(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】点眼剤
(51)【国際特許分類】
A61K 31/80 20060101AFI20221109BHJP
A61K 31/78 20060101ALI20221109BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20221109BHJP
A61P 27/02 20060101ALI20221109BHJP
A61P 27/04 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
A61K31/80
A61K31/78
A61K47/02
A61P27/02
A61P27/04
(21)【出願番号】P 2018245739
(22)【出願日】2018-12-27
【審査請求日】2021-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(74)【代理人】
【識別番号】100129746
【氏名又は名称】虎山 滋郎
(74)【代理人】
【識別番号】100165021
【氏名又は名称】千々松 宏
(72)【発明者】
【氏名】笹木 友美子
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 俊輔
【審査官】梅田 隆志
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-148558(JP,A)
【文献】特開2005-008607(JP,A)
【文献】特開2007-054516(JP,A)
【文献】国際公開第2017/110874(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/80
A61K 31/78
A61K 47/02
A61P 27/02
A61P 27/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(a)で表される構成単位及び式(b)で表される構成単位を含む共重合体(A)を0.01~5w/v%、式(c)で表される構成単位及び式(d)で表される構成単位を含む共重合体(B)を0.01~5w/v%、及びナトリウムイオン及びカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンを総量として
0.01~1.75モル/Lを含む点眼剤。
(ただし、前記共重合体(A)は、式中のa及びbの合計に対するbのモル比[{b/(a+b)}×100]が30~70であり、重量平均分子量は5,000~5,000,000である。また、前記共重合体(B)は、式中c及びdの合計に対するdのモル比[{d/(c+d)}×100]が30~70であり、重量平均分子量は5,000~5,000,000である。)
【化1】
【化2】
【化3】
【化4】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定構造を有する2種の共重合体と、特定のアルカリ金属イオンとを含有する点眼剤に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、スティーブンス・ジョンソン症候群をはじめとする内因性疾患や、パソコンやスマートフォンの利用による瞬目回数の減少、コンタクトレンズの装用、大気汚染のような外的環境変化等が原因でドライアイ患者が増加している。ドライアイは、涙腺における涙液分泌量の減少や、涙液中の脂質やムチン質の異常による水分量の蒸発亢進によって誘起され、角膜や結膜の機能低下、炎症及び感染症等を引き起こすことが知られている。
【0003】
これら眼疾患の原因ともなるドライアイの最も簡便且つ効果的な治療法として、点眼剤を点眼することで保水性を付与し、角膜や結膜を保護する方法がある。現在、保水性の向上を志向し、ヒドロキシプロピルメチルセルロースといったセルロース系増粘剤や、ポリビニルアルコールといったビニル系増粘剤、2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(MPC)重合体といったビニル系高分子を配合した点眼剤について技術開発がなされている(特許文献1及び2)。
【0004】
ヒドロキシプロピルメチルセルロース等のセルロース系増粘剤やポリビニルアルコール等のビニル系増粘剤は保水性を向上させることでドライアイ症状を緩和できるものの、ドライアイ症状の緩和効果が不十分であり、更に、その角膜上での滞留性は十分ではなかった。
【0005】
一方、MPC重合体は、保水性を向上させ涙液水層の改善を行うことができ、更に、涙液油層の改善も行い、ドライアイ症状の緩和、治療に対して良好な効果を発現することが報告されている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2014-167034号公報
【文献】国際公開第99/026637号
【文献】国際公開第2017/110874号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、MPC重合体は、他の増粘剤と同様に角膜上での滞留性は十分ではなく、その効果の持続性に課題があった。このため、MPC重合体によって涙液層及び涙液油層の改善を行いつつ、MPC重合体が角膜上で長時間にわたって滞留することで、ドライアイ症状の緩和、治療効果が持続する点眼剤の開発が望まれていた。
【0008】
本発明は、優れた保水性を付与することで涙液層及び涙液油層の安定性を向上させ、ドライアイ症状の緩和、治療に有効で、且つ眼表面での滞留効果に優れた点眼剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、特定構造を有する2種の共重合体と、特定のアルカリ金属イオンとを特定量含む点眼剤であれば、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の点眼剤とは次の通りである。
【0010】
式(a)で表される構成単位及び式(b)で表される構成単位を含む共重合体(A)を0.01~5w/v%、式(c)で表される構成単位及び式(d)で表される構成単位を含む共重合体(B)を0.01~5w/v%、及びナトリウムイオン及びカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンを総量として0.00013~1.75モル/Lを含む点眼剤。
(ただし、前記共重合体(A)は、式中のa及びbの合計に対するbのモル比[{b/(a+b)}×100]が30~70であり、重量平均分子量は5,000~5,000,000である。また、前記共重合体(B)は、式中c及びdの合計に対するdのモル比[{d/(c+d)}×100]が30~70であり、重量平均分子量は5,000~5,000,000である。)
【0011】
【発明の効果】
【0012】
本発明の点眼剤は、優れた保水性を付与することで涙液層及び涙液油層の安定性を向上させ、ドライアイ症状の緩和、治療に有効で、且つ眼表面での滞留効果に優れた点眼剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下の本発明を詳細に説明する。
本発明の点眼剤は、式(a)で表される構成単位及び式(b)で表される構成単位を含む共重合体(A)を0.01~5w/v%、式(c)で表される構成単位及び式(d)で表される構成単位を含む共重合体(B)を0.01~5w/v%、及びナトリウムイオン及びカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンを総量として0.00013~1.75モル/Lを含むものである。
(ただし、前記共重合体(A)は、式中のa及びbの合計に対するbのモル比[{b/(a+b)}×100]が30~70であり、重量平均分子量は5,000~5,000,000である。また、前記共重合体(B)は、式中c及びdの合計に対するdのモル比[{d/(c+d)}×100]が30~70であり、重量平均分子量は5,000~5,000,000である。)
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
【0018】
<共重合体(A)>
本発明の点眼剤に用いられる共重合体(A)は、式(a)で表される構成単位及び式(b)で表される構成単位を含み、式中のa及びbの合計に対するbのモル比[{b/(a+b)}×100]が30~70であり、重量平均分子量が5,000~5,000,000である。
共重合体(A)は、例えば、特開2015-148558号公報に記載の方法を用いて製造することができる。具体的には、特定の重合開始剤の存在下、下記式(a’)で表される単量体と、下記式(b’)で表される単量体(メタクリル酸)、更に必要に応じてこれらの単量体と共重合可能な他のビニルモノマーとを重合させる方法により製造することができる。
【0019】
【0020】
【0021】
〔式(a’)で表される単量体〕
本発明で用いられる共重合体(A)は式(a’)で表される単量体、すなわち、ホスホリルコリン構造を有する単量体(以下、「PC単量体」ともいう。)に由来する構成単位を含む。共重合体(A)がPC単量体に由来する構成単位を含むことにより、眼表面に優れた保水性を付与でき、涙液層及び涙液油層の安定化効果を発現することができる。
【0022】
PC単量体は公知の方法で製造することができる。例えば、特開昭54-63025号公報に示される方法、すなわち、水酸基含有重合体性単量体と2-ブロムエチルホスホリルジクロリドとを3級塩基存在下で反応させ、これにより得られた化合物と3級アミンとを反応させる方法が挙げられる。また、特開昭58-154591号公報に記載された方法、すなわち、水酸基含有重合体性単量体と環状リン化合物との反応で環状化合物を得た後、3級アミンで開環反応させる方法等が挙げられる。
【0023】
〔式(b’)で表される単量体〕
本発明で用いられる共重合体(A)は式(b’)で表される単量体、すなわち、メタクリル酸に由来する構成単位を含む。共重合体(A)がメタクリル酸に由来する構成単位を含むことにより、優れたハイドロゲル形成能が付与され、眼表面での優れた滞留効果を付与することができる。
【0024】
〔式(a)で表される構成単位及び式(b)で表される構成単位のモル比〕
共重合体(A)において式中のa及びbの合計に対するbのモル比[{b/(a+b)}×100]は30~70である。前記範囲を満たさない場合、ハイドロゲル形成能の発現が妨げられ、眼表面での滞留効果が著しく低下する恐れがある。眼表面での滞留効果を向上させる観点から、モル比[{b/(a+b)}×100]は好ましくは35~70、より好ましくは50~70である。
【0025】
〔共重合体(A)の重量平均分子量〕
共重合体(A)の重量平均分子量は5,000~5,000,000であり、好ましくは、10,000以上、より好ましくは50,000以上、更に好ましくは100,000以上であり、そして、好ましくは4,500,000以下、より好ましくは3,000,000以下、更に好ましくは2,000,000以下である。
重量平均分子量が5,000未満であるとハイドロゲル形成能が低下し、眼表面での滞留効果が見込めない恐れがある。重量平均分子量が5,000,000を超えると、粘度が増大して取り扱いが困難となる恐れがある。
共重合体(A)の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による値をいう。具体的には、溶離液としてクロロホルム、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、エタノール、メタノール、水及びこれらの溶媒を組み合わせた液であり、必要であれば更に硫酸ナトリウム等の塩を添加しても良い。重量平均分子量の標準物質として、ポリエチレングリコール、プルラン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル等を用いることが出来る。これら溶離液と標準物質とを用いて測定した分子量を共重合体(A)の重量平均分子量という。
【0026】
〔式(a)で表される構成単位及び式(b)で表される構成単位の合計含有量〕
本発明で用いられる共重合体(A)中の全構成単位に対する式(a)で表される構成単位、及び式(b)で表される構成単位の合計含有量は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは実質的に100モル%である。式(a)で表される構成単位、及び式(b)で表される構成単位の合計含有量が前記下限値以上であると、眼表面に優れた保水性を付与でき、涙液層及び涙液油層の安定化効果を発現することができる。
【0027】
<共重合体(B)>
本発明の点眼剤に用いられる共重合体(B)は、式(c)で表される構成単位及び(d)で表される構成単位を含み、式中c及びdの合計に対するdの比率[{d/(c+d)}×100]が30~70であり、重量平均分子量は5,000~5,000,000である。
共重合体(B)は、例えば、特開2015-148558号公報に記載の方法を用いて製造することができる。具体的には、特定の重合開始剤の存在下、下記式(c’)で表される単量体(以下、「PC単量体」ともいう)と、下記式(d’)で表される単量体(N,N,N-トリメチル-N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)アンモニウムクロライド)、及び必要に応じてこれらの単量体と共重合可能な他のビニルモノマーとを重合させる方法により製造することができる。
【0028】
【0029】
【0030】
〔式(c’)で表される単量体〕
本発明で用いられる共重合体(B)は式(c’)で表される単量体、すなわち、前記PC単量体に由来する構成単位を含む。共重合体(B)がPC単量体に由来する構成単位を含むことにより、眼表面に優れた保水性を付与でき、涙液層及び涙液油層の安定化効果を発現することができる。
【0031】
〔式(d’)で表される単量体〕
本発明で用いられる共重合体(B)は式(d’)で表される単量体、すなわち、N,N,N-トリメチル-N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)アンモニウムクロライドに由来する構成単位を含む。共重合体(B)がN,N,N-トリメチル-N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)アンモニウムクロライドに由来する構成単位を含むことにより、優れたハイドロゲル形成能が付与され、眼表面での優れた滞留効果を付与することができる。
【0032】
〔式(c)で表される構成単位及び式(d)で表される構成単位のモル比〕
共重合体(B)において式中のc及びdの合計に対するdのモル比[{d/(c+d)}×100]は30~70である。前記範囲を満たさない場合、ハイドロゲル形成能の発現が妨げられ、眼表面での滞留効果が著しく低下する恐れがある。眼表面での滞留効果を向上させる観点から、モル比[{d/(c+d)}×100]は好ましくは30~65、より好ましくは30~50である。
【0033】
〔共重合体(B)の重量平均分子量〕
共重合体(B)の重量平均分子量は5,000~5,000,000であり、好ましくは10,000以上、より好ましくは100,000以上、更に好ましくは200,000以上、そして、好ましくは2,500,000以下、より好ましくは1,000,000以下、更に好ましくは800,000以下である。
重量平均分子量が5,000未満であるとハイドロゲル形成能が低下し、眼表面での優れた滞留効果が見込めない恐れがある。重量平均分子量が5,000,000を超えると、粘度が増大して取り扱いが困難となる恐れがある。
【0034】
共重合体(B)の重量平均分子量はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)測定による値をいう。具体的には、溶離液としてクロロホルム、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、エタノール、メタノール、水及びこれらの溶媒を組み合わせた液であり、必要であれば更に硫酸ナトリウム等の塩を添加しても良い。重量平均分子量の標準物質として、ポリエチレングリコール、プルラン、ポリスチレン、ポリメタクリル酸メチル等を用いることが出来る。これら溶離液と標準物質とを用いて測定した分子量を共重合体(B)の重量平均分子量という。
【0035】
〔式(c)で表される構成単位及び式(d)で表される構成単位の合計含有量〕
本発明で用いられる共重合体(B)の全構成単位に対する式(c)で表される構成単位、及び式(d)で表される構成単位の合計含有量は、好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、更に好ましくは90モル%以上、より更に好ましくは実質的に100モル%である。式(c)で表される構成単位、及び式(d)で表される構成単位の合計含有量が前記下限値以上であると、眼表面に優れた保水性を付与でき、涙液層及び涙液油層の安定化効果を発現することができる。
【0036】
〔その他の単量体〕
共重合体(A)、及び共重合体(B)の製造において必要に応じて用いることができる共重合可能な他のビニルモノマーとしては、例えば(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ペンチル、(メタ)アクリル酸ヘキシル、(メタ)アクリル酸ヘプチル、(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸トリデシル、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、スチレン、α―メチルスチレン、メチル核置換スチレン、クロロ核置換スチレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、エチレン、プロピレン、イソブチレン、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、ジエチルイタコネート、ジ―n―ブチルイタコネートを挙げることができ、特にメタクリル酸エステル類を好ましく挙げることができる。
【0037】
〔重合開始剤〕
共重合体(A)、共重合体(B)の製造において用いる重合開始剤としては、通常のラジカル重合開始剤であれば特に制限されるものではなく、例えば、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、過酸化ベンゾイル、ジイソプロピルプロピルキシジカーボネート、t-ブチルペルオキシ-2-エチルヘキサノエート、t-ブチルペルオキシピバレート、t-ブチルペルオキシジイソブチレート、スクシニックアシッドパーオキサイド、2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド、過硫酸塩又は過硫酸-亜硫酸水素塩が挙げられる。
重合開始剤の使用料は、全単量体100質量部に対して0.001~10.0質量部が好ましく特に0.01~5質量部が好ましい。
【0038】
〔重合条件〕
共重合体(A)、共重合体(B)を製造する際の重合条件は、好ましくは30~90℃、特に好ましくは40~80℃において2~72時間である。この際、重合反応をより円滑に行うために溶媒を用いてもよく、重合溶媒として、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール、t-ブタノール、ベンゼン、トルエン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、クロロホルム又はこれらの混合物を挙げることができる。また、得られる各共重合体の精製は公知の方法で行うことができる。
【0039】
本発明に用いる共重合体(A)及び共重合体(B)は金属塩を形成していない共重合体である。この金属塩とは、共重合体(A)及び共重合体(B)と結合してハイドロゲルを形成するものであり、具体的にはナトリウムイオン及びカリウムイオンが挙げられる。
【0040】
<共重合体(A)の濃度>
本発明の点眼剤は、共重合体(A)の濃度が、0.01w/v%以上であり、好ましくは0.05w/v%以上、より好ましくは0.1w/v%以上であり、更に好ましくは0.5w/v%以上、より更に好ましくは1.25w/v%以上であり、そして、5w/v%以下であり、好ましくは4w/v%以下、より好ましくは2.5w/v%以下である。共重合体(A)の濃度が0.01w/v%未満であると、共重合体(A)の添加量が少ないため、ハイドロゲル形成能が著しく低下し、角膜上での滞留効果を見込めない。5w/v%を超えると、配合量に見合った涙液層及び涙液油層の安定化効果及び眼表面での滞留効果が得られないために経済的に不利である。
【0041】
<共重合体(B)の濃度>
本発明の点眼剤は、共重合体(B)の濃度が、0.01w/v%以上であり、好ましくは0.05w/v%以上、より好ましくは0.1w/v%以上であり、更に好ましくは0.5w/v%以上、より更に好ましくは1.25w/v%以上であり、そして、5w/v%以下であり、好ましくは4w/v%以下、より好ましくは2.5w/v%以下である。共重合体(B)の濃度が0.01w/v%未満であると、共重合体(B)の添加量が少ないため、ハイドロゲル形成能が著しく低下し、眼表面での滞留効果を見込めない。5w/v%を超えると、配合量に見合った涙液層及び涙液油層の安定化効果及び眼表面での滞留効果が得られないために経済的に不利である。
【0042】
〔アルカリ金属イオン〕
本発明の点眼剤は、ナトリウムイオン及びカリウムイオンから選ばれる少なくとも一種のアルカリ金属イオンを含む。これらナトリウムイオンやカリウムイオンを生じる化合物は、例えば、塩化ナトリウムや塩化カリウムが挙げられ、医薬品用や医療機器用のものであれば特に制限されない。
本発明の点眼剤は、前記アルカリ金属イオンの濃度の総量が、0.00013モル/L以上であり、好ましくは0.00065モル/L以上、より好ましくは0.0013モル/L以上であり、更に好ましくは0.01モル/L以上であり、そして、1.75モル/L以下であり、好ましくは0.85モル/L以下、より好ましくは0.18モル/L以下である。前記アルカリ金属イオンの濃度の総量が0.00013モル/L未満であると、ナトリウムイオン、カリウムイオンの総量が少ないため、ハイドロゲル形成能が著しく低下し、眼表面での滞留効果を見込めない。1.75モル/Lを超えると、涙液層及び涙液油層の安定化効果が低下する恐れがある。
【0043】
〔その他の成分〕
本発明の点眼剤は溶媒として水を含めることができる。また、水の他、エタノール、n-プロパノール及びイソプロパノール等のアルコールを用いることができる。中でも溶媒として水を用いることが好ましく、通常、医薬品や医療機器の製造に用いられる水を用いることができる。具体的には、イオン交換水、精製水、滅菌精製水、蒸留水、及び注射用水を用いることができる。
【0044】
本発明の点眼剤は、本発明の効果を損なわない範囲でその他の成分を組み合わせ配合することができる。通常、点眼剤等の眼科用剤に用いられる成分を配合することができ、例えば、充血除去成分、眼筋調節薬成分、抗炎症薬成分又は収斂薬成分、抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分、ビタミン類、アミノ酸類、局所麻酔薬成分、ステロイド成分等が挙げられる。より具体的には以下のものが挙げられる。
【0045】
充血除去成分としては、例えば、α-アドレナリン作動薬、具体的にはエピネフリン、塩酸エピネフリン、塩酸エフェドリン、塩酸オキシメタゾリン、塩酸テトラヒドロゾリン、塩酸ナファゾリン、塩酸フェニレフリン、塩酸メチルエフェドリン、酒石酸水素エピネフリン、硝酸ナファゾリン等が挙げられる。
【0046】
眼筋調節薬成分としては、例えば、アセチルコリンと類似した活性中心を有するコリンエステラーゼ阻害剤、具体的にはメチル硫酸ネオスチグミン、トロピカミド、ヘレニエン硫酸アトロピン等が挙げられる。
抗炎症薬成分又は収斂薬成分としては、例えば、アラントイン、イプシロン-アミノカプロン酸、インドメタシン、塩化リゾチーム、プラノプロフェン、グリチルリチン酸二カリウムイオン化ベルベリン、硫酸ベルベリン等が挙げられる。
【0047】
抗ヒスタミン薬成分又は抗アレルギー薬成分としては、例えば、アシタザノラスト、アンレキサノクス、イブジラスト、トラニラスト、塩酸ジフェンヒドラミン、塩酸レボカバスチン、フマル酸ケトチフェン、ペミロラストカリウム、マレイン酸クロルフェニラミン等が挙げられる。
【0048】
ビタミン類としては、例えば、酢酸レチノール、パルミチン酸レチノール、塩酸ピリドキシン、フラビンアデニンジヌクレオチドナトリウム、リン酸ピリドキサール、シアノコバラミン、パンテノール、アスコルビン酸、酢酸トコフェロール等が挙げられる。
アミノ酸類としては、例えば、アミノエチルスルホン酸(タウリン)、グルタミン酸、クレアチニン等が挙げられる。
【0049】
局所麻酔薬成分としては、例えば、塩酸オキシブプロカイン、塩酸コカイン、塩酸コルネカイン、塩酸ジブカイン、塩酸テトラカイン、塩酸パラブチルアミノ安息香酸ジエチルアミノエチル、塩酸ピペロカイン、塩酸プロカイン、塩酸プロパラカイン、塩酸ヘキソチオカイン、塩酸リドカイン等が挙げられる。
【0050】
ステロイド成分としては、例えば、デキサメタゾン、ヒドロコルチゾン、フルオロメトロン、プレドニゾロン、メチルプレドニゾロン、ヒドロキシメステロン、カプロン酸ヒドロコルチゾン、カプロン酸プレドニゾロン、酢酸コルチゾン、酢酸ヒドロコルチゾン、酢酸プレドニゾロン、トリアムシノロンアセトニド、メチルプレドニゾロン等が挙げられる。
【0051】
本発明の点眼剤は、発明の効果を損なわない範囲でその用途や形態に応じて、常法に従い、様々な成分や添加剤を適宜選択し、一種又はそれ以上を併用して使用してもよい。それらの成分又は添加物として、例えば、増粘剤、糖類、界面活性剤、防腐剤・殺菌剤又は抗菌剤、pH調節剤、等張化剤、清涼化剤、緩衝剤、安定化剤等を挙げることができる。
【0052】
増粘剤としては、例えば、カルボキシビニルポリマー及び/又はその塩、アルギン酸及び/又はその塩、ポリビニルアルコール(ケン化物、部分ケン化物)及び/又はその塩、ヒアルロン酸及び/又はその塩、マクロゴール、ポリビニルピロリドン、コンドロイチン硫酸ナトリウム及び/又はその塩、等が挙げられる。
【0053】
糖類としては、例えば、グルコース、シクロデキストリン、キシリトール、ソルビトール、マンニトール等が挙げられる。
界面活性剤としては、例えば、アルキルジアミノエチルグリシン等のグリシン型両性界面活性剤、アルキル4級アンモニウム塩(具体的には、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム等の陽イオン界面活性剤)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート等の非イオン界面活性剤等が挙げられる。
【0054】
防腐剤・殺菌剤又は抗菌剤としては、例えば、塩酸アルキルジアミノエチルグリシン、エタノール、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、グルコン酸クロルヘキシジン、クロロブタノール、ソルビン酸、パラオキシ安息香酸メチル、パラオキシ安息香酸エチル、パラオキシ安息香酸プロピル、パラオキシ安息香酸ブチル、硫酸オキシキノリン、フェネチルアルコール、ベンジルアルコール、ポリヘキサメチレンビグアナイド等のビグアニド化合物等が挙げられる。
【0055】
pH調節剤としては、例えば、塩酸、酢酸、硫酸、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等が挙げられる。
等張化剤としては、例えば、グリセリン、プロピレングリコール等が挙げられる。
清涼化剤としては、例えば、メントール、カンフル、ボルネオール、ゲラニオール等が挙げられる。
緩衝剤としては、例えば、クエン酸、クエン酸ナトリウム、ホウ酸、ホウ砂、リン酸水素二ナトリウム、リン酸二水素ナトリウム、リン酸二水素カリウム等が挙げられ、これらの中でもホウ酸、ホウ砂が好ましい。
安定化剤としては、例えば、ジブチルヒドロキシトルエン、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート、トコフェロール等が挙げられる。
【0056】
本発明の点眼剤を用いることで、点眼剤を製造することができる。具体的な製品形態としては、一般点眼薬、抗菌性点眼薬、洗眼薬、コンタクトレンズ装着液、人工涙液等が挙げられる。
【0057】
本発明の点眼剤のpHは、涙液層及び涙液油層の安定化効果及びハイドロゲル形成能の観点から、好ましくは4.0~7.5、より好ましくは5.0~7.4、更に好ましくは6.0~7.3である。なお、本明細書における点眼剤のpHは、第17改正日本薬局方 一般試験法 2.54 pH測定法に従って測定した値をいう。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例により、本発明の点眼剤について具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、本実施例及び比較例に用いた共重合体は次の通りである。なお、合成例1~合成例6の共重合体は特開2015-148558号公報に記載の方法に従って合成し使用した。また各種評価、試験は以下の通りに実施した。
【0059】
<合成例1>共重合体(A)に相当する共重合体(A1)
2-メタクリロイルオキシエチルホスホリルコリン(以下、「MPC」ともいう)30.96g(0.105モル)及びメタクリル酸9.04g(0.105モル)を純水160gに溶解させ、温度計と冷却管を付けた500mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、70℃でスクシニックアシッドパーオキサイド1.56g加えて7時間重合した。重合反応終了後、透析膜精製を行い、無色澄明の共重合体(A1)を得た。共重合体(A1)を構成する構成単位組成及び重量平均分子量を表1に示す。
【0060】
<合成例2>共重合体(A)に相当する共重合体(A2)及び(A3)
モノマー仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして重合を行い、共重合体(A2)及び(A3)を得た。共重合体(A2)及び(A3)を構成する構成単位組成及び重量平均分子量を表1に示す。
【0061】
<合成例3>共重合体(B)に相当する共重合体(B1)
MPC22.15g(0.075モル)及びN,N,N-トリメチル-N-(2-ヒドロキシ-3-メタクリロイルオキシプロピル)アンモニウムクロライド(以下、「QA」ともいう)17.85g(0.075モル)を純水210gに溶解させ、温度計と冷却管を付けた500mLの4つ口フラスコに入れて30分間窒素を吹き込んだ。その後、70℃で2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジヒドロクロライド0.373g加えて2時間重合反応させた。重合反応後、透析膜精製を行い、無色澄明の共重合体(B1)を得た。共重合体(B1)を構成する構成単位組成及び重量平均分子量を表1に示す。
【0062】
<合成例4>共重合体(B)に相当する共重合体(B2)及び(B3)
モノマー仕込み量を変更した以外は、合成例3と同様にして重合を行い、共重合体(B2)及び(B3)を得た。共重合体(B2)及び(B3)を構成する構成単位組成及び重量平均分子量を表1に示す。
【0063】
<合成例5>共重合体(A)に相当しない共重合体(C)及び(D)
モノマー仕込み量を変更した以外は、合成例1と同様にして重合を行い、共重合体(C)及び(D)を得た。共重合体(C)及び(D)を構成する構成単位組成及び重量平均分子量を表1に示す。
【0064】
<合成例6>共重合体(B)に相当しない共重合体(E)及び(F)
モノマー仕込み量を変更した以外は、合成例3と同様にして重合を行い、共重合体(E)及び(F)を得た。共重合体(E)及び(F)を構成する構成単位組成及び重量平均分子量を表1に示す。
【0065】
<合成例7>共重合体(A)及び(B)に相当しない共重合体(G)
MPC及びブチルメタクリレート共重合体であり、特開平11-035605の実施例に記載の方法によって重合を行い得た。共重合体(G)を構成する構成単位組成及び重量平均分子量を表1に示す。
【0066】
<共重合体の分子量測定>
各共重合体の重量平均分子量は、ポリエチレングリコールを標準サンプルとしてゲルパーミエーションクロマトグラフ(GPC)により測定した。
得られた各共重合体5mgをメタノール/クロロホルム混液(80:20)に溶かし、さらに水で希釈して共重合体濃度が0.5質量%になるようにした。この液を0.45μmメンブランフィルターでろ過し、次のとおりの条件で測定した。
カラム:PLgel-mixed-C
標準物質:ポリエチレングリコール
検出器:示差屈折計RI-8020(東ソー株式会社製)
重量平均分子量の算出法:分子量計算プログラム(SC-8020用GPCプログラム)
流量:毎分1mL
注入量:100μL
カラムオーブン:40℃付近の一定温度
【0067】
【表1】
[評価]
点眼剤が眼表面において顕著な滞留効果を発現するためには、瞬目時にうける応力によって瞬時に角膜表面に均一に進展すること、且つ、点眼剤自体が粘性を有することで角膜上に均一に進展した点眼剤が、そのまま留まり続けることが必要で有ると想定して、<ゲル化確認試験>及び<粘弾性測定試験>を規定した。
また、点眼剤の涙液層及び涙液油層の安定化効果に関する評価として、強制開瞼した家兎を用いた<BUT確認試験>(Break Up Time、涙液層破断時間)を行った。更に、強制開瞼した家兎を用いた<滞留性試験>を行った。
【0068】
<ゲル化確認試験>
実施例1~9及び比較例1~9のゲル化を目視にて確認した。判定は以下の通りとした。
〇:沈殿物がなく、均一なゲル化形成能を発現
×:ゲル化形成能を発現しない、もしくは不均一なゲルを形成する
【0069】
<粘弾性測定試験>
実施例1~9及び比較例1~9の粘弾性についてクリープメーター(株式会社山電製、RHEONER IIシリーズ RE2-33005)を用いて粘性係数及び弾性係数を測定した。それぞれ粘性係数は点眼剤自体の粘性率を、弾性係数は点眼剤自体の弾性率を示すものである。試験判定は、滞留性に優れる点眼剤に必要とされる粘性係数、弾性係数を想定して、以下の通り設定した。
【0070】
◎:粘性係数1,000,000Pa・s以上且つ弾性係数50,000Pa以上
〇:粘性係数500,000Pa・s以上1,000,000Pa・s未満且つ弾性係数50,000Pa以上
△:粘性係数500,000Pa・s未満且つ弾性係数50,000Pa以上、又は粘性係数500,000Pa・s以上且つ弾性係数50,000Pa未満
×:粘性係数500,000Pa・s未満且つ弾性係数50,000Pa未満
【0071】
<強制開瞼した家兎を用いたBUT確認試験・滞留性確認試験>
実施例1~9及び比較例1~9に蛍光色素であるフルオロセインナトリウムを最終濃度0.05w/w%となるように添加した。それぞれの液20μLを、強制開瞼し重度のドライアイとした家兎に点眼し、結膜嚢におけるフルオレセインナトリウムの蛍光色をスリットランプで確認した。点眼後から時間測定を開始し、蛍光色が消失するまでの時間を計測した。これを3回繰り返し、平均値を滞留時間とした。滞留時間測定後、スリットランプを用いて家兎眼の角膜表面におけるBUT及び滞留時間について、以下の通りの判定を行った。
【0072】
〔BUT測定試験〕
◎:瞬目後から均一な涙液層が破断し、ドライスポットが出現するまで10秒以上
○:瞬目後から均一な涙液層が破断し、ドライスポットが出現するまで5秒以上10秒未満
△:瞬目後から均一な涙液層が破断し、ドライスポットが出現するまで1秒以上5秒未満
×:瞬目後から均一な涙液層が破断し、ドライスポットが出現するまで1秒未満
【0073】
〔滞留性確認試験〕
◎:滞留時間が60分以上
〇:滞留時間が30分以上60分未満
△:滞留時間が10分以上30分未満
×:滞留時間が10分未満
【0074】
<実施例1>
200mLビーカーに共重合体(A1)2.5g、塩化ナトリウム1.0g、ホウ酸0.4g、ホウ砂0.02g、更に各成分が表2に記載の濃度になるように水を加え加熱攪拌した。加熱攪拌中の上記ビーカーに、共重合体(B1)2.5gを滴下することで点眼剤を製造し、実施例1とした。
【0075】
<実施例2~9及び比較例1~9>
表2及び表3に従い、実施例1と同様の手順で点眼剤を製造し、実施例2~9及び比較例1~9とした。
【0076】
【0077】
塩化ナトリウム:大塚製薬株式会社製
塩化カリウム:日医工株式会社
ホウ酸:小堺製薬株式会社製
ホウ砂:富士フイルム和光純薬株式会社製
水:健栄製薬株式会社製
【0078】
【0079】
実施例1の点眼剤は、粘性係数7.6×106Pa・s、弾性係数7.0×104Paとなり、極めて優れた滞留効果を有した。更に家兎を用いたBUT測定試験においても◎となり、極めて優れた涙液層及び涙液油層の安定化効果を確認した。実施例1と同様に、実施例2~実施例8の点眼剤では極めて優れた滞留効果及び、涙液層と涙液油層の安定化効果を確認した。実施例9の点眼剤では優れた滞留効果及び、涙液層と涙液油層の安定化効果を確認した。
【0080】
比較例1~比較例9の点眼剤では、いずれの例でもゲル化を確認することはできず、また、滞留効果の発現に必要とされる粘性係数、弾性係数に及ばなかった。家兎を用いたBUT測定試験では多くの比較例で△となり、一部の涙液層と涙液油層の安定化効果を確認したものの、その効果は不十分であった。また、家兎を用いた滞留時間試験では、十分な滞留効果を確認できなかった。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明の点眼剤は、涙液層及び涙液油層の安定性を向上させ、ドライアイ症状の十分な緩和、治療効果を発現する。更に、眼表面での滞留効果に優れており、ドライアイ症状の緩和、治療効果を長時間持続させることができる。