(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】材料試験機、及び、材料試験機の制御方法
(51)【国際特許分類】
G01N 3/00 20060101AFI20221109BHJP
G01N 3/06 20060101ALI20221109BHJP
G05D 3/12 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
G01N3/00 T
G01N3/06
G05D3/12 305Z
(21)【出願番号】P 2019064450
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-06-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】弁理士法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】松浦 融
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-050881(JP,A)
【文献】特開平11-153533(JP,A)
【文献】特開2005-017054(JP,A)
【文献】特開平01-172734(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0024323(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 3/00-3/62
G05D 3/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動部材を移動させて
試験片に負荷を付与する負荷機構と、
前記負荷に応じて前記
試験片又は前記負荷機構に生じる第1物理量を測定する第1測定部と、
前記負荷機構のフィードバック制御において応答となる第2物理量を測定する第2測定部と、
前記第1測定部が測定した前記第1物理量の変化を示す第1変化量と、前記第2測定部が測定した前記第2物理量の変化を示す第2変化量との比である変化量比を算出する算出部と、
前記算出部が算出した前記変化量比に基づいて、実際の前記第2物理量と、前記第2物理量の目標値である目標第2物理量との偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御するフィードバック制御部と、
材料試験を開始してから前記移動部材が移動方向を切り替える前までに前記算出部が算出した前記変化量比であ
り、且つ前記試験片が弾性状態である場合の切替前変化量比を記憶する記憶部と、を備え、
前記フィードバック制御部は、前記移動部材の移動方向を切り替えた際、所定期間、前記記憶部が記憶する前記切替前変化量比に基づいて前記偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御する、
材料試験機。
【請求項2】
前記フィードバック制御部は、
前記移動部材の移動方向を切り替えた際、前記算出部が算出した最新の前記変化量比と前記記憶部が記憶する前記切替前変化量比とのうち、負荷機構に与える指示値が小さい前記変化量比を、前記所定期間、前記偏差に乗じて前記負荷機構をフィードバック制御する、
請求項1記載の材料試験機。
【請求項3】
前記負荷機構は、前記移動部材を第1方向に移動させて前記
試験片に試験力を付与し、前記移動部材を第2方向に移動させて前記
試験片に付与された前記試験力を除荷し、
前記フィードバック制御部は、前記移動部材の移動方向を前記第1方向から前記第2方向へ切り替えた際、所定期間、前記記憶部が記憶する前記切替前変化量比に基づいて前記偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御する、
請求項1又は2に記載の材料試験機。
【請求項4】
移動部材を移動させて
試験片に負荷を付与する負荷機構と、
前記負荷に応じて前記
試験片又は前記負荷機構に生じる第1物理量を測定する第1測定部、前記負荷機構のフィードバック制御において応答となる第2物理量を測定する第2測定部、前記第1測定部が測定した前記第1物理量の変化を示す第1変化量と、前記第2測定部が測定した前記第2物理量の変化を示す第2変化量との比である変化量比を算出する算出部、及び、前記算出部が算出した前記変化量比に基づいて、実際の前記第2物理量と、前記第2物理量の目標値である目標第2物理量との偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御するフィードバック制御部、を有する制御装置と、を備える材料試験機の制御方法であって、
前記制御装置が、
材料試験を開始してから前記移動部材が移動方向を切り替える前までに前記算出部が算出した前記変化量比であ
り、且つ前記試験片が弾性状態である場合の切替前変化量比を記憶し、
前記移動部材の移動方向を切り替えた際、所定期間、記憶した前記切替前変化量比に基づいて前記偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御する、
材料試験機の制御方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料試験機、及び、材料試験機の制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、材料試験機の材料試験においては、試験対象に負荷を付与する負荷機構の駆動対象に指示を与えて制御対象とする計測値をフィードバックするフィードバック制御が行われている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1では、クロスヘッドを移動させて試験片に負荷として試験力を付与する負荷機構をフィードバック制御する材料試験機を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載のような材料試験では、フィードバック制御において、試験対象又は負荷機構に生じるフィードバック対象の物理量の変化と負荷機構に与える指示値と相関の高い物理量の変化との比を、制御パラメータとして加味する場合がある。この場合、材料試験機は、どのくらいの応答変化に対してどのくらいの物理量変化が試験対象又は負荷機構に生ずるかをフィードバック制御で加味できるため、負荷機構のフィードバック制御の精度が向上する。
【0005】
ところで、材料試験では、試験対象に負荷を付与するための移動部材の移動方向の切替を伴う試験がある。この種の材料試験では、移動部材の移動方向を切り替える際に試験対象の状態によっては前記比が制御パラメータに加味する値としては不適切である場合があり、負荷機構のフィードバック制御の精度が低下し得る。そこで、この種の試験では、前記比が固定値として設定されることが多い。しかしながら、前記比が固定値として設定される材料試験では、試験対象の種類や寸法が変わるたびに固定値の再設定が必要となって、ユーザの手間がかかってしまう。
【0006】
そこで、本発明は、移動部材の移動方向の切替を伴う材料試験において、ユーザの手間がかかることなく、精度良く負荷機構をフィードバック制御できるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の第1の態様は、移動部材を移動させて試験片に負荷を付与する負荷機構と、前記負荷に応じて前記試験片又は前記負荷機構に生じる第1物理量を測定する第1測定部と、前記負荷機構のフィードバック制御において応答となる第2物理量を測定する第2測定部と、前記第1測定部が測定した前記第1物理量の変化を示す第1変化量と、前記第2測定部が測定した前記第2物理量の変化を示す第2変化量との比である変化量比を算出する算出部と、前記算出部が算出した前記変化量比に基づいて、実際の前記第2物理量と、前記第2物理量の目標値である目標第2物理量との偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御するフィードバック制御部と、材料試験を開始してから前記移動部材が移動方向を切り替える前までに前記算出部が算出した前記変化量比であり、且つ前記試験片が弾性状態である場合の切替前変化量比を記憶する記憶部と、を備え、前記フィードバック制御部は、前記移動部材の移動方向を切り替えた際、所定期間、前記記憶部が記憶する前記切替前変化量比に基づいて前記偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御する、材料試験機に関する。
【0008】
本発明の第2の態様は、移動部材を移動させて試験片に負荷を付与する負荷機構と、前記負荷に応じて前記試験片又は前記負荷機構に生じる第1物理量を測定する第1測定部、前記負荷機構のフィードバック制御において応答となる第2物理量を測定する第2測定部、前記第1測定部が測定した前記第1物理量の変化を示す第1変化量と、前記第2測定部が測定した前記第2物理量の変化を示す第2変化量との比である変化量比を算出する算出部、及び、前記算出部が算出した前記変化量比に基づいて、実際の前記第2物理量と、前記第2物理量の目標値である目標第2物理量との偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御するフィードバック制御部、を有する制御装置と、を備える材料試験機の制御方法であって、前記制御装置が、材料試験を開始してから前記移動部材が移動方向を切り替える前までに前記算出部が算出した前記変化量比であり、且つ前記試験片が弾性状態である場合の切替前変化量比を記憶し、前記移動部材の移動方向を切り替えた際、所定期間、記憶した前記切替前変化量比に基づいて前記偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御する、材料試験機の制御方法に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の第1の態様によれば、移動部材の移動方向を切り替えた際、所定期間、材料試験開始から当該切り替え前までに算出した変化量比に基づいて負荷機構をフィードバック制御するため、変化量比の変化が安定した時に算出された変化量比を負荷機構のフィードバック制御で加味することが可能となり、精度良く負荷機構をフィードバック制御できる。また、自動で、移動部材の移動方向を切り替えた際の変化量比を記憶するため、ユーザが事前に変化量比の値を設定する必要がなくユーザの手間がかからない。以上より、移動部材の移動方向の切替を伴う材料試験において、ユーザの手間がかかることなく、精度良く負荷機構をフィードバック制御できる。
【0010】
本発明の第2の態様によれば、本発明の第1の態様と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】測定応力、測定ひずみ、制御コンプライアンスの時間変化の一例を示す図である。
【
図4】制御装置の動作を示すフローチャートである。
【
図5】試験力、クロスヘッドの移動変位の時間変化を示す測定データである。
【
図6】試験力、クロスヘッドの移動変位の時間変化を示す測定データである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
[1.材料試験機の構成]
以下、図面を参照して本発明の実施形態について説明する。
図1は、本実施形態に係る材料試験機1の構成を模式的に示す図である。
材料試験機1は、引張試験や、圧縮試験、曲げ試験等の材料試験を実行し、試験対象である試験片TPの機械的性質を試験する試験機である。なお、試験対象は、各種材料や工業製品、この工業製品の部品又は部材等であり、試験片TPは、材料試験のために所定の規格に基づいて作成されている。
【0013】
本実施形態の材料試験機1は、クロスヘッド10の移動方向の切替を伴う材料試験を実行する。本実施形態では、当該材料試験として破壊靭性試験を行う場合を例示する。クロスヘッド10は、本発明の「移動部材」の一例に対応する。なお、破壊靭性試験は、破壊に対する材料の破壊抵抗性を求める試験である。
【0014】
本実施形態の材料試験機1は、破壊靭性試験において、ひずみ制御によって試験片TPに負荷として試験力Fである引張力を付与し、応力制御によって試験片TPに付与された引張力を除荷するといった一連の動作を、複数回繰り返す。ひずみ制御とは、材料試験において生じる試験片TPのひずみSAが、当該ひずみSAに対して設けられた目標値と一致するように負荷機構12をフィードバック制御することを示す。また、応力制御とは、材料試験において生じる応力SEが、当該応力SEに対して設けられた目標値と一致するように負荷機構12をフィードバック制御することを示す。
【0015】
図1に示すように、材料試験機1は、試験片TPに試験力Fを付与して破壊靭性試験を行う試験機本体2と、試験機本体2による破壊靭性試験の動作を制御する制御ユニット4と、を備える。
【0016】
本実施形態の試験片TPは、切欠きが形成されたCT試験片と呼称されるものであり、一対の貫通孔が形成されている。試験片TPは、当該貫通孔のそれぞれに挿入されるピンを介して、クロスヘッド10に設けられた冶具21とテーブル6に設けられた冶具22とに連結されることで、試験機本体2に対して取り付けられる。
【0017】
図1に示すように、材料試験機1は、試験片TPに形成された切欠きの変位量(以下、「開口変位量」という)を検出するクリップゲージ90を備える。クリップゲージ90は、開口変位量を測定し、開口変位量測定信号A2を制御装置30に出力するセンサである。
【0018】
[2.試験機本体の構成]
【0019】
試験機本体2は、テーブル6と、このテーブル6上に鉛直方向を向く状態で回転可能に立設された一対のねじ棹8、9と、これらのねじ棹8、9に沿って移動可能なクロスヘッド10と、クロスヘッド10を上下方向に移動させて試験片TPに試験力Fを与える負荷機構12と、ロードセル14と、を備える。ロードセル14は、試験片TPに与えられる荷重である試験力Fを測定し、試験力測定信号A1を出力するセンサである。クロスヘッド10が移動する上下方向は、本発明の「移動方向」の一例に対応する。なお、試験機本体2は、ねじ棹を1本とする構成としてもよい。
【0020】
一対のねじ棹8、9は、ボールねじから成り、クロスヘッド10は、各ねじ棹8、9に対して図示を省略したナットを介して連結されている。負荷機構12は、各ねじ棹8、9の下端部に連結されるウォーム減速機16、17と、各ウォーム減速機16、17に連結されるサーボモータ18と、ロータリエンコーダ20とを備える。ロータリエンコーダ20は、サーボモータ18の回転量Trを測定し、回転量Trに応じたパルス数の回転測定信号A3を信号入出力ユニット40に出力するセンサである。
そして負荷機構12は、ウォーム減速機16、17を介して、一対のねじ棹8、9にサーボモータ18の回転を伝達し、ねじ棹8、9が同期して回転することにより、クロスヘッド10がねじ棹8、9に沿って昇降する。
【0021】
クロスヘッド10には、試験片TPの上端部を支持するための冶具21が設けられ、テーブル6には、試験片TPの下端部を支持するための冶具22が設けられる。試験機本体2は、破壊靭性試験において試験片TPを引っ張る際、試験片TPの上端部を冶具21で支持すると共に、試験片TPの下端部を冶具22で支持した状態で、制御装置30による制御により、クロスヘッド10を上方向UPに移動させる。これによって、試験機本体2は、試験片TPに試験力Fとして引張力が付与される。上方向UPは、クロスヘッド10がねじ棹8、9に沿ってテーブル6から離れる方向であり、本発明の「第1方向」の一例に対応する。試験機本体2は、破壊靭性試験において試験片TPに付与された引張力を除荷する際、制御装置30による制御により、クロスヘッド10を下方向DWに移動させる。これによって、試験機本体2は、試験片TPに付与された引張力が除荷される。下方向DWは、クロスヘッド10がねじ棹8、9に沿ってテーブル6に近づく方向であり、本発明の「第2方向」の一例に対応する。
【0022】
[3.制御ユニットの構成]
制御ユニット4は、制御装置30と、表示装置32と、試験プログラム実行装置34と、を備える。
【0023】
制御装置30は、試験機本体2を中枢的に制御する装置であり、試験機本体2との間で信号を送受信可能に接続される。試験機本体2から受信する信号は、ロードセル14が出力する試験力測定信号A1や、クリップゲージ90から出力する開口変位量測定信号A2、ロータリエンコーダ20が出力する回転測定信号A3、制御や試験に要する適宜の信号などである。
【0024】
表示装置32は、制御装置30から入力される信号に基づいて各種情報を表示する装置であり、例えば、制御装置30は、破壊靭性試験を含む材料試験の間、試験力測定信号A1に基づいて試験片TPに付与されている試験力Fの測定値を表示装置32に表示する。
【0025】
試験プログラム実行装置34は、破壊靭性試験を含む材料試験の試験条件といった各種設定パラメータの設定操作や実行指示操作などのユーザ操作を受け付け、制御装置30に出力する機能や、試験力Fの測定値のデータを解析する機能などを備えた装置である。試験プログラム実行装置34はコンピュータを備え、このコンピュータは、CPUやMPUなどのプロセッサと、ROMやRAMなどのメモリデバイスと、HDDやSSDなどのストレージ装置と、制御装置30や各種の周辺機器などを接続するためのインターフェース回路と、を備える。そして、プロセッサがメモリデバイス又はストレージ装置に記憶されたコンピュータログラムである材料試験プログラムを実行することで、上述の各種機能を実現する。
【0026】
次いで、制御装置30について詳述する。
図1に示すように、制御装置30は、信号入出力ユニット40と、制御回路ユニット50と、を備える。
【0027】
信号入出力ユニット40は、試験機本体2との間で信号を送受する入出力インターフェース回路を構成するものであり、本実施形態では第1センサアンプ41、第2センサアンプ42、カウンタ回路43、及び、サーボアンプ44を有する。
【0028】
第1センサアンプ41は、ロードセル14が出力する試験力測定信号A1を増幅して制御回路ユニット50に入力する増幅器である。
【0029】
第2センサアンプ42は、クリップゲージ90が出力する開口変位量測定信号A2を増幅して制御回路ユニット50に入力する増幅器である。
【0030】
カウンタ回路43は、ロータリエンコーダ20が出力する回転測定信号A3のパルス数を計数し、サーボモータ18の回転量Tr、すなわちサーボモータ18の回転によって移動するクロスヘッド10の移動量(ストローク値ともいう)を示す回転測定信号A3を制御回路ユニット50にデジタル信号で出力する。
【0031】
なお、材料試験機1は、ロータリエンコーダ20に代えて、ねじ棹8、9の少なくとも一方に装着されるエンコーダを備える構成でもよい。この構成の場合、当該エンコーダは、装着されたねじ棹8、9の少なくとも一方が所定角度回転する毎に1つのパルスを出力する信号を生成し、カウンタ回路43に出力する。そして、カウンタ回路43は、当該エンコーダが出力する信号のパルス数を計数し、ねじ棹の回転量、すなわちねじ棹の回転によって移動するクロスヘッド10の移動量を示す回転測定信号A3を制御回路ユニット50にデジタル信号で出力する。
【0032】
サーボアンプ44は、制御回路ユニット50の制御の下、サーボモータ18を制御する装置である。
【0033】
制御回路ユニット50は、通信部52と、制御部54と、記憶部56とを備える。
制御回路ユニット50は、CPUやMPUなどのプロセッサと、ROMやRAMなどのメモリデバイスと、HDDやSSDなどのストレージ装置と、信号入出力ユニット40とのインターフェース回路と、試験プログラム実行装置34と通信する通信装置と、表示装置32を制御する表示制御回路と、各種の電子回路と、を備えたコンピュータを備え、プロセッサがメモリデバイス又はストレージ装置に記憶されたコンピュータログラムを実行することで、制御部54の各機能部を実現する。また信号入出力ユニット40のインターフェース回路にはA/D変換器が設けられており、アナログ信号の試験力測定信号A1がA/D変換器によってデジタル信号に変換される。
なお、制御回路ユニット50は、コンピュータに限らず、ICチップやLSIなどの集積回路といった1又は複数の適宜の回路によって構成されてもよい。
【0034】
通信部52は、試験プログラム実行装置34との間で通信し、破壊靭性試験を含む材料試験条件の設定や各種設定パラメータの設定値、破壊靭性試験を含む材料試験の実行指示や中断指示などを試験プログラム実行装置34から受信する。また通信部52は、試験力測定信号A1に基づく試験力F等の種々の測定値を適宜のタイミングで試験プログラム実行装置34に送信する。
【0035】
記憶部56は、メモリデバイスにより構成され、切替前制御コンプライアンス561、及び、目標データ562を記憶する。なお、切替前制御コンプライアンス561は、破壊靭性試験中において記憶部56に記憶されるため、破壊靭性試験中以外では記憶部56に記憶されない。切替前制御コンプライアンス561は、本発明の「切替前変形量比」の一例に対応する。
【0036】
切替前制御コンプライアンス561については、後述する。
目標データ562は、材料試験における種々の物理量の目標値の時間的変動を示す時系列データである。本実施形態の目標データ562は、破壊靭性試験におけるひずみSA及び応力SEの目標値の時系列データである。この目標データは、試験プログラム実行装置34に対するユーザ設定操作に応じて制御回路ユニット50によって変更記憶される。
【0037】
制御部54は、試験機本体2の負荷機構12としてサーボモータ18をフィードバック制御して破壊靭性試験を含む材料試験に係る処理を実行する機能部である。ここで、制御部54が具備する各機能部を説明する前に、負荷機構12のフィードバック制御の一態様であるサーボモータ18のフィードバック制御の制御系について説明する。
【0038】
[3-1.制御系の構成]
図2を参照して、サーボモータ18をフィードバック制御する制御系の構成について説明する。
図2を参照して説明する制御系は、応力制御におけるサーボモータ18のフィードバック制御の制御系である。
図2は、サーボモータ18のフィードバック制御の制御系を示すブロック線図である。
図2において「t」は、制御周期の実行タイミングを示している。
【0039】
サーボモータ18のフィードバック制御では、
図2に示すようにPID制御が行われ、サーボモータ18の回転量Tr(t)を決定する。そして、サーボモータ18のフォードバック制御では、予め設定された制御周期毎に、サーボモータ18の回転量Tr(t)を更新する。
【0040】
図2に示すようにフィードバック制御のブロック線図は、減算器70、換算器71、及び、制御器78を含む。制御器78は、比例器72、積分器73、第1微分器74、第1加算器75、第2加算器76、及び、第2微分器77を含む。
【0041】
減算器70は、各制御周期において目標応力SEc(t)から測定応力SEs(t)を減じた偏差e(t)を算出し、算出した偏差e(t)を換算器71に出力する。なお、目標応力SEcは、目標となる応力SEを示す。応力SEは、本発明の「第2物理量」の一例に対応する。また、目標応力SEcは、本発明の「目標第2物理量」の一例に対応する。また、測定応力SEsは、ロードセル14が測定した試験力Fに基づいて測定された応力SEであり、本発明の「実際の第2物理量」の一例に対応する。
【0042】
換算器71は、減算器70が出力する偏差e(t)に、後述する制御コンプライアンス算出部543が算出した制御コンプライアンスComp又は切替前制御コンプライアンス561を乗じて、当該偏差e(t)を試験片TPのひずみSAの変化量に相当する偏差e´(t)に換算する。換算器71は、換算した偏差e´(t)を比例器72、積分器73、及び、第1微分器74に入力する。
【0043】
第1加算器75は、比例器72、積分器73、及び、第1微分器74の出力を加算し、第1加算値K1(t)を第2加算器76に出力する。また、第2加算器76は、第1加算器75が出力した第1加算値K1(t)に移動量初期値U0を加算し、第2加算値K2(t)を第2微分器77出力する。
【0044】
第2微分器77は、第2加算器76から出力された第2加算値K2(t)を微分することにより、第2加算値K2(t)が示す試験片TPのひずみSAの変化量から、サーボモータ18の回転量Tr(t)を算出する。そして、
図2に示すフィードバック制御では、サーボモータ18の回転量Tr(t)を示す指令信号B1をサーボアンプ44に出力する。
【0045】
[3-2.制御回路ユニットの構成]
図1を参照して、制御部54の機能ブロックについて説明する。
制御部54は、応力測定部541、ひずみ測定部542、制御コンプライアンス算出部543、及び、フィードバック制御部544を備える。応力測定部541は、本発明の「第2測定部」の一例に対応する。また、ひずみ測定部542は、本発明の「第1測定部」の一例に対応する。また、制御コンプライアンス算出部543は、本発明の「算出部」の一例に対応する。
【0046】
応力測定部541は、第1センサアンプ41を介してロードセル14から入力される試験力測定信号A1が示す試験力Fを、所定の試験片TPの断面積で除することによって応力SEを測定する。試験片TPの断面積は、破壊靭性試験の開始前に、試験対象となる試験片TPのものが予め記憶部56にデータとして記憶される。
【0047】
ひずみ測定部542は、第2センサアンプ42を介してクリップゲージ90から入力される開口変位量測定信号A2が示す開口変位量を、破壊靭性試験前の切欠きの幅で除することで、試験片TPのひずみSEを測定する。破壊靭性試験前の切欠きの幅は、予め記憶部56にデータとして記憶される。
【0048】
制御コンプライアンス算出部543は、制御コンプライアンスCompを算出する。制御コンプライアンスCompとは、試験片TP又は負荷機構12に生じる物理量の変化と、負荷機構12の駆動対象に与える指示値(本実施形態ではサーボモータ18の回転量Tr)と相関を有する物理量の変化との比である。本実施形態では、制御コンプライアンス算出部543は、応力測定部541が測定した測定応力SEsの変化量(以下、「応力変化量」といい「SEd」の符号を付す)と、ひずみ測定部542が測定した試験片TPのひずみSAsの変化量(以下、「ひずみ変化量」といい「SAd」の符号を付す)との比である制御コンプライアンスCompを算出する。制御コンプライアンスCompは、本発明の変化量比の一例に対応する。また、応力変化量SEdは、本発明の「第2変化量」の一例に対応する。また、ひずみ変化量SAdは、本発明の「第1変化量」の一例に対応する。
【0049】
制御コンプライアンス算出部543は、例えば、以下の式(1)に基づいて制御コンプライアンスCompを算出する。
Comp(t)=SAd(t)/SEd(t)・・・(1)
式(1)において、tは制御周期の実行タイミングである。また、Comp(t)は各制御周期における制御コンプライアンスを示す。また、SAd(t)は各制御周期におけるひずみ変化量SAdを示し、例えば前回の制御周期における測定値と今回の制御周期における測定値とに基づく試験片TPのひずみSAの変化量である。また、SEd(t)は各制御周期における応力変化量SEdを示し、例えば前回の制御周期における測定値と今回の制御周期における測定値とに基づく試験片TPに生じる応力SEの変化量である。
【0050】
また、制御コンプライアンス算出部543は、破壊靭性試験が開始してから、クロスヘッド10が移動方向を最初に切り替える前までに算出した制御コンプライアンスCompである切替前制御コンプライアンス561を記憶部56に記憶させる。制御コンプライアンス算出部543は、破壊靭性試験が開始してから予め定められた期間が経過した後、最初に算出した制御コンプライアンスCompを、切替前制御コンプライアンス561として記憶部56に記憶させる。この予め定められた期間は、記憶される切替前制御コンプライアンス561が、例えば試験片TPが弾性状態である場合の制御コンプライアンスCompとなるように、事前のテストやシミュレーション等によって適切に定められている。
【0051】
フィードバック制御部544は、サーボモータ18のフィードバック制御を実行する。
ここで、ひずみ制御、及び、応力制御で分けて、フィードバック制御部544について説明する。なお、フィードバック制御部544は、目標データ562や試験プログラム実行装置34から受信した試験条件等に基づいて、サーボモータ18のフィードバック制御をひずみ制御と応力制御とに切り替える。
【0052】
まず、ひずみ制御のフィードバック制御部544について説明する。
フィードバック制御部544は、ひずみ制御の各制御周期において、ひずみSA(t)の目標値と、ひずみ測定部542が測定した試験片TPのひずみSA(t)との偏差を減少させるようなサーボモータ18の回転量Tr(t)を演算し、回転量Tr(t)を示す指令信号B1をサーボアンプ44に出力する。
【0053】
次に、応力制御のフィードバック制御部544について説明する。
フィードバック制御部544は、応力制御における各制御周期において、目標応力SEc(t)と応力測定部541が測定した測定応力SEs(t)との偏差e(t)に、制御コンプライアンス算出部543が算出した制御コンプライアンスComp、又は、記憶部56が記憶する切替前制御コンプライアンス561を乗じて偏差e´(t)を算出する。そして、フィードバック制御部544は、算出した偏差e´(t)に基づいて、測定応力SEs(t)と目標応力SEc(t)との偏差e(t)を減少させるサーボモータ18の回転量Tr(t)を演算し、回転量Tr(t)を示す指令信号B1をサーボアンプ44に出力する。
【0054】
また、フィードバック制御部544は、破壊靭性試験において、クロスヘッド10の移動方向を上方向UPから下方向DWに切り替えた際、切り替えたタイミングから予め定められた期間、記憶部56が記憶する切替前制御コンプライアンス561に基づいて、サーボモータ18のフィードバック制御を行う。以下の説明において、切替があったタイミングから予め定められた期間を、「切替後剛性制御期間」という。切替後剛性制御期間は、本発明の「所定期間」の一例に対応する。切替後剛性制御期間は、移動方向を切り替えた後に制御コンプライアンスCompの変化が安定するまでの期間であり、事前のテストやシミュレーション等によって適切に定められている。
【0055】
フィードバック制御部544は、クロスヘッド10の移動方向を下方向DWに切り替えた際、切替時で最新の制御コンプライアンス算出部543が算出した制御コンプライアンスComp(以下、「切替時最新制御コンプライアンス」という)と、記憶部56が記憶する切替前制御コンプライアンス561とを比較する。そして、フィードバック制御部544は、切替時最新制御コンプライアンスが切替前制御コンプライアンス561以下である場合、切替後剛性制御期間、切替時最新制御コンプライアンスを偏差e(t)に乗じて偏差e´(t)を算出する。一方、フィードバック制御部544は、切替時最新制御コンプライアンスが切替前制御コンプライアンス561より大きい場合、切替後剛性制御期間、記憶部56が記憶する切替前制御コンプライアンス561を偏差e(t)に乗じて偏差e´(t)を算出する。
【0056】
図3は、測定応力SEs、測定ひずみSAc、及び、制御コンプライアンス算出部543が算出する御剛性Compの時間変化の一例を示す図である。
図3の例は、試験片TPを塑性域まで引っ張り、その後、付与した引張力を除荷した場合における測定応力SEs、測定ひずみSAs、及び、制御コンプライアンスCompの時間変化である。
【0057】
図3において、左縦軸は応力SEとひずみSAとに設定され、右縦軸は制御コンプライアンスCompに設定され、横軸は時間(sec)に設定される。なお、左縦軸は、応力SEの場合、例えば40000000が400(MPa)を示し、ひずみSAの場合、40000000が4%を示す。
図3において、特性グラフTg-1は、測定応力SEsの時間変化を示す。特性グラブTg-2は、測定ひずみSAcの時間変化を示す。特性グラフTg-3は、制御コンプライアンスCompの時間変化を示す。
【0058】
図3のタイミングTA1以前の特性グラフTg-3が示すように、制御コンプライアンスCompは、降伏点を超えて塑性域まで試験片TPをひずみ制御で引っ張ると、急激に値が増加する。これは、ひずみSAが増加しているにも関わらず応力SEが増加しないことに起因する。
図3では、タイミングTA1においてクロスヘッド10の移動方向が下方向DWに切り替わり、引張力の除荷が開始する。すると、
図3の特性グラフTg-3が示すように、制御コンプライアンスCompは、タイミングTA1以降、変化が安定へと向かう一方で、タイミングTA1からタイミングTA2の間では変化の振れ幅が大きい。特に、タイミングTA1の直後の制御コンプライアンスCompは、弾性域の制御コンプライアンスCompと比較して非常に大きい値である。そのため、タイミングTA1からタイミングTA2の間で不安定に変化する制御コンプライアンスCompを用いるとサーボモータ18のフィードバック制御が不安定となってしまう。また、値の大きい制御コンプライアンスCompをサーボモータ18のフィードバック制御で加味すると、応答が過大となってしまう。
【0059】
そこで、
図3の場合では、フィードバック制御部544は、「Comp-1」の値を示す切替前制御コンプライアンス561と、タイミングTA1における切替時最新制御コンプライアンスと、を比較する。そして、フィードバック制御部544は、切替後剛性制御期間であるタイミングTA1からタイミングTA3までの期間、値の小さいほうである「Comp-1」の値を示す切替前制御コンプライアンス561を偏差e(t)に乗じてサーボモータ18をフィードバック制御する。タイミングTA1からタイミングTA2までの間、制御コンプライアンス算出部543が算出する制御コンプライアンスCompは値が大きく且つ変化も大きいが、フィードバック制御部544は、切替後剛性制御期間において、試験片TPの弾性域の制御コンプライアンスCompとほぼ同じ値で且つ時間変化のない安定した切替前制御コンプライアンス561を用いてサーボモータ18をフィードバック制御できる。
【0060】
[4.材料試験機の動作]
次に、材料試験機1の制御装置30の動作について説明する。
図3は、制御装置30の動作を示すフローチャートであり、サーボモータ18のフィードバック制御における応力制御に係る動作を特に示している。
【0061】
図3に示すフローチャートでは、ひずみ制御中、及び、応力制御中において制御周期が到来するたびに、制御コンプライアンス算出部543が制御コンプライアンスCompを算出するものとする。
【0062】
制御装置30の制御部54のフィードバック制御部544は、破壊靭性試験を開始するか否かを判別する(ステップSA1)。例えば、フィードバック制御部544は、通信部52を介して試験プログラム実行装置34から破壊靭性試験の実行指示を受信した場合、ステップSA1で肯定判別する。
【0063】
フィードバック制御部544は、破壊靭性試験を開始すると判別した場合(ステップSA1:YES)、ひずみ制御でサーボモータ18をフィードバック制御して、試験片TPの引張を開始する(ステップSA2)。
【0064】
次いで、フィードバック制御部544は、破壊靭性試験を開始してから予め定められた期間が経過したか否かを判別する(ステップSA3)。
【0065】
フィードバック制御部544は、予め定められた期間が経過していないと判別した場合(ステップSA3:NO)、処理をステップSA3に戻し、ひずみ制御による試験片TPの引張を継続する。
【0066】
一方で、フィードバック制御部544が予め定められた期間が経過したと判別した場合(ステップSA3:YES)、制御コンプライアンス算出部543は、ステップSA3の肯定判別後、最初に算出した制御コンプライアンスCompを、切替前制御コンプライアンス561として記憶部56に記憶させる(ステップSA4)。
【0067】
次いで、フィードバック制御部544は、クロスヘッド10の移動方向を下方向DWに切り替えるか否か、すなわち、ひずみ制御から応力制御に切り替えて引張力の除荷を開始するか否かを判別する(ステップSA5)。例えば、フィードバック制御部544は、目標データ562や試験プログラム実行装置34から受信した試験条件に基づいて、ステップSA5の判別を実行する。
【0068】
フィードバック制御部544は、ステップSA5において否定判別した場合、処理をステップSA3に戻し、ひずみ制御による試験片TPの引張を継続する。
【0069】
一方、フィードバック制御部544は、ステップSA5において肯定判別すると、記憶部56に記憶された切替前制御コンプライアンス561が、切替時最新制御コンプライアンスより小さい値であるか否かを判別する(ステップSA6)。なお、本実施形態では、フィードバック制御部544がステップSA5の肯定判別した時を、フィードバック制御部544がクロスヘッド10の移動方向を切り替えた時とする。
【0070】
フィードバック制御部544は、記憶部56に記憶された切替前制御コンプライアンス561が、切替時最新制御コンプライアンスより値が小さいと判別した場合(ステップSA6:YES)、偏差e(t)に乗じる制御コンプライアンスCompを切替前制御コンプライアンス561と決定する(ステップSA7)。
【0071】
そして、フィードバック制御部544は、切替前制御コンプライアンス561に基づいて、応力制御でサーボモータ18をフィードバック制御して、試験片TPに付与された引張力の除荷を開始する(ステップSA8)。
【0072】
ステップSA6の説明に戻り、フィードバック制御部544は、記憶部56に記憶された切替前制御コンプライアンス561が、切替最新制御コンプライアンスより値が大きいと判別した場合(ステップSA6:NO)、偏差e(t)に乗じる制御コンプライアンスCompを、切替時最新制御コンプライアンスと決定する(ステップSA9)。
【0073】
そして、フィードバック制御部544は、切替時最新制御コンプライアンスに基づいて、応力制御でサーボモータ18をフィードバック制御して、試験片TPに付与された引張力の除荷を開始する(ステップSA10)。
【0074】
フィードバック制御部544は、切替後剛性制御期間が経過したか否かを判別する(ステップSA11)。フィードバック制御部544は、切替後剛性制御期間が経過していないと判別した場合(ステップSA11:NO)、処理をステップSA11に戻し、ステップSA7又はステップSA9で決定した制御コンプライアンスCompに基づいて、引張力の除荷を継続する。
【0075】
一方で、フィードバック制御部544は、切替後剛性制御期間が経過したと判別した場合(ステップSA11:YES)、制御コンプライアンス算出部543が制御周期で算出する制御コンプライアンスCompに基づいて、引張力の除荷を継続する(ステップSA12)。
【0076】
次いで、フィードバック制御部544は、クロスヘッド10の移動方向を上方向UPに切り替えるか否か、すなわち、応力制御からひずみ制御に切り替えて引張力の負荷を開始するか否かを判別する(ステップSA13)。
【0077】
フィードバック制御部544は、ステップSA13で否定判別した場合、破壊靭性試験を終了するか否かを判別する(ステップSA14)。フィードバック制御部544は、破壊靭性試験を終了すると判別した場合(ステップSA14:YES)、本処理を終了する。一方で、フィードバック制御部544は、破壊靭性試験を終了しないと判別した場合(ステップSA14:NO)、再度、ステップSA13の処理を実行する。
【0078】
ステップSA13の説明に戻り、フィードバック制御部544は、ステップSA5において肯定判別すると、ひずみ制御でサーボモータ18をフィードバック制御して、試験片TPに付与された引張力の付与を開始する(ステップSA15)。そして、フィードバック制御部544は、ステップSA15の処理を実行すると、処理をステップSA5に移行させる。
【0079】
[5.測定データによる検証]
図5、及び
図6は、試験力F、及び、クロスヘッド10の移動変位の時間変化を示す測定データである。なお、試験力Fの時間変化は、試験片TPに生じている応力SEの時間変化に対応する。また、クロスヘッド10の移動変位の時間変化は、試験片TPのひずみSAの時間変化に対応する。そのため、
図5、及び、
図6の測定データは、試験片TPに生じている応力SEの時間変化、及び、試験片TPのひずみSAの時間変化の測定データに対応する。
【0080】
図5、及び
図6において、左縦軸は試験力F(N:ニュートン)に設定され、右縦軸はクロスヘッド10の移動変位(mm)に設定され、横軸は時間(sec)に設定される。
【0081】
図5、及び
図6に示す測定データは、ひずみ制御に対応するクロスヘッド10の変位制御によってクロスヘッド10を上方向UPに移動させて試験片TPを塑性域まで引っ張り、その後、所定期間クロスヘッド10の移動を停止させ、その後、応力制御に対応する試験力制御によってクロスヘッド10を下方向DWに移動させて試験片TPに付与された引張力を除荷した場合を示している。
図5、及び
図6に示す測定データにおけるクロスヘッド10の変位制御では、単位時間当たりの移動変位が一定となるようにクロスヘッド10の移動変位が制御されている。また、
図5、及び
図6に示す測定データにおける試験力制御では、単位時間当たりの試験力の変化量が一定となるような制御がなされている。
【0082】
なお、
図6では、クロスヘッド10が移動停止している期間の測定データを示している一方、
図5では、当該期間の測定データを省いている。
【0083】
図5は、従来の材料試験機1による測定データである。すなわち、
図5は、制御コンプライアンス算出部543が逐次算出する制御コンプライアンスCompを用いてサーボモータ18のフィードバック制御を実行した場合の測定データである。
【0084】
図5において、特性グラフTg-1は試験力Fの測定データを示し、特性グラフTg-2はクロスヘッド10の移動変位の測定データを示し、特性グラフTg-3は試験力Fの目標値の時間変化を示すデータである。
【0085】
図5が示すように、タイミングTB1で試験片TPに付与された引張力の除荷を開始すると、試験力Fは、目標の試験力Fから大きく離れた値となって測定されている。また、タイミングTB1で試験片TPに付与された引張力の除荷を開始すると、点枠E1で示すように、クロスヘッド10の移動変位が大きく変化している。これは、
図3に示すように値の大きい制御コンプライアンスCompを用いてサーボモータ18のフィードバック制御を行った際に応答が過大となって急激な引張力の除荷が行われたことを示している。
【0086】
図6は、本発明の材料試験機1による測定データである。すなわち、
図6は、
図4に示す動作を実行してサーボモータ18のフィードバック制御を実行した場合の測定データである。
【0087】
図6において、特性グラフTg-4は、試験力Fの測定データを示し、特性グラフTg-5はクロスヘッド10の移動変位の測定データを示し、特性グラフTg-6は試験力Fの目標値の時間変化を示すデータである。
【0088】
図6が示すように、タイミングTB2で試験片TPに付与された引張力の除荷を開始すると、試験力Fは、目標の試験力Fに沿った値となって測定されている。また、タイミングTB2で試験片TPに付与された引張力の除荷を開始すると、
図5の点枠E1と比較して明らかな通り、クロスヘッド10の移動変位が大きく低下していない。これは、適切に一定の速度で引張力の除荷が行われていることを示しており、クロスヘッド10の移動方向を切り替えた際におけるサーボモータ18のフィードバック制御が精度良く行われていることを示している。
【0089】
図7は、本発明の材料試験機1による破壊靭性試験の測定データである。
図7に示す測定データは、単位時間当たりのひずみSAの変化が一定となるようにひずみ制御で塑性域まで試験片TPを引っ張り、その後、クロスヘッド10の移動方向を下方向DWに切り替えて、単位時間当たりの応力SEの変化が一定となるように応力制御で試験片TPから引張力を除荷することを繰り返した試験の測定データである。
【0090】
図7の特性グラフTG-7は、除荷を開始する間隔が精度良く等間隔に分割されていることを示していて、精度良く破壊靭性試験が行われていることを示している。
【0091】
[6.本実施形態の効果]
以上、説明したように、材料試験機1は、クロスヘッド10を移動させて試験片TPに試験力Fを付与する負荷機構12と、試験片TPに生じるひずみSAを測定するひずみ測定部542と、試験片TPに生じる応力SEを測定する応力測定部541と、応力変化量SEdとひずみ変化量SAdとの比である制御コンプライアンスCompを算出する制御コンプライアンス算出部543と、制御コンプライアンス算出部543が算出した制御コンプライアンスCompに基づいて、測定応力SEsと目標応力SEcとの偏差eを減少させるようにサーボモータ18をフィードバック制御するフィードバック制御部544と、切替前制御コンプライアンスCompを記憶する記憶部56と、を備える。そして、フィードバック制御部544は、クロスヘッド10が移動方向を切り替えた際、切替後剛性制御期間、記憶部56が記憶する切替前制御コンプライアンスCompに基づいて偏差eを減少させるようにサーボモータ18をフィードバック制御する。
【0092】
この構成によれば、クロスヘッド10の移動方向を切り替えた際、切替後剛性制御期間、破壊靭性試験開始から当該切り替え前までに算出した制御コンプライアンスCompに基づいてサーボモータ18をフィードバック制御するため、制御コンプライアンスCompの変化が安定した時に算出された制御コンプライアンスCompを当該フィードバック制御で加味することが可能となり、サーボモータ18のフィードバック制御の精度を向上できる。また、自動で、クロスヘッド10の移動方向を切り替えた際の制御コンプライアンスCompを記憶するため、ユーザが事前に破壊靭性試験における制御コンプライアンスCompの値を設定する必要がなくユーザの手間がかからない。以上より、クロスヘッド10の移動方向の切替を伴う材料試験である破壊靭性試験において、ユーザの手間がかかることなく、精度良くサーボモータ18をフィードバック制御できる。
【0093】
また、フィードバック制御部544は、クロスヘッド10が移動方向を切り替えた際、制御コンプライアンス算出部543が算出した最新の制御コンプライアンスCompと、記憶部56が記憶する切替前制御コンプライアンス561とのうち、値が小さい制御コンプライアンスCompを、切替後剛性制御期間、偏差e(t)に乗じてサーボモータ18をフィードバック制御する。
【0094】
この構成によれば、切替後剛性制御期間、安定した制御コンプライアンスCompに基づいてサーボモータ18をフィードバック制御できるため、クロスヘッド10の移動方向の切替時に実際の制御コンプライアンスCompの変化が不安定であっても、精度良くサーボモータ18をフィードバック制御できる。また、値の小さいほうを採用するため、応答が過大になることを防止でき、さらに精度良くサーボモータ18をフィードバック制御できる。
【0095】
負荷機構12は、クロスヘッド10を上方向UPに移動させて試験片TPに引張力を付与し、クロスヘッドを下方向DWに移動させて試験片TPに付与された引張力を除荷する。フィードバック制御部544は、クロスヘッド10の移動方向が上方向UPから下方向DWへ切り替わった際、切替後剛性制御期間、記憶部56が記憶する切替前制御コンプライアンス561に基づいて偏差eを減少させるようにサーボモータ18をフィードバック制御する。
【0096】
この構成によれば、破壊靭性試験において引張力を除荷する際のサーボモータ18のフィードバック制御を精度良く実行できるため、破壊靭性試験の精度を向上できる。
【0097】
[7.他の実施形態]
なお、上述した実施形態は、あくまでも本発明の一態様を例示するものであって、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で任意に変形、および応用が可能である。
【0098】
上述した実施形態では、材料試験として破壊靭性試験を例示したが、材料試験機1が実行する材料試験は、これに限定されない。材料試験機1が実行する材料試験は、クロスヘッド10の移動方向の切替を伴う試験であれば本発明を適用できる。例えば、材料試験は、試験片TPを引っ張った後に引張力を除荷する試験でもよいし、試験片TPを圧縮した後に圧縮力を除荷する試験でもよいし、引張圧縮を行う試験でもよい。なお、圧縮の場合、本発明の「第1方向」は下方向DWに相当し、本発明の「第2方向」は上方向UPに相当する。試験片TPを試験機本体2に取り付ける冶具は、材料試験の種類に応じて、適切な冶具が採用される。
【0099】
例えば、上述した実施形態では、本発明の「第1測定部」として制御部54のひずみ測定部542としたが、クリップゲージ90がひずみSAを示す信号を出力可能な構成である場合、クリップゲージ90が本発明の「第1測定部」となる。
【0100】
例えば、上記実施形態では、
図2に示したブロック線図に示したように、PID制御により、サーボモータ18のフィードバック制御を行う。他の構成として、一般的なPD制御により、サーボモータ18のフィードバック制御を行ってもよい。
【0101】
例えば、上記実施形態では、試験片TPのひずみSAを本発明の第1物理量とし、ひずみ変化量SAdを本発明の第1変化量とし、試験片TPに生じる応力SEを本発明の第2物理量として、応力変化量SEdを本発明の第2変化量とした場合のサーボモータ18のフィードバック制御を例示した。第1変化量、第1物理量、第2変化量、及び、第2物理量はこれに限定されない。例えば、第1変化量は、クロスヘッド10の移動量や、試験片TPの伸び量などでもよい。また、第2物理量は、試験力Fや、トルク、圧力、変位などであってもよい。
【0102】
例えば、上記実施形態では、負荷機構12の駆動源としてサーボモータ18を用いたが、油圧源等の他の駆動源を用いてもよい。この場合は、
図2のブロック線図における制御対象への出力は、駆動源に応じた物理量に設定する。
【0103】
例えば、上述実施形態において、
図1に示した機能ブロックは、本願発明を理解容易にするために構成要素を主な処理内容に応じて分類して示した概略図であり、処理内容に応じて、さらに多くの構成要素に分類することもできる。また、1つの構成要素がさらに多くの処理を実行するように分類することもできる。
【0104】
例えば、
図4に示す動作のステップ単位は、材料試験機1の各部の動作の理解を容易にするために、主な処理内容に応じて分割したものであり、処理単位の分割の仕方や名称によって、本発明が限定されることはない。処理内容に応じて、さらに多くのステップ単位に分割してもよい。また、1つのステップ単位がさらに多くの処理を含むように分割してもよい。また、そのステップの順番は、本発明の趣旨に支障のない範囲で適宜に入れ替えてもよい。
【0105】
[8.態様]
上述した実施形態及び変形例は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0106】
(第1項)
一態様に関わる材料試験機は、移動部材を移動させて試験対象に負荷を付与する負荷機構と、前記負荷に応じて前記試験対象又は前記負荷機構に生じる第1物理量を測定する第1測定部と、前記負荷機構のフィードバック制御において応答となる第2物理量を測定する第2測定部と、前記第1測定部が測定した前記第1物理量の変化を示す第1変化量と、前記第2測定部が測定した前記第2物理量の変化を示す第2変化量との比である変化量比を算出する算出部と、前記算出部が算出した前記変化量比に基づいて、実際の前記第2物理量と、前記第2物理量の目標値である目標第2物理量との偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御するフィードバック制御部と、材料試験を開始してから前記移動部材が移動方向を切り替える前までに前記算出部が算出した前記変化量比である切替前変化量比を記憶する記憶部と、を備え、前記フィードバック制御部は、前記移動部材の移動方向を切り替えた際、所定期間、前記記憶部が記憶する前記切替前変化量比に基づいて前記偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御する。
【0107】
第1項に記載の材料試験機によれば、移動部材の移動方向を切り替えた際、所定期間、材料試験開始から当該切り替え前までに算出した変化量比に基づいて負荷機構をフィードバック制御するため、変化量比の変化が安定した時に算出された変化量比を負荷機構のフィードバック制御で加味することが可能となり、精度良く負荷機構をフィードバック制御できる。また、自動で、移動部材の移動方向を切り替えた際の変化量比を記憶するため、ユーザが事前に変化量比の値を設定する必要がなくユーザの手間がかからない。以上より、移動部材の移動方向の切替を伴う材料試験において、ユーザの手間がかかることなく、精度良く負荷機構をフィードバック制御できる。
【0108】
(第2項)
第1項に記載の材料試験機において、前記フィードバック制御部は、前記移動部材の移動方向を切り替えた際、前記算出部が算出した最新の前記変化量比と前記記憶部が記憶する前記切替前変化量比とのうち、値が小さい前記変化量比を、前記所定期間、前記偏差に乗じて前記負荷機構をフィードバック制御する。
【0109】
第2項に記載の材料試験機によれば、所定期間、変化が安定した変化量比に基づいて負荷機構をフィードバック制御できるため、移動部材の移動方向を切り替えた際に実際の変化量比の変化が不安定であっても、精度良く負荷機構をフィードバック制御できる。また、値が小さい変化量比を採用するため、応答が過大になることを防止できる。以上より、移動部材の移動方向を切り替えた際、応答が過大になることを防止しつつ精度良く負荷機構をフィードバック制御できる。
【0110】
(第3項)
第1項又は第2項に記載の前記負荷機構は、前記移動部材を第1方向に移動させて前記試験対象に試験力を付与し、前記移動部材を第2方向に移動させて前記試験対象に付与された前記試験力を除荷し、前記フィードバック制御部は、前記移動部材の移動方向を前記第1方向から前記第2方向へ切り替えた際、所定期間、前記記憶部が記憶する前記切替前変化量比に基づいて前記偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御する。
【0111】
第3項に記載の材料試験機によれば、試験力を除荷する際の負荷機構のフィードバック制御を精度良く行えるため、試験力の付与、及び、付与した試験力を除荷する材料試験の精度を向上できる。
【0112】
(第4項)
第4項に記載の材料試験機の制御方法は、移動部材を移動させて試験対象に負荷を付与する負荷機構と、前記負荷に応じて前記試験対象又は前記負荷機構に生じる第1物理量を測定する第1測定部、前記負荷機構のフィードバック制御において応答となる第2物理量を測定する第2測定部、前記第1測定部が測定した前記第1物理量の変化を示す第1変化量と、前記第2測定部が測定した前記第2物理量の変化を示す第2変化量との比である変化量比を算出する算出部、及び、前記算出部が算出した前記変化量比に基づいて、実際の前記第2物理量と、前記第2物理量の目標値である目標第2物理量との偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御するフィードバック制御部、を有する制御装置と、を備える材料試験機の制御方法であって、前記制御装置が、材料試験を開始してから前記移動部材が移動方向を切り替える前までに前記算出部が算出した前記変化量比である切替前変化量比を記憶し、前記移動部材の移動方向を切り替えた際、所定期間、記憶した前記切替前変化量比に基づいて前記偏差を減少させるように前記負荷機構をフィードバック制御する。
【0113】
第4項に記載の材料試験機の制御方法によれば、第1項に記載の材料試験機と同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0114】
1 材料試験機
2 試験機本体
10 クロスヘッド(移動部材)
12 負荷機構
30 制御装置
56 記憶部
541 応力測定部(第2測定部)
542 ひずみ測定部(第1測定部)
543 制御コンプライアンス算出部(算出部)
544 フィードバック制御部
561 切替前制御コンプライアンス(切替前変化量比)
561 目標データ
562 目標データ
DW 下方向(第2方向)
F 試験力(負荷)
SA ひずみ(第1物理量)
SAd ひずみ変化量(第1変化量)
SE 応力(第2物理量)
SEc 目標応力(目標第2物理量)
SEd 応力変化量(第2変化量)
SEs 測定応力(実際の前記第2物理量)
Comp 制御コンプライアンス(変化量比)
TP 試験片(試験対象)
e 偏差