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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】車両の制動制御装置
(51)【国際特許分類】
   B60T 8/17 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
B60T8/17 B
B60T8/17 C
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018224315
(22)【出願日】2018-11-30
(65)【公開番号】P2020083229
(43)【公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-10-18
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 俊哉
(72)【発明者】
【氏名】増田 芳夫
【審査官】山田 康孝
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-111251(JP,A)
【文献】特開2001-055127(JP,A)
【文献】特開2006-322349(JP,A)
【文献】特開2008-001232(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 7/12-8/1769
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の制動操作部材の操作力をシミュレータによって発生し、前記制動操作部材の操作量に応じてホイールシリンダの制動液圧を調整するブレーキ・バイ・ワイヤ方式の車両の制動制御装置であって、
電気モータによって駆動されるギヤポンプと、
前記ギヤポンプの吐出部に設けられる逆止弁と、
前記ギヤポンプが吐出する制動液を調整液圧に調節し、該調整液圧によって前記制動液圧を調整する調圧弁と、
前記操作量に基づいて前記電気モータ、及び、前記調圧弁を制御するコントローラと、
を備え、
前記コントローラは、
前記操作量に応じた目標液圧が保持された場合には、前記電気モータを停止する停止指示を行い、
前記停止指示が開始された開始時点から所定時間に亘って、前記電気モータへの通電を継続し、
前記所定時間は、前記吐出部と前記逆止弁との間に残留した液圧が前記電気モータを逆転させない程度にまで低下するのに要する時間である、車両の制動制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の車両の制動制御装置において、
前記コントローラは、前記開始時点の液圧が大きいほど、前記所定時間を長くする、車両の制動制御装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両の制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、「アキュムレータを用いることなくポンプを用いたコンパクトな構成とするとともに、ポンプとしてABS制御兼用の高吐出圧のものを用いた構成としながら、エネルギ損失の削減を図り、かつ使用頻度ならびに発熱を抑えて耐久性の向上を図り、かつABS制御時に作動不良が生じることの無いようにして装置の信頼性向上を図ること」を目的に、「走行状態判断手段hが判断する走行状態に応じて、車両の制動の必要性ならびにホイールシリンダbに供給するブレーキ液圧である目標液圧を決定し、この決定に応じてポンプgのモータMならびにゲート弁dを作動させて自動的に制動力を発生させる自動制動制御を実行する制御手段jを備えたブレーキ制御装置であって、制御手段jを、自動制動制御の実行時には、モータMを目標液圧に応じて比例制御により作動させるとともに、ゲート弁dの開度を目標液圧に応じて比例制御により作動させる」ことが記載されている。
【0003】
更に、特許文献1には、「制御手段は、自動制動制御の実行中にホイールシリンダのブレーキ液圧の保持要求時には、前記ゲート弁を遮断するとともに、モータの作動を停止させる。制御手段は、自動制動制御の実行中に保持要求に伴ってゲート弁の閉弁およびモータの作動停止を行うときには、モータに対して出力している比例信号のデューティ比を徐々に小さくしてから停止させるオーバシュート防止制御を実行する」ことも記載されている。
【0004】
特許文献2には、「ポンプモータの耐久性を確保しつつ、勾配路面での停車時に制動力不足による車両の再度動き出しを防止すること」を目的に、「ハイブリッド車のブレーキ制御装置は、マスタシリンダ13と、ホイールシリンダ4FL,4FR,4RL,4RRと、VDCブレーキ液圧アクチュエータ2と、モータOFF開始タイミング制御部9cと、を備える。モータOFF開始タイミング制御部9cは、勾配路面にて車両停止の可能性があるとの判断中、路面勾配にて車両停止維持が可能な車両停止維持可能制動力とドライバ入力により発生する実制動力を演算し、車両停止維持可能制動力が実制動力より大きい間は、VDCモータ21の作動を許容し、車両停止維持可能制動力が実制動力以下になると、VDCモータ21の停止を開始する」ことが記載されている。
【0005】
更に、特許文献2には、「MC圧>0であると判断されると、VDCモータ21のモータ回転数低下勾配が緩やかに制限される。これによって、VDCモータの停止に伴うマスタシリンダ圧の上昇勾配も緩やかになり、ブレーキペダルフィーリングの違和感を低減する。MC圧≦0であると判断されると、VDCモータのモータ回転数低下勾配の制限をなくし、素早いモータ停止状態への移行が選択される。ドライバの踏み込み操作量が、マスタシリンダ圧が発生しないロスストローク領域である場合には、VDCモータを停止してもペダル反力が高くなることが無いため、VDCモータを急に停止してもブレーキペダルフィーリングの違和感の問題が発生しない」ことが記載されている。
【0006】
ところで、出願人は、車両の制動制御装置にて、省電力化が図られるよう、電動ポンプと調圧弁との間の調圧流体路の液圧を調整する調圧ユニットと、電動ポンプ調圧弁を制御するコントローラと、を備える装置であって、コントローラが、操作量に基づいて操作速度相当値を演算し、操作速度相当値に基づいて目標回転数を演算し、電動ポンプの実際の回転数が目標回転数に近づくように電動ポンプを制御するものを開発している(特許文献3を参照)。該装置では、コントローラによって、操作速度相当値が一定である又は減少する場合には、調整流量が「0」に演算され、操作速度相当値が増加する場合には、調整流量が操作速度相当値の増加に従って大きくなるように演算され、調整流量に基づいて目標回転数が演算される。例えば、制動操作部材BPの保持時又は戻し時に、電動ポンプは停止状態にされる。なお、該制動制御装置は、ブレーキ・バイ・ワイヤ方式であるため、制動操作部材BPの操作力Fpは、ストロークシミュレータSSによって発生される。
【0007】
電動ポンプDNの流体ポンプとしてギヤポンプGPが採用される場合、ギヤポンプGPの吐出側に或る程度の液圧が発生していると、制動液BFによって、ギヤポンプGPは逆転方向に動かされる。ギヤポンプGPのギヤ部には、バックラッシュがあるため、この逆転方向に動きに起因して、歯打ち音が発生することがある。また、電動ポンプDNにおいて、電気モータMTとギヤポンプGPとが、カップリングCPを介して固定されている場合には、バックラッシュと同様に、カップリング(軸継手)CPのガタに起因する打音が生じ得る。ギヤポンプGPが採用される制動制御装置においては、電気モータMTが停止される際の、上述した打音が抑制され得るものが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2001-055127号
【文献】特開2013-112240号
【文献】特願2018-119953号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明の目的は、液圧源にギヤポンプが採用されたブレーキ・バイ・ワイヤ方式の車両の制動制御装置において、ギヤポンプのバックラッシュ等に起因する打音が抑制され、静寂性が向上され得るものを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る車両の制動制御装置は、車両の制動操作部材(BP)の操作力(Fp)をシミュレータ(SS)によって発生し、前記制動操作部材(BP)の操作量(Ba)に応じてホイールシリンダ(CW)の制動液圧(Pw)を調整するブレーキ・バイ・ワイヤ方式のものであって、電気モータ(MT)によって駆動されるギヤポンプ(GP)と、前記ギヤポンプ(GP)の吐出部(Qt)に設けられる逆止弁(GC)と、前記ギヤポンプ(GP)が吐出する制動液(BF)を調整液圧(Pa)に調節し、該調整液圧(Pa)によって前記制動液圧(Pw)を調整する調圧弁(UA)と、前記操作量(Ba)に基づいて前記電気モータ(MT)、及び、前記調圧弁(UA)を制御するコントローラ(ECU)と、を備える。

【0011】
本発明に係る車両の制動制御装置では、前記コントローラ(ECU)は、前記操作量(Ba)に応じた目標液圧(Pt)が保持された場合には、前記電気モータ(MT)を停止する停止指示を行い、前記停止指示が開始された開始時点(t2)から所定時間(Tx)に亘って、前記電気モータ(MT)への通電を継続するよう構成される。ここで、前記所定時間(Tx)は、前記吐出部(Qt)と前記逆止弁(GC)との間に残留した液圧が前記電気モータ(MT)を逆転させない程度にまで低下するのに要する時間である。例えば、前記コントローラ(ECU)は、前記開始時点(t2)の液圧(Ph)が大きいほど、前記所定時間(Tx)を長くする。

【0012】
上記構成によれば、電気モータの停止指示が行われても、直ちには、電気モータへの通電が停止されない。ギヤポンプの内部漏れを利用して、ギヤポンプの吐出部の液圧(残圧)が低下するのを待って、開始時点から所定時間を経過した後に電気モータへの通電が停止される(通電量が「0」にされる)。ギヤポンプの吐出部の残圧によって、ギヤポンプが逆転されないため、バックラッシュ等によって発生する打音が抑制され、静寂性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係る車両の制動制御装置SCの実施形態を説明するための全体構成図である。
図2】調圧制御の処理を説明するためのフロー図である。
図3】電気モータの駆動処理を説明するためのフロー図である。
図4】電気モータの逆転抑制制御の作動を説明するための時系列線図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
<構成部材等の記号、及び、記号末尾の添字>
以下の説明において、「ECU」等の如く、同一記号を付された構成部材、演算処理、信号、特性、及び、値は、同一機能のものである。各車輪に係る記号末尾に付された添字「i」~「l」は、それが何れの車輪に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「i」は右前輪、「j」は左前輪、「k」は右後輪、「l」は左後輪を示す。例えば、4つの各ホイールシリンダにおいて、右前輪ホイールシリンダCWi、左前輪ホイールシリンダCWj、右後輪ホイールシリンダCWk、及び、左後輪ホイールシリンダCWlと表記される。更に、記号末尾の添字「i」~「l」は省略され得る。添字「i」~「l」が省略された場合には、各記号は、4つの各車輪の総称を表す。例えば、「WH」は各車輪、「CW」は各ホイールシリンダを表す。
【0015】
車輪に係る記号の末尾に付された添字「f」、「r」は、それが前後輪の何れの系統に関するものであるかを示す包括記号である。具体的には、「f」は前輪系統、「r」は後輪系統を示す。例えば、各車輪のホイールシリンダCWにおいて、前輪ホイールシリンダCWf(=CWi、CWj)、及び、後輪ホイールシリンダCWr(=CWk、CWl)と表記される。更に、記号末尾の添字「f」、「r」は省略され得る。添字「f」、「r」が省略された場合には、各記号は、2つの各制動系統の総称を表す。例えば、「CW」は、前後の制動系統におけるホイールシリンダを表す。
【0016】
流体路において、リザーバRVに近い側(ホイールシリンダCWから遠い側)が「上部」と称呼され、ホイールシリンダCWに近い側(リザーバRVから遠い側)が「下部」と称呼される。また、制動液BFの還流(A)において、ギヤポンプGPの吐出部に近い側が「上流側」と称呼され、該吐出部から離れた側が「下流側」と称呼される。
【0017】
<制動制御装置SCの実施形態>
図1の全体構成図を参照して、本発明に係る制動制御装置SCの実施形態について説明する。制動制御装置SCには、2系統の流体路として、所謂、前後型(「II型」ともいう)のものが採用されている。ここで、流体路は、制動制御装置SCの作動液体である制動液BFを移動するための経路であり、制動配管、流体ユニット内の流路、ホース等が該当する。
【0018】
車両は、駆動用の電気モータGNを備えたハイブリッド車両、又は、電気自動車である。駆動用の電気モータGNは、エネルギ回生用のジェネレータ(発電機)としても機能する。例えば、ジェネレータGNは、前輪WHi、WHj(=WHf)に備えられる。ジェネレータGNは、駆動コントローラECDによって制御される。
【0019】
車両には、制動操作部材BP、ホイールシリンダCW、車輪速度センサVW、マスタリザーバRV、上部流体ユニットYU、及び、下部流体ユニットYLが備えられる。
【0020】
制動操作部材(例えば、ブレーキペダル)BPは、運転者が車両を減速するために操作する部材である。制動操作部材BPが操作されることによって、車輪WHの制動トルクが調整され、車輪WHに制動力が発生される。具体的には、車両の車輪WHには、回転部材(例えば、ブレーキディスク)KTが固定される。そして、回転部材KTを挟み込むようにブレーキキャリパが配置される。
【0021】
ブレーキキャリパには、ホイールシリンダCWが設けられている。ホイールシリンダCW内の制動液BFの圧力(制動液圧)Pwが増加されることによって、摩擦部材(例えば、ブレーキパッド)が、回転部材KTに押し付けられる。回転部材KTと車輪WHとは、一体的に回転するよう固定されているため、このときに生じる摩擦力によって、車輪WHに制動トルク(摩擦制動力)が発生される。
【0022】
各車輪WHには、車輪WHの回転速度である車輪速度Vwを検出するよう、車輪速度センサVWが備えられる。車輪速度Vwの信号は、車輪WHのロック傾向を抑制するアンチスキッド制御等に採用される。車輪速度センサVWによって検出された各車輪速度Vwは、下部コントローラECLに入力される。下部コントローラECLでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。
【0023】
マスタリザーバ(大気圧リザーバであり、単に、「リザーバ」ともいう)RVは、作動液体用のタンクであり、その内部に制動液BFが貯蔵されている。リザーバRVは、上部流体ユニットYUに接続されている。
【0024】
<上部流体ユニットYU>
上部流体ユニットYUは、操作量センサBA、マスタユニットYM、調圧ユニットYA、回生協調ユニットYK、及び、上部コントローラECUにて構成される。
【0025】
運転者による制動操作部材(ブレーキペダル)BPの操作量Baを検出するよう、操作量センサBAが設けられる。操作量センサBAとして、以下に列挙するセンサのうちの少なくとも1つが設けられる。制動操作部材BPの操作変位Spを検出する操作変位センサSPが設けられる。制動操作部材BPの操作力Fpを検出するよう、操作力センサFPが設けられる。ストロークシミュレータSS内の液圧(シミュレータ液圧)Psを検出するよう、シミュレータ液圧センサPSが設けられる。回生協調ユニットYKの入力室Rn内の液圧(入力液圧)Pnを検出するよう、入力液圧センサPNが設けられる。つまり、操作量センサBAは、上述の操作変位センサSP等の総称であり、検出された操作量Baとして、操作変位Sp、操作力Fp、シミュレータ液圧Ps、及び、入力液圧Pnのうちの少なくとも1つが用いられる。検出された制動操作量Baは、上部コントローラECUに入力される。
【0026】
上部コントローラECUによって、調圧ユニットYA、及び、回生協調ユニットYKが制御される。具体的には、操作量Baに基づいて、「調圧ユニットYAの電気モータMT、及び、調圧弁UA」、及び、「回生協調ユニットYKの第1、第2開閉弁VA、VB」が制御される。上部コントローラECUは、各信号(センサ検出値、演算値、等)が共有されるよう、下部コントローラECL、駆動コントローラECD等と通信バスBSを介して接続されている。
【0027】
[マスタユニットYM]
マスタユニットYMによって、マスタシリンダCMのマスタシリンダ室Rmを介して、前輪ホイールシリンダCWf内の液圧(前輪制動液圧)Pwfが調整される。マスタユニットYMは、マスタシリンダCM、及び、マスタピストンPM、及び、マスタ弾性体SMを含んで構成される。
【0028】
マスタシリンダCMは、底部を有する段付きのシリンダ部材である(即ち、小径部と大径部とを有する)。マスタシリンダCMとして、シングル型のものが採用されている。マスタピストンPMは、マスタシリンダCMの内部に挿入されたピストン部材であり、つば部(フランジ)Tmを有する。マスタシリンダCMとマスタピストンPMとは、シールSLにて封止されている。マスタピストンPMは、制動操作部材BPの操作に連動して移動可能である。マスタシリンダCMの内部は、マスタピストンPMによって、3つの液圧室Rm、Rs、Roに区画されている。マスタピストンPMは、マスタシリンダCMの中心軸線Jmに沿って、滑らかに移動可能である。
【0029】
マスタシリンダ室(単に、「マスタ室」ともいう)Rmは、「マスタシリンダCMの小径内周部、小径底部」、及び、マスタピストンPMの端部によって区画された液圧室である。マスタ室Rmには、マスタシリンダ流体路HMが接続される。マスタ室Rmは、下部流体ユニットYLを介して、最終的には、前輪ホイールシリンダCWf(=CWi、CWj)に接続される。
【0030】
マスタシリンダCMの内部は、マスタピストンPMのつば部Tmによって、サーボ液圧室(単に、「サーボ室」ともいう)Rsと反力液圧室(単に、「反力室」ともいう)Roとに仕切られている。サーボ室Rsは、「マスタシリンダCMの大径内周部、大径底部」、及び、マスタピストンPMのつば部Tmによって区画された液圧室である。サーボ室Rsには、前輪サーボ流体路HFが接続され、調圧ユニットYAから調整液圧Paが導入される。
【0031】
反力室Roは、マスタシリンダCMの大径内周部、段付部、及び、マスタピストンPMのつば部Tmによって区画された液圧室である。反力室Roは、中心軸線Jmの方向において、マスタ液圧室Rmとサーボ液圧室Rsとに挟まれ、それらの間に位置する。換言すれば、サーボ室Rsと反力室Roとは、つば部Tmを挟んで、相対するように配置される。従って、サーボ室Rsの体積が増加される場合に、反力室Roの体積が減少される。逆に、サーボ室体積が減少される場合には、反力室体積が増加される。反力室Roには、シミュレータ流体路HSが接続される。反力室Roによって、上部流体ユニットYU内の制動液BFの液量が調節される。
【0032】
マスタピストンPMの端部とマスタシリンダCMの小径底部との間には、マスタ弾性体(例えば、圧縮ばね)SMが設けられる。マスタ弾性体SMは、マスタシリンダCMの中心軸Jmの方向に、マスタピストンPMをマスタシリンダCMの大径底部に対して押し付けている。非制動時には、マスタピストンPMは、マスタシリンダCMの大径底部に当接している。この状態でのマスタピストンPMの位置が、「マスタユニットYMの初期位置」と称呼される。
【0033】
マスタシリンダCMには貫通孔が設けられ、マスタリザーバRVに接続される。マスタピストンPMが初期位置にある場合(即ち、非制動時)には、マスタ室Rmは、リザーバRVと連通状態にされる。
【0034】
マスタ室Rmは、その内圧(「マスタシリンダ液圧」であり、「マスタ液圧」ともいう)Pqfによって、中心軸線Jmに沿った後退方向Hbの付勢力Fb(「後退力」という)を、マスタピストンPMに対して付与する。サーボ室Rsは、その内圧(即ち、導入された調整液圧Pa)によって、後退力Fbに対向する前進方向Haの付勢力Fa(「前進力」という)を、マスタピストンPMに付与する。つまり、マスタピストンPMにおいて、サーボ室Rs内の液圧Paによる前進力Faとマスタ室Rm内の液圧(マスタ液圧)Pqfによる後退力Fbとは、中心軸線Jmの方向で互いに対抗し(向き合い)、静的には均衡している。マスタ液圧Pqfを検出するよう、マスタシリンダ液圧センサPQが設けられる。例えば、マスタシリンダ液圧センサPQは、マスタシリンダ流体路HMに設けられ得る。また、マスタシリンダ液圧センサPQは、下部流体ユニットYLに含まれていてもよい。
【0035】
[調圧ユニットYA]
調圧ユニットYAは、電動ポンプDN、逆止弁GC、調圧弁UA、及び、調整液圧センサPAを備えている。調圧ユニットYAによって、前輪ホイールシリンダCWfの液圧(前輪制動液圧)Pwf、及び、後輪ホイールシリンダCWrの液圧(後輪制動液圧)Pwrが調節される。
【0036】
電動ポンプDNは、電気モータMT、ギヤポンプ(流体ポンプ)GP、及び、カップリング(軸継手)CPによって構成される。1つの電気モータMT、及び、1つのギヤポンプGPが、カップリングCPを介して、それらが一体となって回転するよう固定される。ここで、カップリングCPは、電気モータMTの出力シャフトと、ギヤポンプGPの回転シャフトを連結する部品である。カップリングCPには、動力が適正に伝達され、各シャフト間の取り付け誤差が吸収されることが要求される。例えば、カップリングCPとして、オルダム型、ディスク型、スリット型、ピン・ブッシュ型等のものが採用される。
【0037】
液圧源であるギヤポンプGPにおいて、吸込口Qsは、第1リザーバ流体路HVに接続され、吐出口Qtは、調圧流体路HAの一方の端部に接続される。調圧流体路HAの他方の端部は、調圧弁UAに接続される。調圧流体路HAには、逆止弁GCが設けられる。この逆止弁GCによって、ギヤポンプGPの側から調圧弁UAの側に向けては、制動液BFは移動可能であるが、調圧弁UAの側からギヤポンプGPの側には、制動液BFは移動されない。調圧流体路HAの他方の端部は、調圧弁UAに接続される。また、調圧弁UAは、第2リザーバ流体路HUに接続される。ギヤポンプGPが、気泡を吸引しないよう、第1、第2リザーバ流体路HV、HUは、別々に、マスタリザーバRVに接続される。なお、第1リザーバ流体路HUは、部位Bvにて、第2リザーバ流体路HVに接続されてもよい。
【0038】
調圧流体路HAの他方の端部には、調圧弁UAが設けられる。つまり、調圧流体路HAには、調圧弁UAが設けられる。調圧弁UAは、通電状態(例えば、供給電流)に基づいて開弁量(リフト量)が連続的に制御されるリニア型の電磁弁(比例弁、差圧弁)である。調圧弁UAは、駆動信号Uaに基づいて、コントローラECUによって制御される。調圧弁UAとして、常開型の電磁弁が採用される。
【0039】
電動ポンプDNが駆動されると、「HV→GP→GC→UA→HU→RV→HV」ような、マスタリザーバRVを含んだ、制動液BFの還流路(A)が形成される。ここで、「還流路」は、作動液(制動液BF)の流れが、再び元の流れに戻る流体路である。なお、第2リザーバ流体路HUが、部位Bvにて第1リザーバ流体路HVに接続される場合には、還流路(A)は、「HV→GP→GC→UA→HU→HV」の順となる。何れにしても、還流路(A)には、ギヤポンプGP、及び、調圧弁UAが含まれている。
【0040】
調圧弁UAが全開状態にある場合(常開型であるため、非通電時)、調圧流体路HA内の液圧(調整液圧)Paは、略「0(大気圧)」である。調圧弁UAへの通電量が増加され、調圧弁UAによって還流(A)が絞られると、調圧流体路HAにおいて、ギヤポンプGPと調圧弁UAと間の液圧(調整液圧)Paが、「0」から増加される。
【0041】
調圧ユニットYAには、調整液圧Paを検出するよう、調整液圧センサPAが設けられる。なお、マスタユニットYMの諸元(マスタピストンPMの受圧面積等)は既知であるため、調整液圧センサPAに代えて、マスシリンダ液圧センサPQが用いられてもよい。つまり、調整液圧センサPAは、省略され得る。
【0042】
調圧流体路HAには、ギヤポンプGPと調圧弁UAとの間の部位Bgにて、前輪、後輪サーボ流体路HF、HRが接続される。前輪サーボ流体路HFはサーボ室Rsに接続される。従って、調整液圧Paはサーボ室Rsに導入(供給)される。マスタシリンダCMは、下部流体ユニットYLを介して、前輪ホイールシリンダCWfに接続されているため、調整液圧Paは、マスタシリンダCMを介して、前輪ホイールシリンダCWfに、間接的に導入される。後輪サーボ流体路HRは、下部流体ユニットYLを介して、後輪ホイールシリンダCWrに接続される。従って、調整液圧Paは、後輪ホールシリンダCWrに、直接、導入(供給)される。
【0043】
[回生協調ユニットYK]
回生協調ユニットYKによって、摩擦制動と回生制動との協調制御(「回生協調制御」という)が達成される。例えば、回生協調ユニットYKによって、制動操作部材BPは操作されているが、制動液圧Pwが発生しない状態が形成され得る。回生協調ユニットYKは、入力シリンダCN、入力ピストンPK、入力弾性体SN、第1開閉弁VA、第2開閉弁VB、ストロークシミュレータSS、シミュレータ液圧センサPS、及び、入力液圧センサPNにて構成される。
【0044】
入力シリンダCNは、マスタシリンダCMに固定された、底部を有するシリンダ部材である。入力ピストンPKは、入力シリンダCNの内部に挿入されたピストン部材である。入力ピストンPKは、制動操作部材BPに連動するよう、クレビス(U字リンク)を介して、制動操作部材BPに機械的に接続されている。入力ピストンPKには、つば部(フランジ)Tnが設けられる。入力シリンダCNのマスタシリンダCMへの取り付け面と、入力ピストンPKのつば部Tnとの間には、入力弾性体(例えば、圧縮ばね)SNが設けられる。入力弾性体SNは、中心軸線Jmの後退方向Hbに、入力ピストンPKのつば部Tnを入力シリンダCNの底部に対して押し付けている。
【0045】
非制動時には、マスタピストンPMの段付部がマスタシリンダCMの大径底部に当接し、入力ピストンPKのつば部Tnが入力シリンダCNの底部に当接している。非制動時には、入力シリンダCNの内部にて、マスタピストンPMの端面Mmと入力ピストンPKの端面Mnとの隙間Ksは、所定距離ks(「初期隙間」という)にされている。即ち、ピストンPM、PKが最も後退方向Hb(前進方向Haとは反対方向)の位置(各ピストンの「初期位置」という)にある場合(即ち、非制動時)に、マスタピストンPMと入力ピストンPKとは、所定距離ksだけ離れている。ここで、所定距離ksは、回生量Rgの最大値に対応している。回生協調制御が実行される場合には、隙間(「離間変位」ともいう)Ksは、調整液圧Paによって制御(調節)される。
【0046】
制動操作部材BPが、「Ba=0」の状態から踏み込まれると、入力ピストンPKは、その初期位置から、前進方向Ha(制動液圧Pwが増加する方向)に移動される。このとき、調整液圧Paが「0」のままであれば、マスタピストンPMは初期位置のままなので、入力ピストンPKの前進に伴い、隙間Ks(端面Mmと端面Mnとの間の距離)は、徐々に減少する。一方、調整液圧Paが「0」から増加されると、マスタピストンPMは、その初期位置から、前進方向Haに移動される。このため、隙間Ksは、調整液圧Paによって、「0≦Ks≦ks」の範囲で制動操作量Baとは独立して調整可能である。つまり、調整液圧Paが調整されることにより、入力ピストンPKとマスタピストンPMとの隙間Ksが調節され、回生協調制御が達成される。
【0047】
回生協調ユニットYKの入力室Rnと、マスタユニットYMの反力室Roとが、シミュレータ流体路HSにて接続される。シミュレータ流体路HSには、第1開閉弁VAが設けられる。第1開閉弁VAは、開位置、及び、閉位置を有する常閉型電磁弁である。シミュレータ流体路HSの第1開閉弁VAと反力室Roとの間の部位Bsに、第3リザーバ流体路HTが接続される。第3リザーバ流体路HTには、第2開閉弁VBが設けられる。第2開閉弁VBは、開位置、及び、閉位置を有する常開型電磁弁である。第1、第2開閉弁VA、VBは、開位置(連通状態)と閉位置(遮断状態)とを有する2位置の電磁弁(オン・オフ弁)である。第1、第2開閉弁VA、VBは、駆動信号Va、Vbに基づいて、上部コントローラECUによって制御される。制動制御装置SCの起動時に、第1、第2開閉弁VA、VBへの通電が開始される。そして、第1開閉弁VAが開位置、第2開閉弁VBが閉位置にされる。
【0048】
シミュレータSSが、第1開閉弁VAと反力室Roとの間にて、シミュレータ流体路HSに接続される。換言すれば、回生協調ユニットYKの入力室Rnは、シミュレータ流体路HSによって、シミュレータSSに接続される。回生協調制御時には、第1開閉弁VAが開位置にされ、第2開閉弁VBが閉位置にされる。第2開閉弁VBが閉位置によって、第3リザーバ流体路HTにおいて、リザーバRVへの流路は遮断されるため、制動液BFが、入力シリンダCNの入力室RnからシミュレータSS内に移動される。シミュレータSSのピストンには、弾性体にて、制動液BFの流入を阻止する力が加えられるため、制動操作部材BPが操作される場合の操作力Fpが発生される。つまり、制動制御装置SCは、所謂、ブレーキ・バイ・ワイヤ方式を採用している。
【0049】
第3リザーバ流体路HTは、マスタリザーバRVに接続される。第3リザーバ流体路HTは、その一部を第1、第2リザーバ流体路HV、HUと共用することができる。しかし、第1、第2リザーバ流体路HV、HUと第3リザーバ流体路HTとは、別々にリザーバRVに接続されることが望ましい。ギヤポンプGPは、第1リザーバ流体路HVを介して、マスタリザーバRVから制動液BFを吸引するが、このとき、第1リザーバ流体路HVには、気泡が混じることが生じ得る。このため、入力シリンダCN等に、気泡が混入することを回避するよう、第3リザーバ流体路HTは、直接、リザーバRVに接続される。
【0050】
第1開閉弁VAと反力室Roとの間のシミュレータ流体路HSには、シミュレータSS内の液圧(「シミュレータ液圧」という)Psを検出するよう、シミュレータ液圧センサPSが設けられる。また、第1開閉弁VAと入力室Rnとの間のシミュレータ流体路HSには、入力室Rn内の液圧(「入力液圧」という)Pnを検出するよう、入力液圧センサPNが設けられる。シミュレータ液圧センサPS、及び、入力液圧センサPNは、上述した制動操作量センサBAの1つである。検出された液圧Ps、Pnは、制動操作量Baとして、上部コントローラECUに入力される。なお、第1、第2開閉弁VA、VBに通電が行われている場合には「Ps=Pn」であるため、シミュレータ液圧センサPS、及び、入力液圧センサPNのうちの何れか一方は省略可能である。
【0051】
[上部コントローラECU]
上部コントローラECUによって、制動操作量Ba、及び、調整液圧(検出値)Paに基づいて、電気モータMT、及び、電磁弁VA、VB、UAが制御される。具体的には、上部コントローラECUでは、各種電磁弁VA、VB、UAを制御するための駆動信号Va、Vb、Uaが演算される。同様に、電気モータMTを制御するための駆動信号Mtが演算される。そして、駆動信号Va、Vb、Ua、Mtに基づいて、電磁弁VA、VB、UA、及び、電気モータMTが駆動される。
【0052】
上部コントローラ(電子制御ユニット)ECUは、車載通信バスBSを介して、下部コントローラECL、及び、他システムのコントローラ(駆動コントローラECD等)とネットワーク接続されている。回生協調制御を実行するよう、上部コントローラECUから駆動コントローラECDに回生量(目標値)Rgが、通信バスBSを通して送信される。
【0053】
[下部流体ユニットYL]
下部流体ユニットYLは、マスタ液圧センサPQ、複数の電磁弁、電動ポンプ、低圧リザーバを含む、公知の流体ユニットである。マスタシリンダCMには、マスタシリンダ流体路HMが接続される。マスタシリンダ流体路HMは、下部流体ユニットYL内で、前輪ホイールシリンダ流体路HWi、HWj(=HWf)に分岐され、前輪ホイールシリンダCWi、CWj(=CWf)に接続される。また、後輪サーボ流体路HRは、下部流体ユニットYL内で、後輪ホイールシリンダ流体路HWk、HWl(=HWr)に分岐され、後輪ホイールシリンダCWk、CWl(=CWr)に接続される。
【0054】
下部流体ユニットYLは、下部コントローラECLによって制御される。下部コントローラECLには、車輪速度Vw、ヨーレイト、操舵角、前後加速度、横加速度等が入力される。下部コントローラECLでは、車輪速度Vwに基づいて、車体速度Vxが演算される。そして、車体速度Vx、及び、車輪速度Vwに基づいて、車輪WHの過度の減速スリップ(例えば、車輪ロック)を抑制するよう、アンチスキッド制御が実行される。また、下部コントローラECLでは、ヨーレイトに基づいて、車両の不安定挙動(過度のオーバステア挙動、アンダステア挙動)を抑制する車両安定化制御(所謂、ESC)が行われる。つまり、下部流体ユニットYLによって、各車輪WHの制動液圧Pwが、個別に制御される。なお、演算された車体速度Vxは、通信バスBSを通して、上部コントローラECUに入力される。また、調整液圧センサPAが省略される構成では、調整液圧Paに代えて、マスタシリンダ液圧Pqfが採用されてもよい。
【0055】
[制動制御装置SCの作動]
車両の起動スイッチ(例えば、イグニッションスイッチ)が、オンされた場合に、第1開閉弁VAが開位置にされるとともに、第2開閉弁VBが閉位置にされる。従って、車両の走行中には、シミュレータ流体路HS、及び、第1開閉弁VAを介して、回生協調ユニットYKの入力室RnとマスタユニットYMの反力室Roとは連通状態にある。一方、第2開閉弁VBは閉位置にあるため、入力室Rn、及び、反力室Roは、マスタリザーバRVとは遮断されている。
【0056】
非制動時(例えば、制動操作部材BPの操作が行われていない場合)には、調圧弁UA、及び、電気モータMTへの通電は行われない。このとき、ピストンPM、PNは、弾性体SM、SNによって、各初期位置に押し付けられ、マスタシリンダCMの液圧室Rmと、リザーバRVとは連通状態にある。従って、マスタシリンダ液圧Pqfは「0(大気圧)」である。
【0057】
制動操作部材BPが操作された場合(特に、制御制動の開始時)には、入力ピストンPKが前進方向Haに移動される。このとき、入力室Rnから流出する制動液BFの液量が、シミュレータSSに流入し、制動操作部材BPの操作力Fpが形成される。
【0058】
車両の減速が、ジェネレータGNによる回生制動力で足りる場合には、「Pa=0」の状態が維持される。制動操作部材BPの操作によって、入力ピストンPKは、その初期位置から前進方向Haに移動されるが、このとき、調整液圧Paが、「0」のままであるため、マスタピストンPMは移動されない。従って、入力ピストンPKの前進に伴い、隙間Ks(マスタピストンPMの端面Mmと入力ピストンPKの端面Mnとの間の距離)は、徐々に減少する。
【0059】
車両の減速が、ジェネレータGNによる回生制動力では不十分になると、コントローラECUによって、調圧ユニットYAが制御され、調整液圧Paが、オンデマンドで調節される。調整液圧Paは、前輪サーボ流体路HFを通して、サーボ室Rsに付与される。サーボ室Rs内の液圧Paによって発生する前進方向Haの力(前進力)Faが、マスタ弾性体SMのセット荷重よりも大きくなると、マスタピストンPMは、マスタシリンダCMの中心軸Jmに沿って前進方向Haに移動される。この前進方向Haへの移動によって、マスタ室RmはリザーバRVから遮断される。
【0060】
更に、調整液圧Paが増加されると、制動液BFは、マスタシリンダCMから前輪ホイールシリンダCWfに向けて、マスタ液圧Pqfで圧送される。マスタピストンPMには、マスタ液圧Pqfによって、後退方向Hbの力(後退力)Fbが作用している。サーボ室Rsは、この後退力Fbに対抗(対向)するよう、調整液圧Paによって、前進方向Haの力(前進力)Faを発生する。調整液圧Paの増減に応じて、マスタ液圧Pqfが増減される。調整液圧Paの増加に伴い、マスタピストンPMは初期位置から前進方向Haに移動されるが、隙間Ksは、調整液圧Paによって、「0≦Ks≦ks」の範囲で制動操作量Baとは独立して調整可能である。つまり、調整液圧Paによる隙間Ksの調節によって、回生協調制御が実行される。なお、調整液圧Paは、後輪サーボ流体路HR、及び、下部流体ユニットYLを通して、直接、後輪ホイールシリンダCWrに付与される。
【0061】
制動操作部材BPが戻されると、調整液圧Paが減少される。そして、調整液圧Paが、マスタシリンダ液圧Pqf(=Pwf)よりも小さくなると、マスタピストンPMは後退方向Hbに移動される。制動操作部材BPが非操作状態にされると、圧縮ばねSMの弾性力によって、マスタピストンPMは、マスタシリンダCMの第2底部に接触する位置(初期位置)にまで戻される。
【0062】
なお、マニュアル制動時(電源失陥時等)には、第1、第2開閉弁VA、VBには通電が行われない。従って、第1開閉弁VAが閉位置に、第2開閉弁VBが開位置にされる。第1開閉弁VAの閉位置によって、入力室Rnは流体ロックの状態(密封状態)にされ、入力ピストンPKとマスタピストンPMとが、相対移動できないようにされる。また、第2開閉弁VBの開位置によって、反力室Roは、第2リザーバ流体路HTを通して、リザーバRVに接続される。このため、マスタピストンPMの前進方向Haの移動によって、反力室Roの容積Voは減少されるが、容積減少に伴う液量は、リザーバRVに向けて排出される。制動操作部材BPの操作に連動して、入力ピストンPKとマスタピストンPMとが一体となって移動され、マスタ室Rmから制動液BFが、前輪ホイールシリンダCWfに圧送される。
【0063】
以上で説明したように、車両には、回生協調制御(摩擦制動と回生制動との協調)が達成されるよう、制動操作部材BPの操作と制動液圧Pwの調整とが独立したブレーキ・バイ・ワイヤ型の制動制御装置SCが搭載されている。従って、制動操作部材BPの操作力Fpは、シミュレータSSによって発生されるとともに、ホイールシリンダCWの液圧Pwは、調圧ユニットYAによって調整される。
【0064】
<調圧制御処理>
図2のフロー図を参照して、回生協調制御を含む調圧制御の処理について説明する。「調圧制御」は、調整液圧Paを調整するための、電気モータMT、及び、調圧弁UAの駆動制御である。該制御のアルゴリズムは、上部コントローラECU内にプログラムされている。
【0065】
ステップS110にて、制動制御装置SCの初期化が行われる。ステップS110では、各構成要素の初期診断が実行される。ステップS120にて、常閉型の第1開閉弁VA、及び、常開型の第2開閉弁VBに通電が行われる。つまり、装置SCの起動スイッチが、オンされた場合に、第1開閉弁VAが開位置にされ、第2開閉弁VBが閉位置にされる。制動操作毎に、第1、第2開閉弁VA、VBのオン/オフ状態が切り替えられるのではなく、車両の走行中には、常時、第1、第2開閉弁VA、VBに通電が行われる。これにより、作動音の面で有利であるとともに、シミュレータSSの特性が安定化され得る。
【0066】
ステップS130にて、各種信号(操作量Ba、調整液圧Pa、車体速度Vx、等)が読み込まれる。操作量Baは、操作量センサBA(操作変位センサSP、入力液圧センサPN、シミュレータ液圧センサPS等)によって検出される。調整液圧Paは、調整液圧センサPA(又は、マスタシリンダ液圧センサPQ)によって検出(又は、演算)される。車体速度Vxは、通信バスBSを介して、下部コントローラECLから取得される。なお、車体速度Vxは、車輪速度Vwが上部コントローラECUに入力され、車輪速度Vwに基づいて、上部コントローラECUにて演算されてもよい。
【0067】
ステップS140にて、制動操作量Baに基づいて、「制動中であるか、否か」が判定される。例えば、操作量Baが、所定値boよりも大きい場合には、ステップS140は肯定され、処理はステップS150に進められる。一方、操作量Baが所定値bo以下である場合には、ステップS140は否定され、処理はステップS130に戻される。ここで、所定値boは、制動操作部材BPの遊びに相当する、予め設定された定数である。
【0068】
ステップS150にて、ブロックX150に示す特性にて、操作量Ba(操作変位Sp、操作力Fp、シミュレータ液圧Ps、及び、入力液圧Pnのうちの少なくとも1つ)に基づいて、要求制動力Fdが演算される。要求制動力Fdは、車両に作用する総制動力Fの目標値であり、「制動制御装置SCによる摩擦制動力Fm」と「ジェネレータGNによる回生制動力Fg」とを合わせた制動力である。要求制動力Fdは、演算マップZfdに従って、操作量Baが「0」から所定値boの範囲では、「0」に決定され、操作量Baが所定値bo以上では、操作量Baが増加するに伴い、「0」から単調増加するよう演算される。
【0069】
ステップS160にて、ブロックX160に示す特性にて、車体速度Vx、及び、演算マップZfxに基づいて、回生制動力の最大値(「最大回生力」という)Fxが演算される。最大回生力Fx用の演算マップZfxでは、車体速度Vxが、「0」以上、第1所定速度vo未満の範囲では、車体速度Vxの増加に従って、最大回生力Fxが増加するように設定される。また、車体速度Vxが、第1所定速度vo以上、第2所定速度vp未満の範囲では、最大回生力Fxは、上限値fxに決定される。そして、車体速度Vxが、第2所定速度vp以上では、車体速度Vxが増加するに従って、最大回生力Fxが減少するように設定されている。例えば、最大回生力Fxの減少特性(「Vx≧vp」の特性)では、車体速度Vxと最大回生力Fxとの関係は双曲線で表される(即ち、回生電力が一定)。ここで、各所定値vo、vpは予め設定された定数である。なお、演算マップZfxでは、車体速度Vxに代えて、ジェネレータGNの回転数Ngが採用され得る。
【0070】
ジェネレータGNの回生量は、駆動コントローラECDのパワートランジスタ(IGBT等)の定格、及び、バッテリの充電受入性によって制限される。電力(仕事率)が一定である場合、ジェネレータGNによる車輪軸まわりの回生トルクは、車輪WHの回転数(つまり、車体速度Vx)に反比例する。また、ジェネレータGNの回転数Ngが低下すると、回生量は減少する。演算マップZfxの特性では、ジェネレータGNの回生量が、所定の電力(単位時間当りの電気エネルギ)に制限されるよう、設定される。
【0071】
ステップS170にて、要求制動力Fd、及び、最大回生力Fxに基づいて、「要求制動力Fdが、最大回生力Fx以下であるか、否か」が判定される。つまり、運転者によって要求されている制動力Fdが、回生制動力Fgのみによって達成可能か、否かが判定される。「Fd≦Fx」であり、ステップS170が肯定される場合には、処理はステップS180に進められる。一方、「Fd>Fx」であり、ステップS170が否定される場合には、処理はステップS190に進められる。
【0072】
ステップS180にて、要求制動力Fdが、回生制動力Fgに決定される。ステップS180では、回生制動力Fgが十分に足りているため、目標摩擦制動力Fmは「0」に演算される。目標摩擦制動力Fmは、摩擦制動によって達成されるべき制動力の目標値である。この場合、車両減速には、摩擦制動が採用されず、回生制動のみによって、要求制動力Fdが達成される。
【0073】
ステップS190にて、回生制動力Fgが、最大回生力Fxに決定される。また、ステップS190では、目標摩擦制動力Fmが、要求制動力Fd、及び、最大回生力Fxに基づいて演算される。具体的には、目標摩擦制動力Fmは、要求制動力Fdから、最大回生力Fxが減算されて決定される(即ち、「Fm=Fd-Fx」)。つまり、要求制動力Fdにおいて、回生制動力Fg(=Fx)では不足する分が、目標摩擦制動力Fmによって補われる。
【0074】
ステップS200にて、回生制動力Fgに基づいて、回生量Rgが演算される。回生量Rgは、ジェネレータGNの回生量の目標値である。回生量Rgは、通信バスBSを介して、制動コントローラECUから駆動コントローラECDに送信される。ステップS210にて、摩擦制動力の目標値Fmに基づいて、調整液圧Paの目標値である目標液圧Ptが演算される。つまり、目標摩擦制動力Fmが液圧換算されて、目標液圧Ptが決定される。具体的には、目標摩擦制動力Fmが「0」から増加するに従って、目標液圧Ptは「0」から増加するように決定される。
【0075】
ステップS220にて、目標液圧Pt、及び、回転角Kaに基づいて、電気モータMTが駆動される。電気モータMTの駆動処理の詳細については後述する。電気モータMTが駆動されると、流体ポンプ(ギヤポンプ)GPを含んだ制動液BFの還流(A)が形成される。
【0076】
ステップS230にて、目標液圧Pt、及び、調整液圧(整液圧センサPAの検出値)Paに基づいて、調整液圧Paが目標液圧Ptに近付くよう、調圧弁UAがサーボ制御される。サーボ制御では、実際値Paが、目標値Ptに一致するよう、フィードバック制御が行われる。
【0077】
<電気モータMTの駆動処理>
図3のフロー図を参照して、電動ポンプDN(即ち、電気モータMT)の駆動処理について説明する。該駆動処理では、制動制御装置SCの省電力化を図るよう、必要な場合に限って、電動ポンプDNが駆動される。
【0078】
ステップS310にて、目標液圧Ptに基づいて、液圧変化量dPが演算される。具体的には、目標液圧Ptが時間微分されて、液圧変化量dPが決定される。目標液圧Ptは、操作量Baに基づいて演算されるため、液圧変化量dPは、制動操作部材BPの操作速度dB(操作量Baの時間変化量)の増加に従って、大きくなるよう演算される。
【0079】
ステップS320にて、制御フラグFLに基づいて、「電気モータMTが停止指示中であるか、否か」が判定される。制御フラグFLは、電気モータMTの駆動指示状態(回転又は停止)を表すものである。「FL=1」が回転駆動指示を表し、「FL=0」が回転の停止指示を表す。制御フラグFLが「1(駆動指示)」であり、ステップS320が否定される場合には、処理は、ステップS330に進められる。一方、制御フラグFLが「0(停止指示)」であり、ステップS320が肯定される場合には、処理は、ステップS340に進められる。
【0080】
ステップS330にて、液圧変化量dPに基づいて、「電気モータMTの停止指示を開始するか、否か」が判定される。具体的には、液圧変化量dPが第1所定量dp未満である状態が所定時間(判定時間)thに亘って維持された場合に、停止指示の開始が判定される。ここで、第1所定量dpは、停止指示の開始を判定するための予め設定されたしきい値であり、「0」近傍の定数である。また、判定時間thも、予め設定された判定用のしきい値(定数)である。制動操作部材BPの操作が保持され、液圧変化量dPが第1所定量dp未満(即ち、「dP<dp」)になり、その状態が判定時間thだけ継続された場合には、ステップS330は肯定され、制御フラグFLが「0」に設定され、処理はステップS370に進められる。一方、液圧変化量dPが第1所定量dp以上である場合(制動液圧Pwの増加が要求される、「dP≧dp」の場合)、或いは、「dP<dp」の継続時間が判定時間thに達していない場合には、ステップS330は否定され、制御フラグFLが「1」に設定され、処理はステップS350に進められる。
【0081】
ステップS340にて、液圧変化量dPに基づいて、「電気モータMTの停止指示を終了するか、否か」が判定される。具体的には、液圧変化量dPが第2所定量dq以上になった場合には、停止指示の終了が判定される。ここで、第2所定量dqは、停止指示の終了を判定するための予め設定されたしきい値であり、第1所定量dpよりも大きい定数である(即ち、「dq>dp」)。制動操作部材BPの操作が増加され、液圧変化量dPが第2所定量dq以上(即ち、「dP≧dq(>dp)」)になった場合には、ステップS340は肯定され、「FL=1」が決定され、処理はステップS350に進められる。一方、液圧変化量dPが第2所定量dq未満である場合(即ち、「dP<dq」の場合)には、ステップS340は否定され、「FL=0」が決定され、処理はステップS370に進められる。
【0082】
ステップS350にて、目標液圧Ptに基づいて、目標回転数Ntが演算される。目標回転数Ntは、電気モータMTの回転数の目標値である。先ず、ステップS350では、液圧変化量dP、目標液圧Pt、及び、演算マップZqrに基づいて、要求流量Qrが演算される。要求流量Qrは、調整液圧Paを増加させるために必要な、電動ポンプDNの吐出流量の目標値である。要求流量Qrは、液圧変化量dPが略「0」以下(制動操作部材BPが保持又は戻される場合)では、所定流量qoに演算される。ここで、所定流量qoは、予め設定された所定値である。要求流量Qrは、液圧変化量dPが「0」から増加するに伴い、所定流量qoから単調増加するように決定される。液圧変化量dPが大きいほど、ホイールシリンダCWに多量の制動液BFが供給されるよう、要求流量Qrが大きく決定される。つまり、制動操作部材BPが保持されている場合(即ち、「dP≒0」)、又は、制動操作部材BPが戻されている場合(即ち、「dP<0」)には、「Qr=qo」に決定される。
【0083】
加えて、要求流量Qrは、演算マップZqrに従って、目標液圧Ptが小さいほど、大きくなるように決定され、目標液圧Ptが大きいほど、小さくなるように決定される。これは、調整液圧Pa(結果、制動液圧Pw)は、ブレーキキャリパ、摩擦材等の剛性(非線形ばね定数)に応じて、増加することに基づく。つまり、調整液圧Paが低い場合には、多量の流量が必要であるが、調整液圧Paが高い場合には、流量は然程必要とされない。従って、目標液圧Ptが小さいほど、要求流量Qrが大きくなるように決定される。
【0084】
最終的に、ステップS350では、要求流量Qrに基づいて、目標回転数Ntが演算される。目標回転数Ntは、電動ポンプDN(特に、電気モータMT)の回転数の目標値である。ギヤポンプGPの1回転当りの吐出量は既知であるため、要求流量Qrが目標回転数Ntに変換演算される。
【0085】
ステップS360にて、目標回転数Nt、及び、実回転数Naに基づいて、電気モータMTがサーボ制御される。ステップS360では、実際の回転角Ka(回転角センサKAの検出値)に基づいて、実際の回転数Naが演算される。具体的には、実回転角Kaが時間微分されて、実回転数Naが決定される。そして、目標回転数Nt、及び、実回転数Naに基づいて、電気モータMTの回転数フィードバック制御が実行される。つまり、実際の回転数Naが、目標回転数Ntに近づき、一致するように、駆動信号Mtが決定される。駆動信号Mtに基づいて、駆動回路DRのスイッチング素子が駆動され、電気モータMTが制御される。
【0086】
ステップS370にて、電気モータMTの逆転抑制制御が実行される。「逆転抑制制御」は、調整液圧Pa(=Pw)が所定液圧に保持(維持)された状態において、ギヤポンプGPと逆止弁GCとの間の液圧(「残圧」という)によって、電動ポンプDNが逆転されることを抑制するものである。逆転抑制制御では、ステップS330が肯定された時点にて直ちに電気モータMTへの通電が停止されるのではなく、該時点から所定時間Txに亘って、電気モータMTへの通電が継続される(つまり、電力が供給され続ける)。ここで、所定時間Txは、予め設定された所定値(定数)である。また、所定時間Txは、保持された液圧(逆転抑制制御が開始される時点の液圧)Ph(「保持液圧」という)に基づいて設定されてもよい。つまり、保持液圧Phが大きいほど、所定時間Txが大きくなるように設定され得る。
【0087】
上記残圧は、ギヤポンプGPの内部漏れによって、暫くすると大気圧にまで減少される。逆転抑制制御によって、電気モータMTへの通電(電流の供給)が所定時間Txに亘って継続され、残圧に対抗するよう、電気モータMTはトルクを発生し続ける。このため、電動ポンプDNは、残圧によって逆転されることがないため、ギヤポンプGPのギヤ部のバックラッシュ、カップリングCPの継手部のガタに起因する打音が抑制され得る。
【0088】
<逆転抑制制御の作動>
図4の時系列線図を参照して、電気モータMTの逆転抑制制御の作動について説明する。線図は、運転者が制動操作部材BPを「0(非制動)」から増加した後に、一定状態に保持している状況が想定されている。
【0089】
時点t0までは、「Ba=0」であるため、「Pt=0」である。このため、電気モータMTは、回転駆動されず、「FL=0(回転停止)」が決定されている。時点t1にて、制動操作部材BPの操作が開始される。これに伴い、目標液圧Ptは、「0」から増加される。時点t1の直後に、「dP≧dp」が満足されるため、電気モータMTの駆動が開始され、「FL=1(回転駆動)」が決定される。
【0090】
時点t1にて、制動操作部材BPが保持され、目標液圧Ptは、一定値poに演算される。時点t1の後は、液圧変化量dPは「0」に演算される。時点t1から判定時間thだけ経過した、時点t2にて、電気モータMTの停止指示が判定される。これに伴い、制御フラグFLは、「1」から「0」に変更される。
【0091】
時点t2にて、電気モータMTの逆転抑制制御が開始される。回転停止指示の開始条件(ステップS330:「dP<dp」の状態が、判定時間thに亘って継続されること)が満足された時点t2にて、電気モータMTへの通電は、直ちには停止されない。逆転抑制制御によって、電気モータMTへの通電(電流供給)は、時点t2から所定時間Txに亘って継続される。なお、所定時間Txは、予め設定された所定値(定数)として設定される。また、所定時間Txは、逆転抑制制御が開始された時点t2の保持液圧Ph(線図では、「Pt=po」に相当する実際の液圧)に基づいて、保持液圧Phが高いほど、長くなるように設定されてもよい。
【0092】
例えば、逆転抑制制御では、制御開始時点t2から所定勾配Kgで減少するよう、目標回転数Ntが演算される。ここで、所定勾配Kgは予め設定された所定値(定数)である。また、所定勾配Kgは、保持液圧Phが大きいほど、小さくなるように設定される(即ち、所定時間Txが長くなる)。そして、実際の回転数Naが、目標回転数Ntに一致するよう、電気モータMTへの通電が制御される。つまり、所定時間Txに亘って、電気モータMTのトルク出力が発生され続ける。
【0093】
時点t2から、所定時間Txが経過した時点t3にて、目標回転数Ntは「0」に演算され、電気モータMTへの通電は完全に停止される。即ち、時点t3にて、逆転抑制制御は終了され、電気モータMTへの通電(供給電流)が「0」にされる。所定時間Txの間に、残圧(ギヤポンプGPと逆止弁GCとの間に残留した液圧)は、ギヤポンプGPの内部漏れによって、電動ポンプDNが逆転されない程度(即ち、軸受等の摩擦抵抗によって、電動ポンプDNの回転が保持されるレベル)にまで低下される。これにより、逆止弁GCの上流側の残圧による電動ポンプDNの逆転が防止されるため、バックラッシュ、ガタ等に起因する打音が低減され、制動制御装置SCの静寂性が向上される。
【0094】
また、逆転抑制制御では、制御開始時点t2から、破線で示すように、目標回転数Ntが、所定回転数Nxにまで急減され、所定時間Txに亘って、「Nt=Nx」が維持されるように演算される。ここで、所定回転数Nxは予め設定された所定値(定数)である。また、所定回転数Nxは、保持液圧Phが大きいほど、大きくなるように設定されてもよい。上記同様に、実回転数Naが、目標回転数Ntに一致するよう、電気モータMTへの通電が制御され、電気モータMTのトルク出力が所定時間Txだけ発生され続けるため、上述した打音が抑制される。なお、目標回転数Ntは、所定回転数Nxにまで急減され、その後、所定勾配で減少されるように演算されてもよい。
【0095】
制動制御装置SCでは、調圧ユニットYAにおいて、ギヤポンプGPの吐出部Qtに逆止弁GCが設けられている。このため、調圧弁UAが完全に閉じられると、調整液圧Paが一定に保たれ得る。また、調圧弁UAが、僅かに開かれれば、調整液圧Paは徐々に減少され得る。このため、「dP<dp」が判定時間thに亘って継続された場合には、「Qr=0」にされ、電気モータMTへ停止指示が行われる。制動操作部材BPの保持時、又は、戻し時に、電気モータMTが停止状態にされることにより、更に、省電力化が図られる。
【0096】
電気モータMTが停止され、調整液圧Paが、高い液圧にて保持された場合に、ギヤポンプGPの吐出部Qtと逆止弁GCとの間の液圧(残圧)によって電動ポンプDN(=MT+CP+GP)が逆転されないよう、逆転抑制制御が実行される。逆転抑制制御では、電気モータMTの停止が指示された時点から所定時間Txに亘って、電気モータMTへの通電が継続され、その際に発生される保持トルクよって、電動ポンプDNの逆転が回避される。所定時間Txの間に、残圧は、ギヤポンプGPの内部漏れによって低下される。このため、ギヤポンプGPのバックラッシュ、カップリングCPのガタに起因する打音が抑制され得る。
【0097】
上記実施形態の制動制御装置SCでは、1つのギヤポンプGPによって、4つのホイールシリンダCWの液圧Pwが調整される。従って、ギヤポンプGPには、2つのギヤポンプGPによって、4つのホイールシリンダCWの液圧Pwを調整するものに比較して、吐出量が相対的に大きいものが要求される。電動ポンプDNの逆転は、ギヤポンプGPの吐出部Qtと逆止弁GCとの間の残圧に因るが、ギヤポンプGPの吐出量が大きいほど、この逆転運動が生じ易い。このため、電気モータMTの逆転抑制制御は、1つのギヤポンプGPによって、4つのホイールシリンダCWの液圧Pwを調整する制動制御装置SCにおいて、より効果的に機能する。
【0098】
<他の実施形態>
以下、他の実施形態について説明する。他の実施形態においても、上記同様の効果(電動ポンプDNの逆転によって生じる打音の低減)を奏する。
【0099】
上記実施形態では、前輪WHfにジェネレータGNが備えられたが、後輪WHrに備えられてもよい。また、ジェネレータGNを持たない一般的な内燃機関を有する車両にも、制動制御装置SCが適用され得る。この場合、ジェネレータGNによる回生ブレーキは発生されないため、制動制御装置SCにおいて、回生協調制御は実行されない。つまり、車両は、摩擦制動力のみによって減速される。
【0100】
上記実施形態では、マスタシリンダCMにシングル型のものが採用され、後輪ホイールシリンダCWrに調整液圧Paが直接、供給された。マスタシリンダCMにタンデム側のものが採用され、前輪、後輪ホイールシリンダCWf、CWrに、マスタシリンダCMから前輪、後輪マスタシリンダ液圧Pqf、Pqrが供給されてもよい。なお、該構成では、2系統の流体路として、前後型のものだけでなく、ダイアゴナル型(「X型」ともいう)のものが採用され得る。
【符号の説明】
【0101】
SC…制動制御装置、BP…制動操作部材、CM…マスタシリンダ、CW…ホイールシリンダ、YM…マスタユニット、YA…調圧ユニット、YK…回生協調ユニット、DN…電動ポンプ、MT…電気モータ、GP…ギヤポンプ、GC…逆止弁、UA…調圧弁、ECU…コントローラ、SS…シミュレータ、BA…操作量センサ、PA…調整液圧センサ、KA…回転角センサ。


図1
図2
図3
図4