(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】車両のバッテリ保護構造
(51)【国際特許分類】
B60K 11/06 20060101AFI20221109BHJP
B60K 1/04 20190101ALI20221109BHJP
H01M 10/613 20140101ALI20221109BHJP
H01M 10/625 20140101ALI20221109BHJP
H01M 10/652 20140101ALI20221109BHJP
H01M 10/6556 20140101ALI20221109BHJP
H01M 10/6563 20140101ALI20221109BHJP
【FI】
B60K11/06
B60K1/04 Z
H01M10/613
H01M10/625
H01M10/652
H01M10/6556
H01M10/6563
(21)【出願番号】P 2019127438
(22)【出願日】2019-07-09
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000002082
【氏名又は名称】スズキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001520
【氏名又は名称】弁理士法人日誠国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原田 優
【審査官】福田 信成
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-102099(JP,A)
【文献】特開2003-45392(JP,A)
【文献】特開2002-186101(JP,A)
【文献】国際公開第2009/098952(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0012330(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60K 11/06
B60K 1/04
H01M 10/613
H01M 10/6563
H01M 10/625
H01M 10/6556
H01M 10/652
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のバッテリモジュールおよび複数の前記バッテリモジュールを収容するバッテリケースを有するバッテリパックと、前記バッテリパックが搭載される車体と、前記バッテリパックに連結され前記バッテリパックを冷却する冷媒が流れるダクトと、を備える車両のバッテリ保護構造であって、
前記ダクトは、
一端側に配置され外部と連通する第1連通部と、
他端側に配置され前記バッテリパックの
後部に連通する第2連通部および第3連通部と、
前記第1連通部および前記第2連通部と連通する第1ダクトと、
前記第2連通部および前記第3連通部と連通する第2ダクトと、を有し、
前記第1ダクトは、
車両平面視で前記バッテリパックの
後端よりも
車両後方へ湾曲して突出する第1湾曲部を有し、
前記第2ダクトは、
車両平面視で前記バッテリパックの
後端よりも
車両後方へ湾曲して突出する第2湾曲部を有することを特徴とする車両のバッテリ保護構造。
【請求項2】
前記第1連通部は、前記車体に固定されており、
前記第1湾曲部の
車両後方の
最後端部である第1後端部は、前記第2湾曲部の
車両後方の
最後端部である第2後端部よりも、
車両平面視で車両後方側に配置されていることを特徴とする請求項1に記載の車両のバッテリ保護構造。
【請求項3】
前記車体は、前記バッテリパックと上方方向で重なる位置に、タイヤを収容するタイヤ収容部を有し、
前記第1後端部は、車両前後方向で、前記タイヤ収容部に収容された前記タイヤの最後端部であるタイヤ後端部と同位置または車両前方側に位置していることを特徴とする請求項2に記載の車両のバッテリ保護構造。
【請求項4】
前記第2連通部および前記第3連通部は、前記バッテリパックの後面に前記車体の車幅方向に並んで接続され、
前記第1連通部は、前記車幅方向において、前記第2連通部を挟んで前記第3連通部とは反対側かつ前記バッテリパックよりも外側に配置されていることを特徴とする請求項2または請求項3に記載の車両のバッテリ保護構造。
【請求項5】
前記第1連通部は、前記バッテリパックよりも高い位置に配置され、
前記第1後端部の少なくとも一部は、前記バッテリパックよりも高い位置に設けられ、
前記第1連通部から前記第1後端部のうち前記バッテリパックよりも高い位置にある部位である上側後端部までの領域を上側ダクトとしたとき、
前記上側ダクトは、前記バッテリパックよりも高い位置に配置されていることを特徴とする請求項4に記載の車両のバッテリ保護構造。
【請求項6】
前記第1後端部は、前記上側後端部から前記バッテリパックの上面よりも下方に延びる下側後端部を有し、
前記上側後端部と前記下側後端部との間に少なくとも後方に突出する突出部を有することを特徴とする請求項5に記載の車両のバッテリ保護構造。
【請求項7】
前記第2湾曲部は、前記車体の車幅方向の両端部から中央部に向かうにつれて、車両上下方向の長さが漸次大きくなり、かつ、車両前後方向の厚みが漸次小さくなっていることを特徴とする請求項1から請求項6の何れか1項に記載の車両のバッテリ保護構造。
【請求項8】
前記下側後端部は、前記バッテリパックの後面と対面する位置で、前記上側後端部から前記バッテリパックの上面よりも下方に延びており、
前記上側ダクトの下方には、前記バッテリパックの側方の位置に対して後方から作業可能な作業空間が形成されていることを特徴とする請求項6に記載の車両のバッテリ保護構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両のバッテリ保護構造に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の車両にあっては車両後部の荷室にバッテリが収容されることがある。従来のこの種の技術として、特許文献1に記載された車載用バッテリが知られている。特許文献1に記載の車載用バッテリにあっては、収容ケースの後端部における左方と右方にそれぞれ第1の吸気用ファンと第2の吸気用ファンを配置することで、第1の吸気用ダクトと第2の吸気用ダクトの経路が短くて済むようにして、車載用バッテリの構造の簡素化及びスペース効率の向上を図っている。また、この車載用バッテリは、第1の吸気用ファンと第2の吸気用ファンが収容ケースの後方に位置されず収容ケースの後端部における左方と右方に配置されているため、収容ケースの後方の空間を大きくすることが可能になり、車両の後部座席の後方において荷室等のフロアーパネルの上方に配置される場合に、広い荷室を確保することができると共に車両の後端部に万が一の衝突が生じたときの衝撃吸収部を設けるための十分なスペースを確保することが可能になり衝突性能の向上を図ることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載の従来の技術にあっては、2つの吸気用ダクト(第1の吸気用ダクトおよび第2の吸気用ダクト)の後端部が平坦状に形成されているため、これらの吸気用ダクトに車載用バッテリの後方に配置されているクロスメンバ等の衝撃吸収が可能な部材が接触した場合に、各吸気用ダクトが変形し難く、各吸気用ダクトに伝達される衝撃エネルギーを各吸気用ダクトの変形エネルギーとして消費しにくいという問題がある。このため、吸気用ダクトが吸収できなかった衝撃がバッテリに作用してしまうおそれがあった。
【0005】
したがって、特許文献1に記載の従来の技術にあっては、ダクトを介して伝達される衝撃を低減できず、衝撃からバッテリパックを保護することができなかった。
【0006】
本発明は、上記のような事情に着目してなされたものであり、ダクトを介してバッテリパックに伝達される衝撃を低減でき、衝撃からバッテリパックを保護することができる車両のバッテリ保護構造を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、複数のバッテリモジュールおよび複数の前記バッテリモジュールを収容するバッテリケースを有するバッテリパックと、前記バッテリパックが搭載される車体と、前記バッテリパックに連結され前記バッテリパックを冷却する冷媒が流れるダクトと、を備える車両のバッテリ保護構造であって、前記ダクトは、一端側に配置され外部と連通する第1連通部と、他端側に配置され前記バッテリパックの後部に連通する第2連通部および第3連通部と、前記第1連通部および前記第2連通部と連通する第1ダクトと、前記第2連通部および前記第3連通部と連通する第2ダクトと、を有し、前記第1ダクトは、車両平面視で前記バッテリパックの後端よりも車両後方へ湾曲して突出する第1湾曲部を有し、前記第2ダクトは、車両平面視で前記バッテリパックの後端よりも車両後方へ湾曲して突出する第2湾曲部を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
このように上記の本発明によれば、ダクトを介してバッテリパックに伝達される衝撃を低減でき、衝撃からバッテリパックを保護することができる車両のバッテリ保護構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、本発明の一実施例に係るバッテリ保護構造を備える車両の、車体後部の荷室の平面図である。
【
図2】
図2は、本発明の一実施例に係るバッテリ保護構造を備える車両の、スペアタイヤを取り外した状態の車体後部の荷室の平面図である。
【
図3】
図3は、本発明の一実施例に係るバッテリ保護構造を備える車両の、スペアタイヤおよびアッパケースを取り外した状態の車体後部の荷室の平面図である。
【
図4】
図4は、本発明の一実施例に係るバッテリ保護構造を備える車両の、車体後部の荷室の背面図である。
【
図7】
図7は、本発明の一実施例に係るバッテリ保護構造を備える車両のダクトの斜視図である。
【
図8】
図8は、本発明の一実施例に係るバッテリ保護構造を備える車両のダクトの平面図である。
【
図9】
図9は、本発明の一実施例に係るバッテリ保護構造を備える車両のダクトの正面図である。
【
図10】
図10は、本発明の一実施例に係るバッテリ保護構造を備える車両のダクトとバッテリパックとの接続態様の他の例を示す斜視図である。
【
図11】
図11は、本発明の一実施例に係るバッテリ保護構造を備える車両のダクトとバッテリパックとの接続態様の他の例を示す斜視図である。
【
図12】
図12(a)、
図12(b)は、本発明の一実施例に係るバッテリ保護構造を備える車両のダクトの形状の他の例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施の形態に係る車両のバッテリ保護構造は、複数のバッテリモジュールおよび複数のバッテリモジュールを収容するバッテリケースを有するバッテリパックと、バッテリパックが搭載される車体と、バッテリパックに連結されバッテリパックを冷却する冷媒が流れるダクトと、を備える車両のバッテリ保護構造であって、ダクトは、一端側に配置され外部と連通する第1連通部と、他端側に配置されバッテリパックの後部に連通する第2連通部および第3連通部と、第1連通部および第2連通部と連通する第1ダクトと、第2連通部および第3連通部と連通する第2ダクトと、を有し、第1ダクトは、車両平面視でバッテリパックの後端よりも車両後方へ湾曲して突出する第1湾曲部を有し、第2ダクトは、車両平面視でバッテリパックの後端よりも車両後方へ湾曲して突出する第2湾曲部を有することを特徴とする。これにより、本発明の一実施の形態に係る車両のバッテリ保護構造は、ダクトを介してバッテリパックに伝達される衝撃を低減でき、衝撃からバッテリパックを保護することができる。
【実施例】
【0011】
以下、本発明の実施例に係る車両のバッテリ保護構造について、図面を用いて説明する。
図1から
図11において、上下前後左右方向は、車両に設置された状態の車両のバッテリ保護構造の上下前後左右方向とし、車両の前後方向に対して直交する方向が左右方向、車両のバッテリ保護構造の高さ方向が上下方向である。
【0012】
図1から
図12は、本発明の一実施例に係る車両のバッテリ保護構造を示す図である。
【0013】
まず、構成を説明する。
図1、
図2において、車両1は、車体2を備えており、車体2の後部にはリヤシート4が設けられている。また、車体2は、リヤシート4の後方に、リヤフロアパネル2A、左右のサイドパネル2E、2Fおよびリヤパネル2Gを有している。リヤフロアパネル2Aの上方の空間であって、リヤシート4、サイドパネル2E、2Fおよびリヤパネル2Gに囲まれた部分は、荷室を構成している。したがって、リヤフロアパネル2Aは荷室の床面の一部を構成している。
【0014】
車体2には、バッテリパック50が搭載されている。詳しくは、リヤフロアパネル2Aにはタイヤ収容部2Bが設けられており、このタイヤ収容部2Bは、下方に窪んでいる。タイヤ収容部2Bにはバッテリパック50および予備用のタイヤ5が収容されている。バッテリパック50は車両1の図示しないモータに電力を供給する。タイヤ5は、バッテリパック50の上部に固定されている。タイヤ収容部2Bは、タイヤ5の上下方向の下半分の部分を収容している。タイヤ5は図示しないカバーによって上方から覆われるようになっている。
【0015】
タイヤ収容部2Bには、ダクト60の一部が収容されており、このダクト60は、バッテリパック50に連結されており、バッテリパック50を冷却する冷媒としての空気を荷室内の左端部の近傍から取入れてバッテリパック50に供給する。
(バッテリパックについて)
【0016】
図3において、バッテリパック50は、複数のバッテリモジュール11、12、13、14と、複数のバッテリモジュール11、12、13、14を収容するバッテリケース20と、を有している。
【0017】
バッテリモジュール11、12、13、14の内部には、複数のセルが電気的に接続された状態で収容されている。
図1において、バッテリケース20の後端部50Aには、空気を内部に導入する第1吸気導入口21、第2吸気導入口22が設けられている。
【0018】
バッテリパック50の後方にはダクト60が設けられており、このダクト60は第1吸気導入口21、第2吸気導入口22に連結されている。ダクト60は、車体2の側部に配置される空気取入口60Aから取入れた空気を第1吸気導入口21、第2吸気導入口22に導く吸気経路60B(
図7参照)を形成している。
【0019】
図4、
図5、
図6において、バッテリケース20はロアケース30とアッパケース40とからなる。ロアケース30は、バッテリモジュール11、12、13、14が固定されバッテリモジュール11、12、13、14の下面および側面を覆っている。アッパケース40は、ロアケース30を上方から塞いだ状態で、バッテリモジュール11、12、13、14の上面を覆っている。
【0020】
図2、
図3において、車体2におけるロアケース30の後方にはロアケース固定部2Cが配置されており、ロアケース30は、ロアケース固定部2Cにおいて車体2に固定されている。
【0021】
車体2におけるアッパケース40の後方にはアッパケース固定部2Dが配置されており、アッパケース40は、アッパケース固定部2Dにおいて車体2に固定されている。
【0022】
図4、
図5において、バッテリパック50の上方には、タイヤ5が、その中心軸5Aを垂直に立てた姿勢で配置されている。
【0023】
図6において、バッテリパック50の上面には、タイヤ5を支持する第2ブラケット82が設けられており、第2ブラケット82は、上方に突形状に形成されている。第2ブラケット82の上端部はタイヤ5の中心部と連結されている。
【0024】
アッパケース40の下面には、車両前後方向に延びる車幅方向で一対の補強部材71が、スポット溶接等によって固定されている。
【0025】
図3において、バッテリパック50は、空気通路51、52を有している。空気通路51は、隣り合うバッテリモジュール11、12の間に配置され、空気通路52は、隣り合うバッテリモジュール13、14の間に配置されている。空気通路51、52には、ダクト60により導かれた空気が流通しており、この空気により、バッテリモジュール11、12、13、14が冷却される。
【0026】
図6において、補強部材71は、隣り合うバッテリモジュール11、12、13、14の間に、空気通路51、52に沿って配置されている。
【0027】
アッパケース40の上面には、第1ブラケット81が設けられている。第1ブラケット81は、補強部材71に対応する位置に配置されている。第2ブラケット82の下端部には2つの第1ブラケット81が連結されている。第2ブラケット82は、左右で一対の第1ブラケット81を相互に連結し、かつ、一対の第1ブラケット81を介してアッパケース40に固定されている。
【0028】
第2ブラケット82の下端部に連結される2つの第1ブラケット81は、隣り合うバッテリモジュール11、12の間、および隣り合うバッテリモジュール13、14の間に渡って配置され、かつ、前後方向で第2連通部62Aおよび第3連通部62Bと重なる位置に設けられている。これにより、第2連通部62Aおよび第3連通部62Bで伝達された衝撃エネルギーを第1ブラケット81側で受けることができ、バッテリモジュール11から14に衝撃が伝達されにくくできる。
【0029】
図2、
図5において、ロアケース30の前端部には第3ブラケット83が設けられており、この第3ブラケット83は、ロアケース30を車体2に連結している。バッテリパック50は、車体2のタイヤ収容部2Bに収容された状態で、第3ブラケット83を介して車体2に連結されている。
【0030】
このように、本実施例では、第1ブラケット81と第2ブラケット82とを介して、タイヤ5がバッテリパック50のアッパケース40に固定されている。また、タイヤ5を支持した状態のバッテリパック50が第3ブラケット83を介して車体2に固定されている。このため、タイヤ5に側方から荷重が作用した場合、この荷重を、第1ブラケット81と第2ブラケット82とを介してアッパケース40の全体で分散して受け止めることができる。
【0031】
また、タイヤ5とバッテリパック50との位置関係が第1ブラケット81および第2ブラケット82によって直接的に固定されているので、タイヤ5に側方から荷重が作用した場合にタイヤ5のみが荷重により移動してバッテリパック50に荷重が作用してしまうことを防止できる。したがって、バッテリパック50に固定されたタイヤ5を、バッテリパック50に対して側方から作用する荷重に対する保護部材として機能させることができる。
(ダクトについて)
【0032】
図1において、ダクト60は、車体2の側部から車幅方向中央部に向かって延びる第1ダクト61と、第1ダクト61から受け取った空気をバッテリケース20の内部に供給する第2ダクト62と、を有している。
【0033】
第1ダクト61は、車体2の右後の端部の近傍に吸気ファン63を有しており、吸気ファン63には前述の空気取入口60Aが後方を向いて設けられている。吸気ファン63は、内蔵されたファンモータを回転させて、空気取入口60Aから取入れた空気をダクト60に供給する。このように、本実施例では、吸気ファン63およびダクト60は、バッテリパック50に空気を送り込む吸気用のファンおよびダクトとして機能する。なお、吸気ファン63のファンモータの回転方向を逆転させ、吸気ファン63およびダクト60を排気用のファンおよびダクトとして機能させるようにしてもよい。吸気ファン63は車体2に固定されている。吸気ファン63は、第1ダクト61の一端部(右端部)の第1連通部61Aに接続されている。
【0034】
図1において、第2ダクト62は、バッテリパック50の後端部50Aの第1吸気導入口21に連結される第2連通部62Aと、第2連通部62Aと車幅方向に離隔し、バッテリパック50の後端部50Aの第2吸気導入口22に連結される第3連通部62Bと、を有している。また、第2ダクト62は、第2連通部62Aと第3連通部62Bとを連絡し、平面視で車両後方に突状の円弧を描くように湾曲する第2湾曲部62Cを有している。
【0035】
図2において、第2湾曲部62Cの前方には、バッテリパック50の後端部50Aとの間に上方から車体2を望む空間である湾曲部前方空間S1を形成している。つまり、第2湾曲部62Cとバッテリパック50の後端部50Aとの間には、他の部材等が配置されておらず、第2湾曲部62Cは他の部材等に妨げられることなく前方に変形することができる。
【0036】
このように、ダクト60は、一端側(右端側)に配置され外部と連通する第1連通部61Aと、他端側(左端型)に配置されバッテリパック50の後部に連通する第2連通部62Aおよび第3連通部62Bと、を有している。また、ダクト60は、第1連通部61Aおよび第2連通部62Aと連通する第1ダクト61と、第2連通部62Aおよび第3連通部62Bと連通する第2ダクト62と、を有している。ここで、バッテリパック50の後部とは、バッテリパック50の後側の側部をいう。また、この後側の側部は、バッテリパック50の後側の側面(後端面)だけでなく、
図10を参照して後述する他の例のように、バッテリパック50の後側の上面も含んでいる。
【0037】
また、
図1において、第1ダクト61は、車両平面視でバッテリパック50の後端よりも車両後方へ円弧状に湾曲して突出する第1湾曲部61Cを有し、第2ダクト62は、車両平面視でバッテリパック50の後端よりも車両後方へ円弧状に湾曲して突出する第2湾曲部62Cを有している。
【0038】
第1連通部61Aは、吸気ファン63を介して車体2に固定されており、第1湾曲部61Cの車両後方の最後端部である第1後端部61Hは、第2湾曲部62Cの車両後方の最後端部である第2後端部62Hよりも、車両平面視で車両後方側に配置されている。
【0039】
このように、本実施例では、全体として1つのダクト60を形成する第1ダクト61と第2ダクト62とに、第1湾曲部61Cと第2湾曲部62Cとを設けている。言い換えれば、本実施例では、1つのダクト60に、後方に湾曲する複数の湾曲部を設けるようにしている。したがって、3つ以上の湾曲部をダクト60に設けるようにしてもよい。
【0040】
車体2は、バッテリパック50と上方方向で重なる位置に、タイヤ5を収容するタイヤ収容部2Bを有し、第1後端部61Hは、車両前後方向で、タイヤ収容部2Bに収容されたタイヤ5の最後端部であるタイヤ後端部5Cと同位置または車両前方側に位置している。つまり、第1後端部61Hは、タイヤ後端部5Cを車幅方向に通過する第2仮想線VL2とを設定した場合、この第2仮想線VL2に対して、車両前後方向で同位置または第2仮想線VL2より前方に配置されている。
【0041】
第2連通部62Aおよび第3連通部62Bは、バッテリパック50の後面に車幅方向に並んで接続されている。また、第1連通部61Aは、車幅方向において、第2連通部62Aを挟んで第3連通部62Bとは反対側かつバッテリパック50よりも外側に配置されている。
【0042】
図7、
図8、
図9において、第2湾曲部62Cは、車幅方向の両端部から中央部に向かうにつれて、車両上下方向の長さが漸次大きくなり、かつ、車両前後方向の厚みが漸次小さくなっている。
図8に示すように、平面視で、第2湾曲部62Cの前面62Xの曲率は、第2湾曲部62Cの後面62Yの曲率よりも大きくされている。
【0043】
図2において、ロアケース30を車体2に固定するロアケース固定部2Cは、湾曲部前方空間S1に配置されている。
【0044】
図2において、第1ダクト61とバッテリパック50の後面との間には、上方から車体2を望む空間である第1ダクト前方空間S2が形成されている。そして、アッパケース40をロアケース30に固定するアッパケース固定部2Dは、湾曲部前方空間S1および第1ダクト前方空間S2に配置されている。これにより、第2湾曲部62Cとバッテリパック50の後端部50Aとの間には、他の部材等が配置されておらず、第2湾曲部62Cは他の部材等に妨げられることなく前方に変形することができる。また、湾曲部前方空間S1および第1ダクト前方空間S2を介して、アッパケース固定部2Dへの作業を行うことができる。
【0045】
図1において、第2ダクト62は、第2湾曲部62Cをタイヤ5の下方に有し、第2湾曲部62Cの第2後端部62Hは、タイヤ後端部5Cに対して車両前後方向で同位置または前方の位置に配置されている。ここで、タイヤ後端部5Cとは、タイヤ5の外周縁5Bのうち車両前後方向の後端の部分をいう。
【0046】
図1に示すように、平面視で、バッテリパック50の後面とタイヤ5の外周縁5Bとが交差する左右の交差部PXと、タイヤ5の中心軸5Aを通って車両前後方向に延びる仮想平面Vを設定したとき、第1吸気導入口21、第2吸気導入口22は、仮想平面Vよりもそれぞれ左右の交差部PX側に配置され、かつ、第2ダクト62のうち第1吸気導入口21、第2吸気導入口22に連結する第2連通部62A、第3連通部62Bが、タイヤ5の外周縁5Bの径方向内側に配置されている。
【0047】
図1において、第1吸気導入口21は、バッテリパック50の後端部50Aのうち仮想平面Vに対して車幅方向の一方側に位置しており、第2吸気導入口22は、仮想平面Vに対して車幅方向の他方側に位置している。
【0048】
図4において、第1連通部61Aは、バッテリパック50よりも高い位置に配置されており、第1後端部61Hの少なくとも一部は、バッテリパック50よりも高い位置に設けられている。また、第1連通部61Aから第1後端部61Hのうちバッテリパック50よりも高い位置にある部位である上側後端部61Jまでの領域を上側ダクト61Kとしたとき、上側ダクト61Kは、バッテリパック50よりも高い位置に配置されている。
【0049】
また、第1後端部61Hは、上側後端部61Jからバッテリパック50の上面よりも下方に延びる下側後端部61Lを有し、上側後端部61Jと下側後端部61Lとの間に少なくとも後方に突出する突出部としての連結部61Mを有している。本実施例の連結部61Mは、前後左右に突出している。
【0050】
また、下側後端部61Lは、バッテリパック50の後面と対面する位置で、上側後端部61Jからバッテリパック50の上面よりも下方に延びている。つまり、下側後端部61Lから連結部61Mに連続する上方への立ち上がり部分も、バッテリパック50の後面と前後方向に対向している。また、ダクト60のうちバッテリパック50の上面よりも低い位置にある部位を下側ダクト61Nとしたとき、上側ダクト61Kの下方かつ下側ダクト61Nの右側方には、バッテリパック50の右側方の位置に配置された図示しない配線に対して後方から作業可能な作業空間S3が形成されている。なお、バッテリパック50の右側方の位置には、配線に限らず、作業空間S3を介して後方から作業可能な他の部材を配置してもよい。この構成によれば、バッテリパック50の右側方の位置に配置された部材は、前後方向でダクト60と対向していないので、車両1の後突時にダクト60が配線等と接触することを防止できる。
【0051】
また、
図11にその断面を示すように、連結部61Mにおいて、上下に分割された分割構造の第1ダクト61が嵌め合わされている。本実施例では、連結部61Mにおいて、上側後端部61Jの外面を下側後端部61Lが覆うように、上側後端部61Jと下側後端部61Lとが嵌め合わされている。なお、下側後端部61Lの外面を上側後端部61Jが覆うように、上側後端部61Jと下側後端部61Lとを嵌め合わすようにしてもよい。
【0052】
図1において、タイヤ5の右端部を車両前後方向に通過する第1仮想線VL1と、タイヤ後端部5Cを車幅方向に通過する第2仮想線VL2とを設定した場合、連結部61Mは、第1仮想線VL1より内側(タイヤ5の中心側)、かつ、第2仮想線VL2よりも前方の位置に配置されている。したがって、連結部61Mは、タイヤ5の右端部よりも、車幅方向でタイヤ5の中心側に配置されている。
【0053】
なお、
図10に示す他の例のように、バッテリケース20の後部の上面にダクト60を連結するようにしてもよい。
図10において、第2ダクト62の第2湾曲部62Cは、
図7、
図8、
図9に示す例と同様に、車幅方向の両端部から中央部に向かうにつれて、車両上下方向の長さが漸次大きくなり、かつ、車両前後方向の厚みが漸次小さくなっている。ただし、
図10に示す例では、第2湾曲部62Cは、車幅方向の両端部から中央部に向かうにつれて、下方に膨らむ形状にすることで、車両上下方向の長さが漸次大きくなるようにしている。また、
図10に示す例では、第2湾曲部62Cは、バッテリパック50の後面と前後方向に対向する位置まで下方に膨らんでいる。
【0054】
これにより、第2湾曲部62Cの中央部ほど車両前後方向の厚みが小さいので、車両1の後突時に第2湾曲部62Cの中央部から弾性変形を開始させることができる。
【0055】
また、第2湾曲部62Cの中央部の厚みを小さくしたことで、湾曲部前方空間S1を大きくすることができるので、湾曲部前方空間S1における車体2へのバッテリパック50の取付作業をしやすくできる。
【0056】
また、第2湾曲部62Cの中央部ほど上下方向の長さが大きいので、車両1の後突時に第2湾曲部62Cの中央部において大きな面積で衝撃を受けることができる。
【0057】
また、第2湾曲部62Cの空気の流路の断面積が大きく変化しないので、第2湾曲部62Cを通過中に空気の流速が大きく変化して圧力損失が発生することを抑制できる。
【0058】
また、バッテリケース20の後部の上面にダクト60を連結しているので、ダクト60とバッテリパック50とが上下方向に重なるように配置することができ、バッテリパック50の後方にダクト60を配置する場合と比較して前後方向の寸法を短縮することができる。
【0059】
これに加え、第2湾曲部62Cが、バッテリパック50の後面と前後方向に対向する位置まで下方に膨らむ形状であるため、第2湾曲部62Cによってバッテリパック50の後面を保護することができる。
【0060】
第1ダクト61の第1湾曲部61Cおよび第2ダクト62の第2湾曲部62Cの形状は、
図12(a)に示すように、外側面91が円弧状に湾曲し、内側面92が直線状となる形状であってもよい。この構成によれば、外側面91のみを積極的に弾性変形させることができる。
【0061】
また、第1ダクト61の第1湾曲部61Cおよび第2ダクト62の第2湾曲部62Cの形状は、
図12(b)に示すように、全体形状がコの字形状の本体部94と、この本体部94の外側面に設けた突起93とからなる形状であってもよい。この構成によれば、コの字形状の本体部94の直線部分に対して突起93から荷重が作用するため、この直線部分の内側に湾曲するように本体部94を弾性変形させることができる。
【0062】
以上説明したように、本実施例のバッテリ保護構造において、ダクト60は、一端側に配置され外部と連通する第1連通部61Aと、他端側に配置されバッテリパック50の後部に連通する第2連通部62Aおよび第3連通部62Bと、を有している。
【0063】
また、ダクト60は、第1連通部61Aおよび第2連通部62Aと連通する第1ダクト61と、第2連通部62Aおよび第3連通部62Bと連通する第2ダクト62と、を有している。
【0064】
また、第1ダクト61は、車両平面視でバッテリパック50の後端よりも車両後方へ湾曲して突出する第1湾曲部61Cを有し、第2ダクト62は、車両平面視でバッテリパック50の後端よりも車両後方へ湾曲して突出する第2湾曲部62Cを有している。
【0065】
これにより、車両1の後突時に、後方からの荷重が車両1の後部に作用する。そして、バッテリパック50よりも車両後方に位置するリヤバンパー等の部材がダクト60に接触する。この接触により第1湾曲部61Cに作用する荷重をF1とし、第2湾曲部62Cに作用する荷重をF2とする。
図8に示すように、第1湾曲部61Cおよび第2湾曲部62Cの後端部に荷重F1および荷重F2がそれぞれ作用した場合、第1湾曲部61Cおよび第2湾曲部62Cは、それぞれ破線で示すように車両前方に変形することができる。このため、衝撃エネルギーを第1湾曲部61Cおよび第2湾曲部62Cの変形エネルギーとして消費することができ、バッテリパック50に伝達される衝撃エネルギーを小さくすることができる。ここで、車両1の後突とは、車両1が後方から他の車両等に追突されることをいう。
【0066】
また、大きな衝撃エネルギーによって第1湾曲部61Cおよび第2湾曲部62Cが破損・破断した場合であっても、衝撃エネルギーの一部を第1湾曲部61Cおよび第2湾曲部62Cの破損・破断エネルギーとして消費されるので、バッテリパック50に伝達される衝撃エネルギーを小さくすることができる。この結果、ダクト60を介してバッテリパック50に伝達される衝撃を低減でき、衝撃からバッテリパック50を保護することができる。
【0067】
本実施例のバッテリ保護構造において、第1連通部61Aは、車体2に固定されており、第1湾曲部61Cの車両後方の最後端部である第1後端部61Hは、第2湾曲部62Cの車両後方の最後端部である第2後端部62Hよりも、車両平面視で車両後方側に配置されている。
【0068】
これにより、車両1の後突時に、バンパー等の衝撃吸収部材が車両前方に変形または移動した際に、車体2に固定される第1湾曲部61Cに衝撃吸収部材を最初に接触させ易くなる。
【0069】
このため、第1湾曲部61Cに伝達された衝撃エネルギーの一部を車体2側に逃がすことができ、バッテリパック50に伝達される衝撃エネルギーを小さくすることができる。
【0070】
本実施例のバッテリ保護構造において、車体2は、バッテリパック50と上方方向で重なる位置に、タイヤ5を収容するタイヤ収容部2Bを有し、第1後端部61Hは、車両前後方向で、タイヤ収容部2Bに収容されたタイヤ5の最後端部であるタイヤ後端部5Cと同位置または車両前方側に位置している。
【0071】
これにより、車両1の後突時に、車両前方に変形または移動したバンパー等の衝撃吸収部材が、第1後端部61Hより先または同時にタイヤ5に接触し、衝撃エネルギーの一部をタイヤ5の変形エネルギーとして消費することができる。
【0072】
このため、ダクト60に伝達される衝撃エネルギーを小さくすることができ、ダクト60を介してバッテリパック50に伝達される衝撃エネルギーを小さくすることができる。
【0073】
本実施例のバッテリ保護構造において、第2連通部62Aおよび第3連通部62Bは、バッテリパック50の後面に車幅方向に並んで接続されている。また、第1連通部61Aは、車幅方向において、第2連通部62Aを挟んで第3連通部62Bとは反対側かつバッテリパック50よりも外側に配置されている。
【0074】
これにより、バッテリパック50の後面における車幅方向の広い範囲にダクト60が配置されるので、車両1の後突時に車両前方に変形または移動した衝撃吸収部材を最初にダクトに接触させやすくできる。
【0075】
このため、車両1の後突時の衝撃エネルギーをダクト60の変形エネルギーとして消費させやすくなり、ダクト60を介してバッテリパック50に伝達される衝撃を低減することができる。
【0076】
本実施例のバッテリ保護構造において、第1連通部61Aは、バッテリパック50よりも高い位置に配置されており、第1後端部61Hの少なくとも一部は、バッテリパック50よりも高い位置に設けられている。
【0077】
そして、第1連通部61Aから第1後端部61Hのうちバッテリパック50よりも高い位置にある部位である上側後端部61Jまでの領域を上側ダクト61Kとしたとき、上側ダクト61Kは、バッテリパック50よりも高い位置に配置されている。
【0078】
これにより、上側ダクト61Kがバッテリパック50よりも高い位置に配置されているので、車両1の後突時にバンパー等の衝撃吸収部材が上側ダクト61Kに接触して上側ダクト61Kが車両前方に変形または移動した場合に、変形または移動した上側ダクト61Kがバッテリパック50に接触し難くなる。
【0079】
このため、上側ダクト61Kに伝達される衝撃エネルギーを第1連通部61Aを介して車体2に逃がし易くなり、バッテリパック50に伝達される衝撃を低減することができる。
【0080】
本実施例のバッテリ保護構造において、第1後端部61Hは、上側後端部61Jからバッテリパック50の上面よりも下方に延びる下側後端部61Lを有し、上側後端部61Jと下側後端部61Lとの間に少なくとも後方に突出する突出部としての連結部61Mを有している。
【0081】
これにより、車両1の後突時に衝撃吸収部材が最初に連結部61Mと接触するので、第1後端部61Hが、
図11に破線で示すように連結部61Mを中心に車両前方側に撓みやすくなる。このため、衝突エネルギーの一部を第1後端部61Hの変形エネルギーとして消費できるので、バッテリパック50に伝達される衝撃を低減できる。
【0082】
本実施例のバッテリ保護構造において、第2湾曲部62Cは、車幅方向の両端部から中央部に向かうにつれて、車両上下方向の長さが漸次大きくなり、かつ、車両前後方向の厚みが漸次小さくなっている。
【0083】
これにより、第2湾曲部62Cの中央部ほど車両前後方向の厚みが小さいので、車両1の後突時に第2湾曲部62Cの中央部から弾性変形を開始させることができる。
【0084】
また、第2湾曲部62Cの中央部の厚みを小さくしたことで、湾曲部前方空間S1を大きくすることができるので、湾曲部前方空間S1における車体2へのバッテリパック50の取付作業をしやすくできる。
【0085】
また、第2湾曲部62Cの中央部ほど上下方向の長さが大きいので、車両1の後突時に第2湾曲部62Cの中央部において大きな面積で衝撃を受けることができる。
【0086】
また、第2湾曲部62Cの空気の流路の断面積が大きく変化しないので、第2湾曲部62Cを通過中に空気の流速が大きく変化して圧力損失が発生することを抑制できる。
【0087】
本発明の実施例を開示したが、当業者によっては本発明の範囲を逸脱することなく変更が加えられうることは明白である。すべてのこのような修正および等価物が次の請求項に含まれることが意図されている。
【符号の説明】
【0088】
1...車両、2...車体、5...タイヤ、11...バッテリモジュール、20...バッテリケース、50...バッテリパック、60...ダクト、61...第1ダクト、61A...第1連通部、61C...第1湾曲部、61H...第1後端部、61J...上側後端部、61K...上側ダクト、61L...下側後端部、61M...連結部、62...第2ダクト、62A...第2連通部、62B...第3連通部、62C...第2湾曲部、62H...第2後端部、S3...作業空間