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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】位置決め装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 5/10 20060101AFI20221109BHJP
【FI】
A61N5/10 M
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019093791
(22)【出願日】2019-05-17
(65)【公開番号】P2020185337
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2021-08-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100101753
【弁理士】
【氏名又は名称】大坪 隆司
(72)【発明者】
【氏名】永江 恒大
【審査官】石川 薫
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-185144(JP,A)
【文献】米国特許第06516046(US,B1)
【文献】特開2018-134290(JP,A)
【文献】特開2016-059606(JP,A)
【文献】特開2006-149438(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0280727(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 5/10
A61B 34/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
X線照射部とX線検出部からなるX線撮影系を複数備え、被検者を異なる2方向から撮影可能なX線撮影装置を使用して前記被検者のDR画像を作成するDR画像作成部と、
治療計画時に作成された前記被検者のCTデータに対して前記X線撮影系の幾何学的撮影条件を模擬した仮想的透視投影を行うことにより、前記DR画像作成部により作成されたDR画像の領域よりも大きな領域のDRR画像を作成するDRR画像作成部と、
前記DR画像と前記DRR画像とを重畳させた状態で表示する重畳表示部と、
ユーザによる操作部の操作に応じて、前記重畳表示部により表示されたDRR画像をDR画像に対して相対的に移動させることにより、DR画像とDRR画像の粗位置決めを行う粗位置決め部と、
位置決め後のDRR画像のうち前記DR画像に相当する領域のDRR画像を抽出し、その抽出したDRR画像と前記DR画像とを利用し演算を行うことにより、DR画像とDRR画像とを位置決めする位置決め部と、
前記粗位置決め部及び前記位置決め部による前記DRR画像の前記DR画像に対する相対的な移動量から、前記被検者を載置した被検者載置部の移動量を演算する移動量演算部と、
を備え、
前記DRR画像作成部は、前記粗位置決めが完了したか否かをユーザが判断する際に利用し得る、前記DR画像作成部により作成されたDR画像の領域を含む、該DR画像の領域よりも大きな領域のDRR画像を作成する位置決め装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、位置決め装置に関する。
【背景技術】
【0002】
癌等の患部に対してX線、電子線、粒子線等の放射線を照射する放射線治療においては、放射線を患部に正確に照射する必要がある。放射線治療装置を利用して放射線治療を実行するときには、治療に先だって治療計画が策定される。そして、放射線治療の実行時には、被検者の位置が治療計画時と一致するように位置決めを行うことが必要となる。放射線治療装置における被検者の位置決めは、従来は、技師がレーザ墨出し器により示される位置を目視で確認しながら、被検者を載置する診療台の位置を操作することにより行われていた。これに対し、近年ではX線画像を使用して被検者の位置決めを行うことが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
このとき、X線画像を使用した被検者の位置決めにおいては、コンピュータ上にX線撮影系の幾何学的配置を再現し、治療計画時にX線CT装置により収集した3次元画像データを利用した仮想的透視投影であるDRR(Degital Reconstructed Radiography)画像を利用し、X線撮影系により撮影したDR(Degital Radiography)画像とDRR画像との類似性を評価すること(画像レジストレーション)により、被検者の現在位置と治療計画時の位置との位置ずれ量を算出している。DRRは、計算コストが膨大なものとなるため、特許文献1では、DRRの実行に必要な計算コストを削減して、被検者の位置決めを高速化している。そして、位置ずれ量が算出された後には、その位置ずれ量に応じて検診台における被検者載置部を移動させることにより、被検者を正しい位置に配置している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2013-99431号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
DR画像とDRR画像とを比較することにより被検者の現在位置と治療計画時の位置との位置ずれ量を算出する場合において、DR画像とDRR画像とが大きくずれていた場合には、位置ずれ量の演算に長い時間を必要とするばかりではなく、被検者における所定の部位を他の部位と認識して演算を行う場合がある。このため、DR画像とDRR画像との位置ずれ量を画像レジストレーションにより演算するときには、オペレータの操作により、DR画像に対してDRR画像を、おおよそ一致する位置に位置決めする粗位置決めが実行される。
【0006】
粗位置決めを実行するときには、DR画像とDRR画像とを重畳させた状態で表示部に表示し、オペレータが操作部を操作することにより、DRR画像をDR画像に対して移動させ、DR画像とDRR画像とをおおよそ一致する位置に配置する粗位置決め操作が行われる。
【0007】
このとき、DRR画像は、DR画像の領域、すなわち、DR画像の撮影サイズと一致する領域を表すサイズとなるように作成されている。言い換えると、DR画像とDRR画像とは同一サイズとなっている。このため、DR画像とDRR画像との粗位置決めを行うときに、オペレータが粗位置決めが完了したか否かを判断する情報は、DR画像とDRR画像とが重畳した領域に依存することになる。従って、DR画像の位置とDRR画像の位置との一致、不一致の判断が容易ではなく、粗位置決めが完了したか否かの判断が極めて困難なものとなる。
【0008】
この発明は上記課題を解決するためになされたものであり、DR画像とDRR画像との粗位置決めを容易に実行することが可能な位置決め装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明の第1の態様は、X線照射部とX線検出部からなるX線撮影系を複数備え、被検者を異なる2方向から撮影可能なX線撮影装置を使用して被検者のDR画像を作成するDR画像作成部と、治療計画時に作成された前記被検者のCTデータに対して前記X線撮影系の幾何学的撮影条件を模擬した仮想的透視投影を行うことにより、前記DR画像作成部により作成されたDR画像の領域よりも大きな領域のDRR画像を作成するDRR画像作成部と、前記DR画像と前記DRR画像とを重畳させた状態で表示する重畳表示部と、ユーザによる操作部の操作に応じて、前記重畳表示部により表示されたDRR画像をDR画像に対して相対的に移動させることにより、DR画像とDRR画像の粗位置決めを行う粗位置決め部と、位置決め後のDRR画像のうち前記DR画像に相当する領域のDRR画像を抽出し、その抽出したDRR画像と前記DR画像とを利用し演算を行うことにより、DR画像とDRR画像とを位置決めする位置決め部と、前記粗位置決め部及び前記位置決め部による前記DRR画像の前記DR画像に対する相対的な移動量から、前記被検者を載置した被検者載置部の移動量を演算する移動量演算部と、を備え、前記DRR画像作成部は、前記粗位置決めが完了したか否かをユーザが判断する際に利用し得る、前記DR画像作成部により作成されたDR画像の領域を含む、該DR画像の領域よりも大きな領域のDRR画像を作成する。
【発明の効果】
【0010】
この発明の第1の態様によれば、DR画像の領域の全てを利用して粗位置決めを行うことができるとともに、DR画像の外側の領域におけるDRR画像も粗位置決めのために利用することができる。このため、粗位置決めを行うためにより多くの情報を利用することができ、DR画像とDRR画像との粗位置決めを容易に実行することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】この発明の実施形態に係る位置決め装置を備えたX線撮影装置を、治療ビーム照射装置90とともに示す斜視図である。
図2】この発明の実施形態に係る位置決め装置を備えたX線撮影装置の主要な制御系を示すブロック図である。
図3】仮想的な透視撮影によりDRR画像を作成する状態を模式的に示す説明図である。
図4】DR画像作成部31により作成されたDR画像X1の模式図である。
図5】DRR画像作成部32により作成された、DR画像X1より大きな領域を有するDRR画像D2の模式図である。
図6】DR画像X1と同じ領域を有するDRR画像D1の模式図である。
図7】DR画像X1とDRR画像D2とを使用して粗位置決めを行う様子を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、この発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。図1は、この発明の実施形態に係る位置決め装置を備えたX線撮影装置を、治療ビーム照射装置90とともに示す斜視図である。これらのX線撮影装置と治療ビーム照射装置90とにより、放射線治療装置が構成される。
【0013】
治療ビーム照射装置90は、検診台27上の被検者に対して放射線治療を行うものであり、治療室の床面に設置された基台91に対してアイソセンターを中心として回動するガントリー92と、治療ビームを出射するためにガントリー92に配設された治療ビーム照射部93とを備える。このガントリー92は、治療ビーム照射部93とともに、基台91に対して360度の範囲で回動可能な構造となっている。
【0014】
従って、この治療ビーム照射装置90によれば、ガントリー92を基台91に対して任意の角度位置まで回動させることにより、治療ビーム照射部93から照射される治療ビームの照射方向を変更することができる。このため、被検者における腫瘍等の患部に対して、様々な方向から治療ビームを照射する、いわゆる、多門照射を実行することが可能となる。
【0015】
なお、アイソセンター(isocenter)とは、放射線療治療において、治療ビーム照射部93から照射された治療ビームがもっとも集中して照射される位置のことであり、治療ビームの照射中心のことである。
【0016】
この治療ビーム照射装置90とともに使用されるX線撮影装置は、被検者の患部の位置を特定する動体追跡を行うためのX線透視を実行するものである。すなわち、上述した治療ビーム照射装置90を使用した放射線治療時においては、被検者の体動に伴って移動する患部に対して、放射線を正確に照射する必要がある。このため、このX線撮影装置においては、被検者を互いに異なる2方向から透視し、その透視画像に対して画像認識を実行することにより、被検者の特定部位付近に留置されたマーカの位置を検出し、マーカの三次元の位置情報を演算することで、マーカを高精度で検出する、所謂、動体追跡を行う構成となっている。
【0017】
なお、被検者における患部付近にマーカを留置する代わりに、被検者における腫瘍等の特定部位の画像をマーカとして使用する手法も採用されている。このような動体追跡の手法は、マーカレストラッキングと呼称されている。この明細書においては、被検者における腫瘍等の特定部位と、被検者の特定部位付近に留置されたマーカとを総称して「マーカ等」という。
【0018】
この画像認識の一つの実施態様としては、被検者の特定部位付近に留置したマーカ等の画像を予めテンプレートとして登録し、このテンプレートを利用してマーカ等の位置を検出して追跡(トラッキング)するテンプレートマッチングが利用される。また、この画像認識の他の実施態様として、マーカ等に対して、予め登録した多数の正解画像と不正解画像とから、学習により識別器を作成し、この識別器を利用してマーカ等の位置を検出して追跡する機械学習が利用される。
【0019】
このX線撮影装置は、第1X線管11a、第2X線管11b、第3X線管11c、第4X線管11d(これらを総称する場合には「X線管11」という)と、第1フラットパネルディテクタ21a、第2フラットパネルディテクタ21b、第3フラットパネルディテクタ21c、第4フラットパネルディテクタ21d(これらを総称するときには「フラットパネルディテクタ21」という)とを備える。第1X線管11aから照射されたX線は、検診台27上の被検者を透過した後、第1フラットパネルディテクタ21aにより検出される。第1X線管11aと第1フラットパネルディテクタ21aとは、第1X線撮影系を構成する。第2X線管11bから照射されたX線は、検診台27上の被検者を透過した後、第2フラットパネルディテクタ21bにより検出される。第2X線管11bと第2フラットパネルディテクタ21bとは、第2X線撮影系を構成する。第3X線管11cから照射されたX線は、検診台27上の被検者を透過した後、第3フラットパネルディテクタ21cにより検出される。第3X線管11cと第3フラットパネルディテクタ21cとは、第3X線撮影系を構成する。第4X線管11dから照射されたX線は、検診台27上の被検者を透過した後、第4フラットパネルディテクタ21dにより検出される。第4X線管11dと第4フラットパネルディテクタ21dとは、第4X線撮影系を構成する。
【0020】
なお、動体追跡を行うためのX線透視を実行するときには、後述するように、第1X線撮影系、第2X線撮影系、第3X線撮影系、第4X線撮影系のうちの2個のX線撮影系が選択されて使用される。
【0021】
検診台27は、基部28と、カウチとも呼称される被検者載置部29とを備える。被検者載置部29は、基部28に対して、4軸または6軸方向に移動可能となっている。なお、この被検者載置部29は、後述する移動信号送信部37からの移動信号に基づいて移動する。また、この被検者載置部29をオペレータの操作により移動させることも可能となっている。
【0022】
図2は、この発明の実施形態に係る位置決め装置を備えたX線撮影装置の主要な制御系を示すブロック図である。
【0023】
このX線撮影装置は、装置全体を制御する制御部30を備える。この制御部30は、ソフトウエアがインストールされたコンピュータから構成される。この制御部30に含まれる各部の機能は、コンピュータにインストールされているソフトウエアを実行することで実現される。
【0024】
この制御部30は、上述したX線管11、フラットパネルディテクタ21、検診台27および治療ビーム照射装置90と接続されている。また、この制御部30は、キーボードやマウス等の入力機構を備え各種の操作を実行する操作部38と、液晶表示パネル等を備えた表示部39とに接続されている。さらに、この制御部30は、放射線治療に先だって治療計画を策定する治療計画装置99にオンラインまたはオフラインで接続されている。治療計画装置99は、図示を省略したCT撮影装置により撮影した被検者のCT画像データを取得している。制御部30は、治療計画装置99からこのCT画像データを取得する。
【0025】
この制御部30は、機能的構成として、第1X線撮影系、第2X線撮影系、第3X線撮影系、第4X線撮影系のうちの2個のX線撮影系を使用してX線撮影を行うことによりDR画像を作成するDR画像作成部31と、治療計画装置99から取得した被検者のCTデータに対してX線撮影系の幾何学的撮影条件を模擬した仮想的透視投影を行うことによりDRR画像を作成するDRR画像作成部32と、DR画像とDRR画像とを重畳させた状態で表示部39に表示する重畳表示部33と、オペレータが操作部38を操作することにより、重畳表示部33により表示部39表示されたDRR画像をDR画像に対して相対的に移動させることにより、DR画像とDRR画像の粗位置決めを行う粗位置決め部34と、DR画像と粗位置決め後のDRR画像を利用して演算を行うことにより、DR画像とDRR画像とを位置決めする位置決め部35と、DRR画像のDR画像に対する相対的な移動量から、被検者を載置した被検者載置部29の移動量を演算する移動量演算部36と、検診台27に対して被検者載置部29の移動信号を送信することにより、被検者載置部29上の被検者を正しい位置に移動させるための移動信号送信部37と、を備える。
【0026】
次に、以上のような構成を有するX線撮影装置による被検者の位置決め等の動作について説明する。なお、以下の位置決め動作は、第1X線撮影系、第2X線撮影系、第3X線撮影系、第4X線撮影系のうちの2個のX線撮影系に対応する方向に対して実行される。以下の説明においては、一方のX線撮影系について説明するが、他方のX線撮影系についても同様の動作が実行される。
【0027】
被検者に対する治療を開始するときには、最初に、DR画像作成部31により、第1X線撮影系、第2X線撮影系、第3X線撮影系、第4X線撮影系のうちの2個のX線撮影系を使用してX線撮影を行うことによりDR画像を作成する。このDR画像は、例えば、512×512ピクセルの画像である。このときには、治療ビーム照射装置90における治療ビーム照射部93の配置に基づいて、ガントリー92がX線撮影に使用をきたさないX線撮影系が選択される。
【0028】
次に、DR画像とともに被検者の位置決めに使用するDRR画像を作成する。
【0029】
図3は、仮想的な透視撮影によりDRR画像を作成する状態を模式的に示す説明図である。
【0030】
DRR画像を作成するときには、制御部30が治療計画装置99からCT画像データ100を取得する。このCT画像データ100は、複数の2次元の画像データの集合である3次元のボクセルデータである。このCT画像データ100は、2次元画像が被検者を横断する方向(図3に示す線分L1またはL2に沿った方向)に200枚程度積層された構造を有する。このCT画像データ100は、治療計画の作成時に、図示を省略したCT装置から得たデータに基づいて、治療計画装置99により作成される。
【0031】
そして、DRR画像作成部32により、このCT画像データ100に対して、DR画像作成時に使用した各X線撮影系の被検者に対する幾何学的撮影条件を模擬した仮想的透視投影を行うことにより、被検者のDRR画像を作成する。このDRR画像は、例えば、1024×1024ピクセルの画像である。
【0032】
DR画像作成部31により作成されたDR画像は、例えば、512×512ピクセルの画像である。これに対して、DRR画像作成部32により作成されたDR画像は、例えば、1024×1024ピクセルの画像となっている。このように、DRR画像作成部32は、DR画像作成部31により作成されたDR画像の領域より大きな領域を有するDRR画像を作成する。上述したように、DRR画像は、3次元のボクセルデータであるCT画像データ100に対して仮想的透視投影を行うことにより作成される。このため、DRR作成部32により作成されるDRR画像の領域は、CT画像データの範囲内において任意に設定することが可能となる。
【0033】
そして、重畳表示部33により、DR画像とDRR画像とを重畳させた状態で表示部39に表示する。しかる後、オペレータによる操作部38の操作に基づいて、粗位置決め部34により、表示部39に表示されたDRR画像をDR画像に対して相対的に移動させることにより、DR画像とDRR画像の粗位置決めを行う。このときには、例えば、オペレータが操作部38におけるマウスを利用して、表示部39に表示されているDRR画像をドラッグすることにより、DR画像とDRR画像とがおおよそ一致するように、DRR画像を移動させる。
【0034】
以下、この粗位置決め動作について、DR画像と同じ大きさのDRR画像を使用した場合と、DR画像より大きなDRR画像を使用した場合とを対比して説明する。図4は、DR画像作成部31により作成されたDR画像X1の模式図である。図5は、DRR画像作成部32により作成された、DR画像X1より大きな領域を有するDRR画像D2の模式図である。図6は、比較例としての、DR画像X1と同じ領域に対応するサイズを有するDRR画像D1の模式図である。図7は、DR画像X1とDRR画像D2とを使用して粗位置決めを行う様子を示す模式図である。なお、図4から図6は、被検者の胸部付近の画像に基づいて粗位置決め動作を実行する場合を示している。
【0035】
図4に示すDR画像X1と、図5に示す大きな領域を有するDRR画像D2においては、被検者の背骨51と、鎖骨52と、肋骨53とを確認することができる。一方、図6に示すDR画像X1と同様の領域が小さいDRR画像D1においては、被検者の背骨51と、肋骨53とを確認することができる。
【0036】
粗位置決めを行うために、オペレータが表示部39に重畳表示されたDR画像X1とDRR画像とのうち、DRR画像を移動させてDR画像に重ね合わせるときに、DRR画像として小さな領域を表すDRR画像D1を使用した場合には、オペレータが粗位置決めが完了したか否かを判断する情報は、DR画像X1とDRR画像D1とが重畳した領域に依存することになる。従って、粗位置決めのための情報量が少なく、また、複数の肋骨53のうちのいずれが互いに対応するものであるのかの識別も困難となる。このため、DR画像X1の位置とDRR画像D1の位置との一致、不一致の判断が容易ではなく、粗位置決めが完了したか否かの判断が極めて困難なものとなる。
【0037】
これに対して、表示部39に対してDR画像X1と大きな領域を表すDRR画像D2を重畳表示した場合には、図7に示すように、DR画像X1の内部の領域だけではなく、DRR画像D2におけるDR画像X1の外部の領域をも利用して粗位置決めを行うことができる。このため、粗位置決めのための情報量が大きなものとなり、また、図7に示す実施形態の場合においては、被検者の背骨51と、鎖骨52と、肋骨53の全ての情報を利用して粗位置決めを行うことができる。これにより、粗位置決めを行うためにより多くの情報を利用することができ、DR画像X1とDRR画像D2との粗位置決めを容易に実行することが可能となる。
【0038】
DR画像とDRR画像の粗位置決めが完了すれば、位置決め部35により、DR画像と粗位置決め後のDRR画像のデータを利用して演算を行うことにより、DR画像とDRR画像とを正確に位置決めする。すなわち、DR画像とDRR画像との位置ずれ量を画像レジストレーションにより演算する。このときには、DR画像X1と、大きな領域を表すDRR画像D2を利用して画像レジストレーションにより演算を行うと、演算時のデータが大きなものとなり、位置決めに時間を要する。このため、位置決め部35は、位置決め後のDRR画像D2のデータのうち、DR画像X1に相当する領域のDRR画像のデータのみを使用して演算を行う。これにより、位置決めのための演算に長い時間を要することなく、位置決めを実行することが可能となる。
【0039】
DR画像X1とDRR画像D2との位置決めが完了すれば、移動量演算部36が、DRR画像D2のDR画像X1に対する相対的な移動量から、被検者を治療計画どおりの位置に配置するために必要な被検者載置部29の移動量を演算する。そして、移動信号送信部37が、検診台27に対して被検者載置部29の移動信号を送信する。これにより、被検者載置部29上の被検者を治療計画通りの正しい位置に移動させることが可能となる。
【0040】
被検者の位置決めが完了すれば、再度、X線撮影を行い、撮影されたDR画像と治療計画時のデータに基づくDRR画像とを比較し、それらの位置ずれ量が予め設定された閾値内となっているか否かを確認する。位置ずれ量が予め設定された閾値より小さい場合には、引き続き、放射線治療を実行する。一方、位置ずれ量が予め設定された閾値より大きな場合には、再度、位置決め動作を実行する。
【0041】
上述した実施形態においては、被検者の患部の位置を特定する動体追跡を行うためのX線透視を実行するX線撮影装置を利用してDR画像を作成しているが、動体追跡等を行わない通常のX線撮影装置を使用してもよい。
【0042】
上述した複数の例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0043】
(第1項)
X線照射部とX線検出部からなるX線撮影系を複数備え、被検者を異なる2方向から撮影可能なX線撮影装置を使用して前記被検者のDR画像を作成するDR画像作成部と、
治療計画時に作成された前記被検者のCTデータに対して前記X線撮影系の幾何学的撮影条件を模擬した仮想的透視投影を行うことによりDRR画像を作成するDRR画像作成部と、
前記DR画像と前記DRR画像とを重畳させた状態で表示する重畳表示部と、
操作部の操作により、前記重畳表示部により表示されたDRR画像をDR画像に対して相対的に移動させることにより、DR画像とDRR画像の粗位置決めを行う粗位置決め部と、
前記DR画像と粗位置決め後のDRR画像を利用して演算を行うことにより、DR画像とDRR画像とを位置決めする位置決め部と、
前記DRR画像の前記DR画像に対する相対的な移動量から、前記被検者を載置した被検者載置部の移動量を演算する移動量演算部と、
を備え、
前記DRR画像作成部は、前記DR画像作成部により作成されたDR画像の領域より大きな領域のDRR画像を作成する。
【0044】
第1項に記載の位置決め装置によれば、DR画像の領域の全てを利用して粗位置決めを行うことができるとともに、DR画像の外側の領域におけるDRR画像も粗位置決めのために利用することができる。このため、粗位置決めを行うためにより多くの情報を利用することができ、DR画像とDRR画像との粗位置決めを容易に実行することが可能となる。
【0045】
(第2項)
第1項に記載の位置決め装置において、
前記位置決め部は、前記DR画像と、位置決め後のDRR画像のうち前記DR画像に相当する領域のDRR画像とを利用して演算を行うことにより、DR画像とDRR画像とを位置決めする。
【0046】
第2項に記載の位置決め装置によれば、位置決めのための演算に長い時間を要することなく、位置決めを実行することが可能となる。
【0047】
なお、上述した記載はこの発明の実施形態の説明のためのものであり、この発明を限定するものではない。
【符号の説明】
【0048】
11 X線管
21 フラットパネルディテクタ
27 検診台
29 被検者載置部
30 制御部
31 DR画像作成部
32 DRR画像作成部
33 重畳表示部
34 粗位置決め部
35 位置決め部
36 移動量演算部
37 移動信号送信部
38 操作部
39 表示部
90 治療ビーム照射装置
92 ガントリー
93 治療ビーム照射部
99 治療計画装置
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7