(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】焼成用材料
(51)【国際特許分類】
C01G 53/04 20060101AFI20221109BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20221109BHJP
C01F 5/06 20060101ALI20221109BHJP
C01G 19/02 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
C01G53/04
H01B1/22 A
C01F5/06
C01G19/02 C
(21)【出願番号】P 2019029462
(22)【出願日】2019-02-21
【審査請求日】2021-08-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004341
【氏名又は名称】日油株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100097490
【氏名又は名称】細田 益稔
(74)【代理人】
【識別番号】100097504
【氏名又は名称】青木 純雄
(72)【発明者】
【氏名】板子 典史
【審査官】青木 千歌子
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-129588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 53/04
H01B 1/22
C01F 5/06
C01G 19/02
C01B 13/14
H01G 4/12,4/30
C04B 35/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数4~10の分岐飽和脂肪酸(A)と炭素数4~10の直鎖飽和脂肪酸(B)との脂肪酸混合物
と2価金属との2価金属塩を含む焼成用材料であって、
前記2価金属が、Mg、NiおよびSnからなる群より選ばれており、前記脂肪酸混合物における前記分岐飽和脂肪酸(A)の前記直鎖飽和脂肪酸(B)に対する質量比((A)/(B))が90/10~10/90であることを特徴とする、焼成用材料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸金属塩からなる焼成用材料に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、電子デバイスの高性能化に伴う小型化や軽量化がいっそう求められており、金属およびセラミックスの薄膜や微細配線の形成技術の開発が進められている。薄膜や微細配線の従来の形成方法として、スパッタ法や真空蒸着などの乾式法が用いられているが、高価な設備や真空系などの条件が必要となり、生産効率が悪く製造コストが高くなる問題がある。一方、これらの乾式法に対して、スピンコートやインクジェットなどによる湿式法では、金属を含有する溶液を塗布あるいは描画し、還元条件または酸化条件で焼成することで、それぞれ金属薄膜または金属酸化物薄膜が簡単に得られ、高価な設備は不要となる。
【0003】
このような金属を含有する焼成用材料として蟻酸や酢酸の金属塩が用いられてきたが、遊離の蟻酸や酢酸は揮発性が高くまた刺激臭があり、作業性は好ましくない。
【0004】
蟻酸や酢酸の金属塩と比較して長鎖の脂肪酸金属塩では、遊離酸の揮発性および臭気の低減により作業性が改善でき、また脂肪酸金属塩が様々な有機溶媒に溶解することから、金属含有溶液の材料として好適に用いられる。例えば2-エチルヘキサン酸金属塩は入手の容易さや溶剤溶解性の高さから使用されている。特許文献1(特開平7-45189)では、2-エチルヘキサン酸マグネシウムおよび2-エチルヘキサン酸スズが焼成用材料として開示されている。また、特許文献2(特開2005-79504)では2-エチルヘキサン酸ニッケルが焼成用材料として開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平7-45189
【文献】特開2005-79504
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
2-エチルヘキサン酸等の金属塩を用いて形成した焼成物では、クラックが生じやすく、これを防ぐために有機バインダーやビヒクル等の更なる添加が必要となる。しかしながら、これにより焼成材料は希釈されて金属含有量が低下し、焼成後に十分な膜厚が得られなくなり、厚膜化のために成膜を複数回行う必要が生じることがある。そのため焼成物の製品設計において、求める成膜性や膜厚に応じて焼成材料の処方をその都度変更する必要があり、材料選定が煩雑となる問題がある。そこで2-エチルヘキサン酸金属塩等を用いた焼成材料としては、クラックの低減などの成膜性向上が求められている。
【0007】
加えて脂肪酸金属塩は、脂肪酸が長鎖になるほど粘度が高くなり、塗布に適した粘度に調整するために溶剤で希釈させるが、厚膜化や成膜性の観点からは金属含有量は高い方が望ましい。そのため使用する溶剤の量を低減させる必要があり、脂肪酸金属塩と少量の溶剤の混合には加熱が必要となる。しかしながら、脂肪酸金属塩は温度変化により粘度が大きく変化するため、塗布工程中の塗布液の温度低下により成膜性が変化して品質が安定しない問題がある。そのため塗布焼成用の脂肪酸金属塩では、高い金属含有量を維持して低粘度化させ、加えて温度変化による粘度変化を小さくさせることが望まれる。
【0008】
本発明の課題は、温度変化に対する粘度変化が小さく、成膜性の良い脂肪酸金属塩系の焼成用材料を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸の組成を特定の組成とすることで、温度変化に対する粘度変化の小さい、成膜性のよい脂肪酸金属塩系の焼成用材料が得られることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、炭素数4~10の分岐飽和脂肪酸(A)と炭素数4~10の直鎖飽和脂肪酸(B)との脂肪酸混合物と2価金属との2価金属塩を含む焼成用材料であって、
前記2価金属塩が、Mg、NiおよびSnからなる群より選ばれており、前記脂肪酸混合物における前記分岐飽和脂肪酸(A)の前記直鎖飽和脂肪酸(B)に対する質量比((A)/(B))が90/10~10/90であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、温度変化に対する粘度変化の小さい、成膜性のよい脂肪酸金属塩系の焼成用材料が得られる。この焼成用材料は、湿式法における金属および金属酸化物、特にこれらの膜形成に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、さらに詳細を説明する。
本発明の焼成用材料は、炭素数4~10の分岐飽和脂肪酸(A)と炭素数4~10の直鎖飽和脂肪酸肪酸(B)との脂肪酸混合物の2価金属塩を含み、前記脂肪酸混合物における前記分岐飽和脂肪酸(A)の前記直鎖飽和脂肪酸(B)に対する質量比((A)/(B))が90/10~10/90である。
【0013】
分岐飽和脂肪酸(A)、直鎖飽和脂肪酸肪酸(B)の炭素数が3以下では、脂肪酸の揮発性や刺激臭が強く、加えて混合脂肪酸金属塩の溶剤溶解性が低下するので、各炭素数を4以上とするが、5以上とすることが好ましく、6以上とすることが更に好ましい。分岐飽和脂肪酸(A)、直鎖飽和脂肪酸肪酸(B)の炭素数が11以上では、脂肪酸金属塩組成物全体の金属含有量が低下し、加えて溶剤溶解性が低下するので、10以下とするが、9以下が好ましく、8以下が更に好ましい。
【0014】
炭素数4~10の分岐飽和脂肪酸(A)としては、2-メチルプロピオン酸、3-メチルブタン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸などが挙げられ、2-エチルヘキサン酸または3,5,5-トリメチルヘキサン酸がより好ましい。また、炭素数4~10の分岐飽和脂肪酸(A)の分岐鎖数は、2以下が好ましく、1が更に好ましく、2-エチルヘキサン酸が特に好ましい。これらを単独で、又は2種類以上のものを併用して用いてもよい。
【0015】
炭素数4~10の直鎖飽和脂肪酸(B)としては、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸が挙げられ、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸がより好ましく、ヘキサン酸またはオクタン酸が特に好ましい。これらを単独で、又は2種類以上のものを併用して用いてもよい。
【0016】
分岐飽和脂肪酸(A)と直鎖飽和脂肪酸(B)との質量比((A)/(B))は、90/10~10/90とする。前記質量比((A)/(B))が90/10より大きいと、焼成用材料の粘度が高くなり、また温度変化による粘度変化も大きくなるので、90/10以下とするが、80/20以下が好ましく、70/30以下が更に好ましい。また、質量比(A)/(B)が10/90より小さいと、焼成用材料の粘度が高くなり、また温度変化による粘度変化も大きくなるので、10/90以上とするが、20/80以上が好ましく、30/70以上が更に好ましい。
【0017】
本発明の焼成用材料を製造するには、分岐飽和脂肪酸(A)の2価金属塩と直鎖飽和脂肪酸(B)の2価金属塩とを混合してもよく、また分岐飽和脂肪酸(A)と直鎖飽和脂肪酸(B)との脂肪酸混合物を2価金属の化合物と反応させる合成反応により得てもよい。焼成用材料の低粘度化と温度変化による粘度変化を小さくする観点から、脂肪酸混合物を2価金属の化合物と反応させる合成反応により得ることが好ましい。
【0018】
本発明の焼成用材料で用いられる各脂肪酸金属塩は、2価の金属塩である。各脂肪酸金属塩は常温で液体状または溶剤溶解性が高いものが望ましく、金属含有量が高いものが望ましい。この観点から、本発明で用いられる各脂肪酸金属塩を構成する各金属は、周期表の第3周期から第5周期である金属が望ましい。第3周期ではMg、第4周期ではNiが挙げられ、第5周期ではSnが挙げられ、Snがさらに好ましい。
【0019】
脂肪酸金属塩を合成反応で得る場合は、金属原料に対して脂肪酸原料を過剰量加えて反応させることが好ましい。脂肪酸原料が金属原料よりも過少であると、未反応の金属原料が残存し、ろ過等の精製工程が煩雑となる。脂肪酸原料が金属原料よりも過剰であると、未反応金属原料が低減して精製が容易となり、また未反応脂肪酸が脂肪酸金属塩の溶剤溶解性や保存安定性を向上させる。この観点から、金属原料と脂肪酸原料の仕込比は、金属1当量に結合させたい数の脂肪酸量を1当量としたとき、脂肪酸原料が1~3当量が好ましく、1~2当量がより好ましい。
【0020】
(脂肪酸)
本発明の焼成用材料には、前記各脂肪酸金属塩に加えて、脂肪酸を含むことで、有機溶剤への溶解性や保存安定性が一層向上する。従って、本発明の脂肪酸金属塩は脂肪酸を含むことが可能である。
【0021】
このような脂肪酸の炭素数は、4~10であることことが好ましい。この脂肪酸の炭素数が3以下であると、揮発性が高く、刺激臭が強く、作業性が低下するので、4以上が好ましく、5以上が更に好ましく、6以上が特に好ましい。また、この脂肪酸の炭素数が11以上であると、脂肪酸の融点が高くなり、常温で固体となって溶剤への溶解性が低下するので、10以下が好ましいが、9以下が好ましく、8以下が更に好ましい。
【0022】
本発明の焼成用材料に含有される脂肪酸は、飽和脂肪酸が望ましく、また、分岐鎖脂肪酸でも直鎖脂肪酸でも良い。
この脂肪酸は、前記脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸(A)、(B)と同一であってもよく、また異なっていてもよい。作業性の観点から、脂肪酸金属塩を構成する脂肪酸(A)、(B)の一方または双方と同一である方が好ましい。
【0023】
本脂肪酸としては、2-メチルプロピオン酸、3-メチルブタン酸、2-エチルヘキサン酸、3,5,5-トリメチルヘキサン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸などが挙げられる。また、これらの脂肪酸を1種または2種以上を組み合わせて使用することが可能である。
【0024】
分岐飽和脂肪酸(A)の2価金属塩と直鎖飽和脂肪酸肪酸(B)の2価金属塩との合計質量を100質量部としたとき、脂肪酸の質量は、5~200重量部であることが好ましい。脂肪酸の質量が5質量部よりも少ないと、前記脂肪酸金属塩の脂肪酸への溶解量が小さくなり、金属含有量が低下する傾向がある。この観点からは、脂肪酸の量は5質量部以上が好ましく、10質量部以上が更に好ましく、20質量部以上が特に好ましい。また、脂肪酸 の質量が200重量部よりも多いと、金属含有量が低下するため成膜性が悪化する傾向があるので、200質量部以下が好ましく、150質量部以下が更に好ましく、100質量部以下が特に好ましい。
【0025】
〈有機溶剤〉
本発明の焼成用材料には、本発明の効果を損なわない範囲で、有機溶剤が含有されてもよい。
【0026】
有機溶剤は、炭化水素系溶剤、アルコール系溶剤、エーテル系溶剤、エステル系溶剤からなる群から1つまたは2つ以上選ばれる溶剤が好ましい。有機溶剤は単独で用いてもよいし、2種以上を混合してもよい。
【0027】
焼成用材料に有機溶剤を含有させる必要はないが、有機溶剤を含有させる場合には、分岐飽和脂肪酸(A)の2価金属塩と直鎖飽和脂肪酸肪酸(B)の2価金属塩との合計質量を100質量部としたとき、有機溶剤が5~200質量部であることが好ましい。有機溶剤の質量が5重量部よりも少ないと、脂肪酸金属塩の溶解量が小さくなり、金属含有溶液の安定性が低下する傾向があるので、有機溶剤の質量は5質量部以上が好ましく、10質量部以上が更に好ましく、20質量部以上が特に好ましい。また、有機溶剤の質量が200質量部よりも多いと、金属含有量が低下するため成膜性が悪化する傾向があるので、有機溶剤の質量は200質量部以下が好ましいが、150質量部以下が更に好ましく、100質量部以下が特に好ましい。
【0028】
〈添加剤〉
本発明の焼成用材料は、増粘剤や消泡剤、レベリング剤などの各種添加剤を含むことが可能である。増粘剤としては、エチルセルロース、ニトロセルロースなど、消泡剤やレベリング剤としてはアニオン型活性剤、ノニオン型活性剤、カチオン型活性剤、ポリマー型レベリング剤などが挙げられる。
【0029】
分岐飽和脂肪酸(A)の2価金属塩、直鎖飽和脂肪酸肪酸(B)の2価金属塩、脂肪酸、有機溶剤や添加剤を混合する方法に特に制限はなく、一般的な攪拌機やロールミル、ホモジナイザーを用いることができる。また混合による脂肪酸金属塩の溶解を促進するために、有機溶剤や脂肪酸の沸点以下の温度に加熱しても問題ない。
【0030】
本発明の脂肪酸金属塩溶液を基板に塗布する方法に特に制限はなく、刷毛塗り法、浸漬法、スピナー法、スプレー法、スクリーン印刷法、ロールコーター法、インクジェット方式によるパターン形成などが用いられる。
【実施例】
【0031】
次に実施例により、本発明を更に具体的に説明する。
〈焼成用材料の評価〉
各例の焼成用材料を用いて、以下に示す評価を行った。
(灰分の測定)
合成した焼成用材料の灰分(金属酸化物含有量)を以下の式により算出した。
【数1】
【0032】
(粘度の測定)
アントンパール社製MCR302を用いて、以下の条件で剪断粘度を測定した。
測定プローブ: コーンプレートPP25
温度: 25℃および50℃
剪断速度: 100/s
【0033】
(粘度変化率の算出)
粘度変化率を以下の式により算出した。粘度変化率が小さいほど、温度変化による粘度変化が小さい評価となる。
【数2】
【0034】
(粘度変化指数の算出)
2-エチルヘキサン酸金属塩の粘度変化率を基準に、粘度変化指数を以下の式により算出した。
【数3】
【0035】
〈成膜性の評価〉
以下の方法に従い、焼成膜を作成し、評価を行った。
25℃に保温した各例の焼成用材料をシリコンウェハに滴下し、バーコーターで成膜した。これを120℃で10分間乾燥させた後、600℃で2時間焼成した。得られた酸化物薄膜の表面を目視で確認し、クラックがないものを「○」と評価し、クラックがあるものを「×」と評価した。
【0036】
(実験A)
以下の方法に従い、灰分が14.0%となるよう、脂肪酸ニッケルの脂肪酸溶液を調製し、粘度測定および成膜性の評価を行った。
(実施例A1:2-エチルヘキサン酸ニッケル/オクタン酸ニッケル(50/50)溶液)
具体的には、攪拌装置、冷却管、温度計、窒素導入管を取り付けた4つ口フラスコに、2-エチルヘキサン酸122g(0.85mol)、オクタン酸122g(0.85mol)、水酸化ニッケル57g(0.61mol)を加え、窒素気流下、攪拌しながら、内温を150℃まで加熱して昇温させた。これをさらに1時間攪拌して、緑色粘性溶液を得た。その後、未反応水酸化ニッケルをろ過し、緑色粘性溶液である2-エチルヘキサン酸ニッケル/オクタン酸ニッケル(50/50)溶液を得た。
【0037】
この灰分は14.0%であり、脂肪酸ニッケル100重量部に対する脂肪酸は60重量部であった。
25℃、50℃における粘度はそれぞれ0.52Pa・s、0.15Pa・sであった。そのため粘度変化率は347%であり、粘度変化指数は0.59と小さかった。
【0038】
(実施例A2:2-エチルヘキサン酸ニッケル/オクタン酸ニッケル(30/70)溶液)
実施例A1に準じて、脂肪酸として2-エチルヘキサン酸73g(0.51mol)、オクタン酸170g(1.19mol)、水酸化ニッケル57g(0.61mol)を用いて、緑色粘性溶液である2-エチルヘキサン酸ニッケル/オクタン酸ニッケル(30/70)溶液を得た。
この灰分は14.0%であり、脂肪酸ニッケル100重量部に対する脂肪酸は60重量部であった。25℃、50℃における粘度はそれぞれ0.77Pa・s、0.19Pa・sであった。そのため粘度変化率は416%であり、粘度変化指数は0.70と小さかった。
【0039】
(比較例A1:2-エチルヘキサン酸ニッケル)
実施例A1に準じて、脂肪酸として2-エチルヘキサン酸243g(1.69mol)、水酸化ニッケル57g(0.61mol)を用いて、緑色粘性溶液である2-エチルヘキサン酸ニッケル溶液を得た。この2-エチルヘキサン酸ニッケル溶液の灰分は14.0%であり、2-エチルヘキサン酸ニッケル100重量部に対する2-エチルヘキサン酸は60重量部であった。
25℃、50℃における粘度はそれぞれ15.07Pa・s、2.55Pa・sであった。そのため粘度変化率は591%と大きかった。
【0040】
(比較例A2:オクタン酸ニッケル)
実施例A1に準じて、脂肪酸としてオクタン酸243g(1.69mol)、水酸化ニッケル57g(0.61mol)を用いて、緑色粘性溶液であるオクタン酸ニッケル溶液を得た。このオクタン酸ニッケル溶液の灰分は14.0%であり、オクタン酸ニッケル100重量部に対するオクタン酸は60重量部であった。
25℃、50℃における粘度はそれぞれ1.15Pa・s、0.21Pa・sであった。そのため粘度変化率は548%であり、粘度変化指数は0.93と大きかった。
脂肪酸ニッケルを用いた各例の実験結果を表1にまとめた。
【0041】
【0042】
実施例A1、A2で得た各焼成用材料によれば、粘度変化率、粘度変化率が小さかった。そして、得られた酸化物薄膜では、クラックはなく、成膜性の評価は良好であった。
それに対して、比較例A1、A2で得た各焼成用材料によれば、粘度変化率、粘度変化率が大きかった。そして、得られた酸化物薄膜では、クラックがあり、成膜性評価は不良であった。
【0043】
(実験B)
以下の方法に従い、灰分が6.0%となる、脂肪酸マグネシウムのプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート溶液を調製し、粘度測定および成膜性の評価を行った。
【0044】
(実施例B1:2-エチルヘキサン酸マグネシウム/オクタン酸マグネシウム(50/50)溶液)
攪拌装置、冷却管、温度計、窒素導入管を取り付けた4つ口フラスコに、2-エチルヘキサン酸58g(0.80mol)、オクタン酸58g(0.40mol)、酸化マグネシウム13g(0.32mol)、およびプロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート(以下、PGMEAと称す)32gを加え、窒素気流下、攪拌しながら、内温を150℃まで加熱して昇温させた。これをさらに1時間攪拌して、透明粘性溶液を得た。その後、未反応酸化マグネシウムをろ過し、透明粘性溶液である2-エチルヘキサン酸マグネシウム/オクタン酸マグネシウム(50/50)のPGMEA溶液を得た。この灰分は6.0%であり、脂肪酸マグネシウム100重量部に対する脂肪酸は67重量部であり、PGMEAは25重量部であった。
【0045】
25℃、50℃における粘度はそれぞれ0.23Pa・s、0.12Pa・sであった。そのため粘度変化率は196%であり、粘度変化指数は0.35と小さかった。
【0046】
(比較例B1:2-エチルヘキサン酸マグネシウム)
実施例B1に準じて、脂肪酸として2-エチルヘキサン酸115g(0.80mol)、酸化マグネシウム13g(0.32mol)、およびPGMEA32gを用いて、2-エチルヘキサン酸マグネシウムのPGMEA溶液を得た。この2-エチルヘキサン酸マグネシウムのPGMEA溶液の灰分は6.0%であり、2-エチルヘキサン酸マグネシウム100重量部に対する2-エチルヘキサン酸は67重量部であり、PGMEAは25重量部であった。
25℃、50℃における粘度はそれぞれ1.54Pa・s、0.27Pa・sであった。そのため粘度変化率は563%と大きかった。
【0047】
(比較例B2:オクタン酸マグネシウム)
実施例B1に準じて、脂肪酸としてオクタン酸115g(0.80mol)、酸化マグネシウム13g(0.32mol)、およびPGMEA32gを用いて、オクタン酸マグネシウムのPGMEA溶液を得た。このオクタン酸マグネシウムのPGMEA溶液の灰分は6.0%であり、オクタン酸マグネシウム100重量部に対するオクタン酸は67重量部であり、PGMEAは25重量部であった。
25℃、50℃における粘度はそれぞれ3.66Pa・s、0.81Pa・sであった。そのため粘度変化率は453%であり、粘度変化指数は0.81と大きかった。
以上の結果を表2にまとめた。
【0048】
【0049】
実施例B1で得た各焼成用材料によれば、粘度変化率、粘度変化率が小さかった。そして、得られた酸化物薄膜では、クラックはなく、成膜性の評価は良好であった。
それに対して、比較例B1、B2で得た各焼成用材料によれば、粘度変化率、粘度変化率が大きかった。そして、得られた酸化物薄膜では、クラックがあり、成膜性評価は不良であった。
【0050】
(実験C)
以下の方法に従い、灰分が28.0%となる、脂肪酸スズの脂肪酸溶液を調製し、粘度測定を行った。
【0051】
(実施例C1:2-エチルヘキサン酸スズ/ヘキサン酸スズ(50/50)溶液)
攪拌装置、冷却管、温度計、窒素導入管を取り付けた4つ口フラスコに、2-エチルヘキサン酸71g(0.49mol)、ヘキサン酸71g(0.61mol)、酸化第一スズ64g(0.48mol)を加え、窒素気流下、攪拌しながら、内温を150℃まで加熱して昇温させた。これをさらに1時間攪拌して、透明粘性溶液を得た。その後、未反応酸化第一スズをろ過し、透明淡黄色粘性溶液である2-エチルヘキサン酸スズ/ヘキサン酸スズ(50/50)溶液を得た。この灰分は28.0%であり、脂肪酸スズ100重量部に対する脂肪酸は44重量部であった。
【0052】
25℃、50℃における粘度はそれぞれ0.08Pa・s、0.03Pa・sであった。そのため粘度変化率は294%であり、粘度変化指数は0.66と小さかった。
【0053】
(比較例C1:2-エチルヘキサン酸スズ)
実施例C1に準じて、脂肪酸として2-エチルヘキサン酸159g(1.10mol)、酸化第一スズ64g(0.48mol)を用いて、2-エチルヘキサン酸スズ溶液を得た。この2-エチルヘキサン酸スズ溶液の灰分は28.0%であり、2-エチルヘキサン酸スズ100重量部に対する2-エチルヘキサン酸は33重量部であった。
25℃、50℃における粘度はそれぞれ0.85Pa・s、0.19Pa・sであった。そのため粘度変化率は447%と大きかった。
【0054】
(比較例C2:ヘキサン酸スズ)
実施例C1に準じて、脂肪酸としてヘキサン酸128g(1.10mol)、酸化第一スズ64g(0.48mol)を用いて、ヘキサン酸スズ溶液を得た。このヘキサン酸スズ溶液の灰分は28.0%であり、ヘキサン酸スズ100重量部に対するヘキサン酸は54重量部であった。
25℃、50℃における粘度はそれぞれ0.04Pa・s、0.01Pa・sであった。そのため粘度変化率は428%であり、粘度変化指数は0.96と大きかった。
これらの結果を表3にまとめた。
【0055】
【0056】
実施例C1で得た各焼成用材料によれば、粘度変化率、粘度変化率が小さかった。そして、得られた酸化物薄膜では、クラックはなく、成膜性の評価は良好であった。
それに対して、比較例C1、C2で得た各焼成用材料によれば、粘度変化率、粘度変化率が大きかった。そして、得られた酸化物薄膜では、クラックがあり、成膜性評価は不良であった。