(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】電子制御装置
(51)【国際特許分類】
B60L 3/00 20190101AFI20221109BHJP
B60L 3/04 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B60L3/00 J
B60L3/04 E
(21)【出願番号】P 2018220241
(22)【出願日】2018-11-26
【審査請求日】2021-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(73)【特許権者】
【識別番号】000003207
【氏名又は名称】トヨタ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106149
【氏名又は名称】矢作 和行
(74)【代理人】
【識別番号】100121991
【氏名又は名称】野々部 泰平
(74)【代理人】
【識別番号】100145595
【氏名又は名称】久保 貴則
(72)【発明者】
【氏名】小山 豊
(72)【発明者】
【氏名】海田 啓司
(72)【発明者】
【氏名】平沢 崇彦
【審査官】岩田 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-060841(JP,A)
【文献】特開2008-206288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60L 3/00
B60L 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載された高電圧バッテリ(5)と、車両走行用モータ(31)を駆動するインバータ(30)とが、電気的に導通した導通状態と、電気的に非導通となる遮断状態とに切り換え可能なリレー手段(SMRB、SMRG、SMRP)を備えた前記車両に適用される電子制御装置(10)であって、
前記リレー手段は、前記車両が走行する間、導通状態に維持される第1のリレー手段(SMRB、SMRG)と、前記車両の起動スイッチ(3)がオンされる起動時に導通状態となって、前記高電圧バッテリと前記インバータとの間に、前記第1のリレー手段が導通状態となったときに流れる電流よりも制限された電流を流す第2のリレー手段(SMRB、SMRP)と、を含み、
前記インバータに対してインバータ制御信号を出力することにより前記車両走行用モータを駆動して前記車両を走行させることが可能であるとともに、前記車両の起動スイッチがオンされた起動時に前記第2のリレー手段を導通状態とし、その後、前記第2のリレー手段に代えて前記第1のリレー手段を導通状態に切り換えるとともに前記第1のリレー手段を導通状態に維持するように、前記第1及び第2のリレー手段を制御する第1の演算装置(13)と、
前記第1の演算装置とは独立して設けられ、前記第1の演算装置の異常時に前記インバータに対してインバータ制御信号を出力するとともに、前記第1のリレー手段を導通状態に維持するように前記第1のリレー手段を制御する第2の演算装置(14)と、を備え、
前記第2の演算装置は、前記車両の起動スイッチがオフされたとき、所定の走行継続条件が成立すると、前記車両の起動スイッチがオフされても前記第1のリレー手段の導通状態への維持を継続し、前記所定の走行継続条件が不成立であると、前記第1のリレー手段を遮断状態に切り換える
ものであり、
前記第2の演算装置は、前記車両の縮退走行を可能とすべく、前記第1の演算装置に比較して簡易的なインバータ制御を実行するものであり、
前記走行継続条件には、前記第2の演算装置によるインバータ制御の実行を通じて、前記車両走行用モータによる走行の継続が可能であることが含まれることを特徴とする電子制御装置。
【請求項2】
前記第2の演算装置は、前記高電圧バッテリの充電量が所定の適正範囲に収まっている場合に、前記第2の演算装置によるインバータ制御の実行を通じて、前記車両走行用モータによる走行の継続が可能であると判定する請求項
1に記載の電子制御装置。
【請求項3】
前記第2の演算装置は、前記車両走行用モータと前記インバータとが正常に機能している場合に、前記第2の演算装置によるインバータ制御の実行を通じて、前記車両走行用モータによる走行の継続が可能であると判定する請求項
1または2に記載の電子制御装置。
【請求項4】
車両に搭載された高電圧バッテリ(5)と、車両走行用モータ(31)を駆動するインバータ(30)とが、電気的に導通した導通状態と、電気的に非導通となる遮断状態とに切り換え可能なリレー手段(SMRB、SMRG、SMRP)を備えた前記車両に適用される電子制御装置(10)であって、
前記リレー手段は、前記車両が走行する間、導通状態に維持される第1のリレー手段(SMRB、SMRG)と、前記車両の起動スイッチ(3)がオンされる起動時に導通状態となって、前記高電圧バッテリと前記インバータとの間に、前記第1のリレー手段が導通状態となったときに流れる電流よりも制限された電流を流す第2のリレー手段(SMRB、SMRP)と、を含み、
前記インバータに対してインバータ制御信号を出力することにより前記車両走行用モータを駆動して前記車両を走行させることが可能であるとともに、前記車両の起動スイッチがオンされた起動時に前記第2のリレー手段を導通状態とし、その後、前記第2のリレー手段に代えて前記第1のリレー手段を導通状態に切り換えるとともに前記第1のリレー手段を導通状態に維持するように、前記第1及び第2のリレー手段を制御する第1の演算装置(13)と、
前記第1の演算装置とは独立して設けられ、前記第1の演算装置の異常時に前記インバータに対してインバータ制御信号を出力するとともに、前記第1のリレー手段を導通状態に維持するように前記第1のリレー手段を制御する第2の演算装置(14)と、を備え、
前記第2の演算装置は、前記車両の起動スイッチがオフされたとき、所定の走行継続条件が成立すると、前記車両の起動スイッチがオフされても前記第1のリレー手段の導通状態への維持を継続し、前記所定の走行継続条件が不成立であると、前記第1のリレー手段を遮断状態に切り換えるものであり、
前記走行継続条件には、車両環境が安全ではないことが含まれる
ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項5】
前記第2の演算装置は、前記車両が安全とみなしえるエリアで停止したとき車両環境が安全であると判定し、それ以外は安全ではないと判定する請求項
4に記載の電子制御装置。
【請求項6】
車両に搭載された高電圧バッテリ(5)と、車両走行用モータ(31)を駆動するインバータ(30)とが、電気的に導通した導通状態と、電気的に非導通となる遮断状態とに切り換え可能なリレー手段(SMRB、SMRG、SMRP)を備えた前記車両に適用される電子制御装置(10)であって、
前記リレー手段は、前記車両が走行する間、導通状態に維持される第1のリレー手段(SMRB、SMRG)と、前記車両の起動スイッチ(3)がオンされる起動時に導通状態となって、前記高電圧バッテリと前記インバータとの間に、前記第1のリレー手段が導通状態となったときに流れる電流よりも制限された電流を流す第2のリレー手段(SMRB、SMRP)と、を含み、
前記インバータに対してインバータ制御信号を出力することにより前記車両走行用モータを駆動して前記車両を走行させることが可能であるとともに、前記車両の起動スイッチがオンされた起動時に前記第2のリレー手段を導通状態とし、その後、前記第2のリレー手段に代えて前記第1のリレー手段を導通状態に切り換えるとともに前記第1のリレー手段を導通状態に維持するように、前記第1及び第2のリレー手段を制御する第1の演算装置(13)と、
前記第1の演算装置とは独立して設けられ、前記第1の演算装置の異常時に前記インバータに対してインバータ制御信号を出力するとともに、前記第1のリレー手段を導通状態に維持するように前記第1のリレー手段を制御する第2の演算装置(14)と、を備え、
前記第2の演算装置は、前記車両の起動スイッチがオフされたとき、所定の走行継続条件が成立すると、前記車両の起動スイッチがオフされても前記第1のリレー手段の導通状態への維持を継続し、前記所定の走行継続条件が不成立であると、前記第1のリレー手段を遮断状態に切り換えるものであり、
前記走行継続条件には、前記車両の運転者が当該車両の走行を継続する意思があることが含まれる
ことを特徴とする電子制御装置。
【請求項7】
前記第2の演算装置は、前記車両が停止し、トランスミッションのシフトレンジがパーキングであり、運転席のシートベルトが未装着であり、かつ運転席ドアが開かれたとき、前記車両の運転者が当該車両の走行を継続する意思がないと判定し、それらの要件が満たされないとき、前記車両の運転者が当該車両の走行を継続する意思があると判定する請求項
6に記載の電子制御装置。
【請求項8】
前記第2の演算装置は、前記車両が停止し、トランスミッションのシフトレンジがパーキングであり、かつ、前記車両の運転者が車外に退避したとき、前記車両の運転者が当該車両の走行を継続する意思がないと判定し、それらの要件が満たされないとき、前記車両の運転者が当該車両の走行を継続する意思があると判定する請求項
6または7に記載の電子制御装置。
【請求項9】
前記第2の演算装置は、前記車両が停止し、トランスミッションのシフトレンジがパーキングであり、かつ、前記車両の起動スイッチがオフされてから所定時間が経過したとき、前記車両の運転者が当該車両の走行を継続する意思がないと判定し、それらの要件が満たされないとき、前記車両の運転者が当該車両の走行を継続する意思があると判定する請求項
6乃至8のいずれか1項に記載の電子制御装置。
【請求項10】
前記第2の演算装置は、前記第1の演算装置の動作が正常であるかを監視する監視機能を有し、
前記第2の演算装置は、前記第1の演算装置の動作が異常と決定すると、前記第1の演算装置にリセットをかけるとともに、前記第1の演算装置に代わって、インバータ制御を実行する請求項1乃至
9のいずれか1項に記載の電子制御装置。
【請求項11】
前記第1のリレー手段は、前記高電圧バッテリの正極側と前記インバータとの間に設けられた正極側リレー(SMRB)と、前記高電圧バッテリの負極側と前記インバータとの間に設けられた負極側リレー(SMRG)とを含み、
前記第2のリレー手段は、前記高電圧バッテリの正極側と前記インバータとの間に設けられた正極側リレー(SMRB)と、前記高電圧バッテリの負極側と前記インバータとの間に設けられ、抵抗が直列に接続された電流制限リレー(SMRP)とを含む請求項1乃至
10のいずれか1項に記載の電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両に搭載された高電圧バッテリと、車両走行用モータを駆動するインバータとが、電気的に導通した導通状態と、電気的に非導通となる遮断状態とに切り換え可能なリレー手段を備えた車両に適用される電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、車両用電動機に接続されたインバータと、インバータに電力を供給する主バッテリと、主バッテリとインバータとの接続を導通又は遮断するメインリレーと、を含むハイブリッド自動車または電気自動車において、メインリレーを制御する車両制御装置が開示されている。
【0003】
この車両制御装置は、メインリレーが導通状態で、かつ、制御ECUから遮断指令がメインリレーに出力された場合に、メインリレーの導通状態を予め決められた時間保持する保持回路を備えている。この保持回路により、車両の走行中に制御ECUがリセットされて遮断指令がメインリレーに出力されても、メインリレーを遮断することなく所定時間の間、導通状態に保持することができる。そのため、保持回路によるメインリレーの保持期間中に、制御ECUが立ち上がれば、運転者にほとんど気付かれずにそのまま車両を走行させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の車両制御装置では、制御ECUの異常の態様がリセットによって立ち上がるものではない場合、保持回路による保持期間が経過しても制御ECUが立ち上がらずに、メインリレーが遮断されてしまう虞がある。この場合、インバータに電力が供給されないので、最悪の場合、車両は走行不能となってしまう可能性がある。さらに、仮に保持期間中に制御ECUから導通指示が出力され、メインリレーの導通状態が維持されたとしても、制御ECUの異常に起因して、インバータを適切に制御することができない可能性もある。
【0006】
本出願人は、このような課題を解決することが可能な電子制御装置を、既に特願2018-49655号によって出願している。この先願に記載の電子制御装置は、第1の演算装置と第2の演算装置とを備える。第1の演算装置は、車両の走行中、高電圧バッテリの正極側とインバータとの間に接続された第1システムメインリレーと、高電圧バッテリの負極側とインバータとの間に接続された第3システムメインリレーとを導通状態に維持するための第1リレー制御信号を出力する。また、第1の演算装置は、車両走行用モータによって車両を走行可能とするために、車両走行用モータを駆動するインバータに制御信号を出力する。
【0007】
第2の演算装置も、第1の演算装置と同様に、第1及び第3システムメインリレーを導通状態に維持するための第2リレー制御信号を出力する。また、第2の演算装置は、第1の演算装置の動作を監視し、第1の演算装置に異常が発生したと判定すると、第1の演算装置に代わって、インバータに制御信号を出力する。従って、第1の演算装置に異常が生じて、第1の演算装置から第1及び第3システムメインリレーに第1リレー制御信号が出力されなくなっても、第2の演算装置によるリレー制御及びインバータ制御により、車両は走行を継続することが可能となる。
【0008】
ここで、第1の演算装置に異常が生じたときに、例えば、メータクラスター内の警告灯を点灯させるなどして、運転者に異常の発生を通知することが考えられる。この際、運転者は、その異常通知に驚いて、車両の起動スイッチ(イグニッションスイッチ)をオフさせてしまう可能性も否定できない。車両の起動スイッチがオフされたことによって、第2の演算装置から第2リレー制御信号の出力が停止されると、第1及び第3システムメインリレーは導通状態から遮断状態に切り換わる。この状態では、車両走行用モータによって車両を走行させることができない。そのため、運転者が、車両の起動スイッチを再度オンしたとしても、先願の電子制御装置では、再び、第1及び第3システムメインリレーを導通状態に切り換えることができない可能性がある。その理由は以下の通りである。
【0009】
先願の電子制御装置では、起動スイッチがオンされた起動時には、第1の演算装置が、最初に、高電圧バッテリの正極側に接続された第1システムメインリレーと、高電圧バッテリの負極側とインバータとの間に設けられ、抵抗と直列に接続された第2システムメインリレーと、を導通状態に切り換えるように構成されている。これは、起動時の突入電流により大電流が流れて、リレー接点の溶着等の不具合の発生を防止するためである。そして、第1の演算装置は、第2システムメインリレーが導通状態に切り換えられてから所定時間が経過すると、高電圧バッテリの負極側に接続された第3システムメインリレーを導通状態に切り換えるとともに、第2システムメインリレーを遮断状態に切り換える接続シーケンスを実行する。
【0010】
先願の電子制御装置では、第2の演算装置が、第2システムメインリレーに対してリレー制御信号を出力できるようには構成されていない。このため、第2の演算装置が、第1の演算装置に代わって、第1~第3システムメインリレーの接続シーケンスを実行することはできない。従って、第1の演算装置が、発生した異常により、第1~第3システムメインリレーの接続シーケンスを正常に実行できない場合には、運転者が起動スイッチをオンしても、第1及び第3システムメインリレーを導通状態に切り換えることができない状況に陥ってしまう可能性がある。
【0011】
これを解決するため、第2の演算装置が、第1~第3システムメインリレーの接続シーケンスを実行可能に構成することが考えられる。しかしながら、この場合、第2の演算装置から第2システムメインリレーへの通電回路の追加と、第2の演算装置への接続シーケンス実行プログラムの実装とが必要となり、電子制御装置のコストアップを招いてしまう。
【0012】
本発明は、上述した点に鑑みてなされたもので、第1の演算装置の異常発生時に、運転者が起動スイッチをオフしたとしても、コストアップを招くことなく、確実に車両走行用モータを駆動するインバータへ電源を供給することが可能な電子制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するために、本発明の一態様による電子制御装置は、
車両に搭載された高電圧バッテリ(5)と、車両走行用モータ(31)を駆動するインバータ(30)とが、電気的に導通した導通状態と、電気的に非導通となる遮断状態とに切り換え可能なリレー手段(SMRB、SMRG、SMRP)を備えた車両に適用される電子制御装置(10)であって、
リレー手段は、車両が走行する間、導通状態に維持される第1のリレー手段(SMRB、SMRG)と、車両の起動スイッチ(3)がオンされる起動時に導通状態となって、高電圧バッテリとインバータとの間に、第1のリレー手段が導通状態となったときに流れる電流よりも制限された電流を流す第2のリレー手段(SMRB、SMRP)と、を含み、
インバータに対してインバータ制御信号を出力することにより車両走行用モータを駆動して車両を走行させることが可能であるとともに、車両の起動スイッチがオンされた起動時に第2のリレー手段を導通状態とし、その後、第2のリレー手段に代えて第1のリレー手段を導通状態に切り換えるとともに第1のリレー手段を導通状態に維持するように、第1及び第2のリレー手段を制御する第1の演算装置(13)と、
第1の演算装置とは独立して設けられ、第1の演算装置の異常時にインバータに対してインバータ制御信号を出力するとともに、第1のリレー手段を導通状態に維持するように第1のリレー手段を制御する第2の演算装置(14)と、を備え、
第2の演算装置は、車両の起動スイッチがオフされたとき、所定の走行継続条件が成立すると、車両の起動スイッチがオフされても第1のリレー手段の導通状態への維持を継続し、所定の走行継続条件が不成立であると、第1のリレー手段を遮断状態に切り換えるものであり、
第2の演算装置は、車両の縮退走行を可能とすべく、第1の演算装置に比較して簡易的なインバータ制御を実行するものであり、
走行継続条件には、第2の演算装置によるインバータ制御の実行を通じて、車両走行用モータによる走行の継続が可能であることが含まれることを特徴とする。
本発明の別の態様による電子制御装置は、
車両に搭載された高電圧バッテリ(5)と、車両走行用モータ(31)を駆動するインバータ(30)とが、電気的に導通した導通状態と、電気的に非導通となる遮断状態とに切り換え可能なリレー手段(SMRB、SMRG、SMRP)を備えた車両に適用される電子制御装置(10)であって、
リレー手段は、車両が走行する間、導通状態に維持される第1のリレー手段(SMRB、SMRG)と、車両の起動スイッチ(3)がオンされる起動時に導通状態となって、高電圧バッテリとインバータとの間に、第1のリレー手段が導通状態となったときに流れる電流よりも制限された電流を流す第2のリレー手段(SMRB、SMRP)と、を含み、
インバータに対してインバータ制御信号を出力することにより車両走行用モータを駆動して車両を走行させることが可能であるとともに、車両の起動スイッチがオンされた起動時に第2のリレー手段を導通状態とし、その後、第2のリレー手段に代えて第1のリレー手段を導通状態に切り換えるとともに第1のリレー手段を導通状態に維持するように、第1及び第2のリレー手段を制御する第1の演算装置(13)と、
第1の演算装置とは独立して設けられ、第1の演算装置の異常時にインバータに対してインバータ制御信号を出力するとともに、第1のリレー手段を導通状態に維持するように第1のリレー手段を制御する第2の演算装置(14)と、を備え、
第2の演算装置は、車両の起動スイッチがオフされたとき、所定の走行継続条件が成立すると、車両の起動スイッチがオフされても第1のリレー手段の導通状態への維持を継続し、所定の走行継続条件が不成立であると、第1のリレー手段を遮断状態に切り換えるものであり、
走行継続条件には、車両環境が安全ではないことが含まれることを特徴とする。
本発明のさらに別の態様による電子制御装置は、
車両に搭載された高電圧バッテリ(5)と、車両走行用モータ(31)を駆動するインバータ(30)とが、電気的に導通した導通状態と、電気的に非導通となる遮断状態とに切り換え可能なリレー手段(SMRB、SMRG、SMRP)を備えた車両に適用される電子制御装置(10)であって、
リレー手段は、車両が走行する間、導通状態に維持される第1のリレー手段(SMRB、SMRG)と、車両の起動スイッチ(3)がオンされる起動時に導通状態となって、高電圧バッテリとインバータとの間に、第1のリレー手段が導通状態となったときに流れる電流よりも制限された電流を流す第2のリレー手段(SMRB、SMRP)と、を含み、
インバータに対してインバータ制御信号を出力することにより車両走行用モータを駆動して車両を走行させることが可能であるとともに、車両の起動スイッチがオンされた起動時に第2のリレー手段を導通状態とし、その後、第2のリレー手段に代えて第1のリレー手段を導通状態に切り換えるとともに第1のリレー手段を導通状態に維持するように、第1及び第2のリレー手段を制御する第1の演算装置(13)と、
第1の演算装置とは独立して設けられ、第1の演算装置の異常時にインバータに対してインバータ制御信号を出力するとともに、第1のリレー手段を導通状態に維持するように第1のリレー手段を制御する第2の演算装置(14)と、を備え、
第2の演算装置は、車両の起動スイッチがオフされたとき、所定の走行継続条件が成立すると、車両の起動スイッチがオフされても第1のリレー手段の導通状態への維持を継続し、所定の走行継続条件が不成立であると、第1のリレー手段を遮断状態に切り換えるものであり、
走行継続条件には、車両の運転者が当該車両の走行を継続する意思があることが含まれることを特徴とする。
【0014】
このように、本発明による電子制御装置では、車両の起動スイッチがオフされても、所定の走行継続条件が成立した場合には、第2の演算装置が、継続して、第1のリレー手段を導通状態に維持するように構成されている。このため、例えば、運転者が誤って起動スイッチをオフしてしまったような状況では、所定の走行継続条件が成立するように、所定の走行継続条件を設定することで、第2の演算装置が起動時の接続シーケンスを実行せずとも、運転者によって再び起動スイッチがオンされたときに、導通状態に維持されている第1のリレー手段を介してインバータに電力が供給されているので、車両走行用モータにより車両を走行させることが可能となる。
【0015】
上記括弧内の参照番号は、本開示の理解を容易にすべく、後述する実施形態における具体的な構成との対応関係の一例を示すものにすぎず、なんら発明の範囲を制限することを意図したものではない。
【0016】
また、上述した特徴以外の、特許請求の範囲の各請求項に記載した技術的特徴に関しては、後述する実施形態の説明及び添付図面から明らかになる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】実施形態による電子制御装置を含む制御システム全体の構成を示す構成図である。
【
図2】電子制御装置の第1の演算装置及び第2の演算装置にて実行される制御処理を示すフローチャートである。
【
図3】第1の演算装置及び第2の演算装置にて実行されるリレー制御について説明するためのタイミングチャートである。
【
図4】第1の演算装置の動作が異常となり、リセットがかけられたときの、第1及び第3トランジスタから出力されるリレー駆動信号の状態と、正極側及び負極側システムメインリレーの状態を示すタイミングチャートである。
【
図5】
図2のフローチャートの走行継続条件判定処理の詳細を示すフローチャートである。
【
図6】運転者の走行継続の意思の有無を判定するための条件の一例を示す図である。
【
図7】車両環境が安全か否かを判定するための条件の一例を示す図である。
【
図8】第1の演算装置に異常が発生し、運転者が誤って起動スイッチをオフしてしまった場合の、第2の演算装置による制御の一例を示すタイミングチャートである。
【
図9】第1の演算装置に異常が発生し、運転者が誤って起動スイッチをオフしてしまった場合の、第2の演算装置による制御の他の例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態による電子制御装置10及びその電子制御装置10の制御対象である走行用モータ31や各々のシステムメインリレーSMRB、SMRG、SMRPなどを含む制御システム全体の構成を示す構成図である。
図1に示すように、本実施形態による電子制御装置10が適用される車両は、3相交流の走行用モータ31を駆動力源として有する電動車両である。車両の駆動力源として、他に内燃機関を備えていてもよく、また、走行用モータ31とは別のモータを車両の駆動力源としてさらに備えていてもよい。
【0019】
走行用モータ31は、高電圧バッテリ5から供給される電力を用いてインバータ30によって駆動される。高電圧バッテリ5は、例えばリチウム電池やニッケル電池であり、数百ボルトの直流の高電圧を供給可能なものである。なお、高電圧バッテリ5とインバータ30との間に昇圧コンバータを設け、インバータ30に、昇圧コンバータが昇圧した高電圧を供給可能に構成してもよい。
【0020】
インバータ30は、供給された直流高電圧に応じた直流電流を3相の交流電流に変換して走行用モータ31に出力する。走行用モータ31は、インバータ30から出力される3相交流電流により回転駆動される。この際、インバータ30において、出力する3相交流電流の電流値を変化させることにより、走行用モータ31の出力トルクを制御することができ、車両を所望の速度で走行させることができる。
【0021】
なお、車両の車輪の回転が車軸を介して走行用モータ31に伝達されて走行用モータ31のロータが回転させられる場合、走行用モータ31は発電機として機能して交流電流を発電する。走行用モータ31が発電した交流電流は、インバータ30により直流に変換される。高電圧バッテリ5は二次電池であり、インバータ30より直流に変換された電流による電力を蓄電することができる。
【0022】
高電圧バッテリ5の正極側とインバータ30との間には、正極側システムメインリレーSMRBが設けられている。高電圧バッテリ5の負極側とインバータ30との間には、負極側システムメインリレーSMRGが設けられている。さらに、負極側システムメインリレーSMRGと並列に、起動用システムメインリレーSMRPと抵抗Rとの直列回路が接続されている。起動用システムメインリレーSMRPが電流制限リレーに相当する。これら3個のシステムメインリレーSMRB、SMRG、SMRPは、それぞれ、リレースイッチとリレーコイルとを有する。
【0023】
3個のシステムメインリレーSMRB、SMRG、SMRPは、後述する第1の演算装置13及び/又は第2の演算装置14からの第1のリレー制御信号及び/又は第2のリレー制御信号によってリレーコイルにリレー駆動信号が通電されると、リレースイッチを遮断状態から導通状態に切り換える。第1のリレー手段としての、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRBの各々のリレースイッチが導通状態に切り替えられると、高電圧バッテリ5とインバータ30とが電気的に接続され、高電圧バッテリ5からインバータ30へ高電圧を供給すること、及びインバータ30によって直流に変換された電流によって高電圧バッテリ5を充電することが可能となる。逆に、各々のシステムメインリレーSMRB、SMRG、SMRPが導通状態であるときに、第1のリレー制御信号及び/又は第2のリレー制御信号が停止してリレー駆動信号が通電されなくなると、各々のシステムメインリレーSMRB、SMRG、SMRPは遮断状態に切り替えられる。この場合、高電圧バッテリ5とインバータ30とは電気的に遮断される。
【0024】
電子制御装置10は、高電圧バッテリ5よりも低い電圧を発生する車載バッテリ4から供給される電力を用いて動作し、例えばインバータ30を構成する各スイッチング素子を駆動するための駆動信号(例えば、PWM信号)を指示する指示信号を出力したり、各々のシステムメインリレーSMRB、SMRG、SMRPへリレー駆動信号を出力したりする。
【0025】
電子制御装置10は、
図1に示すように、入力回路11、12、第1の演算装置13、第2の演算装置14、CAN(登録商標、以下同様)通信回路15、監視IC16、出力回路17、18、及び、電源回路19などを備えている。
【0026】
入力回路11、12は、例えば、増幅回路、サンプリング回路、A/D変換回路などの入力処理を行うための回路を備えている。そして、入力回路11は、ブレーキペダルセンサ1、アクセルペダルセンサ2、車速センサ、レゾルバ、車両の起動スイッチ3などの各種のセンサやスイッチからの信号の入力処理を行って第1の演算装置13に出力する。同様に、入力回路12も、各種センサやスイッチからの入力処理を行い、第2の演算装置14に出力する。なお、第1の演算装置13と第2の演算装置14とで個別に入力回路11、12を設けるのではなく、第1の演算装置13と第2の演算装置14とで、同じ入力回路を共用してもよい。第1の演算装置13及び第2の演算装置14は、入力された各種のセンサやスイッチからの信号に基づいて、後述するインバータ制御やリレー制御を実行する。
【0027】
ブレーキペダルセンサ1は、ブレーキペダルの踏み込み力を検出する。この踏み込み力は、たとえば、ブレーキ油圧から検出してもよい。もしくは、ブレーキペダルの踏み込み力としてブレーキペダルの踏み込み量を検出してもよい。アクセルペダルセンサ2は、アクセルペダルの踏み込み量を検出する。車速センサは、車両の走行速度すなわち車速を検出する。レゾルバは、走行用モータ31が備えるロータの機械角を検出する。これらのセンサからの信号は、直接、電子制御装置10に入力されてもよいが、他のECUから電子制御装置10に提供されてもよい。
【0028】
CAN通信回路15は、第1の演算装置13又は第2の演算装置14から出力される、インバータ30の各スイッチング素子を駆動するための駆動信号を指示する指示信号をインバータ30に送信する。インバータ30では、受信した指示信号に応じた駆動信号を生成し、その駆動信号を用いて各スイッチング素子をオン、オフ駆動する。なお、第1の演算装置13及び第2の演算装置14が、例えば駆動信号としてのPWM信号を生成し、直接、インバータ30の各スイッチング素子に出力するように構成してもよい。
【0029】
第1の演算装置13は、CPU、RAM、ROM、I/O、およびこれらの構成を接続するバスラインなどを備えたコンピュータを有する。この第1の演算装置13は、CPUが、RAMの一時記憶機能を利用しつつ、ROMなどの非遷移的実体的記録媒体(non-transitory tangible storage medium)に記憶されているプログラムを実行することで、インバータ制御機能や、3個のシステムメインリレーSMRB、SMRG、SMRPに対するリレー制御機能を発揮するように構成されている。これらの機能が発揮されることにより、プログラムに対応する方法が実行される。
【0030】
第2の演算装置14も、第1の演算装置13と同様に、CPU、RAM、ROM、I/O、およびこれらの構成を接続するバスラインなどを備えたコンピュータを有する。また、第2の演算装置14も、CPUがROMに記憶されているプログラムを実行することで、インバータ制御機能、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGに対するリレー制御機能に加え、第1の演算装置13の監視機能を発揮するように構成されている。例えば、第2の演算装置14による監視機能は、第1の演算装置13から定期的に出力されるサービスパルスの間隔を計時するウォッチドッグ機能を採用してもよい。あるいは、第2の演算装置14による監視機能は、第1の演算装置13におけるインバータ制御のための指示信号と、自身が算出した指示信号とを対比して、その差異が基準値内に収まっているか否かを判定する手法を採用してもよい。
【0031】
ただし、本実施形態では、第2の演算装置14が有するコンピュータの演算処理能力は、第1の演算装置13が有するコンピュータの演算処理能力よりも低い。そのため、通常は、第1の演算装置13がインバータ制御機能を実行して走行用モータ31を駆動し、第2の演算装置14は、インバータ制御機能を停止しつつ、第1の演算装置13の動作が正常であるかを監視する監視機能を作動させるよう、それぞれプログラムされている。そして、第2の演算装置14が、その監視機能により第1の演算装置13の動作が異常であると判定すると、第2の演算装置14は、第1の演算装置13に代わって、インバータ制御機能を実行する。この際、第2の演算装置14は、例えば走行用モータ31により車両を安全なエリアまで走行させるためのいわゆる縮退走行が可能となるように、第1の演算装置13に比較して簡易的なインバータ制御を実行するようにプログラムされている。ただし、第2の演算装置14は、第1の演算装置13と同等の演算処理能力を備え、第1の演算装置13と同様のインバータ制御を行うように構成してもよい。
【0032】
第2の演算装置14が第1の演算装置13の動作は異常であると決定した場合、第2の演算装置14は、第1の演算装置13に継続的にリセット信号を出力する。このため、第2の演算装置14がインバータ制御を実行するときに、第1の演算装置13からインバータ制御のための指示信号が出力されることはない。このようにして、本実施形態では、第1の演算装置13と第2の演算装置14との双方から、同時に、インバータ制御のための指示信号が出力されることを防止している。
【0033】
各システムメインリレーSMRB、SMRG、SMRPに対するリレー制御機能に関しては、車両の走行中に、インバータ30への電力供給が途絶えることを確実に防止すべく、第1の演算装置13と第2の演算装置14とが、車両の起動から停止までの間、ともに実行するようにプログラムされている。第1及び第2の演算装置13、14による各々のシステムメインリレーSMRB、SMRG、SMRPに対するリレー制御に関しては、後に詳細に説明する。
【0034】
監視IC16は、いわゆるASIC(Application Specific Integrated Circuit)であり、第2の演算装置14が正常に動作しているかどうかを監視する。例えば、監視IC16は、第2の演算装置14から定期的に出力されるサービスパルスの間隔を計時するウォッチドッグタイマーとして構成される。この場合、監視IC16は、計時時間がサービスパルスの出力予定間隔を超えた場合、第2の演算装置14の動作が異常とみなし、第2の演算装置14へリセット信号を出力する。一方、第2の演算装置14から出力予定間隔で定期的にサービスパルスが出力されている場合には、監視IC16は、第2の演算装置14の動作が正常であることを示す正常信号を第2の演算装置14に出力する。なお、監視IC16による第2の演算装置14の動作の監視手法は、上述した手法に限られず、適用できるかぎり、公知のいかなる監視手法を用いてもよい。
【0035】
第2の演算装置14は、自身の監視機能によって第1の演算装置13の動作異常を判定したとき、監視IC16から自身が正常に動作していることを示す監視結果(正常信号)を受信しているか確認する。そして、監視IC16から正常信号を受信していることが確認できた場合、第2の演算装置14は、第1の演算装置13の動作が異常であることを決定する。このように、本実施形態の電子制御装置10は監視IC16を有しているので、例えば第2の演算装置14の動作異常に起因して、第1の演算装置13が正常に動作しているにも拘らず、第2の演算装置14が誤って第1の演算装置13の動作異常と決定してしまうことを防止することができる。
【0036】
出力回路17は、第1の演算装置13が各システムメインリレーSMRB、SMRG、SMRPの接続シーケンスを実行するために、第1の演算装置13から出力される第1リレー制御信号に応じて、各々のシステムメインリレーSMRB、SMRG、SMRPへリレー駆動信号を出力する。より具体的には、出力回路17は、正極側システムメインリレーSMRBにリレー駆動信号を出力するための出力部としての第1トランジスタTr1と、起動用システムメインリレーSMRPにリレー駆動信号を出力するための出力部としての第2トランジスタTr2と、負極側システムメインリレーSMRGにリレー駆動信号を出力するための出力部としての第3トランジスタTr3とを有する。第1の演算装置13は、第1リレー制御信号として、第1~第3トランジスタTr1~Tr3をオンするための駆動信号をそれぞれ出力する。
【0037】
さらに、出力回路17は、第1トランジスタTr1のソースと正極側システムメインリレーSMRBとを接続する接続線において、出力回路18の出力が合流する合流地点よりも第1トランジスタTr1のソース側に挿入されたダイオードD1を有している。また、出力回路17は、第3トランジスタTr3のソースと負極側システムメインリレーSMRGとの接続線において、出力回路18の出力が合流する合流地点よりも第3トランジスタTr3のソース側に挿入されたダイオードD2を有している。これらのダイオードD1、D2は、出力回路18からの電流の回り込みを防止するために設けられている。
【0038】
そして、それぞれのダイオードD1、D2の両端電位を計測するために、ダイオードD1、D2の両端にそれぞれモニタ線の一端が接続され、それらのモニタ線の他端は、第1の演算装置13及び第2の演算装置14のポートA~Dに接続されている。具体的には、ダイオードD1のアノード側に一端が接続されたモニタ線の他端は、第1の演算装置13及び第2の演算装置14のポートAに接続されている。ダイオードD1のカソード側に一端が接続されたモニタ線の他端は、第1の演算装置13及び第2の演算装置14のポートCに接続されている。ダイオードD2のアノード側に一端が接続されたモニタ線の他端は、第1の演算装置13及び第2の演算装置14のポートBに接続されている。ダイオードD2のカソード側に一端が接続されたモニタ線の他端は、第1の演算装置13及び第2の演算装置14のポートDに接続されている。
【0039】
第1の演算装置13及び第2の演算装置14は、ポートA~Dから取り込んだダイオードD1、D2の両端電位を用いて、出力回路17から出力されるリレー駆動信号を監視し、その監視結果に基づき、第1トランジスタTr1のオフ故障や、第3トランジスタTr3のオフ故障を検出する。例えば、第1トランジスタTr1が導通している状態からオフ故障した場合、第1トランジスタTr1から正極側システムメインリレーSMRBへ流れていた電流が遮断される。この場合、正極側システムメインリレーSMRBのリレーコイルによる誘起電圧によって、ダイオードD1のアノード電圧Vaよりもカソード電圧Vcの方が大きくなる場合がある。そのため、第1の演算装置13及び第2の演算装置14は、Va<Vcとなったとの監視結果をもって、第1トランジスタTr1のオフ故障を検出することができる。あるいは、第1の演算装置13及び第2の演算装置14は、ダイオードD1のアノード電圧Vaとカソード電圧Vcとの電位差が、ダイオードD1による順方向降下電圧に合致しないとの監視結果をもって、第1トランジスタTr1のオフ故障を検出してもよい。第1の演算装置13及び第2の演算装置14は、同様にして、第2トランジスタTr2のオフ故障も検出することができる。
【0040】
出力回路18は、第2の演算装置14から出力される第2リレー制御信号に応じて、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGへリレー駆動信号を出力する。具体的には、出力回路18は、正極側システムメインリレーSMRBにリレー駆動信号を出力するための出力部としての第4トランジスタTr4と、負極側システムメインリレーSMRGにリレー駆動信号を出力するための出力部としての第5トランジスタTr5とを有する。第2の演算装置14は、第2リレー制御信号として、第4及び第5トランジスタTr4、Tr5をオンするための駆動信号をそれぞれ出力する。このように、第2の演算装置14からの第2リレー制御信号に従って、各システムメインリレーSMRB、SMRGにリレー駆動信号を出力する通電回路である出力回路18は、起動用システムメインリレーSMRPに対してリレー駆動信号を出力するための構成を有していない。
【0041】
出力回路18の第4トランジスタTr4のソースからの出力は、出力回路17の第1トランジスタTr1と正極側システムメインリレーSMRBとを接続する接続線に接続される。出力回路18は、第4トランジスタTr4のソースからの出力が上記接続線に接続される合流地点よりも第4トランジスタTr4のソース側に、ダイオードD3を有している。同様に、出力回路18の第5トランジスタTr5のソースからの出力は、第3トランジスタTr3と負極側システムメインリレーSMRGとを接続する接続線に接続される。出力回路18は、第5トランジスタTr5のソースからの出力が上記接続線に接続される合流地点よりも第5トランジスタTr5のソース側に、ダイオードD4を有している。これらのダイオードD3、D4は、出力回路17からの電流の回り込みを防止するために設けられている。なお、
図1には示していないが、出力回路18についても、ダイオードD3、D4の両端の電位を第1の演算装置13及び第2の演算装置14に取り込んで、各トランジスタTr4、Tr5のオフ故障を検出するようにしてもよい。
【0042】
電源回路19は、電源IC20と、OR回路21と、トランジスタ22と、リレー回路23とを備えている。この電源回路19は、車両の起動スイッチ3がオフされても、第1の演算装置13及び第2の演算装置14を含む電子制御装置10内の各回路に電源供給を継続可能とするために設けられている。
【0043】
電源IC20は、車載バッテリ4より常時電源が供給されており、起動スイッチ3がオフされたときにも動作可能である。電源IC20は、第1の演算装置13及び/又は第2の演算装置14からの電源供給指示信号を受けている間、後述するOR回路21に対して、トランジスタ22をオンするためのオン信号を出力する。
【0044】
OR回路21には、上述した電源IC20から出力されるオン信号の他に、起動スイッチ3を介して、車載バッテリ4からの電圧信号が入力される。OR回路21の出力は、リレー回路23のコイルに接続されたトランジスタ22のベースに接続されている。OR回路21は、電源IC20からのオン信号と車載バッテリ4からの電圧信号の少なくとも一方が入力されると、ハイレベル信号を出力する。OR回路21からハイレベル信号が出力されることによって、トランジスタ22がオンする。すると、リレー回路23のコイルに電流が流れて、リレー回路23の接点がオンする。これにより、
図1に示すように、出力回路17、18の他、第1の演算装置13及び第2の演算装置14を含む電子制御装置10内の各回路へ電源が供給され、各回路は動作可能となる。
【0045】
一方、OR回路21に、電源IC20からのオン信号と車載バッテリ4からの電圧信号のいずれも入力されなくなると、OR回路21からの出力信号がローレベルになる。すると、トランジスタ22がオフするので、リレー回路23のコイルへの通電が停止する。その結果、リレー回路23の接点がオフして、電子制御装置10内の各回路への電源供給が停止する。なお、
図1に示す例では、電源回路19は、電子制御装置10内に設けられているが、電源回路19は、電子制御装置10の外部に設けられてもよい。
【0046】
また、
図1に示すように、起動スイッチ3を介しての車載バッテリ4からの電圧信号は、入力回路11、12にも与えられる。これにより、第1の演算装置13及び第2の演算装置14は、起動スイッチ3がオフされたことを検出することができる。第1の演算装置13及び第2の演算装置14は、起動スイッチ3がオンされて電源供給が開始されると、電源IC20に対して、電源供給指示信号を出力する。これにより、起動スイッチ3がオフされても、第1の演算装置13及び第2の演算装置14を含む電子制御装置10内の各回路は動作を継続することができる。
【0047】
次に、上記した構成を有する電子制御装置10において、第1の演算装置13及び第2の演算装置14にて実行される制御処理を
図2のフローチャート、
図3及び
図4のタイミングチャートなどを参照しつつ説明する。
図2に示すフローチャートは、車両の起動スイッチ3がオンされたときに開始される。
【0048】
まず、最初のステップS100において、第1の演算装置13は、第1トランジスタTr1をオンするための駆動信号を出力する。それにより、正極側システムメインリレーSMRBのリレーコイルに電流が通電され、正極側システムメインリレーSMRBのリレースイッチがオンされる。
図3のタイミングチャートには、第1トランジスタTr1をオンした後、コイルの時定数、機械的な動きにおける慣性モーメントによる遅れ時間、接点切り替わり時間などによるリレー動作時間だけ遅れて、正極側システムメインリレーSMRBがオンされることが示されている。
【0049】
次に、ステップS110において、第1の演算装置13は、第2トランジスタTr2をオンするための駆動信号を出力する。それにより、起動用システムメインリレーSMRPのリレーコイルに電流が通電され、起動用システムメインリレーSMRPのリレースイッチがオンされる。
図3のタイミングチャートには、第2トランジスタTr2をオンした後、リレー動作時間だけ遅れて、起動用システムメインリレーSMRPがオンされることが示されている。なお、第1の演算装置13が第2トランジスタTr2へ駆動信号を出力するタイミングは、正極側システムメインリレーSMRBがオンされてから所定時間(例えば、100~150ms)後に起動用システムメインリレーSMRPがオンするように設定される。
【0050】
正極側システムメインリレーSMRBと起動用システムメインリレーSMRPがオンされることにより、高電圧バッテリ5とインバータ30とが電気的に接続され、両者の間に電流が流れる。ただし、起動用システムメインリレーSMRPには直列に抵抗Rが接続されている。このため、起動時の突入電流により、起動用システムメインリレーSMRPがオンされた直後から大きな電流が流れることを抑制することができ、リレー接点の溶着等の不具合の発生を防止することができる。
【0051】
次に、ステップS120において、第1の演算装置13は、第3トランジスタTr3をオンするための駆動信号を出力する。それにより、負極側システムメインリレーSMRGのリレーコイルに電流が通電され、負極側システムメインリレーSMRGのリレースイッチがオンされる。
図3のタイミングチャートには、第3トランジスタTr3をオンした後、リレー動作時間だけ遅れて、負極側システムメインリレーSMRGがオンされることも示されている。なお、第1の演算装置13が第3トランジスタTr3へ駆動信号を出力するタイミングも、起動用システムメインリレーSMRPがオンされてから所定時間(例えば、100~150ms)後に負極側システムメインリレーSMRGがオンするように設定される。
【0052】
続くステップS130では、第1の演算装置13は、第2トランジスタTr2へ出力していた駆動信号を停止して第2トランジスタTr2をオフする。これにより、
図3のタイミングチャートに示すように、リレー復帰時間だけ遅れて、起動用システムメインリレーSMRPがオフされる。第2トランジスタTr2への駆動信号を停止するタイミングは、負極側システムメインリレーSMRGがオンされてから所定時間(例えば、20~30ms)後に起動用システムメインリレーSMRPがオフとなるように設定される。
【0053】
そして、ステップS140において、第2の演算装置14が、第4トランジスタTr4及び第5トランジスタTr5をオンするための駆動信号をそれぞれ出力する。より詳しくは、第1の演算装置13は、例えば、第2トランジスタTr2をオフした後、第2の演算装置14に対して、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGは導通状態である旨を通知する。この通知に基づき、第2の演算装置14は、第4及び第5トランジスタTr4、Tr5をオンするための駆動信号をそれぞれ出力する。これにより、第2の演算装置14は、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGが導通状態であることを確認した上で、第4及び第5トランジスタTr4、Tr5をオンすることができる。
【0054】
その結果、正極側システムメインリレーSMRBのリレーコイルへの通電は、第1トランジスタTr1を経由する系統と、第4トランジスタTr4を経由する系統との2系統で行われることになる。また、負極側システムメインリレーSMRGのリレーコイルへの通電は、第3トランジスタTr3を経由する系統と、第5トランジスタTr5を経由する系統との2系統で行われることになる。従って、例えば、どちらか1系統のトランジスタがオフ故障しても、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGのオン状態は維持することができる。さらに、例えば第1の演算装置13に異常が生じて、第2の演算装置14によってリセットがかかり、第1の演算装置13から第1及び第3トランジスタTr1、Tr3をオンするための駆動信号(第1リレー制御信号)が出力されなくなっても、第2の演算装置14から出力される駆動信号(第2リレー制御信号)により、第4及び第5トランジスタTr4、Tr5はオンしたままとすることができる。このため、第1の演算装置13の異常発生時にも、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGのオン状態は維持することができる。この結果、上述したような故障や異常が生じても、走行用モータ31を駆動するインバータ30へ継続して電力を供給することができるようになる。
【0055】
なお、第2の演算装置14は、必ずしも第4及び第5トランジスタTr4、Tr5を同時にオンする必要はない。例えば、第2の演算装置14は、第1の演算装置13が正極側システムメインリレーSMRBをオンした後の任意のタイミングで第4トランジスタTr4をオンさせることができる。同様に、第2の演算装置14は、第1の演算装置13が負極側システムメインリレーSMRGをオンした後の任意のタイミングで第5トランジスタTr5をオンさせることができる。
【0056】
以上のステップS100~S140までの処理が、
図3のタイミングチャートにおける起動時の処理に該当する。この起動時の処理が終了すると、車両は、走行用モータ31を駆動力源として走行可能となる。
【0057】
続くステップS150では、第2の演算装置14が、第1の演算装置13の動作は正常であるかどうかを決定する。この決定において、第2の演算装置14は、上述したように、自身の監視機能により第1の演算装置13の動作が異常である旨判定し、かつ、監視IC16から正常信号を受信している場合に、第1の演算装置13の動作は異常であると決定し、それ以外の場合、第1の演算装置13の動作は正常であると決定する。ステップS150の処理で、第1の演算装置13の動作は正常と決定すると、ステップS160の処理に進む。一方、第1の演算装置13の動作は異常と決定すると、ステップS180の処理に進む。
【0058】
ステップS160では、第1の演算装置13がインバータ制御を実行する。この場合、第2の演算装置14も正常に動作していれば、
図3のタイミングチャートに示すように、車両の走行中、正極側システムメインリレーSMRBのリレーコイルには、第1トランジスタTr1を経由する系統と、第4トランジスタTr4を経由する系統との2系統から通電が行われる。また、負極側システムメインリレーSMRGのリレーコイルには、第3トランジスタTr3を経由する系統と、第5トランジスタTr5を経由する系統との2系統から通電が行われる。従って、インバータ30には、高電圧バッテリ5から走行用モータ31を駆動するための電力が供給されている状態となっている。その状態において、第1の演算装置13は、入力した各種のセンサに基づき、走行用モータ31が発生すべき目標トルクを算出する。そして、その目標トルクを発生させるための駆動信号を示す指示信号をインバータ30に出力する。これにより、走行用モータ31は、通常走行制御として、運転者によるアクセルペダル操作やブレーキペダル操作に対応したトルクを発生することができる。
【0059】
続くステップS170では、第1の演算装置13は、車両の起動スイッチ3がオフされたか否かを判定する。起動スイッチ3がオフされたと判定した場合、停車時処理を行うため、ステップS230の処理に進む。一方、起動スイッチ3がオフされていないと判定した場合、インバータ制御、すなわち走行用モータ31の制御を継続するため、ステップS150の処理に戻る。
【0060】
ステップS230では、負極側システムメインリレーSMRGをオフするために、第1の演算装置13は第3トランジスタTr3への駆動信号を停止し、第2の演算装置14は第5トランジスタTr5への駆動信号を停止する。これらの駆動信号の停止は、第1及び第2の演算装置13、14においてほぼ同時期に行われる。この結果、
図3のタイミングチャートに示すように、第3及び第5トランジスタTr3、Tr5がオフされてからリレー復帰時間だけ遅れて、負極側システムメインリレーSMRGがオフされる。
【0061】
次に、ステップS240において、正極側システムメインリレーSMRBをオフするために、第1の演算装置13は第1トランジスタTr1への駆動信号を停止し、第2の演算装置14は第4トランジスタTr4への駆動信号を停止する。これらの駆動信号の停止は、第1及び第2の演算装置13、14においてほぼ同時期に行われる。この結果、
図3のタイミングチャートに示すように、第1及び第4トランジスタTr1、Tr4がオフされてからリレー復帰時間だけ遅れて、正極側システムメインリレーSMRBがオフされる。
【0062】
以上のステップS230~S240の処理が、
図3のタイミングチャートにおける停車時の処理に該当する。この停車時の処理により、高電圧バッテリ5とインバータ30とは電気的に切り離され、車両は停車する。なお、第1の演算装置13および第2の演算装置14は、負極側システムメインリレーSMRGおよび正極側システムメインリレーSMRBをオフした後、電源IC20に電源オフを指令する。すると、電源IC20は、OR回路21への電圧信号の入力を停止する。それに伴い、電子制御装置10内の各回路への電源供給も停止する。
【0063】
ステップS150において、第1の演算装置13の動作は異常であると決定されたときに実行されるステップS180では、第1の演算装置13に異常が発生したことを、メータクラスターに設けた警告灯の点灯などによってユーザに通知する。そして、ステップS190において、第2の演算装置14がインバータ制御を実行する。この場合、
図4のタイミングチャートに示すように、第1の演算装置13は、第2の演算装置14によって継続的にリセットされるので、第1の演算装置13は、第1トランジスタTr1への駆動信号と第3トランジスタTr3への駆動信号を停止する。しかし、第4トランジスタTr4を経由する系統からのリレーコイルへの通電により、正極側システムメインリレーSMRBは導通状態を維持することができ、第5トランジスタTr5を経由する系統からのリレーコイルへの通電により、負極側システムメインリレーSMRGは導通状態を維持することができる。従って、インバータ30には、高電圧バッテリ5から走行用モータ31を駆動するための電力が供給されている状態となっている。その状態において、第2の演算装置14は、入力した各種のセンサに基づき、走行用モータ31により車両を安全なエリアまで走行させるためのいわゆる縮退走行を行うためのインバータ制御を実行する。これにより、第1の演算装置13に異常が発生しても、車両がその時点で停車してしまうことを防ぐことが可能となる。
【0064】
続くステップS200では、第2の演算装置14は、車両の起動スイッチ3がオフされたか否かを判定する。起動スイッチ3がオフされたと判定した場合、ステップS210の処理に進む。一方、起動スイッチ3がオフされていないと判定した場合、縮退走行制御を継続するため、ステップS180の処理に戻る。
【0065】
ステップS210では、所定の走行継続条件が成立するか否かの判定を行う。このステップS210にて走行継続条件成立との判定結果が得られた場合、続くステップS220において肯定的な判定がなされ、処理は、ステップS180に戻る。一方、ステップS210にて走行継続条件不成立との判定結果が得られた場合、ステップS220において否定的な判定がなされ、処理は、ステップS230以降の停車時処理に進む。
【0066】
つまり、ステップS210の走行継続条件判定処理は、起動スイッチ3がオフされても、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGを介してのインバータ30への電源供給を維持し、第2の演算装置14による縮退走行制御を実行可能な状態に保つ必要があるかどうかを判別し、縮退走行制御を実行可能な状態に保つ必要があるとみなされる場合には走行継続条件成立と判定し、必要がないとみなされる場合には走行継続条件不成立と判定するものである。
【0067】
ここで、例えば、上述したステップS180での、第1の演算装置13の異常発生の通知に驚いたユーザが、誤って起動スイッチ3をオフしてしまうことも考えられる。起動スイッチ3がオフされたことに応じて、即座に、ステップS230以降の停車時処理を実行して、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGをオフしてしまうと、その後、運転者が車両の運転操作を行うために起動スイッチ3をオンしても、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGをオンすることができない可能性が生じる。その理由は、第1の演算装置13だけが、起動時に、3個のシステムメインリレーSMRB、SMRG、SMRPの接続シーケンスを実行可能であり、異常が発生した第1の演算装置13は、その接続シーケンスを正常に実行することができないこともあり得るためである。
【0068】
そこで、本実施形態においては、上述したように、車両の起動スイッチ3がオフされても、所定の走行継続条件が成立した場合には、第2の演算装置14が、継続して、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGを導通状態に保持することにより、インバータ30への電源供給を維持し、第2の演算装置14による縮退走行制御を実行可能な状態に保つように構成される。このため、運転者によって再び起動スイッチ3がオンされた場合であっても、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGを介してインバータ30に電力が供給されているので、第2の演算装置14が縮退走行制御を実行して、車両を走行させることが可能となる。
【0069】
図5は、走行継続条件判定処理の詳細を示すフローチャートである。以下、
図5のフローチャートに基づいて、走行継続条件判定処理について説明する。
【0070】
最初のステップS300では、高電圧バッテリ5の電圧や充放電電流に基づいて、高電圧バッテリ5の充電量が、所定の上限値と所定の下限値との間の適正範囲に収まっているか否かを判定する。高電圧バッテリ5の充電量が適正範囲外である場合、第2の演算装置14が縮退走行制御を実行することで、高電圧バッテリ5の劣化や故障を誘発する可能性がある。そのため、ステップS300において、高電圧バッテリ5の充電量が適正範囲外であると判定した場合には、ステップS350に進み、走行継続条件不成立と判定する。一方、高電圧バッテリ5の充電量が適正範囲内であると判定した場合には、ステップS310に進む。ステップS310では、インバータ30及び走行用モータ31の作動が正常であるか否かを判定する。例えば、インバータ30を構成する各スイッチング素子にオン故障やオフ故障が発生している場合や、走行用モータ31の各相に断線や短絡が生じている場合には、インバータ30及び/又は走行用モータ31の作動が正常ではないと判定する。インバータ30及び走行用モータ31の作動が正常であると判定した場合には、ステップS320の処理に進み、正常ではないと判定した場合には、ステップS350に進んで、走行継続条件不成立と判定する。このように、ステップS300及びS310の要件は、システム側の状態が、第2の演算装置14が縮退走行制御を実行して車両の走行を継続可能な状態であるか否かを判定するための走行継続可能要件である。このように、走行継続条件には、走行継続可能要件も含まれる。
【0071】
ステップS320では、車両の運転者が走行継続の意思を有するか否かを判定する。車両の運転者に走行継続の意思なしと判定した場合には、ステップS350に進んで、走行継続条件不成立と判定する。一方、車両の運転者に走行継続の意思有りと判定した場合には、ステップS330の処理に進む。このように、走行継続条件には、車両の運転者の走行継続の意思が含まれる。
【0072】
運転者の走行継続の意思の有無は、例えば、
図6に示す条件が成立するか否かにより判定することができる。この例によれば、
図6に示す条件が成立すると走行継続の意思は無いと判定することができ、
図6に示す条件が成立しなければ走行継続の意思が有ると判定することができる。以下に、
図6に示す条件について説明する。
【0073】
図6に示す条件では、まず、車両が停止し(すなわち、車速が所定値以下)、トランスミッションのシフトレンジがパーキングであり、運転席のシートベルトが未装着であり、かつ運転席ドアが開かれたとき、条件成立とみなし、車両の運転者は走行継続する意思がないと判定する。また、車両が停止し、トランスミッションのシフトレンジがパーキングであり、かつ、スマートキーの離脱判定により車両の運転者が車外に退避したとみなされるとき、条件成立とみなし、車両の運転者は走行継続する意思がないと判定する。なお、車両の運転者が車外に退避したことは、例えば、車内及び車外を撮影するカメラによって撮像された画像によって判定してもよい。さらに、車両が停止し、トランスミッションのシフトレンジがパーキングであり、かつ、車両の起動スイッチ3がオフされてから所定時間が経過したとき、条件成立とみなし、車両の運転者は走行継続する意思がないと判定する。逆に、上述した条件のいずれも成立しない場合には、車両の運転者は走行継続する意思があると判定する。
【0074】
続くステップS330では、車両環境が安全であるか否かを判定する。車両環境が安全であると判定した場合には、ステップS350に進んで、走行継続条件不成立と判定する。逆に、車両環境が安全ではないと判定した場合には、ステップS340に進んで、走行継続条件成立と判定する。このように、走行継続条件には、車両環境が安全ではないことが含まれる。
【0075】
車両環境が安全か否かは、例えば、
図7に示す条件が成立するか否かにより判定することができる。この例によれば、
図7に示す条件が成立すると車両環境は安全と判定することができ、
図7に示す条件が成立しなければ車両環境は安全ではないと判定することができる。以下に、
図7に示す条件について説明する。
【0076】
図7に示す条件では、まず、車両が停止し(すなわち、車速が所定値以下)、かつ、その車両が停止した場所が高速道路の退避スペースであった場合、条件成立とみなし、車両の環境は安全と判定する。なお、車両の停止した場所に関する情報は、例えば、同じ車両に搭載されたナビゲーション装置から取得することができる。あるいは、電子制御装置10が、独自に地図データベース及びGPSなどの現在位置検出装置を備えていても良い。また、車両が停止し、かつ、その停止した場所が高速道路のサービスエリア(SA)やパーキングエリア(PA)であった場合、条件成立とみなし、車両の環境は安全と判定する。さらに、車両が停止し、かつその停止した場所が駐車場(店舗(コンビニ、ガソリンスタンドなど)の駐車場やコインパーキングなど)であった場合に、条件成立とみなし、車両の環境は安全と判定する。つまり、第2の演算装置14は、車両が安全とみなしえるエリアで停止したとき車両環境が安全であると判定し、それ以外は安全ではないと判定する。
【0077】
このように、本実施形態では、運転者の走行継続意思及び車両環境に関する観点から走行継続条件を判定するので、例えば、車両を停車させるべきではないときに運転者が誤って起動スイッチ3をオフしてしまったような状況では、走行継続可能要件が満たされている限り、走行継続条件が成立するようになる。このため、誤って起動スイッチ3をオフしてしまった場合でも、車両の運転者は、第2の演算装置14による退避走行制御により車両を安全な場所まで移動させることが可能となる。
【0078】
図8は、第1の演算装置13に異常が発生し、運転者が誤って起動スイッチ3をオフしてしまった場合の、第2の演算装置14による制御の一例を示すタイミングチャートである。
図8に示す例では、運転者は、第1の演算装置13の異常発生の通知により起動スイッチ3をオフしてしまった。しかし、起動スイッチ3がオフされたとき、走行継続意思があるなど走行継続条件が成立していたので、第2の演算装置14によって、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGが導通状態に維持されていた。そのため、その後、運転者が起動スイッチ3をオンしたとき、第2の演算装置14は縮退走行制御を実行することが可能であり、運転者は安全な場所まで車両を移動させることができた。その安全な場所で、運転者は車両から降車した。そのため、車両の停止、シフトレンジがPレンジ、運転席のシートベルト未装着(バックルスイッチオフ)、かつ運転席ドア開との条件が成立し、運転者の走行継続意思はないと判定された。これにより、走行継続条件が不成立と判定されたので、停車時処理が実行され、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGがオフされた。
【0079】
また、
図9のタイミングチャートは、第1の演算装置13に異常が発生し、運転者が誤って起動スイッチ3をオフしてしまった場合の、第2の演算装置14による制御の他の例を示している。
図9に示す例では、車両が交差点内で停止しているときに、第1の演算装置13に異常が発生し、その異常発生の通知により運転者が起動スイッチ3をオフしてしまった。しかし、起動スイッチ3がオフされたとき、車両環境が安全ではないなど走行継続条件が成立していたので、第2の演算装置14によって、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGが導通状態に維持されていた。そのため、その後、運転者が起動スイッチ3をオンしたとき、第2の演算装置14は縮退走行制御を実行することができた。そして、運転者は車両を安全な駐車場まで移動させることができ、その駐車場で、起動スイッチ3をオフした。そのため、車両の停止、かつ停止した場所が駐車場との条件が成立し、車両環境は安全であると判定された。これにより、走行継続条件が不成立と判定されたので、停車時処理が実行され、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGがオフされた。
【0080】
このように、本実施形態の電子制御装置10によれば、運転者が誤って起動スイッチ3をオフさせてしまった場合でも、第2の演算装置14によって正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGが導通状態に維持されるので、第2の演算装置14による縮退走行制御が実行可能となり、運転者は車両を安全な場所まで走行させることが可能となる。
【0081】
以上、本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態になんら制限されることなく、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々変形して実施することが可能である。
【0082】
上述した実施形態による電子制御装置10では、出力回路18が、正極側システムメインリレーSMRBへリレー駆動信号を出力するための第4トランジスタTr4と、負極側システムメインリレーSMRGへリレー駆動信号を出力するための第5トランジスタTr5とを有していた。しかしながら、出力回路18において、正極側システムメインリレーSMRBへリレー駆動信号を出力するためのトランジスタと、負極側システムメインリレーSMRGへリレー駆動信号を出力するためのトランジスタとを、1つのトランジスタによって兼用してもよい。これにより、出力回路18の構成をシンプルにすることができる。
【0083】
また、上述した実施形態による電子制御装置10では、第1の演算装置13からの第1リレー制御信号に応じてリレー駆動信号を出力する出力回路17と、第2の演算装置14からの第2リレー制御信号に応じてリレー駆動信号を出力する出力回路18とがそれぞれ設けられていた。しかしながら、1つの出力回路が、第1の演算装置13と第2の演算装置14とで共用されてもよい。換言すると、正極側システムメインリレーSMRBへリレー駆動信号を出力するための第1共用トランジスタの同じゲートに、第1の演算装置13からの駆動信号線と第2の演算装置14からの駆動信号線を接続し、負極側システムメインリレーSMRGへリレー駆動信号を出力するための第2共用トランジスタの同じゲートにも、第1の演算装置13からの駆動信号線と第2の演算装置14からの駆動信号線を接続するようにしてもよい。このような構成によっても、第1の演算装置13に異常が発生した場合に、高電圧バッテリ5からインバータ30への電力の供給ができなくなる事態の発生を回避することができる。
【0084】
また、上述した実施形態では、高電圧バッテリ5とインバータ30との間に、起動時には、正極側システムメインリレーSMRBと起動用システムメインリレーSMRPとの2つのリレーを介在させ、走行中には、正極側システムメインリレーSMRBと負極側システムメインリレーSMRGとの2つのリレーを介在させていた。しかしながら、起動時および走行中に介在させるリレーの数は1個であってもよい。この場合、起動時は、高電圧バッテリ5とインバータ30との間に、抵抗が直列に接続されたシステムメインリレーを介在させて電流を制限し、走行中には、抵抗が接続されていないシステムメインリレーを介在させればよい。
【0085】
さらに、上述した実施形態では、走行継続条件として、車両の運転者が車両の走行を継続する意思があり、かつ、車両の環境が安全ではないことが成立したとき、第2の演算装置14は、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGを導通状態に維持した。しかしながら、いずれか一方の条件が成立したことをもって、、第2の演算装置14は、正極側及び負極側システムメインリレーSMRB、SMRGを導通状態に維持するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0086】
1:ブレーキペダルセンサ、2:アクセルペダルセンサ、3:起動スイッチ、4:車載バッテリ、5:高電圧バッテリ、10:電子制御装置、11、12:入力回路、13:第1の演算装置、14:第2の演算装置、15:CAN通信回路、17、18:出力回路、19:電源回路、30:インバータ、31:走行用モータ、SMRB:正極側システムメインリレー、SMRG:負極側システムメインリレー、SMRP:起動用システムメインリレー