(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-11-08
(45)【発行日】2022-11-16
(54)【発明の名称】スイッチの駆動回路及び駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02M 1/08 20060101AFI20221109BHJP
H03K 17/00 20060101ALI20221109BHJP
H03K 17/16 20060101ALI20221109BHJP
H03K 17/687 20060101ALI20221109BHJP
H03K 17/08 20060101ALI20221109BHJP
H03K 17/082 20060101ALI20221109BHJP
【FI】
H02M1/08 A
H03K17/00 B
H03K17/16 H
H03K17/687 F
H03K17/08 C
H03K17/082
(21)【出願番号】P 2019146586
(22)【出願日】2019-08-08
【審査請求日】2021-11-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】横正 達也
【審査官】栗栖 正和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-175741(JP,A)
【文献】特開平05-235722(JP,A)
【文献】特開2014-023312(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02M 1/08
H03K 17/00
H03K 17/16
H03K 17/687
H03K 17/08
H03K 17/082
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スイッチ(SWH,SWL)を駆動するスイッチの駆動回路(DrH,DrL)において、
前記スイッチのスイッチング状態の切り替えに伴って発生するサージ電圧を検出するサージ検出部(60)と、
前記サージ検出部により検出されたサージ電圧に基づいて、前記スイッチのスイッチング状態を切り替える場合における前記スイッチのスイッチング速度を設定する速度設定部と、
前記サージ検出部に故障が発生したか否かを判定する故障判定部と、を備え、
前記速度設定部は、前記サージ検出部に故障が発生したと判定された場合、前記サージ検出部に故障が発生していないと判定された場合に対して前記スイッチング速度の設定態様を変更しつつ、前記スイッチのオンオフ駆動を継続するスイッチの駆動回路。
【請求項2】
前記速度設定部は、前記サージ検出部に故障が発生したと判定された場合、前記サージ検出部に故障が発生していないと判定された場合よりも前記スイッチング速度を低く設定しつつ、前記スイッチのオンオフ駆動を継続する請求項1に記載のスイッチの駆動回路。
【請求項3】
前記スイッチに流れる電流を検出する電流検出部(70)を備え、
前記速度設定部は、前記サージ検出部に故障が発生していないと判定された場合、前記サージ検出部により検出されたサージ電圧と、前記電流検出部により検出された電流とに基づいて前記スイッチング速度を設定し、前記サージ検出部に故障が発生したと判定された場合、前記サージ検出部により検出されたサージ電圧を用いることなく、前記電流検出部により検出された電流に基づいて前記スイッチング速度を設定する請求項2に記載のスイッチの駆動回路。
【請求項4】
前記スイッチの温度を検出する温度検出部(71)を備え、
前記速度設定部は、前記サージ検出部に故障が発生していないと判定された場合、前記サージ検出部により検出されたサージ電圧と、前記温度検出部により検出された温度とに基づいて前記スイッチング速度を設定し、前記サージ検出部に故障が発生したと判定された場合、前記サージ検出部により検出されたサージ電圧を用いることなく、前記温度検出部により検出された温度に基づいて前記スイッチング速度を設定する請求項2又は3に記載のスイッチの駆動回路。
【請求項5】
請求項2~4のいずれか1項に記載のスイッチの駆動回路を備えるスイッチの駆動装置において、
前記スイッチは、上アームスイッチ(SWH)及び下アームスイッチ(SWL)であり、
前記上アームスイッチの駆動信号である上アーム駆動信号(SGH)と、前記下アームスイッチの駆動信号である下アーム駆動信号(SGL)とを生成する信号生成部(40)を備え、
前記信号生成部は、前記サージ検出部に故障が発生していないと判定された場合、前記上アーム駆動信号及び前記下アーム駆動信号のうち、一方のオフ指令への切り替えタイミングと他方のオン指令への切り替えタイミングとを第1デッドタイム(DT1)だけ離間させ、前記サージ検出部に故障が発生している判定された場合、前記上アーム駆動信号及び前記下アーム駆動信号のうち、一方のオフ指令への切り替えタイミングと他方のオン指令への切り替えタイミングとを、前記第1デッドタイムよりも長い第2デッドタイム(DT2)だけ離間させるスイッチの駆動装置。
【請求項6】
前記スイッチは、上アームスイッチ(SWH)及び下アームスイッチ(SWL)であり、
前記サージ検出部は、
前記上アームスイッチのオフ状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧を検出する上アーム検出部と、
前記下アームスイッチのオフ状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧を検出する下アーム検出部と、を有し、
前記速度設定部は、前記上アーム検出部により検出されたサージ電圧に基づいて、前記上アームスイッチをオフ状態に切り替える場合における前記上アームスイッチのスイッチング速度を設定し、前記下アーム検出部により検出されたサージ電圧に基づいて、前記下アームスイッチをオフ状態に切り替える場合における前記下アームスイッチのスイッチング速度を設定し、
前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのうち、オフ状態に切り替えられようとしているスイッチを自アームスイッチとし、残りのスイッチを対向アームスイッチとし、前記上アーム検出部及び前記下アーム検出部のうち、前記自アームスイッチに対応する検出部を自アーム検出部とし、前記対向アームスイッチに対応する検出部を対向アーム検出部とする場合、前記故障判定部は、前記自アーム検出部に故障が発生したか否かを判定し、
前記速度設定部は、前記自アーム検出部に故障が発生したと判定された場合、前記自アームスイッチをオフ状態に切り替える場合における前記自アームスイッチのスイッチング速度の設定に、前記対向アーム検出部により検出された、前記自アームスイッチのオフ状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧を用いる請求項1に記載のスイッチの駆動回路。
【請求項7】
前記故障判定部は、前記スイッチの前回のスイッチング周期において設定された前記スイッチング速度と、前記スイッチの今回のスイッチング周期において設定された前記スイッチング速度との差が閾値を超えたと判定した場合、前記サージ検出部に故障が発生したと判定する請求項1~6のいずれか1項に記載のスイッチの駆動回路。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スイッチの駆動回路及び駆動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の駆動回路としては、特許文献1に記載されているように、スイッチの主電極間に印加される電圧を検出する主電圧検出部と、主電圧検出部により検出された電圧に基づいてスイッチのゲートに電流を注入する制御電流源と、スイッチの主電極間に流れる電流に基づいて制御電流源の電流を調整する調整部とを備えるものが知られている。これにより、スイッチのオフ状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧の抑制を図っている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
サージ電圧を抑制するための駆動回路として、スイッチのスイッチング状態の切り替えに伴って発生するサージ電圧を検出するサージ検出部と、検出されたサージ電圧に基づいて、スイッチのスイッチング状態を切り替える場合におけるスイッチのスイッチング速度を設定する速度設定部とを備えるものがある。この駆動回路において、サージ検出部に故障が発生し得る。この場合、スイッチのオンオフ駆動を停止させることも考えられる。ただし、この場合、スイッチを駆動する機会を制約することになる。
【0005】
本発明は、サージ検出部に故障が発生した場合であっても、スイッチを駆動する機会が制約されることを極力無くすことができるスイッチの駆動回路、及び該駆動回路を備えるスイッチの駆動装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、スイッチを駆動するスイッチの駆動回路において、
前記スイッチのスイッチング状態の切り替えに伴って発生するサージ電圧を検出するサージ検出部と、
前記サージ検出部により検出されたサージ電圧に基づいて、前記スイッチのスイッチング状態を切り替える場合における前記スイッチのスイッチング速度を設定する速度設定部と、
前記サージ検出部に故障が発生したか否かを判定する故障判定部と、を備え、
前記速度設定部は、前記サージ検出部に故障が発生したと判定された場合、前記サージ検出部に故障が発生していないと判定された場合に対して前記スイッチング速度の設定態様を変更しつつ、前記スイッチのオンオフ駆動を継続する。
【0007】
本発明では、サージ検出部に故障が発生したと判定された場合、スイッチング速度の設定態様が変更される。この変更により、スイッチのオンオフ駆動の継続が可能となり、スイッチを駆動する機会が制約されることを極力無くすことができる。
【0008】
ここで、スイッチング速度の設定態様の変更手法として、具体的には例えば、サージ検出部に故障が発生していないと判定された場合よりもスイッチング速度を低く設定する構成を採用することができる。
【0009】
また、スイッチング速度の設定態様の変更手法として、具体的には例えば以下に説明する構成を採用することもできる。
【0010】
前記スイッチは、上アームスイッチ及び下アームスイッチであり、
前記サージ検出部は、
前記上アームスイッチのオフ状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧を検出する上アーム検出部と、
前記下アームスイッチのオフ状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧を検出する下アーム検出部と、を有し、
前記速度設定部は、前記上アーム検出部により検出されたサージ電圧に基づいて、前記上アームスイッチをオフ状態に切り替える場合における前記上アームスイッチのスイッチング速度を設定し、前記下アーム検出部により検出されたサージ電圧に基づいて、前記下アームスイッチをオフ状態に切り替える場合における前記下アームスイッチのスイッチング速度を設定し、
前記上アームスイッチ及び前記下アームスイッチのうち、オフ状態に切り替えられようとしているスイッチを自アームスイッチとし、残りのスイッチを対向アームスイッチとし、前記上アーム検出部及び前記下アーム検出部のうち、前記自アームスイッチに対応する検出部を自アーム検出部とし、前記対向アームスイッチに対応する検出部を対向アーム検出部とする場合、前記故障判定部は、前記自アーム検出部に故障が発生したか否かを判定し、
前記速度設定部は、前記自アーム検出部に故障が発生したと判定された場合、前記自アームスイッチをオフ状態に切り替える場合における前記自アームスイッチのスイッチング速度の設定に、前記対向アーム検出部により検出された、前記自アームスイッチのオフ状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧を用いる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】第1実施形態に係る回転電機の制御システムの全体構成図。
【
図4】駆動回路が実行する処理の手順を示すフローチャート。
【
図5】集積回路が実行する処理の手順を示すフローチャート。
【
図6】制御部が実行する処理の手順を示すフローチャート。
【
図7】第1実施形態の変形例に係る低圧コンデンサのショート故障又は高圧コンデンサ部のオープン故障が発生した場合におけるドレイン及びソース間電圧の推移を示すタイムチャート。
【
図8】第1実施形態の変形例に係る低圧コンデンサのオープン故障又は高圧コンデンサ部のショート故障が発生した場合におけるドレイン及びソース間電圧の推移を示すタイムチャート。
【
図9】第2実施形態に係る駆動回路の構成を示す図。
【
図10】駆動回路が実行する処理の手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<第1実施形態>
以下、本発明に係る駆動回路を具体化した第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0013】
図1に示すように、制御システムは、回転電機10と、インバータ20と、集積回路30と、回転電機10を制御対象とする制御部40とを備えている。本実施形態において、制御システムは、車両に搭載されている。また、本実施形態において、回転電機10は、星形結線された3相の巻線11を備えている。回転電機10のロータは、車両の駆動輪と動力伝達が可能なように接続されている。回転電機10は、例えば同期機である。
【0014】
回転電機10は、インバータ20を介して、直流電源21に接続されている。本実施形態において、直流電源21は蓄電池である。なお、直流電源21及びインバータ20の間には、平滑コンデンサ22が設けられている。
【0015】
インバータ20は、U,V,W相それぞれについて、上アームスイッチSWHと下アームスイッチSWLとの直列接続体を備えている。本実施形態では、各スイッチSWH,SWLとして、ユニポーラ素子であってかつSiCのNチャネルMOSFETが用いられている。上アームスイッチSWHには、ボディダイオードとしての上アームダイオードDHが内蔵され、下アームスイッチSWLには、ボディダイオードとしての下アームダイオードDLが内蔵されている。
【0016】
各相において、上アームスイッチSWHのソースと下アームスイッチSWLのドレインとの接続点には、回転電機10の巻線11の第1端が接続されている。各相の巻線11の第2端は、中性点で接続されている。
【0017】
制御部40は、回転電機10の制御量をその指令値に制御すべく、インバータ20を制御する。制御量は、例えばトルクである。制御部40は、デッドタイムを挟みつつ上,下アームスイッチSWH,SWLを交互にオン状態とすべく、上,下アームスイッチSWH,SWLに対応する上,下アーム駆動信号SGH,SGLを集積回路30に出力する。駆動信号は、スイッチのオン状態への切り替えを指示するオン指令と、オフ状態への切り替えを指示するオフ指令とのいずれかをとる。なお、本実施形態において、制御部40が信号生成部に相当する。
【0018】
集積回路30は、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)として構成され、制御部40からの上,下アーム駆動信号SGH,SGLを、上,下アームスイッチSWH,SWLに対して個別に設けられた上,下アーム駆動回路DrH,DrLに出力する。なお、上,下アーム駆動回路DrH,DrLが提供する機能は、例えば、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェア及びそれを実行するコンピュータ、ハードウェア、又はそれらの組み合わせによって提供することができる。
【0019】
続いて、
図2を用いて、駆動回路について説明する。なお、本実施形態において、上アーム駆動回路DrHと下アーム駆動回路DrLとは基本的には同じ構成である。このため、以下では、下アーム駆動回路DrLを例にして説明する。
【0020】
下アーム駆動回路DrLは、バッファ回路50及びゲート抵抗体51を備えている。ゲート抵抗体51は、抵抗値が可変とされている。バッファ回路50は、集積回路30から下アーム駆動信号SGLを取得し、取得した駆動信号SGLがオン指令である場合、ゲート抵抗体51を介して下アームスイッチSWLのゲートに充電電流を供給する。これにより、下アームスイッチSWLのゲート電圧(すなわち、ソースに対するドレインの電位差)が閾値電圧Vth以上となり、下アームスイッチSWLがオン状態とされる。一方、バッファ回路50は、取得した駆動信号SGLがオフ指令である場合、下アームスイッチSWLのゲートからゲート抵抗体51を介して放電電流を放出させる。これにより、下アームスイッチSWLのゲート電圧が閾値電圧Vth未満となり、下アームスイッチSWLがオフ状態とされる。
【0021】
下アーム駆動回路DrLは、設定部52、オフ電圧検出部53、サージ指令算出部54、偏差算出部55及びサージ検出部60を備えている。サージ検出部60は、複数のコンデンサの直列接続体を備えている。この直列接続体は、下アームスイッチSWLに並列接続されている。この直列接続体は2つに分割され、そのうちの低電位側の部分が低圧コンデンサ部61Lとされ、残りの部分が高圧コンデンサ部61Hとされている。
図2には、低圧コンデンサ部61L及び高圧コンデンサ部61Hそれぞれが1つのコンデンサにより構成されている例を示す。ただし、この構成に限らず、低圧コンデンサ部61L及び高圧コンデンサ部61Hの少なくとも一方が2つ以上のコンデンサにより構成されていてもよい。下アームスイッチSWLのドレイン及びソース間電圧が複数のコンデンサにより分圧されることにより、各コンデンサの印加電圧をその許容上限値以下としつつ、高電圧となるサージ電圧を検出できる。なお、本実施形態において、各コンデンサの静電容量は互いに同じである。
【0022】
サージ検出部60は、サージ電圧検出部62を備えている。サージ電圧検出部62は、ピークホールド回路を備え、下アームスイッチSWLのオフ状態への切り替えに伴って発生する低圧コンデンサ部61Lの端子間電圧のピーク値を、オフ状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧Vph(ドレイン及びソース間電圧のピーク値)として検出する。なお、検出されたサージ電圧Vphは、下アーム駆動信号SGLとして次回のオフ指令が下アーム駆動回路DrLに入力されるまでにリセットされる。
【0023】
オフ電圧検出部53は、下アームスイッチSWLがオフ状態とされている場合の低圧コンデンサ部61Lの端子間電圧であるオフ時電圧Voffを検出する。
【0024】
サージ指令算出部54は、検出されたオフ時電圧Voffに基づいて、サージ指令値Vs*を算出する。サージ指令値Vs*は、電源電圧VHrよりも高くて、かつ、下アームスイッチSWLのドレイン及びソース間電圧の許容上限値以下の値に設定される。
【0025】
偏差算出部55は、今回のスイッチング周期において検出されたサージ電圧Vphをサージ指令値Vs*から差し引くことにより、電圧偏差ΔVs(=Vs*-Vph)を算出する。
【0026】
下アーム駆動回路DrLは、電流検出部70及び温度検出部71を備えている。電流検出部70は、下アームスイッチSWLに流れるドレイン電流であるスイッチ電流IDを検出する。温度検出部71は、下アームスイッチSWLの温度であるスイッチ温度TDを検出する。電流検出部70、温度検出部71及びオフ電圧検出部53の検出値は、設定部52に入力される。
【0027】
設定部52は、電圧偏差ΔVs、スイッチ電流ID、スイッチ温度TD及びオフ時電圧Voffと、マップ情報とに基づいて、次回のスイッチング周期において下アームスイッチSWLをオフ状態に切り替える場合におけるゲート抵抗体51の抵抗値Roffを設定するサージフィードバック制御を行う。これにより、検出されたサージ電圧Vphがサージ指令値Vs*にフィードバック制御される。マップ情報は、下アーム駆動回路DrLが備える記憶部としてのメモリ80に記憶されている。メモリ80は、ROM以外の非遷移的実体的記録媒体(例えば、ROM以外の不揮発性メモリ)である。
【0028】
マップ情報は、電圧偏差ΔVs、スイッチ電流ID、スイッチ温度TD及びオフ時電圧Voffと関係付けられて抵抗値Roffが規定された情報である。
図3に示すように、複数の電圧偏差ΔVs、複数のスイッチ電流ID、複数のスイッチ温度TD、及び複数のオフ時電圧Voffそれぞれの組み合わせと関係付けられて抵抗値Roffが規定されている。
図3には、複数の電圧偏差ΔVsとして、3つの電圧偏差ΔV1,ΔV2,ΔV3を例示したがこれに限らない。
【0029】
マップ情報では、電圧偏差ΔVs(>0)が大きいほど、抵抗値Roffが小さくされている。また、スイッチ電流IDが大きかったり、スイッチ温度TDが高かったり、オフ時電圧Voffが高かったりするほど、抵抗値Roffが大きくされている。抵抗値Roffが大きいほど、スイッチング速度は低くなる。
【0030】
なお、本実施形態において、設定部52、オフ電圧検出部53、サージ指令算出部54及び偏差算出部55が速度設定部に相当する。
【0031】
設定部52は、
図4に示す処理を実行する。この処理は、各コンデンサ部61H,61Lやサージ電圧検出部62等、サージ検出部60に故障が発生し得ることに鑑みたものである。
【0032】
つまり、例えば、高圧コンデンサ部61Hのオープン故障又は低圧コンデンサ部61Lのショート故障が発生し得る。この場合、サージ検出部60により検出されたサージ電圧Vphが、実際のサージ電圧よりも低くなってしまう。その結果、設定部52により設定されるゲート抵抗体51の抵抗値が、サージ電圧Vphをサージ指令値Vs*にフィードバック制御する上で適切な抵抗値よりも低くなり、実際のスイッチング速度が適切なスイッチング速度よりも高くなる。これにより、下アームスイッチSWLのオフ状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧がその許容上限値を超えてしまい、下アームスイッチSWLが故障する懸念がある。そこで、本実施形態では、
図4に示す処理が実行される。この処理は、例えば所定の制御周期毎に繰り返し実行される。
【0033】
ステップS10では、下アームスイッチSWLの過電流異常、又は下アームスイッチSWLの過熱異常が発生しているか否かを判定する。例えば、スイッチ電流IDが過電流閾値を超えていると判定した場合、過電流異常が発生していると判定すればよい。また、例えば、スイッチ温度TDが過熱閾値を超えていると判定した場合、過熱異常が発生していると判定すればよい。
【0034】
ステップS10において過電流異常又は過熱異常が発生していると判定した場合には、ステップS11に進み、下アーム駆動回路DrLが備える異常通知部81に対して、第1フェール信号FL1の論理をHにする指示を行う。異常通知部81から出力される第1フェール信号FL1は、集積回路30に入力される。
【0035】
ステップS10において過電流異常又は過熱異常のいずれも発生していないと判定した場合には、ステップS12に進み、異常通知部81に対して、第1フェール信号FL1の論理をLにする指示を行う。
【0036】
ステップS13では、サージ検出部60に故障が発生しているか否かを判定する。本実施形態では、前回のスイッチング周期において設定した抵抗値Roff(t-1)に対して、今回のスイッチング周期において設定した抵抗値Roff(t)が閾値STを超えてずれたと判定した場合、サージ検出部60に故障が発生したと判定する。この判定手法は、サージ検出部60に故障が発生していない場合、前回のスイッチング周期から今回のスイッチング周期までの短い期間において、抵抗値Roffが大きく変化することがないことに鑑みた手法である。なお、ステップS13で用いられる今回のスイッチング周期における抵抗値Roff(t)は、電圧偏差ΔVs、スイッチ電流ID、スイッチ温度TD、オフ時電圧Voff及びマップ情報に基づく上述した手法により設定される。
【0037】
ステップS13においてサージ検出部60に故障が発生していないと判定した場合には、ステップS14に進み、異常通知部81に対して、第1フェール信号FL1とは異なる第2フェール信号FL2の論理をLにする指示を行う。異常通知部81から出力される第2フェール信号FL2は、集積回路30を介して制御部40に入力される。
【0038】
ステップS15では、電圧偏差ΔVs、スイッチ電流ID、スイッチ温度TD及びオフ時電圧Voff及びマップ情報に基づいて、次回のスイッチング周期において下アームスイッチSWLをオフ状態に切り替える場合におけるゲート抵抗体51の抵抗値Roffを設定するサージフィードバック制御を行う。
【0039】
一方、ステップS13においてサージ検出部60に故障が発生していると判定した場合には、ステップS16に進み、異常通知部81に対して、第2フェール信号FL2の論理をHにする指示を行う。
【0040】
ステップS17では、電圧偏差ΔVs及びオフ時電圧Voffを用いることなく、スイッチ電流ID、スイッチ温度TD及びマップ情報に基づいて、次回のスイッチング周期において下アームスイッチSWLをオフ状態に切り替える場合におけるゲート抵抗体51の抵抗値Roffを設定するサージフィードバック制御を行う。
【0041】
ステップS17の処理により、あるスイッチ電流ID及びあるスイッチ温度TDに対して、サージ検出部60に故障が発生したと判定された場合のスイッチング速度が、サージ検出部60に故障が発生していないと判定された場合のスイッチング速度よりも低下させられる。ここで、スイッチング速度は低下させられるものの、スイッチ電流ID及びスイッチ温度TDに基づく抵抗値Roffの設定は継続されるため、サージ電圧を抑制しつつ、スイッチング損失の低減を図る制御を極力継続させることができる。
【0042】
なお、ステップS17において抵抗値Roffの設定に用いられるマップ情報は、スイッチ電流ID及びスイッチ温度TDと関係付けられて抵抗値Roffが規定されたマップ情報であり、ステップS15において用いられるマップ情報とは異なるマップ情報である。
【0043】
ちなみに、
図4に示した処理は、上アーム駆動回路DrHの設定部52によっても実行される。
【0044】
続いて、
図5に、集積回路30により実行される処理の手順を示す。この処理は、例えば所定の制御周期毎に繰り返し実行される。なお、この制御周期は、設定部52の制御周期と同じ周期であってもよいし、異なる周期であってもよい。
【0045】
ステップS20では、入力された第1フェール信号FL1の論理がHであるか否かを判定する。
【0046】
ステップS20において論理がLであると判定した場合には、過電流異常又は過熱異常のいずれもが発生していないと判定し、ステップS21に進む。ステップS21では、制御部40からの上,下アーム駆動信号SGH,SGLを上,下アーム駆動回路DrH,DrLに対してそのまま出力する。
【0047】
一方、ステップS20において論理がHであると判定した場合には、過電流異常又は過熱異常が発生していると判定し、ステップS22に進む。ステップS22では、制御部40からの上,下アーム駆動信号SGH,SGLにかかわらず、オフ指令の上,下アーム駆動信号SGH,SGLを上,下アーム駆動回路DrH,DrLに出力する。これにより、各相の上,下アームスイッチSWH,SWLが全てオフ状態にされる。
【0048】
続いて、
図6に、制御部40により実行される処理の手順を示す。この処理は、例えば所定の制御周期毎に繰り返し実行される。なお、この制御周期は、設定部52及び集積回路30の制御周期と同じ周期であってもよいし、異なる周期であってもよい。
【0049】
ステップS30では、入力された第2フェール信号FL2の論理がHであるか否かを判定する。
【0050】
ステップS30において論理がLであると判定した場合には、サージ検出部60に故障が発生していないと判定し、ステップS31に進む。ステップS31では、上アーム駆動信号SGH及び下アーム駆動信号SGLのうち、一方のオフ指令への切り替えタイミングと他方のオン指令への切り替えタイミングとを第1デッドタイムDT1だけ離間させる。
【0051】
一方、ステップS30において論理がHであると判定した場合には、サージ検出部60に故障が発生していると判定し、ステップS32に進む。ステップS32では、上アーム駆動信号SGH及び下アーム駆動信号SGLのうち、一方のオフ指令への切り替えタイミングと他方のオン指令への切り替えタイミングとを、第1デッドタイムDT1よりも長い第2デッドタイムDT2だけ離間させる。これにより、
図10のステップS19の処理でスイッチング速度が低下させられたとしても、同相の上,下アームスイッチSWH,SWLの双方がオン状態にされることを的確に回避できる。
【0052】
以上詳述した本実施形態では、サージ検出部60に故障が発生したと判定された場合、サージ検出部60に故障が発生していないと判定された場合よりもスイッチング速度が低く設定される。このため、サージ検出部60により検出されたサージ電圧が、実際のサージ電圧から大きくずれてしまう状況下において、スイッチング速度を安全側に設定することができる。その結果、スイッチのオンオフ駆動を継続させることができ、ひいては車両の退避走行を適切に実施できる。
【0053】
<第1実施形態の変形例>
・
図4のステップS17において、ゲート抵抗体51の抵抗値を、ゲート抵抗体51で設定可能な抵抗値Roffのうち最大値に設定してもよい。
【0054】
・
図4のステップS13において、今回のスイッチング周期において検出されたサージ電圧Vph(t)と、前回のスイッチングにおいて検出されたサージ電圧Vph(t-1)との差の絶対値が所定量ΔVtを超えたと判定した場合、サージ検出部60に故障が発生していると判定してもよい。この判定手法は、サージ検出部60を構成するコンデンサの故障が発生した場合と発生していない場合とで、サージ電圧Vphが大きく変化することに鑑みたものである。
【0055】
図7は、低圧コンデンサ部61Lの端子間電圧の推移を示す。
図7では、時刻t1において、高圧コンデンサ部61Hのオープン故障又は低圧コンデンサ部61Lのショート故障が発生する。この場合、時刻t2において検出されるサージ電圧Vphが大きく低下する。この点に着目し、上述した判定手法が定められている。
【0056】
なお、高圧コンデンサ部61Hのショート故障又は低圧コンデンサ部61Lのオープン故障が発生した場合にも、検出されるサージ電圧は大きく変化する。
図8では、時刻t1において、高圧コンデンサ部61Hのショート故障又は低圧コンデンサ部61Lのオープン故障が発生する。この場合、時刻t2において検出されるサージ電圧Vphが大きく上昇する。
【0057】
・
図4のステップS13において、前回のスイッチング周期において検出されたサージ電圧Vph(t-1)と今回のスイッチング周期において検出されたサージ電圧Vph(t)とが同等であると判定した場合、サージ検出部60に故障が発生していると判定してもよい。この判定手法は、高圧コンデンサ部61Hのオープン故障又は低圧コンデンサ部61Lのショート故障が発生した場合、
図7の時刻t2以降に示すように、発生後のサージ電圧Vphが変化しなくなる点に鑑みた手法である。なお、高圧コンデンサ部61Hのショート故障又は低圧コンデンサ部61Lのオープン故障が発生する場合にも、
図8の時刻t2以降に示すように、発生後のサージ電圧Vphが変化しなくなる。
【0058】
<第2実施形態>
以下、第2実施形態について、第1実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。本実施形態では、サージ検出部60に故障が発生したと判定された場合の処理を変更する。本実施形態では、
図9に示すように、下アーム駆動回路DrLのオフ電圧検出部53により検出されたオフ時電圧を下アームオフ時電圧VoffLと称し、上アーム駆動回路DrHのオフ電圧検出部53により検出されたオフ時電圧を上アームオフ時電圧VoffHと称すこととする。また、下アーム駆動回路DrLのサージ電圧検出部62により検出されたサージ電圧を下アームサージ電圧VphLと称し、上アーム駆動回路DrHのサージ電圧検出部62により検出されたサージ電圧を上アームサージ電圧VphHと称すこととする。
【0059】
以下、下アーム駆動回路DrLに着目して説明する。この場合、下アームスイッチSWLが自アームスイッチに相当し、上アームスイッチSWHが対向アームスイッチに相当する。また、下アーム駆動回路DrLのサージ検出部60が下アーム検出部,自アーム検出部に相当し、上アーム駆動回路DrHのサージ検出部60が上アーム検出部,対向アーム検出部に相当する。
【0060】
図10に、下アーム駆動回路DrLの設定部52により実行される処理の手順を示す。この処理は、例えば所定の制御周期毎に繰り返し実行される。なお、
図10において、先の
図4に示した処理と同一の処理については、便宜上、同一の符号を付している。
【0061】
ステップS13においてサージ検出部60に故障が発生していないと判定した場合には、ステップS18に進み、電圧偏差ΔVs、スイッチ電流ID、スイッチ温度TD、下アームオフ時電圧VoffL及びマップ情報に基づいて、次回のスイッチング周期において下アームスイッチSWLをオフ状態に切り替える場合におけるゲート抵抗体51の抵抗値Roffを設定するサージフィードバック制御を行う。ここで、ステップS18で用いられる電圧偏差ΔVsは、下アーム駆動回路DrLのサージ検出部60により検出された下アームサージ電圧VphLに基づいて算出される。
【0062】
一方、ステップS13においてサージ検出部60に故障が発生していると判定した場合には、ステップS19に進み、電圧偏差ΔVs、スイッチ電流ID、スイッチ温度TD、上アームオフ時電圧VoffH及びマップ情報に基づいて、次回のスイッチング周期において下アームスイッチSWLをオフ状態に切り替える場合におけるゲート抵抗体51の抵抗値Roffを設定するサージフィードバック制御を行う。ここで、ステップS19で用いられる電圧偏差ΔVsは、上アーム駆動回路DrHのサージ検出部60により検出された上アームサージ電圧VphHに基づいて算出され、このサージ電圧VphHは、下アームスイッチSWLのオフ状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧である。また、本実施形態において、ステップS19で用いられるマップ情報は、ステップS18で用いられるマップ情報と同じである。
【0063】
以上説明した本実施形態によれば、対向アーム側のサージ検出値を用いて、自アームスイッチのオンオフ駆動を継続することができる。
【0064】
<その他の実施形態>
なお、上記各実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
【0065】
・マップ情報において抵抗値Roffと関係付けられるパラメータとしては、スイッチ電流ID、スイッチ温度TD及びオフ時電圧Voffの全てに限らず、これらのうち、一部であってかつ少なくとも1つであってもよい。
【0066】
・スイッチング速度を変更する手法としては、ゲート抵抗体の抵抗値を変更する手法に限らず、例えば、スイッチのゲート電荷の放電先の電位(例えば負電圧源の電位)を可変とする手法であってもよい。この場合、放電先の電位がゲート電位に対して低いほど、スイッチング速度が高く設定される。
【0067】
・第1実施形態において、サージ電圧のフィードバック制御としては、スイッチのオフ状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧に代えて、スイッチのオン状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧のフィードバック制御であってもよい。この場合、オン状態への切り替えに伴って発生するサージ電圧は、対向アーム側で検出されたものが用いられればよい。
【0068】
・スイッチとしては、NチャネルMOSFETに限らず、例えばIGBTであってもよい。また、スイッチを備える電力変換器としては、インバータに限らず、例えばフルブリッジ回路であってもよい。
【0069】
・本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0070】
51…ゲート抵抗体、52…設定部、60…サージ検出部、DrH,DrL…上,下アーム駆動回路、SWH,SWL…上,下アームスイッチ。