(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】吊車
(51)【国際特許分類】
E05D 15/06 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
E05D15/06 123
(21)【出願番号】P 2019074000
(22)【出願日】2019-04-09
【審査請求日】2021-10-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000211695
【氏名又は名称】中西金属工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100074561
【氏名又は名称】柳野 隆生
(74)【代理人】
【識別番号】100177264
【氏名又は名称】柳野 嘉秀
(74)【代理人】
【識別番号】100124925
【氏名又は名称】森岡 則夫
(74)【代理人】
【識別番号】100141874
【氏名又は名称】関口 久由
(74)【代理人】
【識別番号】100163577
【氏名又は名称】中川 正人
(72)【発明者】
【氏名】辻 崇宏
(72)【発明者】
【氏名】青野 弘典
【審査官】素川 慎司
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-097488(JP,A)
【文献】実開昭52-120430(JP,U)
【文献】特開2001-027072(JP,A)
【文献】特開2001-317267(JP,A)
【文献】実開昭53-007936(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05D 15/00 - 15/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上吊式建具を支持しながらハンガーレールに沿って移動する吊車であって、
前記ハンガーレールに係合して移動するランナと、前記上吊式建具を吊り下げるハンガーシャフトとを含み、
前記ランナは、ランナ本体、及び前記ランナ本体に支持されて左右方向軸まわりに転動するローラを含み、
前記ハンガーシャフトは、前記ランナ本体に対して上下方向にのみ移動可能なように、前記ランナ本体により支持されて垂下し、
前記ランナ本体に対する前記ハンガーシャフトの上下方向位置を調整する調整装置を備え、
前記調整装置は、
前記ハンガーシャフトの外周面に形成した雄ねじ部と、
前記雄ねじ部に螺合する雌ねじ部を内周面に備えるとともに、外周面に歯車部を備え、前記ランナ本体に対して前記ハンガーシャフトの軸心まわりに回動可能かつ上下方向に移動不能な大径歯車体と、
前記ランナ本体に設けた、前記ランナ本体に対して斜め下方から工具を挿入可能な、前記歯車部に連通する穴部とからなり、
前記工具は、その先端部に径方向へ突出する4個以上の突起からなる突起列を有するものであり、
前記大径歯車体の歯車部は、前記工具の突起列に噛合する形状であり、
前記穴部に挿入された前記工具は、その先端部の側面又は本体の側面が前記穴部を形成する周壁によりガイドされた状態で、前記工具の突起列は前記大径歯車体の歯車部に噛合
し、
前記ランナ本体は、その左右方向の側面間に連通する開口部を有し、
前記開口部に対し、前記大径歯車体を前記ランナ本体の外方から装着可能としてなり、
前記大径歯車体の歯車部に噛合する歯車部を外周面に有し、前記穴部に挿入された状態で前記ランナ本体により回動可能に支持される小径歯車体をさらに備え、
前記小径歯車体の底面に、工具の先端部が係合する係合穴を設けてなり、
前記ランナ本体の穴部に対し、前記小径歯車体を前記ランナ本体の外方から装着可能とし、
前記ランナ本体の外方から前記小径歯車体を前記穴部に装着した後に、前記ランナ本体の外方から前記大径歯車体を前記開口部に装着することにより、前記小径歯車体は前記ランナ本体から脱落しないことを特徴とする吊車。
【請求項2】
前記調整装置により前記ランナ本体に対する前記ハンガーシャフトの上下方向位置を調整する際には、前記ランナ本体に対する前記大径歯車体の回動を阻害せず、
前記上吊式建具を操作して空間を開閉する際には、前記ランナ本体に対する前記大径歯車体の回動を阻止する
非調整時回動阻止手段を備えてなる、
請求項
1に記載の吊車。
【請求項3】
前記非調整時回動阻止手段は、前記ランナ本体の大径歯車体収容部に設けた、前記大径歯車体の歯車部の歯間に入る突起である、
請求項
2に記載の吊車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、引戸、折戸又は可動間仕切等の上吊式建具に使用される吊車に関し、さらに詳しくは、ハンガーレールに対して前記建具の高さを調整できる吊車に関する。
【背景技術】
【0002】
引戸、折戸又は可動間仕切等の上吊式建具に使用される吊車において、ハンガーレールに係合して移動するランナ(ランナ本体、及び前記ランナ本体に支持されて転動するローラを含む)と、前記ランナ本体に支持されて垂下するハンガーシャフトとを含む構造を有し、前記ハンガーレールに対して前記建具の高さ(上下方向位置)を調整できる吊車がある(例えば、特許文献1及び2参照)。
【0003】
前記吊車において、ランナ本体に支持されて垂下するハンガーシャフトは、ランナ本体に対して上下方向にのみ移動可能なように、ランナ本体により支持されており、前記吊車は、ランナ本体に対するハンガーシャフトの上下方向位置を調整する調整装置を備える。
【0004】
特許文献1における前記調整装置(シャフト調整手段8)は、シャフト7の外周面に形成した雄ねじ20、シャフト移動歯車体27、及び回転調整体30により構成される。
【0005】
シャフト移動歯車体27は、その雌ねじ32をシャフト7の雄ねじ20に螺合した状態で移動体4に回転可能に嵌合され、外周面に傘歯車34が形成される。
回転調整体30は、移動体4にシャフト7の先端側から基端側に向かって傾斜して交叉する状態で回転可能に嵌合され、シャフト移動歯車体27の傘歯車34に噛合する傘歯車36を有するとともに、移動体4の外面に配置される操作部29を有する。
【0006】
プラスドライバーなどの操作具により操作部29を調整操作することにより、傘歯車36が回転し、傘歯車36に噛合する傘歯車34を有するシャフト移動歯車体27が回転する。それにより、シャフト移動歯車体27の雌ねじ32に雄ねじ20が噛合するシャフト7がシャフト移動歯車体27に対して上下方向へ移動するので、移動体4に対するシャフト7の上下方向位置を調整できる。
【0007】
このような構成の前記調整装置を吊車(開閉体移動装置1)に備えるために、特許文献1では、前記ランナ本体に相当する部材を分割構造にする必要がある。
【0008】
すなわち、特許文献1では、ブロック部材9は左右二分割され、一対のブロック9a,9bにより形成される。一対のブロック9a,9bは、ナット9d及びボルト9eにより固着される(特許文献1の[0017]及び[0051]、並びに
図2及び
図5参照)。
あるいは、左右二分割しない一体のブロック部材9を用いる場合は、一体のブロック部材9に対してシャフト移動歯車体27及び回転調整体30を組み付けることができるように、ブロック部材9に収容室11を形成するとともに、キャップ体37を設ける必要がある。キャップ体37は、ビス等で移動体4に固定される(特許文献1の[0052]及び[0053]、並びに
図6参照)。
【0009】
特許文献2における前記調整装置は、ランナ1の傾斜ガイド面62及び案内面65、並びに、スライド部材4、水平ピン32、及びおねじ部材5により構成される。
【0010】
スライド部材4は、左右一対の係合壁41,41と、係合壁41,41の前端部同士を連結する連結壁40とよりなり、係合壁41,41の下側のスライド縁部43,43が傾斜ガイド面62に案内されて摺動するとともに、係合壁41,41の上側のスライド縁部44,44が案内面65に案内されて摺動する。
スライド部材4の両係合壁41,41における互いに対向する位置に形成された、前後方向に伸びる長穴45,45には、吊持シャフト3に固定された水平ピン32が挿通され、スライド部材の連結壁40には、めねじ穴46が形成される。
おねじ部材5のねじ軸部50は、ランナ1の仕切壁8の貫通穴80に挿通され、スライド部材4の連結壁40のめねじ穴46に螺合する。おねじ部材5の頭部51にはすり割り、十字穴または角穴が形成される。
【0011】
ドライバ等を用いて、おねじ部材5を回転させると、おねじ部材5のねじ軸部50とスライド部材4の連結壁40のめねじ穴46とがいわゆるすべりねじとして作用し、連結壁40がねじ軸部50に沿ってねじ軸部50の軸線方向に移動する。それにより、スライド部材4は、スライド縁部43,43が傾斜ガイド面62に案内されて摺動するとともに、スライド縁部44,44が案内面65に案内されて摺動するので、ランナ1に対する吊持シャフト3の上下方向位置を調整できる。
【0012】
このような構成の前記調整装置を吊車(吊り車装置)に備えるために、特許文献2では、前記ランナ本体に相当する部材を分割構造にする必要がある。
【0013】
すなわち、特許文献2では、ランナ1は、二分割され、左側部分を構成する第1構成部材11及び右側部分を構成する第2構成部材12により形成される。第1構成部材11及び第2構成部材12は、横断面略U字状の金属製固定部材10を両構成部材11,12の下端部にまたがって嵌め被せることにより固定される(特許文献2の[0021]、及び
図3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2001-27072号公報
【文献】特開2004-36267号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
特許文献1及び2のような吊車は、ランナ本体に対するハンガーシャフトの上下方向位置を調整する調整装置をランナ本体内に備えるために、前記のとおり、ランナ本体を分割構造にする必要がある。
それにより、ランナ本体自体の部品点数、並びに、分割構造のランナ本体を組付け後に固定するためのボルト及びナット等の固定部材の部品点数が増加するので、製造コストが上昇する。
その上、ランナ本体を分割構造にすることにより、ランナ本体を分割構造にしないものと比較して強度や剛性の低下に配慮した構造にする必要があるとともに、前記固定部材が必要になるので、ランナ本体の重量が上昇する。
【0016】
本発明は、ランナ本体に対するハンガーシャフトの上下方向位置を調整する調整装置を備えながら、部品点数の少ない簡素な構成により、製造コストを低減できるとともに、軽量化を図ることができる吊車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
本発明に係る吊車は、前記課題解決のために、上吊式建具を支持しながらハンガーレールに沿って移動する吊車であって、
前記ハンガーレールに係合して移動するランナと、前記上吊式建具を吊り下げるハンガーシャフトとを含み、
前記ランナは、ランナ本体、及び前記ランナ本体に支持されて左右方向軸まわりに転動するローラを含み、
前記ハンガーシャフトは、前記ランナ本体に対して上下方向にのみ移動可能なように、前記ランナ本体により支持されて垂下し、
前記ランナ本体に対する前記ハンガーシャフトの上下方向位置を調整する調整装置を備え、
前記調整装置は、
前記ハンガーシャフトの外周面に形成した雄ねじ部と、
前記雄ねじ部に螺合する雌ねじ部を内周面に備えるとともに、外周面に歯車部を備え、前記ランナ本体に対して前記ハンガーシャフトの軸心まわりに回動可能かつ上下方向に移動不能な大径歯車体と、
前記ランナ本体に設けた、前記ランナ本体に対して斜め下方から工具を挿入可能な、前記歯車部に連通する穴部とからなり、
前記工具は、その先端部に径方向へ突出する4個以上の突起からなる突起列を有するものであり、
前記大径歯車体の歯車部は、前記工具の突起列に噛合する形状であり、
前記穴部に挿入された前記工具は、その先端部の側面又は本体の側面が前記穴部を形成する周壁によりガイドされた状態で、前記工具の突起列は前記大径歯車体の歯車部に噛合し、
前記ランナ本体は、その左右方向の側面間に連通する開口部を有し、
前記開口部に対し、前記大径歯車体を前記ランナ本体の外方から装着可能としてなり、
前記大径歯車体の歯車部に噛合する歯車部を外周面に有し、前記穴部に挿入された状態で前記ランナ本体により回動可能に支持される小径歯車体をさらに備え、
前記小径歯車体の底面に、工具の先端部が係合する係合穴を設けてなり、
前記ランナ本体の穴部に対し、前記小径歯車体を前記ランナ本体の外方から装着可能とし、
前記ランナ本体の外方から前記小径歯車体を前記穴部に装着した後に、前記ランナ本体の外方から前記大径歯車体を前記開口部に装着することにより、前記小径歯車体は前記ランナ本体から脱落しないことを特徴とする(請求項1)。
【0018】
このような構成によれば、ランナ本体に設けた穴部に工具を挿入すると、工具の先端部の突起列が大径歯車体の歯車部に噛合する。その上、工具の先端部の側面又は工具の本体の側面が前記穴部を形成する周壁にガイドされる。
よって、工具を回動することにより、工具の前記側面が前記周壁にガイドされ、大径歯車体の歯車部に工具の突起列が噛合している状態が維持されながら、大径歯車体を確実に回動させることができる。それにより、大径歯車体の内周面の雌ねじ部に螺合する雄ねじ部を外周面に有するとともに、ランナ本体に対して上下方向にのみ移動可能なハンガーシャフトがランナ本体に対して上下方向へ確実に移動するので、ハンガーレールに対して上吊式建具の高さを容易かつ確実に調整できる。
【0019】
その上、ランナ本体に対するハンガーシャフトの上下方向位置を調整する調整装置が、ハンガーシャフトの雄ねじ部、大径歯車体、及びランナ本体に設けた穴部からなり、前記穴部から挿入した工具により大径歯車体を直接回動させる構成であることから、前記調整装置の部品点数を削減できる。例えば、特許文献1で工具により操作する回転調整体に相当する金属製の部品が無くなるので、製造コストを低減できるとともに、軽量化を図ることができる。
その上、ランナ本体の開口部に対し、大径歯車体をランナ本体の外方から装着できるので、ランナ本体を分割構造にする必要がない。それにより、従来の分割構造のランナ本体に対して、ランナ本体自体の部品点数を削減できるとともに、ボルト及びナット等の固定部材を不要にできるので、製造コスト及び重量の低減効果をより高めることができる。
その上、大径歯車体に噛合する小径歯車体をランナ本体の穴部に挿入し、小径歯車体の底面に設けた係合穴に工具の先端部を係合させた状態で、工具を回動することにより前記調整装置を操作する。
それにより、工具で操作する位置が視認できるので、工具で操作する箇所が分かり難いという要望がある場合に、そのような要望に容易に応えることができる。
その上、分割構造ではない一体構造のランナ本体の穴部に対し、小径歯車体をランナ本体の外方から装着した後に、ランナ本体の外方から大径歯車体を開口部に装着することにより、小径歯車体はランナ本体から脱落しない構造であるので、小径歯車体の脱落を防止するための部材を新たに設ける必要がない。
その上、分割構造ではない一体構造のランナ本体からハンガーシャフトを取り外した後、ランナ本体の開口部から大径歯車体を容易に取り外すことができ、大径歯車体を取り外した後には、ランナ本体の穴部から小径歯車体を容易に取り外すことができる。
それにより、工具で操作する箇所が分かり難いという要望がない場合、小径歯車体を取り外してより部品点数の少ない簡素な構造に戻すことができ、その状態では、ランナ本体の穴部から工具を挿入して操作することにより、ハンガーレールに対して上吊式建具の高さを容易かつ確実に調整できる。
【0025】
さらに、前記調整装置により前記ランナ本体に対する前記ハンガーシャフトの上下方向位置を調整する際には、前記ランナ本体に対する前記大径歯車体の回動を阻害せず、
前記上吊式建具を操作して空間を開閉する際には、前記ランナ本体に対する前記大径歯車体の回動を阻止する非調整時回動阻止手段を備えてなるのが一層好ましい実施態様である(請求項2)。
その場合、前記非調整時回動阻止手段を、前記ランナ本体の大径歯車体収容部に設けた、前記大径歯車体の歯車部の歯間に入る突起にするのがより一層好ましい実施態様である(請求項3)。
【0026】
このような構成によれば、非調整時回転阻止手段は、調整整置によりランナ本体に対するハンガーシャフトの上下方向位置を調整する際には、ランナ本体に対する大径歯車体の回動を阻害しないので、調整装置を操作する際における操作性が低下することがない。
その上、非調整時回転阻止手段は、上吊式建具を操作して空間を開閉する際には、ランナ本体に対する大径歯車体の回動を阻止するので、大径歯車体がひとりでに回動してハンガーシャフトが上下に移動することを阻止できる。
【発明の効果】
【0027】
以上のとおり、本発明の吊車によれば、ランナ本体に対するハンガーシャフトの上下方向位置を調整する調整装置を備えながら、部品点数の少ない簡素な構成により、製造コストを低減できるとともに、軽量化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】吊車を折戸に用いた例を示す部分断面正面図である。
【
図3】本発明の実施の形態1に係る吊車の斜視図である。
【
図6】本発明の実施の形態2に係る吊車の斜視図である。
【
図9】本発明の実施の形態3に係る吊車の斜視図である。
【
図12】非調整時回転阻止手段の一例を示す横断面平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明に係る実施形態を図面に基づいて説明する。
本明細書においては、ハンガーレールHRに沿って吊車1のランナ2が走行する方向を前後方向(
図1及び
図2の矢印Q参照)、前後方向に直交する水平方向を左右方向とし、左方又は右方から見た図(
図1、
図4、
図7、
図10)を正面図とする。
【0030】
<上吊式建具>
図1の部分断面正面図、及び
図2の部分断面斜視図に、上吊式建具Fの例として、折戸FDを示す。上吊式建具Fは、引戸又は可動間仕切等であってもよい。
吊車1のランナ2は、ハンガーレールHRに係合して前後方向Qにのみ移動し、吊車1のハンガーシャフト3は、上吊式建具Fである折戸FDを吊り下げる。
図1及び
図2に示す折戸FDでは、ハンガーレールHRと平行で下方に位置するレールRの溝内に、折戸FDのガイド軸Gが係合する。
吊車1のランナ2をハンガーレールHRに沿って移動させることにより、折戸FDを開閉できる。それにより空間Sを仕切ることができる。
【0031】
<吊車>
以下において、本発明の実施の形態に係る吊車1について説明する。
【0032】
[実施の形態1]
図1の部分断面正面図、及び
図2の部分断面斜視図、並びに
図3の斜視図、
図4の縦断面正面図、及び
図5の分解斜視図に示す本発明の実施の形態1に係る吊車1は、上吊式建具Fである折戸FDを支持しながらハンガーレールHRに沿って前後方向Qへ移動する。
吊
車1は、ハンガーレールHRに係合しながら移動するランナ2、及び折戸FDを吊り下げるハンガーシャフト3を含む。
ランナ2は、ランナ本体4、及びランナ本体4に支持されて左右方向軸であるローラ軸6まわりに転動する前後左右のローラ5,5,…を含む。
ハンガーシャフト3は、ランナ本体4に対して上下方向にのみ移動可能なように、ランナ本体4により支持されて垂下する。
【0033】
<実施の形態1の調整装置>
吊車1は、ランナ本体4に対するハンガーシャフト3の上下方向位置を調整する調整装置Aを備える。
調整装置Aは、
(1)ハンガーシャフト3の外周面に形成した雄ねじ部3A、
(2)雄ねじ部3Aに螺合する雌ねじ部8Bを内周面に備えるとともに、外周面に歯車部8Aを備え、ランナ本体4に対してハンガーシャフト3の軸心まわりに回動可能かつ上下方向に移動不能な大径歯車体8、
(3)ランナ本体4に設けた、ランナ本体4に対して斜め下方から工具Tを挿入可能な、歯車部8Aに連通する穴部C
からなる。
【0034】
<工具>
図3に示すように、工具Tは、例えば十字ねじ回し(JIS B 4633-1998)であり、その先端部に径方向へ突出する4個の突起Iからなる突起列Jを有する。
大径歯車体8の歯車部8Aは、工具Tの突起列Jに噛合する形状を有する。
【0035】
工具Tは、十字ねじ回しに限定されるものではなく、その先端部に径方向へ突出する6個の突起を有するヘックスローブドライバー等であってもよい。
すなわち、工具Tは、その先端部に径方向へ突出する4個以上の突起からなる突起列を有するものであればよい。
工具Tは、専用の工具としてもよいが、汎用の工具とするのが好ましい。
【0036】
<実施の形態1の吊車の組立方法>
次に、主に
図5の分解斜視図を参照して、吊車1の組立方法について説明する。
【0037】
(ローラ等の組付け)
ハンガーレールHRに沿って転動するローラ5,5,…は、例えば合成樹脂製であり、その中心部に通し穴5A,5A,…を有する。
外輪7A、内輪7B、及び転動体7Cからなる転がり軸受7を、ランナ本体4の軸受収容穴4Aに収容し、左右方向軸であるローラ軸6を、一方のローラ5の通し穴5A、転がり軸受7の内輪7B、及び他方のローラ5の通し穴5Aに挿入して軸端を加締める。
それにより、前後左右のローラ5,5,…がランナ本体4に組み付けられ、ローラ5,5,…は、ランナ本体4に支持されてローラ軸6,6まわりに転動する。
【0038】
(大径歯車体の組付け)
大径歯車体8は、合成樹脂製の基体Eと、金属製のナットNからなる。例えば射出成形で製造した基体Eの係合穴部HにナットNを嵌入することにより、基体EとナットNが一体化される。大径歯車体8は、このような二部品から構成せずに、一体の金属製のものとしてもよい。
大径歯車体8の歯部8Aは上向きに形成される。
ランナ本体4は、例えば合成樹脂製であり、その左右方向の側面4E,4F間に連通する開口部Mを有する。それにより、大径歯車体8は、開口部Mに対し、外方から装着できる。ランナ本体4の開口部Mから大径歯車体8を挿入するだけで、ランナ本体4の大径歯車体収容部Bに大径歯車体8を収容できる。
【0039】
(ハンガーシャフトの組付け)
ハンガーシャフト3の軸部をランナ本体4のハンガーシャフト支持穴4Bに挿通し、ハンガーシャフト3の雄ねじ部3Aを大径歯車体8の雌ねじ部8Bに螺合する。
ハンガーシャフト3を回転させて上昇させ、例えば
図4の断面図のようにハンガーシャフト支持穴4Cまで挿入し、係合溝3Bを左右方向へ向けた位置にする。
ランナ本体4の一方の長穴4Dにスプリングピン10を挿入し、ハンガーシャフト3の係合溝3Bに嵌入し、ランナ本体4の他方の長穴4Dまで挿入する。
それにより、ハンガーシャフト3の係合溝3Bにスプリングピン10が嵌入した状態で、スプリングピン10が上下方向の長穴4Dに沿って昇降するように、ハンガーシャフト3は、ランナ本体4に対して上下方向にのみ移動可能なように、ランナ本体4により支持される。
【0040】
<実施の形態1の調整装置の動作>
図3の斜視図のように、例えば十字ねじ回しである工具Tの先端部をランナ本体4の穴部Cに挿入し、
図4の縦断面正面図の二点鎖線のように、工具Tの突起列Jを大径歯車体8の歯車部8Aに噛合させる。
その状態では、工具Tの先端部の側面Kが穴部Cを形成する周壁Dによりガイドされる。
なお、周壁Dによりガイドするのは、工具Tの先端部の側面Kではなく、工具Tの本体の側面Lであってもよい。
【0041】
図4の状態で工具Tを回動させることにより、工具Tの突起列Jに噛合する大径歯車部8が回動する。
それにより、大径歯車部8の雌ねじ部8Bに雄ねじ部3Aが噛合するハンガーシャフト3が、図中矢印のように上下方向へ移動するので、ランナ本体4に対するハンガーシャフト3の上下方向位置を調整できる。したがって、
図1及び
図2のハンガーレールHRに対して上吊式建具Fである折戸FDの高さ(上下方向位置)を調整できる。
【0042】
<実施の形態1の作用効果>
前記のような調整装置Aの構成により、ランナ本体4に設けた穴部Cに工具Tを挿入すると、工具Tの先端部の突起列Jが大径歯車体8の歯車部8Aに噛合する。その上、工具Tの先端部の側面K又は工具Tの本体の側面Lが穴部Cを形成する周壁Dにガイドされる。
よって、工具Tを回動することにより、工具Tの側面K又はLが周壁Dにガイドされ、大径歯車体8の歯車部8Aに工具Tの突起列Jが噛合している状態が維持されながら、大径歯車体8を確実に回動させることができる。それにより、大径歯車体8の内周面の雌ねじ部8Bに螺合する雄ねじ部3Aを外周面に有するとともに、ランナ本体4に対して上下方向にのみ移動可能なハンガーシャフト3がランナ本体4に対して上下方向へ確実に移動するので、ハンガーレールHRに対して上吊式建具Fの高さを容易かつ確実に調整できる。
【0043】
その上、ランナ本体4に対するハンガーシャフト3の上下方向位置を調整する調整装置Aが、ハンガーシャフト3の雄ねじ部3A、大径歯車体8、及びランナ本体4に設けた穴部Cからなり、穴部Cから挿入した工具Tにより大径歯車体8を直接回動させる構成であることから、調整装置Aの部品点数を削減できる。例えば、特許文献1で工具により操作する回転調整体に相当する金属製の部品が無くなるので、製造コストを低減できるとともに、軽量化を図ることができる。
【0044】
その上さらに、ランナ本体4の開口部Mに対し、大径歯車体8をランナ本体4の外方から装着できるので、ランナ本体4を分割構造にする必要がない。それにより、従来の分割構造のランナ本体に対して、ランナ本体4自体の部品点数を削減できるとともに、ボルト及びナット等の固定部材を不要にできるので、製造コスト及び重量の低減効果をより高めることができる。
【0045】
[実施の形態2]
図6の斜視図、
図7の縦断面正面図、及び
図8の分解斜視図に示す本発明の実施の形態2に係る吊車1は、実施の形態1の吊車1に加えて小径歯車体9を備える。
図6ないし
図8の符号の中で、
図3ないし5と同一の符号は、同一又は相当する部品又は部分を示しているので、詳細説明は省略する。
【0046】
<実施の形態2の調整装置>
吊車1が備える調整装置Aは、
(1)ハンガーシャフト3の外周面に形成した雄ねじ部3A、
(2)雄ねじ部3Aに螺合する雌ねじ部8Bを内周面に備えるとともに、外周面に歯車部8Aを備え、ランナ本体4に対してハンガーシャフト3の軸心まわりに回動可能かつ上下方向に移動不能な大径歯車体8、
(3)ランナ本体4に設けた、ランナ本体4に対して斜め下方から工具Tを挿入可能な、歯車部8Aに連通する穴部C、
(4)小径歯車体9
からなる。
【0047】
小径歯車体9は、例えば合成樹脂製であり、大径歯車体8の歯車部8Aに噛合する歯車部9Aを外周面に有し、ランナ本体4の穴部Cに挿入された状態でランナ本体4により回動可能に支持される。小径歯車体9の底面Oには、工具Tの先端部が係合する係合穴9Bを設けている。
係合穴9Bは、例えば十字ねじ回し用の十字穴であるが、その他の工具用の係合穴であってもよい。
【0048】
<実施の形態2の吊車の組立方法>
実施の形態1と同様であるが、ランナ本体4に大径歯車体8を装着する前に、ランナ本体4に小径歯車体9を装着する。
【0049】
(小径歯車体及び大径歯車体の組付け)
先ず、ランナ本体4の穴部Cに対し、外方から小径歯車体9を挿入して、ランナ本体4に小径歯車体9を装着する。
次に、ランナ本体4の開口部Mから大径歯車体8を挿入して、ランナ本体4に大径歯車体8を装着する。
それにより、
図7の縦断面正面図に示すように、大径歯車体8により小径歯車体9が抜け止めされるので、小径歯車体9は前記ランナ本体から脱落しない。
【0050】
(ハンガーシャフトの組付け)
実施の形態1と同様の方法で、ハンガーシャフト3を組み付ける。
【0051】
<実施の形態2の調整装置の動作>
図6の斜視図に示す工具Tの突起列Jを小径歯車体9の底面Oの係合穴9Bに、
図7の縦断面正面図の二点鎖線のように係合させる。
図7の状態で工具Tを回動させることにより、工具Tの突起列Jに係合する小径歯車体9が回動する。
それにより、小径歯車部9に噛合する大径歯車部8が回動し、大径歯車部8の雌ねじ部8Bに雄ねじ部3Aが噛合するハンガーシャフト3が、実施の形態1と同様に上下方向へ移動するので、ランナ本体4に対するハンガーシャフト3の上下方向位置を調整できる。
したがって、
図1及び
図2のハンガーレールHRに対して上吊式建具Fである折戸FDの高さ(上下方向位置)を調整できる。
【0052】
<実施の形態2の作用効果>
前記のような調整装置Aの構成により、大径歯車体8に噛合する小径歯車体8をランナ本体4の穴部Cに挿入し、小径歯車体9の底面Oに設けた係合穴9Bに工具Tの先端部を係合させた状態で、工具Tを回動することにより調整装置Aを操作する。
それにより、工具Tで操作する位置が視認できるので、工具Tで操作する箇所が分かり難いという要望がある場合に、そのような要望に容易に応えることができる。
その上、分割構造ではない一体構造のランナ本体4の穴部Cに対し、小径歯車体9をランナ本体4の外方から装着した後に、ランナ本体4の外方から大径歯車体8を開口部Mに装着することにより、小径歯車体9はランナ本体4から脱落しない構造であるので、小径歯車体9の脱落を防止するための部材を新たに設ける必要がない。
【0053】
その上さらに、分割構造ではない一体構造のランナ本体4からハンガーシャフト3を取り外した後、ランナ本体4の開口部Mから大径歯車体8を容易に取り外すことができ、大径歯車体8を取り外した後には、ランナ本体4の穴部Cから小径歯車体9を容易に取り外すことができる。
それにより、工具Tで操作する箇所が分かり難いという要望がない場合、小径歯車体9を取り外してより部品点数の少ない簡素な構造に戻すことができ、その状態では、実施の形態1と同様にランナ本体4の穴部Cから工具Tを挿入して操作することにより、ハンガーレールHRに対して上吊式建具Fの高さを容易かつ確実に調整できる。
【0054】
[実施の形態3]
図9の斜視図、
図10の縦断面正面図、及び
図11の分解斜視図に示す本発明の実施の形態3に係る吊車1は、実施の形態1の吊車1と基本的な構成は同じであり、組立方法も同様である。
図9ないし
図11の符号の中で、
図3ないし5と同一の符号は、同一又は相当する部品又は部分を示しているので、詳細説明は省略する。
【0055】
実施の形態3の実施の形態1との主な相違点は、大径歯車体8の向きである。すなわち、大径歯車体8の歯部8Aを、実施の形態1では上向きとしているが、実施の形態3では下向きとしている。
また、大径歯車体8は、例えば一体の金属製のものであり、歯車部8Aは、工具Tの突起列Jに噛合する形状を有し、内周面に、ハンガーシャフト3の雄ねじ部3Aに螺合する雌ねじ部8Bを備える。
【0056】
実施の形態3における調整装置Aの動作、及び作用効果は、実施の形態1と同様である。
【0057】
<非調整時回転阻止手段>
以上の実施の形態1ないし3に係る吊車1において、実施の形態1を例として示す
図12の横断面平面図のような非調整時回転阻止手段Pを備えるのが好ましい実施態様である。
図12に示す非調整時回転阻止手段Pは、例えば、ランナ本体4の大径歯車体収容部Bに設けた、大径歯車体8の歯車部8Aの歯間に入る突起11である。このような突起11は、大径歯車体収容部Bの適宜箇所に容易に設けることができる。
【0058】
非調整時回転阻止手段Pは、調整整置Aによりランナ本体4に対するハンガーシャフト3の上下方向位置を調整する際には、ランナ本体4に対する大径歯車体8の回動を阻害せず、上吊式建具Fを操作して空間Sを開閉する際には、ランナ本体4に対する大径歯車体8の回動を阻止するものである。
【0059】
非調整時回動阻止手段Pを備えるのが好ましい理由は、上吊式建具Fを操作して空間Sを開閉することを繰り返すと、ランナ本体4に対して大径歯車体8が回動してしまう場合があるためである。その場合、大径歯車体8の回動によりハンガーシャフト3が上下するので、調整済みのハンガーレールHRに対する上吊式建具Fの高さから上吊式建具Fの高さがずれてしまうことになる。
【0060】
大径歯車体8の雌ねじ部8Bにはハンガーシャフト3の雄ねじ部3Aが噛合しており、ハンガーシャフト3は上吊式建具Fを吊り下げている。したがって、大径歯車体8には下方へ荷重が作用し、大径歯車体8はランナ本体4の大径歯車体収容部Bの下面に押し付けられているので、通常時には調整装置Aを操作しないかぎり、ランナ本体4に対して大径歯車体8が回動することはない。
【0061】
しかしながら、例えば、上吊式建具Fが折戸FDである場合、
図2の斜視図に示すように折戸FDが開いた状態(平面視でくの字状に曲がった状態)で操作する際に、例えば足で操作する等、折戸FDの下部を操作することがあり得る。その場合、折戸FDの下部が先行して移動し、それに追従する形で吊車1が移動する動作を行うことになる。このような動作を行う際、上部に2つある吊車1,1のうち、動作入力側の一方の吊車1には荷重が大きく掛かり、他方の吊車1は荷重が抜けてしまう現象が起こることがある。
【0062】
このような現象が起こると、折戸FDを開閉した際、ハンガーシャフト3への荷重が瞬間的に抜けてしまい、大径歯車体8がひとりでに回動してしまうことがある。
また、上吊式建具Fが折戸FDではなく、引戸又は可動間仕切等である場合であっても、振動等の影響で吊車1に対する荷重が抜けて大径歯車体8がひとりでに回動する場合があり得る。
よって、非調整時回動阻止手段Pを備えるのが望ましく、それにより大径歯車体8がひとりでに回動することを阻止できる。
【0063】
<非調整時回転阻止手段の作用効果>
非調整時回転阻止手段Pは、調整整置Aによりランナ本体4に対するハンガーシャフト3の上下方向位置を調整する際には、ランナ本体4に対する大径歯車体8の回動を阻害しないので、調整装置Aを操作する際における操作性が低下することがない。
その上、非調整時回転阻止手段Pは、上吊式建具Fを操作して空間Sを開閉する際には、ランナ本体4に対する大径歯車体8の回動を阻止するので、大径歯車体8がひとりでに回動してハンガーシャフト3が上下に移動することを阻止できる。
【0064】
以上の実施の形態の記載はすべて例示であり、これに制限されるものではない。本発明の範囲から逸脱することなく種々の改良及び変更を施すことができる。
【符号の説明】
【0065】
1 吊車 2 ランナ
3 ハンガーシャフト 3A 雄ねじ部
3B 係合溝 4 ランナ本体
4A 軸受収容穴 4B,4C ハンガーシャフト支持穴
4D 長穴 4E,4F 左右方向の側面
5 ローラ 5A 通し穴
6 ローラ軸(左右方向軸) 7 転がり軸受
7A 外輪 7B 内輪
7C 転動体 8 大径歯車体
8A 歯車部 8B 雌ねじ部
9 小径歯車体 9A 歯車部
9B 係合穴 10 スプリングピン
11 突起
A 調整装置 B 大径歯車体収容部
C 穴部 D 周壁
E 基体 F 上吊式建具
FD 折戸 G ガイド軸
H 係合穴部 HR ハンガーレール
I 突起 J 突起列
K 先端部の側面 L 本体の側面
M 開口部 N ナット
O 底面 P 非調整時回転阻止手段
Q 前後方向 R レール
S 空間 T 工具