【氏名】山崎 峻一
(72)【発明者】
【氏名】清水 拓
【審査官】臼井 卓巳
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-069361(JP,A)
【文献】特開平04-021105(JP,A)
【文献】特開平08-255011(JP,A)
【文献】特開2000-117563(JP,A)
【文献】特開2013-049102(JP,A)
【文献】特開2017-170571(JP,A)
【文献】国際公開第2018/043524(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0118864(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23P 19/06
B25J 9/02-19/04
G05B 19/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マニピュレータにおけるツールセンターポイント(TCP)の設定方法であって、
設置位置が既知の複数の撮像装置で撮像された撮像画像に、仮想的なマーカーを重畳させて表示装置の表示画面に表示する表示ステップと、
処理装置が、前記マニピュレータにおける既知の位置と、前記設置位置に基づいて得らえるワールド座標系における前記マーカーの位置との位置関係を演算することで前記マーカーの位置を前記ツールセンターポイント(TCP)として設定する設定ステップと、
を含むことを特徴とするツールセンターポイント(TCP)の設定方法。
【請求項2】
前記表示画面上において、前記マーカーの位置と前記ツールセンターポイント(TCP)に設定したい位置とを合わせる位置合わせステップを含み、
前記設定ステップは、前記位置合わせステップ後に行われることを特徴とする、請求項1に記載のツールセンターポイント(TCP)の設定方法。
【請求項3】
前記設定ステップでは、前記処理装置が、前記マニピュレータの先端の位置を基準とするツール座標系と前記マーカーの位置を基準とするマーカー座標系との間の座標変換行列を、前記ワールド座標系における前記マーカーの位置及び前記マニピュレータの先端の位置に基づいて演算することで前記位置関係を演算することを特徴とする、請求項1又は2に記載のツールセンターポイント(TCP)の設定方法。
【請求項4】
前記設定ステップは、
前記マニピュレータの先端の位置に基づいて、前記ワールド座標系から前記ツール座標系に座標変換する第1の座標変換行列を演算する第1 の演算ステップと、
前記マーカーの位置に基づいて、前記ワールド座標系から前記マーカー座標系に座標変換する第2の座標変換行列を演算する第2の演算ステップと、
前記第1の座標変換行列及び前記第2の座標変換行列に基づいて、前記ツール座標系と前記マーカー座標系との間の第3の座標変換行列を演算する第3の演算ステップと、
を含むことを特徴とする、請求項3に記載のツールセンターポイント(TCP)の設定方法。
【請求項5】
マニピュレータにおけるツールセンターポイント(TCP)を設定する設定装置であって、
設置位置が既知の複数の撮像装置と、
前記各撮像装置で撮像された撮像画像に、仮想的なマーカーを重畳させて表示装置の表示画面に表示する表示制御部と、
前記マニピュレータにおける既知の位置と、前記設置位置に基づいて得らえるワールド座標系での前記マーカーの位置との位置関係を演算することで前記マーカーの位置を前記ツールセンターポイント(TCP)として設定する設定部と、
を備えることを特徴とする設定装置。
【請求項6】
前記表示画面上において、前記マーカーの位置を任意に変更可能な操作部を備えることを特徴とする、請求項5に記載の設定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ツールセンターポイントの設定方法及び設定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ロボットで各種作業を行うにあたって、ロボットアームの先端(エンドエフェクタの先端)に、ロボットを制御するための基準点であるツールセンターポイント(TCP)が設定される。
【0003】
下記特許文献1には、TCPから定位置に固定された治具座標系を有する冶具をエンドエフェクタに固定しておき、衝突などによりTCPがずれた場合に、上記治具座標系を用いてTCPの再設定を行うことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4020994号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、被災地等の人が立ち入れない危険な場所や特殊環境下においてロボットを用いて作業を行う場合には、未知の物体に対して作業することが多いため、未知の物体にTCPを設定した方が各種作業を行いやすい場合がある。しかしながら、従来の方法では、TCPとの位置関係が変化しない治具座標系を設定したエンドエフェクタを使用することを前提としているため、そもそもTCPとの位置関係が不明な未知な物体にTCPを設定することができない。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、その目的は、未知な物体にTCPを設定することができるツールセンターポイントの設定方法及び設定装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、マニピュレータにおけるツールセンターポイント(TCP)の設定方法であって、設置位置が既知の複数の撮像装置で撮像された撮像画像に、仮想的なマーカーを重畳させて表示装置の表示画面に表示する表示ステップと、処理装置が、前記マニピュレータにおける既知の位置と、前記設置位置に基づいて得らえるワールド座標系における前記マーカーの位置との位置関係を演算することで前記マーカーの位置を前記ツールセンターポイント(TCP)として設定する設定ステップと、を含むことを特徴とするツールセンターポイント(TCP)の設定方法である。
【0008】
本発明の一態様は、上述の設定方法であって、前記表示画面上において、前記マーカーの位置と前記ツールセンターポイント(TCP)に設定したい位置とを合わせる位置合わせステップを含み、前記設定ステップは、前記位置合わせステップ後に行われる。
【0009】
本発明の一態様は、上述の設定方法であって、前記設定ステップでは、前記処理装置が、前記マニピュレータの先端の位置を基準とするツール座標系と前記マーカーの位置を基準とするマーカー座標系との間の座標変換行列を、ワールド座標系における前記マーカーの位置及び前記マニピュレータの先端の位置に基づいて演算することで前記位置関係を演算する。
【0010】
本発明の一態様は、上述の設定方法であって、前記設定ステップは、前記マニピュレータの先端の位置に基づいて、ワールド座標系から前記ツール座標系に座標変換する第1の座標変換行列を演算する第1の演算ステップと、前記マーカーの位置に基づいて、ワールド座標系から前記マーカー座標系に座標変換する第2の座標変換行列を演算する第2の演算ステップと、前記第1の座標変換行列及び前記第2の座標変換行列に基づいて、前記ツール座標系と前記前記マーカー座標系との間の第3の座標変換行列を演算する第3の演算ステップと、を含む。
【0011】
本発明の一態様は、マニピュレータにおけるツールセンターポイント(TCP)を設定する設定装置であって、設置位置が既知の複数の撮像装置と、前記各撮像装置で撮像された撮像画像に、仮想的なマーカーを重畳させて表示装置の表示画面に表示する表示制御部と、前記マニピュレータにおける既知の位置と、前記設置位置に基づいて得らえる前記マーカーのワールド座標系での位置との位置関係を演算することで前記マーカーの位置を前記ツールセンターポイント(TCP)として設定する設定部と、を備えることを特徴とする設定装置である。
【0012】
本発明の一態様は、上述の設定装置であって、前記表示画面上において、前記マーカーの位置を任意に変更可能な操作部を備える。
【発明の効果】
【0013】
以上説明したように、本発明によれば、未知な物体にTCPを設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係るツールセンターポイントの設定方法を適用したロボットシステムAの概略構成の一例を示す図である。
図2】本発明の一実施形態に係る表示装置9の表示画面の一例を示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係るTCPの設定方法を説明する図である。
図4】本発明の一実施形態に係るTCPの設定方法の流れを説明する図である。
図5】本発明の一実施形態に係る効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施形態に係るツールセンターポイントの設定方法及びツールセンターポイントの設定装置を、図面を用いて説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態に係るツールセンターポイントの設定方法を適用したロボットシステムAの概略構成の一例を示す図である。
【0017】
ロボットシステムAは、ロボット1を備え、ロボット1の動作を制御して所定の作業を実施可能なシステムである。ここで、本実施形態では、ロボットシステムAは、ロボット1を遠隔操縦可能なシステムである。すなわち、ロボットシステムAは、操縦者が遠隔からロボット1の動作を制御することで所定の作業を行うことができるシステムである。
【0018】
例えば、ロボットシステムAでは、被災地等の人が立ち入れない危険な場所や、特殊環境下において、ロボット1を遠隔操縦して、ドアのノブを把持して当該ドアを開けたり、工具を把持して作業させることが可能である。ただし、本発明のロボットシステムは、ロボット1を遠隔操縦するシステムには限定されない。さらに、所定の作業としては、ドアのノブを把持して当該ドアを開ける作業や、工具を把持して当該工具で対象物を加工(切削や研削等)、溶接、塗装、仕上げ(バリ取り、面取り、R付け、磨き等)する作業等のその他の作業が挙げられる。
【0019】
ここで、ロボット1を制御するための基準点としてツールセンターポイント(以下、「TCP」という。)を設定し、このTCPを基準にしてロボット1を制御する必要がある。そこで、従来では、エンドエフェクタの先端にTCPを設定し、このTCPを基準にロボット1の動作を制御することが行われている。ただし、被災地等の人が立ち入れない危険な場所や、特殊環境下においては、未知の物体に対して作業することが多いため、エンドエフェクタではなく未知の物体にTCPを設定した方が上記作業を行いやすい場合がある。しかしながら、従来の方法では、既知の物体(例えば、エンドエフェクタ)にしかTCPを設定することができない。そこで、本発明の特徴の一つは、上記作業に行うにあって、未知な物体にTCPを設定することができる点にある。
【0020】
以下において、本発明の一実施形態に係るロボットシステムAの構成の一例について説明する。図1は、本本発明の一実施形態に係るロボットシステムAの概略構成図である。
【0021】
ロボットシステムAは、ロボット1、遠隔操縦装置2、ロボット制御装置3、及び設定装置4を備える。
【0022】
ロボット1は、例えば、作業用のロボットであって、ドアのノブを把持して当該ドアを開けたり、工具を把持して作業することができる。なお、ロボット1は、本発明の「マニピュレータ」の一例である。
【0023】
遠隔操縦装置2は、ロボット制御装置3と無線又は有線で通信可能である。この遠隔操縦装置2は、操縦者(使用者)により操作可能であって、ロボット制御装置3を介してロボット1の動作を遠隔操縦する。
【0024】
ロボット制御装置3は、遠隔操縦装置2と無線又は有線で通信することで遠隔操縦装置2から遠隔操縦指令を取得する。そして、ロボット制御装置3は、その取得した遠隔操縦指令に基づいて、ロボットアーム5の動作を制御することで、ロボットアーム5の先端、すなわち処理ツール7を所望の位置に移動させる。ロボット制御装置3は、CPU又はMPUなどのマイクロプロセッサ、MCUなどのマイクロコントローラなどにより構成されてよい。
【0025】
設定装置4は、ロボット1を制御する上での基準点であるTCPを設定する装置である。
【0026】
以下に、本発明の一実施形態に係るロボット1の概略構成について説明する。
ロボット1は、ロボットアーム5、ハンド部6、及び処理ツール7を備える。
【0027】
ロボットアーム5は、複数の多関節機構を有する。ロボットアーム5の各関節には、各関節を各々駆動するモータが設けられている。ロボットアーム5は、ロボット制御装置3によりモータが駆動されることで、例えば、三次元空間を移動することができる。また、各関節には、モータの回転角度を検知するエンコーダが設けられている。
【0028】
ハンド部6は、処理ツール7をロボットアーム5に対して着脱可能に接続する。
【0029】
処理ツール7は、ハンド部6によりロボットアーム5の先端に取り付けられるエンドエフェクタである。
この処理ツール7は、ロボットアーム5の駆動により、三次元空間内で位置と姿勢を移動可能である。本実施形態では、処理ツール7は、物体を把持する把持部であって、例えば、グリッパや吸着パッドである。ただし、本発明はこれに限定されず、処理ツール7の種類には、特定に限定されない。例えば、処理ツール7は、エンドエフェクタを取り換えるためのツールチェンジャーでもよい。
【0030】
なお、三次元的に移動可能なロボットアーム5と処理ツール7との間に、処理ツール7に作用する外力Fを検出する力センサが取り付けられてもよい。
【0031】
次に、本発明の一実施形態に係る設定装置4の概略構成について説明する。
本発明の一実施形態に係る設定装置4は、複数の撮像装置8、表示装置9、操作部10、処理装置11を備える。なお、表示装置9及び操作部10は、遠隔操縦装置2と一体で構成されてもよい。また、本実施形態では、設定装置4は、2つの撮像装置8を有する場合について説明するが、本発明はこれに限定されず、設定装置4は、複数の撮像装置8を有していればよく、2つ以上であるならばその数には特に限定されない。また、撮像装置8として、例えば、反射時間を利用したTOF(Time of Flight)カメラやレーザーセンサーを用いた三次元点群を取得し,それらを3次元的に計測値を表示する撮像装置でも可能であり、これらであれば実質的に一つの装置で2つ以上の撮像装置の機能を用いていることに変わりない。
【0032】
各撮像装置8は、例えば、集光された光を電気信号に変換する撮像素子であるCCD(Charge Coupled Device)やCMOS(Complementary Metal Oxide Semiconductor)等を備えたステレオカメラである。ただし、各撮像装置8は、ステレオカメラに限定されず、ライトフィールドカメラ等の三次元画像を撮像可能な他のカメラであってもよい。各撮像装置8の撮像画像は、リアルタイムに処理装置11に送信される。
【0033】
なお、三次元のワールド座標系における各撮像装置8の位置は既知であって、予め処理装置11に記憶されている。例えば、このワールド座標系は、ロボット1が設置されている土台を基準位置として設定されている。したがって、各撮像装置8の位置、ロボット1の位置、及び各撮像装置8とロボット1との位置関係は既知であって、処理装置11に予め記憶されていてもよい。
【0034】
表示装置9は、処理装置11により表示が制御される表示装置であって、本実施形態では、各撮像装置8が撮像した撮像画像を立体表示することが可能な3Dモニタである。例えば、表示装置9は、パーソナルコンピュータ用のモニタ等の表示装置であってもよいし、携帯電話機などの携帯機器の表示デバイスであってもよいし、ヘッドマウントディスプレイであってもよい。
【0035】
操作部10は、ユーザ(例えば、操縦者)により操作可能であって、処理装置11と無線又は有線で接続されている。この操作部10は、TCPを設定する際に操作されるものであって、ユーザにより操作されると操作信号を処理装置11に送信する。
【0036】
本実施形態に係る処理装置11は、表示制御部12及びTCP設定部13を備える。なお、処理装置11は、CPU又はMPUなどのマイクロプロセッサ、MCUなどのマイクロコントローラなどにより構成されてよい。
【0037】
表示制御部12は、各撮像装置8が撮像した各撮像画像を表示装置9の表示画面に立体表示するとともに、ある仮想的なマーカーBMを上記撮像画像に重畳して表示画面に表示する。図2は、本実施形態に係る表示装置9の表示画面の一例を示す図である。
【0038】
図2に示すように、例えば、マーカーBMは、目標点BPを原点とする三次元の直交座標系(以下、「マーカー座標系」という。)Hである。本実施形態に係るマーカーBMは、表示装置9における表示画面の所定の位置に固定されて表示される。この目標点BPは、TCPの位置を指定するものである。そのため、本実施形態において、未知の物体(図2に示す把持物)の任意の位置にTCPに設定したい場合には、操縦者は、ロボット1を遠隔操縦して、目標点BPにその任意の位置を合わせる必要がある。なお、三次元のワールド座標系における目標点BPの位置(すなわち、マーカー座標系Hの原点位置)は、予め設定され、TCP設定部13に記憶されている。例えば、三次元のワールド座標系における目標点BPの位置は、各撮像装置8の位置(ワールド座標系)及び各撮像装置8の座標系から一意に求めることが可能であって、例えば、TCP設定部13に演算されてもよい。すなわち、ワールド座標系における各撮像装置8の位置が既知であるため、TCP設定部13は、各撮像装置8の座標系とワールド座標系との間で座標変換が可能である。そのため、TCP設定部13は、ワールド座標系における各撮像装置8の位置を用いて、各撮像装置8の座標系での目標点BPの位置を、ワールド座標系に変換することで、ワールド座標系における目標点BPの位置を演算することができる。
【0039】
TCP設定部13は、操作部10から操作信号を取得すると、三次元のワールド座標系における処理ツール7の先端位置(既知であって、例えば、予め処理装置11に記憶されている)と、目標点BPの位置との位置関係を演算することにより、目標点BPの位置を、TCPに設定することができる。例えば、この処理ツール7の先端位置は、ロボットアーム5の各リンクに固定された各座標系から、各関節の角度を用いて一意に求めることが可能であって、例えば、TCP設定部13に演算されてもよい。
【0040】
以下において、本実施形態に係るTCPの設定方法を、図3及び図4を用いて説明する。なお、以下の説明においては、処理ツール7で把持している未知の把持物の先端にTCPを設定する場合を例として説明する。ただし、本発明はこれに限定されず、把持部以外の既知の物体に対してもTCPを設定可能である。
【0041】
まず、操縦者は、遠隔操縦装置2等を操作してロボットシステムAを、TCPを設定するTCP設定モードに移行させる。
【0042】
TCP設定モードに移行すると、処理装置11は、各撮像装置8から一定周期ごとに撮像画像を取得する。そして、処理装置11は、その取得した撮像画像に対して、目標点BPを原点とするマーカー座標系を示すマーカーBMを重畳させて、表示装置9の表示画面に表示する表示ステップを実行する(ステップS101)。
【0043】
次に、操縦者は、表示装置9の表示画面(図3(a))を確認しながら遠隔操縦装置2を介してロボットアーム5の動作を遠隔操縦して、表示装置9の表示画面上において、TCPを設定したい把持物の先端を目標点BPに位置合わせする。そして、操縦者は、目標点BPに対する把持物の先端の位置合わせが終了すると、操作部10を操作(例えば、操作部10を押下)することで、上記位置合わせを確定する(位置合わせステップ)。操作部10は、操縦者により操作されると、操作信号を処理装置11に無線又は有線で送信する。
【0044】
TCP設定部13は、操作信号を取得すると(ステップS102)、ロボット1における既知の位置である処理ツール7の先端Tの位置と、各撮像装置8の設置位置に基づいて得らえるマーカーBMのワールド座標系での位置(目標点BPの位置)との位置関係を演算することでマーカーBMの位置(目標点BPの位置)をTCPとして設定する(ステップS103)。
【0045】
具体的には、図3(b)に示すように、TCP設定部13は、操作信号を取得すると、処理装置11の記憶部(不図示)に記憶されている、ワールド座標系における処理ツール7の先端Tの位置を読み出し、この先端Tの位置をワールド座標系からツール座標系Hに変換する座標変換行列(例えば、同次変換行列)TW→T(第1の座標変換行列)を演算する。このツール座標系Hは、処理ツール7の先端Tを基準とする三次元の直交座標系である(第1の演算ステップ)。なお、この第1の演算ステップにおいて、TCP設定部13は、ワールド座標系における処理ツール7の先端Tの位置を、ロボットアーム5の各リンクに固定された各座標系から、各関節の角度を用いて演算することで取得してもよい。
【0046】
さらに、TCP設定部13は、操作信号を取得すると、処理装置11の記憶部(不図示)に記憶されている、ワールド座標系における目標点BPの位置を読み出し、この目標点BPの位置をワールド座標系からマーカー座標系Hに変換する座標変換行列(例えば、同次変換行列)TW→M(第2の座標変換行列)を演算する(第2の演算ステップ)。なお、この第2の演算ステップにおいて、TCP設定部13は、ワールド座標系における目標点BPの位置を、撮像装置8の設置位置等から演算することで取得してもよい。
【0047】
そして、TCP設定部13は、座標変換行列TW→T及び座標変換行列TW→Mに基づいて、ツール座標系Hからマーカー座標系Hへの座標変換行列(例えば、同次変換行列)TT→M(第3の座標変換行列)を演算する(第3の演算ステップ)。この座標変換行列TT→Mは、処理ツール7の先端Tの位置と、目標点BPの位置との相対的な位置関係を示すものである。したがって、TCP設定部13は、座標変換行列TT→Mを求めることで、目標点BPの位置をTCPとして設定することができる。
【0048】
このように、TCP設定部13は、ツール座標系Hとマーカー座標系Hとの間の座標変換行列TT→Mを、ワールド座標系における目標点BP及びワールド座標系における処理ツール7の先端Tの位置に基づいて演算することで目標点BPの位置をTCPとして設定することができる。したがって、未知の物体に対してTCPを設定できるようになり、例えば把持物の先端にTCPを設定することによって、ジョグ動作で把持物の先端基準で回転させるといったことが可能になり、操作性の向上が期待される。
【0049】
次に、本実施形態に係る効果について、図5を用いて説明する。
例えば、図5に示すように、ロボット1を遠隔操縦することでロボット1の処理ツール7でドアノブdnを把持してドアDを開ける場合を考える。ドアDはヒンジ部分Gを中心にした回転運動を行うことで開閉できる。
ここで、TCPを処理ツール7の先端に設定した場合には、手先の点周りの並進運動と回転運動を組み合わせながらドアDを開けなければならず、ドアDを開ける作業は非常に困難である。ただし、ドアDの回転軸R上にTCPを設定すれば、TCPを中心とする回転運動だけでドアDの開閉動作を行うことができ、直感的に操作を行うことができる。そのため、本実施形態に係るTCPの設定方法を用いることで、未知の物体であるドアDの回転軸R上にTCPを設定することができ、作業効率が向上することが期待できる。
【0050】
以上、この発明の実施形態について図面を参照して詳述してきたが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計等も含まれる。
【0051】
(変形例1)上記実施形態では、TCP設定部13は、ツール座標系Hとマーカー座標系Hとの間の座標変換行列TT→Mを演算することで、処理ツール7の先端Tの位置と、マーカーBPのワールド座標系での位置(目標点BPの位置)との位置関係を演算したが、本発明はこれに限定されず、処理ツール7の先端Tの位置ではなくてもマニピュレータにおける既知の位置であれば、どこであってもよい。
【0052】
(変形例2)上記実施形態では、座標変換行列TT→Mを演算することで処理ツール7の先端Tの位置とマーカーBPのワールド座標系での位置(目標点BPの位置)との位置関係を演算したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、本発明は、位置関係を演算できればよく、その演算方法には特に限定されない。
【0053】
(変形例3)上記実施形態では、操縦者は、ロボットアーム5の動作を遠隔操縦して、表示装置9の表示画面上において、TCPを設定したい把持物の先端を目標点BPに位置合わせしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、表示装置9の表示画面上において、マーカーBPの位置を任意に変更可能なマーカー操作部を設定装置4に備えてもよい。そて、操縦者は、このマーカー操作部を操作することで、目標点BPの位置を動かして、ロボットアーム5の動作を遠隔操縦し、且つ、上記マーカー操作部を操作することで、TCPを設定したい位置と目標点BPの位置とを位置合わせしてもよい。なお、このマーカー操作部は、操作部10と一体で構成されてもよい。
【0054】
(変形例4)上記実施形態では、撮像装置8の設定位置が固定されている場合について説明したが、本発明はこれに限定されず、設定装置4は、各撮像装置8の位置を調整する調整部を備えてもよい。この調整部は、例えば、操縦者により操作されるものであって、操縦者が当該調整部を操作することで所望の位置から撮像させることができる。ただし、上記調整部を有する場合には、設定装置4は、各撮像装置8の位置を調整した後に、当該撮像装置8のワールド座標系の位置を計測する計測部を備える必要がある。そして、その計測部の計測結果は、処理装置11に有線又は無線で送信される。なお、この調整部は、操作部10と一体で構成されてもよい。
【0055】
以上、説明したように、マニピュレータであるロボット1におけるツールセンターポイント(TCP)の設定方法であって、処理装置11が、設置位置が既知の複数の撮像装置で撮像された撮像画像に、仮想的なマーカーを重畳させて表示装置の表示画面に表示する表示ステップと、処理装置11が、ロボット1における既知の位置(本実施形態では、処理ツール7の先端)と、設置位置に基づいて得らえるマーカーBPのワールド座標系での位置との位置関係を演算することでマーカーBPの位置をツールセンターポイント(TCP)として設定する設定ステップと、を有することを特徴とするツールセンターポイント(TCP)の設定方法である。
【0056】
このような構成によれば、未知の物体に対してツールセンターポイント(TCP)を設定することができる。したがって、例えば把持物の先端にツールセンターポイント(TCP)を設定すれば、ジョグ動作で把持物の先端基準で回転させるといったことが可能になり、操作性の向上が期待される。
【0057】
また、上記ツールセンターポイント(TCP)の設定方法は、表示装置9の表示画面上において、マーカーBPの位置とツールセンターポイント(TCP)に設定したい位置とを合わせる位置合わせステップを含んでもよい。そして、処理装置11が、設定ステップを位置合わせステップ後に行ってもよい。
【0058】
このような構成によれば、操縦者等のオペレータが表示画面を確認しながら直感的且つ容易にTCPを設定することができる。
【0059】
また、上記ツールセンタポイント(TCP)の設定方法は、設定ステップでは、処理装置11が、ロボット1の先端の位置を基準とするツール座標系とマーカーBPの位置を基準とするマーカー座標系との間の座標変換行列TT→Mを、マーカーBPの位置及びロボット1の先端の位置に基づいて演算してもよい。
【0060】
このような構成によれば、座標変換行列TT→Mを求めることは、既知であるロボット1の先端の位置と、マーカーBPの位置との位置関係を求めることになるため、未知の物体に対してツールセンターポイント(TCP)を設定することができる。
【符号の説明】
【0061】
A ロボットシステム
1 ロボット(マニピュレータ)
2 遠隔操縦装置
3 ロボット制御装置
4 設定装置
8 撮像装置
9 表示装置
10 操作部
11 処理装置
12 表示制御部
13 TCP設定部(設定部)
図1
図2
図3
図4
図5