(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】定着装置及び画像形成装置
(51)【国際特許分類】
G03G 15/20 20060101AFI20221109BHJP
G03G 21/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G03G15/20 535
G03G21/00 370
(21)【出願番号】P 2018221718
(22)【出願日】2018-11-27
【審査請求日】2021-10-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003443
【氏名又は名称】弁理士法人TNKアジア国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100129997
【氏名又は名称】田中 米藏
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健大
【審査官】中澤 俊彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-85262(JP,A)
【文献】特開平5-6046(JP,A)
【文献】特開2007-279454(JP,A)
【文献】特開2008-3297(JP,A)
【文献】特開2003-57988(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0081962(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03G 15/20
G03G 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
定着部材と、
前記定着部材の周面を加熱する熱源と、
前記定着部材の外周面に圧接され、前記定着部材との間に定着対象の記録紙が挿通されるニップ部を形成する加圧ローラーと、
前記定着部材の温度を予め定められた制御温度とする前記熱源の制御を行い、前記加圧ローラーの回転数が予め定められた目標回転数となるように、前記加圧ローラーを回転駆動させる駆動部を制御する制御部と、を備え、
前記制御部は、ジョブ開始時の前記定着部材の温度と、前記記録紙の種類と、外気温と、給紙開始からの経過時間と、に基づいて予め定められた補正値を、予め定められた一定の標準回転数に加算して前記目標回転数を設定し、前記加圧ローラーの回転数が、当該目標回転数となるように、前記加圧ローラーを回転駆動する定着装置。
【請求項2】
前記補正値は、前記給紙開始時の定着部材の温度及び前記給紙開始からの経過時間に応じて定められる第1の補正値と、前記記録紙の種類、外気温、及び前記給紙開始からの経過時間とに応じて定められる第2の補正値とからなる請求項1に記載の定着装置。
【請求項3】
前記記録紙は、給紙部からレジスト位置へ給紙する1次給紙が行われ、その後、前記レジスト位置から印刷位置及び定着位置へ給紙する2次給紙が行われるものであって、前記給紙開始は、前記2次給紙の開始である請求項1又は請求項2に記載の定着装置。
【請求項4】
前記定着部材は、無端状のベルト状部材からなり、前記加圧ローラの回転により従動回転する請求項1乃至請求項3のいずれかに記載の定着装置。
【請求項5】
請求項1乃至請求項4のいずれかに記載の定着装置と、
画像を前記記録紙に形成する画像形成部と、を備え、
前記定着装置は、前記記録紙を前記定着部材と前記加圧ローラーとの間の前記ニップ部に挟み込んで、前記記録紙に形成された画像を熱圧着する画像形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、定着部材と加圧ローラーとの間のニップ部に記録紙を挟み込んで、記録紙に形成された画像を定着させる定着装置及びそれを備える画像形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
定着装置として、例えば無端状の定着ベルトに加圧ローラーを圧接させて、定着ベルトと加圧ローラーとの間にニップ部を形成し、定着ベルトの内側に設けられたヒーターにより当該定着ベルトを加熱した状態で、記録紙をニップ部で挟み込んで、当該記録紙上の画像(未定着のトナー像)を熱圧着して定着させるものがある。
【0003】
このような定着装置は、記録紙上の画像を熱圧着している間、定着に必要な温度を維持するために、ヒーターに電力を供給し、定着ベルトを予め定められた定着温度(制御温度)に昇温させて定着可能な状態とし、ニップ部に記録紙を通過させるという構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
記録紙がニップ部を通過する際、当該記録紙によって定着ベルトの熱量が奪われる。特に、坪量の高い低温の記録紙がニップ部を通過する際(つまり、外気温が低く、厚めの記録紙がニップ部を通過する際)、定着ベルトから奪われる熱量は多くなる。また、外気温が低い場合には、定着ベルトが冷めている可能性も高い。そのため、記録紙の坪量が高い場合や、外気温が低い場合には、定着ベルトが多くの熱量を必要とするので、上記制御温度を高く設定する必要がある。また、画像形成装置においては、このような設定をするのが一般的である。
【0006】
ところが、上記制御温度を高く設定すると、定着ベルトだけでなく、当該定着ベルトに圧接される加圧ローラーへ伝わる熱量も多くなる。加圧ローラーへ伝わる熱量が多くなると、加圧ローラーが膨張する。このため、加圧ローラーの外径は大きくなり、回転数が変わらなくても、加圧ローラーの周速度は速くなる。加圧ローラーの周速度が速くなって、記録紙を搬送する搬送速度が変化すると、記録紙の搬送性が不安定になるので、画像にスジが生じたり、記録紙にシワが生じるおそれがある。
【0007】
上記特許文献1に、定着ベルトの熱量が加圧ローラーに奪われるのを防止するために、加圧ローラーと定着ベルトとの離間を行った上で、定着ベルトの加熱を行うことが記載されている。しかしながら、加圧ローラーと定着ベルトとを離間させるための新たな機構が必要になる。また、加圧ローラーと接触している定着ベルトは、一般的に、加圧ローラーの回転に従動して回転する構造になっているが、加圧ローラーから離間した状態の定着ベルトを回転させるには、定着ベルト側にも駆動機構が必要になり、構造が複雑化する。
【0008】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであり、構造を複雑化することなく、定着時に加圧ローラーが膨張することに起因する不具合の発生を防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一局面に係る定着装置は、定着部材と、前記定着部材の周面を加熱する熱源と、前記定着部材の外周面に圧接され、前記定着部材との間に定着対象の記録紙が挿通されるニップ部を形成する加圧ローラーと、前記定着部材の温度を予め定められた制御温度とする前記熱源の制御を行い、前記加圧ローラーの回転数が予め定められた目標回転数となるように、前記加圧ローラーを回転駆動させる駆動部を制御する制御部と、を備え、前記制御部は、ジョブ開始時の前記定着部材の温度と、前記記録紙の種類と、外気温と、給紙開始からの経過時間と、に基づいて予め定められた補正値を、予め定められた一定の標準回転数に加算して前記目標回転数を設定し、前記加圧ローラーの回転数が、当該目標回転数となるように、前記加圧ローラーを回転駆動する。
【0010】
また、本発明の一局面に係る画像形成装置は、上記定着装置と、画像を前記記録紙に形成する画像形成部と、を備え、前記定着装置は、前記記録紙を前記定着ベルトと前記加圧ローラーとの間の前記ニップ部に挟み込んで、前記記録紙に形成された画像を熱圧着する
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、加圧ローラーが膨張し、加圧ローラーの外径が大きくなったとしても、加圧ローラーの回転数が補正されるので、加圧ローラーの周速度(すなわち、記録紙の搬送速度)を一定に保つことが可能になり、定着時に画像にスジが生じたり、記録紙にシワが生じたり、といった不具合が発生するのを防止することが可能となる。また、当該不具合が発生するのを防止するために構造が複雑化することもない。従って、本発明によれば、構造を複雑化することなく、記録紙の搬送速度が変化することに起因する不具合の発生を防止することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の第1実施形態に係る定着装置が適用された画像形成装置の内部構造の一部を模式的に示す断面図である。
【
図2】第1実施形態に係る定着装置を模式的に示す断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る定着装置が適用された画像形成装置の主要内部構成を概略的に示した機能ブロック図である。
【
図4】第1実施形態に係る定着装置が適用された画像形成装置の制御ユニットで行われる処理の一例を示したフローチャートである。
【
図5】加圧ローラーの回転数の制御に用いられる補正値であって、ジョブ開始時の定着ベルトの温度の違いに応じて設定される各制御で用いられる補正値の一例を示したグラフである。
【
図6】ジョブ開始時の定着ベルトの温度と、設定される制御との関係の一例を示した図である。
【
図7A】第1実施形態に係る定着装置が適用された画像形成装置の制御ユニットで行われる処理の一例を示したフローチャートである。
【
図7B】第1実施形態に係る定着装置が適用された画像形成装置の制御ユニットで行われる処理の一例を示したフローチャートである。
【
図8】加圧ローラーの回転数に対する補正値の一例を示したグラフである。
【
図9】ジョブ開始時の定着ベルトの温度と、記録紙の種類と、設定される補正値との関係の一例を示した図である。
【
図10】加圧ローラーの一定の標準回転数に、第1の補正値と、第2の補正値とを加算することによって得られた目標回転数を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の一実施形態に係る定着装置及び画像形成装置について図面を参照して説明する。
図1は、一実施形態に係る定着装置が適用された画像形成装置の内部構造の一部を模式的に示す断面図である。
図2は、一実施形態に係る定着装置を模式的に示す断面図である。
【0014】
本発明の一実施形態に係る定着装置が適用された画像形成装置1は、例えば、コピー機能や、プリンター機能、スキャン機能、ファクシミリ機能のような複数の機能を備えた複合機である。画像形成装置1は、画像形成部12と、定着装置13とを含んで構成されている。
【0015】
画像形成部12は、その外周面にトナー像が転写される中間転写ベルト125と、駆動ローラー125Aと、従動ローラー125Bと、1次転写ローラー(図示せず)と、2次転写ローラー210と、を含んで構成されている。
【0016】
中間転写ベルト125は、駆動ローラー125Aと従動ローラー125Bとの間に張架され、感光体ドラム(図示せず)の周面に当接した状態で駆動ローラー125Aによって駆動され、感光体ドラムと同期しながら、無端走行する。
【0017】
2次転写ローラー210は、中間転写ベルト125の外周面に転写されたトナー像を、中間転写ベルト125を挟んだ、駆動ローラー125Aとのニップ部N1において、レジストローラー対19から搬送されてきた記録紙Pに転写させるものである。レジストローラー対19は、給紙部(図示せず)から給紙され搬送されてきた記録紙Pをニップ部N1へ送り出すタイミングを調整する。図中の破線で示した矢印は、記録紙Pの搬送方向を示している。
【0018】
定着装置13は、記録紙P上に形成されたトナー像を、熱圧着により記録紙Pに定着させるもので、定着ベルト131と、加圧ローラー132と、ヒーター133と、押圧部材134と、サーモパイル135と、を備えている。
【0019】
定着ベルト131は、無端状のベルトであって、長手方向に延びる略円筒状に形成され、軸周りに回転可能に構成されている。定着ベルト131は、例えば、耐熱性及び弾性を有する合成樹脂等で形成されている。定着ベルト131は、特許請求の範囲における定着部材の一例である。
【0020】
定着ベルト131の内側には、当該定着ベルト131の長手方向に延びるヒーター133と、押圧部材134とが配置されている。ヒーター133は、定着ベルト131の周面を加熱する。ヒーター133は、例えば、ハロゲンヒーターであって、特許請求の範囲における熱源の一例である。定着装置13は、定着ベルト131に代えて、定着ローラーを定着部材として備え、当該定着ローラーを加熱するヒーターを熱源として備えるようにしてもよい。
【0021】
押圧部材134は、支持部材134Aと押圧パッド134Bとを含んで構成されている。押圧パッド134Bは、長手方向に延びる略直方体状に形成されている。押圧パッド134Bは、支持部材134Aに固定され、定着ベルト131を加圧ローラー132に向けて押し付けている。
【0022】
サーモパイル135は、受光部に入射した赤外線の量に比例した熱起電力を得る赤外線センサーであって、定着ベルト131の周面付近に配置され、定着ベルト131の温度を検出する。
【0023】
加圧ローラー132は、長手方向に延びる略円筒状に形成され、軸周りに回転可能に構成されている。加圧ローラー132は、例えば、金属製の円筒体を合成樹脂等からなる層で覆ったものであり、定着ベルト131の外周面に圧接され、定着ベルト131との間に定着対象の記録紙Pが挿通されるニップ部N2を形成する。
【0024】
また、加圧ローラー132は、ギア等を介して駆動モーター136に接続され、駆動モーター136の駆動力を受けて、図中の時計回りに回転する。加圧ローラー132が回転すると、定着ベルト131は加圧ローラー132に従動して、図中の反時計回りに回転する。なお、駆動モーター136は、特許請求の範囲における駆動部の一例である。
【0025】
図3は、画像形成装置1の主要内部構成を概略的に示した機能ブロック図である。画像形成装置1は、制御ユニット10、原稿給送部6、原稿読取部5、画像形成部12、定着装置13、給紙部14、操作部47、ヒーター133、サーモパイル135、駆動モーター136、及び外気温センサー17を備える。
【0026】
画像形成装置1で原稿読取動作が行われる場合について説明する。原稿給送部6により搬送されてきた原稿、又は図略のコンタクトガラスに載置されている原稿の画像を、原稿読取部5が光学的に読み取り、そして画像データを生成する。原稿読取部5により生成された画像データは、図略の画像メモリー等に保存される。
【0027】
画像形成装置1で画像形成動作が行われる場合について説明する。原稿読取動作により生成された画像データや、ネットワーク接続された外部装置としてのコンピューターから受信した画像データ等に基づいて、画像形成部12が、給紙部14から給紙される記録媒体としての記録紙Pにトナー像を形成する。
【0028】
定着装置13は、上記したように、画像形成部12によりトナー像が形成された記録紙Pを熱圧着により、トナー像を記録紙Pに定着させるものであり、定着処理が施された記録紙Pは図略の排出トレイに排出される。給紙部14は、給紙カセットを備え、記録紙Pを収容し、レジストローラー対19(
図1)へ給紙する。
【0029】
操作部47は、画像形成装置1が実行可能な各種動作及び処理について、操作者から、画像形成動作実行指示等の指示を受け付ける。操作部47は、操作者への操作案内等を表示する表示部473を備えている。
【0030】
表示部473はタッチパネル機能を有しており、操作者は画面表示されるボタンやキーに触れて画像形成装置1を操作することができる。外気温センサー17は、画像形成装置1の本体に設置され、装置外の温度を検出する。
【0031】
制御ユニット10は、プロセッサー、RAM(Random Access Memory)、ROM(Read Only Memory)、及び専用のハードウェア回路を含んで構成される。プロセッサーは、例えばCPU(Central Processing Unit)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、又はMPU(Micro Processing Unit)等である。制御ユニット10は、制御部100と、操作受付部101と、を備えている。
【0032】
制御ユニット10は、図略のHDD(Hard Disk Drive)等に記憶されている制御プログラムに従った上記プロセッサーによる動作により、制御部100及び操作受付部101として機能する。但し、制御部100等は、制御ユニット10による制御プログラムに従った動作によらず、それぞれハードウェア回路により構成することも可能である。以下、特に触れない限り、各実施形態について同様である。
【0033】
制御部100は、画像形成装置1の全体的な動作制御を司る。制御部100は、原稿給送部6、原稿読取部5、画像形成部12、定着装置13、給紙部14、操作部47、ヒーター133、サーモパイル135、駆動モーター136、及び外気温センサー17と接続され、これら各部の駆動制御等を行う。なお、制御部100は、画像形成装置1の制御部でもあり、定着装置13の制御部でもある。
【0034】
操作受付部101は、操作部47を介したユーザーからの操作入力を受け付ける。例えば、操作受付部101は、操作部47が備えるハードキーに対するユーザー操作を受け付け、更には、表示部473に表示されている操作画面に対するユーザー操作を、表示部473が有するタッチパネル機能により受け付ける。
【0035】
操作受付部101が、ユーザーからプリントジョブ(コピージョブを含む)の指令を受け付けると、制御部100は、印刷対象(定着対象でもある)となる記録紙Pの種類、及び外気温センサー17により検出される外気温に基づいて、定着ベルト131の制御温度(定着温度)を設定し、定着ベルト131の温度が設定した当該制御温度となるように、ヒーター133を制御する。具体的には、制御部100は、サーモパイル135が上記制御温度を検出する状態になるように、ヒーター133を制御する。
【0036】
記録紙Pの坪量が高い場合や、外気温が低い場合、記録紙Pがニップ部を通過することによって定着ベルト131から奪われる熱量は多くなる。また、外気温が低い場合には、定着ベルト131が比較的低温である。このため、記録紙Pの坪量が高い場合や、外気温が低い場合は、制御部100がヒーター133の制御に用いる上記制御温度は、予め定められた高めの温度に設定される。
【0037】
また、制御部100は、給紙部14を制御して、印刷対象及び定着対象の記録紙Pの給紙部14からの給紙(1次給紙)を開始して、当該記録紙Pをレジストローラー対19(
図1)へ搬送させる。そして、制御部100は、レジストローラー対19を制御して、印刷するのに適切なタイミングで、ニップ部N1(
図1)への記録紙Pの給紙(2次給紙)を開始させ、記録紙Pをニップ部N1及びニップ部N2(
図1)へ搬送させる。なお、レジストローラー対19の位置、ニップ部N1の位置、及びニップ部N2の位置のそれぞれが、特許請求の範囲におけるレジスト位置、印刷位置、定着位置に相当する。
【0038】
次に、画像形成装置1における制御ユニット10で行われる処理の一例について
図4に示したフローチャートに基づいて説明する。なお、この処理は、操作受付部101が、プリントジョブのユーザー指令を受け付け、プリントジョブ(定着動作を必要とするジョブ)を開始するときに行われる処理である。
【0039】
まず、制御部100は、サーモパイル135によって検出される、プリントジョブ開始時の定着ベルト131の温度TAが予め定められた閾値T1(例えば25℃。上記制御温度としての定着温度が180℃の場合。以下同じ)未満であるか否かを判断する(S1)。
【0040】
制御部100は、温度TAが閾値T1未満であると判断した場合(S1でYES)、加圧ローラー132の(単位時間当たりの)回転数の制御を、予め計算で求められた「制御1」に設定し(S2)、この処理を終了する。「制御1」乃至「制御10」は、プリントジョブ開始時の定着ベルト131の温度TA毎に、加圧ローラー132を早期に定着温度まで昇温させるための予め定められた制御である。また、制御部100は、「制御1」乃至「制御10」のそれぞれ毎に、ヒーター133を駆動する際の駆動電圧を異ならせる。つまり、温度TAが低いほど、短時間で多くの熱量を与えて定着ベルト133を加熱する必要があるため、温度TAが低いほど加熱開始時から一定期間は大きな電力でヒーター133を駆動する。制御部100は、サーモパイル135によって検出される定着ベルト131の温度TAが上記制御温度になった時点で、当該制御温度を維持できる程度の電力に切り換えて、ヒーター133を駆動する。
【0041】
定着ベルト131を定着温度まで昇温させるには、温度TAが低いほど定着ベルト131に多くの熱量をヒーター133から付与する必要がある。そして、定着ベルト131を一様に加熱して、定着ベルト131を迅速に目標温度まで到達させるには、加圧ローラー132の回転速度を上げて定着ベルト131の回転速度(ベルト走行速度)を上げる必要がある。その一方、このように加熱すると、定着ベルト131が加熱されると共に、定着ベルト131とニップして回転する加圧ローラー132も加熱される。この加熱により、加圧ローラー132が膨張してその径が大きくなるため、加圧ローラー132の周面速度が、膨張していない加圧ローラー132が回転する場合よりも速くなる。このように加圧ローラー132が膨張している状況下では、定着ベルト131及び加圧ローラー132のニップにより搬送される記録紙Pの搬送速度が目標搬送速度よりも速くなり、記録紙Pの搬送に支障をきたす。このため、定着ベルト131が目標温度まで昇温した後は、加圧ローラー132の膨張に応じて、加圧ローラー132の回転数を遅くして、加圧ローラー132の周面速度を、記録紙Pの上記目標搬送速度に対応する速度とする必要がある。
【0042】
このような加圧ローラー132の回転制御は、プリントジョブ開始時の定着ベルト131の温度TAに応じて、上記「制御1」乃至「制御10」のように、複数の制御が用意される。すなわち、加圧ローラー132の回転数の制御には、当該温度TAの違いに応じてそれぞれに異なる補正値(第1の補正値)が用いられる。
【0043】
図5は、加圧ローラー132の回転数の制御に用いられる補正値であって、ジョブ開始時の定着ベルト131の温度TAの違いに応じて設定される「制御1」「制御4」「制御7」「制御10」を例としてそれぞれの補正値を示したグラフである。なお、この補正値は、制御部100が加圧ローラー132を回転制御する際に用いる予め定められた一定の標準回転数に対して加算する値である。
【0044】
図5のグラフには、「制御1」「制御4」「制御7」「制御10」に用いられるそれぞれの補正値が示されている。「制御1」「制御4」「制御7」「制御10」に用いられるそれぞれの補正値は、2次給紙開始からの経過時間に応じて変化させて設定されている。
【0045】
図5のグラフが示す「制御1」「制御4」「制御7」の補正値は、いずれも2次給紙開始当初から時間経過と共に上昇し、その後、下降し、最終的に補正率は「0%」に収束する。特に、「制御1」は、2次給紙開始当初、急激に上昇している。「制御1」は、定着ベルト131の温度TAが閾値T1(例えば25℃)未満で、定着ベルト131及び加圧ローラー132が比較的低温であるときに設定される制御である。
【0046】
「制御1」「制御4」「制御7」では、定着ベルト131を一様に加熱して、定着ベルト131全体を迅速に目標温度まで到達させるまで、加圧ローラー132の回転速度を上げて定着ベルト131の回転速度(ベルト走行速度)を上げる設定となっている。
【0047】
制御部100は、温度TAが閾値T1未満でないと判断した場合(S1でNO)、温度TAが予め定められた閾値T2(例えば40℃)未満であるか否かを判断する(S3)。
【0048】
制御部100は、温度TAが閾値T2未満であると判断した場合(S3でYES)、加圧ローラー132の回転数の制御を、予め計算で求められた「制御2」に設定し(S4)、この処理を終了する。
【0049】
制御部100は、温度TAが閾値T2未満でないと判断した場合(S3でNO)、温度TAが予め定められた閾値T3(例えば55℃)未満であるか否かを判断する(S5)。
【0050】
制御部100は、温度TAが閾値T3未満であると判断した場合(S5でYES)、加圧ローラー132の回転数の制御を、予め計算で求められた「制御3」に設定し(S6)、この処理を終了する。
【0051】
制御部100は、同様の処理を繰り返し、温度TAが予め定められた閾値T10(例えば140℃)未満であるか否かを判断する(S7)。
【0052】
制御部100は、温度TAが閾値T10未満であると判断した場合(S7でYES)、加圧ローラー132の回転数の制御を、予め計算で求められた「制御9」に設定し(S8)、この処理を終了する。
【0053】
一方、制御部100は、温度TAが閾値T10未満でないと判断した場合(S7でNO)、加圧ローラー132の回転数の制御を、予め計算で求められた「制御10」に設定し(S9)、この処理を終了する。
【0054】
すなわち、温度TAが低い場合から温度TAが高くなるにつれて、「制御1」から順に「制御10」までのいずれかが選択されて設定される。
図6は、プリントジョブ開始時の定着ベルト131の温度TAと、設定される制御との関係の一例を示した図である。「制御10」は、定着ベルト131の温度TAが閾値T10(例えば140℃)以上のときで、加圧ローラー132の蓄熱量も十分であると推定されるときに設定される制御である。「制御10」は、
図5のグラフに示すように、補正値が「0」であり補正率が常時「0%」であるので、一定の標準回転数をそのまま用いる上記基本制御が制御部100により実施される。
【0055】
次に、画像形成装置1における制御ユニット10で行われる処理の一例について
図7A及び
図7Bに示したフローチャートに基づいて説明する。なお、この処理は、操作受付部101が、プリントジョブのユーザー指令を受け付け、プリントジョブを開始するときに行われる処理である。
【0056】
まず、制御部100は、外気温センサー17によって検出される、プリントジョブ開始時の外気温が予め定められた閾値T11(例えば10℃)以下であるか否かを判断する(S11)。
【0057】
制御部100は、外気温が閾値T11以下であると判断した場合(S11でYES)、記録紙Pが坪量の高くない予め定められた種類の記録紙(薄めの記録紙)であるか否かを判断する(S12)。
【0058】
制御部100は、記録紙Pが薄めの記録紙であると判断した場合(S12でYES)、サーモパイル135によって検出される、プリントジョブ開始時の定着ベルト131の温度TAが閾値T1未満であるか否かを判断する(S13)。
【0059】
制御部100は、温度TAが閾値T1未満であると判断した場合(S13でYES)、加圧ローラー132の回転数に対する補正値を、予め定められた「補正値A」に設定し(S14)、この処理を終了する。
【0060】
この「補正値A」及び以下に示す「補正値B」~「補正値T」は、制御部100が「制御1」~「制御10」に基づいて制御する加圧ローラー132の回転数を、記録紙Pの種類及び外気温に基づいて更に補正するために加算する調整値である。すなわち、「補正値A」~「補正値T」は、加圧ローラー132の膨張に与える記録紙Pの種類及び外気温の影響を更に考慮して、制御部100の制御による加圧ローラー132の回転数を、加圧ローラー132の周面速度が記録紙Pの上記目標搬送速度に対応する速度に調整するための値である。「補正値A」~「補正値T」としては、記録紙Pの種類、外気温、ヒーター133の駆動電力、加圧ローラー132の特性、及び上記温度TAに基づいて、2次給紙開始からの経過時間に応じて異ならせた値が、予め行われた実験に基づいて設定される。なお、「補正値A」~「補正値T」は、第2の補正値の一例である。
【0061】
図8は、加圧ローラー132の回転数に対する「補正値A」等の一例を示したグラフである。「補正値A」~「補正値T」はいずれも、常時マイナスの値で、加圧ローラー132の回転数を遅くするものである。「補正値A」~「補正値T」はいずれも、2次給紙開始当初においてマイナスの値が一番大きく、その後、徐々にマイナス分が小さくなっている。
図8には、「補正値A」~「補正値T」のうち、「補正値A」「補正値D」「補正値G」「補正値J」を例として示している。
【0062】
制御部100は、温度TAが閾値T1未満でないと判断した場合(S13でNO)、温度TAが閾値T2未満であるか否かを判断する(S15)。
【0063】
制御部100は、温度TAが閾値T2未満であると判断した場合(S15でYES)、加圧ローラー132の回転数に対する補正値を、予め計算で求められた「補正値B」に設定し(S16)、この処理を終了する。
【0064】
制御部100は、温度TAが閾値T2未満でないと判断した場合(S15でNO)、温度TAが閾値T3未満であるか否かを判断する(S17)。
【0065】
制御部100は、温度TAが閾値T3未満であると判断した場合(S17でYES)、加圧ローラー132の回転数に対する補正値を、予め計算で求められた「補正値C」に設定し(S18)、この処理を終了する。
【0066】
制御部100は、同様の処理を繰り返し、温度TAが閾値T10未満であるか否かを判断し(S19)、温度TAが閾値T10未満であると判断した場合(S19でYES)、加圧ローラー132の回転数に対する補正値を、予め計算で求められた「補正値I」に設定し(S20)、この処理を終了する。
【0067】
一方、制御部100は、温度TAが閾値T10未満でないと判断した場合(S19でNO)、加圧ローラー132の回転数に対する補正値を、予め計算で求められた「補正値J」に設定し(S21)、この処理を終了する。補正値Jは、プリントジョブ開始時の定着ベルト131の温度TAが閾値T10(例えば140℃)以上で、定着ベルト131は十分に温められており、加圧ローラー132の蓄熱量も十分であると考えられるときに設定される補正値である。
【0068】
S12において、制御部100は、記録紙Pが薄めの記録紙でない(厚めの記録紙である)と判断した場合(S12でNO)、プリントジョブ開始時の定着ベルト131の温度TAが閾値T1未満であるか否かを判断する(
図7BのS31)。
【0069】
制御部100は、温度TAが閾値T1未満であると判断した場合(S31でYES)、加圧ローラー132の回転数に対する補正値を、予め計算で求められた「補正値K」に設定し(S32)、この処理を終了する。以降、
図7AのS15乃至S21と同様の処理を実行し、制御部100は、加圧ローラー132の回転数に対する補正値を、「補正値L」乃至「補正値T」のいずれかに設定する。
【0070】
また、
図7AのS11において、制御部100は、外気温が閾値T11以下でないと判断した場合(S11でNO)、加圧ローラー132の回転数に対する補正値を設定せず、そのまま、この処理を終了する。
【0071】
図9は、プリントジョブ開始時の定着ベルト131の温度TAと、記録紙Pの種類と、設定される補正値との関係の一例を示した図である。「補正値T」は、外気温が閾値T11(例えば10℃)以下で、記録紙Pが厚めで、プリントジョブ開始時の定着ベルト131の温度が閾値T10(例えば140℃)以上のときに設定される補正値である。
【0072】
制御部100は、2次給紙を開始すると、2次給紙の開始時点から制御ユニット10に内蔵されているタイマーを起動し、当該タイマーの経過時間に合わせて、上記設定した「制御1」~「制御10」のいずれかの制御を設定し、当該制御で用いられる補正値と、「補正値A」~「補正値T」のいずれかとを(すなわち、第1の補正値及び第2の補正値の両方を)、制御部100が加圧ローラー132を回転制御する際に用いる上記一定の標準回転数に対して加算して得た値を目標回転数として、加圧ローラー132を回転制御する。すなわち、
図5に示される補正値と、
図9に示される補正値は、膨張した加圧ローラー132の周面速度を上記目標搬送速度に一致させるために、上記一定の標準回転数に加算される調整値である。
【0073】
例えば、外気温が閾値T11以下で、記録紙Pは薄めで、プリントジョブ開始時の定着ベルト131の温度TAが閾値T1未満のとき、制御部100は、加圧ローラー132の回転数に対する制御として「制御1」を設定し、補正値として「補正値A」を設定するので、上記タイマーの経過時間に合わせて、「制御1」で用いる補正値及び「補正値A」を、上記一定の標準回転数に対して加算して得た値を目標回転数として、駆動モーター136を制御して、加圧ローラー132の回転数を制御する。
【0074】
図10は、上記一定の標準回転数に、「制御1」が示す補正値と、「補正値A」が示す補正値とを加算することによって得られた、実際の制御に用いる目標回転数を示すグラフである。例えば、2次給紙開始から時間TM1が経過した時点での「制御1」が示す補正値H1が「2%」で、「補正値A」が示す補正値H2が「-8%」である場合、実際の制御に用いる目標回転数H3は「-6%」となる。
【0075】
上記実施形態によれば、加圧ローラー132が膨張し、加圧ローラー132の外径が大きくなったとしても、加圧ローラー132の回転数が小さく補正されるので、加圧ローラー132の周面の周速度(すなわち、記録紙Pの搬送速度)を一定に保つことが可能になる。このため、構造を複雑化させることなく、定着時に画像にスジが生じたり、記録紙Pにシワが生じたり、といった不具合が発生するのを防止することが可能となる。すなわち、構造を複雑化することなく、記録紙Pの搬送速度が変化することに起因する不具合の発生を防止することが可能となる。
【0076】
本発明は上記実施の形態の構成に限られず種々の変形が可能である。また、上記実施形態では、本発明に係る画像形成装置の一実施形態として複合機を用いて説明しているが、これは一例に過ぎず、コピー機能、プリンター機能、ファクシミリ機能を有した他の画像形成装置でもよい。
【0077】
また、上記実施形態では、
図1乃至
図10を用いて上記実施形態により示した構成及び処理は、本発明の一実施形態に過ぎず、本発明を当該構成及び処理に限定する趣旨ではない。
【符号の説明】
【0078】
1 画像形成装置
12 画像形成部
13 定着装置
14 給紙部
19 レジストローラー対
100 制御部
131 定着ベルト
132 加圧ローラー
133 ヒーター
135 サーモパイル
136 駆動モーター