IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 三菱マテリアル株式会社の特許一覧

特許7172580円筒型スパッタリングターゲットの製造方法
<>
  • 特許-円筒型スパッタリングターゲットの製造方法 図1
  • 特許-円筒型スパッタリングターゲットの製造方法 図2
  • 特許-円筒型スパッタリングターゲットの製造方法 図3
  • 特許-円筒型スパッタリングターゲットの製造方法 図4
  • 特許-円筒型スパッタリングターゲットの製造方法 図5
  • 特許-円筒型スパッタリングターゲットの製造方法 図6
  • 特許-円筒型スパッタリングターゲットの製造方法 図7
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】円筒型スパッタリングターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
C23C14/34 B
C23C14/34 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018242356
(22)【出願日】2018-12-26
(65)【公開番号】P2020105542
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-09-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000006264
【氏名又は名称】三菱マテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101465
【弁理士】
【氏名又は名称】青山 正和
(72)【発明者】
【氏名】岡野 晋
(72)【発明者】
【氏名】大友 健志
【審査官】▲高▼橋 真由
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-178251(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0222956(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0129677(KR,A)
【文献】特開2010-070842(JP,A)
【文献】特開2018-135590(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/00-14/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒型ターゲット材と該円筒型ターゲット材の内側に挿入した円筒型バッキングチューブの外周面との隙間を接合材で充填して接合する円筒型スパッタリングターゲットの製造方法であって、前記ターゲット材の内周面と前記バッキングチューブの外周面との少なくとも何れか一方に下地処理接合材を塗布して下地処理層を形成する下地処理工程と、下地処理工程の後、前記ターゲット材内に前記バッキングチューブを挿入し、該ターゲット材と前記バッキングチューブとの隙間に充填用接合材を充填する接合工程とを有し、この接合工程において、前記ターゲット材或いは前記バッキングチューブの何れか一方又は双方に、前記隙間内に径方向に突出して配置可能な掻き取り板を周方向に沿って設けるとともに、前記下地処理層を加熱してその表面を少なくとも半溶融状態としておき、前記掻き取り板により前記下地処理層の表面に形成された酸化膜を掻き取りながら前記ターゲット材内に前記バッキングチューブを挿入することを特徴とする円筒型スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項2】
前記ターゲット材を長さ方向に分割した複数の分割ターゲット材により構成し、この分割ターゲット材同士の間に板状の環状スペーサを設けるとともに、該環状スペーサの内周部を径方向内方に突出させて前記掻き取り板として形成しておき、前記ターゲット材に前記バッキングチューブを挿入する際に、前記環状スペーサの内周部で前記バッキングチューブの外周面上の前記下地処理層の酸化膜を掻き取ることを特徴とする請求項1に記載の円筒型スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項3】
前記掻き取り板を前記ターゲット材の前記バッキングチューブが挿入される側の端部に設けておくことを特徴とする請求項1又は2に記載の円筒型スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項4】
前記掻き取り板を前記バッキングチューブの前記ターゲット材に挿入する側の端部に設けておき、前記ターゲット材に前記バッキングチューブを挿入する際に、前記掻き取り板の外周部で前記ターゲット材の内周面上の前記下地処理層の酸化膜を掻き取ることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の円筒型スパッタリングターゲットの製造方法。
【請求項5】
前記掻き取り板に前記充填用接合材が通過可能な穴又は切り込み部を形成しておくことを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の円筒型スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スパッタリング装置に用いられる円筒型スパッタリングターゲットの製造方法に関する。
【0002】
円筒型スパッタリングターゲットを回転させながらスパッタを行うスパッタリング装置が知られている。この種のスパッタリング装置に用いられる円筒型スパッタリングターゲットは、特許文献1に示されるように、円筒型バッキングチューブの外周面に円筒型のターゲット材の内周面が接合されている。
この接合においては、接合面となる円筒型バッキングチューブの外周面及び円筒型ターゲット材の内周面に接合材と同じまたは類似の下地処理接合材を塗布して下地処理被膜を形成し、その後、ターゲット材に円筒型バッキングチューブを挿入して、両者の間に接合部のための隙間を設けるとともに、ターゲット材と円筒型バッキングチューブとを加熱した状態としておき、その隙間に溶融状態の接合材を供給して隙間を充填する接合方法が知られている。接合材としてはインジウム(In)を用いることが多い。
【0003】
この場合、ターゲット材及び円筒型バッキングチューブの下地処理接合材の表面は、下地処理後の冷却及び両者の隙間へ接合材を充填するための接合前の再加熱等を経て、表面が酸化し、酸化膜が形成される。
この下地処理接合材の表面の酸化膜の形成により、充填する接合材と下地処理接合材との接触が阻害され、接合不良が生じやすい。接合不良となった円筒型スパッタリングターゲットは、全体を加熱して接合材を溶融させた後、ターゲット材をバッキングチューブから取り外し、再度、接合をやり直す作業が必要となる。一方、スパッタされる基板の大型化に伴ってターゲット材は長尺化しており、生産効率の向上の観点から、スパッタ成膜時のパワー密度を上げる傾向にあり、接合強度の向上も望まれている。
【0004】
この対策として、例えば特許文献2においては、円筒型ターゲット材と円筒型バッキングチューブとの隙間に溶融状態の接合材を充填した後に、鋼線や鋼板を差し込んでこれらの間に充填された接合材を撹拌し、充填した接合材と下地処理接合材とを一体化することが開示されている。
特許文献3では、円筒型ターゲット材と円筒型バッキングチューブとの空間に接合材である半田材よりも比重が軽い粉体物質を入れておき、次いで、溶融半田を空間に注入して粉体物質を半田材の液面に浮かせた状態で、粉体物質を振動させながら注入することで半田材を物理的に撹拌している。
特許文献4では、円筒型ターゲット材と円筒型バッキングチューブとの隙間に固体の接合材を充填し、この接合材を加熱して溶融することにより、下地処理面と大気中との接触面積を減らし、ターゲット材と円筒型バッキングチューブの下地処理面の酸化膜の発生を抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-37619号公報
【文献】特許第6341146号公報
【文献】特開2012-177156号公報
【文献】特開2018-111868号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献2の場合には、接合材を撹拌するための作業の手間がかかる。しかも、塗布された接合材の酸化膜を全面に亘って除去するために、ターゲット材とバッキングチューブとの隙間全体を撹拌する必要があり、撹拌が不十分な部分では接合不良が発生する可能性が高い。
特許文献3についても同様であり、粉体物質を振動させるための振動源が別の装置として必要になり、粉体物質の振動による半田材の撹拌が十分でない場合には、接合不良につながることがある。
特許文献4の製造方法においては、接合時前に、固体の接合材の外周面やターゲット材及びバッキングチューブの内外周面に酸化膜が付着していると、接合不良の回避が難しくなる。そのため、ターゲット材をバッキングチューブ内に配置する前に、接合材の表面や、ターゲット材、バッキングチューブの内外周面に形成された酸化膜を除去する必要が生じる。
【0007】
本発明は、このような事情に鑑み、酸化膜を除去するための特別の工程を別途必要とすることなく、下地処理した接合材表面の酸化膜による接合不良の発生を防止して歩留まりを向上させることを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の円筒型スパッタリングターゲットの製造方法は、円筒型ターゲット材と該円筒型ターゲット材の内側に挿入した円筒型バッキングチューブの外周面との隙間を接合材で充填して接合する円筒型スパッタリングターゲットの製造方法であって、前記ターゲット材の内周面と前記バッキングチューブの外周面との少なくとも何れか一方に下地処理接合材を塗布して下地処理層を形成する下地処理工程と、下地処理工程の後、前記ターゲット材内に前記バッキングチューブを挿入し、該ターゲット材と前記バッキングチューブとの隙間に充填用接合材を充填する接合工程とを有し、この接合工程において、前記ターゲット材或いは前記バッキングチューブの何れか一方又は双方に、前記隙間内に径方向に突出して配置可能な掻き取り板を周方向に沿って設けるとともに、前記下地処理層を加熱してその表面を少なくとも半溶融状態としておき、前記掻き取り板により前記下地処理層の表面に形成された酸化膜を掻き取りながら前記ターゲット材内に前記バッキングチューブを挿入する。
【0009】
この製造方法において、下地処理工程で形成される下地処理層は、下地処理接合材塗布後の冷却中及び接合工程に際しての再加熱中に表面が酸化され、酸化膜を形成する。これに対して、接合工程時に下地処理層の表面を少なくとも半溶融状態として掻き取り板で下地処理層表面の酸化膜を除去するようにしているので、新たに充填される接合材と下地処理接合材との一体化が酸化膜で阻害されることがなく強固に接合できる。しかも、ターゲット材にバッキングチューブを挿入する操作によって酸化膜を除去できるので、酸化膜を除去するための特別の処理工程を別途必要とすることなく酸化膜を確実に除去可能であり、作業が容易である。
【0010】
円筒型スパッタリングターゲットの製造方法の一つの実施態様として、前記ターゲット材を長さ方向に分割した複数の分割ターゲット材により構成し、この分割ターゲット材同士の間に板状の環状スペーサを設けるとともに、該環状スペーサの内周部を径方向内方に突出させて前記掻き取り板として形成しておき、前記ターゲット材に前記バッキングチューブを挿入する際に、前記環状スペーサの内周部で前記バッキングチューブの外周面上の前記下地処理層の酸化膜を掻き取るとよい。
【0011】
複数の分割ターゲット材により長尺のターゲット材を構成する場合、分割ターゲット材の間には接合材の流出を防止するための環状スペーサが設けられるが、この環状スペーサを掻き取り板として利用できるため、酸化膜の除去作業をより一層簡便にし、効率的に酸化膜を除去できる。
【0012】
円筒型スパッタリングターゲットの製造方法の他の一つの実施態様として、前記掻き取り板を前記ターゲット材の前記バッキングチューブが挿入される側の端部に設けておいてもよい。
ターゲット材にバッキングチューブを挿入する際に、ターゲット材の端部の掻き取り板によってバッキングチューブの外周面の下地処理層の酸化膜を掻き取ることができるので、バッキングチューブの外周面全面の酸化膜を除去することできる。
【0013】
円筒型スパッタリングターゲットの製造方法のさらに他の一つの実施態様として、前記掻き取り板を前記バッキングチューブの前記ターゲット材に挿入する側の端部に設けておき、前記ターゲット材に前記バッキングチューブを挿入する際に、前記掻き取り板の外周部で前記ターゲット材の内周面上の前記下地処理層の酸化膜を掻き取るようにしてもよい。
ターゲット材にバッキングチューブを挿入する際に、バッキングチューブの端部の掻き取り板によってターゲット材の内周面の下地処理層の酸化膜を掻き取ることができるので、ターゲット材の内周面全面の酸化膜を除去することできる。
【0014】
円筒型スパッタリングターゲットの製造方法のさらに他の一つの実施態様として、前記掻き取り板に前記充填用接合材が通過可能な穴又は切り込み部を形成しておくとよい。
これにより、ターゲット材とバッキングチューブとの接合工程時において、ターゲット材とバッキングチューブとの隙間に掻き取り板を配置したときに、穴又は切り込み部により接合材の流路が確保されるので、これら穴、切り込み部を介して接合材を隙間の全体に確実に充填することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酸化膜を除去する工程を別途必要とすることなく、ターゲット材にバッキングチューブを挿入する操作で酸化膜を掻き取ることができて、作業性が良く、接合不良の発生を防止し、歩留まりを向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】円筒型スパッタリングターゲットの一例を示す縦断面図である。
図2】円筒型スパッタリングターゲットの製造方法の一例を説明するフローチャートである。
図3】第1実施形態の製造方法における製造途中の状態を示す縦断面図である。
図4図3のバッキングチューブが降下した状態を示す縦断面図である。
図5】掻き取り板を示す平面図である。
図6】第2実施形態の製造方法における製造途中の状態を示す縦断面図である。
図7】第3実施形態の製造方法における製造途中の状態を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る円筒型スパッタリングターゲットの製造方法の実施形態を図面を参照しながら説明する。
円筒型スパッタリングターゲット1は、例えば図1に示すように、円筒型のターゲット材2内に円筒型のバッキングチューブ3が挿入され、これらターゲット材2の内周面と円筒型バッキングチューブ3の外周面との間が接合部4を介して接合される。この場合、ターゲット材2とバッキングチューブ3とは、中心軸が一致した状態で配置される。
【0018】
ターゲット材2は長尺状であることから、一般に長さ方向に分割された複数の分割ターゲット材2aを接続することで構成される。
【0019】
ターゲット材2及びバッキングチューブ3の材質や寸法は特に限定されないが、例えば、ターゲット材2は、銅、銀等の金属、Al,Znの酸化物焼結体であるAZO等のセラミックスなどからなる内径120mm~140mmの筒状部材を用いることができ、バッキングチューブ3は、チタン、ステンレス鋼、または銅あるいは銅合金からなる外径119mm~139mm、長さ0.5m~4mの筒状部材を用いることができる。この場合、ターゲット材2は、長さ30cm程度の短尺の分割ターゲット材2aを複数連結した状態で円筒型バッキングチューブ3の外周に配置される。ターゲット材2内にバッキングチューブ3を挿入した状態で、両者の外周面の間には半径方向に0.5mm~1mm程度の隙間が形成され、この隙間には、隙間保持のための図示しない棒状スペーサ(図示略)が挿入されていてもよく、この場合、この棒状スペーサとともにターゲット材2及びバッキングチューブ3とが接合部4により一体化される。
【0020】
接合部4は、例えばインジウム含有量が60質量%以上のインジウム合金又は純インジウム、錫含有量が60質量%以上の錫合金又は純錫等が用いられる。接合部4は、ターゲット材2、バッキングチューブ3に塗布される下地処理接合材と、これらの隙間に充填される充填用接合材とからなり、これらが一体化して固化することにより設けられる。
【0021】
<円筒型スパッタリングターゲットの製造方法>
円筒型スパッタリングターゲット1の製造方法の第1実施形態について説明する。この製造方法は、円筒型バッキングチューブ1の外周面とターゲット材2の内周面とを接合面とし、これら接合面間に設けた接合材で接合する。
図2に示すように、第1実施形態では、ターゲット材2及びバッキングチューブ3の加熱工程、ターゲット材2及びバッキングチューブ3に下地処理接合材を塗布する下地処理工程、塗布した下地処理接合材を冷却して固化する下地処理接合材冷却工程、固化した下地処理接合材を再加熱する再加熱工程、充填用接合材をターゲット材2とバッキングチューブ3との隙間に充填する接合材充填工程(接合工程)、充填された接合材を冷却して固化する接合材冷却工程を有している。以下、工程順に説明する。
【0022】
(加熱工程)
ターゲット材2及びバッキングチューブ3を加熱し、これらの接合面となるターゲット材2の内周面及びバッキングチューブ3の外周面を下地処理接合材の融点(又は液相線温度)以上の温度に加熱する。
【0023】
(下地処理工程)
加熱工程において、加熱状態としたターゲット材2の内周面及びバッキングチューブ3の外周面に、それぞれ溶融状態の下地処理接合材を塗布して下地処理層41a,41bをそれぞれ形成する。この場合、ヒータを搭載した超音波はんだコテ(図示略)で超音波振動を加えながら下地処理接合材を塗り込むことにより、ターゲット材2の内周面及びバッキングチューブ3の外周面における汚れや酸化膜の除去などが促進され、これらの表面に下地処理接合材をなじませることができる。
下地処理工程は、大気中で実施してもよいが、アルゴン、窒素等の不活性雰囲気にて実施すると、下地処理接合材によって形成される下地処理層41a,41bの表面の酸化を抑制することができるので、そのような雰囲気で実施することが望ましい。
【0024】
(下地処理接合材冷却工程)
下地処理接合材冷却工程は、下地処理工程後に適宜の冷却手段により行う。これにより、下地処理接合材が固化し、ターゲット材2の内周面及びバッキングチューブ3の外周面に下地処理層41a,41bが形成された状態になる。そして、次の再加熱工程を経て、酸化膜42が形成される。
本実施形態と後述する第2実施形態においては、ターゲット材2には掻き取り板を用いて酸化膜を除去しないため、ターゲット材2の下地処理層41aは、バッキングチューブ3の下地処理層より厚くしておくとよい。例えば、バッキングチューブ3の下地処理層41aが10μm以上50μmの厚さに対して、ターゲット材2の下地処理層41bは100μm以上800μm以下の厚さとする。
【0025】
(再加熱工程)
図3に示す載置台11に、下地処理層41aを形成したターゲット材2を垂直に載置する。載置台11の表面には凹部12が設けられ、この凹部12を囲むようにターゲット材2を配置する。なお、バッキングチューブ3の下端部を栓6で塞ぎ、バッキングチューブ3内への接合材の浸入を防ぐようにしておく。
凹部12には充填用接合材40を溶融状態で充填する。この充填用接合材40としては、下地処理接合材と同じ材料を用いるようにし、本例では純インジウム又はインジウム合金を充填している。
この場合、上下に連結される分割ターゲット材2aの間には、環状スペーサ5を介在させる。環状スペーサ5は、分割ターゲット材2aの長さ方向の寸法誤差や端面の表面粗さを吸収し、これら分割ターゲット材2aを同軸上に配置できる機能と、分割ターゲット材2aの間に生じる隙間を塞ぐパッキンの機能とを有しており、分割ターゲット材2a同士を長さ方向(高さ方向)に正確に接続できる。
この環状スペーサ5としては、弾性を有する樹脂材料などにより形成され、本実施形態ではPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)により形成され、内周部が分割ターゲット材2aの径方向内方に突出し、その内径がバッキングチューブ3の外径とほぼ同じ内径(一致した径か、わずかに小径又はわずかに大径)に形成され、後述の接合工程における掻き取り板として機能するようになっている。なお、ターゲット材2とバッキングチューブ3とを接合した後には環状スペーサ5は取り外されるため、取り出しやすいように、環状スペーサ5の外径はターゲット材2の外径よりも大きく設定される。
【0026】
また、図5に示すように、環状スペーサ(掻き取り板)5には、穴51及び切り込み部52が設けられている。これら穴51及び切り込み部52は、後述の接合工程において、溶融した充填用接合材が穴51及び切り込み部52を通過して流通できるようになっている。なお、穴51及び切り込み部52は、図5に示された形状以外の任意の形状や形成位置及び数により設けるようにしてもよいし、溶融した充填用接合材が通過できるのであれば、穴51又は切り込み部52のいずれか一方のみが形成されるものであってもよい。
また、ターゲット材2の上端に、ターゲット材2とバッキングチューブ3との隙間からあふれ出た充填用接合材40を受けるための受け皿7を設けておく。
そして、図3に示すように、ターゲット材2の上方にバッキングチューブ3を同軸上に配置するとともに、これらをターゲット材2の周囲に配置したヒータ(図示略)により加熱する。例えば、200℃で1時間~2時間加熱することにより、下地処理層41a,41bを溶融又は少なくとも半溶融状態とする。前述したように、ターゲット材2の下地処理層41bは厚肉に形成されているので、溶融時に自重で垂れ下がって流れ落ちることにより、酸化膜42が破壊されやすい。
【0027】
(接合材充填工程(接合工程))
図3に示すように、バッキングチューブ3を、ターゲット材2の上方から隙間を一定に保ちつつターゲット材2の内側に挿入し、このバッキングチューブ3の下端側を載置台11の凹部12に挿入する。
そして、図4に示すように、凹部12にバッキングチューブ3下端を挿入すると、溶融状態の充填用接合材40が凹部13から押し出されるようにターゲット材2の内周面とバッキングチューブ3の外周面との隙間を上昇し、ターゲット材2の内周面とバッキングチューブ3の外周面との間に充填用接合材40が充填される。
なお、載置台11の凹部12の容積は、バッキングチューブ3の下端が底面付近まで挿入されたときに、バッキングチューブ3の外周面とターゲット材2の内周面との間に形成される隙間の容積以上あればよく、隙間内を上昇した充填用接合材40がターゲット材2の上端側に若干オーバーフローする程度がよい。
この場合、充填用接合材40がターゲット材2の上端の受け皿7にあふれてきた状態でターゲット材2とバッキングチューブ3との間に充填用接合材40が隙間なく充填されたことが確認できる。
【0028】
この接合工程において、ターゲット材2に設けられている掻き取り板5は、その内径がバッキングチューブ3の外径とほぼ同じに形成されているので、バッキングチューブ3が挿入される際に、掻き取り板5の内周部でバッキングチューブ3の外周面上が擦られ、この外周面上の酸化膜42が掻き取られる。掻き取られた酸化膜42は、膜としては破壊された状態となり、隙間内を上昇してくる充填用接合材40により押し上げられて、受け皿7内に排出される。また、酸化膜42の一部が充填用接合材40内に残ったとしても、充填用接合材40に分散しながら一体になって隙間内に充填される。
一方、掻き取り板5により酸化膜42が除去された後のバッキングチューブ3の外周面には、酸化膜42のない下地処理層41bが薄く残り、この下地処理層41bに充填用接合材40が均一になじんで一体化する。
【0029】
このようにしてバッキングチューブ3の下端が凹部12の底面付近まで挿入することにより、ターゲット材2とバッキングチューブ3との隙間に充填用接合材40が隙間なく充填される。
なお、必ずしも限定されるものではないが、前述の再加熱工程、接合材充填工程(少なくとも充填完了までの間)は、不活性雰囲気にて実施するとよく、接合材の酸化を抑制し、さらなる接合強度の向上が可能となる。
【0030】
(接合材冷却工程)
ターゲット材2とバッキングチューブ3との隙間に充填用接合材40を充填した後、これを冷却して固化させることで、これらターゲット材2とバッキングチューブ3とが接合部4により一体化する。
その後、環状スペーサ5や受け皿7、はみ出した接合材等を除去し、清掃することにより円筒型スパッタリングターゲット1が得られる。このとき、環状スペーサ5を除去することで、環状スペーサ5を設けていた部分は接合部4の厚さが薄くなっている。
【0031】
なお、図3等に示す例では、ターゲット材2を3個の分割ターゲット材2aからなる構成とし、各分割ターゲット材2aの間の各環状スペーサ5を掻き取り板として機能させるように内周部を分割ターゲット材2aから突出させたが、掻き取り板としては、いずれか1個の環状スペーサ5にその機能を持たせるようにして、他の環状スペーサは、内周縁を分割ターゲット材2aと同じ内径に形成してもよいし、すべての環状スペーサの内周部を分割ターゲット材2aから径方向内方に突出させて掻き取り板として機能させるようにしてもよい。
【0032】
以上説明した方法により、環状スペーサ5を掻き取り板として利用し、接合工程時にバッキングチューブ3の外周面上で少なくとも半溶融状態とした下地処理接合材41bの酸化膜42を掻き取って破壊しつつ、このバッキングチューブ3とターゲット材2との隙間に充填用接合材40を充填する。このため、充填用接合材40と下地処理接合材41bとの一体化が酸化膜42により阻害されることがなく、これらの接合強度を向上しつつ一体化でき、優れた品質の円筒型スパッタリングターゲット1を製造できる。
しかも、ターゲット材2にバッキングチューブ3を挿入する操作で酸化膜42を除去でき、特別な工程を経ることなく酸化膜42を効率的に除去できる。
【0033】
図6は、本発明の第2実施形態の製造方法の製造途中の状態を示している。なお、この実施形態以降において、前記実施形態と同一部分は同一符号によって表し、その説明を省略する。以下、図6の実施形態においても同様とする。
この実施形態では、ターゲット材2の上端(バッキングチューブ3が挿入される側の端部)の受け皿71を掻き取り板として利用するものである。すなわち、受け皿71の内周部を径方向内方に突出させ、その内径をバッキングチューブ3の外径とほぼ同じに形成している。そして、ターゲット材2の上方からバッキングチューブ3を挿入する際に、この掻き取り板(受け皿)71によりバッキングチューブ3の外周面の下地処理層41bの酸化膜42を掻き取るようにしたものである。この場合、隙間を上昇した充填用接合材40を受け皿71で受けつつ、この受け皿71の内周部で酸化膜42を掻き取る。受け皿71には、前述した環状スペーサ5と同様に、充填用接合材40が通過可能な切り込みや穴が設けられる。この受け皿71で酸化膜42を掻き取るため、掻き取られた酸化膜は掻き取り板71の上に残ることになり、ターゲット材2とバッキングチューブ3との隙間に酸化膜の一部が混入することは少なくなる。
なお、この図6には、前述した第1実施形態の分割ターゲット材2aの間の環状スペーサによる掻き取り板5も、上端の受け皿(掻き取り板)71と合わせて設置しており、これら複数の掻き取り板5,71によって確実に酸化膜42を除去することができる。
【0034】
図7は、本発明の第3実施形態の製造方法の製造途中の状態を示している。
前述した第1、第2実施形態では、ターゲット材2の内周面の下地処理層41aの酸化膜42は、下地処理層41aを厚肉にすることで溶融時に自重で垂れ下がって流れ落ちることにより除去することを狙っていたが、この第3実施形態では、下地処理層41aを厚肉にせず接合工程において酸化膜42を除去するようにしている。すなわち、掻き取り板8をバッキングチューブ3の下端(ターゲット材2に挿入する側の端部)に設けておき、ターゲット材2にバッキングチューブ3を挿入する際に、掻き取り板8の外周部でターゲット材2の内周面上の下地処理層41aの酸化膜42を掻き取るようにしたものである。
この場合、前述した栓6に掻き取り板8を固定すればよい。この掻き取り板8は、外径がターゲット材2の内径とほぼ同じ(一致した径か、わずかに小径又はわずかに大径)に形成される。
【0035】
掻き取り板8によりターゲット材2の内周面から掻き取られた酸化膜42は、凹部12に流れ込み、この凹部12に充填されている充填用接合材40に混入するが、膜としては破壊されているので、再び膜状に形成されることはない。
【0036】
また、この図6に示したように、ターゲット材2とバッキングチューブ3との双方に掻き取り板5,8を設けることにより、ターゲット材2及びバッキングチューブ3の両方の下地処理層41a,41bの酸化膜42を掻き取ることができる。この場合、相互の掻き取り板5,8は、弾性により撓んで互いに乗り越えながら破損を防止しつつ、ターゲット材2及びバッキングチューブ3の下地処理接合材41a,41b表面の酸化膜42を除去することができる。
【0037】
なお、前述の実施形態では、ターゲット材2とバッキングチューブ3との両方に下地処理接合材を塗布したが、いずれかの表面が充填用接合材40と濡れやすい状態であれば、その表面については下地処理接合材の塗布を省略してもよい。言い換えれば、接合工程時において、下地処理接合材は、ターゲット材2とバッキングチューブ3との少なくとも何れか一方に塗布して下地処理層11を形成するようにしてもよい。
その場合、ターゲット材2或いはバッキングチューブ3のうち、下地処理層が形成されていない部材に掻き取り板を設ければよい。
【実施例
【0038】
本発明の効果を確認するため、実験を行った。ターゲット材及びバッキングチューブに表1の材種のものを用い、それぞれ下地処理接合材を塗布したものと塗布しなかったものとを用意した。なお実施例4のターゲット種であるSIZとは、Si、In、Zrの酸化物焼結体であり、実施例6のCuNiとはCu、Niの合金であり、実施例7のCuCuOとはCu、CuOの焼結体であり、実施例8~11、比較例2のCuGaはCu、Gaの合金である。下地処理接合材としては表1に記載の通り、純インジウム、錫合金、純錫を用いた。下地処理に際しては、表面温度が240℃~260℃に達するまで温風にて加熱し、大気雰囲気中で下地処理接合材を塗布して、超音波はんだコテを用いながら処理した後、常温まで冷却した。
そして、掻き取り板をターゲット材又はバッキングチューブのいずれか、あるいは双方に設けて接合し、接合後の接合面積率を測定した。この場合、ターゲット材は3個の分割ターゲット材により構成し、これら分割ターゲット材の間にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなる掻き取り板としての環状スペーサを設け、バッキングチューブには、その下端にPTFE(ポリテトラフルオロエチレン)からなる掻き取り板を設けた。また、充填用接合材は下地処理接合材と同じものを用いた。
接合後、超音波探傷検査装置により接合面積率を計測した。接合面積率は、ターゲット材とバッキングチューブとの接合面の総面積に対して、接合不良個所を除いた接合済面積の比率である。接合面積率が90%以上で合格とできる。
その結果を表1に示す。
【0039】
【表1】
【0040】
表1からわかるように、ターゲット材又はバッキングチューブのいずれかに掻き取り板を設けて接合した実施例は、いずれも接合面積率が90%以上であった。その中でも、ターゲット材とバッキングチューブとの両方に下地処理として接合材を塗布した後、両方に掻き取り板を設置して接合した実施例1、4~9、12,13は、接合面積率が特に高い(97.5%以上)ものであった。
これに対して、ターゲット材又はバッキングチューブのいずれにも掻き取り板を設けなかった比較例1及び比較例2は、低い接合面積率であった。
【符号の説明】
【0041】
1 円筒型スパッタリングターゲット
2 円筒型ターゲット材
2a 分割ターゲット材
3 円筒型バッキングチューブ
4 接合部
40 充填用接合材
41a,41b 下地処理層
5 環状スペーサ(掻き取り板)
51 穴
52 切り込み部
6 栓
7 受け皿
71 受け皿(掻き取り板)
8 掻き取り板
11 載置台
12 凹部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7