(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】研磨装置および研磨方法
(51)【国際特許分類】
B24B 49/02 20060101AFI20221109BHJP
B25J 13/08 20060101ALI20221109BHJP
B24B 27/00 20060101ALI20221109BHJP
B24B 49/12 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
B24B49/02 Z
B25J13/08 Z
B24B27/00 A
B24B49/12
(21)【出願番号】P 2019063494
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-11-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】江口 武芳
【審査官】城野 祐希
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-139831(JP,A)
【文献】特開2016-078150(JP,A)
【文献】特開2004-122255(JP,A)
【文献】特開2017-144487(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24B 49/02
B25J 13/08
B24B 27/00
B24B 49/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1面と第2面が180度未満の内角で接続したコーナ部を有するワークの前記コーナ部を加工対象領域として磨き加工する研磨装置であって、
ロボットと、
力センサ、駆動装置、研磨工具を備えて前記ロボットに保持された研磨ユニットと、
ロボット制御装置と、
前記ワークの前記加工対象領域の表面検査装置と、を備え、
前記ロボット制御装置は、
前記研磨工具に、前記ワークの前記第1面と前記第2面の境界線に垂直な面内で、前記第1面に垂直な成分、および、前記第2面に垂直な成分を含む押付力ベクトルを付与する機能と、
前記研磨工具の前記ワークの前記第1面と前記第2面の前記境界線に垂直な面内での角度姿勢を制御する機能と、
前記研磨工具を、前記押付力ベクトルの向きに力制御し、前記境界線の方向に位置制御して、前記ワークの前記加工対象領域の磨き加工を行う機能と、
前記表面検査装置による前記ワークの前記加工対象領域におけ
る欠陥の数および位置の計測結果を基に、前記加工対象領域に対する磨き加工の加工終了または加工継続の判断を行う機能と、を備えたこと
を特徴とする研磨装置。
【請求項2】
前記ロボット制御装置は、
前記加工継続の判断を行うと、次回の磨き加工の加工条件として、前記研磨工具に付与する前記押付力ベクトルの向きと、前記研磨工具の角度姿勢の一方または双方を変更する機能を備えた
請求項1に記載の研磨装置。
【請求項3】
前記研磨工具は、軸と軸の先端側に取り付けられた工具本体を備えた構成とし、
前記研磨ユニットは、前記ワークの前記コーナ部にて前記第1面および前記第2面に前記工具本体を接触させると、前記工具本体が前記第1面および前記第2面に接する位置の前記境界線からの距離が遠近異なる複数の前記研磨工具を備え、
前記ロボット制御装置は、前記研磨ユニットにおける前記研磨工具を取り替える機能を備えた
請求項1または2に記載の研磨装置。
【請求項4】
第1面と第2面が180度未満の内角で接続したコーナ部を有するワークの前記コーナ部を加工対象領域として磨き加工する研磨方法であって、
ロボット制御装置により、
力センサ、駆動装置、研磨工具を備えてロボットに保持された研磨ユニットの前記研磨工具に、前記ワークの前記第1面と前記第2面の境界線に垂直な面内で、前記第1面に垂直な成分、および、前記第2面に垂直な成分を含む押付力ベクトルを付与する処理と、
前記研磨工具の前記ワークの前記第1面と前記第2面の前記境界線に垂直な面内での角度姿勢を制御する処理と、
前記研磨工具を、前記押付力ベクトルの向きに力制御し、前記境界線の方向に位置制御して、前記ワークの前記加工対象領域の磨き加工を行う処理と、
表面検査装置に前記ワークの前記加工対象領域における欠陥の数および位置の計測を行わせる処理と、
前記表面検査装置による前記ワークの前記加工対象領域における前記欠陥の数および位置の計測結果を基に、前記加工対象領域に対する磨き加工の加工終了または加工継続を判断する処理と、を行うこと
を特徴とする研磨方法。
【請求項5】
突合せ配置された第1面と第2面によるコーナ部を備えるワークの研磨方法であって、
前記コーナ部の前記第1面と前記第2面を回転する研磨工具で研磨する第1の研磨ステップと、
前記第1の研磨ステップで研磨された、前記コーナ部の前記第1面の側の欠陥を検査するステップと、
前記検査するステップでの前記欠陥の検知に基づき、前記研磨工具の前記コーナ部に対する押付け方向が、前記第1の研磨ステップにおける前記研磨工具の押付け方向と比べ、前記第1面の法線方向と平行に近くなるように調整して、前記コーナ部の前記第1面と前記第2面を研磨する第2の研磨ステップと、を備えること
を特徴とする研磨方法。
【請求項6】
前記第2の研磨ステップは、前記検査するステップでの前記欠陥の検知に基づき、前記研磨工具の回転軸を前記第1面側に傾けた後に行う
請求項5に記載の研磨方法。
【請求項7】
突合せ配置された第1面と第2面によるコーナ部を備えるワークの研磨方法であって、
前記コーナ部の前記第1面と前記第2面を回転する研磨工具で研磨する第1の研磨ステップと、
前記第1の研磨ステップで研磨された、前記コーナ部の前記第1面の側の欠陥を検査するステップと、
前記検査するステップでの前記第1面の側の欠陥なしの判定に基づき、前記研磨工具の前記コーナ部に対する押付け方向が、前記第1の研磨ステップにおける前記研磨工具の押付け方向と比べ、前記第2面の法線方向と平行に近くなるように調整して、前記コーナ部を研磨する第2の研磨ステップと、を備えること
を特徴とする研磨方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ワークの磨き加工を行う研磨装置、および、研磨方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属や樹脂の成型に使用される金型は、通常、成型対象となる材料に接する成型面が鏡面であることが求められる。そのため、金型を製造する場合は、切削加工や研削加工などの後に、成型面に存在しているツールマーク(加工痕)のような欠陥を除去して鏡面にする、磨き加工が行われる。
【0003】
ワークの表面を鏡面にする磨き加工は、一般的には、作業者が、磨き加工用の工具を用いて手作業で行っている。この場合、ワークに磨き加工用の工具を接触させるときの両者の相対的な姿勢、工具をワークに押し付けるときの押し付け力の方向と大きさ、工具を移動させる速度、磨き回数は、作業者、特に熟練技能者の経験に基づく感覚や勘に頼って決められている。しかし、磨き加工に従事する労働者の減少に対する対応、省力化を図るなどの観点から、ワークの磨き加工は、ロボットを用いて自動化することが望まれていた。
【0004】
そこで、ワークの磨き加工を行うロボットとしては、次のような研磨ロボットが従来提案されている(たとえば、特許文献1参照)。
【0005】
この研磨ロボットは、180度未満の内角で接続する第1面と第2面を有するワークの研磨を行うものであり、先端部で第1面または第2面を研磨する加工工具と、加工工具に作用する外力を計測する力センサと、加工工具を3次元空間内で移動するロボットアームと、軌跡データを記憶し、ロボットアームを制御するロボット制御装置と、を備え、ロボット制御装置は、加工工具を第1面と第2面の両方に直交する2方向、または、合力が第1面と第2面の境界線に向かう2方向に力制御して、境界線に沿って先端部を倣わせ、先端部の軌跡データを記憶する軌跡取得部と、加工工具を第1面または第2面に直交する1方向に力制御し、且つ軌跡データに基づき、加工工具の先端部を境界線から離した位置でワークを研磨させる磨き制御部と、を備えた構成とされている。
【0006】
更に、研磨ロボットは、加工工具をワークの第1面や第2面に押し付けることに関しては、力制御を行い、加工工具をワークの表面に沿い移動させることに関しては、位置制御を行うものとされている。
【0007】
なお、ワークの表面に存在する掻き傷のような欠陥を検査する手法の一つとしては、たとえば、光源より或るパターンの光をワークの表面に投影し、この状態で、ワークの表面をカメラで撮影し、その画像を基に、ワークの表面に存在する欠陥を検出する手法、および、検出された欠陥の位置、検出された欠陥の数を計測する手法は、従来提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に示された研磨ロボットは、180度未満の内角で接続する第1面と第2面を有するワークについて、第1面と第2面における境界線から離れた位置の磨き加工には有効である。
【0010】
ところで、金型のようなワークでは、180度未満の内角で接続する第1面と第2面の境界線、すなわち、第1面と第2面の内角の頂点に極めて近い位置まで磨き加工を行って鏡面にすることが求められる。
【0011】
このように、ワークの第1面と第2面における磨き加工を、第1面と第2面の境界線により近い領域まで実施するためには、磨き加工に用いる工具を、第1面と第2面の双方に接する位置に配置した状態での磨き加工が必要となる。
【0012】
しかし、特許文献1には、工具をワークの第1面と第2面の双方に接触させた状態で磨き加工を行う考えは特に示されていない。
【0013】
そこで、本発明は、180度未満の内角で接続する第1面と第2面を備えたワークについて、第1面と第2面の境界線により近い領域の磨き加工を行うことができる研磨装置、および、研磨方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、前記課題を解決するために、第1面と第2面が180度未満の内角で接続したコーナ部を有するワークの前記コーナ部を加工対象領域として磨き加工する研磨装置であって、ロボットと、力センサ、駆動装置、研磨工具を備えて前記ロボットに保持された研磨ユニットと、ロボット制御装置と、前記ワークの前記加工対象領域の表面検査装置と、を備え、前記ロボット制御装置は、前記研磨工具に、前記ワークの前記第1面と前記第2面の境界線に垂直な面内で、前記第1面に垂直な成分、および、前記第2面に垂直な成分を含む押付力ベクトルを付与する機能と、前記研磨工具の前記ワークの前記第1面と前記第2面の前記境界線に垂直な面内での角度姿勢を制御する機能と、前記研磨工具を、前記押付力ベクトルの向きに力制御し、前記境界線の方向に位置制御して、前記ワークの前記加工対象領域の磨き加工を行う機能と、前記表面検査装置による前記ワークの前記加工対象領域における前記欠陥の数および位置の計測結果を基に、前記加工対象領域に対する磨き加工の加工終了または加工継続の判断を行う機能と、を備えた構成を有する研磨装置とする。
【0015】
前記ロボット制御装置は、前記加工継続の判断を行うと、次回の磨き加工の加工条件として、前記研磨工具に付与する前記押付力ベクトルの向きと、前記研磨工具の角度姿勢の一方または双方を変更する機能を備えた構成としてもよい。
【0016】
前記研磨工具は、軸と軸の先端側に取り付けられた工具本体を備えた構成とし、前記研磨ユニットは、前記ワークの前記コーナ部にて前記第1面および前記第2面に前記工具本体を接触させると、前記工具本体が前記第1面および前記第2面に接する位置の前記境界線からの距離が遠近異なる複数の前記研磨工具を備え、前記ロボット制御装置は、前記研磨ユニットにおける前記研磨工具を取り替える機能を備えた構成としてもよい。
【0017】
また、第1面と第2面が180度未満の内角で接続したコーナ部を有するワークの前記コーナ部を加工対象領域として磨き加工する研磨方法であって、ロボット制御装置により、力センサ、駆動装置、研磨工具を備えてロボットに保持された研磨ユニットの前記研磨工具に、前記ワークの前記第1面と前記第2面の境界線に垂直な面内で、前記第1面に垂直な成分、および、前記第2面に垂直な成分を含む押付力ベクトルを付与する処理と、前記研磨工具の前記ワークの前記第1面と前記第2面の前記境界線に垂直な面内での角度姿勢を制御する処理と、前記研磨工具を、前記押付力ベクトルの向きに力制御し、前記境界線の方向に位置制御して、前記ワークの前記加工対象領域の磨き加工を行う処理と、表面検査装置に前記ワークの前記加工対象領域における欠陥の数および位置の計測を行わせる処理と、前記表面検査装置による前記ワークの前記加工対象領域における前記欠陥の数および位置の計測結果を基に、前記加工対象領域に対する磨き加工の加工終了または加工継続を判断する処理と、を行う研磨方法とする。
【0018】
更に、突合せ配置された第1面と第2面によるコーナ部を備えるワークの研磨方法であって、前記コーナ部の前記第1面と前記第2面を回転する研磨工具で研磨する第1の研磨ステップと、前記第1の研磨ステップで研磨された、前記コーナ部の前記第1面の側の欠陥を検査するステップと、前記検査するステップでの前記欠陥の検知に基づき、前記研磨工具の前記コーナ部に対する押付け方向が、前記第1の研磨ステップにおける前記研磨工具の押付け方向と比べ、前記第1面の法線方向と平行に近くなるように調整して、前記コーナ部の前記第1面と前記第2面を研磨する第2の研磨ステップと、を備える研磨方法とする。
【0019】
前記第2の研磨ステップは、前記検査するステップでの前記欠陥の検知に基づき、前記研磨工具の回転軸を前記第1面側に傾けた後に行うようにしてもよい。
【0020】
更にまた、突合せ配置された第1面と第2面によるコーナ部を備えるワークの研磨方法であって、前記コーナ部の前記第1面と前記第2面を回転する研磨工具で研磨する第1の研磨ステップと、前記第1の研磨ステップで研磨された、前記コーナ部の前記第1面の側の欠陥を検査するステップと、前記検査するステップでの前記第1面の側の欠陥なしの判定に基づき、前記研磨工具の前記コーナ部に対する押付け方向が、前記第1の研磨ステップにおける前記研磨工具の押付け方向と比べ、前記第2面の法線方向と平行に近くなるように調整して、前記コーナ部を研磨する第2の研磨ステップと、を備える研磨方法とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明の研磨装置、および、研磨方法によれば、180度未満の内角で接続する第1面と第2面を備えたワークについて、第1面と第2面の境界線により近い領域の磨き加工を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図2】ロボットのアームに表面検査ユニットを取り付けた状態の研磨装置を示す概略図である。
【
図4】研磨ユニットの研磨工具をワークのコーナ部に配置した状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明を実施するための形態を図面を参照して説明する。
【0024】
図1は、研磨装置の実施形態を示す概略図である。
図2は、
図1の研磨装置にて、ロボットのアームに表面検査ユニットを取り付けた状態を示す概略図である。
図3は、ワークの一例を示すもので、
図3(a)は、第1面と第2面の境界線が直線となる構成の例を示す概略斜視図、
図3(b)は、第1面と第2面の境界線が曲線となる構成の例を示す概略斜視図である。
図4は、研磨ユニットの研磨工具をワークのコーナ部に配置した状態を拡大して示すもので、
図4(a)は、研磨工具を、軸がコーナ部の内角の二等分線に沿う方向に配置された角度姿勢とし、研磨工具に、コーナ部の内角の二等分線に沿う向きの押付力ベクトルを付与した状態を示す図、
図4(b)は、研磨工具に、ワークのコーナ部における第1面に寄る方向の押付力ベクトルを付与した状態を示す図、
図4(c)は、研磨工具を、軸がコーナ部の内角の二等分線に沿う方向よりも、ワークの第1面側に傾いた角度姿勢とした状態を示す図である。
図5は、研磨ユニットの研磨工具を取り替えた状態を示すもので、
図5(a)は、径の小さい球形の工具本体を有する研磨工具に取り替えた状態を示す図、
図5(b)は、円盤状の工具本体を有する研磨工具に取り替えた状態を示す図である。
【0025】
本実施形態の研磨装置は、
図1、
図2に符号1で示すもので、ロボット2と、ロボット2に保持された研磨ユニット3と、ロボット制御装置4と、表面検査装置5と、加工対象となるワークAを保持するワーク保持装置6と、を備えた構成とされている。
【0026】
ここで、本実施形態の研磨装置1の加工対象となるワークAについて説明する。
【0027】
ワークAは、
図3(a)に示すように、共に被研磨面である第1面Bと第2面Cが、180度未満の内角θで接続したコーナ部Dを備えている。このコーナ部Dは、第1面Bと第2面Cとの境界線E上の点が内角θの頂点となっている。なお、ワークAは、
図3(a)に示した境界線Eが直線的に延びる形状のコーナ部Dに代えて、
図3(b)に示すように、境界線Eが曲線となる形状のコーナ部Dを備えていてもよい。
【0028】
コーナ部Dの内角θは、第1面Bと第2面Cの双方の法線を含む面内、すなわち、境界線Eに垂直な面内で第1面Bと第2面Cとがなす角度である。よって、
図4(a)に一点鎖線で示すように、コーナ部Dの内角θの二等分線Fは、境界線Eに垂直な面内に配置される。境界線Eが直線的に延びている場合は、コーナ部Dの内角の二等分線Fの方向は一定になる。これに対し、境界線Eが曲線の場合は、境界線Eの長手方向の位置に応じて、境界線Eに垂直な面の向きが変わるため、その面内に配置されるコーナ部Dの内角の二等分線Fの方向も変化する。
【0029】
図4(a)は、ワークAにおけるコーナ部Dの一例として、内角θが約100度のコーナ部Dを示している。本実施形態の研磨装置1の加工対象とするワークAは、コーナ部Dの内角θが60度~120度程度であるものが好ましく、内角θが約90度であるものが更に好ましい。
【0030】
なお、図示する便宜上、
図3(a)(b)では、ワークAにおけるコーナ部Dを一つしか示していないが、ワークAは、複数のコーナ部Dを備える構成であってもよいことは勿論である。
【0031】
ワークAは、
図1に示すように、ワーク保持装置6に保持される。この際、ワークAは、磨き加工(研磨)の対象となるコーナ部Dが、ロボット2の運転空間に露出された姿勢で、ワーク保持装置6に保持される。
【0032】
したがって、ワーク保持装置6は、ワークAを、ロボット2の運転空間に配置した状態で、ワークAの位置および姿勢を固定して保持する機能を備えていればよい。
【0033】
ロボット2は、たとえば、
図1に示すように、多関節のアーム7を備えた多関節ロボットとされている。
【0034】
また、ロボット2は、ロボットコントローラ8を備えている。ロボットコントローラ8は、たとえば、数値制御装置であり、指令信号によりアーム7の先端側を、3次元位置と、3軸まわりの回転とによる6自由度で制御する機能を備えている。
【0035】
アーム7の先端側には、エンドエフェクタとして、研磨ユニット3が取り付けられている。
【0036】
研磨ユニット3は、アーム7の先端側に取り付けられる力センサ9と、力センサ9に取り付けられた駆動装置10と、駆動装置10に取り付けられた研磨工具11と、を備えた構成とされている。
【0037】
力センサ9は、たとえば、ロードセルとされ、アーム7の先端側を基準として、そこに作用する外力を計測する機能を備えている。これにより、力センサ9は、ロボット2により研磨ユニット3を動かしたり、姿勢を変えたりするときに駆動装置10および研磨工具11に作用する重力による影響と、研磨工具11をワークAに押し付けたときにワークAより受ける反力の向きと大きさと、を計測対象として計測することができる。したがって、力センサ9の計測結果からは、研磨工具11をワークAに接触させていない状況では、駆動装置10および研磨工具11に作用する重力の影響の情報を得ることができる。また、
図4(a)に示すように、研磨工具11をワークAのコーナ部Dにおける第1面Bと第2面Cに接触させた状況では、力センサ9の計測結果からは、前記した駆動装置10および研磨工具11に作用する重力の影響を補償することで、ロボット2が研磨工具11を境界線Eに垂直な面内でワークAに押し付ける力のベクトルの向きと大きさの情報を得ることができる。なお、研磨工具11を境界線Eに垂直な面内でワークAに押し付ける力のベクトルは、以下、押付力ベクトルV0という。
【0038】
力センサ9で計測される外力は、3方向の力と3軸まわりのトルクとからなる6自由度の外力であることが好ましい。しかし、力センサ9は、押付力ベクトルV0の算出に用いる情報を得ることができれば、力センサ9で計測される外力の自由度は6自由度に限定されず、また、力センサ9をロードセル以外の形式のセンサとしてもよいことは勿論である。
【0039】
力センサ9は、
図1に示すように、計測結果をロボット制御装置4へ送る機能を備えている。
【0040】
駆動装置10は、研磨工具11の軸13を保持して、研磨工具11を回転駆動する機能を備えている。駆動装置10は、たとえば、電動スピンドルモータを採用すればよい。なお、駆動装置10は、研磨工具11の軸13を保持して回転駆動する機能を備えていれば、エアモータなど、電動スピンドルモータ以外の形式の駆動装置を採用してもよい。
【0041】
更に、駆動装置10は、ロボット制御装置4からの指令に応じて研磨工具11の軸13の保持と保持解除を切り替え可能で、更に、後述する計測用ピン14の軸14aの保持と保持解除も切り替え可能な図示しない保持装置を備えている。
【0042】
研磨工具11は、
図4(a)に示すように、工具本体12と、工具本体12に先端側が取り付けられた軸13と、を備えた構成とされている。軸13の基端側は、駆動装置10(
図1参照)の保持装置に保持される。これにより、研磨工具11の工具本体12は、駆動装置10により、軸13を中心に回転駆動される。
【0043】
図4(a)は、研磨工具11の一例として、球形の工具本体12を有する研磨工具11を示している。
【0044】
工具本体12は、ワークAに接触させるもので、たとえば、フェルト製やゴム製など、外力を受けると、外形が変形する性状を備えている。これにより、工具本体12は、
図4(a)に示すように、ワークAのコーナ部Dにて、第1面Bおよび第2面Cに対して押し付けられると、工具本体12の第1面Bと第2面Cに接触した部分が、各面B,Cに倣う形状に変形する。この状態で、工具本体12は、ワークAの第1面Bと第2面Cに対して面で接触した状態となる。
【0045】
そのため、本実施形態の研磨装置1は、研磨工具11の工具本体12の表面に、たとえば、ペースト状の研磨材(図示せず)を塗布した状態で、ロボット2の動作により、研磨ユニット3を動かして、研磨工具11の工具本体12を、ワークAのコーナ部Dにて、第1面Bと第2面Cの双方に対して押し付けると共に、駆動装置10により研磨工具11を回転駆動する。これにより、本実施形態の研磨装置1は、ワークAの第1面Bと第2面Cにおける工具本体12が面接触している個所を、磨き加工することができる。
【0046】
更に、本実施形態の研磨装置1では、ロボット2により付与する研磨工具11の押付力ベクトルV0を変化させて、押付力ベクトルV0におけるワークAの第1面Bに垂直な方向の成分V1(以下、単に成分V1という)の大きさを増減させると、工具本体12における第1面Bとの接触部分に生じる面圧を増減させることができると共に、工具本体12における第1面Bとの接触部分の面積を増減させることができる。
【0047】
このうち、工具本体12におけるワークAの第1面Bとの接触部分に生じる面圧の増加と、その接触部分の面積の増加は、研磨工具11によるワークAの第1面Bに対する磨き加工の促進につながる。一方、工具本体12におけるワークAの第1面Bとの接触部分に生じる面圧の減少と、その接触部分の面積の減少は、研磨工具11によるワークAの第1面Bに対する磨き加工の抑制につながる。
【0048】
また、本実施形態の研磨装置1では、ロボット2により付与する研磨工具11の押付力ベクトルV0を変化させて、押付力ベクトルV0におけるワークAの第2面Cに垂直な方向の成分V2(以下、単に成分V2という)の大きさを増減させると、工具本体12における第2面Cとの接触部分に生じる面圧を増減させることができると共に、工具本体12における第2面Cとの接触部分の面積を増減させることができる。
【0049】
このうち、工具本体12におけるワークAの第2面Cとの接触部分に生じる面圧の増加と、その接触部分の面積の増加は、研磨工具11によるワークAの第2面Cに対する磨き加工の促進につながる。一方、工具本体12におけるワークAの第2面Cとの接触部分に生じる面圧の減少と、その接触部分の面積の減少は、研磨工具11によるワークAの第2面Cに対する磨き加工の抑制につながる。
【0050】
したがって、本実施形態の研磨装置1は、研磨工具11の工具本体12を、ワークAのコーナ部Dにおける第1面Bと第2面Cの双方に接触させると共に、研磨工具11を回転駆動した磨き加工状態について、ロボット2により研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0を変更することに伴い、次のような作用を得ることができる。
【0051】
本実施形態の研磨装置1は、ロボット2により、研磨工具11の押付力ベクトルV0について、大きさを一定に保持したまま、境界線Eに垂直な面内で向きを変更すると、成分V1と成分V2との割合を変更することができる。よって、この場合は、ワークAのコーナ部Dにおける第1面Bと第2面Cのうち、いずれか一方の磨き加工を促進し、他方の磨き加工を抑制することができる。
【0052】
たとえば、本実施形態の研磨装置1は、
図4(a)では、ロボット2により研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きを、ワークAのコーナ部Dにおける内角θの二等分線に沿う方向としてある。本実施形態の研磨装置1は、
図4(a)の状態から、
図4(b)に示すように、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の大きさを変えずに、向きを第1面B寄りの方向へ変更すると、押付力ベクトルV0の成分V1が増加し、成分V2が減少する。
【0053】
つまり、研磨工具11のワークAに対する押付方向が第1面Bの法線方向とより平行に近づくよう、研磨工具11の押付方向を調整している。ここで、第1面Bの法線方向は、第1面B側から研磨工具11側の方向となり、研磨工具11の押付方向は、研磨工具11側から第1面B側に向かう方向である。研磨工具11の押付方向と第1面の法線方向が並行とは、押付方向と法線方向とのなす角が180度となることを表す。また、押付方向と法線方向の成す角が鈍角となるほど、平行に近いといえる。
【0054】
これにより、本実施形態の研磨装置1は、研磨工具11の工具本体12について、ワークAの第1面Bに対する面圧の増加と接触面積の増加を図ることができるため、研磨工具11によるワークAの第1面Bの磨き加工を促進することができる。一方、この際、本実施形態の研磨装置1は、研磨工具11の工具本体12について、ワークAの第2面Cに対する面圧の減少と接触面積の減少を図ることができるため、研磨工具11によるワークAの第2面Cの磨き加工を抑制することができる。
【0055】
なお、図示しないが、本実施形態の研磨装置1は、前記とは逆に、
図4(a)に示す状態から、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の大きさを変えずに、向きを第2面C寄りの方向へ変更すると、押付力ベクトルV0の成分V2が増加し、成分V1が減少する。この場合、本実施形態の研磨装置1は、研磨工具11によるワークAの第2面Cの磨き加工を促進することができると共に、第1面Bの磨き加工を抑制することができる。
【0056】
また、本実施形態の研磨装置1は、ロボット2により、研磨工具11の押付力ベクトルV0について、
図4(a)に実線で示した状態から、二点鎖線で示すように、向きを一定に保持したまま、押付力ベクトルV0の大きさを増加させると、成分V1と成分V2との割合を保持しつつ、成分V1および成分V2を共に増加させることができる。この場合、本実施形態の研磨装置1は、研磨工具11の工具本体12について、ワークAのコーナ部Dにおける第1面Bと第2面Cの双方に対する面圧の増加と接触面積の増加を図ることができるため、第1面Bと第2面Cの磨き加工の促進を図ることができる。
【0057】
したがって、本実施形態の研磨装置1は、ロボット2より研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きと大きさを制御することにより、ワークAのコーナ部Dにおける第1面Bの磨き加工の進行と、第2面Cの磨き加工の進行とに、偏りを持たせた制御が可能になる。
【0058】
研磨工具11の押付方向の変更は、後述する表面検査装置5で検出される欠陥の判定に基づき行うことができる。たとえば、ワークAのコーナ部Dにおける第1面Bの側に欠陥があると判断された場合、研磨工具11の押付方向は、第1面Bの法線方向と平行に近づくように調整してもよい。あるいは、表面検査装置5で第1面Bに欠陥が検出されない場合、すなわち、第1面Bに欠陥なしと判定された場合、若しくは、第1面Bと比べ第2面Cの欠陥が顕著な場合は、研磨工具11の押付方向を第2面Cの法線方向と平行に近づくように調整してもよい。
【0059】
また、研磨工具11は、研磨工具11の回転軸を第1面B側に傾けてから、押付方向を第1面Bの法線方向と平行に近づくように調整してもよい。本実施形態のような球形の工具本体12を有する研磨工具11の場合は、たとえば、回転軸の傾きにより、第1面Bにおける押付面圧の分布を調整することが可能である。また、円錐形の研磨工具を用いる場合は、研磨を行う範囲の調整を行うことが可能である。
【0060】
ところで、研磨工具11は、軸13を中心に回転させて使用するものである。そのため、本実施形態の研磨装置1は、研磨工具11の工具本体12を、ワークAのコーナ部Dにおける第1面Bと第2面Cの双方に接触させると共に、研磨工具11を回転駆動した磨き加工の実施状態で、ロボット2により、軸13の向きを境界線Eに垂直な面内で変更して、研磨工具11の境界線Eに垂直な面内における角度姿勢(以下、単に研磨工具11の角度姿勢という)を変更することに伴い、次のような作用を得ることができる。
【0061】
たとえば、本実施形態の研磨装置1は、
図4(a)では、ロボット2により、研磨工具11の軸13がワークAのコーナ部Dにおける内角θの二等分線に沿う配置となるように、研磨工具11の角度姿勢が設定されている。この角度姿勢の研磨工具11は、工具本体12における第1面Bとの接触個所と、第2面Cとの接触個所とが、軸13の軸心を中心にほぼ対称な配置となる。この場合、工具本体12は、第1面Bとの接触個所から回転中心までの距離と、第2面Cとの接触個所から回転中心までの距離が、ほぼ等しくなる。そのため、回転している工具本体12では、第1面Bとの接触個所の表面が周方向に移動する速度と、第2面Cとの接触個所の表面が周方向に移動する速度とが、ほぼ等しくなる。
【0062】
したがって、この状態では、本実施形態の研磨装置1は、
図4(a)に示したように、ロボット2により、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0における成分V1と成分V2との割合が等しい場合は、研磨工具11により、ワークAの第1面Bおよび第2面Cを、ほぼ均等に磨き加工することができる。
【0063】
本実施形態の研磨装置1は、
図4(a)に示した状態から、ロボット2により、研磨工具11の角度姿勢を、たとえば、
図4(c)に示すように、軸13の基端側がワークAの第1面Bに近づく方向の角度姿勢に変更すると、研磨工具11では、二点鎖線で示すように、工具本体12の回転中心が、ワークAの第2面Cを通るようになる。そのため、工具本体12は、第1面Bとの接触個所から回転中心までの距離が、第2面Cとの接触個所から回転中心までの距離よりも大となる。よって、この場合は、回転している工具本体12では、第1面Bとの接触個所の表面が周方向に移動する速度の方が、第2面Cとの接触個所の表面が周方向に移動する速度よりも大となる。したがって、この状態では、本実施形態の研磨装置1は、研磨工具11によるワークAの第1面Bの磨き加工を、第2面Cの磨き加工に比して促進することができる。
【0064】
なお、図示しないが、本実施形態の研磨装置1は、前記とは逆に、
図4(a)に示す状態から、研磨工具11の角度姿勢を、軸13の基端側がワークAの第2面Cに近づく方向の角度姿勢に変更すると、研磨工具11によるワークAの第2面Cの磨き加工を、第1面Bの磨き加工に比して促進することができる。
【0065】
したがって、本実施形態の研磨装置1は、ロボット2により、研磨工具11の軸13の向きを境界線Eに垂直な面内で変更して、研磨工具11の角度姿勢を制御することにより、ワークAのコーナ部Dにおける第1面Bの磨き加工の進行と、第2面Cの磨き加工の進行とに、偏りを持たせる制御が可能になる。
【0066】
ところで、
図4(a)(b)(c)では、研磨工具11は、球形の工具本体12を備える構成を示した。また、工具本体12は、ワークAのコーナ部Dにて、第1面Bおよび第2面Cに対して押し付けられると、工具本体12が、第1面Bおよび第2面Cに倣う形状に変形して、第1面Bおよび第2面Cに面接触し、その面接触した部分で第1面Bおよび第2面Cの磨き加工を実施できることについて説明した。
【0067】
そのため、本実施形態の研磨装置1では、ワークAのコーナ部Dにて、第1面Bと第2面Cにおける境界線Eの付近で、磨き加工する領域を広く設定するため、あるいは磨き加工の効率の向上化を図るためには、研磨工具11は、工具本体12のサイズを大きくして、工具本体12が第1面Bと第2面Cに面接触するときの面積を大きくすることが有効である。
【0068】
しかしながら、研磨工具11は、工具本体12のサイズが大きいほど、ワークAのコーナ部Dにて、第1面Bや第2面Cにおける境界線Eに非常に近い領域、たとえば、境界線Eからの距離が1mmまでの領域に存在する掻き傷のような欠陥については、磨き加工を行うことが難しくなる。これは、ワークAの第1面Bおよび第2面Cに対する過剰な研磨の発生を防ぐ点から考えると、研磨工具11に付与可能な押付力ベクトルV0の大きさには制限があり、よって、研磨工具11のワークAの第1面Bおよび第2面Cに倣う形状への変形も、限界があるためである。
【0069】
そこで、本実施形態の研磨装置1は、
図5(a)に示すように、軸13の先端側に、
図4(a)(b)(c)に示した球形の工具本体12に比して、より小さい径の球形の工具本体12aを有する交換用の研磨工具11aを備えた構成としてある。
【0070】
また、本実施形態の研磨装置1は、
図5(a)に示した球形の工具本体12を有する研磨工具11aに代えて、
図5(b)に示すように、研磨工具11aの工具本体12aの径と同程度の厚み寸法を有する円盤状の工具本体12bを備えた形式の交換用の研磨工具11bを備えた構成としてもよい。
【0071】
本実施形態の研磨装置1は、
図1に示すように、これらの交換用の研磨工具11a,11bを、たとえば、ロボット2の運転空間内に設けられた工具用のラック15に保持させておき、必要に応じて、ロボット制御装置4からの指令に応じたロボット2の動作と、駆動装置10の保持装置の動作により、駆動装置10で保持する対象を、研磨工具11と研磨工具11a,11bで取り替えるようにすればよい。
【0072】
本実施形態の研磨装置1は、駆動装置10で保持した研磨工具11を、研磨工具11aや研磨工具11bに取り替えた状態では、
図5(a)(b)に示すように、研磨工具11a,11bの工具本体12a,12bを、ワークAのコーナ部Dにて、第1面Bおよび第2面Cにおける境界線Eにより近い位置に接触させることができる。よって、この状態で、本実施形態の研磨装置1は、ワークAの第1面Bと第2面Cについて、境界線Eから1mmまでといった、境界線Eに非常に近い領域の研磨加工を行うことができる。
【0073】
計測用ピン14は、
図1に示すように、研磨工具11の軸13と同様の軸14aの先端側に、ワークAに接触させるための接触部14bを備えた構成とされている。計測用ピン14は、
図1に示すように、交換用の研磨工具11a,11bと同様に、ロボット2の運転空間内に設けられた工具用のラック15に保持させておく。本実施形態の研磨装置1では、必要に応じて、ロボット制御装置4からの指令に応じたロボット2の動作と、駆動装置10の保持装置の動作により、駆動装置10で、計測用ピン14を、研磨工具11,11a,11bに代えて保持することができる。
【0074】
これにより、本実施形態の研磨装置1は、ロボット2により、駆動装置10に保持させた計測用ピン14を用いて、ワーク保持装置6に保持されたワークAを計測対象とするタッチセンシングを行うことができる。したがって、本実施形態の研磨装置1は、計測用ピン14を用いたタッチセンシングにより、ワーク保持装置6に保持されたワークAの実際の位置と姿勢を検出することができる。
【0075】
なお、ロボット制御装置4では、ワークAのコーナ部Dの磨き加工を行う場合、事前に、ワーク保持装置6に保持されたと仮想したワークAの位置と姿勢に合わせて、コーナ部Dの加工時の研磨工具11の送り軌道、および、研磨工具11をワークAに押し付けるために研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きが設定される。
【0076】
そのため、本実施形態におけるロボット制御装置4は、計測用ピン14を用いたタッチセンシングの結果を基に、実際のワークAの位置と姿勢について、前記仮想のワークAの位置と姿勢からのずれ量を算出することができる。よって、ロボット制御装置4では、算出されたずれ量を基に、事前に設定された研磨工具11の送り軌道と、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きの設定の内容を、実際のワークAの位置と姿勢に合わせて修正することができる。
【0077】
次に、表面検査装置5について説明する。
【0078】
本実施形態における表面検査装置5は、
図1、
図2に示すように、フレーム17にカメラ18および照明19を取り付けた構成を有する表面検査ユニット16と、画像解析装置20と、を備えた構成とされている。
【0079】
本実施形態では、表面検査ユニット16は、使用時には、ロボット2のアーム7の先端側にエンドエフェクタとして取り付けられる。そのために、本実施形態におけるロボット2は、アーム7の先端側に、図示しないエンドエフェクタ自動交換装置を備えた構成として、ロボット制御装置4からの指令に応じて、
図1に示すように、アーム7の先端側に研磨ユニット3を取り付けた状態と、
図2に示すように、アーム7の先端側に表面検査ユニット16を取り付けた状態と、を自動的に切り替える機能を備えている。
【0080】
照明19は、少なくとも、検査対象となるワークAのコーナ部Dにおける境界線Eの付近の第1面Bと第2面C(
図3参照)に対して、設定された明暗のパターン、たとえば、明暗の縞のパターンを照射する機能を備えている。
【0081】
カメラ18は、照明19により所定のパターンが照射されたワークAのコーナ部Dにおける境界線Eの付近の第1面Bと第2面Cを撮影する機能と、撮影した画像を画像解析装置20へ送る機能を備えている。このカメラ18より画像解析装置20へ送られる画像は、以下、撮影画像という。
【0082】
画像解析装置20は、画像解析装置20で検出される欠陥がなくなる状態まで磨き加工されたワークAの画像を、ワークAの正常画像として保存する機能を備えている。
【0083】
更に、画像解析装置20は、カメラ18よりワークAの撮影画像を受け取る機能と、受け取った撮影画像を、保存してある正常画像と比較して、ワークAのコーナ部Dの第1面Bと第2面Cであって、本実施形態の研磨装置1による磨き加工の加工対象領域となる境界線Eの付近の領域について、欠陥を検出すると共に、検出された欠陥の位置の計測と、欠陥の数の計測と、を行う機能を備えている。この画像解析装置20によるワークAの欠陥の検出、欠陥の位置および欠陥の数を求める手法は、従来の手法と同様であるため、説明は省略する。
【0084】
画像解析装置20は、ワークAのコーナ部Dの第1面Bと第2面Cであって、本実施形態の研磨装置1による磨き加工の加工対象領域となる境界線Eの付近の領域について、欠陥の位置の計測と、欠陥の数の計測を行うと、計測結果をロボット制御装置4へ送る機能を備えている。
【0085】
なお、画像解析装置20は、ワークAのコーナ部Dの第1面Bと第2面Cであって、本実施形態の研磨装置1による磨き加工の加工対象領域となる境界線Eの付近の領域について、欠陥の検出と、検出された欠陥の位置の計測、および、欠陥の数の計測を行うことができれば、欠陥の位置および欠陥の数を求める手法は、任意の手法を採用してよい。
【0086】
更に、表面検査装置5は、画像解析装置20で、前記した本実施形態の研磨装置1による磨き加工の加工対象領域についての欠陥の検出、欠陥の位置および欠陥の数を求める際に要求される画像に応じて、表面検査ユニット16におけるカメラ18と照明19の配置や数を、図示した以外の配置や数としてもよいことは勿論である。
【0087】
また、図示しないが、表面検査装置5は、表面検査ユニット16を、アーム7の先端側に研磨ユニット3が取り付けられたロボット2とは別のロボットに保持させる構成を採用してもよい。この場合、前記別のロボットは、該ロボットの運転空間にワーク保持装置6に保持されたワークAが配置されると共に、研磨ユニット3が取り付けられたロボット2の動作に干渉を生じない位置に設置すればよい。
【0088】
次いで、ロボット制御装置4の機能を説明すると共に、本実施形態の研磨装置1で実施する研磨方法について説明する。
【0089】
本実施形態におけるロボット制御装置4は、たとえば、
図1に示すように、記憶装置21と、タッチセンシング制御部22と、加工条件設定部23と、磨き制御部24と、評価部25とを備えた構成として、ロボットコントローラ8を介してロボット2のアーム7を制御する機能を備えている。更に、ロボット制御装置4は、研磨ユニット3を制御する機能と、表面検査ユニット16を制御する機能を備えている。
【0090】
なお、ロボット制御装置4は、ロボットコントローラ8と別体のものとして示したが、ロボット制御装置4とロボットコントローラ8が、同一の電子計算機に機能として実装されていてもよいことは勿論である。
【0091】
本実施形態の研磨装置1を使用する場合は、ワーク保持装置6に保持されたワークAのコーナ部Dにおける第1面Bと第2面Cの境界線Eの付近の領域が、磨き加工の加工対象領域として設定される。
【0092】
そのため、記憶装置21は、加工対象領域として設定された、ワーク保持装置6に保持されたワークAのコーナ部Dにおける第1面Bと第2面Cの境界線Eの付近の領域について、その3次元位置の情報を記憶する機能を備えている。なお、この場合のワークAの各部の3次元位置の情報は、ワーク保持装置6に、基準となる相対位置および姿勢で保持されたと仮想したワークA(以下、仮想のワークAという)についてのものである。
【0093】
更に、記憶装置21は、加工条件の初期設定を記憶する機能を備えている。この場合、加工条件の初期設定は、装備されている研磨工具11,11a,11bのうち、最初にいずれを使用するかという指定と、加工対象領域の3次元位置の情報に基づくコーナ部Dの内角θに対し設定された、研磨工具11の角度姿勢の初期設定と、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きと大きさの初期設定と、加工対象領域の磨き加工を行うための研磨工具11の送り軌道の初期設定とを含む。
【0094】
本実施形態における加工条件の初期設定では、本実施形態の研磨装置1が備えた研磨工具11,11a,11bのうち、
図4(a)に示すように、球形の工具本体12を有する研磨工具11が指定される。この場合、初期設定で指定される研磨工具11は、研磨工具11,11a,11bのうちで、工具本体12をワークAのコーナ部Dにおける第1面Bと第2面Cに押し付けて接触させたときに、工具本体12の第1面Bと第2面Cに接触する位置が、境界線Eから最も遠くなるという特徴を有する研磨工具である。
【0095】
本実施形態では、研磨工具11の角度姿勢の初期設定は、たとえば、
図4(a)に示すように、軸13をワークAの第1面Bと第2面Cの内角θの二等分線Fの方向に沿う配置とした角度姿勢に設定される。
【0096】
本実施形態では、研磨工具11の押付力ベクトルV0の初期設定として、たとえば、
図4(a)に示すように、押付力ベクトルV0の向きの初期設定は、ワークAの第1面Bと第2面Cの内角θの二等分線Fの方向に沿い境界線Eに向く方向に設定される。また、押付力ベクトルV0の大きさの初期設定は、ワークAの素材の硬度、研磨工具11の工具本体12の性状、使用する研磨材の性状、所望する磨きレベルなどを基に、ワークAの研磨加工に有効であると推定される押し付け力の範囲の最も小さい力に設定される。
【0097】
研磨工具11の送り軌道の初期設定は、たとえば、
図3(a)や
図3(b)に示したワークAのコーナ部Dの境界線Eが延びる方向に沿い設定される。
【0098】
なお、記憶装置21に記憶される加工条件の初期設定については、図示しないオペレータが、本実施形態の研磨装置1で使用するロボット2のノミナル値を用いて設定すればよい。
【0099】
初期設定を示した各加工条件のうち、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きと、研磨工具11の角度姿勢は、前記したように、ワークAのコーナ部Dにおける第1面Bの磨き加工の進行と、第2面Cの磨き加工の進行とに、偏りを持たせる制御に関与する加工条件である。
【0100】
そこで、ロボット制御装置4は、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きの設定と、研磨工具11の角度姿勢の設定について、いずれか一方または双方が相違する複数の組み合わせを、リスト化し、記憶装置21に力方向・姿勢条件リストとして記憶させている。
【0101】
力方向・姿勢条件リストは、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きの設定と、研磨工具11の角度姿勢の設定の組み合わせについて、第1の条件グループと、第2の条件グループと、第3の条件グループとを含んでいる。
【0102】
第1の条件グループは、ワークAのコーナ部Dにおける第1面Bの磨き加工と、第2面Cの磨き加工がほぼ均等に進行すると推定される、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きの設定と、研磨工具11の角度姿勢の設定の組み合わせのグループである。
【0103】
第2の条件グループは、第1面Bの磨き加工が、第2面Cの磨き加工に比して促進されると推定される、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きの設定と、研磨工具11の角度姿勢の設定の組み合わせのグループである。
【0104】
第3の条件グループは、第2面Cの磨き加工が、第1面Bの磨き加工に比して促進されると推定される、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きの設定と、研磨工具11の角度姿勢の設定の組み合わせのグループである。
【0105】
なお、第3の条件グループは、たとえば、ワークAのコーナ部Dの内角θの二等分線Fを対称の軸として、第2の条件グループの設定と線対称の関係となる設定とすることが好ましいが、線対称の関係でなくてもよい。また、力方向・姿勢条件リストは、第2の条件グループ、および、第3の条件グループには、それぞれ、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きの設定と、研磨工具11の角度姿勢の設定について、一方または双方が相違する複数の組み合わせを備えることが好ましい。このように、第2の条件グループと、第3の条件グループに、複数の組み合わせを備える場合は、それぞれの組み合わせに対し、使用する順序を定めておく。
【0106】
なお、力方向・姿勢条件リストには、前記した加工条件の初期設定と一致するものが含まれていてもよい。これは、加工条件の初期設定が、前記した初期設定に限られないためである。
【0107】
タッチセンシング制御部22は、ワーク保持装置6に実際に保持されたワークAを対象として、ロボット2を用いてタッチセンシングを行う機能を備えている。
【0108】
そのため、タッチセンシング制御部22は、研磨ユニット3に、駆動装置10の保持装置で研磨工具11に代えて計測用ピン14を保持する指令を与える機能と、ロボット2に、計測用ピン14をワークAに近づけるように移動させる指令を与える機能と、力センサ9の出力を基に、計測用ピン14がワークAに触れたと判断した位置を記憶する機能とを備えている。更に、タッチセンシング制御部22は、前記のように計測用ピン14がワークに触れたと判断した位置を記憶する処理を、ワークAの形状を代表する複数個所に対して行うことで、ワーク保持装置6に実際に保持されたワークAの位置と姿勢を検出する機能を備えている。
【0109】
加工条件設定部23は、タッチセンシング制御部22から、実際のワークAの位置と姿勢の検出結果を取得する機能と、取得した実際のワークAの位置と姿勢について、記憶装置21に記憶されている情報の元となる仮想のワークAからの位置および姿勢のずれ量を計算する機能と、その位置および姿勢のずれ量の計算結果を基に、記憶装置21に記憶されている仮想のワークAの各部の3次元位置の情報を、実際のワークAの各部の3次元位置に一致させるための補正計算を求める機能と、を備えている。これにより、ロボット制御装置4は、加工条件設定部23により、実際のワークAについて、コーナ部Dにおける第1面Bと第2面Cと境界線Eの位置の情報、更には、第1面Bと第2面Cの向きの情報を得ることができる。
【0110】
更に、加工条件設定部23は、記憶装置21に記憶されている加工条件の初期設定、または、条件リストのいずれかの条件が与えられると、与えられた加工条件または条件に従って、ロボット2で制御する研磨工具11について、実際のワークAに対する相対位置を、前記した位置および姿勢のずれ量の計算結果を基に調整する機能を備えている。これにより、ロボット制御装置4は、加工条件設定部23により、実際のワークAのコーナ部Dに研磨工具11を配置するときに、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きと、研磨工具11の角度姿勢を、実際のワークAの位置と姿勢に合わせて修正することができる。
【0111】
磨き制御部24は、加工条件設定部23より修正後の加工条件または条件を取得する機能と、取得した加工条件または条件に従い、研磨工具11を用いてワークAのコーナ部Dの磨き加工を実施する機能を備えている。
【0112】
そのため、磨き制御部24は、研磨ユニット3に、駆動装置10の保持装置で研磨工具11を保持する指令を与える機能を備えている。
【0113】
また、磨き制御部24は、取得した加工条件または条件に従い、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きと、研磨工具11の角度姿勢を定める機能と、その後、押付力ベクトルV0の向きには、押付力ベクトルV0の大きさに応じた力制御を行い、且つ研磨工具11の送り軌道の方向には位置制御を行うように、ロボット2に指令を与える機能を備えている。これにより、本実施形態の研磨装置1は、ワークAのコーナ部Dにおける第1面Bと第2面Cについて、研磨工具11の工具本体12が接する個所を、研磨工具11の送り軌道に沿い磨き加工することができる。
【0114】
評価部25は、ワークAのコーナ部Dにおける本実施形態の研磨装置1の加工対象領域について、研磨ユニット3による磨き加工が、所望する磨きレベルに達したか否かを評価する機能を備えている。
【0115】
そのために、評価部25は、ロボット2に、アーム7の先端側に、研磨ユニット3に代えて表面検査ユニット16を保持させる指令を与える機能と、ロボット2に、表面検査ユニット16を、磨き加工が行われたワークAの加工対象領域の撮影位置へ配置させる指令を与える機能と、表面検査ユニット16の照明19に点灯の指令を与える機能と、カメラ18にワークAにおける加工対象領域の撮影を行わせる機能とを備えている。これにより、本実施形態の研磨装置1では、表面検査ユニット16のカメラ18により、ワークAにおける加工対象領域の撮影を行うことができる。
【0116】
カメラ18によりワークAにおける加工対象領域が撮影されると、画像解析装置20では、その撮影画像を基に、加工対象領域について、欠陥の位置の計測と、欠陥の数の計測が行われて、その計測結果がロボット制御装置4へ送られる。
【0117】
評価部25は、画像解析装置20よりロボット制御装置4へ送られた加工対象領域における欠陥の位置の計測結果と、欠陥の数の計測結果を取得する機能を備えている。
【0118】
評価部25は、加工対象領域における欠陥の位置の計測結果と、欠陥の数の計測結果を取得すると、各計測結果を基に、研磨ユニット3による磨き加工が、所望する磨きレベルに達したか否かを評価して、加工終了の可否を判断する。
【0119】
そのため、評価部25には、加工対象領域が所望の磨きレベルに達したことの判断基準として、欠陥の数のしきい値が設定されている。
【0120】
なお、ワークAのコーナ部Dの磨き加工では、第1面Bと第2面Cにおける境界線Eに近い個所にある欠陥ほど、磨き残しとなりやすい。
【0121】
そこで、評価部25には、更に、第1面Bと第2面Cにおける境界線Eに非常に近い領域、たとえば、境界線Eからの距離が1mmまでの領域が、境界線近傍エリアとして設定されている。なお、境界線近傍エリアを規定する境界線Eからの距離は、1mm以外の値に設定してもよいことは勿論である。
【0122】
この状態で、評価部25は、先ず、直前に行われた磨き加工が1回目であるか否かを判定する加工回数判定処理を行う。
【0123】
この加工回数判定処理で、直前に行われた磨き加工が1回目であると判定される場合には、評価部25は、取得した加工対象領域における欠陥の位置の計測結果と、欠陥の数の計測結果について、先ず、加工対象領域における欠陥の数が、設定されたしきい値未満であるという第1の判定条件による判定を行う。
【0124】
取得した計測結果が、第1の判定条件を満たす場合は、加工対象領域における欠陥の数がしきい値未満となっているため、評価部25は、加工終了可能と判断する。
【0125】
一方、評価部25は、第1の判定条件が満たされていないと判定された場合、すなわち、加工対象領域における欠陥の数がしきい値以上である場合には、磨き加工継続と判断し、続いて、加工対象領域における第1面Bに存在する欠陥の数と、第2面Cに存在する欠陥の数とを比較する比較処理を行う。
【0126】
この比較処理の結果、第1面Bに存在する欠陥の数が、第2面Cに存在する欠陥の数よりも大となる場合は、評価部25は、記憶装置21に記憶させてある力方向・姿勢条件リストから、第2の条件グループで使用順序が1番目に設定された、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きの設定と、研磨工具11の角度姿勢の設定の組み合わせを呼び出して、次回の磨き加工を行う際の加工条件として、加工条件設定部23へ送る機能を備えている。
【0127】
また、比較処理の結果、第2面Cに存在する欠陥の数が、第1面Bに存在する欠陥の数よりも大となる場合は、評価部25は、記憶装置21に記憶させてある力方向・姿勢条件リストから、第3の条件グループで使用順序が1番目に設定された、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きの設定と、研磨工具11の角度姿勢の設定の組み合わせを呼び出して、次回の磨き加工を行う際の加工条件として、加工条件設定部23へ送る機能を備えている。
【0128】
更に、比較処理の結果、第1面Bに存在する欠陥の数が、第2面Cに存在する欠陥の数と等しい場合は、評価部25は、第1面Bと第2面Cのいずれか一方を優先的に加工する面に設定する。評価部25は、第1面Bを優先的に加工する面に設定した場合は、記憶装置21に記憶させてある力方向・姿勢条件リストから、第2の条件グループで使用順序が1番目に設定された、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きの設定と、研磨工具11の角度姿勢の設定の組み合わせを呼び出して、次回の磨き加工を行う際の加工条件として、加工条件設定部23へ送る機能を備えている。一方、評価部25は、第2面Cを優先的に加工する面に設定した場合は、記憶装置21に記憶させてある力方向・姿勢条件リストから、第3の条件グループで使用順序が1番目に設定された、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きの設定と、研磨工具11の角度姿勢の設定の組み合わせを呼び出して、次回の磨き加工を行う際の加工条件として、加工条件設定部23へ送る機能を備えている。
【0129】
これにより、本実施形態の研磨装置1では、加工対象領域の磨き加工が再度行われ、この際、第1面Bと第2面Cのうち、存在する欠陥の数が多い方の面に偏った磨き加工が行われる。
【0130】
2回目以降の磨き加工が行われた場合は、評価部25では、加工回数判定処理で、直前に行われた磨き加工が1回目ではないと判断される。この場合、評価部25は、先ず、取得した加工対象領域における欠陥の位置と、欠陥の数の計測結果について、加工対象領域における欠陥の数が、設定されたしきい値未満であるという第2の判定条件と、加工対象領域における欠陥のうち、境界線から1mm以内の境界線近傍エリアに存在する欠陥の割合がR[%]未満という第3の判定条件とが、共に満たされるか否かの判定を行う。
【0131】
評価部25は、第2の判定条件と、第3の判定条件が共に満たされる場合は、加工終了可能と判断し、それ以外の場合は、磨き加工継続と判断する。
【0132】
これに対し、第2の判定条件は満たされるが、第3の判定条件が満たされない場合は、加工対象領域では、欠陥の数が減ってはいるが、境界線近傍エリアにより多くの欠陥が残存している状況である。この場合、評価部25は、加工条件設定部23に、研磨ユニット3に保持させる研磨工具を、
図4(a)に示した研磨工具11から、
図5(a)に示した研磨工具11a、または、
図5(b)に示した研磨工具11bに替える指令を与える機能を備えている。これにより、本実施形態の研磨装置1では、研磨工具11aまたは研磨工具11bを用いてワークAのコーナ部Dにて、より境界線Eに近い位置の磨き加工を行うことができる。
【0133】
なお、第2の判定条件が満たされない場合は、加工対象領域における欠陥の数が、しきい値以上の場合である。この場合、評価部25は、第3の判定条件の判定結果に関わらず、続いて、直前に行われた磨き加工により、加工対象領域における欠陥の数が減少したという第4の判定条件が満たされるか否かの判定を行う。なお、この欠陥の数の減少は、評価部25では、画像解析装置20より受け取る加工対象領域における欠陥の数の計測結果を、前回受け取った欠陥の数の計測結果と比較することで検出できる。
【0134】
評価部25は、この第4の判定条件により、加工対象領域における欠陥の数が減少していると判断された場合は、加工条件設定部23に、次回の磨き加工を行う際の加工条件として、直前の磨き加工の実施に用いた加工条件を再度使用するよう指示を与える機能を備えている。
【0135】
一方、評価部25は、第4の判定条件により、加工対象領域における欠陥の数が減少していないと判断された場合は、記憶装置21に記憶させてある力方向・姿勢条件リストから、従前と同じ条件グループで使用順序が次に設定された、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の向きの設定と、研磨工具11の角度姿勢の設定の組み合わせを呼び出して、次回の磨き加工を行う際の加工条件として、加工条件設定部23へ送る機能か、あるいは、加工条件設定部23に、研磨工具11に付与する押付力ベクトルV0の大きさを増加させる指示、または、研磨工具11の送り軌道に沿う移動速度を低下させる指示、または、直前の磨き加工の実施に用いた加工条件による磨き加工を設定された回数分、繰り返し実施する指示を与える機能を備えている。
【0136】
これにより、本実施形態の研磨装置1は、ワークAにおける加工対象領域について、評価部25が加工条件設定部23に指示した加工条件での磨き加工が、実施される。
【0137】
その後は、評価部25にて、第2の判定条件と、第3の判定条件が共に満たされて、加工終了可能という判断がなされるまで、本実施形態の研磨装置1では、ワークAのコーナ部Dにおける磨き加工領域について、磨き加工が繰り返し行われる。
【0138】
したがって、本実施形態の研磨装置1によれば、ワークAのコーナ部Dにおける第1面Bと第2面Cについて、研磨工具11,11a,11bを第1面Bと第2面Cの双方に接触させた状態での磨き加工を行うことができる。そのため、本実施形態の研磨装置1は、180度未満の内角θで接続する第1面Bと第2面Cを備えたワークAについて、従来に比して、第1面Bと第2面Cの境界線Eにより近い領域の磨き加工を行うことができる。更に、本実施形態の研磨装置1は、ワークAのコーナ部Dにおける加工対象領域について、残存する欠陥の数をしきい値未満にまで低減させることができるため、所望の磨きレベルを得ることができる。
【0139】
よって、本実施形態の研磨装置1は、コーナ部の内角の頂点近傍の表面にも鏡面加工が必要とされる金型などを加工対象とする場合に好適な研磨装置とすることができる。
【0140】
なお、本開示の研磨装置および研磨方法は、前記実施形態にのみ限定されるものではない。
【0141】
図1に示したロボット2、研磨ユニット3、研磨ユニット3における研磨工具11,11a,11b、表面検査ユニット16、ロボット制御装置4、ロボットコントローラ8、ワークAのそれぞれの形状や、相対的なサイズは、図示するための便宜上のもので、実際の形状や相対的なサイズを反映したものではない。
【0142】
ロボット2は、多関節ロボットを例示したが、他の形式のロボットでもよい。
【0143】
ロボット2は、計測用ピン14に代えて、研磨工具11,11a,11bを用いてワークAのタッチセンシングを行う機能を備えていてもよい。
【0144】
その他本発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0145】
2 ロボット、3 研磨ユニット、4 ロボット制御装置、5 表面検査装置、9 力センサ、10 駆動装置、11,11a,11b 研磨工具、12,12a,12b 工具本体、13 軸、A ワーク、B 第1面、C 第2面、D コーナ部、V0 押付力ベクトル、V1 成分、V2 成分、θ 内角