(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】熱硬化性剥離コーティング剤、及び剥離フィルム
(51)【国際特許分類】
C09D 161/28 20060101AFI20221109BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20221109BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20221109BHJP
B32B 27/42 20060101ALI20221109BHJP
C09D 7/63 20180101ALI20221109BHJP
C09D 167/04 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C09D161/28
B32B27/00 L
B32B27/18 Z
B32B27/42 102
C09D7/63
C09D167/04
(21)【出願番号】P 2018211048
(22)【出願日】2018-11-09
【審査請求日】2021-09-09
(31)【優先権主張番号】P 2017221510
(32)【優先日】2017-11-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000168414
【氏名又は名称】荒川化学工業株式会社
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 良樹
(72)【発明者】
【氏名】東本 徹
【審査官】桜田 政美
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-078161(JP,A)
【文献】特開2016-044210(JP,A)
【文献】特開2008-156499(JP,A)
【文献】米国特許第05656347(US,A)
【文献】特開2014-181076(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170037(WO,A1)
【文献】特開平10-017703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 161/28
B32B 27/00
B32B 27/18
B32B 27/42
C09D 7/63
C09D 167/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メラミン樹脂(A)、炭素数12~24の脂肪族ヒドロキシカルボン酸(b)の自己縮合物(B)、及び酸触媒(C)を含む、熱硬化性剥離コーティング剤
であり、
(B)成分の含有量が、前記剥離コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~50重量%である、熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項2】
(A)成分が、メチル化メラミン及び/又はブチル化メラミン由来の構成単位を含む、請求項1に記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項3】
(B)成分が、炭素数18の脂肪族ヒドロキシカルボン酸の自己縮合物である、請求項1又は2に記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項4】
(C)成分が、有機スルホン酸及び/又は有機リン酸である、請求項1~
3のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項5】
(C)成分の含有量が、上記剥離コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~10重量%である、請求項1~
4のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項6】
さらに、ポリオール(D)を含有する、請求項1~
5のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項7】
(A)成分及び(D)成分の重量比[(A)/(D)]が90/10~30/70である、請求項
6に記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【請求項8】
請求項1~
7のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤からなる硬化膜及びプラスチックフィルムを含む、剥離フィルム。
【請求項9】
上記プラスチックフィルムが、ポリエチレンテレフタレートフィルムである、請求項
8に記載の剥離フィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱硬化性剥離コーティング剤、及び剥離フィルムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエチレンテレフタレートフィルムに代表される二軸延伸ポリエステルフィルムは、透明性、寸法安定性、機械的特性、耐薬品性等の性能に優れており、種々の産業分野で利用されている。近年では、各種光学用フィルムに多く使用され、LCD部材のプリズムシート、光拡散シート、反射板、タッチパネル等のベースフィルムや反射防止用ベースフィルム等の各種用途に用いられている。また、剥離フィルムのベースフィルムとして使用されることも多く、粘着シート・粘着テープ、タッチパネル用保護フィルム、セラミックグリーンシート製造用として、電子材料用途にも広く用いられている。
【0003】
従来の剥離フィルムは、ポリエステルフィルムの表面に剥離性を有するシリコーン樹脂系の剥離剤の樹脂塗膜からなる剥離層が形成されたものが主である。しかしながら、シリコーン系の剥離剤を用いて該樹脂塗膜を形成した場合、シリコーン系剥離剤に由来する低分子量のシリコーン化合物が、該樹脂塗膜から粘着シートの粘着剤層の表面に移行することにより、粘着剤層の粘着力が低下するおそれや、この粘着シートによって接着された電子部品がトラブルを起こすおそれがあることが指摘されていた。また、コンデンサー用セラミックグリーンシートやプリント基板の製造工程、各種電子部品の封止工程などで使用される剥離フィルムにおいても同様、上記シリコーン化合物が電子部品の表面へ移行することにより、不具合が生じることが指摘されていた。
【0004】
上記シリコーン化合物による汚染を抑制するため、非シリコーン系の剥離剤が提案されている(特許文献1、2参照)。特許文献1、2には、ポリビニルアルコール又はエチレン-ビニルアルコール共重合体などに長鎖アルキルイソシアネートを反応させた長鎖アルキルペンダント型ポリマーを含む非シリコーン系剥離剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2000-119608号公報
【文献】特開平5-295332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1、2に開示されている剥離剤は、それから形成される塗膜の剥離性能は良好であるものの、該塗膜は架橋されていないため耐溶剤性が低いという課題があった。また、上記剥離剤は各種溶剤に対する溶解性が低いため、該剥離剤から形成される塗膜は、白濁又は凸凹等の外観上の不具合が見られやすく、塗膜外観が悪いという課題もあった。
【0007】
本発明は塗膜外観に優れて、且つ剥離性能及び耐溶剤性に優れた硬化膜を形成し得る、新規な熱硬化性剥離コーティング剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意検討した結果、所定のメラミン樹脂と所定の脂肪族ヒドロキシカルボン酸の自己縮合物に酸触媒を組み合わせた組成物によって、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成させた。即ち本発明は、以下の熱硬化性剥離コーティング剤、及び剥離フィルムに関する。
【0009】
1.メラミン樹脂(A)、炭素数12~24の脂肪族ヒドロキシカルボン酸(b)の自己縮合物(B)、及び酸触媒(C)を含む、熱硬化性剥離コーティング剤。
【0010】
2.(A)成分が、メチル化メラミン及び/又はブチル化メラミン由来の構成単位を含む、上記項1に記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【0011】
3.(B)成分が、炭素数18の脂肪族ヒドロキシカルボン酸の自己縮合物である、上記項1又は2に記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【0012】
4.(B)成分の含有量が、上記剥離コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~50重量%である、上記項1~3のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【0013】
5.(C)成分が、有機スルホン酸及び/又は有機リン酸である、上記項1~4のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【0014】
6.(C)成分の含有量が、上記剥離コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~10重量%である、上記項1~5のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【0015】
7.さらに、ポリオール(D)を含有する、上記項1~6のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【0016】
8.(A)成分及び(D)成分の重量比[(A)/(D)]が90/10~30/70である、上記項7記載の熱硬化性剥離コーティング剤。
【0017】
9.上記項1~8のいずれかに記載の熱硬化性剥離コーティング剤からなる硬化膜及びプラスチックフィルムを含む、剥離フィルム。
【0018】
10.上記プラスチックフィルムが、ポリエチレンテレフタレートフィルムである、上記項9に記載の剥離フィルム。
【発明の効果】
【0019】
本発明の熱硬化性剥離コーティング剤は、剥離力が軽く、耐溶剤性に優れた硬化膜を短時間の熱乾燥で形成することが出来る(速硬化性)。また、該コーティング剤から形成される硬化膜は、透明で平滑なものであり、塗膜外観に優れている。さらに、該コーティング剤は、基材フィルムがポリエステルフィルムである剥離フィルムの剥離剤として好適である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の熱硬化性剥離コーティング剤(以下、コーティング剤)は、メラミン樹脂(A)(以下(A)成分)、炭素数12~24の脂肪族ヒドロキシカルボン酸(b)の自己縮合物(B)(以下、(B)成分)、及び酸触媒(C)(以下、(C)成分)を含む組成物である。
【0021】
(A)成分は、メラミン樹脂であれば、特に限定されず各種公知のものを用いることが出来る。例えば、下記一般式(1)で表される化合物に由来する構成単位を含む樹脂が挙げられる。(A)成分の平均重合度は特に限定されないが、通常1.1~10程度である。
【化1】
(式(1)中、R
1~R
6は互いに同一又は異なっていてよく、それぞれ水素原子、メチロール基(-CH
2OH)、メトキシメチル基(-CH
2OCH
3)、エトキシメチル基(-CH
2OCH
2CH
3)、n-ブトキシメチル基(-CH
2OCH
2CH
2CH
2CH
3)及びイソブトキシメチル基(-CH
2OCH(CH
3)CH
2CH
3)から選択されたものを表す。)
【0022】
(A)成分は、コーティング剤の速硬化性及び後述の(B)成分との相溶性のバランスに優れる点で、メチル化メラミン及び/又はブチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂であるのが好ましい。メチル化メラミンは上記一般式(1)の置換基R1~R6の少なくとも一つがメトキシメチル基(-CH2OCH3)であるもの、ブチル化メラミンは該置換基の少なくとも一つがn-ブトキシメチル基(-CH2OCH2CH2CH2CH3)、イソブトキシメチル基(-CH2OCH(CH3)CH2CH3)のいずれかであるもの、をそれぞれ意味する。
【0023】
(A)成分は、速硬化性に優れる点から、上記R1~R6の全てがメトキシメチル基であるフルエーテル型メチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂(以下、フルエーテル型メチル化メラミン樹脂)が好ましく、後述の(B)成分との相溶性の点から、該R1~R6の全てがn-ブトキシメチル基、イソブトキシメチル基のいずれかであるフルエーテル型ブチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂(以下、フルエーテル型ブチル化メラミン樹脂)が好ましい。また、速硬化性と後述の(B)成分との相溶性のバランスに優れる点から、該R1~R6の少なくとも一つがメトキシメチル基であって、残りがそれぞれn-ブトキシメチル基、イソブトキシメチル基のいずれかであるフルエーテル型メチル化ブチル化メラミンに由来する構成単位を含む樹脂(以下、フルエーテル型メチル化ブチル化メラミン樹脂)が好ましい。
【0024】
(A)成分は、市販品であってもよく、例えば、サイメル300、サイメル301、サイメル303LF、サイメル350、サイメル370N、サイメル771、サイメル325、サイメル327、サイメル703、サイメル712、サイメル701、サイメル266、サイメル267、サイメル285、サイメル232、サイメル235、サイメル236、サイメル238、サイメル272、サイメル212、サイメル253、サイメル254、サイメル202、サイメル207、マイコート506(以上、オルネクスジャパン(株)製)、ニカラックMW-30M、ニカラックMW-30、ニカラックMW-30HM、ニカラックMW-390、ニカラックMW-100LM、ニカラックMX-750LM、ニカラックMW-22、ニカラックMS-21、ニカラックMS-11、ニカラックMW-24X、ニカラックMS-001、ニカラックMX-002、ニカラックMX-730、ニカラックMX-750、ニカラックMX-708、ニカラックMX-706、ニカラックMX-042、ニカラックMX-035、ニカラックMX-45、ニカラックMX-43、ニカラックMX-417、ニカラックMX-410(以上、(株)三和ケミカル製)、ユーバン20SB、ユーバン20SE60、ユーバン21R、ユーバン22R、ユーバン122、ユーバン125、ユーバン220、ユーバン225、ユーバン228、ユーバン2020(以上、三井化学(株)製)、アミディアJ-820-60、アミディアL-109-65、アミディアL-117-60、アミディアL-127-60、アミディア13-548、アミディアG-821-60、アミディアL-110-60、アミディアL-125-60、アミディアL-166-60B(以上、DIC(株)製)等が挙げられ、これらは1種を単独で又は2種以上を併用できる。(A)成分の含有量は特に限定されないが、硬化膜の耐溶剤性が得られる点から、コーティング剤の全固形分100重量%に対して25~98重量%程度が好ましく、30~95重量%程度がより好ましい。なお、「全固形分」とは、後述の(E)成分を除いたコーティング剤の全成分を意味する。以下、同様である。
【0025】
(B)成分は、剥離性を付与する成分であり、炭素数12~24の脂肪族ヒドロキシカルボン酸(b)(以下、(b)成分)の自己縮合物であれば、特に限定されない。(B)成分が(b)成分の自己縮合物であることで、コーティング剤は透明で平滑な硬化膜を形成することができ、塗膜外観に優れる。詳細は不明だが、(b)成分の単一化合物は結晶性が高いため、該単一化合物を含む塗膜では、結晶析出による塗膜の白濁化や、塗膜中に生じた不溶成分によって塗膜表面に凸凹が形成されるためと推定される。一方で、(b)成分の自己縮合物は結晶性が低いため、該自己縮合物を含む塗膜では上記不具合が見られないと推定される。
【0026】
(b)成分は、炭素数12~24の脂肪族ヒドロキシカルボン酸であれば、各種公知のものを特に限定なく使用できる。(b)成分の炭素数は、硬化膜の軽剥離化の点から炭素数が多いものが良いが、硬化膜の軽剥離化及び優れた塗膜外観が両立できる点から、(b)成分の炭素数は通常12~24程度であり、14~22程度が好ましく、16~20程度がより好ましく、同様の点から炭素数は18程度が特に好ましい。(b)成分は、炭素数11以下の脂肪族ヒドロキシカルボン酸であれば硬化膜の剥離性が低くなり、炭素数25以上の脂肪族ヒドロキシカルボン酸であれば塗膜外観が悪化する。なお、本発明における脂肪族ヒドロキシカルボン酸は、分子内に1つの水酸基を有する脂肪族モノカルボン酸を意味する。
【0027】
(b)成分の具体例としては、例えば、2-ヒドロキシラウリン酸、3-ヒドロキシラウリン酸などのヒドロキシラウリン酸、2-ヒドロキシミリスチン酸、3-ヒドロキシミリスチン酸等のヒドロキシミリスチン酸、2-ヒドロキシペンタデシル酸、3-ヒドロキシペンタデシル酸等のヒドロキシペンタデシル酸、2-ヒドロキシパルミチン酸、3-ヒドロキシパルミチン酸等のヒドロキシパルミチン酸、2-ヒドロキシステアリン酸、3-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシステアリン酸、2-ヒドロキシアラキジン酸、3-ヒドロキシアラキジン酸などのヒドロキシアラキジン酸、2-ヒドロキシベヘン酸、3-ヒドロキシベヘン酸等のヒドロキシベヘン酸、2-ヒドロキシリグノセリン酸、3-ヒドロキシリグノセリン酸等のヒドロキシリグノセリン酸、リシノール酸、硬化ヒマシ油脂肪酸(主成分が12-ヒドロキシステアリン酸)、及びヒマシ油脂肪酸(主成分がリシノール酸)等が挙げられる。その中でも、軽剥離化及び優れた塗膜外観が両立できる点から、2-ヒドロキシステアリン酸、3-ヒドロキシステアリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸、硬化ヒマシ油脂肪酸、及びヒマシ油脂肪酸等の炭素数18の脂肪族ヒドロキシカルボン酸が好ましく、入手の容易性から12-ヒドロキシステアリン酸、リシノール酸がより好ましい。12-ヒドロキシステアリン酸は、工業的には硬化ヒマシ油を加水分解して製造するか、リシノール酸を水素化することで得られる。リシノール酸は、ヒマシ油のけん化によって得られる。なお、上記加水分解から得られる12-ヒドロキシステアリン酸には、不純物として少量のステアリン酸やパルミチン酸が含まれるが、これらは本発明のコーティング剤に含まれていても良い。
【0028】
(B)成分は、(b)成分を各種公知の方法で自己縮合させることで得られる。その方法は特に限定されないが、例えば、不活性ガス雰囲気下において、(b)成分を温度150~250℃程度に加熱して、トルエン、キシレンの存在下で水を共沸により系外に除去しながら、脱水縮合させることにより得られる。また、チタン系化合物、p-トルエンスルホン酸、硫酸等の触媒を存在させてもよい。(B)成分の市販品の例としては、PHF-33、PCF-30(以上、伊藤製油(株)製)、K-PON306、K-PON402、K-PON404、K-PON406(以上、小倉合成工業(株)製)、HSC-32、HSC-47、HSC-60D、HSC-95(以上、豊国製油(株)製)、KF-3400、KF-4500、KF-4013,KF-4055E、KF-40E(以上、ケイエフ・トレーディング(株)製)等が挙げられる。
【0029】
(B)成分の水酸基価(JIS K0070。以下、水酸基価というときは同様。)は、特に限定されないが、軽剥離化の点から、10~50mgKOH/gが好ましく、同様の点から20~40mgKOH/gがより好ましい。また、(B)成分の数平均分子量(ゲルパーメーションクロマトグラフ法によるポリスチレン換算値、以下、数平均分子量という場合は同様)も、特に限定されないが、硬化膜の軽剥離化及び優れた塗膜外観が両立できる点から、500~3,000程度が好ましく、1,000~2,000程度がより好ましい。さらに、(B)成分は、硬化膜の軽剥離化及び優れた塗膜外観が両立できる点から、(b)成分の2~10量体であるのが好ましく、4~8量体がより好ましい。
【0030】
(B)成分は、一分子中に水酸基及びカルボキシル基をそれぞれ1つずつ有する構造であり、該カルボキシル基はエステル化されていてもよい。(B)成分が一分子中に1つの水酸基を有することで、本発明のコーティング剤は剥離力の軽い硬化膜を形成し得る。(B)成分の構造の一例を示す。
【0031】
【0032】
(B)成分の含有量は特に限定されないが、軽剥離化と硬化膜の耐溶剤性が両立できる点から、コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~50重量%程度が好ましく、2~30重量%程度がより好ましい。
【0033】
(C)成分は、酸触媒であれば、各種公知のものを特に制限なく使用できる。具体的には、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、リン酸等の無機酸類や有機酸類が挙げられる。該有機酸類としては、例えば、シュウ酸、酢酸、ギ酸等のカルボン酸;メタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸、イソプレンスルホン酸、カンファースルホン酸、ヘキサンスルホン酸、オクタンスルホン酸、ノナンスルホン酸、デカンスルホン酸、ヘキサデカンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、クメンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸、ナフタレンスルホン酸、ノニルナフタレンスルホン酸等の有機スルホン酸;メチルアシッドホスフェート、エチルアシッドホスフェート、プロピルアシッドホスフェート、イソプロピルアシッドホスフェート、ブチルアシッドホスフェート、ブトキシエチルアシッドホスフェート、オクチルアシッドホスフェート、2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、デシルアシッドホスフェート、ラウリルアシッドホスフェート、ステアリルアシッドホスフェート、オレイルアシッドホスフェート、ベヘニルアシッドホスフェート、フェニルアシッドホスフェート、ノニルフェニルアシッドホスフェート、シクロヘキシルアシッドホスフェート、フェノキシエチルアシッドホスフェート、アルコキシポリエチレングリコールアシッドホスフェート、ビスフェノールAアシッドホスフェート、ジメチルアシッドホスフェート、ジエチルアシッドホスフェート、ジプロピルアシッドホスフェート、ジイソプロピルアシッドホスフェート、ジブチルアシッドホスフェート、ジオクチルアシッドホスフェート、ジ-2-エチルヘキシルアシッドホスフェート、ジラウリルアシッドホスフェート、ジステアリルアシッドホスフェート、ジフェニルアシッドホスフェート、ビスノニルフェニルアシッドホスフェート等の有機リン酸;スルホニウム塩、ベンゾチアゾリウム塩、アンモニウム塩、ホスホニウム塩等の熱酸発生剤等が挙げられる。これらは1種を単独で、又は2種以上を併用できる。
【0034】
(C)成分は、(A)及び(B)成分との相溶性が良好である点から、上記有機酸類が好ましい。さらに、速硬化性の点から、上記有機スルホン酸及び/又は上記有機リン酸が好ましく、同様の点から有機スルホン酸が特に好ましい。
【0035】
(C)成分の含有量は特に限定されないが、速硬化性とコーティング剤の保管安定性が両立できる点から、コーティング剤の全固形分100重量%に対して1~10重量%程度が好ましく、2~8重量%程度がより好ましい。また、同様の点から、(A)及び(B)成分の合計100重量部に対して2~25重量部程度が好ましく、3~10重量部程度がより好ましい。
【0036】
本発明のコーティング剤は、さらに、(A)成分との架橋構造を形成することができるポリオール(D)(以下、(D)成分)を含めてもよい。(D)成分は、1分子中に水酸基を2つ以上有するものであれば特に限定されず、各種公知のものが使用できる。具体的には、エチレングリコール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、1,6-ヘキサンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、2-メチル-1,5-ペンタンジオール、2,2-ジエチル-1,3-プロパンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、ブチルエチルペンタンジオール等の脂肪族ジオール;1,4-シクロヘキサンジメタノール等の脂環式ジオール;トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、ジペンタエリスリトール、ダイマージオール、水添ダイマージオール、トリマートリオール、水添トリマートリオール、ヒマシ油、ヒマシ油系変性ポリオール、及びビスフェノール化合物又はその誘導体のアルキレンオキサイド付加物等が挙げられる。また、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、アクリルポリオール及びポリオレフィンポリオールなどのポリマーポリオールも挙げられる。これらは単独でも2種以上を組み合わせても良い。なお、(D)成分は、上記(B)成分とは異なるものである。
【0037】
(D)成分の分子量としては、速硬化性の点で、通常60~3,000程度であり、80~2,000程度が好ましく、100~1,500がより好ましい。なお、(D)成分の分子量は、式量又は数平均分子量であり、化学式の式量で分子量を特定できる場合は式量をいう。数平均分子量は、上記同様にゲルパーメーションクロマトグラフ法によるポリスチレン換算の値である。(D)成分の水酸基価としては、速硬化性の点から、50~2,000mgKOH/g程度が好ましく、100~1,500mgKOH/g程度がより好ましい。
【0038】
本発明のコーティング剤において、(A)成分と(D)成分との含有比率は特に限定されないが、速硬化性と硬化膜の耐溶剤性が両立できる点から、重量比[(A)/(D)]が90/10~30/70程度が好ましく、80/20~40/60程度がより好ましい。また、(D)成分の含有量は、特に制限されないが、速硬化性と硬化膜の耐溶剤性が両立できる点から、コーティング剤の全固形分100重量%に対して10~60重量%程度が好ましい。
【0039】
本発明のコーティング剤には、さらに有機溶剤(E)(以下、(E)成分)を含めてよい。具体的には、例えば、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトン、酢酸エチル、酢酸ブチル、トルエン、キシレン、イソプロピルアルコール、エタノール、ブタノール等が挙げられ、一種以上を使用できる。これらの中でも溶解性の点で、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロピルアルコール、酢酸エチル及びトルエンからなる群より選ばれる少なくとも一種が好ましい。
【0040】
(E)成分の含有量は特に制限されないが、通常、本発明のコーティング剤の固形分濃度が1~50重量%程度となる範囲で含有することが好ましい。かかる数値範囲であることにより、硬化膜の塗膜外観、コーティング剤の硬化性、及びプラスチックフィルム(特にポリエチレンテレフタレートフィルム)に対する硬化膜の密着性のバランスが良好となる。
【0041】
本発明のコーティング剤の製造方法は、特に限定されないが、上記の各成分を混合する方法が挙げられる。各成分の混合順序としては、特に限定されず、どの成分から混合してもよい。また、混合方法も特に限定されず、撹拌等の各種公知の方法を用いることができる。
【0042】
本発明のコーティング剤には、必要に応じて各種公知の添加剤、例えば、バインダー、消泡剤、防腐剤、防錆剤、硬化剤、pH調整剤、酸化防止剤、顔料、染料、滑剤、レベリング剤、ブロッキング防止剤、導電剤等を配合できる。該バインダーとしては、特に限定されないが、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、尿素樹脂、ウレタン樹脂、アルキド樹脂などが挙げられる。該硬化剤としては、イソシアネート系硬化剤、エポキシ系硬化剤、アジリジン系硬化剤、カルボジイミド系硬化剤、オキサゾリン系硬化剤などが挙げられる。
【0043】
本発明の剥離フィルムは、本発明のコーティング剤からなる剥離層を少なくとも片面に有する物品であり、各種公知の基材フィルムに本発明のコーティング剤を塗工し、加熱又は乾燥するなどして硬化させることにより得られる。
【0044】
基材フィルムとしては、例えば、ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリイミド、ポリオレフィン、ナイロン、エポキシ樹脂、メラミン樹脂、トリアセチルセルロース樹脂、ABS樹脂、AS樹脂、ノルボルネン系樹脂等のプラスチックからなるフィルムが挙げられる。該基材フィルムは表面処理(コロナ放電等)がされたものであってよい。これらの中でも透明性、寸法安定性、機械的特性、耐薬品性等の性能の点でポリエチレンテレフタレートが好ましい。これらプラスチックフィルムは、その片面あるいは両面に、本発明の熱硬化性剥離コーティング剤以外のコーティング剤による層が設けられていてもよい。
【0045】
上記剥離層(硬化膜)は、本発明の熱硬化性剥離コーティング剤を、各種基材上に、硬化後の厚さが0.01~10μm程度、好ましくは0.1~5μm程度になるように塗工し、加熱、乾燥等させたものである。
【0046】
塗工方法は特に限定されず、各種公知の手段による。具体的には、例えば、ロールコーター、リバースロールコーター、グラビアコーター、ナイフコーター、バーコーター等が挙げられる。
【0047】
加熱、乾燥条件は特に限定されない。本発明のコーティング剤は、通常90~130℃程度及び30秒~2分程度で硬化するが、一般の塗膜形成条件が通常150~190℃程度及び1分~5分程度であることを考慮すると、本発明のコーティング剤は比較的低温で硬化するといえる。そのため、該コーティング剤は、熱で変形しやすいプラスチックフィルム、特にポリエチレンテレフタレートフィルムに好適である。
【0048】
本発明の剥離フィルムの用途としては、例えば、セラミックグリーンシート、合成皮革、化粧板、炭素繊維プリプレグ、プリント基板等の製造工程用剥離フィルムや、転写印刷関連製品用剥離フィルム、偏光板乃至位相差板等の粘着層保護用剥離フィルム等が挙げられる。
【実施例】
【0049】
以下に実施例及び比較例をあげて本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。各例中、特記しない限り、部及び%は重量基準である。
【0050】
<熱硬化性剥離コーティング剤の調製>
実施例1
(A)成分としてニカラックMX-45(フルエーテル型メチル化ブチル化メラミン樹脂 (株)三和ケミカル製)99重量部、(B)成分としてPHF-33(12-ヒドロキシステアリン酸の自己縮合物 伊藤製油(株)製)1重量部、(C)成分としてパラトルエンスルホン酸4重量部を配合し、これをトルエン333重量部、イソプロピルアルコール83重量部で希釈して固形分濃度が20%になるように調製し、熱硬化剥離コーティング剤(以下、コーティング剤ともいう)を得た。
【0051】
実施例2~13、比較例1~6
組成を表1のものに変更した以外は、実施例1と同様の手順で製造した。
【0052】
<剥離フィルムの作製>
実施例1のコーティング剤を、ポリエチレンテレフタレートフィルム(膜厚50μm 東レ(株)製 「ルミラーT60」)に硬化膜1μmになるように塗工し、120℃で1分乾燥させることによって、剥離フィルムを得た。他の実施例及び比較例のコーティング剤についても、同様にして剥離フィルムを得た。
【0053】
(塗膜外観)
実施例1に係る剥離フィルムの上記作製において、硬化膜の外観を観察し、以下の判断基準で塗膜外観を評価した。他の実施例及び比較例に係る剥離フィルムにおいても同様にして評価した。
○:透明で平滑な硬化膜が得られた。
×:硬化膜が白濁した、又は、
コーティング剤に溶け残りがあって、硬化膜に凹凸が見られた。
【0054】
(耐溶剤性)
実施例1に係る剥離フィルムの硬化膜を、メチルエチルケトンに浸した綿棒で擦り、基材が露出するまでの往復回数を測定することによって、該硬化膜の耐溶剤性を評価した。他の実施例及び比較例に係る剥離フィルムについても同様にして耐溶剤性を評価した。
○:50回以上擦っても基材フィルム(ポリエチレンテレフタレートフィルム)の表面が露出しない。
△:10~49回擦った際に基材フィルムの表面が露出する。
×:1~9回擦った際に基材フィルムの表面が露出する。
【0055】
(剥離力)
実施例1に係る剥離フィルムの硬化膜に、ポリエステル粘着テープ(日東電工(株)製31Bテープ:25mm幅)を2kgのローラーで圧着させながら貼り合わせ、23℃で1時間保管した。次いで、このテープを180°の角度で剥離速度0.3m/min.で引っ張り、剥離するために要した力(N/25mm)を測定した。他の実施例及び比較例に係る剥離フィルムについても同様にして剥離力を測定した。
【0056】
【表1】
表1の配合量の単位は重量部である。表1中の略語及び注釈は、以下の通りである。
(1)耐溶剤性が悪かったので、剥離力の評価はしなかった。
(2)塗膜外観が凸凹又は白化していたので、耐溶剤性や剥離力の評価はしなかった。
(化合物の略語及び詳細)
ニカラックMX-45:フルエーテル型メチル化ブチル化メラミン樹脂 (株)三和ケミカル製
サイメル303LF:フルエーテル型メチル化メラミン樹脂 オルネクスジャパン(株)製
PHF-33:12-ヒドロキシステアリン酸の自己縮合物(数平均分子量1,800) 伊藤製油(株)製
PCF-30:ヒマシ油脂肪酸の自己縮合物(数平均分子量1,600)伊藤製油(株)製
12-ヒドロキシステアリン酸: 伊藤製油(株)製
クラレポリオールF-3010:ポリエステルポリオール(数平均分子量3,000) (株)クラレ製
Pripol2033:水添ダイマージオール(数平均分子量540) クローダジャパン(株)製
ピーロイル1010S:長鎖アルキルペンダント型ポリマー ライオン・スペシャリティ・ケミカルズ(株)製
URIC F-97:ヒマシ油系変性ポリオール 伊藤製油(株)製