(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】蓄電素子のSOC推定装置、蓄電装置、蓄電素子のSOC推定方法
(51)【国際特許分類】
G01R 31/3842 20190101AFI20221109BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20221109BHJP
G01R 31/392 20190101ALI20221109BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20221109BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G01R31/3842
G01R31/389
G01R31/392
H01M10/48 P
H02J7/00 Y
(21)【出願番号】P 2018542861
(86)(22)【出願日】2017-09-28
(86)【国際出願番号】 JP2017035238
(87)【国際公開番号】W WO2018062394
(87)【国際公開日】2018-04-05
【審査請求日】2020-07-31
(31)【優先権主張番号】P 2016191764
(32)【優先日】2016-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古川 和輝
(72)【発明者】
【氏名】松好 翼
(72)【発明者】
【氏名】小園 卓
【審査官】島▲崎▼ 純一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-286818(JP,A)
【文献】特開2014-109477(JP,A)
【文献】国際公開第2014/083813(WO,A1)
【文献】特開2006-098135(JP,A)
【文献】特開2013-187960(JP,A)
【文献】特開2012-135168(JP,A)
【文献】特開2011-133443(JP,A)
【文献】特開2014-041768(JP,A)
【文献】特開2014-190763(JP,A)
【文献】特開2015-040832(JP,A)
【文献】特開2015-108579(JP,A)
【文献】特開2011-258337(JP,A)
【文献】特開2013-044580(JP,A)
【文献】特開2016-038276(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/382
G01R 31/392
H01M 10/48
H01M 10/42
H02J 7/00
B60L 58/12
B60L 58/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電素子のSOC推定装置であって、
記憶部と、
データ処理部と、を備え、
前記蓄電素子は、
前記蓄電素子の製造から起算した第1期間と対応し時間に対する実容量の低下が第1推移を示す第1劣化モードと、前記第1期間経過後
から起算した第2期間と対応し
時間に対する実容量の低下が前記第1劣化モードより大きい第2推移を示す第2劣化モードとを有する特性であり、
前記実容量は、前記蓄電素子を完全充電した状態から取り出し可能な容量であり、
前記記憶部は、
前記第1劣化モードにおける前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す第1相関データと、
前記第2劣化モードにおける前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す第2相関データを保持し、
前記データ処理部は、
前記蓄電素子の内部抵抗の抵抗増加率に基づいて、前記蓄電素子の劣化モードが前記第1劣化モード又は前記第2劣化モードのどちらのモードか、判定するモード判定処理と、
判定した前記劣化モードに対応した相関データを前記記憶部から選択して前記蓄電素子のSOCを推定する推定処理と、を実行
し、
前記データ処理部は、
前記蓄電素子の電流および電圧のデータを計測し、
前記モード判定処理にて、SOCが第1閾値より低い時の前記蓄電素子の、所定期間に計測した電流および電圧から計算した内部抵抗の抵抗増加率から、
SOCが前記第1閾値より大きい第2閾値より高い時の前記蓄電素子の、前記所定期間に計測した電流及び電圧から計算した内部抵抗の抵抗増加率を減算した値に基づいて、前記蓄電素子の劣化モードを判定する、SOC推定装置。
【請求項2】
請求項
1に記載のSOC推定装置であって、
前記第2劣化モードは前記第1劣化モードより容量低下が大きく、容量維持率に応じてSOC-OCVの相関性が異なる劣化モードであり、
前記記憶部は、前記第2劣化モードについて、前記蓄電素子の容量維持率ごとに、前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す相関データを保持し、
前記蓄電素子が前記第2劣化モードと判定された場合、
前記データ処理部は、容量維持率に対応した相関データを選択して前記蓄電素子のSOCを推定する、SOC推定装置。
【請求項3】
請求項1
または請求項2に記載のSOC推定装置であって、
前記データ処理部は、前記蓄電素子の電圧と電流の計測値に基づいて、前記蓄電素子の内部抵抗を算出する、SOC推定装置。
【請求項4】
請求項1~請求項
3のいずれか一項に記載のSOC推定装置であって、
前記記憶部は、前記第1相関データ及び前記第2相関データを、前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す、相関マップ又は近似式により保持する、SOC推定装置。
【請求項5】
蓄電素子と、
請求項1~請求項
4のいずれか一項に記載のSOC推定装置と、を備えた蓄電装置。
【請求項6】
蓄電素子のSOC推定方法であって、
前記蓄電素子は、
前記蓄電素子の製造
から起算した第1期間と対応し時間に対する実容量の低下が第1推移を示す第1劣化モードと、前記第1期間経過後
から起算した第2期間と対応し
時間に対する実容量の低下が
前記第1劣化モードより大きい第2推移を示す第2劣化モードとを有する特性であり、
前記蓄電素子の電流および電圧のデータを計測し、SOCが第1閾値より低い時の前記蓄電素子の、所定期間に計測した電流および電圧から計算した内部抵抗の抵抗増加率から、SOCが前記第1閾値より大きい第2閾値より高い時の前記蓄電素子の、前記所定期間に計測した電流及び電圧から計算した内部抵抗の抵抗増加率を減算した値に基づいて、前記蓄電素子の劣化モードが前記第1劣化モード又は前記第2劣化モードのどちらのモードか、判定するモード判定ステップと、
前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す複数の相関データから判定した前記劣化モードに対応した相関データを選択して、前記蓄電素子のSOCを推定する推定ステップとを有する、SOC推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充放電可能な蓄電素子のSOC推定装置、蓄電装置、蓄電素子のSOC推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、充放電可能な蓄電素子におけるSOCを推定するための種々の方法が知られている。特許文献1には、SOCとOCVの相関性を利用して、SOCを推定する点が記載されている 。尚、SOCは充電状態、OCVは開放電圧である。
【0003】
特許文献2には、蓄電素子について劣化が緩やかな第1劣化状態と、急激な第2劣化状態を有する点が記載されている。そして、劣化状態に応じて、充電上限電圧を制限することで、電池の延命化を図っている。尚、特許文献2では、第二容量変化量を閾値と比較することにより、劣化状態を判断している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-117951号公報
【文献】特開2014-109477号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
リチウムイオン電池などの蓄電素子は、自動車用途で広く普及している。将来、自動車用途(第一の用途)で使い終わった蓄電素子が、自動車から取り外されて、別の用途(第二の用途)で使われるという状況が想定される。そのため、第二の用途でも、蓄電素子のSOCを正確に推定する技術が求められている。また、同じ使用用途で使用される場合でも、使用期間や使用状況に関わらず、蓄電素子のSOCを正確に推定することが好ましい。
本発明は、上記のような事情に基づいて完成されたものであって、SOCの推定精度を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書により開示される蓄電素子のSOC推定装置は、記憶部と、データ処理部とを備え、前記蓄電素子は、時間に対する容量低下が第1推移を示す第1劣化モードと、容量低下が第2推移を示す第2劣化モードとを有する特性であり、前記記憶部は、前記第1劣化モードにおける前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す第1相関データと、前記第2劣化モードにおける前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す第2相関データを保持し、前記データ処理部は、前記蓄電素子の劣化モードを判定するモード判定処理と、前記記憶部から前記劣化モードに対応した相関データを選択して前記蓄電素子のSOCを推定する推定処理と、を実行する。
【0007】
尚、本明細書により開示される技術は、蓄電装置、SOC推定方法に対して適用することが出来る。
【発明の効果】
【0008】
本明細書により開示されるSOC推定装置によれば、SOCの推定精度を向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】実施形態1に係るバッテリパックの電気的構成を示すブロック図である。
【
図3】リチウムイオン二次電池の分解斜視図である。
【
図4】リチウムイオン二次電池の電極体を説明するための図である。
【
図5】放置期間に対する実容量の変化を示すグラフである。
【
図6】放電時間に対するCCVの変化を示すグラフである。
【
図7】放電時間に対するCCV、CCPの変化を示すグラフである。
【
図8】放電時間に対するCCV、CCPの変化を示すグラフである。
【
図9】DODに対するCCVの変化を示すグラフである。
【
図10】SOCに対するOCVの変化を示すグラフである。
【
図12】放置期間に対する抵抗増加率の変化を示すグラフである。
【
図13】二次電池の内部抵抗の検出原理を示す図である。
【
図14】相関マップの切り換え処理の流れを示すフローチャート図である。
【
図15】OCV法によるSOC算出処理のフローチャート図である。
【
図16】OCVとSOCの相関マップを示す図である。
【
図17】実施形態2に係るリチウムイオン二次電池について放電時間に対するCCV、CCPの変化を示すグラフである。
【
図18】DODに対するCCVの変化を示すグラフである。
【
図19】リチウム二次電池の電流に対する電圧の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
初めに、本実施形態にて開示するSOC推定装置の概要について説明する。
蓄電素子のSOC推定装置であって、記憶部と、データ処理部とを備え、前記蓄電素子は、時間に対する容量低下が第1推移を示す第1劣化モードと、容量低下が第2推移を示す第2劣化モードとを有する特性であり、前記記憶部は、前記第1劣化モードにおける前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す第1相関データと、前記第2劣化モードにおける前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す第2相関データを保持し、前記データ処理部は、前記蓄電素子の劣化モードを判定するモード判定処理と、前記記憶部から前記劣化モードに対応した相関データを選択して前記蓄電素子のSOCを推定する推定処理と、を実行する。この構成では、記憶部に記憶されたSOCとOCVの相関性を示す複数の相関データから、劣化モードに対応した相関データを選択して蓄電素子のSOCを推定する。そのため、SOCの推定精度を向上させることが出来る。
【0011】
前記データ処理部は、前記モード判定処理にて、前記蓄電素子の内部抵抗に基づいて、前記蓄電素子の劣化モードを判定してもよい。蓄電素子の内部抵抗は、蓄電素子の電圧や電流から計算できるので、特別なセンサを用いることなく、劣化モードを判定することが出来る。
【0012】
前記データ処理部は、前記モード判定処理にて、SOCが第1閾値より低い時の前記蓄電素子の内部抵抗の抵抗増加率と、SOCが前記第1閾値より大きい第2閾値より高い時の前記蓄電素子の内部抵抗の抵抗増加率とに基づいて、前記蓄電素子の劣化モードを判定してもよい。第2劣化モードでは、SOCが高い場合に比べて低い場合は、蓄電素子の抵抗増加率が特に大きい。そのため、SOCが高い場合、低い場合の双方について蓄電素子の抵抗増加率を調べることで、劣化モードを高精度に判定することが出来る。
【0013】
前記第2劣化モードは前記第1劣化モードより容量低下が大きく、容量維持率に応じてSOC-OCVの相関性が異なる劣化モードであり、前記記憶部は、前記第2劣化モードについて、前記蓄電素子の容量維持率ごとに、前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す相関データを保持してもよく、前記蓄電素子が前記第2劣化モードと判定された場合、前記データ処理部は、容量維持率に対応した相関データを選択して前記蓄電素子のSOCを推定してもよい。この構成では、第2劣化モードと判定された場合、容量維持率に対応した相関データを選択して蓄電素子のSOCを推定する。そのため、第2劣化モードにおいて、蓄電素子のSOC推定精度をより一層、向上させることが出来る。
【0014】
前記データ処理部は、前記蓄電素子の電圧と電流の計測値に基づいて、前記蓄電素子の内部抵抗を算出してもよい。この構成では、比較的容易に取得できる電流、電圧のデータから内部抵抗を算出できる。また、蓄電素子の充放電中でも、内部抵抗を算出することが出来る。
【0015】
前記記憶部は、前記第1相関データ及び前記第2相関データを、前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す、相関マップ又は近似式により保持するとよい。この構成では、相関マップ又は近似式を参照することで、第1相関データ、第2相関データを得ることが出来る。
【0016】
<実施形態1>
本発明の実施形態1を
図1~
図16によって説明する。
【0017】
1.バッテリパック20の電気的構成と二次電池100の構成
図1はバッテリパック20の電気的構成を示す回路図である。バッテリパック20には、外部端子である正極端子20P、負極端子20Nを介して、負荷10Aや充電器10Bを接続することが出来る。尚、バッテリパック20が本発明の「蓄電装置」の一例である。
【0018】
バッテリパック20は、車両用(例えば、エンジン始動用)であり、組電池30と、電流センサ41と、温度センサ43と、組電池30を管理する管理装置50とを有する。電流センサ41は、通電路35を介して組電池30と直列に接続されている。本例では、電流センサ41を負極側に配置している。
バッテリパック20は、電気自動車(EV)、ハイブリッド電気自動車(HEV)、プラグインハイブリッド電気自動車(PHEV)等の電動車両駆動用であってもよい。
バッテリパック20は、車両駆動アシストや補機への電源供給を行う48V電源であってもよい。
【0019】
組電池30は、直列接続された複数(本例では4セル)のリチウムイオン二次電池100から構成されている。尚、セルとは1つのリチウムイオン二次電池を意味する。また、リチウムイオン二次電池100が本発明の「蓄電素子」の一例、管理装置50が本発明の「SOC推定装置」の一例である。組電池30は、複数のセルが直列および並列に接続されたものでもよい。
【0020】
電流センサ41は、リチウムイオン二次電池100に流れる電流を検出する機能を果たす。温度センサ43は接触式あるいは非接触式で、リチウムイオン二次電池100の温度[℃]を測定する機能を果たす。温度センサ43は、組電池30の近傍の温度を測定するものでもよいし、特定の一つのセルまたは複数のセルそれぞれの温度を測定するものでもよい。
【0021】
電流センサ41と温度センサ43は、信号線によって、管理装置50に電気的に接続されており、電流センサ41や温度センサ43の検出値は、管理装置50に取り込まれる。
【0022】
管理装置50は、電圧検出部60と、制御部70とを備えている。電圧検出部60は、検出ラインを介して各リチウムイオン二次電池100の両端にそれぞれ接続され、各リチウムイオン二次電池100の電圧及び組電池30の総電圧を測定する機能を果たす。電圧検出部60は、組電池30の総電圧のみを測定するものであってもよい。
【0023】
制御部70は、CPUからなるデータ処理部71と、メモリ73と、時刻を計時する計時部75を含む。データ処理部71は、電流センサ41、電圧検出部60、温度センサ43の出力から組電池30の電流I、各リチウムイオン二次電池100の電圧、温度を監視すると共に、各リチウムイオン二次電池100のSOCを推定する。尚、メモリ73が本発明の「記憶部」の一例である。
【0024】
メモリ73には、各リチウムイオン二次電池100の状態を監視するための各情報や、SOCを推定するための各情報が記憶されている。尚、SOCを推定するための情報には、SOCの初期値のデータや、各リチウムイオン二次電池100の内部抵抗Rの初期値のデータが含まれる。また、それ以外にも、SOCとOCVの相関性を示す相関データなどが含まれる。
【0025】
図2~
図4に示すように、二次電池100は、正極123及び負極124を含む電極体102と、電極体102を収容するケース103と、ケース103の外側に配置される外部端子104と、を備える。また、二次電池100は、電極体102と外部端子104とを導通させる集電体105も有する。
【0026】
電極体102は、巻芯121と、互いに絶縁された状態で巻芯121の周囲に巻回された正極123と負極124と、を備える。巻芯は、もうけられなくてもよい。電極体102においてリチウムイオンが正極123と負極124との間を移動することにより、二次電池100が充放電する。
【0027】
正極123は、金属箔と、金属箔の上に形成された正極活物質層と、を有する。金属箔は帯状である。本実施形態の金属箔は、例えば、アルミニウム箔である。負極124は、金属箔と、金属箔の上に形成された負極活物質層と、を有する。金属箔は帯状である。本実施形態の金属箔は、例えば、銅箔である。
【0028】
電極体102では、以上のように構成される正極123と負極124とがセパレータ125によって絶縁された状態で巻回される。即ち、本実施形態の電極体102では、正極123、負極124、及びセパレータ125が積層された状態で巻回される。セパレータ125は、絶縁性を有する部材である。セパレータ125は、正極123と負極124との間に配置される。これにより、電極体102において、正極123と負極124とが互いに絶縁される。また、セパレータ125は、ケース103内において、電解液を保持する。これにより、二次電池100の充放電時において、リチウムイオンが、セパレータ125を挟んで交互に積層される正極123と負極124との間を移動する。電極体102は、巻回タイプのものに限られない。電極体は、板状の正極と、セパレータと、板状の負極とが積層されたスタックタイプのものでもよい。
【0029】
ケース103は、開口を有するケース本体131と、ケース本体131の開口を塞ぐ(閉じる)蓋板132と、を有する。このケース103は、ケース本体131の開口周縁部136と、蓋板132の周縁部とを重ね合わせた状態で接合することによって形成される。このケース103は、ケース本体131と蓋板132とによって画定される内部空間を有する。そして、ケース103は、電極体102及び集電体105と共に、電解液を内部空間に収容する。
【0030】
ケース本体131は、矩形板状の閉塞部134と、閉塞部134の周縁に接続される角筒形状の胴部135とを備える。即ち、ケース本体131は、開口方向(Z軸方向)における一方の端部が塞がれた角筒形状(即ち、有底角筒形状)を有している。
【0031】
蓋板132は、ケース本体131の開口を塞ぐ板状の部材である。具体的に、蓋板132は、ケース本体131の開口周縁部136に対応した輪郭形状を有する。即ち、蓋板132は、矩形状の板材である。この蓋板132は、ケース本体131の開口を塞ぐように、蓋板132の周縁部がケース本体131の開口周縁部136に重ねられる。電極体や集電体を収納する外装体は、ケース103には限定されず、例えば、金属層と樹脂層とを含むパウチ(ラミネート外装体)でもよい。
【0032】
外部端子104は、他の二次電池の外部端子又は外部機器等と電気的に接続される部位である。外部端子104は、導電性を有する部材によって形成される。例えば、外部端子104は、アルミニウム又はアルミニウム合金等のアルミニウム系金属材料、銅又は銅合金等の銅系金属材料等の溶接性の高い金属材料によって形成される。
【0033】
集電体105は、ケース103内に配置され、電極体102と通電可能に直接又は間接に接続される。この集電体105は、導電性を有する部材によって形成され、ケース103の内面に沿って配置される。集電体105はもうけられなくてもよい。電極体102が、外部端子104に直接接続されてもよい。
【0034】
リチウムイオン二次電池100は、電極体102とケース103とを絶縁する絶縁部材106を備える。本実施形態の絶縁部材106は、袋状である。この絶縁部材106は、ケース103(詳しくはケース本体131)と電極体102との間に配置される。本実施形態の絶縁部材106は、例えば、ポリプロピレン、ポリフェニレンスルフィド等の樹脂によって形成される。本実施形態のリチウムイオン二次電池100では、袋状の絶縁部材106に収容された状態の電極体102(電極体102及び集電体105)がケース103内に収容される。絶縁袋106はもうけられなくてもよい。
【0035】
2.SOCの推定処理
管理装置50のデータ処理部71は、各リチウムイオン二次電池100のSOC(state of charge:充電状態)を推定する処理を行う。SOCの推定は、下記の(1)式にて示すように、SOCの初期値に対して、電流センサ41により検出される電流Iの累積積算値を加算することにより推定出来る(電流積算法)。
【0036】
SOC=SOCo+∫Idt/C・・・・・(1)
尚、SOCoは、SOCの初期値、Iは電流、Cはリチウムイオン二次電池の実容量(available capacity)である。
【0037】
電流積算法においては、電流センサ41の計測誤差が蓄積する。そのため、データ処理部71は、定期的にOCV法を用いて各リチウムイオン二次電池100のSOCを推定し、SOCの値をリセットする。そしてリセット後は、OCV法で求めたSOCを初期値として、電流積算法でSOCを推定する。尚、OCV法とは、リチウムイオン二次電池100のOCV(open circuit voltage:開放電圧)に基づいてSOCを推定する方法であり、OCVの計測値を用い、SOCとOCVの相関性を示す相関データに参照して、OCVに対応するSOCを求めるものである。
【0038】
3.リチウムイオン二次電池100の劣化モード
図5の(A)は、横軸を放置期間T、縦軸を実容量C[Ah]とした、リチウムイオン二次電池100のT-C相関グラフである。
図5の(B)は、横軸を放置期間Tのルート(平方根)、縦軸を実容量C[Ah]とした、リチウムイオン二次電池100の√T-C相関グラフである。実容量Cとは、リチウムイオン二次電池100が完全充電された状態から取り出し可能な容量である。放置期間Tは、リチウムイオン二次電池100が未使用状態(非通電にした状態)で経過した日数である。尚、リチウムイオン二次電池100は、正極活物質にCo,Mn,Niの元素を含有したリチウム含有金属酸化物、負極にハードカーボンを用いた三元系のリチウムイオン二次電池である。
【0039】
図5の(A)に示すように、実容量Cの変化曲線Lcは、製造初期からの第1期間W1と、それ以降の第2期間W2とで推移が異なっており、2つの劣化モードを有している。具体的には、第2期間W2の変化曲線Lc2は、第1期間W1の変化曲線Lc1に比べてカーブが急になっており、第2期間W2は第1期間W1よりも、放置期間Tに対する実容量Cの低下量が大きい。また、横軸を放置期間Tのルートにすると、第1変化曲線Lc1と第2変化曲線Lc2は概ね直線で近似することが出来、
図5の(B)に示すように、第1変化曲線Lc1を近似した第1近似直線Ls1よりも、第2変化曲線Lc2を近似した第2近似直線Ls2の方が、傾きが大きくなっている。以下、変化曲線Lc1に従う劣化モードを第1劣化モードとし、変化曲線Lc2に従う劣化モードを第2劣化モードとする。
【0040】
4.劣化モードの推定要因
図6は、横軸を放電時間[h]、縦軸をCCV[V]としたグラフであり、三元系のリチウムイオン二次電池100を低レートで定電流放電する放電試験を行って得たものである。尚、CCV(closed circuit voltage)は、リチウムイオン二次電池100の閉回路電圧である。
【0041】
放電試験は、初期、第1劣化モード、第2劣化モードのそれぞれについて行っており、「A0」は初期品の放電曲線を示している。「A1」は第1劣化モードの放電曲線を示し、「A2」は第2劣化モードの放電曲線を示している。尚、A2aも、第2劣化モードの放電曲線であるが、A2のときとは電池の容量維持率Yが異なる(後述)。
【0042】
図6に示すように、第1劣化モードの放電曲線A1と初期品の放電曲線A0は概ね同形状で、放電曲線A1は放電曲線A0を横軸方向に縮小した形状である。一方、第2劣化モードの放電曲線A2は、放電曲線A0、A1とは形状が異なっており、放電末期でのCCVの変化が大きくなる傾向を示している。
【0043】
図7は、横軸を放電期間[h]、縦軸をCCV[V]、正極のCCP[V]、負極のCCP[V]としたグラフであり、初期品の三元系のリチウムイオン二次電池100を1Cのレートで定電流放電する放電試験を行って得たものである。
図7に示す曲線A0はCCVのカーブを示し、曲線Ap0は、正極のCCPのカーブ、曲線An0は負極のCCPのカーブを示している。尚、CCVは、正極と負極のCCP(closed circuit potential:閉回路電位)の差である。
【0044】
図8は同様の放電試験を、第1劣化モードと第2劣化モードについて行った結果を示している。
図8に示す曲線A0、曲線Ap0、曲線An0は、初期のリチウムイオン二次電池100について、CCVのカーブ、正極のCCPのカーブ、負極のCCPのカーブをそれぞれ示している。
図8は正極と負極のCCP推移を示しており、それぞれのCCP推移のバランスによって実容量が決まる。
【0045】
曲線A1、曲線Ap1、曲線An1は、第1劣化モードのリチウムイオン二次電池100について、CCVのカーブ、正極のCCPのカーブ、負極のCCPのカーブをそれぞれ示している。曲線A2、曲線Ap2、曲線An2は、第2劣化モードのリチウムイオン二次電池100について、CCVのカーブ、正極のCCPのカーブ、負極のCCPのカーブをそれぞれ示している。
【0046】
図7、
図8に示すように、初期品のリチウムイオン二次電池100では、放電末期X0において負極のCCPが急激に大きく変化している(曲線An0)。また、第1劣化モードのリチウムイオン二次電池100でも同様に、放電末期X1において負極のCCPが急激に大きく変化している(曲線An1)。従って、初期と第1劣化モードの放電曲線A0、A1は、負極の抵抗によって実容量が律速となっていることが考えられる。
【0047】
一方、第2劣化モードのリチウムイオン二次電池100では、放電末期X2において、正極のCCPが急激に低下している(曲線Ap2)。従って、第2劣化モードの放電曲線A2は、正極の抵抗によって実容量が律速となっていることが考えられる。尚、律速とは、何が支配的でその特性が決まっているのかを意味する。
【0048】
5.劣化モードとDOD-CCV特性、SOC-OCV特性
図9は、横軸をDOD[%]、縦軸をCCV[V]とした、DOD-CCV相関グラフである。DOD(depth of discharge)は、リチウムイオン二次電池100の放電深度である。
図9のグラフは、
図6と同様にリチウムイオン二次電池100を低レートで定電流放電する放電試験を行って得たものである。
【0049】
放電試験は、初期、第1劣化モード、第2劣化モードについてそれぞれ行っており、「B1」は第1劣化モードのDOD-CCV相関曲線を示し、「B2」は第2劣化モードのDOD-CCV相関曲線を示している。尚、初期の相関曲線は第1劣化モードの相関曲線B1とほぼ一致する。
【0050】
図9に示すように、第2劣化モードのDOD-CCV相関曲線B2は、第1劣化モードのDOD-CCV相関曲線B1と異なっている。具体的には、相関曲線B2は、相関曲線B1よりも外側に膨らんだ形状をしており、放電末期の電圧変化が大きくなっている。
【0051】
満充電状態からの放電中に、内部抵抗Rが非常に小さく、試験中に内部抵抗が大きく変化しないような低レート条件における、DOD-CCVの推移はDOD-OCVの推移とほぼ等しい。そして、SOC-OCVの推移は、DOD50%でCCVの推移を左右反転した推移とほぼ同じになることから、
図10に示すように、劣化モードが異なると、リチウムイオン二次電池100のSOC-OCV特性は、異なるカーブになる。
【0052】
具体的に説明すると、
図10に示す「F1」は第1劣化モードのSOC-OCV相関曲線、「F2」は第2劣化モードのSOC-OCV相関曲線を示している。
【0053】
第2劣化モードのSOC-OCV相関曲線F2は、相関曲線F1よりも外側に膨らんだ形状をしており、放電末期のOCV変化が大きくなっている。そのため、本実施形態では、SOC-OCVの相関性を示す相関データを、劣化モードごとにメモリ73に記憶している。
【0054】
具体的には、
図11に示すように、第1劣化モードに対応して、相関曲線F1に対応する相関マップM1を記憶し、第2劣化モードに対応して相関曲線F2をマップ化した相関マップM2を記憶している。
【0055】
そして、リチウムイオン二次電池100の劣化モードを検出して、相関マップMを選択することで、SOCの推定精度を向上させている。尚、相関マップMは、相関曲線Fに基づいて、OCVごとにSOCの値を対応させたデータである(
図16参照)。
【0056】
図9に示す「B2a」は「B2」に対する容量維持率Yの違い、
図10に示す相関曲線「F2a」は相関曲線「F2」に対する容量維持率Yの違いをそれぞれ示しており、第2劣化モードのSOC-OCV相関曲線F2は、容量維持率Yの相違により異なる形状の曲線となる。
【0057】
そのため、
図11に示すように、第二劣化モードでは、容量維持率Ya~Ycごとに相関マップM2a~M2cを記憶しており、容量維持率Yに応じて、それに対応する相関マップM2a~M2cを選択する構成になっている。容量維持率Yは、下記の式(2)より算出することが出来る。
【0058】
Y=C/Co×100・・・・・・・・(2)
C・・・リチウムイオン二次電池100の実容量、Co・・・実容量の初期値(製造後の数値)
【0059】
尚、第1劣化モードのSOC-OCV相関曲線F1は、容量維持率Yによらず、ほぼ同じ曲線になるので、第1劣化モードについては、
図11に示すように、1種類のみ相関マップM1を記憶させている。また、初期のSOC-OCV相関曲線は、第1劣化モードのSOC-OCV相関曲線F1とほぼ一致するので、初期は、第1劣化モードの相関マップM1を用いることができる。
【0060】
6.劣化モードの検出方法
図12は、放置期間Tに対する抵抗増加率(初期値を基準とした内部抵抗の増加率)Kの変化を示したグラフであり、リチウムイオン二次電池100を満充電状態に近しい状態(SOC80%)にて放置し、放置期間経過後の抵抗増加率Kを各SOCで計測する試験から得られたものである。また、
図12の(A)は、リチウムイオン二次電池100が温度25℃で低SOC(具体的には、SOC20%)の場合の抵抗増加率K1を示し、
図12の(B)はリチウムイオン二次電池100が温度25℃で中SOC(具体的には、SOC50%)の場合の抵抗増加率K2を示している。尚、
図12の(A)、(B)のグラフは、横軸を放置期間Tのルート、縦軸を内部抵抗Rの抵抗増加率Kとしている。抵抗増加率Kは、下記の式(3)により算することが出来る。
【0061】
K=R/Ro・・・・・(3)
Ro・・・内部抵抗の初期値(製造後の各SOCでの数値)
R・・・・放置期間経過時における各SOCでの内部抵抗
【0062】
図12に示すように、抵抗増加率Kは、第1劣化モードに対応する第1期間W1、第2劣化モードに対応する第2期間W2も増加する傾向を示す。ここで、第1劣化モードに対応する第1期間W1では、低SOC、中SOCともに抵抗増加率K1、K2はゆるやかなカーブで増加しており、変化量は概ね同じである。
【0063】
一方、第2劣化モードに対応する第2期間W2では、SOCによって抵抗増加率Kの変化量が異なっている。すなわち、
図12の(B)に示すように、中SOC時の抵抗増加率K2は緩やかなカーブで増加しているのに対して、
図12の(A)に示すように低SOC時の抵抗増加率K1は急激に立ち上がっており、低SOC時の抵抗増加率K1は中SOC時の抵抗増加率K2に比べて変化量が大きい。
【0064】
そこで、本実施形態では、リチウムイオン二次電池100の劣化モードを、放置期間Tにおける低SOC時の抵抗増加率K1と、放置期間Tにおける中SOC時の抵抗増加率K2とに基づいて判定する。
【0065】
具体的には、第1期間W1と第2期間W2の境界Pについて、低SOC時と中SOC時の抵抗増加率K1、K2を比較すると、低SOC時の抵抗増加率K1は131%、中SOC時の抵抗増加率K2は121%であり、抵抗増加率の差(K1-K2)は10%である。従って、放置期間Tにおける低SOC時の抵抗増加率K1から中SOC時の抵抗増加率K2を減算した値が、判定値10%以下の場合(下記の(4)式の場合)、劣化モードは第1劣化モードであると判定する。一方、放置期間Tにおける低SOC時の抵抗増加率K1から中SOC時の抵抗増加率K2を減算した値が、判定値10%より大きい場合(下記の(5)式の場合)、劣化モードは第2劣化モードであると判定する。
【0066】
放置期間Tにおける低SOC時の抵抗増加率K1-放置期間Tにおける中SOC時の抵抗増加率K2≦10%・・・・(4)
放置期間Tにおける低SOC時の抵抗増加率K1-放置期間Tにおける中SOC時の抵抗増加率K2>10%・・・・(5)
【0067】
例えば、放置期間Taの場合、低SOC時の抵抗増加率K1a、中SOC時の抵抗増加率K2aである。K1a-K2aは10%以下であることから、劣化モードは第1劣化モードと判定される。
【0068】
一方、放置期間Tbの場合、低SOC時の抵抗増加率K1b、中SOC時の抵抗増加率K2bである。そして、K1a-K1bは10%よりも大きいことから、劣化モードは第2劣化モードと判定される。
【0069】
尚、「低SOC」とはSOCが20%以下の範囲であり、また「中SOC」とはSOCが40%~60%の範囲である。また、2つの抵抗増加率K1、K2は、同じ温度、同じ放置期間Tで比較することが好ましいが、誤差が小さい範囲であれば、温度、放置期間Tは必ずしも一致していなくもよい。
【0070】
尚、SOC20%が本発明の「第1閾値」の一例であり、SOC40%が本発明の「第2閾値」の一例である。
【0071】
リチウムイオン二次電池100は複数セル(本実施形態では4セル)を直列接続した構成になっている。本実施形態では、4セル全て(4)の条件を満たしている場合に、第1劣化モードである判定し、4セルのうちいずれか一つでも(5)の条件を満たした場合は、第2劣化モードであると判定するようにしている。
【0072】
また、判定値は電池の種類や温度などの条件により異なる。そのため、劣化モードの境界Pにおける低SOC時、中SOC時の内部抵抗の抵抗増加率K1、K2を、電池の種類や条件に応じて事前評価して、その数値を決めることが好ましい。
【0073】
7.相関マップMの切り換え処理
図14は相関マップの切り換え処理のフローチャート図である。
管理装置50のデータ処理部71は、起動後、温度センサ43により、組電池30の温度を検出する。また、電流センサ41により組電池30に流れる電流Iを検出し、電圧検出部60により各リチウムイオン二次電池100の電圧Vを検出する。また、組電池30の総電圧を検出する(S10)。
【0074】
その後、データ処理部71は、計測された電流I、電圧Vのデータに基づいて、以下の各データを推定する処理を行う(S20)。
(a)各セルのSOC
(b)各セルの内部抵抗R
(c)各セルの内部抵抗Rの抵抗増加率K
【0075】
(a)のSOCは、先に説明した電流積算法により推定することが出来る。(b)の内部抵抗は、例えば、下記の(6)式により算出することが出来る(
図13参照)。抵抗増加率Kは、算出した内部抵抗Rの値を、上記(3)式に代入することで算出することが出来る。
【0076】
R=(CCV-OCV)/I・・・・・・(6)
CCVは、各セルの閉回路電圧、OCVは各セルの開放電圧である。
【0077】
そして、データ処理部71は、(a)~(c)の各データを算出すると、それら(a)~(c)のデータを、温度のデータと対応付けて、メモリ73に対して記憶する処理を行う(S30)。
【0078】
その後、処理の流れとしては、S40に移行して、劣化モードを判定するためのデータがストックされているか、判定を行う。具体的には、各温度、各SOCごとに、(b)の内部抵抗Rのデータと、(c)の抵抗増加率Kのデータが記憶されていれば、ストックされていると判断され、記憶されていなければ、ストックされていないと判断する。
【0079】
データがストックされていない場合、S10~S30の処理が繰り返される。これにより、各セルについて、各温度、各SOCごとに、(b)の内部抵抗Rのデータ、(c)の抵抗増加率Kのデータが蓄積されることになる。そして、劣化モードを判定するためのデータがストックされると、S50の処理に移行することになる。
【0080】
尚、データ処理部71は、S10~S30の処理を繰り返す期間に、容量維持率Yを、以下の方法で算出する。
【0081】
まず、ある時刻t1からある時刻t2まで一定の時間間隔で、電流センサ41の検出する電流Iを積算し、その際に変動した各セルの電気量Q[Ah]を求める。またOCV法等によりt1からt2までのSOC変動量D[%]を求める。そして、各セルの電気量QとSOC変動量Dから各セルの実容量Cを算出する。
【0082】
C=Q/D・・・・・(7)
【0083】
そして、算出した実容量Cを、(2)式に代入することにより、各セルの容量維持率Yを求めることが出来る。尚、容量維持率Yのデータは、データ処理部71により、メモリ73に記憶される。
【0084】
S50に移行すると、データ処理部71は、劣化モードの判定を行う。劣化モードの判定方法は既に説明した通りであり、データ処理部71は、放置期間Tにおける低SOC時の抵抗増加率K1と、放置期間Tにおける中SOC時の抵抗増加率K2とに基づいて判定する。
【0085】
具体的には、4セル全て、(4)の条件を満たす場合、データ処理部71は「第1劣化モード」であると判定する(S50:YES)。尚、S50の処理が本発明の「モード判定処理、判定ステップ」に相当する。
【0086】
そして、各セルの劣化モードが「第1劣化モード」と判定された場合、データ処理部71は、メモリ73にアクセスして、第1劣化モードに対応する相関マップM1を選択する(S60)。
【0087】
そのため、第1劣化モード中は、第1相関マップM1を利用して、OCV法によりSOCの推定が行われる。すなわち、データ処理部71は、各セルに電流が流れていない状態になると、電圧検出部60により、各リチウムイオン二次電池100のOCVを計測する(
図15:S100)。そして、計測したOCVを、相関マップM1に参照して、各セルのSOCを算出する(
図15:S110)。尚、S110の処理が本発明の「推定処理、推定ステップ」に相当する。
【0088】
また、データ処理部71は、相関マップMの切り換え処理(S10~S80)を、所定期間ごとに繰り返し実行する。そして、4セルのうちいずれか一つのセルが(5)の条件を満たす場合、データ処理部71は「第2劣化モード」であると判定する(S50:NO)。
【0089】
そして、各セルの劣化モードが「第2劣化モード」と判定された場合、データ処理部71は、メモリ73にアクセスして、容量維持率Yのデータを読み出す処理を行う(S70)。具体的には、4セルの容量維持率Yのうち、抵抗増加率K1-K2の差が最も大きいセルのデータを読み出す。その後、データ処理部71は、メモリ73にアクセスして、第2劣化モードの相関マップM2a~M2cの中から容量維持率Yに対応する相関マップMを選択する(S80)。例えば、容量維持率がYaの場合、相関マップM2aが選択される(S80)。
【0090】
そのため、第2劣化モード中は、容量維持率Yaに対応する第2相関マップM2aを利用して、OCV法によりSOCの推定が行われる。すなわち、各セルに電流が流れていない状態になると、電圧検出部60により、リチウムイオン二次電池100のOCVを計測する(
図15:S100)。そして、計測したOCVを用い、相関マップM2aに参照して、各セルのSOCを算出する(
図15:S110)。
【0091】
また、第2劣化モード中に、容量維持率Yが「Ya」から「Yb」に変わると、S80の処理を実行した時に、メモリ73から相関マップM2bのデータがデータ処理部71により読み出され、それ以降は、容量維持率Ybに対応する第2相関マップM2bを利用して、OCV法によりSOCの推定が行われる。
【0092】
8.効果説明
本実施形態にて開示するバッテリパック20は、SOCとOCVの相関性を示す相関マップMを、各セルの劣化モードに応じて切り換える。そのため、各セルのSOCを高精度に推定することが可能となる。
【0093】
特に、リチウムイオン二次電池100を蓄電素子とするバッテリパック20または組電池30は、自動車用途で広く普及しており、将来、自動車用途(第一の用途)で使い終わった組電池30が、自動車から取り外されて、別の用途(第二の用途)で使われるという状況が想定される。
【0094】
第二の用途では、製造後の経過時間が長くなることから、劣化モードが第1劣化モードから第2劣化モードに移行することが想定される。本実施形態にて開示するバッテリパック20であれば、劣化モードに応じてSOCとOCVの相関性を示す相関マップMを切り換えるので、別の用途(第二の用途)でも、各セルのSOCを高精度に推定することが可能となる。同じ使用用途で使用される場合でも、使用期間や使用状況に関わらず、各セルのSOCを正確に推定することが可能となる。
【0095】
また、本実施形態にて開示するバッテリパック20は、第2劣化モードと判定された場合、容量維持率Ya~Ycに対応した相関マップM2a~M2cを選択するので、第2劣化モードにおいて、各セルのSOC推定精度をより一層、向上させることが出来る。
【0096】
また、
図12の(A)、(B)に示すように、第2劣化モードにおいて、低SOC時の抵抗増加率K1は急激に立ち上がっており、低SOC時の抵抗増加率K1は、中SOC時の抵抗増加率K2に比べて変化量が大きいという特徴を有している。本実施形態にて開示するバッテリパック20は、先の点に着目し、低SOC時の抵抗増加率K1と中SOC時の抵抗増加率K2に基づいて劣化モードを判定するので、劣化モードを高精度に判定することが出来る。
【0097】
<実施形態2>
本発明の実施形態2を
図17、
図18によって説明する。
実施形態1では、リチウムイオン二次電池100の一例として、正極活物質にCo,Mn、Niの元素を含有したリチウム含有金属酸化物、負極にハードカーボンを用いた三元系のリチウムイオン二次電池を例示した。
【0098】
実施形態2では、実施形態1のリチウムイオン二次電池100に対して負極材料が異なっており、正極活物質にCo,Mn、Niの元素を含有したリチウム含有金属酸化物、負極にグラファイトを用いた三元系のリチウムイオン二次電池100Aを例示する。
【0099】
図17は、横軸を放電期間[h]、縦軸をCCV[V]、正極のCCP[V]、負極のCCP[V]としたグラフであり、初期、第1劣化モード、第2劣化モードの各リチウムイオン二次電池100Aを1Cのレートで定電流放電試験を行って得たものである。
【0100】
尚、
図17は、実施形態1の
図8と対応しており、曲線A0、曲線Ap0、曲線An0は、初期のリチウムイオン二次電池100Aについて、CCVのカーブ、正極のCCPのカーブ、負極のCCPのカーブをそれぞれ示している。
【0101】
また、曲線A1、曲線Ap1、曲線An1は、第1劣化モードのリチウムイオン二次電池100Aについて、CCVのカーブ、正極のCCPのカーブ、負極のCCPのカーブをそれぞれ示している。曲線A2、曲線Ap2、曲線An2は、第2劣化モードのリチウムイオン二次電池100Aについて、CCVのカーブ、正極のCCPのカーブ、負極のCCPのカーブをそれぞれ示している。
【0102】
負極にグラファイトを用いた三元系のリチウムイオン二次電池100Aでも、負極をハードカーボンとした場合と同様に、第1劣化モードでは、放電末期X1において負極のCCPが急激に大きく変化している(曲線An1)。一方、第2劣化モードでは、放電末期X2において、正極のCCPが急激に低下している(曲線Ap2)。従って、負極の抵抗によって実容量が律速となる第1劣化モードと、正極の抵抗によって実容量が律速となる第2劣化モードが存在する。
【0103】
図18は、横軸をDOD[%]、縦軸をCCV[V]とした、DOD-CCV相関グラフである。尚、
図18のグラフは、負極にグラファイトを用いた三元系のリチウムイオン二次電池100Aを低レートで定電流放電する放電試験を行って得たものである。
【0104】
放電試験は、初期、第1劣化モード、第2劣化モードの二次電池100についてそれぞれ行っており、「B0」は初期品のDOD-CCV相関曲線を示している。「B1」は第1劣化モードのDOD-CCV相関曲線を示し、「B2」は第2劣化モードのDOD-CCV相関曲線を示している。
【0105】
図18に示すように、第2劣化モードのDOD-CCV相関曲線B2は、第1劣化モードのDOD-CCV相関曲線B1と異なっている。実施形態1にて説明したように、満充電状態からの放電中に、内部抵抗Rが非常に小さく、試験中に内部抵抗が大きく変化しないような低レート条件における、DOD-CCVの推移はDOD-OCVの推移とほぼ等しい。そのため、劣化モードが異なると、リチウムイオン二次電池100のSOC-OCV特性は、異なるカーブになる。
【0106】
そのため、負極にグラファイトを用いた三元系のリチウムイオン二次電池100Aも、実施形態1と同様に、劣化モードに応じて、SOC-OCVの相関性を示す相関マップMを切り換えることで、SOCの推定精度を向上させることが可能となる。
【0107】
<他の実施形態>
本発明は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【0108】
(1)上記実施形態1、2では「蓄電素子」として3元系のリチウムイオン二次電池を例示した。本発明は、負極の抵抗によって実容量が律速となる第1劣化モードと、正極の抵抗によって実容量が律速なる第2劣化モードを有する特性のリチウムイオン二次電池であれば、広く適用することが出来る。例えば、正極活物質にリン酸鉄リチウム(LiFePO4)、負極活物質にカーボンやグラファイトを用いたリン酸鉄系のリチウムイオン二次電池に適用することができる。また、例えば、リチウムイオン二次電池の正極活物質として、LiNi1/3Co1/3Mn1/3など、Li1+xM1-yO2(MはFe,Ni,Mn,Co等から選択される1種または2種以上の遷移金属元素、0≦x<1/3、0≦y<1/3)等の層状構造のリチウム遷移金属酸化物等を用いるのが好ましい。また、二相共存反応型の活物質であってもよい。具体的に、正極活物質は、一般式LiMPO4で示される物質であり、Mは、Fe,Mn,Cr,Co,Ni,V,Mo,Mgのうちの何れか一つであってもよい。また、負極活物質については、リチウム合金(リチウム‐ケイ素、リチウム‐アルミニウム、リチウム‐鉛、リチウム‐錫、リチウム‐アルミニウム‐錫、リチウム‐ガリウム、及びウッド合金とのリチウム金属含有合金)の他、リチウムを吸蔵・放出可能な合金、炭素材料(例えば黒鉛、難黒鉛化炭素、易黒鉛化炭素、低温焼成炭素、非晶質カーボン等)、ケイ素酸化物、金属酸化物、リチウム金属酸化物(Li4Ti6O12等)、ポリリン酸化合物などがあげられる。
【0109】
また、負極の抵抗によって実容量が律速となる第1劣化モードと、正極の抵抗によって実容量が律速となる第2劣化モードを有する特性の蓄電素子であれば、リチウムイオン二次電池以外の二次電池や、キャパシタなどにも適用することが出来る。
【0110】
(2)上記実施形態1、2では、第2劣化モードと判定された場合、容量維持率Ya~Ybに対応した相関マップM2a~M2bを選択する例を示したが、容量維持率Yによる相関マップMの選択は任意の処理であり、少なくとも、劣化モードに応じて、相関マップM1、M2を選択する構成であればよい。
【0111】
(3)上記実施形態1、2では、リチウムイオン二次電池100の内部抵抗Rを、(6)式に基づいて算出する例を示したが、組電池30に流れる電流Iと各リチウムイオン二次電池100の電圧Vの計測値から他の計算方法で求めてもよい。例えば、充電中又は放電中に、電流Iと電圧Vを複数回測定して、電流Iに対する電圧Vの変化を示す直線Lvを求め、その直線Lvの傾き(内部抵抗R)を求めるようにしてもよい。
図19の例では、組電池30の電流Iとリチウムイオン二次電池100の電圧Vを計測し、得られた計測値I、Vより、電流Iに対する電圧Vの変化を示す直線Lvを求めている。
【0112】
(4)上記実施形態1、2では、
図10に示すSOC-OCVの相関データを、
図16に示す相関マップMとして保持する例を示したが、例えば、
図10のグラフを近似式により、保持する構成としてもよい。近似式として、下記の(8)式で示す、3次関数等のn次関数を例示することが出来る。
【0113】
OCV=a×SOC3+b×SOC2+c×SOC+d・・・・・・(8)
a~dは係数である。
【0114】
また、(9)式で示すように、ネルンスト式等の理論を、ベースにした近似式でもよい。
OCV=E0 + k1×ln(SOC)+k2×ln(1-SOC)-k3/SOC-k4×SOC・・・・(9)
E0は標準電極電池、k1~k4は係数である。
【0115】
(5)上記実施形態1、2では、低SOC時の抵抗増加率K1と、中SOC時の抵抗増加率K2に基づいて、劣化モードを判定する構成を例示した。中SOC時と高SOC時の抵抗増加率は概ね同じである。そのため、低SOC時の抵抗増加率と、中SOCよりもSOCの高い高SOC時の抵抗増加率に基づいて、劣化モードを判定する構成としてもよい。また、それ以外にも、特許文献2(特開2014-109477)に記載されているように、第2通電容量の大きさを閾値と比較することにより、劣化モードを判定するようにしてもよい。尚、蓄電素子を充電又は放電した場合の電圧に対する通電容量の変化の大きさを第1容量変化量と定義した場合に、第2通電容量は、第1容量変化量に対する通電容量の変化の大きさである。
【0116】
(6)
図1の例では、蓄電素子100または組電池30を収納する容器の中に、管理装置50が配置されるが、本発明はこの例に限定されない。管理装置50または管理装置50の一部(例えば制御部70)は、蓄電素子100(組電池30)とは離れた場所に配置されてもよい。例えば、車両に備えられた制御部が、蓄電素子のSOC推定装置としての機能を果たしてもよい。バッテリー検査装置に備えられた制御部が、蓄電素子のSOC推定装置としての機能を果たしてもよい。
【0117】
本発明は、以下の形態で実施されてもよい。
(例1)蓄電素子のSOC推定装置であって、記憶部と、データ処理部とを備え、前記蓄電素子は、時間に対する容量低下が第1推移を示す第1劣化モードと、容量低下が第2推移を示す第2劣化モードとを有する特性であり、前記記憶部は、前記第1劣化モードにおける前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す第1相関データと、前記第2劣化モードにおける前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す第2相関データを保持し、前記データ処理部は、前記蓄電素子の劣化モードを判定するモード判定処理と、前記記憶部から劣化モードに対応した相関データを選択して前記蓄電素子のSOCを推定する推定処理と、を実行するSOC推定装置。
【0118】
(例2)例1に記載のSOC推定装置であって、前記データ処理部は、前記モード判定処理にて、前記蓄電素子の内部抵抗に基づいて、前記蓄電素子の劣化モードを判定する、SOC推定装置。
【0119】
(例3)例2に記載のSOC推定装置であって、前記データ処理部は、前記モード判定処理にて、SOCが第1閾値より低い時の前記蓄電素子の内部抵抗の抵抗増加率と、SOCが第1閾値より大きい第2閾値より高い時の前記蓄電素子の内部抵抗の抵抗増加率とに基づいて、前記蓄電素子の劣化モードを判定する、SOC推定装置。
【0120】
(例4)例1~例3のいずれか一項に記載のSOC推定装置であって、前記第2劣化モードは第1劣化モードより容量低下が大きく、容量維持率に応じてSOC-OCVの相関性が異なる劣化モードであり、前記記憶部は、前記第2劣化モードについて、前記蓄電素子の容量維持率ごとに、前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す相関データを保持し、前記蓄電素子が前記第2劣化モードと判定された場合、前記データ処理部は、容量維持率に対応した相関データを選択して前記蓄電素子のSOCを推定する、SOC推定装置。
【0121】
(例5)例1~例4のいずれかに一項に記載のSOC推定装置であって、前記データ処理部は、前記蓄電素子の電圧と電流の計測値に基づいて、前記蓄電素子の内部抵抗を算出する、SOC推定装置。
【0122】
(例6)例1~例5のいずれか一項に記載のSOC推定装置であって、前記記憶部は、前記第1相関データ及び前記第2相関データを、前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す、相関マップ又は近似式により保持する、SOC推定装置。
【0123】
(例7)蓄電素子と、例1~例4のいずれか一項に記載のSOC推定装置と、を備えた蓄電装置。
【0124】
(例8)蓄電素子のSOC推定方法であって、前記蓄電素子は、時間に対する容量低下が第1推移を示す第1劣化モードと、容量低下が第2推移を示す第2劣化モードとを有する特性であり、前記蓄電素子の劣化モードを判定するモード判定ステップと、前記蓄電素子のSOCとOCVの相関性を示す複数の相関データから前記劣化モードに対応した相関データを選択して、前記蓄電素子のSOCを推定する推定ステップとを有する、SOC推定方法。
【0125】
(例9)例1に記載のSOC推定装置であって、前記データ処理部は、前記モード判定処理にて、前記蓄電素子の劣化モードが、前記第1劣化モードから前記第2劣化モードに移行することを事前に予測するか、前記第2劣化モードに移行した直後にそのことを検出する、SOC推定装置。例えば、特開2016-80477の技術が適用されてもよい。
【0126】
(例10)例1に記載のSOC推定装置であって、前記データ処理部は、前記モード判定処理にて、前記蓄電素子の正極と負極のCCP推移に基づいて前記蓄電素子の劣化モードを判定する、SOC推定装置。
【符号の説明】
【0127】
20...バッテリパック(本発明の「蓄電装置」の一例)
30...組電池
41...電流センサ
43...温度センサ
50...管理部(本発明の「SOC推定装置」の一例)
60...電圧検出回路
71...データ処理部
73...メモリ(本発明の「記憶部」の一例)
100...リチウムイオン二次電池(本発明の「蓄電素子」の一例)