(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
F02D 41/20 20060101AFI20221109BHJP
F02D 41/14 20060101ALI20221109BHJP
F02D 41/34 20060101ALI20221109BHJP
F02M 51/00 20060101ALI20221109BHJP
F02M 51/06 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
F02D41/20
F02D41/14
F02D41/34
F02M51/00 A
F02M51/06 M
(21)【出願番号】P 2019041574
(22)【出願日】2019-03-07
【審査請求日】2021-07-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 雅司
(72)【発明者】
【氏名】福田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】南嶋 克哉
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-009745(JP,A)
【文献】特開2014-005740(JP,A)
【文献】特開2017-025803(JP,A)
【文献】特開2018-084171(JP,A)
【文献】特許第5840262(JP,B1)
【文献】国際公開第2004/053317(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00-45/00
F02M 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料噴射弁から燃料を噴射制御させる噴射制御装置であって、
噴射指令をアクティブとして入力すると前記燃料噴射弁にピーク電流を印加するための通電指示信号を出力する制御部(6、14)と、
前記燃料噴射弁に流れる電流を検出する電流検出部(23)と、を備え、
前記制御部は、前記ピーク電流に達するまでの目標電流となる理想電流プロファイル(PI)の積算電流と前記電流検出部の検出電流の積算電流との積算電流差に基づいて前記通電指示信号の出力オフ時間を補正
し、
前記電流検出部の検出電流が所定の電流閾値(I
t3
)に達する到達時間を検出する到達時間検出部(6)を備え、
前記制御部は、前記到達時間及び前記所定の電流閾値に基づいて前記通電指示信号の出力オフ時間を補正する噴射制御装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記到達時間に基づいて予め定められた通電指示時間の出力オフ時間の基準値を基準として前記通電指示時間の出力オフ時間を補正する
請求項1記載の噴射制御装置。
【請求項3】
前記所定の電流閾値(I
t3)に達する前記到達時間に基づいてピーク電流推定値(I
pa3)を推定するピーク電流推定部(6)を備え、
前記制御部は、前記ピーク電流推定値に基づいて前記通電指示信号の出力オフ時間を補正した後の積算電流が前記理想電流プロファイルの積算電流と等しくなるように前記通電指示信号の出力オフ時間を補正する
請求項1又は2記載の噴射制御装置。
【請求項4】
燃料噴射弁から燃料を噴射制御させる噴射制御装置であって、
噴射指令をアクティブとして入力すると前記燃料噴射弁にピーク電流を印加するための通電指示信号を出力する制御部(6、14)と、
前記燃料噴射弁に流れる電流を検出する電流検出部(23)と、を備え、
前記制御部は、前記ピーク電流に達するまでの目標電流となる理想電流プロファイル(PI)の積算電流と前記電流検出部の検出電流の積算電流との積算電流差に基づいて前記通電指示信号の出力オフ時間を補正し、
前記制御部は、複数の電流閾値(I
t1
、I
t2
)に達する複数の到達時間までの積算電流を用いた積算電流差に基づいて前記通電指示信号の出力オフ時間を補正する噴射制御装置。
【請求項5】
前記複数の電流閾値(I
t1、I
t2)に達する前記複数の到達時間に基づいてピーク電流推定値(I
pa1)を推定するピーク電流推定部(6)を備え、
前記制御部は、前記燃料噴射弁の通電電流が前記複数の電流閾値のうち最後の電流閾値(I
t2)に到達してから前記ピーク電流推定値に達するまでの間に補正時間(ΔTQ)を算出し前記通電指示信号の出力オフ時間を補正する
請求項4記載の噴射制御装置。
【請求項6】
前記複数の電流閾値(I
t1、I
t2)に達する前記複数の到達時間に基づいてピーク電流推定値(I
pa1)を推定するピーク電流推定部(6)を備え、
前記制御部は、前記ピーク電流推定値に基づいて前記通電指示信号の出力オフ時間を補正した後の積算電流が前記理想電流プロファイルの積算電流と等しくなるように前記通電指示信号の出力オフ時間を補正する
請求項4又は5記載の噴射制御装置。
【請求項7】
前記制御部は、
前記噴射指令がノンアクティブとされるタイミングが前記燃料噴射弁の通電電流
による前記理想電流プロファイル(PI)
の前記ピーク電流に達する前であるか後であるかを判定し、この判定した結果により前記出力オフ時間の補正時間を段階的に切り換える
請求項1から6の何れか一項に記載の噴射制御装置。
【請求項8】
前記制御部は、前記通電指示信号を出力してから予め定められた所定時間(T0)の前であるか後であるかを判定し、この判定した結果により前記出力オフ時間の補正時間を段階的に切り換える
請求項1から6の何れか一項に記載の噴射制御装置。
【請求項9】
噴射開始時のタイミングにおいて前記燃料噴射弁に印加する昇圧電圧を検出する昇圧電圧検出部(6、15)と、
前記制御部は、前記昇圧電圧検出部により噴射開始時のタイミングで検出された昇圧電圧を昇圧電圧基準値(Vsta)と比較し、前記昇圧電圧基準値より低いことを条件として補正を実行し、前記昇圧電圧基準値以上であることを条件として補正を実行しない
請求項1から6の何れか一項に記載の噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁を開弁・閉弁制御する噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
噴射制御装置は、燃料噴射弁を開弁・閉弁することで燃料を内燃機関に噴射するために用いられる(例えば、特許文献1参照)。噴射制御装置は、電気的に駆動可能な燃料噴射弁に電流を通電することで開弁制御する。近年では、指令噴射量に基づく通電電流の理想電流プロファイルが定められており、噴射制御装置は、理想電流プロファイルに基づいて燃料噴射弁に電流を印加することで開弁制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料噴射弁の通電電流の勾配が、周辺温度環境、経年劣化等の様々な要因を理由として理想電流プロファイルよりも低下してしまうと、実噴射量が指令噴射量から大きく低下してA/F値の悪化や失火の虞がある。
【0005】
これらを防ぐためには、予めばらつきを見込んで燃料噴射弁への通電指示時間を長めに調整することが望ましいが、通電指示時間を長めに確保すると反対に燃費が悪化してしまう虞がある。
本発明の目的は、予めばらつきを見込んで燃料噴射弁への通電指示時間を調整しておく必要なく、燃費を極力悪化させることなくA/F値の悪化や失火を対策できるようにした噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1記載の発明は、燃料噴射弁から燃料を噴射制御させる噴射制御装置を対象としている。制御部は、噴射指令信号を入力すると前記燃料噴射弁にピーク電流を印加するための前記通電指示信号を出力する。電流検出部は、燃料噴射弁に流れる電流を検出する。制御部は、ピーク電流に達するまでの目標電流となる理想電流プロファイルの積算電流と電流検出部の検出電流の積算電流との積算電流差に基づいて通電指示信号の出力オフ時間を補正する。制御部は、燃料噴射弁の通電電流を電流検出部により検出して通電指示信号の出力オフ時間を補正するため、出力オフ時間を遅らせることができ燃料噴射弁の積算電流を理想電流プロファイルの積算電流に極力合わせることができる。これにより、燃費を悪化させずに失火対策できる。到達時間検出部は、電流検出部の検出電流が所定の電流閾値に達する到達時間を検出する。制御部は、到達時間及び所定の電流閾値に基づいて通電指示信号の出力オフ時間を補正する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】第1実施形態における噴射制御装置の電気的構成図
【
図2】燃料噴射弁の通電電流の変化、指示TQ、実行TQの関係を説明する図
【
図3A】積算電流と噴射量の相関関係のシミュレーション結果を表す図
【
図3B】噴射量と通電時間と昇圧電圧の相関関係のシミュレーション結果を表す図
【
図4】第2実施形態における燃料噴射弁の通電電流の変化、指示TQ、実行TQの関係を説明する図
【
図8】第3実施形態において燃料噴射弁の通電電流の変化、指示TQ、実行TQの関係を示し、ピーク電流推定値の算出方法の説明を示す図
【
図11】第4実施形態において多段噴射時における昇圧電圧の変化を示すタイミングチャート
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、噴射制御装置の幾つかの実施形態について図面を参照しながら説明する。以下に示す各実施形態において、先行する実施形態で説明した内容に対応する部分には同一の参照符号を付して重複する説明を省略することがある。
【0009】
(第1実施形態)
図1から
図3Bは、第1実施形態の説明図を示す。
図1に示すように、電子制御装置(ECU:Electronic Control Unit)101は、例えば自動車などの車両に搭載された内燃機関に燃料を噴射供給するソレノイド式の燃料噴射弁(インジェクタとも称される)2a,2bを駆動する装置である。ここでは2気筒分の構成例を示しているが、4気筒、6気筒でも適用できる。
【0010】
電子制御装置101は、昇圧回路4、噴射指令信号を出力するマイクロコンピュータ(以下、マイコンと略す)5、制御IC6、及び駆動回路7を図示形態に備える。昇圧回路4は、例えばインダクタ8、スイッチング素子としてのMOSトランジスタ9、電流検出抵抗10、ダイオード11、及び昇圧コンデンサ12を図示形態に備えた昇圧チョッパ回路によるDCDCコンバータにより構成される。昇圧回路4の形態は、この図示の形態に限られず、様々な形態を適用できる。
【0011】
マイコン5は、CPU、ROM、RAM、I/Oなど(何れも図示せず)を備えて構成され、ROMに記憶されたプログラムに基づいて各種処理動作を行う。このマイコン5は、外部に設けられた図示しないセンサからのセンサ信号に基づいて噴射指令タイミングを算出し、この噴射指令タイミングにおいて燃料の噴射指令信号を制御IC6に出力する。
【0012】
制御部としての制御IC6は、例えばASICによる集積回路装置であり、例えばロジック回路、CPUなどによる制御主体と、RAM、ROM、EEPROMなどの記憶部(何れも図示せず)、コンパレータを用いた比較器などを備え、ハードウェア及びソフトウェアに基づいて各種制御を実行するように構成される。マイコン5、制御IC6は一体に構成しても良い。特に、本実施形態の場合には演算処理の高速化を必要とするため、マイコン5が制御IC6の機能を一体化すると共にDFPを備える構成を適用しても良い。本形態では、マイコン5と制御IC6が別体で構成されている形態を適用して説明する。制御IC6は、電流通電制御部14、昇圧電圧検出部としての昇圧制御部15、及び、電流検出部としての電流モニタ部23としての機能を備える。制御IC6は、到達時間検出部、ピーク電流推定部、昇圧電圧検出部として機能する。制御IC6は、その他の機能も備えているが、その図示及び説明は省略する。
【0013】
昇圧制御部15は、例えば昇圧コンデンサ12の陽極とグランドとの間の電圧を検出すると共に、電流検出抵抗10に流れる電流を検出し、MOSトランジスタ9をオン・オフ制御することで昇圧回路4の昇圧動作を制御する機能ブロックである。昇圧制御部15が、MOSトランジスタ9をオン・オフスイッチング制御することでインダクタ8に蓄積したエネルギをダイオード11を通じて整流し、昇圧コンデンサ12に徐々に蓄積する。これにより、昇圧コンデンサ12は電源電圧VBよりも高い昇圧電圧Vboostを保持する。
【0014】
昇圧制御部15は、昇圧コンデンサ12の陽極とグランドとの間の電圧をモニタすることで昇圧電圧Vboostを監視し、昇圧電圧Vboostが所定の昇圧開始電圧Vstaに達する(下回る)と昇圧制御を開始し、この昇圧電圧Vboostが当該昇圧開始電圧Vstaを超えるように設定された昇圧完了電圧Vfuまで昇圧制御する。これにより、通常動作中には、昇圧制御部15が、昇圧電圧Vboostを昇圧完了電圧Vfuに制御しつつ当該昇圧電圧Vboostを出力できる。昇圧電圧Vboostの昇圧完了電圧Vfuは通常65V程度である。
【0015】
電流モニタ部23は、気筒選択スイッチ18a、18bとグランドとの間に設けられており、例えばコンパレータによる比較部及びA/D変換器等(何れも図示せず)を用いて燃料噴射弁2a,2bに流れる電流を電流検出抵抗24a,24bからモニタするブロックであり、燃料噴射弁2a,2bに流れる電流をモニタする機能ブロックである。
【0016】
燃料噴射弁2a、2bと気筒選択スイッチ18a、18bとの間の電圧を検出するための電圧モニタ(符号なし)が設けられている。電流通電制御部14は、燃料噴射弁2a,2bを開弁・閉弁するために電流を通電制御するための機能ブロックであり、電圧モニタにより出力端子1b,1cの電圧を検出すると共に電流モニタ部23による検出電流に基づいて、放電スイッチ16、定電流スイッチ17及び気筒選択スイッチ18a及び18bをオン・オフ制御する。
【0017】
駆動回路7は、燃料噴射弁2a,2bに昇圧電圧Vboostを放電オン・オフするための放電用の上流側スイッチとしての放電スイッチ16、電源電圧VBを用いて定電流制御するための定電流制御用の上流側スイッチとしての定電流スイッチ17、及び、各燃料噴射弁2a、2b毎に設けられる気筒選択用の下流側スイッチとしての気筒選択スイッチ18a、18bを主として構成される。また駆動回路7は、その他の周辺回路、例えば、ダイオード19、20、21a、21b、ブートストラップ回路22、及び電流検出抵抗24a、24bを図示形態に接続して構成されている。
【0018】
放電スイッチ16、定電流スイッチ17、及び気筒選択スイッチ18a、18bは、例えばnチャネル型のMOSトランジスタを用いて構成される。これらのスイッチ16、17、18a、18bは、他種類のトランジスタ(例えばバイポーラトランジスタ)を用いて構成しても良いが、本実施形態では、nチャネル型のMOSトランジスタを用いた場合について説明する。
【0019】
以下では、放電スイッチ16のドレイン、ソース、ゲートと記載した場合には、それぞれ、放電スイッチ16を構成するMOSトランジスタのドレイン、ソース、ゲートを意味する。同様に、定電流スイッチ17のドレイン、ソース、ゲートと記載した場合には、それぞれ、定電流スイッチ17を構成するMOSトランジスタのドレイン、ソース、ゲートを意味する。同様に、気筒選択スイッチ18a、18bのドレイン、ソース、ゲートと記載した場合には、それぞれ、気筒選択スイッチ18a、18bを構成するMOSトランジスタのドレイン、ソース、ゲートを意味する。
【0020】
放電スイッチ16のドレインには、昇圧回路4から昇圧電圧Vboostが与えられている。また放電スイッチ16のソースは電子制御装置101の上流側の出力端子1aに接続されており、放電スイッチ16のゲートには制御IC6の電流通電制御部14から制御信号が与えられている。これにより、放電スイッチ16は、制御IC6の電流通電制御部14の制御に応じて昇圧回路4の昇圧電圧Vboostを出力端子1aに通電できる。
【0021】
定電流スイッチ17のドレインには電源電圧VBが供給されている。また、定電流スイッチ17のソースはダイオード19を順方向に介して上流側の出力端子1aに接続されている。また定電流スイッチ17のゲートには制御IC6の電流通電制御部14から制御信号が与えられる。これにより定電流スイッチ17は、制御IC6の電流通電制御部14の制御に応じて電源電圧VBを出力端子1aに通電できる。
【0022】
ダイオード19は、昇圧回路4の昇圧電圧Vboostの出力ノードから電源電圧VBの出力ノードへの逆流防止用に接続されている。上流側の出力端子1aとグランドとの間には、還流ダイオード20が逆方向接続されている。この還流ダイオード20は、燃料噴射弁2a,2bへの通電電流を遮断したときに、燃料噴射弁2a、2bに流れている電流を還流する経路に接続されている。
【0023】
またブートストラップ回路22が、制御IC6の電流通電制御部14から放電スイッチ16のソース及び定電流スイッチ17のソースにそれぞれ接続されており、このブートストラップ回路22のブートストラップ作用で昇圧した電位により、各スイッチ16、17をスイッチング制御できる。
【0024】
また上流側の出力端子1aと下流側の出力端子1b、1cとの間には、燃料噴射弁2a、2bがそれぞれ接続されている。下流側の出力端子1bとグランドとの間には、気筒選択スイッチ18aのドレインソース間と電流検出抵抗24aとが直列接続されている。下流側の出力端子1cとグランドとの間には、気筒選択スイッチ18bのドレインソース間と電流検出抵抗24bとが直列接続されている。電流検出抵抗24a、24bは、電流検出用に設けられるもので例えば0.03Ω程度に設定されている。
【0025】
気筒選択スイッチ18a,18bのドレインは、それぞれ下流側の出力端子1b,1cに接続されている。気筒選択スイッチ18a,18bのソースは、電流検出抵抗24a,24bを通じてグランドに接続されている。気筒選択スイッチ18a,18bのゲートは、制御IC6の電流通電制御部14に接続されている。これにより、気筒選択スイッチ18a、18bは、制御IC6の電流通電制御部14の制御に基づいて燃料噴射弁2a、2bに対して選択的に通電切替えできる。
【0026】
また、下流側の出力端子1b,1cと、昇圧回路4による昇圧電圧Vboostの出力ノードとの間には、回生用のダイオード21a,21bがそれぞれ順方向接続されている。これらのダイオード21a,21bは、それぞれ燃料噴射弁2a,2bの閉弁時においてそれぞれ流れる回生電流の通電経路に接続されており、昇圧コンデンサ12に向けて電流を回生する回路である。これにより、ダイオード21a,21bは、燃料噴射弁2a,2bの閉弁時において昇圧回路4の昇圧コンデンサ12に回生電流を通電できるように構成されている。
【0027】
以下、上記基本的構成の作用、動作を説明する。ここでは、燃料噴射弁2aを開弁対象とすると共に、燃料噴射弁2aからパーシャルリフト噴射する場合の説明を行う。パーシャルリフト噴射では、燃料噴射弁2aが完全に開弁完了するまでに弁を閉塞する噴射処理が実行される。
バッテリ電圧による電源電圧VBが電子制御装置101に与えられると、マイコン5及び制御IC6は起動する。制御IC6の昇圧制御部15は、昇圧制御パルスをMOSトランジスタ9のゲートに出力することで当該MOSトランジスタ9をオン・オフ制御する。MOSトランジスタ9がオンすると、電流がインダクタ8、MOSトランジスタ9、電流検出抵抗10を通じて流れる。またMOSトランジスタ9がオフすると、インダクタ8の蓄積エネルギに基づく電流がダイオード11を通じて昇圧コンデンサ12に流れ、昇圧コンデンサ12の端子間電圧が上昇する。
【0028】
制御IC6の昇圧制御部15が、昇圧制御パルスを出力することでMOSトランジスタ9のオン・オフ制御を繰り返すと、昇圧コンデンサ12に昇圧された昇圧電圧Vboostは、電源電圧VBを超えた所定の昇圧完了電圧Vfuに充電される。
【0029】
他方、マイコン5が、
図2に示すように、燃料噴射弁2aの噴射指令信号のアクティブレベル「H」を制御IC6に出力すると、制御IC6の電流通電制御部14は、ピーク電流制御を開始し、気筒選択スイッチ18aをオン制御すると共に、放電スイッチ16及び定電流スイッチ17をオン制御する。
マイコン5は、オンタイミングt0にてピーク電流制御の通電開始時に要求噴射量を演算し指示TQを演算する。指示TQは、オンタイミングt0にて放電スイッチ16をオンしてから燃料噴射弁2aに通電する時間を示している。
【0030】
制御IC6は、指令噴射量に基づく燃料噴射弁2aの通電電流EIの目標電流となる理想電流プロファイルPI(
図2の破線参照)を内部メモリに記憶しており、電流通電制御部14の制御により理想電流プロファイルPIに基づいて燃料噴射弁2aに昇圧電圧Vboostを印加する。
制御IC6は、指示TQの通電指示時間に基づいて理想電流プロファイルPIの示すピーク電流I
pkに達するまで燃料噴射弁2aの端子間に昇圧電圧Vboostを印加し続ける。すると、燃料噴射弁2aの通電電流EIが急激に上昇し開弁する。
図2に示すように、燃料噴射弁2aの通電電流EIは、燃料噴射弁2aの内部構成に基づいて非線形的に変化する。
【0031】
図2に示すように、燃料噴射弁2aの通電電流EIの勾配が、周辺温度環境、経年劣化等の様々な要因を理由として理想電流プロファイルPIよりも低くなると、実噴射量が指令噴射量から大きく低下してA/F値が悪化したり失火する虞がある。
そこで制御IC6は、電流モニタ部23により電流検出抵抗24aに流れる電流をA/D変換器によりサンプリングすることでリアルタイムに検出して積算電流を算出し、理想電流プロファイルPIの積算電流と電流モニタ部23の検出電流の積算電流との積算電流差に基づいて指示TQに対して実行TQの通電指示信号の出力オフ時間を補正する。
リアルタイムに積算電流差を求める形態を示すが、間欠的、定期的に求める形態に適用しても良い。
【0032】
図2に示す例では、タイミングt0~taまでの電流モニタ部23による検出電流の積算電流は理想電流プロファイルPIの積算電流と比較して小さい。このため、制御IC6は、指示TQの通電指示信号の出力オフ時間を遅く設定すると良い(実行TQ参照)。
補正時間ΔTQは、予め定められた所定時間としても良いが、タイミングt0~taにおける理想電流プロファイルPIの積算電流と検出電流の積算電流との間の積算電流差に基づく時間を算出して設定することが望ましい。
すると、制御IC6の電流通電制御部14は、実行TQの通電指示信号の出力オフ時間の示すタイミングtbに達するまで、放電スイッチ16、定電流スイッチ17、及び気筒選択スイッチ18aをオン制御し続け、実行TQの示す出力オフ時間に達したタイミングtbにて放電スイッチ16、定電流スイッチ17、気筒選択スイッチ18aをオフ制御する。
【0033】
図3Aに示すように、燃料噴射弁2aの通電電流EIの積算電流値と実噴射量には正の相関関係が存在する。つまり燃料噴射弁2aの通電電流EIの積算電流値が増加すれば実噴射量も増加する。また駆動用の昇圧電圧VboostがV1、V2(>V1)に変化しても実噴射量は変化しにくいことがわかる。このため、制御IC6が、
図2に示すように指示TQの通電指示信号の出力オフ時間を遅らせることで、燃料噴射弁2aの通電電流EIの積算電流を理想電流プロファイルPIの積算電流に極力合わせることができる。この結果、積算電流の不足分を補うことで目標噴射量に対して不足する噴射量を補うことができる。
【0034】
これにより、失火を防ぐために予めばらつきを見込んで通電指示時間を調整しておく必要がなくなり、通電指示時間をリアルタイムで延長できる。この結果、燃費を極力悪化させることなく失火対策できる。
【0035】
また発明者によれば、
図3Bに示すように、燃料噴射弁2aの通電時間が所定時間T0より長くなれば昇圧電圧Vboostに差があったとしても噴射量の誤差は少ないが、燃料噴射弁2aの通電時間が所定時間T0よりも短くなると昇圧電圧Vboost=V2、V3(<V2)の差による噴射量の誤差が大きくなることが判明している。
【0036】
したがって、制御IC6は、通電指示信号を出力してから予め定められた所定時間T0の前であるか後であるかを判定し、この前後の判定結果により指示TQの補正時間ΔTQ(噴射オフ時間の補正時間)を段階的に切り換えるようにすると良く、これにより精度良く補正できるようになる。このとき、所定時間T0の前であるときには昇圧電圧Vboostの値に基づいて補正時間ΔTQを決定し、所定時間T0を超えれば補正時間ΔTQを所定値としても良い。
【0037】
また、この誤差の大小の分かれ目の所定時間T0は、理想電流プロファイルPIのピーク電流I
pkを通電する指示TQの通電指示時間の基準値(
図2ではt0~ta)付近に定められている。このため、燃料噴射弁2aの通電電流がピーク電流I
pkに到達する前に通電オフすると昇圧電圧Vboostの差に応じて積算電流差が大きくなり、ピーク電流I
pk付近から通電オフしたとしても昇圧電圧Vboostに差があっても積算電流差は小さくなることになる。
【0038】
したがって制御IC6は、燃料噴射弁2aの通電電流が理想電流プロファイルPIのピーク電流Ipkの到達の前であるか後であるかを判定し、この前後の判定結果により指示TQの補正時間ΔTQ(噴射オフ時間の補正時間)を段階的に切り換えると良く、これにより精度良く補正できるようになる。このとき、例えばピーク電流Ipkの到達の前であるときには昇圧電圧Vboostの値に基づいて補正時間ΔTQを設定すると良い。
【0039】
(第2実施形態)
図4から
図7は、第2実施形態の説明図を示す。第2実施形態では、理想電流プロファイルPIと燃料噴射弁2aの通電電流EIの積算電流差を簡易的に算出し、第1実施形態に比較して演算量を少なくした形態を説明する。
図4に示すように、マイコン5が、燃料噴射弁2aの噴射指令信号のアクティブレベル「H」を制御IC6に出力すると、制御IC6の電流通電制御部14は、オンタイミングt0からピーク電流制御を開始し、気筒選択スイッチ18aをオン制御すると共に、放電スイッチ16及び定電流スイッチ17をオン制御する。
【0040】
マイコン5は、ピーク電流制御の開始時に要求噴射量を演算し、指示TQ、補正係数α1、β1を演算する。指示TQは、放電スイッチ16のオンタイミングt0から燃料噴射弁2aに通電する時間を示している。補正係数α1は、積算電流差A1(後述参照)を推定するために用いられる係数であり、燃料噴射弁2aの負荷特性等に応じて予め算出される係数である。補正係数β1は、実際のピーク電流推定値Ipa1を推定するために用いられる係数であり、燃料噴射弁2aの負荷特性等に応じて予め算出される係数である。
【0041】
制御IC6は、電流閾値I
t1に達する理想到達時間t
1nominalから電流閾値I
t2に達する理想到達時間t
2nominalまでの理想電流プロファイルPIと、実際に電流閾値I
t1に達する到達時間t
1から電流閾値I
t2に達する到達時間t
2までの燃料噴射弁2aの通電電流EIとの間の積算電流差ΣΔI1を算出する。
積算電流差ΣΔI1は、非線形の電流曲線に囲われた領域となるため詳細に算出するにはリアルタイムに電流検出する必要を生じ演算量が多くなり演算負荷が大きくなりやすい。このため、
図5に示すように、(t、I)=(t
1nominal、I
t1)、(t
1、I
t1)、(t
2nominal、I
t2)、(t
2、I
t2)、を頂点とした台形の面積を積算電流差ΣΔI1と見做して簡易的に算出すると良い。
すると、制御IC6は、電流閾値I
t1、I
t2に達する到達時間t
1、t
2を検出するだけで積算電流差ΣΔI1を簡易的に算出できる。また制御IC6は、下記の(1)式に示すように、予め算出された補正係数α1を積算電流差ΣΔI1に乗ずることで、タイミングt0~taまでの理想電流プロファイルPIと燃料噴射弁2aの通電電流EIとの積算電流差A1を近似算出できる。
【数1】
【0042】
次に制御IC6は、
図6に示すように、噴射指令信号のオンタイミングt0から電流閾値I
t1に達する到達時間t
1までの電流勾配を算出し、補正係数β1を切片として加算し、指示TQの示す通電指示時間の基準値を経過した時点のピーク電流推定値I
pa1を算出する。このとき(2)式に基づいてピーク電流推定値I
pa1を算出すると良い。
【数2】
【0043】
次に制御IC6は、積算電流差A1を補うための補正時間ΔTQを算出する。
図7に示すように、タイミングtaより前では、理想電流プロファイルPIが燃料噴射弁2aの通電電流EIよりも大きいが、タイミングtaの後においては、燃料噴射弁2aの通電電流EIは理想電流プロファイルPIより大きくなる。
【0044】
このため、理想電流プロファイルPIと燃料噴射弁2aの通電電流EIとの積算電流差は、タイミングt0~taにおける積算電流差A1と、タイミングtaから燃料噴射弁2aの通電電流EIが流れ終わるタイミングtcまでの積算電流差A2との差になる。タイミングta~tcの積算電流差A2は、指示TQが補正時間ΔTQの延長により追加される差分となる。
【0045】
制御IC6は、積算電流差A2を詳細に算出しても良いが
図7に示すように電流曲線で囲われる領域となるため演算負荷が大きくなる。そこで、制御IC6は、積算電流差A2の演算時間を削減するため、
図7に示す積算電流差ΔΣI1を積算電流差A2と見做して算出すると良い。すなわち、制御IC6はピーク電流推定値I
pa1を長辺とし補正時間ΔTQを短辺とする長方形を積算電流差ΔΣI1と見做し、この積算電流差ΔΣI1を積算電流差A2と同等であると見做して算出すると良い。すると制御IC6は、長方形の面積を算出することで積算電流差A2を簡易的に算出できるようになり演算量を劇的に少なくできる。
そして制御IC6は、積算電流差A1が積算電流差A2(≒ΔTQ×I
pa1)と等しくなる条件を満たす補正時間ΔTQを算出すると良く、下記の(3)式に基づいて補正時間ΔTQを算出すると良い。
【数3】
【0046】
次に制御IC6は、
図4のタイミングt4に示すように、電流モニタ部23による検出電流がピーク電流推定値I
pa1に達するタイミングtbまでの間に、指示TQ+補正時間ΔTQを実行TQ(実効通電指示時間)として通電指示時間を補正する。これにより、指示TQを簡易的に補正でき通電指示時間を延長できる。
【0047】
図4には実際の噴射量の例を示している。破線が理想電流プロファイルPIに沿って電流通電したときの理想噴射量B1を示し、ハッチングにより囲われた部分が補正を実行しない場合を想定した成行噴射量B2を示し、実線により示した部分が補正後噴射量B3を示している。補正を実行することで補正後噴射量B3が理想噴射量B1に近付くことがわかる。
本実施形態によれば、第1実施形態と同様に、失火を防ぐために予めばらつきを見込んで通電指示時間を調整しておく必要がなくなり、通電指示時間を延長できる。この結果、燃費を極力悪化させることなく失火対策できる。しかも第1実施形態に比較して、噴射制御中にリアルタイムに燃料噴射弁2aの通電電流を検出しながら積算電流差を算出する必要がなくなり、演算量を劇的に少なくできる。
本形態によれば、制御IC6は、複数の電流閾値I
t1、I
t2のうち最後の電流閾値I
t2に到達してからピーク電流推定値I
pa1に達するまでの間に補正時間ΔTQを算出し通電指示信号の出力オフ時間を補正している。このため、余裕をもって通電指示信号の出力オフ時間を補正できる。
【0048】
前述では(1)式~(3)式に基づいて通電指示信号の出力オフ時間を補正する形態を示したが、この数式は一例を示すものであり、この方法に限られるものではない。制御IC6は、複数の電流閾値It1、It2に達する複数の到達時間t1、t2までの積算電流を用いた積算電流差に基づいて通電指示信号の出力オフ時間を補正すれば良い。
制御IC6は、予め定められた通電指示時間の基準値を基準として到達時間t1、t2に基づいて通電指示時間の出力オフ時間を補正している。このため、通電指示時間の出力オフ時間を補正するときには基準値を増減すれば良くなり、演算処理を極力簡略化できる。
【0049】
(第3実施形態)
図8から
図10は、第3実施形態の説明図を示す。第3実施形態もまた、簡易的に理想電流プロファイルPIと燃料噴射弁2aの通電電流EIの積算電流差を算出し、第1実施形態に比較して演算量を少なくした形態を説明する。
図8に示すように、マイコン5が、タイミングt0において、燃料噴射弁2aの噴射指令信号のアクティブレベル「H」を制御IC6に出力すると、制御IC6の電流通電制御部14は、オンタイミングt0にてピーク電流制御を開始し、気筒選択スイッチ18aをオン制御すると共に、放電スイッチ16及び定電流スイッチ17をオン制御する。
【0050】
マイコン5は、ピーク電流制御の開始時に要求噴射量を演算し、指示TQ、補正係数α3、β3を演算する。指示TQは、通電指示時間を示している。補正係数α3は、積算電流差A3(後述参照)を推定するための係数であり、燃料噴射弁2aの負荷特性等に応じて予め算出されている係数である。補正係数β3は、ピーク電流推定値Ipa3を推定するために用いられる係数であり、燃料噴射弁2aの負荷特性等に応じて予め算出されている係数である。
【0051】
制御IC6は、噴射指令信号のオンタイミングt0から電流閾値I
t3に達する到達時間t
3までの電流勾配を算出して補正係数β3を切片として加算し、指示TQの示す通電指示時間の基準値を経過した時点のピーク電流推定値I
pa3を算出する。制御IC6は、下記の(4)式に基づいてピーク電流推定値I
pa3を算出すると良い。
【数4】
【0052】
次に、制御IC6は、噴射指令信号のオンタイミングt0から所定のピーク電流I
pkに至るまでの理想電流プロファイルPIと、オンタイミングt0からピーク電流推定値I
pa3に至るまでの燃料噴射弁2aの通電電流EIとの間の積算電流差A3を推定する。
制御IC6は、
図9に示すように、理想電流プロファイルPIの所定のピーク電流I
pkと、指示TQと、先に算出されたピーク電流推定値I
pa3とにより作成される三角形の面積を積算電流差ΣΔI3として求め、補正係数α3を乗じて積算電流差A3を推定すると良い。制御IC6は、下記の(5)式に基づいて電流差の積算電流差A3を推定すると良い。
【数5】
【0053】
次に制御IC6は、積算電流差A3を補うための補正時間ΔTQを算出する。
図7に示すように、タイミングtaより前では、理想電流プロファイルPIが燃料噴射弁2aの通電電流EIよりも大きいが、タイミングtaの後においては、燃料噴射弁2aの通電電流EIは理想電流プロファイルPIよりも大きくなる。
【0054】
このため、理想電流プロファイルPIと燃料噴射弁2aの通電電流EIとの積算電流差は、タイミングt0~taにおける積算電流差A3と、タイミングtaから燃料噴射弁2aの通電電流EIが流れ終わるタイミングtcまでの積算電流差A4との差になる。タイミングta~tcの積算電流差A4は、指示TQが補正時間ΔTQの延長により追加される差分となる。
【0055】
制御IC6は、積算電流差A4を詳細に算出しても良いが、第2実施形態と同様に、積算電流差A4の演算時間を削減するため、
図10に示す積算電流差ΔΣI3を積算電流差A2と見做して積算電流差ΔΣI3を算出すると良い。すなわち、ピーク電流推定値I
pa3を長辺とし補正時間ΔTQを短辺とした長方形を積算電流差ΔΣI3とし積算電流差A4と同等であると見做して補正時間ΔTQを算出すると良い。すると制御IC6は、長方形の面積を算出することで積算電流差A4を簡易的に算出できるようになり、演算量を劇的に少なくできる。
そして制御IC6は、積算電流差A3が積算電流差A4(≒ΔTQ×I
pa3)と等しくなる条件を満たす補正時間ΔTQを算出すると良く、下記の(6)式に基づいて補正時間ΔTQを算出すると良い。
【数6】
【0056】
次に制御IC6は、検出電流がピーク電流推定値Ipa3に達するまでの間に、指示TQ+補正時間ΔTQを実行TQ(実効通電指示時間)として通電指示時間を補正する。これにより、指示TQを補正でき通電指示時間を延長できる。
本実施形態によれば、第1、第2実施形態と同様に、失火を防ぐために予めばらつきを見込んで通電指示時間を調整しておく必要がなくなり、通電指示時間を延長できる。この結果、燃費を極力悪化させることなく失火対策できる。しかも、第1実施形態に比較して噴射制御中にリアルタイムで積算電流差を算出する必要がなくなり演算量を少なくできる。
前述では(4)式~(6)式に基づいて通電指示信号の出力オフ時間を補正する形態を示したが、この数式は一例を示すものであり、この方法に限られるものではない。すなわち、制御IC6は、電流モニタ部23の検出電流が所定の電流閾値It3に達する到達時間t3を検出し、到達時間t3及び所定の電流閾値It3に基づいて通電指示信号の出力オフ時間を補正すれば良く、これにより通電指示時間の出力オフ時間を補正できる。
制御IC6は、予め定められた通電指示時間の基準値を基準として到達時間t3に基づいて通電指示時間の出力オフ時間を補正している。このため、通電指示時間の出力オフ時間を補正するときには基準値を増減すれば良くなり、演算処理を極力簡略化できる。
【0057】
(第4実施形態)
図11は第4実施形態の説明図を示す。第4実施形態では、噴射間のインターバルTIが短い多段噴射を例に挙げて説明する。
制御IC6が、燃料噴射弁2aに噴射制御するとき放電スイッチ16をオンすることで昇圧電圧Vboostを燃料噴射弁2aに印加できる(
図11のタイミングta1~ta4)。昇圧電圧Vboostが燃料噴射弁2aに印加されると、昇圧回路4の昇圧コンデンサ12の蓄積された電荷が消費され昇圧電圧Vboostが昇圧完了電圧Vfuから低下する。通常、制御IC6は、複数段連続して燃料噴射すると、昇圧コンデンサ12の蓄積電力が多く消費され昇圧電圧Vboostが大きく低下する。
【0058】
昇圧電圧Vboostが昇圧開始電圧Vstaにまで低下すると、昇圧制御部15は、昇圧制御パルスをMOSトランジスタ9に出力することで昇圧制御を開始する(
図10のタイミングtb)。そして昇圧制御部15は昇圧電圧Vboostが昇圧完了電圧Vfuに達すると昇圧制御を停止する(
図10のタイミングtb2)。
【0059】
特に
図10に示すように、制御IC6がインターバルTIの短い多段噴射を実行した場合には、後段の噴射にて昇圧電圧Vboostが連続して低下しやすくなる。
図10に示すように、昇圧電圧Vboostが昇圧電圧基準値Vstaよりも高く昇圧完了電圧Vfuに近い場合には、燃料噴射弁2aの通電電流EIが理想電流プロファイルPIに概ね一致するものの、昇圧電圧Vboostが昇圧電圧基準値Vstaよりも低くなると、燃料噴射弁2aの通電電流EIが理想電流プロファイルPIよりも大幅に低下しやすくなることが判明している。このため、昇圧電圧Vboostが低下し続けていると、実噴射量が指示噴射量を満たさなくなりやすい。
【0060】
そこで制御IC6は、噴射開始時のタイミングta1~ta4において昇圧電圧Vboostをモニタし、昇圧電圧Vboostが昇圧電圧基準値Vstaより低いことを条件として補正を実行し、昇圧電圧Vboostが昇圧電圧基準値Vsta以上であるときには補正を実行しなくても良い。これにより、昇圧電圧Vboostを十分確保可能な場合には、指示TQの通電指示時間だけ駆動し、昇圧電圧Vboostが所定の昇圧電圧基準値Vstaよりも低下しているときに補正を実行することで補正時間ΔTQだけ長く通電指示時間を延長できる。
本形態によれば、制御IC6の電流通電制御部14は、噴射開始時のタイミングta1~ta4において燃料噴射弁2aに印加する昇圧電圧Vboostを検出して昇圧電圧基準値Vstaと比較し、昇圧電圧基準値Vstaより低いことを条件として補正を実行し、昇圧電圧基準値Vsta以上であることを条件として補正を実行しない。これにより、必要なときに補正を実行できる。
本実施形態では、昇圧開始電圧Vstaと昇圧電圧基準値Vstaとが同一値の形態を示したが互いに異なっていても良い。
【0061】
(他の実施形態)
本発明は、前述した実施形態に限定されるものではなく、種々変形して実施することができ、その要旨を逸脱しない範囲で種々の実施形態に適用可能である。例えば以下に示す変形又は拡張が可能である。前述した複数の実施形態を必要に応じて組み合わせて構成しても良い。
【0062】
また前述実施形態では、説明の簡略化のため、2気筒分の燃料噴射弁2a,2bを表記し、1気筒分の燃料噴射弁2aを駆動する場合を例示して説明したが、燃料噴射弁2bを駆動する場合でも同様であり、4気筒、6気筒などの他の気筒数の場合においても同様の内容を実施できる。また駆動回路7の構成は、前述実施形態に示した構成に限られるものではなく、適宜変更しても良い。
【0063】
第2実施形態では台形の面積を算出することで簡易的に積算電流差ΣΔI1を算出する形態を示したが、これに限られない。第3実施形態では、理想電流プロファイルPIの所定のピーク電流Ipkと、指示TQと、ピーク電流推定値Ipa3とにより作成される三角形の面積を算出し、簡易的に積算電流差ΣΔI3を算出する形態を示したが、これに限られるものでない。
【0064】
燃料噴射弁2aの通電電流EIは、ピーク電流Ipkに達する前、ピーク電流Ipkに達した後の何れにおいても非線形的に変化する。このため、三角形、長方形、台形などの多角形を用いて電流の積算電流を近似して算出することで、簡易的に積算電流差を算出すると良い。これにより演算量を劇的に削減できる。
【0065】
マイコン5、制御IC6が提供する手段及び/又は機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェア及びそれを実行するコンピュータ、ソフトウェア、ハードウェア、あるいはそれらの組み合わせによって提供することができる。例えば制御装置がハードウェアである電子回路により提供される場合、1又は複数の論理回路を含むデジタル回路、または、アナログ回路により構成できる。また、例えば制御装置がソフトウェアにより各種制御を実行する場合には、記憶部にはプログラムが記憶されており、制御主体がこのプログラムを実行することで当該プログラムに対応する方法が実施される。
【0066】
前述実施形態では、放電スイッチ16、定電流スイッチ17、気筒選択スイッチ18a,18bは、MOSトランジスタを用いて説明を行ったが、バイポーラトランジスタなど他種類のトランジスタ、各種のスイッチを用いても良い。
【0067】
前述した複数の実施形態を組み合わせて構成しても良い。また、特許請求の範囲に記載した括弧内の符号は、本発明の一つの態様として前述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであって、本発明の技術的範囲を限定するものではない。前述実施形態の一部を、課題を解決できる限りにおいて省略した態様も実施形態と見做すことが可能である。また、特許請求の範囲に記載した文言によって特定される発明の本質を逸脱しない限度において、考え得るあらゆる態様も実施形態と見做すことが可能である。
【0068】
本開示は、前述した実施形態に準拠して記述したが、本開示は当該実施形態や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範畴や思想範囲に入るものである。
【符号の説明】
【0069】
図面中、101は電子制御装置(噴射制御装置)、2a,2bは燃料噴射弁、6は制御IC(到達時間検出部、ピーク電流推定部、昇圧電圧検出部)、9はMOSトランジスタ(スイッチング素子)、14は電流通電制御部(制御部)、15は昇圧制御部(昇圧電圧検出部)、23は電流モニタ部(電流検出部)を示す。