(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】可変圧縮比内燃機関
(51)【国際特許分類】
F02B 75/04 20060101AFI20221109BHJP
F02B 75/32 20060101ALI20221109BHJP
F02D 15/02 20060101ALI20221109BHJP
F01M 1/08 20060101ALI20221109BHJP
F01P 3/08 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
F02B75/04
F02B75/32 A
F02D15/02 C
F01M1/08 B
F01M1/08 F
F01P3/08 A
F01P3/08 G
(21)【出願番号】P 2018231236
(22)【出願日】2018-12-11
【審査請求日】2021-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000003997
【氏名又は名称】日産自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【氏名又は名称】富岡 潔
(72)【発明者】
【氏名】大熊 悟
(72)【発明者】
【氏名】茂木 克也
【審査官】津田 真吾
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/029670(WO,A1)
【文献】特開2010-185396(JP,A)
【文献】特開2010-116777(JP,A)
【文献】特開2004-116434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 75/04
F02B 75/32
F02D 15/02
F01M 1/08
F01P 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピストンにピストンピンを介して一端が連結された第1リンクと、
上記第1リンクの他端に第1連結ピンを介して連結され、かつクランクシャフトのクランクピンに回転可能に連結された第2リンクと、
一端が上記第2リンクに第2連結ピンを介して連結された第3リンクと、
機関本体側に回転可能に取り付けられ、かつ上記第3リンクの他端が連結された偏心軸部を有するコントロールシャフトと、
機関高負荷時には圧縮比が低くなり機関低負荷時には圧縮比が高くなるように上記コントロールシャフトを回転駆動して上記コントロールシャフトの上記偏心軸部の位置を変更するアクチュエータと、を有し、
上記第2リンクは、ピストン上昇行程において上記クランクピンの径方向に沿って形成されたクランクピン油路と連通して上記第1リンクに向かって潤滑油を噴射する第2リンク油路を有し、
上記第1リンクは、機関高負荷時のピストン上昇行程において上記第2リンク油路から噴射された潤滑油を通過させ、かつクランクシャフト軸方向視で排気弁が位置する側のピストン冠面裏側へ通過した潤滑油を導くように形成された貫通穴を有することを特徴とする可変圧縮比内燃機関。
【請求項2】
可変圧縮比内燃機関は、クランクシャフト軸方向視で、シリンダ中心軸線を挟んで一方の側に上記第1連結ピンが位置し、他方の側に上記第2連結ピンが位置するよう構成され、
上記第1リンクは、機関低負荷時において上記第2リンク油路から噴射された潤滑油を反射し、クランクシャフト軸方向視で吸気弁が位置する側のシリンダ内周面に供給することを特徴とする請求項1に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項3】
上記第1リンクは、機関低負荷時において上記第2リンク油路から噴射された潤滑油を反射し、クランクシャフト軸方向視で吸気弁が位置する側のピストン冠面裏側に供給することを特徴とする請求項1または2に記載の可変圧縮比内燃機関。
【請求項4】
可変圧縮比内燃機関は、クランクシャフト軸方向視で、シリンダ中心軸線を挟んで一方の側に上記第1連結ピンが位置し、他方の側に上記第2連結ピンが位置するよう構成され、
上記第1リンクは、機関高負荷時のピストン下死点付近において上記第2リンク油路から噴射された潤滑油を反射し、クランクシャフト軸方向視で吸気弁が位置する側のシリンダ内周面に供給することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載の可変圧縮比内燃機関。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複リンク式ピストンクランク機構を用いた可変圧縮比内燃機関に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、特許文献1には、ピストンにピストンピンを介して連結されたアッパリンクと、クランクシャフトのクランクピンに回転可能に取り付けられ、かつ上記アッパリンクに第1連結ピンを介して連結されたロアリンクと、一端が上記ロアリンクに第2連結ピンを介して連結されたコントロールリンクと、シリンダブロックに回転可能に取り付けられ、かつ上記コントロールリンクの他端を支持する偏心軸を備えたコントロールシャフトと、を備え、シリンダ中心軸線を挟んで一方の側に上記第1連結ピンが位置し、他方の側に上記第2連結ピンが位置するよう構成された複リンク式ピストンクランク機構を用いて圧縮比を変更可能な内燃機関が開示されている。
【0003】
このような可変圧縮比内燃機関においては、更なる燃費改善のために、高負荷時の圧縮比を高くし、かつその領域を拡大することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した特許文献1においては、高負荷時のノッキング対策が施されておらず、高負荷時の圧縮比を高くするとノッキングが発生する虞がある。
【0006】
つまり、従来の可変圧縮比内燃機関においては、高負荷時のノッキングを抑制して燃費改善を図る上で、更なる改善の余地がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、機関高負荷時には圧縮比を低くし、機関低負荷時には圧縮比を高くする可変圧縮比内燃機関であって、一端がピストンピンに連結され、他端がクランクシャフトのクランクピンに回転可能に連結された第2リンクに連結された第1リンクを有し、上記第1リンクは、機関高負荷時のピストン上昇行程において上記第2リンクに形成された第2リンク油路から噴射された潤滑油を通過させ、かつクランクシャフト軸方向視で排気弁が位置する側のピストン冠面裏側へ通過した潤滑油を導くように形成された貫通穴を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、機関高負荷時において、ピストンの吸気弁側に比べてノッキングが発生しやすいピストンの排気弁側を冷却することが可能となり、機関高負荷時における圧縮比をさらに高くすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明に係る可変圧縮比内燃機関を模式的に示した説明図。
【
図2】本発明に係る可変圧縮比内燃機関を模式的に示した説明図。
【
図3】本発明に係る可変圧縮比内燃機関を模式的に示した説明図。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施例を図面に基づいて詳細に説明する。
図1~
図3は、本発明が適用された内燃機関1を模式的に示した説明図であって、
図1は低圧縮比の上昇行程時の状態を示し、
図2は低圧縮比のピストン下死点時の状態を示し、
図3は高圧縮比の状態を示している。
図1~
図3は、クランクシャフト軸方向視で本発明が適用された内燃機関1を模式的に示したものである。
図4は、本発明が適用された内燃機関1の複リンク式ピストンクランク機構13を構成するアッパリンク15の斜視図である。
【0011】
可変圧縮比内燃機関である内燃機関1は、駆動源として自動車等の車両に搭載されるものであって、吸気通路2と排気通路3とを有している。吸気通路2は、吸気弁4を介して燃焼室5に接続されている。排気通路3は、排気弁6を介して燃焼室5に接続されている。
【0012】
内燃機関1は、シリンダブロック11のシリンダ12内を往復動するピストン14の上死点位置を変更することで当該内燃機関1の機械的圧縮比を変更可能な複リンク式ピストンクランク機構13を有している。内燃機関1の機械的圧縮比とは、ピストン14の上死点位置と下死点位置とによって決まる圧縮比である。
【0013】
複リンク式ピストンクランク機構13は、ピストン14と、第1リンクとしてのアッパリンク15と、第2リンクとしてのロアリンク16と、第3リンクとしてのコントロールリンク17と、から大略構成されている。
【0014】
ピストン14は、ピストンピン18を介してアッパリンク15の一端に回転可能に連結されている。
【0015】
アッパリンク15は、他端が第1連結ピンとしてのアッパピン19を介してロアリンク16の一端側に回転可能に連結されている。
【0016】
ロアリンク16は、クランクシャフト20のクランクピン21に回転可能に連結されている。
【0017】
クランクシャフト20の回転中心は、クランクシャフト軸方向視で、シリンダ中心軸線Lよりも吸気弁4側に位置している。
【0018】
コントロールリンク17は、一端が第2連結ピンとしてのコントロールピン22を介してロアリンク16の他端側に回転可能に連結されている。
【0019】
コントロールリンク17は、他端が機関本体側に支持されるコントロールシャフト23の偏心軸部23aに回転可能に連結されている。
【0020】
コントロールシャフト23は、クランクシャフト20と平行に配置されるものであって、例えば、シリンダブロック(図示せず)に回転可能に支持される。
【0021】
つまり、コントロールシャフト23の偏心軸部23aに回転可能に連結されているコントロールリンク17の他端は、機関本体側に揺動可能に支持されていることになる。偏心軸部23aの中心軸は、コントロールシャフト23の回転中心に対して所定量偏心している。コントロールシャフト23は、ロアリンク16の自由度を規制するものである。
【0022】
複リンク式ピストンクランク機構13は、ピストン14とクランクシャフト20のクランクピン21とを複数のリンクで連係したものである。
【0023】
複リンク式ピストンクランク機構13は、コントロールシャフト23を回転させて偏心軸部23aの位置を変更することで、ピストン14の上死点の位置が変更可能となり、内燃機関1の圧縮比を変更することができる。
【0024】
シリンダブロック11の下部には、オイルパンアッパ24が取り付けられている。また、オイルパンアッパ24の下部にはオイルパンロア25が取り付けられている。
【0025】
コントロールシャフト23は、第1アーム26、第2アーム27及び中間アーム28を介してドライブシャフト29の回転が伝達されている。中間アーム28は、第1アーム26と第2アーム27とを連結する。ドライブシャフト29は、オイルパンアッパ24の外側にあってコントロールシャフト23と平行に配置されている。詳述すると、ドライブシャフト29は、吸気弁4及び吸気通路2が位置する側に配置されている。ドライブシャフト29には、第1アーム26が固定されている。
【0026】
第1アーム26には、中間アーム28の一端が第1ピン部材30を介して回転可能に連結されている。中間アーム28は、他端が第2ピン部材31を介してコントロールシャフト23に固定された第2アーム27に回転可能に連結されている。
【0027】
ドライブシャフト29、第1アーム26及び中間アーム28の一端側は、オイルパンアッパ24の側面に取り付けられたハウジング32に収容されている。
【0028】
つまり、ハウジング32は、吸気弁4及び吸気通路2が位置する側で、オイルパンアッパ24の側面に取り付けられている。
【0029】
ドライブシャフト29は、一端が減速機(図示せず)を介してアクチュエータとしての電動モータ33に連結されている。すなわち、ドライブシャフト29は、電動モータ33により回転駆動可能となっている。ドライブシャフト29の回転数は、電動モータ33の回転数を減速機により減速したものとなっている。
【0030】
電動モータ33は、内燃機関1の吸気弁4及び吸気通路2が位置する側に配置されている。そのため、電動モータ33は、内燃機関1の排気通路3内を流れる排気の熱影響を受けにくく、例えば排気の熱影響に起因する故障の発生を抑制できる。
【0031】
電動モータ33の駆動によりドライブシャフト29が回転すると、中間アーム28がドライブシャフト29に直交する平面に沿って往復運動する。そして、中間アーム28の往復運動に伴い中間アーム28と第2アーム27との連結位置が揺動し、コントロールシャフト23が回転する。コントロールシャフト23が回転してその回転位置が変化すると、コントロールリンク17の揺動支点となる偏心軸部23aの位置が変化する。つまり、電動モータ33によりコントロールシャフト23の回転位置を変更することで、ロアリンク16の姿勢が変化し、ピストン14の上死点位置及び下死点位置の変化を伴って、内燃機関1の機械的圧縮比が連続的に変更される。換言すれば、電動モータ33は、コントロールシャフト23を回転駆動して偏心軸部23aの位置を変更することで内燃機関1の機械的圧縮比を変更する。
【0032】
電動モータ33は、内燃機関1の機械的圧縮比が運転条件に対応した圧縮比となるように制御される。
【0033】
内燃機関1の目標圧縮比は、基本的には、低負荷側では高圧縮比であり、負荷が高いほどノッキング抑制等のために低圧縮比となる。
【0034】
アッパリンク15は、
図4に示すように、直線的に延びた細長い矩形の柱状のロッド部41と、このロッド部41の一端に設けられた円環状のピストンピン用ピンボス部42と、ロッド部41の他端に設けられた円環状のアッパピン用ピンボス部43と、を有している。アッパピン用ピンボス部43は、第1連結ピン用ピンボス部に相当するものである。
【0035】
ロッド部41は、クランクシャフト20と直交する平面と平行な第1面41a及び第2面41bと、第1面41a及び第2面41bに対して直交する第3面41c及び第4面41dとを有している。
【0036】
第1面41a及び第2面41bは、クランクシャフト軸方向視で、ロッド部41の正面と裏面となる。第3面41c及び第4面41dは、クランクシャフト軸方向視で、ロッド部41の一方の側面と他方の側面となる。
【0037】
ロッド部41は、例えば、第1面41a及び第2面41bの幅W1が、第3面41c及び第4面41dの幅W2よりも小さく(狭く)なるよう形成されている。
【0038】
ロッド部41の側面である第3面41c及び第4面41dには、それぞれロッド部41長手方向に沿った矩形の凹部44が形成されている。そして凹部44には、断面矩形の貫通穴45が形成されている。
【0039】
貫通穴45は、一端が第3面41c側の凹部44の底面44aに開口し、他端が第4面41d側の凹部44の底面44aに開口している。すなわち、貫通穴45は、ロッド部41長手方向に沿った長穴であり、ロッド部41の側面を貫通している。貫通穴45は、ロッド部41のピストンピン用ピンボス部42側に形成されている。
【0040】
ピストンピン用ピンボス部42は、アッパリンク15の一端を構成するものであり、ピストン14に両端部が支持されたピストンピン18の中央部に回転可能に嵌合する。なお、ピストンピン18は、ピストン14に圧入して固定してもよく、あるいは、いわゆるフルフロート形式としてピストン14に回転可能に支持するようにしてもよい。
【0041】
アッパピン用ピンボス部43は、アッパリンク15の他端を構成するものであり、ロアリンク16に両端が支持されたアッパピン19に回転可能に嵌合する。
【0042】
内燃機関1においては、クランクシャフト軸方向視で、シリンダ中心軸線Lを挟んで一方の側にアッパリンク15とロアリンク16とを連結するアッパピン19が位置し、他方の側にロアリンク16とコントロールリンク17とを連結するコントロールピン22が位置するよう構成されている。
【0043】
そのため、ピストン14には、クランクシャフト軸方向視で、当該ピストン14をコントロールリンク17が位置する側のシリンダ内周面へ押し付けようとするスラスト力が作用する。換言すれば、内燃機関1のピストン14には、クランクシャフト軸方向視で、当該ピストン14を吸気弁4が位置する側のシリンダ内周面へ押し付けようとするスラスト力が作用する。
【0044】
また、内燃機関1のような可変圧縮比内燃機関にあっては、更なる燃費改善のために、高負荷時(例えば、内燃機関が過給機を有するものであれば過給時)の圧縮比を上げ、かつその運転領域を拡大する必要がある。
【0045】
高負荷時に圧縮比を上げて、かつその運転領域を拡大するためには、ノッキングを回避する必要がある。また、ノッキングの発生部位は、ピストン14の排気弁側の冠面である。
【0046】
そこで、内燃機関1は、圧縮比の違いによって変化するアッパリンク15の姿勢を利用し、圧縮比に応じて、第2リンク油路としてのロアリンク油路51から噴射された潤滑油が主として供給される位置(当たる位置)を変更する。
【0047】
ロアリンク油路51は、ロアリンク16に形成されている。ロアリンク油路51は、クランクシャフト軸方向視で、アッパリンク15とロアリンク16との連結位置よりも吸気弁4が位置する側に形成されている。
【0048】
ロアリンク油路51は、ロアリンク16が所定の揺動姿勢のときに、クランクピン21に形成されたクランクピン油路52と連通し、クランクピン油路52から流れ込んだ潤滑油をアッパリンク15に向かって噴射するように形成されている。
【0049】
クランクピン油路52は、クランクピン21の径方向に沿って延びる通路であり、クランクシャフト内に形成された図示せぬ油路を介してメインギャラリ(図示せず)と連通している。
【0050】
アッパリンク15は、機関高負荷時のピストン上昇行程においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油を通過させ、かつ通過した潤滑油をクランクシャフト軸方向視で排気弁6が位置する側のピストン冠面裏側へ導く貫通穴45を有している。
【0051】
貫通穴45は、機関高負荷時のピストン上昇行程において自身を通過した潤滑油がクランクシャフト軸方向視で排気弁6が位置する側のピストン冠面裏側へ供給されるように形成されている。
【0052】
つまり、内燃機関1は、圧縮比設定が低圧縮比のときのピストン上昇行程において、
図1中に矢印Aで示すように、ロアリンク油路51から噴射された潤滑油がアッパリンク15の貫通穴45を通過し、クランクシャフト軸方向視で排気弁6が位置する側のピストン冠面裏側に供給可能となる。
【0053】
ロアリンク油路51とクランクピン油路52は、圧縮比が低く設定される機関高負荷時、ピストン上昇行程において連通するよう設定されている。つまり、ロアリンク油路51は、圧縮比が低く設定される機関高負荷時、ピストン上昇行程においてクランクピン油路52と連通してアッパリンク15に向かって潤滑油を噴射する。
【0054】
なお、貫通穴45は、機関高負荷時のピストン上昇行程においてロアリンク油路51から噴射された全ての潤滑油を通過させなくてもよい。換言すれば、貫通穴45は、機関高負荷時のピストン上昇行程においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油の一部が通過しないような位置にあってもよい。つまり、アッパリンク15は、機関高負荷時のピストン上昇行程においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油の一部を反射し、例えばクランクシャフト軸方向視で吸気弁4が位置する側のシリンダ内周面やクランクシャフト軸方向視で吸気弁4が位置する側のピストン冠面裏側に供給するようにしてもよい。
【0055】
これによって、内燃機関1は、機関高負荷時において、ノッキングが発生しやすいピストン14の排気弁側を冷却することが可能となり、ノッキングを改善することができる。そのため、内燃機関1は、機関高負荷時における圧縮比をさらに高くすることが可能となり、更なる燃費向上を図ることが可能となる。また、内燃機関1は、機関高負荷時の運転領域を拡大することができる。
【0056】
内燃機関1は、機関高負荷時に排気弁6が位置する側のピストン冠面裏側に潤滑油を供給できるので、機関高負荷時におけるピストン14の熱負荷を低減できる。そのため、内燃機関1は、ピストン14の軽量化を図ることが可能となり、軽量化によるコスト低減(削減)を図ることができる。
【0057】
内燃機関1は、ロッド部41に凹部44及び貫通穴45を設けることでアッパリンク15の軽量化を図ることができる。
【0058】
また、内燃機関1は、ピストン14及びアッパリンク15の軽量化により複リンク式ピストンクランク機構13に用いられるブッシュに作用する面圧を低減することができ、これによるコスト低減(削減)が可能となる。
【0059】
内燃機関1は、ロアリンク油路51とクランクピン油路52とが連通したタイミングのみ潤滑油がアッパリンク15に向かって噴射されるので、適切なタイミングに適切な量の潤滑油を排気弁6が位置する側のピストン冠面裏側へ供給することができる。
【0060】
また、アッパリンク15は、ピストン14が下死点付近に位置する機関高負荷時においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油を反射し、かつ反射した潤滑油をクランクシャフト軸方向視で吸気弁4が位置する側のシリンダ内周面へ導くように形成されている。換言すれば、貫通穴45は、ピストン14が下死点付近に位置する機関高負荷時においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油が当たらない位置に形成されている。
【0061】
つまり、内燃機関1は、ピストン14が下死点付近に位置する機関高負荷時において、
図2中に矢印Bで示すように、ロアリンク油路51から噴射された潤滑油を反射し、かつ反射した潤滑油を吸気弁4が位置する側のシリンダ内周面へ供給可能となる。
【0062】
ロアリンク油路51とクランクピン油路52は、圧縮比が低く設定される機関高負荷時、ピストン14が下死点付近に位置するタイミングのときにも連通するように設定されている。つまり、ロアリンク油路51は、圧縮比が低く設定される機関高負荷時、ピストン14が下死点付近に位置するタイミングにおいてもクランクピン油路52と連通してアッパリンク15に向かって潤滑油を噴射する。
【0063】
なお、アッパリンク15は、ピストン14が下死点付近に位置する機関高負荷時においてロアリンク油路51から噴射された全ての潤滑油を反射しなくてもよい。換言すれば、貫通穴45は、ピストン14が下死点付近に位置する機関高負荷時においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油の一部が通過するような位置にあってもよい。あるいは、貫通穴45は、ピストン14が下死点付近に位置する機関高負荷時において、ロアリンク油路51から噴射された潤滑油の一部が通過し、かつクランクシャフト軸方向視で排気弁6が位置する側のピストン冠面裏側に供給することが可能な位置にあってもよい。
【0064】
本願明細書において、「ピストン14が下死点付近に位置する」とは、ピストン14が下死点と下死点よりも所定量上昇した下死点近傍の位置との間に位置することを意味するものとする。つまり、「ピストン下死点付近」とは、ピストン下死点を含む概念である。
【0065】
これによって、内燃機関1は、高負荷時において、ピストン14が押し付けられる側のシリンダ内周面に対して潤滑油を供給することができ、ピストン14のスカッフを抑制することができる。
【0066】
アッパリンク15は、機関低負荷時においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油を反射し、かつ反射した潤滑油をクランクシャフト軸方向視で吸気弁4が位置する側のシリンダ内周面へ導くように形成されている。換言すれば、貫通穴45は、機関低負荷時においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油が当たらない位置に形成されている。
【0067】
つまり、内燃機関1は、機関低負荷時において、
図3中に矢印Cで示すように、ロアリンク油路51から噴射された潤滑油を反射し、かつ反射した潤滑油を吸気弁4が位置する側のシリンダ内周面に供給可能となる。
【0068】
なお、アッパリンク15は、機関低負荷時においてロアリンク油路51から噴射された全ての潤滑油を反射しなくてもよい。換言すれば、貫通穴45は、機関低負荷時においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油の一部が通過するような位置にあってもよい。あるいは、貫通穴45は、機関低負荷時において、ロアリンク油路51から噴射された潤滑油の一部が通過し、かつクランクシャフト軸方向視で排気弁6側のピストン冠面裏側に供給することが可能な位置にあってもよい。
【0069】
これによって、内燃機関1の圧縮比が低いとき(低圧縮比のとき)には、ピストン14が押し付けられる側のシリンダ内周面に対して潤滑油を供給することができ、ピストンのスカッフを抑制することができる。
【0070】
なお、アッパリンク15は、機関低負荷時においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油を反射し、クランクシャフト軸方向視で吸気弁4が位置する側のピストン冠面裏側に供給するようにしてもよい。また、アッパリンク15は、機関低負荷時においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油を反射し、クランクシャフト軸方向視で吸気弁4が位置する側のシリンダ内周面及び吸気弁4が位置する側のピストン冠面裏側に供給するようにしてもよい。
【0071】
この場合、内燃機関1は、機関低負荷時において、ピストン冠面の裏側にアッパリンク15で反射させた潤滑油を供給することが可能となり、ピストン温度の上昇を抑制することができる。
【0072】
また、アッパリンク15は、ピストン14が下死点付近に位置する機関高負荷時においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油を反射し、クランクシャフト軸方向視で吸気弁4が位置する側のピストン冠面裏側に供給するようにしてもよい。また、アッパリンク15は、ピストン14が下死点付近に位置する機関高負荷時においてロアリンク油路51から噴射された潤滑油を反射し、クランクシャフト軸方向視で吸気弁4が位置する側のシリンダ内周面及び吸気弁4が位置する側のピストン冠面裏側に供給するようにしてもよい。
【0073】
内燃機関1の圧縮比が高いとき(高圧縮比のとき)には、低圧縮比のときに比べて圧縮比が高くなる分ピストン温度が上昇する。そこで、内燃機関1は、このような場面(機関高負荷時)においてピストン冠面の裏側にアッパリンク15で反射させた潤滑油を供給することで、ピストン温度の上昇を抑制することができる。
【0074】
また、アッパリンク15は、ロアリンク油路51から噴射された潤滑油を反射するにあたって、ロッド部41、ピストンピン用ピンボス部42及びアッパピン用ピンボス部43のうちの少なくとも1つを利用するものである。
【符号の説明】
【0075】
1…内燃機関
11…シリンダブロック
12…シリンダ
13…複リンク式ピストンクランク機構
14…ピストン
15…アッパリンク
16…ロアリンク
20…クランクシャフト
21…クランクピン
41…ロッド部
44…凹部
45…貫通穴
51…ロアリンク油路