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特許7172481構造体および固体酸化物形燃料電池セルスタック
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】構造体および固体酸化物形燃料電池セルスタック
(51)【国際特許分類】
   C04B 37/02 20060101AFI20221109BHJP
   H01M 4/86 20060101ALI20221109BHJP
   H01M 8/0206 20160101ALI20221109BHJP
   H01M 8/1213 20160101ALI20221109BHJP
   H01M 8/12 20160101ALN20221109BHJP
【FI】
C04B37/02 A
H01M4/86 U
H01M8/0206
H01M8/1213
H01M8/12 101
H01M8/12 102A
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2018213896
(22)【出願日】2018-11-14
(65)【公開番号】P2020079189
(43)【公開日】2020-05-28
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】人見 卓磨
(72)【発明者】
【氏名】伯川 和樹
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-098874(JP,A)
【文献】特開2016-115506(JP,A)
【文献】国際公開第2014/148533(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/148534(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 37/00-37/04
H01M 4/86-4/98
H01M 8/00-8/0297
H01M 8/08-8/2495
JSTPlus(JDreamIII)
JST7580(JDreamIII)
JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒子が繋がってなる粒子連続体(20)を備え、上記粒子連続体が、複数の金属粒子(21)または複数の金属酸化物粒子(24)と、複数のセラミックス粒子(22)と、を含む多孔質焼結体(2)と、
Crを含有する合金である金属材料より形成された金属部材(3)(但し、焼結金属からなる多孔質金属より形成された金属部材は除く。)と、
上記多孔質焼結体と上記金属部材とを結合しており、金属元素を含む複数の結合粒子(41)を備える結合層(4)と、を有しており、
上記結合粒子は、金属元素としてNi元素を含んでおり、
複数の上記結合粒子の一部が上記粒子連続体に焼結によって一体化しており、
上記結合粒子中に、上記金属材料の一部の金属元素が拡散しており、
上記金属部材中に、上記結合粒子に含まれる金属元素の一部が拡散している、
固体酸化物形燃料電池セルスタック用の構造体(1)。
【請求項2】
数の上記金属粒子の一部または複数の上記金属酸化物粒子の一部に、上記金属材料の一部の金属元素が拡散している、請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
上記結合層は、上記金属材料よりもクリープ強度が高い材料を含んでいる、請求項1または2に記載の構造体。
【請求項4】
上記結合粒子に含まれる金属元素は、上記構造体の製造時における酸化雰囲気焼成時に上記粒子連続体と酸素授受が可能な元素である、請求項1~3のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項5】
上記金属材料の一部の金属元素が、上記結合層と上記金属部材との結合界面(5)から上記結合層側に15μm以上拡散している、請求項1~4のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項6】
上記結合粒子に含まれる金属元素が、上記結合層と上記金属部材との結合界面(5)から上記金属部材側に15μm以上拡散している、請求項1~5のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
上記金属材料の一部の金属元素が、上記結合層と上記多孔質焼結体との結合界面(6)から上記多孔質焼結体側に10μm以上拡散している、請求項1~6のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項8】
上記結合層の厚みが、25μm以上である、請求項1~7のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の構造体を含む固体酸化物形燃料電池セルスタック(7)であって、
アノード(711)と固体電解質(712)とカソード(713)とを備える単セル(71)と、上記単セルの上記アノード側の面を支持する集電体(72)と、上記単セルの上記アノードと上記集電体とを結合する接続部(73)と、を有しており、
上記構造体における上記多孔質焼結体が上記アノードとされ、
上記構造体における上記金属部材が上記集電体とされ、
上記構造体における上記結合層が上記接続部とされており、
上記アノードとされる上記多孔質焼結体は、電気および酸素イオン伝導性を有する、
固体酸化物形燃料電池セルスタック(7)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体および固体酸化物形燃料電池セルスタックに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多孔質焼結体と金属部材とを接合材料にて接合してなる構造体が知られている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ハニカム構造体等に適用される構造体として、多孔質セラミックスと、金属部材と、多孔質セラミックスの細孔内に侵入し該多孔質セラミックスと金属部材とを接合する酸化物セラミックスの接合部と、を備える構造体が開示されている。この構造体では、多孔質セラミックスとして、SiCとSiとにより細孔が形成された複合材料が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開番号WO2014/148534
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、酸化物セラミックスと金属部材とを接合しようとすると、何らかの活性物質を用いるか、金属部材の酸化を防ぐことができる雰囲気にて高温焼成する必要がある。そのため、従来技術は、例えば、製造時に大気雰囲気等の酸化雰囲気中で焼成が行われる固体酸化物形燃料電池の構造体として適用することが困難である。また、従来技術では、多孔質セラミックスとしてSiCとSiとによる複合材料を用いることが必須であるため、構造体の応用性も限られる。そのため、従来技術とは異なる構成によって結合強度を確保可能な構造体が望まれる。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、結合強度を確保することができる構造体、また、これを用いた固体酸化物形燃料電池セルスタックを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、複数の粒子が繋がってなる粒子連続体を備え、上記粒子連続体が、複数の金属粒子または複数の金属酸化物粒子と、複数のセラミックス粒子と、を含む多孔質焼結体と
Crを含有する合金である金属材料より形成された金属部材(但し、焼結金属からなる多孔質金属より形成された金属部材は除く。)と、
上記多孔質焼結体と上記金属部材とを結合しており、金属元素を含む複数の結合粒子を備える結合層と、を有しており、
上記結合粒子は、金属元素としてNi元素を含んでおり、
複数の上記結合粒子の一部が上記粒子連続体に焼結によって一体化しており、
上記結合粒子中に、上記金属材料の一部の金属元素が拡散しており、
上記金属部材中に、上記結合粒子に含まれる金属元素の一部が拡散している、
固体酸化物形燃料電池セルスタック用の構造体にある。
【0008】
本発明の他の態様は、上記構造体を含む固体酸化物形燃料電池セルスタックであって、
アノードと固体電解質とカソードとを備える単セルと、上記単セルの上記アノード側の面を支持する集電体と、上記単セルの上記アノードと上記集電体とを結合する接続部と、を有しており、
上記構造体における上記多孔質焼結体が上記アノードとされ、
上記構造体における上記金属部材が上記集電体とされ、
上記構造体における上記結合層が上記接続部とされており、
上記アノードとされる上記多孔質焼結体は、電気および酸素イオン伝導性を有する、
固体酸化物形燃料電池セルスタックにある。
【発明の効果】
【0009】
上記構造体では、結合層の結合粒子が多孔質焼結体の粒子連続体に焼結によって一体化している。そのため、上記構造体によれば、結合層と多孔質焼結体との間では、焼結反応によって強固な結合が得られる。なお、上記構造体によれば、従来技術のように、多孔質焼結体を構成する材料がSiCとSiとによる複合材料に限られない。また、上記構造体では、結合粒子中に、金属部材を形成する金属材料の一部の金属元素が拡散しており、金属部材中に、結合粒子に含まれる金属元素の一部が拡散している。つまり、上記構造体では、金属材料の金属元素の一部と結合粒子の金属元素の一部とが相互拡散し、結合層と金属部材とが拡散接合によって結合された状態にある。そのため、上記構造体によれば、結合層と金属部材との間で強固な結合が得られる。
【0010】
よって、上記構造体によれば、高い結合強度を確保することができる。
【0011】
上記固体酸化物形燃料電池セルスタックは、上記構成を有している。上記固体酸化物形燃料電池セルスタックでは、単セルのアノードと集電体とが接続部を介して強固に結合される。そのため、上記固体酸化物形燃料電池セルスタックによれば、安定した集電性を長期にわたって確保することが可能になる。
【0012】
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態1の構造体を模式的に示した説明図である。
図2】実施形態1の構造体の微構造を模式的に示した説明図である。
図3】実施形態1の構造体の製造工程の一部を示したものであり、(a)は、焼成前の積層時、(b)は、酸化雰囲気での焼成後、(c)は、還元処理後の状態を示した説明図である。
図4】実施形態2の構造体の微構造を模式的に示した説明図である。
図5】実施形態3の固体酸化物形燃料電池セルスタックが有する単位ユニットを模式的に示した説明図である。
図6】実験例1で作製した固体酸化物形燃料電池セルスタック用の構造体の厚み方向に沿う断面(一部)を示した走査型電子顕微鏡(SEM)像である。
図7】実験例で作製した構造体における結合層と多孔質焼結体との結合界面の周辺(一部)を示したSEM像である。
図8】実験例1で作製した構造体における結合層と多孔質焼結体との結合界面の周辺(一部)を示したSEM像である。
図9】実験例1で作製した構造体における厚み方向に沿う断面をSEM-EDXにて観察し、構造体の厚み方向で各層の主成分をライン分析した結果を示す図である。
図10】実験例1における、結合層の厚みと接合強度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(実施形態1)
実施形態1の構造体について、図1図3を用いて説明する。図1図3に例示されるように、本実施形態の構造体1は、多孔質焼結体2と、金属材料より形成された金属部材3と、多孔質焼結体2と金属部材3とを結合する結合層4と、を有している。
【0015】
多孔質焼結体2は、複数の粒子が繋がってなる粒子連続体20を備えている。本実施形態において、粒子連続体20は、図2に例示されるように、複数の金属粒子21を含む。また、粒子連続体20は、金属粒子21以外にも、セラミックス粒子22を複数含む。また、多孔質焼結体2は、粒子連続体20の周囲に気孔23を含むことで多孔質に形成されることができる。
【0016】
金属粒子21としては、例えば、Ni粒子、Ni合金粒子などを例示することができる。セラミックス粒子22としては、例えば、安定化ジルコニア粒子などを例示することができる。安定化ジルコニアとしては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)などを例示することができる。なお、上記にいう「安定化」には、「部分安定化」を含むものとする。
【0017】
金属部材3は、金属材料より形成されている。金属材料としては、耐熱性、元素拡散等の観点から、Crを含有する合金が用いられる。Crを含有する合金としては、例えば、Fe-Cr合金、Ni-Cr合金、Ni-Cr-Si合金などを例示することができる。金属部材3は、例えば、板状、枠状、管状などの形状を呈することができる。図1では、板状の形状を呈する金属部材3が例示されている。また、図1では、金属部材3が厚み方向に複数の貫通孔30を有している例が示されている。金属部材3の貫通孔30は、金属部材3の厚み方向で見て、結合層4と金属部材3との結合界面5の外縁よりも内側に配置されている。
【0018】
結合層4は、金属元素を含む複数の結合粒子41を備えている。そして、これら複数の結合粒子41の一部は、粒子連続体20に焼結によって一体化している。つまり、結合層4における複数の結合粒子41のうち、結合層4と多孔質焼結体2との結合界面6部分にある結合粒子41は、焼結によって粒子連続体20と一体的に繋がっている。なお、結合層4は、厚み方向に貫通する貫通孔(図1図3では不図示)を複数有することができる。この場合、結合層4の貫通孔は、上述した金属部材3の貫通孔30と位置を合わせて形成することができる。この構成によれば、金属部材3における結合層4側とは反対側の面から、金属部材3の貫通孔、結合層4の貫通孔42を通じて、多孔質焼結体2にガスを供給しやすくなる。そのため、この構成による構造体1は、後述する固体酸化物形燃料電池セルスタック7に好適である。なお、結合層4は、多孔質に形成することもできる。
【0019】
結合粒子41に含まれる金属元素は、例えば、構造体1の製造時における酸化雰囲気焼成時に粒子連続体20と酸素授受が可能な元素であるとよい。この構成によれば、結合層4の結合粒子41と多孔質焼結体2の粒子連続体20との間で焼結反応が促進され、焼結による一体化を確実なものとしやすくなる。そのため、この構成によれば、結合層4と多孔質焼結体2との間でより強固な結合を得やすくなる。なお、上記酸化雰囲気としては、例えば、大気雰囲気等を例示することができる。
【0020】
結合粒子41に含まれる金属元素が、構造体1の製造時における酸化雰囲気焼成時に粒子連続体20と酸素授受できるかどうかは、粒子連続体20に含まれる元素との関係で決定することができる。例えば、粒子連続体20がNi粒子211を含んでいる等の理由により、粒子連続体20にNi(ニッケル)元素が含まれているとする。この場合、構造体1の製造時における酸化雰囲気焼成時には、Niは、NiOの形で粒子連続体20に含まれていることになる。そして、例えば、金属元素が酸化するときの温度/Kと標準ギブス自由エネルギーΔG=RTlnPO/kJ・mol-1との関係図(いわゆる、エリンガム図)で、850℃での反応関係性を見たとき、結合粒子41に含まれる金属元素がNi元素の場合には、NiOの同位元素であるため、酸素授受が確実に可能である。結合粒子41に含まれる金属元素がCo(コバルト)元素の場合には、Ni元素より酸化しやすいため、酸素を受け取ることができる。結合粒子41に含まれる金属元素がFe(鉄)元素の場合には、Ni元素より酸化しやすいため、酸素を受け取ることができる。結合粒子41に含まれる金属元素がTi(チタン)元素の場合には、Ni元素より酸化しやすいため、酸素を受け取ることができる。結合粒子41に含まれる金属元素がCu(銅)元素の場合には、Ni元素より酸化し難いため、酸素を受け取ることが難しい。結合粒子41に含まれる金属元素が上記以外の場合についても同様に考えることができる。なお、酸化雰囲気焼成時に酸化しやすい金属元素を選択する場合には、比表面積を小さくするなどして内部酸化を抑制すればよい。
【0021】
結合粒子41に含まれる金属元素としては、結合層4と多孔質焼結体2との間の結合を信頼性の高いものにするなどの観点から、例えば、多孔質焼結体2における粒子連続体20に含まれる金属元素と同じ金属元素を選択することができる。具体的には、粒子連続体20が金属粒子21を含む場合に、結合粒子41に含まれる金属元素としては、粒子連続体20に含まれる金属粒子21を構成する金属元素と同じ金属元素を選択することができる。より具体的には、例えば、粒子連続体20に含まれる金属粒子21がNi粒子211である場合、結合層4の結合粒子41はNi元素を含むように構成することができる。
【0022】
結合層4は、金属部材3を形成する金属材料よりもクリープ強度が高い材料を含んでいる構成とすることができる。金属部材3を形成する金属材料のクリープ強度が結合層4のクリープ強度よりも高い場合、高温使用時に多孔質焼結体2の変形応力にて構造体1に変形(反り等)が生じたときに、金属部材3が結合層4の変化に追従することができずに剥がれが生じるおそれがある。これに対し、結合層4のクリープ強度が金属部材3を形成する金属材料のクリープ強度よりも高い場合には、高温使用時に多孔質焼結体2の変形応力にて構造体1に変形が生じたときでも、金属部材3が結合層4の変化に追従することができ、剥がれを抑制しやすくなる。したがって、上記構成によれば、応力発生時の結合持続性を確実なものとすることができる構造体1が得られる。具体的には、例えば、金属材料がFe-Cr合金である場合、クリープ強度が高い材料としては、Ni-Cr合金、Ni-Cr-Fe合金、Ni-Fe合金などを例示することができる。なお、クリープ強度は、構造体1の使用温度にて比較される。例えば、構造体1を固体酸化物形燃料電池セルスタックに用いる場合、上記クリープ強度は、固体酸化物形燃料電池セルスタックの動作温度にて比較する。
【0023】
構造体1において、結合層4の結合粒子41中には、金属部材3を形成する金属材料の一部の金属元素が拡散している。つまり、結合粒子41において、当該結合粒子41に含まれる金属元素と金属材料の一部の金属元素とが合金化している。この構成によれば、結合層4と金属部材3とが拡散接合によって結合された状態となるため、結合層4と金属部材3との間で強固な結合が得られる。なお、結合層4は、合金化された結合粒子41より構成されていてもよいし、合金化されていない結合粒子41を含むこともできる。また、金属材料の一部の金属元素は、結合層4の全ての結合粒子41に拡散していてもよいし、全ての結合粒子41に拡散していなくてもよい。つまり、結合層4は、金属材料の一部の金属元素が拡散していない結合粒子41を含むことができる。また、結合層4は、厚み方向で見て、金属材料の一部の金属元素の濃度勾配を有していてもよい。本実施形態では、結合層4は、厚み方向で見て、結合層4と金属部材3との結合界面5側において、他の部分に比べて金属材料の一部の金属元素の濃度が高くなっている構成とすることができる。なお、図2図3(c)で示される結合粒子41のうち、ハッチングで示された粒子は、ドットで示された粒子に比べ、金属材料の一部の金属元素の濃度が高いことを意味している。
【0024】
構造体1において、金属部材3中には、結合粒子41に含まれる金属元素の一部が拡散している。つまり、金属部材3において、結合粒子41に含まれる金属元素の一部と金属部材3を形成する金属材料の一部の金属元素とが合金化している。この構成によれば、結合層4と金属部材3とが拡散接合によって結合された状態となるため、結合層4と金属部材3との間で強固な結合が得られる。なお、金属部材3は、厚み方向で見て、結合粒子41に含まれる金属元素の濃度勾配を有していてもよい。本実施形態では、金属部材3は、厚み方向で見て、結合層4と金属部材3との結合界面5側で、他の部分に比べ結合粒子41に含まれる金属元素の濃度が高くなっている構成とすることができる。
【0025】
また、多孔質焼結体2の粒子連続体20が複数の金属粒子21を含む場合、複数の金属粒子21の一部に、金属部材3を形成する金属材料の一部の金属元素が拡散している構成とすることができる。つまり、粒子連続体20に含まれる複数の金属粒子21の一部において、当該金属粒子21を構成する金属元素と金属部材3を形成する金属材料の一部の金属元素とが合金化している構成とすることができる。この構成によれば、結合層4と多孔性焼結体2とが焼結反応によって結合されるだけでなく、結合層4と多孔質焼結体2とが拡散接合によって結合された状態となるため、結合層4と多孔質焼結体2との間でより強固な結合が得られる。なお、多孔質焼結体2において、金属部材3を形成する金属材料の一部の金属元素が拡散している金属粒子21は、多孔質焼結体2と結合層4との結合界面6寄りの部分に存在(偏在)することができる。
【0026】
この場合、金属粒子21を構成する金属元素としては、例えば、Ni(ニッケル)などを例示することができる。金属部材3を形成する金属材料の一部の金属元素としては、例えば、Cr(クロム)などを例示することができる。
【0027】
構造体1において、金属材料の一部の金属元素は、結合層4と金属部材3との結合界面5から結合層4側に15μm以上拡散している構成とすることができる。この構成によれば、結合粒子41に含まれる金属元素と金属材料の一部の金属元素とにより、十分な母材強度を持った合金を結合層4中に形成することができる。そのため、この構成によれば、結合層4と金属部材3との間の結合強度の確保を確実なものとすることができる。
【0028】
金属材料の一部の金属元素は、結合層4と金属部材3との結合界面5から結合層4側に、好ましくは、30μm以上、より好ましくは、40μm以上、さらに好ましくは、50μm以上拡散している構成とすることができる。
【0029】
構造体1において、結合粒子41に含まれる金属元素は、結合層4と金属部材3との結合界面5から金属部材3側に15μm以上拡散している構成とすることができる。この構成によれば、結合粒子41に含まれる金属元素の一部と金属部材3を形成する金属材料の一部の金属元素とにより、十分な母材強度を持った合金を金属部材3中に形成することができる。そのため、この構成によれば、結合層4と金属部材3との間の結合強度の確保を確実なものとすることができる。
【0030】
結合粒子41に含まれる金属元素は、結合層4と金属部材3との結合界面5から金属部材3側に、好ましくは、30μm以上、より好ましくは、50μm以上、さらに好ましくは、100μm以上拡散している構成とすることができる。
【0031】
構造体1において、金属材料の一部の金属元素が、結合層4と金属部材3との結合界面5から結合層4側に15μm以上拡散しており、かつ、結合粒子41に含まれる金属元素が、結合層4と金属部材3との結合界面5から金属部材3側に15μm以上拡散している場合には、結合層4と金属部材3との間の結合強度の確保をより確実なものとすることができる。
【0032】
構造体1において、金属材料の一部の金属元素は、結合層4と多孔質焼結体2との結合界面6から多孔質焼結体2側に10μm以上拡散している構成とすることができる。この構成によれば、粒子連続体20の金属粒子21を構成する金属元素と金属部材3を形成する金属材料の一部の金属元素とにより、十分な母材強度を持った合金を多孔質焼結体2中に形成することができる。そのため、この構成によれば、結合層4と多孔質焼結体2との間の結合強度の確保を確実なものとすることができる。なお、金属材料の一部の金属元素が、結合層4と多孔質焼結体2との結合界面6から多孔質焼結体2側に拡散している場合、金属材料の一部の金属元素は、結合層4の厚み方向全体にわたって拡散していることになる。
【0033】
金属材料の一部の金属元素は、結合層4と多孔質焼結体2との結合界面6から多孔質焼結体2側に、好ましくは、30μm以上、より好ましくは、50μm以上、さらに好ましくは、100μm以上拡散している構成とすることができる。
【0034】
結合層4と金属部材3との結合界面5は、構造体1の厚み方向に沿う断面(構造体の面内方向に垂直な断面)を、SEMにて観察することにより把握することができる。SEM像にて結合界面5が明りょうに把握されない場合には、次のようにして結合界面5が定められる。具体的には、構造体1の上記断面をSEM-EDX(エネルギー分散型X線分光法)にて観察し、構造体1の厚み方向で各層の主成分をライン分析する。そして、金属部材3の結合層4と接していない側の表面部分から検出される20%を超える構成元素を、金属部材3の主成分としたときに、この主成分の少なくとも一部が結合層の厚み方向5μmの範囲内において全体組成比率で10%以上の急激な増加および/または減少を生じる面を結合層4と金属部材3との結合界面5として決定することができる。なお、上記%は質量%である。
【0035】
また、結合層4と多孔質焼結体2との結合界面6は、構造体1の厚み方向に沿う断面を、SEMにて観察することにより把握することができる。SEM像にて結合界面6が明りょうに把握されない場合には、次のようにして結合界面6が定められる。具体的には、多孔質焼結体2に含まれるが結合層4に含まれない成分(例えば、安定化ジルコニアやその構成元素等)をライン分析し、当該成分の有る領域と無い領域の境界を、結合層4と多孔質焼結体2との結合界面6として決定することができる。
【0036】
結合層4の厚みは、25μm以上とすることができる。この構成によれば、結合層4の母材強度を確保しやすくなるので、その結果、構造体1の強度を確保しやすくなる。結合層4の厚みは、結合層の母材強度を確実なものとしやすくなるなどの観点から、好ましくは、27μm以上、より好ましくは、30μm以上、さらに好ましくは、40μm以上とすることができる。結合層4の厚みは、電気抵抗抑制などの観点から、好ましくは、500μm以下、より好ましくは、300μm以下、さらに好ましくは、200μm以下とすることができる。なお、結合層4の厚みは、上述した結合層4と金属部材3との結合界面5と、結合層4と多孔質焼結体2との結合界面6との最短距離である。
【0037】
構造体1では、結合層4の結合粒子41が多孔質焼結体2の粒子連続体20に焼結によって一体化している。そのため、構造体1によれば、結合層4と多孔質焼結体2との間では、焼結反応によって強固な結合が得られる。なお、構造体1によれば、従来技術のように、多孔質焼結体2を構成する材料がSiCとSiとによる複合材料に限られない。また、構造体1では、結合粒子41中に、金属部材3を形成する金属材料の一部の金属元素が拡散しており、金属部材3中に、結合粒子41に含まれる金属元素の一部が拡散している。つまり、構造体1では、金属材料の金属元素の一部と結合粒子41の金属元素の一部とが相互拡散し、結合層4と金属部材3とが拡散接合によって結合された状態にある。そのため、構造体1によれば、結合層4と金属部材3との間で強固な結合が得られる。
【0038】
上述した構造体1は、例えば、以下のようにして製造することができるが、これに限定されない。以下、図3を用いて、構造体1の製造方法の一例を説明する。なお、ここでは、理解を容易にするため、最終的に製造される構造体1が、複数のNi粒子21およびセラミックス粒子22を含む粒子連続体20を備える多孔質焼結体2と、金属材料であるCrを含有する合金より形成された金属部材3と、多孔質焼結体2と金属部材3とを結合しており、Ni元素を含む複数の結合粒子41を備える結合層4と、を有しており、複数の結合粒子41の一部が粒子連続体20に焼結によって一体化しており、結合粒子41中に、上記金属材料の一部の金属元素であるCrが拡散しており、金属部材3中に、結合粒子41に含まれる金属元素であるNiの一部が拡散している場合について説明する。
【0039】
図3(a)に示されるように、金属部材3と結合層形成用材料40と多孔質焼結体2とがこの順に積層された積層体11を準備する。多孔質焼結体2は、複数のNiO粒子241およびYSZ粒子等のセラミックス粒子22を含む粒子連続体20を備える構成とすることができる。結合層形成用材料40は、未焼成状態のものであり、Ni粒子411とバインダー等の有機成分(不図示)とを含む構成とすることができる。
【0040】
次に、図3(b)に示されるように、準備した積層体11を酸化雰囲気中で焼成する。酸化雰囲気は、例えば、大気雰囲気とすることができる。焼成温度は、例えば、700℃以上900℃以下等とすることができる。また、焼成保持時間は、例えば、0.5時間以上6時間以下等とすることができる。焼成温度、焼成保持時間を変化させることで、形成される結合層4の接合強度を変化させることができる。また、焼成時には、上述した相互拡散の促進等のため、積層体11に荷重を負荷することができる。
【0041】
上記焼成により、結合層4と多孔質焼結体2との結合界面6側では、結合層4中のNi粒子の一部が、多孔質焼結体2の粒子連続体20に焼結によって一体化されるとともに酸化されてNiO粒子412となる。この際、結合層4中のNi粒子411と粒子連続体20中のNiO粒子241との間で酸素を授受し合うため、上記焼結は比較的低温で進行させることができる。また、結合層4と金属部材3との結合界面5側では、結合層4中のNi粒子411内に、Crを含有する合金中に含まれるCrの一部が拡散し、Ni-Cr合金が形成される(Ni-Cr合金粒子413になる)。この際、結合層4と金属部材3との結合界面5に近いほど、Crの拡散量が多いため、結合粒子41中におけるCr濃度が高くなる。また、Crを含有する合金中に、結合層4中の結合粒子41に含まれるNiの一部が拡散し、Ni-Cr合金が形成される。この際、結合層4と金属部材3との結合界面5に近いほど、Niの拡散量が多いため、金属部材3中のNi濃度が高くなる。
【0042】
次に、図3(c)に示されるように、焼成により得られた焼成体12を還元雰囲気で昇温する還元処理を実施する。還元雰囲気としては、例えば、水素雰囲気などを例示することができる。昇温温度は、例えば、700℃以上900℃以下等とすることができる。また、還元処理時間は、例えば、1時間以上6時間以下等とすることができる。これにより、多孔質焼結体2と金属部材3とが結合層4により結合された構造体1が得られる。上記還元処理により、多孔質焼結体2中のNiO粒子241は、Ni粒子211に還元される。この際、還元処理時間等を調節することで、Ni粒子211の一部に、結合層4中に拡散していたCrの一部を拡散させることができる。この場合、多孔質焼結体2は、Ni粒子211およびYSZ粒子等のセラミックス粒子22以外にもNi-Cr合金粒子212を含む粒子連続体20を備えることになる。また、粒子連続体20に焼結によって一体化されていた焼成体12のNiO粒子412は、Ni粒子に還元されるとともに還元時のCr拡散によりNi-Cr合金粒子413になる。つまり、上記製造方法により得られる構造体では、結合層4は、結合粒子41としてNi-Cr合金粒子413を備えている。また、結合層4では、厚み方向で見て、Ni-Cr合金粒子413におけるCr濃度が異なっている。Cr濃度は、結合層4と金属部材3との結合界面5側ほど高く、結合層4と多孔質焼結体2との結合界面6側ほど低くなっている。また、上記製造方法により得られる構造体1では、金属部材3は、結合粒子41に含まれているNi元素の一部が拡散している。
【0043】
(実施形態2)
実施形態2の構造体について、図4を用いて説明する。なお、実施形態2以降において用いられる符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0044】
図4に例示されるように、本実施形態の構造体1において、粒子連続体20は、複数の金属酸化物粒子24を含む。また、粒子連続体20は、金属酸化物粒子24以外にも、セラミックス粒子22を複数含む。本実施形態では、具体的には、粒子連続体20は、例えば、NiO粒子等の金属酸化物粒子24と、YSZ粒子等のセラミックス粒子22とを含む構成とすることができる。
【0045】
本実施形態の構造体1において、結合層4は、金属元素を含む複数の結合粒子41を備えている。本実施形態では、具体的には、結合層4が備える結合粒子41は、金属粒子と、金属酸化物粒子とを含む構成とすることができる。結合層4における金属酸化物粒子は、結合層4と多孔質焼結体2との結合界面6部分にあり、一部または全部が焼結によって粒子連続体と一体的に繋がっている構成とすることができる。
【0046】
本実施形態の構造体において、結合層4の金属粒子中には、金属部材3を形成する金属材料の一部の金属元素が拡散している。また、金属部材3中には、結合層4の金属粒子に含まれる金属元素の一部が拡散している。本実施形態では、具体的には、結合層4のNi粒子中に、金属部材3を形成するCrを含有する合金の一部の金属元素であるCrが拡散している構成とすることができる。また、Crを含有する合金より形成される金属部材3中に、結合層4のNi粒子に含まれる金属元素の一部であるNiが拡散している構成とすることができる。その他の構成については、実施形態1の記載を適宜参照することができる。
【0047】
本実施形態によっても、結合強度を確保することができる構造体が得られる。
【0048】
なお、本実施形態の構造体1は、実施形態1にて上述した構造体1の製造方法において、積層体11を酸化雰囲気中にて焼成し、焼成体12とすることによって得ることができる。つまり、実施形態1にて上述した構造体1の製造方法において、還元処理を実施することなく、酸化雰囲気中にて焼成する工程までにとどめることで、本実施形態の構造体1を得ることができる(図3(a)、(b)参照)。
【0049】
(実施形態3)
実施形態3の固体酸化物形燃料電池セルスタックについて、図4を用いて説明する。固体酸化物形燃料電池セルスタック7(以下、単に、「セルスタック」ということがある。)は、実施形態1の構造体1を含んでいる。以下、これを詳説する。
【0050】
図4に例示されるように、セルスタック7は、アノード711と固体電解質712とカソード713とを備える単セル71と、単セル71のアノード711側の面を支持する集電体72と、単セル71のアノード711と集電体72とを結合する接続部73と、を有している。
【0051】
ここで、アノード711は、構造体1における多孔質焼結体2より構成されており、集電体72は、構造体1における金属部材3より構成されており、接続部73は、構造体1における結合層4より構成されている。
【0052】
本実施形態において、単セル71のアノード711である多孔質焼結体2は、具体的には、金属粒子21と、セラミックス粒子22からなる固体電解質粒子とを含む粒子連続体20を備え、多孔質に形成されることができる。セルスタック7において、金属粒子21は、電子導電経路を構成し、固体電解質粒子は、イオン導電経路を構成する。
【0053】
金属粒子21を構成する金属としては、例えば、Ni、Ni合金などを例示することができる。固体電解質粒子を構成する固体電解質としては、例えば、イットリア安定化ジルコニア(YSZ)、スカンジア安定化ジルコニア(ScSZ)等の酸化ジルコニウム系酸化物などを例示することができる。本実施形態では、具体的には、粒子連続体20は、Ni粒子と、YSZ粒子とを含む構成とすることができる。
【0054】
多孔質焼結体2の厚みは、反応持続性、ガス拡散性等の観点から、好ましくは、10μm以上、より好ましくは、15μm以上とすることができる。多孔質焼結体2の厚みは、電極反応抵抗の低減等の観点から、好ましくは、50μm以下、より好ましくは、30μm以下とすることができる。
【0055】
なお、単セル71の固体電解質としては、上述した酸化ジルコニウム系酸化物などを例示することができる。また、カソード713の材料としては、例えば、ランタン-ストロンチウム-コバルト系酸化物等の遷移金属ペロブスカイト型酸化物と、セリアやセリア系固溶体との混合物などが挙げられる。なお、図4では示されていないが、単セル71は、固体電解質712とカソード713との間に公知の中間層(不図示)を備えていてもよい。
【0056】
本実施形態において、集電体72である金属部材3を形成する金属材料としては、例えば、Crを含有する合金などを例示することができる。Crを含有する合金としては、例えば、Fe-Cr合金、Ni-Cr合金、Ni-Cr-Si合金などを例示することができる。
【0057】
金属部材3は、板状の金属材料より構成することができる。本実施形態では、金属部材3は、図4に例示されるように、単セル71のアノード711である多孔質焼結体2の表面を支持するセル支持面部721を有している。セル支持面部721は、後述する燃料ガス流路77と連通する複数の貫通孔722を有している。この構成により、セル支持面部721によって単セル71をアノード711側から確実に支持しつつ、複数の貫通孔722を通じてアノード711表面(多孔質焼結体2表面)に燃料ガスFを供給することできる。なお、図示はしないが、集電体72としての金属部材3は、他にも、開口部を有する枠状に形成されており、その開口部の外周縁にて単セル71を支持するよう構成することもできる。また、図4では、セル支持面部721に支持された単セル71の外周縁が、シール部材74を間に挟んだ状態でリテーナ部材75にて集電体72に固定されている例が示されている。
【0058】
金属部材3の厚みは、電気伝導性、母材強度、電池作動時におけるクリープ防止等の観点から、好ましくは、0.1mm以上2mm以下、より好ましくは、0.3mm以上1.5mm以下、さらに好ましくは、0.5mm以上1mm以下とすることができる。なお、金属部材3の厚みは、単セル71を支持する部分にて測定される。
【0059】
本実施形態において、結合層4は、アノード711としての多孔質焼結体2と集電体72としての金属部材3とを結合しており、金属元素を含む複数の結合粒子41を備える。結合粒子41としては、例えば、Ni元素を含む粒子(Ni粒子等)、Co元素を含む粒子(Co粒子等)、Fe元素を含む粒子(Fe粒子等)、Ti元素を含む粒子(Ti粒子等)、Cu元素を含む粒子(Cu粒子等)などを例示することができる。これらのうち、結合粒子41としては、他の材料との両立、酸化雰囲気における焼結性等の観点から、Ni元素を含む粒子、Co元素を含む粒子、Fe元素を含む粒子などが好適であり、好ましくは、Ni元素を含む粒子であり、より好ましくは、Ni粒子であるとよい。金属元素を含む結合粒子41中には、金属材料の一部の金属元素が拡散しており、金属部材3中には、結合層4の結合粒子41に含まれる金属元素の一部が拡散している。本実施形態では、具体的には、結合層4を構成するNi粒子中に、金属部材3を形成するCrを含有する合金の一部の金属元素であるCrが拡散しており、金属部材3中に、結合層4を構成するNi元素を含む粒子に含まれるNiの一部が拡散している構成とすることができる。この場合、結合層4および金属部材3中には、Ni-Cr合金が形成される。
【0060】
結合層4の厚みは、電気抵抗抑制、母材強度等の観点から、好ましくは、30μm以上300μm以下、より好ましくは、50μm以上200μm以下とすることができる。なお、構造体1の詳細な構成については、実施形態1の記載を適宜参照することができる。なお、実施形態1の構造体1に代えて実施形態2の構造体1を用いることも可能であり、この場合には、電池使用時の昇温によるアノード711側の還元雰囲気により、実施形態2の構造体1を実施形態1の構造体1に変化させればよい。なお、本実施形態において、結合層4は、厚み方向に貫通する貫通孔42を複数有している。結合層4における複数の貫通孔42は、上述した金属部材3におけるセル支持面部721が備える複数の貫通孔722と位置を合わせて形成されている。
【0061】
本実施形態では、セルスタック7は、セパレータ76をさらに有している。セパレータ76は、隣り合う単セル71同士を電気的に直列に接続するとともにアノード711に供給される燃料ガスF(水素ガス等)とカソード713に供給される酸化剤ガス(空気等)とを隔離するものである。セパレータ76は、集電体72と同様の金属材料より構成することができる。
【0062】
本実施形態では、セルスタック7は、集電体72により支持された単セル711とセパレータ76とが交互に積層されて積層構造を有する。つまり、セルスタック7では、図4に例示される単位ユニットUを複数含んで積層構造が構成される。集電体72とセパレータ76との間には、アノード711に燃料ガスFを供給するための燃料ガス流路77が形成される。一方、カソード713とセパレータ76との間には、カソード713に酸化剤ガス(不図示)を供給するための酸化剤ガス流路(不図示)が形成される。
【0063】
ここで、結合層4による接続部73がなく、単セル71のアノード711と集電体72とが接触しているセルスタックでは、長期使用時に熱応力によって単セル71がカソード713側に凸形状となる反りを生じることがある。このような反りが生じるセルスタックでは、反りによってアノード711と集電体72とが離れて集電性が低下する。これに対し、本実施形態のセルスタック7では、単セル71のアノード711と集電体72とが接続部73を介して強固に結合される。そのため、本実施形態のセルスタック7によれば、安定した集電性を長期にわたって確保することが可能になる。
【0064】
(実験例)
以下、実験例を用いて、上記構造体、上記固体酸化物形燃料電池セルスタックをより具体的に説明する。
【0065】
<実験例1>
-材料準備-
NiO粉末(平均粒子径:0.5μm)と、8mol%のYを含むイットリア安定化ジルコニア(以下、8YSZ)粉末(平均粒子径:0.3μm)と、カーボン(造孔剤、平均粒子径:3.0μm)と、ポリビニルブチラールと、酢酸イソアミルと、2-ブタノールおよびエタノールとをボールミルにて混合することによりスラリーを調製した。NiO粉末と8YSZ粉末との質量比は、60:40とした。上記スラリーを、ドクターブレード法を用いて、樹脂シート上に層状に塗工し、乾燥させた後、樹脂シートを剥離することにより、多孔質焼結体形成用シートを準備した。なお、上記平均粒子径は、レーザー回折・散乱法により測定した体積基準の累積度数分布が50%を示すときの粒子径(直径)d50である(以下、同様)。
【0066】
所定の厚みとなるように複数枚の多孔質焼結体形成用シートを積層し、静水圧プレス(WIP)成形法を用いて圧着することにより、圧着体を得た。圧着体は、圧着後に脱脂した。なお、WIP成形条件は、温度80℃、加圧力50MPa、加圧時間10分という条件とした。
【0067】
次いで、得られた圧着体を、大気雰囲気中1400℃で2時間焼成した。これにより、NiO-YSZコンポジットからなる板状の多孔質焼結体を準備した。多孔質焼結体の外形は四角形状であり、厚みは400μmである。なお、準備した多孔質焼結体は、固体酸化物形燃料電池セルスタックにおける単セルのアノードとして用いることができるものであり、NiO粒子とYSZ粒子とを含む粒子連続体を備えている。
【0068】
Ni粉末(平均粒子径:0.4μm)と、ポリビニルブチラールと、酢酸イソアミルと、1-ブタノールとをボールミルにて混合することによりスラリーを調製した。上記スラリーを、ドクターブレード法を用いて、樹脂シート上に層状に塗工し、乾燥させた後、樹脂シートを剥離することにより、四角形状の結合層形成用シート(厚み50μm)を準備した。準備した結合層形成用シートは、60℃にて30分アニールし、乾燥による形状変化の抑制処理を施した後、レーザー加工により厚み方向に貫通する貫通孔を複数形成した。これにより、後に位置を合わせて積層する金属板の貫通孔との位置がずれることなく、積層しやすくなる。
【0069】
金属部材として、Fe-Cr合金よりなる平板状の金属板を準備した。金属板の板厚は、1.0mmとした。なお、金属板の表面状態を安定化させるため、800℃にて焼き鈍しを行った。また、金属板には、レーザー加工により厚み方向に貫通する貫通孔を複数形成した。なお、結合層形成用シートの貫通孔および金属板の貫通孔は、1対1の関係で位置が合うように形成した。
【0070】
-構造体の作製-
多孔質焼結体、結合層形成用シート、金属板をこの順に積層し、積層体を得た。なお、積層体において、結合層形成用シートと金属板とは互いの貫通孔の位置が合わされた状態で積層されている。
【0071】
次いで、積層体の多孔質焼結体側から10g/cmの荷重を負荷し、当該荷重をかけた状態にて、大気雰囲気中850℃で3時間保持するという条件で焼成した。
【0072】
次いで、得られた焼成体を、4体積%の水素を含む還元雰囲気中にて800℃まで昇温し、2時間保持するという条件で還元処理した。これにより、固体酸化物形燃料電池セルスタックに用いて好適な構造体を得た。具体的には、得られた構造体は、多孔質焼結体をアノードとして、金属部材を集電体として、結合層をアノードと集電体とを結合する接続部として用いることができる。なお、本実験例では、還元処理を実施したが、用途によっては還元処理を行わなくてもよい。
【0073】
図6図8に、構造体の断面SEM写真を示す。図6図8に示されるように、本実験例の構造体は、粒子連続体を備える多孔質焼結体と、Fe-Cr合金より形成された金属部材と、多孔質焼結体と金属部材とを結合する結合層とを有している。また、多孔質焼結体の粒子連続体は、Ni粒子とYSZ粒子を含んでおり、結合層は、Ni元素を含む複数の結合粒子を備えている。また、複数の結合粒子の一部は、粒子連続体に焼結によって一体化している。なお、図6図8によれば、各層の緻密さが異なることから、結合層と多孔質焼結体との結合界面(図7の点線部分)、結合層と金属部材との結合界面(図8の点線部分)の位置を把握することができる。
【0074】
次に、得られた構造体における厚み方向に沿う断面をSEM-EDXにて観察し、構造体の厚み方向で各層の主成分をライン分析した。その結果を、図9に示す。図9に示されるように、結合層の結合粒子中に、金属部材を形成するFe-Cr合金の一部の金属元素であるCrが拡散していることがわかる。また、金属部材を形成するFe-Cr合金中に、結合粒子に含まれる金属元素であるNiの一部が拡散していることがわかる。このことから、結合層と金属部材との間でCrとNiの相互拡散が生じており、結合層、金属部材中には、Ni-Cr固溶体、つまりNi-Cr合金が形成されているものと考えられる。なお、本実験例では、多孔質焼結体の粒子連続体中に含まれる金属粒子の一部にも、Crが拡散していることがわかる。
【0075】
なお、金属部材側の結合界面に関して、金属部材の結合層と接していない表面部分の成分組成比率を求めたところ、質量%で20%を超える構成元素は、Fe:78%、Cr:22%であった。したがって、金属部材の主成分は、Fe、Crであるといえる。また、図9に示す面Dの成分組成比率を求めたところ、Fe:Cr:Ni=78%:4%:18%であった。また、面Dから多孔質焼結体側へ5μm厚み方向にずれた面D’についても同様に成分組成比率を求めたところ、Fe:Cr:Ni=78%:16%:6%であった。つまり、金属部材の主成分のうち、Crの組成が結合層の厚み方向5μmの範囲内で12%ずれている。したがって、面D’が結合層と金属部材との結合界面であり、上述した構造体の断面SEM観察結果ともよく一致していた。一方、図9に示される面Bの左側では、YSZの存在が確認されたが、面Bの右側では、YSZは存在していなかった。したがって、面Bが結合層と多孔質焼結体との結合界面であり、上述した構造体の断面SEM観察結果ともよく一致していた。
【0076】
また、図9に示されるように、構造体において、Crは、結合層と金属部材との結合界面から結合層側に15μm以上拡散していることがわかる。また、Niは、結合層と金属部材との結合界面から金属部材側に15μm以上拡散していることがわかる。また、Crは、結合層と多孔質焼結体との結合界面から多孔質焼結体側に10μm以上拡散していることがわかる。なお、本実験例において、結合層の厚みは、25μmであった。
【0077】
<実験例2>
実験例1の構造体の作製において、積層体の大気雰囲気中での焼成温度を800℃~900℃、焼成保持時間を0.5時間~6時間の範囲内で振ることにより、金属元素の拡散距離、結合層の厚みを変化させた複数の構造体を作製した。そして、各構造体について、テープ剥離試験(180°ピール、使用テープ:寺岡製作所製「No,4140」)を行い、剥離の状態を観察するとともに、結合層の接合強度を求めた。
【0078】
その結果、結合層と金属部材との結合界面から結合層側へのCrの拡散距離が15μm未満のサンプルでは、結合層に一部剥がれが確認されたが、結合層と金属部材との結合界面から結合層側へのCrの拡散距離が15μm以上のサンプルでは、結合層の剥がれは確認されなかった。同様に、結合層と金属部材との結合界面から金属部材側へのNiの拡散距離が15μm未満のサンプルでは、結合層に一部剥がれが確認されたが、結合層と金属部材との結合界面から金属部材側へのNiの拡散距離が15μm以上のサンプルでは、結合層の剥がれは確認されなかった。また、結合層と多孔質焼結体との結合界面から多孔質焼結体側へのCrの拡散距離が10μm未満のサンプルでは、結合層に一部剥がれが確認されたが、結合層と多孔質焼結体との結合界面から多孔質焼結体側へのCrの拡散距離が10μm以上のサンプルでは、結合層の剥がれは確認されなかった。
【0079】
これらの結果から、結合層と金属部材との結合界面から結合層側へCrが15μm以上拡散している場合、結合層と金属部材との結合界面から金属部材側へのNiが15μm以上拡散している場合、結合層と多孔質焼結体との結合界面から多孔質焼結体側へCrが10μm以上拡散している場合には、高い結合強度を確保しやすくなるといえる。
【0080】
また、JIS 6849(1994)に準拠した引張接着強さ測定を実施し、図10に示される結果を得た。この結果から、結合層の厚みを25μm以上とすることで、結合層の母材強度を十分に確保しやすくなり、その結果、構造体の強度を確保しやすくなることがわかる。
【0081】
本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。
以下、参考形態の例を付記する。
項1.
複数の粒子が繋がってなる粒子連続体(20)を備える多孔質焼結体(2)と、
金属材料より形成された金属部材(3)と、
上記多孔質焼結体と上記金属部材とを結合しており、金属元素を含む複数の結合粒子(41)を備える結合層(4)と、を有しており、
複数の上記結合粒子の一部が上記粒子連続体に焼結によって一体化しており、
上記結合粒子中に、上記金属材料の一部の金属元素が拡散しており、
上記金属部材中に、上記結合粒子に含まれる金属元素の一部が拡散している、
構造体(1)。
項1.において、金属材料としては、耐熱性、元素拡散等の観点から、Crを含有する合金を好適に用いることができる。項1.において、粒子連続体は、複数の金属粒子を含むことができ、金属粒子以外にも、セラミックス粒子などの粒子を複数含むこともできる。また、項1.において、粒子連続体は、複数の金属酸化物粒子を含むことができ、金属酸化物粒子以外にも、セラミックス粒子などの粒子を複数含むこともできる。
項2.
上記粒子連続体は、複数の金属粒子(21)を含み、
複数の上記金属粒子の一部に、上記金属材料の一部の金属元素が拡散している、項1に記載の構造体。
項3.
上記結合層は、上記金属材料よりもクリープ強度が高い材料を含んでいる、項1または項2に記載の構造体。
項4.
上記結合粒子に含まれる金属元素は、上記構造体の製造時における酸化雰囲気焼成時に上記粒子連続体と酸素授受が可能な元素である、項1~項3のいずれか1項に記載の構造体。
項5.
上記金属材料の一部の金属元素が、上記結合層と上記金属部材との結合界面(5)から上記結合層側に15μm以上拡散している、項1~項4のいずれか1項に記載の構造体。
項6.
上記結合粒子に含まれる金属元素が、上記結合層と上記金属部材との結合界面(5)から上記金属部材側に15μm以上拡散している、項1~項5のいずれか1項に記載の構造体。
項7.
上記金属材料の一部の金属元素が、上記結合層と上記多孔質焼結体との結合界面(6)から上記多孔質焼結体側に10μm以上拡散している、項1~項6のいずれか1項に記載の構造体。
項8.
上記結合層の厚みが、25μm以上である、項1~項7のいずれか1項に記載の構造体。
項9.
項1~項8のいずれか1項に記載の構造体を含む固体酸化物形燃料電池セルスタック(7)であって、
アノード(711)と固体電解質(712)とカソード(713)とを備える単セル(71)と、上記単セルの上記アノード側の面を支持する集電体(72)と、上記単セルの上記アノードと上記集電体とを結合する接続部(73)と、を有しており、
上記構造体における上記多孔質焼結体が上記アノードとされ、
上記構造体における上記金属部材が上記集電体とされ、
上記構造体における上記結合層が上記接続部とされている、
固体酸化物形燃料電池セルスタック(7)。
上記参考形態の構造体は、固体酸化物形燃料電池セルスタック以外にも、例えば、自動車排ガス浄化用フィルタなどの高温ガスフィルタ、酸素センサなどの高温ガスセンサ、高温バキュームチャックなどの用途にも適用することができる。
【符号の説明】
【0082】
1 構造体
2 多孔質焼結体
20 粒子連続体
3 金属部材
4 結合層
41 結合粒子
7 固体酸化物形燃料電池セルスタック
71 単セル
711 アノード
712 固体電解質
713 カソード
72 集電体
73 接続部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10