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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】シールド構造、及びワイヤーハーネス
(51)【国際特許分類】
   H01R 13/6581 20110101AFI20221109BHJP
   H01R 13/6463 20110101ALI20221109BHJP
【FI】
H01R13/6581
H01R13/6463
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019041267
(22)【出願日】2019-03-07
(65)【公開番号】P2020145083
(43)【公開日】2020-09-10
【審査請求日】2021-06-25
(73)【特許権者】
【識別番号】395011665
【氏名又は名称】株式会社オートネットワーク技術研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000183406
【氏名又は名称】住友電装株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001036
【氏名又は名称】弁理士法人暁合同特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 佳吾
(72)【発明者】
【氏名】高木 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】酒井 雅美
【審査官】高橋 裕一
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2014/0017926(US,A1)
【文献】特開2004-079377(JP,A)
【文献】国際公開第2016/035841(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/122574(WO,A1)
【文献】特開平06-196224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01R13/56-13/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
2本の電線が撚り合わされてなると共に、前記2本の電線が前後方向に延びると共に左右方向に間隔を空けて並んで配された並列部を有するツイストペアケーブルと、
前記並列部を構成する前記2本の電線の各端部に接続された2つの端子と、
前後方向に延びると共に左右方向に間隔を空けて並んで前記並列部の周囲に配された導電性を有する2つの側壁部と、前記2つの側壁部を電気的に接続する2つの接続部と、を有するシールド部材と、を備え、
前記電線は、第1電線と、第2電線と、を含み、
前記並列部は、2本の前記第1電線が並ぶ第1並列部と、2本の前記第2電線が並ぶ第2並列部と、を含み、
前記端子は、2本の前記第1電線の各端部に接続された2つの第1端子と、2本の前記第2電線の各端部に接続された2つの第2端子と、を含み、
前記2つの第1端子と前記2つの第2端子とが電気的に接続された状態で、前記2つの第1端子と前記2つの第2端子とは、前記2つの側壁部の内側に位置しており、
前記2つの接続部は、前記2つの側壁部のうち、前記並列部の延びる方向の前端部と後端部とにそれぞれ配されている、シールド構造。
【請求項2】
2本の電線が撚り合わされてなると共に、前記2本の電線が並ぶ並列部を有するツイストペアケーブルと、
前記並列部の周囲に配された導電性を有する2つの側壁部と、前記2つの側壁部を電気的に接続する2つの接続部と、を有するシールド部材と、を備え、
前記2つの接続部は、前記2つの側壁部のうち、前記並列部の延びる方向の前端部と後端部とにそれぞれ配されており、
前記2本の電線のうち、前記2本の電線を一括して包囲するシースの端部から露出した部分が前記並列部とされており、
前記接続部は、前記シースの端部に外嵌された外嵌部と、前記外嵌部から延びると共に前記2つの側壁部に接触する延出部と、を有する、シールド構造。
【請求項3】
前記2つの側壁部は、前記並列部を構成する前記2本の電線の各端部に接続された2つの端子の周囲に位置している、請求項に記載のシールド構造。
【請求項4】
前記2つの接続部の間には開口部が設けられている、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載のシールド構造。
【請求項5】
前記2つの側壁部は、前記並列部を構成する前記2本の電線の中間位置を含むと共に前記2本の電線が延びる方向に沿う仮想的な面に対し、鏡面対称に形成されている、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載のシールド構造。
【請求項6】
前記接続部は前記2つの側壁部と一体に形成されている請求項1から請求項のいずれか1項に記載されたシールド構造。
【請求項7】
2本の電線が撚り合わされてなると共に、前記2本の電線が前後方向に延びると共に左右方向に間隔を空けて並んで配された並列部を有するツイストペアケーブルと、
前記並列部を構成する前記2本の電線の端部にそれぞれ接続された2つの端子と、
前記2つの端子が収容されるコネクタと、
前後方向に延びると共に左右方向に間隔を空けて並んで前記並列部の周囲に配された導電性を有する2つの側壁部と、前記2つの側壁部を電気的に接続する2つの接続部と、を有するシールド部材と、を備え、
前記電線は、第1電線と、第2電線と、を含み、
前記並列部は、2本の前記第1電線が並ぶ第1並列部と、2本の前記第2電線が並ぶ第2並列部と、を含み、
前記端子は、2本の前記第1電線の各端部に接続された2つの第1端子と、2本の前記第2電線の各端部に接続された2つの第2端子と、を含み、
前記2つの第1端子と前記2つの第2端子とが電気的に接続された状態で、前記2つの第1端子と前記2つの第2端子とは、前記2つの側壁部の内側に位置しており、
前記2つの接続部は、前記2つの側壁部のうち、前記並列部の延びる方向の前端部と後端部とにそれぞれ配されている、ワイヤーハーネス。
【請求項8】
前記コネクタは、前記シールド部材が固定される固定部を有する、請求項7に記載のワイヤーハーネス。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、シールド構造、及びワイヤーハーネスに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、2本の電線が撚り合わされてなるツイストペアケーブルが知られている(特開2012-18898号公報)。ツイストペアケーブルの端部においては、撚り合わされた2本の電線の撚りがほどかれており、2本の電線は並んで配されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-18898号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来技術においては、2本の電線が並んで配された部分からノイズが混入することを懸念して、並んで配された2本の電線を、金属製のシールド部材で上下方向及び左右方向から覆うようになっている。
【0005】
上記のシールド部材は、並んで配された2本の電線を上下方向及び左右方向から覆っているので、構造が複雑化しやすく、軽量化が難しい。
【0006】
本開示は上記のような事情に基づいて完成されたものであって、構造の簡素化、軽量化、及び耐ノイズ性能の向上の、少なくとも1つが解決されるシールド構造、及びワイヤーハーネスを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示のシールド構造は、2本の電線が撚り合わされてなると共に、前記2本の電線が並ぶ並列部を有するツイストペアケーブルと、前記並列部の周囲に配された導電性を有する2つの側壁部と、前記2つの側壁部を電気的に接続する2つの接続部と、を有するシールド部材と、を備え、前記2つの接続部は、前記2つの側壁部のうち、前記並列部の延びる方向の前端部と後端部とにそれぞれ配されている。
【0008】
本開示のワイヤーハーネスは、2本の電線が撚り合わされてなると共に、前記2本の電線が並ぶ並列部を有するツイストペアケーブルと、前記並列部を構成する前記2本の電線の端部にそれぞれ接続された2つの端子と、前記2つの端子が収容されるコネクタと、前記並列部の周囲に配された導電性を有する2つの側壁部と、前記2つの側壁部を電気的に接続する2つの接続部と、を有するシールド部材と、を備え、前記2つの接続部は、前記2つの側壁部のうち、前記並列部の延びる方向の前端部と後端部とにそれぞれ配されている。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、シールド構造に関する技術について、構造の簡素化、軽量化、及び耐ノイズ性能の向上の、少なくとも1つの効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態1に関するワイヤーハーネスを示す側面図である。
図2図2は、図1におけるII-II線断面図である。
図3図3は、図4におけるIII-III線断面図である。
図4図4は、図1におけるIV-IV線断面図である。
図5図5は、ワイヤーハーネスを示す斜視図である。
図6図6は、シールド部材が雄コネクタと離間した状態を示すワイヤーハーネスの分解斜視図である。
図7A図7Aは、計算例1に関し、電線の配置を示す模式的断面図である。
図7B図7Bは、計算例1にかかるシールド部材を示す斜視図である。
図8図8は、計算例2に関し、電線の配置を示す模式的断面図である。
図9図9は、計算例3に関し、電線の配置を示す模式的断面図である。
図10図10は、計算例1から計算例3について、コモンモードの周波数に対するLCLの変化を示すグラフである。
図11図11は、計算例3について、コモンモードの周波数に対するLCLの変化を示すグラフである。
図12図12は、計算例2について、コモンモードの周波数に対するLCLの変化を示すグラフである。
図13図13は、計算例1について、コモンモードの周波数に対するLCLの変化を示すグラフである。
図14図14は、計算例1から計算例3について、ノイズ源の周波数に対するANEXTDSの変化を示すグラフである。
図15図15は、計算例3についてノイズ源の周波数に対するANEXTDSの変化を示すグラフである。
図16図16は、計算例2についてノイズ源の周波数に対するANEXTDSの変化を示すグラフである。
図17図17は、計算例1についてノイズ源の周波数に対するANEXTDSの変化を示すグラフである。
図18図18は、実施形態2に関するワイヤーハーネスを示す断面図である。
図19図19は、実施形態3に関するワイヤーハーネスを示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[本開示の実施形態の説明]
本開示の実施態様が列記されて説明される。
【0012】
(1)本開示のシールド構造は、2本の電線が撚り合わされてなると共に、前記2本の電線が並ぶ並列部を有するツイストペアケーブルと、前記並列部の周囲に配された導電性を有する2つの側壁部と、前記2つの側壁部を電気的に接続する2つの接続部と、を有するシールド部材と、を備え、前記2つの接続部は、前記2つの側壁部のうち、前記並列部の延びる方向の前端部と後端部とにそれぞれ配されている。
【0013】
上記の構成によれば、並列部の周囲に配された側壁部により、並列部において並ぶ2本の電線は、側壁部の周囲に位置するノイズ源から電磁気的にシールドされる。これにより、ツイストペアケーブルの耐ノイズ性能を向上させることができる。
【0014】
(2)前記2つの接続部の間には開口部が設けられている。
【0015】
本明細書に開示されたシールド部材によれば、2つの接続部の間には開口部が形成されているので、シールド部材の構造を簡素化することができる。これによりシールド部材を軽量化することができる。また、シールド部材の製造コストを低減させることができる。また、この開口部からは、並列部を構成する2本の電線が露出している。ノイズ源が、並列部を構成する2本の電線が露出する領域に配された場合には、ツイストペアケーブルの耐ノイズ性能の低下を抑制することができる。以下に理由を説明する。並列部を構成する2本の電線が露出する領域にノイズ源が配された場合、ノイズ源が発するノイズは2本の電線の双方に影響を及ぼす。2本の電線の双方に与えられたノイズは差動通信ケーブルにおいてはキャンセルされるので、ツイストペアケーブルの耐ノイズ性能が低下することを抑制することができる。
【0016】
(3)前記2つの側壁部は、前記並列部を構成する前記2本の電線の中間位置を含むと共に前記2本の電線が延びる方向に沿う仮想的な面に対し、鏡面対称に形成されていることが好ましい。
【0017】
上記の構成によれば、並列部を構成する2本の電線の電磁気的な環境を均質にすることができる。これにより、ノイズ源が発するノイズが2本の電線に与える影響を、シールド部材が設けられない場合に比べて均質化することができる。
【0018】
(4)前記接続部は前記2つの側壁部と一体に形成されていることが好ましい。
【0019】
上記の構成によれば、シールド部材の構造を簡素化できるので、シールド部材の製造コストを低減させることができる。
【0020】
(5)前記2つの側壁部は、前記並列部を構成する前記2本の電線の各端部に接続された2つの端子の周囲に位置していることが好ましい。
【0021】
上記の構成によれば、2本の信号線の端部に接続された端子に加えられるノイズの影響を低減させることができる。
【0022】
(6)前記2本の電線のうち、前記2本の電線を一括して包囲するシースの端部から露出した部分が前記並列部とされており、前記接続部は、前記シースの端部に外嵌された外嵌部と、前記外嵌部から延びると共に前記2つの側壁部に接触する延出部と、を有することが好ましい。
【0023】
上記の構成によれば、シースの端部に外嵌部を外嵌することにより、シース内に位置する2本の電線の撚りがほどけてしまうことを抑制することができる。
【0024】
また、シースの内部に配された2本の電線の撚り戻しを抑制する部材を、2つの側壁部を電気的に接続するために用いることができるので、部品点数を削減することができる。これにより、シールド構造の製造コストを低減することができる。
【0025】
(7)本開示のワイヤーハーネスは、2本の電線が撚り合わされてなると共に、前記2本の電線が並ぶ並列部を有するツイストペアケーブルと、前記並列部を構成する前記2本の電線の端部にそれぞれ接続された2つの端子と、前記2つの端子が収容されるコネクタと、 前記並列部の周囲に配された導電性を有する2つの側壁部と、前記2つの側壁部を電気的に接続する2つの接続部と、を有するシールド部材と、を備え、 前記2つの接続部は、前記2つの側壁部のうち、前記並列部の延びる方向の前端部と後端部とにそれぞれ配されている。
【0026】
上記の構成によれば、ワイヤーハーネスの耐ノイズ性能を向上させることができる。
【0027】
(8)前記コネクタは、前記シールド部材が固定される固定部を有することが好ましい。
【0028】
上記の構成によれば、シールド部材をコネクタと異なる部材に固定する場合に比べて、ワイヤーハーネスの構造を簡素化することができる。
【0029】
[本開示の実施形態の詳細]
以下に、本開示の実施形態が説明される。本発明はこれらの例示に限定されるものではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味、及び範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【0030】
<実施形態1>
本明細書に開示された技術をワイヤーハーネス10に適用した実施形態1が、図1から図17を参照しつつ説明される。図1に示されるように、本実施形態に関するワイヤーハーネス10は、第1UTP(Unshielded Twisted Pair)ケーブル11(ツイストペアケーブルの一例)と、第1UTPケーブル11の端部に接続された雄コネクタ12(コネクタの一例)と、雄コネクタ12に嵌合する雌コネクタ13(コネクタの一例)と、雌コネクタ13が端部に接続された第2UTP(Unshielded Twisted Pair)ケーブル14(ツイストペアケーブルの一例)と、を備える。
【0031】
本実施形態に関するワイヤーハーネス10には、ノイズ源となる電線62が、ワイヤーハーネス10に沿うように配された状態でテープ巻き等の公知の手法により固定される(図4参照)。ノイズ源となる電線62としては、機器に接続された電源線が例示される。このような電源線には接続された機器からノイズが混入することがある。
【0032】
以下の説明においては、Z方向が上方とされ、Y方向が前方とされ、X方向が左方とされる。また、複数の同一部材については、一部の部材に符号が付され、他の部材については符号が省略される場合がある。
【0033】
[第1UTPケーブル11]
図2に示されるように、第1UTPケーブル11は、互いに撚り合わされた2本の第1電線15の外周を絶縁性の第1シース16が一括して包囲してなる。第1電線15は、導電性の芯線の外周が絶縁性の合成樹脂からなる絶縁被覆で覆われてなる公知の構成である。
【0034】
第1シース16の端部からは2本の第1電線15が導出されている。第1シース16の端部から導出された2本の第1電線15は、撚りがほどかれており、前後方向(2本の電線が延びる方向の一例)に延びると共に、左右方向に間隔を空けて並んで配された第1並列部17(並列部の一例)とされる。第1UTPケーブル11のうち第1シース16の内部に位置する2本の第1電線15は、互いに撚り合わされている。
【0035】
第1並列部17を構成する2本の第1電線15の左右方向の間隔は、第1シース16の端部付近が最も狭くなっており、第1シース16の端部から離れるに従って広がっている。
【0036】
[雄端子18]
第1UTPケーブル11を構成する2本の第1電線15の端部には、それぞれ、雄端子18が接続されている。これにより、1つの第1UTPケーブル11には2つの雄端子18が接続されている。2つの雄端子18は同形同大である。雄端子18は金属板材を所定の形状にプレス加工することにより形成される。雄端子18は、第1電線15の端部に圧着することにより第1電線15に固定されると共に第1電線15の芯線と電気的に接続される電線接続部19と、電線接続部19に連なって前方に延びる雄タブ20と、を有する。
【0037】
[雄コネクタ12]
図3に示されるように、雄コネクタ12は、雄アウターハウジング21と、雄アウターハウジング21の内部に収容される雄インナーハウジング22と、を有する。
【0038】
雄アウターハウジング21は、前方に開口するフード部23を有する。フード部23の内部には雌コネクタ13が内嵌するようになっている。雄アウターハウジング21は絶縁性の合成樹脂を射出成型してなる。雄アウターハウジング21の内部には、前方に延びる雄ランス24が形成されている。雄ランス24が雄インナーハウジング22と弾性的に係合することにより、雄アウターハウジング21内に雄インナーハウジング22が抜け止め状態で保持される。
【0039】
2つの雄端子18は、雄インナーハウジング22内で、左右方向に間隔を空けて並んだ状態で配置される。雄端子18の雄タブ20は、フード部23内において、前方に延びるように配されている。
【0040】
[第2UTPケーブル14]
図2に示されるように、第2UTPケーブル14は、互いに撚り合わされた2本の第2電線29の外周を絶縁性の第2シース30が一括して包囲してなる。第2シース30の端部から導出された2本の第2電線29は、撚りがほどかれており、前後方向(2本の電線が延びる方向の一例)に延びると共に、左右方向に間隔を空けて並んで配された第2並列部31(並列部の一例)とされる。第2並列部31を構成する2本の第2電線29の左右方向の間隔は、第2シース30の端部付近が最も狭くなっており、第2シース30の端部から離れるに従って広がっている。第2UTPケーブル14の構成は第1UTPケーブル11と同じなので、重複する説明が省略される。
【0041】
[雌端子32]
第2UTPケーブル14を構成する2本の第2電線29の端部には、それぞれ、雌端子32が接続されている。これにより、1つの第2UTPケーブル14には2つの雌端子32が接続されている。2つの雌端子32は同形同大である。雌端子32は金属板材を所定の形状にプレス加工することにより形成される。雌端子32は、第2電線29の端部に圧着することにより第2電線29に固定されると共に第2電線29の芯線と電気的に接続される電線接続部53と、電線接続部53に連なって後方に延びる接続筒部33と、を有する。接続筒部33の内部には、雄端子18の雄タブ20が挿入可能になっている。接続筒部33の内部には弾性変形可能な弾性接触片(図示せず)が配されている。弾性接触片が雄タブ20と弾性的に接触することにより、雌端子32と雄端子18とが電気的に接続されるようになっている。
【0042】
[雌コネクタ13]
図3に示されるように、雌コネクタ13の後半部分は、雄コネクタ12のフード部23内に後方から嵌入するようになっている。雄コネクタ12と雌コネクタ13とが嵌合した状態で、雌コネクタ13の前半部分はフード部23の前方に位置している。図4に示されるように、雌コネクタ13は、雌アウターハウジング34と、雌アウターハウジング34の内部に収容される雌インナーハウジング35と、を有する。
【0043】
雌アウターハウジング34は絶縁性の合成樹脂を射出成型してなる。雌アウターハウジング34の内部には、後方に延びる雌ランス36が形成されている。雌ランス36が雌インナーハウジング35と弾性的に係合することにより、雌アウターハウジング34内に雌インナーハウジング35が抜け止め状態で保持される。
【0044】
雌端子32は、雌インナーハウジング35内に保持されている。2つの雌端子32は、雌インナーハウジング35内で、左右方向に間隔を空けて並んだ状態で配置される。
【0045】
雄コネクタ12のフード部23内に雌コネクタ13が嵌入された状態で、雌コネクタ13に形成されたロック部42が雄コネクタ12に係止することにより、雌コネクタ13がフード部23内において抜け止め状態で保持されるようになっている。
【0046】
[シールド部材43]
図5及び図6に示されるように、シールド部材43は、導電性を有する金属板材を所定の形状にプレス加工することにより形成される。シールド部材43を構成する金属としては、銅、銅合金、アルミニウム、アルミニウム合金等、任意の金属を適宜に選択することができる。シールド部材43の表面には金属からなるメッキ層が形成されていてもよい。メッキ層を構成する金属としては、スズ、ニッケル等、任意の金属を適宜に選択することができる。
【0047】
シールド部材43は、2つの側壁部44と、2つの側壁部44を連結する前接続部45(接続部の一例)及び後接続部46(接続部の一例)と、を有する。2つの側壁部44は同形同大であり、長方形状をなす金属板材からなる。2つの側壁部44は、互いの壁面が平行となるように、上下方向に立ち上がった姿勢で配置されている。平行とは、2つの側壁部44の壁面が平行である場合を含むと共に、平行でなくとも実質的に平行と認められる場合も含む。
【0048】
2つの側壁部44の前端部の下縁同士は前接続部45によって接続されており、2つの側壁部44の後端部の下縁同士は後接続部46によって接続されている。前接続部45及び後接続部46により、2つの側壁部44は電気的に接続されている。
【0049】
2つの側壁部44の上縁部は、上方に開口する上開口部47(開口部の一例)とされる。シールド部材43の上面はすべて開口されている。また、2つの側壁部44の下縁部と、前接続部45の後縁部と、後接続部46の前縁部とによって囲まれた領域は下方に開口する下開口部48とされる。
【0050】
図4に示されるように、雄アウターハウジング21の左側壁と、右側壁には、下方に開口する嵌合溝49(固定部の一例)が形成されている。嵌合溝49内に側壁部44が挿入されている。シールド部材43の接続部は、雄アウターハウジング21の下壁の下面に沿うように配されている。なお、シールド部材43は、圧入、ネジ止め、リベット止め、接着、融着、ロック爪による保持構造等、任意の手段によって雄コネクタ12に固定される。
【0051】
[シールド構造50,52]
図2に示されるように、雄コネクタ12のシールド構造50が説明される。雄コネクタ12に取り付けられたシールド部材43の2つの側壁部44は、第1UTPケーブル11を構成する第1電線15の第1並列部17の周囲(左右方向について外方の位置)に配されている。これにより、第1UTPケーブル11を構成する第1電線15の第1並列部17は、側壁部44の周囲に位置するノイズ源から電磁気的にシールドされるようになっている。
【0052】
また、シールド部材43の2つの側壁部44は、第1UTPケーブル11を構成する第1電線15の端部に接続された雄端子18の周囲(左右方向について外方の位置)に配されている。これにより、雄端子18は、側壁部44の周囲に位置するノイズ源から電磁気的にシールドされるようになっている。
【0053】
雄コネクタ12においては、第1UTPケーブル11を構成する第1電線15の第1並列部17と、第1並列部17の端部に接続された雄端子18とは、前後方向について2つの側壁部44の内側に位置している。
【0054】
左右方向について第1並列部17を構成する2本の第1電線15の中間位置を含むと共に前後方向に延びる仮想的な面51に対し、2つの側壁部44は鏡面対称に形成されている。すなわち、仮想的な面51について2つの側壁部44は左右対称に配されている。これにより、第1電線15の第1並列部17と雄端子18の電磁気的な環境が、左右方向について均質化されるようになっている。
【0055】
第1電線15の第1並列部17と雄端子18とは、上下方向について2つの側壁部44の高さ寸法の中央付近に配されている。これにより、第1電線15の第1並列部17と雄端子18の電磁気的な環境が、上下方向について均質化されるようになっている。
【0056】
雌コネクタ13のシールド構造52が説明される。雌コネクタ13と雄コネクタ12とが嵌合した状態において、雌コネクタ13のうち雄コネクタ12のフード部23内に位置する部分の周囲(左右方向について外方の位置)には、2つの側壁部44が位置している。詳細に説明すると、第2UTPケーブル14を構成する第2電線29の第2並列部31のうち、雌端子32の電線接続部53が圧着する部分の周囲(左右方向について外方の位置)に、2つの側壁部44が位置している。これにより、第2UTPケーブル14を構成する第2電線29の第2並列部31は、側壁部44の周囲に位置するノイズ源から電磁気的にシールドされるようになっている。
【0057】
また、シールド部材43の2つの側壁部44は、第2電線29の端部に接続された雌端子32の周囲(左右方向について外方の位置)に配されている。これにより、雌端子32は、側壁部44の周囲に位置するノイズ源から電磁気的にシールドされるようになっている。
【0058】
雌コネクタ13においては、第2電線29の第2並列部31のうち雌端子32の電線接続部53が圧着する部分と、第2並列部31の端部に接続された雌端子32とは、前後方向について2つの側壁部44の内側に位置している。
【0059】
雄コネクタ12と雌コネクタ13とが嵌合した状態において、左右方向について、第1並列部17を構成する2本の第1電線15の間隔と、第2並列部31を構成する2本の第2電線29の間隔とは同じになっている。左右方向について第2並列部31を構成する2本の第2電線29の中間位置を含むと共に前後方向に延びる仮想的な面51に対し、2つの側壁部44は鏡面対称に形成されている。すなわち、仮想的な面51について2つの側壁部44は左右対称に配されている。これにより、第2電線29の第2並列部31と雌端子32の電磁気的な環境が、左右方向について均質化するようになっている。
【0060】
第2電線29の第2並列部31と雌端子32とは、上下方向について2つの側壁部44の高さ寸法の中央付近に配されている。これにより、第2電線29の第2並列部31と雌端子32の電磁気的な環境が、上下方向について均質化するようになっている。
【0061】
[実施形態の製造工程の一例]
続いて、実施形態の製造工程の一例が説明される。製造工程は以下の記載に限定されない。
【0062】
第1UTPケーブル11の端部において第1シース16が皮剥ぎされる。これにより2本の第1電線15が第1シース16の端部から露出する。露出した2本の第1電線15の撚りがほどかれる。各第1電線15の端部のそれぞれに雄端子18が接続される。
【0063】
第2UTPケーブル14に対して、上記と同様の処理がなされることにより、各第2電線29の端部のそれぞれに雌端子32が接続される。
【0064】
雄インナーハウジング22に雄端子18が収容される。雄インナーハウジング22が、雄アウターハウジング21の後方から組み付けられる。雄インナーハウジング22に、雄アウターハウジング21の雄ランス24が後方から係止することにより、雄インナーハウジング22と雄アウターハウジング21とが一体に組み付けられる。
【0065】
金属板材がプレス加工されることによりシールド部材43が形成される。シールド部材43の2つの側壁部44が、雄アウターハウジング21の嵌合溝49に、下方から挿入される。これにより、シールド部材43が雄アウターハウジング21に一体に組み付けられる。これにより雄コネクタ12が形成される。
【0066】
雌インナーハウジング35内に雌端子32が収容される。雌インナーハウジング35が、雌アウターハウジング34の前方から組み付けられる。雌インナーハウジング35に、雌アウターハウジング34の雌ランス36が前方から係止することにより、雌インナーハウジング35と雌アウターハウジング34とが一体に組み付けられる。これにより、雌コネクタ13が形成される。
【0067】
雄コネクタ12のフード部23内に、前方から雌コネクタ13が嵌入される。雌コネクタ13に形成されたロック部42が雄コネクタ12に弾性的に係止する。これにより、雌コネクタ13と雄コネクタ12とが嵌合状態に保持される。
【0068】
[実施形態の作用効果]
続いて、本実施形態の作用効果が説明される。本実施形態によれば、第1並列部17の周囲(左右方向の外方)に配された側壁部44により、第1並列部17において並ぶ2本の第1電線15は、側壁部44の周囲に位置するノイズ源から電磁気的にシールドされる。これにより、第1UTPケーブル11の耐ノイズ性能を向上させることができる。
【0069】
また、本実施形態によれば、第2並列部31の周囲(左右方向の外方)に配された側壁部44により、第2並列部31において並ぶ2本の第2電線29は、側壁部44の周囲に位置するノイズ源から電磁気的にシールドされる。これにより、第2UTPケーブル14の耐ノイズ性能を向上させることができる。
【0070】
本明細書に開示されたシールド部材43によれば、2つの側壁部44の壁面に沿う方向には上開口部47及び下開口部48が形成されているので、シールド部材43の構造を簡素化することができる。これにより、開口部を有しない場合や、上開口部47のみ、または下開口部48のみが設けられた場合に比べて、シールド部材43を軽量化することができる。また、シールド部材43の製造コストを低減させることができる。
【0071】
また、本実施形態によれば、2つの側壁部44は、左右方向について、第1並列部17を構成する2本の第1電線15の中間位置を含むと共に2本の第1電線15が延びる方向に沿う仮想的な面51に対し、鏡面対称に形成されている。同様に、2つの側壁部44は、左右方向について、第2並列部31を構成する2本の第2電線29の中間位置を含むと共に2本の第2電線29が延びる方向に沿う仮想的な面51に対し、鏡面対称に形成されている。
【0072】
上記の構成によれば、第1並列部17を構成する2本の第1電線15の電磁気的な環境を均質にすることができると共に、第2並列部31を構成する2本の第2電線29の電磁気的な環境を均質にすることができる。これにより、ノイズ源が発するノイズが第1電線15及び第2電線29に与える影響を、シールド部材43が設けられない場合に比べて均質化することができる。2本の第1電線15に共通に与えられたノイズは差動通信ケーブルにおいてはキャンセルされる。また、2本の第2電線29に共通に与えられたノイズは差動通信ケーブルにおいてはキャンセルされる。
【0073】
また、本実施形態によれば、前接続部45及び後接続部46は2つの側壁部44と一体に形成されている。上記の構成によれば、シールド部材43の構造を簡素化できるので、シールド部材43の製造コストを低減させることができる。
【0074】
また、本実施形態によれば、2つの側壁部44は、第1電線15に接続された雄端子18、及び第2電線29に接続された雌端子32の周囲に位置している。これにより、雄端子18及び雌端子32に印加されるノイズの影響を低減させることができる。
【0075】
本実施形態に関するワイヤーハーネス10は、2本の第1電線15が撚り合わされてなると共に、2本の第1電線15が並ぶ第1並列部17を有する第1UTPケーブル11と、第1電線15の端部にそれぞれ接続された雄端子18と、雄端子18が収容される雄コネクタ12と、2本の第2電線29が撚り合わされてなると共に、2本の第2電線29が並ぶ第2並列部31を有する第2UTPケーブル14と、第2電線29の端部にそれぞれ接続された雌端子32と、雌端子32が収容される雌コネクタ13と、第1並列部17及び第2並列部31において第1電線15及び第2電線29の周囲に配された導電性を有する2つの側壁部44と、2つの側壁部44を接続する前接続部45及び後接続部46と、を有するシールド部材43と、を備える。これにより、ワイヤーハーネス10の耐ノイズ性能を向上させることができる。
【0076】
また、本実施形態によれば、雄コネクタ12は、シールド部材43が固定される嵌合溝49を有する。これにより、シールド部材43を雄コネクタ12と異なる部材に固定する場合に比べて、ワイヤーハーネス10の構造を簡素化することができる。
【0077】
<計算例>
続いて、本実施形態の作用効果が確認された、コンピュータによりシミュレートされた計算例が説明される。計算例1、計算例2、及び計算例3について、LCL(Longitudinal Conversion Loss)、及びANEXTDS(Alien Near End Cross conversion loss Single end to Differential)が計算された。LCLは電気機器から放出される不要な電気的ノイズ(エミッション)に関する指標であり、ANEXTDSは電気機器が電気的ストレスにさらされた際に耐えうる能力(イミュニティ)の指標である。計算例1、計算例2、及び計算例3について図7から図9を参照して説明される。なお、図7から図9においては、雄コネクタ12は省略されている。
【0078】
本明細書に開示された技術について、計算例2は実施例であり、計算例1及び計算例3は比較例である。
【0079】
[計算例1]
図7A及び図7Bに示されるように、計算例1に用いられたシールド部材60は、2つの側壁部44の下縁同士が、2つの側壁部44と一体に形成された接続部61によって電気的に接続されている。計算例1に関する接続部61は上下方向に開口していない。他の構成は実施形態1と同様である。
【0080】
[計算例2]
図6および図8に示されるように、計算例2には、実施形態1に開示されたシールド部材43が用いられた。
【0081】
[計算例3]
図9に示されるように、計算例3では、シールド部材が取り付けられていない雄コネクタ12が用いられた。他の構成は実施形態1と同様である。
【0082】
[計算方法]
計算例1から計算例3について、ワイヤーハーネスに沿って、1本の電線がノイズ源として配置された状態におけるLCL、及びANEXTDSが計算された。図7から図9に示されるように、電線が配置される場所は5つ設定された。電線の配置場所は以下のとおりである。
位置A:右側の側壁部44の左方
位置B:右側の側壁部44の上方
位置C:右側の電線及び端子の上方
位置D:右側の側壁部44の下方
位置E:右側の電線及び端子の下方
【0083】
計算例(シミュレーション)においては、ディファレンシャルペアを構成するUTPケーブルのうち、第1UTPケーブル11にはディファレンシャルポート1を割り当て、第2UTPケーブル14にはディファレンシャルポート2を割り当てた。ノイズ源となる電線62の後端(第1UTPケーブル11側の端部)にはシングルエンドポート3を割り当て、電線62の前端(第2UTPケーブル14側の端部)にはシングルエンドポート4を割り当てた(図2参照)。
【0084】
LCLは、ディファレンシャルペアを構成するUTPケーブルにコモンモード電圧を入力した際に、ディファレンシャルモード電圧に変化される量を比率にしてデシベル(dB)表現したものであるから、負の値となる。本計算例では、ワイヤーハーネスのエミッション性能はLCLの値が小さいほど優れている。
【0085】
ANEXTDSは、ノイズ源となる電線にシングルエンド電圧を入力した際に、ディファレンシャルペアを構成するUTPケーブルにディファレンシャルモード電圧が誘導される量を比率にしてデシベル(dB)表現したものであるから、負の値となる。本計算例では、ワイヤーハーネスのイミュニティ性能はANEXTDSの値が小さいほど優れている。
【0086】
[結果と考察]
[LCL]
1.計算例1,2,及び3の比較
図10には、位置Aに電線が配された場合において計算された、計算例1,2,及び3のLCLの結果が示される。後に説明されるが、位置Aに電線が配された条件でLCLが最も増加するので、各計算例を比較するための代表値として位置Aに電線が配された場合のLCLが例示されて説明される。
【0087】
計算例1,2,及び3のLCLは、コモンモードの周波数の増加に従って単調に増加した。LCLの値は、計算例3が最も大きく、計算例2及び計算例1は、計算例3に比べて小さかった。計算例1は、計算例2に比べてわずかに小さかった。エミッションに関しては、計算例2と計算例1とはほぼ同等の性能を有していることが分かった。計算例2に係るシールド部材43は下開口部48を有しているので、開口部を持たない計算例1に係るシールド部材60に比べて軽量化することができる。
【0088】
計算例3にはシールド部材43が配されていない。このため、並列部を構成する2本の電線及び端子の右方にノイズ源としての電線が配されると、並列部を構成する2本の電線及び端子の電磁気的な環境が、左右方向について不均一になる。これにより、ディファレンシャルモード電圧が大きくなり、LCLが増加すると考えられる。
【0089】
これに対し、計算例1、及び2には、並列部を構成する2本の電線及び端子の左右方向の外方には、それぞれ、側壁部44が配されている。これにより、2つの側壁部44の間に位置する並列部の近傍の電磁気的な環境が、シールド部材43が配されない場合に比べて均質化される。この結果、並列部を構成する2本の電線及び端子の右方にノイズ源としての電線が配された場合でも、ディファレンシャルモード電圧が大きくならず、LCLが減少したと考えられる。
【0090】
コモンモードの周波数が100MHzにおけるLCLの値は、計算例1が-73.0dBであり、計算例2が-70.3dBであり、計算例3が-51.3dBであった。エミッション性能について、計算例2は計算例3に比べて19.0dB向上しており、計算例1は計算例3に比べて21.7dB向上した。
【0091】
2.計算例3について
図11に示されるように、計算例3のLCLは、位置A,B,C,D,及びEについて、コモンモードの周波数の増加に従って単調に増加した。位置AのLCLが最も大きく、位置B及びDのLCLが次に大きく、位置C及びEのLCLが最も小さかった。位置AのLCLが最も大きい理由は、上記したように、並列部を構成する2本の電線及び端子の電磁気的な環境が左右方向について不均一になったためと考えられる。
【0092】
3.計算例2について
図12に示されるように、計算例2の位置Aに関するLCLは、コモンモードの周波数の増加に従って単調に増加した。位置B,C,D,及びEに関するLCLは、コモンモードの周波数が800MHzから1000MHzにおいてやや減少する傾向となった。各位置のLCLについては、位置AのLCLが最も大きく、位置B及びDのLCLが次に大きく、位置C及びEのLCLが最も小さかった。各位置に関するLCLの大小関係については、上記した計算例3と同様なので、説明が省略される。
【0093】
4.計算例1について
図13に示されるように、計算例1の位置Aに関するLCLは、コモンモードの周波数の増加に従って単調に増加した。位置B,C,D,及びEに関するLCLは、コモンモードの周波数が700MHzから1000MHzにおいてやや減少する傾向となった。各位置のLCLについては、位置AのLCLが最も大きく、位置BのLCLが二番目に大きく、位置C及びDのLCLが三番目に大きく、位置EのLCLが最も小さかった。
【0094】
[ANEXTDS]
1.計算例1,2,及び3の比較
図14には、位置Aに電線が配された場合において計算された、計算例1,2,及び3のANEXTDSの結果が示される。後に説明されるが、位置Aに電線が配された条件でANEXTDSが最も増加するので、各計算例を比較するための代表値として位置Aに電線が配された場合のANEXTDSが例示されて説明される。
【0095】
計算例1,2,及び3のANEXTDSは、ノイズ源の周波数の増加に従って概ね増加する傾向を示し、ノイズ源の周波数が600MHzから1000MHZでやや減少する傾向を示した。ANEXTDSの値は、計算例3が最も大きく、計算例2及び計算例1は、計算例3に比べて小さかった。計算例1は、計算例2に比べてわずかに小さかった。イミュニティに関しては、計算例2と計算例1とはほぼ同等の性能を有していることが分かった。上記したように、計算例2に係るシールド部材43は下開口部48を有しているので、開口部を持たない計算例1に係るシールド部材60に比べて軽量化することができる。
【0096】
計算例1,2,及び3のANEXTDSの大小関係については、上記したLCLと同様に考えることができるので、重複する説明が省略される。
【0097】
ノイズ源の周波数が100MHzにおけるANEXTDSの値は、計算例1が-56.1dBであり、計算例2が-51.8dBであり、計算例3が-40.7dBであった。エミッション性能について、計算例2は計算例3に比べて11.1dB向上しており、計算例1は計算例3に比べて15.4dB向上した。
【0098】
2.計算例3について
図15に示されるように、計算例3のANEXTDSは、位置A,B,C,D,及びEについて、ノイズ源の周波数の増加に従って単調に増加した。位置AのANEXTDSが最も大きく、位置B及びDのANEXTDSが次に大きく、位置C及びEのANEXTDSが最も小さかった。位置A,B,C,D,及びEに係るANEXTDSの大小関係については、上記したLCLと同様に考えることができるので、重複する説明が省略される。
【0099】
3.計算例2について
図16に示されるように、計算例2の位置Aに関するANEXTDSは、ノイズ源の周波数の増加に従って増加する傾向を示し、ノイズ源の周波数が600MHzから1000MHzにおいてやや減少する傾向を示した。
【0100】
4.計算例1について
図17に示されるように、計算例1の位置Aに関するANEXTDSは、ノイズ源の周波数の増加に従って増加する傾向を示し、ノイズ源の周波数が700MHzから1000MHZにおいて減少する傾向を示した。
【0101】
<実施形態2>
次に、本開示の実施形態2が、図18を参照しつつ説明される。本実施形態においては、雌コネクタ70は、雄コネクタ71のフード部72内に収容されている。これにより、第2UTPケーブル14の第2シース30の後端部は、2つの側壁部44の間に位置するようになっている。
【0102】
[第1接続部73]
第1UTPケーブル11の第1シース16の端部寄りの位置には、第1接続部73(接続部の一例)が取り付けられている。第1接続部73は、導電性を有する金属板材を所定の形状にプレス加工してなる。第1接続部73は、環状をなすと共に、第1シース16の端部寄りの位置に外嵌する第1外嵌部74(外嵌部の一例)と、第1外嵌部74に連なって左右方向に延出された第1延出部75(延出部の一例)と、を有する。第1延出部75は左方、及び右方に延びた細長い板状をなしている。第1延出部75の先端部は、左右方向の内方に折り返されている。
【0103】
[第2接続部76]
第2UTPケーブル14の第2シース30の端部寄りの位置には、第2接続部76(接続部の一例)が取り付けられている。第2接続部76は、第2外嵌部77(外嵌部の一例)と、第2延出部78(延出部の一例)とを有する。第2接続部76は第1接続部73と同形同大なので、重複する説明が省略される。
【0104】
[雄コネクタ71]
雄端子18が雄インナーハウジング22内に収容された状態で、雄コネクタ71には、第1接続部73の第1延出部75に対応する位置に、第1挿通窓79が貫通されている。この第1挿通窓79内に第1延出部75が挿通されるようになっている。第1挿通窓79に挿通された第1延出部75の先端部は、左右方向について内方から、2つの側壁部44に接触するようになっている。これにより、2つの側壁部44が、第1接続部73によって電気的に接続されるようになっている。
【0105】
[雌コネクタ70
雌端子32が雌インナーハウジング35内に収容された状態で、雌コネクタ70には、第2接続部76の第2延出部78に対応する位置に、第2挿通窓80が貫通されている。この第2挿通窓80内に第2延出部78が挿通されるようになっている。第2挿通窓80に挿通された第2延出部78の先端部は、左右方向について内方から、2つの側壁部44に接触するようになっている。これにより、2つの側壁部44が、第2接続部76によって電気的に接続されるようになっている。
【0106】
上記以外の構成については、実施形態1と略同様なので、同一部材については同一符号を付し、重複する説明が省略される。
【0107】
本実施形態によれば、第1電線15のうち、第1電線15を一括して包囲する第1シース16の端部から露出した部分が第1並列部17とされており、第1接続部73は、第1シース16の端部に外嵌された第1外嵌部74と、第1外嵌部74から左右方向に延びると共に2つの側壁部44に接触する第1延出部75と、を有する。
【0108】
また、第2電線29のうち、第2電線29を一括して包囲する第2シース30の端部から露出した部分が第2並列部31とされており、第2接続部76は、第2シース30の端部に外嵌された第2外嵌部77と、第2外嵌部77から左右方向に延びると共に2つの側壁部44に接触する第2延出部78と、を有する。
【0109】
上記の構成によれば、第1シース16の端部に第1外嵌部74を外嵌することにより、第1シース16内に位置する2本の第1電線15の撚りが戻ってしまうことを抑制することができる。同様に、第2シース30の端部に第2外嵌部77を外嵌することにより、第2シース30内に位置する2本の第2電線29の撚りが戻ってしまうことを抑制することができる。
【0110】
また、2本の第1電線15の撚り戻しを抑制する部材を、2つの側壁部44を電気的に接続するために用いることができるので、部品点数を削減することができる。同様に、2本の第2電線29の撚り戻しを抑制する部材を、2つの側壁部44を電気的に接続するために用いることができるので、部品点数を削減することができる。これにより、ワイヤーハーネス10、及びシールド構造50,52の製造コストを低減することができる。
【0111】
<実施形態3>
次に、本開示の実施形態3が、図19を参照しつつ説明される。本実施形態においては、シールド部材90の2つの側壁91は、それぞれ、前後方向に延びると共に間隔を空けて並ぶ2つのスリット92を有する。スリット92は、上下方向について側壁91の中央付近に形成されている。2つのスリット92の前後方向についての長さ寸法は同じである。
【0112】
上記以外の構成については、実施形態1と略同様なので、同一部材については同一符号を付し、重複する説明が省略される。
【0113】
上記の構成によれば、シールド部材90を軽量化することができる。また、雄コネクタ12に、スリット92内に嵌入する部材を設けることにより、シールド部材90を雄コネクタ12に対して確実に固定することができる。
【0114】
<他の実施形態>
本開示は上記記述及び図面によって説明した実施形態に限定されるものではなく、例えば次のような実施形態も本明細書に開示された技術の技術的範囲に含まれる。
【0115】
(1)シールド部材は、上方のみが開口していてもよく、また、下方のみが開口していてもよい。
【0116】
(2)2つの側壁部44は、仮想的な面51に対して鏡面対称でなくてもよい。
【0117】
(3)2つの側壁部44を電気的に接続する接続部は、2つの側壁部44の前端部においては2つの側壁部44の上縁部同士を接続し、後端部においは下縁部同士を接続する構成としてもよいし、2つの側壁部44の前端部及び後端部において上下方向の中央付近で2つの側壁部44同士を接続する構成としてもよい。2つの側壁部44は、上下方向について任意の位置で接続される構成とすることができる。
【0118】
(4)シールド部材43は雄コネクタ12に外嵌される構成としたが、これに限られず、雄コネクタ12の雄キャビティの内部に内嵌される構成としてもよい。
【0119】
(5)端子を有しないツイストペアケーブルの並列部にシールド部材を適用してもよい。
【0120】
(6)雄コネクタ12と異なる部材に、シールド部材43が取り付けられる構成としてもよい。
【0121】
(7)シールド部材43は、溶接、切削、鋳造等、任意の手法により形成されてもよい。
【符号の説明】
【0122】
10: ワイヤーハーネス
11: 第1UTPケーブル
12: 雄コネクタ
13: 雌コネクタ
14: 第2UTPケーブル
15: 第1電線
16: 第1シース
17: 第1並列部
18: 雄端子
19: 電線接続部
20: 雄タブ
21: 雄アウターハウジング
22: 雄インナーハウジング
23: フード部
24: 雄ランス
29: 第2電線
30: 第2シース
31: 第2並列部
32: 雌端子
33: 接続筒部
34: 雌アウターハウジング
35: 雌インナーハウジング
36: 雌ランス
41: ロックアーム
42: ロック部
43: シールド部材
44: 側壁部
45: 前接続部
46: 後接続部
47: 上開口部
48: 下開口部
49: 嵌合溝
0: シールド構造
51: 仮想的な面
52: シールド構造
53: 電線接続部
60: シールド部材
61: 接続部
62: 電線
70: 雌コネクタ
71: 雄コネクタ
72: フード部
73: 第1接続部
74: 第1外嵌部
75: 第1延出部
76: 第2接続部
77: 第2外嵌部
78: 第2延出部
79: 第1挿通窓
80: 第2挿通窓
90: シールド部材
91: 側壁
92: スリット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19