(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】フロントピラー構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/04 20060101AFI20221109BHJP
B62D 25/06 20060101ALI20221109BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20221109BHJP
B23K 26/242 20140101ALI20221109BHJP
【FI】
B62D25/04 A
B62D25/06 B
B23K26/21 N
B23K26/242
(21)【出願番号】P 2019024171
(22)【出願日】2019-02-14
【審査請求日】2021-10-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101557
【氏名又は名称】萩原 康司
(74)【代理人】
【識別番号】100096389
【氏名又は名称】金本 哲男
(74)【代理人】
【識別番号】100167634
【氏名又は名称】扇田 尚紀
(74)【代理人】
【識別番号】100187849
【氏名又は名称】齊藤 隆史
(74)【代理人】
【識別番号】100212059
【氏名又は名称】三根 卓也
(72)【発明者】
【氏名】植松 一夫
(72)【発明者】
【氏名】窪田 紘明
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-058530(JP,A)
【文献】特開2015-151067(JP,A)
【文献】特開2006-205870(JP,A)
【文献】特開平10-192965(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/04
B62D 25/06
B23K 26/21
B23K 26/242
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
管状に成形された、湾曲部を有する管部と、前記管部の外周面から前記湾曲部の曲げ内側に突出した、管軸方向に沿って延在するフランジ部と、前記フランジ部に設けられた切欠き部と、を有するフロントピラーと、
前記切欠き部が設けられた箇所において前記管部に被せられた第1の部材と、
前記第1の部材との間に前記フロントピラーを挟み込むように該第1の部材に接合された第2の部材と、を備え、
前記切欠き部は、前記フロントピラーのルーフクロスメンバ取付部に設けられ、
前記第1の部材は、前記フロントピラーのフランジ部に重なって前記切欠き部を覆うフランジ部を有する、フロントピラー構造。
【請求項2】
前記切欠き部は、前記フロントピラーのフランジ部の圧縮ひずみが2.0%以上となる領域に設けられている、請求項1に記載のフロントピラー構造。
【請求項3】
前記切欠き部は、前記管部の湾曲内側の曲率半径が900mm以下となる領域に設けられている、請求項1に記載のフロントピラー構造。
【請求項4】
前記フロントピラーのフランジ部と前記第1の部材のフランジ部とが互いに接合されている、請求項1~3のいずれか1項に記載のフロントピラー構造。
【請求項5】
前記管部は、鋼板が管状に成形されてなり、かつ、管軸方向に沿って延在するレーザー溶接部を有し、
前記フランジ部は、前記管部をなす前記鋼板の一端であって、かつ、前記レーザー溶接部に沿って延在し、
前記レーザー溶接部は、前記鋼板の他端が、該鋼板が折り曲げられることで該鋼板に突き合わされて溶接された隅肉溶接部である、請求項1~4のいずれか1項に記載のフロントピラー構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のフロントピラー構造に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の車体骨格部材の一つとしてフロントピラーがある。フロントピラーは湾曲部を有しており、車体上部においてはフロントピラーの湾曲部にルーフクロスメンバが接合される。特許文献1には、フロントピラーとルーフクロスメンバの接合構造が開示されている。また、特許文献2には、他の車体骨格部材としてサイドメンバやクロスメンバ等が想定された、フランジを有する筒状体が開示されている。特許文献3には、押出成形により製造されたフランジを有する筒状体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2006-205870号公報
【文献】特開2012-025335号公報
【文献】特開平10-192965号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フロントピラーは、他部品を組み付けやすくするために湾曲部の曲げ内側にフランジ部を有していることが好ましい。しかしながら、湾曲部の曲率が大きい部分(例えば、フロントピラー管部の湾曲内側の曲率半径が900mm以下となる部分)にフランジ部を形成しようとすると、曲げ加工時において、フランジ部にしわが顕著に発生することがある。特に、フロントピラー管部の湾曲内側の曲率半径が300mm以下の部分にフランジ部を形成しようとすると、フランジ部のしわが顕著に発生しやすい。他部品との組み付け容易性を向上させる観点からは、フランジ部のしわは生じない方が好ましいため、湾曲部の曲げ内側にフランジ部が設けられるフロントピラーにおいては、フランジ部のしわの発生を抑える対策が必要となる。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、フロントピラーの湾曲部におけるフランジ部のしわの発生を抑制し、他部品の組み付け容易性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する本発明の一態様は、フロントピラー構造であって、管状に成形された、湾曲部を有する管部(フロントピラー管部)と、前記管部の外周面から前記湾曲部の曲げ内側に突出した、管軸方向に沿って延在するフランジ部と、前記フランジ部に設けられた切欠き部と、を有するフロントピラーと、前記切欠き部が設けられた箇所において前記管部に被せられた第1の部材と、前記第1の部材との間に前記フロントピラーを挟み込むように該第1の部材に接合された第2の部材と、を備え、前記切欠き部は、前記フロントピラーのルーフクロスメンバ取付部に設けられ、前記第1の部材は、前記フロントピラーのフランジ部に重なって前記切欠き部を覆うフランジ部を有することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、フロントピラーの湾曲部におけるフランジ部のしわの発生を抑制し、他部品の組み付け容易性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図2】本発明の一実施形態に係るフロントピラー構造の概略構成を示す斜視図である。
【
図3】フランジ面に垂直な方向からフロントピラー構造を見た図である。
【
図5】フランジ面に垂直な方向からフロントピラーを見た図である。
【
図9】フランジ付鋼管の製造方法の一例を示す図である。
【
図10】フランジ付鋼管の製造方法における溶接工程を説明するための図である。
【
図11】フランジ付鋼管の製造方法の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照しながら説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する要素においては、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0010】
図1は、自動車の車体骨格の一例を示す図である。以降の説明においては、フロントピラー10の、ルーフクロスメンバ50が取り付けられる部分であるルーフクロスメンバ取付部10a近傍のフロントピラー構造1について説明する。
【0011】
図2および
図3に示すように、本実施形態のフロントピラー構造1は、フロントピラー10と、フロントピラー10に被せられた第1の部材20と、第1の部材20に接合された第2の部材30を備えている。
【0012】
図4~
図6に示すように、フロントピラー10は、管状に成形された管部11と、フランジ部12と、フランジ部12に設けられた切欠き部13とを有している。なお、フロントピラー10の素材は特に限定されず、例えば鋼材やアルミニウム合金部材、マグネシウム合金材等が採用され得る。
【0013】
管部11は、管軸が湾曲する部分である湾曲部を有している。管部11は、直線部と湾曲部で構成されていてもよいし、曲率の異なる湾曲部が複数組み合わせられて構成されていてもよい。本実施形態の管部11は、角管であるが、管部11の断面形状は特に限定されず、例えば円形状であってもよいし、多角形状であってもよい。
【0014】
フランジ部12は、管部11の外周面から湾曲部の曲げ内側に突出しており、管軸方向Xに沿って延在している。切欠き部13は、フランジ部12の一部の領域が切り取られるようにして設けられ、本実施形態においては、管軸方向Xにおけるフランジ部12の所定の範囲が切り取られている。切欠き部13は、ルーフクロスメンバ取付部10aに設けられている。ルーフクロスメンバ50は、管部11が有する湾曲部の中でも曲率が比較的大きい部分(例えば、フロントピラー管部11の湾曲内側の曲率半径Rが900mm以下の部分)に取り付けられるため、フロントピラー10のルーフクロスメンバ取付部10aにフランジ部12が形成されている場合には、フロントピラー10製造時の曲げ加工においてフランジ部12にしわが顕著に発生しやすい。切欠き部13は、そのようなルーフクロスメンバ取付部10aに設けられているために、管部11の全長にわたってフランジ部12が設けられている場合に比べて、フランジ部12のしわ発生が抑えられる。なお、切欠き部13は、ルーフクロスメンバ取付部10a以外の部分にさらに設けられていてもよい。
【0015】
フロントピラー10に被せられた第1の部材20は、切欠き部13が設けられた箇所に設けられている。本実施形態の第1の部材20は、ルーフクロスメンバ50を取り付けるためのブラケットであり、
図2および
図7に示すように管部11の外周面に沿った形状を有している。詳述すると、第1の部材20は、管部11が有する4つの側壁11a~11dのうちの3つの側壁11a~11cの外面に接するように形成されている。
【0016】
図2および
図3に示すように、第1の部材20は、フロントピラー10の切欠き部13を覆うフランジ部21を有している。本実施形態の第1の部材20は、管軸方向Xにおけるフランジ部21の長さが管軸方向Xにおける切欠き部13の長さよりも長くなっており、管軸方向Xにおける第1の部材20のフランジ部21の端部21aは、フロントピラー10のフランジ部12と重なっている。また、本実施形態の第1の部材20のフランジ部21のフランジ高さは、フロントピラー10のフランジ部12の高さよりも高くなっている。なお、第1の部材20の形状は、管部11の形状に応じて適宜変更される。また、フロントピラー構造1の剛性を向上させる観点においては、第1の部材20とフロントピラー10の管部11が例えばレーザー溶接等により互いに接合されていることが好ましい。
【0017】
第1の部材20のフランジ部21は、フロントピラー10のフランジ部12に接合されていることが好ましい。接合方法は特に限定されず、例えばスポット溶接が採用され得る。第1の部材20のフランジ部21とフロントピラー10のフランジ部12が接合されることで、フロントピラー構造1の剛性が向上し、その結果として車体剛性を向上させることができる。なお、本実施形態の第1の部材20は、ルーフクロスメンバ50を取り付けるためのブラケットであったが、第1の部材20は、ルーフクロスメンバ50そのものであってもよい。この場合、
図2および
図3の第1の部材20の形状は、ルーフクロスメンバ50の車幅方向の端部形状を示している。
【0018】
第2の部材30は、第1の部材20との間でフロントピラー10を挟み込むようにして第1の部材20に接合される。接合方法は特に限定されず、例えばスポット溶接が採用され得る。
図7に示すように、本実施形態の第2の部材30は板材であり、第2の部材30は、第1の部材20に接すると共に、フロントピラー10の管部11が有する4つの側壁11a~11dのうち、第1の部材20が接していない側壁11dにも接している。なお、第2の部材30の形状は、フロントピラー10の管部11の形状や第1の部材20の形状等に応じて適宜変更される。また、フロントピラー構造1の剛性を向上させる観点においては、第2の部材30とフロントピラー10の管部11が例えばレーザー溶接等により互いに接合されていることが好ましい。
【0019】
本実施形態のフロントピラー構造1は以上のように構成されている。なお、フロントピラー10の管部11とフランジ部12は一体にされていることが好ましい。「一体にされている」とは、管部11とフランジ部12とが溶接等の手段によって接合されたものではないことを意味する。本実施形態の管部11およびフランジ部12は、鋼板の曲げ加工により得られたフランジ付き鋼管として一体となっている。すなわち、本実施形態のフランジ部12は、管部11をなす鋼板の一端に相当する。
図6および
図7に示すように、本実施形態の管部11にはレーザー溶接部14が形成されている。レーザー溶接部14は、管部11の管軸方向Xに沿って延在している。レーザー溶接部14は、管部11をなす鋼板の所定の範囲が曲げ加工されることによって、鋼板の端部が当該鋼板に突き合わされて溶接された隅肉溶接部である。フランジ付き鋼管の製造方法については後述する。レーザー溶接部14は溶接金属を有しており、溶接金属のビッカース硬さは、鋼板のビッカース硬さより1.2倍以上、好ましくは1.4倍以上高いことが好ましい。なお、ビッカース硬さの測定荷重は10gとし、ビッカース硬さの測定箇所は、管部11及び溶接金属の管軸方向Xに垂直な断面とする。なお、管部11とフランジ部12は、例えば押出成形によって一体にされていてもよい。
【0020】
本実施形態のフロントピラー構造1によれば、フロントピラー10製造時の曲げ加工において、切欠き部13が設けられた領域でフランジ部12のしわは発生しない。そして、フロントピラー10の切欠き部13を覆うフランジ部21を有した第1の部材20が設けられていることで、見かけ上、フロントピラー10の管部11全長にわたってフランジ部12が形成される。これにより、他部品の組み付け容易性が担保される。したがって、本実施形態のフロントピラー構造1によれば、他部品の組み付け容易性を担保しつつ、フロントピラー10のフランジ部12のしわの発生を抑制することができる。特に、管部11の湾曲内側の曲率半径Rが300mm以下である場合に本実施形態のようなフロントピラー構造1を適用することで、フランジ部12におけるしわ発生の抑制効果を顕著に得ることができる。
【0021】
なお、切欠き部13は、フランジ部12に生じる圧縮ひずみが2.0%以上となる領域に設けられることが好ましい。このような領域にフランジ部12が設けられることで、より効果的にフランジ部12のしわの発生を抑えることができる。また、切欠き部13が設けられる領域を圧縮ひずみが2.0%以上となる領域に限定することによって、切欠き部13を覆う第1の部材20を、フランジ部12のしわ抑制効果が得られる範囲で小型化することが可能となる。このため、フランジ部12のしわの発生の抑制と軽量化を両立させることができる。
【0022】
なお、切欠き部13が設けられた製品のフロントピラー10において、圧縮ひずみが2.0%以上の領域に切欠き部13が設けられているか否かを判断するにあたっては、まず、三次元測定により製品形状をデータ化する。次に、
図5の点線で示されるように、フランジ部12のフランジ面12aに垂直な方向から見て、切欠き部13が設けられていない領域のフランジ部12の先端同士を滑らかにつないだ曲線を描き、切欠き部13の代わりに、その曲線をフランジの先端位置とするフランジ部12が形成された解析モデルを作成する。すなわち、この解析モデルにおいては、管部11の全長にわたってフランジ部12が設けられている。そして、その解析モデルを用いたシミュレーションによって、フランジ部12の圧縮ひずみを算出し、圧縮ひずみが2.0%以上となる領域を定める。これにより、製品のフロントピラー10の切欠き部13が、圧縮ひずみが2.0%以上となる領域に設けられているか否かを判断することができる。
【0023】
(フランジ付鋼管の製造方法)
フロントピラー10の管部11とフランジ部12は、所定のサイズに切断された1枚の鋼板で形成される鋼管であることが好ましい。以下、フランジ付き鋼管の製造方法の一例について説明する。なお、以下の例では、一様な板厚の鋼板を用いる場合を述べているが、部材として最適な強度を得られるよう管軸方向に板厚および/または引張強度の異なる鋼板をレーザー接合などで一体化した鋼板(テーラードウエルドブランク)を用いることもできる。
【0024】
鋼管の製造に用いられる鋼板60は、
図8のように鋼板60の一部の領域が予め切り取られた切欠き部13が形成されている。管部11及びフランジ部12の素材である鋼板60は、引張強度が980MPa以上、1180MPa以上または1470MPa以上の高強度鋼板、あるいは焼入れ後引張強度が1470MPa以上となる成分系を有する鋼板であることが好ましい。また、鋼板60は、所謂DP鋼(DP:Dual Phase)またはTRIP鋼(TRIP:Transformation Induced Plasticity)であることが好ましい。
【0025】
フランジ付き鋼管の管部11が円管状である場合には、鋼管は例えば
図9のような手順で製造される。本製造方法は、フランジ部12が形成された鋼板60を管状に成形する成形工程と、レーザー溶接を行う溶接工程とを備える。なお、成形工程の前に、鋼板60に曲げ加工を施してフランジ部12を設ける前処理工程を行ってもよい。
【0026】
前処理工程では、
図9に示すように、鋼板60の板幅方向における切欠き部13が設けられた側の端部61aを板長手方向に沿って折り曲げてフランジ部12を形成する。このようにして、フランジ付き鋼板62を製造する。
【0027】
次に、成形工程では、
図9に示すように、フランジ付き鋼板62の板長手方向が管軸方向Xとなるように、かつ、フランジ部12の突出方向が鋼管の外周側に向くように管状に成形する。フランジ付き鋼板62を管状に成形する方法について特に制限はないが、プレス成形方法を用いることが好ましい。すなわち、フランジ付き鋼板62の板幅方向に沿って徐々に曲げ加工を行うことで、管状に成形すればよい。
【0028】
次に、溶接工程では、
図9に示すように、管状に成形したフランジ付き鋼板62の切欠き部13が設けられていない側の端部61bを、フランジ部12の形成に伴って設けられた曲げ部61cに突き合わせ、突き合わせ箇所にレーザービームLを照射することにより、端部61bと曲げ部61cとの間にレーザー溶接部14を形成する。このようにして管部11を形成する。レーザービームLは、
図10に示すように管状に成形したフランジ付き鋼板62の管軸方向X(板長手方向)に沿って相対移動させながら照射する。これにより、管軸方向Xに沿ってレーザー溶接部14が形成される。
【0029】
レーザービームLの照射箇所には、不活性ガスを吹き付けることが好ましい。不活性ガスとしては、例えば、Ar(アルゴン)とCO2の混合ガスでもよく、窒素ガスでもよい。レーザービームLの照射箇所では鋼が部分的に加熱されて酸化されやすい状態になるが、不活性ガスを吹き付けることで鋼の酸化が防止される。レーザー溶接方法では鋼の加熱領域が比較的狭いため、不活性ガスを吹き付けることで溶接箇所の酸化を十分に抑制できる。
【0030】
また、曲げ部61cは成形加工を受けることによって塑性ひずみが導入された状態にあるが、レーザー溶接の際の入熱によって曲げ部61cがレーザー溶接部14の熱影響部に含まれることとなり、塑性ひずみが緩和されるようになる。
【0031】
以上説明したように、管部11が円管状のフランジ付き鋼管は、フランジ部12が、管部11をなす鋼板60の一端が折り曲げられて形成された鋼板60の一部であって、曲げ部61cを介して管部11と一体にされたものであるから、フランジ部12の肉厚は管部11の肉厚と同じ厚みになる。従来の製造方法においては、フランジ部12の肉厚が管部11の肉厚の2倍になるが、本製造方法により得られたフランジ付き鋼管は、フランジ部12の肉厚が管部11の肉厚と同じ厚みになるため、軽量化が可能になる。
【0032】
また、フランジ部12は、曲げ部61cを介して管部11と一体になっているものであるから、管部11に対するフランジ部12の接合強度を高くすることができる。
【0033】
次に、管部11が角管状のフランジ付き鋼管は、
図11のような手順で製造される。本製造方法は、鋼板60を管状に成形する成形工程と、レーザー溶接を行う溶接工程とを備える。
【0034】
成形工程では、
図11に示すように、鋼板60の板長手方向が管軸方向Xとなるように、鋼板60の板幅方向に沿って曲げ加工を行い、切欠き部13が設けられていない側の端部61bから板幅方向における所定の範囲の鋼板60を垂直に曲げる。続いて、その曲げ加工で形成された新たな曲げ部61dから板幅方向における所定の範囲の鋼板60をさらに垂直に曲げる。続いて、その曲げ加工で形成された新たな曲げ部61eから板幅方向における所定の範囲の鋼板60をさらに垂直に曲げる。これにより、端部61bが端部61aの近傍の鋼板60に突き合わせられ、鋼板60が管状に成形される。
【0035】
次に、溶接工程では、前述の
図10の溶接工程のように、端部61bと、鋼板60の突き合わせ箇所にレーザービームLを照射することによりレーザー溶接部14を形成する。このようにして管部11を形成し、角管状のフランジ付き鋼管が製造される。
【0036】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はかかる例に限定されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到しうることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【実施例】
【0037】
本発明の一例となるフロントピラー構造のフランジ部のしわ発生の有無を観察して、しわ評価を実施した。本発明の実施例としてのフロントピラー構造は、
図2のような構造を有しており、ルーフクロスメンバ取付部に切欠き部が設けられ、その切欠き部を覆う第1の部材が設けられている。また、比較例として、切欠き部も第1の部材も設けられていない構造(比較例1)と、切欠き部のみが設けられ、第1の部材が設けられていない構造(比較例2)のしわ評価も実施した。また、参考例として、ルーフクロスメンバ取付部以外の部分のフランジ部のしわ評価も実施した。
【0038】
いずれの例においても、自動車フロントピラー構造内のフロントピラー管部の垂直断面外形寸法を50mm×50mm、管部板厚を2mmとし、フランジ部が設けられる例においてはフランジ幅を20mmとして解析を実施した。なお、ここで示す垂直断面外形寸法、板厚、フランジ幅は1例にすぎず、本発明は、この例に限られず、自動車フロントピラー構造として用いられる範囲で技術常識的な大きさ、厚さのフロントピラーに適用することができる。
【0039】
実施例1、実施例2、比較例1及び比較例2では、ルーフクロスメンバ取付部以外の部分がほぼ直線状であり、ルーフクロスメンバ取付部が湾曲していることを想定している。実施例1、実施例2及び比較例2は、ルーフクロスメンバ取付部において、フランジ部に切欠き部を設けて湾曲させる例であり、比較例1は、フランジ部に切欠き部を設けずにフランジ部がそのまま存在する例である。ただし、フランジ部に切欠き部を設ける、設けないに関わらず、解析の便宜上、その湾曲部において、フランジ部に切欠き部が存在せずにフランジ部がそのまま存在し、かつ、フランジ部にしわが発生しない状態を仮想している。この仮想条件の下、実施例1及び比較例1では、フロントピラー管部の湾曲内側の曲率半径を750mm、実施例2では、フロントピラー管部の湾曲内側の曲率半径を880mm、比較例2では、フロントピラー管部の湾曲内側の曲率半径を800mmと設定して解析を実施した。
【0040】
一方、参考例1及び2は、フランジ部がフロントピラー管部の全長にわたって存在し、ルーフクロスメンバ取付部だけでなく、管部の長手方向全体を一様に湾曲させた例である。参考例1では、フロントピラー管部の湾曲内側の曲率半径を2700mm、参考例2では、フロントピラー管部の湾曲内側の曲率半径を1600mmと設定して解析を実施した。
【0041】
しわ評価の結果を表1に示す。フランジ部に切欠き部が設けられた例における表1中の“フランジ部の圧縮ひずみ”とは、切欠き部が設けられていない状態(すなわち、フランジ部のみが存在する状態)を仮想してフロントピラー構造の解析モデルのシミュレーションを行い、そのシミュレーションによって得られた、湾曲部における仮想上のフランジ部先端に発生した圧縮ひずみの数値である。フランジ部に切欠き部が設けられていない例における表1中の“フランジ部の圧縮ひずみ”とは、実際のフランジ部先端に発生した圧縮ひずみの数値である。なお、表1における実施例および比較例のフランジ部の圧縮ひずみは、ルーフクロスメンバ取付部の湾曲したフランジ部先端に発生した圧縮ひずみであり、参考例のフランジ部の圧縮ひずみは、ルーフクロスメンバ取付部以外の部分のフランジ部先端に発生した圧縮ひずみである。
【0042】
【0043】
実施例1および実施例2においては、フランジ部の圧縮ひずみが大きい部分に切欠き部が設けられており、当該部分においてはしわが発生せず、しわ評価は良好な結果となった。また、切欠き部を覆うフランジ付きの第1の部材が設けられているために、見かけ上、フロントピラーの管部の全長にわたってフランジ部が設けられることになり、他部品の組み付け容易性は良好である。
【0044】
一方、比較例1においては、フランジ部の圧縮ひずみが大きいルーフクロスメンバ取付部に切欠き部が設けられていないために、当該部分において、しわが発生した。また、しわが発生していることにより、当該部分における他部品の組み付け容易性は悪化する。比較例2においては、フランジ部の圧縮ひずみが大きいルーフクロスメンバ取付部に切欠き部が設けられているため、当該部分においてはしわが発生せず、しわ評価は良好な結果となった。しかし、切欠き部を覆う第1の部材が設けられていないことにより、切欠き部においては、フランジ部が存在せず、他部品の組み付け容易性は悪化する。
【0045】
なお、参考例1では、ルーフクロスメンバ取付部以外の部分のフランジ部の圧縮ひずみが1.5%であったが、曲げ加工後の当該フランジ部には、しわが確認されず、しわ評価は良好な結果となった。一方、参考例2は、ルーフクロスメンバ取付部以外の部分のフランジ部の圧縮ひずみが2.5%であり、曲げ加工後の当該フランジ部には、しわが発生した。参考例が示す結果によれば、フランジ部の圧縮ひずみが2.0%以上となる領域では、しわが発生しやすいため、フランジ部先端のひずみが2.0%以上の領域に切欠き部を設けることが好ましい。自動車のフロントピラー周辺の構造においては、ルーフクロスメンバ取付部以外の部分がほぼ直線状でルーフクロスメンバ取付部を湾曲させる例が多い。この場合は、ルーフクロスメンバ取付部の曲率半径が特に小さくなりやすい。このため、フランジ部のしわ発生を効果的に抑制する観点からは、フランジ部の圧縮ひずみが5.0%以上の領域に切欠き部を設けることが好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、自動車のフロントピラー構造として利用することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 フロントピラー構造
10 フロントピラー
10a ルーフクロスメンバ取付部
11 管部
11a~11d 管部の側壁
12 フランジ部
12a フランジ面
13 切欠き部
14 レーザー溶接部
20 第1の部材
21 第1の部材のフランジ部
21a 第1の部材のフランジ部の端部
30 第2の部材
50 ルーフクロスメンバ
60 鋼板
61a 切欠き部が設けられている側の端部
61b 切欠き部が設けられていない側の端部
61c~61f 鋼板の曲げ部
62 フランジ付き鋼板
L レーザービーム
R 管部の湾曲内側の曲率半径
X 管軸方向