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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】イメージング分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/62 20210101AFI20221109BHJP
【FI】
G01N27/62 D
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018231434
(22)【出願日】2018-12-11
(65)【公開番号】P2020094854
(43)【公開日】2020-06-18
【審査請求日】2021-03-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古田 哲朗
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-025268(JP,A)
【文献】特開平05-120427(JP,A)
【文献】特開2002-162366(JP,A)
【文献】特開2007-127485(JP,A)
【文献】特開2014-215043(JP,A)
【文献】特開2012-038459(JP,A)
【文献】国際公開第2018/037471(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/098247(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/100675(WO,A1)
【文献】特開平06-003601(JP,A)
【文献】特開2016-223975(JP,A)
【文献】特開2015-146288(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/62-27/70
G01N 21/00-21/958
G06T 7/00-7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料に対し設定された測定領域内の複数の微小領域においてそれぞれ所定の分析を実行するイメージング分析装置であって、
試料に対し所定の分析を実行する装置本体と、該装置本体での分析に必要な制御データを生成して前記装置本体に送る制御部と、を含み、前記制御部は、
任意の形状の測定領域を設定する測定領域設定部と、
前記領域設定部により設定された測定領域に対し、該測定領域を囲む所定形状でサイズが可変である制御対象領域を定める制御対象領域決定部と、
前記制御対象領域に含まれる全ての微小領域について、前記測定領域に含まれる又は該測定領域に少なくとも一部が重なる第1群とそれ以外の第2群とに分け、該第1群に属する微小領域に二値データの一方を、該第2群に属する微小領域に二値データの他方を割り当てる二値化処理部と、
前記制御対象領域に含まれる全ての微小領域について決められた順序で一つずつ、割り当てられている二値データを取得して二値データ列を形成し、該二値データ列を連長圧縮する圧縮処理部と、
前記圧縮処理部による二値データ列の形成時の最初の微小領域の位置を示す初期位置情報と、前記圧縮処理部による圧縮データと、を含む制御データを生成して前記装置本体に送るデータ送出部と、
を含み、前記装置本体は、
前記制御部から送られてきた制御データ中の圧縮データを伸張して復元した二値データ列と、前記初期位置情報と、を含む制御情報に基づいて、試料において前記測定領域に対応する微小領域を特定して順次分析を実行させる分析実行制御部、
を含む、イメージング分析装置。
【請求項2】
前記制御対象領域の形状は矩形状である、請求項1に記載のイメージング分析装置。
【請求項3】
前記決められた順序は、矩形状である前記制御対象領域の長軸方向に微小領域を順番に選択するものである、請求項2に記載のイメージング分析装置。
【請求項4】
前記所定の分析は質量分析である、請求項1~3のいずれか1項に記載のイメージング分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料上の測定領域内の多数の微小領域それぞれに対し所定の分析を実施することが可能であるイメージング分析装置に関する。本発明は特に、イメージング質量分析装置に好適である。
【背景技術】
【0002】
質量分析イメージング法は、生体組織切片などの試料上の2次元的な測定領域内の複数の微小領域(測定点)に対しそれぞれ質量分析を行うことにより、特定の質量を有する物質の空間分布を調べる手法であり、創薬やバイオマーカ探索、各種疾病・疾患の原因究明などへの応用が鋭意進められている。質量分析イメージングを実施するための質量分析装置は一般にイメージング質量分析装置と呼ばれている(特許文献1等参照)。
【0003】
通常、イメージング質量分析装置には試料上の顕微光学画像を撮影することが可能な光学顕微装置が併設されている。そして、観察者はまず光学顕微装置で得られた試料上の光学画像を確認して質量分析の対象である測定領域を定め、該測定領域を指定して測定実行を指示する。すると、この指示に応じてイメージング質量分析装置では、指定された測定領域に含まれる多数の微小領域に対する質量分析が順次実行されるようになっている。
【0004】
例えば非特許文献1に記載のイメージング質量分析装置は、測定を実行する装置本体と、該装置本体における動作の制御や該装置本体で得られたデータの処理を担う、専用のソフトウェアが搭載されたパーソナルコンピュータ(以下「PC」と略す)と、を含む。
【0005】
試料上で測定対象として任意の形状の領域指定された場合、従来のイメージング質量分析装置では次のような手順で分析が実行される。
【0006】
いま、図7(A)に示すように、試料の光学顕微画像100上で観察者が任意形状の測定領域102を指定したものとする。測定領域102が指定されると、PCでは、該測定領域102を、X軸方向に沿って延伸しY軸方向には1個の微小領域のサイズに相当する幅である複数の帯状領域104に区分する(図7(B)参照)。そして、帯状領域104毎に、始点の位置情報(X軸方向及びY軸方向のアドレス情報)、X軸方向の測定点間隔(X軸方向の1個の微小領域のサイズ)、及び、その帯状領域104における測定点数(微小領域の数)を求め、これら情報を含む制御データを装置本体へ送出する。一つの帯状領域104に対応する制御データを受け取った装置本体は、その制御データに含まれる情報に従って分析対象である微小領域の位置を特定しながら、一つの帯状領域104内の複数(一つである場合もある)の微小領域に対する質量分析を順番に実施する。
【0007】
PCは、装置本体における上述したような分析の実行状態を監視しつつ、一つの帯状領域104に含まれる複数の微小領域に対する分析が終了する毎に、次の帯状領域104に対応する制御データを装置本体に送出する、という制御動作を繰り返す。これにより、装置本体では最終的に、指定された測定領域に含まれる全ての微小領域に対する質量分析を実施し(図7(C)参照)、それにより得られた質量分析データをPCに転送することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開第2018/037491号パンフレット
【非特許文献】
【0009】
【文献】「iMScope TRIO イメージング質量顕微鏡」、[online]、株式会社島津製作所、[2018年11月20日検索]、インターネット<URL: https://www.an.shimadzu.co.jp/bio/imscope/>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
質量分析イメージング画像の解像度を高くした場合、測定領域102に含まれる帯状領域104の数は非常に多くなる可能性がある。そのため、測定領域102全体に対応する制御データの量はかなり膨大になる場合があり、これら制御データを全て記憶できるような記憶容量の大きなメモリを装置本体に装備することは難しい。そのため、装置本体に装備するメモリの記憶容量を抑えるために、上述したようにPCから装置本体に対して、帯状領域毎に一つの帯状領域に対応する制御データを送出し、装置本体では一つの帯状領域に対応する制御データのみをメモリに格納して該制御データから分析対象の微小領域の位置を特定するようにしている。
【0011】
しかしながら、こうした制御方法では、一つの測定領域102に含まれる膨大な数の微小領域に対する分析をそれぞれ実行する間に、PCが高い頻度で装置本体の動作状態を確認し、一つの帯状領域に対する複数の分析が実行される毎に制御データを装置本体に送出する必要があり、PCでの処理が煩雑になる。また、PCと装置本体との間での制御データの送受信の頻度が高いために、装置本体で得られた質量分析データをPCに転送する速度が低下してしまい、その影響により測定領域全体についての分析時間自体が長くなるおそれがある。
【0012】
なお、イメージング質量分析装置だけでなく、赤外分光イメージング装置やラマン分光イメージング装置などの、質量分析とは異なる分析手法を用いたイメージング装置でも、特に分析の空間分解能を高めようとする場合には上記と同様の問題が生じる。
【0013】
本発明はこうした課題を解決するために成されたものであり、その目的とするところは、装置本体を制御するPC等の制御部における定期的な又は高い頻度での装置状態の監視や制御データの送受を不要とするとともに、装置本体において制御データを記憶するメモリの記憶容量の増大も回避することができるイメージング分析装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するために成された本発明に係るイメージング分析装置は、試料に対し設定された測定領域内の複数の微小領域においてそれぞれ所定の分析を実行するイメージング分析装置であって、
試料に対し所定の分析を実行する装置本体と、該装置本体での分析に必要な制御データを生成して前記装置本体に送る制御部と、を含み、
前記制御部は、
任意の形状の測定領域を設定する測定領域設定部と、
前記領域設定部により設定された測定領域に対し、該測定領域を囲む所定形状でサイズが可変である制御対象領域を定める制御対象領域決定部と、
前記制御対象領域に含まれる全ての微小領域について、前記測定領域に含まれる又は該測定領域に少なくとも一部が重なる第1群とそれ以外の第2群とに分け、該第1群に属する微小領域に二値データの一方を、該第2群に属する微小領域に二値データの他方を割り当てる二値化処理部と、
前記制御対象領域に含まれる全ての微小領域について決められた順序で一つずつ、割り当てられている二値データを取得して二値データ列を形成し、該二値データ列を連長圧縮する圧縮処理部と、
前記圧縮処理部による二値データ列の形成時の最初の微小領域の位置を示す初期位置情報と、前記圧縮処理部による圧縮データと、を含む制御データを生成して前記装置本体に送るデータ送出部と、
を含み、前記装置本体は、
前記制御部から送られてきた制御データ中の圧縮データを伸張して復元した二値データ列と、前記初期位置情報と、を含む制御情報に基づいて、試料において前記測定領域に対応する微小領域を特定して順次分析を実行させる分析実行制御部、
を含む、ものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明に係るイメージング分析装置では、測定領域に含まれる微小領域の位置を特定可能な情報を、少ない情報量で以て制御部から装置本体へと送ることができる。そのため、本発明に係るイメージング分析装置によれば、PC等の制御部における定期的な又は高い頻度での装置状態の監視や制御データの送受を不要とすることができる。また、装置本体において制御データを記憶するメモリの記憶容量の増大も回避することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】本発明の一実施形態であるイメージング質量分析装置の要部の構成図。
図2】本実施形態のイメージング質量分析装置における制御用PCの処理フローチャート。
図3】制御用PCで実施される分析制御のための処理の説明図。
図4】制御用PCで実施される分析制御のための処理の説明図。
図5】制御用PCで実施される分析制御のための処理の説明図。
図6】制御用PCで実施される分析制御のための処理の説明図。
図7】従来のイメージング質量分析装置における制御用PCで実施される分析制御のための処理の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の一実施形態であるイメージング質量分析装置について、添付図面を参照して説明する。
【0018】
図1は、本実施形態のイメージング質量分析装置の要部の構成図である。本装置は、測定を実行する装置本体部1と、装置本体部1の動作を制御するとともに装置本体部1で得られたデータを処理する制御・処理部2と、入力部3と、表示部4と、を含む。装置本体部1と制御・処理部2とは相互にデータを送受可能な信号線で接続され、入力部3及び表示部4は制御・処理部2に付設されている。制御・処理部2は典型的にはPCであり、該PCにインストールされた専用のソフトウェアを該PCで実行することで後述する各種の機能が実現されるものとすることができる。
【0019】
装置本体部1は、データ送受信部10、測定制御データ一時記憶部11、測定制御データ解読部12、動作制御部14、測定実行部15、及び、光学顕微観察部16、を含む。測定制御データ解読部12は伸張処理部13を含む。一方、制御・処理部2は、測定領域指示受付部20、制御対象領域決定部21、有効/無効判定部22、二値化処理部23、圧縮処理部24、測定制御データ生成部25、及び、データ送受信部26、を含む。
【0020】
装置本体部1における測定実行部15は例えば、マトリクス支援レーザ脱離イオン化イオントラップ飛行時間型質量分析装置(MALDI-IT-TOFMS)を含み、生体組織切片などの試料上の2次元的な測定領域内の多数の測定点(微小領域)それぞれについてのマススペクトルデータ(又はnが2以上のMSnスペクトルデータ)を取得することが可能なものである。また、光学顕微観察部16は同じ試料上の所定範囲の光学顕微画像を取得するためのものである。
【0021】
次に、本実施形態のイメージング質量分析装置における特徴的な動作について、図2図6を参照して説明する。図2は、制御・処理部2で実行される処理のフローチャートである。図3図6は、制御・処理部2で実施される分析制御のための処理の説明図である。
【0022】
ユーザ(観察者)が試料を装置本体部1の所定位置にセットすると、光学顕微観察部16はその試料上の所定範囲の光学顕微画像を撮影する。得られた画像データは制御・処理部2へ送られ、制御・処理部2はその画像を表示部4に表示する。ユーザは表示された光学顕微画像を確認し、試料上でイオン強度分布つまりは特定の成分の分布、を確認したい測定領域を決定する。そして、ユーザは入力部3を操作することにより、例えば図3(A)に示すように、光学顕微画像100上で任意の形状の枠111を描画して、該枠111で込まれる部分を測定領域110として指定する(ステップ50)。測定領域指示受付部20はこのようにして指定された領域を測定領域として設定する。なお、いま図3(A)に示してあるように、便宜的に、光学顕微画像100の横軸をX軸、縦軸をY軸と定める。
【0023】
制御対象領域決定部21は、光学顕微画像100上の測定領域110を囲む長方形状の制御対象領域112を決定する(ステップ51)。測定領域110を囲む長方形状の制御対象領域はほぼ無数に存在するが、測定領域110を囲む長方形の中で該測定領域110の占める面積の割合ができるだけ大きくなるようなサイズである長方形を制御対象領域112として定めるとよい。このとき、その長方形の長辺及び短辺はX軸、Y軸と平行である必要はない。こうした条件の下で制御対象領域112を定めると、多くの場合、制御対象領域112の枠と測定領域110の枠111とが接触する距離が長くなる、又は接触する点が多くなる。もちろん、制御対象領域112は、必ずしも、測定領域110を囲む長方形の中で測定領域110の占める面積の割合が最大であるものでなくてもよい。
【0024】
図3(A)に示した測定領域110に対しては、例えば図3(B)に示すような制御対象領域112が決定される。この長方形状である制御対象領域112の枠の長辺に平行な軸をX’軸、短辺に平行な軸をY’軸とする。このとき、X’軸とX軸とは平行でないから、制御対象領域決定部21は、X’軸とX軸とが成す角度θを制御対象領域112の回転角情報として取得する(ステップ52)。
【0025】
有効/無効判定部22は、図4に示すように、長方形状の制御対象領域112の全体を所定の間隔の格子状に区切る(ステップ53)。このときのX’軸方向及びY’軸方向の格子の間隔は、質量分析の測定点の間隔、つまりは事前に指定された空間分解能に応じて決められる。したがって、格子状に区切られた一つの矩形状の小領域116は質量分析が実行される一つの微小領域に対応する。そして、制御対象領域112内の各小領域116が測定領域110に重なるか否かを判定し、一部でも重なるものを第1群、全く重ならないものを第2群に振り分ける。二値化処理部23は、第1群に有効な小領域であることを示す「1」、第2群には無効な小領域であることを示す「0」のフラグを割り当てる(ステップ54)。図4に示した各小領域116に対し、有効/無効を示すフラグを割り当てると図5に示すようになる。
【0026】
圧縮処理部24は、制御対象領域112の長軸(図5の例ではX’軸)に沿って進み、末端に達すると次の行又は列に移行して長軸に沿って逆向きに進むという順序で以て、各小領域に割り当てられたフラグの値を並べたデータ配列を形成する。そして、このデータ配列を連長圧縮し、圧縮後のデータを得る(ステップ55、56)。図5の例では、左上端に位置する小領域を始点とすると、フラグのデータ配列は01100111111111001…となる。これを連長圧縮すると、図6に示すような圧縮データが得られる。図6では、2桁のHEXコード(バイナリコードで8ビット)の最上位ビットをフラグの値とし、それ以外のビットで「0」又は「1」の連続数を示している。なお、空間分解能に依るが、通常、同一値のフラグの連続数はもっと大きな数になることが見込まれるため、実際には、連長圧縮後の一つのデータのビット数は多く設定される。
【0027】
圧縮処理が終了すると測定制御データ生成部25は、試料上での制御対象領域112内の初期位置の情報(X軸及びY軸上のアドレス)、制御対象領域112のサイズ(X’軸及びY’軸方向の小領域の数)、測定点のピッチ(小領域のサイズ)、制御対象領域112の角度θ、及び上記圧縮データを含む所定形式の制御データを生成し、データ送受信部26を通して装置本体部1へ送出する(ステップ57)。上記初期位置の情報とは、制御対象領域112内での圧縮処理の始点に対応する小領域の位置を示す情報である。
【0028】
なお、空間分解能つまりは測定点ピッが予め一つに決まっている場合には、測定点ピッチの情報を制御データに含める必要はない。また、測定領域110に対して制御対象領域112を決める際に、X’軸及びY’軸をX軸及びY軸に一致させる、つまりは角度θを常に0とする場合には角度θの情報を制御データに含める必要はない。
【0029】
装置本体部1においてデータ送受信部10は制御・処理部2から送られて来た制御データを受領し、測定制御データ一時記憶部11に格納する。測定制御データ解読部12は、測定制御データ一時記憶部11に格納されている制御データのうちの圧縮データを先頭から順番に読み出し、伸張処理部13は伸張処理を実施する。伸張処理の結果から、無効フラグが付されている小領域の連続数と有効フラグが付されている小領域の連続数が判明する。無効フラグが付されている小領域については質量分析を実行する必要がなく、有効フラグが付されている小領域のみの質量分析を実行すればよい。そこで、測定制御データ解読部12は、伸張処理して得られるデータと、制御データに含まれるそれ以外の情報とから、質量分析の対象とすべき小領域の位置情報(X軸上及びY軸上のアドレス)を算出し、動作制御部14に入力する。
【0030】
なお、測定制御データ解読部12は、制御対象領域112内で質量分析の対象とすべき全ての小領域の位置情報を一度に求めることも可能であるものの、そうすると、求めた位置情報を記憶しておくために大きな記憶容量のメモリが必要になる。これを回避するために、測定制御データ解読部12は実際の分析の進行度合いに合わせて少しずつ、質量分析の対象とすべき小領域の位置情報を算出する。動作制御部14は上述したように測定制御データ解読部12から与えられる情報に基づいて、試料上で次に分析すべき位置を決め、その位置に対する質量分析が実行されるように測定実行部15を制御する。
【0031】
具体的には、試料上で次に分析すべき部位がMALDIイオン源によるレーザ光の照射位置に来るように試料を移動させ、移動が完了するとレーザ光をパルス的に照射し、試料由来のイオンを発生させる。そして、発生したイオンについての質量分析を実行する。そして、分析が終了したならば、試料上で次に分析すべき部位がレーザ光の照射位置に来るように試料を移動させる、という動作を繰り返す。これにより、試料上で、図5に示した有効フラグが付された小領域に対応する位置、つまりは測定領域110を網羅する測定点における質量分析が順番に実行される。
【0032】
説明を簡単にするため、上記説明では測定領域110に含まれる測定点の数はそれほど多くないが、実際には一般に、測定領域110に含まれる測定点の数は膨大である。そのため、上述した従来の方法では、測定領域110全体を質量分析するために制御・処理部から装置本体部に送出すべき制御データの量は膨大になる。これに対し、上記実施形態のイメージング質量分析装置では、測定領域110全体を質量分析するために制御・処理部から装置本体部に送出すべき制御データの量を少なくすることができ、それ故に、測定領域110全体の分析前に制御・処理部2から装置本体部1に全ての制御データを送出し、装置本体部1においてその制御データを解読しながら分析を実行することができる。
【0033】
上記実施形態のイメージング質量分析装置では、ユーザが光学顕微画像を観察しながらマニュアル操作で測定領域を指定していたが、測定領域の指定を自動化することもできる。例えば、測定領域の抽出条件をユーザが予め設定しておき、画像認識部が光学顕微画像上で抽出条件に適合する範囲を画像認識により抽出し、その範囲を測定領域として決めるようにすることができる。即ち、測定領域はマニュアル操作で指定されるものでも、自動的に指定されるものでもよい。
【0034】
また上記実施形態のイメージング質量分析装置では、制御対象領域を長方形状にしていたが、制御対象領域は長方形状に限らず、長方形以外の四角形状、三角形状、多角形状などでもよい。もちろん、その形状において、初期位置の決め方とデータ配列を形成する際の順序とを定義しておく必要がある。
【0035】
また、上記実施形態は本発明をイメージング質量分析装置に適用した例であるが、分析手法は質量分析に限らず、フーリエ変換赤外分光分析やラマン分光分析などの他の分析でもよい。即ち、ユーザにより指定された又は自動的に設定された様々な形状の測定領域内の多数の測定点についてそれぞれ分析を行うようなイメージング分析装置全般に、本発明を適用することができる。
【0036】
また、上記実施形態や変形例は本発明の一例であり、本発明の趣旨の範囲で適宜に変更、修正、追加を行っても本願特許請求の範囲に包含されることは当然である。
【0037】
以上、図面を参照して本発明の実施形態を説明したが、最後に、本発明の種々の態様について説明する。
【0038】
本発明の第1の態様のイメージング分析装置は、試料に対し設定された測定領域内の複数の微小領域においてそれぞれ所定の分析を実行するイメージング分析装置であって、
試料に対し所定の分析を実行する装置本体(1)と、該装置本体(1)での分析に必要な制御データを生成して前記装置本体(1)に送る制御部(2)と、を含み、前記制御部(2)は、
任意の形状の測定領域を設定する測定領域設定部(20)と、
前記領域設定部(20)により設定された測定領域に対し、該測定領域を囲む所定形状でサイズが可変である制御対象領域を定める制御対象領域決定部(21)と、
前記制御対象領域に含まれる全ての微小領域について、前記測定領域に含まれる又は該測定領域に少なくとも一部が重なる第1群とそれ以外の第2群とに分け、該第1群に属する微小領域に二値データの一方を、該第2群に属する微小領域に二値データの他方を割り当てる二値化処理部(22)と、
前記制御対象領域に含まれる全ての微小領域について決められた順序で一つずつ、割り当てられている二値データを取得して二値データ列を形成し、該二値データ列を連長圧縮する圧縮処理部(23)と、
前記圧縮処理部(23)による二値データ列の形成時の最初の微小領域の位置を示す初期位置情報と、前記圧縮処理部(23)による圧縮データと、を含む制御データを生成して前記装置本体(1)に送るデータ送出部(24,25)と、
を含み、前記装置本体(1)は、
前記制御部(2)から送られてきた制御データ中の圧縮データを伸張して復元した二値データ列と、前記初期位置情報と、を含む制御情報に基づいて、試料において前記測定領域に対応する微小領域を特定して順次分析を実行させる分析実行制御部(12,14)を含む、ものである。
【0039】
第1の態様のイメージング分析装置によれば、装置本体において分析すべき測定領域に含まれる微小領域の位置を特定するためにPC等の制御部から装置本体に送る制御データの量を、従来よりも少なくすることができる。測定領域に対応する制御データを分析に先立ってまとめて装置本体に送ることができ、分析実行中における制御部による定期的な又は高い頻度での装置状態の監視や制御データの送受が不要となる。その結果、制御が簡単になるとともに、装置本体と制御部との間のデータ転送の効率が向上し、分析時間の短縮化にも繋がる。また、装置本体において制御データを記憶するメモリの記憶容量を増やす必要もなく、装置本体のコスト増加を回避することができる。
【0040】
第2の態様のイメージング分析装置は、第1の態様において、前記制御対象領域の形状を矩形状としたものである。
【0041】
第2の態様のイメージング分析装置によれば、様々な形状の測定領域に対して制御対象領域を設定するのが容易である。
【0042】
第3の態様のイメージング分析装置は、第3の態様において、前記決められた順序は、矩形状である前記制御対象領域の長軸方向に微小領域を順番に選択するものである。
【0043】
第2の態様のイメージング分析装置によれば、矩形状である制御対象領域の短軸方向に微小領域を順番に選択する場合に比べて、二値データ列で同じ値が連続する可能性が高くなり圧縮効率が向上する。
【0044】
第4の態様のイメージング分析装置は、第1乃至第3の態様のいずれか一つにおいて、前記所定の分析は質量分析である。
【0045】
イメージング質量分析装置は一般に他のイメージング分析手法に比べて空間分解能が高いため、測定領域に含まれる測定点の数が多く、その分だけ制御データの量も多い。そのため、第4の態様のイメージング分析装置において本発明は特に有効である。
【符号の説明】
【0046】
1…装置本体部
10…データ送受信部
11…測定制御データ一時記憶部
12…測定制御データ解読部
13…伸張処理部
14…動作制御部
15…測定実行部
16…光学顕微観察部
2…制御・処理部
20…測定領域指示受付部
21…制御対象領域決定部
22…有効/無効判定部
23…二値化処理部
24…圧縮処理部
25…測定制御データ生成部
26…データ送受信部
3…入力部
4…表示部
100…光学顕微画像
110…測定領域
112…制御対象領域
116…小領域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7