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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
   H01L 23/40 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
H01L23/40 Z
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019092425
(22)【出願日】2019-05-15
(65)【公開番号】P2020188163
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-09-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】武 直矢
(72)【発明者】
【氏名】満永 智明
(72)【発明者】
【氏名】大島 正範
(72)【発明者】
【氏名】奥村 知巳
【審査官】正山 旭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-126057(JP,A)
【文献】特開2016-197706(JP,A)
【文献】特開2019-009280(JP,A)
【文献】特開2008-147218(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0278774(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 23/40
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を有する半導体素子と、
前記半導体素子を封止する封止体と、
前記封止体の内部において前記電極に導体スペーサを介して接合された導体板と、
を備え、
前記導体スペーサは、前記導体板に対向する接合面と、前記接合面の周縁から前記半導体素子に向けて延びる側面とを有し、
前記導体スペーサの前記接合面は、前記導体板にはんだ層を介して接合されており、
前記導体スペーサの前記側面は、前記導体板側に位置する第1範囲と、前記第1範囲よりも前記半導体素子側に位置する第2範囲とを有し、
前記第1範囲は、前記第2範囲よりもはんだ濡れ性が高く、前記はんだ層に接触しており、
前記第2範囲は、前記第1範囲よりも表面粗さが大きく、前記封止体に接触している、
半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書が開示する技術は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、半導体装置が開示されている。この半導体装置は、半導体素子と、半導体素子を封止する封止体と、封止体の内部において半導体素子に導体スペーサを介して接合された導体板を備える。導体スペーサは、導体板に対向する接合面と、接合面の周縁から半導体素子に向けて延びる側面を有している。導体スペーサの接合面は、導体板にはんだ層を介して接合されている。
【0003】
上記の半導体装置では、導体スペーサが金属で構成されており、その側面にレーザ光を照射することによって、微細な凹凸を有する金属酸化膜が形成されている。このような金属酸化膜が形成されていると、はんだに対する濡れ性が低くなることから、導体板と導体スペーサとの間に位置するはんだが、導体スペーサの側面にまで濡れ広がることが抑制される。これにより、導体スペーサの側面は、はんだ層によって覆われることなく、封止体と広く接触することができる。加えて、凹凸を有する金属酸化膜が存在することで、導体スペーサの側面と、例えば樹脂を用いて構成される封止体とは、アンカー効果によって強固に密着する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-197706号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような半導体装置では、導体板と導体スペーサとの間のはんだ層において、エレクトロマイグレーションに起因する経年劣化が生じ得る。エレクトロマイグレーションの進行は、はんだ層を流れる電流の密度に相関するので、それに起因する経年劣化を抑制するためには、はんだ層を流れる電流の密度を低下させることが有効である。はんだ層を流れる電流の密度を低下させるためには、はんだ層の面積を拡大することが考えられるが、そのために半導体素子や導体スペーサのサイズを拡大すれば、半導体装置の大型化を招いてしまう。従って、本明細書では、半導体装置の大型化を招くことなく、導体板と導体スペーサとの間のはんだ層における電流密度を低下させ得る技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書が開示する半導体装置は、電極を有する半導体素子と、半導体素子を封止する封止体と、封止体の内部において電極に導体スペーサを介して接合された導体板を備える。導体スペーサは、導体板に対向する接合面と、接合面の周縁から半導体素子に向けて延びる側面を有している。導体スペーサの接合面は、導体板にはんだ層を介して接合されている。導体スペーサの側面は、導体板側に位置する第1範囲と、当該第1範囲よりも半導体素子側に位置する第2範囲を有している。第1範囲は、第2範囲よりもはんだ濡れ性が高く、はんだ層に接触しており、第2範囲は、第1範囲よりも表面粗さが大きく、封止体に接触している。
【0007】
上記した半導体装置では、導体スペーサの側面が、導体板側に位置する第1範囲と、第1範囲よりも半導体素子側に位置する第2範囲とを有している。第1範囲は、第2範囲よりもはんだ濡れ性が高く、はんだ層に接触している。即ち、導体板と導体スペーサとの間のはんだ層は、導体スペーサの接合面だけなく、導体スペーサの側面にまで濡れ広がっている。このような構成によると、半導体装置の大型化を招くことなく、はんだ層の面積を拡大することができ、はんだ層における電流密度を低下させることができる。一方で、導体スペーサの側面がはんだ層によって広く覆われてしまうと、導体スペーサと封止体との間の密閉性が損なわれてしまう。この点に関して、導体スペーサの側面には、はんだ濡れ性が比較的に低い第2範囲がさらに設けられており、はんだ層の濡れ広がりが第1範囲までに制限され易い。これにより、導体スペーサの側面は、少なくとも第2範囲において封止体と直接的に接触することができる。加えて、当該第2範囲は、はんだ層に覆われる第1範囲と異なり、その表面粗さが選択的に大きくされているので、封止体と強固に密着することができ、導体スペーサと封止体との間に必要とされる密閉性が確保される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1】実施例の半導体装置10の内部構造を示す断面図。
図2図1のII部における拡大図。
図3】導体スペーサ14の側面14cにおける一変形例を示す断面図。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図面を参照して、実施例の半導体装置10について説明する。半導体装置10は、電力制御装置に採用され、例えばインバータやコンバータといった電力変換回路の一部を構成することができる。ここでいう電力制御装置は、例えば電気自動車、ハイブリッド自動車、燃料電池車等に搭載される。
【0010】
図1に示すように、半導体装置10は、半導体素子12と、導体スペーサ14と、上側導体板16と、下側導体板18と、封止体20とを備える。半導体素子12は、封止体20の内部に封止されている。封止体20は、例えばエポキシ樹脂といった絶縁性を有する材料を用いて構成されている。封止体20は、概して板形状を有しており、互いに反対側に位置する二つの主表面を有する。一方の主表面には上側導体板16が露出しており、他方の主表面には下側導体板18が露出している。上側導体板16及び下側導体板18は、封止体20の内部において半導体素子12と電気的及び熱的に接続されている。これにより、上側導体板16及び下側導体板18は、半導体素子12に接続された電気回路の一部を構成するとともに、半導体素子12の熱を外部へ放熱する放熱板として機能する。ここで、上側導体板16は、本明細書が開示する導体板の一例である。
【0011】
半導体素子12は、主に半導体基板で構成されているとともに、一対の主電極12a、12bをさらに有する。一対の主電極12a、12bには、第1主電極12aと第2主電極12bが含まれている。第1主電極12aは、半導体素子12の一方の表面に位置しており、第2主電極12bは、半導体素子12の他方の表面に位置している。一対の主電極12a、12bは、半導体基板を介して電気的に接続される。ここで、第1主電極12aは、本明細書が開示する技術における電極の一例である。
【0012】
半導体素子12は、パワー半導体素子であって、例えば、IGBT(Insulated Gate Bipolar Transistor)である。但し、半導体素子12はIGBTに限られず、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)又はダイオードであってもよい。なお、半導体素子の数や種類については、特に限定されない。半導体素子12を構成する半導体材料には、例えばケイ素(Si)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ガリウム(GaN)又は他の種類のバンドギャップが大きい半導体(ワイドギャップ半導体とも称される)材料を採用することができる。
【0013】
導体スペーサ14は、上側導体板16と半導体素子12との間に位置する。導体スペーサ14は、概してブロック形状を有しており、主に、第1主表面14aと第2主表面14bと側面14cとを有する。第2主表面14bは、第1主表面14aの反対側に位置しており、側面14cは、第1主表面14aの周縁から半導体素子12に向かって第2主表面14bの周縁まで延びている。導体スペーサ14は、例えば銅又は他の金属といった導体材料を用いて形成されている。導体スペーサ14の第1主表面14aは、後述する上側導体板16の第2主表面16bにはんだ層22を介して接合される。導体スペーサ14の第2主表面14bは、半導体素子12の第1主電極12aにはんだ層24を介して接合される。ここで、導体スペーサ14の第1主表面14aは、本明細書が開示する接合面の一例である。
【0014】
上側導体板16及び下側導体板18は、半導体素子12を挟んで対向している。上側導体板16及び下側導体板18は、概して板形状又は直方体形状を有しており、例えば銅又は他の金属といった導体材料を用いて形成されている。上側導体板16は、第1主表面16aと、その反対側に位置する第2主表面16bを有する。上側導体板16の第1主表面16aは、封止体20の一方の表面において露出されている。前述したが、上側導体板16の第2主表面16bは、導体スペーサ14の第1主表面14aに接合される。これにより、上側導体板16は、導体スペーサ14を介して、上述したように半導体素子12と電気的及び熱的に接続されている。
【0015】
上側導体板16と同様に、下側導体板18は、第1主表面18aと、その反対側に位置する第2主表面18bを有する。下側導体板18の第1主表面18aは、半導体素子12の第2主電極12bとはんだ層26を介して接合される。これにより、下側導体板18は、上述したように半導体素子12と電気的及び熱的に接続されている。また、下側導体板18の第2主表面18bは、封止体20の他方の表面において露出されている。
【0016】
次に、図2を参照して、導体スペーサ14について詳細に説明する。導体スペーサ14の第1主表面14aには、金属膜13が設けられている。この金属膜13は、例えばニッケル系金属を用いて構成されためっき膜である。ここでいうニッケル系金属とは、純ニッケル又はニッケルを主成分とした合金を示す。第1主表面14aは、金属膜13においてはんだ層22と接触する。同様に、導体スペーサ14の第2主表面14bにも、金属膜13が設けられていてもよい。なお、上側導体板16と導体スペーサ14との間に位置するはんだ層22は、導体スペーサ14の第1主表面14aだけでなく、側面14cの上側部分(後述する第1範囲14c1)にも接触する。
【0017】
導体スペーサ14は、側面14cを有しており、側面14cには第1範囲14c1と第2範囲14c2が含まれている。第1範囲14c1は、側面14cのうち上側(即ち上側導体板16側)に位置している。側面14cの第1範囲14c1には、金属膜15aが設けられている。この金属膜15aは、例えばニッケル系金属を用いて構成されためっき膜である。また、金属膜15aは、金又はニッケル/パラジウム/金といった組み合わせによって構成されていてもよい。導体スペーサ14の側面14cは、第1範囲14c1においてはんだ層22と接触する。
【0018】
第2範囲14c2は、導体スペーサ14の側面14cのうち下側(即ち半導体素子12側)に位置する。但し、第2範囲14c2の具体的な位置は特に限定されず、少なくとも第1範囲14c1よりも半導体素子12側に位置していればよい。一例であるが、側面14cの第2範囲14c2には、金属酸化膜15bが設けられている。この金属酸化膜15bは、例えば金属膜15aを酸化させたものであり、酸化されたニッケル系金属を用いて構成されている。但し、金属酸化膜15bは、他の金属の酸化物で構成されてもよい。金属酸化膜15bの膜厚は、例えば10nm~100nmであってよい。
【0019】
第2範囲14c2に形成された金属酸化膜15bは、第1範囲14c1に形成された金属膜15aよりも、表面粗さが大きくなっており、はんだに対する濡れ性(以下、はんだ濡れ性という)が低い。従って、導体スペーサ14の側面14cにおいて、第1範囲14c1は第2範囲14c2よりもはんだ濡れ性が高い。これに加え、第2範囲14c2は、第1範囲14c1よりも表面粗さが大きい。即ち、第2範囲14c2は、第1範囲14c1よりも粗面化された状態となっている。なお、金属膜15aのはんだ濡れ性は、導体スペーサ14の母材(例えば銅)よりも高く、第1範囲14c1では、金属膜15aの存在によって導体スペーサ14のはんだ濡れ性が高められている。また、同様の金属膜は、上側導体板16にも設けられている。
【0020】
具体的には、導体スペーサ14の第2範囲14c2の表面上には、微細な凹凸が表面全体に亘って形成された金属酸化膜15bが設けられている。一例ではあるが、本実施例における金属酸化膜15bは、導体スペーサ14の側面14c全体に金属膜15aを形成した後、第2範囲14c2へ選択的にレーザ照射をすることによって形成されている。なお、このような金属酸化膜15bの形成については、例えば特許文献1(特開2016-197706号公報)に開示された手法を用いて行うことができる。一例ではあるが、金属酸化膜15b上の微細な凹凸における各凹部の幅は5μm~500μmであり、凹部の深さは0.5μm~5μmである。また、凸部の平均幅は例えば1nm~300nmであり、凸部間の平均間隔が例えば1nm~300nmである。
【0021】
また、導体スペーサ14の側面14cを粗面化する場合は、導体スペーサ14及びそれに接合される各部材(ここでは半導体素子12と上側導体板16)の線膨張係数を考慮して、粗面化の開始側及び終了側を定めるとよい。例えば本実施例の構成によると、導体スペーサ14と半導体素子12との間の線膨張係数の差が、導体スペーサ14と上側導体板16との間の線膨張係数の差よりも大きい。この場合は、半導体素子12側(即ち、第2主表面14b側)から粗面化を開始して、上側導体板16側(即ち、第1主表面14a側)で粗面化を終了するとよい。
【0022】
一般に半導体装置では、例えば上側導体板16と導体スペーサとの間のはんだ層22において、エレクトロマイグレーションに起因する経年劣化が生じ得る。エレクトロマイグレーションの進行は、はんだ層22を流れる電流の密度に相関するので、それに起因する経年劣化を抑制するためには、はんだ層22を流れる電流の密度を低下させることが有効である。はんだ層22を流れる電流の密度を低下させるためには、はんだ層22の面積を拡大することが考えられるが、そのために半導体素子12や導体スペーサのサイズを拡大すれば、半導体装置の大型化を招くおそれがある。
【0023】
本実施例の半導体装置10では、導体スペーサ14の側面14cが、上側導体板16側に位置する第1範囲14c1と、第1範囲14c1よりも半導体素子12側に位置する第2範囲14c2とを有している。第1範囲14c1は、第2範囲14c2よりもはんだ濡れ性が高く、はんだ層22に接触している。即ち、上側導体板16と導体スペーサ14との間のはんだ層22は、導体スペーサ14の第1主表面14aだけなく、導体スペーサ14の側面14cにまで濡れ広がっている。このような構成によると、半導体装置10の大型化を招くことなく、はんだ層22の面積を拡大することができ、はんだ層22における電流密度を低下させることができる。一方で、導体スペーサ14の側面14cがはんだ層22によって広く覆われてしまうと、導体スペーサ14と封止体20との間の密閉性が損なわれてしまう。この点に関して、導体スペーサ14の側面14cには、はんだ濡れ性が比較的に低い第2範囲14c2がさらに設けられており、はんだ層22の濡れ広がりが第1範囲14c1までに制限され易い。これにより、導体スペーサ14の側面14cは、少なくとも第2範囲14c2において封止体20と直接的に接触することができる。加えて、第2範囲14c2は、はんだ層22に覆われる第1範囲14c1と異なり、その表面粗さが選択的に大きくされているので、封止体20と強固に密着することができ、導体スペーサ14と封止体20との間に必要とされる密閉性が確保される。
【0024】
なお、導体スペーサ14の側面14cの構成については、様々に変更可能である。図3を参照して、導体スペーサ14の側面14cの一変形例について説明する。導体スペーサ14の側面14cにおいて、第1範囲14c1よりも半導体素子12側に位置する少なくとも一つの第2範囲14c2が存在すればよい。図3に示すように、導体スペーサ14は、その側面14cのうち第2範囲14c2と導体スペーサ14の第2主表面14bとの間にさらに第3範囲14c3を有していてもよい。第3範囲14c3は、例えば第1範囲14c1と同様の金属膜15aと第2範囲14c2と同様の金属酸化膜15bとが交互に配置されていてもよい。
【0025】
本実施例の半導体装置10の導体スペーサ14において、側面14cの第2範囲14c2は、レーザ照射によって粗面化しているが、他の粗面化手段によって粗面化してもよい。
【0026】
本実施例の半導体装置10の導体スペーサ14において、第1主表面14aの金属膜13と、側面14cの第1範囲14c1における金属膜15aは一体の膜として連続的に形成されていてもよいし、別個の膜としてそれぞれ形成されていてもよい。
【0027】
以上、本明細書が開示する技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示に過ぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。本明細書、又は、図面に説明した技術要素は、単独で、あるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時の請求項に記載の組合せに限定されるものではない。本明細書又は図面に例示した技術は、複数の目的を同時に達成し得るものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0028】
10:半導体装置
12:半導体素子
12a、12b:主電極
13、15a:金属膜
14:導体スペーサ
14c:側面
14c1:第1範囲
14c2:第2範囲
15b:金属酸化膜
16、18:導体板
20:封止体
22、24、26:はんだ層
図1
図2
図3