(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】船外機のステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B63H 25/42 20060101AFI20221109BHJP
B63H 20/08 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B63H25/42 B
B63H20/08 510
(21)【出願番号】P 2018223261
(22)【出願日】2018-11-29
【審査請求日】2021-09-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090273
【氏名又は名称】國分 孝悦
(72)【発明者】
【氏名】宮下 泰
【審査官】結城 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-1354(JP,A)
【文献】実開昭61-172899(JP,U)
【文献】特開2006-131129(JP,A)
【文献】特開平6-206592(JP,A)
【文献】特開2013-193684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B63H 25/42,20/08-20/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クランプブラケットに対してスイベルシャフトを介してチルト回動するスイベルブラケットにステアリングシャフトが配置され、前記ステアリングシャフトにアクチュエータの駆動力を伝達することで船外機を操舵する船外機のステアリング装置であって、
前記アクチュエータは、
前記ステアリングシャフトに駆動力を提供する駆動力提供部
と、
前記クランプブラケットに配置され、前記スイベルシャフトの軸線と同方向に往復運動することで前記ステアリングシャフトを回動させる油圧シリンダと、を有し、
前記駆動力提供部は、
前記クランプブラケットに配置されると共に、前記船外機の側面視において前記クランプブラケットの両側の締結部を船体側に締結する方向と略直交する方向に配置され
、
前記駆動力提供部は、更に、
電動モータと前記電動モータにより駆動される油圧ポンプとを有し、前記油圧ポンプからの油圧を前記油圧シリンダに送るように構成され、
該ステアリング装置は、
前記ステアリングシャフトに結合されるステアリングブラケットと前記油圧シリンダとの間を連結する、リンクアーム、回動リンクおよび固定リンクを有し、
前記回動リンクの一端と前記固定リンクの一端とは、前記スイベルシャフトの軸線上で回動可能に連結され、
前記回動リンクの一端と前記固定リンクの一端とが、前記クランプブラケットが締結されるトランサムよりも上側に位置することを特徴とする船外機のステアリング装置。
【請求項2】
前記クランプブラケット内に配置されて、前記油圧ポンプからの油圧を前記油圧シリンダに送るための油路を有し、
前記油路は、
前記スイベルシャフトの軸線の方向と略直交する方向に延びていることを特徴とする請求項
1に記載の船外機のステアリング装置。
【請求項3】
前記スイベルブラケットをチルト回動させるためのパワーチルトトリム用アクチュエータが配置され、
前記パワーチルトトリム用アクチュエータおよび前記駆動力提供部は、前記クランプブラケットの一対の締結孔のピッチ内に位置することを特徴とする請求項1
または2に記載の船外機のステアリング装置。
【請求項4】
ステアリングの操舵角を、前記油圧シリンダの端部に配置されたストロークセンサまたはステアリングブラケットに配置した回転角センサにより検出することを特徴とする請求項
1ないし
3の何れか1項に記載の船外機のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、船外機のステアリング装置に関するものである。特に、アクチュエータにより船外機を操舵するステアリング装置に用いられて好適である。
【背景技術】
【0002】
船外機の操舵を容易にするためにアクチュエータを用いたステアリング装置が従来から知られている。
特許文献1に開示された船外機のパワーステアリング装置は、パワーユニットがトランサムの外側に位置する左右一対のクランプブラケットの前部に配設されている。パワーユニットのモータが回転することによりピンオン等を介してラックが軸方向に往復動し、リンク機構を介して船外機が操舵されることで操舵荷重が軽減される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1では、モータボックスがスイベル軸と平行に配置される構造いわゆる横置きであるために、モータボックスの大きさや位置によっては、クランプブラケットをトランサムに締結するためのボルトを締結する方向と干渉してしまう。したがって、クランプブラケットを介して船外機をトランサムに組付けるときの組付け性に問題が生じてしまう。
【0005】
また、アクチュエータに電動モータを用いる構造では、電動モータの駆動力を向上させるには電動モータの直径を大きくするか、全長を長くするかの何れかの対応が必要になる。しかしながら、特許文献1のパワーステアリング装置ではモータボックスが横置きであるために、駆動力を向上させるために電動モータの大きさを変更すると、更に上述した組付け性の問題が拡大してしまう。
【0006】
本発明は、上述したような問題点に鑑みてなされたものであり、ステアリング装置をコンパクトに構成することで船外機をトランサムに組付けるときの組付け性を向上させることを目的とする。
また、本発明は組付け性を向上させるための設計変更を、既存のブラケット装置の構成をベースにすることで改造部分を減らして設計変更に関するコストを削減させる。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る船外機のステアリング装置は、クランプブラケットに対してスイベルシャフトを介してチルト回動するスイベルブラケットにステアリングシャフトが配置され、前記ステアリングシャフトにアクチュエータの駆動力を伝達することで船外機を操舵する船外機のステアリング装置であって、前記アクチュエータは、前記ステアリングシャフトに駆動力を提供する駆動力提供部と、前記クランプブラケットに配置され、前記スイベルシャフトの軸線と同方向に往復運動することで前記ステアリングシャフトを回動させる油圧シリンダと、を有し、前記駆動力提供部は、前記クランプブラケットに配置されると共に、前記船外機の側面視において前記クランプブラケットの両側の締結部を船体側に締結する方向と略直交する方向に配置され、前記駆動力提供部は、更に、電動モータと前記電動モータにより駆動される油圧ポンプとを有し、前記油圧ポンプからの油圧を前記油圧シリンダに送るように構成され、該ステアリング装置は、前記ステアリングシャフトに結合されるステアリングブラケットと前記油圧シリンダとの間を連結する、リンクアーム、回動リンクおよび固定リンクを有し、前記回動リンクの一端と前記固定リンクの一端とは、前記スイベルシャフトの軸線上で回動可能に連結され、前記回動リンクの一端と前記固定リンクの一端とが、前記クランプブラケットが締結されるトランサムよりも上側に位置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ステアリング装置をコンパクトに構成することで船外機をトランサムに組付けるときの組付け性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図2】ブラケット装置を後側かつ左側から見た斜視図である。
【
図3】ブラケット装置を前側かつ右側から見た斜視図である。
【
図4】ブラケット装置を上側から見た平断面図である。
【
図5】左側の締結部を省いたブラケット装置を後側かつ左側から見た斜視図である。
【
図6】ブラケット装置の軸線Lc位置での平断面図である。
【
図7】ステアリング用アクチュエータの構成を示す斜視図である。
【
図8】伝達部を左側かつ上側から見た斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明に係る実施形態は、ステアリングシャフト65に駆動力を提供する駆動力提供部が、クランプブラケット30に配置されると共に、船外機1の側面視においてクランプブラケット30の両側の締結部31R,31Lを船体側に締結する方向と略直交する方向に配置される。したがって、駆動力提供部をコンパクトに構成できるので、駆動力提供部がクランプブラケット30を締結するボルトの締結する方向と干渉することが抑制される。そのために、クランプブラケット30を介して船外機1をトランサム3に組付けるときの組付け性を向上させることができる。
【0011】
(実施例)
以下、添付図面を参照して、本実施形態に係る実施例について説明する。
図1は、船外機1の構成の一例を示す左側面図である。なお、
図1を含む以下の図面には、船外機1が船体2に取り付けられた状態を基準として、前側を矢印「前」で示し、その逆を後側とする。また、左側を矢印「左」で示し、その逆を右側とする。また、船外機1の上側を矢印「上」で示し、その逆を下側とする。なお、前側とは、船体2が進行する方向と同じ方向とする。
【0012】
本実施例の船外機1は、船外機本体10と、船外機本体10を船体2の後部に位置するトランサム3に取り付けるためのブラケット装置20とを備える。また、本実施例の船外機1のステアリング装置100は、一部がブラケット装置20内に組み込まれるように構成される。以下では、船外機本体10およびブラケット装置20を説明した後にステアリング装置100について詳細に説明する。
【0013】
船外機本体10は、エンジンカバー11によって覆われるエンジン12を備える。エンジンカバー11の下側にはドライブシャフトハウジング13が配置され、エンジン12から下側に向かって略鉛直に延出するドライブシャフト14の周囲を覆う。ドライブシャフトハウジング13の下側にはギアケース15が配置され、ドライブシャフト14の回転を伝達するベベルギア16、プロペラシャフト17等を収容する。ギアケース15の後側にはプロペラ18が配置され、回転することにより船外機1が前側に向かって推進する。
【0014】
図2は、ブラケット装置20を後側かつ左側から見た斜視図である。
図3は、ブラケット装置20を前側かつ右側から見た斜視図である。
図4は、ブラケット装置20を上側から見た平面図である。
【0015】
ブラケット装置20は、クランプブラケット30、スイベルブラケット60、パワーチルトトリム装置70を有する。
クランプブラケット30は、トランサム3に締結され、船外機本体10をチルトアップさせたりチルトダウンさせたりするときの固定側となる。なお、チルトアップさせたりチルトダウンさせたりすることをチルト回動というものとする。クランプブラケット30は、左右一対の締結部31R,31Lと、ハウジング51とを有し、締結部31R,31Lとハウジング51とが結合されて一体的に構成される。
締結部31Rと締結部31Lとは、略左右対称な形状であり、ハウジング51を挟んで互いに左右に離れて位置する。締結部31R,31Lは、それぞれ前壁部32と側壁部36とを有する。
【0016】
前壁部32は上下方向に沿って長い板状であり、前面33がトランサム3と対面する。前壁部32には、クランプブラケット30をトランサム3に締結するためのボルトが挿通される締結孔34a,34bを有する。締結孔34a,34bは、前面33と直交する方向、すなわち略前後方向に沿った孔である。本実施例では、複数(例えば6つ)の締結孔34aが前壁部32の上側に位置し、複数(例えば6つ)の締結孔34bが前壁部32の下側に位置する。各締結孔34aおよび各締結孔34bは、それぞれ上下に間隔を空けて形成される。また、本実施例では、複数の締結孔34aが複数の締結孔34bよりもクランプブラケット30の左右方向の中心から離れて位置する。したがって、後述する
図6に示すように、締結部31Rの締結孔34aと締結部31Lの締結孔34aとの一対の締結孔34aのピッチP1は、締結部31Rの締結孔34bと締結部31Lの締結孔34bとの一対の締結孔34bのピッチP2よりも長い。複数の締結孔34aおよび複数の締結孔34bのうちトランサム3の仕様に応じた締結孔にボルトを挿通して締結される。
【0017】
側壁部36は、前壁部32の後端および上端から一体で後側かつ上側に突出する上下に沿って長い形状である。側壁部36には、上側かつ前側にスイベルシャフト37が挿通される挿通孔38を有する。側面視において、挿通孔38は前壁部32の上端よりも上側に位置する。締結部31Rの挿通孔38と締結部31Lの挿通孔38とに亘ってスイベルシャフト37が挿通される。
また、側壁部36は、挿通孔38よりも後側かつ下側に後述するステアリング用油圧シリンダ104が収容される収容孔39を有する。側面視において、収容孔39は前壁部32の上端の後側に位置する。締結部31Rの収容孔39と締結部31Lの収容孔39とに亘ってステアリング用油圧シリンダ104が架け渡された状態で収容される。
また、側壁部36は、収容孔39よりも下側に、締結部31R,31Lをハウジング51に結合するための結合孔40を有する。本実施例では、複数(例えば6つ)の結合孔40がそれぞれ上下および前後に間隔を空けて形成される。
【0018】
一方、ハウジング51は、締結部31Rと締結部31Lとの間に位置する。ハウジング51は前側から見て略U字状であり、前面52がトランサム3と対面すると共に前壁部32の前面33と略面一である。
ハウジング51は、下側に位置する略ブロック状の基端部53と、基端部53の上端の左右からそれぞれ上側に向かって延びる左右一対の支持部54R,54Lとを有する。基端部53と、支持部54R,54Lとによって囲まれた空間には、後述するステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103が収容される。また、支持部54R,54Lは上側にステアリング用油圧シリンダ104が結合される。また、基端部53および支持部54R,54Lはそれぞれ、締結部31R,31Lの側壁部36と対面する側面に結合孔40と連通するボルト孔55を有する(後述する
図5、
図7を参照)。側壁部36の各結合孔40を通してボルトをボルト孔55に締結することでハウジング51の左右両側に締結部31R,31Lが結合される。このように、ハウジング51に締結部31R,31Lを結合して一体的に構成することで、クランプブラケット30の剛性を向上させることができる。
【0019】
スイベルブラケット60は、トランサム3に締結されたクランプブラケット30に対してスイベルシャフト37を中心に船外機本体10をチルト回動させるときの可動側となる。なお、以下ではスイベルブラケット60がチルトダウンした場合を前提に説明する。
スイベルブラケット60は、締結部31Rの側壁部36と締結部31Lの側壁部36との間に位置する。スイベルブラケット60は上側部61と後側部63とを有し、上側および後側からハウジング51を覆う形状である。
【0020】
上側部61は、略水平方向に広がる略板状の形状である。
図3に示すように、上側部61は、前端に側壁部36の挿通孔38に連通する左右方向に沿った挿通孔62を有する。スイベルシャフト37が挿通孔38および挿通孔62に挿通されることで、スイベルブラケット60がクランプブラケット30に対してチルト回動可能に支持される。
後側部63は、上側部61の後端から略直交方向に湾曲して連続する左右方向および上下方向に広がる略板状の形状である。後側部63には、略上下方向に貫通する軸孔64が形成され、ステアリングシャフト65が軸線Lt回りに回動可能に挿通される。ステアリングシャフト65は、上端にステアリングブラケット66がスプライン嵌合あるいは溶接によって固定される。
【0021】
ステアリングブラケット66は前後方向に沿って延びる板状である。ステアリングブラケット66の前端には、タイバー(船外機を多数機搭載したときに船外機同士を連結する連結バー)を取り付けるための取付部67を有する。一方、ステアリングブラケット66の後端には、ドライブシャフトハウジング13のアッパマウントと結合するための上側結合部68を有する。上側結合部68は前後方向の挿通孔にボルトを挿通させてアッパマウントと締結する。また、ステアリングシャフト65は、下端に図示しない下側結合部が固定され、下側結合部を介してドライブシャフトハウジング13のロアマウントと結合される。
ステアリングブラケット66がステアリングシャフト65の軸線Ltを中心に左右方向に回動すると、ステアリングブラケット66の上側結合部68およびステアリングシャフト65の下端の下側結合部を介して船外機本体10も軸線Ltを中心に回動する。
【0022】
パワーチルトトリム装置70は、パワーチルトトリム用アクチュエータを用いてスイベルブラケット60をチルト回動させる。
図5は、ブラケット装置20を後側かつ左側から見た斜視図であり、
図2から締結部31Lを除いた図である。
図6は、ステアリング用油圧シリンダ104を通過するようにブラケット装置20を水平方向に沿って切断し上側から見た平断面図である。
パワーチルトトリム装置70は、クランプブラケット30とスイベルブラケット60とにより囲まれる空間内に配置される。パワーチルトトリム装置70は、パワーチルトトリム用アクチュエータとして、パワーチルトトリム用電動モータ71、チルト用シリンダ72(
図6を参照)、トリム用シリンダ73(
図5を参照)を備える。
【0023】
パワーチルトトリム用電動モータ71は、図示しない油圧ポンプを駆動させることで、チルト用シリンダ72およびトリム用シリンダ73に油圧を送る。
図6に示すように、パワーチルトトリム用電動モータ71は、スイベルブラケット60の後側部63と、クランプブラケット30のハウジング51との間であって、左右方向の中心から左側(一方側)に偏って配置される。また、
図5に示すように、パワーチルトトリム用電動モータ71はモータ中心軸線Lpを略上下方向に指向させた状態でスイベルブラケット60に固定される。なお、パワーチルトトリム用電動モータ71は、締結部31R,31Lの締結孔34aと上下方向における位置が略同一である。
【0024】
チルト用シリンダ72は、ピストンロッドが往復運動することでステアリングブラケット66をチルト回動させる。
図6に示すように、チルト用シリンダ72は、スイベルブラケット60とクランプブラケット30のハウジング51との間であって左右方向の略中央に配置される。チルト用シリンダ72はシリンダチューブの下端がクランプブラケット30側に取り付けられ、ピストンロッドの上端がスイベルブラケット60の後側部63から前側に向かって突出する取付部63aに取り付けられる。
トリム用シリンダ73は、ピストンロッドが往復運動することで船外機本体10のトリム角度を調整できる。トリム用シリンダ73は、チルト用シリンダ72を挟んだ左右一対で構成される。トリム用シリンダ73はシリンダチューブがスイベルブラケット60側に取り付けられ、ピストンロッドがクランプブラケット30側に位置する。また、
図5に示すように、左側のトリム用シリンダ73は、パワーチルトトリム用電動モータ71の下側に位置する。
【0025】
上述したように構成されるブラケット装置20によれば、パワーチルトトリム装置70のパワーチルトトリム用電動モータ71を駆動させることで、チルト用シリンダ72のピストンロッドが上側に進出してスイベルブラケット60を押し上げる。したがって、スイベルブラケット60はクランプブラケット30に対してスイベルシャフト37の軸線Lsを中心にして回動する。スイベルブラケット60の回動に伴いステアリングシャフト65を介して取り付けられた船外機本体10は
図1の二点鎖線に示すようにチルトアップする。
【0026】
次に、本実施例に係る船外機のステアリング装置100について説明する。ステアリング装置100は、ステアリングシャフト65にステアリング用アクチュエータ101の駆動力が伝達されることで船外機1が操舵される。
ステアリング装置100は主に、ステアリング用アクチュエータ101と、ステアリング用アクチュエータ101の駆動力をステアリングブラケット66に伝達する伝達部120とを有する。本実施例では、ステアリング装置100の構成をコンパクトにするために、特にブラケット装置20にステアリング用アクチュエータ101を配置する位置に工夫を施している。
【0027】
まず、ステアリング用アクチュエータ101について説明する。
本実施例のステアリング用アクチュエータ101は、ステアリング用電動モータ102、ステアリング用油圧ポンプ103、ステアリング用油圧シリンダ104を備える。なお、ステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103は、ステアリングシャフト65に駆動力を与える駆動力提供部の一例として機能する。
【0028】
図7は、ステアリング用アクチュエータ101の構成を示す斜視図である。
図7に示すように、本実施例のステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103は、基端部53と、支持部54R,54Lとによって囲まれた空間に配置されることでハウジング51に収容される。ステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103はクランプブラケット30の左右方向の中央に位置する。
具体的には、ステアリング用油圧ポンプ103は基端部53の上面に固定され、ステアリング用電動モータ102がステアリング用油圧ポンプ103の上面に固定される。すなわち、ステアリング用電動モータ102とステアリング用油圧ポンプ103とは上下に並んだ略上下方向いわゆる縦置きに配置される。
図3および
図7では、この配置の方向を軸線Lrで示している。この軸線Lrは、
図3に示す締結部31R,31Lの締結孔34a,34bの軸線Lhに対して略直交する。したがって、側面視において、ステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103はクランプブラケット30を船体側に締結する方向と略直交する方向に配置される。更に、ステアリング用電動モータ102はモータ中心軸線も同様に略上下方向に沿った方向であり、軸線Lrに沿って配置される。
【0029】
ステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103を略上下方向に沿って配置することで、ステアリング用電動モータ102とステアリング用油圧ポンプ103とを合わせた全体のサイズが上下方向に長く、左右・前後方向に短く配置できる。特に、ハウジング51は略上下方向に沿って長い形状であることから、ステアリング用電動モータ102とステアリング用油圧ポンプ103とをハウジング51に効率よく配置することができる。
【0030】
本実施例では、ステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103が一対の締結部31Rと締結部31Lとの間に収まる。より具体的には、
図6に示すように、ステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103は左右一対の締結孔34aのピッチP1に収まり、更には左右一対の締結孔34bのピッチP2に収まる。したがって、ステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103が締結孔34a,34bに挿通するボルトと干渉するのを抑制することができる。
また、本実施例では、上述したパワーチルトトリム装置70のアクチュエータとしてのパワーチルトトリム用電動モータ71も左右一対の締結孔34aのピッチP1あるいは左右一対の締結孔34bのピッチP2に収まる。したがって、パワーチルトトリム用電動モータ71が締結孔34aに挿通するボルトと干渉するのを抑制することができる。
更に、本実施例では、
図6に示すように、パワーチルトトリム用電動モータ71とステアリング用電動モータ102を互いのモータ中心軸線がスイベルシャフト37の軸線Ls方向にずらして配置している。比較的にサイズが大きい電動モータを軸線Ls方向にずらすことで、パワーチルトトリム用電動モータ71をより前側に近接して配置できるために、ブラケット装置20の前後方向のサイズをコンパクトに構成することができる。
【0031】
次に、
図7に示すように、ステアリング用油圧シリンダ104は、支持部54Rの上部と支持部54Lの上部との間に架け渡されるようにハウジング51に一体的に結合される。本実施形態のステアリング用油圧シリンダ104は、軸線Lcが左右方向に沿うように、すなわちスイベルシャフト37の軸線Lsと平行になるように配置される。
ステアリング用油圧シリンダ104は、シリンダチューブ105と、シリンダチューブ105内を往復動するピストン106を有する。
図6に示すように、シリンダチューブ105は、締結部31Rの側壁部36と締結部31Lの側壁部36との間に収まる。シリンダチューブ105内には第1室107aと第2室107bとが左右に分かれて形成される。また、シリンダチューブ105の左側面からピストンロッド108が延出する。
図2および
図6に示すように、ピストンロッド108はクランプブラケット30の締結部31Lの側壁部36の左側面から延出する。ステアリング用油圧シリンダ104は第1室107aに油圧が送られることでピストンロッド108が左側に向かって進出し、第2室107bに油圧が送られることでピストンロッド108が右側に向かって後退する。
【0032】
なお、本実施例ではシリンダチューブ105の右側の端部にストロークセンサ110が取り付けられる。ストロークセンサ110はピストンロッド108のストローク量を検出する。なお、ピストンロッド108は伝達部120を介してステアリングブラケット66に連結されることから、ストロークセンサ110は操舵角を間接的に検出する。
図3および
図4に示すように、ストロークセンサ110は締結部31Rの側壁部36の右側面から延出する。
【0033】
また、ハウジング51は内部にステアリング用油圧ポンプ103とステアリング用油圧シリンダ104との間で作動油を流出入させるための油路112が形成される。
図7に示すように、油路112は、ステアリング用油圧ポンプ103からシリンダチューブ105の第1室107aに繋がる第1油路113aと、ステアリング用油圧ポンプ103からシリンダチューブ105の第2室107bに繋がる第2油路113bとを有する。
第1油路113aおよび第2油路113bは、基端部53の上部から互いに左右に離れる方向に延びた後に、それぞれ支持部54Rおよび支持部54Lに沿って上側に向かって延びるメイン油路114を経由して、更に互いに左右に離れる方向に延びた後に第1室107aおよび第2室107bに繋がる。第1油路113aおよび第2油路113bのメイン油路114は、ステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103を挟み左右に位置し、スイベルシャフト37の軸線Lsに対して略直交する方向、より具体的には略上下方向に沿って延びる。油路112をハウジング51内に形成して外部に露出させないことでハウジング51周辺の構造を簡略化でき、外力や腐食に対する耐久性を向上させることができる。
このように、ステアリング用アクチュエータ101は、油路112を含めてハウジング51に対して一体的に構成されることで剛性を高めることができる。
【0034】
次に、伝達部120について
図2~
図6、
図8を参照して説明する。
図8は、伝達部120を左側かつ上側から見た斜視図である。
本実施例の伝達部120は、固定リンク121、回動リンク123、リンクアーム125、スライドシャフト127を備える。
固定リンク121は、締結部31Lの側壁部36から左側に離れて位置し、一端部122aから他端部122bに向かうにしたがって後側かつ下側に傾斜して延出する。固定リンク121の他端部122bはステアリング用油圧シリンダ104の軸線Lcの延長線上に位置し、ピストンロッド108の左端(先端)と結合される。したがって、固定リンク121はピストンロッド108の進出および後退に連動して、左右方向に沿って移動する。一方、固定リンク121の一端部122aは、トランサム3の上端よりも上側に位置し、回動リンク123と連結される。また、固定リンク121は回動リンク123が回動するときのガイドとなるように、固定リンク121の一端部122aが回動リンク123の左右に位置する。
【0035】
回動リンク123は、締結部31Lの側壁部36から左側に離れて位置し、一端部124aから他端部124bに向かうにしたがって後側に向かって延出する。回動リンク123の一端部124aは固定リンク121の一端部122aと回動可能に連結される。ここで、回動リンク123の一端部124aと固定リンク121の一端部122baの間の回動軸線は、スイベルシャフト37の軸線Lsと一致する。また、回動リンク123の一端部124aおよび固定リンク121の一端部122aはスライドシャフト127と連結される。一方、回動リンク123の他端部124bはリンクアーム125と連結される。
【0036】
リンクアーム125は、ブラケット装置20の上側に離れて位置する。
図4に示すように平面視において、リンクアーム125は略左右方向に延出し、一端部126aが締結部31Lから左側に離れて位置し、他端部126bがブラケット装置20の左右方向の略中央に位置する。リンクアーム125の一端部126aは回動リンク123の他端部124bに回動可能に連結される。ここで、リンクアーム125の一端部126aと回動リンク123の他端部124bとの間の回動軸線Laは略上下方向であり、ステアリングシャフト65の軸線Ltと略平行である。一方、リンクアーム125の他端部126bはステアリングブラケット66の前端よりも後側の位置で回動可能に連結される。ここで、リンクアーム125の他端部126bとステアリングブラケット66との間の回動軸線Lbは略上下方向であり、ステアリングシャフト65の軸線Ltと略平行である。
【0037】
スライドシャフト127は、スイベルシャフト37の左端から延出する。スライドシャフト127は一部がスイベルシャフト37内に挿入され、スイベルシャフト37に沿ってすなわち左右方向に沿ってスライド可能である。スライドシャフト127の先端は、回動リンク123の一端部124aおよび固定リンク121の一端部122aに連結される。スライドシャフト127は、ピストンロッド108の進出および後退に応じて固定リンク121および回動リンク123が左右方向に沿って移動するのをガイドする。
【0038】
次に、ステアリング装置100により船外機本体10を操舵する動作について説明する。
船外機本体10に配置されるECUは、操船者による操舵の指示を受け付けることにより、ステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103を介してステアリング用油圧シリンダ104に油圧を送るように制御する。具体的に、ステアリング用電動モータ102は、ECUによる制御の下、操船者による操舵の指示に応じて第1室107aまたは第2室107bに油圧を送るようにステアリング用油圧ポンプ103を駆動する。
【0039】
ステアリング用油圧シリンダ104では第1室107aに油圧が送られた場合にはピストンロッド108が左側に向かって進出するように移動し、第2室107bに油圧が送られた場合にはピストンロッド108が右側に向かって後退するように移動する。
ピストンロッド108の移動は、伝達部120を介してステアリングブラケット66に伝達される。具体的に、ピストンロッド108による左側または右側への移動に応じて、固定リンク121、回動リンク123およびリンクアーム125も連動して左側または右側に移動する。したがって、リンクアーム125に連結されたステアリングブラケット66はリンクアーム125の移動に連動して、平面視でステアリングシャフト65の軸線Ltを中心に左回りまたは右回りに水平方向に回動する。
【0040】
ステアリングブラケット66が回動することで船外機本体10も水平方向に回動するために、ステアリング装置100によって船外機1が操舵される。なお、ECUはストロークセンサ110から受信したストローク量の情報に基づいて現在の操舵角を検出する。したがって、ECUは指示された操舵角になるようにステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103を制御することができる。
【0041】
次に、船外機本体10をチルト回動するときのステアリング装置100の伝達部120の動作について説明する。本実施例のステアリング装置100の伝達部120は互いに回動可能な固定リンク121と回動リンク123とを有することで、伝達部120が妨げとならずにチルト回動可能である。
クランプブラケット30に対してスイベルシャフト37の軸線Lsを中心にスイベルブラケット60がチルト回動する場合に、ステアリングシャフト65に固定されたステアリングブラケット66も同様にチルト回動する。ステアリングブラケット66のチルト回動に伴って、ステアリングブラケット66に連結されたリンクアーム125および回動リンク123も回動しようとする。ここで、上述したように、回動リンク123の一端部124aは固定リンク121の一端部122aと回動可能に連結され、両者の回動軸線はスイベルシャフト37の軸線Lsと一致する。したがって、回動リンク123は固定リンク121に対してスイベルシャフト37の軸線Lsを中心に回動することで、伝達部120によって妨げられずに、クランプブラケット30に対してスイベルブラケット60がチルト回動可能である。
【0042】
以上のように本実施例では、船外機1の側面視において、駆動力提供部としてのステアリング用電動モータ102とステアリング用油圧ポンプ103とが、クランプブラケット30を船体側に締結する方向と略直交する方向、本実施例では略上下方向に配置される。ステアリング用電動モータ102とステアリング用油圧ポンプ103を略上下方向に配置することで左右方向に短くコンパクトに構成できる。したがって、ステアリング用電動モータ102とステアリング用油圧ポンプ103とが締結孔34a,34bに挿通するボルトと干渉することが抑制される。したがって、締結孔34a,34bにボルトを挿通させて船外機1をトランサム3に組付けるときの組付け性を向上させることができる。
【0043】
また、本実施例のブラケット装置20は、クランプブラケット30に対してチルト回動するスイベルブラケット60をスイベルシャフト37の軸線Lsに対して回動させるという従来の構成を踏襲している。したがって、既存の構成をベースにして本実施例のステアリング装置100を追加あるいは改良するように設計変更することで対応できることから設計変更に関するコストを削減することができる。
【0044】
また、本実施例のステアリング装置100のアクチュエータは、クランプブラケット30に配置され、スイベルシャフト37の軸線Lsと同方向に往復運動するステアリング用油圧シリンダ104を有する。ステアリング用電動モータ102により駆動されるステアリング用油圧ポンプ103が油圧をステアリング用油圧シリンダ104に送る。このように、スイベルシャフト37の軸線Lsと同方向に往復運動するステアリング用油圧シリンダ104は、従来のようなラックを往復運動させる場合に比べて全長に亘ってラックを形成する必要がない分だけアクチュエータの左右方向のサイズを短くできる。そのため、アクチュエータが締結孔34a,34bと干渉するのを抑制あるいは防止することができる。したがって、締結孔34a,34bにボルトを挿通させて船外機1をトランサム3に組付けるときの組付け性を向上させることができる。
【0045】
また、本実施例のステアリング装置100は、ステアリング用油圧ポンプ103からの油圧をステアリング用油圧シリンダ104に送るための油路112がクランプブラケット30内、本実施例ではハウジング51内に配置されている。このように油路112をハウジング51内に配置することにより、クランプブラケット30の構造を簡略化でき、外力や腐食に対する耐久性を向上させることができる。
【0046】
また、本実施例のステアリング装置100は、ステアリングブラケット66とステアリング用油圧シリンダ104との間をリンクアーム125、回動リンク123および固定リンク121で連結する。そして、回動リンク123の一端部124aと固定リンク121の一端部122aとがスイベルシャフト37の軸線Ls上で回動可能に連結される。したがって、スイベルブラケット60がチルト回動するときに、回動リンク123が固定リンク121に対してスイベルシャフト37の軸線Lsを中心に回動できるので、スイベルブラケット60はステアリング装置100によって妨げられずにチルト回動可能である。
【0047】
また、本実施例のステアリング装置100は、パワーチルトトリム用アクチュエータのパワーチルトトリム用電動モータ71と、ステアリング用電動モータ102およびステアリング用油圧ポンプ103とが、クランプブラケット30の一対の締結孔34aのピッチP1内あるいは一対の締結孔34bのピッチP2内に位置する。したがって、締結孔34a,34bにボルトを挿通させて船外機1をトランサム3に組付けるときの組付け性を向上させることができる。
【0048】
また、本実施例のステアリング装置100は、ステアリング用油圧シリンダ104の端部に配置されたストロークセンサ110がピストンロッド108のストローク量を検出することにより間接的に操舵角を検出する。したがって、ステアリング装置100は操船者により指示された操舵角になるように船外機1を操舵することができる。なお、ストロークセンサ110が操舵角を検出する場合に限られず、ステアリングブラケット66に配置した回転角センサにより操舵角を検出してもよい。
【0049】
以上、本発明に係る実施例について説明したが、本発明は上述した実施例にのみ限定されるものではなく、本発明の範囲内で変更等が可能である。
上述した実施例では、船外機1がエンジン12を備える場合について説明したが、この場合に限られず、船外機1は船体2を推進させる装置を備えていればよい。
また、上述した実施例では、ステアリング装置100のステアリング用油圧シリンダ104のピストンロッド108がシリンダチューブ105の左側面から延出する場合について説明したが、シリンダチューブ105の右側面から延出してもよい。この場合には上述した構成に対して左右反転させて、固定リンク121、回動リンク123およびリンクアーム125も右側に配置する。
【符号の説明】
【0050】
1:船外機 30:クランプブラケット 34a,34b:締結孔 60:スイベルブラケット 65:ステアリングシャフト 66:ステアリングブラケット 71:パワーチルトトリム用電動モータ 72:チルト用シリンダ 73:トリム用シリンダ 100:ステアリング装置 102:ステアリング用電動モータ(電動モータ) 103:ステアリング用油圧ポンプ(油圧ポンプ) 104:ステアリング用油圧シリンダ(油圧シリンダ) 110:ストロークセンサ 112:油路 121:固定リンク 123:回動リンク 125:リンクアーム