(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】エネルギー吸収デバイスおよびエネルギー吸収デバイス付き耐力壁
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20221109BHJP
F16F 15/02 20060101ALI20221109BHJP
F16F 15/073 20060101ALI20221109BHJP
F16F 7/00 20060101ALI20221109BHJP
F16F 7/12 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
E04H9/02 321B
F16F15/02 Z
F16F15/073
F16F7/00 C
F16F7/12
(21)【出願番号】P 2018216146
(22)【出願日】2018-11-19
【審査請求日】2021-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104547
【氏名又は名称】栗林 三男
(74)【代理人】
【識別番号】100206612
【氏名又は名称】新田 修博
(74)【代理人】
【識別番号】100209749
【氏名又は名称】栗林 和輝
(72)【発明者】
【氏名】久積 綾那
(72)【発明者】
【氏名】清水 信孝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 圭一
【審査官】齋藤 卓司
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-500493(JP,A)
【文献】特開2017-061808(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/00- 9/16
F16F 15/00-15/36
F16F 7/00- 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐力壁に設けられるエネルギー吸収デバイスであって、
断面方向で略U字形状に形成されたU形部材を備え、
前記U形部材は、湾曲部と、この湾曲部の両端部からそれぞれ連続して延びる一対の変形部と、当該一対の変形部の端部からそれぞれ連続して延びる一対の連結部とを備え、
一対の前記連結部に、それぞれ当該連結部が延びる方向と直交する方向に連続して延びる固定部が設けられ、
前記固定部は前記連結部にそれぞれ前記断面方向と直交する方向に対向離間して一対ずつ設けられて、前記耐力壁に直接または間接的に固定され
、
前記断面方向における前記固定部の端と、前記連結部の端とが等しい位置にあり、
前記断面方向における前記固定部の長さ寸法が、前記湾曲部の頂部と前記変形部の端部との間の距離と等しくなっていることを特徴とするエネルギー吸収デバイス。
【請求項2】
請求項
1に記載のエネルギー吸収デバイスと、耐力壁とを備えたエネルギー吸収デバイス付き耐力壁であって、
前記耐力壁は、一対の柱と、当該一対の柱の対向する面のそれぞれから対となって突出して設けられ締結部とを備え、
前記エネルギー吸収デバイスが一対の前記柱の間に配置され、当該エネルギー吸収デバイスの4つの前記固定部がそれぞれ4つの前記締結部に固定されていることを特徴とするエネルギー吸収デバイス付き耐力壁。
【請求項3】
請求項
1に記載のエネルギー吸収デバイスと、耐力壁とを備えたエネルギー吸収デバイス付き耐力壁であって、
前記耐力壁は対向する面を有する一対の柱を備え、
前記エネルギー吸収デバイスが一対の前記柱の間に配置され、
前記エネルギー吸収デバイスの一方側の一対の前記固定部が一方の柱の対向する面に固定され、他方側の一対の前記固定部が他方の柱の対向する面に固定されていることを特徴とするエネルギー吸収デバイス付き耐力壁。
【請求項4】
前記一対の柱の芯間寸法と前記耐力壁の壁高さの比率が、1:6以上となっていることを特徴とする請求項
2または3に記載のエネルギー吸収デバイス付き耐力壁。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エネルギー吸収デバイスおよびエネルギー吸収デバイス付き耐力壁に関する。
【背景技術】
【0002】
プレファブ住宅等の小規模建築において、耐震安全性を高めるために、鉛直構面(柱梁、耐力壁など)や水平構面(基礎免震など)にエネルギー吸収デバイスが適用されることが多い。
【0003】
地震時においてエネルギー吸収による制震作用を簡素な構造で効果的に実現するものとして、例えば、特許文献1および特許文献2に記載の技術が知られている。
特許文献1に記載の建物制震構造は、左拘束部と右拘束部との間に配置されたU字形弾塑性ダンパーが、U字状湾曲部を上又は下に位置させた姿勢状態で、左側対向辺部が左拘束部に沿って連結されるとともに、右側対向辺部が右拘束部に沿って連結される。
このような建物制震構造は、地震時に上階と下階とが互いに相対変位する層間変位によって、U字形弾塑性ダンパーが、左右の拘束部の両拘束面により左右の対向辺部の左右方向への変形が拘束されたまま、U字状湾曲部の位置を移動させていく弾塑性変形をすることで、地震時にエネルギー吸収できるものとなっている。
【0004】
また、特許文献2に記載の耐震壁構造は、エネルギー吸収デバイスが構面内に設けられる耐震壁構造であって、横枠及び縦枠を組み合わせた枠体と、前記枠体の内部に設けられてエネルギー吸収デバイスとなるU形部材と、前記U形部材が前記枠体の内部で支持される支持材とを備え、前記U形部材は、断面方向で略U形状に形成されて、湾曲部と、前記湾曲部の両端部から連続して延びる一対の中間部と、一対の前記中間部の端部から連続して延びる一対の固定部とを有して、断面直交方向に作用する力に抵抗するものとして、前記支持材に取り付けられるものとなっている。
このような耐震壁構造では、断面直交方向に作用する力に抵抗するU形部材とすることで、U形部材の断面直交方向の変形が抑制されて、地震時に安定したエネルギー吸収性能を発揮させることが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2009-270336号公報
【文献】特開2017-61808号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、耐力壁のエネルギー吸収性能を合理的に発揮させるには耐力壁としての剛性を十分に確保する必要がある。耐力壁の剛性を確保するには、エネルギー吸収部材(エネルギー吸収デバイス)の周辺構成部材の板厚を大きくするか、部品点数を増やす方法が最も簡便であるが、コスト、施工性の観点から部品点数、鋼重量を顕著に増やすことは合理的ではない。
また、近年では狭小地に建設される住宅やプランの自由度をあげるためにも、細幅の耐力壁のニーズも高まっているが、単純に耐力壁の幅を狭めるだけでは、デバイスの効きが悪くなる場合が多く、また耐力壁としての剛性が急激に低下する。
【0007】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、周辺構成部材の板厚を大きくしたり、部品点数を増やしたり、さらには壁重量を大きくすることなく、耐力壁としての剛性を確保しつつ、合理的にエネルギー吸収デバイスのエネルギー吸収性能を発揮させることができるエネルギー吸収デバイスおよびエネルギー吸収デバイス付き耐力壁を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明のエネルギー吸収デバイスは、耐力壁に設けられるエネルギー吸収デバイスであって、
断面方向で略U字形状に形成されたU形部材を備え、
前記U形部材は、湾曲部と、この湾曲部の両端部からそれぞれ連続して延びる一対の変形部と、当該一対の変形部の端部からそれぞれ連続して延びる一対の連結部とを備え、
一対の前記連結部に、それぞれ当該連結部が延びる方向と直交する方向に連続して延びる固定部が設けられ、
前記固定部は前記連結部にそれぞれ前記断面方向と直交する方向に対向離間して一対ずつ設けられて、前記耐力壁に直接または間接的に固定されることを特徴とする。
ここで、前記断面方向と直交する方向とは、前記断面方向と直交する方向を前記連結部の幅方向とすると、当該幅方向のことを言う。
【0009】
本発明においては、エネルギー吸収デバイスの一対の前記連結部に、それぞれ当該連結部が延びる方向と直交する方向に連続して延びる固定部が設けられ、当該固定部は連結部にそれぞれ前記断面方向と直交する方向に対向離間して一対ずつ設けられて、耐力壁に直接または間接的に固定されるので、耐力壁を構成する柱の面外局所変形を抑制できる。したがって、周辺構成部材の板厚を大きくしたり、部品点数を増やしたり、さらには壁重量を大きくすることなく、耐力壁としての剛性を確保することが可能となり、合理的にエネルギー吸収デバイスのエネルギー吸収性能を発揮できる。
【0010】
また、本発明の前記構成において、前記断面方向における前記固定部の端と、前記連結部の端とが等しい位置にあり、
前記断面方向における前記固定部の長さ寸法が、前記湾曲部の頂部と前記変形部の端部との間の距離と等しくなっていてもよい。
【0011】
このような構成によれば、所定の板厚を有する鋼板から効率的にエネルギー吸収デバイスを展開した展開部材を切り出すことができる。
つまり、一体的に形成されたエネルギー吸収デバイスは、展開することによって、一方の連結部および当該連結部を挟むようにして設けられた一方の一対の固定部からなる第1長方形板部と、他方の連結部および当該連結部を挟むようにして設けられた他方の一対の固定部からなる第2長方形板部と、長方形状に伸ばされた湾曲部および当該湾曲部を挟むようにして設けられた一対の変形部からなり、かつ、前記第1長方形板部と第2長方形板部とを接続する長方形板状の第3長方形板部とから構成されている。
そして、前記固定部の長さ寸法が、前記湾曲部の頂部と前記変形部の端部との間の距離と等しくなっているので、第1長方形板部と第2長方形板部との間の距離は、第1長方形板部と第2長方形板部のそれぞれ短辺の2倍の長さとなる。
したがって、第1長方形板部と第2長方形板部との間に、他の異なる一方のエネルギー吸収デバイスを展開してなる展開部材の第1長方形板部と、他の異なる他方のエネルギー吸収デバイスを展開してなる展開部材の第2長方形板部とを並べるようにして配置し、さらに、一方向に連続して展開部材を配置するとともに、一方向と直交する直交方法に展開部材を第1長方形板部の短辺(第2長方形板部の短辺)の長さに相当する寸法だけずらして配置することによって、展開部材を切り出すための鋼板に、当該展開部材を密に配置することができる。したがって、当該展開部材を鋼板から切り出すことによって、鋼板から効率的にエネルギー吸収デバイスを展開した展開部材を切り出すことができる。
【0012】
また、本発明のエネルギー吸収デバイス付き耐力壁は、前記エネルギー吸収デバイスと、耐力壁とを備えたエネルギー吸収デバイス付き耐力壁であって、
前記耐力壁は、一対の柱と、当該一対の柱の対向する面のそれぞれから対となって突出して設けられ締結部とを備え、
前記エネルギー吸収デバイスが一対の前記柱の間に配置され、当該エネルギー吸収デバイスの4つの前記固定部がそれぞれ4つの前記締結部に固定されていることを特徴とする。
【0013】
本発明においては、エネルギー吸収デバイスの固定部が連結部からそれぞれ、当該連結部が延びる方向と直交する方向に連続して延び、さらに固定部は連結部にそれぞれ前記断面方向と直交する方向に対向離間して一対ずつ設けられ、耐力壁は、一対の柱と、当該一対の柱の対向する面のそれぞれから対となって突出して設けられ締結部とを備え、前記エネルギー吸収デバイスが一対の前記柱の間に配置され、当該エネルギー吸収デバイスの4つの前記固定部がそれぞれ4つの前記締結部に固定されることによって、エネルギー吸収デバイスの固定部が締結部を介して一対の柱に間接的に固定されるので、耐力壁を構成する柱の面外局所変形を抑制できる。したがって、周辺構成部材の板厚を大きくしたり、部品点数を増やしたり、さらには壁重量を大きくすることなく、耐力壁としての剛性を確保することが可能となり、合理的にエネルギー吸収デバイスのエネルギー吸収性能を発揮できる。
【0014】
また、本発明の別のエネルギー吸収デバイス付き耐力壁は、前記エネルギー吸収デバイスと、耐力壁とを備えたエネルギー吸収デバイス付き耐力壁であって、
前記耐力壁は対向する面を有する一対の柱を備え、
前記エネルギー吸収デバイスが一対の前記柱の間に配置され、
前記エネルギー吸収デバイスの一方側の一対の前記固定部が一方の柱の対向する面に固定され、他方側の一対の前記固定部が他方の柱の対向する面に固定されていてもよい。
【0015】
本発明においては、エネルギー吸収デバイスの固定部が連結部からそれぞれ、当該連結部が延びる方向と直交する方向に連続して延び、さらに固定部は連結部にそれぞれ前記断面方向と直交する方向に対向離間して一対ずつ設けられ、耐力壁は、一対の柱を備え、前記エネルギー吸収デバイスが一対の前記柱の間に配置され、前記エネルギー吸収デバイスの一方側の一対の前記固定部が一方の柱の対向する面に固定され、他方側の一対の前記固定部が他方の柱の対向する面に固定されることによって、エネルギー吸収デバイスの固定部が一対の柱に直接固定されるので、耐力壁を構成する柱の面外局所変形を抑制できる。したがって、周辺構成部材の板厚を大きくしたり、部品点数を増やしたり、さらには壁重量を大きくすることなく、耐力壁としての剛性を確保することが可能となり、合理的にエネルギー吸収デバイスのエネルギー吸収性能を発揮できる。
【0016】
また、本発明の前記構成において、前記一対の柱の芯間寸法と前記耐力壁の壁高さの比率が、1:6以上となっていてもよい。
【0017】
このような構成によれば、細幅耐力壁においても高剛性を発揮し、合理的にエネルギー吸収デバイスのエネルギー吸収性能を発揮できる。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、周辺構成部材の板厚を大きくしたり、部品点数を増やしたり、さらには壁重量を大きくすることなく、耐力壁としての剛性を確保しつつ、合理的にエネルギー吸収デバイスのエネルギー吸収性能を発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の第1の実施の形態に係るエネルギー吸収デバイスを示す斜視図である。
【
図2】本発明の第1の実施の形態に係るエネルギー吸収デバイス付き耐力壁を示すもので、(a)は斜視図、(b)は(a)におけるX楕円部の拡大図である。
【
図4】本発明の第1の実施の形態に係るエネルギー吸収デバイス付き耐力壁を示す正面図である。
【
図5】本発明の第1の実施の形態に係るエネルギー吸収デバイスの展開図である。
【
図6】本発明の第1の実施の形態に係るエネルギー吸収デバイスの展開部材を鋼板から切り出す方法を説明するための図である。
【
図7】本発明の第1の実施の形態に係るエネルギー吸収デバイス付き耐力壁の第1変形例を示す平断面図である。
【
図8】本発明の第1の実施の形態に係るエネルギー吸収デバイス付き耐力壁の第2変形例を示す平断面図である。
【
図9】本発明の第1の実施の形態に係るエネルギー吸収デバイス付き耐力壁の第3変形例を示す平断面図である。
【
図10】本発明の第2の実施の形態に係るエネルギー吸収デバイス付き耐力壁を示すもので、(a)は斜視図、(b)は(a)におけるX円部の拡大図である。
【
図12】本発明の第2の実施の形態に係るエネルギー吸収デバイス付き耐力壁の変形例を示す平断面図である。
【
図14】既往技術に係る解析モデルを示す図である。
【
図15】解析モデルに水平力を加えた状態を示す図である。
【
図16】解析結果における水平力Q-層間変形量Δ関係を示すグラフである。
【
図17】既往技術におけるMises応力コンタ図である。
【
図18】本発明におけるMises応力コンタ図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しながら本発明の実施の形態について説明する。
(第1の実施の形態)
図1は、第1の実施の形態のエネルギー吸収デバイス10を示す斜視図、
図2はエネルギー吸収デバイス10が設けられた耐力壁30を示す図、
図3は
図2(a)におけるA-A線断面図である。
【0021】
図1~
図3に示すように、エネルギー吸収デバイス10は耐力壁30に設けられるものであり、所定形状の平坦な鋼板を折り曲げ成形することによって一体的に形成されている。
エネルギー吸収デバイス10は、
図1に示すように、断面方向(
図1では上下方向)で略U字形状に形成されたU形部材11を備えている。U形部材11は、長方形状の帯板をU形に折り曲げて形成されたものであり、上側に凸の湾曲部12と、この湾曲部12の両端部からそれぞれ下方に連続して平行に延びる一対の変形部13,13と、当該一対の変形部13,13の端部(下端部)からそれぞれ下方に連続して平行に延びる一対の連結部14,14とを備えている。
【0022】
湾曲部12は断面略半円弧状に形成されている。また、変形部13と連結部14とは上下に連続する長方形板状に形成されている。U形部材11は、長方形状の帯板をU形に折り曲げて形成されたものであるから、湾曲部12、変形部13および連結部14の幅方向Wの寸法Sは等しくなっている。
なお、湾曲部12を断面略半円弧状に形成するとともに、変形部13,13を長方形板状に形成することに代えて、湾曲部12と変形部13,13とを断面方向において略半楕円形状に形成してもよい。
【0023】
また、一対の連結部14,14に、それぞれ当該連結部14,14が延びる方向(
図1において上下方向)と直交する方向(
図1において左右方向)に連続して延びる長方形板状の固定部15が設けられている。
固定部15は連結部14にそれぞれ前記断面方向(
図1において上下方向)と直交する方向(
図1において連結部14の幅方向W)に対向離間して一対ずつ設けられている。したがって、固定部15は合計2対(4つ)あり、一方の一対の固定部15,15はその側面を対向させた状態で、一方の連結部14の上下に沿う両縁部に一体的に設けられ、他方の一対の固定部15,15はその側面を対向させた状態で、他方の連結部14の上下に沿う両縁部に一体的に設けられている。
また、固定部15と連結部14の高さは等しくなっており、連結部14の高さ方向に沿う縁部全体に固定部15の高さ方向に沿う縁部全体が連結されている。
【0024】
また、前記断面方向(
図1おいて上下方向)における固定部15の下端と、連結部14の下端とが等しい位置にあり、前記断面方向における固定部15の長さ寸法L1が、湾曲部12の頂部と変形部13の下端部との間の距離L2と等しくなっている。つまりL1=aとすると、L1=L2=aとなっている。
【0025】
このような構成のエネルギー吸収デバイス10は、上述したように、所定形状の平坦な鋼板を折り曲げ成形することによって一体的に形成されたものである。
すなわち、
図5に示すように、エネルギー吸収デバイス10を展開してなる展開部材10aは、一方の連結部14および当該連結部14を挟むようにして設けられた一方の一対の固定部15,15からなる第1長方形板部21と、他方の連結部14および当該連結部14を挟むようにして設けられた他方の一対の固定部15,15からなる第2長方形板部22と、長方形状に伸ばされた湾曲部12および当該湾曲部12を挟むようにして設けられた一対の変形部13,13からなる長方形板状の第3長方形板部23とから構成されている。
第1長方形板部21と第2長方形板部22とは第3長方形板部23によって接続され、展開部材10aは略エ字形に形成されている。
【0026】
そして、固定部15の長さ寸法L1(=a)が、湾曲部12の頂部と変形部13の下端部との間の距離L2(=a)と等しくなっているので、第1長方形板部21と第2長方形板部22との間の距離L3は、第1長方形板部21と第2長方形板部22のそれぞれ短辺の長さ、つまり固定部15の長さ寸法L1の2倍の長さ2aとなる。
したがって、
図6に示すように、あるエネルギー吸収デバイス10を展開してなる展開部材10aの第1長方形板部21と第2長方形板部22との間に、他の異なる一方のエネルギー吸収デバイス10を展開してなる展開部材10aの第1長方形板部21と他の異なる他方のエネルギー吸収デバイス10を展開してなる展開部材10aの第2長方形板部22とを並べるようにして配置し、さらに、
図6において上下方向に連続して展開部材10aを配置するとともに、左右方向に展開部材10aを第1長方形板部21の短辺(第2長方形板部22の短辺)の長さに相当する寸法だけずらして配置することによって、展開部材10aを切り出すための鋼板Kに、当該展開部材10aを密に配置することができる。したがって、当該展開部材10aを鋼板Kから切り出すことによって、鋼板Kから効率的にエネルギー吸収デバイス10を展開した展開部材10aを切り出すことができる。
【0027】
このような展開部材10aは、
図5に示すように、4つの固定部15となる部分をそれぞれ折れ線25で連結部14となる部分に対して直角になるようにして折り曲げ加工するとともに、湾曲部12となる部分を半円筒状に湾曲させるとともに、連結部14,14となる部分および変形部13,13となる部分をそれぞれ平行離間させることによって、
図1に示すようなエネルギー吸収デバイス10となる。
【0028】
さらに、展開部材10aは、固定部15の変形部13側の縁と、変形部13の縁とが交わる部分がエッジとなっておらず、円弧となっている。したがって、展開部材10aを折り曲げ加工することによって形成されたエネルギー吸収デバイス10では、
図1に示すように、変形部13と固定部15とが交わる部分が滑らかな円弧面となって、応力が集中しないようになっている。
【0029】
図2および
図3に示すように、上述したようなエネルギー吸収デバイス10を合計で6個、耐力壁30に取り付けることによって、エネルギー吸収デバイス付き耐力壁31となる。なお、耐力壁30取り付けるエネルギーデバイス10の個数、U形部材11および固定部15の板厚およびその他の寸法は上記と異なっていてもよい。
耐力壁30は、角形鋼管で形成された左右一対の柱32,32と、当該一対の柱32,32の対向する面32a,32aのそれぞれから対となって突出して設けられ締結部33,33と、柱33,33の上端部どうしおよび下端部どうしをそれぞれ連結する横枠35,35とを備えている。なお、耐力壁30はその骨組が左右一対の柱32,32と横枠35,35とによって構成されるが、当該柱32,32の正面側および/または背面側に面材を取り付けることで、建物の外壁面や内壁面の一部を構成してもよい。
【0030】
締結部33は、鋼板によって矩形板状に形成され、その上下方向の寸法は、エネルギー吸収デバイス10の固定部15の高さ寸法の略2倍の長さと略等しくなっている。また、締結部33の左右方向の基端部は柱32の面32aの両側縁部にそれぞれ溶接によって結合され、締結部33の表面と柱32の表面とはほぼ面一となっている。なお、締結部33の結合は溶接だけでなく、嵌合やボルト等他の結合方法を用いてもよい。
このような締結部33は、柱32,32の上下方向の中央位置、この中央位置から上下にそれぞれ所定間隔で隔てた上側位置および下側位置に、それぞれ耐力壁30の厚さ方向に一対ずつ、左右方向に一対ずつ、合計2対(合計4枚)設けられている。
【0031】
また、左右一対の柱32,32の対向する面32a,32aの間には、エネルギー吸収デバイス10が合計6個、上下に配置されるとともに、前記中央位置、上側位置および下側位置に対応させて配置されている。
すなわちまず、柱32,32の上下方向の中央位置においては、上下一対のエネルギー吸収デバイス10,10がそれらのU形部材11,11の向きを互いに逆方向にして、上下に僅かな隙間をもって配置されているが、隙間がなく互いに当接されていてもよい。
また、柱32,32の前記中央位置から上下にそれぞれ所定間隔で隔てた上側位置および下側位置には、上下一対のエネルギー吸収デバイス10,10がそれらのU形部材11,11の向きを互いに逆方向にして、上下に僅かな隙間をもって配置されているが、隙間がなく互いに当接されていてもよい。上下一対のエネルギー吸収デバイス10,10のうち上側のエネルギー吸収デバイス10は、その湾曲部12を上側に向け配置され、下側のエネルギー吸収デバイス10は、その湾曲部12を下側に向けて配置されている。
【0032】
また、
図3に示すように、締結部33,33は柱32の面32aの両側縁部からエネルギー吸収デバイス10側に向けて延び、その先端部はエネルギー吸収デバイス10の固定部15,15の基端部側に位置している。固定部15,15は、締結部33,33より内側に設けられ、固定部15,15の外側を向く面が締結部33,33の内側を向く面に当接されている。この状態で締結部33,33に固定部15,15が固定されている。この固定は、締結部33,33に固定部15,15を溶接によって固定してもよいし、ボルト止めやビスによって固定してもよい。
また、
図2に示すように、柱32,32の中央位置、上側位置および下側位置においてそれぞれ4枚ずつ配置されている締結部33に上下一対のエネルギー吸収デバイス10,10の8枚の固定部15がそれぞれ固定されている。つまり、上下一対のエネルギー吸収デバイス10,10のうち上側のエネルギー吸収デバイス10の4枚の固定部15がそれぞれ4枚の締結部33の略上半分に固定され、下側のエネルギー吸収デバイス10の4枚の固定部15がそれぞれ4枚の締結部33の略下半分に固定されている。
なお、締結部33を上下に分断し、分断された上側の4枚の締結部に上側のエネルギー吸収デバイス10の4枚の固定部15を固定し、分断された下側の4枚の締結部に下側のエネルギー吸収デバイス10の4枚の固定部15を固定してもよい。
また、締結部33は、エネルギー吸収デバイス10に対して必ずしも上下に1枚ずつ必要ではなく、上下1枚の締結部33に、エネルギー吸収デバイス10が上下2個以上配置されてもよい。
【0033】
また、本実施の形態では、左右一対の柱32,32の芯間寸法と耐力壁30の壁高さの比率が、1:6となっており、耐力壁30が細幅耐力壁となっているが、これより耐力壁30を細幅に形成してもよい。この場合、左右一対の柱32,32の芯間寸法と耐力壁30の壁高さの比率を、1:6以上にすればよい。なお、柱32,32の芯間寸法とは、柱32が断面正方形状または断面長方形状の角形鋼管で形成されている場合、柱32,32の断面中心間の距離のことを言う。
【0034】
このような構成のエネルギー吸収デバイス付き耐力壁31は、
図4に示すように、上下の梁(水平構造材)35,35に結合される。つまり、耐力壁30の左右一対の柱32,32の上下端部がそれぞれ上下の梁35,35に結合される。
この場合、この上下の梁35,35が
図2に示す横枠35を構成する。梁35,35はH形鋼や角形鋼管等の鋼材によって形成されている。
【0035】
上下の梁35,35に結合されたエネルギー吸収デバイス付き耐力壁31に、地震等によって水平方向の外力(地震力)が作用すると、耐力壁30が倒れるように変位する。エネルギー吸収デバイス10の固定部15は締結部33によって拘束されているので、前記変位に伴ってエネルギー吸収デバイス10の変形部13が湾曲部12を左右に変形させるようにして塑性変形し、これによって、外力(地震力)のエネルギーを吸収する。したがって、地震力に対してエネルギー吸収する性能を高めることができ、耐力壁30の耐震性能を向上させることができる。
【0036】
本実施の形態によれば、エネルギー吸収デバイス10の固定部15が連結部14からそれぞれ、当該連結部14が延びる方向と直交する方向に連続して延び、さらに固定部15は連結部14にそれぞれ前記断面方向と直交する方向に対向離間して一対ずつ設けられ、耐力壁30は、一対の柱32,32と、当該一対の柱32,32の対向する面32a,32aのそれぞれから対となって突出して設けられ締結部33,33とを備え、エネルギー吸収デバイス10が一対の柱32,32の間に配置され、1つのエネルギー吸収デバイス10の4つの固定部15がそれぞれ4つの締結部33に固定されることによって、エネルギー吸収デバイス10の固定部15,15が締結部33,33を介して一対の柱32,32に間接的に固定されるので、耐力壁30を構成する柱32,32の面外局所変形を抑制できる。つまり、締結部33,33は、柱32の面32aの中央部に固定されておらず、面32aの両側縁部に固定されているので、柱32,32の面32a,32aの面外局所変形を抑制できる。
したがって、周辺構成部材の板厚を大きくしたり、部品点数を増やしたり、さらには壁重量を大きくすることなく、耐力壁30としての剛性を確保することが可能となり、合理的にエネルギー吸収デバイス10のエネルギー吸収性能を発揮できる。
【0037】
また、左右一対の柱32,32の芯間寸法と耐力壁30の壁高さの比率を、1:6以上とすることによって、耐力壁30が細幅耐力壁となり、当該細幅耐力壁においても高剛性を発揮し、合理的にエネルギー吸収デバイスのエネルギー吸収性能を発揮できる。
また、締結部33,33の左右方向の長さを調整することによって、エネルギー吸収デバイス付き耐力壁31の壁幅を調整できる。
さらに、締結部33は長方形板状に形成され、その表面が柱32の表面と面一となっており、エネルギー吸収デバイス10は締結部33,33の内側に配置されているので、当該柱32,32の正面側および/または背面側に面材を取り付けても、締結部33およびエネルギー吸収デバイス10が面材の邪魔になることがない。
【0038】
図7~
図9はそれぞれ第1の実施の形態のエネルギー吸収デバイス付き耐力壁31の変形例を示す平断面図である。なお、第1の実施の形態と同一構成には同一符号を付してその説明を省略する。
図7は第1変形例を示す。第1の実施の形態では、エネルギー吸収デバイス10の固定部15,15を耐力壁30の締結部33,33の内面に固定しているのに対し、第1の変形例ではエネルギー吸収デバイス10の固定部15,15を耐力壁30の締結部33,33の外面に固定している。
図8は第2変形例を示す。第1の実施の形態では、耐力壁30において、締結部33,33の基端部を柱32,32の対向する面32a,32aの両側縁部に固定しているのに対し、第2変形例では、締結部33,33の基端部を柱32,32の外側を向く側面32b,32bに固定している。この固定は溶接によって行ってもよいし、ボルト止めによって行ってもよい。
図9は第3変形例を示す。この第3変形例では、第1変形例と同様に、エネルギー吸収デバイス10の固定部15,15を耐力壁30の締結部33,33の外面に固定しているとともに、第2変形例と同様に、締結部33,33の基端部を柱32,32の外側を向く側面32b,32bに固定している。
このような第1~第3変形例においても、第1の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0039】
(第2の実施の形態)
図10および
図11は第2の実施の形態を示すもので、
図10はエネルギー吸収デバイス10が設けられた耐力壁30を示す斜視図、
図11は
図10におけるA-A線断面図である。
本実施の形態が第1の実施の形態と異なる点は、第1の実施の形態ではエネルギー吸収デバイス10を、締結部33を介して耐力壁30に間接的に取り付けたのに対し、本実施の形態では、エネルギー吸収デバイス10を耐力壁30に直接取り付けた点であるので、以下ではこの点について説明し、第1の実施の形態と同一構成には同一符号を付してその説明を省略することもある。
【0040】
図10および
図11に示すように、本実施の形態では、上述したようなエネルギー吸収デバイス10を合計で6個、耐力壁30に取り付けることによって、エネルギー吸収デバイス付き耐力壁31となる。
耐力壁30は、第1の実施の形態と同様に、角形鋼管で形成された左右一対の柱32,32を備えているが、第1の実施の形態のような締結部33,33は備えていない。また、柱32,32の離間距離は、第1の実施の形態に比して短くなっている。このため、第1の実施の形態より細幅の細幅耐力壁となっている。なお、エネルギー吸収デバイス10の個数は必ずしも6個でなくてもよく、上下でバランスが取れるよう偶数個設置すればよい。
【0041】
また、左右一対の柱32,32の対向する面32a,32aの間には、エネルギー吸収デバイス10が合計6個、上下に配置されている。
すなわち、第1の実施の形態と同様に、柱32,32の上下方向の中央位置においては、上下一対のエネルギー吸収デバイス10,10がそれらのU形部材11,11の向きを互いに逆方向にして、上下に僅かな隙間をもって配置され、また、柱32,32の前記中央位置から上下にそれぞれ所定間隔で隔てた上側位置および下側位置には、上下一対のエネルギー吸収デバイス10,10がそれらのU形部材11,11の向きを互いに逆方向にして、上下に僅かな隙間をもって配置されている。
上下一対のエネルギー吸収デバイス10,10のうち上側のエネルギー吸収デバイス10は、その湾曲部12を上側に向け配置され、下側のエネルギー吸収デバイス10は、その湾曲部12を下側に向けて配置されている。
【0042】
また、
図11に示すように、エネルギー吸収デバイス10の一方の前後一対の固定部15,15の先端部は、一方の柱32の面32aの両側縁部に当接されたうえで、溶接によって固定され、他方の前後一対の固定部15,15の先端部は、他方の柱32の面32aの両側縁部に当接されたうえで、溶接によって固定されている。また、固定部15の外側を向く面は柱32の外側を向く側面32bとほぼ面一となっている。
【0043】
本実施の形態によれば、エネルギー吸収デバイス10の固定部15が連結部14からそれぞれ、当該連結部14が延びる方向と直交する方向に連続して延び、さらに固定部15は連結部14にそれぞれ前記断面方向と直交する方向に対向離間して一対ずつ設けられ、耐力壁30は、一対の柱32,32を備え、エネルギー吸収デバイス10が一対の前記柱32,32の間に配置され、前記エネルギー吸収デバイス10の一方側の一対の前記固定部15,15が一方の柱32の対向する面32aに固定され、他方側の一対の前記固定部15,15が他方の柱32の対向する面32aに固定されることによって、エネルギー吸収デバイス10の固定部15が一対の柱32,32に直接固定されるので、耐力壁30を構成する柱の面外局所変形を抑制できる。つまり、固定部15,15は、柱32の面32aの中央部に固定されておらず、面32aの両側縁部に固定されているので、柱32,32の面32a,32aの面外局所変形を抑制できる。したがって、周辺構成部材の板厚を大きくしたり、部品点数を増やしたり、さらには壁重量を大きくすることなく、耐力壁30としての剛性を確保することが可能となり、合理的にエネルギー吸収デバイス10のエネルギー吸収性能を発揮できる。
【0044】
図12は第2の実施の形態のエネルギー吸収デバイス付き耐力壁31の変形例を示す平断面図である。なお、第2の実施の形態と同一構成には同一符号を付してその説明を省略する。
第2の実施の形態では、エネルギー吸収デバイス10の固定部15,15の先端部を柱32,32の対向する面32a,32aの両側縁部に固定しているのに対し、変形例では、固定部15,15の左右方向の長さを長くしたうえで、当該固定部15,15の先端部を柱32,32の外側を向く側面32b,32bに固定している。この固定は溶接によって行ってもよいし、ボルト止めによって行ってもよい。
このような変形例においても、第2の実施の形態と同様の効果を得ることができる。
【0045】
次に、本発明に係るエネルギー吸収デバイス10を設けた耐力壁30の構造性能について、数値実験(有限要素解析)の結果に基づき説明する。
実際の耐力壁を模擬したFEA(有限要素解析)を実施し、先行技術に対する優位性(高剛性化)を発揮することを確認した。
ここでは、
図13に示すように、本発明に係る耐力壁は、左右一対の角形鋼管柱32,32を有し、幅が455mm、高さが2640mmであり、エネルギー吸収デバイス10を合計6つ設置したモデルを作成した。エネルギー吸収デバイス10は、固定部15を締結部33を介して耐力壁30に間接的に取り付けた。
【0046】
これに対し、
図14に示すように、既往技術(従来の耐力壁)は、左右一対の角形鋼管柱32,32を有し、対向する対向面の中央部からエネルギー吸収デバイス42を締結するフレーム板40,40が延びており、柱32側と逆側の端部にフランジ41を介してU形のエネルギー吸収デバイス42を締結している。フレーム板40,40は柱32,32の対向する面の中央部から延びている。
【0047】
そして、
図15に示すように、解析モデルに水平力Qを付与した。
図16に、解析結果から得られた水平力Q-層間変形量Δ関係を示し、
図17および
図18に、既往技術と本発明におけるMises応力コンタ図を示す。なお、当該コンタ図においては、黒い部分が塑性化した部分である。
【0048】
図16に示すように、既往技術の弾性剛性と本発明を比較すると、1.9倍剛性が向上し、本発明が高剛性であることが分かる。
また、
図17に示すように、既往技術の場合は鋼管柱の局所面外変形が顕著に生じ、エネルギー吸収デバイスの変形も小さいのに対し、
図18に示すように、本発明の場合は、鋼管柱の局所面外変形が抑制され、エネルギー吸収デバイスの変形も大きいのが分かる。このように、本発明では、鋼管柱の面外局所変形を抑制し、細幅の耐力壁においても高剛性を実現し、エネルギー吸収デバイスを狙い通り塑性化することが可能である。
【符号の説明】
【0049】
10 エネルギー吸収デバイス
11 U形部材
12 湾曲部
13 変形部
14 連結部
15 固定部
30 耐力壁
31 エネルギー吸収デバイス付き耐力壁
32 柱
33 締結部