(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/19 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
B62D1/19
(21)【出願番号】P 2018243421
(22)【出願日】2018-12-26
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】100109210
【氏名又は名称】新居 広守
(72)【発明者】
【氏名】作田 雅芳
(72)【発明者】
【氏名】後藤 大輝
(72)【発明者】
【氏名】藤原 一喜
(72)【発明者】
【氏名】谷山 彰啓
(72)【発明者】
【氏名】久米 祥允
(72)【発明者】
【氏名】纐纈 俊哉
【審査官】田邉 学
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127062(JP,A)
【文献】特開2009-292306(JP,A)
【文献】特開2017-081215(JP,A)
【文献】実開平7-008157(JP,U)
【文献】特開2006-264630(JP,A)
【文献】特開2004-330923(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/19
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
操舵部材が直接的または間接的に接続される棒状部材と、
前記棒状部材の外周面に設けられ、前記棒状部材の軸方向に延在する帯状の陥凹部と、
前記陥凹部の長手方向の延長上において前記棒状部材の外周面に接触する突部を有し、前記棒状部材に嵌められる環状の第一衝撃吸収体とを備え、
二次衝突が発生した際は、前記陥凹部と前記突部とが径方向に重なった状態で前記棒状部材と前記第一衝撃吸収体とが相対移動する
ステアリング装置。
【請求項2】
前記陥凹部は、軸方向において、深さ、および幅の少なくとも一方が変化する
請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記突部が接触する部分における前記棒状部材の太さと、前記陥凹部が配置される部分の少なくとも一部における前記棒状部材の前記陥凹部が無いとした場合の太さとが異なる
請求項1または2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記棒状部材は円筒状であり、
前記棒状部材の内方に回転可能に保持されるコラムシャフトと、
内方に刺し通された前記棒状部材を軸方向に移動可能に保持するハウジングと、
前記棒状部材の外側において、前記ハウジングの軸方向の一部が縮径するように締め付けて前記棒状部材の位置決めをする締付手段と、
前記締付手段の締付力により前記ハウジングに固定的に接続され、前記第一衝撃吸収体に連結される第二衝撃吸収体とを備える
請求項1から3のいずれか一項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両などの操舵を行うステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、操舵部材が接続されるコラムシャフトを回転可能に保持するコラムチューブと、コラムチューブを摺動可能に保持し、車両に固定されるハウジングとを備えたステアリング装置が知られている(例えば特許文献1参照)。このようなステアリング装置では、車両衝突によって引き起こされる二次衝突時に、コラムチューブがハウジングに対して没入する力を摩擦に変換することにより衝撃を吸収する衝撃吸収機構を有している。この衝撃吸収機構によって、二次衝突時の衝撃を吸収し操舵者の保護を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
衝撃を吸収するための動摩擦が発生する箇所を複数備えるステアリング装置にあっては動摩擦が発生する順序、つまりそれぞれの箇所が順番に動き始め所望のプロファイルで衝撃が吸収できるようにステアリング装置の構造が設計される。しかし、二次衝突時に設計通りの順番で動摩擦が発生しない場合があることを発明者は見出した。さらに、製造上の誤差に影響されずに、設計通りの動摩擦力を発生させることも課題の1つである。
【0005】
本発明は、上記知見に鑑みなされたものであり二次衝突時に所望の順序、設計通りの動摩擦力で衝撃吸収を行う事ができるステアリング装置の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の1つであるステアリング装置は、操舵部材が直接的または間接的に接続される棒状部材と、前記棒状部材の外周面に設けられ、前記棒状部材の軸方向に延在する帯状の陥凹部と、前記陥凹部の長手方向の延長上において前記棒状部材の外周面に接触する突部を有し、前記棒状部材に嵌められる環状の第一衝撃吸収体とを備え、二次衝突が発生した際は、前記陥凹部と前記突部とが径方向に重なった状態で前記棒状部材と前記第一衝撃吸収体とが相対移動する。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、第一衝撃吸収体を所望の順番(プロファイル)で動作させ、所望の動摩擦力を発生させて衝撃吸収を行わせることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係るステアリング装置の構成を示す斜視図である。
【
図2】
図2は、ステアリング装置を
図1におけるI-I線に沿った断面で示す断面図である。
【
図3】
図3は、第一衝撃吸収体とコラムチューブの断面とを示す平面図である。
【
図4】
図4は、ステアリング装置の第一衝撃吸収体、および陥凹部の近傍を示す斜視図である。
【
図5】
図5は、棒状部材の変形例を示す断面図である。
【
図6】
図6は、第一衝撃吸収体の別例をコラムチューブの断面とともに示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下に、本発明に係るステアリング装置の実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、以下で説明する実施の形態は、いずれも包括的または具体的な例を示すものである。以下の実施の形態で示される数値、形状、材料、構成要素、構成要素の配置位置及び接続形態、ステップ、ステップの順序などは、一例であり、本発明を限定する主旨ではない。また、以下の実施の形態における構成要素のうち、最上位概念を示す独立請求項に記載されていない構成要素については、任意の構成要素として説明される。
【0010】
また、図面は、本発明を示すために適宜強調や省略、比率の調整を行った模式的な図となっており、実際の形状や位置関係、比率とは異なる場合がある。
【0011】
図1は、本発明の実施の形態に係るステアリング装置の構成を示す斜視図である。
図2は、ステアリング装置を
図1におけるI-I線に沿った断面で示す断面図である。これらの図に示すように、ステアリング装置100は、操舵者の操舵に連動して、車両の転舵輪を転舵する装置であって、コラムシャフト110と、棒状部材の1つであるコラムチューブ120と、ハウジング130と、締付手段140と、第一衝撃吸収体150とを備える。なお、ステアリング装置100は、コラムシャフト110に連結されるインターミディエイトシャフトなどのシャフト部材、ラックアンドピニオン機構などの転舵機構を備えるが、これらの図示および説明は省略する。
【0012】
ステアリング装置100は、衝突が発生していない通常の使用においては、締付手段140をゆるめ、ハウジング130に対しコラムチューブ120を軸方向(図中Y軸方向)にスライドさせることにより、操舵者の体格などに応じて操舵部材のポジションを変更し、締付手段140でハウジング130を締め付けることにより変更したコラムチューブ120のポジションを固定することができる。本実施の形態の場合、ステアリング装置100は、車体に対するハウジング130の傾きを変更でき、ハウジング130の傾きの固定と解除も締付手段140により実行することができるものとなっている。
【0013】
コラムシャフト110は、操舵者が操舵する操舵部材が先端部に取り付けられる部材であり、コラムチューブ120を介してハウジング130の内方に挿通状態で回転可能に保持され、操舵部材の操舵角を転舵機構に伝達する部材である。本実施の形態の場合、コラムシャフト110は、第一軸受111を介してコラムチューブ120に保持されており、コラムチューブ120に対し軸方向には固定、周方向には回転可能となっている。コラムシャフト110は、ハウジング130に対するコラムチューブ120の出没に伴って伸縮し、かつ操舵角の伝達を維持できるように構成されている。具体的に例えばコラムシャフト110は、第一軸受111に保持される第一軸体112と、第二軸受(図示省略)を介してハウジングに保持される第二軸体(図示省略)とを備えている。第一軸体112と第二軸体とは、テレスコピック構造を実現するように形成されており、ハウジング130に対するコラムチューブ120の出没に伴って、第二軸体に対し第一軸体112が出没し、コラムシャフト110が伸縮する。また、第一軸体112と第二軸体とはスプライン嵌合構造を実現するように形成されており、操舵部材の操舵角を伝達できるものとなっている。
【0014】
コラムチューブ120は、棒状部材の実施の形態の1つであり、コラムシャフト110を回転可能に保持するコラムジャケットなどと称される部材である。コラムチューブ120は、コラムシャフト110を介して操舵部材を保持している。また、コラムチューブ120は、車体に取り付けられたハウジング130に保持されることにより、コラムシャフト110を介して操舵部材を所定の位置に配置する。コラムチューブ120の形状は、特に限定されるものではないが、本実施の形態の場合、円筒形状(管状)であり、軸方向に貫通孔を備えたハウジング130に挿入状態で保持される。また、コラムチューブ120は、第一軸受111などの軸受を介して内方にコラムシャフト110を保持しており、保持したコラムシャフト110と共にハウジング130に対して軸方向(図中Y軸方向)に移動可能となっている。
【0015】
コラムチューブ120の外周面には帯状の陥凹部122が設けられている。陥凹部122は、コラムチューブ120の軸方向(図中Y軸方向)に延在している。陥凹部122の軸方向に垂直な断面形状は特に限定されるものでは無く、幅方向の両端に径方向に立ち上がる壁面と底面を備えた溝形状などでもよい。本実施の形態の場合、陥凹部122は、コラムチューブ120の外周面の一部を径方向に垂直な面で切除した形状であり、幅方向に立ち上がった壁面は備えていない。また、陥凹部122の形成方法は任意であるが、切削加工が陥凹部122の形状を正確かつ精密に制御できるため好ましい。なお、陥凹部122の詳細については後述する。
【0016】
本実施の形態の場合、コラムチューブ120には、軸方向に延在し径方向に貫通する長孔状のチューブ長孔121が形成されている。ハウジング130には、チューブ長孔121に刺し通されるピン状の第三衝撃吸収体135が固定されている。第三衝撃吸収体135は、通常の使用におけるハウジング130に対するコラムチューブ120の移動を妨げることなくチューブ長孔121の内方に位置する。通常使用時において、チューブ長孔121の長手方向の端縁が第三衝撃吸収体135と当接することで、軸方向においてハウジング130に対するコラムチューブ120の移動距離を規制する。
【0017】
二次衝突が発生した場合、チューブ長孔121の端縁が第三衝撃吸収体135を破断する。第三衝撃吸収体135の破断により二次衝突の衝撃を吸収し、操舵者に与える衝撃を抑制する。
【0018】
ハウジング130は、車体に対しコラムチューブ120を軸方向(図中Y軸方向)に移動可能に保持する筒状の部材である。またハウジング130は、軸方向における操舵部材側(車体の後側)の端部において、径方向(図中Z軸方向)に周壁を貫通し軸方向に延在するスリット状の締め代部132(
図2参照)と、締め代部132の両側からそれぞれ径方向に突出する被締付部133とを備えている。被締付部133には、締め代部132の貫通方向(径方向の1つ)、およびコラムチューブ120の軸方向にそれぞれ直交する貫通孔134を備えている。貫通孔134には、後述する締付手段140の締付軸体141が刺し通されており、締付手段140により対向状に配置される2つの被締付部133の間隔を狭めることができる。被締付部133の間隔を狭めることで、ハウジング130は、刺し通されたコラムチューブ120を周囲から締め付けて固定的に保持する。
【0019】
本実施の形態の場合、ハウジング130には、軸方向(図中Y軸方向)において操舵部材と反対側(車体の前側)部分に、一組の第一ヒンジ部材131が突出状に設けられており、車体に固定された第二ヒンジ部材(図示せず)と第一ヒンジ部材131とを軸体を用いて回転可能に連結することによりハウジング130は、車体に対してチルト可能に固定される。また、第一ヒンジ部材131に対し操舵部材側(車体の後側)の位置において被締付部133の両側には2つの固定ブラケット170が面対称に配置されている。固定ブラケット170は、車体に固定される部材である。また2つの固定ブラケット170は、径方向(チルト方向)に延びる固定長孔171をそれぞれ備えている。固定長孔171は、第一ヒンジ部材131の回転中心を中心とした円弧状に形成されていても良い。2つの固定長孔171に刺し通された締付手段140により固定ブラケット170は、ハウジング130の被締付部133に押しつけられ、所定のチルト位置にハウジング130を固定することができるものとなっている。
【0020】
締付手段140は、コラムチューブ120の外側において、ハウジング130の径方向の端部を締め付けてコラムチューブ120の位置決めをするユニットである。本実施の形態の場合、締付手段140は、ハウジング130の締め代部132の両側に一体に延設される被締付部133の貫通孔134に刺し通された状態で配置される締付軸体141を備えている。締付軸体141は、一端部に被締付部133の貫通孔134の周縁と係合するフランジ部142を備えている。また締付手段140は、締付軸体141に対しフランジ部142の反対側に、ハウジング130を締め付け、また解除することができるカム機構と、カム機構を動作させる締付レバー143とを備えている。カム機構は、ハウジング130に固定的に取り付けられる固定カム144と締付レバー143に取り付けられた可動カム145を備えており、締付レバー143を回転させることで、固定カム144に可動カム145が乗り上がり、固定カム144と可動カム145との距離が離れることで、ハウジング130の被締付部133を締め付ける。
【0021】
本実施の形態の場合、締付手段140は、一対の被締付部133のそれぞれの外側に配置される固定ブラケット170、および第二衝撃吸収体160をそれぞれ被締付部133に押しつけることができるものとなっている。以上の様に締付手段140は、締付レバー143を操作することにより、一対の被締付部133の間隔を狭めることでハウジング130にコラムチューブ120を締め付けさせて位置決めをすることができる。また、締付手段140は、コラムチューブ120の位置決めができるとともに、2つの第二衝撃吸収体160をハウジング130の2つの被締付部133の外側表面にそれぞれ押しつけて垂直抗力を発生させ、二次衝突時における第二動摩擦力を発生させることができる。さらに、締付手段140は、コラムチューブ120の位置決め、および通常使用時の第二衝撃吸収体160の固定と同時に、第二衝撃吸収体160を介して被締付部133に固定ブラケット170を押しつけることで、ハウジング130のチルト位置を決定することができる。
【0022】
図3は、第一衝撃吸収体150とコラムチューブ120の断面とを示す平面図である。
図4は、ステアリング装置の第一衝撃吸収体近傍を示す斜視図である。これらの図に示すように、第一衝撃吸収体150は、コラムチューブ120の外周に接触状態で固定的に取り付けられ、通常使用時においてはコラムチューブ120と共に移動する環状の部材である。また二次衝突時においては、第一衝撃吸収体150は、コラムチューブ120に対して相対的に滑り、コラムチューブ120との間で衝撃を吸収するための第一動摩擦力を発生させる。第一衝撃吸収体150は、コラムチューブ120に設けられた陥凹部122の長手方向(図中Y軸方向)の延長上においてコラムチューブ120の外周面に接触する突部153を備えている。
【0023】
上記位置関係の突部153は、第一衝撃吸収体150に少なくとも1つ設けられていればよく、第一衝撃吸収体150の内周面に所定距離離れた状態で複数箇所に設けられていてもよい。本実施の形態の場合、第一衝撃吸収体150は、周方向に均等に配置された突部153を6箇所に備えている。具体的に第一衝撃吸収体150は、
図4に示すように矩形板状の基体154にコラムチューブ120が挿通される孔が設けられており、孔の周縁には筒状の筒部155が軸方向に突出状に設けられている。さらに、筒部155には、コラムチューブ120に向かって突出し軸方向に延在する突部153が設けられており、突部153とコラムチューブ120の外表面にとは面接触している。このように、突部153を有する第一衝撃吸収体150を設けることにより、突部153とコラムチューブ120との接触面積、および突部153の数により静止摩擦係数、動摩擦係数を任意に調整することができるため、最大静止摩擦力の再現性、管理性を向上させることができる。
【0024】
陥凹部122の延長上にある突部153の幅(周方向の長さ)と、陥凹部122の幅との関係は特に限定されるものでは無く、二次衝突時に発生させる動摩擦力の大きさに基づき設計により任意に設定される。軸方向における陥凹部122と突部153との距離、詳詳細には、軸方向における陥凹部122の車両前方側の端部と突部153の操舵部材側端部との距離は、特に限定されるものでは無いが、陥凹部122が最大静止摩擦力に影響を及ぼさない距離の1つとして考えられるものとして、陥凹部122の深さ以上の距離を開けることが考えられる。また、陥凹部122の幅、および深さは、軸方向に一定でも良く、徐々に(段階的も含む)変化する部分を軸方向の少なくとも一部に備えていてもよい。また、陥凹部122と陥凹部122の延長上に配置される突部153の組は一組でも良く、複数組存在していても構わない。
【0025】
第一衝撃吸収体150をコラムチューブ120に取り付ける方法は特に限定されるものではないが、例えば圧入を挙示することができる。また、第一衝撃吸収体150にコラムチューブ120を刺し通した後、部分的にかしめることにより突部153をコラムチューブ120の外周面に押しつけても構わない。
【0026】
第二衝撃吸収体160は、通常使用時においては、締付手段140の締付力によりハウジング130の被締付部133に固定的に接続される部材である。また第二衝撃吸収体160は、二次衝突によるコラムチューブ120のハウジング130への没入に伴い移動する第一衝撃吸収体150を介して移動することで被締付部133との間で第二動摩擦力を発生させる部材である。
【0027】
本実施の形態の場合、第二衝撃吸収体160は、ハウジング130の被締付部133の外側表面に面状に接触する板状の接触部163と、軸方向(図中Y軸方向)に直交する面(図中XZ平面)内に広がり接触部163と接続される板状の連結部162とを備えている。第二衝撃吸収体160は、接触部163、および連結部162を2つの被締付部133の外側にそれぞれ面対称で備えている。2つの連結部162は、第一衝撃吸収体150の基体154とそれぞれ連結され、第一衝撃吸収体150と第二衝撃吸収体160とは一体となっている。従って、通常の使用時であって、締付手段140の締付を解除した状態においては、第二衝撃吸収体160は、第一衝撃吸収体150を介してコラムチューブ120と共に軸方向に移動する。また、接触部163には、締付手段140の締付軸体141を刺し通すことができる幅を有し軸方向(図中Y軸方向)に延在する長孔部161が設けられている。長孔部161に刺し通された締付軸体141を有する締付手段140により接触部163がハウジング130の被締付部133に押しつけられて第二衝撃吸収体160はハウジング130に固定される。なお、本実施の形態の場合、第二衝撃吸収体160は、被締付部133と固定ブラケット170との間に挟まれた状態となるため、固定ブラケット170との間でも動摩擦力が発生する。当該動摩擦力を第二動摩擦力に含めても構わない。
【0028】
つぎにステアリング装置100の動作について説明する。
【0029】
通常の使用時において、操舵者が締付レバー143を操作して締付手段140による締め付けを解除することにより、ハウジング130は、第一ヒンジ部材131を中心として回転可能となり、またコラムチューブ120、およびコラムシャフト110は、ハウジング130に対し軸方向に移動可能となる。このような状態において操舵者は、操舵部材を上下や前後に移動させることで操舵部材を操舵者に適したポジションに設定し、締付手段140により設定したポジションを固定する。締め付け解除中は、陥凹部122の延長上にある突部153、およびそれ以外の突部153は、ほぼ真円のコラムチューブ120の外周面に所定の圧力で当接しており、設計値に基づいた最大静止摩擦力を発揮できる状態にあるため、ハウジング130に対してコラムチューブ120を出退させると、第一衝撃吸収体150は、コラムチューブ120と一体となって軸方向に移動する。第二衝撃吸収体160は、第一衝撃吸収体150と共に移動する。
【0030】
車両の衝突により操舵者が操舵部材に衝突する二次衝突が発生した場合、コラムチューブ120がハウジング130に没入する方向に強い力が発生する。ここで、本実施の形態の場合、第二衝撃吸収体160による第二動摩擦力が発生した後に第一衝撃吸収体150による第一動摩擦力を発生させるプロファイルが設定されているため、第一衝撃吸収体150とコラムチューブ120との間の最大静止摩擦力が締付手段140により締め付けられた第二衝撃吸収体160とハウジング130との最大静止摩擦力よりも大きくなるように設定されている。従って、先に第二衝撃吸収体160とハウジング130の被締付部133との間が滑り第二動摩擦力が発生する。この第二動摩擦力による衝撃吸収が行われる。なお、ハウジング130とコラムチューブ120との間にも動摩擦力が発生し、この動摩擦力によっても衝撃吸収は行われる。
【0031】
次に、ハウジング130に対しコラムチューブ120がさらに没入すると、コラムチューブ120に設けられたチューブ長孔121の軸方向の端縁が第三衝撃吸収体135を破断する。なお、第一衝撃吸収体150と第二衝撃吸収体160の滑り、および第三衝撃吸収体135の破断の発生するタイミングは、二次衝突の直前に設定されていた操舵部材の軸方向位置、つまり二次衝突前に操舵者により設定されたハウジング130に対するコラムチューブ120の位置に応じて変動する。具体的に例えば、二次衝突の直前に設定されていた操舵部材の軸方向位置がテレスコ調整範囲の最も操舵者から離れる位置であった場合、第二衝撃吸収体160の滑りと第三衝撃吸収体135の破断がほぼ同時に起こり得る。
【0032】
次に、第一衝撃吸収体150がハウジング130に対し設計に従った位置で静止する一方、コラムチューブ120がハウジング130に対してさらに没入することで、第一衝撃吸収体150とコラムチューブ120との間では、最大静止摩擦力以上の力が発生し、最大静止摩擦力より小さな第一動摩擦力による衝撃吸収が行われる。
【0033】
所望のプロファイルを満たす最大静止摩擦力が得られるように第一衝撃吸収体150とコラムチューブ120との関係が設定されているので、第一衝撃吸収体150とコラムチューブ120の関係を維持した状態で第一動摩擦力が発生する状態に移行した場合、第一動摩擦力が大きくなりすぎる場合がある。そこで、発明者は、コラムチューブ120の外周面に軸方向に延在する帯状の陥凹部122を設け、最大静止摩擦力を越えて動き出した第一衝撃吸収体150の突部153の少なくとも1つを陥凹部122に重ねることにより第一動摩擦力を設計値通りに小さくできるに至った。
【0034】
以上の様に、動摩擦力が発生する順番を設計値通りに実現するためにコラムチューブ120と第一衝撃吸収体150との間の最大静止摩擦力を高めに設定したような場合であっても、突部153と陥凹部122の形状的な関係や、突部153と陥凹部122との組の数を調整することにより、設計通りのプロファイルで第一動摩擦力を発生させることが可能である。
【0035】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されるものではない。例えば、本明細書において記載した構成要素を任意に組み合わせて、また、構成要素のいくつかを除外して実現される別の実施の形態を本発明の実施の形態としてもよい。また、上記実施の形態に対して本発明の主旨、すなわち、請求の範囲に記載される文言が示す意味を逸脱しない範囲で当業者が思いつく各種変形を施して得られる変形例も本発明に含まれる。
【0036】
例えば、棒状部材として円筒状のコラムチューブ120を例示したが、棒状部材はコラムチューブ120に限定されるものでは無く、ステアリング装置100の構造に従い、第一衝撃吸収体150が取り付けられる棒状部材は任意に選択される。また、棒状部材の軸方向に垂直な断面形状は真円に限定されるものでは無く、多角形など任意の形状を採用することも可能である。
【0037】
また、二次衝突が発生していない通常の使用において、
図5に示すように、突部153が接触している部分における棒状部材129の太さD1と、陥凹部122が配置される部分の少なくとも一部における棒状部材129の陥凹部122が無いとした場合(図中二点鎖線で示す)の太さD2とが異なるものとしても良い。
図5に示す例の場合、棒状部材129の太さは、突部153が接触している部分の太さD1から陥凹部122が配置される方向(図中Y軸方向負の向き)に向かって徐々に太くなっている。このように、二次衝突が発生し、棒状部材129に対して第一衝撃吸収体150が相対的に移動する領域において、第一衝撃吸収体150が嵌め込まれる棒状部材129の太さを変化させることで、例えば、陥凹部122により第一動摩擦力が低下しすぎる場合、棒状部材129の太さを太くすることにより、第一動摩擦力を増加させることが可能となる。また、棒状部材129を細くすることで、第一動摩擦力を低下させることも可能となる。
【0038】
また、突部153は、
図6に示すように、1つであっても構わない。
【符号の説明】
【0039】
100:ステアリング装置、110:コラムシャフト、111:第一軸受、112:第一軸体、120:コラムチューブ、121:チューブ長孔、122:陥凹部、129:棒状部材、130:ハウジング、131:第一ヒンジ部材、132:代部、133:被締付部、134:貫通孔、135:第三衝撃吸収体、140:締付手段、141:締付軸体、142:フランジ部、143:締付レバー、144:固定カム、145:可動カム、150:第一衝撃吸収体、153:突部、154:基体、155:筒部、160:第二衝撃吸収体、161:長孔部、162:連結部、163:接触部、170:固定ブラケット、171:固定長孔