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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】モータ
(51)【国際特許分類】
   H02K 5/16 20060101AFI20221109BHJP
   H02K 5/02 20060101ALI20221109BHJP
   H02K 11/33 20160101ALI20221109BHJP
   H02K 21/14 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H02K5/16 Z
H02K5/02
H02K11/33
H02K21/14 M
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019090623
(22)【出願日】2019-05-13
(65)【公開番号】P2020188556
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100093779
【弁理士】
【氏名又は名称】服部 雅紀
(72)【発明者】
【氏名】森下 駿
(72)【発明者】
【氏名】大岩 亨
【審査官】佐藤 彰洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-034201(JP,A)
【文献】国際公開第2017/026550(WO,A1)
【文献】特開2017-229150(JP,A)
【文献】特開2017-147840(JP,A)
【文献】特開2019-030074(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 5/00-5/26
H02K 11/33
H02K 21/14
H02P 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム又はアルミニウム合金製の筒状のハウジング(30)と、
前記ハウジングの内壁に締まり嵌めで固定され、互いの位相差が(30±60×n)°(nは整数)となるように二組の3相巻線(551、552)が巻回された鉄又は鉄合金製のステータ(40)と、
前記ステータの内側に設けられ、外周に沿って複数の永久磁石(65)を有し、前記3相巻線への通電によって前記ステータに形成される回転磁界により、シャフト(63)を軸として回転するロータ(60)と、
前記ハウジングの内壁に締まり嵌めで固定され、軸方向の一方側において前記シャフトを回転可能に支持するリア軸受(62)が保持されたアルミニウム又はアルミニウム合金製のリアフレーム(20)と、
を備え
前記ステータと前記ハウジングとの締め代(δ2)は、前記リアフレームと前記ハウジングとの締め代(δ1)より大きいモータ。
【請求項2】
前記ハウジングにおいて、前記ステータが締まり嵌めされる部分の肉厚(t2)は、前記リアフレームが締まり嵌めされる部分の肉厚(t1)より大きい請求項に記載のモータ。
【請求項3】
前記ステータは、周方向に一体に形成された一つのステータコア、又は、周方向に一体に形成され軸方向に積層された複数のステータコアで構成されている請求項1または2に記載のモータ。
【請求項4】
前記リアフレームと前記ハウジングとの固定部の軸方向長さ(A)は、前記ハウジングの内壁に沿った前記リアフレームと前記ステータとの軸方向間隔(B)より大きい請求項1~のいずれか一項に記載のモータ。
【請求項5】
前記リアフレームと前記ハウジングとの固定部の軸方向長さ(A)は、前記ステータの厚さ(C)の0.4倍より大きい請求項1~のいずれか一項に記載のモータ。
【請求項6】
前記ロータは、複数の前記永久磁石が埋め込まれたIPM構造で構成されており、
前記ステータは、環状のバックヨーク部(45)と、当該バックヨーク部から径内方向に突出する複数のティース(47)と、を有する複数のステータコアが積層されており、軸方向の位置に応じて前記ティースの周方向位置が捩れた段スキュー構造となっている請求項1~のいずれか一項に記載のモータ。
【請求項7】
前記リアフレームは、二組の前記3相巻線に電圧を印加する二つの駆動回路(701、702)が実装された基板(15)を支持し、且つ、前記基板上の素子の発熱が放出されるヒートシンクとして機能する請求項1~のいずれか一項に記載のモータ。
【請求項8】
前記ヒートシンクとして機能する前記リアフレームにおける局部的な突出部(22、23)を除く本体部(21)の厚さ(T)は、前記ハウジングにおける前記ステータ側の取付座面(38)から前記リアフレーム側の端面(31)までの軸方向長さ(H)の6分の1より大きい請求項に記載のモータ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ステータの内側にロータが回転可能に設けられたモータにおいて、筒状のハウジングの内壁にステータ及びリアフレームが締まり嵌めで固定された構成が知られている。ここで、リアフレームは、軸方向におけるハウジングの底部とは反対側の開口部に設けられる部材である。例えばリアフレームは、駆動回路が実装された基板を支持し、基板上の素子の発熱が放出されるヒートシンクとして機能する場合がある。
【0003】
例えば特許文献1に開示された回転電機は、ハウジングの開口部にフランジ(すなわちリアフレーム)が焼き嵌めによって固定されており、ハウジングの内周側に固定子(すなわちステータ)が圧入或いは焼き嵌めによって固定されている。
【0004】
この回転電機は、フランジ中央部のフランジ側ベアリング保持部に形成された予圧付与部内にウェーブワッシャ等の予圧付与部材が配置されている。そして、予圧付与部材によって回転子(すなわちロータ)軸を一方に押し付けることによって、回転子軸の軸方向のがたつきによる異音の発生の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2014-17955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の回転電機では、予圧付与部材が回転子軸を一方に押し付けることによって、がたつきが低減すると同時に共振が発生し、振動、及び、振動に伴う騒音の抑制に対してはかえって不利になるおそれがある。
【0007】
また、車両の電動パワーステアリング装置に適用される操舵アシストモータのように、高い信頼性が要求されるモータでは、二系統のモータ巻線や駆動回路等を冗長的に備え、片側系統の故障発生時に他方の正常な系統のみで駆動を継続する技術が用いられている。二系統駆動のモータでは、ロータ軸の軸方向のがたつきによる異音以外に、相の数に応じた次数(例えば3相では6次)のトルクリップルによる騒音や振動が発生する可能性がある。しかし特許文献1には、このようなトルクリップルに起因する騒音や振動の抑制について何ら言及されていない。
【0008】
本発明はこのような点に鑑みて創作されたものであり、その目的は、筒状のハウジングの内壁にステータ及びリアフレームが締まり嵌めで固定された二系統駆動のモータにおいて、静粛性や低振動性を向上させるモータを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によるモータは、アルミニウム又はアルミニウム合金製の筒状のハウジング(30)と、鉄又は鉄合金製のステータ(40)と、ロータ(60)と、アルミニウム又はアルミニウム合金製のリアフレーム(20)とを備える。ステータは、ハウジングの内壁に締まり嵌めで固定され、互いの位相差が(30±60×n)°(nは整数)となるように二組の3相巻線(551、552)が巻回されている。
【0010】
ロータは、ステータの内側に設けられ、外周に沿って複数の永久磁石(65)を有し、3相巻線への通電によってステータに形成される回転磁界により、シャフト(63)を軸として回転する。リアフレームは、ハウジングの内壁に締まり嵌めで固定され、軸方向の一方側においてシャフトを回転可能に支持するリア軸受(62)が保持されている。ステータとハウジングとの締め代(δ2)は、リアフレームとハウジングとの締め代(δ1)より大きい。
【0011】
なお、「締まり嵌め」には、圧入、焼き嵌め、又は、冷やし嵌めが含まれる。当業者は完成状態のモータを観察又は分析することで、ステータ及びリアフレームが締まり嵌めでハウジングに固定されていることを特定可能である。したがって、上記構成の記載は、単にモータの状態を示すことにより構造を特定するものであり、完成品であるモータを製造方法によって特定するものではない。
【0012】
本発明では、ステータ及びリアフレームをいずれもハウジングの内壁に締まり嵌めすることで静粛性を向上させることができる。また、リアフレームをボルトレスで固定することで、がたつきによる共振を防ぐことができる。さらに、ステータに巻回される二組の3相巻線の位相差を(30±60×n)°(nは整数)とすることで、二系統駆動における6次のトルクリップルを相殺し、静粛性や低振動性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】一実施形態によるモータが適用される電動パワーステアリング装置の全体構成図。
図2】一実施形態による機電一体式モータの模式断面図。
図3】二系統モータのECUの概略構成図。
図4】二系統の3相巻線の位相差を示す模式図。
図5図2のステータ及びロータのV-V線断面図。
図6図5のVI部の拡大断面図。
図7図2のステータ及びロータのVII-VII線における図6に対応する拡大断面図。
図8図6図7のVIII方向矢視によるステータ内壁の展開図。
図9】SC巻きを説明する(a)斜視図、(b)模式展開図。
図10図2のX-X線断面図。
【発明を実施するための形態】
【0014】
(一実施形態)
以下、モータの一実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態のモータは、車両の電動パワーステアリング装置に適用され、操舵アシストトルクを発生するモータである。また、本実施形態のモータは、ECU(すなわち制御装置)がモータの軸方向の一方側に一体に構成された「機電一体式」のモータである。
【0015】
最初に図1を参照し、電動パワーステアリング装置90の構成例を示す。ステアリングシステム99は、ハンドル91、ステアリングシャフト92、ピニオンギア96、ラック軸97、車輪98、及び、電動パワーステアリング装置90等を含む。なお、図1に示す電動パワーステアリング装置90はコラムアシスト式であるが、ラックアシスト式の電動パワーステアリング装置にも本実施形態のモータは同様に適用可能である。
【0016】
ハンドル91にはステアリングシャフト92が接続されている。ステアリングシャフト92の先端に設けられたピニオンギア96は、ラック軸97に噛み合っている。ラック軸97の両端には、タイロッド等を介して一対の車輪98が設けられる。運転者がハンドル91を回転させると、ハンドル91に接続されたステアリングシャフト92が回転する。ステアリングシャフト92の回転運動は、ピニオンギア96によりラック軸97の直線運動に変換され、ラック軸97の変位量に応じた角度に一対の車輪98が操舵される。
【0017】
電動パワーステアリング装置90は、操舵トルクセンサ93、機電一体式モータ800、及び減速ギア94等を含む。操舵トルクセンサ93は、ステアリングシャフト92の途中に設けられ、運転者の操舵トルクTsを検出する。機電一体式モータ800は、モータ80の軸方向の一方側にECU10が一体に構成されている。ECU10は、操舵トルクTsに基づいてモータ80が所望のアシストトルクを発生するようにモータ80の駆動を制御する。モータ80が出力したアシストトルクは、減速ギア94を介してステアリングシャフト92に伝達される。
【0018】
次に図2を参照し、機電一体式モータ800の軸方向断面での構成について説明する。図2の下側に示されるモータ80の出力軸側を「フロント側」といい、図2の上側に示されるカバー14側を「リア側」という。また、モータ80の回転軸をAxと記す。ECU10は、モータ80のリア側において、回転軸Axに対して同軸に配置されている。
【0019】
モータ80は3相ブラシレスモータであって、ハウジング30、ステータ40、ロータ60、及び、リアフレーム20等を備えている。ここで、「リアフレーム」は、ハウジング30の開口部であるリア側に設けられる支持部材であることを示す構造的名称である。ただし、本実施形態では、リアフレームは、ECU10の基板上に実装された素子からの放熱を受容するヒートシンクとして機能することから、主に「ヒートシンク」の名称を用いる。
【0020】
本実施形態では、ステータ40及びヒートシンク20は、いずれもハウジング30の内壁に「締まり嵌め」で固定される。締まり嵌めには、焼き嵌め以外に圧入や冷やし嵌めが含まれるが、以下では主に焼き嵌めを想定して記載する。また、以下の金属材質の記述に関し、「アルミニウム製」にはADC12等のアルミニウム合金製を含み、「鉄製」には電磁鋼板等の鉄合金製を含むものとする。
【0021】
ハウジング30はアルミニウム製であり、筒部32及び底部34を含む有底筒状を呈している。筒部32の内壁33は、開口側から順に内径が段階的に小さくなるように形成されている。端面31に近いヒートシンク受け段部331は、ヒートシンク20の本体部21の鍔部211を受ける。ヒートシンク固定部332は、ヒートシンク20の固定部外壁28が焼き嵌めされる。ヒートシンク固定部332の軸方向長さを「A」と記す。ステータ固定部334は、ステータ40の外壁44が焼き嵌めされる。ステータ受け段部335は、ステータ40のフロント側端面の外縁を受ける。
【0022】
ハウジング30の底部34には、フロント軸受61の外輪を保持するフロント軸受収容部35が設けられている。フロント軸受61は、軸方向のフロント側においてシャフト63を回転可能に支持する。フロント軸受収容部35の外側には、ステータ40のフロント側に突出した3相巻線551、552を逃がす空間として凹部36が形成されている。
【0023】
筒部32の外側におけるフロント側には、電動パワーステアリング装置90のギアボックス(図示しない)への取付用のステー部37が設けられている。ギアボックスへの取付時、インロー部39により位置決めされた状態でステー部37の取付座面38がギアボックスの端面に当接し、ボルト等で固定される。ハウジング30の取付座面38からヒートシンク20側の端面31までの軸方向長さを「H」と記す。
【0024】
ヒートシンク20は、ハウジング30の底部34とは反対側の開口部においてステータ40及びロータ60のリア側端面と対向するように設けられている。ハウジング30の内壁33に沿ったヒートシンク20とステータ40との軸方向間隔を「B」と記す。ヒートシンク20は、厚肉板状の本体部21と、本体部21の両面に局部的に設けられるいくつかの突出部を有する。局部的な突出部として、本体部21のカバー14側の面には、基板15のねじ固定に用いられるねじ座部22が設けられている。ねじ座部22には雌ねじ穴が形成されている。また、本体部21のロータ60側の面には、リア軸受62の外輪を保持するリア軸受収容部23が設けられている。リア軸受62は、端面が受け面24に当接するようにリア軸受収容部23に収容され、軸方向のリア側においてシャフト63を回転可能に支持する。
【0025】
「局部的な突出部」に相当するねじ座部22及びリア軸受収容部23を除く本体部21の厚さを「T」と記す。なお、それ以外の局部的な突出部がある場合にも、ねじ座部22やリア軸受収容部23に準じ、局部的な突出部を除く本体部21の厚さを「T」とする。本体部21の外周には、ハウジング30のヒートシンク受け段部331に支持される鍔部211が設けられる。リア軸受収容部23の外側には、ステータ40のリア側に突出した3相巻線551、552を逃がす空間として凹部26が形成されている。
【0026】
ヒートシンク20の径方向中央部には、シャフト63が挿通されるシャフト穴25が形成されている。図10を参照して後述するように、シャフト穴25は真円でなく、長円形状である。ヒートシンク20の固定部外壁28は、ハウジング30の内壁33におけるヒートシンク固定部332に締まり嵌めで固定されている。
【0027】
ステータ40は、鉄製の複数の薄板状ステータコアが軸方向に積層されて構成されている。ステータ40の厚さを「C」、直径を「D」と記す。複数のステータコアは、ヒートシンク20側の第1ステータ401と、ハウジング底部34側の第2ステータ402とに二分され、段スキュー構造を構成している。段スキュー構造については図5図8を参照して後述する。ステータ40の外壁44は、ハウジング30の内壁33におけるステータ固定部334に締まり嵌めで固定されている。また、本実施形態ではステータ40に二系統の3相巻線551、552が巻回される。二系統の構成については、図3図4を参照して後述する。
【0028】
ロータ60は、鉄製の複数の薄板状ロータコアが軸方向に積層されて構成されている。ロータ60は、ステータ40の内側に設けられ、中心にシャフト63が固定されている。シャフト63は、ハウジング底部34に保持されたフロント軸受61、及び、ヒートシンク20に保持されたリア軸受62により回転可能に支持されている。
【0029】
図5図8を参照して後述するように、ロータ60は、外周に沿って複数の永久磁石を有し、3相巻線551、552への通電によってステータ40に形成される回転磁界により、シャフト63を軸として回転する。シャフト63のフロント側の端部には、回転を伝達するジョイント67が設けられている。シャフト63のリア側の端部には、回転角検出用のセンサマグネット68が設けられている。
【0030】
ECU10は、ヒートシンク20に固定されている基板15と、基板15に実装された各種の電子部品とを含む。カバー14は、端面がヒートシンク20の鍔部211に当接するように設置され、基板15に実装された電子部品を外部の衝撃から保護したり、ECU10内への埃や水等の浸入を防止したりする。カバー14の一部に、外部からの給電ケーブルや信号ケーブルが接続されるコネクタ(図示しない)が設けられてもよい。
【0031】
基板15は、例えばプリント基板であり、ヒートシンク20のねじ座部22にねじ16で固定されている。基板15には、二系統分の素子が系統毎に独立して実装されている。この状態で、例えば発熱素子がヒートシンク20に直接、又は放熱ゲル等を介して接触するようにしてもよい。なお、図2の例では基板15は一枚であるが、他の実施形態では、二枚以上の基板を備えるようにしてもよい。
【0032】
基板15のヒートシンク20に対向している面には、駆動回路701、702の複数のスイッチング素子や回転角センサ18等が実装されている。回転角センサ18は、シャフト63の先端に設けられたセンサマグネット68と対向するように配置される。基板15のカバー側14の面には、マイコン731、732、コンデンサ171、172等が実装されている。また、ヒートシンク20を貫通して3相巻線551、552に接続されるモータ端子541、542が基板15に接続されている。
【0033】
続いて図3図4を参照し、二系統モータのECU10の概略構成を説明する。ECU10は、基板15に実装された二系統の駆動回路701、702及びマイコン731、732等により構成されている。なお、他の実施形態ではマイコンは一つでもよい。以下、各組の3相巻線551、552への通電に係る構成要素の単位を「系統」という。第1系統の構成要素には語頭に「第1」を付し、符号の末尾に「1」を付す。第2系統の構成要素には語頭に「第2」を付し、符号の末尾に「2」を付す。
【0034】
駆動回路701、702は、MOSFET等のスイッチング素子がブリッジ接続された3相インバータとして構成されている。駆動回路701、702には、バッテリ111、112からコネクタ131、132を介して直流電力が供給される。駆動回路701、702の入力部には平滑コンデンサ171、172が接続される。なお、他の実施形態では、一つの共通のバッテリから二系統に並列に直流電力が供給されてもよい。
【0035】
第1マイコン731は、第1系統の3相巻線551に通電される電流のフィードバック制御により、第1駆動回路701への駆動信号Dr1を演算する。第1駆動回路701は駆動信号Dr1に従って動作し、3相巻線551に電圧を印加する。第2マイコン732は、第2系統の3相巻線552に通電される電流のフィードバック制御により、第2駆動回路702への駆動信号Dr2を演算する。第2駆動回路702は駆動信号Dr2に従って動作し、3相巻線552に電圧を印加する。それにより、モータ80は所望のトルクを出力する。
【0036】
図3には、トルクセンサ、電流センサ、回転角センサ等の機器や各センサからマイコン731、732に入力されるトルク指令、実電流、電気角等の情報の図示を省略する。また、第1マイコン731と第2マイコン732とはマイコン間通信により相互に情報を通信してもよいが、通信に関する図示も省略する。
【0037】
第1駆動回路701及び第2駆動回路702のスイッチング素子が動作し回路に電流が流れると、電流の2乗に比例する熱エネルギーが発生する。基板15上の素子の発熱は、ヒートシンク20に放出される。言い換えれば、基板15上の素子からの放熱がヒートシンク20に受容される。これにより、素子の温度が過剰に上昇し、耐熱限界に達することが防止される。
【0038】
図4に示すように、モータ80は、二組の3相巻線551、552が同軸に設けられた3相ブラシレスモータである。第1系統の3相巻線551は、第1駆動回路701に接続されたU相巻線551u、V相巻線551v、W相巻線551wからなる。第2系統の3相巻線552は、第2駆動回路702に接続されたU相巻線552u、V相巻線552v、W相巻線552wからなる。
【0039】
二組の3相巻線551、552は、互いの位相差が電気角30°となるように共通のステータ40に巻回されている。なお、各系統の同相同士が隣り合わなくてもよく、第1系統と第2系統との配置の入れ替えを許容すると、互いの位相差は、(30±60×n)°(nは整数)というように一般化して拡張される。
【0040】
これにより、筒状のハウジング30の内壁33にステータ40及びヒートシンク20が焼き嵌めで固定された二系統駆動のモータ80において、6次トルクリップルを相殺し、静粛性や低振動性を向上させることができる。なお、6次トルクリップルの相殺に関しては、特許第5672278号公報(対応US公報:US9214886B2)に開示されている。
【0041】
ここで、以上に説明した範囲での本実施形態の基本的な作用効果について説明する。本実施形態では主に、モータ駆動時に発生する騒音や振動を可及的に抑制し、静粛性や低振動性を向上させることを目的とする。なお、静粛性及び低振動性を合わせて「NV性」という。言い換えれば、本実施形態は、NV性の向上を主な目的とする。まず本実施形態では、ステータ40がハウジング30に焼き嵌めされることで、真円度の良い高精度の固定ができる。また、ヒートシンクとして機能するリアフレーム20が焼き嵌めによりボルトレスで固定されることで、がたつきによる共振を防ぐことができる。
【0042】
ところで、ステータ及びリアフレームがハウジングに焼き嵌めで固定されるモータの従来技術として、例えば特許文献1(特開2014-17955号公報)には、ロータ軸の軸方向のがたつきによる異音を抑制する従来技術が開示されている。しかし、トルクリップルに起因する騒音や振動の抑制については何ら言及されていない。
【0043】
それに対し本実施形態では、互いの位相差が(30±60×n)°(nは整数)となるように、ステータ40に二組の3相巻線551、552が巻回されている。したがって、二系統駆動における6次トルクリップルを相殺し、NV性を向上させることができる。特に車両の電動パワーステアリング装置では、トルクリップルによる騒音や振動が運転者の操舵フィーリングや商品性に及ぼす影響も大きいため、本実施形態によるNV性の向上効果が有効に発揮される。
【0044】
また、ヒートシンク20は、ステータ40のリア側に突出した3相巻線551、552を逃がす空間として凹部26が形成されている。無駄なスペースを活用することで、小型化、軽量化が実現される。また、ヒートシンク20に凹凸を形成することで、剛性が増加し、共振が抑制されるため、静粛性が向上する。
【0045】
次に再び図2を参照し、本実施形態における各部材の寸法関係について、静粛性やNV性をさらに向上させるため、或いは、小型化や組付性向上等の付随的効果を得るための好ましい条件について説明する。まず、ヒートシンク20及びステータ40とハウジング30との焼き嵌めに関する締め代、及び、肉厚は以下のように設定されている。ここでは、各寸法関係の設定による作用効果を併せて記載する。
【0046】
<1>ステータ40とハウジング30との締め代δ2は、ヒートシンク20とハウジング30との締め代δ1より大きい。すなわち、式(1)が成り立つ。
δ1<δ2 ・・・(1)
【0047】
これにより、ヒートシンク20の焼き嵌めによる組付が成立可能となる。ヒートシンク20の焼き嵌めは、ステータ40の焼き嵌め後に行われるため、ヒートシンク20の焼き嵌め時にハウジング30を昇温したとき、ステータ固定部334の締め代が減少し、ステータ40が動くおそれがある。そこで、ステータ40の締め代δ2をヒートシンク20の締め代δ1より大きくすることで、ステータ40を動きにくくすることができる。また、ステータ40の加振側の固定力をアップすることで共振を防ぐことができ、静粛性を向上させることができる。
【0048】
<2>ハウジング30の筒部32において、ステータ40が焼き嵌めされる部分であるステータ固定部334の肉厚t2は、ヒートシンク20が焼き嵌めされる部分であるヒートシンク固定部332の肉厚t1より大きい。すなわち、式(2)が成り立つ。
t1<t2 ・・・(2)
【0049】
ヒートシンク固定部332の肉厚t1を相対的に薄くすることで、熱伝導を促進し、昇温温度を下げることができる。逆にステータ固定部334の肉厚t2を相対的に厚くすることで、熱伝導を抑制し、ヒートシンク20の焼き嵌め時にステータ40を動きにくくすることができる。また、固定部の肉厚は固定力に反映されるため、ステータ40の固定力がヒートシンク20の固定力より大きくなる。そのため、上記<1>の効果と合わせて、静粛性をより向上させることができる。
【0050】
なお、図2の例では、ハウジング30の内壁33に段差を設けて式(2)の関係を実現しているが、他の実施形態では、ハウジングの外壁に段差を設けてもよい。次に、図2中に「A、B、C、D、T、H」の各記号で示される寸法の関係について説明する。
【0051】
<3>ヒートシンク20とハウジング30との固定部であるヒートシンク固定部332の軸方向長さAは、ハウジング30の内壁33に沿ったヒートシンク20とステータ40との軸方向間隔Bより大きい。すなわち、式(3)が成り立つ。
A>B ・・・(3)
【0052】
アルミニウムは鉄に比べて剛性が劣るため、ヒートシンク固定部332の軸方向長さAを大きく確保することで、ヒートシンク20の応力集中を防ぎ、静粛性を向上させることができる。また、ヒートシンク20の放熱性向上に加え、固定力及び強度を確保することができる。
【0053】
<4>ヒートシンク20とハウジング30との固定部であるヒートシンク固定部332の軸方向長さAは、ステータ40の厚さCの0.4倍より大きい。すなわち、式(4)が成り立つ。
A>0.4C ・・・(4)
【0054】
ヒートシンク固定部332の軸方向長さAを大きく確保することで、ヒートシンク20の熱マスを確保し、基板15上の素子の熱をより好適に放出することができる。また、必要な固定力及び強度を確保し、がたつきを防止することができる。したがって、NV性が向上する。
【0055】
<5>ステータ40の厚さCは、ハウジング30の内壁33に沿ったヒートシンク20とステータ40との軸方向間隔Bの2倍より大きい。すなわち、式(5)が成り立つ。軸方向間隔Bを極力小さくすることで小型化が図られる。
C>2B ・・・(5)
【0056】
<6>ステータ40の厚さCは、ステータ40の直径Dの3分の1より大きい。すなわち、式(6)が成り立つ。ステータ40の直径に対する厚さ比を小さくすることで、組付け性が向上する。
C<(D/3) ・・・(6)
【0057】
<7>「局部的な突出部22、23を除く本体部21の厚さT」は、ハウジング30におけるステータ40側の取付座面38からリアフレーム20側の端面31までの軸方向長さHの6分の1より大きい。すなわち、式(7)が成り立つ。
T>(H/6) ・・・(7)
【0058】
ヒートシンク20の本体部21の厚さTを大きくすることで、固定力が確保され、放熱性が向上する。また、ヒートシンク20の剛性を高め、変形を防ぐことで、共振しにくくなる。その結果、ヒートシンク20の固定部外壁28の真円度を確保し、NV性を向上させることができる。
【0059】
次に図5図8を参照し、ステータ40及びロータ60の詳細な構成、及び、さらなる作用効果を説明する。ステータ40は、図2に示すように、ヒートシンク20側の第1ステータ401と、ハウジング底部34側の第2ステータ402とが軸方向に積み重ねて構成されている。第1ステータ401及び第2ステータ402は、それぞれ、周方向に一体に形成された複数の薄板状ステータコアが積層されて構成されている。すなわち、コアバックが全周にわたって連続している。
【0060】
このように、ステータコアが周方向に一体に形成されているため、分割コアの構成に比べて剛性がアップする。また、コアバックが全周にわたって連続しているため、焼き嵌め時に外周全面がハウジング30の内壁334に当接する。したがって、真円度が良好となり、静粛性がより向上する。
【0061】
図5には、ロータ60及び第1ステータ401をヒートシンク20側から視た断面図を示す。図6図7には、それぞれ、第1ステータ401及び第2ステータ402の拡大断面図を示す。図5図7の断面は、ステータコアの層の境界面であるものとし、ステータコアにはハッチングを付さない。図8には、第1ステータ401のスキュー形成部481と第2ステータ402のスキュー形成部482との周方向の位置関係を示す。
【0062】
図5に示すように、ロータ60は、複数積層されたロータコア64の外周に沿って複数の永久磁石65が埋め込まれたIPM構造で構成されている。ロータコア64の外周表面に永久磁石が配置されるSPM構造では、一般に、永久磁石の外周面を断面円弧状に加工する必要があるのに対し、IPM構造では直方体状の永久磁石65を加工せずに使用するため、加工工数を低減することができる。積層されたロータコア64の中心にはシャフト63が固定されている。
【0063】
本実施形態のステータ40の構成は、特開2019-30074号公報(対応US公報:US2019/0036389A1)に開示された構成に準ずる。第1ステータ401及び第2ステータ402は、環状のバックヨーク部45と、バックヨーク部45から径内方向に突出する複数のティース47とを有している。隣接するティース47同士の間には、二組の3相巻線551、552が巻回されるスロット49が形成される。図6図7に示すように、各スロット49には、第1系統U相巻線551u、第2系統U相巻線552u、第1系統V相巻線551v、第2系統V相巻線552v、第1系統W相巻線551w、第2系統W相巻線552wが順に巻回される。
【0064】
また、ステータ40は、軸方向の位置に応じてティースの周方向位置が捩れた段スキュー構造となっている。図6に示す第1ステータ401では、ティース47の先端のスキュー形成部481は、ティース47の周方向中央に対し、周方向の一方である第1方向にずれて形成されている。図7に示す第2ステータ402では、ティース47の先端のスキュー形成部482は、ティース47の周方向中央に対し、周方向の他方である第2方向にずれて形成されている。
【0065】
隣接するティース47間、或いは、隣接するスロット49間の角度をαと表す。角度αは、第1系統と第2系統との位相差を意味し、本実施形態では電気角30°に相当する。また、図8に示すように、第1ステータ401のスキュー形成部481の周方向中央位置P1と、第2ステータ402のスキュー形成部482の周方向中央位置P2との位相差をβと表す。本実施形態では位相差βが電気角15°になるようにスキュー形成部481、482が形成されている。
【0066】
「α>β」の関係を満たすように段スキュー構造が構成されることで、6次のトルクリップルの2倍次数成分、すなわち12次のトルクリップルを相殺することができる。したがって、NV性をさらに向上させることができる。
【0067】
図9に、3相巻線55の配線構成の具体例として、セグメントコンダクタ56を用いた「SC巻き」又は「分布巻き」と呼ばれる方式について説明する。図9(a)に示すように、セグメントコンダクタ56は、平角導体を略U字形状に折り曲げて形成され、互いに平行な一対の挿入部57、及び、挿入部57の一端を連結するターン部58を含む。挿入部57は、インシュレータを介してステータ40のスロット49に挿入される。なお、図9(a)は、段スキュー構造でないステータコアの図を援用したものであり、図6図8におけるスキュー形成部481、482は図示されていない。
【0068】
図9(b)に示すように、ステータ40のスロット49を貫通した挿入部57は、隣接するセグメントコンダクタ56の挿入部57と互いに近づくように先端が折り曲げられ、接続部59にて溶接等により接続される。各接続部59でセグメントコンダクタ56が接続されることで、実質的に3相巻線55がステータ40に巻回された状態が形成される。
【0069】
次に図10を参照し、ヒートシンク20の構成について補足する。図10は、図2のカバー14及び基板15を外した状態で、ヒートシンク20のカバー14側からハウジング30を視た図である。図10の左右方向に表される、二系統のモータ端子541、542が対向する方向を「端子対向方向」と定義する。また、図10の上下方向に表される、端子対向方向と直交する方向を「対称面方向」と定義する。
【0070】
図10において、シャフト63が通過するシャフト穴25は、対称面方向に長径を有し、端子対向方向に短径を有する長円状を呈している。これにより、リア軸受62をヒートシンク20のリア軸受収容部23に収容して加締める作業時に、受け面24を確保することができるため、組付け性が向上する(図2参照)。
【0071】
また、対称面方向を基準としたハウジング30のステー部37の方向の角度を「E」と記す。ここで、角度Eは絶対値が45°以下の範囲に設定される。つまり、対称面方向を基準として右回り又は左回りのどちらの角度を正と定義するかにかかわらず、対称面方向から±45°の範囲内にハウジング30のステー部37が設けられる。
【0072】
その狙いは、焼き嵌め後における真円度の確保にある。焼き嵌め後、ヒートシンク20は、シャフト穴25の短径方向である端子対向方向へ変形しやすくなる。また、ハウジング30は、ステー部37の方向へ変形しやすくなる。そこで、シャフト穴25の短径方向とステー部37の方向とを直交に近づけることで、変形を相殺し、焼き嵌め後の真円度を高めることができる。したがって、NV性が向上する。
【0073】
この観点からステー部37は、破線で示すように、対称面方向と平行、すなわち角度Eが0°となる方向に設けられることが最も好ましい。ただし、レイアウト上の制約等によって角度Eを0°に設定できない場合がある。その場合でも、角度Eを±45°の範囲内に設定することで、焼き嵌め後の真円度を高める効果がある程度得られる。
【0074】
(その他の実施形態)
(a)本発明は、駆動回路701、702が実装された基板15を含むECU10がモータ80と一体に構成された機電一体式モータに限らず、別体の制御装置とハーネスで接続される機電別体式モータに適用されてもよい。その場合、リアフレーム20は、基板上の素子の発熱が放出されるヒートシンクとして機能せず、単にハウジング30の開口部においてリア軸受62を保持する部材であってもよい。
【0075】
(b)ロータ60は、IPM構造に限らず、ロータコア64の表面に永久磁石65が設けられたSPM構造で構成されてもよい。また、ステータ40は、ティース47が段スキュー構造ではなく、軸方向の全範囲にわたって軸と平行に形成されてもよい。
【0076】
(c)ステータ40は、周方向に一体に形成された複数の薄板状ステータコアが積層されて構成されたもの限らず、周方向に一体に形成された一つの厚板状ステータコアで構成されてもよい。また、ロータ60も積層構造に限らず、一体のロータコアで形成されてもよい。
【0077】
(d)ハウジング30は、底部34が筒部32と一体に形成された有底筒状のものに限らず、別体のフロントプレートが筒部に固定されて底部をなしてもよい。その場合、フロントプレートも、ステータ40やリアプレート20と同様に、ハウジングの内壁に締まり嵌めで固定されてもよい。
【0078】
以上、本発明はこのような実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において、種々の形態で実施することができる。
【符号の説明】
【0079】
20 ・・・ヒートシンク(リアフレーム)、
30 ・・・ハウジング、
40 ・・・ステータ、 551、552・・・3相巻線、
60 ・・・ロータ、 62 ・・・リア軸受、 63 ・・・シャフト、
65 ・・・永久磁石、
80 ・・・モータ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10