(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】蹄行性有害獣の方向誘導装置および方法
(51)【国際特許分類】
A01M 29/30 20110101AFI20221109BHJP
E04H 17/16 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
A01M29/30
E04H17/16 104
(21)【出願番号】P 2018236142
(22)【出願日】2018-12-18
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000211307
【氏名又は名称】中国電力株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】山下 隆
(72)【発明者】
【氏名】一瀬 泰啓
【審査官】川野 汐音
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-240295(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0354138(US,A1)
【文献】特開2016-171772(JP,A)
【文献】韓国公開実用新案第20-2013-0004161(KR,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01M 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蹄行性有害獣の侵入が防止される保護領域の外側に配設され、前記蹄行性有害獣が立ち止って飛び越える高さの障害壁と、
前記蹄行性有害獣が立ち止って前記障害壁を飛び越える際に立ち止まる停止エリア
のみに、地面から所定の高さに略横方向に延びて配設されるネットと、
前記ネットを前記地面に固定する固定手段と、
を備えることを特徴とする蹄行性有害獣の方向誘導装置。
【請求項2】
前記障害壁は、前記地面側を支点に前記保護領域側に傾倒自在で、
傾倒した前記障害壁を立て直す復帰手段を備える、
ことを特徴とする請求項1に記載の蹄行性有害獣の方向誘導装置。
【請求項3】
前記復帰手段は、前記障害壁を前記保護領域側から支え弾性変形自在な復帰部材を備える、
ことを特徴とする請求項2に記載の蹄行性有害獣の方向誘導装置。
【請求項4】
前記固定手段は、細長い金属材を逆U字に折り曲げ両端部を外側に湾曲させたΩ形金物で構成され、前記Ω形金物の端部を前記ネットの網目に挿入して前記地面に突き刺すことで、前記ネットが前記地面に固定される、
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の蹄行性有害獣の方向誘導装置。
【請求項5】
前記ネットの網目は、前記蹄行性有害獣の足もしくは蹄が挿入可能で、かつ、前記網目から前記蹄行性有害獣の足もしくは蹄を抜こうとする際に前記足もしくは蹄に引っ掛かる大きさに設定されている、
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の蹄行性有害獣の方向誘導装置。
【請求項6】
蹄行性有害獣の侵入が防止される保護領域の外側に、前記蹄行性有害獣が立ち止って飛び越える高さの障害壁を配設し、
前記蹄行性有害獣が立ち止って前記障害壁を飛び越える際に立ち止まる停止エリア
のみに、地面から所定の高さにネットを略横方向に延ばして配設する、
ことを特徴とする蹄行性有害獣の方向誘導方法。
【請求項7】
前記障害壁が前記地面側を支点に前記保護領域側に傾倒した場合に、前記障害壁を立て直す復帰手段を配設する、
ことを特徴とする請求項6に記載の蹄行性有害獣の方向誘導方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、指定管理鳥獣のうち鹿や猪などの蹄行性有害獣による農地や土構造物への有害行動を防止し、蹄行性有害獣が移動する方向を誘導するための方向誘導装置および方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、平野の外縁部から山間地までの中山間地域において、人口の減少や生活スタイルの変化に伴い、耕作放棄地の増加や山林原野の利用放棄が広がり、環境の変化が進んでいる。このような環境が変化した中山間地域は、鹿や猪などの大型獣に餌や隠れ場所、水などを提供する生息適地となるため、大型獣の生息数および生息分布域が拡大している。大型獣の増加は、農地や森林での食害や人への被害(噛みつき、寄生虫など)、堤防や土手、盛り土などの土構造物に対する棄損などのさまざまな問題をもたらしている。
【0003】
特に、土構造物では、法面の法尻部や法際部等の含水比の高い部分を掘り返すなどの有害行動が増加している。法尻部は、斜面安定上極めて重要な部分であり、この部分の緩みや、地中内部への雨水の浸透は斜面崩壊の危険度を増加させる。また、法際部では豪雨時に水流が集中するため、掘り返しにより弱体化した部分が水流で押し流され、上部土塊の崩壊を引き起こし、農業用ため池堤体の決壊等の甚大な被害を引き起こしている。さらに、蹄行性有害獣が原因とされる落石被害が、鉄道や道路設備において発生している。このような大型獣による被害の拡大を防止するため、環境省では、従来の鳥獣保護法を改正した新たな鳥獣保護管理法において、猪および鹿を適正規模に捕獲可能な指定管理鳥獣として指定している。
【0004】
従来、農地や土構造物などの保護領域内に対する蹄行性有害獣の侵入を防止するため、各種の侵入防止対策が施されている。例えば、従来の侵入防止対策には、金属フェンスや合成樹脂製のネットなどで保護領域内を囲んで蹄行性有害獣の侵入を防止するもの(例えば、特許文献1、2参照)や、センサーライトや蓄光機能を有する合成樹脂製のネットから放射される光、電気ショックなどを利用して蹄行性有害獣に不快感や恐怖感を与えて保護領域への侵入を防止するもの(例えば、特許文献3、4参照)、罠などで蹄行性有害獣を駆除するもの(例えば、特許文献5参照)、繊維質ネット柵の形状に工夫を凝らしネットの一部が地面から浮いた状態とする防獣ネット柵(例えば、特許文献6参照)などが知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-008604号公報
【文献】特開2008-187951号公報
【文献】特開2000-194927号公報
【文献】実用新案登録第3172053号公報
【文献】特開2014-083049号公報
【文献】特開2011-152060号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記の特許文献1~5の侵入防止対策は、その設置に多額の費用や手間を必要とするだけではなく、金属フェンスやネットの破損状況の確認や、電気ショックを与えるための電気設備のメンテナンスなど、ランニングコストの負担が大きい。特に、鹿などが飛び越えられないほどの高いフェンスやネットを、広範囲にわたって設置するには多大なコストを要する。また、従来の侵入防止対策は、その設置コストが大きいことから、蹄行性有害獣に設備を破損された場合の被害額も大きくなってしまう。さらに、大がかりな設備は、人や車両の移動に制約がかかることから、人手や資金が乏しい組織や、通行の往来が多い場所では対策が実施しにくいという問題があった。
【0007】
また、上記の特許文献6の防獣ネット柵はネットの下端を斜めに張ることで蹄行性有害獣の侵入を抑制する技術であるが、斜め部分の草が刈りにくく、ネットの繊維が草刈り機に絡みつくことから草刈りが出来ず、絡みついた蔦や蔓を取り除くことが出来ない防獣ネット柵は供用期間や耐用期間を過ぎた段階でも森林等に残置され、森林管理作業に支障を及ぼす他、森林火災時の避難ルートの妨害となるだけではなく、廃棄物処理法に抵触することも懸念される。
【0008】
そこで本発明は、上記課題を解決するために、低コストで、農地や土構造物などの保護領域への高い侵入防止効果が得られる、蹄行性有害獣の方向誘導装置および方法を提供することを目的とする。
【0009】
一方、授産施設においては障がいを抱える方々にとって実施可能な作業が限られること等から、作業所の健全な経営に必要な作業が確保できず、経営破たんする作業所が発生する等の社会問題が発生している。このため、障がいを抱える方々にとって実施可能な作業を確保することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、請求項1の発明は、蹄行性有害獣の侵入が防止される保護領域の外側に配設され、前記蹄行性有害獣が立ち止って飛び越える高さの障害壁と、前記蹄行性有害獣が立ち止って前記障害壁を飛び越える際に立ち止まる停止エリアのみに、地面から所定の高さに略横方向に延びて配設されるネットと、前記ネットを前記地面に固定する固定手段と、を備えることを特徴とする蹄行性有害獣の方向誘導装置である。
【0011】
請求項2の発明は、請求項1に記載の方向誘導装置において、前記障害壁は、前記地面側を支点に前記保護領域側に傾倒自在で、傾倒した前記障害壁を立て直す復帰手段を備える、ことを特徴とする。
【0012】
請求項3の発明は、請求項2に記載の方向誘導装置において、前記復帰手段は、前記障害壁を前記保護領域側から支え弾性変形自在な復帰部材を備える、ことを特徴とする。
【0013】
請求項4の発明は、請求項1から3に記載の方向誘導装置において、前記固定手段は、細長い金属材を逆U字に折り曲げ両端部を外側に湾曲させたΩ形金物で構成され、前記Ω形金物の端部を前記ネットの網目に挿入して前記地面に突き刺すことで、前記ネットが前記地面に固定される、ことを特徴とする。
【0014】
請求項5の発明は、請求項1から4に記載の方向誘導装置において、前記ネットの網目は、前記蹄行性有害獣の足もしくは蹄が挿入可能で、かつ、前記網目から前記蹄行性有害獣の足もしくは蹄を抜こうとする際に前記足もしくは蹄に引っ掛かる大きさに設定されている、ことを特徴とする。
【0015】
請求項6の発明は、蹄行性有害獣の侵入が防止される保護領域の外側に、前記蹄行性有害獣が立ち止って飛び越える高さの障害壁を配設し、前記蹄行性有害獣が立ち止って前記障害壁を飛び越える際に立ち止まる停止エリアのみに、地面から所定の高さにネットを略横方向に延ばして配設する、ことを特徴とする蹄行性有害獣の方向誘導方法である。
【0016】
請求項7の発明は、請求項6に記載の方向誘導方法において、前記障害壁が前記地面側を支点に前記保護領域側に傾倒した場合に、前記障害壁を立て直す復帰手段を配設する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
鹿などの蹄行性有害獣は、比較的高い障害物に対しては遠くから助走して飛び越えようとするが、比較的低い障害物に対しては一旦立ち止って飛び越えようとする。そして、請求項1および請求項6に記載の発明によれば、鹿などが立ち止って飛び越える高さに障害壁の高さが設定され、しかも、鹿などが立ち止って障害壁を飛び越える際に立ち止まる停止エリアにネットが配設されているため、障害壁を飛び越える前に鹿などは必ずネットに足を踏み入れる。
【0018】
一方、蹄行性有害獣として指定されている鹿や猪などの偶蹄目は、足の先端に2本の主蹄と、そのやや上の後ろ側に2本の副蹄とを有し、これら主蹄や副蹄の間に物が挟まり、あるいは足自体が挟まる可能性があるものを嫌う習性がある。そして、請求項1および請求項6に記載の発明によれば、地面から所定の高さにネットが配置されているため、本装置に鹿や猪が侵入した場合に、足がネットの網目に挿入されて絡まり、足が曲げられバランスを崩す等の現象を高い確率で経験することになる。また、主蹄や副蹄にネットが挟まることにより、鹿や猪に不快感を与えることもできる。
【0019】
このように、請求項1および請求項6に記載の発明によれば、蹄行性有害獣がより確実にネットに足を踏み入れ、かつ、ネットが足により確実に絡まるため、蹄行性有害獣が保護領域内に侵入するのをより効果的に防止して、蹄行性有害獣を保護領域外に誘導することが可能となる。しかも、蹄行性有害獣が立ち止って障害壁を飛び越える際に立ち止まる停止エリアのみにネットを配設するだけでよく、広範囲にわたって配設する必要がないため、設置費や保守費を低減することが可能となる。同様に、蹄行性有害獣が立ち止って飛び越えられる程度の低さに障害壁の高さが設定されているため、障害壁を高くする必要がなく、設置費や保守費を低減することが可能となる。
【0020】
請求項2および請求項7に記載の発明によれば、蹄行性有害獣などによって障害壁が保護領域側に倒されたとしても、復帰手段によって障害壁が立ち直るため、障害壁としての機能を維持することができる。また、人手によって障害壁を立て直す必要がないため、保守費を低減することが可能となる。
【0021】
請求項3に記載の発明によれば、弾性変形した復帰部材が元に戻ることで障害壁が立ち直る簡易な構成のため、授産施設で製作することが可能となるとともに、製作費や保守費を低減することが可能となる。
【0022】
請求項4に記載の発明によれば、ネットを地面に固定する固定手段がΩ形金物で構成され、Ω形金物の両端部が外側に湾曲して地面に突き刺さるため、蹄行性有害獣がもがいたとしてもΩ形金物が地面から抜けにくい。すなわち、引き抜く毎に金物上部の土塊が締め固まり、受動土圧が湾曲した金物に作用し、引き抜き抵抗力が増加する。蹄行性有害獣は、引き抜く毎に引き抜き力が増加する特性に対して、引き抜き行動を諦めてしまう習性があることから、ネットの取り外し等の破壊行動をしたとしてもΩ形金物が地面から抜けにくい。つまり、ネットを地面に強固に固定することができ、その結果、保護領域内への蹄行性有害獣の侵入をより効果的に防止することが可能となる。しかも、Ω形金物が細長い金属材を折り曲げただけの簡易な構成のため、授産施設で製作することが可能となるとともに、製作費や保守費を低減することが可能となる。
【0023】
請求項5に記載の発明によれば、ネットの網目の大きさが適正なサイズに設定されているため、蹄行性有害獣の足や蹄を確実に引っ掛けて絡めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】この発明の実施の形態1に係る蹄行性有害獣の方向誘導装置を示す斜視図である。
【
図2】
図1の方向誘導装置のネットに鹿が足を踏み入れた状態を示す斜視図である。
【
図3】
図1の方向誘導装置のネットを示す斜視図である。
【
図5】
図1の方向誘導装置のΩ形金物を示す正面図である。
【
図6】
図3のネットの固定方法を示す正面図である。
【
図7】
図3のネットに鹿の足が絡まった状態を示す説明図である。
【
図8】
図3のネットを鹿が引っ張ることによる、Ω形金物の変形状態を示す説明図である。
【
図9】
図1の方向誘導装置の障害壁を示す側面図である。
【
図10】
図9の障害壁が傾倒した状態を示す側面図である。
【
図11】この発明の実施の形態2に係る蹄行性有害獣の方向誘導装置の障害壁周辺を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0026】
(実施の形態1)
図1から
図10は、この実施の形態を示し、
図1は、この実施の形態に係る蹄行性有害獣の方向誘導装置(以下、「方向誘導装置」という)1を示す斜視図である。この方向誘導装置1は、鹿Mや猪などの蹄行性有害獣が農地や構造物などの保護領域PAに侵入するのを防止する装置であり、主として、ネット2と、Ω形金物(固定手段)3と、障害壁4と、を備える。ここで、この実施の形態では、蹄行性有害獣が鹿Mの場合について、主として以下に説明する。
【0027】
ネット2は、鹿Mが立ち止って障害壁4を飛び越える際に立ち止まる停止エリアD1に、地面Gから所定の高さに略横方向に延びて配設される網である。すなわち、鹿Mは、比較的高い障害物に対しては遠くから助走して飛び越えようとするが、比較的低い障害物に対しては一旦立ち止って飛び越えようとする。そして、障害壁4の高さは、後述するように、立ち止って飛び越える高さに設定されているため、保護領域PAの外側であって立ち止って障害壁4を飛び越える際に立ち止まる停止エリアD1に、全面が略横方向に延びるようにネット2が敷設されている。従って、障害壁4に接近し鹿Mが立ち止まらない近接エリアD2には、ネット2を敷設する必要はない。
【0028】
このネット2は、
図3に示すように、略長方形に形成され、網目2aは、
図7に示すように、鹿Mの足M1が挿入可能で、かつ、網目2aから鹿Mの足M1を抜こうとする際に足M1に引っ掛かる大きさに設定されている。詳しくは後述するが、例えば1辺が2~5cmの正方形、長方形に形成されている。なお、網目2aの形状は、正方形、長方形以外の多角形でもよいし、三角形、円形または楕円形であってもよい。
【0029】
また、ネット2は、変形自在な合成樹脂製で、
図4に示すように、中央部22が盛り上がった緩やかなアーチ状・円弧状に形成され、その両端部にカール部21が形成されている。このカール部21は、ネット2を地面Gから浮かせて位置させるものであり、ネット2の端部を円筒状に巻いて形成されている。また、カール部21の大きさ、外径は、地面Gからネット2全体(カール部21を除く)が所定の高さに位置するように設定されている。ここで、所定の高さは、鹿Mがネット2に足M1を踏み入れられ、踏み入れた際により確実に鹿Mの足M1を捉えられる高さ範囲(例えば、数cm~20cm)に設定されている。
【0030】
Ω形金物3は、ネット2を地面Gに固定する金物であり、
図5に示すように、細長い金属材を逆U字に折り曲げ、両端部を外側に湾曲させたΩ状(たこウインナーの輪郭状)に形成されている。すなわち、半円弧状の円弧部31と、その両端部から垂直に延びる垂直部32と、両垂直部32の端部から円弧状に外側に延びる湾曲部33と、を有する。
図6に示すように、円弧部31の内径は、カール部21の外径よりもやや大きく設定され、垂直部32の長さは、カール部21の外径よりもやや大きく設定されている。
【0031】
そして、両垂直部32および両湾曲部33をネット2の網目2aに挿入して、両湾曲部33を地面(地中)Gに突き刺すことで、円弧部31がネット2を押え込み、ネット2が地面Gに固定されるようになっている。ここで、この実施の形態では、両垂直部32でカール部21を挟むようにΩ形金物3を地面Gに突き刺しており、これにより、より安定してネット2を固定することができるが、設置環境などに応じてその他の位置に突き刺してもよい。また、
図8に示すように、鹿Mの力Fによってネット2が引っ張られても、Ω形金物3が地面Gから抜けないように、湾曲部33の円弧径、長さが設定されている。
【0032】
障害壁4は、鹿Mの侵入が防止される保護領域PAの外側・外縁に配設され、鹿Mが立ち止って飛び越える高さ(例えば、42cm)の壁であり、地面G側を支点に保護領域PA側と反保護領域PA側に傾倒自在となっている。すなわち、プラスチック製の四角い板(プラスチック段ボール)で構成され、
図9に示すように、L字状に曲げられて垂直部41と水平部42とを有し、垂直部41と水平部42の境を支点に両方向に傾倒できるようになっている。また、垂直部41の反水平部42側の面の中央部には、塩ビ管製の支柱43が垂直に延びて配設され、これにより、垂直部41の剛性、強度が高められている。そして、水平部42が保護領域PA側に位置して地面Gに沿って略水平に載置され、Ω形金物3で地面Gに固定され、垂直部41と支柱43が地面Gに対して略垂直に延びて配置されている。
【0033】
また、障害壁4を支持するとともに、傾倒した障害壁4を立て直す第1の復帰ゴム(復帰手段)5と復帰バー(復帰手段)6とを備える。第1の復帰ゴム5は、長尺のゴムで構成され、一端が障害壁4の垂直部41の上部に固定され、斜めに反保護領域PA側に延びて他端が地面Gに固定可能となっている。
【0034】
復帰バー6は、第2の復帰ゴム61と、障害壁4を保護領域PA側から支え弾性変形自在な復帰管(復帰部材)62とを備える。第2の復帰ゴム61は、長尺のゴムで構成され、一端が障害壁4の上部に固定され、斜めに保護領域PA側に延びて他端が地面Gに固定可能となっている。復帰管62は、塩ビ管などで構成されて剛性が高い複数の非変形管621と、ゴム管などで構成されて弾性変形自在な複数の変形管622とが、交互に配設されて構成され、復帰管62内を第2の復帰ゴム61が貫通している。
【0035】
これにより、
図10に示すように、外力によって障害壁4の垂直部41が保護領域PA側に倒れた場合、第1の復帰ゴム5が延びて第2の復帰ゴム61が縮むとともに、復帰管62の変形管622が弾性変形し、外力が解除されると、第1の復帰ゴム5と第2の復帰ゴム61の復元力と、復帰管62の弾性力によって垂直部41が立ち直る。同様に、垂直部41が反保護領域PA側に倒れた場合でも、第1の復帰ゴム5と第2の復帰ゴム61の復元力によって垂直部41が立ち直る。
【0036】
ここで、剛性が高い非変形管621が変形管622と交互に配置されていることで、復帰管62が大きく変形しないで小さい波状に変形し復帰管62の復元力・復帰力が高まる。また、この実施の形態では、鹿Mが保護領域PAに浸入することで垂直部41が保護領域PA側に倒れる場合が多いため、保護領域PA側にのみ復帰管62を設けているが、反保護領域PA側つまり第1の復帰ゴム5にも復帰管62を設けるようにしてもよい。
【0037】
次に、このような構成の方向誘導装置1の作用および、方向誘導装置1による蹄行性有害獣の方向誘導方法(以下、「方向誘導方法」という)について説明する。
【0038】
まず、
図1に示すように、保護領域PAの外側つまり外縁に沿って複数の障害壁4を配設する。すなわち、水平部42を保護領域PA側に位置させて地面Gに固定し、垂直部41を略垂直に延ばし、第1の復帰ゴム5と復帰バー6(第2の復帰ゴム61)の他端を地面Gに固定する。なお、第1の復帰ゴム5と復帰バー6の一端は、予め障害壁4の上部に固定されているものとする。次に、停止エリアD1に複数のネット2を略水平方向に延ばして配設する。すなわち、カール部21を地面Gに当ててネット2を配置し、Ω形金物3の両湾曲部(両端部)33を、ネット2の網目2aに挿入して地面Gに突き刺すことで、ネット2を地面Gに固定する。これにより、地面Gから所定の高さの位置に、全面が略横方向に延びるようにネット2が配置される。
【0039】
このようにして複数の方向誘導装置1を設置した状態で、鹿Mが立ち止って障害壁4を飛び越えようとして停止エリアD1に浸入すると、
図2に示すように、鹿Mがネット2に足M1を踏み入れ、足M1はネット2の網目2aに挿入される。ここで、
図7に示すように、鹿Mの偶蹄目の足M1は、先端に2本の主蹄M1aを有し、主蹄M1aの後方上部には、軟質の膨張部M1bを有する。また、膨張部M1bの上部には、2本の副蹄M1cが存在する。
【0040】
足M1が挿入されたネット2は、網目2aが副蹄M1cの上部で絡まり、主蹄M1aの間や、足M1と副蹄M1cとの間などに挟まる。鹿Mは、主蹄M1aや副蹄M1cの間に物が挟まったり、足M1自体が挟まる可能性があるものを嫌う習性があるため、ネット2から足M1を抜こうとして足M1を上げ下ろししたりする。しかしながら、ネット2は、足M1の膨張部M1bに引っ掛かり、主蹄M1aや副蹄M1cに挟まっているため、足M1は容易にネット2から抜けることはない。そのため、
図8に示すように、ネット2が鹿Mに引っ張られてΩ形金物3が変形するが、地面Gから抜けることがない。すなわち、鹿Mの力Fの反対側の湾曲部33
2が延びるように変形するが、力F側の湾曲部33
1は、曲率が大きくなるように(円弧が小さくなるように)変形して地中に食い込み、Ω形金物3の抵抗力が増して地面Gから抜けにくくなる。このため、鹿Mに対する不快な状態が維持され、鹿Mは、保護領域PAへの侵入を諦めて移動方向を変更するものである。
【0041】
以上のように、この方向誘導装置1および方向誘導方法によれば、鹿Mが立ち止って飛び越える高さに障害壁4の高さが設定され、しかも、鹿Mが立ち止って障害壁4を飛び越える際に立ち止まる停止エリアD1にネット2が配設されているため、障害壁4を飛び越える前に鹿Mは必ずネット2に足M1を踏み入れる。そして、地面Gから所定の高さにネット2が配置されているため、鹿Mがネット2に足M1を踏み入れた場合に、足M1がネット2の網目2aに挿入されて絡まり、足M1が曲げられバランスを崩す等の現象を高い確率で経験することになる。また、主蹄M1aや副蹄M1cにネット2が挟まることにより、鹿Mに不快感を与えることもできる。
【0042】
このように、鹿Mがより確実にネット2に足M1を踏み入れ、かつ、ネット2が足M1により確実に絡まるため、鹿Mが保護領域PA内に侵入するのをより効果的に防止して、鹿Mを保護領域PA外に誘導することが可能となる。しかも、鹿Mが立ち止って障害壁4を飛び越える際に立ち止まる停止エリアD1のみにネット2を配設するだけでよく、広範囲にわたって配設する必要がないため、設置費や保守費を低減することが可能となる。同様に、鹿Mが立ち止って飛び越えられる程度の低さに障害壁4の高さが設定されているため、障害壁4を高くする必要がなく、設置費や保守費を低減することが可能となる。
【0043】
また、鹿Mなどによって障害壁4の垂直部41が保護領域PA側などに倒されたとしても、第1の復帰ゴム5と復帰バー6によって障害壁4が立ち直るため、障害壁4としての機能を維持することができる。また、人手によって障害壁4を立て直す必要がないため、保守費を低減することが可能となる。しかも、復帰ゴム5、61と復帰管62が元に戻ろうとすることで障害壁4が立ち直る簡易な構成のため、授産施設で製作することが可能となるとともに、製作費や保守費を低減することが可能となる。なお、障害壁4の垂直部41が倒れるため、鹿Mなどに怪我、損傷を与えるのを抑制することができる。
【0044】
また、ネット2を地面Gに固定する固定手段がΩ形金物3で構成され、Ω形金物3の両湾曲部33が外側に湾曲して地面Gに突き刺さるため、鹿MがもがいたとしてもΩ形金物3が地面Gから抜けにくい。すなわち、引き抜く毎に金物上部の土塊が締め固まり、受動土圧が湾曲した金物に作用し、引き抜き抵抗力が増加する。鹿Mなどの蹄行性有害獣は、引き抜く毎に引き抜き力が増加する特性に対して、引き抜き行動を諦めてしまう習性があることから、ネット2の取り外し等の破壊行動をしたとしてもΩ形金物3が地面Gから抜けにくい。つまり、ネット2を地面Gに強固に固定することができ、その結果、保護領域PA内への蹄行性有害獣の侵入をより効果的に防止することが可能となる。しかも、Ω形金物3が細長い金属材を折り曲げただけの簡易な構成のため、製作費や保守費などを低減することが可能となるとともに、授産作業で製作することが可能である。
【0045】
さらに、地面Gにネット2を配置してΩ形金物3の両湾曲部33を地面Gに突き刺すだけで、容易かつ迅速にネット2を設置することができる。このため、杭やロープなどを用いてネット2を設置する場合に比べて、時間と労力を軽減することができる。殊に、多くの方向誘導装置1を設置する場合には、時間と労力(人員)を著しく削減することが可能となる。
【0046】
また、ネット2を地面Gから浮かせて位置させる高さ維持手段が、ネット2の端部を筒状に巻いて形成されたカール部21で構成されているだけであるため、構成が簡易となり、製作費や保守費などを低減することが可能となる。しかも、高さ維持手段がネット2自体で構成され、他の部材を要しないため、部材費を削減できるとともに、容易かつ短時間で設置することが可能となる。
【0047】
さらに、カール部21の大きさ(筒径)を変えるだけで、容易かつ適正にネット2を所望の高さに位置させることができる。また、ネット2の端部を筒状に巻くだけで高さ維持手段を作れるため、授産作業で製作することが可能である。
【0048】
一方、ネット2が合成樹脂製で、かつ、杭などを用いないため、草刈作業に与える悪影響(刃の損傷など)を低減することができる。また、ネット2の網目2aの大きさが適正なサイズに設定されているため、鹿Mの足M1などを確実に引っ掛けて絡めることができる。
【0049】
(実施の形態2)
図11および
図12は、この実施の形態を示し、この実施の形態では、障害壁8とその支持方法が実施の形態1とは構成が異なり、実施の形態1と同等の構成については、同一符号を付することでその説明を省略する。
【0050】
障害壁8は、シート状の幕で構成され、地面Gに対して面を略垂直にして横方向に延びて配設されている。この障害壁8は、
図11に示すように、1本の主柱91と4本の副柱(復帰部材)92で構成される複数の支柱体9で支持、配設されている。
【0051】
主柱91は、塩ビ管で構成され、
図12に示すように、地面Gに対して略垂直に配設され、複数の取付紐911で障害壁8が主柱91に固定されている。また、主柱91の真下の地面GにはΩ形金物3が差し込まれ、主柱91の下端がゴム紐などの弾性体912を介してΩ形金物3に連結されている。一方、主柱91の上端には、接続リング913が取り付けられている。
【0052】
副柱92は、硬質ゴムで構成された長尺体で、一端がゴム紐などの弾性体921を介して接続リング913に接続され、斜めに延びて他端がゴム紐などの弾性体922を介して、地面Gに差し込まれたΩ形金物3に接続されている。そして、障害壁8と主柱91が倒れた場合でも、主柱91や弾性体912、921、922が戻ろうとすることで、障害壁8と主柱91が立ち直るものである。
【0053】
このような実施の形態によれば、障害壁8が幕で構成されているだけであり、しかも、障害壁8と主柱91が地面Gから浮いて設置されるため、設置費や保守費をより低減することが可能となるとともに、軽量で搬送や取り扱いがより容易となる。
【0054】
以上、この発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成はこの実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、上記の実施の形態では、ネット2に形成したカール部21でネット2を地面Gから所定の高さに位置させているが、竹やブロック、アーチ状の板などの別体でネット2を地面Gから浮かせるようにしてもよい。また、障害壁4の垂直部41の頂部に、タヌキやハクビシンなどの小動物の侵入を防止する忍び返しを設けてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 蹄行性有害獣の方向誘導装置
2 ネット
2a 網目
21 カール部(高さ維持手段)
3 Ω形金物(固定手段)
31 円弧部
32 垂直部
33 湾曲部
4 障害壁
41 垂直部
42 水平部
43 支柱
5 第1の復帰ゴム(復帰手段)
6 復帰バー(復帰手段)
61 第2の復帰ゴム
62 復帰管(復帰部材)
621 非変形管
622 変形管
8 障害壁
9 支柱体
91 主柱
92 副柱(復帰部材)
G 地面
PA 保護領域
D1 停止エリア
D2 近接エリア
M 鹿(蹄行性有害獣)
M1 鹿の足