(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】鋳造装置および鋳造方法
(51)【国際特許分類】
B22D 18/04 20060101AFI20221109BHJP
B22D 18/08 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B22D18/04 W
B22D18/08 501A
B22D18/04 P
B22D18/04 U
(21)【出願番号】P 2019047948
(22)【出願日】2019-03-15
【審査請求日】2021-09-16
(73)【特許権者】
【識別番号】300041192
【氏名又は名称】UBEマシナリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100100077
【氏名又は名称】大場 充
(74)【代理人】
【識別番号】100136010
【氏名又は名称】堀川 美夕紀
(74)【代理人】
【識別番号】100130030
【氏名又は名称】大竹 夕香子
(74)【代理人】
【識別番号】100203046
【氏名又は名称】山下 聖子
(72)【発明者】
【氏名】三吉 博晃
【審査官】中西 哲也
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-155557(JP,A)
【文献】特開2007-253234(JP,A)
【文献】特開2005-125401(JP,A)
【文献】特開2008-213034(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22D 18/00-18/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湯口を通って溶湯が充填される鋳造キャビティを有する鋳造金型と、
前記湯口を閉塞する閉塞位置と前記湯口を開放する開放位置との間を移動する閉塞体と、
前記溶湯が貯留される注湯室と、
前記注湯室に貯留される前記溶湯の湯面を上昇させるためにガスによる加圧力を付与するガス圧付与機構と、
前記閉塞体の背後に備えられる減圧室を介して、前記鋳造キャビティおよび前記湯口を減圧する減圧機構と、を備え、
前記閉塞位置にある前記閉塞体で前記湯口を閉塞した状態で、前記減圧機構により前記鋳造キャビティおよび前記湯口を減圧するとともに、前記ガス圧付与機構により前記溶湯にガスにより前記加圧力を付与し、
次いで、前記閉塞体を前記開放位置に移動させ、かつ、前記閉塞体を前記開放位置に維持し、
次いで、前記閉塞体を前記閉塞位置に前進させるとともに、前記ガス圧付与機構による前記加圧力の解除および前記減圧機構による前記減圧の解除を順に行う、
ことを特徴とする鋳造装置。
【請求項2】
前記閉塞体が前記閉塞位置に前進した後に、前記鋳造キャビティの前記溶湯にメタル圧を付加して前記溶湯の凝固収縮分を補給してから、前記減圧の解除が行われる、
請求項1に記載の鋳造装置。
【請求項3】
前記減圧機構は、
第1真空タンクと、前記第1真空タンクに接続され前記鋳造キャビティに連通するキャビティ吸引管と、
前記第1真空タンクと独立した第2真空タンクと、前記第2真空タンクに接続され前記
減圧室に連通する減圧室吸引管と、を備える、
請求項2に記載の鋳造装置。
【請求項4】
前記減圧室吸引管からの前記減圧室を介する減圧を先行して行った後に、
前記キャビティ吸引管からの前記鋳造キャビティの減圧を行う、
請求項
3に記載の鋳造装置。
【請求項5】
前記閉塞体で前記湯口を閉塞した状態で、前記減圧および前記加圧力を付与して、前記溶湯が前記閉塞体に接してから、前記閉塞体を前記開放位置に移動させる、
請求項1~請求項
4のいずれか一項に記載の鋳造装置。
【請求項6】
注湯室に貯留される溶湯が湯口を通して鋳造キャビティに充填される鋳造方法であって、
前記湯口を閉塞する閉塞位置と前記湯口を開放する開放位置との間を移動する閉塞体が、
前記湯口を閉塞した状態で、
前記閉塞体の背後に備えられた減圧室を介して減圧力を付与することにより前記鋳造キャビティと前記湯口および前記湯口よりも下方の空間を減圧するとともに、前記溶湯の湯面にガスによる加圧力を付与する第1ステップと、
前記減圧および前記加圧力を付与したままで、前記湯口の閉塞を解除して前記溶湯を前記鋳造キャビティに充填する第2ステップと、
前記湯口を閉塞するとともに、前記加圧力および前記減圧の解除を順に行う、第3ステップと、
を備えることを特徴とする鋳造方法。
【請求項7】
前記第3ステップにおいて、
前記鋳造キャビティの前記溶湯の凝固収縮分を補給してから、前記減圧が解除される、請求項
6に記載の鋳造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材料を溶かした溶湯を金型内に充填して製品を製造する鋳造装置及び鋳造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、アルミホイールやエンジンブロック等のアルミニウム複合製品などを低圧鋳造法又は低中圧鋳造法により製造するための竪型鋳造装置として、例えば特許文献1が知られている。
特許文献1の竪型鋳造装置は、ガス排出通路を備えたキャビティを形成することができる下側の固定金型及び上側の可動金型と、キャビティ内へ溶湯を下方から供給充填するための真空吸引手段と、を備える。また、特許文献1の竪型鋳造装置は、キャビティ内に鋳込まれた溶湯がキャビティ内を充填した後、固定金型に設けられている溶湯流入ゲートを塞ぐ閉塞ピンと、閉塞された金型キャビティ内の溶湯を加圧する加圧ステムと、を備える。
特許文献1の竪型鋳造装置は、型締完了後にキャビティ内を真空吸引することにより減圧し、溶湯を吸い上げる。これにより溶湯はキャビティに充填される。キャビティ内の溶湯の流れが停止すると、吸引ガスの流れも停止して、直ちに閉塞ピンで金型キャビティのゲートを閉塞する。これによりキャビティの溶湯が逆流しないように閉塞した後、直ちに加圧ステムを進出させ加圧し、半凝固状態の溶湯をキャビティに補充充填する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1においては、真空吸引することによりキャビティを減圧して溶湯を充填する。しかし、キャビティの減圧によりキャビティに溶湯を充填する速度は速いとはいえず、したがって、溶湯をキャビティに充填している間に溶湯温度が低下する。そうすると、充填完了前に凝固層が形成されてしまうため、閉塞ピンによりゲートを閉塞する際に、湯境や湯じわなどが生じるおそれがある。
そこで本発明は、溶湯をキャビティへ充填する時間を短縮できる鋳造装置および鋳造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の鋳造装置は、湯口を通って溶湯が充填される鋳造キャビティを有する鋳造金型と、湯口を閉塞する閉塞位置と湯口を開放する開放位置との間を往復移動する閉塞体と、溶湯が貯留される注湯室と、注湯室に貯留される溶湯の湯面を上昇させるためにガスによる加圧力を付与するガス圧付与機構と、鋳造キャビティおよび湯口を減圧する減圧機構と、を備える。
本発明の鋳造装置は、閉塞位置にある閉塞体で湯口を閉塞した状態で、減圧機構により鋳造キャビティおよび湯口を減圧するとともに、ガス圧付与機構により溶湯にガスにより加圧力を付与し、次いで、閉塞体を開放位置に移動させ、かつ、閉塞体を開放位置に維持し、次いで、閉塞体を閉塞位置に前進させるとともに、ガス圧付与機構による加圧力の解除および減圧機構による減圧の解除を順に行う。
【0006】
本発明における鋳造装置は、好ましくは、閉塞体が閉塞位置に前進した後に、鋳造キャビティの溶湯にメタル圧を付加して溶湯の凝固収縮分を補給してから、減圧の解除が行われる。
本発明における減圧機構は、好ましくは、閉塞体の背後に減圧室を備え、この減圧室を介して減圧がなされる。
【0007】
本発明における減圧機構は、好ましくは、第1真空タンクと、第1真空タンクに接続され鋳造キャビティに連通するキャビティ吸引管と、第1真空タンクと独立した第2真空タンクと、第2真空タンクに接続され減圧室に連通する減圧室吸引管と、を備える。この減圧機構において、好ましくは、減圧室吸引管からの減圧室を介する減圧を先行して行った後に、キャビティ吸引管からの鋳造キャビティの減圧を行う。
本発明において、好ましくは、閉塞体で湯口を閉塞した状態で減圧および加圧力を付与して、溶湯が閉塞体に接してから、閉塞体を開放位置に移動させる。
【0008】
本発明は、注湯室に貯留される溶湯が湯口を通して鋳造キャビティに充填される鋳造方法をも提供する。
本発明は、第1ステップ、第2ステップおよび第3ステップを備える。
第1ステップは、湯口を閉塞した状態で、鋳造キャビティと湯口および湯口よりも下方の空間を減圧するとともに、溶湯の湯面にガスによる加圧力を付与する。
第2ステップは、減圧および加圧力を付与したままで、湯口の閉塞を解除して溶湯を鋳造キャビティに充填する。
第3ステップは、湯口を閉塞するとともに、加圧力および減圧の解除を順に行う。
【0009】
本発明の第3ステップにおいて、好ましくは、鋳造キャビティの溶湯の凝固収縮分を補給してから、減圧が解除される。
【発明の効果】
【0010】
本発明の鋳造装置によれば、溶湯を鋳造キャビティに充填する前に、閉塞体で湯口を閉塞しながら、鋳造キャビティおよび湯口を減圧するのに加えて、ガスによる加圧力で湯面を上昇させた後に、閉塞体を開放位置に移動させる。これにより、鋳造キャビティへの溶湯の急速な充填を可能にする。したがって、本発明の鋳造装置によれば、温度低下が少ない状態で溶湯の充填が可能となるので、閉塞体による加圧力の伝播範囲が均一に広がるため、高品質の鋳造品を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態に係る鋳造装置の概略構成を示す断面図である。
【
図2】
図1の鋳造装置を用いて鋳造を行う過程を示し、(a)は閉塞ピンで湯口を塞いでおり、(b)はキャビティを減圧吸引しており、(c)は加圧室の溶湯の湯面にガスによる加圧力を作用させている。
【
図3】
図1の鋳造装置を用いて鋳造を行う過程を示し、(a)は閉塞ピンを後退させて湯口を開放し、(b)は閉塞ピンを前進させて湯口を閉塞し、(c)はさらに閉塞ピンを前進させてキャビティの溶湯にメタル圧を付加する。
【
図4】
図1の鋳造装置を用いて行われる鋳造の手順を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態に係る鋳造装置1は、
図1に示すように、溶湯Mを保持する保持室10と、保持室10から供給される溶湯Mを収容して加圧する加圧室20と、鋳造金型40の下方に配置されて加圧室20から供給される溶湯Mを収容する注湯室30と、を備える。注湯室30に貯留される溶湯が鋳造金型40に向けてガス加圧により充填される。
【0013】
鋳造装置1は、保持室10、加圧室20および注湯室30の順に通って供給される溶湯Mを鋳造する鋳造金型40と、鋳造金型40の鋳造キャビティ42を真空吸引する減圧機構50と、を備える。
鋳造装置1は、鋳造金型40が備える閉塞体としてのセンターピン49による湯口47の閉塞と鋳造キャビティ42の真空吸引による減圧および溶湯Mの加圧とのタイミングを計ることにより、鋳造キャビティ42に溶湯Mを迅速に充填する。鋳造装置1は、これらの動作を司る制御器70を備える。
【0014】
[保持室10、加圧室20および注湯室30]
保持室10は、断面図である
図1には示されない側壁を有することにより、保持室10は周囲が取り囲まれた空間を有している。保持室10は、
図1に示すように、加圧室20との境界をなす仕切り11と、加圧室20と連なる溶湯通路13と、溶湯通路13と保持室10とを区切る底壁15と、を備える。
【0015】
底壁15には保持室10から加圧室20への溶湯Mの供給を制御する開閉弁17が設けられている。開閉弁17は、底壁15に形成された貫通孔17Aと、貫通孔17Aを進退する弁体17Bと、弁体17Bを支持する支持軸17Cと、支持軸17Cを昇降させる駆動源であるシリンダ17Dと、を備えている。
弁体17Bは、例えば鋳造装置1による鋳造工程の初期の状態において、加圧室20に常に一定量の溶湯Mが収容されるように、制御器70の指示に基づいて開閉が制御される。
【0016】
保持室10および加圧室20の上端開口は、蓋14によって閉じられていれる。保持室10および加圧室20のそれぞれにおいて蓋14と溶湯Mの間は密閉空間となっている。
保持室10に対応する蓋14には支持軸17Cが貫通するとともにシリンダ17Dが載せられている。また、保持室10に対応する蓋14には、保持室10に溶湯Mを供給するための供給口16が設けられている。
【0017】
[減圧機構]
また、加圧室20に対応する蓋14には、ガス供給路21が設けられている。
ガス供給路21は、ガス供給源22と接続される。ガス供給源22には加圧状態の例えば不活性ガスが貯留されており、この不活性ガスはガス供給路21を通って加圧室20に供給され加圧室20の溶湯Mの湯面MSを押して加圧力を付与する。ガス供給路21を通じたガスによる加圧力は、制御器70の指示に従って付与される。
これらの加圧室20、ガス供給路21およびガス供給源22は、本発明におけるガス圧付与機構を構成する。
【0018】
加圧室20に対応する蓋14には、加圧室20内の溶湯Mの湯面に向けて延びる湯面検知棒23が設けられている。湯面検知棒23は、保持室10から開閉弁17を介して加圧室20に供給される溶湯Mの湯面MSが所望するレベルに達したか否かを検知する。制御器70は、湯面検知棒23が湯面MSを検知したことの情報を取得すると、開閉弁17を閉じるようにシリンダ17Dに指示する。
【0019】
保持室10および加圧室20には、例えば溶湯Mの溶融状態を維持するために必要な温度、例えば、約500℃~700℃に、貯留された溶湯Mを加熱するための図示しないヒータを設置することができる。
【0020】
[鋳造金型40]
鋳造金型40は、固定金型41と固定金型41の上方に設けられる可動金型43を備える。
図1に示すように固定金型41と可動金型43が型閉めされると、固定金型41と可動金型43の間の空隙である鋳造キャビティ42が形成される。注湯室30から供給される溶湯Mはこの鋳造キャビティ42に吐出される。固定金型41と可動金型43の中心部には、後述するセンターピン49が昇降するための空隙であるピン通路44が形成されている。
鋳造金型40は他に固定金型41を支持する固定板、可動金型43を支持する可動板および固定板、可動板の付帯物などの要素を備えるが、図示が省略されている。また、図示を省略しているが、固定金型41、可動金型43および後述するセンターピン49などに冷却水を流す通路を形成することができる。
鋳造金型40において、固定金型41と可動金型43の合わせ面は、空気の吸引をさけるために、シールを設けることが好ましい。また、鋳造金型40には、鋳造品を押し出す図示を省略する押出ピンが設けられるが、押出ピンと金型との隙間についても同様にシールを設けることが好ましい。
【0021】
鋳造金型40は、注湯室30の上に設けられる給湯管45と、給湯管45の上に設けられる湯口47と、を備える。給湯管45および湯口47は、注湯室30に貯留された溶湯Mを
固定金型41と可動金型43から形成される鋳造キャビティ42に供給する通路となる。
【0022】
鋳造金型40は、軸線方向Cが鉛直方向Vに沿うように配置されるセンターピン49を備えている。センターピン49は、小径部49Aと、小径部49Aよりも上方に位置する大径部49Bと、を備える。
センターピン49は、湯口47およびピン通路44を塞ぐ閉塞位置と湯口47およびピン通路44を開放する開放位置との間を昇降移動が可能とされている。なお、センターピン49が閉塞位置から開放位置に移動することを後退といい、その逆を前進ということがある。
図1におけるセンターピン49は閉塞位置にあり、
図3(a)におけるセンターピン49は開放位置にある。センターピン49が閉塞位置にあれば、鋳造キャビティ42への溶湯Mの注湯はできないが、センターピン49が閉塞位置から開放位置に後退すれば、鋳造キャビティ42への溶湯Mの充填ができるようになる。
なお、センターピン49の移動のための駆動源の図示は省略されているが、油圧シリンダ、その他の動力発生源が適用される。
【0023】
鋳造金型40は、センターピン49の昇降運動を案内する筒状ガイド48を備える。筒状ガイド48は、下方端が可動金型43の内周縁に固定されており、ピン通路44を取り囲んでいる。センターピン49は、
図1に示す閉塞位置において、小径部49Aが湯口47を閉塞し、大径部49Bは筒状ガイド48に支持されている。センターピン49が、
図3(a)に示す開放位置にいると、大径部49Bは筒状ガイド48に支持されるが、小径部49Aの周囲には筒状ガイド48との間に溶湯Mが通る空隙である湯溜り46が形成される。このように、センターピン49は小径部49Aが主に閉塞の機能を担う。また、鋳造キャビティ24に溶湯Mが充填された後に、大径部49Bが湯溜まり46まで前進すれば、溶湯Mにメタル圧を付加する押湯としての機能を担う。
【0024】
筒状ガイド48は、センターピン49の大径部49Bが摺動するその内周面48Cを備えている。大径部49Bの外周面と内周面48Cの間には、気体は通過することができるが、溶湯Mは通過できない程度の微小な隙間が設けられている。したがって、筒状ガイド48は、センターピン49と摺接する範囲においてはセンターピン49により溶湯に対して液密にシールされている。また、筒状ガイド48の上端には封止蓋48Aが設けられており、センターピン49と封止蓋48Aの間には液密な減圧室48Bが形成される。
また、センターピン49の小径部49Aの外周面と湯口47の内周面の間の隙間も、大径部49Bの外周面と内周面48Cの間の隙間と同様に、溶湯に対して液密にシールされている。
【0025】
[減圧機構50]
減圧機構50は、第1真空タンク51Aと、第1真空タンク51Aと鋳造金型40を繋ぐキャビティ吸引管52と、第1真空タンク51Aと独立した第2真空タンク51Bと、第2真空タンク51Bと減圧室48Bを繋ぐ減圧室吸引管53と、を備える。キャビティ吸引管52には、真空タンク51による鋳造金型40への真空吸引の作用のオン・オフを選択する開閉弁55が設けられている。図示を省略するが、減圧室吸引管53にも同様の開閉弁が設けられている。
真空タンク51Aおよび真空タンク51Bは、図示を省略する真空ポンプが接続されることで、内部が所定の真空度に保たれている。
【0026】
キャビティ吸引管52は鋳造キャビティ42に連通し、主に鋳造キャビティ42の内部を真空吸引により減圧する。キャビティ吸引管52には、チルベント54が設けられている。チルベント54は、溶湯Mのキャビティ吸引管52への浸入を防止する。
減圧室吸引管53は封止蓋48Aを貫通して減圧室48Bに連通し、主にセンターピン49の背後から湯口47を真空吸引により減圧する。開閉弁55は集合管53Cに設けられており、開閉弁55が閉じられるとキャビティ吸引管52および減圧室吸引管53の両者を介した真空吸引は行われない。
図1には閉じられている開閉弁55が示されている。開閉弁55が開かれるとキャビティ吸引管52および減圧室吸引管53の両者を介した真空吸引が行われる。
図2(b)、
図3(a)には開いている開閉弁55が示されている。
【0027】
[鋳造手順]
次に、鋳造装置1による鋳造の手順を
図2、
図3および
図4を参照して説明する。
【0028】
[湯口の閉塞]
鋳造装置1による鋳造手順は、
図2(a)および
図4(S101)に示すように、センターピン49が閉塞位置において湯口47を閉塞した状態で始められる。また、センターピン49の大径部49Bの外周面と内周面48Cとの間、および、センターピン49の小径部49Aの外周面と湯口47の内周面との間には、気体は通過することができるが、溶湯Mは通過できない程度の微小な隙間が設けられている。
【0029】
[真空吸引による減圧その1]
次に、減圧室吸引管53の図示を省略する開閉弁を開く。そうすると、センターピン49の大径部49Bと筒状ガイド48の間およびセンターピン49の小径部49Aと湯口47の間を介して、湯口47と湯面MSの間の空間、つまり溶湯Mが通過する経路が真空吸引されるため、当該経路は減圧される(
図4 S103)。このとき、開閉弁55は閉じられており、キャビティ吸引管52には真空吸引力は作用していない。また、センターピン49は閉塞位置にいる。
ここでセンターピン49と筒状ガイド48の間の隙間が微小であり、所望する真空度を得るための時間が長くなるので、減圧室吸引管53からの真空吸引をキャビティ吸引管52より先行させるのが好ましい。
【0030】
[真空吸引による減圧その2]
次に、センターピン49が湯口47を閉塞したままの状態で、
図2(b)に示すように、開閉弁55を開く。そうすると、キャビティ吸引管52を介して鋳造キャビティ42が真空吸引されるため、鋳造キャビティ42は減圧される(
図4(S105))。
なお、ここでは、キャビティ吸引管52が鋳造キャビティ42の減圧を担い、減圧室吸引管53が湯口47の周囲の減圧を担うと説明した。しかし、キャビティ吸引管52も湯口47の周囲の真空吸引に関わるし、減圧室吸引管53も鋳造キャビティ42の真空吸引にも関わる。
以上の通りであり、本実施形態の鋳造装置1において、溶湯Mを充填する前に、鋳造キャビティ42を含め溶湯Mが通過する領域が減圧される。この減圧は、次の不活性ガスによる湯面MSへの加圧力を付与する間も継続される。
【0031】
[ガスによる加圧力付与]
センターピン49が湯口47を閉塞したままの状態で、
図2(c)および
図4(S107)に示すように、加圧室20にガス供給路21を介して不活性ガスを供給し、加圧室20の溶湯Mの湯面MSにガスによる加圧力を作用させる。この加圧力は、好ましくは、
図2(c)に示すように、注湯室30の溶湯Mが湯口47に配置されるセンターピン49に接するまで行う。このとき、より好ましくは、溶湯Mの湯面MSはセンターピン49を鉛直方向Vの上向きに押圧する。ただし、これはあくまで本発明における好ましい条件にすぎない。溶湯Mがセンターピン49から離れていても、本発明における減圧および加圧力を伴うことによる溶湯の迅速な充填を阻害するものではない。加圧室20における湯面MSへのガスによる加圧力は継続される。
【0032】
[湯口の開放]
溶湯Mがセンターピン49に接するまで上昇した後に、
図3(a)および
図4(S109)に示すように、センターピン49を開放位置まで後退させると、溶湯Mは湯口47を通って鋳造キャビティ42に充填される。鋳造キャビティ42を含め溶湯Mが通過する領域が減圧されているので、加圧室20における不活性ガスによる加圧力だけに比べると、溶湯Mが鋳造キャビティ42に充填される際の抵抗が小さくなる。
溶湯Mが鋳造キャビティ42に充填された後の所定期間にも、真空吸引による減圧力および不活性ガスによる加圧力を加えることが好ましい。
【0033】
[湯口の閉塞/ガス加圧解除]
溶湯Mが鋳造キャビティ42に充填された後に、
図3(b)および
図4(S111)に示すように、センターピン49を閉塞位置まで前進させる。次いで、加圧室20への不活性ガスの供給を停止して、溶湯Mへの不活性ガスによる加圧力を解除する。そうすると、鋳造キャビティ42に充填された以外の溶湯Mはその湯面MSが下がる。
センターピン49が閉塞位置まで前進すると、鋳造キャビティ42に充填された溶湯Mを加圧する。この加圧は、鋳造キャビティ42の中でも末端部分、特に湯道の細い部分への溶湯Mの充填に寄与する。
なお、以上ではセンターピン49の閉塞位置までの前進が先行して行われることを述べたが、この逆、つまり、加圧力および減圧の解除を先行して行ってからセンターピン49の閉塞位置までの前進を行ってもよいし、加圧力および減圧の解除とセンターピン49の閉塞位置までの前進を並行して行ってもよい。
【0034】
[メタル圧付加]
次に、
図3(c)に示すように、これまでの閉塞位置よりもセンターピン49を、センターピン49の大径部49Bが湯溜り46に達するまで前進させる。そうすると、センターピン49の小径部49Aと大径部49Bの差分だけ湯溜り46の容積が縮小されることになり、この容積の縮小に相当する押湯容積の溶湯Mが、湯溜り46から鋳造キャビティ42に供給される。また、この供給過程において、センターピン49に付与される前進の駆動力を大径部49Bと小径部49Aとの外径差による加圧面積で除した加圧力、つまりメタル圧を付加させた状態で、湯溜り46から溶湯が供給されるので、いわゆる押湯効果が発揮される(
図4 S113)。この押湯効果においては、鋳造キャビティ42へ凝固収縮分の溶湯Mが、凝固収縮の進行に応じた適切な量だけ補給されることが好ましい。
【0035】
[減圧解除]
凝固収縮分の溶湯Mが補給されたならば、第1真空タンク51Aに連なるキャビティ吸引管52および第2真空タンク51Bに連なる減圧室吸引管53を介した減圧を解除する(S115)。
【0036】
以後は、図示を省略するが、鋳造キャビティ42において溶湯Mが凝固してから固定金型41と可動金型43の型開きをするとともに、センターピン49を開放位置まで後退させてから、鋳造品を取り出して一連の鋳造工程を終える。
固定金型41と可動金型43の型閉めをしてから、
図2(a)に示すように、センターピン49を閉塞位置まで前進させれば、次の鋳造工程を始めることかできる。
【0037】
[鋳造装置1の効果]
鋳造装置1による鋳造方法よれば、溶湯Mを充填する前に、鋳造キャビティ42を含め溶湯Mが通過する領域が減圧されているので、溶湯Mが鋳造キャビティ42に充填される際の抵抗が小さい。よって、鋳造キャビティ42に溶湯Mが迅速に充填されるので、鋳造キャビティ42に充填される溶湯Mの温度低下が少ない。これにより、センターピン49により鋳造キャビティ42に充填された溶湯Mにセンターピン49から与えられる加圧力の伝搬範囲が広くなる。したがって、鋳造キャビティ42の末端における微小幅の部分にも溶湯Mを十分に充填できるので、高い品質の鋳造品が得られる。
【0038】
加えて、本実施形態の鋳造装置1によれば、減圧室吸引管53を介してセンターピン49の背面の減圧室48Bより空気を排出するため、空気の巻き込みが抑えられた高品質の鋳造品が得れる。特に、鋳造装置1は、センターピン49によるメタル圧の付加を終えるまで減圧吸引を継続するので、より高品質の鋳造品を得ることができる。
【0039】
以上、本発明を好ましい実施形態に基づいて説明したが、本発明の主旨を逸脱しない限り、本実施形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更したりすることができる。
例えば、本実施形態においては、保持室10、加圧室20および注湯室30を備える鋳造装置1を例にしたが、本発明は、鋳造金型の下方に受けられる注湯室に下端が浸漬されるストークを通って溶湯が鋳造キャビティに充填される鋳造装置に適用することもできる。この鋳造装置においては、注湯室における給湯管よりも外側の湯面にガスによる加圧力が加えられる。つまり、本発明において、注湯室に貯留される溶湯の湯面を上昇させるためにガスによる加圧力を付与するとは、注湯室に貯留される溶湯に加圧力を直接的に付与する形態と、注湯室に貯留される溶湯に加圧力を間接的に付与する形態とを含んでいる。上述した実施形態は、後者の形態に該当する。
【0040】
また、本実施形態においては、キャビティ吸引管52と減圧室吸引管53の二つの真空吸引の経路を設ける好ましい例を示したが、本発明はこれに限定されない。鋳造キャビティ42および湯口47の周囲を減圧できるのであれば、キャビティ吸引管52と減圧室吸引管53のいずれか一方だけを設けることもできる。
【0041】
また、本実施形態における鋳造装置1は、センターピン49が固定金型41および可動金型43の水平方向の中央に配置される例を示しているが、本発明はこれに限定されない。その位置に関わらず、湯口を塞ぐ閉塞位置と湯口を開放する開放位置との間を昇降移動することのできる閉塞体を備えていれば、本発明を適用することができる。
【符号の説明】
【0042】
1 鋳造装置
10 保持室
13 溶湯通路
14 蓋
15 底壁
16 供給口
17 開閉弁
20 加圧室
21 ガス供給路
23 湯面検知棒
30 注湯室
40 鋳造金型
41 固定金型
42 鋳造キャビティ
43 可動金型
44 ピン通路
45 給湯管
46 湯溜り
47 湯口
48 筒状ガイド
48A 封止蓋
48B 減圧室
48C 内周面
49 センターピン(閉塞体)
49A 小径部
49B 大径部
50 減圧機構
51A 第1真空タンク
51B 第2真空タンク
52 キャビティ吸引管
53 減圧室吸引管
54 チルベント
55 開閉弁
70 制御器
C 軸線方向
M 溶湯
MS 湯面