(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】RNAを検出する方法およびRNAを検出するための試薬
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20221109BHJP
C12Q 1/6816 20180101ALI20221109BHJP
C12Q 1/6888 20180101ALI20221109BHJP
C12N 15/40 20060101ALN20221109BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/6816 Z
C12Q1/6888 Z
C12N15/40
(21)【出願番号】P 2018568623
(86)(22)【出願日】2018-02-16
(86)【国際出願番号】 JP2018005438
(87)【国際公開番号】W WO2018151246
(87)【国際公開日】2018-08-23
【審査請求日】2021-02-02
(31)【優先権主張番号】P 2017026675
(32)【優先日】2017-02-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(72)【発明者】
【氏名】杉本 泰康
【審査官】竹内 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/006612(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/68-1/6897
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(1)~(3)を含む、試料中に含まれる標的RNAを検出する方法。
工程(1)少なくとも以下の(A)~(C)を含む試薬溶液に試料を提供する。
(A)
サーモコッカス・コダカラエンシス(Thermococcus kodakaraensis
)由来のDNAポリメラーゼ
(B)逆転写酵素
(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、工程(2)で得られる増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド
工程(2)前記標的RNAをcDNAに逆転写し、該cDNAの少なくとも一部を増幅するワンステップRT-PCR反応を行う。
工程(3)工程(2)の終了後に、得られた反応液中の増幅産物に前記(C)のオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、前記反応液の蛍光強度の温度依存性を測定することで、標的RNAを検出する。
【請求項2】
工程(3)において更に、前記標的RNAの塩基配列多型を分析する
、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
サーモコッカス・コダカラエンシス(Thermococcus kodakaraensis
)由来のポリメラーゼが、KOD DNAポリメラー
ゼである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記(C)の蛍光消光色素が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G、ローダミン6G、テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)および2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群のうちいずれかである、請求項1~3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記(C)のオリゴヌクレオチドにおいて、蛍光消光色素で標識されている末端塩基がシトシンである、請求項1~4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
標的RNAがRNAウイルスである、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
RNAウイルスが、ノロウイルスG1型及び/又はノロウイルスG2型である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
標的RNAがヒト由来RNAである、請求項1~5のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
前記(C)のオリゴヌクレオチドが、配列番号3又は4で示される塩基配列からなる、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項10】
工程(2)で増幅のために用いられるオリゴヌクレオチドプライマーが、配列番号5~8のいずれかで示される塩基配列からなる、請求項6又は7に記載の方法。
【請求項11】
以下の(A)~(C)を少なくとも含む、請求項1~10のいずれかに記載の試料中に含まれる標的RNAを検出する方法を実施するための試薬。
(A)
サーモコッカス・コダカラエンシス(Thermococcus kodakaraensis
)由来のDNAポリメラーゼ
(B)逆転写酵素
(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、工程(2)で得られる増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド
【請求項12】
サーモコッカス・コダカラエンシス(Thermococcus kodakaraensis
)由来のポリメラーゼが、KOD DNAポリメラー
ゼである、請求項11に記載の試薬。
【請求項13】
請求項11又は12に記載の試薬を含むキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料中に含まれるRNAを検出する方法およびRNAを検出するための試薬・キット等に関する。更に詳しくは、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ、逆転写酵素、少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されたハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドを含んだ反応液を用いてワンステップRT-PCR反応及び蛍光強度の測定を行うことで、標的RNAを検出する方法及びそのための試薬等に関する。
【背景技術】
【0002】
試料中に含まれるRNAの検出は、生命科学研究、臨床診断、食品衛生検査、環境検査等で一般的に使用されている。特に、蛍光色素で標識されたハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドまたは2本鎖DNA結合蛍光化合物を含んだ反応液を用いて、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)を実施することで種々の定性的及び定量的なRNA検出が実施され得る。
【0003】
例えば、試料中のRNAウイルスの検出、遺伝子発現解析等を実施するためにRT-PCR反応が行われるが、従来技術では、以下の(a)~(c)に示すような課題があった。
(a)試料中に含まれる核酸増幅阻害物質の影響により、標的RNAの増幅が抑制されるため、感度が低下する
(b)RT-PCR反応の反応時間が長い
(c)RT-PCR反応の進行をリアルタイムでモニターすること及び標的RNAの塩基配列多型の分析を高感度に同一反応液中で行うことができない。
【0004】
上記の課題を解決するために、種々の発明が報告されてきたが、操作が煩雑、高コスト等の問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2015-50994号公報
【文献】特許第5354216号公報
【文献】米国特許6767724号公報
【文献】特開2016-052265号公報
【非特許文献】
【0006】
【文献】Nucleic Acids Research,1992,Apr11;20(7):1487-90
【文献】厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課長、食安監発第1105001号(平成15年11月5日)、最終改正 食安監発第0514004号(平成19年5月14日)「ノロウイルスの検出法について」別添資料
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、かかる従来技術の課題を背景になされたものである。すなわち、本発明の目的は、より簡便、高感度に試料中に含まれる標的RNAを検出することである。さらには、ワンステップRT-PCR反応の進行をリアルタイムでモニターすること及び標的RNAの塩基配列多型の分析を高感度に同一反応液中で行うことである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究の結果、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ、逆転写酵素、少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されたハイブリダイゼーションオリゴヌクレオチドを含んだ反応液を用いることで、上記課題を解決できることを見出し、本発明に到達した。即ち、本発明の概要は以下の通りである。
【0009】
[項1]
以下の工程(1)~(3)を含む、試料中に含まれる標的RNAを検出する方法。
工程(1)少なくとも以下の(A)~(C)を含む試薬溶液に試料を提供する。
(A)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ
(B)逆転写酵素
(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、工程(2)で得られる増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド、
工程(2)前記標的RNAをcDNAに逆転写し、該cDNAの少なくとも一部を増幅するワンステップRT-PCR反応を行う。
工程(3)工程(2)で得られた反応液中の増幅産物に前記(C)のオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、前記反応液の蛍光強度を測定する。
[項2]
工程(3)が以下の工程(3a)~(3c)の少なくともひとつに該当する、項1に記載の方法。
工程(3a)得られた反応液中の増幅産物に、前記(C)のオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、前記反応液の蛍光強度を測定することで、工程(2)の増幅反応の進行をリアルタイムでモニターする。
工程(3b)工程(2)の終了後に、得られた反応液中の増幅産物に前記(C)のオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、前記反応液の蛍光強度を測定することで、工程(2)の増幅反応の進行をエンドポイントでモニターする工程。
工程(3c)工程(2)の終了後に、得られた反応液中の増幅産物に前記(C)のオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、前記反応液の蛍光強度の温度依存性を測定することで、標的RNAを検出する、または、前記標的RNAの塩基配列多型を分析する。
[項3]
前記(A)が古細菌DNAポリメラーゼあるいはその変異体である、項1または2に記載の方法。
[項4]
古細菌DNAポリメラーゼが、KOD DNAポリメラーゼあるいはその変異体である、項3に記載の方法。
[項5]
前記(C)の蛍光消光色素が、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G、TAMRA、ローダミン6G、テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)および2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群のうちいずれかである、項1~4のいずれかに記載の方法。
[項6]
前記(C)のオリゴヌクレオチドにおいて、蛍光消光色素で標識されている末端塩基がシトシンである、項1~5のいずれかに記載の方法。
[項7]
標的RNAがRNAウイルスである、項1~6のいずれかに記載の方法。
[項8]
RNAウイルスが、ノロウイルスG1型及び/又はノロウイルスG2型である、項7に記載の方法。
[項9]
標的RNAがヒト由来RNAである、項1~6のいずれかに記載の方法。
[項10]
前記(C)のオリゴヌクレオチドが、配列番号3又は4で示される塩基配列を有する、項1~9のいずれかに記載の方法。
[項11]
工程(2)で増幅のために用いられるオリゴヌクレオチドプライマーが、配列番号5~8のいずれかで示される塩基配列を有する、項1~10のいずれかに記載の方法。
[項12]
以下の(A)~(C)を少なくとも含む、項1~11のいずれかに記載の試料中に含まれる標的RNAを検出する方法を実施するための試薬。
(A)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ
(B)逆転写酵素
(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、工程(2)で得られる増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド
[項13]
項12に記載の試薬を含むキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、簡便、高感度に標的RNAを検出することができるようになった。さらには、ワンステップRT-PCR反応の進行をリアルタイムでモニターできるだけでなく、標的RNAの塩基配列多型の分析も行うことができるようになった。本発明の方法あるいはキットを使用することで、生命科学研究、臨床診断、食品衛生検査、環境検査等の分野に大きく貢献できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図9】試験例1における比較例1(G1)の結果を示す図である。
【
図10】試験例1における比較例1(G2)の結果を示す図である。
【
図11】試験例1、2における実施例1(G1)の結果を示す図である。
【
図12】試験例1、2における実施例1(G2)の結果を示す図である。
【
図13】試験例2における比較例2(G1)の結果を示す図である。
【
図14】試験例2における比較例2(G2)の結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明の実施の形態について詳細に説明すれば以下のとおりであるが、本発明はこれに限定されるものではない。なお、本明細書において使用される用語は、特に言及しない限り、当該分野で通常用いられる意味で用いられることが理解されるべきである。
また、本明細書中に記載された非特許文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。本明細書中の「~」は「以上、以下」を意味し、例えば明細書中で「X~Y」と記載されていれば「X以上、Y以下」を示す。また本明細書中の「および/または」は、いずれか一方または両方を意味する。また本明細書において、単数形の表現は、他に言及しない限り、その複数形の概念をも含むことが理解されるべきである。
【0013】
本発明の実施態様の一つは、以下の工程(1)~(3)を含む、試料中に含まれる標的RNAを検出する方法である。本発明は、逆転写から検出までを閉鎖系で実施するワンステップ法で行うことを大きな特徴とする。
工程(1)少なくとも以下の(A)~(C)を含む試薬溶液に試料を提供する。
(A)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ
(B)逆転写酵素
(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、工程(2)で得られる増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド
工程(2)前記標的RNAをcDNAに逆転写し、該cDNAの少なくとも一部を増幅するワンステップRT-PCR反応を行う。
工程(3)工程(2)で得られた反応液中の増幅産物に前記(C)のオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、前記反応液の蛍光強度を測定する。
【0014】
[試料]
本発明において使用できる試料は、特に制限されないが、生体試料や食品、環境試料だけでなく、精製核酸等が挙げられる。また、試料は核酸抽出やいくつかの前処理を行ってもよい。試料の核酸抽出や前処理は、当該技術分野で一般的に行われている。前処理としては、ろ過、遠心分離、希釈処理、加熱処理、アルカリ処理、有機溶媒処理、懸濁処理、破砕処理等が挙げられるが、本発明ではこれらに限定されない。
【0015】
生体試料の例として、特に制限されないが、動植物組織、体液、排泄物、細胞、細菌、ウイルス等が挙げられる。さらに挙げると、血液、血液培養液、尿、膿、髄液、胸水、咽頭拭い液、鼻腔拭い液、喀痰、組織切片、皮膚、吐瀉物、糞便、分離培養コロニー、カテーテル洗浄液等が挙げられる。
【0016】
食品の例として、水、アルコール飲料、清涼飲料水、加工食品、野菜、畜産物、海産物、卵、乳製品、生肉、生魚、惣菜等が挙げられる。また、食品を測定試料とする場合、その食品の一部あるいは全部を使用できるだけでなく、食品表面を拭き取ったものも使用できる。さらに、調理器具やドアノブを拭き取った材料あるいはそれらを洗浄した洗浄液も試料として用いることができる。
【0017】
環境試料の例として、水、氷、土壌、空気やエアゾール等が挙げられる。ここでいう水とは、例として、水道水、海水あるいは川や滝、湖、池等から採取した水等が挙げられる。
【0018】
試料の採取方法、調製方法等は、特に制限されず、試料の種類、目的に応じて公知の方法を用いることができる。
【0019】
[標的RNA]
本発明の検出対象となる標的RNAは特に限定されないが、例えば、RNAウイルスやヒト由来RNAが挙げられる。RNAウイルスとしては、例えば、ノロウイルス(G1型、G2型)、インフルエンザウイルス、エンテロウイルス等を挙げることができる。好ましくは、本発明は、ノロウイルスG1型及び/又はノロウイルスG2型を検出するために使用される。
【0020】
本発明の標的RNA検出方法においては、少なくとも以下の(A)~(C)を含む試薬溶液に試料を提供する工程を含む。
(A)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ
(B)逆転写酵素
(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、増幅工程で得られる増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド
【0021】
[ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ]
本発明で用いるDNAポリメラーゼは、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼである。前記ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、特に制限されないが、好ましくは古細菌(Archea)由来のDNAポリメラーゼである。
【0022】
[古細菌由来のDNAポリメラーゼ]
ファミリーBに属する古細菌由来のDNAポリメラーゼとしては、パイロコッカス(Pyrococcus)属およびサーモコッカス(Thermococcus)属の細菌から単離されるDNAポリメラーゼが挙げられる。
パイロコッカス属由来のDNAポリメラーゼとしては、Pyrococcus furiosus、Pyrococcus sp.GB-D、Pyrococcus woesei、Pyrococcus abyssi、Pyrococcus horikoshiiから単離されたDNAポリメラーゼを含むが、これらに限定されない。
サーモコッカス属に由来するDNAポリメラーゼとしては、Thermococcus kodakaraensis、Thermococcus gorgonarius、Thermococcus litoralis、Thermococcus sp.JDF-3、Thermococcus sp.9degrees North-7(Thermococcus sp.9°N-7)、Thermococcus siculiから単離されたDNAポリメラーゼを含むが、これらに限定されない。
これらのDNAポリメラーゼを用いたPCR酵素は市販されており、Pfu(Staragene社)、KOD(Toyobo社)、Pfx(Life Technologies社)、Vent(New England Biolabs社)、Deep Vent(New England Biolabs社)、Tgo(Roche社)、Pwo(Roche社)などがある。
【0023】
なかでも、伸長性や熱安定性の優れたKOD DNAポリメラーゼが好ましい(特許文献1)。
【0024】
KOD DNAポリメラーゼは、ファミリーAに属するDNAポリメラーゼであるTaq DNAポリメラーゼに比べて、正確性、増幅効率、伸長性、クルードサンプル耐性に優れている。
[逆転写酵素]
本発明で用いる逆転写酵素としては、特に制限されないが、レトロウイルスあるいは細菌由来の逆転写酵素(例えば、MMLV(Moloney Murine Leukemia Virus)-RT(Reverse Transcriptase)、AMV(Avian Myeloblastosis Virus)-RT、RAV(Rous-associated virus)2-RT、EIAV(Equine Infectious Anemia Virus)-RT、カルボキシドサーマス・ハイドロゲノフォルマン(Carboxydothermus hydrogenoformam)DNAポリメラーゼなど)やその変異体が使用される。さらには、Tth DNAポリメラーゼやTaq DNAポリメラーゼなどの逆転写活性を併せ持つDNAポリメラーゼも使用され得る。
【0025】
[蛍光消光色素で標識されたオリゴヌクレオチド]
本発明では、少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、増幅工程で得られる増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを使用する。これらは、工程(3)においてハイブリダイゼーションプローブとしての働きを有する限り、特に制限されない。
【0026】
オリゴヌクレオチドプローブを使用した核酸検査法は、従来から実施されており、既に当該技術分野において確立されている(例えば、特許文献2、特許文献4)。このような核酸検査法に用いるオリゴヌクレオチドプローブとしては、TaqMan加水分解プローブ、モレキュラービーコン、FRETハイブリダイゼーションプローブ、QProbeなどがあるが、本発明ではQProbeを使用することが好ましい。
【0027】
TaqMan加水分解プローブやFRETハイブリダイゼーションプローブが増幅された標的核酸(DNAやRNA)を検出するために一般的に用いられている。これらのプローブはリアルタイムPCR(RT-PCRを含む)等の核酸増幅法において、高感度に標的核酸を検出できるとされている。しかしながら、これらのプローブは、オリゴヌクレオチドの5’末端と3’末端の両方に、蛍光色素あるいはクエンチャーを標識しなければならないため、合成に手間やコストがかかるという問題がある。
【0028】
QProbeは、KURATAらにより開発された蛍光プローブ(蛍光消光プローブ)である(特許文献2)。このプローブは、少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されているハイブリダイゼーションプローブである。
【0029】
蛍光消光色素としては特に限定されないが、4,4-ジフルオロ-5,7-ジメチル-4-ボラ-3a,4a-ジアザ-s-インダセン-3-プロピオン酸(BODIPY-FL)、カルボキシローダミン6G、TAMRA、ローダミン6G、テトラブロモスルホンフルオレセイン(TBSF)および2-オキソ-6,8-ジフルオロ-7-ジヒドロキシ-2H-1-ベンゾピラン-3-カルボン酸(Pacific Blue)からなる群のうちのいずれかが好ましい。
【0030】
さらに、蛍光消光色素で標識されている末端塩基(両端が標識されている場合は、少なくとも一方の末端塩基)がシトシンであるオリゴヌクレオチドプローブがより好ましい。
このようなオリゴヌクレオチドプローブは、増幅産物にハイブリダイズした際に、増幅産物中のグアニン塩基と塩基対を形成して相互作用することで消光できるため、非常に簡便に反応液の蛍光強度の変化を測定することができる。
【0031】
なお、該プローブがハイブリダイズした際に、該プローブのシトシン塩基と増幅産物中のグアニン塩基が塩基対を形成しなくとも、それらの塩基同士の距離が近ければ蛍光は消光できる。例えば、詳細は特許文献2に記載があり、本発明も該技術を参照できる。
【0032】
また、蛍光消光色素で標識されている末端塩基(両端が標識されている場合は、少なくとも一方の末端塩基)がシトシンでないオリゴヌクレオチドプローブであっても、反応液の蛍光強度の変化を測定できる。例えば、詳細は特許文献2に記載があり、本発明も該技術を参照できる。
【0033】
ハイブリダイゼーションプローブのオリゴヌクレオチドは、目的とする増幅産物とハイブリダイズし得る限り、任意の塩基配列のものを使用することができる。例えば、ノロウイルスG1型を検出する場合には、配列番号3で示される塩基配列を有するハイブリダイゼーションプローブとすることが好ましく、ノロウイルスG2型を検出する場合には、配列番号4で示される塩基配列を有するハイブリダイゼーションプローブであることが好ましい。
【0034】
[ワンステップRT-PCR]
本発明の標的RNA検出方法においては、ワンステップRT-PCRを行う工程を含む。
【0035】
ワンステップRT-PCRとは、反応系を開放することなく以下の2工程を行う反応である。
(1)標的RNAをcDNAに変換する逆転写反応(Reverse Transcription)
(2)cDNAを鋳型に核酸増幅を行うPCR反応(Polymerase Chain Reaction)
すなわち、ワンステップRT-PCRでは、逆転写反応とPCR反応を同じチューブ内で連続して行うため、操作が簡便でコンタミネーションリスクも低減できる。しかしながら、逆転写反応とPCR反応を独立した工程で行うツーステップRT-PCRと比較して、従来のワンステップRT-PCRは感度が低いことが知られている。
【0036】
また、逆転写酵素とDNAポリメラーゼの2つを加えて行う二酵素系ワンステップRT-PCRは、逆転写酵素とDNAポリメラーゼが干渉し、効率を低下させることが報告されている(非特許文献1)。この干渉を抑えるため、鋳型RNAの増加、逆転写酵素に対するDNAポリメラーゼ比率の増加、あるいは非ホモログtRNA、T4遺伝子32タンパク質、硫黄又は酢酸塩含有分子(特許文献3)などの使用が行われてきた。
【0037】
PCR反応は、主にDNAポリメラーゼによって触媒される反応であり、(1)熱処理によるDNA変性(2本鎖DNAから1本鎖DNAへの乖離)、(2)鋳型1本鎖DNAへのプライマーのアニーリング、(3)DNAポリメラーゼを用いた前記プライマーの伸長、という3ステップを1サイクルとし、このサイクルを繰り返すことによって標的核酸を増幅する。
【0038】
本発明における大きな特徴として、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼを使用することで、核酸増幅効率の低下を防いだ点が挙げられる。ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、増幅効率等の観点から二酵素系ワンステップRT-PCRでの使用に適しており、KOD DNAポリメラーゼを用いて二酵素系ワンステップRT-PCRを行っても従来報告されてきたような増幅効率の低下は見られなかった。
従来、リアルタイムPCR(RT-PCRを含む)等には、ファミリーAに属するDNAポリメラーゼであるTaqポリメラーゼやTthポリメラーゼが使用されてきた。これは、ファミリーAに属するDNAポリメラーゼが5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有しており、TaqMan(登録商標)加水分解プローブが使用できることから、PCR反応の進行をリアルタイムでモニターしながら標的核酸の検出ができるためである。一方で、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼは、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有していないため、TaqMan加水分解プローブを使用できない。そのため、PCR反応の進行をリアルタイムでモニターするためには、SYBR(登録商標) Greenなどのインターカレーター蛍光色素を使用しなければならなかった。しかしながら、SYBR Green等は、標的核酸以外の増幅核酸(例えば、非特異増幅されたDNAやプライマーダイマー等)も検出するという欠点がある。さらに、ハイブリダイゼーションプローブと異なり、同時に複数の蛍光色素を使用できないため、マルチプレックス解析を行うことができない。
【0039】
本発明の標的RNA検出方法においては、前記ワンステップRT-PCR反応で得られた反応液中の増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを前記増幅産物にハイブリダイズさせ、前記反応液の蛍光強度を測定する工程を含む。
【0040】
[ワンステップRT-PCR反応の進行をリアルタイムでモニター]
前記ワンステップRT-PCR工程において、反応液中の増幅産物に、増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドをハイブリダイズさせ、前記反応液の蛍光強度を測定することで、増幅反応の進行をリアルタイムでモニターすることができる。
【0041】
PCR反応の進行をリアルタイムでモニターすることで、試料中に含まれる標的核酸を迅速に検出することができる。さらに、増幅率に基づいて試料中に含まれる標的核酸の定量も可能である。
【0042】
本発明者らは鋭意研究の結果、蛍光消光色素で標識されたハイブリダイゼーションプローブを使用することで、5’→3’エキソヌクレアーゼ活性を有していないファミリーBに属するDNAポリメラーゼを用いてワンステップRT-PCR反応の進行をリアルタイムでモニターできることを見出した(実施例1)。蛍光消光色素で標識されたハイブリダイゼーションプローブとしてQProbe、ファミリーBに属するDNAポリメラーゼとしてKOD DNAポリメラーゼを使用することで、高い増幅効率でのワンステップRT-PCR反応が可能となり、さらに反応の進行をリアルタイムでモニターできた。また、本発明の驚くべき特徴として、ワンステップRT-PCR反応に続いて後述する融解曲線分析も可能であった。
【0043】
本発明では、増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドとして、蛍光消光色素で標識されたオリゴヌクレオチドを用い、反応液の蛍光強度を測定することで、核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターする。例えば、核酸増幅反応の任意の時点で、反応液の蛍光強度を測定し、試料中に標的核酸が含まれている場合、増幅した核酸量に依存してオリゴヌクレオチドプローブが増幅核酸にハイブリダイズして蛍光強度が増加(あるいは減少)する。取得した蛍光強度を時間(PCR反応ではサイクル数)に対してプロットすることで、核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターできる(例えば、実施例1)。
【0044】
[ワンステップRT-PCR反応の進行をエンドポイントでモニター]
前記ワンステップRT-PCR工程の終了後に、得られた反応液中の増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを増幅産物にハイブリダイズさせ、前記反応液の蛍光強度を測定することで、工程(2)の増幅反応の進行をエンドポイントでモニターすることができる。
【0045】
核酸増幅反応の進行をエンドポイントでモニターすることで、試料中に含まれる標的核酸を迅速に検出することができる。さらに、エンドポイントでの蛍光強度等を比較することで標的核酸の定量も可能である。
本発明では、蛍光消光色素で標識されたオリゴヌクレオチドプローブを含む反応液の蛍光強度を測定することで、核酸増幅反応の進行をエンドポイントでモニターする(例えば、実施例2)。例えば、核酸増幅反応終了後に、反応液の蛍光強度を測定し、反応後の反応液の蛍光強度を反応前の反応液の蛍光強度と比較することで、標的核酸の増幅の有無を確認できる。あるいは、反応後の反応液の反応強度をコントロール反応液の反応強度と比較することでも試料中に含まれる標的核酸の有無を確認することができる。コントロール反応液とは、測定したい試料の代わりに陰性と判明している試料あるいは陽性と判明している試料を加えた反応液である。
核酸増幅反応の進行は、一般的にリアルタイムでモニターすることが好ましいが、検出工程をより簡便にする等の目的では、エンドポイントでモニターすることが好ましい。
【0046】
[蛍光強度の温度依存性を測定]
前記ワンステップRT-PCR工程の終了後に、得られた反応液中の増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドを増幅産物にハイブリダイズさせ、前記反応液の蛍光強度の温度依存性を測定することで、標的核酸を検出することができるし、前記標的RNAの塩基配列多型を分析することもできる。
【0047】
蛍光強度の温度依存性を測定するとは、具体的には、反応液の温度を低温から高温に変化させながら、各温度における蛍光強度を測定することである(例えば、実施例3)。得られた蛍光強度について温度で一次微分することにより、使用するオリゴヌクレオチドプローブに固有の融解温度(Tm値)を求めることができる。また、蛍光強度は目的に合わせて蛍光消光率等に変換してもよい。
Tm値を用いた標的核酸の検出、分析等を融解曲線分析という。一般的に、Tm値は、オリゴヌクレオチドがその相補鎖と二本鎖を形成している割合と二本鎖を形成せず一本鎖である割合が等しいときの温度をいう。Tm値は、塩基配列に固有の値であるため、融解曲線分析は標的核酸の塩基配列多型を分析する手法として使用できる。ここでいう塩基配列多型とは、一塩基多型、塩基置換、塩基欠損、塩基挿入等を含む。
【0048】
一例として、融解曲線分析はSNP解析などにも応用されている。
オリゴヌクレオチドプローブに対して標的核酸の塩基配列に変異がある場合、プローブがハイブリダイズした際に塩基がミスマッチしているため、一般的にTm値は低くなる。したがって、Tm値の大きさを比較することで一塩基多型の解析(SNP解析)を行うことができる(例えば、実施例4)。
【0049】
[試料中に含まれるRNAを検出するための試薬]
本発明の別の実施態様は、以下の(A)~(C)を少なくとも含む、前記のいずれかの標的RNAを検出する方法を実施するための試薬である。
(A)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ
(B)逆転写酵素
(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、増幅工程で得られる増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド
【0050】
試薬には、上記のファミリーBに属するDNAポリメラーゼ、逆転写酵素、少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、増幅工程で得られる増幅産物とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチドに加えて、核酸増幅に必要な成分が少なくとも含まれる。
【0051】
本発明の試薬に必要な他の成分は、実施する方法の目的等によって異なり、それぞれ公知の成分を用いることができる。例えばワンステップRT-PCR反応を用いて試料中に含まれるRNAを検出する場合、DNAポリメラーゼ、逆転写酵素、ハイブリダイゼーションプローブ、オリゴヌクレオチドプライマー、デオキシリボヌクレオシド三リン酸(dNTPs)、マグネシウム塩またはマンガン塩が少なくとも含まれる。
【0052】
本発明の試薬には、さらに、非特異増幅の抑制や反応促進を目的として、当該技術分野で知られる添加物等を加えてもよい。非特異増幅の抑制を目的とする添加物として、抗DNAポリメラーゼ抗体やリン酸等が挙げられる(特許文献4)。反応促進を目的とする添加物として、ウシ血清アルブミン(BSA)、プロテアーゼインヒビター、シングルストランド結合タンパク質(SSB)、T4遺伝子32タンパク質、tRNA、硫黄または酢酸含有化合物類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、グリセロール、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ホルムアミド、アセトアミド、ベタイン、エクトイン、トレハロース、デキストラン、ポリビニルピロリドン(PVP)、ゼラチン、塩化テトラメチルアンモニウム(TMAC)、水酸化テトラメチルアンモニウム(TMAH)、酢酸テトラメチルアンモニウム(TMAA)、ポリエチレングリコール、トリトン(Triton)、ツイーン(Tween20)、ノニデットP40などが挙げられる。本発明では、これらの添加物を1種類以上組み合わせて使用してもよいが、これらに限定されない。
【0053】
本発明の試薬に用いるオリゴヌクレオチドプライマーは、核酸増幅反応において核酸増幅の起点として使用されるオリゴヌクレオチドであり、当該技術分野において一般的に使用されている知見(例えば、特許文献1、特許文献2、特許文献4)にもとづいて適宜設計することができる。また、実施する核酸増幅反応によっては、複数種類のオリゴヌクレオチドプライマーを使用できる。特異性の高いオリゴヌクレオチドプライマーは、3’末端がターゲット配列に対して相補的であることが重要であり、言い換えれば、3’末端が相補的であれば5’末端が相補的でなくとも有効なプライマーとしてはたらくとされている。このことから、本発明で使用するオリゴヌクレオチドプライマーも3’末端がゲノム配列に対して相補的な配列を有するように設計することが好ましい。さらに、標的核酸がノロウイルスRNAのように塩基配列多型である場合、縮重プライマーを使用してもよい。例えば、ノロウイルスRNAの検出に用いるオリゴヌクレオチドプライマーは、配列番号5~8のいずれかで示される塩基配列を有するものが好ましい。より好ましくは、フォワードプライマーとして配列番号5及びリバースプライマーとして配列番号6で示される塩基配列を有するものの組合せ、又は、フォワードプライマーとして配列番号7及びリバースプライマーとして配列番号8で示される塩基配列を有するものの組合せを用いることでより高感度にノロウイルスRNAを検出することが可能であり得る。
【0054】
[試料中に含まれるRNAを検出するためのキット]
さらに、本発明の別の実施態様として、前記の標的RNA検出試薬を含むキットが挙げられる。
【0055】
なお、本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて又は変更若しくは置き換えて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0056】
以下に実施例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【0057】
実施例1:リアルタイムでモニターできるノロウイルスRNAの検出
(1-1)方法
配列番号1、2を鋳型として人工合成したノロウイルスG1型RNA断片及びノロウイルスG2型RNA断片(250コピー/テスト、1250コピー/テスト)を試料としてワンステップRT-PCR反応を行った。ノロウイルスG1型RNAを検出するためのハイブリダイゼーションプローブとして、配列番号3に示される塩基配列を使用し、3’末端をBODIPY-FLで標識した。また、ノロウイルスG2型RNAを検出するためのハイブリダイゼーションプローブとして、配列番号4に示される塩基配列を使用し、3’末端をBODIPY-FLで標識した。なお、オリゴヌクレオチドプライマーは非特許文献2に記載のプライマーを使用した。
(1-2)反応液
KOD DNAポリメラーゼを含むジーンキューブ(登録商標)テストベーシック(東洋紡社)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。反応液の調製等はジーンキューブ(登録商標)テストベーシックの取扱説明書に従った。逆転写酵素は市販のRevertra Ace(東洋紡社)を使用した。
ノロウイルスG1型RNA検出系
1.5μM COG1Fプライマー(配列番号5)
0.5μM COG1Rプライマー(配列番号6)
0.3μM ハイブリダイゼーションプローブ(配列番号3)
0.05unit/μL Revertra Ace(東洋紡社)
ノロウイルスG2型RNA検出系
0.5μM COG2Fプライマー(配列番号7)
1.5μM COG2Rプライマー(配列番号8)
0.3μM ハイブリダイゼーションプローブ(配列番号4)
0.05unit/μL Revertra Ace(東洋紡社)
(1-3)反応
GENECUBE(登録商標)を用いて、前記反応液を以下の温度サイクルで反応させ、各サイクルにおける蛍光強度を測定した。
42℃ 180秒(逆転写反応)、
94℃ 30秒、
98℃ 1秒-60℃ 10秒-63℃ 10秒(サイクル数60回)
(1-4)結果
図1および
図2は、測定で得られた蛍光強度(消光率に変換)をサイクル数にプロットした図である。
図1がノロウイルスG1型RNA検出系で測定して得られた結果、
図2がノロウイルスG2型RNA検出系で測定して得られた結果である。
図1、
図2より、試料中に標的RNAが存在するとき、オリゴヌクレオチドプローブが増幅核酸にハイブリダイズし、蛍光強度が変化していくことが明らかとなった。また、標的RNA量にしたがって、蛍光強度が変化するため、標的RNAの定量も可能であった。したがって、(A)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ、(B)逆転写酵素、(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、標的核酸とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド、を使用して核酸増幅反応の進行をリアルタイムでモニターできることが示された。
【0058】
実施例2:エンドポイントでモニターできるノロウイルスRNAの検出
(2-1)方法
実施例1と同様の反応液、反応条件を用いて、配列番号1、2を鋳型として人工合成したノロウイルスG1型RNA断片及びノロウイルスG2型RNA断片(50コピー/テスト、250コピー/テスト、1250コピー/テスト)を試料としてワンステップRT-PCR反応を行い、各試料の核酸増幅前及び増幅後の蛍光強度を測定した。
(1-2)結果
図3および
図4にそれぞれの蛍光強度及び蛍光変化率を示す。蛍光変化率(本実施例では消光率を表す)は、(増幅前蛍光強度-増幅後蛍光強度)/(増幅前蛍光強度)の式より求めた。
図3がノロウイルスG1型RNA検出系で測定して得られた結果、
図4がノロウイルスG2型RNA検出系で測定して得られた結果である。
図3、
図4より、試料中に含まれる標的RNA量にしたがって、蛍光強度が変化することが明らかになり、標的RNAの定量も可能であった。したがって、(A)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ、(B)逆転写酵素、(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、標的核酸とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド、を使用して核酸増幅反応の進行をエンドポイントでモニターできることが示された。
【0059】
実施例3:融解曲線分析によるノロウイルスRNAの検出
(3-1)方法
実施例2と同様の反応液、反応条件を用いて、配列番号1、2を鋳型として人工合成したノロウイルスG1型RNA断片及びノロウイルスG2型RNA断片(50コピー/テスト、250コピー/テスト、1250コピー/テスト)を試料としてワンステップRT-PCR反応を行った。核酸増幅反応後に以下の条件による融解曲線分析を行った。
94℃ 30秒、
39℃ 30秒、
40-75℃ 0.09℃/秒
(3-2)結果
図5および
図6にそれぞれの融解曲線分析の結果を示す。
図5がノロウイルスG1型RNA検出系で測定して得られた結果、
図6がノロウイルスG2型RNA検出系で測定して得られた結果である。
図5、
図6より、融解曲線分析によって試料中に含まれる標的RNAを検出できることが明らかになった。したがって、(A)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ、(B)逆転写酵素、(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、標的核酸とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド、を使用して融解曲線分析を実施できることが示された。
【0060】
実施例4:糞便試料に含まれるノロウイルスRNAの検出
(4-1)方法
ノロウイルスG1型を含む糞便試料、ノロウイルスG2型を含む糞便試料、ノロウイルスを含まない陰性糞便試料を試料として、実施例3と同様に核酸増幅及び融解曲線分析を行った。糞便試料は、ヒト糞便を水で懸濁した試料である。
(4-2)結果
図7および
図8に融解曲線分析の結果を示す。
図7がノロウイルスG1型RNA検出系で測定して得られた結果、
図8がノロウイルスG2型RNA検出系で測定して得られた結果である。
図7(ノロウイルスG1型RNA検出系)より、ノロウイルスG1型が含まれる糞便試料では融解曲線分析で蛍光ピークが確認されたが、ほかの試料ではピークが確認されなかった。一方で、
図8(ノロウイルスG2型RNA検出系)より、ノロウイルスG2型が含まれる糞便試料では融解曲線分析で蛍光ピークが確認されたが、ほかの試料ではピークが確認されなかった。また、驚くべきことに、それぞれの陽性糞便試料について、融解曲線分析で得られたTm値が試料によって異なった。この実験結果は、G1糞便1とG1糞便2との間でノロウイルスの遺伝子型が異なること、および、G2糞便1とG2糞便2との間でノロウイルスの遺伝子型が異なることをそれぞれ示唆していると考えられる。したがって、(A)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ、(B)逆転写酵素、(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、標的核酸とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド、を使用してSNP解析によるノロウイルス遺伝子型を区別できることが示された。
【0061】
試験例1:従来法(ツーステップRT-PCR)との比較
従来法との対比を行うために、従来のツーステップRT-PCR法を行った場合(比較例1)と、本発明のワンステップRT-PCT法を行った場合との比較を行った。
【0062】
(1-1)方法
逆転写反応(Reverse Transcription)で標的RNAから変換したcDNAを鋳型に、PCR反応を行う従来の標的RNA検出法との比較を行った。具体的には、配列番号1、2を鋳型として人工合成したノロウイルスG1型RNA断片およびノロウイルスG2型RNA断片(PCR反応での終濃度が250コピー/テスト、1250コピー/テスト)を試料としてツーステップRT-PCRを行った。
【0063】
(1-2)逆転写反応
まず、市販の逆転写酵素(ReverTra Ace(登録商標)qPCR RT Kit(東洋紡社))を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。反応液の調製、反応条件等はReverTra Ace(登録商標)qPCR RT Kitの取扱説明書に従った。
ノロウイルスG1型RNA検出系
0.5μM COG1Rプライマー(配列番号6)
ノロウイルスG2型RNA検出系
0.5μM COG2Rプライマー(配列番号8)
【0064】
(1-3)PCR反応
上記の反応で合成したcDNAについて、ファミリーAに属するDNAポリメラーゼであるTaqポリメラーゼおよびTaqMan加水分解プローブを使用してPCR反応を行うとともに各サイクルにおける蛍光強度を測定した。
THUNDERBIRD(登録商標)Probe qPCR Mix(東洋紡社)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。反応液の調製、反応条件等はTHUNDERBIRD(登録商標)Probe qPCR Mixの取扱説明書に従うとともに、PCR装置はRotor-Gene Qを使用した。
なお、ノロウイルスG1型RNAを検出するためのTaqMan加水分解プローブとして、配列番号3に示される塩基配列を使用し、5’末端をCy5、3’末端をBHQ2で標識した。また、ノロウイルスG2型RNAを検出するためのTaqMan加水分解プローブとして、配列番号4に示される塩基配列を使用し、5’末端をCy5、3’末端をBHQ2で標識した。
ノロウイルスG1型RNA検出系
0.3μM COG1Fプライマー(配列番号5)
0.3μM COG1Rプライマー(配列番号6)
0.2μM TaqMan加水分解プローブ(配列番号3)
ノロウイルスG2型RNA検出系
0.3μM COG2Fプライマー(配列番号7)
0.3μM COG2Rプライマー(配列番号8)
0.2μM TaqMan加水分解プローブ(配列番号4)
【0065】
別途、上記実施例1と同様の反応液(KOD DNAポリメラーゼ、逆転写酵素、3’末端をBODIPY-FLで標識したハイブリダイゼーションプローブを含む)、反応条件を用いてワンステップRT-PCR反応を行い、その結果を比較した。
【0066】
(1-4)結果
図9が従来法(ツーステップRT-PCR)によるノロウイルスG1型RNA検出系の結果、
図10が従来法(ツーステップRT-PCR)によるノロウイルスG2型RNA検出系の結果である。また、
図11が本発明によるノロウイルスG1型RNA検出系の結果、
図12が本発明によるノロウイルスG2型RNA検出系の結果である。
図9では低濃度のノロウイルスG1型RNAが検出できなかった一方で、
図11では小さいながらもピークを確認することができた。同様に、
図10では低濃度のノロウイルスG2型RNAの増幅曲線が小さい一方で、
図12では低濃度のノロウイルスG2型RNAでも増幅曲線が大きく出ることを確認できた。
したがって、(A)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ、(B)逆転写酵素、(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、標的核酸とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド、を使用した本発明が、従来のツーステップRT-PCR(ファミリーAに属するDNAポリメラーゼ、逆転写酵素、TaqMan加水分解プローブ)よりも簡便、高感度に標的RNAを検出できることが示された。
【0067】
試験例2:従来法(二酵素系ワンステップRT-PCR)との比較
従来ツーステップ法で用いられていた試薬をワンステップ法に使用できるように改変された従来の二酵素系ワンステップRT-PCR試薬を用いた場合(比較例2)と、本発明のワンステップRT-PCT法で検出する場合との比較を行った。
【0068】
(2-1)方法
ファミリーAに属するDNAポリメラーゼであるTthポリメラーゼ、逆転写酵素、TaqMan加水分解プローブを含む従来の標的RNA検出法との比較を行った。
従来法として、THUNDERBIRD(登録商標)Probe One-step qRT-PCR Kit(東洋紡社)を使用して以下に示される成分を含む反応液を調製した。反応液の調製等はTHUNDERBIRD(登録商標)Probe One-step qRT-PCR Kitの取扱説明書に従うとともに、PCR装置はRotor-Gene Qを使用した。
なお、TaqMan加水分解プローブは比較例1と同じものを使用した。
【0069】
ノロウイルスG1型RNA検出系
0.5μM COG1Fプライマー(配列番号5)
0.5μM COG1Rプライマー(配列番号6)
0.2μM TaqMan加水分解プローブ(配列番号3)
ノロウイルスG2型RNA検出系
0.5μM COG2Fプライマー(配列番号7)
0.5μM COG2Rプライマー(配列番号8)
0.2μM TaqMan加水分解プローブ(配列番号4)
【0070】
別途、上記実施例1と同様の反応液(KOD DNAポリメラーゼ、逆転写酵素、3’末端をBODIPY-FLで標識したハイブリダイゼーションプローブを含む)、反応条件を用いてワンステップRT-PCR反応を行い、その結果を比較した。
【0071】
(2-2)結果
図13が従来法(二酵素系ワンステップRT-PCR)によるノロウイルスG1型RNA検出系の結果、
図14が従来法(二酵素系ワンステップRT-PCR)によるノロウイルスG2型RNA検出系の結果である。また、
図11が本発明によるノロウイルスG1型RNA検出系の結果、
図12が本発明によるノロウイルスG2型RNA検出系の結果である。
図13ではノロウイルスG1型RNAを検出できなかった一方で、
図11では検出することができた。同様に、
図14ではノロウイルスG2型RNAを検出できなかったが、
図12では検出することができた。
したがって、(A)ファミリーBに属するDNAポリメラーゼ、(B)逆転写酵素、(C)少なくとも一方の末端塩基がグアニンとの相互作用により消光する蛍光消光色素で標識されており、標的核酸とハイブリダイズできるオリゴヌクレオチド、を使用した本発明が、従来の二酵素系ワンステップRT-PCR(ファミリーAに属するDNAポリメラーゼ、逆転写酵素、TaqMan加水分解プローブ)よりも簡便、高感度に標的RNAを検出できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明により、簡便、高感度に標的RNAを検出することができるようになった。さらには、ワンステップRT-PCR反応の進行をリアルタイムでモニターできるだけでなく、標的RNAの塩基配列多型の分析も行うことができるようになった。本発明の方法およびキットを使用することで、生命科学研究、臨床診断、食品衛生検査、環境検査等の分野に大きく貢献できる。
【配列表】